「あぁ、いいぞ……真央。そうだ、そのまま……」
「んぐ……」
 剛直を咥える真央の頭を撫で、月彦は気持ちよさそうに呻く。
 自室、月彦はベッドに腰掛け、同じくベッドに乗って横から口戯している真央の尻を左手でなでつける。
 寝間着、ではない。二人とも制服姿だ。学校へ行く前の、僅かな時間での行為。
「んぅ……!」
 剛直をくわえ込んだまま、真央が呻く。月彦は右手で真央の頭を撫でながら、左手で真央の尻を、そして指を伸ばして下着の上から秘裂に触れる。
「んっ、んっ……!」
「噛むなよ、真央。解ってるな?」
 尻に伸びた月彦の手が悪戯を始めて咄嗟に歯を食いしばりそうになるのを真央は我慢する。すりすりと、下着の上から月彦の指が秘裂を撫でて来て、真央は剛直を咥えたまま心地よさそうに喉を鳴らす。
 しばらくそうして下着を触った後、今度は真央の尻尾に触れてくる。ふさふさの尻尾を握り、擦るように上下する手とシンクロするように、真央は剛直を咥えたまま頭を上下させる。
「んっ!……んぷ、んっ……んっ……」
「っ……うまいぞ、真央……もっと、もっと、だ……」
 月彦が急かすように真央の尻尾を撫で、促す。真央もそれを察知して、より口戯を激しいものにする。
 尻尾を撫でられて、下半身が勝手に尻が悩ましげにくねる。まだ口でしている最中だというのに、挿れて欲しくてたまらなくなってしまう。
「よ、し……真央、出す、ぞ…………全部、飲め……!」
 月彦は息を荒くしながらぐっと真央の頭を抑えつけてくる。尻尾の付け根をぎゅううと握られ、どくり、どくりと口の中に白濁を、牡液をぶちまけられる。
「んんんんんんっっ!!!!」
 真央は噎びながら、それでも慣れた仕草でごくりと牡液を飲み干していく。射精が完全に終わるまで、五度六度と喉を鳴らし、それでも尚物足りないとばかりに剛直をしゃぶり続ける。
「ふぅ……ふぅ……真央、立て」
「んぁ……っと、父さま……?」
 いつまでも剛直を舐め続ける真央の髪を月彦が掴み、強引に引きはがす。
「学校に行く前に、真央とシたいんだ。いいだろ?」
「う、うん……父さまが、したいなら……」
 真央は戸惑いながら、ベッドから立ち、勉強机に手を突く。ちらり、と見た時計の長針は、家を出なければいけない時間を明らかに過ぎている。
「きゃんっ……!」
 突然尻を叩かれて、真央は軽く悲鳴を上げる。
「もっと尻を突き出すんだ」
「う、うん……」
 真央は言われたとおり、月彦に尻を差し出すように突き出す。制服のスカートが捲られ、色の変わったショーツが一気にずり下げられる。
「やっ……父さま、恥ずかし……んんんっ!」
 余程せっぱ詰まっていたのか、それとも月彦も時間を気にしていたのか、ショーツを下げられるとほぼ同時に肉塊が真央の中に進入する。
「あっ、あっ……やっ……とう、さま……そんな、急に……ぃ……!」
 経験から月彦は知っているのだ。前戯などなくとも、口でしているだけでいくらでも濡らしてしまうことを。
「焦らすと文句を言ってくるくせに、真央は我が儘だな」
「で、でも……こんな、んっ! あ、あんっ……!」
 苦笑しながら、月彦が突き上げてくる。真央は両足を軽く開き、机に肘をついて必死に体を支える。
「んっ……口でしてもらうのも良いが……やっぱり、ナカが、一番、だな……」
「ぁっぁっ、……んっ、……わ、私、も……口でする、より……あっ、やっ……父さま、それ、ダメ……あっ、ああぁァーーーーッ!!!」
 真央の腰のくびれをしっかりつ掴み、ぐりぐりと八の字を描くように腰をグラインドさせてくる。大きく、堅い肉柱にナカをこれでもかとかき回され、真央は悲鳴に近い声で喘ぎ始める。
「っ……いい声だ、真央。興奮する、ぞ……」
 腰のくびれを掴む手に、ぐっと力がこもる。人というよりもどこかケダモノじみたその力、まるで虎か熊にでも掴まれているかのような力に、真央は思わずひぃと怯えた声を出してしまう。
(父さま……本当に……興奮してるんだ……)
 自分の体に、声に。そう思うだけで、感じるだけで真央もまた、どこまでも興奮してしまう。
「んっ、あんっ! ぁっい……やっ、ぁ……はぁああっふっ……んっ! あっ……やっ、とう、さま……奥っ、んっ……奥、突きすぎ……んんんっ!!!」
 尻が赤く腫れ上がりそうな勢いで、ごちゅんごちゅんと突き上げられる。最早真央への気遣いなど微塵もない。ただただ、己が気持ちよくなりたいがための動き。――でも、それが真央には嬉しくてたまらない。
(私の体のことなんて気にならなくなるくらい、興奮してくれてるんだ……)
 あの優しい父さまが――と、真央は尻尾の付け根のあたりがゾクゾクするほどの興奮を覚えてしまう。
「あぁんッ、あっ、あんっ! あっあ、ぁっ……とう、さま……んっ! ぁっ……もっと、父さまぁ……!」
 もっと自分に夢中になって欲しい。文字通りケダモノのように息を荒げながら自分を犯す父親にそう願いながら、真央もまた発情したメス猫のように尻を突き出す。月彦の変わりように興奮して、興奮し過ぎて……溢れたものが太股を伝う程になってしまっている。
「……真央も、随分いいみたいだな……?」
 太股を伝った蜜を月彦がめざとく見つけて、指先で絡め取る。腰の動きが一端止まり――否、酷くゆっくりなものになる。
「垂れてきたのを触っただけで解るぞ。真央が感じて、気持ちよくなって……もうすぐイきそうなのが」
 ハッタリ――なのかもしれない。でもそれは、真央の状態を的確に表していた。
「……うん、もう、イきそうなの……だから、父さま……」
「イかせて下さい、だろ?」
 思わずソクリと背筋が冷えるような声。真央は反射的にきゅうと、膣を締めてしまう。
「……と、父さまので……真央を、い、イかせて……下さい」
 絞り出すような声。月彦は返事を返さず、代わりに真央の腰を掴んで一際激しく突き上げてくる。
「ぁあァァァうッ!!! やんっ、ぁっ、あっ、ぁっ……ひっ!」
 踏ん張っている机がガタガタと音をたてて動く程に激しい抽送。真央はサカったメス猫のように声を荒げ、あっさりとイかされる。
「っ……真央っ――!」
 名を呼ばれた刹那、どくりと弾ける熱い塊。真央はさらに声を荒げ、膣奥にぶつかる白濁のうねりに合わせるように体を震わせ、剛直を締め付ける。
「っ……この、締め付け……何度味わっても…………くはっ……たまんねっ……」
 月彦はぜえぜえと息を荒くしながら、いつもの――マーキングをしてくる。
「ぁぁぁぁぁ……と、さま……それ、ぁっ、ぁっぁっ…………!」
 特濃の牡液を膣奥に塗りつけられ、真央は声を震わせてまたイく。背後から月彦に被さられ、机に押しつけられるようにしながら、真央はしばしの至福を満喫する。
「……このままもう一回――って言いたいところだが、もう時間がない。真央、解るな?」
 解らない――と、言ってしまいたかった。このまま学校を休んで、月彦と睦み合えたらどんなに良いか。
「とう、さま……ゃ、ン!」
 剛直が引き抜かれるとほぼ同時に、下げられていた下着が上げられる。
「だ、め……下着、汚れちゃう……」
「仕方ないだろ、シャワーを浴びる時間なんて無いんだ」
「で、でも……」
「でもじゃない。元はといえば……朝のこんなせっぱ詰まった時間帯に、真央が誘ってきたのが悪いんだろ? 自業自得、今日は一日……そのまま過ごすんだ」
「そん、な……」
 意識が、下腹部に向く。先ほど出されたばかりの濃い塊が、まだナカに残っている。少しずつ漏れだした牡液が、スカートの下で次第に下着を染めていく。
(ナカに出されたままで……学校へ行けだなんて……)
 非道い、と思う。でも――そんな非道いコトを言う月彦に、尻尾がゾクゾクしてしまう。
「ほら、真央。時間が無いんだ。次はどうすればいいか解るだろ?」
 ぐいと頭を掴まれ、頬にぬらついた剛直が擦りつけられる。
「……ぁ…………」
 無論、どうすればよいのかは知っているし、それに逆らえる筈も、逆らう気も真央には無かった。

『キツネツキ』

第十話

 気怠い午前中だった――紺崎月彦は学校の屋上で青空を眺めながら、そんな事を思う。
 原因は分かり切っている。朝のアレのせいだ。全く持って計算外だった。あんなタイミングで真央がモーションをかけてくるとは思わなかった。
 着替えが終わり、あとは家を出るだけという段階。いつも家を出る時間よりも、ほんの十分ほど早かった――今思えばそれが罠だった。
 口でするだけなら、十分もあれば十分――真央にそんなコトを言われて、つい誘いに乗ってしまった。後は――なるようになって、結局学校は遅刻してしまった。
(もう、絶対……真央の誘いにはのらん!)
 平日の朝は。と条件付きで月彦は心に決める。折角、ここ数日は比較的行為の時間、回数を心持ち少なめに抑えて、体調が回復してきた所なのだ。その体調をイレギュラーで狂わせていては元も子もない。
「……にしても、カズ達遅ぇな。売店混んでるのかな?」
 真央が学校に行くようになってからというもの、月彦も昼食は基本弁当となった。買い食い基本の和樹達とはどうしても時間のズレが出来てしまう。それでも、真央にこってり搾り取られた後などは弁当だけではとても栄養の補給が間に合わず、足りない分をパンなどで補ったりするから一緒に買いに行ったりすることもあるのだが。
 もう、先に食べ始めてしまおうかと思った刹那、不意に階下へと通じるドアが開かれた。
「おっ、やっと来たか。まちくたびれたぜ」
 紙袋をかかえた和樹と千夏の姿を認めるなり、月彦は早くも弁当の包みを開き始める。
「あれ、月彦。お前なんでこんな所に居るんだ?」
「へ?」
 友人のいきなりの挨拶に月彦は思わず弁当を開く手を止める。
「なんだよ、俺が居ちゃまずいってのか?」
「いや、そうじゃなくて……お前聞こえなかったのか?」
「聞こえる……って、なにがだ?」
「校内放送や。今すぐ生活指導室に来いーゆーとったで」
「校内放送……」
 確かに、校内放送であれば屋上に居る自分には聞こえなかったかもしれない。
「でも、生活指導室って……俺何もやってないぜ?」
「大方、今朝の遅刻の件じゃねえのか?」
「遅刻……だけで呼び出されるモンか?」
 いや、待てよ――月彦は記憶を辿る。そういえば前にも、似たようなコトがあった気がする。あの時は確か――。
「何にせよ、はよう行った方がええで。ウチらが売店に並んでる間だけでも三回は呼ばれとったし」
「そ、そうだな……。じゃあ行ってくる。カズ、弁当喰うなよ?」
 食いしん坊の友人にしっかりと釘を刺してから、月彦は校舎内へと戻る。階段を二段とばしで下る最中も、月彦の胸にはある予感が渦巻いていた。
(……当たらなきゃいいけど)
 祈るような気持ちで、月彦は生活指導室へと直行した。

 

『……組の紺崎月彦君、すぐに生活指導室まで来なさい。繰り返します――』
 売店の自販に並びながら、宮本由梨子は幾度となくその放送を耳にした。漸く自分の番が来て、野菜ジュースを一パック買い、売店の混雑の外で待っている真央の元へと戻る。案の定、真央は不安気な顔をしていた。
 無理もない――と、由梨子は思う。
「……先輩、何をやったんでしょうね」
「うん……遅刻のせいかな?」
「遅刻くらいじゃわざわざ生活指導室まで呼ばれたりはしないと思いますけど……」
 真央を伴って、いつもの場所へと移動する。座って弁当の包みを開いても、やはり箸の動きは鈍い。
 それにどこか座り方も変だった。いつももっと大胆な――思わず注意したくなるような座り方をするというのに、今日に限ってまるで淑女のようにきちんと下着をスカートで隠している。
「大丈夫ですよ。きっと人違いか何かで、先輩が呼ばれたに決まってます。紺崎先輩って、そういう変に運の悪い所がありますから」
「そうだと、いいんだけど」
 なんとか真央を元気づけようと試みるも、巧くいかない。由梨子も真央の隣に座り、野菜ジュースを飲み始める。
「……由梨ちゃん、今日も野菜ジュースなんだね」
「ええ。ダイエット中ですから」
「全然太ってないと思うけど……」
「外見に変化が現れてからでは手遅れなんです」
 そう、ダイエット。そういう事にしておいたほうが、面倒が少ないし、あながち嘘というわけでもない。自分の意志とは無関係の――という言葉さえ付け加えれば、だが。
「でも……もう一週間以上……」
「朝と夜はしっかり食べてますから。元々小食なんです」
 嘘だった。本当は、朝も夜も殆どまともに食べられていない。食べようとしても体が受け付けない。無理矢理食べても、すぐに戻してしまうのだ。
 実を言えば、野菜ジュースですら飲むのが辛くなって来ている。どうしてそんな事になってしまったのか――原因は、はっきりしている。
「……由梨ちゃん、本当に大丈夫? 顔色も良くないみたいだし……」
「そうですか? 生理痛のせいかもしれませんね」
 精一杯しらばっくれる。真央に余計な心配はかけたくない。否、真央だけではない。誰にも、自分がこんな状態になってしまっているという事を知られたくなかった。
「由梨ちゃん……私じゃ、役に立てないかもしれないけど、もし――」
「そういえばもう放送は止まってるみたいですね。先輩、生活指導室に行ったんでしょうか」
 耐えきれなくなって、無理矢理話題を変える。が、どうやら逆効果、真央の表情にますます疑惑の色が濃くなる。まずい、霧亜との事を真央に知られてしまう――そう思った途端、胃がひっくり返るような不快感がこみ上げてくる。
「っ……すみません、真央さん。少し、席を外します」
 ジュースのパックを投げ捨て、その場から離れる。体育館脇の女子トイレの個室に駆け込み、膝を突いて便座カバーを上げるや否や嘔吐する。
 先ほど飲んだばかりの野菜ジュースはもとより、もう何も出ないというのに吐瀉が止まらない。あまりの苦しさに、今すぐナイフで胸を開いて両手で痙攣する胃を押さえつけてやりたくなる。
「けはっ……かはっ…………」
 漸く痙攣が止まった時には、あまりの苦痛に両目から涙が溢れていた。由梨子は便座カバーを元に戻すと、その上に伏すようにして呼吸を整える。震える手で、そっとスカートのポケットを探り、携帯電話を取り出す。
「先輩……霧亜先輩……」
 最近の着信履歴を見る。しかし、何処にも紺崎霧亜の名はない。メールボックスも同じだ。由梨子は祈るような気持ちでリダイヤルボタンを押す――が、繋がらない。過去に何回、何十回と試した時と同じように、無機質なメッセージが流れるだけだ。
「あんなに好きだって……私は特別だって言ってくれたじゃないですか……先輩…………」
 嗚咽混じりに呟き、握力の抜けた手から携帯が滑り落ち、床に当たってことんと音を立てる。後を追うように、涙の滴が数滴。それは、苦痛によるものでは無かった。

 悪い予感とは得てして当たるもの。生活指導室に入るなり雛森雪乃の姿を認めて、月彦はすぐさま回れ右をしたくなった。
「やっと来たわね。そこに掛けて」
 月彦は言われるままに雪乃とテーブルを挟んで対面する形で椅子に座る。平生を装ってはいるものの、内心は今日はどういう目に遭うのだろうという危惧で一杯だ。過去の経験から、雪乃に関わっていい目に遭ったためしのほうが少ないからだ。
「紺崎君、聞いたわよ。あの子……従姉妹なんだって?」
 雪乃の第一声は、生活指導室に呼んだ生徒にかける言葉とは思えないものだった。普通なら驚く所だが、雪乃に限ってこの程度の公私混同では月彦はもう驚かない。
「従姉妹……ああ、真央のことですか。そうですけど」
「ということは、彼女じゃなかったのね?」
 まるで確認を取るような雪乃の口調。月彦は雪乃の言わんとする所がいまいちつかめず、肯定したものか否定したものかしばし悩む。
「えーと、ま、まぁ……従姉妹ですから、それなりです」
 結局、そんなあやふやな答えを返してしまう。月彦なりに保険をかけたつもりだった。
「それならそうとちゃんと言ってくれたらよかったのに。私、随分気を揉んだのよ?」
「……どうして先生が俺の従姉妹のことで気を揉むんですか?」
「だって、もし彼女だったら……私、紺崎君を寝取っちゃった事になるじゃない」
「はぁ……」
 何でそういう思考になるのか、月彦はもう気のない返事しか返せない。そして改めて思う。この先生はちょっと変だ。
「ま、まぁ……なんにせよこれで先生の心配事が一つ解決したって事ですね。用件は済んだって事で、俺は昼飯に戻――」
「まだ用件は済んでないわ」
 席を立とうとする月彦を、雪乃が言葉で制す。
「今のはほんの前置きよ、本題はこれから。――紺崎君、今度の土曜日、暇?」
「暇じゃないです」
 本当は何も予定が無かったが、月彦は迷わず答えた。
「ほんの二、三時間でいいんだけど」
「無理です」
「十分でも?」
「土曜日は遠縁の親戚の法事があるんで一日中無理です」
「じゃあ日曜――」
「泊まりになるんで、日曜も帰りは深夜です」
 雪乃には悪いが、ここは断固として断らせてもらおう。これ以上関わって、また妙なことになってしまったら今度こそ取り返しがつかなくなる。
「む〜…………」
 雪乃は露骨に不満そうな、それでいて疑惑の眼差しを向けてくる。そんな顔をされても月彦としては微塵も譲る気はなかった。これは自分の為でもあり、そしてきっと雪乃の為でもある筈なのだ。
「解ったわ……紺崎君がそこまで言うのなら」
 雪乃が渋々目を閉じる。良かった――と、月彦が思った刹那だった。雪乃はおもむろにスーツのポケットから携帯電話を取り出し、どこかにかけ始める。
「あの……先生? 一体何処に……」
「勿論紺崎君ちよ。お母様に紺崎君をちょっと貸してもらえるように頼もうと思って」
「なっ――」
「とりあえず補習ってことにでもすれば、嫌とは言えない筈でしょ?」
 フフフと、まるでどこかのメギツネのように笑う雪乃。甘く見ていた――と、月彦は思わざるを得ない。
「そ、それが教師のやることですか!」
「だって、そうでもしないと紺崎君、土曜日来れないんでしょ?」
「それは……でも、いくらなんでも……」
「それとも、お母様に確認をとられたらまずいコトでもあるのかしら?」
 ぎくり、と胸が撥ねる。まさか、雪乃は嘘に気がついているのだろうか。
「わ、解りました……土曜日の予定空けますから、早く電話を切ってください」
「ん、最初から素直にそう言えばいいのよ」
 ちなみに電話は最初からかけてないわ、と零して、雪乃は携帯電話をしまう。
「そんなにイヤそうな顔しないで。紺崎君って、私の事多分に誤解してると思うわ」
「……俺は土曜日何をやらされるんですか。強制労働ですか」
「んー……ひょっとしたらそれに近いことになるかも」
 冗談で言った事だったのに、まさか本当にそうだとは。月彦は暗澹たる思いだった。
「私ね、今度引っ越すの」
「引っ越し? なんでまた……」
「うーん、前々から車の音がうるさいーって言われてたんだけど、この度めでたく追い出されることになっちゃって」
 追い出されるという言葉にその修飾はおかしいと月彦は心の中で突っ込む。
「それで、俺がその手伝いですか……」
「まあ、そんな所ね。ごめんね、紺崎君。私、男の子の友達ってホント少なくて」
「悪いと思うなら最初から誘わないで欲しいんですが……まあいいですよ。これも縁です」
「ありがとう。お礼に全部片づいたらお寿司食べさせてあげるから」
 引っ越しなら寿司ではなく蕎麦ではないのか、とも思ったが、月彦はあえて突っ込まない。
「楽しみにしてます。じゃあ、俺、昼飯まだなんで」
「うん、詳細は追って連絡するわ」
 席を立ち、生活指導室を後にする。土曜日は引っ越しの手伝いか――貴重な休日に早くも労働の予定が入ってしまったことにまず憂鬱になり、それが雪乃関係だということにまたさらに憂鬱になる。
(……はて、そもそもなんで俺はあの先生の事がこんなに苦手なんだろう)
 屋上へと戻る道すがら、月彦はふとそんなことを思う。確かに自分勝手な所や、考え無しのドジに回りを巻き込む辺りには人を寄せ付けないものがあるが、はたしてそれだけだろうか。
(基本的にはいい先生なんだよな。……いい先生の筈なんだ)
 しかし、悪い予感が拭いきれない。これ以上、まだ何かあるのだろうか――そう思った途端、頭上で聞き慣れた音楽が鳴り響いた。それはもちろん、昼休み終了を告げる合図に他ならなかった。



 土曜日は快晴とはお世辞にも言い難い曇天、それも今にも雨が降り出しそうな気配だった。そういえば前に雪乃の家に行った時も雨だった。もしかしてあの人は雨女かと苦笑しつつ、月彦は傘を手に家を出た。
 無論、真央はゴネた。デートをしないまでも、一緒に居たいとゴネ続けた。挙げ句、自分も一緒に行くとまで言い出して、そこをなんとか宥め、葛葉に頼み込んで真央を何処かへ連れて行ってもらう事にしてようやく落ち着いたのだ。
 ああいうきかん坊な所を見ると、体は大きくてもまだまだ子供だな、と月彦は思ってしまう。
 別に浮気をしにいくわけではないから、真央を一緒に連れて行ってもいいかな――と微かに思ったが、しかしあの真央のことだ。月彦が由梨子と話をするのさえ嫌がる嫉妬ぶりを雪乃に対して発揮しないとも限らない。恐らく――否、間違いなく引っ越しの手伝いどころではなくなると判断して、連れて行かないことに決めたのだった。
「あ、やっぱり降り出してきたか」
 ぽつぽつと頬に当たる雨に、月彦は早速傘を開く。昨日の夜、雪乃から今日の詳細を電話で知らされたとき、迎えに行こうかと言われたのを断ってしまったのを僅かに悔やむ。
 が、しかし万が一にも雪乃の姿を真央に見られるわけにはいかなかったから、徒歩でいくのもしょうがないと思い直す。真央にはあくまで“友達の引っ越しの手伝い”ということにしてあるからだ。
 雪乃の――そして千夏のでもある――アパートにつくと、部屋の前に見覚えのある赤いスポーツカーが止まっていた。月彦が近づくや、運転席側のパワーウインドウがスライドして雪乃が挨拶をしてくる。
「おはよう、紺崎君。すぐ出発するから、早く乗って」
「え……でも先生、荷物とかは……」
「運送屋さんがもう向こうに運んでくれてるわよ。いくらなんでも、この車じゃ荷物なんて運べないでしょう?」
 言われてみれば雪乃の言うとおりだ。月彦はてっきりタンスや冷蔵庫を運ばされるものだとばかり思っていたが、さすがの雪乃もそこまでさせる気はないと知って少し安心する。
 車内が濡れないように素早く助手席に滑り込み、シートベルトをしめるや雪乃が爆音を立てて車を発進させる。ああ、そりゃあアパートを追い出されるわけだと月彦は納得する。
「ところで紺崎君、その荷物は?」
 信号待ちに入るや、雪乃が月彦のナップサックを見てそんな事を聞いてくる。
「ああ、これですか。着替えですよ」
「着替え……もしかして紺崎君、今夜泊まっていく気?」
「違いますよ。汚れてもいい服とか持ってきたんです」
「そっか。……うん、やっぱりそうだよね」
「先生もまさかその格好のまま作業するわけじゃないでしょう?」
 休日だからか、雪乃は学校時のそれよりも些かめかし込んでいるようだった。いつもより若干露出の多い胸元と太股に、月彦はちょっと目のやり場に困ってしまう。
「そうね。本当は向こうに直行しないで少しくらいドライブしようかなと思ってたんだけど。この天気じゃあね」
「さっさと行って、さっさと終わらせましょう。日が暮れちゃいますよ」
「うん、そうしよっか」
 信号が青に変わるやの急発進。雪乃の車に乗るのは初めてではないが、こんなに乱暴な運転をしていたかな――と、月彦はふとそんな事を思った。

 てっきり新しい引っ越し先とやらも似たようなボロアパートだとばかり思っていた。雪乃はどう見ても貯金が豊富な方には見えなかったし、事実学校に黙ってアルバイトをしている所まで月彦は目撃していたからだ。
 だから、雪乃が二十階はあろうかというマンションに向かって車を走らせているときも特になんとも思わなかったし、そのマンションの前まで来て地下駐車場に入っていった時すら、友人の家にでも寄るのかくらいにしか思わなかった。
「さっ、着いたわよ」
 そう言って雪乃がシートベルトを外し始めても、冗談を言っているだけだろうと思ってしまう。それほどに場違いな建物だったのだ。
「えーと、あの……引っ越し先に直行しないんですか?」
「何言ってるの。ここがそうなんじゃない」
「……マジですか?」
「大マジよ。さっき私がこのキーで駐車場のシャッター開けたの見てたでしょう? 住人じゃなかったらあんな事出来ないわよ」
 言われてみればそうだ。
「……でも、先生……ここものすごく高そうなんですけど」
「高いわよ。……まともに住んだらね」
 雪乃は意味深な笑みを浮かべて、車から降りる。月彦も車から降りようとして、そして気がつく。雪乃の車も、公務員の給料を鑑みれば分を越えたような車だが、それでも周囲の高級車に比べれば些か見劣りしてしまう。――つまり、そういった連中が住むマンションという事だ。
「あ、紺崎君。ドア注意したほうがいいわよ」
 雪乃に言われて、月彦は助手席のドアが隣の高級洋車に接触しそうになっていた事に気がつく。慌てて取っ手を引き、絶対に接触しないように気を付けながら慎重に車から出る。
「気を付けてね。うっかり傷を付けたら人生が吹っ飛ぶわよ」
 雪乃が冗談っぽく言うが、月彦にはまったく冗談に聞こえなかった。
 
 雪乃は、まるで己が高級車群の主であるかのような堂々とした歩き方でエレベーターの方へと向かう。月彦は怯える猫のような足取りでその後ろにぴったりと続きながら、雪乃の豪気さに少し感心する思いだった。
 驚くことに――月彦の常識では、だが――エレベーターの麓には守衛の詰め所まであった。中に居た初老の警備員と雪乃は軽く挨拶を交わし、エレベーターへと乗り込む。月彦もどうも、と軽く頭を下げてそれに続く。
「どうしたの? 紺崎君。顔色良くないわよ?」
「はぁ……すみません。根っからの貧乏性なもので」
「ふぅん……紺崎君って意外と繊細なんだ」
「いえ、先生が凄いんだと思います」
 考えてみれば、あんな車を乗り回すような女性なのだ。それなりの肝っ玉を持ち合わせているのだろうな、と月彦は些か雪乃を見直してしまう。
 雪乃がボタンを押すと、エレベーターは静かな音と共に上昇を開始する。扉の上のデジタルカウンターが二桁を越えた辺りから、ますます自分とは住む世界が違うなぁと実感してしまう。
 エレベーターは十七階で停止した。雪乃に続いて下りて、月彦はまた軽いショックを受ける。マンションの大きさの割に、部屋数が少ないのだ。つまり、一部屋当たりの面積が大きい――ということだ。
 雪乃は既に何度か訪れているのか、迷わず三号室の前まで来ると通常の鍵とは明らかに違う形状の鍵を取り出し、鍵穴へと差し込む。
「高級マンションなら音声認識とか指紋照合とかにすればいいのにね」
 そう思わない?――と、雪乃に声をかけられても、月彦には言葉を返す余裕が無かった。開かれたドアの向こうが、これまた別世界だったからだ。
 運び込まれている大量のダンボール箱は雪乃のものだろう。しかし、それらがあっても何の問題もないくらいに広いのだ。
「こっちこっち、紺崎君。ベランダに来てみて」
 部屋の広さに呆然としていたところを雪乃に呼ばれて、ベランダに出る。ベランダがまた広い。月彦の部屋と同じくらいに広いのだ。ここまで来ると驚きを通り越して呆れてしまう。こんなに広いベランダに、はたして意味はあるのだろうか。
「ほら、いー眺めでしょう? あそこに見えるのが私たちの学校よ。学校より高い場所に住むなんて、なかなかオツよねえ」
「……もう、言葉もないです」
 眼下を行き交う人々が豆粒のように見える。金持ちというのはこういう場所に住んでいるのだなぁ、と月彦は感慨深く思ってしまう。そりゃあ、一般市民の事なんて軽視してしまってもしょうがないかも知れないとさえも。
「さて、と。眺めもたっぷり満喫したところで、早速片づけ始めちゃおっか」
 雪乃は元気だ。月彦の方はもうカルチャーショックで心身共にボロボロになってしまっているというのに。
「それじゃあ紺崎君。私、着替えるから……覗いちゃだめよ?」
 雪乃がカーテンを閉めた後も、月彦はベランダでしばし呆然とする。あぁ、そういえば俺も着替えも持ってきていたなと思い出して、いそいそとベランダで着替えを始める。これだけ高い場所なのだ。誰かに見られる心配もないだろう。
 ちょうど月彦が学校指定の白ジャージに着替え終わったところで、しゃーっとカーテンが開けられた。雪乃もまた教師用の赤ジャージを着ていて、何とも言えないペアルックに多少ながら月彦のブルジョア酔いは緩和される。
「さーて、張り切って行くわよ。目標終了時刻は午後三時、いいわね?」
「……頑張ります」
 覇気のない顔で、月彦は再び室内へと戻る。――その刹那、不意に奇妙な悪寒を感じて、反射的にベランダの方を振り返ってしまう。
「紺崎君?」
「いえ……なんでもないです。片づけ始めましょう」
 気のせいだろう。もしくは、どこかで真央が勝手に邪推して嫉妬でもしているのだろう。月彦は己の第六感の警告をその様に結論づけて、作業を開始した。




 荷物の片づけは思いの外手間取った。一つは慣れぬ部屋で勝手が分からず、食器一つとってもどうしまって良いかが解らないという事。そしてもう一つは――雪乃の荷物の入れ方が極めてずぼらだったという事。
 ダンボール箱一杯に洗い物が詰まっていたり、洋服の中に食器が埋もれていたり、化粧品と学校の書類らしきものが一緒くたに詰め合わされていたりと、どれも月彦の常識では考えられない仕舞い方ばかりだった。
 ああ、そりゃあ彼氏も出来ないわなぁ……としみじみ思いながら、極めて事務的に月彦は洋服を一枚一枚たたみ直していく。さすがに下着群に手を付けるのは憚られ、そっちのほうは雪乃に任せ、黙々と作業を続ける。
 作業が捗らない要因をさらに挙げるならば、雪乃が極めて飽きっぽい事もあった。十五分置きには休憩を入れようと言い出す始末だ。そのあまりの休憩の多さに意図的に作業を遅らせようとしているのではないかと思った程だ。
 ある意味、手伝いに来て良かったと月彦は思う。もし雪乃一人であれば、きっと一月経っても片づけは終わらなかっただろう。
 結局、一通りの片づけが終わった時には目標終了時刻を二時間以上もオーバーしていた。外は早くも日が暮れようとしており、こっちについてから洗った洗濯物を乾燥機から取り出してそれらを畳み終えて月彦はようやく一息つく。
「ふーっ、やっと終わったわね。ご苦労様、紺崎君」
 準備がいいのか悪いのか、雪乃は早速冷蔵庫から缶ビールを取り出してきて栓を開けている。
「紺崎君も飲む?」
「いえ、まだ学生ですし。それにすぐ帰りますから」
「ダメよ。お礼にお寿司食べさせてあげるって言ったでしょ? すぐ出前とるから、それまでお風呂でも入ってなさい」
 “教師”の口調で有無を言わさずそんな事を言われる。月彦も生徒として、雪乃にそんな口調で言われるとどうにも断りにくい。
 それに正直、寿司はどうでもよかったが風呂には惹かれた。結構汗も掻いている上、高級マンションだけあって風呂場も広かったのだ。あの風呂で手足を伸ばしてゆっくり浸かれたら、さぞ――と思ってしまう。
 そう、月彦は広い風呂が大好きだった。
「すみません、じゃあ……お風呂お借りします」
「うんうん。ゆっくり浸かってらっしゃいな。――って、紺崎君、ちょっと待って」
 脱衣所へと向かう途中で、月彦は呼び止められる。
「下着の替え、ないでしょ?」
「ええ、仕方ないからそのまま――」
 月彦がそこまで言いかけた時、雪乃が小さな買い物袋を投げて寄越す。中を見てみると、新品のトランクスとTシャツがそれぞれ二枚ずつ入っていた。
「こんな事もあろうかと、ってね。サイズは大丈夫でしょ?」
「ええ……ぴったりですけど……」
 なんでまた、と月彦が切り出した時には、もう雪乃は出前の電話をかけ始めていた。本当に、準備が良いのか悪いのか解らない先生だと一人ごちながら、月彦は脱衣所へと向かった。

 人の家の風呂というのはなんとも落ち着かないものだが、それでも労働の後の風呂は格別だった。新しい部屋の風呂を部屋の主の雪乃より先に使ってしまうことが些か気にかかったが、雪乃が入れというのだから問題は無いだろう。
 シャンプーもリンスもボディソープもスポンジも全て新品のものだった。新品ではあるが、シャンプーもボディソープも雪乃の愛用品なのだろう。時折雪乃から香るそれと同じ臭いに、妙な気分になってしまう。
(家に帰る前に、何とかしないと……真央に気取られるかもしれないな……)
 そんな危惧を抱きながら体を洗い、湯船に浸かる。湯船がまた広く、温泉のように手足を伸ばして浸かることができて大変心地よかった。
「いーなぁ……先生、こんな所に住めて……」
 最初こそ部屋の広さやキッチンの広さに戸惑ったが、慣れてくればやはり羨ましいと思う。特に風呂が広いのは秀逸だ。労働の疲れがあるから尚更そう感じるのかもしれないが。
(……ちょっと、ぬるいかな?)
 広さを十分に満喫すると、今度はお湯の温度に不満が出てくる。人間とはなんと我が儘な生き物だと月彦は苦笑しながら、お湯の方の蛇口を捻る。どぼどぼと熱いお湯が溢れ、足下からじわじわと暖かくなってくる。
「あー……最高だ…………」
 顔だけをお湯から出す形で、月彦はうっとりと瞼を閉じる。こんなに気持ちの良い風呂に入れたのだから、雪乃に休日を潰されたのもまんざら無駄ではなかったと、そう思い始めた時だった。
 今度は少し熱いかな――と、そう思って体を起こそうとする。しかし、動かない。えっ、と思って目を開ける。風呂場だ。自分は浴槽に浸かっている。自分の回りにあるのは紛れもない、ただのお湯だ。それなのに――体が動かない。
「っ……!」
 気がつけば、声も出せない。そんな馬鹿な、寝ている時ならまだしも湯船に浸かったまま金縛りになるなんて。
 お湯は、以前出っぱなしだ。既に足下がひりひりするくらいに湯の温度が上がっている。止めなくてはならない。しかし体が動かない。
「……ッ……ッ!」
 先生、と。助けを呼ぼうとするも、やはり声が出ない。体を包む熱気で頭がぼうっとする。それほどまでに熱いのに、背筋だけは強い悪寒に晒されている。
 違う。これはただの金縛りではない。まるで何かに体を押さえつけられているような――。
「た、助け……かはっ…………!」
 かろうじて声を絞り出すも、見えない手でギリギリと喉を締め付けられ、それも途絶える。間違いない、何かが“いる”のだ。
 真狐ではない。そう確信できる。なぜならこの見えない手の主には殺意がある。それをひしひしと感じる。
「あ、あ、ぁ………………!」
 喉を絞められ、呼吸すら困難になる。熱気と、酸素不足で意識が朦朧とする最中、不意に何かの囁き声を月彦は聞いた気がした。
 死んじゃえ――と。そう聞こえた。聞こえたが――その意味を考える前に、月彦は意識を失していた。



 月彦が目を覚ました時、真っ先に飛び込んできたのは不安げな雪乃の顔だった。
「あら、気がついた?」
「先生……」
 まだクラクラする頭を持ち上げて、月彦は体を起こす。
「全くもう……いくらなんでものぼせちゃうまで浸からなくてもいいじゃない。心配したのよ?」
「のぼせ……たんですか? 俺……」
 記憶がいまいちはっきりしない。風呂に入っていた事までは覚えているが、何故気を失ったのか――。
「救急車呼ぼうかどうか迷ってた所だったのよ? お湯が脱衣所に溢れてくるのがもう少し遅かったら本当に危なかったんだから」
「すみません……」
 意識の覚醒に伴い、だんだんと思考もはっきりしてくる。どうやら自分はリビングのソファに寝かされているらしい事と、全裸に腰の回りだけバスタオルをかけられただけの状態である事にも気づく。
「えーと、先生が……俺を助けてくれたんですよね?」
「そうよ。……まぁ、紺崎君の裸を見るのは今回が初めてじゃないし、気にしないで」
「ホントすみません……。いつもはこんな事はないんですけど……」
 徐々に、記憶が蘇ってくる。浴槽に浸かっていた時に何があったのか――動かない体と、首を絞められた恐怖と共に。
「ん、もう大丈夫そうね。じゃあ私もお風呂入ってこようかな」
「あっ……先生、ちょっと、待ってください」
 まだどこかうつろな声で、月彦は呼び止める。
「その……風呂、入らないってわけにはいきませんか?」
「どうして?」
「いえ……その、先生までのぼせちゃったりしたら大変ですから……」
「何言ってるの。紺崎君じゃないんだから、そんなになるまで入らないわよ」
「解りました。じゃあ……少しでもおかしいと感じたらすぐ上がってくださいね。それでなくても、先生が遅いと感じたら俺、様子見に行きますから」
「心配性ねぇ。大丈夫だってば」
 雪乃は苦笑し、着替えを手に脱衣所へと向かう。いっそ、はっきり言ったほうが良かったんだろうか。浴室で、得体の知れないものに襲われた――と。
 否、ひょっとしたら雪乃が言った通りにのぼせてしまった自分が見た幻覚だったのかもしれない。リビングのテーブルの上にある鏡を覗き込んで、己の喉を確認する。もし首を絞められた時の痣でも残っていれば決め手になると思ったが、それらしい痕は無かった。

 結局、雪乃は何ごともなく湯から上がり、月彦の心配は杞憂に終わった。ちょうど出前の寿司も届いて、晩餐が始まる。
「紺崎君、今日は本当にご苦労様。お寿司はいっぱいあるから、好きなだけ食べてね」
 三段重ねの入れ物をリビングのテーブルの上に広げ、小皿と割り箸を月彦に手渡してくる。
「……本当にいっぱいですね。そうとう高かったんじゃないんですか?」
 五十カンはありそうな寿司群に月彦は些か唖然とする。いくら昼食べていないとはいえ、こんなに大量の寿司をたった二人で食べきれるのだろうか。
「お金のことは気にしないの。無理言って手伝ってもらったんだから、このくらいは、ね」
「はあ……そういうことなら、遠慮無く。……頂きます」
「うんうん、いっぱい食べなさい」
 がつがつと食べる月彦に対し、雪乃の方は寿司よりも酒、といった感じでちょこちょことしか食べない。そのあまりの箸のすすまなさにひょっとして雪乃は寿司が嫌いなのではないか、と思ってしまう程だ。
「…………凄い食欲ね。紺崎君、これじゃ足りなかったかしら」
「そうですか? 量は十分過ぎると思いますけど」
 もしかして雪乃が小食なのではなく、自分が大食らいなのでは、と月彦はふと思ってしまう。真央に体力精力を奪われ続けたせいで、食える時にしっかり食う習慣が身に付いてしまっているのかもしれない。
「ところで先生。ずーーーっと気になってたんですけど……」
「なぁに?」
「この部屋、随分家具が多いですけど……まさか全部元からあるものなんですか?」
 月彦は周囲を見回す。今、月彦と雪乃が座っているソファを始め、寿司群が乗っているテーブル、自動で氷を作ってくれる冷蔵庫に洗濯乾燥機、そしてどうみてもプラズマテレビとしか思えない薄さの壁掛けテレビや、寝室にあるダブルベッド等々。明らかに雪乃の私物ではない。
「まさか。前住んでた人が残していったものよ」
「……なんでまた、残していったんですか?」
 安いものでもないのに――と、月彦は思ってしまうが、金持ちともなるとそういう感覚もないのかもしれない。荷物をいちいち持っていく手間を考えれば、引っ越した先で新しく買えばすむ、とそう考えるのだろうか。
「んー、どうなんだろ。なんか逃げちゃったみたいな話は不動産屋さんから聞いたんだけど」
「は……逃げた?」
 うん、と頷きながら、雪乃はまた缶ビールを開ける。既に夕食が始まって三本目だ。
「紺崎君も、飲む?」
 少し酔っているのか、普段よりも些か艶めかしい口調で雪乃が缶ビールを勧めてくる。
「いえ、何度も言いますけど、俺は学生ですから」
「そう。残念だわ……んふふっ」
 雪乃は缶ビールを頬につけながら、なにやら意味深に笑う。
「どうしよっかなー、これ言っちゃうと、紺崎君が怖がっちゃうかもと思って、黙ってたんだけどなー」
「俺が……怖がる?」
「まあまあ、追って話してあげるから、とりあえず一本飲みなさい。これは教師としての命令よ」
 そんな事を言われて、無理矢理缶ビールを一本押しつけられる。酔っぱらいの言うことには下手に逆らわない方がいいと思って、月彦は渋々缶ビールを開け、口をつける。
「うんうん、そうこなくっちゃ。紺崎君、やっぱりいけるクチじゃない」
「俺のことはどうでもいいんです。それより、俺が怖がる話って何ですか?」
「……聞きたい?」
「はい、是非」
「紺崎君、ひょっとして恐い話とか、苦手?」
「得意でも苦手でもないですけど。……もしかして、この部屋……過去に死人が出てて、それで先生が安く借りられたとか、そういう話ですか?」
 ぴくりと、缶ビールを持つ雪乃の手が止まる。そして露骨にぶうと頬を膨らませ、つまらなそうな顔。どうやら図星のようだった。
「……つまんない、どうして先に言っちゃうのよ」
「いや……適当に言っただけだったんですけど、まさか当たるなんて……」
「紺崎君の言う通りよ。元々ここには何処かの社長か、資産家だかの愛人さんが住んでたんだけど、その人が自殺しちゃったらしいのよ。で、その後何回か持ち主が変わったんだけどみーんな長続きしなくて、すぐ出て行っちゃったんだって。それで悪い噂も立って、まともな値段じゃ借り手も居なくなった所に――」
「アパートを追い出されることになって、途方に暮れながら不動産屋に来た先生が出くわした、ということですか」
「……なんか言い方が気に入らないけど、要約するとそういうことよ」
 雪乃はよほど月彦にネタバレされたのが気に入らないのか、むすーっとした顔で四本目を開ける。
「ちなみに先生、その悪い噂っていうのは……」
「ああ、幽霊が出るらしいのよ。バッカよねー、そんな世迷い言に振り回されてこんないい部屋放り出すんだから。人死にが出るたびに幽霊が出るんだったら、この世は幽霊だらけだわ」
 雪乃の理屈はもっともだ。月彦ですら、思わず頷いてしまいそうになる。
「幽霊とか妖怪とか、そんなの居るわけないのよ。ぜーんぶ気の迷いの幻覚よ。紺崎君もそう思うでしょう?」
「……気の迷い、ですか」
 先ほどの浴槽でのあの出来事もそうなのだろうか。のぼせて、夢うつつになった自分の幻覚だったのだろうか。幽霊など居ない、と雪乃にはっきり言われた今となっては尚更そんな気がしてしまう。
「ま、そんなワケでさ。こんないい部屋なのに、家賃は管理費駐車場代込みでも前のアパートととたった二万円しか変わらないのよ。しかも敷金も無し。確かに過去に死人が出た部屋っていうのは気持ち悪いけど、それを補って余りある贅沢さでしょう?」
「それは……そうですけど」
 雪乃の理屈も解る。それこそ、月彦の自宅の土地だって過去に遡れば何が起きたか知れたものではないのだ。確かに殺人現場、自殺現場となれば気分は悪いが、それを補って余りある実利があるのなら放っておく手はない。――そう、他に実害が何も無ければ、だが。
「……でも、先生。引っ越し初日にこんなこと言うのはなんですけど……やっぱりこの部屋、やめといたほうがいいと思います」
 ぴたりと、また缶を持つ雪乃の手が止まる。不機嫌そうな顔が、こんどはにたにたと、からかうような顔になる。
「……紺崎君、ひょっとして恐いの?」
「恐いというか……嫌な感じがするんです。なんか……良くないモノが“棲んでいる”ような……」
「だーかーら、それが気の迷いなのよ。昔の人も言ってるじゃない。枯れ木の山も幽霊のにぎわいって」
「聞いたことないんですが……」
 枯れ木も山の賑わい、だとしても意味が分からない。もしかして、“幽霊の正体見たり枯れ尾花”といいたかったのだろうか。
「とにかく、誰がなんと言おうと私はここを出ないわよ。敷金がタダだった代わりに、一年以内に部屋を出るときは罰金払わなきゃいけないんだから」
「罰金って……いくらくらいですか?」
「ウン百万って大金よ。だから絶対一年間は住まなきゃいけないの」
「うは……」
 とても一介の学生はもとより、公務員がひねり出せる額ではない。やはり、住む住人の格が違うのだ。
 そういう事情ならば、住むしかないかもしれない。ひょっとしたら風呂場での事も本当にのぼせてしまっただけなのかもしれないのだ。そうだ、そうに違いない――月彦はうなずき、そう思いこんでテーブルの上に置いたビール缶を取ろうと手を伸ばす。が、そのビール缶がまるで月彦の手から逃げるようにすうと、テーブルの上を滑る。
「……あれ……」
 さらに取ろうと手を伸ばすと、ビール缶がまた逃げる。今度は止まらず、そのままテーブルの端までいくと床の上に音を立てて落ちてしまう。
「何やってるのよ。もう酔っぱらったの?」
「いや、俺は何も……」
 月彦は慌てて落ちたビール缶を拾い、こぼれてしまったビールを拭く。おかしい、自分は間違いなく缶には触ってない。触っていないのに、勝手にテーブルの上を滑っていったのだ。
 月彦はテーブルを注視する。缶が置いてあった場所は多少結露の滴が落ちてはいるものの、とりたてて濡れているという程でもない。大して濡れてもいないテーブルの上をあのように缶だけが独りでに滑っていくというのはありえない筈だ。マンションが、余程傾いてでもいない限りは。
「先生、やっぱりこの部屋……ヤバいと思います」
「紺崎君がなんて言おうと、私は引き払わないわよ。引き払いたくても引き払えないんだから」
 確かに、数百万という金はそうすぐに出せる額ではないだろう。しかし、それでも命には代えられない。
「先生、信じてもらえないかもしれませんけど……実は俺、さっき、襲われたんです」
「襲われた? 誰に?」
「……多分、幽霊です」
「五点。嘘をついて人を怖がらせたいのなら、もう少しマシな話を用意するのね」
「嘘じゃないです。そうじゃなかったら、いくらなんでものぼせるまで風呂に入ったりしませんよ」
「紺崎君が普段どんなお風呂の入り方をしているか知らないから、私からはなんとも言えないわ。ひょっとしたらちょくちょくあるのかもしれないじゃない」
「ぐ……」
 さすがに教師をやっているだけあって、雪乃の言葉は正論だ。普段からこれくらい論理的に物事を考えてくれればいいのに、とそんなことを思ってしまう。
「だったら先生、先生の前に住んでたっていう人たちはどうなんですか。みんながみんな気の迷いから幻覚を見て、それで荷物もほったらかして出て行ったっていうんですか?」
「そうなんじゃないの? 生憎私は目に見えるものしか信じない主義なの。怖がらせようとしても無駄よ?」
 ふふん、と得意げに笑って、雪乃は五本目に口をつける。月彦は今すぐここに真狐を引っ張ってきて、雪乃の目の前で雪乃に化けさせてみたい衝動にかられた。
「先生……先生が言っている事の方が、多分正しいとは思うんですけど……それでも俺は心配です」
「………………」
 月彦が冗談から言っているのではないというのが通じたのか、雪乃は茶々を入れず神妙そうな顔でじっと月彦を見る。
「先生は知らないかもしれませんけど、実は俺……神隠しにあった事があるんです」
「神隠し?」
「はい。新聞にも少し載ったらしいですが……聞いたことありませんか? “狐美姫峠の神隠し”の話」
「……聞いたことあるわ。確か、林間学校の途中に……だったっけ」
「ええ。それが俺です。運良くこうして帰ってくることが出来ましたけど、運が悪ければ……死んでいたかもしれません」
「それが……幽霊の仕業だって言いたいの?」
「いえ、あれは幽霊じゃなくて……キツネ、化け狐の仕業です」
「キツネ……」
 雪乃が胡散臭そうな顔をする。無理もない、と月彦は思う。
「信じてもらえなくてもいいんです。ただ、世の中には目に見えるものだけが全てじゃないっていうことを、頭の隅にでも置いといて下さい。それだけで、大分危険は減ると思います」
 心底真面目な忠告のつもりだった。事実、月彦の第六感はこの部屋は危険だとアラームを鳴らし続けている。風呂場の事の後はまだ半信半疑だったが、先ほどの缶ビールの件で確信した。
 この部屋には、何かが“い”ると。
「…………や、やーね……紺崎君。そんなに真面目な顔で言わないでよ……ちょっと信じかけちゃったじゃない」
 沈黙に耐えかねたかのように、雪乃が空笑いをする。
「なかなか良くできた作り話だったわ。特に、実際の新聞記事を使った所なんかは秀逸ね、でも……どうせならキツネじゃなくて幽霊の仕業って事にしたほうが信憑性は高かったと思うわよ」
「……信じてくれないんですか?」
「信じないわよ。だって、そんなの作りばな――……ひっ!」
 雪乃の言葉を遮るように、突然ピリリと固定電話が鳴り出す。余程驚いたのか、雪乃の手から缶ビールが滑り落ち、とぽとぽと中身が零れ始める。
「先生、電話鳴ってますけど……」
「そ、そんな筈は無いわ……だって、電話が使えるようになるのは明日からなんだから……」
 雪乃が狼狽え、缶ビールの処理をする間も電話はしつこく鳴り響く。既にその顔は酒気帯びの朱から蒼白へと近づきかけている。
「紺崎君……か、代わりに出てくれる? 私、手が離せないから」
「お、俺ですか……先生の方が近いじゃないですか」
「わ、私は手が離せないの!」
 雪乃に押し切られる形で、月彦はやむなく立ち上がり、受話器を手に取る。
「もしもし、雛森ですけど」
 尋ねても、何も返事はない。ザァァ……と、なにやら波のような音が聞こえてくるのみだ。
「もしもし、どちら様ですか?」
 月彦はもう一度尋ねた。しかし返事はない。相変わらずのザァァという音。仕方なく受話器を置こうと耳から離しかけた時、微かな声が聞こえた。

『……死んじゃえ』
 
 そう聞こえた。続けてブツリ、と通話が切れるような音。その後は不通音も何も聞こえない。月彦は無言で受話器を置く。
「ど、どうだったの?」
「……死んじゃえ、だそうです」
 素直に聞いたままを答えると、雪乃の顔がますます青ざめる。
「う、嘘よね? 間違い電話か何かだったんでしょう?」
「電話は明日からじゃないと使えないって言ったのは先生じゃないですか」
 うっ、と雪乃が口籠もる。
「さて、と。じゃあ先生、夜も更けましたし、俺はそろそろ帰ります。お寿司ごちそうさまでした」
 こんな所に長居は無用、とばかりに月彦は帰り支度を始める。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 紺崎君もう帰っちゃうの?」
「もうって、もう八時ですよ。そろそろ帰らないと」
「もうちょっといいじゃない。ね? 帰りは送ってあげるから」
「送るって……先生もろ酒飲んでるじゃないですか。飲酒運転になりますよ」
「う……お、お酒が抜けたら送ってあげるから、だから……ね?」
「そんな何時間も待ってられません。俺は嫌な予感がするから一刻も早くこの部屋から出たいんです」
「ず、狡いわよ、紺崎君っ。一人だけ逃げる気ね!」
「忠告はしましたし、注意も促しました。あとは先生の方でなんとかしてください」
「何とかって、何とも出来ないわよ! この部屋から出るには大金がいるのよ? そんなお金どうやって――」
 はたと、雪乃が言葉を止める。そして、なにやら在らぬ方向を注視し始める。月彦もそちらを見ると、隣室へと続くドアが独りでにキィと開く所だった。さらに電気の消された隣室を覗き込むと、なにやら一筋の光が見えた。あちらは確か、雪乃が仕事部屋にすると言っていた部屋だ。
「……紺崎君、私のノートパソコン使った?」
「いえ、俺が先生の私物を勝手に弄るわけないじゃないですか」
「じゃあ、どうして……電源が入ってるの……?」
 恐る恐る隣室に入る。仕事机の上に画面を伏せられたままのノートパソコン。暗い室内にPowの明かりだけが煌々と輝いている。
「コンセントは……刺さってないですね。バッテリーがまだ残ってて、置いた時にたまたま電源いれちゃったんじゃないんですか?」
「そ、そうね……他には考えられないわ」
 と言いつつも、雪乃は月彦を盾にするような位置取りでノートパソコンに近づこうとしない。
「紺崎君……ちょっと、蓋開けてみて」
「嫌ですよ。俺が帰った後先生が一人でやってください」
 そう言って踵を返そうとするも、雪乃に背中からがっちり押さえつけられていてそれも出来ない。
「お願いだから……ね?」
「……解りましたよ」
 月彦は渋々、仕事机に近づき、ノートパソコンのディスプレイ部分を開く。開く刹那、雪乃がぎゅうと腕を掴む――が、画面には別段おかしい所は何もない。
「やっぱり、勝手に電源が入ってただけみたいですね。じゃあ消しますよ」
「待って!」
 雪乃に制止されて、月彦もまた画面を見直す。そこは何の変哲もない、シェア第一位のメーカーから発売されている最新のOSのデスクトップ画面。……しかし、勝手にマウスカーソルが動いている。
 マウスカーソルはテキストエディタの項目の部分で止まり、かちりと音を立てて画面いっぱいに真っ白なテキストエディタが開かれる。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ

 カタカタと音を立てて独りでに凹むキーボード。すさまじい勢いで流れる文字列。明らかに人間業ではないそのスピードに月彦はゾクリと背筋を冷やす。
「先生……やっぱ、この部屋ヤバいですよ」
 背後に居る筈の雪乃に向かって話し掛けるも、返事はない。自分の腕を痛いくらいに握りしめていた雪乃の手からふっと握力が消え、どっ、と何かが倒れる音がする。
「先生……?」
 月彦は床を見る。雪乃は、気絶していた。


「お願い、紺崎君。今夜だけでいいから、一緒に居て!」
 雪乃が目を覚ますや否やの第一声はそれだった。
「嫌です。先生も目を覚ましたことですし、俺は帰ります」
 本当は気絶した雪乃をソファに寝かせ直して、そのまま帰ろうかと思った。が、さすがにそれはあんまりかと思って目覚めるまで待っていたのだ。
「そんな事言わないで、ね?」
「嫌といったら嫌です。先生もホント、早くここを引き払ったほうがいいですよ」
「そんな事、出来るわけないじゃない!」
「まあでも先生、ひょっとしたら本当に先生が言った通り、幽霊なんか居ないかもしれませんよ。さっきの電話だって、回線の不具合とかでたまたま繋がっちゃっただけかもしれませんし、ノートパソコンだってコンピュータウイルスの可能性もあるじゃないですか」
「……紺崎君、完全に人ごとだと思ってるわね」
「事実、人ごとじゃないですか。せめて契約を済ませる前に相談してくれればまだ俺の出る幕もありましたけど、一介の学生には数百万なんてお金は逆立ちしても出せません。頑張って一年間生き抜いて下さい、としか」
「無理よ、こんな部屋に一人で居たら一晩で気が狂っちゃうわ」
 雪乃の怯えようはちょっと異常だ。ひょっとしたらこの先生、本当は恐がりなんじゃなかろうかと月彦は思ってしまう。
「先生、幽霊なんか恐くないんじゃなかったんですか?」
「こ、恐くないわよ……でも、万が一ってことがあるじゃない?」
「俺の話も全然信じてくれませんでしたよね、そういえば」
「だ、だって…………キツネに攫われただなんて……」
「いいんです。所詮俺なんてその程度の信用しかないんですから。おじゃましました」
 と、月彦は玄関に向けて歩み出すも、雪乃がズボンにしがみついて離れようとしない。
「だめ……お願い、帰らないで」
 上目遣いで訴えかけられる。
「恐いんですか?」
「こ、恐くなんて……」
「意地張る余裕があるなら大丈夫ですね。それじゃ」
「ま、待って……恐いわ、恐いわよ! だから一人にしないで!」
 ずりずりと三歩ほど雪乃を引きずって、月彦はため息をつく。
「……解りました。今夜だけですよ、先生」
「本当!? ありがとう、紺崎君」
 雪乃は立ち上がり、ぎゅうと抱きついて来る。そのあまりの無防備な振る舞いに、月彦は慌てて雪乃と距離を取る。
「で、でも俺が残ったからといって、絶対安全ってわけではないんですからね。そこだけは……覚悟しておいて下さいよ」
「心配性ね……大丈夫よ、二人居れば。相手は一人じゃない」
 自分が泊まる、と言った途端この強気。豪気なんだか恐がりなんだか解らない人だ、と月彦は思う。
「はぁ……それじゃあ家に連絡しますから、すみませんけど、携帯貸してもらえますか? 俺、持ってないんで……」
「いいわよ、それくらい私が――」
「いえ、俺に掛けさせて下さい。先生がかけて、従姉妹が出るとものすごく面倒なことになるんで……」
「面倒なこと……?」
 雪乃はやや腑に落ち成そうな顔をしつつも、月彦に携帯電話を手渡す。
「紺崎君、先に言っておくけど……余計なことは言わないでね?」
「解ってます。先生が恐がりで、一人じゃ寝れないからとか、絶対言いません」
 なっ、と反論しようとする雪乃を制して、月彦は自宅に電話をかける。幸いなことに出たのは葛葉で、今夜は泊まると言ったらどこに泊まるのかも聞かずにあっさりと了承してくれた。
(我が母ながら、放任ここに極まれり、って感じだな)
 しかし今はその放任っぷりがありがたい。月彦は雪乃に携帯を返し、ソファーに座る。
「さて、と。どうします? 寝るんですか。それとも徹夜するんですか?」
「……徹夜、しても根本的解決にはならないわよね。ねえ、紺崎君。幽霊を退治する方法とか知らないの?」
「知りませんよ。俺だって、こんな目に遭うのは殆ど初めてみたいなモンなんですから」
 妖狐関係なら、たっぷりと経験してはいるが、今回に限ってはその経験もあまり役に立ちそうにない。何せ見えもせず、さわれもしない相手なのだ。
(でも、“アイツ”なら――)
 なんとか出来るかも知れない、と思える。妖狐と幽霊では勝手が違うのかもしれないが、それでも対処法くらいは知っているのではなかろうか。
「……一人だけ、そういうのに詳しそうな知り合いが居るんですけど」
「本当!?」
「ただ、連絡の取りようがないんです。いつもフラッと来て、フラッと帰るやつなんで。どこに住んでるのかも知りませんし、そもそも定住してるのかどうか……」
 真央なら連絡手段を知っているかもしれないが、やはりダメだ。絶対臍を曲げられる。
「浮浪者みたいな人なのね……」
「ええ、そんなモンです。とにかく連絡が取れ次第、相談してみますよ」
「お願いするわ……もうこうなったら紺崎君だけが頼りよ」
 今回の件で雪乃は余程参っているらしい。無理もないかな、と思う。。
「……なんだかとても疲れたわ……。徹夜しようかと思ったけど、とても無理……」
「寝るんですか?」
「うん、そうしようかなって。幽霊も恐いけど、眠気を我慢するのも辛いもの」
「解りました。じゃあ俺がここで起きて見張ってますから、先生寝ていいですよ」
「見張るって……紺崎君は寝ないの?」
「明日先生が起きたら、そのまま帰って寝ます。見張りが居ないと、何かあった時マズいじゃないですか」
「そうだけど……」
 雪乃は何故か不安そうな顔をする。その意味は、すぐに分かった。
「紺崎君、私が寝たらすぐに帰っちゃう……なんてことはないわよね?」
「帰りませんって」
「朝起きて、紺崎君が居なかったら一生恨むからね?」
「解りましたから、早く寝て下さい」
 雪乃の背中を押すようにして寝室の中に入れる。
「ふぅ……」
 手のかかる先生だ、と一人ごちて月彦はソファに座る。とりあえず特にやることもないからテレビでも見るか――とリモコンを手にとったところでがちゃりと寝室のドアが開く。
「……紺崎君、ちょっといい?」
「何ですか。先生……まさか一人じゃ寝れないとか言わないですよね?」
「う……」
「言っておきますけど、一応先生と俺は女と男なんですからね。さすがにそこまでは出来ませんよ」
「わ、わかってるわよ……私はただ、時々様子を見に来てほしいって言いにきただけよ」
「わかりました。適当に様子見に行きますから、安心して寝て下さい」
 また雪乃の背中を押して、寝室に押し込める。やれやれとため息をつきながら、再び月彦はソファに腰を下ろす。
「……あの様子じゃ、毎日泊まってくれとか言われそうだな」
 無論、さすがにそんなことは出来るはずがないから、早急に真狐と連絡を取る必要がある。もうこうなったら真央に多少拗ねられても連絡手段を聞き出すしかないかもしれない。
 そんな事を考えながら、適当にプラズマテレビのリモコンを操作する。ちょうど良い具合に深夜映画をやっていたから、とりあえずそれを見ることにしてソファに横になる。
(……俺のベッドよりふかふかだ)
 あまりの寝心地の良さに大あくびまで出てしまう。幽霊への恐怖も何処へやら、月彦は順調に眠りの谷へと転がり落ちていくのだった。

 

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