どれほど時間がたっただろうか。異様な気配に月彦は眼を覚ました。
「あ、れ……」
 微睡んでいた自覚はあったが、寝たつもりはなかった。月彦は慌ててソファから上体を起こし、周囲を見渡す。
「俺……電気消したっけ……」
 リビングは暗く、淡い常夜灯がぽつぽつとついているだけで照明は完全に消えてしまっている。そして、つけっぱなしにしていた筈のテレビまでもが。
 どちらも自分で消した記憶はない。そもそも本当に寝るつもりはなかったのだ。だから眠気覚ましの意味でもテレビと照明は消す筈がない。
 ひょっとしたら、タイマーかなにかで勝手に消えるようになっていたのではないか――そうも考えたが、そんなに都合良く発動するとも思えない。となれば――
「……っ……!」
 月彦は、気づいた。ソファのすぐ側に“い”るそれに。常夜灯の光を背に、真っ黒い人型が浮かび上がる。
「せ、先生……?」
 何のことはない、雪乃だ。淡いピンクのベビードールに身を包んだ雪乃が、ソファの傍らに立っている。
「紺崎クン……」
「なっ……ちょっ、先生!」
 呟きと同時に、雪乃が被さってくる。月彦は慌ててソファから逃げようとするが、雪乃がそれをさせてくれない。
「恐いの……紺崎クン。お願いだから、一緒に寝て……?」
「だ、だめですって! それは、さすがに……」
 狼狽える月彦の抵抗などまるで意に介さないように、雪乃は的確に手足を絡めてくる。柔らかい乳房をぎゅうと押しつけられて、月彦は思わずうわずった声を出してしまう。
「うんって言ってくれるまで、離さないんだから」
 耳元に甘い吐息がかかる。真央とは違う。真狐とも違う。“人間の”大人の女性の色気に、月彦は目眩すら覚えてしまう。
(こ、これは……ヤバい……)
 一緒に寝るのがまずいとかいう以前に、このまま絡みつかれ続けたら理性の方が先にぶっ飛んでしまいそうだった。
「わ、解りました……寝ます、一緒に寝ますから……離れて下さい!」
「本当? 本当に一緒に寝てくれる?」
 こくこくと、月彦が必死に頷いて肯定すると雪乃は漸く抱擁を解いてくれた。
「じゃあ早くベッドに行こう?」
 雪乃は月彦の腕を掴み、自らぐいぐいと寝室に引っ張っていく。そんな雪乃の強引さに、普段の月彦ならば違和感を覚えるところだった。が、大人の女性の色気に当てられ、半ば精神錯乱状態に陥った今となってはそのような雪乃の変化に気が付けるわけもなかった。
 寝室は独特の空気に包まれていた。先ほどまで雪乃が寝ていた――と、意識しているからかもしれない。空気すら甘ったるく感じられ、月彦の頭はますますクラクラする。
 ベッドはキングサイズのダブルベッドだ。本来ならば二人で寝てもどうということのない広さの筈だが、今宵に限ってひどく狭いものに見えてしまう。
「んふふ……どうしたの? 紺崎くん。一緒に寝てくれないの?」
 雪乃がこれまた甘ったるい声で囁きながら、ぴったりと体をくっつけてくる。ダメだ――と。月彦の中の正常な部分が必死に警鐘を鳴らす。今の雪乃と同じベッドになど入ってはダメだと、必死に訴えかける。
「せ、先生……ひょっとして、寝ぼけてますか?」
 さすがに、雪乃が普段の雪乃ではないと気づき始める。これではまるで、いつぞやの――媚薬を大量に飲んで締まった時と同じではないか。
「どうでもいいじゃない、そんなこと」
 ぐい、と。女性の力とは思えない力で月彦は無理矢理にベッドに引きずり込まれる。
「っ……先生……!?」
「私ね……今、すごく……紺崎クンとエッチしたいの」
「なっ……ぅあっ!?」
 すさまじい力で体を押さえつけられ、耳を舐められながら囁かれる。違う、これは違う。雪乃ではない。雪乃の形をした、違う“モノ”だ。
「ねえ、しよう? 紺崎クンも先生とシたいでしょ?」
 渾身の力を込めているというのに、両腕が容易く雪乃の片手に封じられる。雪乃は空いた手で、艶めかしく月彦の唇に触れてくる。
「良いのよ、何をしても。紺崎クン……先生の体、好きにしたくない?」
 指先が、すすと蠢く。唇から、首へ。そしてシャツの上から胸板、ジャージズボンの上から、股間へと。
「ねえ、紺崎クン。先生……紺崎クンの子供、産みたいな」
 ゾッとするほどいやらしい手つきで、雪乃の手が股間をなで回してくる。普段ならば、雪乃にそんな事をされただけで理性が吹っ飛ぶ所だが、雪乃のそんな行動が逆に月彦を冷静にさせる。
 まさか――。
 先ほど雪乃から聞いた情報……愛人、自殺、幽霊――それらの要素が瞬時に一つの推理を組み立てる。途端、眼前の“雪乃”に大して強烈な嫌悪感がわき起こる。
「だ、まれ……産みたいのは俺の子じゃなくて、何処かの社長だかの子供だろッ」
「……っ……」
 雪乃の顔が僅かに歪む。やはり、と月彦は確信する。
「先生のフリしたってバレバレなんだよ、何が狙いか知らんが、さっさと先生の体から出ろ!」
 雪乃は何も答えない。ただ、呆けたような顔でじいと月彦を見る。
「取り憑いてるのは解ってんだ。先生はそんな下品な事言わないし、そもそも生徒の俺を誘ったりしない。ちゃんと良識、常識のある人なんだ。死んだ後も人に迷惑かけ続けるようなあんたとは違うんだよ」
「……っ……」
「怒ったのか? 幽霊でも怒るんだな。なんだ、ただ姿が見えないってだけで人間と同じじゃないか。だったら、やっていいことと悪いことの区別くらいつくだろう?」
 月彦は必死でタンカを切る。本能的に弱気になっては負けだと感じていた。こういう超常のものを相手にするときは強気に出て、相手を“呑む”ことが大切なのだと。そしてそれはある意味では正しかった。
「話が通じるならなんで堂々と話し掛けないんだ。影からこそこそ人を脅かすような真似ばかりして、そんな事をして楽しいのか。そんな性格だから男に捨てられるんだ」
 最後の一言は、半ば以上ハッタリだった。しかし――それが図星で、そして逆鱗に触れた。
 雪乃の形相が鬼のように変化するや、その両腕が月彦の首を掴み、信じられないような力で締め付けてくる。
「がっ……は……!」
 雪乃の腕を掴み、引きはがそうと試みるが敵わない。とても女の細腕とは思えない力だった。めりめりと、首が音を立てて軋む。
 怨念――とでも言えばよいのだろうか。雪乃から立ち上る禍々しいオーラは確かにすさまじいものだ。殺気も十分、しかし――月彦には奇妙な確信があった。
「……っ……ぁっ……!」
 呼吸を完全に阻害され、意識が遠のく。このまま締められ続ければ確実に死ぬ――そう思った瞬間、不意に首を絞める手が緩む。
「かはっ……がはげほ、げほっ、がはっ……!」
 気道の突然の解放に噎せかえりながらも、月彦はこれでもかと酸素を吸い込む。必死に呼吸を整える月彦を、雪乃は苦々しそうな顔で見ている。
「やっぱりな……必ず死ぬ前に手を離してくれるって、そう思ってた……」
「……どうして、そう思ったの」
 それは、雪乃の口から放たれたが、雪乃の声ではなかった。別の、女性の声だ。
「簡単だ。風呂場で俺を殺さなかったからさ」
 雪乃は何も言わない。月彦は言葉を続ける。
「それだけじゃない、排水溝を詰まらせて、先生を呼んでくれたんだろ。こんなにいいマンションの風呂場の排水能力がそんなに低いわけないもんな」
「…………違うわ」
「違わない。あんたには人を殺す度胸なんて無いんだ。……まあ、それが普通なんだけどな」
「……っ……」
「俺はあんたがどうして死んだのかも、どうしてそうやって現世に止まっているのかも知らないし、興味もない。あんたに言いたい事は、先生の体から出て、そして二度と先生を怖がらせるような真似はしないで欲しいって事だけだ」
「……嫌だって言ったら?」
「どんな手段を使っても、先生の安全を確保する。俺にはあんたみたいなのに詳しそうな知り合いが何人か居るんだ」
「……………………やっぱり似てるわ」
 ぽつりと、雪乃――いや、“雪乃”が呟く。
「小賢しく知恵が回るところや、ハッタリの使い方。そして女の子の庇い方まで、あの人にそっくり」
「……例の男が、俺に似てる?」
「ええ。私を捨てた憎たらしい男にね」
「まさか……風呂場で俺だけ襲われたのは……」
「あの人に面影が似てたから。……結局殺しきれなかったけど、意気地なしは死んでも治らないのね」
「………………」
「……今思えば、ろくな男じゃなかったわ。ホント、なんであんな男好きになっちゃったのかしらね。口先ばかり巧くて、ケダモノみたいにすぐエッチしたがって、しょっちゅう浮気する最低男なのに」
「……う……」
 なにやら胸に得体の知れない痛みを感じて、月彦は呻く。否、胸だけではない、耳も、痛い。今、雪乃が――正確には幽霊が――話しているのは昔の男の話のはずだ。それなのに、何故こうも……耳が痛いのか。
「……えーと、その……そろそろ先生の中から出て頂きたいんですけど」
 月彦の中に沸いた妙な後ろめたさが、そんな弱気の発言にさせてしまう。
「……イヤよ」
 そんな月彦の態度を見て、与し易しとでも思ったのか、今度は“雪乃”の方が強気に出る。
「タダじゃ、イヤ」
「ただじゃいやって……お、お金でも欲しいんですか?」
 やはり弱気。ぺろりと、月彦を見下ろす“雪乃”が舌なめずりをする。
「……エッチしてくれたら、出てあげる」
「は……?」
「貴方、あの人に似てるのよ。……憎たらしいけど、まだ好きなの。……ね?……一回だけでいいから」
「……それで、先生の中から出てくれるんですか?」
「うん」
「もう、人を怖がらせたりしませんか?」
「約束するわ」
「……わかりました」
 結局こうなるのか――月彦は雪乃に取り憑いた幽霊に悟られないように深いため息をついた。


 


 


 

 

 つまり、こういうことなのだ。雪乃が借りたマンションでは確かに自殺者が出たし、その当事者の幽霊の魂が残留している。しかし多少の悪戯めいた事はやるものの、明確に人を殺せるだけの度胸は持ち合わせていない。
 事実、月彦を二度も殺しかけておきながら、最後の最後で助けてしまっている。とはいえ、話を聞いてみるとここまで直接的に手を下そうとしたのは月彦のケースが初めてなのだそうだ。
「そもそも……どうして住人を追い出すような真似を?」
「…………なんか楽しそうで、羨ましかったから」
 そりゃあ死んで一人幽霊となっている身からすれば生きている人間は全て羨ましく見えるだろう。
「その、捨てた男とやらに復讐してやろうとかは……?」
「……そんな度胸があったら、心中してるわ」
 なるほど。と月彦は思ってしまう。ふいに、するりと“雪乃”の両手が首に絡んでくる。
「ねぇ……もういいでしょ? 早くしないと朝になっちゃうわ」
「朝になると……何か問題が……?」
「また夜まで体から出られなくなるわ。そんなの貴方だってこの娘だって困るでしょ?」
 それは確かに困る。困るが――しかし、やはり抵抗がある。
 既に上下が逆となり、月彦が“雪乃”を押し倒す形となっている。常夜灯の微かなオレンジ色の光に照らし出された雪乃の肢体は確かに色っぽい。すけすけのベビードール越しに黒のブラ、ショーツが見えるのもぐっと来る。来るが――。
「やっぱり、先生の了承もなしにこういうことをするってのは……」
「いいじゃない。既に一回やっちゃってるんでしょう?」
「っ……!」
「会話はずっと聞いてたのよ。それにこの娘も……まんざら貴方のこと嫌いじゃないみたいだし」
「で、でも……」
「心配しなくても、私が取り憑いている間の事は何も覚えてない筈よ。仮にバレても“幽霊を追い出すために仕方なかった”って言えばいいじゃない。ふふ……」
 “雪乃”は艶めかしく笑いながら、月彦の頬に指を絡めてくる。さすがに“元”愛人だ。躊躇う男の誘い方などいくらでも心得ているといった感じに思える。
 そして、質の悪いことに雪乃にはそういった大人の女性の仕草がよく似合う。似合いすぎて困るくらいに。
「それとも……ひょっとして貴方、あんまり経験が無いのかしら?」
 あまりに月彦が躊躇うからだろうか、“雪乃”がそんな事を言い始める。
「いや……えーと、あまり豊富な方じゃない、かな……?」
「ふふ、道理で。解ったわ……お姉さんが優しく教えてあげる」
 “雪乃”がいやらしい笑みを浮かべて体を入れ替え、再び上下が逆になる。
「それとも、“先生が優しく教えてあげる”のほうが好み?」
「……俺からは、何とも」
「そう。じゃあ……“先生”がしてあげる」
 まるで月彦の心を見透かしたようにそんなことを囁き、てろてろと耳を舐めてくる。
「あぁ……やっぱり生身はいいわぁ……。私もプロポーションには自信あったけど、この娘にはちょっと負けるわね。悔しいけど」
 大きな胸をぎゅうぎゅう押しつけながら、唾液の絡んだような声で囁きかけてくる。
「ね……紺崎クン。先生のブラ……外してくれる?」
 熱っぽい吐息混じりに、そんな事まで言われる。“雪乃”は上体を起こし、月彦の手をベビードールのウェールの内側まで誘う。
「そう、そこのホックを外すの……ん、上手よ」
 黒いブラが取り外され、たゆんっ、と雪乃の乳房が露出する。久しぶりの――それでいて紛れもない、現役女教師の巨乳に思わず月彦は鼻血を吹きそうになってしまう。
「ふぅん……大きいおっぱいが好きなんだ?」
 悪女笑み――というものがあるとすれば、今の“雪乃”のような笑い方だろう。
「いいのよ、好きにしても。ほら……」
 月彦の手を取り、自らの乳房に押しつける。当然の事ながら、月彦はそのまま両手に力を込め、“雪乃”の乳房を揉む。
「んぅ……そう……ゆっくり、優しく………………」
 鼻にかかった吐息を漏らしながら、雪乃がベビードールを脱ぐ。常夜灯の明かりに直接白い肢体が浮き彫りになり、否が応にも興奮させられる。
「んっ、んっ……段々、その気になってきたみたいね……んっ……そう……んんっ!……ぁ……やっ、若い娘って……感度も……あんっ……!」
 真央も巨乳だが、雪乃も巨乳だ。無論、それでも真狐には届かないが、巨乳フェチの月彦としてはこんなに良いものを見せつけられて黙っているわけにはいかない。それでなくても、普段から雪乃の体にはさんざんムラムラさせられてきたのだ。
「んんっ!……やっ……紺崎クンばっかり…………先生にも、させて……?」
 胸を揉む手を、無理矢理引きはがされる。“雪乃”は両手を交差するようにして自分の胸元を隠し、めっ、という顔をする。
 既に半ばケダモノ化しつつある月彦としては、その両手を無理矢理開いてでも雪乃の乳房にむしゃぶりつきたかったが、紙一重で理性が働く。そう、相手は真央ではないのだ。あまり無茶をするわけにはいかない。言い換えれば、相手が真央であれば容赦なく欲望の限り巨乳を堪能したということになるのだが。
「ふふ……焦れてる顔も可愛いわ……紺崎クン」
 すっかり“先生”になりきっている“雪乃”は悪戯っぽく笑いながら、月彦の足の方へと体をずらす。そして、月彦が寝間着代わりに履いていたジャージの上から、既に膨らみ始めている股間をこれまたいやらしい手つきでなでつける。
「ねえ……口でされたこと、ある?」
 すりすりと、ジャージの上から剛直の形を辿るように指を動かす。その手つきは確かに経験豊富を臭わせるものだった。
「ふふ……。答えなくても解ってるわ。……この娘との関係もそんなに深くないみたいだし、口でされるの……初めてなんでしょう?」
 一体“雪乃”の中では自分と雪乃はどういう関係ということになっているのだろうか。知りたい気もしたが、半分ケダモノの月彦としては早く行為の続きをして欲しくて仕方なかった。
「口でするのは奥さんより巧いって、“あの人”も褒めてくれたんだから。……サービスしてたっぷりしてあげる」
 ふふふと笑みを零しながら、“雪乃”は月彦のジャージの腰ひもを解き、ずり下ろす。途端、押さえつけるものが何もなくなった剛直がグンッ、とトランクスを根本にずり下ろしながら仰天する。
「ひっ……」
 そんな悲鳴が室内に木霊する。勿論“雪乃”が漏らしたものだ。
「口でしてくれるんじゃないんですか?」
「………………え、えーと…………」
 “雪乃”はなにやら狼狽え、躊躇うように剛直と月彦の顔を交互に見る。そして恐る恐る、剛直に手を這わせてくる。
「ほ、本物……よね?」
「当たり前じゃないですか」
 作り物だとでも思っているのかと、月彦は些か憤慨する。
「こ、紺崎クンのって……逞しいのね。あの人のとちょっと違うから……戸惑っちゃった」
「そうですか。そんなことより、早く……して欲しいんですけど」
「わ、解ってるわ…………んっ……」
 “雪乃”がそっと剛直に口づけをする。戸惑いながらも、やはりやり方は知っているようで、次第に下半身からじわじわと快感がこみ上げてくる。
(真央と……同じくらいか……)
 否、些か劣るかもしれない。そう思える。だが、技量そのものは劣っていたとしても、今回ばかりは相手が悪い。
 そう、今回の相手は雪乃なのだ。学校では数多の生徒の授業を受け持ち、流暢な英単語を発音するその口が――今、自分の剛直をしゃぶっているのだ。そのことを意識するだけで――月彦はうわずった声を上げてしまいそうになる。
「んふっん……気持ちよかったら、声出してもいいのよ?……ん、んむっ、ん……」
 そんな事を言われたら、意地でも我慢してやろうという気になる。月彦は奥歯を噛みしめ、ベッドシーツを握りしめるようにして、“雪乃”の口戯に耐える。
「んっ、ぷ……紺崎クンって我慢強いのね」
 “雪乃”は慣れた手つきで剛直を撫で、舌を這わせ、先端を咥えてはぐぷぐぷと顔を前後させる。見てはダメだ――“雪乃”がしている様を見てしまったら、ますます興奮してしまう。分かり切っている事なのに、月彦は目を開き、己の肉柱を舐めしゃぶる女の姿を見てしまう。
「ねぇ……紺崎クン。“ガンシャ”って……知ってる?」
 剛直に絡んだ唾液を弄ぶように手で撫でつけ、上目遣いにそんなことを聞いてくる。
「……知ってはいます」
「ふふ……知ってるンだ。……じゃあさ、先生に顔射したくない?」
「そんなこと――」
「できないって? そういうことを聞いているんじゃないの。出来るか出来ないかじゃなくて、したいかしたくないか」
「っ……!」
 剛直を指先でぴんと弾かれ、月彦は腰を浮かすようにして声を上げてしまう。
「どうなの?」
「……したい、です」
 答えながらも、月彦の胸中は屈辱に満ちていた。雪乃の姿さえしていなければ――と、そう思ってしまう。雪乃の顔で、雪乃の声でそんな事を言われたら、月彦には拒否できなかった。
「そう。……いいわよ、紺崎クンの好きなようにさせてあげる」
 雪乃は再び剛直に舌を這わせ、付け根からゾゾゾと筋を辿るように舐め始める。否、舐めるというよりはほとんど頬ずりに近いそれに、月彦もまたたちまち極みへ上り詰めてしまう。
「あ……ン……ッ!」
 びゅるっ、と唐突に溢れた白濁が雪乃の顔を汚す。びゅっ、びゅるっびゅっ……立て続けに溢れた白いゼリーが雪乃の髪を、鼻を、胸元までも汚していく。
「ん……凄い量……やっぱり、若いのね」
 牡液の白化粧に彩られて、“雪乃”が淫靡に笑う。射精の止まった剛直に唇をつけ、ちゅるっ、と尿道に残っていた僅かな分を吸い上げてしまう。
「う、あ……!」
 “雪乃”のそんな不意打ちにたまらず、月彦は情けない声を出してしまう。無論、“雪乃”がそれを聞き逃す筈はない。
「声出ちゃったのね……可愛い。じゃあ、次は先生の中でたっぷりヌいてあげる」
 “雪乃”はすっかり“先生”になりきっているらしい。それも結構楽しんでやっているように月彦には見える。
「まさか一回出しただけでもう無理……なんて言わないわよね?」
「……それはこれを見てから聞いてもらえますか」
 月彦の言葉に反応するように、ぐんと剛直が一掃力強くなり、“雪乃”の口が“いっ!?”の形で固まる。
「……先生、早くしてほしいんですけど」
「は、早くって……そんな、だって……」
「してくれないなら、自分で挿れちゃいますよ?」
 いつまでも“受け”に徹するのは飽きたとばかりに月彦は体を起こし、逆に“雪乃”を押し倒し返す。
「ま、待って……今、出したばっかりなのに、なんで、こんな……」
「さあ。若いからじゃないんですか?」
「で、でも……やっ……」
 話している間に、既に月彦は“雪乃”のショーツに手を掛け、太股までずり下ろす。その段階になって、“雪乃”の抵抗が急に激しくなる。
「待って、待ってよ! そんなの挿れられたら、裂けちゃう……」
「それは大げさです。それに先生とは既に一回してますから、入るのは立証済みですよ」
「やっ、やぁっ……だめっ……ひっぃ……ッ……!」
 ショーツを半ば無理矢理脱がせ、足を開かせる。秘裂に指を這わせて十分に潤っているのを確認する余裕がまだ月彦にあったのは、“雪乃”にとって、そして雪乃の体にとっても僥倖だった。
「先生、いきます……よ?」
「だ、だめっ……止めて…………あっ、あっぁっ……!!!」
 ぐぐぐと、肉柱を“雪乃”の体に埋没させていく。
「ほ、ら……全然大丈夫、でしょう?」
 ぐっ、ぐっ、と根本まで剛直を押し込んでから、月彦はふぅと息をつく。さすがに雪乃の体は締め付けがキツく、気が抜けない。
「ど、こが……おなか、苦しい…………」
「すぐ慣れます。……“先生”、動きますよ?」
「ま、待っッ……あっ、あっぁッ!!!」
 “雪乃”はうわずった声を上げ、背をのけぞらせながら月彦にしがみついてくる。それは快感でそうなったというよりは、まるで月彦の動きを抑制しようとするような動きだった。
 小癪、と感じる。月彦は“雪乃”の細腕をベッドに押さえつけ、ずんっ、ずんと杭を打ち込むように腰を震う。
「ひぃっ!……ぃン! あっ、はっ、ぁっ、ふっ……! やっ、やめっ……やめっ、てぇ!!」
 “雪乃”が懇願するが、月彦は動きを止めない。それどころか、肉柱を打ち込むたびにたぷんっ、たぷんと揺れる巨乳にますます興奮が高まっていく。
「止めて、ですか。“先生”が優しく教えてくれるんじゃなかったんですか?」
「やっ、ぁ……だって、違う! いつ、もと違う、のっ……あぁっ、ぁっ!!」
 苦しげだった“雪乃”の声が、徐々に艶を帯びてくる。
「あっ、あ、ぁっぁっンッ、ひんっ! はぁ……はぁ………………あの人のと、全然違う……! ……あぁぁっ、あっァッ!!!」
「“あの人”と違う? どう違うんですか」
 尋ねながら、月彦は巨乳を弄ぶように揉み捏ね、肉柱をぐりぐりと押し込んでいく。
「くひぃいいいいいッ!!! こんなっ……こんな奥まで、グリグリってされないのっ……やっぁっ、奥、だ、めぇっ!」
「奥だめ、ですか。じゃあ、抜きましょうか?」
 意地悪っぽく尋ねながら、僅かに腰を浮かす。途端に、“雪乃”の手に力が籠もり、きゅうとしがみついてくる。
「やぁぁ……だめっ、やめないで……もっとして……!」
 我が儘な幽霊さんだ――月彦は心の内で呟いて、苦笑する。もっとして、の要求に応じるように、月彦は剛直をいろいろ動かして角度を変えて突いたり、緩急を巧く調節して“雪乃”が尤も良い感じの声を上げる抽送を探し出す。
「んっ……ぁ、あんっ! あっ、あっ……はぁぁぁぁあ……す、ごい……あの人、より……全然、いい……あぁぁん! 紺崎、クンの……いい!」
 褒めてくれるのは嬉しい。しかし、あまり“あの人”とやらと比べないで欲しい、と月彦は内心思う。
(なんか……人の奥さん寝取ってるみたいでドキドキするんだよな……)
 正確には奥さんではなく愛人なのだが。それが解っていても、月彦には得体の知れない後ろめたさがつきまとう。
「ああぁぁぁぁぁァァ! あぁぁぁぁっ……どう、して……そんな……私が、触って欲しい、所……解るの? んんっ! あぁぁぁッあっ! やっ、そこ……あァン!!」
 淫核を指先で弄られながら突かれて、“雪乃”が仰け反りながら声を荒げる。どうして、と言われても月彦には“経験”から何となく解る、としか答えられない。そしていちいち説明するのも無粋とばかりに言葉の代わりに雪乃の乳を吸い、嘗め回す。
「あァァッ! ァァあッ!! んぁぁ……紺崎、くぅん……んむっ、んっ……むっ、ん! んんんっっんーーーーーーッ!!」
 物欲しそうな唇をめざとく見つけて、月彦はすかさずキスをする。互いの唾液を味わうように淫らに舌を絡め合わせながら、ぐりぐりと下半身を動かす。雪乃が口を塞がれたまま噎び、ぎゅうっ、と剛直をしめつけてくる。
 徐々に、月彦の方にも余裕が無くなってくる。
「やっ、やっ……ちょっ、や……は、早っ……ンッ……やっ、……あんっ! やっ……だめっ、そんな、早く……しないでっ……あっぁ、ぁっぁっ……!」
「すみません。俺ももう、そろそろ限界なんです」
 体を入れ替え、“雪乃”を横に寝かせて片足を肩に掛ける形で月彦はずんずん突き上げる。
「あんっ! あっ、あっ……んっ、ぁ……も、う……出そう、なの?」
「ええ。大丈夫です、ちゃんと最後には抜きますから」
 突く度にたぷんっ、たぷんと揺れる乳を掴み、ぐにぐにと揉みながら月彦も高みに登っていく。その乳房を掴む手を、そっと“雪乃”が掴む。
「だ、め……外に出しちゃ……ちゃんと、中に出して……」
「何言ってるんですか。先生の体に、そんなこと出来るわけ――」
「お願い。あの人……一度も中に出してくれなかったの。外にされたら……また、未練が残っちゃう」
「っ……でも、もし妊娠したら――」
「あ、んっ……この娘……今日、はッ……大丈夫だから、ね? 私を信じて……ンぅっ……お、お願い、紺崎クン……」
 すがるような目で、“雪乃”は懇願する。“先生”を演じていた目とは明らかに違う、幽霊となってしまった女自身の目だと感じる。会ったことも、写真すら見たことは無いが、直感でそう感じる。
 まさか――と思う。まさか、本当にそれが未練だったのか。好きな男の子が産めない――否、中出しすらしてもらえないという事が、死んでも死にきれない程の未練だというのか。
(男の俺にはわからない話だが――)
 もしそうだとすれば、それさえ果たせれば消える――成仏とでもいうべきか――のだろう。そうすれば間違いなく雪乃も解放される。
「わか、り……ました。貴方を、信じます…………中……出します、よ……ッ!」
「ん、来て……あぁあっぁっ、うンっ……あぁっ、紺崎クンっ…ぁっ、ぁっ、あッ……やっ……い、イくっ……私も、イくっ………イッちゃう…!」
 きゅううっ、と“雪乃”のナカが収縮するのを感じて、月彦は一際奥を小突く。
「んあうッ!!!」
 “雪乃”が悲鳴を上げ、びくんとのけぞる。刹那、月彦は肩にかけた“雪乃”の足を抱きしめるようにして、びゅぐびゅぐと“雪乃”のナカに牡液を解き放つ。
「ひあっ……あっ……やっ、すご、い……あっ、あっあァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!」
 嬌声というよりは、絶叫に近いその声。絶頂で感極まった様にも、或いは断末魔ともとれるその声と同時に、“雪乃”の体から光が溢れ出す。
「なっ……」
 目映い閃光に目を開けていられなくなる。
「ッ…………………………………先生?」
 恐る恐る目を開けると、当たり前だがそこは暗い寝室。目の前には、脱力したままぜえぜえと荒く息をする雪乃の体があった。
「先生……起きてください。先生?」
 果たして“どちら”に声をかけているのか、月彦自身も解らない。それでもしばらく声をかけ続けて、そのどちらも返事が出来る状態ではないらしいということだけは理解する。
「……まぁ、いいか。朝になれば解ることだ」
 口を合わせてもたったの二回。普段に比べてあまりにも少ないその回数にすさまじく不完全燃焼であったが、ぐったりと意識のない雪乃をさらに強姦するわけにもいかない。
 半ばふて寝をするように月彦はベッドに横になる。慣れないことばかりの一日だったせいか、幸いにも眠気はすぐに襲ってきた。


 

 ――朝。
 寝室のカーテンの隙間からにわかに差し込む光に月彦は眼を覚ました。
「う……ん……」
 のそりと体を起こし、辺りを見渡す。すぐ隣に寝ている裸の雪乃の姿を見つけて驚きの声を上げてしまいそうになるも、すぐさま昨夜の事を思い出してなんとか思いとどまる。
(………また、やっちまったんだな)
 改めて、思う。ひょっとして――否、ひょっとしなくても、自分はものすごいことをしてしまったのではないかと。一度目ならばまだ事故といえなくもなかったかもしれない。しかし二回目ともなると――。
「………………………」
 ううむ、と思案しながら雪乃の方をまたちらりと見て、月彦はぎょっとした。雪乃が目を覚ましていたからだ。
 雪乃は気怠そうな目を月彦に向けたまま、しばしなにも言わなかった。ぼーっとしているのか、それともまだ寝ぼけているのか。月彦が反応に困っていると、やっと一言。
「紺崎君……」
「はい」
「……ひょっとして、私……またやっちゃった?」
「……はい」
 月彦は、包み隠さず昨夜の出来事を雪乃に説明した。雪乃が幽霊らしき女に憑依された事。自分を誘った事。取引を持ちかけた事。そして……やってしまった事。
「やっちゃったものはしょうがないわ……」
 雪乃は肩まで布団を被り、些か顔を赤らめながらも意外に落ち着いていた。
「紺崎君が言ったことは多分、本当だし……。私も少しだけだけど、覚えてるから」
「お、覚えてるんですか?」
 確か幽霊は覚えていないと言っていた筈なのに。ひょっとして何か責められるのではないかと月彦は少しビクつきながら雪乃の様子を注意深く観察する。
「少しだけよ。……そもそも、あんな激しいことされて、何も覚えてないって事のほうがありえないわ」
「……すみません」
「紺崎君は謝らなくていいの。悪いのは十中八九私なんだし…………」
 雪乃はばふっ、と掛け布団に頭を埋める。自己嫌悪でもしているのか、そのまましばらくぶつぶつと独り言を呟き続ける。
「ま、まぁ……やっちゃったものは……仕方ないですよ」
「……そうね。終わったことを悔やんでも……仕方ないわ」
 二度目だからか、雪乃にもどことなく余裕があるようだった。てっきり前回のように責任をとるだの親に挨拶に行くだのという騒ぎになるのではと危惧していた月彦は肩すかしを食らった気分だった。
「前回も、今回も不可抗力みたいなもんですし。気にしないようにしましょう」
 お互いに、と月彦が同意を求めると、雪乃は何故かふくれっ面をする。
「……先生?」
「紺崎君ってさ……ズルいよね」
「えっ……?」
 月彦がズルいの意味を尋ねるより先に、雪乃が寝たままぷいと背を向けてしまう。恋人同士であればここで抱擁の一つもするのであろうが、無論月彦はそのような事はしない。

 雪乃がシャワーを浴び、続けて月彦もシャワーを浴びる。本当はすぐに帰ろうと思っていたのだが、「朝食くらい一緒に」と雪乃に引き留められたのだった。
「パンくらいしかないけど……」
 雪乃の言葉通り、ジャムやマーガリンの他には本当に食パンしかなかった。寿司は昨夜のうちに月彦が食べきってしまったから――というのもある。二人で食卓を挟み、黙々とトーストを囓る。
 パンしかないというのに、何故朝食に誘われたのか、月彦には雪乃の意図が全く理解出来なかった。
 否、理解出来ないと言えば、雪乃の格好もまたそうだった。雪乃は昨日のような教師用のジャージ姿でもなければ寝間着姿でもない。カッターシャツ一枚という奇妙な出で立ちなのだ。
「……どうしたの?」
 向かい合って食事をしているせいで、どうしても目が行ってしまう。雪乃はブラすらつけていないのだ。
「……いえ。先生……服着ないんですか?」
「失礼ね。……これが普段着なのよ」
 雪乃は顔を紅潮させて反論する。あまりに堂々と言われ、一人暮らしの女性の普段着とはそんなものなのだろうか、と月彦は半分納得してしまう。
(……生徒の目に毒、って考えはないのかな)
 納得しつつも、そんなことを思ってしまう。何より、月彦自身この“カッターシャツだけ”という出で立ちにただでさえ弱いのだ。
「ねえ、紺崎君」
「……なんですか?」
 まさか、昨夜の事で何か責められるのだろうか――と、月彦は些かびくつきながら返事を返す。
「……看護婦さんとか、好き?」
「は……?」
 が、雪乃の質問は昨夜のアレとは全く関係のない事だった。
「えーと、普通ですけど……それがどうかしました?」
「そ、そう……それならいいの」
 雪乃はうん、と頷きながら食後のコーヒーを啜る。くっ、と足を組み替える刹那、黒の下着が見えて慌てて視線を外す。
「紺崎君」
「はい」
「年下の子とか……好き?」
「別に……普通ですけど」
 そう、と呟いてまた雪乃はコーヒーを啜る。月彦はといえば、雪乃の奇々怪々な質問に首を捻らざるを得ない。
「……先生、もしかして心理テストか何かですか?」
「ううん、何でもないの。……気にしないで」
「はぁ……そうですか」
 気のない返事を返して、月彦もまたコーヒーを啜る。雪乃のあまりに破廉恥な格好のせいで全く味がしなかった。
 いつぞやの真央のカッターシャツ姿とは明らかに違う色気。“大人の女性”だということが否が応にも解る。
 カッターシャツの胸元は開き、谷間がくっきりと見える。柔らかそうな巨乳がたわわにシャツを張りつめさせ、頂をうっすらと浮かせている。組んだ脚がまた巧妙に下着を隠し、その白い太股に思わずごくりと生唾を飲んでしまいそうになる。
(……真央も将来、こんな風になるのかな)
 見てみたいような、ある意味見たくないような。そんな複雑な心境だった。あの真央がこんなグラマーな体に育ったら、それこそ今以上に誘惑に抗しがたくなるのは明らかだった。
(今だって……“先生”じゃなきゃ……)
 眼前に居るのが雪乃ではなく、真央であったら。間違いなく押し倒していた。否、段々と“先生”であってもヤバいかもしれないと月彦は思い始めていた。
 蘇るのは昨夜の記憶。操り手は違ったとはいえ、抱いたのは間違いなく雪乃の体。まだ、抱き足りない――そんなことを思ってしまう。
「……ちょっと、暑くない?」
「いえ……ちょうど良いと思いますけど」
「そ、そう……私は、暑いと思うわ……」
 雪乃の方が明らかに薄着であるというのに、妙な事を言うものだと月彦は思う。しかし見れば確かに雪乃の頬は紅潮し、僅かながら汗をかいているようにも見える。
「あ……暑いから、ちょっと……脱いじゃおうか、な……」
「えっ……」
 と、月彦はうわずった声を上げざるを得なかった。カッターシャツ一枚で、一体何を脱ぐというのか。
「先生、それは――」
 マズい、と言うよりも早く、雪乃がカッターシャツのボタンを一つ外す。たゆんっ、と巨乳が俄に束縛から放たれ、先ほどよりも多くの面積が月彦の眼前に晒される。
「……ん……っ…………」
 さらに、雪乃は組んでいた脚を下ろし、僅かに開く。まるで、月彦に下着を見せようとするかのように。
「え、えーと……先生?」
 あり得ない――とは思う。しかし、月彦は危惧していた。暑くもないのに暑いと言う――また雪乃は“例の薬”を服用したのではないかと。
「……や、やっぱり……ダメ……かな」
 雪乃が顔を真っ赤にしながら、不意にそんなことを呟く。
「え……」
「……一応、誘ってる……つもり、なんだけど…………」
「誘ってるって……」
「ご、ごめんね……私の方が……年上なのに……誘い方、下手くそで……」
 そこまで呟いて、雪乃はもう限界とばかりに足を閉じ、開いた胸元を手で隠してしまう。
「先生、もしかして――」
「わ、私は正気よ……正気だけど…………」
 っ……と、雪乃は唇を噛む。しばし呼吸を整えたり、うーと唸ったりを繰り返す。
「紺崎君とは……二回もしてるのに……その、私……いっつもあんまり覚えてなくて…………一回くらい……普通に、したいな……って」
「普通に……ですか」
「こ、紺崎君ばっかり、私の……恥ずかしいところ、いっぱい知ってるの……ず、狡いって……思うんだけど!」
 ズルいとはまさかそのことだったのだろうか。
「先生、一応俺たち……生徒と教師なんですけど……」
「そ、そんなの、言われなくても解ってるわよ。……でも、それも今更だし……。二回も三回も……一緒じゃないかな」
 教師の口から出たとは思えない言葉だった。どうして突然そんな事を言い出すのか、月彦には雪乃の考えが読めない。読めないが、しかし――これは渡に船ではないかと、頭の中で誰かが囁く。
 常識、倫理――そういったものに照らし合わせるまでもなく、雪乃の申し出は非常識だ。
「それとも……正気の私とはエッチなんて……したくない?」
 雪乃の意図が分からなかった。一夜明けて何故急にこんな事を言い出すのか。不気味ではあったが、月彦の中で既に返事は固まりつつあった。
「先生にそう言われたら……教えを請う立場の俺としては、従わざるを得ないですね」
 まるで美味そうなエサを前に“待て”をされていた獣が“待て”を解除された時のような気分。美味しそうなエサ自身が“食べてもいいよ”と誘っているのだ。何を我慢する必要があるというのだろう。
「紺崎君がイヤなら……私は、別に――」
「……嫌なわけ、無いじゃないですか」
 じっ、と雪乃の方を見る。先ほどまでの遠慮した視線ではない。じっくり、それこそ舐めるような視線で雪乃の肢体を見る。さぞかしいやらしい目つきをしていたのだろう、反射的に、雪乃が体を隠すような仕草をした程だ。
「……もし、あと五分先生がその格好のままだったら……俺の方が襲っちゃってましたよ」
「え……ほ、本当? だったら――」
 何も言わなければ良かった――とでも言いたそうな顔。無論、いくら月彦といえど眼前にカッターシャツを羽織った女性がいる、というだけではそんなことをしたりはしない。
 無論、体つきが年頃の男子にとってたまらない――という要素もあるが、決してそれだけではない。正直、一緒に居ても迷惑ばかりかけられ、うんざりすることも多々ある。だが、それは決して悪意からのものでないという事も知っている。
 悪い人ではない。ただ、不器用なだけなのだ。そしてそんな雪乃に好意を感じてしまっているのもまた事実。――あまり、認めたくはないのだが。
「…………」
 僅かな沈黙。しばし、相手の出方をうかがうような、そんな視線のやりとり。
「じゃ、じゃあ……紺崎、くん……」
「はい」
「ベッド……行こっか」
 はい、と月彦は返し、席を立つ。しかし、雪乃は立たない。
「待って、紺崎君……」
「何ですか?」
「一つだけ……我が儘、言っても……いい?」



 


 何を聞いても絶対に笑うなとさんざんに念を押された。笑ったら泣くとまで言われて、笑わないと誓いを立てさせられて漸く雪乃は“我が儘”とやらを口にした。
「ベッドまで、紺崎君の手で……ね?」
 どうやら“お姫様だっこ”をして欲しいという事らしかった。年甲斐もない事を言っているのは百も承知らしく、雪乃の顔は真っ赤だった。
 そんなに恥ずかしい思いまでして“我が儘”を言われたら、男としてかなえねばならない。無論、“笑うな”の誓い通り月彦はにやけ顔一つせず雪乃を“お姫様だっこ”して寝室へと運んだ。
「ごめんね、変な事言っちゃって……」
「いえ、おやすい御用です」
 大人の女性って結構重いんだな――と思いつつも口には出さず、月彦はベッドの上にそっと雪乃の体を横たえる。
「な、なんか……ドキドキ……する、ね……」
 と雪乃が伏せ目がちに呟く。そんな事を言われると、月彦の方までドキドキしてまうから不思議だった。
(……考えてみたら、真央とする時はあまりドキドキはしないな……)
 全くしないというわけではないが、ドキドキというよりもムラムラの方が近い。普段から一緒に居るのが当たり前になってしまっているから、そうなのかもしれない。
「そ、そんなに堅くならないで……さ、昨夜みたいに……すれば、いいんだから……」
 そう言う雪乃自身、ベッドの上でがちがちに体を強ばらせている。考えてみれば――素面では――雪乃はこれが初めてのエッチとなるのだ。緊張しない方がおかしいかもしれない。
「先生がそんな風に構えると……俺の方まで緊張しちゃうじゃないですか」
「わ、私は……いつも通りよ。紺崎君こそじっと見てないで……早く、すればいいじゃない」
 雪乃の態度、口調はまるで経験豊富の虚勢を張る処女の様だった。一応年上という立場上、そういうポジションを取りたいのかもしれないな――と月彦は一人で勝手に納得する。
「解りました。……じゃあ――」
「ん……っ……」
 雪乃に被さり、そっと胸元に触れる。カッターシャツ越しに指を這わせ、やんわりと円を描くように、揉む。
「ぁ……」
 と声を出した雪乃が慌てて口を噤む。
「……先生?」
「な、何でもないの……紺崎君は、続けて」
 言われるまでもなく、月彦は手の動きを再開させる。真央のそれよりも立派な巨乳に徐々に巨乳好きの本性が浮き彫りになり、大胆な手つきになる。
 雪乃はといえば、完全にされるがまま。必死に唇を噛み、声を出すまいと体を強ばらせている。
(声を出すのが……恥ずかしいんだな)
 と、既に月彦は見破っていたが、あえて催促するような事はしない。そんなことをすれば、ますます意識して雪乃が緊張してしまいかねないからだ。
「……先生って、胸大きいですよね」
「え……ぁっ……ンッ……!」
 雪乃が返事を返そうとした瞬間を狙って、堅くなり始めた突起をシャツの上から擦る。軽い不意打ちだが、雪乃はまんまと引っかかった。微かに漏れた何とも色っぽい声に月彦はますます興奮する。
「昔から大きかったんですか?」
 胸をこね回しながら話し掛ける。話し掛けられれば、雪乃とていつまでも口を閉じているわけにはいかない。
「中学、くらいまでは……全然だったのよ? でも、高校に入ってから……ンン!!」
「そうなんですか。……先生が学生の頃の写真もちょっと興味ありますね」
「だ、ダメよ……絶対、見せない、から……ン! ぁ、やっ……」
 ボタンに指をかけると、途端に雪乃が抵抗するようなそぶりを見せる。無理に外してしまう事は可能だが――
「先生……キス、してもいいですか?」
「そんな事……わざわざ聞かなくても……ンン!!」
 雪乃の言葉を待たずに唇を重ねる。舌は使わず、しばし唇だけで雪乃の唇を食むように愛撫する。
「んっ……ん……んぅ……!」
 雪乃が鼻にかかった吐息を漏らし、ぎこちないながらもキスに応じてくる。強ばっていた体から徐々に力が抜けていくのを感じて、月彦は徐々に舌も使ってより深いキスに移行していく。
「ぁ……ぁ、ぁ……んっ……ぁっ……んっ……!」
 ちゅっ、ちゅっ……そんな小さな音を立てながら、たっぷりとキスを堪能する。段々と雪乃も勝手が分かってきたのか、月彦の動きに合わせ始める。先ほどまで強ばり、ベッドシーツを握りしめていた手まで月彦の背中に這わせ、時折ぎゅうとしがみついてくる。
「ぁ……っ……」
 唐突に月彦が唇を離した時、雪乃の口からそんな呟きが漏れる。些か頬を朱に染め、明らかに物足りないという顔で月彦を見上げる。
「嘘……みたい……キスだけで、こんな……」
「こんな……?」
「すっごく……胸がドキドキしてる……。もっとされたら……私、溶けちゃいそう…………んんん!!」
 だったら溶けてしまえばいい――とでも言うかのように、再び唇を重ねる。先ほどより若干荒々しく、嬲るようなキス。雪乃の舌を突き出させ、それを唇で舐めるように食む。
「んんっ……ぁ、んっ!」
 空いている手で雪乃の手を掴み、指を絡めてぎゅうと握りしめる。雪乃もまた強く握り替えしてくるのを感じながら、キスを続ける。舌が疲れて動かなくなる寸前まで、月彦は雪乃の唇を味わい続ける。
「んはっ……ぁ……」
 細い銀の糸引いて、どちらともなく離れる唇。どちらも野獣の様に息を荒げ、はあはあとひたすら呼吸を整える。
「……先生……凄く、可愛いです」
 先に呼吸を整え終わった月彦が呟き、手を再び雪乃の胸元へと這わせる。既に――キスの最中にボタンは全て外し終えている。
「……もっと、先生の体を見たい、触りたいです」
 呟きながら、シャツをどけて直に雪乃の胸を掴む。
「えっ……やっ……こ、紺崎、くん…………あっ、ぁ……………………」
 今になって漸くボタンを外されていた事に気がついたのか、雪乃は僅かに慌てるようなそぶりを見せたも、それも月彦が乳をこね始めるまでだった。真央や真狐にするような全く遠慮のない揉み方とは違う、些か遠慮気味ながらも十分に大胆な手つきで雪乃の両胸を同時に揉む。
「はぁ…………はぁ…………紺崎、くん…………ぁ…………」
 頬を染めたまま、濡れた目でじぃと月彦を見上げる。胸をこね回されるたびに微かに喉を震わせ、聞いているだけでゾクゾクしそうな声を漏らす雪乃が愛しくて仕方がない。
(先生は……俺しか、知らないんだよな…………)
 胸を触りながら、そんな事を考える。そういう意味では真央もそうだと言えなくもないが、真央は真央で事前に真狐からある程度仕込まれた節がある。……それに、親が親だけにエッチに関しては生粋のエリートだ。
 そういう意味で、雪乃はエッチに関してはド素人なのは間違いない。無論、多少の知識はあるのだろうが、具体的にどうすれば良いのかは解らないと見える。現に自分からは何もせず、月彦にされるがままになっているのがその証拠だ。
(って事は……何をしても――)
 雪乃にとってはそれが“普通のエッチ”ということになる。昼間の学校では自分が教わる立場だが、今この場に限って言えばその関係は逆転していると言える。
「……っ……」
 ごくりと、生唾を飲んでしまう。そう、気がついてしまったのだ。今、自分の目の前にあるのは純白のカンバス。どんな色に染めるのも思いのままだという、その事実に。
「先生」
「……な、何……?」
 雪乃の反応はやや遅かった。まるでうたた寝から急に起こされたような声で慌てて返事を返してくる。
「……俺はさっき、先生の我が儘を一つ聞きましたよね」
「う、うん……」
「じゃあ、先生も……俺の我が儘を一つ、聞いてくれますよね?」
「我が儘って…………何をすれば、いいの?」
 雪乃の不安げな顔を見ていると否が応にも加虐心がそそられる。思い切り無理難題を言ってやりたくなる衝動を堪えて、月彦はそっと雪乃の耳元に唇を忍ばせる。
「なに、簡単なコトですよ――」


 

「ほ、本当に……そんなコト……する……の?」
「俺の我が儘、聞いてくれないんですか?」
 俺は先生の我が儘を聞いたのに――と、月彦はあからさまに失意の顔をする。そう言われては、雪乃としては要求を無視するわけにはいかない。
「わ、解ったわよ……すれば……良いんでしょう?」
「話が早くて助かります」
 雪乃がそう言うや月彦はたちまち笑顔に戻り、ベッドから下りてさあ早く早くと急かし始める。
「なんか、詐欺に引っかかった気分だわ……」
 雪乃は恨みがましく呟きながらシャツを脱ぎ、自らのショーツに手をかける。足を折り曲げ、秘部が月彦に見えないような仕草ですっと下着をベッドの外へと脱ぎ捨てる。
「ううぅ……紺崎君……本当にやらなきゃ……ダメ?」
「ダメです」
 月彦には譲歩の気持ちは皆無の様だった。雪乃は観念してベッドの縁に座り、床に座り込んでいる月彦の目の前に性器を晒すように僅かに足を開く。
「ダメですよ先生。もっと広げてくれないと見えません」
「わ、解ったわよ……っ…………」
 湯気が出そうな程に顔を赤くしながら、雪乃は月彦の眼前ではしたなく足を開く。
「これ、で……見える、でしょ?」
「ダメです。よく見えません」
「そん、な……」
「指で開いて、見せて下さい」
「っ……ゆ、指で……って……」
「“我が儘”聞いてくれるんじゃないんですか?」
 教え子の前で足を開いて秘部を見せつけるだけでも失神しそうな程に恥ずかしいというのに、その“教え子”は平気でそれ以上を要求してくる。あまりに無慈悲な物言いに月彦の背にはコウモリの羽でも生えているのではと疑ってしまいそうになる。
「それに、“生徒”の好奇心に応えるのが“教師”じゃないんですか?」
「つ、都合の良いときだけ“生徒”になるなんて……ズルいわ……」
 文句を言いつつも、雪乃はそっと右手を自らの秘部に這わせる。そして人差し指と中指で秘部を開き、月彦に見せつける。
(生徒の前で……こんなコト……するなんて…………)
 羞恥の余り、とても月彦の方など見れなかった。心臓の鼓動が異様なほど高まり、過呼吸で気が遠くなりそうになる。
「こ、これで……いい、でしょ?」
「まだですよ。先生……ちゃんと俺の“我が儘”聞いてくれてました?」
「き、聞いたけど……でも――」
「“エッチする前に、女性器のことを教えて欲しい”――俺はそう言った筈ですけど?」
「で、でも……紺崎君は何度もしてるんだから……今更…………」
「俺は先生の我が儘を――」
「わ、解ったわよ! ……もう、こんなコト…………相手が紺崎君じゃなかったら、絶対……しないんだから……」
 恥ずかしさの余り、目尻に涙すら浮かべながら雪乃は腹をくくる。最早何を言っても月彦が引き下がらないだろう。ならば、この恥ずかしい行為を一刻も早く終わらせた方が良いに決まっている。
「先生、また足が閉じてきてますよ。良く見えないんですけど」
 言われて、気がつく。月彦が先ほどよりも身を乗り出してきて、閉じた太股が月彦の耳に当たる寸前だった。
「こ、紺崎君……あまり……顔、近づけないで」
「すみません、俺……視力が悪いんで……こうしないとよく見えないんです」
 一発で嘘だと解る嘘を平気でつき、月彦は微塵も下がる気配を見せない。
「先生、早く」
「うぅ…………。…………こ、これが……女性器――よ」
「ふむふむ」
 吐息がかかるほどの距離で月彦が態とらしく頷く。指で開いた陰部に微かに風が辺り、雪乃はますます月彦の視線を意識してしまう。
「この、外側のが……大陰唇で……内側のが、小陰唇って言うの。……こ、こんなの、性教育で習ったでしょう?」
「いいえ。少なくとも“実物”を見せながら教えてくれたのは先生が初めてですよ」
 習った、とでも言ってくれればそれを糸口にこの恥ずかしすぎる“授業”を終わりにできたのに。――雪乃は唇を噛みしめる。
「それで……こ、これが……く、クリトリス、よ……っきゃッ!」
 指を差して、月彦に教えた途端、唐突に淫核を掴まれて雪乃は悲鳴を上げてしまう。
「なるほど、これがそうなんですか」
 尤もらしくうなずきながらくにくにと淫核を弄り続ける。雪乃は反射的に足を閉じようとしたが、それは月彦の肩にガードされた。
「だ、だめっ……紺崎君……そんな、触ったら……ぅぅっぅうッ!」
「で、これが大陰唇に小陰唇って……なるほど、やっぱりこうして直に見ながら習うと頭に入りやすいですね」
 呟きながら、外陰部の襞を丁寧になぞってくる。口を開くと止めどなく甘い声が出てしまいそうで、雪乃は必死に唇をかみ続ける。
「それで、先生……さっきから気になってたんですけど……このぬるぬるしているのは何ですか?」
「それ、は……バルトリン線液っていって……んんぅ!!!」
 尋ねられるとつい答えを返してしまう教師の性が災いして、また甘い声を出してしまう。
「それって、確か気持ちよくなると出ちゃうんですよね。……なるほど、先生は見られてるだけで気持ちよくなっちゃうんですね」
「ち、違っ……んんン!!!!」
 反論しようとすると今度は指を入れられ、雪乃は急遽口を閉じて声を押し殺す。ぬっ、ぬっ……と自らの膣内を蠢く月彦の指で、自分がどれほど濡らしてしまっているかを改めて思い知る。
「だ、め……紺崎、君……そこ……はっ……やっ、ゆ、び……あ、ぁっ……」
「先生のナカ……熱くてとろっとろですね……。……指、増やしても良いですか?」
「やっ……だ、ダメ……あっン!!! んんんっ!」
 ダメだと言っているのに、月彦は全く構わずに人差し指と中指の二本を雪乃のナカへと埋没させ、にゅぷにゅぷと動かしてくる。
「あっ……ぁっ、……ぁっ………………」
 口を閉じていようと思っているのに、勝手に声が漏れてしまう。指の動きに合わせるように、腰がくいっ、くいと動いてしまう。雪乃のそんな状態に気づいたのか、月彦にくすり、と笑われたような気がしてまた顔が赤くなってしまう。
「先生のここ……すごく美味しそうです。舐めてもいいですか?」
「えっ……それは絶対ダメっ……紺崎君やめっ……んんんんっ、ン!!!!」
 止めても無駄だと、半ば解っていた。だから雪乃は両手で月彦の頭を掴み、引きはがそうと試みた。
「あっ、やぅ!」
 しかし、それは敵わなかった。単純に男の月彦の方が力で勝っていたのか。――それとも、引きはがそうとする手に力がこもらなかったのか。雪乃には解らない。
「やぁあぁぁぁっ……ぁう……だめっ、だめ……紺崎君…………あっ、あっ、ぁ………………」
 引きはがそうと頭に沿えた手で月彦の髪を掻きむしりながら、雪乃は悶える。ぴちゃぴちゃと、水を飲む犬のような音を立てて己の蜜が吸われるのを聞いて、耳まで朱に染めて。
「お願い…止めて。…紺崎君……私、もう……恥ずかしくて…………死んじゃいそう………………」
 ほとんど泣きそうな声で懇願して漸く月彦は口を離した。
「どうしても……ダメですか?」
「だ、ダメ、よ……そんな所舐めるなんて……ぁ、う……」
 再び月彦にベッドに押し倒される。覆い被さられながら、キス。
「んんっ……!」
 拙い知識を総動員して、月彦の仕草に合わせる。その最中、再び秘部に何かが触れるのを感じて、雪乃は慌てて右手を伸ばす。
「だ、だめっ……紺崎く――んん!!!」
 キスで口を塞がれ、右手の妨害も空しく秘部を弄られる。先ほど“授業”した大陰唇、小陰唇をなぞるように指を這わせ、淫核を弄られ勝手に背がのけぞってしまう。
「んんんっっはっ……やめっッ、あンんんん!!!」
 指を差し込まれ、にゅぷにゅぷと弄られる。その仕草が妙に手慣れているような気がして、そのことを口にしようにもキスでそれも出来ない。
(だ、め……本当に、溶け、ちゃう……!)
 ゾクゾクと背筋を走る快感に段々羞恥などどうでもよくなってくる。まるで月彦の愛撫を受け入れるように自ら足を開き、指を挿れられる度に勝手に腰がうねってしまう。
「良かった……キスは嫌いじゃないみたいですね」
「ぇ、ぁっ……やっ……あっああぁああっあッう!!!」
 唐突に唇を離され、それまで喉奥を震わせるだけだった声が一気に漏れだしてしまう。我慢しようとしても止まらず、秘部を撫でる指に絡みつく蜜と同じように止めどなく溢れさせてしまう。
「やっ、やっ……やぁっ…………なんか、変な、感じっ……ぁっ、だめっ、だめっ……紺崎君、ゆ、び……止め、て……ぇえッ!!!」
 まるで雷に打たれたような、それでいて体がフワリと浮揚するような不思議な感覚が雪乃を襲う。痺れにも似た快感に全身が弛緩し、脱力してしまう。
「先生……もうイッちゃったんですか……?」
 そんな事を尋ねられても、雪乃には応えようがなかった。性体験などそれこそ数える程しか、その上“どれも正気ではなかった”のだ。自慰さえまともにしたことがない身としては“イく”という事がどういうものなのかすら解らなかった。
「ズルいですよ、先生ばかり」
 拗ねたような声。だらりと力無く横たえた右手が、月彦に掴まれ、引っ張られる。
「俺だって、もうこんなになってるのに……先生だけイくなんて」
「え、ぁ……」
 漸く、自分が何を触られているのかを理解する。ジャージ越しに自己主張をする強ばりのあまりの雄々しさに散りかけていた意識が徐々に覚醒する。
「今度は、先生が口で……してくれますか?」
 全く恥じらいの色も無く、月彦は笑顔でそう言い放つ。錯覚かもしれない――しかし雪乃には、月彦の後ろににょろりと蠢く悪魔の尾が見えるのだった。


 

「く、口でって…………な、舐めろって……事?」
「舐めるだけじゃなくて、頬張ったり、吸ったり、いろいろして欲しいって事です」
「ほおば……」
 雪乃が絶句する。この初々しさがたまらない――と月彦は思う。
「嫌ですか?」
「うぅ……い、嫌じゃ、ないんだけど……その…………やっぱり、恥ずかしくて…………手だけじゃ……だめ?」
「できれば口で」
「うぅー……」
 雪乃が子供のように唸る。月彦が思っていた以上に抵抗があるようだった。考えてみれば、そうかもしれない。薬や、憑依状態を除いた素面ではこれがほとんど初めてのエッチと言えるのだから。
「……解りました。じゃあ手で……してもらえますか?」
 由梨子のケースとはまた違う。月彦は譲歩することにした。
「ごめんね……紺崎君。もう少し、慣れたら…………大丈夫だと思うんだけど……」
 雪乃は心底申し訳なさそうにしながら、そっと剛直に手を這わせ始める。その手つきが明らかに不慣れで、逆にそのぎこちなさに月彦は興奮を覚えてしまう。
「凄く堅い……中に鉄でも入ってるみたい……」
「先生……もしかして素面のまま触るの初めてですか?」
「あ、あたり前じゃない………そんなの、紺崎君が一番良く知ってるでしょ……」
「そう、でしたね。じゃあある意味……これが先生の“初めて”って事ですね」
「そ、そうね……だからもう少し……お手柔らかに……お願いしたいわ」
「そんな事を言われても……俺だって(人間の女性相手では)先生が初めての人なんですから、加減なんて出来ませんよ」
「……とてもそうは見えないんだけど」
「俺は嘘は言ってませんよ」
 多少言葉は足りないかも知れないが、嘘ではない筈だと、月彦は絶大な自信を持って言い放つ。
「先生、そろそろ……直に触って欲しいんですけど」
「わ、解ってるわよ……。……ん、ヒモが……」
 雪乃が手間取るのがもどかしくて、月彦は我慢出来ずに自らズボンとトランクスを脱ぎ捨て、ごろりと仰向けに寝転がる。ジャージの生地に押さえつけられていた剛直はぐんと天を仰いで反り返り、雪乃の口から昨夜と全く同じ悲鳴が漏れる。
「ちょ、ちょ、ちょっと……紺崎君!」
「何ですか」
「何ですかって…………こ、これ……」
「先生にはもう何度も見せてるじゃないですか」
「で、でも……お風呂場で見た時は……こんなじゃ……」
「興奮すると男のは大きくなるんですよ。そんなの、先生だって知ってるでしょう」
「だからって、限度が…………」
「昨日の幽霊も、先生も大げさに騒ぎすぎです。慣れれば可愛いモンですよ」
 さあ早く早くと雪乃の手を引いて剛直に沿えさせる。雪乃は逡巡しつつも、こしゅこしゅと手を動かし始める。無論、そのような手つきでは多少は気持ちよくなりこそすれ、イける筈もない。
「先生、それじゃあ……ただマッサージしてるだけですよ」
「そ、そんな事言われたって……どうしたら、気持ちよくなるの?」
「うーん……」
 考えてみても、今の雪乃が手だけでイくほど気持ちよくできるとは思えなかった。やはり口で――と提案しかけて、はたと気がつく。
「……先生、胸も使ってもらえませんか」
「む、胸……って……」
「先生の胸で挟んでしてくれたら、手でされるよりいいと思うんですけど」
 少なくとも口でするよりは抵抗が少ない筈だ、と月彦は思う。案の定、雪乃は少し迷った後観念したように自ら乳を持ち上げるようにして、月彦の剛直を挟み込む。
「こ、これで……いいの?」
「ええ、あとは……そうですね、滑りを加えてもらえますか」
「滑りって……どうやって……」
「創意工夫、ローションとかあればいいんですけど、無いなら代わりのものを使えばいいじゃないですか」
「創意工夫…………」
 月彦のいわんとする事を雪乃も理解したのか、剛直目掛けてとろりと唾液を垂らし始める。成り行き的になった事とはいえ、雪乃が剛直に、そして自らの胸に唾液を塗しているという様がなんともエロチックに見えて、月彦は妙な興奮を覚えてしまう。
「んっ……これ、くらいで……どう?」
 にゅむっ、にゅるりっ……真央以上の巨乳に剛直が擦り上げられ、月彦は思わず腰を浮かしそうになってしまう。
「凄く、いいです……できれば、もう少し滑りを……足してもらえますか」
 本当は、滑りは十分だった。しかし月彦はもう一度――雪乃が唾液を零す所が見たくて、そんな事を言ってしまう。
 自分が唾液を零す様を観察されているとはつゆ知らず、純粋に滑りが足りないという意見を信じて雪乃はとろりと唾を零す。その様を見て、月彦は得体の知れぬ快感にゾクゾクと背筋を震わせてしまう。
「んっ……んっ…………ほ、本当に、こんなのが……気持ちいいの?」
 柔らかい乳房が剛直を挟み、にゅりにゅりと擦り上げる。その感触もさることながら、ボリューム満点の巨乳が雪乃自身の手によって掴まれ、押しつぶされている光景が月彦にはエロく見えてたまらない。
「ええ、先生の胸……すごくいいです…………続けて下さい」
 はあはあと息を荒げながら、月彦は雪乃のパイズリを凝視する。いっそ辿々しく口でされるよりも、こうして雪乃の巨乳を堪能したほうが正解だったかもしれないとさえ思ってしまう。
 雪乃とベッドに入ってから、何度脳裏をよぎったか解らない。学校での雪乃の姿――スーツを着込み、凛とした声で授業を、或いは生徒を注意する雪乃の姿。それらを十二分に思い浮かべて、眼前の光景と照らし合わせる。
 あの巨乳が。窮屈そうに仕舞われていたものと同じものが、今こうして雪乃自身の手で――そう考えるだけで、月彦はもう、辛抱できなくなってしまう。
「せ、先生……俺、もう…………」
「えっ……出そう……なの?」
 雪乃は慌てて動きを止めるが、月彦にとってそれは拷問にも等しい行為だった。
「ダメです、先生……止めないで下さい……」
 切ない声で雪乃を急かし、動きを再開させる。にゅぷにゅぷと巨乳が剛直を擦り上げ、腰の辺りに溜まった“熱”が快感と共に一気に爆発する。
「きゃんっ」
 すさまじい勢いで射出された白濁が、雪乃の顔面を汚す。びゅるっ、びゅっ、びゅうっ!――その量は昨夜の消化不良もあってか、胸でされただけという割にはあまりに多い。
「んぷ……す、ごい…………男の子って……イく時、こんなに……」
「……すみません、先生。また……顔に……」
「ん……いいのよ。……紺崎君、顔にかけるの……好きなんでしょ?」
「いえ、決してそういうわけでは……」
 顔どころか、雪乃の胸まで白くデコレイトされてしまっている。文字通り、雪乃を自分色に染めた――その光景に征服欲が些か満足するも、まだ物足りない。
「先生、そろそろ……」
「う、うん……」
 最早みなまで言う必要はない。雪乃も解っているのだ。この後することはもう―― 一つしかないということに。
 交尾に逸ったケダモノのような仕草で雪乃の体を掴み、下に組み敷く。
「ま、待って……紺崎君! その前に――」
「……何ですか」
 ふーっ、ふーっ、と息を荒げながら、雪乃の動向を観察する。仮に逃げようとでもしようものなら、その瞬間力任せに押さえつけて――犯すつもりだった。
「ひ、避妊……しなきゃ、まずい、でしょ?」
「避妊……」
 その言葉に、月彦は些か理性を取り戻す。そうなのだ、家で真央とする時とは違う。雪乃とするのならば――きちんと避妊せねばならない。
 本当ならば、行為に及ぶ前に気がつかねばならない事だった。しかし――昨夜の“幽霊”との事が、ついそのことを失念させてしまった。幽霊は言っていた――今日はこの娘は大丈夫だ、と。しかし雪乃としては、そんな幽霊の言葉を信じて妊娠のリスクなど犯したくはないだろう。
「でも、俺……スキンなんて持ってないですよ」
 自分で言っていて、落胆する。それは、ある種の死刑宣告に等しい。ここまで来て、ヤれない。月彦は自分の準備不足が恨めしかった。
 避妊具が無くてはどうしようもない。今日はこれで終わりか――と月彦が落胆しかけた時、ふいにぽつりと雪乃が呟いた。
「……私は、持ってるけど」
「えっ……」
「か、勘違いしないでね……? こないだみたいな事があってから……一応、持ってた方がいいかな、って……準備してただけなんだから。べ、別に……今日、紺崎君とするために用意したわけじゃないのよ?」
「理由とかはどうでもいいです。あるんですね?」
「い、一応ね……これで、いいんでしょ?」
 雪乃はベッドの枕元の小さな引き出しから未開封のスキンを取り出し、見せる。月彦は早速開封し、それを剛直に装着する。
 幸いな事に、雪乃が用意した避妊具は以前由梨子が持っていたものよりも若干サイズが大きめで、剛直の六割ほどは覆うことが出来た。
 月彦はフィット感などをそれとなくチェックし、これなら大丈夫だろうと判断する。
(ちょっと窮屈だが――)
 雪乃を抱ける事に比べれば、あまりにも些細な障害だった。
「じゃあ、先生……改めて……」
「ま、待って……!」
 またしても止められる。月彦も“今度は何だ”という顔を隠しもしない。
「私……一応……“初めて”なんだから……や、優しくして、ね……?」
「……解ってます」
 無論月彦はそうしようと思っていた。が、不安げな顔の雪乃に上目遣いにそんな事を言われると――逆に意地悪をしたくなってしまう。
(馬鹿な……真狐じゃあるまいし……)
 月彦は必死に雑念を振り払い、不思議そうな顔をする雪乃になんでもないです、と返す。
「先生……もう少し、足を開いてもらえますか」
「んっ……こ、このくらい?」
「はい。……じゃあ、行きます、よ……」
 月彦は雪乃に被さり、ゆっくりと――剛直を雪乃のナカに埋没させていく。
「ぁ……こ、紺崎……く、ん…………!」
 雪乃の手が背中に回り、ぎゅうと力がこもる。
「こ、紺崎君……もう少し、ゆっくり……ん、ぁ……!」
 雪乃が体を枕元のほうへと逃がすようにするが、月彦がそうはさせない。雪乃の体をしっかりと抱きしめ、己の杭を深々と打ち込んでいく。
「だめ、だめ……紺崎君……やっ……ふ、深ッ……い…………か、は……ッ……」
「……っ……先生のナカ……凄く……キツい……です……」
 大人びた風貌からは想像もできないような締め付けに早くもイきそうになってしまう。それでなくても――“あの”雪乃を抱いているのだ。学校での姿を思い出すだけでいくらでも興奮してしまうというのに――。
(先生を……俺のモノに、したい…………)
 そんな想いが、どこからともなくわき上がる。人間としてでも、男としてでもない。もっと原始的な、牡としての本能に突き動かされ、月彦は息づかいすらケダモノのそれに近づいていく。
「先生……すみません。……俺、ちょっと……我慢できそうに、ないです」
 まだ理性のあるうちに――そんな思いから出た言葉だった。無論、雪乃にはなんのことだか解らなかっただろう。
「やっ……紺崎、くん…………んっ! あっ、あっ、あっ………………」
 雪乃にしがみつかれたまま、ゆっくりと抽送を開始する。スキン越しではあるが、雪乃の膣の感触、そしてとろとろの蜜の感触がますます月彦を猛らせる。
「んっ、あっ、あっ……やっ、んっい……あっ、あっ……あっ……!」
 突かれる度に、雪乃は抑え気味の嬌声を漏らす。声を抑えようという意識があるのは、まだ羞恥の心が残っているからだろう。――洒落臭い、と月彦は思ってしまう。
「んんんっ……あっ、ぁ………………」
 突きながら、たゆたゆと揺れる上質のプリンのような乳房を掴み、捏ねる。雪乃の意識が胸に集中した所を狙って、ずんっ、と一際強く膣奥を小突く。
「あ、んっ!」
 壁が震えるほどの大声。出した雪乃自身驚いたのか、耳まで顔を真っ赤にして咄嗟に口を噤む始末だ。無論、そんな事は月彦は許さない。
「んっ、む……」
 ゆっくりと腰を動かし、ぐりんぐりんと捻るように突きながら、キス。雪乃の後頭部に手を回し、唇を密着させながらたっぷりと舌を絡め合い、唾液を啜る。
「んんんぅ!!!」
 キスをしながらも、雪乃の反応を慎重に観察する。キスでとろけさせながら雪乃の弱い場所を探し出し、そこを徹底的に攻める。
「んっ!……んんんっ、んんっんんーーーーーーッ!!!!」
 キスをしたまま、雪乃が噎ぶ。びくんっ、びくんと雪乃の腰が撥ね、剛直をぎゅうぎゅう締め付けてくるのを感じながら月彦はゆっくりと唇を離す。
「はっ、ぁ…………ぁ………………」
 胸を大きく上下させて、雪乃が潤んだ目で見上げてくる。先ほどまで月彦の背に爪を立てていた手はだらしなくベッドの上に広がり、結合部からはシーツにシミが広がるほどに蜜が溢れていた。
「こ、紺崎……く、ん……?」
 恐らく、経験の浅い雪乃は今自分がどうなったのかも解らないのだろう。困惑の目を見れば一目瞭然だ。
「先生……気持ちよかったですか?」
 囁きながら、雪乃の耳の裏を舐める。その際、奇妙な違和感を感じて、すぐにその正体に気がついて苦笑する。人の耳よりも、キツネの耳を舐めた回数のほうが圧倒的に多いのだ。
「んぁっ……わ、から、ない…………からだが、ふわふわして……あっ、やぁっ!」
 月彦が腰を動かそうとすると、慌てて雪乃が制止しようとする。
「や、ぁっ……動かさ、ないで……やんっ! あっ、あっ、やっ、ぁ…………み、耳……だ、めっ……あぁっ!」
 ダメだと言われてやめる月彦ではない。雪乃の耳を裏、表共に舌先でなぞるように舐めながら、空いた手で巨乳のボリュームを楽しみ、腰を動かしてくちゅくちゅと雪乃の膣を堪能する。
「先生が感じてる声……すごく可愛いですよ」
「ぇ、、やっ、やぁっ……んんっ……んんんんっ……!!!」
 可愛い、と褒めているのに、雪乃はまた口を閉じてしまう。月彦は乳房を弄んでいた手をすすすと南下させ、結合部の辺りに這わせる。
「っ……こ、紺崎君っ……そこはっっ……んんンッ!!!!」
「クリトリス……ですよね。さっき先生が教えてくれたからちゃんと頭に入ってますよ」
 突き上げながら、人差し指と中指で淫核を包皮ごと挟み、くりくりと刺激する。それだけで、雪乃の体は電流でも流されているかのようにビクンと撥ねる。
「っ……こうすると……凄く良いみたいですね。勉強になります」
「べ、勉強って……そんな……ンンッ!!!」
 またしても雪乃は唇を閉じ、嬌声を押し殺してしまう。そんな事をされたら――意地でも開かせてやりたくなる。
「っ、ひっ、ぁッ、やっ……」
 剛直を深く差し込んだまま、ぐりんっ、と雪乃の膣をえぐる。
「だ、だめっ……そんな、乱暴に……っくっ、ぅ!」
 そして徐々に、抽送の動きを加え、雪乃の弱いところに剛直を擦りつける。
「だめっ、だめっ……そこっはっ……んんっっ、あっ、やっ……あっ、あっあっ……あぁっあっっ……やっ……また、ヘン、にっっ……あっあっあっ…………!」
 快感を堪えきれない雪乃の声は、月彦にとってもたまらない興奮材料だった。スキンつきというハンデすらものともしない雪乃の膣の感触と相まって、否が応にも絶頂に近づいていく。
「先生……俺、先生がイく時の声……聞きたい、です」
「なっ……何を、言って……んんっ!!!! だ、めっ……紺崎、くんっ……やっ、止め、止め、って……やっ、ぁっっ、やぁっっ、だめっ……だめっ、だめっだめっ…そこっ、…だめっ、えっぇえええッ!!!!」
 ぎゅうううッ!!!――爪が食い込むほどの抱擁。止めて、ダメ、と制止をせがみながらイかされる雪乃の姿に興奮は最高潮となり――
「っ……先生っ……!」
 どくんっ、と体を揺るがすほどの反動。普段のそれとは勝手が違う射精に戸惑うも、それが快感を損ねるワケもない。
 どくんっ、どくんとスキンごしに雪乃のナカに白濁をぶちまけ、月彦は擬似的ながらも雪乃を征服した余韻に浸る。
「やっ、ぁあっ……紺崎、くん、の……私の、中……でびくっ、びくって………………」
「っ……先生、だって……そんな、搾り取る、みたい、に………………」
 月彦も腰の動きを止め、しばしはあはあと呼吸を整える。雪乃もまた、大きな胸を揺らしながらぜえぜえと呼吸を整え、快楽にとろけた目で月彦を見上げてくる。その目が、折角射精で落ち着きを取り戻しかけていた月彦の心を、再びケダモノ色に染め上げてしまう。
「……先生、俺……先生と、もっとしたい……です」
 眼下にある、雪乃の体。その豊かな胸元を、月彦は鷲づかみにする。ごくり、と生唾さえ飲みながら、両手でたっぷりとこね回す。
 先ほど出した白濁がローションのように指先に絡んでくるが、気にもならない。むしろ、普段よりもケダモノじみた手つきで白い巨乳に汚れた白を塗り込んでいく。
「え、ちょ、ちょっと……紺崎、くん……?」
「たった一回で終わりなんて言いませんよね、先生。スキンだって……まだこんなにたくさんあるんですから」
 月彦は一端剛直を抜き、先が水風船のようになってしまっている使用済みゴムを液漏れしないようにきゅっと捻って縛り、新品のものと付け替える。
「やっ……紺崎君、目が……恐い…………」
「ちゃんと避妊するから、いいですよね、先生」
 はあはあと息を荒げながら再び雪乃を組み敷き、押し倒す。雪乃が怯えるような声を上げるも、発情状態の月彦の耳には届かないのだった。


 


「はーっ……はーっ………………はーっ…………」
 使用済みの避妊具を外し終え、月彦はぐったりと雪乃の背にもたれ掛かる。雪乃も喋る気力もないのか、尻だけを持ち上げた体勢でただただ呼吸を整える。
 ベッドの上には今月彦が外したばかりの物も合わせて五つの使用済みのゴムが転がっている。ほとんど球形をしたそれの中にはたっぷりと牡液が詰まっていた。
 いくら月彦とはいえ、それだけヤればひと心地はつき、多少は正気を取り戻す筈だった。しかし――今回ばかりは勝手が違った。
 たゆたゆの巨乳をこね回し、さんざんにナカを突き、快感は十二分に得られる。射精もする――が、どこか満たされない。逆に渇きのようなものさえ感じてしまう。
 回を増す毎にそれは強くなり、段々と月彦にもその飢餓が何から来るのかが解ってくる。
(先生に……中出し、したい……)
 飢餓の正体は紛れもなくそれだった。スキン越しに何回しようが、牝を孕ませたいという牡の本能が物足りないのだ。
(真央の……せい、か……?)
 ここに来て月彦はまた、自分が真央から離れられない理由が増えたことを思い知る。最早――中出しでないと満足できない体にされてしまっているのだ。真央自身がそうされないと満足できないようなってしまったのだから、その相手をしている自分がそうなってしまっても当然か――と妙に納得してしまう。
(出したい……先生の、ナカ、に…………)
 眼下にある、雪乃の背中。先ほどまで後ろからさんざんに突きまくり、味わった体だというのにやはり物足りない。うっすらと浮いた汗にすら欲情を覚えてしまう。
「こ、こんざき……くん」
 マクラに顔を伏せたまま、雪乃が掠れるような声を出す。
「も、もう……いい、でしょ? 私、……くたくた…………」
 確かに、ほとんど男性経験など無い雪乃にとっていきなり五連発は応えただろう。
 そうですね、じゃあ一緒にシャワーでも浴びましょうか――その言葉が喉まで出かかるも、実際に口から出たのは――。
「……嫌、です」
 ぎゅうっ、と背後から雪乃の体を抱きしめ、囁く。
「い、嫌……って……まだ、する気……なの?」
「先生……俺、先生の中で……出したい、です」
 強い思いが、とうとう口から出てしまう。腕の中にある雪乃の体が、怯えるように強ばるのが月彦にも解った。
「な、中でって……だ、ダメよ……ちゃんと、避妊しないと……」
「今日……大丈夫な日なんじゃないんですか?」
 っ……と、雪乃が俄に反応する。やはり、と月彦は思う。
「そうじゃなかったら、今頃もっと大騒ぎしてる筈ですよね。先生……昨夜の事覚えていたんですから」
 安全日だと知っていなければ、例え憑依されていたにしろ中出しされて狼狽えない筈はない。――月彦とて、最初からその推理にたどり着いていたワケではない。あまりに強い中出しへの欲求から、どす黒い脳細胞が神懸かり的な能力を発揮して急遽導き出したものだ。
「安全日なら……ナカに出しても……いいですよね?」
「ダメ、よ……安全日でも、万が一……妊娠しちゃったら……」
「一回だけ……一回だけでいいんです。そうじゃないと、俺……気が狂っちゃいそうです」
 まるきり嘘――でもなかった。事実、妊娠の危険を冒してまで雪乃に中出ししたいと思ってしまうほどに、月彦は飢えていた。
「先生を俺のモノに……俺だけのモノにしたいんです」
「……ぅ……ぁ…………」
 雪乃の体を強く抱きしめ、月彦は強引に迫る。依然猛りきったままの剛直を直接、ぬりぬりと雪乃の秘部に擦りつける。五回も――否、胸でのそれも合わせれば六回も出した後だというのに、前以上に力強く見えるそれはまるで“ナカに出させろ”と主張しているかのようだった。
「わ、わかった……わ…………紺崎君が、そこまで、言うなら…………」
「いいんですか?」
 こくり、と小さくだが確かに雪乃は頷く。
「い、言っておくけど…………紺崎君じゃなかったら……例え安全日でも絶対中出しなんかさせないんだからね?…………私の言っている意味、解る?」
「はい。……要するに、中出ししてもいい、ってことですよね」
「そ、そうじゃなくて……ひっ……!」
 月彦は逸り、早速雪乃のナカへ肉柱の先端をめり込ませる。スキン越しではない、生の感触に思わず感嘆の吐息が漏れそうになる。
「やっ、やぁ……紺崎、くん……まだ、話が…………ぁっ、ぁっ…………やっ……ちょっ…ぁ、は、入って……んぅ……!」
「あぁ……先生……先生のナカ、最高です」
 スキン越しで散々歯痒い思いをさせられたせいか、生の膣の感触がいつになく新鮮に感じられる。先ほどまでの飢えを一気に潤す気で腰をくねらせ、雪乃の膣内を隅から隅まで堪能する。
「んっ、ぁ……やっ、だ……もぉ……紺崎、くん……後で、覚えて……んっ……あっ、あ、あうッ……!」
 雪乃の腰を掴み、喋る暇すら与えない程に突き上げる。尻と腰のぶつかる音が小気味良く室内に響き、抽送の度に結合部からは飛沫が飛び散る。
「……さっきより明らかに濡れてますね……もしかして、先生も……生のほうが興奮するんですか?」
「な、何、言って……そんなわけ……んっ! あっ、あっ……うっ……ぅううっ!!」
 体を倒し、雪乃と重なりながら再び結合部に手をやる。肉柱が突き刺さり、ぐいっと押し広げられた雪乃の性器を指先で丹念に愛撫する。
「やっ、やぁっぁ……んっ! ぁっ、ふ、ぁ……ぁっ……やっ……ゆ、び……あ、あっ……!」
「先生の蜜……指先にまで絡んできますね。見えますか……これ、全部先生が濡らしたんですよ」
 月彦は強引に雪乃に肘を突かせ、結合部の下――ベッドのシミを雪乃に見せつける。
「あぁっぁ、嘘……嘘、よ…………こんなっ…………」
「恥ずかしがらなくていいじゃないですか。それだけ……先生が感じてくれてるってことなんですから、俺も嬉しいです」
「ううぅ……紺崎くんの、バカぁ…………」
 まるで拗ねた子供のような口調。月彦は苦笑して、秘部を撫でていた手を雪乃の胸元へと沿える。後背位だといっそう強調される巨乳をたぷたぷと掌で弄ぶように揉む。
(真狐や真央だったら……ぎゅうって強くすれば締まって気持ちいいんだが……)
 さすがに雪乃にそんな事をしても痛いだけだろう、と妙なところで月彦は冷静だったりする。余計な事は考えず、純粋に雪乃のボリュームを堪能する。
「先生……俺、先生の大きいおっぱい……大好きです」
「……お、大きいおっぱいって……ひ、人を……牛みたいに……」
「褒めてるつもりなんですけど」
「ど、どこが……あ、あンッ……!」
「勿論、先生がイきそうになってる声も大好きですよ」
 たぷたぷと弄ぶような手つきから、搾るような手つき。時折指を食い込ませたりしながら、心ゆくまで雪乃の乳をこね回す。
 そうして胸を触っているだけで、天井知らずに興奮が高まってしまう辺り、やはり自分は巨乳フェチなのだなぁ、としみじみ感じてしまう。
「先生のナカ……とろとろで、ぎゅうぎゅう締まって……俺も……そろそろ…………」
 巨乳揉みの興奮と雪乃の膣の生の感触と相まって、段々辛抱がきかなくなる。スキン越しの時よりは明らかに近い限界に男として些か屈辱を感じてしまう。
(でも、先生は俺しか知らないなら……早いかどうかなんて――)
 恐らく真狐であれば早漏だのなんだのと文句を言われそうだが、雪乃に限ってはその心配は無かろうと安心する。むしろ、同じ高校に属する現役の女教師とヤって長持ちする方が変態だとさえ思い、月彦は無理矢理己を正当化する。
「先生……先生……!」
 雪乃をぎゅうと抱きしめながら、ぐいぐいと腰を動かして高みへと登っていく。
「んっ、んっ……ぅっ……こ、こんざき、君……ほ、本当に……中、に……?」
「当たり前です……ここまで来てダメだなんて、言わないでくださいよ?」
 そんな事を言われたら死んでも死に切れません――雪乃の耳元でそんなことを囁きながら、ふと月彦の脳裏に昨夜の幽霊の事が思い浮かぶ。立場は逆とはいえ、月彦には幽霊の気持ちが今なら理解できる気がした。
「あっぁっ、やっ……やっぱり……だ、だめっ……こ、紺崎君……外、外に…………んんっ!!」
「い、や……です…………先生のナカで、出したい…………」
 絶頂前の焦燥で自分が何を言っているのかも理解できず、月彦はケダモノのように腰を動かす。
「あっ、ぁっ、あっ……やっ……ン! あっ、あっぁっ……あんっ、あっ、あぁっ……紺崎、くん……おね、がい……外、に……外に……ぃ……あっ、あっ、あっ……やっあっ、だ、めっ、わた、し……んっ、あっあぁっあっあっ……!!!」
 雪乃がいくら制止を求めても月彦は止まらない。ばちゅんっ、ばちゅんと蜜を飛ばしながら剛直を雪乃の膣奥へと叩きつけ、ぐいっ……と先端を擦りつける。
「あぁっぁっ、だめっ……だめっ……やっ……イくっ……イくっ、ゥ……っあっ、あっ、あぁあっぁあァァーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
 かつて無いほどの大声を上げ、雪乃が達す。ほぼ同時にどくんっ……と剛直が震え、月彦もまたイく。
「う、ぁっあ…………やっ、なに……ぁっ、ひっ……あ、熱い……の、が………………んんっ! あっ…………ふぁ、ぁぁぁぁぁ……」
 濃厚な牡液が瞬く間に雪乃の膣を満たす。まるで十日禁欲した後のような量はスキンに溜まっている一回分とは雲泥の差だった。
「はぁ……はぁ…………先生ぇ………………」
 ぎゅう、と雪乃の体を抱きしめる。結合部からはポンプかなにかで押し出されたような勢いで白濁が漏れ、シーツを汚す。
「はぁ…………はぁ…………凄い量…………こんなに、出されたら……安全日でも、孕まされちゃいそう………………」
 最早観念してしまったかのような雪乃の物言い。ベッドシーツをぎゅうと掴んだままの手に、月彦がそっと自らの手を沿える。
「すみません……先生。ダメだって言われたのに……出しちゃって……」
「…………ん……本当は怒りたいけど……紺崎君だから、特別に許してあげる」
「……ありがとうございます」
 感謝と、謝罪を込めて雪乃の頬にキスをする。
「……ありがとうついでに……もう一回、いいですか?」
「……え?」
「俺、もっと先生としたいんです」
 ぐぐっ、と些か萎えかけていた剛直が雪乃の中で力を取り戻す。
「ちょ、ちょ、ちょっと……紺崎くん! 約束が…………」
「すみません。でも……折角中出しOKが出てるのに、一回で終わりなんて勿体ないじゃないですか」
「ま、待って……一回だけでいいからって……さっき――んんン!!!!」
 異論を唱えようとする雪乃の口はたちまちキスで塞がれた。雪乃は甘く見過ぎていたのだ。年頃の若い男子の性欲を――否、紺崎月彦の精力と中出しへの執念を。雪乃は己の認識の甘さを身をもって思い知るのだった。


 


「じゃあ先生、そろそろ俺帰りますね」
 シャワーを浴び着替えと帰り支度を終え、寝室の雪乃の方に声を掛ける。雪乃は完全にグロッキーのようで、声も出ないのか力無く手を振って月彦に別れを告げる。
 結局、あの後さらに体位を変えながらの抜かず三発をして月彦は漸く満足した。否、本当はもうすこしみっちりじっくりたっぷり雪乃の体を堪能したかったが、当の雪乃の方が本当に体が持たなそうだから自重したというのが正しい。
「おじゃましました。あと……いろいろごちそうさまでした」
 玄関で一礼をして、月彦は雪乃の部屋を後にする。その時、不意に何かが肩に乗るような感触があった。
「………………?」
 肩を見てみても、何がのっているわけでもない。気のせいかと思ってエレベーターを下り、正面玄関からマンションを出る。出た後で、徐に空を見上げる。
 さすがにもう雨は止んでいる。部屋を出る前に見た時計は午後四時を指していた。結局二十四時間以上雪乃の部屋に居た計算になる。
(……悪くない休日だった)
 と、思わざるを得ない。またしても雪乃とあんな事になってしまったのは些か予想外だったが、それはそれで良い思いもたっぷりしたから月彦は大満足だった。
(でも……先生はなんで……?)
 自分を誘ったりしたのだろう、と今頃になってそのことが腑に落ちない。前々回のように薬に狂ったわけでも、取り憑かれたわけでもない。素の雪乃がモーションをかけてきたその真意はなんだろうか。
 自分はよい。雪乃の事は……いろいろあるにしても総合的に見れば嫌いではない。どちらかと言えば好きな部類だ。そうでなくてはいくら誘われたからといってホイホイ乗ったりはしない。
(彼氏が居ないって言ってたし、寂しいのかな……)
 結局そんな辺りに結論づけて、家路につく。といっても肝心の帰り道が解らないことに気がついて、しばしマンションの前で途方に暮れてしまう。
 戻って雪乃に帰り道を聞こうかとも思ったが、あの様子ではベッドから立ち上がってインターホンに出てくれるとは思えなかった。
(確か……あっちに学校が見えたな……)
 初日のベランダからの眺めを月彦は思い出す。ということは家はだいたいあちらだな、と予想をつけてとりあえず歩いてみることにした。
 歩きながらも思い出すのは雪乃との事ばかりだった。あの悩ましげな体をほんの数十分前まで好きにしていたと思うだけでまた股間に妙な熱が入りそうになってしまう。
(でも、中出しはやりすぎた……)
 冷静になればなるほど、とんでもないことをしてしまったと思う。あの時は大丈夫だろう、と安易に考えてやってしまったが、本当に大丈夫かどうかなんて誰にもわからないのだ。
 第一、雪乃が大丈夫だと言ったからといって、それが正しい保証もない。なにせあのうっかり屋の雪乃だ。安全日が一週間ずれてた――なんて事も十分あり得る。
「もし……妊娠させてしまったら……」
 責任は、とらねばならないだろう。さすがにそこで逃げたり、はぐらかしたりするほど性根は腐っていないつもりだった。そうなっても仕方がない程に良い思いをしたのだから――と、自分に言い聞かせる。
「……ん?」
 不意に誰かの囁き声を聞いた気がして、月彦は足を止めて周囲を見回す。行き交う人は多いが、誰も自分に声をかけたような形跡はない。
「大丈夫、って……聞こえたような……」
 それも女の声だった。確かに雑踏の中には女性もいるが、やはり違う。月彦は首を捻りながら再び歩み出す。
 横断歩道にさしかかり、月彦は歩行者用のボタンを押す。が、行き交う車が絶えず、なかなか青に切り替わらない。
 長い――と思った刹那、唐突に歩行者用の信号が青に変わった。と、同時に車道の方の信号が青から直接赤へと変わり、いくつもの急ブレーキ音が月彦の耳を劈く。
「なんだ……故障か……?」
 幸い事故は起きなかったらしく、月彦は些か肝を冷やしながら横断歩道を渡る。見知らぬ道をさらに進むと、今度は飲食店の類がちらほら現れ始める。
 そういえば朝にパンを食べたっきりだったな――と徐に財布を取り出し、中身を確認する。が、見事なまでに小銭しか入っていない。
(真央とのデートで結構使ったからなぁ……)
 そうだ、真央の事をすっかり忘れていた。二日も放置したのだから、さぞかし腹を立てているだろう。
 何とかして機嫌を取る必要がある。そんな事を考えながら歩いていると、ちょうどケーキ屋の前を通りがかった。はて、この辺りは初めて来る筈なのに何処か見覚えがあるような――と店の名をよくよく見ると、以前由梨子が見舞いに持ってきたケーキの箱に書いてあったものと同じ名だった。
 あのケーキは確かに美味しかった。そうだ、土産に真央の大好きなチョコレートケーキでも買っていけば多少は機嫌もとれるのでは――と思って早速入店する。所持金は少ないが、ケーキの一つや二つくらいは買えなくはないだろう……と思ったのが甘かった。
「た、高ぇ……なんだこの値段は……」
 一番安いものでも六百円。由梨子が持ってきたものと同じケーキなどは九百円という月彦の目には法外としか思えない値段がつけられている。
「あれザッハトルテって言うのか……由梨ちゃん、こんな高いのを……」
 月彦は店員に隠れて入念に所持金のチェックをする。ひいふうみいと百円玉を拾い上げ、どうにか一つは買える金額があるのを確認する。
「すみません、これ……一つ下さい」
 ショートケーキを一つだけ、それも小銭ばかりで買うというのが気恥ずかしかったが、何にせよこれで真央への土産ができた。
 重い足取りも俄に軽く、風景も次第になじんだ物へと変わる。見知った道に出て、大分家に近づいてきたなと実感する。
「おっ……新作が出たのか」
 なじみのゲームショップの前を通りかかり、ポスターについ目を奪われてしまう。が、既に所持金が二桁しかないのを思い出してしぶしぶ歩み出す。その歩みが、ちゃりんという音にはたと止まる。
 またちゃりん、と何か小銭が落ちるような音が聞こえた。さらに立て続けに、今度はじゃらじゃらじゃらと。
「な、なななななっ……」
 音はゲームショップの前にある自販機から聞こえてくるようだった。自販機のお釣り返却口から小銭が溢れてくる様を月彦は初めて見た。十円玉五十円玉百円玉五百円玉に至るまで、無差別にじゃらじゃらと溢れ出してくる。
 ここに来て漸く、月彦は何か変だと訝しむ。信号機ならば、まだ故障だとも思えたが、さすがにこれはありえない。自販機の内部構造など知らないが、どうエラーが出ても小銭が止めどなく溢れてくることは無い筈だ。
 小銭が詰まったのか、それとも中に溜まっていた金を全て吐き出したのか、じゃらじゃらという音が唐突に止まる。同時に、微かな音――それこそ蚊の鳴くような声が月彦の耳を撫でる。
「なんだ……?」
 その声はあまりに小さく、聞き取れない。月彦が尋ね返すと、今度はつつと何者かの指が月彦の背中をなぞる。
「つ、か、つ、て……使って?」
 指文字だった。月彦は振り返るが、そこには誰の姿もない。
「まさか――」
 数々の不審な事象。そして目に見えない相手となれば、思い当たる相手は一人しかいなかった。

 
 
 


 

 
 

「そんな馬鹿な……成仏した筈……だろ?」
 わ、か、ら、な、い――と指文字。
「そもそも、何で俺についてくるんだよ。地縛霊とか、そういうんじゃないのか?」
 また“わからない”、と指文字。
「……お、俺についてきて、どうするつもりだ? また、誰かに取り憑いて……悪さする気なのか?」
 し、な、い――と指文字。
「だったら……!」
 そ、ば、に、い、た、い――と、今度は妙に艶めかしい手つきでの指文字。月彦は思わずぞぞぞと背筋を震わせてしまう。
「ど、どこか行ってくれって言っても、無駄だよな……」
 呟きながら、月彦は気がつく。ゲームショップの前でぶつぶつと独り言を呟く男と、お釣りが溢れたまま止まっている自販機の回りに徐々に人が集まり始めていたのだ。慌てて早足にその場を去り、家路を急ぐ。
「と、とにかく……さっきみたいな事はやめてくれ、いいな!」
 小声で呟き、“はい、あなた”と指文字が帰ってきてまたぞぞぞと背筋が凍る。まずい、何故かは解らないがどうも気に入られてしまったらしい――。
 どうしたものか、見当もつかない。とりあえず悪意は無いようだから一安心ではあるが――雪乃もとんだ土産をくれたものだ。
 今度真狐が来た時にでも相談してみるか――結局そこに落ち着いて、月彦は漸く自宅の玄関へとたどり着く。たった一泊のお泊まりだったが、随分長いこと家を離れていた気がするから不思議だった。
「さて、ただいまーっと……っ!?」
 ドアノブに触れた瞬間、ざわりと身の毛が逆立ち、月彦は思わず手を引っ込めてしまう。
「な、なんだ……?」
 ただ、ドアノブを握っただけだというのにこの悪寒は何なのか。ふと気がつくと、指文字も“あぶない”と告げている。
「何を馬鹿な、ここは俺んちだぞ――」
 えいやっ、と気合いを入れて玄関のドアを開ける。――途端、なんとも禍々しい空気が屋内から溢れ出し、月彦はうぷっ、と口を閉じてしまう。
「お帰りなさい、父さま」
「お、おう……真央。良く俺が帰ってくるって解ったな…………」
 玄関マットの上に手を後ろに組んで立ち、満面の笑みで自分を出迎える真央に月彦はぎこちない笑みを返す。
「うん、朝からずっと待ってたから」
「あ、朝から……」
 月彦は思わずドアの外を振り返る。既に外は日が暮れようとしていた。
「ずっと……そこに立ってたのか?」
「うん」
「た、退屈じゃなかったのか?」
「平気」
 真央は終始笑顔だ。にこにこと満面の笑みを崩さない。
「そ、そうだ……真央に土産があったんだ」
「お土産?」
「ああ。チョコレートケーキ、真央大好きだろ?」
 ケーキの箱を真央に差し出す。真央は笑顔を崩さず受け取り、くんくんとチョコレートの香りを楽しむように鼻を鳴らす。
「ありがとう、父さま。わざわざお土産買ってきてくれるなんて、まるで浮気でもしてきたみたいな気の使い方だね」
「な、何を馬鹿な――……そんな筈、ないだろ……? 俺はただ、折角の休日に真央を一人にしてしまった事がもうしわけな――」
「父さま、上がらないの?」
 月彦の言葉を切るような強い口調で真央が言う。おかしい、普段の真央ならば絶対そんな事はしない。真央は終始笑顔だが、月彦にはその笑顔が恐くてたまらなかった。
「あ、上がらないの、って……」
 上がりたくても、前に進めない――というのが正直な所。玄関マットの上に立つ真央から発せられる気迫、雰囲気に足が前に出ないのだ。
「父さま、ほら――」
 上がって、とばかりに真央が手を伸ばしてくる。それが、月彦に触れる前に突然火花のようなものに弾かれる。
「きゃっ……!」
「真央っ!」
 真央は慌てて手を引っ込め、逆の手で火花が当たった辺りをさする。さすりながら、月彦の方を――否、正確にはその後ろにいる“モノ”に焦点を合わせる。
「……父さま、その女の人は誰?」
「え……真央、見えるのか?」
「……そっか。その女に付きまとわれたから、帰りが遅くなったんだね」
 真央はまるで近視の者が無理矢理遠くを見るような目つきで、じいと月彦の背後を睨み付ける。
「ま、待て……真央、落ち着け。その人は別に悪い人じゃ――」
 月彦の弁解を聞くそぶりすら見せず、真央はすうと大きく息を吸い込み、
「父さまから離れろッ!!」
 突然の大声。真央の気迫はすさまじく、月彦は突風に煽られたかのような錯覚に陥り、ぺたんと尻餅をついた。
「あ……」
 と同時に、肩に乗っかっていた重石のような感覚が消えるのを感じた。
「悪い女は追い払ったから、これでもう安心だよ、父さま」
「え……あ、あぁ……」
 月彦は真央に手を引かれる形で立ち上がる。どうやら幽霊を追い払った事で多少機嫌を直したのか、先ほどまでの攻撃的なオーラはどこへやら、いつもの愛くるしい真央そのものだった。
(幽霊をたった一声で退散させるとは――)
 我が娘ながら恐ろしい、と月彦は思う。そういえばあの幽霊は意気地なしだと自分でも言っていた。先ほどの真央の剣幕は自分ですら腰を抜かしかけたのだから、逃げても当然かな、と思う。
「驚かせてごめんね、父さま。私……父さまが女の人と一緒にいると……胸の奥がムカムカしちゃうの」
 月彦の腕を巻き込むようにしてぴたりと寄り添いながら、真央はそんな事を言う。それはもしかして自分と真央が遠く離れていても有効な超感覚か何かなのだろうか、と恐いことを考えてしまう。
「父さま、大好き。……ケーキ、一緒に食べようね?」
 靴を脱ぎ、真央に引っ張られる形で家に上がる。台所へ引っ張られながら、月彦はちらりと玄関のほうを振り返る。
(すまん、幽霊さん……俺は、真央には逆らえん……)
 真央のほうが幽霊などより余程恐ろしい、と月彦は思ったのだった。

 

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