「やっ……父さま……こんな、ところ、で……」
「嫌? 真央だってこうして欲しいから来たんじゃないのか?」
「そ、そんな……んんんっ」
 背後から体をまさぐられて、反射的に真央は口を噤む。
 二人で入るにはあまりに狭いトイレの個室。当然逃げ場などはなく、月彦に対して背を向けている真央には抵抗もままならない。
「はっ……ぁ……ん……」
 大きな胸を制服ごと揉まれ、つい甘い声を漏らしてしまう。抵抗しようとしていた手が、背後からの圧力を支える為に壁につく。
 くすりと、背後から微かな笑い声。
 ほら、もう抵抗を止めた――まるでそう言われたかの様。快楽に溺れようとしていた頭が、微かに正気に戻る。
「だ、め……父さま、やっぱり…………ん……っ……」
 口だけの抵抗。その間にも、月彦の両手が忙しなく真央の体をまさぐってくる。胸を、腹を、背を、尻を、太股を。触れられるたびに、体が熱くなっていくのを感じる。
「ぁ、ぃ……やっ……ぁ、ぁぁああああああァッ!!!!」
 体をまさぐっていた手が、突然スカートの中に、下着の中に潜り込む。卑猥な音を響かせて、指が真央の中に入ってくる。
「ああぁっ……だ、め…………あッ……あッ!」
 月彦の指の動きにあわせて、体がびくんと撥ねる。下腹を貫く快感に上半身が徐々に折れ、逆に両足には力がこもり、尻を突き出すような体勢になる。まるで、犯してくれといわんばかりに。
「真央、濡れるの……早すぎだ」
 苦笑混じりに、指が引き抜かれる。ぬとぬとに濡れたその手を拭うかのように再び制服の上から胸を揉まれ、ボタンを外される。ブラウスが露出したところで、ぼそりと「面倒だな……」という呟きが聞こえた。途端――
「きゃんっ……!」
 がしっ、とブラウスごと両胸を捕まれたまま、力任せに引っ張られる。ぴんっ、ぴんとボタンが飛び、窮屈なブラウスの中にしまわれていた両胸がたぷんと顔を出す。
「と、父さま……こんな、乱暴、に……やっ!」
 当然のようにブラまで力任せにずり上げられ、直に両胸を掴まれ、揉まれる。耳元にかかる、はあはあと怪我を負ったケダモノのような吐息と、スカート越しにさっきからぐいぐいと擦りつけられる強ばりに否が応にも下腹が疼く。
「っ……ン……!」
 溢れくるのが、自分でも判る。両胸をぎゅうぎゅうと搾るように揉まれ、首筋を舐められ、下着とスカートごしでも判るほどに熱をもった強ばりを押しつけられ、そのことに期待している自分が居る。
「……真央、脱げ」
 冷酷な呟き。犯して欲しいのなら、自分で下着を脱げ――と、真央にはそう聞こえた。まるで自分の両手は塞がっているから、と誇張するように真央の両胸を弄び続ける。
「ぅ……っ……」
 月彦の冷徹な言葉が、下腹にジンと響く。真央はしばしの逡巡のあと、ためらいがちにはいと返事をした。そして、自分の下着に手をかける。脱ぐときの感触で、自分がどれほど興奮し、下着を湿らせていたのかが判る。否、下着だけに止まらない、太股までもが……。
「……いい子だ」
 真央が太股の半ばまで下着を脱いだ途端、辛抱たまらないといった具合に強ばりが挿入される。その質量に、真央は息を詰まらせ、すぐには声を出せなかった。
「か……ふっ…と、さま……そんな、急、に………」
「真央が焦らすからだ。……動くぞ」
 焦らしてなんか――と、言うよりも早く抽送が始まる。
「あっ、あっ…あっ……ぅッ!」
「……真央、そんな大きな声出していいのか?」
 くすっ、と微笑混じりに言われて、途端にハッとする。個室の外から聞こえてくる微かな喧噪に慌てて制服の袖を口に当てて、自らの嬌声を押し殺す。
「ンっ、んっ、ンンッ、ン!!!」
 両胸を弄んでいた手が止まり、腰のくびれにそえられる。そこから、尻に痛みが走るほどに速く、強く突き上げられる。
 ずんっ、ずん、と奥を小突かれ、そのたびに痺れにも似た快感が体を貫く。自分の意志とは無関係に声が漏れてしまいそうになるのを、袖を噛んで押し殺す。
 とはいえ、真央がいかに声を押し殺しても肉と肉がぶつかる派手な音は無慈悲に響き渡り、それで察知されやしないかと気が気でない。
「と、さま……お、と……音、んんんンゥゥゥゥ!!!!!!」
 真央が喋ろうとした刹那、月彦の右手が結合部のあたりへと伸びる。抽送されながら、充血しきった突起を愛撫され、真央は咄嗟に袖を口に当てて己の声を押し殺した。
「入れられながら、こうされるのが好きなんだろ?」
 意地悪く囁きながら、月彦は愛撫の手を止めない。剛直で真央の中をこれでもかとかき回しながら、的確に真央の弱い所を。真央が思わず声を出してしまいそうになる部位を愛撫してくる。
「っ……ン、ぁぁあっぁっ……やぁっ、と、さまっ……んふっ……ンッ!!!」
 口を押さえている手を無理矢理引きはがされ、背後から唇を奪われる。
「んんんんっ!!! んんっ!!! んーーーーーーーーっ!!!!」
 まるで、「キスしたまま挿れられるのも好きだろ?」といわんばかりの行為。事実、その通りだった。キスをされたまま剛直でこれでもかとかきまわされ、真央の頭は一気に真っ白になった。
「んはっ……ぁ……あっ、んっ、あっ、あんっ、あっ、あっ……!!!!」
 心身共にとろけ、最早声を抑えようという事にまで頭が回らなくなる。両腕を壁について体を支え、ただただ背後から己を貫く肉塊にばかり意識が向く。
「……真央、このまま中に、だす、ぞ――」
「ぇ……ぁっ、だ、だめっ…あっ…んンぅ!!」
 月彦の言葉に、僅かに理性が戻る。
「駄目? 何が駄目なんだ?」
「きょ、う、は……んっ! あ、危ない、日、なの……だから、中は、……あんっ!」
「危ない日? 嘘だろう」
 くすくすとあざ笑うような声。真央の言葉など全く意に介さないように、月彦はスパートに入る。
「だめっ、だめっ……父さま、今日っは、ほん、とに、中は、だめっ……やっっ、だめっ、あっぁっ、あっ……やっ、あっ、あぁーーーーーーーッッ!!!!!!」
 どくっ、と下腹で熱いものがはじけた途端、視界が暗転した。

 薄暗い室内。
 カチ、カチと聞き慣れた時計の音。
 自分が月彦の部屋に居るのだと、真央が自覚するのにそう時間はかからなかった。
「ぁ……」
 上体を起こし、周囲を見る。寝間着を着た自分と、横で寝ている月彦を見て、先ほどのが夢であったと確信する。ただ、火照った体と寝間着の色が変わるほどにぐっしょりと濡れた股間のみが、あの夢がどれほど現実であって欲しかったかを物語っていた。
(父さま……)
 心の内で呟く。寝間着を纏っていることからも判るように、今宵は体を交わしてはいなかった。だから、あのような夢を見てしまったのかもしれない。
(父さまに、犯されたい…………)
 夢の内容を思い出す。それだけで下腹が疼く。熱いものが溢れてくる。鼓動が早鐘のように鳴り、真央は獲物を狙う獣のような足取りで四つんばいに月彦に覆い被さる。そのまま唇を奪いかけて、はたと止める。
 月彦が、何かを言った。起きてはいない、寝言だ。声にはなっていなかったが、真央には直感的に何を言ったのか理解できた。
 体の火照りも一気に冷め、途端に嫉妬の炎が燃え上がる。だめ押しをするように、月彦の眉が寄った。
「う、う……ま、こ……めぇ……」
 決して嬉しそうな表情ではない。むしろ、魘されている様にしか見えない。しかし、そんなことは真央には関係がなかった。愛しい相手が、自分以外の女の夢を見ているのだ。それだけで腹が立つ。反射的に首を絞めてやりたくなる。
 さらに真央の怒りを倍増させるのが、隆々と勃つ月彦の股間だった。トランクスを今にも突き破らんばかりにそそり立つそれは、明らかに月彦が性的興奮を感じている証拠だと真央は見ていた。
 しかも、大きい。自分とするときでさえ、こうまではならないのではないか。行為の最中はなんとも愛しい、頬ずりしたくなるような部位だが興奮の相手が別の女だと判れば蹴り飛ばしても飽き足らない所だった。
 何故自分ではなく、母親の方を夢に見るのか。あれほど嫌いだと言っているではないか。本当に嫌いな相手をそう何度も何度も夢に見て魘されるだろうか。
 だから、決めた。もう、自分からは誘わないと。少なくとも、月彦の方から自分を求めてくるまでは。そうしたら、行為の回数が極端に減った。というより、決心をした一昨日から一度もしていなかった。
 今までは(一部の例外を除けば)日に五回六回はザラ、休日などは殆ど一日中体を触れさせているような具合だった。それが自分が誘わなくなった途端、急にゼロ。
 やっぱり――という疑念が起きそうになるのを、必死に振り払う。月彦が自分との行為に嫌々付き合っていた等と、そのようなことは認めたくなかった。
 先ほどの夢はここのところの欲求不満と、自分のそういった願望が混じったものに違いない。つまり、心底焦がれているのだ。父親に、月彦に犯されることに。
 だから、余計に腹が立つ。自分がこんなに想っているのに、焦がれているのに、他の女に現を抜かす月彦に。隆々とそそり立つそこを蹴り飛ばすのはさすがに我慢して、代わりにむき出しの太股の内側を掴み、思い切り抓り上げた。
 ぎゃあっ、と月彦が悲鳴を上げて飛び起きるのと入れ替わりに真央はふて寝に入る。時計は確認しなかったが、月明かりの具合からもう一眠りは出来そうだった。

『キツネツキ』

第七話

 ひょっとすると何かの奇病だろうか?――己の太股に日に日に増えていく青あざを見て、月彦は首をかしげた。
 触れると痛みはある。抓られた痕のようにも見えるが、覚えている限りではそんなことをされた記憶はない。真央に聞いても知らない、と素っ気なく返されるだけだった。
 まさか真狐が?――否、それにしては中途半端だ。奴ならばやりかねないという言い方もできるが、それにしても中途半端だ。
 やはり奇病だろうか。医者に行くべきかもしれないと、月彦は少しばかり真剣に事を考え始めた。
 もしかして、“あのこと”と関係あるのだろうか――心当たりを探して、最近気にかかってる事を思い出す。最早言うまでもない、月彦が気に病むことといえば九割方真央の事である。
 最近、真央が手を出してこなくなったのだ。今までなら朝起きたらまず誘い、学校から帰ったら誘い、風呂に入ったら誘い、風呂から出たら誘い、そのまま夜遅くまで……というのが日常だったにも関わらず、ぱったりと。
 ちょっとばかり“ヤりすぎ”かなぁと思っていた所だから、真央にも自制の心が芽生えたのかと微笑ましく思ったものだ。最初の三日ほどは。
 四日目になると、今度は自分の方が抑制が利かなくなった。ちょっとした事でも股間が膨張してしまい、日常生活に支障を来すこともしばしばあった。なにより、真央がもう美味しそうな餌にしか見えなくなってしまった。
 が、ここで真央に手を出してしまえば元の木阿弥。というより、真央がサカって手を出してくるのを咎めることが出来なくなってしまう。それはとても恐い未来を招きそうな気がするから、それだけは辛抱せねばならない。
 とはいえ、このまま辛抱し続ければそのうち頭がどうにかなってしまいそうだった。今までが今までだったのだ。必要に迫られる形で鍛えられた回復力がここへ来てあだとなり、欲情のオーバーロード状態に突入しかけていた。
 何も真央を襲うことだけが唯一無二の方法ではない。男にはたった一人で鬱憤を解消する方法もある。が、それを随分久しぶりに試してみて月彦は愕然とした。
 結果から言えば、駄目だったのだ。長きに渡って真央という極上の牝を味わい続けた反動か、到底己一人の愛撫如きでは達せる気配すら無かった。勃起はする、がそれ以上はいけない。自分のことだけに誰よりもそれが痛感できた。
 ではどうすればいいのか?――その答えは月彦にも分からなかった。

 月彦との行為が途絶えて五日が経過した。日常はいつも通り、一緒に食事をして、一緒に寝て、一緒に学校に行く。二人の間に会話はあるし、別段何が気まずいというわけでもない。
 ただ、行為がない。どれほど待っても手を出してくれない。それはもう、歯痒いくらいに。
 正直、真央は己の体を持て余していた。普段からそうだったが、今はそれとは比較にならない。月彦の側に居るだけで体の芯が熱くなり、頭がぼうっとする。胸の先を押しつけて、股間を擦りつけたくなる。
 ついそういった行為に走ってしまいそうになるのを、必死に我慢する。月彦のほうは真央のそんな状態に全く気がついていないかのように平気で「今日はそろそろ寝るか」等と言って来る。
 頷いて一緒にベッドに入るも、当然眠れるわけはない。下腹が疼いてたまらず、やむなくそのまま自慰をする。無論月彦に聞かれまいと声を押し殺して。
 寝間着の下に手を忍ばせ、大きな乳房を揉み捏ねる。指先で尖った乳首を弄る。甘い声が漏れそうになるのを唇を噛んで堪える。
 下着の、ショーツの下に手を忍ばせ、くちゅくちゅと指を動かす。快感が走る。が、それは月彦に同じ事をされた時とは雲泥の差だった。
 そのまま自分が弱い部位を愛撫し、快感を高めていくも、最後まではいけない。絶頂に近いところまではいける、が、決して絶頂には達せなかった。否、或いはそれが本来の絶頂なのかもしれないが、しかし月彦の手によって達するそれとはやはり違う。
 到底、欲求不満が解消される筈もない。が、こうでもして体を消耗させないと寝付けないのだ。何もしなけれな、朝までムラムラしたままなのは実証済みだった。
 いっそ霧亜の部屋に行く――というのも選択肢の一つとしてはあるが、実行する気にはなれなかった。確かに、きっと快感は得られるだろう。が、心の飢えまで解消されるとは思えない。
 月彦でなければ駄目なのだ。もはや自慰でもイくことが出来ない。真央の欲求不満は募るばかりだった。
 始終発情しっぱなし――客観的に見れば今の真央はそのような状況。それは月彦以外の普通のクラスメイト達にとっても迷惑極まりない事なのだが、当の真央にはそんな事にまで頭が回る筈もない。
 否、少なからず気づいてはいた。周囲から向けられる、絡みつくような視線。それが以前よりも多少露骨になった事は。しかし、それを気に病む程に余裕がないだけの話だった。
(父さまに犯されたい……)
 毎日そのことばかりを考え、どうすればそうなるのか。以前のように薬を使って月彦の正気を無くしたのでは意味がない。
 あくまで、正気の月彦に自分から手を出させたいのだ。そしてそうされる事こそ、月彦の気持ちが確認できる唯一の方法だと、真央は思いこんでいた。

「……男の兄弟ですか? 弟なら居ますけど」
 昼休み。いつものように体育館裏で隠れるようにして真央と昼食をとっていた時だった。唐突に兄弟について尋ねられ、宮本由梨子は少しばかり面食らった。
「それがどうかしたんですか?」
「うん……ちょっと気になる事があって……こんなこと、由梨ちゃんにしか聞けないから…………」
 真央はもじもじと恥じらうような仕草をする。それがなんともいじらしく、由梨子は反射的に抱きしめてしまいそうになるのを自制せねばならなかった。
 ただでさえ、ここ数日の真央は様子がおかしいのだ。危うい――というべきか、触れれば落ちなん、という雰囲気なのだ。つまり、一端手を出してしまえば後はどうとでも……と周囲に思わせるくらい無防備なのだ。
 クラスメイトの男子共などもその匂いを鋭く察知して今にも涎をたらさんばかりの勢いで真央と二人きりになるチャンスを伺っている様に見えた。無論、そうは問屋が、由梨子が卸さない。
 が、由梨子とて人間である。真央が始終そんな調子、まるで全身から”私を襲ってください”とばかりに発散されている気配、匂いとは別の――フェロモンとでもいうべき――それにあてられ、時折頭がくらくらしてしまう始末。由梨子でもうずうずと手を出したくなってしまうのだから、きっとクラスの男子たちにしてみればおあずけをくらいっぱなしの犬のような心境なのだろう。
「―――が――――って――――かな?」
「……え?」
 真央に見とれて、しばし意識が飛んだ。真央が不思議そうに首をかしげるのを見て、由梨子は顔を赤らめた。
「ご、ごめんなさい……ちょっと、ぼーっとしてて……」
「あ、うん……あのね、その……男の子が襲いたくなるような女の子って、どんな子かなぁ、って……」
「…………は?」
 由梨子は余人に比べて決して理解力が劣る方ではない。が、それでも真央が言っている事を理解するのに十数秒を要した。
 男の子が襲いたくなるような女の子はどんな子か?――そんな質問を“男の子が襲いたくてたまらないような女の子”からされたのだ。一瞬、真央が冗談を言っているのかとも思ったが、どうもそうではないようだった。
「真央さん、念のため言っておきますけど……私も女ですよ?」
「うん、でも……弟さん、居るんでしょ?」
「居ますけど、弟の好みのタイプまでは、さすがに……」
「そっか……そうだよね……」
 しゅん、としおれる真央。やっぱりマジで聞いていたらしい。
「……一応聞いてもいいですか。どうしてそんな事を知りたいんですか?」
「それは………………」
 頬を染め、きゅっと太股を閉じるような仕草をする。照れている、恥ずかしがっている、というのはわかるが、それ以上は読みとれない。
 常識的に考えて、女の真央が”男子が襲いたくなるような女”の条件を知りたがる理由はなんだろう、と由梨子は考えてみる。好きな男子がいて、襲ってほしいから?――そんな馬鹿な、と頭を振ってその浅はかな考えを打ち消した。そんな痴女のようなことを、真央が考える筈がない。
「どういう子が襲われるのかを知っておけば、恐い目に遭わなくて……すむでしょ?」
「……何か、されたんですか?」
 急に由梨子が恐い声を出したからか、真央が怯えるように身を縮める。もし、真央になにかあったとしたら、それは自分の責任だと由梨子は思っていた。霧亜にも申し訳が立たない。
「そ、そうじゃなくて……最近、前より……ジロジロ見られたりするから…………」
 なるほど、そういうことかと由梨子は合点がいった。つまり転ばぬ先のなんとやらだ。真央にも少しは警戒の心が芽生えたということなのだろう。
「そういうことなら安心してください。どんなことがあっても、私が絶対真央さんを守りますから」
「……う、うん……ありがと、由梨ちゃん」
「本当ですよ? だからもっと私を頼ってください。真央さんは私に遠慮しすぎです」
 さりげなく、手を握る。真央は一瞬、ほんの少しだけ驚いたようなそぶりを見せるもそれだけだった。由梨子は誘惑に負けて、そのまま身を寄せ、真央をしっかりと抱きしめた。
「ゆっ、……由梨、ちゃん?」
 真央が驚くのも構わず、ぎゅうっ、と抱きしめる。制服越しに、真央の柔らかい胸の感触に思わず理性を無くしてしまいそうになるも、我慢する。
「電話番号……渡したのに、ちっともかけてくれませんよね」
 抱きついたまま、囁く。少しばかり恨みがましい声なのは半分は演技。残り半分は本音だった。
「私、待ってますから。真央さんからの電話……夜中でも、いつでもいいですから……かけてくださいね?」
 そこまで言って、漸く離れる。由梨子なりに、自然な仕草にしたつもりだった。本当は……本音を言えばこのまま押し倒してしまいたかった。唇を奪って、自分のものにしてやりたかった。でもそれは……まだ………我慢した。
「ご、ごめんね……私、携帯電話持ってないから……家の電話だと、義母さま達に迷惑がかかっちゃうし……」
「……分かってます。さっきのは、私の我が儘です。聞き流して下さい」
 平生を装いながらも、由梨子は先ほどの抱擁の余韻に酔いしれていた。着衣のままとはいえ、真央と抱擁をかわしたのだ。その体の柔らかさ、伝わってくる体温の余韻だけで当分は…………事欠かないだろう。
 焦ることはない。少しずつ、少しずつ親密になっていけばいいのだ。そしていつかは――。
 真央を犯したい――そう考える本能に抗しながら、由梨子は微笑む。真央もそんな由梨子の思惑などつゆ知らず、微笑を返す。
 端から見れば、仲の良い女子生徒同士の微笑ましい、穏やかな光景。しかしそれを物陰から伺う者の胸中もまた穏やかだとは限らない。尤も、そんな者が居ることすら当の二人は気がついていない。
 佐々木円香は殺意の籠もった視線を送りながら、ただただ爪をかみ続けた。

 あんな奴らに相談したのが馬鹿だった――そう月彦は痛感した。
 件の太股に現れる謎の青痣のことを、和樹と千夏に相談したのだ。奇病ではなかろうか――と。結果帰ってきたのは大爆笑だった。
 二人とも屋上を転がり、両手で地面をばしばし叩きながら盛大に笑い転げた。月彦がムキになって「これを見ても笑えるか!」とばかりにズボンを脱ぐと和樹はますます笑った。千夏だけが、途端に笑いを止めてなにやら興味深そうにしげしげと見、それを和樹に指摘されて漸く早くズボンをはけと怒鳴り散らした。
 結局二人の意見を総合すると「病院に行け」だった。つまり笑われ損だった――ということになる。
 自分だってそれが一番手っ取り早くて確実なのは分かっている。が、もしかしたら……大衆的ではあるが運悪く自分だけが知らない病気である可能性も否めないではないか。いや……とはいえ、やはり相談する相手を間違えた。仮に妙子であれば――――。そう考えて、この案は違う意味で駄目だと首を振る。
 しかし、冷静に考えてこれは本当に病院に行かなければならないものなのだろうか。月彦は制服のズボンを脱ぎ、しげしげと太股に刻まれた傷痕を見る。こうして見る分にはどうみても抓られて内出血しただけのようにしか見えない。が、月彦にはその様な事をされた記憶はない。少なくとも起きている間は。では寝ている時にされたのか? しかし真央は知らないと言う。真央が嘘をついている? 何故?
「うーん、やっぱり病院に行くべきか……」
 腕組みをし、首を捻る。と、階下からドアが開く音がし、ただいまと耳になじんだ声が聞こえた。トントンと軽やかなステップが部屋に近づいてくる。
「ただいま、父さま」
「ああ、おかえり、真央」
 どこかよそよそしい挨拶。ちょっと前ならば部屋に入るなり飛びついてきてそのまま乳を擦りつけるようにしながら愛撫をねだってくる所なのに。
 しかし当の真央は部屋の入り口で突っ立ったまま、なにやらじいと視線を送ってくるだけだった。そこでやっと月彦は自分がズボンを脱いだままだということを思い出した。
「あ、あぁ……そういや着替えの途中だったんだ」
 今更恥ずかしがるような仲でもないが、今日に限って妙に照れくさく、月彦は慌てて部屋着に着替えた。真央も同様なのか、軽く視線を外しながらも顔を赤らめていた。
 しかしながら――と、月彦は改めて思う。真央と睦み合わなくなってからというもの、時間を持て余すことが多くなった。今までどれほど、それこそ非常識なまでにヤりまくっていたのかということを思い知る。
「な、何か……ゲームでもするか?」
「……うん」
「それとも、散歩でも行くか?」
 うん、と返事はするものの、どこか漫ろな感じ。もっと他にやりたいことはあるが言い出せない……というようにも見える。
 結局、月彦のどんな提案にも真央は生返事しか返さず、なし崩し的に二人で散歩に行く羽目になってしまった。真央も制服から普段着――霧亜からのお下がりのシャツに葛葉に買ってもらったスカート――に着替えて二人で家を出る。
 真央に何処か行きたい所があるかと聞いてもやはり生返事しか帰ってこない為、特に目的もなくぶらぶらと歩く。歩きながらそれとなく話題を振るが、やはり生返事しか返ってこない。
「学校はどうだ? 由梨ちゃんとは巧くやってるか?」
「……うん、大丈夫」
 ぽつり、と呟くような返事。もしかしたら様子が変なのは学校で何かあったせいかと月彦は思ったのだが、どうもそうでは無いようだった。そのまま会話らしい会話も無いままに川沿いを歩き商店街を抜け、閑散とした公園の辺りにさしかかった辺りで不意に――
「……で……」
 真央が声を出した。
「ん、何だ?」
「腕……組んでも……いい?」
「え……あ、あぁ……」
 ちょっと戸惑ったが、月彦は了承した。知り合いに見られたら何を言われるか分かったものではなかったが、幸いにも辺りに人影は皆無と言って良かった。
 くっ、と真央の腕が月彦の右腕に絡んでくる。腕から伝わってくる、普段よりやや暖かめの体温を感じつつ、月彦は改めて真央の方を見た。
 霧亜から貰ったシャツは丈はあっているものの胸元のあたりだけぎゅうぎゅうにつっぱっていて、豊満な胸の形を否が応にも浮き立たせている。もっとゆったりとした服を着ればいいのにと思いつつも、これはこれでとばかりについ横目で見てしまうのは男の性。
 スカートもこれまた短い。ちょっと前屈みになれば容易く尻が見えてしまいそうな程だ。一応父親としては、娘のこのような姿は些か胃に悪いと同時に、やはり白い足には目が行ってしまう。
 別に下着姿になっているわけでも卑猥な言葉を呟いているわけでもないのに、十分すぎるセックスアピールになってしまうのはやはり真狐の血のせいか。もしくは自分が欲求不満だからか。
 辺りに人気はない。今、ここで押し倒してしまえば――……不意に想像を巡らして、すぐにしまったと思う。
「ま、真央……ちょっと休んで行かないか?」
 慌てて提案し、些か強引に公園のベンチに座る。淫らな妄想に過敏に反応してしまった下半身を隠すために不自然だとは思いつつも足を組んだりしつつ、頭では難解な数式などを思い浮かべる。
 真央のほうは些か不思議そうにしながらも、月彦の状態には気づいていないかのように視線を外していた。
 股間の膨張はなかなか収まらない。まるで“隣に真央が居るのに、何故ヤってしまわない?”と主張するかのように、ズボンの中で痛いほどに自己主張をしている。いくら足を組んで誤魔化しても、これでは勃っているのが一目瞭然だ。真央、頼むからこっちを見ないでくれと心の中で訴えかけ続ける。
 幸いなことに、真央は視線を外したまま月彦の方を見ようとしなかった。今のうちになんとか萎ませようと月彦は可能な限りの萎えシチュを頭に思い描き、下半身の説得を試みる。
 結局、日が暮れて辺りに影が増え始めた頃になって漸く収まりの兆候が出てきた。暗いし、これならなんとかごまかせるだろう、と判断して月彦は立ち上がった。
「……っと、冷えてきたし、そろそろ帰るか?」
「ん……っ……」
 随分久しぶりに真央に声を掛けると、真央もおもむろに立ち上がる。が、急にふらりと倒れそうになるのを、月彦は慌てて支えた。
「っと、大丈夫か?」
「ぁ……う、ん……だい、じょうぶ……」
 どこか熱っぽい顔。月彦は反射的に真央の額に手を当てようとするも、真央はそれを咄嗟に後ずさって避けた。
「あっ……」
 避けた後になって、真央はハッと申し訳なさそうな顔をする。
「だ、大丈夫だから……熱なんて、無いから……」
 ばつが悪そうに真央は一足先に歩き出してしまう。愛娘のそんな反応に、月彦は首をかしげねばならなかった。

 霧亜はまたしても夕食には顔を出さず、いつも通り葛葉と月彦と真央の三人で食べることになった。夕食が終わるなり、真央は一足先に風呂場へと向かった。湯船に浸かりたかったのではない、水を被りたかったのだ。
 脱衣所で衣類を脱ぎ捨て、水のみのシャワーを浴びる。最初こそ冷たい水が火照った体に心地よかったが、すぐにそれも物足りなくなる。
 正直、夕食の味など分からなかった。月彦との散歩の後からずっと、体が火照りっぱなしでどうにかなりそうだった。
 否、散歩の途中からではない。そもそも火をつけられたのは帰宅後、部屋に入った時。今更恥ずかしがるような仲ではないと言われたらそれまでだが、それでも禁欲中の真央には月彦の下着姿は刺激が強すぎた。
 自分が帰るのを下着姿で待っていたのかと、一瞬ありもしない想像をした。さあこっちに来い、可愛がってやる――そんな空耳すら聞こえた気がした。
 しかし、真央の期待はかなえられる筈もなく、なし崩し的に散歩に行くことになってしまった。
 月彦と共に出かけるのは嫌ではない。むしろ好きだとも言える。月彦は散歩のつもりでも、真央はデートのつもりだからというのもある。だが、本来ならば楽しいはずのそれすら、今は焦れったさしか生まない。
 それでも、部屋に二人でいるのよりはマシだと判断した。自分からは手を出さないと誓いを立てて既に一週間、最早我慢は限界に近い。部屋に二人きりでは、いつ理性を失ってしまってもおかしくないと自分でも分かっていた。
 自分からモーションを起こすのは反則。そう決めていた。でもこれくらいは――と散歩の途中で腕を組んだのは失敗だった。そう、まさに失敗。決意を緩め誘惑に負けた代償を真央は思い知ることになった。
 絡めた腕から感じる月彦の体温に否が応にも意識してしまったのだ。鼓動が早まり、吐息が荒くなってしまいそうになるのを必死に堪えねばならなかった。その息苦しさがまたむず痒く、さらなる高ぶりを生み、収拾がつかなくなった。
 だから、月彦が少し休んで行こうと言い出したのは僥倖だった。息苦しさと下半身に走る痺れのような感覚に歩くのも辛かった。
 休憩に入ったのは人気のない公園。もしやという期待にまた体が熱くなった。茂みに連れ込まれ、押し倒されるのではないか――その期待に胸が高鳴った。
(したい……父さまと、したい…………)
 公園での妄想が、再び頭をよぎる。
 茂みに押し倒され、衣類を破かれ、下着を剥ぎ取られ、抵抗も空しく犯される。やめてと叫ぶ口を自らの下着で塞がれ、有無を言わさず何度も何度も中出しされる。
 あぁ……、と。記憶の中から中出しの感触を思いだし、反芻する。堅く熱いもので奥までえぐられ、たっぷりと濃いものをぶちまけられる、牝としての至福を。
(したい……したい……したい…………)
 妄想の中で、真央は公衆トイレの裏に連れ込まれ、壁に手を突かされ背後から体をまさぐられる。尻に剛直を擦りつけられながら、こっちを犯してやろうかと囁かれる。妄想の中の月彦は必ず、真央がやめてと言う方を犯す。だから真央は、そっちはダメだと懇願する。
 熱く、堅く、巨大なモノが体を貫く。そのあまりの質量に息が詰まり、頭が痺れて何も考えられなくなる。腰をしっかりと掴まれ、逃げることも許されず好き勝手に突かれ、最後はたっぷりと中に出される。
 後ろも前も汚された後は地面に跪かされ、白濁に濡れた剛直を眼前に突きつけられる。「舐めろ」と冷徹な声で命令され、頬にぐりぐりと押しつけられるそれを口に含み舌と唾液で少しずつ綺麗にする。剛直を舐めているうちに次第に月彦の息も荒く、両手で真央の頭を掴んで剛直を喉の奥まで押し込まれ、最後は――
「…………ぅっん…………」
 妄想の中の行為につい反応して、ごくりと喉を鳴らしてしまった。飲み込んだのはただの唾液。それでも液体が喉を通る感触に少なからず興奮した。
(したい……したい……父さまと、したい…………)
 冷たいシャワーを頭から被っているのに、火照りが収まらない。はあはあと息を荒げ、濡れそぼった秘部につい指を伸ばしてしまいそうになるのを我慢する。このような場所で慰めるのを恥じているからではない。止まらなくなるからだ。
(父さまと、したい…………)
 焦がれるあまりに、半ば恨みすら覚える。何故手を出してくれないのか。自分にはそれほど魅力が無いのか。今までは仕方なく付き合ってくれていたのか。
 それらを考え始めるとどうしようもなく切なく、そして悲しくなる。やはり、母親には――真狐には勝てないのかと。悔しさでいっぱいになる。
 家を出ようか……と、ふとそんな事を考える。行く先の宛など無いが、月彦が真狐の事を好きで、自分とは仕方なく一緒に居ただけなのだとすれば、これから先も辛いだけだと、そう思う。
 もし、今夜も月彦が手を出してくれなかったら、その時は――密かな決意を胸に秘めて、真央はシャワーを止めた。

 真央と入れ替わりに月彦は風呂に入った。禁欲中な為か、真央が入った後の風呂場はボディーソープの香りとはまた違った甘い牝の香りが残っているような錯覚を覚えてしまう。
 否、あながち錯覚ではないかもしれないと、体を洗いながら月彦は思う。真狐ほどではないが、真央もある種のそういったフェロモンのようなものを纏っている節がある。それがここ数日でことさら強くなったようにも思えるのだ。
 例えるなら、前は真央の側にいると何となくムラムラする――という程度だったものが、今は真央の側にいると甘く良い香りがして尚更ムラムラする――という具合にまで顕著になっている気がするのだ。
 無論ただの気のせいかもしれない。が、もし本当にそういったことになっているのだとすれば、哀れなのは真央のクラスメイトの男子生徒だろう。彼らの大多数はそういった欲望を自身で処理するしかないであろうし、例え相手が居たとしても真央に対する欲情を処理する対象にされたのでは相手の女の子がまた哀れに思える。
 となれば、さすがに今宵くらいはしてもいいのではないか――と思う。何のことはない、グダグダと理由を後付けしてはいるものの、月彦自身真央としたくてしたくてたまらないのだ。
 先ほどの散歩の時ですら、暴走する下半身を押さえつけようとしながらもなかなか元に戻らなかったのは沸々と真央を犯す妄想を膨らませてしまったからに相違ない。真央とて、きっと溜まっている筈だ。ここらで一度互いにすっきりしたほうが生活にメリハリがつくというものだ。
 もし真央が嫌だと言うのならそれはそれで仕方がない。その時は……なんとか自分で処理できる方法を考えるまでだ。
 そんな事を考えながら湯船から上がり、自室へと向かう。向かいながらも、心中は舌なめずり、真央をどのように抱くかで早くも頭がいっぱいになっていた。
「あー、いい湯だっ――」
 いつになく陽気に自室のドアを開けるや、月彦はぎょっと手を止めた。
「ぁ……父さま……」
「ま、真央……なんでそんな所に突っ立ってるんだ?」
 ドアを開けてすぐの所に、パジャマ姿の真央が立っていたのだ。月彦と同様湯上がりの為か、ほんのり顔が赤い。
「うん……父さまが上がるの、待ってたの……」
「そ、そうか……」
 じぃ、と濡れた目で何かを訴えかけてくる真央。言いしれぬ迫力を感じ、月彦は真央を避けるようにカニのような歩き方で迂回して部屋の中へと入る。月彦がベッドに腰を下ろして尚、真央は部屋の入り口に突っ立ち、右手だけで肩を抱くような仕草で突っ立ったままだ。
「そんなところに突っ立ってないで、座ったらどうだ?」
「……うん」
 促されるままに、真央は月彦の隣に座る。が、どこかよそよそしい。
「どうしたんだ? もしかして悩み事か?」
 尋ねても、真央は言葉を返さない。ただ、じいと、意味深な視線だけを送ってくる。それがいつものように“シてほしい”と訴えるような視線であれば月彦としても迷わず押し倒せるのだが、今夜のそれはどうも違う。なにやら妙な凄みというか、決意のようなものを感じるのだ。
「黙ってたら分からないぞ、真央?」
 笑顔混じりに手を伸ばし、抱き寄せようとする。が――
「ぁ、やっ……!」
 真央は過敏な反応で月彦の手を払いのけ、立ち上がってしまう。真央のそんな反応に月彦は少なからず面食らってしまったが、どうやらそれは真央も同様だった。
「ご、ごめんなさい、父さま……私、そんなつもりじゃ……」
「ああ、いや……気にするなって。そんな時も、ある――」
 自分が何を言っているのか月彦自身分からなかった。それほど真央に拒絶されたという事がショックだったのだ。
 こりゃあ今夜は諦めた方が良さそうだな――と、月彦は結論づけて就寝の準備を始めることにした。
「……もう、寝るの?」
 まるで確認をとるように尋ねてくる真央にああ、と気のない返事を返す。折角自分がその気になったのに拒絶されたということで、月彦はショックと同時に少しばかり拗ねていた。
 ごろりと横になった月彦と少し距離をおいて、真央も横になる。月彦は態と真央に背を向けるようにごろりと寝返りを打った。もし真央がその気なら、きっと背後からすり寄ってくるだろうと目論んだのだ。だが、結局月彦が寝入るまで、真央は何もしてこなかった。

 なんて事をしてしまったのだろう――真央の心は後悔で一杯だった。あろう事か月彦の手を払うなんて、自分で自分の行いが信じられなかった。
 思えば、散歩の時に続けて二度目だ。これでは月彦に愛想をつかされても仕方がないと思える。
 あれではまるで触れられるのを嫌がっているように思われてしまう。無論、事実はそうではない。散歩の時は体が火照っているのを悟られたくなかったから。そして先ほどのは焦れに焦れて過敏になった体に急に触れられて声を出しそうになってしまいそうだったからなのに。
 あの時の手は、どういう意図で出されたもの立ったのだろう。部屋の明かりが消され、月彦の寝息が聞こえてくる頃になっても、真央はそのことばかりを考えていた。
 自分に手を出すつもりで伸ばされたのであれば、これは賭に勝ったことになる。が、ただ何の気なしの仕草であれば負けたことになる。
 否、結果的に抱いてはもらえなかったのだから、やはり負けということなのだろうか。それならば、風呂場で立てた誓いの通り、家を出て行くのが筋なのか。
 そのことを真剣に考えて気持ちが暗くなる。父親と、月彦と離れての生活など、考えられないと改めて痛感する。
 上体を起こし、隣で寝ている月彦の顔に手を伸ばす。
「父さま……どうして……」
 あんな中途半端なものじゃなく、もっと強引に、それこそケダモノのように強引に迫って欲しい。自分が抵抗してもあらがえない程力強く、雄々しく抱きしめてほしい。そんな願いを込めながら、指先で月彦の唇をなぞる。
「ぅ……ん……」
 不意に月彦が呻いて、真央は慌てて指を引っ込めた。月彦はごろりと仰向けに寝返りをうち、また寝息を立て始めた。
 真央は引っ込めた指をそっと自分の唇に当て、そっとなぞった。それだけで、体がじんと火照り始める。
(父さま……)
 頭がぼうっとして、まるで中身がとろけてしまったかのように思考が働かない。真央は殆ど本能だけで、ベッドの上に四つんばいになると衣擦れの音を立てて月彦の側に寄った。
(父さま……好き……)
 吸い込まれるように、そっと唇を重ね、すぐに離す。月彦の寝顔に変化はない。またキスをして、すぐ離す。それを何度も繰り返す。
「んっ……ぁ……」
 だんだん唇を重ねるだけでは物足りなくなる。舌を出して、唇を舐めるようにしてキスをする。そのまま無理矢理唇をこじ開け、口腔内に舌を差し込む。月彦がうめき、逃れようとするかのように首をふりかけるも、真央は両手で首を固定して執拗にキスを続ける。
(ぁ……ぅ……だ、め……もう……止まらない…………)
 くちゅくちゅと互いの唾液を舌先でたっぷり混ぜ合わせた後、真央は上体を起こした。そのままのそりと月彦に馬乗りになり、両手を胸板の上につく。
「はっぁ…………父さま…………」
 既に下着を通り越し、パジャマまで濡れた股間をぐいぐいと寝間着用のハーフズボンに擦りつける。その感触に反応したのか、むくむくと自分の股間を押し上げるモノの感触に真央は甘い息を漏らす。
「はーっ……はーっ…………父さまぁ…………」
 ぐっ、ぐっ、と腰を擦りつけながら、両手で月彦の胸板をなで回す。焦れったそうな手つきで寝間着用のTシャツをまくしあげ、露わになった場所に片っ端から舌を這わせ、キスをする。シャツを脇の辺りまでまくし上げた後は、露わになった乳首を食むようにして吸い付き、なめ回した。噛んでしまおうか――と、不意にそんな考えが頭によぎるも、やめた。何となくそれは“あの母親”がやりたそうな事だと思ったからだ。
 代わりに、またキスをする。先ほどよりも荒々しく。はしたなく音を立てながらキスをしつつ、ぐいぐいと腰を擦りつける。
「んっ……んっ……っぷふっ、んっ……んっぅ……」
 まるで、今まで出来なかった分を取り戻そうとするかのように貪欲に。手が、自然に股間へと伸び、パジャマの下、下着の中へと潜り込む。
「はーっ…………はーっ…………んっ、ぁっ……ぁっ、ふ…………」
 唾液でびしょびしょになった口周りに頬ずりをしながら、人差し指と中指をゆっくりと埋めていく。
(これ、は……父さまの、ゆ、び…………)
 自分に言い聞かせながら、くちゅくちゅと愛撫を続ける。
「ぁっ、ぁぁあっぁっ……ぁっ、ふっ……んっ……」
 二本の指で辿々しく膣内をかき回すうち、自然と尻を持ち上げるような体勢になる。四つんばいに近い体勢での膣内の刺激に背後からされているものだと体が錯覚しているのだ。
「あっ、あっあっ、ぁっだ、め……そこっ、やっ…………ぁっぁ……ぁっ、うっ……!」
 月彦の胸板にパジャマごしに乳を擦りつけながら、一際甲高い声を上げる。“月彦の指”が真央の一番弱いところをしつこく刺激してきて、軽くイッてしまったのだ。
「はぁぁ……ぁふぅぅうう………………」
 微かな満足感。しかしそれもすぐさま耐え難い焦れにかき消される。所詮仮初めの絶頂。月彦に犯され、中出しされた時のそれにはほど遠い。
「父さま……起きて……」
 自らの愛液でどろどろになった指を引き抜き、月彦の唇に差し込む。
「起きて……真央を、犯して……お願い……」
 ケモノのように息を荒げながら、耳元で囁き続ける。指先で月彦の舌を摘んでは、起きろ、起きろと促し続ける。
 が、そこまでやっても月彦が起きるそぶりはない。真央は焦れる体を擦りつけながら、じぃと月彦の寝顔を見入る。ふいにごくりと、月彦が唾を飲むのを見た。
「父さま……どうして起きてくれないの……?」
 呟きながら、耳に舌を這わせる。だが月彦はすうすうと寝息を立てるままだ。
「だ、め……もう、我慢、できない…………」
 はあはあと息を荒げながら、真央はその手を月彦のハーフズボンにかける。そのままホックを引きちぎらんばかりの乱暴な手つきで脱がし、トランクスまで一気に下ろしてしまう。
 グン、と。たちまち巨塔がそそり立つ。先ほど真央が腰を擦りつけたせいか、それはもう十分臨戦態勢と呼んでよかった。
「はぁぁ……父さま、の…………熱、いぃ……」
 真央はうっとりとした表情で剛直に頬ずりをする。が、不意に何かが真央の頭を掴み、剛直から引きはがされた。
「真央……何をしてるんだ?」
 いつもの口調ではなかった。それは――まるで真央の妄想の中にだけ存在する月彦の冷徹な声そのものだった。

「ぁ……とう、さま……起きた、の……?」
 それこそ、悪事を咎められた子のような態度で真央は月彦を見た。月彦は如何にも寝ぼけ眼、そして寝ているところを無理矢理起こされて不機嫌といった顔つきをしていた。
「起きたの?も何もないだろう。真央こそ人が寝ているところを勝手に下着まで下ろして何をやっているんだ?」
「…………それ、は……」
 起きて、と言ったのは自分。だがいざ月彦が目を覚ますと、同時に真央の羞恥の心まで目を覚ましたのか、たちまち自分の行為が恥ずかしくなる。
「そうか、これは……夢だな?」
「ぇ……」
 疑問の言葉を紡ごうとする真央の胸を、ぐっ、と月彦の右手が掴む。
「いくら真央でも、人の寝込みを襲うほど変態なわけはないもんな。これは俺が勝手に見ている夢、そうだろ?」
「ぅ……」
 自分の行為をハッキリと“変態”と言われ、真央はますます恥ずかしくなる。……同時に、体が熱くなるのも感じる。
「夢だから、俺の好き勝手に……それこそ現実の真央には絶対できないような事をやってもいい……そういうことだな?」
 ぐいぐいとパジャマごしに胸を揉まれる。他人にされればただ痛いだけのそれが月彦にされているだけで、途方もない快楽に変わる。
「答えろ、真央」
「きゃぅううううっ!!」
 乱暴な口調。同時に乳首を抓られ、たまらず悲鳴を漏らしてしまう。が、やはり痛さよりも快楽が勝ってしまう。その証拠に抓られた瞬間、胸の先から稲妻のような快感が走って真央は軽くイッてしまった。
「ン……ぁ……これ、は……父さまの、夢………………で、す…………」
 月彦の剣幕に、知らず知らず敬語で答えてしまう。が、月彦は寝ぼけている為か特に気にとめたそぶりもなくそうか、と素っ気なく答えただけだった。
「夢の中ってことは、真央は何でも俺の言うことを聞いてくれるって事だよな?」
 問いかけながら、月彦は右手のみならず左手もパジャマの上から真央の乳首を掴み、くいくいと上下左右に引く。
 半ば悲鳴混じりに真央ははい、と辿々しく答える。同時に、じぃんと下半身が痺れるのを感じる。まさか、こんな形で“夢”が“現実”になるなんて思いも寄らなかった。怯えるような顔とは裏腹に、真央の心は喜びに満ちていた。
「舐めろ」
「えっ……」
「舐めろって言ってるんだ。そのために脱がしたんだろ?」
 月彦はベッドの端に腰掛けるようにして促してくる。そのあまりに普段とは違う物言いに真央は戸惑うも、悪い気はしない。否、むしろ嬉しさすら感じる。
 促されるままに屹立した剛直に唇をつけようとして、不意に髪を掴まれぐいと引き離された。真央が戸惑いの目で月彦を見ると、
「ちゃんと床に跪いて、だ」
 そのような事を言われる。あぁ……やっぱりいつもの父さまと違う――と、真央は言われるままに床に跪き、そして剛直に唇をつけた。股間から広がっているパジャマのシミが自分の体がいつもより興奮している事を明白に表していた。
「っ……いつもより下手くそだな、しばらくしない間に鈍ったんじゃないか?」
 明らかにやせ我慢と分かる口調で月彦は呟く。真央同様、月彦とて同じ時間禁欲してきたのだ。今の真央の状態をそっくり当てはめるまでもなく、ちょっとした刺激で限界を迎えてしまうことは想像に難くない。
 それは、真央にも分かる。分かるが――それでも普段の月彦からは決して聞くことの出来ない台詞に体が熱くなる。興奮してしまう。何より、乱暴な口調とは裏腹に真央が口戯をしやすいようにきちんと長い髪を抑えてくれているのがまた嬉しかった。至極、いつもより些か執拗克つ熱のこもったしゃぶり方になってしまう。
「っ……おっ、あっ……ま、真央っ……ちょっ、待ちっっ…………!」
 ぐぷぐぷと音がするほど激しい口戯を受け、たちまち月彦の方が引け腰になってしまう。真央の頭を掴む手に力がこもり、それとなく引きはがそうとしてくる。が、今度は真央が譲らない。禁欲の果てにやっとむしゃぶりついた“ご褒美”なのだ。そうそう容易く離してなるものかとばかりに執拗に食らいつき、たっぷりと味わう。
「っっい……っくっ……そ……こんなっっ…………っあッ!!!」
 引きはがそうとしていた手が、今後は逆に喉奥に押し込むように力が込められてる。ふぐっ――と真央は呻きながら、眉を寄せて喉奥を貫かれる苦痛に耐えた。
 否、苦痛と感じる暇もない。どくんっ、と口腔に含んだ剛直が震えた次の瞬間には、牝としての至福が待ち受けているからだ。即ち、牡の精を受け止める瞬間が――。
「んんふぅぅう…………」
 剛直を銜えさせられたまま、どくどくと喉奥を汚される感触に真央はうっとりと目を細める。ごくんっ、と喉を鳴らすたびに熱いものが胸の奥を通っていく。じぃん……とまた下半身が痺れる。早く、早く欲しい――と言わんばかりに。
 白濁の量はいつもの倍近く、剛直を引き抜かれる際と引き抜かれた後にもどくりとはき出され、真央の口腔と顔を汚した。
「んっ……」
 口腔に出された分はすぐには飲み込まず、唾液と絡めてしばし味わう。苦みの走る、お世辞にも美味しいとは言えない――そもそも飲むためのものではない――が、禁欲の果てにすっかり発情しきった体の火照りはそれでしか静まらない。無論、口に出されたそれでは僅かばかりの慰みにしかならないが。
 顔を汚した白濁は、あえて拭わずにそのままにする。まるで、これは“自分が月彦のモノ”だという証だとでもいうように。月彦もまた真央のそんな様を満足げに見下ろす。
「随分嬉しそうだな、真央?」
 きっと月彦の目にはそう映っているのだろう。事実、真央は至福だった。夢に思い描いたものがそのまま現実になったのだから。しかし、まだ全てではない。
「すぐにでも挿れて欲しいって顔だな」
 思わず頷いてしまいそうなほど、月彦の言葉は的を射ていた。事実、欲しい。欲しくてたまらない。このまま月彦に飛びかかって、馬乗りになってしまいたい衝動を抑えるのに真央は必死だった。
「俺の方はとりあえずスッキリしたから、このまま終わりにしてもいいんだけどな」
「……っ……」
 余程ショックな顔をしたのだろう、月彦がにやりと意地悪な笑みをする。
「冗談だ」
 そう言って、床に跪いたままの真央の腕を引き、抱き寄せる。
「一週間もシてなかったんだ。あれくらいで収まる筈ないだろ?」
 膝の上に真央を座らせるようにしながら、真央の手をとり、自分の強ばりを触らせる。それは相変わらず隆々とそそり立ち、先ほどよりも熱を帯びていた。
「……真央は、どうされたいんだ?」
「ど、う……って……」
 もう真央の手から月彦の手は離れている。にも関わらず、真央の手は強ばりに触れたままだ。愛しげに、物欲しげに、剛直をなで続ける。
「さっき言ってただろ。もう一度言ってみろ」
「……っ……」
 顔が赤くなる。自分が何を言ったか、無論覚えている。ただ、素面で言えるような事ではない。
「遠慮することはないんだぞ、なんせ“夢の中”なんだから」
 “夢の中”――真央自身、ひょっとしてそうなのではないかと思ってしまう。今宵の月彦は、あまりにも真央の望みを叶えすぎる。
「父、さま……に……犯して、欲しい………………」
 気がつくと、真央は己の願望を口走っていた。言い終わった後でかあと一際顔が赤くなる。
「それはつまり、いつも通りってことか?」
 確かに、普段から――余り認めたくはないが――犯して欲しい、と囁いたことはある。が、今宵のそれは意味が違う。
「もっと……乱暴に……レイプ、する……みたいに…………」
 蚊の鳴くような声で付け加える。言った後で襲ってくるのは激しい羞恥と自己嫌悪。一体何処の世界に、最愛の男相手に「レイプして欲しい」と懇願する者が居るだろうか。恥ずかしさのあまり真央は涙まで出しそうになった。
「乱暴、か……それは俺の趣味じゃあないな」
 違う、暴力とかそういう事じゃない――と真央は言いたかったが、最早限界だった。これ以上自分の願望を伝えるのはたとえ“夢の中”とはいえ不可能な事だった。
 月彦はしばし思案をするように真央を抱いたまま、珍しく露わになっている尻尾をなで続ける。そして不意に――
「真央、服を脱げ」
「え……」
「早くしろ」
 “命令”する。その冷徹な口調に真央は大きな耳をぴくぴくと揺らして、おずおずと立ち上がる。そして月彦の目の前でゆっくりと脱衣を始める。初めは上のパジャマから。妙に緊張してしまい、指先が震えてボタン一つ外すのにも手間取ってしまう。
 ボタンを一つ外すたびに、窮屈だった胸元が解放されるのを感じる。ブラをつけていないのはいつものこと。無論、月彦が触れやすい様、触れられたときに感じやすい様に、だ。
(父さま、見てる……)
 ボタンを外し終え、隙間から僅かに覗く胸元に月彦の視線が釘付けになっているのを感じる。見られてる――そう思うだけで呼吸が荒くなる。じぃんと、下半身が痺れる。
 学校に行くまでは、さして気にもとめなかった自分の胸。だが、他の女の子達と触れあうようになってからは否が応にも自分のものの大きさを意識してしまう。それは同年代――正確には違うが――の女子らに比べて些か非常識と言ってもいいくらいに育っていた。
 だがそれでも、あの母親のそれには到底及ばない。月彦以外の男子らにじろじろとサカッた目でみられるのは正直恥ずかしいが、それでも月彦の寵愛を独り占めできるのならば、母親と同じくらいの胸が欲しいと真央は思う。
 だが、今は――少なくとも今だけはそのコンプレックスから解放されている。半ば血走った月彦の目は早く脱いで全てを見せろといわんばかりに胸元を凝視している。今この瞬間だけは、月彦を独り占めしていると思える。貴重なその瞬間を惜しみながらも、真央はゆっくりとパジャマを脱いでいく。
 白い乳房が露出する。つんっ、と先端は痛いほどに尖ったままだ。出来れば今すぐ月彦に触れて欲しかったが、当の月彦は真央が全てを脱ぎ終えるまでは事を進める気はないようだった。
 パジャマのズボンに手をかける。まるで漏らしてしまったかのようにシミが広がってしまっている。あぁ、自分がこんなに濡れてしまっているのも、全て見られてるんだ――そう思い、また顔が赤くなる。
 辿々しくズボンを下げ、足を交互に抜く。残るは下着だけ。真央はそこであえて手を止め、まるでもう作業を終えたというような目で月彦を見る。
「まだだ。全部脱げ」
「…………んっ……」
 ぶるっ、と体が震える。その一言を言って欲しかった。下着まできちんと脱げ、と。期待通りの言葉に真央は満足しながら、しかしあくまで嫌々脱ぐようなそぶりで、ゆっくりとショーツから足を抜く。
「……殆ど何もしてないのにこんなに濡らしてたのか。真央には下着は要らないんじゃないのか?」
「っ……や、だ……父さま、そんなこと、言わない、で………………」
「隠すな、ちゃんと見せろ」
「……ぅ……」
 見られる羞恥から、つい両手で隠してしまったのを咎められ、真央は己の前から手をどける。じいと自分の裸体を凝視する月彦の目に耐えられず、真央は目をつむって顔を背けてしまう。
(父さまが……私の裸を……見て、る……)
 呼吸が荒いのは相変わらず。ただでさえ大きな胸は呼吸の度に大げさに揺れる。秘部からはもう、どうしようもないほどに溢れさせてしまったものが太股まで達していた。
 全て、見られている。そう意識するだけで真央は危うくイきそうになる。それほどに、興奮していた。
「……触ってもいないのに、溢れっぱなしだな。全く……」
 月彦の呆れるような声に、真央はさらに顔を赤くする。確かに、呆れられても仕方がない――と思う。だが、自分ではどうにもならないのだ。
 ただ、側にいるだけで。見られるだけで。声をかけてもらえるだけで、体が熱くなってしまう。――それほど、好きになってしまったのだから。離れられないようにされてしまったのだから。
「ま、仕方ないか。真央がこんなにいやらしくなっちまったのも“親の責任”だ」
 そう言うものの、まるで大部分は自分ではなく真狐のせいだと思っているような口調。それは決して違う、と真央は思ったが、口には出さなかった。出す前に、真央が今一番聞きたかった言葉を月彦が口にしたからだ。
「来い、真央。――可愛がってやる」

「ぁっ、ぁっ……んっ……ぁっ……あぁっ、ぁっ…………!」
 乳を揉みこねられ、真央は甘い声を漏らす。大分抑えてはいる、がそれでも過剰なまでに反応してしまう。
 ベッドの上に呼ばれてすぐ犯されるものだとばかり真央は思っていた。しかしその期待は――ある意味良い方向に裏切られた。
 いつになく執拗な愛撫。まるで月彦自身、真央の体に飢えていたといわんばかりに。
 抱きすくめられながらのキス。真央は必死に堪えたが、それでもたまらず軽くイッてしまった。自分でも驚くほどの多感ぶりに、真央もまた己の体がどれほど愛撫に飢えていたのかを思い知った。
 月彦の腕の中でたっぷりとキスをされたあとは、大きな胸をもみくちゃにされた。先端を摘まれ、指で弾かれたかと思えば力任せに粘土でもこねるように揉まれ、真央はたまらず仰け反り、声を上げてイッた。
 無論真央がイッたからといって月彦の愛撫が止まるわけではない。尖った胸の先端を執拗に吸われ、舌でねぶられ、またイきそうになったところで不意に愛撫を止められ焦らされたりもした。
 体中をなで回され、キスをされ、嘗め回された。何処を触れられても心地よく、そしてその後には倍々的に焦れが襲ってきた。もっと強い刺激が欲しいという欲求がどんどん強くなるのを感じた。
「真央、足を開け」
 仰向けになり、されるがままになっていた真央に不意に言葉があびせられる。最早思考も怪しい頭でかろうじて言葉の意味を理解し、真央はおずおずと足を開いた。そこにずいと月彦が体を割り込ませる。
 あぁ……ついにと思ったのは早計だった。ぐっと太股の辺りに抱え込まれるような感触。それから始まることを連想して、真央は頬を上気させた。
「やっ……父さま、それ、駄っっ……ぁぁぁぁぁぁあっ……!!!」
 下半身から全身を貫く快感に真央は身をくねらせ、声を上げてしまう。最も敏感な部位を舐められる――普段はあまりされないその行為に真央は戸惑いを感じる。
 初めて――というわけではない。が、それでも指での愛撫に比べて回数が圧倒的に少ないのは確か。理由は月彦が避けたからではない、真央がそれとなく避けていたからだ。
「あっ、あっ、あっ、あっ……あぁぁぁぁぁぁ…………やぁぁぁ……だ、め……父さま、……舐め、ないでぇ………………あっ、あっ、あっ…………!」
 真央は顔を真っ赤にして、泣きそうな声で懇願する。嫌なわけではない。ただ、途方もなく恥ずかしかった。
 月彦の舌が動くたびに聞こえる、ぴちゃぴちゃという音が。
 月彦が蜜を啜るたびに聞こえる、じゅるじゅるという音が。
 自分がどれほど濡れ、溢れさせてしまっているかを否が応にも自覚させられる。そしてそれを、月彦にも知られている痛感する。
「あぁっ、あっぁっ……やっ……お、と……立てない、で…………ぁっ、あぁっあっ……!」
 当然のように懇願は聞き入れられない。それどころか尚更音を立ててじゅぱじゅぱと吸われる。あぁぁ……と声を漏らしながら、とうとう真央は両手で顔を覆ってしまった。
「あっぁっ、……あうゥッ!!!!」
 不意に舌の感触が消え、やっとやめてくれたのかと気を許した途端、ぴんぴんに勃起した陰核を唇で吸われ、真央は危うく意識を失いそうになった。びくんと腰がバネ仕掛けのように撥ねさせながら、またしても容易くイかされてしまった事を痛感する。
「はーっ……はーっ……はーっ……………………」
 まだ、一度も挿れられてはいないのに、真央はもうくたくただった。キスや愛撫だけで何度もイかされ、意識は白濁として四肢の自由も怪しかった。
 だが、それほどまでにイかされても、まだ満足にはほど遠い。体の火照りは収まらない。
「……真央、四つんばいになれ」
 天啓のような言葉だった。白々濁々とした真央の意識の中に清流のように流れ込み、疲れ切った全身に活力を吹き込む。
 真央は言われるままに体を起こし、四つんばいになると月彦の方に差し出すように尻を向けた。尻尾を高く上げて“どうぞ、好きに使ってください”とばかりに。
 まずは、尻に両手が添えられる。そのままぐにぐにと尻肉を捏ねるように力がこもり、ぐいと親指で秘裂が開かれる。
「……んっ!」
 恥ずかしい。恥ずかしくてたまらない。奥の奥まで覗き込まれる感覚に、顔から火が出そうになる。
 四つんばいになれ、と言われた後は大抵こうして尻を揉まれ、秘裂を割り開かれ、奥まで覗き込まれる。まるで真央の焦れ具合をチェックするかのように、念入りに。
「……ぅ、ぁ……」
 ひくひくと痙攣しているのが、自分でも分かる。月彦の目の前で、じっとりと濡れさせ、溢れさせているのが分かる。真央はベッドシーツを握りしめ、剛直で貫かれる瞬間を今か今かと待ち続けた。
「……なんか、ありきたりだな」
 ぼそりと、月彦が呟いた。
「このままシたらいつも通りだ。それはそれで悪くはないが、良くもない」
 真央には月彦が何を言っているのか分からなかった。
「……久しぶりに、こっちを使ってみるか」
 熱い固まりが秘裂とは違う場所に押しつけられるのを感じて、真央はハッと息を飲んだ。
「と、父さま……そっち、は……」
「うん、真央は嫌か? こっちでするのは」
 およそ月彦にされることで嫌なことなどあるはずがない。が、それでも矢張り尻を犯されるというのには些か抵抗がある。
 無論今回が初めてというわけではない。気持ちよくないわけでもない。が、それでも今日は……少なくとも今この瞬間は一刻も早く秘裂を貫かれ、熱く濃い牡液をたっぷりと注いで欲しかった。
 だから、真央は――嫌かという問いに素直に首を縦に振った。だが――。
「そうか。……でも、ここは夢の中だから、俺の好きにしていいんだろ?」
 残酷な言葉。不意になにかが秘裂に浅く進入した。剛直ではない、月彦の指だった。それはすぐに秘裂から離れ、つぷりと、尻穴に進入した。
「んぅ……!」
 慣れぬ感触に、思わず声を漏らす。月彦の指はまるでそこをほぐすように、ぬっ、ぬっ……と前後する。
「ぁっ……ぁっ……と、さま……そっち、は……だ、め……ぁっ、ぁっ…………」
 駄目、と言いつつも呼吸が荒ぶる。指とはいえ背後から貫かれ、出し入れされているその感触に否が応にも興奮させられる。
 真央の懇願の一切は聞き入れられず、月彦はほぼ無言で――時折くすりと笑みを零しながら――丹念に真央の尻穴を愛撫する。次第に指の数が増え、大胆に出し入れされ始める。
「あっうっ、ぅっ……だ、めっ……父さま、普通、に……いつも、みたい、に……あっ、ぁっ……んっ、あっ……!」
「“普通にいつもみたいに?”…………さっきと言っていることが違うぞ、真央」
「だっ……って……んんッ!」
 挿入された指を内部で折り曲げられ、些か乱暴に引き抜かれる。
「そうか……真央は無理矢理犯されたいんだったな。だからそんな駄々を捏ねてるのか」
「そ、それ、は……でも――んふっ……!」
 指をしゃぶらされ、反論は強引に封じられる。
「悪いな……真央が嫌がるのを見てたら…………腕ずくでもこっちを犯したくなった」
「…………っっ!」
 月彦の言葉に、思わずイきそうになる。真央が嫌がる方を犯す――これではまるで妄想の中の月彦と同じではないか。
「そろそろ大丈夫だろう。……真央、挿れるぞ」
 剛直をたっぷりと秘裂に擦りつけ、溢れる蜜を潤滑油代わりにして尻穴への挿入が開始される。
「んっ、っく……あ、ぁっ……だ、め……父さま、そん、な……大きいの、入らなっ……」
「何言ってんだ。前に何度かしてるだろ?」
 月彦は片手で真央の尻を押さえつけながら、片手を剛直に沿え、ぐいぐいと押し込んでくる。
「だっ……って……い、いつも、より……大きっ……あっ!」
「いつもと変わらないぞ。……大きく感じるのは……しばらくしてなかったからだろ」
 ぐっ、ぐっ、と異物が自分の中に進入してくるのが分かる。膣に挿れられるのとは明らかに違う感触。不慣れな圧迫感。だが――それも相手が月彦であれば。
「くはっ……ぁっ………………!」
 月彦が体重をかけて挿入してくる為、至極真央はベッドに押しつぶされるような形になる。
「真央、ちゃんと四つんばいになれ」
「だ、だって……」
「……口答えするのか?」
「……ぅ」
 冷徹な声に心ときめかせながらも、表にはそれを出さずに言われた通りに足を立てる。その後で、再び挿入が再開される。
「うううぅぅっ……!」
「ふ、ぅ……やっと入ったな。でも、すぐに動くのは無理、か」
「はあっ、う……だ、め……父さま、苦し……抜い、て…………」
 実際はそれほど苦しいわけではない。が、真央はあえてそう言った。
「駄目だ」
 が、真央の提案はにべもなく否定された。ゾクリと、背筋に快感が走る。
「お、お願い……父さま……普通に、いつもみたいに、して……?」
「……まだ言うか」
 ぴしっ、と平手で軽く尻を叩かれる。痕も残らぬほど軽く叩かれただけなのに、真央はきゃんと悲鳴を上げてしまった。痛かったからではない。“夢でのシナリオ”にない行為に思わず軽くイきそうになったからだ。
 もっと嫌がったら、反抗したらどうなるだろう。何をされるだろう――そのことを考えるだけで身震いする。
「お、お尻で、なんて……嫌、なの……お尻に挿れられて、感じる、なんて……そんな、変態、みたいな……コト……」
「五月蠅い口だな。……そんなに塞いで欲しいのか?」
 月彦は機嫌が悪そうな声を出し、側に堕ちていた真央の下着を拾うと乱暴な仕草で真央の口に詰め込んできた。
「んんんンッ!」
「はき出すなよ。……はき出したら終わりにするからな」
「んン……」
 はき出したら終わり――その言葉を聞くや、真央は反射的にショーツを口に含んだまま唇を閉じた。先ほどまで着用していた自分の下着、それもいやというほど濡れてむせかえるほどの発情臭を放つそれを咥えさせられるというその行為。月彦以外にはたとえどんなに強要されても是としない屈辱的な行為だが、それすらこの場では興奮の材料にしかならない。
「動く、ぞ……」
 月彦の言葉と同時に、抽送が始まる。ぐっ、ぐっ……と熱い固まりに尻穴が犯される。
「ンふゥ……ンッ、んっ……んくっ……!」
 犯されているのは尻穴であり、膣ではない。が、それでも錯覚してしまう。興奮を覚えてしまう。溢れ、滴る蜜がベッドを汚すのが見えてしまう。
 月彦の動きは徐々に荒々しく、大胆になる。最初こそ真央への気遣いが見てとれたそれも徐々に欲望剥き出し。己の快楽を追求する為だけの動きになる。
 だが、真央はそれでも満足だった。自分の体を使って、月彦がそれで気持ちよくなってくれるのであれば。月彦が気持ちいいと思うことが、同様に自分にも快感をもたらしてくれる。
「ンッ……ンふっ……んっ!!!」
 剛直が激しく出入りし、深く、奥まで貫かれる。だが、それでももどかしい。膣を貫かれた時のような、あの奥を小突かれる感触が無いからだ。
 貫かれる反動で、巨乳がたぷたぷと揺れる。それが目障りだとでもいわんばかりに月彦が被さり、両胸をこね回される。
「んんんんぅぅうううううっ!!!」
 被さられている間は一際深く剛直が突き刺さり、息苦しさと同時に頭の芯が痺れそうになる。
「はあ、ふう……いい、ぞ……真央。良く、締まる……これからは、ちょくちょく……こっちでもシてやるからな」
「ンふっ……ぅ……」
 真央の切なげな声を是ととったのか非ととったのか。月彦は息を荒げながら腰の動きを早める。尻穴を犯されながら、真央もまたくぐもったような声で噎び続ける。
「はあっ……はあっ……出す、ぞ……真央…………」
 態と耳元で囁いてから、月彦がスパートをかける。ズルい、と真央は思う。そんなことを宣言されたら、それだけでイッてしまいそうになるからだ。
「ンッ、ンッ、ンッふ……ンふっ……ンッ、ンッ、ンッンぅうううううッ!!!!」
 ぐっ、と一際深く剛直がねじ込まれると同時に熱い奔流が体内に注ぎ込まれ、イかされる。どくんっ、どくんと剛直が震えるのが尻穴の感触から否が応にも知覚させられる。
「ンっ……ふ、ぅぅぅうう…………」
 いつもの倍近い射精時間。絶頂の余韻に浸りながら真央はくたぁと脱力する。が、やはり違うと感じる。これではまだ、満足できない――。
「……よく我慢したな、真央。……もう出していいぞ」
 先ほどまでとは酷く変わった優しい声。月彦の指が口腔内に差し込まれ、唾液に濡れた下着が引き抜かれる。優しい声をかけられ、嬉しさと同時に少しばかり真央は残念に思う。出来ればこのまま、下着を銜えさせられたまま有無を言わさず前も無理矢理犯して欲しかった――が、それはさすがに高望みだと判断した。
「……真央、もしかして……本当に後ろでされるの、嫌だったのか?」
 些かばつが悪そうに、月彦がそんな事を聞いてくる。さすがに自分でやりすぎだと思ったのか――真央としては少し物足りないくらいだったが――まるで機嫌を伺うように。
「……い、嫌じゃ……ない、よ」
 そんな月彦の仕草にこれまたどきんと胸を高鳴らせながら、真央は赤い顔でそう返す。
「と、父さまがシたい事なら……私は、どんな事でも………………」
「そ、そうか……。そうだよな、“夢の中”だもんな」
 違う、夢の中だけの事じゃない――と、真央は否定したかった。
「あの、ね……父さま?」
「ん、なんだ?」
「……もっと、我が儘でも……いい、よ?」
 これが真央に言える精一杯の言葉だった。
「我が儘でもいい、って……」
「父さまが……母さまにする時みたいな、い、意地悪な事を……私に、しても……いい、よ……?」
 さすがに、月彦に命令口調でいやらしい事を強要されるといつもより興奮してしまう――とまでは言えず、そんな遠回しな言い方しか出来ない。
「よくわからんが……真央がそうして欲しいなら、努力……する、かな」
 戸惑うような、腑に落ちないような答え。あぁ、自分が言いたいことは半分も伝わってないなと真央は少しばかり落胆する。
「じゃあ、早速……我が儘を言わせてもらうかな」
 依然衰えぬ剛直で真央の尻穴を貫いたまま、ぼそりと真央の狐耳に囁きかける。
「次は、真央と“普通に、いつもみたいに”ヤりたい。いいか?」
「……うん、私も……父さまと、したい………………」
 期待に胸を高鳴らせ、真央はこくりと頷いた。

 仰向けに寝て、自ら足を開く。欲しくて欲しくてたまらない――自身のそんな様を恥じるようにぎゅうと肩を抱き、そのせいで巨乳がより強調される。それを見た月彦が、一体どのような気分になるのかまでは、もう真央は頭が回らない。
「父さま……早く、来て……」
 自ら誘いの言葉を呟きながら、真央は焦れったそうに指を伸ばし、自ら秘裂を割り開き、見せつける。恥ずかしくないわけではない。それ以上に欲しくてたまらないだけだった。
「分かってる。……俺もずっと、真央としたくて堪らなかったんだ」
 あぁ……と、あまりの嬉しさに涙が出そうになる。ゆっくりと、しかし確実に月彦が被さってくる。
「ぁん……」
 剛直の先端が秘裂に触れた。たったそれだけで、声が出てしまう。
「真央、行く……ぞ……」
「んっ……!」
 両手をしっかりと月彦の背に回し、しがみつく。ぐっ、と下半身に圧力を感じる。
「あっ、あっ、あっ……!」
 堅くて熱い、巨大なモノが体の中に入ってくる。
「あっ、あっ、あうっ……あうっ……!」
 月彦の背に爪を立てながら、悲痛な声で悶える。すっかり慣れ、体になじんだ感触の筈が、久方ぶりのせいか酷く新鮮に感じる。
 それこそ、初めて月彦に抱かれた時のように。焦らされすぎた肉壁は剛直を擦りつけられる都度、気が遠くなるほどの快感を真央に与えてくる。
「あっ、あっ、あっ……あっっ……ンッ!!!!」
 つん、と最奥を小突かれ、背を反らせて軽くイッてしまう。反射的にぎゅうと剛直をしめつけてしまい、月彦がくっと眉を寄せる。
「くはぁぁ……後ろもいいけど、やっぱり、こっちの、方、が…………」
 ふうふうと鼻息荒く、月彦は早くも腰を使い始める。
「あっ、あっ、あっ……あんっ、あっ……あんっ、ぁっ、ぁっ……ッ……!」
 小刻みに出入りする剛直のテンポに合わせて、真央は声を上げる。たぷたぷと反動で揺れる巨乳がこれまた目障りだとばかりに、月彦に掴まれ、ぎゅうと搾るように揉まれる。
「はぁぁぁっぁぁっ……ぁぁぁあン……あんっ……!」
 乳を掴む手の圧力に呼応するようにぎゅうううううっ、と剛直を締め付ける。くっ、と月彦が微かに呻くのが、真央には嬉しかった。それは自分の体で、月彦が感じてくれている証拠なのだから。
「あぁっぁ……父さまっ……あんっ、……もっと、強く、ぅ……ンぅっ……あっ、……あっあっ、あっ、あっ……!」
 月彦の首に両手を絡めながら、ねだる。月彦は返事を返すかわりに、ずんっ、ずんと杭でも打ち込むように腰を使い始める。
「あッ! あッ!……あッ……父さまっ……あんっ!……あっ、あっ……あぁぁぁっぁっ、んっ、あっ……ふ、ぁ……ぁ……いいっ……そこ、いい、のっ……あんっ……!」
 焦れったそうに上半身をくねらせながら、真央は悶える。はあはあと息を荒げ、濡れた目で月彦を見上げながら、もっと、もっとと愛撫をねだる。
「っ……真央っ……の、中……ヤバいくらいに……いい、ぞ……ッ……」
 余裕の無い笑みを浮かべるや、被さるようにして真央を抱きしめる。抱きしめながら、腰だけの動きでずんっ、と奥を小突いてくる。
「あんっ……!……やっ……とう、さま……それ、やっ……あんッ!」
 ぎゅうと抱きしめられたまま、奥を小突かれる。それはいわば、真央の弱点の一つだった。
「だめっ……だめ……とう、さま……それ、されたら……わ、たし……すぐ……――んくっっ!!!」
 背中に回った手が、後頭部へと周り、キスをされる。口を塞がれたまま、ずんっ、ずんと何度も突き上げられる。
「んんっ! んっ、んっ、ンッ……んっ! んンーーーーーーーッ!!!!!!」
 全身が痺れるような快感と共に、たちまちイかされる。月彦の腕の中で、びくんっ、びくんと痙攣したかのように体を震わせ、剛直を強烈に締め付ける。
「くっ……!」
 あまりの締め付けに月彦の方もイきそうになったのか、せっぱ詰まった表情がそれを物語っていた。真央に余裕があれば、自ら腰を動かして中出しをねだることも出来たのだろうが、そこまで頭が回る状態ではなかった。
「んはぁ……ぁ…………と、さま……それ、だめ……なの…………」
「だめ? 一体何が駄目なんだ?」
 真央の髪を撫でながら、優しい口調で問う。
「だ、抱きしめられたり……キスされたりしながら……奥、突かれる、と……すぐ、イッちゃうの…………だから、父さま……それだけはやめて……ね?」
「……ついでに、胸を触りながらも……駄目なんだろ?」
 一転して意地悪い声で囁き、両手で真央の双乳をぎゅうと掴む。同時にずんっ、と突き上げられ、真央はたまらず悲鳴を漏らした。
「あっあぁぁぁあっぁっ……やっ、ぁ……む、ね……そんなに、されて……突かれ、たら……ひうっ!」
「くす……本当にすぐイくんだな……じゃあこういうのはどうだ?」
「ひっ、あ――」
 狐耳の中にぬるりと舌が入り込んでくる。敏感な内側を嘗め回されながら、ぐりぐりと剛直の先端がえぐるように最奥に擦りつけられる。
「あっ、あうううううううううッ!!!!!!!!!!」
 びくんっ、びくっ。両足が不自然に撥ね、体が勝手にのけぞる。甲高い悲鳴を上げながら、真央は何度も、何度も連続でイかされる。
「ん…ちゅ…真央は、本当に可愛いな……ちゅっ………真狐とは大違いだ」
 耳の内側にキスをしながら、また涙が出そうなことを呟いてくる。そんなことを言われたら、ただでさえ感じやすい体がますます敏感になってしまう。
「あっ、あっあっ……あうっあっ……あっ、はぁああっあんっ! あっ、あっ……ま、た……む、ね……あんっ!」
 耳を舐められながら、さらに乳までこねられる。同時にぐりぐりと剛直を押しつけられ、はしたなく何度も声を上げてしまう。
 愛でられている――と、痛感する。間違いなく、あの母親よりも、自分の方が月彦に好かれている。愛されていると。
「はーっ……はーっ……とう、さまぁ…………わた、し……も、だめ………………欲しい……欲しい、の……父さま……」
 息も絶え絶えに呟く。限界、だった。これ以上愛撫を続けられたら、中出しを焦らされたら、それこそ正気を失してしまいそうだった。
「そんなに、中に出してほしいのか?」
 ぐりんっ、ぐりんと膣内をえぐるように剛直を動かしながら、そんなことを問うてくる。
「欲しいの……欲しくて堪らないの……お願い……」
「分かった。……真央は本当に、中に出されるのが好きなんだな……」
 苦笑混じりの言葉。剛直の動きがいっそう荒々しいものになる。あぁ、いよいよだと――真央ははしたなく喘ぎながら、その瞬間を待ちわびる。
「あぁぁ……父さまっ……父さまっ……父さまっ、父さまっぁッ!!」
 ぐっ、と一際奥まで剛直をねじ込まれた瞬間、真央もまた自分から月彦に身を寄せ、しがみついた。
「ああああぁぁぁぁぁっあぁっあっあぁァーーーーーッッ!!!!!」
 声を上げずにはいられなかった。膣奥ではじけた熱い奔流はたちまちその許容量を超えて結合部から溢れ出す。それでも尚、どくり、どくりと何度もしつこく膣奥を汚される。
「あっ、あっ、あっ、あっ…………!!」
 白濁の熱いうねりにばかり意識がいって最早何も考えられない。この瞬間をどれほど待ちわびたか。牝としての至福の瞬間に真央は打ち震え、長い渇望が漸く満たされていくのを感じた。
「はあ……はあ…………っ……我ながら、ずいぶんと、溜まってたモンだ……」
 射精が終わるのが待てないとばかりに月彦が早くも腰を前後させ始める。精液でいっぱいになった膣内からはその都度、ごぽごぽと白濁汁が漏れだしてくる。
「ぁ、やっ……んぅ……!」
 反射的にもったいない、と感じるが、四肢の力が完全に抜けてしまって何も出来ない。それに、白濁汁をこれでもかと秘部に塗りつけられるその行為を受け入れるのは、真央としても至福の瞬間の一つだった。
 これはマーキングだと、真央は思っている。先ほど顔に白濁汁を塗りつけられたのと同様、秘部に中出しされ、剛直で塗りつけられるのは牡に“お前は俺のモノだ”とというマーキングを施される行為なのだと。そして真央は、そのマーキング行為をされるのが何より嬉しくてたまらなかった。
「だめ、だ……まだ、物足りねぇ……」
 ふうふうと息を荒げながら、些か暴力的な言葉遣いで月彦が呟く。剛直は依然萎えてはいない。
(父さま……まだ、するつもりなんだ…………)
 そう思うと、すっかり満ち足りた筈の心が途端に物足りなくなる。もっともっと中出しして、身も心も奪って欲しいと思ってしまう。
「きゃっ……あ、あんっ……!」
 不意に体を抱きかかえられ、そのまま尻を掴まれて立てに揺さぶられる。
「やっ……とう、さま……少し、休ませ……んんんんンッ!!!!!」
 キスで口を塞がれ、ごちゅごちゅと奥を小突かれる。先ほど中出しされて盛大にイッたばかりだというのに、またイきそうになる。
「んはっ……はあっ、はあ……真央……真央っ……!」
 自分の名を呟きながら、遮二無二求めてくる――月彦のそんな様がどうしようもなく愛しい。月彦が求めるなら、いくらでも応じてあげたくなる。
「あぁぁんっ……父さま……好き、……大好きっ……あんっ……!」
 呟きながら、真央のほうからも腰を振る。自ら唇を重ね、快感を高め合う。ばちゅん、ばちゅんと音を立てながら何処までも淫らに、はしたなく。
「あンッ……やっ、父さま、尻尾、は……んんんんッ!!!!」
 尻尾を握られたままキス。挙げ句にたっぷりと奥を小突かれ、真央はあっさりとイかされてしまう。
「はあ、ふう……真央がイくとき……キュウって締まって……凄ぇ……気持ち、いい…………」
 どうやら月彦はすっかり味をしめたようで、何度も何度も真央をイかせ、その都度膣内をたっぷりと突き上げてくる。
「あっ、あっ、あっ……ンッ……あっ! やっうっ! そん、な、に……何回、もイかされ、たら……私、壊れ、ちゃう……あんっ! あっ、あっあっあっ、あんっ!」
「そっか、残念、だな……真央がイくときの顔も、凄く可愛くて……好きなんだけどな……」
「……………とう、さま……ズル、い……」
 イく時の顔が可愛い――そんな事を言われては恥ずかしくてたまらない。でも、同時に……可愛いと思ってもらえるのなら、もっと見て欲しいとも思ってしまう。女心は複雑だった。
「俺は本当の事を言ってるだけだ、ぞ……!」
「あ、やっ……あぁあぁぁぁぁっぁああッッ!!!!」
 ぐぐっ、と腰を押しつけられ、またぐりぐりと奥をえぐられる。たまらず、真央は声を上げる。
「はぁんっ……あぁんっ、んっ、あっあっ、だ、めっ……ま、た……イッちゃう……!」
「いいぞ、イッても……その代わり……ちゃんと……こっちを向いて……イく顔をみせながら、な」
「そん、な……恥ず、かしい………………」
「何言ってんだ、さっきから何度も見せてるだろ?」
「っっっ…………で、も……あうッ!」
「真央が可愛くイくところが見れたら……また中出ししてやれそうなんだけどな」
「……ぅぅ………………」
 そんなことを言われたら、例えどんなに恥ずかしいことでもやりたくなってしまう。真央にとって中出しとはそれほどのご褒美なのだ。
「真央がイく時の顔は可愛いし、好きだけど……何より、俺も凄く……興奮するんだ」
「わ、私、も……あんっ!」
 真央の言葉は一際強く奥を小突かれて一端とぎれてしまう。
「わ、私、も…ンッ…父さまに、中出し、されると……あんっ!……凄く、興奮……して……イッちゃう、のっ……ぅン!」
「……さすが親子、って所か。………………真央、そろそろ――」
 こくん、と真央は頷く。きゅっと月彦にしがみつき、その瞬間に備える。
「ンっっ!……やっ、父さま、また、尻尾……んんんっっ!!!」
 てっきりそのまま中出しされると思ったのは早計だった。月彦は確かに言ったのだ。“真央がイく時の顔を見せたら、中出ししてやる”――と。つまり、先に真央がイかなければ――
「やっ、だ……尻尾、と一緒に、突くの、らめっんっんんふっ、んんっんーーーーーーーーーーッッ!!!!!」
 尻尾を愛撫されながら突き上げられ、さらに唇を奪われる。喉奥で噎びながら、抵抗空しく真央は容易くイかされてしまう。
「んはっぁ……あ、う………!」
 唇を離し、息を吸った刹那、突如どくりと下腹で何かがはじけた。イかされた直後の混濁した意識では、すぐには理解できない。
「ぁ、ぁ……な、か、に…………ぁ………………あぁぁぁ、ぁ………………」
 どくんっ、どくんと剛直が脈打ち、その都度下腹に熱いものが溢れてくる。二連続目の中出しに、真央はすっかり身も心もとろけて、くたぁと月彦にもたれ掛かる。
「…………勿論、これで終わりなんて言わないよな、真央?」
 くたくたの体に、思わずゾクリとするような事を囁いてくる父親が、真央はどうしようもなく好きなのだった。

 一夜明けてみれば、結局元の木阿弥。一週間の禁欲は一体なんだったのやら――と首をかしげたくなるほどに再びエッチ三昧の毎日が戻ってきた。
「……自制とか、そもそも考えるのが無茶なのかもなぁ……」
 月彦が思うのは、例の転機となった夜のことだ。寝ている所へいきなり真央が大胆不埒なことを始め、ついつい自分も悪ノリしてヤりまくってしまった。
 それ以来というもの、太股の痣が増えることもなく、治癒の一途を辿っていることからやっぱり真央の仕業だったのではないかと危ぶむものの、それすら最早どうでもよくなっていた。
 真央は相変わらず可愛くて、父さま、父さまと懐いてくる。二言目にはシたい、とか舐めたい、とかが来るのが些か困るが、そこは何とか適当に折り合いをつけていくしかない。
 今回の事でひとつ分かったことは、真央の欲求が溜まりすぎる前に自分から手を出した方が多少“被害”が小さくて済むということだった。それは日常生活を送る上でとても大切な要素であり、克つ月彦が天寿を全うするために必要な事でもあった。
「……てことは、今日あたり、そろそろか――」
 と月彦が自室で思案しているところへ、ただいまーと陽気な声が階下から聞こえてきた。とととと小気味の良い音を立てて、すぐに真央が部屋に飛び込んでくる。
「父さま、ただいまーーーっ」
「お帰り、真央。………………待ってたぞ」
 最後の“待っていた”の一言に真央の顔色が目に見えて変わる。頬がほんのりと赤く、些か挙動不審気にちらりと月彦の方を見る。
「待っていた……って……」
「学校に居る間からずっと真央とヤりたくて溜まらなかった。……そう言えば、わかるか?」
「…………ぁ、…………」
 真央の顔がみるみるうちに赤くなる。もじもじと太股を擦り合わせるようにして、また何かを言いたげにちらりと月彦の方を見る。
 月彦はそんな真央の腕を引き、強引にベッドに引き寄せる。真央はバランスを崩しつつも、容易くベッドの上に倒れ込む。
「やっ……父さま……やめ、て………………」
 怯えるような目で月彦を見る。が、月彦は無論やめたりはしない。何より真央の目が怯える表情とは裏腹に期待に満ちている。そう、それこそ――例の禁欲生活中真央がずっと月彦に向けていた目だった。
「お願い……制服だけは汚さないで…………」
 仕草はまるきりレイプ犯に怯える女子高生のそれそのもの。しかし目だけは、相変わらず何かを期待するような光に満ちている。
 つまり、今日は制服を汚してほしいってことだな――と、月彦は心中で納得する。最近では口にしなくても真央がなにをされたがっているのかがうっすらと分かるようになってきているから喜ばしいやら困ったやらだった。
 とりあえず、“無理矢理される”というのが最近の真央のお気に入りのようだから、当分はそれに付き合ってやらねばならないだろう。娘の機嫌をとるのも大変だと、月彦なりに父親の苦労を噛みしめる。そんな平日の午後だった。

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