「真央ちゃん、もう学校には慣れた?」
こくりと真央は頷いた。
「そう。何かあったら私に言うのよ。すぐに“解決”してあげるから」
霧亜は意味深に微笑み、愛しむように真央の髪を撫でる。
紺崎家、居間。学校から帰ってきたところで運悪く――もとい、珍しく家に居た霧亜に捕まってしまったのだった。
さらに言えば、買い物にでも行っているのか、葛葉も居ない。月彦もまだ帰っていない。一体何をされるんだろうと多少体を強ばらせつつも、真央は体を密着させるようにソファに座る霧亜から逃げることが出来なかった。
「友達は出来た?」
すすと、霧亜の手が髪から頬へと滑り落ちる。
「由梨ちゃんとか、あと他にも……」
「そう。巧くいってるみたいで安心だわ。…………変なこととかはされてない?」
「変なこと?」
真央が聞き返すと、霧亜はくすくすと笑って答えを誤魔化した。
「心当たりがないならいいのよ。…………真央ちゃん、少しスカートが短すぎじゃないかしら」
霧亜の視線がふいに真央の太股の方へと向く。反射的に真央は足をきゅっと閉じた。
「真央ちゃんは足が長いんだから、他の子より長くしないと……すぐ下着が見えちゃうわよ?」
今度母さんに直すように頼んでおいてあげる――そう囁きながら、霧亜は真央の太股をなで始める。
「それに、男子の目だって気になるでしょう?」
それは確かにその通りだった。学校に居る間中、まるで針のむしろのように男子生徒の視線が絡みついて来、否が応にも意識させられてしまうのだ。さすがに転校初日ほどではないにしろ、一ヶ月が経過した今でもそれはさして変わらないのだった。
「……尤も、真央ちゃんの場合はスカートよりこっちの方が目を引いちゃうかもね」
霧亜がさらに密着して来、肩を回った手が真央の胸の下に添えられる。顔立ちのわりには育ちすぎたその胸をさらに強調するようにぐいと持ち上げる。
「くす……重たい…………また大きくなったんじゃないの?」
「そんな……事は……」
「……調べてあげようか?」
霧亜が囁き、その手が制服のボタンにかかった時、不意に玄関の方でがちゃりと音がした。ちっ……と、微かに霧亜が舌打ちをする。
「……まあいいわ。真央ちゃん、また今度ね」
霧亜がふいと離れ、居間から出て行ってしまう。その姿が見えなくなった後で、真央はほっとため息をついた。
「真央さん、もう学校には慣れましたか?」
翌日、宮本由梨子にも同じ事を聞かれた。
「うん……そう思うけど、私どこか変かな?」
「いえ、そういう意味ではないのですが……」
そう言って由梨子はしばらく黙り込んでしまう。
「……相変わらず男子達が騒いでいるみたいなので、真央さんが気にしているのではないかと思ったものですから」
由梨子の言葉に真央はデジャヴに近いものを感じながらも大丈夫と返した。もちろん同じ質問をした二人が裏で繋がっているとは夢にも思わない。
「とにかく、何か困った事があったら私に言って下さい。すぐに“解決”しますから」
また……と真央は思ったが、顔には出さない。
実は一つだけ困った事はある。が、しかしそれは霧亜にも由梨子にもどうしようもない事だから口には出さない。
唯一、“あの母親”ならば可能かもしれないが、もちろん頼る気は毛頭無かった。そもそもが、その母親こそが元凶と言えなくもないのだから。
「……ねえ、由梨ちゃん。由梨ちゃんは好きな人って居る?」
真央の唐突な質問に由梨子は随分面食らったようだった。
「……難しい質問ですね。憧れている人なら居ます」
すこぶる真剣な顔で由梨子は答え、
「……そして、好きになりかけている人も居ます」
じっと真央を見据えながらそう付け加えた。
「そうなんだ……じゃあさ、その人が本当は……他の人の事が好きみたいだったら、由梨ちゃんはどうする?」
「私の事を好きになってくれるように努力します」
「そっか……やっぱりそれしかないよね」
ふう、とため息をついて空を見上げる。頃合いを見たかのように昼休みの終了を告げるチャイムが体育館裏に鳴り響き、二人は思い思いに腰を上げた。
放課後、由梨子と一緒に二人で帰るのは最早定例と言ってよく、時折他の女子が混じったりするものの基本的には二人きりだった。
真央としてはたまには月彦と一緒に帰りたいから遠回しに断ろうとしたのだが、その度に
「真央さんを一人にすると大変危険ですから」
と強く言われてその願いは叶わないのだった。無論真央には何故危険なのかは理解できない。男子達から向けられる粘っこい視線の意味するものが、最終的にはどのような衝動に結びつくのかまで真剣に、そして現実的には考えていないのだった。
まあいい、家にさえ帰ってしまえば後はもうずっと一緒にいられるのだ――そう思って由梨子と共に校門を出た。その時だった。
「由梨!」
不意に誰かが叫んだ。横に居た由梨子の顔から笑顔が消えるのを真央は見た。
「……行きましょう、真央さん」
由梨子が真央の腕を掴み、早足になる。由梨、とまた誰かが背後で叫んだ。
「ねえ……呼んでるみたいだけど……」
しかし由梨子はその声を無視するかのように早足に歩き続ける。そんな二人の前に一人の女子生徒が飛び出した。上級生のようだった。
「……何か用ですか、円香先輩」
「用って……!」
円香と呼ばれた女子生徒はみるみるうちに顔を紅潮させる。
「どうしてあたしからのメールを無視するのよ! 電話だって――」
「……学校では関わらないで下さいって言った筈ですけど?」
相手の言葉を切る形で、由梨子は冷徹に言い放つ。ぐっ、と円香は言葉を飲む。
「だから、せめて電話やメールで……」
「忙しいんです」
何処までも冷ややかな声。まるで相手の事を人間だと思っていないかのような、そんな声だった。いつも優しく、親身になって相談に乗ってくれる由梨子がこんな声を出すという事が真央には意外だった。
そんな由梨子の声に押されたかのように、円香は途端に萎縮する。紅潮した顔は青ざめ、まるで従者が主に睨まれたような姿だった。
「ご、ごめんなさい……でも、あたし……由梨に会えなくて、寂しくて……」
「本当、自分の事しか考えられない人なんですね。だから姉様にも捨てられたんですよ」
ぐっ、と円香が唇を噛みしめる。
「ね、ねぇ……由梨、今夜はどう? あたしもう、由梨と一緒じゃないと……」
「理解力が無いんですか。忙しいと言っています」
「で、でも……もう一週間以上……」
「“待て”も出来ない犬にご褒美をあげる飼い主は居ませんよ」
「そん……な……」
今にも泣き出しそうな顔で、円香は由梨子を見る。それはまさに、主の憐憫を期待する飼い犬の眼差しそのものだった。だが、円香を見る由梨子の瞳は冷ややかなままだった。
「円香、“お座り”」
「えっ……」
「二度は言いません」
何処までも冷徹な声。円香は揺蕩う瞳で周囲を見、おずおずとその場に膝を突き、座った。それまで遠巻きに様子をうかがっていた者達も女子生徒の突然の奇行に俄にざわめく。
「私がいいと言うまでそこに座っていられたら、今度こそ“ご褒美”をあげますよ」
さあ帰りましょう、と腕を引かれて真央は現に戻された。それまで、何処か別世界でも覗いているような心持ちで二人のやりとりを見ていたのだ。
「由梨ちゃん、いいの……?」
「いいんです。“躾”ですから」
由梨子に腕を引かれながら、真央はつい振り返ってしまった。そして、目があってしまった。
衆目に晒されながらも道ばたに座り、上体だけを捻って主を見送る円香の目。そこには明らかに真央に対する嫉妬の炎が宿っていた。
「………………っていう事があったの」
「へえ、そりゃまた……」
学校から帰るなり月彦は部屋のベッドで寝ころび、隣に座った真央から下校途中に起きた珍事を聞かされていた。
「そういや居たなあ。その子、俺が帰るときもまだ座ってたよ」
正直、何事かと思ったものだ。月彦を含め、大多数の生徒は遠巻きに見ながら帰るだけ。何人かの生徒――おそらくは彼女の知人か――は声を掛けていたみたいだが、答えは返って来なかった様だった。
「ねえ父さま、あれってひょっとして“いじめ”なの?」
「うーーーーーん………………」
返答に困る問いだった。実際その場に居たわけではない月彦には事の細部は判らず、真央から聞いた話のみが判断の材料となるわけだが、それによるとどうもそうではないのではないか――と思える。
おそらくは由梨子とその円香という女子生徒はすこしばかり友達の線を踏み越えてしまった仲なのだろう。それでいて尚かつ、些かアブノーマルな趣向の行為を好み、今回はそれが痴情の縺れで少しばかり公になってしまったのではないか――というのが月彦の推測だった。
だから真央が言うように“いじめ”では無いと思う。思うが、問題なのはそうではないという事を真央にどう説明するかなのだ。
自分の推測を教え、由梨子とその子の関係はきっとこれこれこういう事に違いないから問題はない――そう言うのは簡単だ。しかし真央にそのような事を教えてしまって良いのかどうかが判らない。
自分はいい。世の中そういう趣向の人もいるだろうと、割り切って付き合う事も可能だろう。だが真央は――見た目こそ同年代に近いと言えなくもないが、どこか精神的に幼い所がある。そのくせそういった……いわゆる“行為”については母親譲りという事もあるだろうが、人並み以上の才能と好奇心がある。万が一そういったアブノーマルな行為に真央が興味を持った場合どうなるのか――それを考えると月彦は返答に困ってしまうのだ。
「いじめじゃ……ない。たぶん」
「でも……あんなの、かわいそう…………」
「きっと喧嘩でもしてたんだろう。由梨ちゃんだって真央を送った後ですぐに迎えに行ったに決まってるさ」
「……そうなのかな」
真央は得心がいかない様子だった。無理もない。
「気になるなら、明日由梨ちゃんに言えばいいさ。その先輩と仲直りするように」
「そっか……そうだね、言ってみる」
うんと頷いて真央は漸く肩の荷が下りたとばかりに笑顔を零した。一方月彦はといえば喜んでばかりもいられない。
まさか由梨子がそういった性癖の持ち主だとは夢にも思わなかった。そんな相手に「真央の友達になってやってくれ」と頼んでしまって大丈夫なのだろうか……。
「なあ真央。その由梨ちゃんなんだが……」
「由梨ちゃんがどうかしたの?」
聞き返しながらも、僅かな不信か笑顔の中に混じっている。ひょっとしたら月彦が他の娘の話をふるだけで邪推されているのかもしれない。
「いや、何か変なところはないか?」
「変なところ…………」
「その、やけに体を触ってくるとか……」
「うーん、無いと思うけど…………」
「そっか。ならいい」
とりあえず一安心。ほっと安堵する月彦に、真央は首をかしげている。
「まあとにかくだ。何かあったらすぐ俺に言うんだぞ。出来る限りの事はするから」
「大丈夫だよ。みんな優しいし、由梨ちゃんだって居るんだから」
その由梨ちゃんが心配なんだよ、とは月彦は言えない。
「優しいのは結構だ。だけど、男子の優しさは当てにしないほうがいい。つーか、それは百パーセント下心がある証拠だからな。絶対信用しちゃ駄目だぞ」
本音を言えば真央の姿が男子達の肉欲丸出しのギラついた目に映らないように全身を黒いヴェールで覆って隠したいくらいだった。しかし無論、そんな事は出来る筈もない。
「男なんて一皮剥けばみんなケダモノだ。どうすれば女の子とヤれるかに脳みその九割以上を費やしているような奴ばかりなんだ。ただでさえ真央は真狐に似て……その、なんだ……男としてはかなり理性を失しやすい体つきなんだから人一倍気を付けないと駄目だ」
男を見たら強姦魔だと思え、と断言する月彦に、真央はくすくすと無邪気に笑う。
「父さまだって男なのに、そんな事言ってもいいの?」
「俺は真央や真狐に散々鍛えられたからな。そんなちょっとやそっとじゃあ理性は――」「本当に?」
すすっ、と真央が四つんばいにベッドの上に乗ってくる。
「……こら、何考えてんだ。もうすぐ晩飯だぞ?」
といいつつも、重力によってよりその質量を強調させている胸元へと視線が釘付けになってしまっていては説得力のカケラもない。
「父さまも……どうしてそんなに真央の胸ばっかりじぃぃって見るの?」
四つんばいで尚かつ両腕で乳を寄せるような仕草をしておいてそのような事を言う。
「そりゃあ……大きいからだ。うん」
「そんなに……大きい?」
また寄せる。むぎゅうっ、と。制服のボタンがはじけんばかりに。
「だれかさんに比べりゃまだまだだが、それでも全然並以上だ」
「父さまは……大きい方が好き?」
「まあ、な。全然ないよりは、多少大きいくらいの方がいいさ」
「姉様がね、昨日……また大きくなったって言ってたの。父さまは……どう思う?」
「さぁ……そりゃあ成長期だから多少は発育してるかもしれんが……」
「確かめて」
ずい、とさらに身を寄せてくる。
「触って、確かめて」
「た、確かめてって……昨日の夜っつーか今朝も触っただろ?」
「今調べて欲しいの……」
真央はもどかしげに月彦の手をとり、自分の胸元へと誘う。
「……どう?」
「……今朝と同じくらいかな」
月彦が至極当たり前の事のように言うと、真央はむぅーと頬を膨らせた。
「直接触って、確かめて」
制服の前ボタンを外し、さらにブラウスのボタンをいくつか外す。白い生地の隙間から白い肌とブラが見え、月彦は思わず生唾を飲んでしまう。
真央に誘われるままにブラウスの隙間へと手を滑り込ませ、ホックを外してブラをずらし上げる。とたん、ゆさっ……と結構な質量が月彦の掌にのしかかってくる。
「どう? 父さま……」
「いや、だから――」
そこまで言いかけて、真央が怒るようなそぶりを見せたので月彦は慌てて言葉を止めた。
「そ、そうだな……確かに少し大きくなってきてる…………かも」
「本当? 母さまみたい?」
「いや、あんなには――」
と、また怒りそうなそぶりを見たので月彦は言葉を変えた。
「い、言われてみれば確かに、真狐そっくりだな。さすが母娘だ」
たぷたぷと掌の中で乳を弄びながら空笑いをする。真央も少し安堵したように表情を緩めた。
「じゃあ、もう父さまは母さまに会わなくてもいいよね?」
「へ……?」
突然何を言い出すんだと月彦の頭は混乱した。
「真央が母さまの代わりになるから、父さまは母さまに会わなくてもいいよね?」
「待て、待て……話が見えないぞ。なんで急にそういう話になるんだ?」
「なんで、って……」
真央は口を噤む。何かを訴えたげにじいと月彦の方を見るが、その意図するところが月彦には理解できなかった。
「代わりもなにも、会う会わない以前にあいつは顔自体めったに出さないだろ。何を張り合ってるのかはわからんが、あいつの事なんて気にするなって」
「でも、父さまは……母さまみたいに大きな胸が好きなんでしょ?」
「それは誤解だ」
月彦はきっぱりと言った。
「いやむしろあんなに大きいのは苦手と言ってもいい。こう、片手じゃおさまらんというか、揉んでも揉んでも腹立たしさしか湧かないと言うか――そう、腕が疲れるんだ。あんなに大きいと。だから俺は真央くらいが一番好きだぞ」
「じゃあ、どうして…………」
真央のその呟きはあまりにか細く、月彦の耳には届かなかった。
「ねえ、父さま……真央のこと、好き?」
「当たり前だろ」
「真央が、一番?」
「言うまでもない」
「じゃあ証拠、見せて」
「証拠?」
こくん、とうなずき、真央が月彦の上にまたがってくる。ああ、そういう“証拠”かと月彦は納得した。つまるところ真狐の事を持ち出したのも、この形へと持って来たかったからなのだと。
「……真央、すぐ晩飯だぞ?」
「うん……だから、一回だけ……」
「食い終わってからじゃ駄目なのか?」
「いま、したいの……」
微かに呼吸を乱しながら真央が被さってくる。そのまま唇が重なり、舌が絡み合い、ちゅく、ちゅくと音を立てながら互いの口を吸い合う。階下から聞こえてくるのは小気味のよい包丁の音、そして仄かに香る夕食の香り。真央の背に手を回し抱きしめながら、果たして間に合うのかと月彦は俄に不安に思うのだった。
「あっ、んっ……は…………く、う……!」
ずっ、と腰を埋めながら、真央が呻く。二人とも殆ど着衣のまま、だがしかし真央の下着だけは左足の足首に引っかかっているという様。時間がないという事は真央も承知しているようで、唇を重ねた後自ら下着を脱いだのだった。
既に、潤っていた。真央曰く「父さまと一緒に居るだけで、すぐに……」だそうだが、それが本当だとすれば最近の真央の節操の無さも幾分は納得がいくというものだった。
「ん、ぁ……す、ごい……お腹、ぐいぐい、押され、て……あは、ぁ……」
月彦の胸に手をつきながら、真央が悶える。徐々に、その腰をくねらせ、スカートの奥から淫らな音が響き始める。
「っ……真央の中も、相変わらず、キツイ、な……っ…………」
真央の腰の動きに合わせるように、ベッドのスプリングを利用して突き上げる。キシキシと音が響くが、愛娘の膣の感触に夢中になるにつれてそれも気にならなくなる。
「あっ、あっあっ、父さま、父さま……ぁ…………!」
月彦が動き始めると、途端に真央の動きが鈍る。体を前に居るようにして、何かを我慢するように肩を抱く。月彦はそんな真央の脚を……太股の付け根のあたりを掴み、腰を上げられないようにして一気に突き上げる。
「あっあっ、だ、めっ、と、さまっっ……あっ、やっ……やめっ……あっ、ぁっ、あッ!!!!!!!!」
一際甲高い声を上げて、びくんと真央がのけぞる。ぎゅうううっ、と剛直が締め上げられ、月彦もまた唇を噛みしめてそれに耐える。
「……今日は随分イくのが早いな、真央」
「ぁ……ぁ……だっ、って……と、さまに……胸、触られてる、間……ずっと、どきどき、してた、から…………」
息も絶え絶えに言い訳をする真央。一度イッたせいか、膣はさらに潤い、月彦の腰のあたりまで熱い蜜が広がってくる。スカートに滲むのも時間の問題のようだった。
「まあでも、真央が一回イッたから、もう終わりだよな?」
「えっ……」
「一回だけって言っただろ?」
「そ、それは……私じゃなくて、父さまが…………」
「つまり、一回中出しされるまで――と?」
「…………うん」
何が恥ずかしいのか、真央は顔を真っ赤にしながら頷く。
「そうか。……でも真央、それってズルいよな」
喋りながら、ずんっ、と突き上げる。何かを聞き返そうとしていた真央はとっさに悲鳴に近い声を出した。
「真央のほうは何回もイッてよくて、俺だけ一回なんて。……そうだな、真央が次イッても終わりってことにするか」
「そ、そんな……そんなのっ……あんっ!」
「嫌なのか?」
「だ、だって……それじゃ……」
「くす……そんなに中出しして欲しいのか?」
「ぅ………………」
また顔を赤くする。しかししっかりうなずきは返す。
「それなら話は簡単だ。俺がイくまで真央がイくのを我慢すればいいんだ」
とはいえ、普段は一回中出しされるまでに真央が数回、多いときは十数回イくのが恒例なのは月彦も承知している。それはつまり、真央の感度の良さの現れとも言えるのだが、ある意味では節度が無いとも言える。
つまるところ、退っ引きならないような状況でもしたい、したいと我が儘を言う真央へのちょっとした意地悪なのだ。無論途中で真央がイッてしまったからといって月彦は止める気など毛頭無い。自分がイッてもいないのに行為を止めるなんて生殺しも良いところだ。
「判ったか、真央。イッたら止めるからな。ちゃんと我慢するんだぞ?」
「あっ、あっぁっ……やっ、そんな、の……無理……あっあっあッ!」
真央の腰を掴み、ぐんぐん突き上げると早くも真央の声が極みへと登りかけた為、月彦は腰を掴んでいた手を離してそっと胸元へと回した。腰の動きを止めてブラウスごと、真央の巨乳を揉む。
「ほら、真央……はやくしないと……タイムリミットのほうが先に来るぞ?」
挿入されたまま胸を揉まれてとろけきっている真央を抱き寄せて囁きかけ、急かしてやる。手を離すと真央はゆっくりと体を起こし、腰をくねらせ始めた。
「ん……いい、ぞ……そう……締めたまま、動かされると……っぁ……たまん、ね……」
元々が真狐譲りの極上の膣なのだ。月彦とてそうそういつまでも余裕をかましていられるわけではない。……というより、真央の感度があまりに良すぎてすぐイッてしまうから月彦は余裕をかませるわけであって、月彦自身は決して遅漏ではないのだ。否、むしろ平均に比べて早いとすら言えるかもしれない持続時間だが、それでも真央のナカの具合を鑑みれば、良く健闘している方だと断言できる。
「あ、んっ……ぁ……うっ、ぁっ……奥、擦れ、て……ぁっ、ぃ……だ、っ、め……と、さま……も、イ、く……わた、し……イッちゃう……!」
「我慢、しろ……真央。イッたらそこで……終わりだぞ?」
上体を起こし、真央を抱きしめるようにして突き上げながら囁きかける。そのまま手を真央の尻へと回し、スカートの上から尻をこね回す。
「あぁッぁっ……と、さま……だめっ、だめっ……あっあっっ〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」
真央が唇を噛み、声を押し殺す。膣がぎゅうううと締まり、月彦の腕の中で痙攣を起こしたように体を震わせる。
「ん……真央、イッたのか?」
「い、イッて……ない……」
はあはあと吐息混じりにかろうじて否定する。嘘つきだな、と月彦は心中で呟きつつも、必死でイくのを我慢し、そしてイッてない演技を通そうとする真央が愛しいと感じる。「そうか。じゃあ……動かしても大丈夫だな?」
「えっ……ま、待って……んんんんッ!!!!」
真央の尻を掴んだまま、乱暴に突き上げる。イッたばかりの膣を刺激されて真央は声にならない声を上げ、月彦の背中に爪を立ててしがみつく。
「だめっ、だめっ……と、さま……私、もう、本当に…………!」
「本当に、イく?」
囁きながら、月彦自信限界が近いのを感じていた。腰の辺りに溜まった熱の固まりが今にも破裂しそうだった。
「良し……良く我慢した。ご褒美だ、真央……たっぷり、中出ししてやる」
「ぁ……とう、さま……嬉……し……ンッ……ぁっ、ぁぁぁっあっあーーーーッ!!!!!」
濃いものがどくん、どくんと音を立てて打ち出される。痺れにも似た快感を感じながらも、月彦は真央の尻をしっかりと掴み、己の子種を一滴残らず愛娘の膣に注ぎ込んでいく。
「んっ……んっ……うっ……ぅっ……ぁっ……はっ……ぁっ…………ぁぁぁぁぁ…………と、さまの……熱いぃ………………」
ふーっ、ふーっ、と互いにケダモノの様な息を吐きながらしばし抱擁を交わし、どちらとも無く唇を重ねる。ちゅく、ちゅくとたっぷりと互いの舌を吸いあい、絡め合った後、月彦は脱力してごろりと仰向けになった。
「ふぅう……真央、証拠は……これで、いいのか?」
「しょう、こ?」
まだ絶頂の余韻が抜けきらないのか、ろれつの怪しい言葉遣いで真央が尋ね返す。
「真央が証拠を見せろっていうから……」
そもそもこんな事になったんじゃないかと月彦は非難の目を向ける。
「……まだ、足りないかも」
「足りないぃ!?」
月彦は思わず声を裏返らせてしまう。
「だから……後で証拠の続き、ね?」
くちゅ、と音を立てて腰をくねらせながら、誘うような笑み。その笑い方が真狐にそっくりで、月彦は思わずため息をつきたくなった。
「真央、そんなにエッチな事ばかり考えているとだな、将来真狐みたいに――」
「月彦っ! 真央ちゃん!」
ばんっ、と突然部屋の扉が開かれて月彦はどきりと胸を弾ませた。開けたのは葛葉だった。
「二人とも、ご飯の用意が出来たって何回言ったらわかるの? いつまでも遊んでないで早く下りてらっしゃい」
ベッドの上で硬直している二人目掛けて多少怒ったような口調で言い、そのままとたとたと葛葉は下りていく。月彦も真央もたっぷり一分間は身動きが出来ず、口もきけなかった。
「……びっくりした」
「私も……」
不幸中の幸いといえば、二人が殆ど着衣のまま行為に及んでいたこと。そして真央のはだけた胸は部屋の入り口からは死角となっていた事だった。
「な、真央。今度からこういう時間がやばいときにするのは止めよう。……何より心臓に悪い」
真央もこの提案には納得がいったのか、あっさりうんと頷いた。尤も、どこまで本気かは月彦には判らないが……。
「にしても“いつまでも遊んでないで”って……母さん、一体俺たちが何して遊んでると思ったんだ?」
我が母親ながら判らない、と月彦は首を捻りつつ、階下へ降りる支度をするのだった。
悪い予感は、確かにあった。否、予感というよりも予兆――そう、階下へと降りる途中真央が「懐かしい匂いがする」と漏らしていたところで気がついても良かったのだ。
夕食は鍋料理のようだった。葛葉は上機嫌で、何かを言い出したくてたまらないという顔だった。
月彦も真央も席に着き、唯一霧亜の席だけが空いていた。珍しいことではない、ここ一月ほど夜間外出しない日の方が少ないのだ。葛葉は霧亜を完全に信用しているのか、無論これを咎める事も何処に行っているのかを聞こうともしない。
「霧亜も、今日くらいは家に居てもいいのにねぇ」
せいぜいそう漏らす程度だ。大変大らか、ある意味放任主義とも言える。
「……やけに豪勢だけど、今日って何か特別な日だっけ」
食卓の真ん中に座る鍋、茶碗に盛られほくほくと湯気を上げる炊き込みご飯、その他サラダや揚げ物など到底三人で食べるには多すぎる量の料理が用意されていた。
「うふふ、秘密よ」
葛葉はまるで十代の乙女のように悪戯っぽく笑い、答えをはぐらかすもその顔は言いたくてたまらないといった風だった。この様子では食べ終わるまでには我慢出来ずにしゃべり出すだろうと月彦は判断して、無理に聞き出さずに頂きますを言う事にした。何より思わぬ食前の運動で腹も減っていた。
真央もまた、釈然としない顔をしながらもいただきます、と鍋をつつき始めた。そんな二人の様子を見て、葛葉は早くもうずうずと身をよじり始めた。
「ん、母さん、これ……もしかして松茸?」
炊き込みご飯に入っていたそれを箸で摘み、月彦が驚きの声を上げる。縦に切られたそれはまさしくキノコの形をしていた。
「うわっ……しかもこんなに……」
行儀が悪いのは承知で月彦は箸で茶碗の中をまさぐってみた。ニンジンやゼンマイ、タケノコに混じってゴロゴロと松茸らしき固まりが次々と発掘され、そのあまりの分量に月彦は度肝を抜かれた。
「松茸って……高いんじゃないの?」
月彦の問いに、葛葉はにこにこと笑みを浮かべたままだ。もう喉まで言葉が出かかってる、そんな顔だ。
「ふふ、値段を聞いたら絶対驚くわよ」
「……まさか、ン万円?」
松茸の大きな固まりを口に運びその芳醇な味わいに決して安いものではなかろうと月彦は判断した。しかし、葛葉の答えは――
「答えはタダ。全部もらいものよ」
「もらい物!?」
思わず声を荒げてしまった。一体誰から貰ったというのか、月彦はとっさに親戚一同の顔を思い浮かべたが、今まで誰からも松茸を貰った記憶など無かった。
「父さんの友達か誰か?」
「ハズレ。月彦も会った事がある人よ」
「ま、まさか……父さん本人?」
それだけは無いだろうと思いつつ、それならば葛葉がこうも上機嫌なのは納得がいくと月彦は思った。だが、葛葉はまたしても首を振った。
「今日、真央ちゃんのお母さんに会ったの」
ぶっ、と月彦はとっさに口の中のものをはき出してしまった。真央の方を見るとご飯を喉に詰まらせて苦しんでいた。
「いつも娘がお世話になってますーって、いっぱい山菜をくれたの。真央ちゃんのお母さんとっても礼儀正しい方ね」
「礼儀正しい……?」
一体誰の話をしていたんだったか――月彦は軽い混乱に陥ってしまった。
「露出狂みたいな着物を着て人を指さしながらケタケタ笑ったりしてなかった?」
「とてもきちんとした身なりで平身低頭な人よ。……月彦、貴方も会ったことあるんでしょう?」
どうやら月彦が言ったのは冗談だと思われたようだ。葛葉はくすくす笑っている。
「何でも借金があって、いろいろ大変みたいじゃない。真央ちゃんだけはゴタゴタに巻き込みたくないからこれからもお願いしますって仰ってたわ。……母さん、少し感動しちゃった」
「…………よくもまぁ」
そんな出鱈目を人の親に吹き込んでくれたものだと月彦は呆れる思いだった。
「真央ちゃんに会っていったらどうですって勧めたんだけど、会うと別れが辛くなるからって夕方前に帰られたわ。本当はあなた達にも来たことを黙ってて欲しいって言われたんだけど……ねぇ?」
何がねぇ?なんだか――月彦はため息をついた。恐らく――というか絶対あの女は葛葉が喋ると確信して黙ってて欲しいと言ったのだろう。間違いない。
しかし、そうなると目的は何なのだろう。真狐がただ酔狂で人の留守中に家に上がり込み、葛葉を騙すとは思えない。いや、確かにアイツならばそういった意味のない事をやって自分たちが勘ぐる様を見て楽しんでいる可能性も否定できないのだが……。
「ねえ、父さま……どうしよう」
気がつくと、真央が椅子を寄せてきてなにやら耳打ちをしてきていた。
「母さまが差し入れた山菜……食べちゃって大丈夫かな?」
「……っ!」
まさに、真央の言うとおりだった。二人のそんな危惧をしらない葛葉はニコニコ笑いながら箸を進めるのだった。
見れば、明らかにおかしな材料が鍋の中に盛り込まれていた。赤いカサに白の斑点模様の見ようによっては人の顔に見えなくもないようなガラの怪しいキノコや、引き抜くときに叫び声を上げて人を殺しそうな根野菜まで見つかった。
「こらっ、月彦。さぐり箸はお行儀が悪いわよ」
箸で掴んだものはちゃんと最後まで食べなさい――葛葉にそう言われた瞬間月彦が箸で摘んだものはどう見てもイモリの黒焼きにしか見えないものだった。仕方なく自分の皿に移しながら、これをそのまま鍋に放り込んでしまう母親の常識を月彦は疑わざるを得なかった。
「私、食欲が……」
そんな事を言って戦線離脱を計ろうとする真央の腕を掴んで、月彦は無言で首を横に振る。そこには娘を思いやる父親の温情は微塵も無く、しなばもろともという人として浅ましい感情だけが存在していた。
ここに来て月彦は確信していた。真狐が“不幸な母親”を演じたその理由。それは自分が持ってきた食材を月彦らにちゃんと食べさせる為だったのだ。葛葉が先に語ったように振る舞っていれば、葛葉としては腕を振るわざるを得ない。そしてその話を聞いた月彦らとしても葛葉の手前、料理を無碍にするわけにもいかない。
なんて意地の悪い奴だ。その頭をもっと何か別の建設的な事に使う気はないのだろうか。
「大丈夫だ、いくらアイツでも毒を盛ったりはしないだろう……」
せいぜいいつぞやのように精力増強&催淫効果のダブルパンチで真央と一緒に眠れぬ夜を過ごすくらいだろうと月彦はタカをくくっていた。後にそれは甘い考えだったと気づかされるのだが……。
ほら来た。やっぱり来た。予想通りだったと、月彦は自室でほくそ笑んでいた。
夕食は、それはもうしっかり食べさせられた。食後は特に変わりはなく、いつものように真央と一緒に風呂に入って(そんで少しだけエッチなこともして)先ほど上がって部屋でくつろいでいたところで、予想通りの効能が来た。
腹の底からむらむらとわき上がる衝動。下着を突き破らんばかりに屹立した股間。やっぱりだ畜生。やっぱりアイツはろくなモノを差し入れないと月彦は内心で毒づいていた。
真狐の思惑にまんまとハマッてやるのは癪だが、このまま悶々と夜を過ごすのも馬鹿馬鹿しい。そもそもそんなに我慢強くもないし、何より多少食べたものの違いはあれど真央とて似たような状態になっている可能性が強いのだ。となれば、月彦が我慢したとしても真央のほうが我慢出来ずに誘ってくるだろう。
哀れなのは葛葉だ。訳も分からないまま悶々とした夜を過ごすことになるだろうが、こればかりは月彦にはどうしようもない。それに自ら腕を振るった割には葛葉自身は小食でたいした量を食べていないから効能も薄いかもしれない。と、月彦は楽天的に結論づけた。
とにかく、今は真央を襲いたくてしょうがなかった。風呂を上がった後、真央だけがその長い髪を乾かす為脱衣所に残っているのだ。早く、早く上がってこい。ああもうじれったい。自ら赴いて脱衣所で立ったまま犯してやろうか――そんな危ない考えを月彦がうずうずしながら抱き始めた時、辿々しく部屋のドアノブが回った。
「真央、髪は乾いたのか?」
嬉々と声を上げ、部屋の入り口の方を見る。――が、ドアノブが回ったものの、回した本人は一向に部屋の中に入って来ようとしない。
「真央……?」
月彦がもう一度呼んで、漸くその人物は室内へと入ってきた。途端、月彦は口を開けたまま仰天してしまった。
「どうしよう、父さま……」
真央はそのパジャマの裾を……体躯に対してあまりに長いそれをぶらぶらさせながら、困ったように呟いた。
「私……縮んじゃった……」
こくりと真央は頷いた。
「そう。何かあったら私に言うのよ。すぐに“解決”してあげるから」
霧亜は意味深に微笑み、愛しむように真央の髪を撫でる。
紺崎家、居間。学校から帰ってきたところで運悪く――もとい、珍しく家に居た霧亜に捕まってしまったのだった。
さらに言えば、買い物にでも行っているのか、葛葉も居ない。月彦もまだ帰っていない。一体何をされるんだろうと多少体を強ばらせつつも、真央は体を密着させるようにソファに座る霧亜から逃げることが出来なかった。
「友達は出来た?」
すすと、霧亜の手が髪から頬へと滑り落ちる。
「由梨ちゃんとか、あと他にも……」
「そう。巧くいってるみたいで安心だわ。…………変なこととかはされてない?」
「変なこと?」
真央が聞き返すと、霧亜はくすくすと笑って答えを誤魔化した。
「心当たりがないならいいのよ。…………真央ちゃん、少しスカートが短すぎじゃないかしら」
霧亜の視線がふいに真央の太股の方へと向く。反射的に真央は足をきゅっと閉じた。
「真央ちゃんは足が長いんだから、他の子より長くしないと……すぐ下着が見えちゃうわよ?」
今度母さんに直すように頼んでおいてあげる――そう囁きながら、霧亜は真央の太股をなで始める。
「それに、男子の目だって気になるでしょう?」
それは確かにその通りだった。学校に居る間中、まるで針のむしろのように男子生徒の視線が絡みついて来、否が応にも意識させられてしまうのだ。さすがに転校初日ほどではないにしろ、一ヶ月が経過した今でもそれはさして変わらないのだった。
「……尤も、真央ちゃんの場合はスカートよりこっちの方が目を引いちゃうかもね」
霧亜がさらに密着して来、肩を回った手が真央の胸の下に添えられる。顔立ちのわりには育ちすぎたその胸をさらに強調するようにぐいと持ち上げる。
「くす……重たい…………また大きくなったんじゃないの?」
「そんな……事は……」
「……調べてあげようか?」
霧亜が囁き、その手が制服のボタンにかかった時、不意に玄関の方でがちゃりと音がした。ちっ……と、微かに霧亜が舌打ちをする。
「……まあいいわ。真央ちゃん、また今度ね」
霧亜がふいと離れ、居間から出て行ってしまう。その姿が見えなくなった後で、真央はほっとため息をついた。
『キツネツキ』
第六話 <前編>
翌日、宮本由梨子にも同じ事を聞かれた。
「うん……そう思うけど、私どこか変かな?」
「いえ、そういう意味ではないのですが……」
そう言って由梨子はしばらく黙り込んでしまう。
「……相変わらず男子達が騒いでいるみたいなので、真央さんが気にしているのではないかと思ったものですから」
由梨子の言葉に真央はデジャヴに近いものを感じながらも大丈夫と返した。もちろん同じ質問をした二人が裏で繋がっているとは夢にも思わない。
「とにかく、何か困った事があったら私に言って下さい。すぐに“解決”しますから」
また……と真央は思ったが、顔には出さない。
実は一つだけ困った事はある。が、しかしそれは霧亜にも由梨子にもどうしようもない事だから口には出さない。
唯一、“あの母親”ならば可能かもしれないが、もちろん頼る気は毛頭無かった。そもそもが、その母親こそが元凶と言えなくもないのだから。
「……ねえ、由梨ちゃん。由梨ちゃんは好きな人って居る?」
真央の唐突な質問に由梨子は随分面食らったようだった。
「……難しい質問ですね。憧れている人なら居ます」
すこぶる真剣な顔で由梨子は答え、
「……そして、好きになりかけている人も居ます」
じっと真央を見据えながらそう付け加えた。
「そうなんだ……じゃあさ、その人が本当は……他の人の事が好きみたいだったら、由梨ちゃんはどうする?」
「私の事を好きになってくれるように努力します」
「そっか……やっぱりそれしかないよね」
ふう、とため息をついて空を見上げる。頃合いを見たかのように昼休みの終了を告げるチャイムが体育館裏に鳴り響き、二人は思い思いに腰を上げた。
放課後、由梨子と一緒に二人で帰るのは最早定例と言ってよく、時折他の女子が混じったりするものの基本的には二人きりだった。
真央としてはたまには月彦と一緒に帰りたいから遠回しに断ろうとしたのだが、その度に
「真央さんを一人にすると大変危険ですから」
と強く言われてその願いは叶わないのだった。無論真央には何故危険なのかは理解できない。男子達から向けられる粘っこい視線の意味するものが、最終的にはどのような衝動に結びつくのかまで真剣に、そして現実的には考えていないのだった。
まあいい、家にさえ帰ってしまえば後はもうずっと一緒にいられるのだ――そう思って由梨子と共に校門を出た。その時だった。
「由梨!」
不意に誰かが叫んだ。横に居た由梨子の顔から笑顔が消えるのを真央は見た。
「……行きましょう、真央さん」
由梨子が真央の腕を掴み、早足になる。由梨、とまた誰かが背後で叫んだ。
「ねえ……呼んでるみたいだけど……」
しかし由梨子はその声を無視するかのように早足に歩き続ける。そんな二人の前に一人の女子生徒が飛び出した。上級生のようだった。
「……何か用ですか、円香先輩」
「用って……!」
円香と呼ばれた女子生徒はみるみるうちに顔を紅潮させる。
「どうしてあたしからのメールを無視するのよ! 電話だって――」
「……学校では関わらないで下さいって言った筈ですけど?」
相手の言葉を切る形で、由梨子は冷徹に言い放つ。ぐっ、と円香は言葉を飲む。
「だから、せめて電話やメールで……」
「忙しいんです」
何処までも冷ややかな声。まるで相手の事を人間だと思っていないかのような、そんな声だった。いつも優しく、親身になって相談に乗ってくれる由梨子がこんな声を出すという事が真央には意外だった。
そんな由梨子の声に押されたかのように、円香は途端に萎縮する。紅潮した顔は青ざめ、まるで従者が主に睨まれたような姿だった。
「ご、ごめんなさい……でも、あたし……由梨に会えなくて、寂しくて……」
「本当、自分の事しか考えられない人なんですね。だから姉様にも捨てられたんですよ」
ぐっ、と円香が唇を噛みしめる。
「ね、ねぇ……由梨、今夜はどう? あたしもう、由梨と一緒じゃないと……」
「理解力が無いんですか。忙しいと言っています」
「で、でも……もう一週間以上……」
「“待て”も出来ない犬にご褒美をあげる飼い主は居ませんよ」
「そん……な……」
今にも泣き出しそうな顔で、円香は由梨子を見る。それはまさに、主の憐憫を期待する飼い犬の眼差しそのものだった。だが、円香を見る由梨子の瞳は冷ややかなままだった。
「円香、“お座り”」
「えっ……」
「二度は言いません」
何処までも冷徹な声。円香は揺蕩う瞳で周囲を見、おずおずとその場に膝を突き、座った。それまで遠巻きに様子をうかがっていた者達も女子生徒の突然の奇行に俄にざわめく。
「私がいいと言うまでそこに座っていられたら、今度こそ“ご褒美”をあげますよ」
さあ帰りましょう、と腕を引かれて真央は現に戻された。それまで、何処か別世界でも覗いているような心持ちで二人のやりとりを見ていたのだ。
「由梨ちゃん、いいの……?」
「いいんです。“躾”ですから」
由梨子に腕を引かれながら、真央はつい振り返ってしまった。そして、目があってしまった。
衆目に晒されながらも道ばたに座り、上体だけを捻って主を見送る円香の目。そこには明らかに真央に対する嫉妬の炎が宿っていた。
「………………っていう事があったの」
「へえ、そりゃまた……」
学校から帰るなり月彦は部屋のベッドで寝ころび、隣に座った真央から下校途中に起きた珍事を聞かされていた。
「そういや居たなあ。その子、俺が帰るときもまだ座ってたよ」
正直、何事かと思ったものだ。月彦を含め、大多数の生徒は遠巻きに見ながら帰るだけ。何人かの生徒――おそらくは彼女の知人か――は声を掛けていたみたいだが、答えは返って来なかった様だった。
「ねえ父さま、あれってひょっとして“いじめ”なの?」
「うーーーーーん………………」
返答に困る問いだった。実際その場に居たわけではない月彦には事の細部は判らず、真央から聞いた話のみが判断の材料となるわけだが、それによるとどうもそうではないのではないか――と思える。
おそらくは由梨子とその円香という女子生徒はすこしばかり友達の線を踏み越えてしまった仲なのだろう。それでいて尚かつ、些かアブノーマルな趣向の行為を好み、今回はそれが痴情の縺れで少しばかり公になってしまったのではないか――というのが月彦の推測だった。
だから真央が言うように“いじめ”では無いと思う。思うが、問題なのはそうではないという事を真央にどう説明するかなのだ。
自分の推測を教え、由梨子とその子の関係はきっとこれこれこういう事に違いないから問題はない――そう言うのは簡単だ。しかし真央にそのような事を教えてしまって良いのかどうかが判らない。
自分はいい。世の中そういう趣向の人もいるだろうと、割り切って付き合う事も可能だろう。だが真央は――見た目こそ同年代に近いと言えなくもないが、どこか精神的に幼い所がある。そのくせそういった……いわゆる“行為”については母親譲りという事もあるだろうが、人並み以上の才能と好奇心がある。万が一そういったアブノーマルな行為に真央が興味を持った場合どうなるのか――それを考えると月彦は返答に困ってしまうのだ。
「いじめじゃ……ない。たぶん」
「でも……あんなの、かわいそう…………」
「きっと喧嘩でもしてたんだろう。由梨ちゃんだって真央を送った後ですぐに迎えに行ったに決まってるさ」
「……そうなのかな」
真央は得心がいかない様子だった。無理もない。
「気になるなら、明日由梨ちゃんに言えばいいさ。その先輩と仲直りするように」
「そっか……そうだね、言ってみる」
うんと頷いて真央は漸く肩の荷が下りたとばかりに笑顔を零した。一方月彦はといえば喜んでばかりもいられない。
まさか由梨子がそういった性癖の持ち主だとは夢にも思わなかった。そんな相手に「真央の友達になってやってくれ」と頼んでしまって大丈夫なのだろうか……。
「なあ真央。その由梨ちゃんなんだが……」
「由梨ちゃんがどうかしたの?」
聞き返しながらも、僅かな不信か笑顔の中に混じっている。ひょっとしたら月彦が他の娘の話をふるだけで邪推されているのかもしれない。
「いや、何か変なところはないか?」
「変なところ…………」
「その、やけに体を触ってくるとか……」
「うーん、無いと思うけど…………」
「そっか。ならいい」
とりあえず一安心。ほっと安堵する月彦に、真央は首をかしげている。
「まあとにかくだ。何かあったらすぐ俺に言うんだぞ。出来る限りの事はするから」
「大丈夫だよ。みんな優しいし、由梨ちゃんだって居るんだから」
その由梨ちゃんが心配なんだよ、とは月彦は言えない。
「優しいのは結構だ。だけど、男子の優しさは当てにしないほうがいい。つーか、それは百パーセント下心がある証拠だからな。絶対信用しちゃ駄目だぞ」
本音を言えば真央の姿が男子達の肉欲丸出しのギラついた目に映らないように全身を黒いヴェールで覆って隠したいくらいだった。しかし無論、そんな事は出来る筈もない。
「男なんて一皮剥けばみんなケダモノだ。どうすれば女の子とヤれるかに脳みその九割以上を費やしているような奴ばかりなんだ。ただでさえ真央は真狐に似て……その、なんだ……男としてはかなり理性を失しやすい体つきなんだから人一倍気を付けないと駄目だ」
男を見たら強姦魔だと思え、と断言する月彦に、真央はくすくすと無邪気に笑う。
「父さまだって男なのに、そんな事言ってもいいの?」
「俺は真央や真狐に散々鍛えられたからな。そんなちょっとやそっとじゃあ理性は――」「本当に?」
すすっ、と真央が四つんばいにベッドの上に乗ってくる。
「……こら、何考えてんだ。もうすぐ晩飯だぞ?」
といいつつも、重力によってよりその質量を強調させている胸元へと視線が釘付けになってしまっていては説得力のカケラもない。
「父さまも……どうしてそんなに真央の胸ばっかりじぃぃって見るの?」
四つんばいで尚かつ両腕で乳を寄せるような仕草をしておいてそのような事を言う。
「そりゃあ……大きいからだ。うん」
「そんなに……大きい?」
また寄せる。むぎゅうっ、と。制服のボタンがはじけんばかりに。
「だれかさんに比べりゃまだまだだが、それでも全然並以上だ」
「父さまは……大きい方が好き?」
「まあ、な。全然ないよりは、多少大きいくらいの方がいいさ」
「姉様がね、昨日……また大きくなったって言ってたの。父さまは……どう思う?」
「さぁ……そりゃあ成長期だから多少は発育してるかもしれんが……」
「確かめて」
ずい、とさらに身を寄せてくる。
「触って、確かめて」
「た、確かめてって……昨日の夜っつーか今朝も触っただろ?」
「今調べて欲しいの……」
真央はもどかしげに月彦の手をとり、自分の胸元へと誘う。
「……どう?」
「……今朝と同じくらいかな」
月彦が至極当たり前の事のように言うと、真央はむぅーと頬を膨らせた。
「直接触って、確かめて」
制服の前ボタンを外し、さらにブラウスのボタンをいくつか外す。白い生地の隙間から白い肌とブラが見え、月彦は思わず生唾を飲んでしまう。
真央に誘われるままにブラウスの隙間へと手を滑り込ませ、ホックを外してブラをずらし上げる。とたん、ゆさっ……と結構な質量が月彦の掌にのしかかってくる。
「どう? 父さま……」
「いや、だから――」
そこまで言いかけて、真央が怒るようなそぶりを見せたので月彦は慌てて言葉を止めた。
「そ、そうだな……確かに少し大きくなってきてる…………かも」
「本当? 母さまみたい?」
「いや、あんなには――」
と、また怒りそうなそぶりを見たので月彦は言葉を変えた。
「い、言われてみれば確かに、真狐そっくりだな。さすが母娘だ」
たぷたぷと掌の中で乳を弄びながら空笑いをする。真央も少し安堵したように表情を緩めた。
「じゃあ、もう父さまは母さまに会わなくてもいいよね?」
「へ……?」
突然何を言い出すんだと月彦の頭は混乱した。
「真央が母さまの代わりになるから、父さまは母さまに会わなくてもいいよね?」
「待て、待て……話が見えないぞ。なんで急にそういう話になるんだ?」
「なんで、って……」
真央は口を噤む。何かを訴えたげにじいと月彦の方を見るが、その意図するところが月彦には理解できなかった。
「代わりもなにも、会う会わない以前にあいつは顔自体めったに出さないだろ。何を張り合ってるのかはわからんが、あいつの事なんて気にするなって」
「でも、父さまは……母さまみたいに大きな胸が好きなんでしょ?」
「それは誤解だ」
月彦はきっぱりと言った。
「いやむしろあんなに大きいのは苦手と言ってもいい。こう、片手じゃおさまらんというか、揉んでも揉んでも腹立たしさしか湧かないと言うか――そう、腕が疲れるんだ。あんなに大きいと。だから俺は真央くらいが一番好きだぞ」
「じゃあ、どうして…………」
真央のその呟きはあまりにか細く、月彦の耳には届かなかった。
「ねえ、父さま……真央のこと、好き?」
「当たり前だろ」
「真央が、一番?」
「言うまでもない」
「じゃあ証拠、見せて」
「証拠?」
こくん、とうなずき、真央が月彦の上にまたがってくる。ああ、そういう“証拠”かと月彦は納得した。つまるところ真狐の事を持ち出したのも、この形へと持って来たかったからなのだと。
「……真央、すぐ晩飯だぞ?」
「うん……だから、一回だけ……」
「食い終わってからじゃ駄目なのか?」
「いま、したいの……」
微かに呼吸を乱しながら真央が被さってくる。そのまま唇が重なり、舌が絡み合い、ちゅく、ちゅくと音を立てながら互いの口を吸い合う。階下から聞こえてくるのは小気味のよい包丁の音、そして仄かに香る夕食の香り。真央の背に手を回し抱きしめながら、果たして間に合うのかと月彦は俄に不安に思うのだった。
「あっ、んっ……は…………く、う……!」
ずっ、と腰を埋めながら、真央が呻く。二人とも殆ど着衣のまま、だがしかし真央の下着だけは左足の足首に引っかかっているという様。時間がないという事は真央も承知しているようで、唇を重ねた後自ら下着を脱いだのだった。
既に、潤っていた。真央曰く「父さまと一緒に居るだけで、すぐに……」だそうだが、それが本当だとすれば最近の真央の節操の無さも幾分は納得がいくというものだった。
「ん、ぁ……す、ごい……お腹、ぐいぐい、押され、て……あは、ぁ……」
月彦の胸に手をつきながら、真央が悶える。徐々に、その腰をくねらせ、スカートの奥から淫らな音が響き始める。
「っ……真央の中も、相変わらず、キツイ、な……っ…………」
真央の腰の動きに合わせるように、ベッドのスプリングを利用して突き上げる。キシキシと音が響くが、愛娘の膣の感触に夢中になるにつれてそれも気にならなくなる。
「あっ、あっあっ、父さま、父さま……ぁ…………!」
月彦が動き始めると、途端に真央の動きが鈍る。体を前に居るようにして、何かを我慢するように肩を抱く。月彦はそんな真央の脚を……太股の付け根のあたりを掴み、腰を上げられないようにして一気に突き上げる。
「あっあっ、だ、めっ、と、さまっっ……あっ、やっ……やめっ……あっ、ぁっ、あッ!!!!!!!!」
一際甲高い声を上げて、びくんと真央がのけぞる。ぎゅうううっ、と剛直が締め上げられ、月彦もまた唇を噛みしめてそれに耐える。
「……今日は随分イくのが早いな、真央」
「ぁ……ぁ……だっ、って……と、さまに……胸、触られてる、間……ずっと、どきどき、してた、から…………」
息も絶え絶えに言い訳をする真央。一度イッたせいか、膣はさらに潤い、月彦の腰のあたりまで熱い蜜が広がってくる。スカートに滲むのも時間の問題のようだった。
「まあでも、真央が一回イッたから、もう終わりだよな?」
「えっ……」
「一回だけって言っただろ?」
「そ、それは……私じゃなくて、父さまが…………」
「つまり、一回中出しされるまで――と?」
「…………うん」
何が恥ずかしいのか、真央は顔を真っ赤にしながら頷く。
「そうか。……でも真央、それってズルいよな」
喋りながら、ずんっ、と突き上げる。何かを聞き返そうとしていた真央はとっさに悲鳴に近い声を出した。
「真央のほうは何回もイッてよくて、俺だけ一回なんて。……そうだな、真央が次イッても終わりってことにするか」
「そ、そんな……そんなのっ……あんっ!」
「嫌なのか?」
「だ、だって……それじゃ……」
「くす……そんなに中出しして欲しいのか?」
「ぅ………………」
また顔を赤くする。しかししっかりうなずきは返す。
「それなら話は簡単だ。俺がイくまで真央がイくのを我慢すればいいんだ」
とはいえ、普段は一回中出しされるまでに真央が数回、多いときは十数回イくのが恒例なのは月彦も承知している。それはつまり、真央の感度の良さの現れとも言えるのだが、ある意味では節度が無いとも言える。
つまるところ、退っ引きならないような状況でもしたい、したいと我が儘を言う真央へのちょっとした意地悪なのだ。無論途中で真央がイッてしまったからといって月彦は止める気など毛頭無い。自分がイッてもいないのに行為を止めるなんて生殺しも良いところだ。
「判ったか、真央。イッたら止めるからな。ちゃんと我慢するんだぞ?」
「あっ、あっぁっ……やっ、そんな、の……無理……あっあっあッ!」
真央の腰を掴み、ぐんぐん突き上げると早くも真央の声が極みへと登りかけた為、月彦は腰を掴んでいた手を離してそっと胸元へと回した。腰の動きを止めてブラウスごと、真央の巨乳を揉む。
「ほら、真央……はやくしないと……タイムリミットのほうが先に来るぞ?」
挿入されたまま胸を揉まれてとろけきっている真央を抱き寄せて囁きかけ、急かしてやる。手を離すと真央はゆっくりと体を起こし、腰をくねらせ始めた。
「ん……いい、ぞ……そう……締めたまま、動かされると……っぁ……たまん、ね……」
元々が真狐譲りの極上の膣なのだ。月彦とてそうそういつまでも余裕をかましていられるわけではない。……というより、真央の感度があまりに良すぎてすぐイッてしまうから月彦は余裕をかませるわけであって、月彦自身は決して遅漏ではないのだ。否、むしろ平均に比べて早いとすら言えるかもしれない持続時間だが、それでも真央のナカの具合を鑑みれば、良く健闘している方だと断言できる。
「あ、んっ……ぁ……うっ、ぁっ……奥、擦れ、て……ぁっ、ぃ……だ、っ、め……と、さま……も、イ、く……わた、し……イッちゃう……!」
「我慢、しろ……真央。イッたらそこで……終わりだぞ?」
上体を起こし、真央を抱きしめるようにして突き上げながら囁きかける。そのまま手を真央の尻へと回し、スカートの上から尻をこね回す。
「あぁッぁっ……と、さま……だめっ、だめっ……あっあっっ〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」
真央が唇を噛み、声を押し殺す。膣がぎゅうううと締まり、月彦の腕の中で痙攣を起こしたように体を震わせる。
「ん……真央、イッたのか?」
「い、イッて……ない……」
はあはあと吐息混じりにかろうじて否定する。嘘つきだな、と月彦は心中で呟きつつも、必死でイくのを我慢し、そしてイッてない演技を通そうとする真央が愛しいと感じる。「そうか。じゃあ……動かしても大丈夫だな?」
「えっ……ま、待って……んんんんッ!!!!」
真央の尻を掴んだまま、乱暴に突き上げる。イッたばかりの膣を刺激されて真央は声にならない声を上げ、月彦の背中に爪を立ててしがみつく。
「だめっ、だめっ……と、さま……私、もう、本当に…………!」
「本当に、イく?」
囁きながら、月彦自信限界が近いのを感じていた。腰の辺りに溜まった熱の固まりが今にも破裂しそうだった。
「良し……良く我慢した。ご褒美だ、真央……たっぷり、中出ししてやる」
「ぁ……とう、さま……嬉……し……ンッ……ぁっ、ぁぁぁっあっあーーーーッ!!!!!」
濃いものがどくん、どくんと音を立てて打ち出される。痺れにも似た快感を感じながらも、月彦は真央の尻をしっかりと掴み、己の子種を一滴残らず愛娘の膣に注ぎ込んでいく。
「んっ……んっ……うっ……ぅっ……ぁっ……はっ……ぁっ…………ぁぁぁぁぁ…………と、さまの……熱いぃ………………」
ふーっ、ふーっ、と互いにケダモノの様な息を吐きながらしばし抱擁を交わし、どちらとも無く唇を重ねる。ちゅく、ちゅくとたっぷりと互いの舌を吸いあい、絡め合った後、月彦は脱力してごろりと仰向けになった。
「ふぅう……真央、証拠は……これで、いいのか?」
「しょう、こ?」
まだ絶頂の余韻が抜けきらないのか、ろれつの怪しい言葉遣いで真央が尋ね返す。
「真央が証拠を見せろっていうから……」
そもそもこんな事になったんじゃないかと月彦は非難の目を向ける。
「……まだ、足りないかも」
「足りないぃ!?」
月彦は思わず声を裏返らせてしまう。
「だから……後で証拠の続き、ね?」
くちゅ、と音を立てて腰をくねらせながら、誘うような笑み。その笑い方が真狐にそっくりで、月彦は思わずため息をつきたくなった。
「真央、そんなにエッチな事ばかり考えているとだな、将来真狐みたいに――」
「月彦っ! 真央ちゃん!」
ばんっ、と突然部屋の扉が開かれて月彦はどきりと胸を弾ませた。開けたのは葛葉だった。
「二人とも、ご飯の用意が出来たって何回言ったらわかるの? いつまでも遊んでないで早く下りてらっしゃい」
ベッドの上で硬直している二人目掛けて多少怒ったような口調で言い、そのままとたとたと葛葉は下りていく。月彦も真央もたっぷり一分間は身動きが出来ず、口もきけなかった。
「……びっくりした」
「私も……」
不幸中の幸いといえば、二人が殆ど着衣のまま行為に及んでいたこと。そして真央のはだけた胸は部屋の入り口からは死角となっていた事だった。
「な、真央。今度からこういう時間がやばいときにするのは止めよう。……何より心臓に悪い」
真央もこの提案には納得がいったのか、あっさりうんと頷いた。尤も、どこまで本気かは月彦には判らないが……。
「にしても“いつまでも遊んでないで”って……母さん、一体俺たちが何して遊んでると思ったんだ?」
我が母親ながら判らない、と月彦は首を捻りつつ、階下へ降りる支度をするのだった。
悪い予感は、確かにあった。否、予感というよりも予兆――そう、階下へと降りる途中真央が「懐かしい匂いがする」と漏らしていたところで気がついても良かったのだ。
夕食は鍋料理のようだった。葛葉は上機嫌で、何かを言い出したくてたまらないという顔だった。
月彦も真央も席に着き、唯一霧亜の席だけが空いていた。珍しいことではない、ここ一月ほど夜間外出しない日の方が少ないのだ。葛葉は霧亜を完全に信用しているのか、無論これを咎める事も何処に行っているのかを聞こうともしない。
「霧亜も、今日くらいは家に居てもいいのにねぇ」
せいぜいそう漏らす程度だ。大変大らか、ある意味放任主義とも言える。
「……やけに豪勢だけど、今日って何か特別な日だっけ」
食卓の真ん中に座る鍋、茶碗に盛られほくほくと湯気を上げる炊き込みご飯、その他サラダや揚げ物など到底三人で食べるには多すぎる量の料理が用意されていた。
「うふふ、秘密よ」
葛葉はまるで十代の乙女のように悪戯っぽく笑い、答えをはぐらかすもその顔は言いたくてたまらないといった風だった。この様子では食べ終わるまでには我慢出来ずにしゃべり出すだろうと月彦は判断して、無理に聞き出さずに頂きますを言う事にした。何より思わぬ食前の運動で腹も減っていた。
真央もまた、釈然としない顔をしながらもいただきます、と鍋をつつき始めた。そんな二人の様子を見て、葛葉は早くもうずうずと身をよじり始めた。
「ん、母さん、これ……もしかして松茸?」
炊き込みご飯に入っていたそれを箸で摘み、月彦が驚きの声を上げる。縦に切られたそれはまさしくキノコの形をしていた。
「うわっ……しかもこんなに……」
行儀が悪いのは承知で月彦は箸で茶碗の中をまさぐってみた。ニンジンやゼンマイ、タケノコに混じってゴロゴロと松茸らしき固まりが次々と発掘され、そのあまりの分量に月彦は度肝を抜かれた。
「松茸って……高いんじゃないの?」
月彦の問いに、葛葉はにこにこと笑みを浮かべたままだ。もう喉まで言葉が出かかってる、そんな顔だ。
「ふふ、値段を聞いたら絶対驚くわよ」
「……まさか、ン万円?」
松茸の大きな固まりを口に運びその芳醇な味わいに決して安いものではなかろうと月彦は判断した。しかし、葛葉の答えは――
「答えはタダ。全部もらいものよ」
「もらい物!?」
思わず声を荒げてしまった。一体誰から貰ったというのか、月彦はとっさに親戚一同の顔を思い浮かべたが、今まで誰からも松茸を貰った記憶など無かった。
「父さんの友達か誰か?」
「ハズレ。月彦も会った事がある人よ」
「ま、まさか……父さん本人?」
それだけは無いだろうと思いつつ、それならば葛葉がこうも上機嫌なのは納得がいくと月彦は思った。だが、葛葉はまたしても首を振った。
「今日、真央ちゃんのお母さんに会ったの」
ぶっ、と月彦はとっさに口の中のものをはき出してしまった。真央の方を見るとご飯を喉に詰まらせて苦しんでいた。
「いつも娘がお世話になってますーって、いっぱい山菜をくれたの。真央ちゃんのお母さんとっても礼儀正しい方ね」
「礼儀正しい……?」
一体誰の話をしていたんだったか――月彦は軽い混乱に陥ってしまった。
「露出狂みたいな着物を着て人を指さしながらケタケタ笑ったりしてなかった?」
「とてもきちんとした身なりで平身低頭な人よ。……月彦、貴方も会ったことあるんでしょう?」
どうやら月彦が言ったのは冗談だと思われたようだ。葛葉はくすくす笑っている。
「何でも借金があって、いろいろ大変みたいじゃない。真央ちゃんだけはゴタゴタに巻き込みたくないからこれからもお願いしますって仰ってたわ。……母さん、少し感動しちゃった」
「…………よくもまぁ」
そんな出鱈目を人の親に吹き込んでくれたものだと月彦は呆れる思いだった。
「真央ちゃんに会っていったらどうですって勧めたんだけど、会うと別れが辛くなるからって夕方前に帰られたわ。本当はあなた達にも来たことを黙ってて欲しいって言われたんだけど……ねぇ?」
何がねぇ?なんだか――月彦はため息をついた。恐らく――というか絶対あの女は葛葉が喋ると確信して黙ってて欲しいと言ったのだろう。間違いない。
しかし、そうなると目的は何なのだろう。真狐がただ酔狂で人の留守中に家に上がり込み、葛葉を騙すとは思えない。いや、確かにアイツならばそういった意味のない事をやって自分たちが勘ぐる様を見て楽しんでいる可能性も否定できないのだが……。
「ねえ、父さま……どうしよう」
気がつくと、真央が椅子を寄せてきてなにやら耳打ちをしてきていた。
「母さまが差し入れた山菜……食べちゃって大丈夫かな?」
「……っ!」
まさに、真央の言うとおりだった。二人のそんな危惧をしらない葛葉はニコニコ笑いながら箸を進めるのだった。
見れば、明らかにおかしな材料が鍋の中に盛り込まれていた。赤いカサに白の斑点模様の見ようによっては人の顔に見えなくもないようなガラの怪しいキノコや、引き抜くときに叫び声を上げて人を殺しそうな根野菜まで見つかった。
「こらっ、月彦。さぐり箸はお行儀が悪いわよ」
箸で掴んだものはちゃんと最後まで食べなさい――葛葉にそう言われた瞬間月彦が箸で摘んだものはどう見てもイモリの黒焼きにしか見えないものだった。仕方なく自分の皿に移しながら、これをそのまま鍋に放り込んでしまう母親の常識を月彦は疑わざるを得なかった。
「私、食欲が……」
そんな事を言って戦線離脱を計ろうとする真央の腕を掴んで、月彦は無言で首を横に振る。そこには娘を思いやる父親の温情は微塵も無く、しなばもろともという人として浅ましい感情だけが存在していた。
ここに来て月彦は確信していた。真狐が“不幸な母親”を演じたその理由。それは自分が持ってきた食材を月彦らにちゃんと食べさせる為だったのだ。葛葉が先に語ったように振る舞っていれば、葛葉としては腕を振るわざるを得ない。そしてその話を聞いた月彦らとしても葛葉の手前、料理を無碍にするわけにもいかない。
なんて意地の悪い奴だ。その頭をもっと何か別の建設的な事に使う気はないのだろうか。
「大丈夫だ、いくらアイツでも毒を盛ったりはしないだろう……」
せいぜいいつぞやのように精力増強&催淫効果のダブルパンチで真央と一緒に眠れぬ夜を過ごすくらいだろうと月彦はタカをくくっていた。後にそれは甘い考えだったと気づかされるのだが……。
ほら来た。やっぱり来た。予想通りだったと、月彦は自室でほくそ笑んでいた。
夕食は、それはもうしっかり食べさせられた。食後は特に変わりはなく、いつものように真央と一緒に風呂に入って(そんで少しだけエッチなこともして)先ほど上がって部屋でくつろいでいたところで、予想通りの効能が来た。
腹の底からむらむらとわき上がる衝動。下着を突き破らんばかりに屹立した股間。やっぱりだ畜生。やっぱりアイツはろくなモノを差し入れないと月彦は内心で毒づいていた。
真狐の思惑にまんまとハマッてやるのは癪だが、このまま悶々と夜を過ごすのも馬鹿馬鹿しい。そもそもそんなに我慢強くもないし、何より多少食べたものの違いはあれど真央とて似たような状態になっている可能性が強いのだ。となれば、月彦が我慢したとしても真央のほうが我慢出来ずに誘ってくるだろう。
哀れなのは葛葉だ。訳も分からないまま悶々とした夜を過ごすことになるだろうが、こればかりは月彦にはどうしようもない。それに自ら腕を振るった割には葛葉自身は小食でたいした量を食べていないから効能も薄いかもしれない。と、月彦は楽天的に結論づけた。
とにかく、今は真央を襲いたくてしょうがなかった。風呂を上がった後、真央だけがその長い髪を乾かす為脱衣所に残っているのだ。早く、早く上がってこい。ああもうじれったい。自ら赴いて脱衣所で立ったまま犯してやろうか――そんな危ない考えを月彦がうずうずしながら抱き始めた時、辿々しく部屋のドアノブが回った。
「真央、髪は乾いたのか?」
嬉々と声を上げ、部屋の入り口の方を見る。――が、ドアノブが回ったものの、回した本人は一向に部屋の中に入って来ようとしない。
「真央……?」
月彦がもう一度呼んで、漸くその人物は室内へと入ってきた。途端、月彦は口を開けたまま仰天してしまった。
「どうしよう、父さま……」
真央はそのパジャマの裾を……体躯に対してあまりに長いそれをぶらぶらさせながら、困ったように呟いた。
「私……縮んじゃった……」
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