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今年見た映画。ビデオも含む(お金無いし)。
- モーヴァン
- モーヴァンとは主人公の女の子の名前。クリスマスの朝に、書き上げたばかりの小説とそれを投稿する出版社のリスト、"MUSIC FOR YOU"と書かれたミュージックテープとポータブルプレイヤーを残して恋人が自殺してしまう。残された彼女は、悲しみに暮れながらも、小説の著者名を自分の名前に書き換えて出版社に送り、思わぬ大金を手にする。そのお金と彼の残したミュージックテープを携え、冴えない日常からの脱出を図る。という話。普通に考えればかなり身勝手な行動に出る主人公だけど、その大胆さの裏には繊細な心の動きがあり、不思議な親近感を覚える。自殺した彼氏に寄り添う主人公をクリスマスツリーの明滅が照らす美しいオープニング、その彼との別れの「儀式」、バカンスに訪れたスペインの風景、それらの映像が夢のように現れては消えていき、見終わった後には妙に清々しい気分になった。なんか、ほんとに変わった映画だった。ところでこの作品の監督は女性だそうで、観るほうも女の人だったらもっと共感できるんじゃないかと思います。
- 少女の髪どめ
- イランの映画監督マジッド マジディーの「運動靴と赤い金魚」、「太陽は僕の瞳」に続く最新作です。主人公の青年が働く建築現場に少年が新たに雇われる。青年は始めその少年を憎むのだが、ある日少年が実は少女であることを知り、彼女に無償の愛を捧げる。という、まあなんとも、て感じのストーリーです。無償の愛、とか言われると確実に引いてしまう私ですが、そこはこらえて(マジッド マジディーに免じて)見に行きました。さすがに「なんとも」な展開なのですが、そこはマジディー作品。妙なセンチメンタリズムに陥らず、ラストはちょっと意外な結末でした。映像はやっぱりきれいです。ロケ場はあまり清潔そうではないのですが、イラン映画特有の瑞々しさがあります。それだけでも見る価値はあると思いますが、やっぱりストーリーでも心を動かされたいと言う人にはあんまりお勧めできないかも。そんな方はとりあえず「運動靴と赤い金魚」から見たほうが無難だと思います。
- WATARIDORI
- タイトルまんまで、渡り鳥が悠々と渡っていく姿をただただ追っていくというドキュメンタリーです。ストーリーはありません。でも結構感動しました。映像が本当に凄くて、渡り鳥達と一緒に世界を俯瞰しながら飛んでいる気分が味わえます。興味がある方は必ず映画館で見るべきでしょう。ストーリー展開と言う意味においては退屈なのでビデオで見るんだったら見ないほうがましかもしれない。基本的に鳥が飛んでるだけということには変わりがないので途中で眠くなる可能性が高いですが、映像として一見の価値ありまくりです。
- 過去のない男
- 酔っ払いとしても有名なアキ・カウリスマキ監督の新作。暴漢に襲われた中年男が記憶を喪失したままヘルシンキの貧しい家庭に助けられ、彼らと生活するうちに救世軍の女性と出会い恋に落ちるというもの。非常に渋くてほのぼのとしたいい映画でした。主人公が見た目にはとても魅力的とは言いがたいしょぼくれたおっさんなのに、どこか憎めないキャラクターで、不思議と共感してしまいます。アキ作品を見るのは初めてなのですが、脇役悪役も含めて登場人物がみんな表面には現れない不思議な魅力を持っていて、何が起こるわけでもない淡々とした日常の描写においても、なんかいい雰囲気です(うまく説明できない)。なんとなく「BARに灯ともる頃」という映画を思い起こしました。あんな感じの雰囲気があります。そして、そういう雰囲気が私は凄く好きです。おすすめ。
- 春の惑い
- 田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督の10年ぶりの新作で、1948年の作品「小城之春」のリメイク。古典作品のリメイクらしく、シンプルでわかりやすいストーリーです。ざっと説明すると、とある冷め切った夫婦のもとに夫の旧友という客が訪れる。そしてその客人は実は妻の昔の恋人であり、妻は夫と昔の恋人の間で激しく揺れ動く、というもの。まさにメロドラマ。普通だったらもちろんこのような映画は見ない私ですが、それでも見に行ったのには理由があります。私が注目したのはカメラが李屏賓(リー ピンビン、マーク・リー)だったと言う事。この人は私の大好きなトラン アン ユン監督のベトナム映画「夏至」でもカメラを握った人なのです。この人の紡ぐ映像はほんと独特で、まず視点が変わっている。庭の植木や木戸の格子等の物陰を挟んで被写体=登場人物をそっと見守るような撮り方をします。そしてカメラの動きはあくまでスロー。そうする事で近くの植木や格子、遠くの登場人物の動き、というような遠近感が際立ち、平面的になりがちな映像を奥行きのある「空間」へと昇華せしめています。それだけじゃない。光と影の使い方ももの凄くうまい。陽光や蝋燭の光とそれに映し出される肌の質感とその背後に揺らめく柔らかな影。その影はデビッド リンチの作品に見られるような吸引力のある絶対的な影とは全く違い、光と侵食しあい包み込むような「柔らかさ」を持っています。そして、それらの要素が重なり合って成り立った映像にはしっとりとして艶のあるある種なまめかしい映像になるのです。なんか全体的に湿度の高い印象の映像です。で、この映画でもその手腕は余す事無く発揮されていて、もの凄く素晴らしかったです。メロドラマもここまで行くと芸術だなぁ、と。そのせいか、わかりやすい展開なのにかなり感情移入してしまい、最後の方は感動して泣きそうでした。実は。そしてもう一つこの映画に関して特筆すべき事があります。役者がとてもよかったのです。特に夫(リーイェン)役の呉軍(ウー ジュン)という人がもの凄く良かった。少ないせりふ、少ない動き、微妙な表情でリーイェンの複雑な心境を完全に表現しきっていました。これで映画初出演だそうです。更にびっくりです。この人は間違いなく天才なのでこれからもいい作品にいい形でどんどん出てきてほしいです。長々と書いてしまいました。要するに大当たりでしたよ、この作品。こんな風にマニアックな見方をしなくてもある程度感性のある人であれば多分心を動かされると思います。見てみてはいかがでしょう。
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