入門その頃のバス

トロリーバス(事業者別)

トロリーバス トロリーバスは、日本語では無軌条電車(戦前には無軌道電車)と呼ばれる鉄道車両です。屋根上のトロリーポールを使い、架線から集電して走ります。軌道がないため、自動車(バス)と同じタイヤで走り、操舵装置はハンドルです。
かつては都市交通の一翼として、主要都市(東京、川崎、横浜、名古屋、京都、大阪)に導入されましたが、路面電車と同様、自動車交通の増加により1972年の横浜市を最後に全廃されました。
一方、山岳観光地の立山黒部アルペンルートでは、環境への配慮から、関西電力が1964年から、立山黒部貫光が1996年から運行を始めました。ただし、これも電気バスへ代替され、日本からトロリーバスは姿を消しました。

日本のトロリーバスの概略

表9-1-1 国産のトロリーバス(ユーザー別)
年代京都市名古屋市川崎市東京都大阪市横浜市関電立黒
営業期間
/製造初年
1932
〜1969
1943
〜1951
1951
〜1967
1952
〜1968
1953
〜1970
1959
〜1972
1964
〜2018
1996〜
1932年5号◆
1934年6号■
1940年7号◆
1943年10000形◆
1944年12000形
1951年100形
200形
300形
1952年100形50形
1953年100形1形 G
1954年200形◆▲□
1955年200形500形 
1956年300形▲□200形●G
300形●G
 
1958年300形
300形
1959年250形●▲□
350形●▲□
100形 
1960年600形
1962年700形
1964年100形
1969年200形
1993年300形
1996年8000形
備考シャーシ桃色=日野、緑色=三菱
電装品:●=東芝、◆=三菱電機、■=東洋電機、▲=日立、□=日車、G=GE、
トロリーバスは、シャーシ、電装品、ボディの組み合わせにより作られます。事業者(ユーザー)で固有の「形式」が付けられる点は通常の鉄道車両と同じです。従って、上の表に見られる300形などの「形式」は、事業者ごとに付けられたもので、同じ形式でも事業者が異なれば全く別の車両です。
シャーシには日野と三菱が存在し、バスと同様に「型式」があります。この「型式」は、ユーザーの「形式」とは無関係です。
電装品は、主に東芝、三菱電機、東洋電機、日立が採用されており、京都市が三菱電機、関電系が東芝を採用するなどの傾向はあるものの、複数のメーカーを採用している事業者が多いようです。


日本のトロリーバス(ユーザー別概略)

日本で初めてのトロリーバスの営業運転は、1928(昭和3)年の日本無軌道電車(株)(新花屋敷温泉土地を改称)によるもので、駅から自社の遊園地までの坂道を走る送迎目的の交通機関でした。しかし、1932(昭和7)年には廃止されています。
都市交通としては、京都市が1932年に開業させたのが最初で、戦時中の1943(昭和18)年に名古屋市でも開業しています。
終戦後の1950年代にトロリーバスブームが起き、川崎市、東京都、大阪市、横浜市で相次いでトロリーバスが運行を開始しています。ただし、これらは自家用車の増加による道路事情の悪化等により、1972年までにすべて廃止されました。
これと異なる動きが山岳観光地の立山黒部アルペンルートで、関西電力が1964年に、立山黒部貫光が1997年に運行を開始します。これは排気ガスの出ない環境適合性が評価されたものです。もっとも、関西電力は2018年に、立山黒部貫光は2024年に運行を終了し、電気バスに代替されています。
ここでは、運行事業者ごとの概要を、運行開始順に記述します。

京都市交通局

京都市は、都市交通のトロリーバスとしては日本で初めて、1932(昭和7)年に開業しています。
路面電車でなくトロリーバスを採用したのは、経路の途中に山陰本線や嵐山線との平面交差があったからと言われています。
開業時はイギリス製の輸入車4両でスタートしましたが、間もなく国産車を投入しています。
戦後の新車は、電装品は三菱電機、車体はナニワ工機製に統一されています。最終増備車の300形は、窓幅の広いスマートな車両で、最新の318号は1965年製です。

京都市交通局 300形(313号)
トロリーバス

画像:所蔵写真(梅津車庫 1969.9)

表9-1-2 京都市交通局のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
1形1・21932年ガイモーターストムソンハウストン(48.5kW)ガイイギリス製
3・41932年E.E.E.E.(48.5kW)E.E.イギリス製
5・71932・40年日本車輌三菱電機(26.1kW×2)日本車輌
61934年川崎車輌東洋電機(47.5kW)川崎車輌
100形101〜1061952・53年日野TR23三菱(75kW)ナニワ工機
200形201〜2021955年日野MC30三菱(100kW)ナニワ工機
300形301〜3051958年日野MC31三菱(100kW)ナニワ工機
306〜3181958〜65年三菱TB13三菱(100kW)ナニワ工機
凡例
名古屋市交通局

名古屋市交通局では、戦時中の1943年にトロリーバスを開通させています。
日華事変により名古屋市周辺が軍需工業地帯となり輸送量が激増したものの、バスはガソリンの統制下にあり、路面電車はレール用鉄材が確保できないなどで、レールのいらない無軌条が選択されました。
車両は木南車輌製を新造しますが、輸送量の増大等により、日産バスに市電の散水電車の制御器を取り付けた改造車を増備しています。これらの車両の性能向上改造による車両不足が生じたため、トレーラータイプを含む日野の試作車を3か月間借用しています。
しかし、1951年には有軌条化により、トロリーバスは廃止されました。

日野ヂーゼル工業TT10型(1949年製)
トロリーバス

画像:所蔵写真(日野ヂーゼル工業 1949)

表9-1-3 名古屋市交通局のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
10000形10001〜100151943年木南車輌三菱電機(50kW)木南車輌
12000形12001〜120081944〜45年日産自動車(19kW)日産バス改造
凡例
川崎市交通局

川崎市は、戦後のトロリーバスブームの先陣を切って1951年に開業しました。
広瀬車輌製や日野ヂーゼル製の試作車を購入したり、電装品も3メーカーを採用するなど、車種は多彩です。しかし、1963〜65年の車体更新で、富士重工のヒサシ付R13型ボディに生まれ変わった車両も多く、また最後の新造車700形は、1967年の路線廃止後に横浜市に譲渡されています。
写真は、廃車体として現存する100形

川崎市交通局 100形(104号)
トロリーバス

撮影:二子塚公園(2005.1.22)

表9-1-4 川崎市交通局のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
100形101〜1041951年日野TR22東芝(100kW)富士重工R5型1963更新(富士R13型)
200形201〜2021951年日野MC10※東洋(75kW)宇都宮車輌1964更新(富士R13型)
300形301〜3041951年日野/金剛三菱(75kW)宇都宮・広瀬1962〜65更新(富士R13型)
500形501〜5021955年日野MC20※東芝(100kW)富士重工R7型
600形601〜6031960〜61年三菱TB15東芝(100kW)東急車輌
700形701〜7041962年三菱TB15東洋(100kW)富士重工R13型横浜市に譲渡
凡例104号は、日野・東芝・富士の1950年製試作車(日野TR20)
304号は、広瀬車輌の1950年製試作車
※印=型式は推定
東京都交通局

東京都交通局は、1952年に開業し、1968年に廃止となっています。
シャーシはすべて日野で、車体は富士重工が中心です。富士重工以外のボディメーカーも、スタイルは富士重工に合わせています。
1957年開通の103・104系統は、1500V鉄道との平面交差があるため、補助エンジン付の車両が投入されています。
新造から5〜6年程度で、富士重工にて車体更新が行われており、その時代のスタイルに変りますが、更新後のスタイルは富士重工R7型・R11型であり、ヒサシ付のR13型は存在しません。

東京都交通局 50形(63号)
トロリーバス

画像:所蔵写真(今井橋 1950)

表9-1-5 東京都交通局のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
50形51〜701952年日野TR20東芝(100kW)富士重工R5型1957〜58更新(富士R7型)
100形101〜1051954年日野TR22東洋(100kW)富士重工R7型1960〜61更新(富士R11型)
200形201〜2301955年日野MC11日立(100kW)
三菱(100kW)
富士重工R7型
ナニワ・川車
1962〜63更新(富士R11型)
231〜2391957〜58年日野MC12三菱(100kW)
日車(100kW)
富士重工R7型231〜235号は
1962〜63更新(富士R11型)
250形251〜2651959〜63年日野MC12日車(100kW)
東芝(100kW)
日立(100kW)
富士重工R11型
日車
300形301〜3341956〜59年日野MC13日立(100kW)
日車(100kW)
富士重工R7型
ナニワ工機
301〜320号は
1964〜65更新(富士R11型)
350形351〜3581960〜63年日野MC13東芝(100kW)
日車(100kW)
日立(100kW)
富士重工R11型
凡例300形・350形は、補助エンジン(いすゞDA78形)付
更新後の301〜320号は、系統幕付
大阪市交通局

大阪市交通局では、1953年にトロリーバスを開業させ、1970年に廃止となっています。
開業時の1形(→100形)は、電装品にアメリカのGE製を用いたほか、車体はフレームレスの川崎航空機製を採用しました。200形以降は、前構と後構を共通にしたボディが特徴です。ボディメーカーは多岐に渡りますが、富士重工が自社のバススタイルを採用した以外は、川崎航空機ベースのスタイルです。

大阪市交通局 200形(205号)
トロリーバス

画像:大阪市交通局発行絵葉書(1957)

表9-1-6 大阪市交通局のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
100形101〜1081953年日野TR24GE(100kW)川崎航空機当初は1形
200形201〜2151956〜58年三菱TB12東芝(100kW)
GE(100kW)
川崎航空機
221〜2641960〜61年三菱TB12東芝(100kW)東急、帝国、
大阪、ナニワ
中ドア引き戸
300形301〜3191956〜59年日野MC40東芝(100kW)
GE(100kW)
川崎航空機
富士重工R9型
ナニワ工機
321〜3681960〜63年日野MC40東芝(100kW)
GE(100kW)
三菱(100kW)
川崎、近車、
ナニワ、大阪
中ドア引き戸
凡例
横浜市交通局

横浜市交通局のトロリーバスは、都市交通では最後の1959年に開通し、やはり最後の1972年まで運行されました。
車両は100形1形式で、シャーシは三菱に統一されています。車体は、東急車輌製と富士重工R13型の2種類です。
なお、1967年に廃止となった川崎市から4両を譲り受け、100形に編入しています。トロリーバスの譲渡例としては唯一のものです。

横浜市交通局 100形(101号)
横浜市100形

画像:横浜市交通局パンフレット(1959)

表9-1-7 横浜市交通局のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
100形101〜1151959〜60年三菱TB14日立(100kW)東急車輌
116〜1201962〜63年三菱TB14日立(100kW)富士重工R13型
121〜1241962年三菱TB15東洋(100kW)富士重工R13型1967譲受(川崎市700形)
凡例
関西電力

関西電力では1964年に、立山黒部アルペンルートの長野県側の玄関口である扇沢から黒部ダムまでの間のトンネル区間にトロリーバスを導入しました。山岳観光地の環境に配慮した交通機関という位置づけでしたが、2018年に運行を終了し、電気バスにその座を譲りました。
車両は、本社所在地である大阪市のトロリーバスに準じ、三菱・東芝・大阪車輌の組み合わせです。前後のプレスが共通である点も大阪市に倣っています。
1993年にVVVFインバータ制御でスケルトンボディの300形を登場させています。

関西電力 200形
トロリーバス

撮影:扇沢駅(1989.6.18)

表9-1-8 関西電力のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
100形101〜1061964年三菱東芝(120kW)大阪車輌1976〜78改修(中扉増設)
107〜1101966〜69年三菱東芝(120kW)大阪車輌1978〜79改修(前扉のまま)
200形201〜2051969〜73年三菱東芝(120kW)大阪車輌1988〜91改修(前扉増設)
300形301〜3151993〜96年三菱東芝(120kW)大阪車輌
凡例100形・200形は車体改修の際、番号に10がプラスされている。(例101号→111号)
立山黒部貫光

関西電力と同じ立山黒部アルペンルートの富山県側の立山トンネルを走る「トンネルバス」には、通常のディーゼルエンジンのバスが使用されていましたが、環境への配慮から1996年よりトロリーバスに変りました。
車両は、関西電力300形とほぼ同形の8000形が投入されました。

立山黒部貫光 8000形(8006号)
トロリーバス

撮影:室堂駅(2022.11.16)

表9-1-9 立山黒部貫光のトロリーバス
形式番号製造年シャーシ主電動機車体備考
8000形8001〜80081996年三菱東芝(120kW)大阪車輌
凡例
トロリーバスに関する主な参考文献
  1. 鉄道ピクトリアル編集部(1952)「米国のトロリーバスと日本」鉄道ピクトリアル12
  2. 吉川文夫(1956)「日本のトロリーバス通観(上)(下)」鉄道ピクトリアル56・57
  3. 今城光英(1969)「都営無軌条電車の16年(上)」鉄道ピクトリアル221
  4. 益井茂夫(1972)「(失われた鉄道、軌道を訪ねて31)名古屋市無軌条電車」鉄道ピクトリアル270
  5. 京都大学鉄道研究会(1972)「(失われた鉄道、軌道を訪ねて32)京都市無軌条電車」鉄道ピクトリアル271
  6. 吉川文夫(1973)「(失われた鉄道、軌道を訪ねて33)川崎市無軌条電車」鉄道ピクトリアル274
  7. 三神康彦(1973)「(失われた鉄道、軌道を訪ねて34)横浜市無軌条電車」鉄道ピクトリアル279
  8. 吉川文夫(1994)「日本のトロリーバス」
  9. 荻野基・宮武浩二(2017)「大阪市営無軌条電車のあゆみ」ネコ・パブリッシング
トロリーバスの記述について
  1. トロリーバスの形式は、ユーザーによって300型など「」を用いるケースがありますが、本稿では、ユーザー形式は「」の表記に統一します。
    なお、メーカーのシャーシ型式は「」を用います。
  2. トロリーバスでは、定期的に車両更新を行う事業者があります。東京都、川崎市では、車体を完全に載せ替える工事を実施、関西電力では車体に改修を加える工事を実施、いずれも「更新」と呼ばれています。本稿では、これを区別し、前者(車体の載せ替え)を「更新」、後者を「改修」と記載します。
  3. 富士重工の車体呼称については、「富士重工業三十年史」(P.376)に基づき、リアエンジンバスと同じR5型などと呼称します。

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