■ 自動経路集約
さて、ネット君。まず経路集約の話から始めよう。
またですか?
ほほぅ、「また」とな?
なかなか偉そうな口をきくようになったものだな。
あ、いや、あの、だって。
BSCI第3回、BSCI第10回にもやってますし。
うむ。そう言われれば、確かにそうだ。
だが、IPアドレスの節約の意味もあるが、経路集約はスケーラブルなネットワークのお約束なのだよ。
すけーらぶる?
階層的・段階的、という意味でとってもらうとわかりやすい。
階層的なネットワークを行うことにより、経路集約ができる。経路集約の利点は?
利点と言えば…。
- テーブルのサイズが縮小することにより、必要メモリ、ルーティング時のテーブル検索にかかるプロセッサのパワーなどが小さくてすむ
- アップデートのサイズの縮小により、トラフィック量が減少する
でしたよね。
うむ、ルータにとっていい事づくめだろう。
特にOSPFやEIGRPのような中〜大規模ネットワークのルーティングプロトコルには必須の機能だ。
なるほど。EIGRPにも経路集約はある、と。
うむ。EIGRPの経路集約は、自動経路集約だ。
自動経路集約?
ってことは、自動で経路を集約するんですか?
自動経路集約といっているのに、手動で経路を集約したら自動とは言わないだろう?
もちろん、ルータが自分で判断して経路を集約するのだ。
ははぁ、そりゃすごいですねぇ。
もちろん、条件がある。EIGRPが経路集約するのは、クラスネットワークの境界だけだ。
クラスネットワークの境界?
そうだ。クラスA、クラスB、クラスCそれぞれのネットワークの境界、ということだな。
図で説明すると、こうだ。
[FigureRT14-01:自動経路集約]
ルータAは、172.16.0.0ネットワークと192.168.0.0ネットワークの境界に存在する。
この時、上の図でいけば172.16.0.0のサブネットを集約してルータBにアップデートを送る。
ははぁ、なんか普通なんですけど。
うむ、そうか?
自動集約できない例を出した方がいいか。
[FigureRT14-02:自動経路集約できない]
ルータAは172.16.0.0/17と172.16.254.0/24との境界に存在するが、クラスで見れば172.16.0.0/16という同じネットワークに所属している。なので集約しない。
あ〜。確かに左のネットワーク群が172.16.0.0/17で集約できるならしたほうが便利ですよね。
でも、クラスで考えれば同じネットワークだから、しない、と。
そういうことだ。
EIGRPは自動で集約するが、集約したアップデートは必ずクラスのネットワークということだな。
ははぁ。便利なんだか不便なんだかわかりづらいですねぇ。
■ 手動経路集約
もちろん、EIGRPでも手動で集約できる。
コマンドはコレだ。
- Router(config-if)#ip summary-address eigrp AS-number network mask
(config)#ではなくて、(config-if)#なのがポイントだな。
つまりアップデートを送り出すインタフェースに設定する。
OSPFは(config-router)#area area-id range ip-address subnetmask でしたよね。
うむOSPFのAS内部経路集約はarea idコマンドだな。
OSPFのsummary-addressはLSAタイプ5用の経路集約だ。こっちも(config-router)#だな。
う〜、ややこしい。
それと、手動と自動を両方設定すると、両方ともアドバタイズされるということも覚えておけ。
?
さっきの例で言えば…
[FigureRT14-03:手動集約と自動集約]
左のネットワークは集約すると、172.16.0.0/17だから、そのように手動集約したが。
自動集約もできるため、自動集約した172.16.0.0/16もアドバタイズしてしまう。
あららら。それはちょっとアレですね。
うむ。なので自動集約をはずしたい場合は。
- Router(config-router)#no auto-summary
で、自動集約を切ることもできる。
これは(config-router)#ですか。う〜ん…。
■ nullインタフェース
経路集約に関してはもう1つ、nullインタフェースというのを説明しておこう。
なる いんたふぇーす?
一般的に「null」は「ヌル」と読むことが多いが。
ともかくEIGRPの集約時に自動で作られる論理的インタフェースで。使い道は以下の通りだ。
[FigureRT14-04:null interface]
ははぁ。きたパケットを破棄してしまうインタフェースですか。
そうだ、だから「null」インタフェースという。
集約により作られるnullインタフェースは、アドバタイズしたアドレスの行先インタフェースになる。
アドバタイズしたアドレスの行先?
あ〜、今回の例ですと、172.16.0.0/16をアドバタイズしたから、172.16.0.0/16はnullインタフェースに送られるってことですか。
そういうことだ。
さて、ネット君。OSPFの経路集約を思い出して欲しいのだが、OSPFの経路集約はどのルータが行った?
どのルータ?
……、ABRとASBRってことですか、博士?
うむ。そうだ。つまり境界ルータしか経路集約ができない。これがOSPFだ。
だが、EIGRPでは任意のルータで経路集約が可能だ。
任意のルータっていうことは、経路集約ができそうならどのルータでもって意味ですよね。
そういうことだ。よってEIGRPは柔軟なネットワークの設定が可能なのだよ。
なるほどです。
■ ロードバランシング
今日説明するもう1つは、ロードバランシングだ。
ろーどばらんしんぐ?
初めて聞くことばですね。ロードをバランシング?
ロード(負荷)のバランスをとるから、ロードバランシング、と呼ばれる。
ルータでのロードバランシングは、パスの負荷分散だな。
パスの負荷分散?
例えばだ、以下のような場合。
[FigureRT14-05:ベストパスへの集中]
確かに、ベストパスに集中してしまうことがありえますけど。
でも、これは仕方のないことなんじゃないんですか?
仕方のないことだからといって、ほっとくわけにもいかんだろう?
なので1つのパスにトラフィックが集中することを防ぐ。これがロードバランシングだ。
ははぁ。どうやってです?
基本的には同じコストのパスがあった場合、トラフィックが集中しないように分けて使う。
同じコストの負荷分散なので等コストロードバランシングという。
とうこすとろーどばらんしんぐ。
[FigureRT14-06:等コストロードバランシング]
まぁ、上のような形だ。OSPFはこの等コストロードバランシングに対応している。
ははぁ。
パケットの通る道が分かれるんですね。行く道(道路)を分けるから道路バランシング、なんちて。
…。
博士?
…。
やだなぁ、博士。このウィットに富んだギャグをわかってもらえなかったですか?
これはですね、「ロード」と「道路」を…。
どやかましい!!
受けもせんギャグを解説しようとはいい度胸だ。
度胸ありますか、僕。えへへ。
褒めてねぇ。
はぅっ。
ともかくだ。ロードバランシングはわかったか?
それはわかりました。
でも、先ほど「OSPFは」とおっしゃいましたが、他のルーティングプロトコルはどうなんです?
RIPはロードバランシングを使えない。
RIPは駄目ですか。古いですからね。
じゃあ、IGRPとかEIGRPは?
うむ。IGRP、EIGRPは両方とも等コストロードバランシングに対応している。
さらに、不等コストロードバランシングも行うことが出来る。
ふとうこすとろーどばらんしんぐ?
不等コストってことは、違うコストのパス間で負荷分散する?
■ 不等コストロードバランシング
そうだ。
[FigureRT14-07:不等コストロードバランシング]
へへぇ。便利ですね。
うむ。不等コストロードバランシングを有効にするには、以下のコマンドが必要だ。
- Router(config-router)#traffic-share balanced
ちなみにbalancedのところをminに変えると等コストロードバランシングになる。
さらにもうひとつ、倍率を設定する。
- Router(config-router)#variance n
倍率?
なんの倍率ですか?
どのパスまで不等コストロードバランシングで使うかを決定する倍率だ。
いくら不等コストとはいっても、あまりに遅いパスを使っていてはいかんしな。
まぁ、そうですね。トラフィックが集中しすぎたからって、すごく遅いパスにトラフィックをまわしたら、分散しないより時間がかかる場合もありますからね。
うむ、なので不等コストロードバランシングで使えるパスを設定する。このロードバランシングで使うパスのことをメンバパスというが、倍率によって以下のように決定される。
- ベストパスのメトリック × 倍率 > メンバパスのメトリック
さらに、EIGRPならもうひとつ。
- ベストパスのFD > メンバパスのAD
2つ目の条件は、フィージブルサクセサ候補でなければならない、ってことですね。
そういうことだ。
例をだそう。
[FigureRT14-08:不等コストロードバランシングの倍率]
まず、サクセサとフィージブルサクセサは?
サクセサはもちろん、Aのパス。フィージブルサクセサはBのパスですね。
でも、Dのパスは「AのFD(15) < DのAD(20)」ですからフィージブルサクセサにはなれません。
うむ。さて、これで倍率を2に設定した場合、ベストパス(サクセサ)のメトリックは15だから、メトリックが15 × 2 の30以下のパスがメンバパスになり、不等コストロードバランスの対象になる。
というと、Bのパスがメンバパスになるわけですね。
そうだ、2つのパスでロードバランスされる。
もし倍率を3に設定した場合、15 × 3 の45以下のパスがメンバパスになるわけだが。
B、C、Dの3つともその条件を満たしますよね。
うむ、だがDのパスは2つ目の条件「ベストパスのFD > メンバパスのAD」を満たさない。
よって、ベストパス(A)、B、Cの3つのパスでロードバランスされる、ということになる。
ははぁ。なるほど。
というわけだ。
EIGRPはこのように負荷を分散することもできる、ということだな。
なんか、すごく便利なルーティングプロトコルですねぇ。
まぁ、Cisco専用だがな。
さて今回はこれぐらいにしておこう。
はい。
次回もEIGRPだ。
いぇっさ〜。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- クラス
- このような、クラスで分けられるネットワークのことをメジャーネットワークと言ったりとか言わなかったりとか。
- null
-
読みは「ナル」。(「ヌル」の場合もある)
無効な、空白の意味で、「存在しない値」という意味で使われる。ちなみにゼロとはまた違う意味で使われることが多い(ゼロはゼロと言う値、nullは値自体が存在しない)。
- ロードバランシング
-
[Load Ballancing]
負荷分散。
- 等コストロードバランシング
- [Equal Cost Load Ballancing]
- RIPは…
-
Ciscoのルータだったら使えたりもします。
あと、IPX-RIPも等コストならできたり。
- パケットの通る道
-
正確には、「同じ宛先のパケット」は「同じパス」を使います。
同一ネットワーク内の他の宛先の場合にロードバランスし、負荷を分散します。
- 不等コストロードバランシング
- [Non-Equal Cost Load Ballancing]
- 等コストロードバランシングに…
- EIGRPはデフォルトで4つのパス間で等コストロードバランスします。
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- EIGRPは経路の自動集約を行う。
- 自動集約はクラスネットワークの境界で行われる。
- 手動経路集約も可能。
- nullインタフェースを作成して、ルーティングループを回避する。
- EIGRPは等コスト・不等コスト両方のロードバランスを行うことが出来る。
- EIGRPは経路の自動集約を行う。