30 Minutes NetWorking
No.RT14

30Minutes NetWorking

BSCI

第14回EIGRP(4) 経路集約・ロードバランシング

■ 自動経路集約

スーパーインター博士

さて、ネット君。まず経路集約の話から始めよう。

ハイパーネット助手

またですか?

スーパーインター博士

ほほぅ、「また」とな?
なかなか偉そうな口をきくようになったものだな。

ハイパーネット助手

あ、いや、あの、だって。
BSCI第3回BSCI第10回にもやってますし。

スーパーインター博士

うむ。そう言われれば、確かにそうだ。
だが、IPアドレスの節約の意味もあるが、経路集約はスケーラブルなネットワークのお約束なのだよ。

ハイパーネット助手

すけーらぶる?

スーパーインター博士

階層的・段階的、という意味でとってもらうとわかりやすい。
階層的なネットワークを行うことにより、経路集約ができる。経路集約の利点は?

ハイパーネット助手

利点と言えば…。

  • テーブルのサイズが縮小することにより、必要メモリ、ルーティング時のテーブル検索にかかるプロセッサのパワーなどが小さくてすむ
  • アップデートのサイズの縮小により、トラフィック量が減少する
ハイパーネット助手

でしたよね。

スーパーインター博士

うむ、ルータにとっていい事づくめだろう。
特にOSPFやEIGRPのような中〜大規模ネットワークのルーティングプロトコルには必須の機能だ。

ハイパーネット助手

なるほど。EIGRPにも経路集約はある、と。

スーパーインター博士

うむ。EIGRPの経路集約は、自動経路集約だ。

ハイパーネット助手

自動経路集約?
ってことは、自動で経路を集約するんですか?

スーパーインター博士

自動経路集約といっているのに、手動で経路を集約したら自動とは言わないだろう?
もちろん、ルータが自分で判断して経路を集約するのだ。

ハイパーネット助手

ははぁ、そりゃすごいですねぇ。

スーパーインター博士

もちろん、条件がある。EIGRPが経路集約するのは、クラスネットワークの境界だけだ。

ハイパーネット助手

クラスネットワークの境界?

スーパーインター博士

そうだ。クラスA、クラスB、クラスCそれぞれのネットワークの境界、ということだな。
図で説明すると、こうだ。

自動経路集約

[FigureRT14-01:自動経路集約]

スーパーインター博士

ルータAは、172.16.0.0ネットワークと192.168.0.0ネットワークの境界に存在する。
この時、上の図でいけば172.16.0.0のサブネットを集約してルータBにアップデートを送る。

ハイパーネット助手

ははぁ、なんか普通なんですけど。

スーパーインター博士

うむ、そうか?
自動集約できない例を出した方がいいか。

自動経路集約できない例

[FigureRT14-02:自動経路集約できない]

スーパーインター博士

ルータAは172.16.0.0/17と172.16.254.0/24との境界に存在するが、クラスで見れば172.16.0.0/16という同じネットワークに所属している。なので集約しない。

ハイパーネット助手

あ〜。確かに左のネットワーク群が172.16.0.0/17で集約できるならしたほうが便利ですよね。
でも、クラスで考えれば同じネットワークだから、しない、と。

スーパーインター博士

そういうことだ。
EIGRPは自動で集約するが、集約したアップデートは必ずクラスのネットワークということだな。

ハイパーネット助手

ははぁ。便利なんだか不便なんだかわかりづらいですねぇ。

■ 手動経路集約

スーパーインター博士

もちろん、EIGRPでも手動で集約できる
コマンドはコレだ。

  • Router(config-if)#ip summary-address eigrp AS-number network mask
スーパーインター博士

(config)#ではなくて、(config-if)#なのがポイントだな。
つまりアップデートを送り出すインタフェースに設定する。

ハイパーネット助手

OSPFは(config-router)#area area-id range ip-address subnetmask でしたよね。

スーパーインター博士

うむOSPFのAS内部経路集約はarea idコマンドだな。
OSPFのsummary-addressはLSAタイプ5用の経路集約だ。こっちも(config-router)#だな。

ハイパーネット助手

う〜、ややこしい。

スーパーインター博士

それと、手動と自動を両方設定すると、両方ともアドバタイズされるということも覚えておけ。

ハイパーネット助手

スーパーインター博士

さっきの例で言えば…

手動集約と自動集約

[FigureRT14-03:手動集約と自動集約]

スーパーインター博士

左のネットワークは集約すると、172.16.0.0/17だから、そのように手動集約したが。
自動集約もできるため、自動集約した172.16.0.0/16もアドバタイズしてしまう。

ハイパーネット助手

あららら。それはちょっとアレですね。

スーパーインター博士

うむ。なので自動集約をはずしたい場合は。

  • Router(config-router)#no auto-summary
スーパーインター博士

で、自動集約を切ることもできる。

ハイパーネット助手

これは(config-router)#ですか。う〜ん…。

■ nullインタフェース

スーパーインター博士

経路集約に関してはもう1つ、nullインタフェースというのを説明しておこう。

ハイパーネット助手

なる いんたふぇーす?

スーパーインター博士

一般的に「null」は「ヌル」と読むことが多いが。
ともかくEIGRPの集約時に自動で作られる論理的インタフェースで。使い道は以下の通りだ。

[FigureRT14-04:null interface]

ハイパーネット助手

ははぁ。きたパケットを破棄してしまうインタフェースですか。

スーパーインター博士

そうだ、だから「null」インタフェースという。
集約により作られるnullインタフェースは、アドバタイズしたアドレスの行先インタフェースになる。

ハイパーネット助手

アドバタイズしたアドレスの行先?
あ〜、今回の例ですと、172.16.0.0/16をアドバタイズしたから、172.16.0.0/16はnullインタフェースに送られるってことですか。

スーパーインター博士

そういうことだ。
さて、ネット君。OSPFの経路集約を思い出して欲しいのだが、OSPFの経路集約はどのルータが行った?

ハイパーネット助手

どのルータ?
……、ABRとASBRってことですか、博士?

スーパーインター博士

うむ。そうだ。つまり境界ルータしか経路集約ができない。これがOSPFだ。
だが、EIGRPでは任意のルータで経路集約が可能だ。

ハイパーネット助手

任意のルータっていうことは、経路集約ができそうならどのルータでもって意味ですよね。

スーパーインター博士

そういうことだ。よってEIGRPは柔軟なネットワークの設定が可能なのだよ。

ハイパーネット助手

なるほどです。

■ ロードバランシング

スーパーインター博士

今日説明するもう1つは、ロードバランシングだ。

ハイパーネット助手

ろーどばらんしんぐ?
初めて聞くことばですね。ロードをバランシング?

スーパーインター博士

ロード(負荷)のバランスをとるから、ロードバランシング、と呼ばれる。
ルータでのロードバランシングは、パスの負荷分散だな。

ハイパーネット助手

パスの負荷分散?

スーパーインター博士

例えばだ、以下のような場合。

[FigureRT14-05:ベストパスへの集中]

ハイパーネット助手

確かに、ベストパスに集中してしまうことがありえますけど。
でも、これは仕方のないことなんじゃないんですか?

スーパーインター博士

仕方のないことだからといって、ほっとくわけにもいかんだろう?
なので1つのパスにトラフィックが集中することを防ぐ。これがロードバランシングだ。

ハイパーネット助手

ははぁ。どうやってです?

スーパーインター博士

基本的には同じコストのパスがあった場合、トラフィックが集中しないように分けて使う
同じコストの負荷分散なので等コストロードバランシングという。

ハイパーネット助手

とうこすとろーどばらんしんぐ。

[FigureRT14-06:等コストロードバランシング]

スーパーインター博士

まぁ、上のような形だ。OSPFはこの等コストロードバランシングに対応している。

ハイパーネット助手

ははぁ。
パケットの通る道が分かれるんですね。行く道(道路)を分けるから道路バランシング、なんちて。

スーパーインター博士

…。

ハイパーネット助手

博士?

スーパーインター博士

…。

ハイパーネット助手

やだなぁ、博士。このウィットに富んだギャグをわかってもらえなかったですか?
これはですね、「ロード」と「道路」を…。

スーパーインター博士

どやかましい!!
受けもせんギャグを解説しようとはいい度胸だ。

ハイパーネット助手

度胸ありますか、僕。えへへ。

スーパーインター博士

褒めてねぇ

ハイパーネット助手

はぅっ。

スーパーインター博士

ともかくだ。ロードバランシングはわかったか?

ハイパーネット助手

それはわかりました。
でも、先ほど「OSPFは」とおっしゃいましたが、他のルーティングプロトコルはどうなんです?

スーパーインター博士

RIPはロードバランシングを使えない

ハイパーネット助手

RIPは駄目ですか。古いですからね。
じゃあ、IGRPとかEIGRPは?

スーパーインター博士

うむ。IGRP、EIGRPは両方とも等コストロードバランシングに対応している。
さらに、不等コストロードバランシングも行うことが出来る。

ハイパーネット助手

ふとうこすとろーどばらんしんぐ?
不等コストってことは、違うコストのパス間で負荷分散する?

■ 不等コストロードバランシング

スーパーインター博士

そうだ。

[FigureRT14-07:不等コストロードバランシング]

ハイパーネット助手

へへぇ。便利ですね。

スーパーインター博士

うむ。不等コストロードバランシングを有効にするには、以下のコマンドが必要だ。

  • Router(config-router)#traffic-share balanced
スーパーインター博士

ちなみにbalancedのところをminに変えると等コストロードバランシングになる。
さらにもうひとつ、倍率を設定する

  • Router(config-router)#variance n
ハイパーネット助手

倍率?
なんの倍率ですか?

スーパーインター博士

どのパスまで不等コストロードバランシングで使うかを決定する倍率だ。
いくら不等コストとはいっても、あまりに遅いパスを使っていてはいかんしな。

ハイパーネット助手

まぁ、そうですね。トラフィックが集中しすぎたからって、すごく遅いパスにトラフィックをまわしたら、分散しないより時間がかかる場合もありますからね。

スーパーインター博士

うむ、なので不等コストロードバランシングで使えるパスを設定する。このロードバランシングで使うパスのことをメンバパスというが、倍率によって以下のように決定される。

  • ベストパスのメトリック × 倍率 > メンバパスのメトリック
スーパーインター博士

さらに、EIGRPならもうひとつ。

  • ベストパスのFD > メンバパスのAD
ハイパーネット助手

2つ目の条件は、フィージブルサクセサ候補でなければならない、ってことですね。

スーパーインター博士

そういうことだ。
例をだそう。

不等コストロードバランシングの倍率

[FigureRT14-08:不等コストロードバランシングの倍率]

スーパーインター博士

まず、サクセサとフィージブルサクセサは?

ハイパーネット助手

サクセサはもちろん、Aのパス。フィージブルサクセサはBのパスですね。
でも、Dのパスは「AのFD(15) < DのAD(20)」ですからフィージブルサクセサにはなれません。

スーパーインター博士

うむ。さて、これで倍率を2に設定した場合、ベストパス(サクセサ)のメトリックは15だから、メトリックが15 × 2 の30以下のパスがメンバパスになり、不等コストロードバランスの対象になる。

ハイパーネット助手

というと、Bのパスがメンバパスになるわけですね。

スーパーインター博士

そうだ、2つのパスでロードバランスされる。
もし倍率を3に設定した場合、15 × 3 の45以下のパスがメンバパスになるわけだが。

ハイパーネット助手

B、C、Dの3つともその条件を満たしますよね。

スーパーインター博士

うむ、だがDのパスは2つ目の条件「ベストパスのFD > メンバパスのAD」を満たさない。
よって、ベストパス(A)、B、Cの3つのパスでロードバランスされる、ということになる。

ハイパーネット助手

ははぁ。なるほど。

スーパーインター博士

というわけだ。
EIGRPはこのように負荷を分散することもできる、ということだな。

ハイパーネット助手

なんか、すごく便利なルーティングプロトコルですねぇ。

スーパーインター博士

まぁ、Cisco専用だがな。
さて今回はこれぐらいにしておこう。

ハイパーネット助手

はい。

スーパーインター博士

次回もEIGRPだ。

ハイパーネット助手

いぇっさ〜。
30分間ネットワーキングでした〜♪

クラス
このような、クラスで分けられるネットワークのことをメジャーネットワークと言ったりとか言わなかったりとか。
null
読みは「ナル」。(「ヌル」の場合もある)
無効な、空白の意味で、「存在しない値」という意味で使われる。ちなみにゼロとはまた違う意味で使われることが多い(ゼロはゼロと言う値、nullは値自体が存在しない)。
ロードバランシング
[Load Ballancing]
負荷分散。
等コストロードバランシング
[Equal Cost Load Ballancing]
RIPは…
Ciscoのルータだったら使えたりもします。
あと、IPX-RIPも等コストならできたり。
パケットの通る道
正確には、「同じ宛先のパケット」は「同じパス」を使います。
同一ネットワーク内の他の宛先の場合にロードバランスし、負荷を分散します。
不等コストロードバランシング
[Non-Equal Cost Load Ballancing]
等コストロードバランシングに…
EIGRPはデフォルトで4つのパス間で等コストロードバランスします。
ハイパーネット助手ハイパーネット君の今日のポイント
  • EIGRPは経路の自動集約を行う。
    • 自動集約はクラスネットワークの境界で行われる。
  • 手動経路集約も可能。
  • nullインタフェースを作成して、ルーティングループを回避する。
  • EIGRPは等コスト・不等コスト両方のロードバランスを行うことが出来る。

30 Minutes NetWorking No.RT14

管理人:aji-ssz(at)selene.is.dream.jp