中央線沿線に住むようになって20年を過ぎた。京急沿線に住んでいた年月よりも長い。
線路が直線なせいか、いまだに電車から外の景色を見てもどこを走っているのか、わからない。車窓からの景色だけではない。こんなに長く住んでいるのにまだ下車したことのない駅も多い。
鎌倉に近いところに住んでいたからか、東京の街には歴史がないように感じていた。言うまでもなく、それは見当違いだった。江戸時代、維新、戦前、戦中、戦後。東京は現代史の表舞台だった。空襲で焼けてしまってそのまま残る歴史は多くはない。でも現代史の痕跡はいたるところにある。
それに気づかせてくれたのは、子どもが通っていた高校の校長先生が案内してくれた「江戸東京散歩」だった。
それ以来、東京の歴史についての本を読んだり、展覧会に出かけたりしている。
中央線の路線図を見ていてすぐ気づくことは、線路が真っ直ぐなこと。
もう一つ、面白いと思うことは、今、たぶん中央線で一番の賑わいを見せている吉祥寺は鉄道敷設からずっとあとになってできたということ。最初にできた駅は武蔵境だった。
住民が反対したため五日市街道と交差する場所に駅を作れず、地主の月窓寺が現在の場所を貸すことでようやく駅ができた。1899年、明治32年のこと。この逸話は『ブラタモリ』でも紹介されていた。
中央線沿いも街歩きをしていなくて、山手線についてはさらに知らない。主だった駅でしか降りたことがない。とくに知らないのは新宿から池袋、日暮里から上野まで、午前10時から午後2時のあたり。
各駅の周辺地図をざっと見て驚くのは品川駅はできたときは海岸線に沿っていたこと。1928年(昭和4年)の地図でも品川駅の東側、今の港南口は干潟が広がっているだけ。
本格的な開発は戦後に始まったらしい。
2冊の本は著者は違うが構成は同じ。明治、戦前、復興期、現代の地図を駅ごとに掲載し、解説が加えてある。明治から現代の東京まで街の変化は激しい一方、大名屋敷や軍の施設が形は同じ形のまま官庁街やビジネス街に残っている。小石川後楽園や六義園、浜離宮など、大名や幕府が持っていた庭園もいくつか残ってる。
東京は残りつつ変わる街、と言えるかもしれない。
本書は残っているるものと変わっているものの両方を上手に見せている。古写真が多いのもうれしい。この手の本にしては値段が手頃なのもありがたい。
中央線版の方は買って手元に置くことにした。
さくいん:東京