HALF AND HALF JOURNAL
無意味な破片
HHJ
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☆ ☆ ☆ HHJ VOL.89 2002.12.18 特派員―今日(11月16日)のNBCの報道はアル・カイダのテロに関するFBIの報告を載せていました。次の〈Specutacular attacks(見世物的な攻撃)〉の予想されるターゲットは、航空機、石油、核だろうと。しかし、ASAHI.comは〈Specutacular
attacks〉を〈目をむくほどの攻撃〉と翻訳してる。これは明らかに意図的な誤訳ですね。わざと肉体を比喩的に使うのは、日本人の悪い癖ですよ。 ナモネ氏―ううむ、悪徳金融業者もびっくりだ。私も大嫌いだ、〈腹を割って話そう〉〈腹の虫が収まらない〉などというのは。思考のレヴェルが未開民族的だ。場合によっては脅迫だ。 半分半分放送局長―規制する内部ルールがないんだ。 ☆ ☆ ☆
ナモネ氏―とうとう証拠が見つかったな、東シナ海に沈んだ工作船から。 編集長―携帯電話とGPS(衛星利用位置測定装置)は手がかりを与えてくれる、と思ってましたよ。携帯電話会社の発信記録に東京と横浜の暴力団関係者があったということは、北朝鮮と日本の間に緊密なネットワークが存在すると考えていいですね。拉致事件にも日本の〈請負業者〉が介在して佐渡の街の中で大胆な誘拐劇をやっていた。 特派員―構図がはっきりと固まってきましたね。日本政府が今まで長い間拉致事件を解決しようとしなかった理由は何でしょうね? 放送局長―日本国民を脅迫するためでないとしたら。 ナモネ氏―共産主義国家の怖さを宣伝するためでないとしたら、だ。 編集長―アメリカ・ヨーロッパの民主主義にとって本当の人質は日本国民だ。人質が犯行グループと仲がいいので、この問題は厄介なのだ。暴力団というのは謀略機関の仮面にすぎないね。捜査当局は右翼と政治家の名前を見つけるところまで追跡しなければいけない。 放送局長―捜査当局に悪党が入ってなければいいが、ね。着信記録が残ってないというのは変だよ。 特派員―覚醒剤などの密輸で稼いだ金は、少なくとも北朝鮮の食糧にはなってない。これも問題ですね。 放送局長―核兵器や生物化学兵器に使ってるのさ。核ミサイルは古代人の馬鹿でかい神様みたいなものだ。 編集長―原爆製造に必要なウラン235をどこから手に入れたのか、と思うね。コンゴの鉱山で採掘したという情報が去年4月毎日新聞に載ったが、コンゴ当局は否定した。パキスタンからの輸入の可能性については、 国連やアメリカは何も語っていない。グリーンピースのHPを見ると、 タイミングよく日本がアメリカからウラン60tを輸入する予定という報告があった。来年6月から青森県六ヶ所村の核燃料リサイクル施設のウラン試験に使うためだ。化学試験と同時に。この施設にはウラン濃縮工場も建設される。 放送局長―なるほど。北朝鮮の工作船は日本の原子力発電所のウランを横取りして密輸していたとすれば、日朝関係のゆがんだ動きが分かったような気がするねえ。日本政府はこの疑惑はゴミ扱いできないよ。 特派員―10月17日のTBSiニュース(Web)は〈米国はなぜ今この事実を公表したのか〉と題して、北朝鮮が核開発を行なっている事実を認めたことを報道しました。その中で北朝鮮から亡命した黄元書記が、プルトニウムとウランの輸入について聞かれ、黄意味深長な答をしてる。〈そうです。ウラン235。それはとにかく掘り下げないように。核問題はややこしい〉掘り下げると、爆発しかねない状況なんですね。 放送局長―アメリカの情報公開は日本と北朝鮮のテーブルをかき乱すのが目的だったのじゃないか?橋本龍太郎は、パンチを食らったような表情で〈すばらしいストーリー・テラーズだね。私はそんなに恰好良くないよ〉とレポーターに答えていた。本気で北朝鮮との関係を正常化しろ、とケリー(Kelly)国務長官はもっといろんな証拠を突きつけたと思うね。 ナモネ氏―北朝鮮は2号さんなのかねえ?怖いねえ。 ☆ ☆ ☆
特派員―石原慎太郎都知事が靖国神社を参拝したニュースを見て、渋い顔でしたけど? 編集長―哲学のない悲劇だよ。三島由紀夫が語っていたとおり政治家になるべきじゃなかったね。ずっと空騒ぎだけ、しかし、人気は相変わらずだというのは誰にとっても不幸なことだ。 特派員―自民党には彼を首相にしようという暴論があるけど、それより早く解党したほうがいいですね。 放送局長―あの〈カイ党宣言〉ポスターを見ると、正常じゃない。鶏っていうのは首を切り落とされてもしばらく元気に走るんだよな。まだ何とかなると思い込んでる。 編集長―北朝鮮問題でも明らかなように、日本は冷戦後の世界に対応できない。ロシア国民は理性的に新しい構造化に成功したが、日本は強情を張って餓鬼の喧嘩をやってる。ただ民主党の代表が、曖昧な事情でなんだが、菅直人に代わったのは評価できるね。 放送局長―彼氏でなければ、グラウンドで試合が始まらないと思うよ。 ナモネ氏―戦前の血盟団のような一人一殺主義はやめるべきだ。 放送局長―そうそう、犯罪カードを揃えておく謀略政治も。 特派員―いつどんなカードでもタイミングよく切れるってのは、異様なことですね。HHJが〈政治に対する切り込みがない〉と日本映画を批判すれば、民主党の石井紘基議員が右翼の手で包丁を刺される。 ナモネ氏―防衛庁の汚職や鈴木宗男の北方領土疑惑などを批判してきた人だけに、あれは自由な発言に対する恐怖の報酬だ。 編集長―政治家の秘書疑惑も、やはり犯罪カードだと思うね。 ☆ ☆ ☆
特派員―世界の報道機関の自由についてのフランスの組織〈国境のないジャーナリスト〉の2002年5月の報告によれば、ジャーナリストの状況は非常に悪化していますね。2000年は32人が殺され、85人が刑務所に送られ、600人以上が攻撃された。去年は31人が仕事中に殺され、身柄拘束が50%増加、脅迫が40%増加とある。攻撃と脅迫の内容は分からないが、日本ではどうなんでしょうね? 放送局長―HHJの他はみんな幸せだって言ってる、生きてるジャーナリストは。米が食えれば、文句はないんだよ。 特派員―米代川ドキュメンタリーの撮影のとき途中で降りた工藤カメラマンに対して、長谷川は何と言ったか?〈自分だけ生きればいいのか?〉 編集長―日本のジャーナリストは言葉を流用するだけで、小説家と違って現象を言語化する力がないね。東京や長野で小説家がリーダーに選ばれた理由は、それだろう。 放送局長―しかし、才能の問題じゃない。良心の問題なんだ。 特派員―ぼくは、魁新報の大館総局長堀井が吐いたように〈頭が悪い〉のが問題だと思いますね。根本的になってない。頭の悪い人は自分の考え方が変だと気づかない、気づいてもすぐ忘れるので、進歩しない。 編集長―忘れるっていうのは、やはり良心に無関係でないと思うね。 特派員―そう言えば、イベリア半島の沖で重油タンカーから逃げ出した乗組員に、レポーターが〈あんたのモラルはどうなってるのか?!〉と怒りをぶつけていたっけ。日本ではないですね、あんな厳しさは。 編集長―だいたい日本人は怒りを感じると、脳の働きが正確でなくなる。 あの連中はかえって正確にスピーディに動く。この違いは大きいよ。 特派員―ロゴスとパトスが対立するというのは、日本の近代文化の在り方に原因があるんじゃないかなあ。 放送局長―君、それはうまい結論だ。 ☆ ☆ ☆
編集長―極東の政治を〈Tragique Feuilleton 悲劇的な新聞連載小説〉と皮肉ったせいか、フランスが痛めつけられてるね。ユーロスターが雷で運行中止になったかと思うと、列車火災でガス中毒。 特派員―ええ。ぼくは連続テロリスムの疑いを持つけれど、報道ではそれがない。事故原因を調査した者が嘘の報告書を提出しているのではないかな? 大陸の反対側と事情は変わりませんよ。 放送局長―アメリカが11月4日北朝鮮の核開発を暴いてから制裁措置として重油の供給を停止する意思を明らかにしてから、海戦状況が濃厚になったねえ。13日バハマ船籍の重油タンカー〈プレステージ〉がスペイン沖で遭難。14日日本海で貨物船から積荷のテレビ漂流。23日北朝鮮貨物船が日本海で日本の漁船に当て逃げ。24日香港沖で液化天然ガス貨物船〈ガズ・ポエム〉が火災を起こして乗組員全員脱出。26日伊豆大島で座礁放置されていた自動車運搬船が炎上。保険会社は大損、国際テロ組織は丸稼ぎ。27日フランスはエストニアから重油汚染地域を回ってシンガポールに向かう予定の老朽タンカーの査察を決めた。〈不審船〉だと言ってる。 特派員―その間17日からずっとローヌ川の洪水災害。自然管理のうまい農業国で少しばかりの豪雨がこんな災害を起こすなんて。中下流域で3万人が被害を受けている。河川管理関係者を調べないと。 編集長―敵の通信施設と運輸交通網を叩くのは、戦争の基本的な戦略だな。サイバー・テロも警戒しなければいけない。 特派員―フランスは、六ヶ所村核燃料再処理施設の建設に協力してるエンジニアたちを帰国させるべきですよ。適当な理由をつけてね。 放送局長―ほう、家族も含めて三沢市に170人居住してる。日本政府が帰国を認めるわけはないな。 ナモネ氏―要するに、今の状況はアクシデント・ウォーだな。11.4以後フランスのラジオに陽気な笑い声が増えたが、それだけ聞き取れば十分だ、第3帝国の終末だ。私はどうすればいいのか? 日本海は片田舎の芝居小屋なのか?母子物語に自民党や情にもろい国民と一緒に参加して涙を拭えばいいというのか? 放送局長―いくら速く歩いても、走ることには繋がらない ☆ ☆ ☆ |
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☆ ☆ ☆ HHJ VOL.88 2002.10.10 特派員―ルソルチサン(ressortissant)という聞きなれない言葉にびっくりしていましたけど、所属民という訳は大修館の辞典に従ったまでで、ラルース辞典は〈ある国籍に属する者〉と説明しています。 ナモネ氏―封建的なニュアンスは感じられないな。 特派員―ぼくは他で読んだことがないですね。国民のことは普通ナション(nation)とかプープル(beople)と言う。ところが、9月18日インターネットでフランスのラジオ放送を聞くと、雑誌形式のフランス情報(France info)も開かれるけど、そこに38度線の地雷除去のニュースが載ってる。そして、付け足すように小泉首相が〈日本国籍所持者(ressortissants
Nippons)12人の拉致のために〉ピョンヤンを訪問したと書いてあるんです。 ナモネ氏―法律的には正しいんだろうが、どうも割り切れないなあ。 特派員―本来は植民地など外国居住者のことを指すようだけど。適当に他のプレスで探してみましたが、ね、当り障りのない〈ジャポネ(日本人)〉 〈キドナッペ(被誘拐者)〉ですね。 ☆ 編集長―小泉首相の北朝鮮訪問は、〈よど号〉着陸以来の事件だね? 半分半分放送局長―そう。東アジアはまだ第2次大戦が残した問題を解決していない。それぞれの公式では答が出せないことに気づいたから、9.17のデイトが決まったのだと思うね。 編集長―目的は、両国が正常に交際しようということだろう。この意志の確認ができたのは、大事なことだ。テーブルをひっくり返すような感情的な言動は抑えて、じっくり食事しようじゃないか。 放送局長―それにしても、おれたちはクールだよな。gooで検索してみたら、〈よど号〉が赤軍派にハイジャックされたのは昭和45年3月、70年の春なんだ。追い詰められて日本から逃げたわけだが、朝鮮半島の北を本拠地にして公然と世界各地で活動していた。どんな環境が許したのか、問題だよ。 編集長―政治は、利用価値に敏感だ。日本の左翼や進歩的な人間に赤いライトを当てれば、簡単に自由を消せる。 放送局長―あんな羽振りのいい暮らしをしていたんだから、な、日本の右翼や国家機関といかがわしい関係を持っていた可能性はあるね。 編集長―それはたぶん拉致事件の真相を解明する過程で浮き彫りになるね。しかし、この問題を優先するのは危険だ。金大中(キム・デジュン)大統領の太陽政策を倣って南北間の鉄道を繋ぐのと同じくらいの忍耐をしなければいけない。 ☆ ☆ ☆ ナモネ氏―拉致の他に犯罪がなかったか、明らかになればいいが。黒柳徹子の人形劇〈ブーフーウー〉で狼役を演じた青年が今どうしてるか、何の情報もないので、私は非常に心配だ。 放送局長―どう考えても、君、ニュース・ステーションが取り上げなかったのは失敗だ。センセーションを巻き起こしたはずだよ、君。テレビ朝日に似合わないような企画じゃない。 編集長―久米宏にはもう決定権がないと思う。総合すると、北朝鮮の活動は日本ではかなり広範囲で、この狼たちの犯罪は黙認されてるね。 特派員―簡単に整理すると、98年10月号のHHJは浅野允土木課長の告白〈大館橋に関する長すぎた嘘〉を載せた。人形劇の狼青年のことは翌年2月。当時の防衛庁長官が野呂田芳成で、防衛の話から始まり、そこで〈秋田のベラボー凧や南部のオロオロ党首〉と特派員ダレナニが皮肉を言ったりしてる。リヴァー・ユートピア妨害工作には小畑元市長に送った質問と要望書を掲載したけれど、そこでも刺激してる。小畑市長は市長選3戦を目指す総決起集会で対立陣営に〈戦ってほしいと言うために来た〉と挑発したが、〈自治体の独立性を侵されながらそれを放任するとは、卑屈な精神でなくて何でしょうか?これは法律以前の、人間としての問題です。〉そうしたら、3月能登半島沖で北朝鮮の船の領梅侵犯事件が起き、防衛長官の出番になって、〈断固たる処置を取る〉と叫んだ。大館市のリベラルは震えあがった。おかしな人形劇があったもんです。 ☆ ☆ ☆ 編集長―デュラント(W. Durant)の言葉で最も印象的だったのは、政治とは恐怖と希望による支配である、というものだ〔1〕。二つの大戦に挟まれた時代の子ですね。この厳しい認識はアメリカ人的じゃないけど、同時代の日本人、例えば近衛文麿首相は否定できなかったでしょう。 ナモネ氏―アメリカ・イギリスとの戦争回避の期待を担った首相なんだが、80年代に朝日新開の評論で彼には〈言葉に対する絶望があった〉というのを読んで、説得と説明の情熱が乏しかったのだろうと思った。ナチスと協力する条約締結に反対できる力があったはずだから。 放送局長―陸軍の道化役者になったのは、あれだね、北白川宮永久(ながひさ)王が蒙彊(もうきょう)の飛行場でプロペラにひき殺された事故。この凄惨な暗殺は予告されていたと考えていいのかな? 編集長―ああ、そうだ。〈米代川デイト〉っていう内容と無関係な題名を付けたのは、そういう思惑があってのことだよ。 特派員―そこは、ぼくに言わせてください。つまり、首相はある日ラジオの漫才で〈米代川デイト〉というのを聞いて、きみまち阪のロマンスと明治天皇の勇敢さを想い出した。ところが、事故を知ってから、北白川と米代川が頭の中で衝突して暗殺予告のように思えた。 放送局長―近衛公爵と天皇がそんな異常な出来事にショックを受けて自由意思を犠牲にしたのは、真実だろうな。 編集長―それを法律的に証明しなければならないのだが、難しいね。暗示が放送番組の内容やビラの文字だったら、どこかに保存されている場合もあるけど、東条英機などが皇居でイディオチスム(特殊話法)を使ったら、証拠としては残らない。 特派員―イディオチスムって、ディドロ(Diderot)が《ラモーの甥》の冒頭で書いたことですね〔2〕。あの変人がパントマイムの名人顔負けの演技で相手に対して口では言いたくないメッセージをさりげなく伝える。ええ、そう、忘れていましたよ。 放送局長―そんな記録しがたいことが歴史を変える。しかし、現象の曲線を正しくなぞらないと、同じような過ちは何度でも繰り返される。戦後の日本は第3帝国だよ。同じ手法、同じ犠牲者。 特派員―HHJはいろんな環境サインについて書いてきたけど、読者からの意見や質問はまったくないですね。マス・メディアの反響は、あのポスターに関するアンケートへの無関心の他には何もない。 編集長―結局、朝日新聞(大館通信部)の高山修一記者が電話で答えたよ うに、環境サイン問題は〈世間の常識〉からかけ離れているということだろう。企業のジャーナリストは一番先にターゲットになっていいはずだが、意外にも環境サインによるノイローゼ地獄に落とされていない幸福な生活をしてる。その理由は、彼らも迫害者だからだ。 放送局長―笑ってしまうが、当たり前のことだな。 特派員―ニュース・ステーションがこの夏花輪囃子を中継したんですよ。でも、あの可愛い女性アナウンサーはHHJに挨拶に来なかった。 放送局長―アミダクジ式に言葉も人も別の所に行くのさ。そこに何かメッセージがあるんだよ。ノイローゼの分析で例え話のうまいフロイトが〈夢の王国〉と名づけたメカニズムにしたがえば、天皇が暗殺される代わりに永久王が事故でやられる。永久の悪夢だよ。 ☆ ☆ ☆ 1 20世紀前半に生きたアメリカの歴史家。 2 18世紀フランスの啓蒙思想家。百科事典を初めて制作した。自然回帰を唱えたことで知られる。 |
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☆ ☆ ☆ HHJ VOL83 2001.12.15 編集長―《円形彷徨》に自分自身の辞書を作ろうと決意するシーンがある。主人公が電車の中で足元に落ちていた新聞の見出しを読んで、《米の不安ぬぐう》をアメリカ合衆国の不安と解釈する。確かに外交政策の記事だが、空腹だったから、〈コメ〉と声に出してしまう。〈《米》は《コメ》と《アメリカ》のダブル・イメージになってしまう〉のだ。ちょうどそのとき幼児が新聞を拾って〈コメのフアンぬぐう〉と読む。すると、母親は〈ベイ〉と発音してアメリカという意味だと教える。 特派員―あんな〈意味と意味の馴れ合い関係〉を嫌悪するのは当然ですよ。 ナモネ氏―しかし、マス・メディアや新聞なんかは相変わらず鈍感だな。そういう見出しを目にすれば、〈ベイ〉か〈コメ〉かと記号の意味内容が分裂するっていうことを想像しない。HHJは〈米〉〈米国〉という書き方はしないな? 特派員―ルールですからね。二つの異質な観念のネットワークにノイズが入り込んでしまう。カリフォルニア米の輸出国なんだけれど…いや、止めとこう。 編集長―米国というのは文明開化の前後亜米利加と書いたのが始まりだろうね。外国語の音訳で、亜細亜(アジア)とか大東亜共栄圏と同じ単なる当て字だと思ってたら、これがどうも怪しい。亜米利加の亜は、亜種の亜で〈次〉〈第二段〉という階層的な意味がある。何の次かと言うと、だな、米という漢字をじっと見ると、アメリカが独立する前に属していたイギリスの旗ユニオン・ジャックに似てるだろう?…つまりイギリスの亜種という認識が隠れてる。 特派員―なるほど。あの旗は何でもユナイテッド・キングダムを構成する3地域イングランド・スコットランド・アイルランドの旗を組み合わせたものだそうですね。 編集長―日本の新聞が疑間符を使用しないのはナンセンスだな。正確な文章を最優先するなら、疑問の意思をはっきり伝えるべきだ。ウィンドーズは皮肉を言ってる。〈?〉をクリックして操作で分からないところに付けると、説明が出るんだから。 特派員―正統な日本語の継承に責任を感じているんでしょうねえ。もともと句読点がなかったのが発展してきたんだから、国や学界に順応する必要はないですよ。 編集長―特に日常会話が問題だ。疑問のイントネーションで伝える〈そうするの〉〈断る〉といった科白は、疑問符がないと、話し手の意思を瞬間的に了解するのが難しい場合がある。どうでもいいことで頭を悩まされたり時間を無駄にしたくないね。 特派員―ま、去年改訂した〈新聞倫理綱領〉より毎日のプラクティスが肝心ですね。形式的な書き方では創造性がなくなる。 編集長―USAと書けば、頑固な編集委員にだって、新鮮なネットワークが自然に開かれる。人間は言葉を通して環境世界を明確に認識するんだから、ただ役に立たない決まりきった表現に立てこもるのは新しい他の考え方をしたくないということだよ。 ナモネ氏―そのくせ、新しいマシンやら何やらは積極的に取り入れる。いや、そうしないと国の経済が困るから、かな? 特瀬員―TVのコメンテーターに質問してみましょう。疑問符を付けたくない心理は、結局簡単に言うと、社会の在り方とパラレルなんですよ。 ナモネ氏―しかし、だから、陰でこっそり悪いことをやるんだよ、日本人は。 特派員―この間ボガート(Humphrey Bogart)の《マルタの鷹》という有名な映画をやっとDVDで見ることができて驚いたことがあります〔1〕。ホテルで見張ってる悪漢がピストルを所持しているのに気づいて、主人公の私立探偵が警察官にそう言うんですよ。戦争が終わってから、アメリカ市民は自由にピストルを持てるようになったんですかね? 半分半分放送局長―さあ、その情報はないなあ。パール・ハーバーがアメリカ市民の防衛本能を目覚めさせたんじゃないか?熾烈な冷戦が続いたから、自由な銃社会になるのは無理もないな。アメリカ市民はピストルで自衝する起源はインディアンと戦った開拓にあると思ってるが、戦後の心理は意識したがらない。お陰で日本人はずっと安全で加害意識もまるでない。ところで、あのテロリストらが〈市民偽装〉の生活をしていたという朝日の記事を読んで、何とも思わないか? 特派員―犯行前は誰でも市民ですね。 放送局良―君、法律的に考えれば、そのとおりだが、ねえ。〈市民偽装〉という言い回しは70年代前半東京で爆弾テロが流行した時期の過激派に対するレッテルなんだよ。おれも編集長も、あれにはナーヴァスになったね。なぜかって、君、ちょうど同じ頃ローラー作戦と言ってね、〈ぴんと釆たら、110番!〉なんていうポスターを街中に張って、怪しげな市民を片っ端から網に掛けようと狙ってたのさ。あの陰険さは、市民相互の間に不信と警戒心を植え付けようとしたことだ。 特派員―市民偽装は権力者と謀略機関ですよ! 特派員―高橋松治(社民)が本会義の庁内放送を求めると、小畑元市長は改善していきたいと答えた〔2〕。市議会の透明化は新風クラブの公約だったはずだが、市長は果たして本気で放送の芽を育てるでしょうかね? ナモネ氏―まあ、それはいい。私が取り上げたいのは平泉庄治(公明)の提言だな。〈文化芸術の中心となる拠点整備が必要と思う、財政は厳しいが、むしろこういう分野を積極的に応援するべきだ〉と。市長の答弁は、〈地域に密着した芸能が多いことから、難しい面がある〉と論理的でない。大館橋のスタジオ潰しに疲れてしまって。市議は切り返す、芸術文化振興基本法の制定を求める、と。 特派員―大館市の文化人たちが寄り集まって文化都市宣言をしたけれど、あれよりははるかに現実的な効果が期待できますね。 編集長―芸術という言葉が抜けてる。リヴァー・ユートピアは芸術的な創造のプランも持っていますよ。ちょっと打ち明ければ、小さな美術館を流域にたくさん作ることです。建物と展示品を個性的にして。美しい自然の中に作ると自然が迷惑するので、普通の自然の中に置いて周辺の環境を美術館に適応させたい。そこでパンを食べれば、憂いを忘れ、刺々しい現実から受けた傷が癒される幸せな一時を過ごせる。 ☆ ☆ ☆ 1 The maltese falcon
1941年製作 Warnar Bros. 監督 John Huston 2 大館市9月定例議会 〈市議会だより〉 |
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HHJ VOL.80
2001.6.15 特派員―日本に来た外国人は日本のことで本音を話しませんね。これは非常に日本の社会にとって不幸なことだ、なぜなら、外国の人たちの目に日本がどう映るか気にする国民性だから、です。 ナモネ氏―それは、まあ、有名な話だが、日本ほど外国の批判を聞き入れない国もないよ。で、自分たちをどう思うか、と尋ねる。 特流員―嫌味ですね。それとも、やはり自信がないんでしょうか…ところで、現実からそんな出来事を拾って考えてみると、やはり経済的な恩恵を受けてる外国人は遠慮しますよ。93年小坂町に鉱山の研修に招かれたアジアと南アメリカの人2人を鷹巣町の大太鼓の館に案内したときも、そうでした。美的感受性はあるのに、壁画の拙劣さについて感想を言わない。鷹巣の画家で読売新聞地方版のアトリエ探訪欄に載っていたが、基礎もできていない。後でどれだけ研修生が日本の国から研修費をもらってるか聞いたら、イスタンプールから来た男が、といっても映画の題名じゃないですよ、打ち明けてくれました。20万円! ナモネ氏―一財産だ!地方新聞を見ても感じることだが、外交辞令ばかりだ。甘やかして駄目にしようという魂胆があるんじゃないか? 特派員― 特殊法人NHKの会計検査院報告書について朝日新聞が書いてる、10年分の報告書のコピーはどの年もただ一言〈検査の結果、記述すべき意見はない〉民主党の代義士が請求したものですが、調査してみると、NHKは設立以来50年間問題点を指摘されたことがないそうです。 ナモネ氏―優等生だから、情報公開法の対象から除外していいと政府は考 えてるんだろうな。検討委員会でのヒアリングを読むと、NHKの発言内容はナンセンスだ。〈国の出資を受けてない〉といっても、委員が反論するように〈受信料は放送法に基づき国権で収納される。得た物をどう使ったか説明する義務がある〉 特派員―何が教育テレビだっていうんだ!〈法の対象になると、放送機関の自主牲を損なう危険性がある〉まるで自主牲があるかのような言い草だ。検査院OBを86年以来ずっと天下りさせていながら! ナモネ氏一NHKを見るのは、もう止めよう。大館で岩木山遭難ドラマのロケをやったとき、女のプロデューサーが新聞取材に答えてこんな阿呆なメッセージを送ってた、〈純粋な友情があることを知ってほしい〉 特派員―権力内部の友情というわけで…無駄遭いは止めてほしいな。ぼくが放送機関に注文したいのは番組を大幅に減らすことです。そうすれば、彼らは睡眠時間をたっぶり取れて、少しは血の巡りが良くなる。 ナモネ氏―時間の奴隷だから、なあ。自主牲という言葉を使ってみたって、ちゃんと勉強しなけりゃあ、意味がない。お城から出て世間の風に当たれ、と言いたいね。 特派員―プロ野球選手のように出来高払いを採用すると、おもしろくなると思うんですよ。大学教授その他税金で生活してる研究者も、ね… ☆ ☆ ☆ |
☆ ☆ ☆ HHJ VOL.78 2001.2.14 ナモネ氏―トゥルニエの《黄金のしずく》は、どうだった〔1〕? 編集長―普通の書き方だが、シチュエーションが凝っていますね。ベルベル族の少年が砂漠でフランス女に写真撮影されて、それをフランスに取り戻しに行くという。 ナモネ氏―素朴なんだね。写真を撮られたままでは災いを招くと人から聞かされて、初めて取り戻そうという不安な感情に囚われる。 編集長―祝宴の踊りの場面でページの向こうに入り込んでしまいましたよ。〈(略)だが、トンボの羽は中傷、/コオロギの羽は文書、/中傷は死の奸計の裏を掻き、/文書は生の秘密を暴く。/トンボは死の奸計を文書にしたため、/コオロギは生の秘密を文字で書く。〉観衆が歌う謎めいた古い歌が、胸騒ぎを起こす。 ナモネ氏―あのトンボはいったい何なのか、ね? 編集長―まあ、ともかくダンサーの首飾りの黄金の滴、それについて作者の説明は考える価値がありますね。〈純粋なシーニュ〉〈完全無比の形〉〈イマージュを持たない世界の発現物〉であり、カメラを持ったフランス女の〈アンチ・テーゼ〉であり、〈解毒剤〉である… ナモネ氏―パリに出稼ぎに行ってからTVのコマーシャルに出演するが、撮影所から暗転して非常に怖いシーンが続く。イマージュの持つ魔力がむき出しになる。 編集長―あの展開はシュール・レアリスムですね。撮影が終わったラクダを屠殺場で処分するためにパリの真ん中を横切って歩く。幸い処分は断られるが。 ナモネ氏―それより哀れなのは、少年がマネキン人形の型を取られる場面だよ。精神が少し狂うのも、無理はない。魂を奪われたんだから。 編集長―ええ、脱け殻ですね。映像が実体になってしまう。〈解毒剤〉として、つまりイマージュの呪縛から逃れるために、イスラムの文字と書 を学ばせるというのは普通の才能には書けませんね。 ナモネ氏―そこなんだが、日本や中国の書とは反対に絵画を目指さない。トゥルニエが言うようにイマージュは物質だから、それが持っている可視的なものを超えようとする。ヨーロッパ世界における疎外(アリエネ)との戦い、砂漠への回帰なんだ。 編集長―イマージュは単に映像と置き換えてもいい。少年が経験したイマージュの呪縛とは、悪夢の恐ろしさですね。 ☆ ☆ ☆
l Michel Tournier :フランスの作家。 La goutte d’or 1985年出版。榊原晃三 訳 白水社。 何となく気になる関係 |
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VOL.77 2000.12.12 特派員―平和を愛する人たちにとってロシアと日本の関係ほど不幸なものはないですね。ソ連が消えて民主主義の国になってから10年になるというのに、相変わらずビザを取らなければ旅行できない。国際関係の構築のために最も基本的なことが。 ナモネ氏―それもこれも平和条約が締結されてないからだな。お互い隣同志だから、仲良く暮らそうという考えは同じだと思うんだが… 特派員―それが第一分からない、とロシアも日本も心の中で疑っている。仮に両国の老いたる愛国者が対話をして日口関係の歴史に触れるとしたら、非難の応酬ですよ。 編集長―どっちにも深いパトスが流れてるね。しかし、それは近代以後の国家が前面に出て支配階級が極東の利権を巡って対立してからのことだ。国境などなかった時代は、人々は結構おおらかに交流していた。そこにはイデオロギーの対立がなかった。国家が得意とする情報操作も必要でなかった。相互不信は作られたものなんだ。そう認識しなければ、並んで前に進むなんてことはとてもできないね。だから、ぼくは平和条約にサインすることが何より優先するべきだと考えている。それから、日本人には日口問題だが、ロシア人には日本とアメリカが一緒に視野に入るということも忘れるべきじゃ ない。プーチン大統領が日本政府の(解決への善意)を強調したのは、長い間の仮想敵国扱いが消えてないのを批判してるんだ。 特派員―自民党と右翼のアイデンティティは本質的に反共産主義の他にないんだから、それを止めると、方向感覚が狂ってしまうという恐れがあるんじゃないのかな?森首相が天皇中心主義を、小沢一郎が道徳を、古本屋の奥から引っ張り出したのはそのためですよ。ともあれ、平和条約はどんな目的のために必要なのか、それを明確に言語化することから始めなければ… ナモネ氏―少なくとも戦略的な意図はないと思いたいな。日ソ中立条約は相互の国家利益が一致して成立した。日本は東アジアにおける支配権の強化拡大とアメリカとの戦争を計画していたし、ソ連はナチス・ドイツの侵略に備える必要があった。どちらも背後の脅或を取り除くという一点で打算的に条約を結んだ。日本の愛国者はソ連が中立条約を破って満州に攻め込んだことを不信の理由の一つに挙げるが、当然だよ。 特派員―しかし、満州帝国建設は国際連盟の承認を得られなかった。スターリンと中立条約を結んだ松岡洋祐外相がそれに怒り、国連脱退の演説をしたけれど、国際関係を断ち切ったからといって、満州帝国は正当な国家とはならないでしょう。中国人の土地ですよ。ソ連が中国の共産主義発展のために取り返してやったにすぎません。 編集長―まったく、そのことについて日本は弁明しようがない。 ナモネ氏一間題は、日本人とロシア人が手を取り合って平和に暮らせる環境を作り上げて行くことじゃないか?そりゃあ、お互い言いにくい感情が色々があるだろうが。 特派員―ええ。しかし、問題解決に武力を使わないというだけでは足りませんね。謀略的な活動もしないと宣言しなければいけない。平和に、というよりも、人間が争いをしないで幸福に生きられる環境を作る、これが目的ですよ。争いは言論だけで…それがなければ、武力や暴力の始まりですからね。 編集長―そう。国境の線引きは平和条約締結後でいいが、あの辺の国境はむしろ消した方が理想的だな。北方の少数民族がそう願ってるような気がするよ。 ☆ ☆ ☆ |
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☆ ☆ ☆ HHJ VOL.73
2000.4.13 ナモネ氏―3月中頃中央図書館にいったら、受付けカウンターの後ろに大館市の例規集が置いてある。自治精神に冷水を浴びせることが多い大館の行政機関が、ねえ、と感心したよ。 編集長―あれはHHJが総務課に要望したものです。情報公開の折りに世間話をしたときに、ね。市民は大館市の規則を知ろうとすれば、総務課の隅で遠慮しながら例規集を読むしかない。HHJは非公認ジャーナリスムだから、情報弱者の立場で政治や行政を見ることができたわけです。 特派員―ぼくは公文書備え付けの規則をちゃんと作るべきだと思うね。以前置いていたはずの予算書は今置いてないし、議事録はいつ市役所から送られてくるかさえ決まってないという。慣習でやってるだけなんだ。 ☆ ☆ ☆ 編集長―衆議院の解散の時期が迫ったせいか、社民党の畠山健次郎衆議院議員から1枚の国会通信が配布されてきたよ。今までなかったことだ。議員個人の通信を出すのは民主主義と自治のためになると思いながら、よく見ると、ずっと以前から毎月発行してるんだ。 特派員―でも、結構な活動じゃないですか ?県議や市議もそうするように条例で義務付けたいもんですよ。レポート集を図書館に置けば、費用はほとんど掛からない。 ナモネ氏―市議会の動きが市民の目に晒されると、劇場効果が出て活発になるねえ。議員が公務に関する活動報告をすれば、互いに他の議員の言動も書かないわけにはいかない。 編集長―劇場効果とは、うまい表現ですよ。スタンド・プレーやレポートの内容をめぐる非難の応酬もあるだろうが、プラスの方が大きい。特に、社会に向かって書くことは個人の責任能力を向上させるはずです。 半分半分放送局長一大日堂舞楽を撮影したとき、舞台の宙空を見上げて唖然としたね。奉納した幡(はた)が下がってるんだが、前防衝庁長官野呂田芳成の名前が大きく書いてある。あんなプレゼントを飾るのは無礼ってもんだ! ☆ ☆ ☆ 特派員―小畑惣一郎元市議の控訴が3月末仙台高裁で棄却された。被告は最高裁で堂々と弁明しようと頑張ってる。大館市民オンブズマンは、農地転用違反に役所が組織的に係わったのは全国で初めてだ、と非難する声明を出した。HHJも、問題の土地の現状回復のために市長と市役所が事件を起こしたときと同じように主体性を発揮するよう要求する。大館独自の脳味噌でもって!…事件の追認は心理的な共犯ですよ。ところで、情報公開などで市民に送付する文書には自治体の長の名前と担当課名だけが載るけれど、実行責任者の名前も記して責任の自覚を持たせるべきですね。 ナモネ氏―そうすると、市民は少し行政機関に親密感を持つようになるかもしれんな。顛の見える文書形式ってのは、いいアイディアだ。 特派員―切符が売り切れのとき、パリの駅や映画館では〈Je n′ai
pas le billet.私はその切符を持っていない〉と答えるというんです。ぼくは幸いそんな目に遭わなかったけれど、個人主義の国らしい話し方だと思いましたね。 ナモネ氏一釣り銭を出さない係員がいるそうじゃないか? 特派員―ええ、ぼくも一度女の係員にやられて呆れました。フランス語でちゃんと催促するまで、払ってくれませんね。〈La monnaie ラ・モネ〉と。 ナモネ氏―フランス語を話せない罰なのか、ねえ。それはそうと、農地転用事件で上司の命令に従った職員らは責任を問われていないが… 特派員―だから、この種の大小さまざまな陰険な企みが何度でも繰り返されるんですよ。歴史認識が正しければ、許せないはずです。 ☆ ☆ ☆ 暗智君―安比スキー場からの帰り、88年頃だったが、真っ暗な雪道を疲れ切って何となくハンドルを握ってると、県境の辺りから轍が深くなった。別に珍しいことじゃない。しかし、まもなく2本の溝が氷のように固まって、車輪が左右に動かないのが分かった。対向車は少ないが、安全のために早く轍から出ようと考えてハンドルを何度も切った。しかし、タイヤが滑ってどうしても脱け出せないんだ。ぼくは雪のカーテンの中に見える4本の黒い平行線を凝視して、こう自分に言い聞かせたね。鉄道のレールみたいなものだから、運ばれるままになってる方が安全だ、と。でも、これは勇気がいることで、湯瀬温泉まで迷いと不安は消えなかった。あの氷のレールを走ってる間ぼくはただハンドルに触っているだけだった。レールの側面とタイヤには摩擦が全然生じなかったんだ。 特派員―なあるほど。地下鉄H線の脱線衝突事故の原因について? 暗智君―あの日あの時なぜ事故が起きたかという説明をどこもしていないが、テレビ朝日のニュース・ステーションが流した現場の映像を見ると、レールの側面に錆が多かった。摩擦が強いほど、車輪の脱線防止フランジは簡単にレールの上に乗る。車体の軽量化や急カーブというのは事故の条件でしかないね。錆は冬の雨や雪に混じる酸化物が増加したから、多く発生したのかもしれない。 ☆ ☆ ☆ ▼ 偽装事故 / 米代川デイト/ 不存在の事件 En
Passant 2002.8.7 ☆ ☆ ☆ 編集長―ちょうど警察組織の非行や不正、それらの内部的隠蔽工作が世間を騒がせていたから、ぼくは違った角度から同時的に発生した事件と事故と出来事を眺めた。出来事というのは事件と事故が間接的に社会に引き起こすさまざまな表現をも含めた言い方で、例えばマス・メディアのとらえ方や社会の反応などだ。最近のニュースから言えることは、事故の調査と刑事事件の捜査に第三者機関を参加させて警察権力を民主化する必要があるということだ。 放送局長―警察が密室で事実関係を造るのを阻まなければ、な。 特派員一取り調べをオープンにしろ、という声は事あるごとに上がりますよね。 放送局長―今がチャンスだな。テープ・レコーダーとヴィデオ・カメラを持った弁護士かジャーナリストの参加を制度化するべきだ。 ナモネ氏―冤罪を予防するには、最良の手だ。戦後の司法は事実と物的証拠を重んじるよう否応なく民主化されたが、警察権力はどっちも簡単に捏造する癖があるから、なあ。あった、と過去形で言うことはできないよ。危なくて。 ☆ ☆ ☆ ▼ 国連の勧告 : 警察の取り調べを透明に 2005.1.4 ▼ 検察庁の決意 : ヴィデオで取り調べを記録 2006.5.17 |
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☆ ☆ ☆ HHJ
VOL.65 1998.12.14 編集長―芸術だろうが、思索だろうが、疲労したら、さっさと止めることができなければいけない。スポーツと同じだよ。 ナモネ氏―年老いると、どうも短気になるが、目に映るものの輪郭を丁寧に写し取るという作業は案外精神の薬になるねえ。自分勝手なエゴから離れることができる。 編集長―トレーニングとしては悪くないな。若い頃は楽しくやれたもんですよ。 特派員―そうでしょう、そうでしょう。 ナモネ氏―長谷川木工所の椅子は頑丈だったが、君も組み立てがうまい.構造を見るカがあるんだな。これとそれをどんな風に繋げるか、ちゃんと心得てる。 編集長―小説を読むときや書くときも役に立ちましたよ。カミュの《異邦人》には、どことは言わないが、感嘆する一行があった!サルトル(J.P.Sa r t re)はカミュ(A.Camus)の小説をヘミングウェイの文体で書かれたカフカ(F.Kafka)だと批評したが、ぼくはカミュとヘミングウェイを高校時代に愛読して、文体は似ていないと思ったね〔1〕。 特派員―感性が違う。ロスト・ジェネレーションの作家たちが編集長の文体に影響を与えてるかな?生き方には感じられないでもないが。 編集長―20年代のシカゴ・ムードのキャンパスで戯れていたときから、ぼくは〈小説とは思想だ〉と考えてるんだ。気に入った文体だからといって、真似しようとは思わなかったね。でも、飛行機乗りのサン・テグジュペリには思想的にもかなり影響された跡がある〔2〕。宝石のように透明なフランス語がいい。方法論で参考にしたのは、サルトルの実存主義小説《嘔吐》とシュール・レアリスムだ。意識から存在を開こうとする彼の哲学は途中で読むのを止めてしまったが。 ナモネ氏―以前、《嘔吐》の冒頭に感心したと言ってたが、海辺の小石を客観的に描写してこんな記述は何にもならないと言って放棄する、あの失敗した始まりのどこがいいんだろうね?哲学者は度胸があると思うなあ。 編集長―あれはサルトルの凄いところで…ぼくは、ストーリーはどうであれ展開に内在的必然牲がなければ駄目だと思いましたね。あのシーンを説明するような記述は全然出ないが、あれが源流です。主人公は環境世界との関係を最初からやり直すために日記を書き始め、そうして終わりに昔の女と再会する。 特派員―自然回帰ですね。街で男のネクタイがネクタイのように知覚できない孤独な主人公が、〈なぜ?〉と人間存在を探求する。リルケ(R.M.Rilke)の《マルチの手記》の詩人も比喩的に、缶の蓋が缶にぴったり嵌まらないことを悩む。 ナモネ氏―そうか.哀れなロカンタン青年は、小石がセーヌ河の橋の下にあり、岸辺には恋人たちが座り、肩の上には青空が広がっていると書けば、立ち直れたわけだ! 特派員―それらを眺める私は船の上にいる、とね。 ☆
☆ ☆ 1 Ernest Hemingway ; 新聞記者として第1次世界大戦に従軍、小説家になってからスペイン内戦に参加した。 2 Antoine
Saint-Exupéry ; 初期の郵便輸送機のパイロットから小説家に。 有意義連関の知覚と分節について想い出すために カミュについて |