難波田龍起展
展示の様子、1 展示の様子、2 展示の様子、3 展示の様子、4 展示の様子、5 展示の様子、6

日曜日。お気に入りの画家を知ってもらいたくて、彼女を誘って初台まで出かけた。選挙の投票は期日前に済ませてある

難波田龍起の作品を初めて見たのは、おそらく大川美術館で見た「コバルト・ブルーの歌」だろう。2009年の冬のこと。会社を整理解雇されそうになり、前の職場の先輩が働いていたスタートアップに頼み込んで面接を受け、内定をもらったばかりだった。

最初に惹かれたのは青だった。それから展覧会の情報を得るたびに出かけては、難波田の作品を見てきた。

難波田作品の魅力は、第一に色調にある。見つめていると鮮やかな色の世界に吸い込まれそうになる。

第二に、その魅力として挙げたいのは、抽象性のなかにある具象。難波田の描く抽象画は抽象的でありながら、雲の浮かぶ空のようにも見えたり、深い森のように見えたりもする。線や色だけで構成されている抽象画とは何かが違う。

だから、これまではこの二つの点、色調と具象を意識しながら、難波田作品を見てきた。今回の回顧展では、画家の内的発展の過程もわかった。もう少し具体的に書くなら、模倣や試行を重ねていくうち次第に芸術家独自のスタイルが完成されていく過程をつぶさに観察することができた。

難波田の抽象画は、抽象画にありがちな偶然性に頼ることはなく、むしろ鍛えられたデッサン力が支える計算された抽象性と言えるだろう。

雲や木や人が見えるのは偶然ではない。鑑賞者がそうしたものを想起するように、画家はさまざまな具象を密かに描きこんでいる。「抽象のなかに形象がある」という解説の言葉にも納得した。

そして、二人の愛息を失ったあとの作品には、悲しみにこもることなく、悲しみを創意に変換して制作に打ち込んだ芸術家の情熱が感じられた。回顧展のポスターにも使われている「昇天」はその情熱が見事に作品に昇華されている。こんなに迫力ある鎮魂のメッセージは見たことがない。

連休の中日だったせいか、観覧する人は少なかった。本展では写真撮影もできた。個々の作品は図録で見返すことができるので、作品が展示されている様子を撮影した。

抽象と形象。色彩と線。難波田が作り出した作品世界を堪能する幸せな時間を過ごした。

コレクション展では、相笠正義の作品を多く見ることができた。母子が昼をしている「夏:うたたね図」が微笑ましい。ほかには小野田雄「ナイト・クルージング」、川口紀美雄「一日の終わり」、奥山民枝「シリーズ「迣」(わたる)」「正陽」「日尽」などが印象に残る。川瀬巴水の水彩画もとてもよかった。

美術館を出ると、ロビーでピアノとクラリネットのミニ・コンサートが行われていて、しばらく聴いていた。50階以上のビルだから平日はランチを急ぐ人で混雑しているだろうレストラン街も空いていた。大戸屋で定食を食べてから、暑いので寄り道せずに帰宅した。

少しのあいだでも猛暑のなかで過ごすと消耗する。帰宅して横になっていたらいつの間にか眠っていた。


さくいん:難波田龍起大川美術館相笠正義川瀬巴水