夜、ふとつけたラジオで朗読番組を聴いた。話が面白くて、次第に引き込まれていった。
書名は聴いたことがあった。死に興味をもった少年たちという内容も知っていた。でも、結末も含めて細かいことは知らない。レビューなどは読まずに、耳だけで楽しんだ。
本作はテンポがいい。話がどんどん進んでいくので、子どもも飽きずに読み終えるだろう。
人の死生観は、大切な人を初めて失ったときに形作られるものではないだろうか。その人との関係、亡くなり方、そのときの自分の心理状態。そういったものに影響されてその人の死生観が形成される。
思春期の初めに、大切に思っている人を、突然に亡くしたら、その死別体験は、その人の死生観に強い影響を及ぼすだろう。12歳で姉を自死で失った私がそうだった。
人の命はいつ終わるか、わからない。突然、前触れもなく亡くなる命もある。12歳だった私はそう強く感じた。
姉は心を病んでいて、いつ亡くなってもおかしくなかった。でも、あんなに早く、あんなに突然に、いなくなるとは思っていなかった。
本作の主人公である3人組も小学六年生、11歳か12歳。姉が亡くなったときの私と同じ年ごろ。それぞれに心に思春期ならではの悩みを抱えている。
おじいさんが戦争のさなかに体験した苦い出来事は前に読んだ『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか』を思い出させた。敵と離れて機械が戦う海上戦と違い、地上戦では生々しい殺し合いが起きやすい。それだけ、関わった者の心には深い傷を残す。
子どもにとって、本書を読むことは死別の疑似体験、もしくは予行演習にはなるだろうか。なるかもしれない。本書を読んだ小さな読者が大切な人との死別を体験したら、本書を読み返すことがグリーフワークの一助になるのではないか。そういう一冊になっていると思う。
最終回。3人はおじいさんの思い出を胸にそれぞれの道に進む。
もうお化けは怖くない。俺たち、あの世に知り合いがいるんだからな
この言葉のおかげで、彼らは悲しみをこじらせることなく、自然な流れでグリーフワークを終わらせることができたと思う。
この言葉は力強い。こんな考え方はいままでしたことがなかった。見習いたい。
ほかにも、グリーフワークの教科書に書いてあるようなことが物語のなかに上手に織り込まれている。
- 悲しみを親しい人と分かち合う
- その人との思い出(コスモス)を大切にする
- 思い出を言葉にして書き出す
- その人がいたら、どうしていたか、何を言ったか、想像する
- 新しいことに挑戦する
物語がよかっただけでなく、朗読もとてもよかった。これだけ長い話を、同じテンポで、同じ抑揚で、しかも人物を演じ分けながら読むには相当の技量が必要だろう。素敵な作品と朗読で出会えてよかった。
「朗読の世界」の前にラジオドラマ『青春アドベンチャー』で「アゴラ69」を聴いた。2020年代の若者が1969年の新宿フォーク広場にタイムスリップする話。荒削りな話だったけど、結末が予想と違って面白かった。
十代の頃はよくラジオで朗読やドラマを聴いていた。高橋三千綱「九月の空」や宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」などはラジオで聴いてよく覚えている。ほかにもニッポン放送の「夜のドラマハウス」で、ショートショートやホラーのドラマをよく聴いた。だから、朗読やラジオドラマを聴くとなつかしい気持ちになる。
寝る前の楽しみが増えた。
さくいん:NHK(ラジオ)、死生観、自死・自死遺族、グリーフ(悲嘆)、宮沢賢治