有閑倶楽部 虎の巻、一条ゆかり、集英社、2002

有閑倶楽部 第19巻、一条ゆかり、集英社、2002


キャラが立つ、という表現をするらしい。作品のなかの人物造形がしっかりできている様子を言う言葉。物語の展開を作者が用意するまでもなく、登場人物たちがもつ多彩な性格によって自在に切り開かれていくようなことを指すのだろう。

20年近く続くこのコミックだけでない。長く続く作品の魅力は個性的な登場人物に負うところが大きい。『名探偵コナン』『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『翔んでる警視』『刑事コロンボ』など枚挙に暇のない例をみれば、エンターテイメントの世界では、キャラを立たせることが成功の鍵であることがわかる。


インタビューで一条は、それぞれのキャラクターにどんな台詞をいわせるかということより、不似合いな台詞を言わせないように注意していると言っている。作家というと、創り出すのが仕事だと思っていたが、創り出さないようにする仕事もあると得心した。

性格がわかりやすく、はっきりしていることが「キャラが立つ」条件だとしても、そうかといっていつも同じ台詞を言っていればマンネリになる。水戸黄門のヒゲのようにちょっと容姿をいじっただけで視聴率が下がることもある。マンネリであることだけが作品の魅力になる場合もあるということ。とはいえ、読者はたいてい軽い裏切りを期待するもの。


生身の人間でも同じことが言える。同じ状況で、毎度毎度同じ言葉を聞くと相手がうすぺっらい人間に思えてくる。そうかといって、相手の性格からは思いつかない言葉を聞いて返答に窮することもある。軽い裏切りの程度が難しい。

第19巻、第三話での清四郎の豹変ぶりは、ファンの間では好き嫌いが分かれるところだろう。清四郎のああいう姿はあまり見たくなかった。悠里と結婚しそうになった話もあまり好きではなかったし、清四郎はちょっと常人ばなれしたままでいてほしい。

もちろん、これは一ファンの他愛ない感想にすぎない。


碧岡烏兎