北イタリア(東部) のロマネスク |
ヴェネト・トレンティーノ・ フリウリ地方 |
Veneto / Trentino / Friuli |
北イタリア(東部)の州と州都(●) |
■ヴェネート (Veneto) 州 |
1 Rovigo 2 Venezia 3 Padova 4 Verona 5 Vicenza 6 Treviso 7 Belluno |
■トレンティーノ・アルト・アディジェ州 (Trentino-Alto Adige) |
1 Trento 2 Bolzano |
■フリウリ-ヴェネツィア・ジュリア州 (Friuli-Venezia Giulia) |
1 Pordenone 2 Údine 3 Gorizia 4 Trieste |
北イタリアの東側、という意味である。 アドリア海や東方への窓口であり、特にヴェネ ツィアを中心とした東方文明の玄関でもあった。 ビザンチンの影響が強く、それがロマネスクに も反映して、モザイクやフレスコ、円形ドームな どが特徴となっている。 また、北側はスイス・オーストリアに接してい るので、カロリング朝の影響の強いフレスコも数 多く残っている。 また、フリウリに残るランゴバルドの遺構は誠 に貴重、と言わざるをえない。 |
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トルチェッロ/ 聖マリア・アッスンタ教会 Torcello/Chiesa di Santa Maria Assunta |
2 Venezia (Veneto) |
ヴェネツィア沖のラグーナと呼ばれる潟に開か れた村で、7世紀以来の歴史を有する古い遺跡も 多い場所である。ヴェネツィアのフォンダメンテ ・ヌオヴォからの渡し舟で訪ねることが出来る。 港から運河に沿ってしばらく歩くと、ビザンチ ン風の素朴な聖堂が見えて来る。 三廊式のバシリカ形式で、三つの後陣を備えて いる。中央と右側の後陣のドーム壁面に、ビザン チン様式のモザイクが残っている。 写真は中央後陣の聖母子像である。下部の使徒 像も含め、時代が放つ荘厳で純粋な表現に感動し た。 右後陣には二天使を従えた玉座のキリスト像が 描かれており、身廊を挟んだファサード裏側の最 後の審判と共に、聖堂全体がモザイクで飾られた 壮麗な空間となっている。 隣接する聖フォスカ教会 Santa Fosca は、円形 ドームを中心としたギリシャ十字形プランで、柱 廊の美しい10世紀のビザンチン建築である。 |
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ムラーノ/ 聖マリア・聖ドナート教会 Murano/Chiesa dei Santissima Maria e Donato |
2 Venezia (Veneto) |
トルチェロへと向かう渡し舟は、途中でこのム ラーノ島とブラノ島へ寄港する。 この島を訪れる客の大半は、ヴェネチアン・ガ ラスの工房や直売店が目的である。 教会は船着場から町の中を歩き、橋を渡り運河 に沿って更に進んだサン・ドナート運河のほとり に建っている。 赤味を帯びた煉瓦造りなので、ビザンチンの聖 堂を想わせる東方的な雰囲気に満ちている。 聖堂は三廊式バシリカ形式だが、階上は十字形 になっている。 身廊の床のモザイクや柱頭は12世紀のものら しく、後陣ドームのモザイクは聖母像で13世紀 だと解説に書かれていた。 写真は、ロッジェッタと呼ばれる小開廊アーケ ード部のある後陣で、運河のほとりという立地条 件もあって大層美しい景観を見せていた。鐘楼と 共に12世紀の建築である。 |
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コンコルディア・サジッタリア/ 大聖堂 Concórdia Sagittaria/ Cattedrale |
2 Venezia (Veneto) |
この町は、ヴェネツィアから東へ60キロ、ち ょうどトリエステとの中間に位置しているポルト グルアロの南5キロに在る。 大聖堂の建築は15世紀だが、鐘塔はロマネス ク様式である。目的は聖堂の脇に建っているビザ ンチン的要素が濃い11世紀の洗礼堂で、写真は 洗礼堂の後陣と鐘塔を写したものである。 洗礼堂は外見は円形だが、煉瓦を積んだ八角形 で、三つの祭室と後陣を持つ、小規模だが見事に 調和の取れた愛らしい建築であった。 イタリアのビザンチン的な建築のプリミティヴ な美しさに魅せられたままで、バルカン半島への 想いは増幅するばかりなのである。 洗礼堂内部は天井を中心にして、壁面上部はフ レスコ画で埋め尽くされている。 中でも天井ドーム部分の「玉座のキリスト」が 出色で、簡素な色彩だが落ち着いた優雅な姿がと ても気に入った。三人の天使像も象徴的で、大変 美しい図像である。 四福音書家を中心にした聖人像が、アーチと柱 で出来た壁面に描かれており、これも均整の取れ た美しい空間が演出されていたのだった。 |
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スンマーガ/聖マリア・ マッジョーレ教区教会 Summaga/Pieve di Santa Maria Maggiore |
2 Venezia (Veneto) |
ポルトグルアロ Portogruaro の町の郊外に三 つのロマネスク教会が点在する。その教会群内の 一つで、3キロ西に当たる静かな集落である。 教区教会は別名「昇天教会」とも呼ばれるが、 11~12世紀に創建されたベネディクト派大修 道院の遺構の上に、13世紀初頭になって再建さ れた建築である。 聖堂は写真で見る通りの三廊式で、木造の天井 に採光窓が上部に設けられたアーケードで仕切ら れている。 祭室のドームと壁面に、色鮮やかなフレスコ画 が残されている。制作年代は11~13世紀との ことであるが、身廊の壁面に残された“磔刑”な どが古そうで、祭室の“玉座のキリスト”や十二 使徒像などはゴシックに近そうだった。 聖堂後方の草原に立って眺めた鐘楼と後陣の景 観は、糸杉との調和も美しく感動的だった。 |
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セスト・アル・レーゲナ/ 聖マリア・イン・シルヴィス 大修道院 Sesto al Règhena/Abbazia di Santa Maria in Silvis |
2 Venezia (Veneto) |
ポルトグルアロの北10キロに在るやや大きな 町である。町外れに建つ大修道院の存在が、町の 発展に寄与してきたと言えるだろう。 2002年に訪ねたことがあったが、今回のヴ ェネート探訪の折に懐かしくなって再訪したのだ った。しかし、前回と違って入口に見張り役の若 者が控えており、内部の撮影は一切許されなかっ たのである。「昔来た時には撮影自由だったよ。 フラッシュを使わなければ良いだろう」と英語で 話しかけても一切通じなかった。 入口の左手にスンマガの塔に似た鐘楼が建って いるが、やや時代は下がりそうだ。 聖堂入口周辺にフレスコ画が多数見られるが、 11~15世紀と幅が広い。天使の像などが古そ うである。 祭室の後陣の壁に描かれたフレスコ画が主役の ように見える。ドーム部分は“聖母戴冠”と周囲 で祝福する聖人たちが描かれている。だがどうも この辺りはルネサンス的である。 写真は祭室下の地下礼拝堂クリプタで、200 2年に撮影したものである。(現在撮影厳禁) この部分が最もロマネスクらしい建築だが、天 井の交差リブ・ヴォールトはややゴシックを思わ せる。しかし細い大理石円柱や素朴な柱頭には、 創建時の面影が伝わっているような気がする。左 側に置かれた石棺は聖アナスタジアのものと伝わ る、8世紀の制作になる柩である。 |
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カオルレ/司教座大聖堂 Càorle/Cattedrale di San Stefano |
2 Venezia (Veneto) |
ポルトグルアロからは真南に海岸まで27キロ 行った海沿いの町で、かつては漁業で栄え、現在 はリゾートとして発展している。 教会は町の旧市街部分の中心に建っており、創 建は11世紀という聖ステファヌス(フランスで はサン・テチェンヌ St-Étienne) に捧げられた 司教座教会なのである。 聖堂の入口の両側に、ビザンチン風の聖人浮彫 が配されている。内陣は三身廊で、側廊との間の アーケードには円柱と角柱が交互に使用されてい る。円形の後陣がロマネスク的で、素朴な盲アー チが唯一の装飾となっている。 写真は、聖堂のファサードとは至近に建つ鐘塔 で、12世紀の初頭に建築されたものだ。 何かの本で見て以来、必ずや訪ねてみようと思 いつつ、なかなか機会が訪れなかった。 一見不規則に見えるが、よく見るとそれなりの 法則に従って窓が開けられているようだ。 頂上の尖がり帽子は別として、円塔のイメージ がラヴェンナのサン・タポリナーレ・ヌオヴォや クラッセの円塔に類似しているように思えた。こ の教会もビザンチンの影響を受けた、と言えるか もしれない。 いずれにせよ、魅力的な風貌の鐘塔であること に変わりは無い。 |
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パドヴァ/大聖堂(洗礼堂) Padova/Duomo (Battistero) |
3 Padova (Veneto) |
ドゥオモの創建は9~10世紀だが、16世紀 のミケランジェロのデザインによって再建が続け られてきており、残念ながら、ロマネスク的に見 るべきものは無い。 写真はドゥオモに隣接して建つ洗礼堂のファサ ードで、ドゥオモ広場に面して扉口が開かれてい る。 正方形の建物に壮大な筒型のクーポラが突き出 した格好の洗礼堂で、12~13世紀に建てられ たロマネスク建築である。 壁面唯一の装飾であるロンバルディア帯以外に は何の演出も無い素朴な建築が、むしろ音楽のよ うな躍動感を生み出している。 堂内は、壁面も円蓋も全てがフレスコ画で覆わ れており、目くるめくような興奮を感じさせる。 フレスコ画は大半がジュスト・ディ・メナブオイ Giusto di Menabuoi の作品で、14世紀に描か れたものである。 どうしても鮮やかな色彩のフレスコ画に目を奪 われるが、フレスコを無視して建築だけを眺めて 見れば、小クーポラを備えた祭壇が西側に付帯す る以外は、全く素朴な正方形の平面プランなので ある。 中央に置かれた洗礼盤は13世紀半ばの作であ る。祭壇に置かれた聖母子像の祭壇画も見事なの だが、クーポラに描かれたキリストと膨大な数の 聖人像には、ロマネスクを忘れて圧倒されてしま った。 |
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パドヴァ/聖ソフィア教会 Padova/Chiesa di Santa Sofia |
3 Padova (Veneto) |
旧市街の東側に建っており、余り知られていな い存在だが、パドヴァ最古の教会なのである。 カロリング朝時代に創建され、11~12世紀 に再建されたものが基礎となっている。 ファサードには盲アーケードとロンバルディア 帯を多用した意匠が見られる。 三廊式の身廊は清々しい空間で、仕切りのアー ケードが美しい。 写真は祭室部分で、四本の円柱に囲まれた祭壇 の背後に、壁龕 Niche が設けられた壁に囲まれ た周歩廊が見られる。 建物背後から眺めた後陣の、三段アーケードも 珍しい意匠である。 |
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パドヴァ/聖アントニオ聖堂 Padova/Basilica di Sant'Antonio |
3 Padova (Veneto) |
パドヴァの聖アントニウスに捧げられた、イタ リア国内では最も有名な巡礼地である。 私たちが訪れた夏の日にも、聖堂前の広場は多 くの巡礼者で溢れていた。別名で Il Santo イル ・サントと呼ばれている。 ビザンチン様式のクーポラが八つ連なる設計プ ランは、六つのクーポラのあるフランスのペリグ ー Périguex の大聖堂を拡大したような規模で ある。身廊から祭室までに六つ、左右の翼廊に一 つづつ、という配列になっている。 クーポラの間に、ゴシックの尖塔が二本、モス クのミナレットみたいな小塔が二本立つという、 何とも壮大な建築だとしか言い様が無い。 聖堂の建造は13世紀前半から14世紀半ばま でかかったそうで、ロマネスク後期からゴシック へと移行していった時代の様式を伝えている。太 い角柱で区切られた横断アーチとクーポラ、側廊 との間の豪壮な半円アーケード、などにロマネス ク的な要素が見られる。 多数の柱で囲まれた祭壇は、装飾過多で好きに はなれないが、巡礼のために設けられた周歩廊は この教会の存在を象徴しているようだ。 ロマネスクではないが、ドナテーロの彫刻やサ ン・フェリーチェ礼拝堂も見逃せない。 |
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ヴェローナ/ 聖ゼノ・マッジョーレ聖堂 Verona/Basilica di San Zeno Maggiore |
4 Verona (Veneto) |
このファサードを見ただけで、ここは容易なら ざる教会なんだなと感じなければ、まだまだ修行 が足りないことになる。 イタリア特有の獅子が守る柱廊式玄関、聖ゼノ の物語を彫ったタンパン、左右の壁に彫られた浅 浮彫のレリーフ、バラ窓や壁面の装飾、それらに 一級品が放つ独特の雰囲気が感じられた。 特に、左右八面づつに彫られた12世紀半ばの 巨匠ニコロ Nicolò によるレリーフは、詳細に眺 める程に魅力が深まっていく。左側に聖母マリア とキリスト伝、右側に天地創造やアダムとイヴの 物語が彫られている。端正な表現はローマ以来の 伝統を秘めた、イタリアならではのロマネスク彫 刻だろう。 次に驚愕させられるのが、扉内に保存されてい るブロンズの扉である。12世紀の作品で、左右 に24枚づつ、計48枚のパネル彫刻がはめ込ま れている。例えその一枚だけでも至宝と言えそう な程、素晴らしい彫刻である。旧約や新約の物語 を中心に、聖ゼノや聖ミケーレの逸話も描かれて いる。 三廊式の身廊では、円柱と束ね柱が交互に並ぶ アーケードが興味深い。クリプトには壮麗な柱が 林立し、ユニークな人物像などが彫られた柱頭も 見逃せない。 後陣や鐘塔、回廊など、全部見るのに丸半日か かってしまった。 |
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ヴェローナ/ 聖フェルモ・マッジョーレ教会 Verona/Chiesa di San Fermo Maggiore |
4 Verona (Veneto) |
円形劇場 Arena の東、アディジェ川 Adige の河畔に建つ赤煉瓦積みの壮麗な建築だ。 聖堂は、上下二層の構造で構成されている。上 層部は13~14世紀のゴシック様式、下層部は 11~12世紀のロマネスク建築だ。 ファサードはゴシックだが、扉口だけは多重ア ーチ装飾のロマネスクだった。 上部は舟形天井の単身廊だが、下部は写真の通 り、三廊式交差穹窿になっている。身廊の中央に 列柱が設けられているのは珍しく、四廊式とでも 言えそうである。聖母子やキリスト洗礼が描かれ たフレスコ画に古いものがあった。 |
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ヴェローナ/大聖堂 Verona/Duomo |
4 Verona (Veneto) |
アディジェ川はヴェローナ旧市街の北側で北行 から南行へと大きく蛇行しているのだが、その町 の先端部分にこの大聖堂が建っている。 創建は12世紀のロマネスク様式だったが、そ の後部分的にゴシックやルネサンス様式に改造さ れていった。 ファサードは12世紀の柱廊式玄関で、ここに も円柱人像やレリーフなどニコロの浮彫が見られ る。柱廊玄関は聖堂南側にも設けられており、こ ちらには興味深い図像で飾られた柱頭彫刻が見ら れる。 聖堂内部は完全なゴシックで、派手な装飾が嫌 いだった。どこかにロマネスクの礼拝堂が在るは ずだったので、あちこちを探し回った。 写真が、その洗礼堂 San Giovanni in Fonte で、三廊式聖堂の中央に13世紀の洗礼盤が置か れている。「東方三博士聖母子礼拝」や「キリス トの洗礼」など、キリストの生涯が描かれている が、13世紀という時代性と、ローマからの伝統 的な写実性がゴシック的な表現となっていて、ロ マネスク病に罹った患者にはつまらないものに見 えてしまう。困ったものだ。 初期キリスト教時代の遺構が掘り出され、花模 様のモザイク舗床の断片を見ることが出来る。 ヴェローナ全体が、古代ローマ以来の歴史の堆 積の上に築かれてきたことを、改めて認識したの だった。 |
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ヴェローナ/聖ロレンツォ教会 Verona/Chiesa di San Lorenzo |
4 Verona (Veneto) |
アディジェ川に架かるスカリジェーロ橋の景観 で知られる古城 Castelvecchio の前のカヴール 通り Corso Cavour を東北へ600m行った北 側、少し奥まった場所にこの教会が建っている。 初期キリスト教時代の遺構の上に、12世紀初 めになって創建された教会である。 西側ファサードは二本の円塔に挟まれたイタリ アでは珍しいものだが、丸窓と扉口だけの質素な ものだ。隣家との間が狭いので、撮影は難しかっ た。円塔は螺旋階段のためのものだ。 現在の聖堂への入口は、南側に設けられた柱廊 式玄関が使用されている。獅子像は無い。 聖堂は写真で見るように三廊式で、翼廊の付い た十字形である。身廊の上がトリビューンのよう な二層構造になっている。 下層のアーケードにのみ赤い煉瓦が使用されて いるのだが、建造(修復)の時期に時間差がある のかもしれない。 身廊には三つの梁間があり、束ね柱の上の横断 アーチによって半円筒ヴォールトの天井が支えら れている。イタリアでは木造の天井が多いので、 石造の天井を見るとつい嬉しくなってしまう。 束ね柱の間に、繊細な円柱が交互に意匠されて いる。二色の石を交互に積み重ねた縞模様が聖堂 全体の空間美を演出している。 |
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ヴェローナ/ 聖テウテリア・聖トスカ礼拝堂 Verona/Sacello delle Ss. Teuteria e Tosca |
4 Verona (Veneto) |
聖ロレンツォ教会とは通りを隔てた反対側、少 し奥まった所に Ss. Apostoli サンティ・アポス トリ教会が建っている。ゴシック様式の教会で、 その東側に半円形後陣の付いた素朴な煉瓦造のこ の小建築が隣接しているのが見える。 教会で礼拝堂の見学を頼むと、僧侶が聖具室を 抜けて、半地下に在るこの礼拝堂へと案内してく れた。 ギリシャ十字の正方形の四方に、祭室や後陣を 増築した格好で、ビザンチンの聖堂の様だった。 素朴で質素な空間では、ここで祈った聖人達の 清貧で高潔な人柄までが見えてくるように感じら れた。 |
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サン・ボニファーチョ (ヴィラノーヴァ)/聖ピエトロ・ アポストロ大修道院 San Bonifacio (Villanova)/ Abbazia di San Pietro Apostolo |
4 Verona (Veneto) |
ヴェローナの東22キロの町だが、教会は高速 インターに近い町の入口のロータリー近くに建っ ている。広大な芝生の広場から、美しい三後陣と 鐘塔が並ぶ絶景を見ることが出来た。 聖堂は三廊式で角柱と円柱を交互に配したアー ケードが側廊を仕切っている。 天井は交差ヴォールトが連続する様式で、祭室 が一段高い場所に設けられている。12世紀の建 築であるという。 写真は祭室の下の地下礼拝堂クリプタである。 八本の円柱が林立する教会の奥の院で、交差穹 窿の巧妙な造形と不思議な意匠の柱頭とが、異質 な次元の空間を創出している。 |
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ベルフィオーレ/ マドンナ・ディ・ストラ教会 Belfiore/Chiesa di Madonna di Stra |
4 Verona (Veneto) |
この村は、前出のサン・ボニファーチョからは 南西へ、畦道のような牧歌的な農道を10キロほ ど走った所にある。 先ず目に飛び込んで来るのが写真の光景で、手 前は広大な駐車スペース。三後陣と鐘塔の佇まい が、余りにもサン・ボニファーチョのサン・ピエ トロに似ていることに驚いた。 ロンバルディア帯と色違いの石を積み分けた意 匠だけが唯一の装飾だが、全体に均衡の取れたフ ォルムにはたまらない魅力が感じられる。 この教会は“ストラの聖母“と呼ばれるが、別 名聖ミケーレ教会 San Michele とも言われるそ うだ。 西側正面のファサードは、赤白の石を交互に積 んだ横縞模様が美しい。鐘塔の上部と共通した意 匠になっている。 三身廊の聖堂は12世紀半ばの創建で、側廊と の間のアーケードは角柱に半円アーチという様式 になっている。北側の列に不規則な円柱が二本混 在しており、それぞれの柱頭にアカンサスとサン ・ボニファーチョのクリプタで見た妙な形に似 た図像が彫られていた。 色々な形で、隣接する教会からの影響があった ことが推測出来る。 この二つの教会と後述の二教会は、ミラノ在住 のY嬢の案内で探訪したものである。 |
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ガッツォ・ヴェロネーゼ/ 聖マリア・マッジョーレ教会 Gazzo Veronese/Chiesa di Santa Maria Maggiore |
4 Verona (Veneto) |
マントーヴァ Mantova の近くにガッツォとい う村が在るので、“ヴェローナの”と地名に但し 書きを付けたのだろう。 ヴェローナからは南へ40キロ行った辺りの、 マントーヴァ県との境界に近い農村である。 教会は村の北端に近い森の中に建っており、結 婚式の準備が行われていたお陰で扉口が開いてい た、という幸運に恵まれたようだった。幸運の女 神はいったい誰だったのだろうか。 創建は9世紀と古いが、12世紀初頭の大地震 で壊滅的に破壊されたらしい。建築は全て近年に なってから、破壊時のロマネスク様式を復元し、 再建されたものだそうだ。どの程度の崩壊だった のか、またどこまでが残存していたのかは不明だ が、ドレスデンのように残された石を丹念に積ん だのか、或いは何らかの確実な資料が残っていた のだろうか。 聖堂は三身廊で、円柱と角柱が混在するアーケ ードが側廊を仕切っている。天井は木造トラス構 造である。 身廊アーケードが祭室部分まで続いており、ア ーチのスパンがここだけ他より長いために、縦に 梁が設けられている様に見えているのが珍しい。 聖堂の基礎下から9世紀のモザイクが部分的に 発見され、創建時が偲ばれる思いだ。 鐘塔は新しいものだが、赤煉瓦積みの後陣は支 え柱の意匠など、美しいロマネスク様式である。 |
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サン・ジョルジオ・ ディ・ヴァルポリチェッラ /聖ジョルジオ教区教会 San Giorgio di Valpolicella/ Pieve di San Giorgio |
4 Verona (Veneto) |
アマローネなど赤ワインの産地として知られる ヴァルポリチェッラ地区の村の一つで、ガルダ湖 Lago di Garda を望む景勝の地に在る。 教会は村の中心広場に面して建っているが、写 真で見るように外観はとても古そうな建築様式に 見える。 写真は西正面ファサードで、半円形に張り出し た扉口部分は丸で後陣のように見える。東側には 三後陣が設けられているので、建築様式としては 初期キリスト教時代の東西両アプシス(後陣)形 式に似ている。カロリング朝の影響が強かった地 域なので、何等かの関係の存在は必定だろう。 13世紀にロマネスク様式に改築されたという のだが、その前はどういうものだったのだろう。 三廊式の身廊は、壁と一体になったようなアー ケードで側廊と仕切られている。柱頭の無い角柱 だが、祭室部分のみ円柱になっている。 祭壇に8世紀のチポリウムの遺構を用いた天蓋 が置かれているが、創建時のものかは不明。 聖堂背後からは三後陣が眺められる庭園が整備 されている。遺構から出土したレリーフなどの石 造品が展示されていて興味深い。 聖堂に隣接して、かつての修道院の遺構である 回廊の一部と、写真の鐘塔が残されている。 いずれも12世紀の建築である。 |
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バルドリーノ/ 聖セヴェーロ教会 Bardolino/Chiesa di San Severo |
4 Verona (Veneto) |
ガルダ Garda 湖の東岸に在るリゾート地で、 夏は格別の賑わいを示すが、町の東側を通る国道 249号線に面してこの古い教会が建っている。 11世紀の後半に創建されたという歴史を持っ ている。 三つの半円形後陣と鐘塔の石壁が、この教会の 古さを示しているようだ。 三廊式の身廊には、左右四本づつの円柱によっ て構成されたアーケードが在る。写真のように、 壁面には12世紀からのフレスコ画が描かれてい る。聖十字架に関する物語の場面などが確認でき る。円柱と柱頭に相当する部分のフォルムに繊細 なセンスが感じられる。 クリプタの一部が発掘されていて、地下円形祭 室を見ることができるのは嬉しい。 |
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カステレット・ディ・ブレンゾーネ /聖ゼノ教会 Castelletto di Brenzone/ Chiesa di San Zeno |
4 Verona (Veneto) |
先述のバルドリーノから、ガルダ湖畔を20キ ロ程北上した所にブレンゾーネの町が在る。 2キロ手前のカステレット地区はその自治体の ひとつで、ここにも夏のリゾート施設が集まって いる。 人家の切れる辺りに広大な墓地が在り、12世 紀創建の教会はその敷地の中に建っていた。 鉄の扉と、背の高い鐘塔が目印となる。 鐘塔の右側に聖堂の扉口が在り、高い位置に柱 廊式の玄関の飾りが取り付けられている。 実はここは妙な教会だった。先ずは、扉口の鍵 が固く閉まっていて中へ入れずがっかりしたのだ が、直ぐ横の窓が素通しで、聖堂内はとても良く 見えたということである。 それは、余り見た事のない身廊だった。単身廊 だが中央にアーケードのアーチ列の並ぶ二身廊と いう、とても珍しい形式だった。 しかるに、写真の後陣には三つの半円形祭室が 確認出来るのが謎だった。写真左二つの後陣と、 右の後陣との間の延長上に、仕切りのアーケード が設置されていたのだった。 窓からのぞいた限りでは、主祭室の横に小さな 補助的な祭室が在り、これが写真の左側の小後陣 に当っているのであった。 聖堂の床面が掘られ、何らかの調査発掘が成さ れているようだった。祭室には12世紀のフレス コが残っているらしいのだが、微かな痕跡しか確 認出来なかった。 |
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ヴィチェンツァ/ 聖フェリーチェ・ 聖フォルトゥナート聖堂 Vicenza/Basilica dei Ss. Felice e Fortunato |
5 Vicenza (Veneto) |
古くより「陸のヴェネツィア」と称された、商 業と文化の中心都市だった。 この教会はドゥオモが在る旧市街の中心から、 教会と同じ長たらしい名前の付いた通りを西へ1 キロ行った居住地区にひっそりと建っている。 赤煉瓦の聖堂と鐘楼が、通りからやや奥まった 所に建っていた。ローマ期に起源を持っており、 10~12世紀の建築が今日まで伝えられたよう だ。鐘塔の先端部はルネサンスの増補だが、下部 は12世紀のものである。微かに傾いており、ヴ ィチェンツァの斜塔、と呼ぶことにした。 ファサードは三つのアーチ門を配した赤煉瓦積 みの美しい意匠だが、タンパンなどに何も彫刻ら しい装飾の無いのが些か寂しい。 写真は身廊から祭室方向を写したもので、天井 は木造だが、豪快なアーケードと凱旋門が素晴ら しい。アーチの列柱は、円柱と角柱が交互に意匠 されていて気持が和まされる。 祭壇は階段上にあり、その下はクリプタ(地下 祭室)になっている。5世紀という古いもので、 かなり修復されているが、創建当初の面影を伝え ていて貴重だ。石棺も古そうである。 祭室の手前に地下を発掘した部分が在り、幾何 学模様のモザイク床が保存されている。これも4 ~5世紀とされ、イタリアならではの歴史の奥深 さを認識せざるをえない。 |
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トレヴィーゾ/大聖堂 Treviso/Duomo |
6 Treviso (Veneto) |
ヴェネツィアの真北30キロに位置している県 都で、美しい中世の城郭や家並が残る歴史の町で もある。 七つのクーポラを持つドゥオモは11世紀に創 建されたが、現在の建築は15~16世紀のもの である。 写真は、地下のクリプタで、隣接する洗礼堂と 共にロマネスク期の名残を留めている。 林立する円柱と交差穹窿の天井の曲線が造り出 している躍動的な空間は、凡そのクリプタの墓所 のような陰惨なイメージとはまるで違っている。 柱頭にはもっと古いものがあるとかで、更なる古 い歴史へと夢が広がって行きそうである。 |
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フォッリーナ/ 聖マリア大修道院 Follina/ Abbazia di Santa Maria |
6 Treviso (Veneto) |
トレヴィーゾの北約40キロ、緩やかなソリー ゴ Soligo という溪谷の中に在る小さな町であ る。町の東側の入口の坂を登った辺りに、12世 紀に創設されたこのシトー派の大修道院が建って いる。 教会堂のファサードは、半円形アーチの扉口が 三つ、バラ窓に尖頭アーチの窓が四つ、支え柱と ロンバルディア帯などが混在しており、ロマネス クとゴシックが重層的に積み重なっていることを 示していた。 身廊は三廊式だが、側廊を仕切るアーケードは 尖頭アーチの列柱で、祭室との境の凱旋門のアー チも尖頭形になっている。14世紀に改築された 部分なのだろうと推測出来る。天井は木造で、ロ ーマ式バシリカの伝統が残っているように感じら れた。 写真は、聖堂に隣接した回廊と、背後に建つ鐘 塔の眺めである。13世紀半ばに築造されたもの で、ロマネスク後期を象徴するような繊細な回廊 である。二重の円柱列の間に、ねじり模様の単円 柱が混ざって立っている。柱頭には人の首や鳥の 姿などが彫られており、弱々しい表現ながらシト ー派では珍しい装飾だろう。 トスカーナのグロピーナ Gropina に似た結び 目模様の柱が印象的だった。 |
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フェルトレ/聖ヴィットーレ・ 聖コロナ聖所記念堂 Feltre/Santuario dei Ss. Vittore e Corona |
7 Belluno (Veneto) |
ベルーノ県の東端、ドロミテ山塊の端の部分が 望める静かな谷間に在る中世以来繁栄した町であ る。葡萄畑の広がるピアーヴェ Piave 溪谷に近 い盆地の中である。 フォッリーナからは、山沿いの細道をしばらく 走らねばならなかった。 この記念聖堂は、フェルトレの町の南東手前4 キロの小高い断崖の上に、優雅な城郭のように建 っているのが見えた。 長い石段を登らねばならなかったが、ちょうど 閉まりかけた扉を、管理の小父さんに頼み込んで 中へ入れてもらった。親切に聖堂内部を案内して くれたのだった。英語はほとんど通じなかったの だが。 写真が聖堂の核心で、ビザンチン建築のような 方形の祭室が縦横三つづつ並んだ様式となってい る。天井はビザンチン式ドームではなく、交差穹 窿だった。 最奥の祭室は二層構造になっており、上層は三 方に三連アーチが意匠され、下層はクリプタのよ うな存在で四本柱の祭壇が置かれていた。 この聖堂部分は15世紀の改修はあるものの、 11~12世紀のロマネスク建築が保存された部 分である。 壁面全体に描かれたフレスコ画は見事だったの だが、ほとんど後世の作と思われた。小父さんは 一枚の聖人像を、しきりに古いものだと力説して いたが。 |
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アクイレイア/聖堂 Aquileia/Basilica |
2 Údine (Friuli-Venezia Giulia) |
国境の町トリエステ Trieste の西に位置し、 紀元前2世紀にローマ帝国によってイタリアでは 四番目に建造された重要な都市であった。 現在の町の北側には、現在も発掘が続いている ほどのローマ時代の遺跡の数々が展開している。 現在の聖堂は、ローマ時代3世紀の会堂の上に 改造を続けて、11世紀に現在の形に建造された ものである。 その痕跡は、現在の聖堂に並行して建てられて いた現存しないもう一つの聖堂の真下のクリプタ に、基礎となったローマ時代の建築構造体で残さ れており、通路を歩いて見学出来る。 写真は、現在の聖堂の身廊と祭室を写したもの で、中央に残る床は前身の4世紀ローマ時代のモ ザイクで、とても美しい造形が残されている。 様々な絵柄は、時代をリードするローマの勢い と文化のレヴェルの高さを示している。 聖堂はその後ゴシックやルネサンス時代の手が 加えられている。平面プランは三廊式ラテン十字 形の建築で、側廊を仕切るアーケードはゴシック 様式の尖頭アーチになっており、柱頭から下の円 柱部分がロマネスク様式になっている。 正面の後陣ド-ムには11世紀のフレスコ画が 描かれている。アーモンド型の中に幼児キリスト を抱いた聖母と、それを囲む四福音書家のシンボ ル、六人の聖人などである。 |
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アクイレイア/地下聖堂 Aquileia/Cripta di Basilica |
2 Údine (Friuli-Venezia Giulia) |
聖堂の右手から、祭壇下の地下聖堂クリプタに 降りていくことが出来る。 クリプタには6本の円柱が林立しており、柱と 柱を結ぶアーチが交差する半円形によって構成さ れた天井の空間に、びっしりとフレスコ画が描か れている。 残念なことに撮影が禁止されていたので、一旦 は撮影を諦めかけた。しかし、他の観光客の大半 が我関せずとシャッターを切っているのでは、自 制心は当然ながら失せてしまうではないか。我も 人の子、というべきだろうか。 ただ残念ながら電灯の光線が強く、思う様には 上手く撮影は出来なかったのは天罰だろうか。 中央の天井には、聖堂の祭室に描かれた図像と 同じ、四福音書家のシンボルに囲まれた聖母子像 が描かれている。 キリスト磔刑や十字架降下の場面、聖母子像や 聖グレゴリウスの洗礼の場面、ビザンチンではよ く描かれる聖母昇天の場面などが特に印象的だっ た。朱色は褪せているが、水色と緑色が鮮やかだ った。大半が12世紀ロマネスクの時代に描かれ たものであるという。 落ち着いたプリミティヴなクリプタで、低い柱 頭の位置や素朴な柱頭の意匠などが何とも好まし かった。 |
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チヴィダーレ・デル・フリウリ/ ランゴバルド小神殿 Chividale del Friuli/ Tempietto Longobardo |
2 Údine (Friuli-Venezia Giulia) |
6世紀半ばに突如として興ったランゴバルド王 国の、最初の拠点となった重要な町である。 数十キロで現在のスロヴェニア国境に達すると いうイタリア最東端の辺境ながら、古代ローマの 時代から開けた要衝であった。 この町では、ランゴバルド関連の遺跡や遺品を 見なければならないが、先ずは川沿いの崖上に建 てられたこの小神殿を訪ねた。 聖マリア・イン・ヴァッレ祈祷堂と呼ばれるラ ンゴバルド時代の重要な遺品であり、初期中世芸 術の珍しい実例と言える。 祈祷堂は三廊式アーケード部分と、仕切り部分 を挟んで木製席と後陣で構成されている。 三廊部分の天井は三つ共半円筒ヴォールトで構 成され、特に中央のヴォールトには審判者キリス トと東方三博士の聖母子礼拝がフレスコで描かれ ている。これは12~14世紀の作である。 写真は堂の最奥の後陣の壁で、二段に分かれて 装飾が成されている。 下段には、旧扉口の上部タンパンと帯状アーチ 装飾が残されている。タンパンにはビザンチン風 のフレスコ画が、そしてアーチには葡萄の実と葉 の蔓模様、花びらの連続模様などが意匠されてい る。 上段には、六人の殉教聖人の像がアーチ窓の両 側に彫られている。造形的にも優れた表現が成さ れており、ランゴバルド文化の卓越した力量が示 されている、と言えるだろう。 |
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チヴィダーレ・デル・フリウリ/ キリスト教博物館 Chividale del Friuli/ Museo Cristiano |
2 Údine (Friuli-Venezia Giulia) |
チヴィダーレにはもう一か所、重要なランゴヴ ァルド関連の遺品を展示した場所が在る。旧市街 の中心に建つドゥオモに隣接するこの博物館で、 貴重な遺品の数々や建築の一部等が陳列されてい る。 八角形のアーケードで構成された洗礼堂。鳥や 魚の図像が、葡萄の連続模様の左右に配された見 事な作品である。 写真は、ラチス Ratchis 公の祭壇と呼ばれる 方形の石造品である。写真はその正面に彫られた 玉座のキリストで、多くの天使に囲まれた第一級 のレリーフであろう。これを見たら、ランゴバル ドからは目を離せなくなる。右側面には「東方三 博士の聖母子礼拝」、左側面には「御訪問」が彫 られている。いずれもユニークな表現が興味をそ そる。 他にもランゴバルドならではの幾何学模様が、 美術館一杯に溢れている。 |
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ジェモーナ・デル・フリウリ/ 大聖堂 Gemona del Friuli/Duomo |
2 Údine (Friuli-Venezia Giulia) |
チヴィダーレの27キロ西北、タリアメント川 の扇状地に開けた中世の町である。1976年の 大地震でかなり破壊されたが、現在は見事に復元 されている。 この聖堂の起源はロマネスク期で、その後13 世紀後期から現在の堂宇が建築されたという。 三廊式の身廊は尖頭アーケードに交差穹窿の天 井、円柱の柱頭より上と祭室はゴシック様式だっ た。しかし、ロマネスクの香りは平面プランに残 っている。 ファサードも大半はゴシックだが、写真のタン パン(リュネット)に12世紀の“最後の審判” が保存されていた。愛らしい素朴さの感じられる 彫刻だった。 |
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グラード/聖マリア・ デッレ・グラツィエ聖堂 Grado/Basilica di Santa Maria delle Grazie |
3 Gorizia (Friuli-Venezia Giulia) |
前述のアクイレイアから真南に向かって車を走 らせると、海岸線の入り組んだ干潟へと出る。細 長い砂州が伸びていて、その先に細長い島が浮か んでいる。 アクイレイアの人達がランゴバルド族の侵入か ら逃れて来たという歴史がある、初期キリスト教 時代からの古い町であった。 リゾート施設やヨットハーバーなどを横目に見 ながら旧市街を歩くと、家並の中の広場に面して この教会と次掲の聖エウフェミア教会が右側に並 んで建っていた。 4~5世紀に創建され、8世紀に改築された初 期キリスト教聖堂である。写真のファサードは、 扉口の枠は新しいが、上部の三連アーケード等、 古式の意匠を示している。聖堂は三廊式のラヴェ ンナ風バシリカ建築である。 大理石の円柱に、ローマ風の植物模様の柱頭が 載せられている。ロマネスク以前のローマやビザ ンチンの様式だが、ロマネスクへ与えた様式の源 流が見えるようだ。 身廊と祭室の間を仕切る柵が設けられており、 大理石に彫刻が施された8世紀ごろの作品だと思 われる。 半円に刳り込んだ後陣の下部に二連アーチが設 けられ、古い床面が発掘されている。花びら模様 の精緻なモザイクである。 こんな所にこんな古いものが、というのが正直 な印象だった。 |
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グラード/聖エウフェミア教会 Grado/ Chiesa di Sant'Eufemia |
3 Gorizia (Friuli-Venezia Giulia) |
古いものはこちらにも在った。隣接して建つこ の教会は、もっと古い6世紀の建築で、祭室の下 や現在の床面(赤じゅうたんの下)にもモザイク が保存されていた。 三廊式の優美なバシリカ建築で、大理石の円柱 や古典的な柱頭が整然と美しい空間を創出してい る。身廊左手に建つ説教壇の浮彫は見事で、11 世紀のものだという。 聖堂の左手に八角形の洗礼堂が建っているが、 何と5世紀の遺構だそうだ。 見るもの聞くもの、次から次へと5~8世紀が 登場する、イタリアの歴史の重厚さを感じずには いられなかった。 |
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ムッジア・ヴェッキア/ 聖マリア・アッスンタ教会 Muggia Vecchia/Chiesa di Santa Maria Assunta |
4 Trieste (Friuli-Venezia Giulia) |
トリエステ Trieste はイタリア北東端の辺境 の町であり、西欧からのオリエント(旧ユーゴ) への入口としての憧れをずっと持っていた。 念願かなって今回初めて訪れたのだが、近くに ロマネスクの教会が在ると聞き訪ねたのがここで ある。 トリエステの湾を挟んだ反対側、スロヴェニア 国境迄1キロという町で、その古い地区に建つ教 会だ。 創建された8~9世紀プレ・ロマネスクの名残 を留める聖堂と鐘塔。改修はされたものの、古式 漂う三廊式の内陣にも独特の雰囲気が伝わる。 説教壇はかなり古そうだ。フレスコは14世紀 と後世のものだが、素晴らしい空間を満喫できた のだった。 |
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トレント/大聖堂 Trento/Duomo |
1 Trento (Trento-Alto Adige) |
旧市街の中心に、壁面をフレスコ画で飾った中 世の館が並ぶドゥオモ広場が在る。広場の南側は 壮大な聖堂の側面で塞がれている。 両側を獅子が守る柱廊式の北側扉口が、聖堂へ の入口になっている。タンパンには、玉座のキリ ストと四福音書家のシンボルを配した黙示録が彫 られている。 西側の正面ファサードには、大小二つのバラ窓 と切妻に沿った九連アーチが見られる。 建築は12~13世紀で、様式がロマネスクか らゴシックへと移行する時代を示している。 三廊式に翼廊、交差部に壮麗な八角鐘塔が聳え る。広場から見える翼廊の北側ファサードは、バ ラ窓と十二連の開口アーケードで飾られている。 実に洗練された意匠だ。 身廊には束ね柱の列が並び、高い天井の交差穹 窿を支えている。 古びた石材の質感が何とも好ましいのだが、途 方もない程の規模の大きさには余り感情移入はし たくない気分だった。 聖堂の周囲をぐるりと回っていたら、発掘工事 中の向こう側に突如写真の後陣が現れた。 四層に仕切られた半円形後陣の壁面は、アーチ 装飾の美しさのエッセンスの全てを表現している ようだった。おまけに付け柱がアクセントとなっ て、華麗な演出を支えている。ここまで完成され た後陣というのは珍しいが、ロマネスク末期に咲 いた大輪、というところだろうか。 |
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トレント/聖ロレンツォ教会 Trento/Chiesa di San Lorenzo |
1 Trento (Trento-Alto Adige) |
トレントにはもう一つ重要な教会が在る。 鉄道駅の直ぐ南、ダンテ広場に面した通りに沿 ったやや低い位置にこの聖堂が建っている。 創建は12世紀で、かつてはベネディクト会修 道院の付属教会だった。大戦で半壊したが、ほぼ 修復再建されている。 切妻式の西側ファサードは、中央半円アーチの 扉口、上部の三連アーケード、そして後世の補修 と思われる左右二つの窓、という意匠になってい る。窓が無ければ古式、だろうか。 三廊式で翼廊交差部は在るが、左右への翼廊の 張り出しは無い。身廊の梁間は三つ、数段の階段 上に交差部、そして祭室と続いている。 横断アーチに仕切られた天井は全て交差穹窿で あり、交差部には八角のドームが在り、かつては 鐘塔があったのだろうと思う。現に、外観を眺め ると、八角形の塔の名残が屋根から少し立ち上が っていた。 交差部は四本の束ね柱で支えられており、祭室 の左右には二連開口アーチが意匠されている等、 建築の細部にちょっとした工夫がなされているよ うに感じられた。 後陣は半円形が美しいのだが、四本の支え柱の 内二本が、大きな窓のために中間が途切れてしま っている。実を取った修復、ということだろう。 |
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テルメノ/聖ヤコポ教会 Termeno/Chiesa di San Iacopo |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
アディジェ川に沿って分布する一連のフレスコ 教会は、トレントの町から程近いこの地が最下流 に位置している。 斜面に造られた葡萄畑の向こうに小さな教会が 建つ景観が、またどんなに素晴らしいフレスコ画 を秘めているのだろうかという期待を抱かせた。 ここでも、くり抜かれたような後陣のドーム内 壁に、やや色あせてはいるものの、素晴らしいフ レスコ画が残されていた。 上部のドーム部分は、四福音書家の象徴に囲ま れたキリスト像だが、かなり剥落してしまってい て、その像容が薄れてしまっている。 最下部は、様々な怪物を描いたユニークなもの なのだが、輪郭線などかなり現代的な手が入って しまっているようだ。 中段の人物群像は、キリストの十二使徒が描か れたものである。いずれもロマネスク的な図像で あり、この部分で救われた感がある。一人ひとり の描き方が、とても素朴な中に個性を表現しよう としていることから、かなり後期の作だろうと思 う。 鍵を持つ聖ペテロは明白だが、他の使徒を図像 から特定するのは私の知識では不可能だった。教 会の解説書には書かれているが、詳細に調べるだ けの語学力に欠けている。 |
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エッパン/ホッホエッパン城 (聖マダレーナ礼拝堂) Eppan/Hocheppan (Cappella di Santa Maddalena) |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
2000年夏に訪れた時は修復中で、城の中に も入れず悔しい思いをした。2年後の秋に、よう やくその恨みを晴らすことが出来た。 礼拝堂は城郭の中心に建っており、城までは駐 車場からきつい勾配をかなり歩かねばならない。 しかし、途中で眺められる展望は、ボルツァーノ の町から遥かドロミテ山塊にまで開けて壮大であ り、疲れをすっかり吹き飛ばしてくれた。 礼拝堂は写真の通り愛らしい建築で、外壁にも 動物や人物の壁画が描かれていた。 内部は撮影禁止で写真が撮れず、ここに掲載出 来ないのは残念だが、内陣の壁一面に描かれたフ レスコは、色彩豊かな素晴らしいものだった。 祭室中央の壁には聖母子像が描かれ、右の祭室 には、ペテロに鍵をパウロに巻物を授けるキリス ト像が、そして左には洗礼のヨハネと福音書家ヨ ハネが描かれている。他の三方の壁にも、受胎告 知、三博士礼拝、聖堂奉献、カナの饗宴等、キリ ストに関する説話が美しく描かれている。 |
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グリッシャーノ/聖ヤコポ教会 Grissiano/ Chiesa di San Iacopo |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
この村はメラーノの町から近く、エッパン城の 在る山並みに続いた山麓の寒村である。 ここでも半円ドームの後陣内壁に、四福音書家 の象徴に囲まれた荘厳のキリストを中心とした、 色鮮やかなフレスコ画が残されていた。両脇には 聖母マリアと洗礼のヨハネ像が描かれている。こ こでも朱色が美しかった。 前面の壁面には、画風が別のやや趣の異なった フレスコが見られた。 上部はイサクを犠牲にするアブラハムの物語で あり、下部はアベルの神への奉献の場面である。 こちらの絵は、アベルの顔などかなりリアルに 描かれているので、ロマネスク後期からゴシック にかけての作品だろう。 教会のテラスから眺めたドロミテ山塊の壮大な 景観は、ここまで登ってきた疲れを忘れさせてく れる。 |
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ティローロ(メラーノ)/ ティローロ城礼拝堂 Tirolo (Merano)/ Cappella di Castel Tirolo |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
メラーノの北4キロにある山上の避暑地で、町 から城へは谷に沿った道を約20分程歩かねばな らない。メラーノを見下ろせる快適な散歩道だ。 入城して直ぐの建物がチロル伯爵の館で、12 世紀に建てられた教会やクリプタ、礼拝堂などを 見ることとなる。 礼拝堂は二重になっており、最初の扉口にはタ ンパンがある。天使が独り彫られているのは珍し いが、山の上なので大天使ミカエルを連想してい た。獅子の穴のダニエルがヴシュールに彫られ、 左右の壁面にはライオンや羊、男女像などの彫刻 が配されている。判じ物のようで意味合いは不明 だが、しっかりとした石工の作だろう。 写真は奥の礼拝堂へのもう一つの扉口で、タン パンには十字架降下の場面、左の壁にはライオン の口を裂くサムソンだろうか、そしてアダムとイ ヴ、ケンタウルスなどが並んでいる。右の壁には 人を食う龍や、龍と闘う鷲などが描かれている。 やはりここでも、図像としてはとてもロマネス ク的で図案としても象徴化された美しい彫刻、を 見ることが出来る。 これらの図像の選択が何を意味するのかはやは り不明だが、チロル伯という領主の身分からも、 悪に打ち勝つ力強さを示す図像を並べることによ り、信仰の精神を表明したかったのか、と勝手に 推測した。 |
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ナトゥルノ/聖プロコロ教会 Naturno/ Chiesa di San Procolo |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
メラーノから西へと向かう国道S38を約15 キロ程行った、南側の旧道奥に在る静かな町であ る。ヴェノスタ溪谷 Val Venosta の入口にあた る保養地でもある。 二連窓の高い鐘塔(12C)が無ければ、ここ が教会だとは誰も思わないだろう。切妻式の質素 な礼拝堂だが、内部の壁、凱旋門や祭室に至るま でがフレスコ画で覆われている。 8~9世紀に創建されたカロリング朝期の建築 で、フレスコもその当時のものである。 14~15世紀の作品も混在するが、ここでは 古い作品は一目で区別できる。 写真は南側の壁に描かれた聖プロコロの説話を 描いた“ヴェローナを脱出する聖プロコロ”で、 何ともユニークとしか言い様が無い。 ダマスカスの聖ペテロかと思ったのだが、どう もそうではなさそうだ。 聖プロコロという聖人がどういう人だったのか は知らないし、ギョロ目の人物、衣服の襞の表現 や稚拙とも見える構図など、西洋絵画の歴史には 名前も載らないような作なのに、ここまで愛着を 感じさせるものは一体何なんだろう。 五人の女性像や人物の集合像、天使や牛の列な ど、見飽きることが無い魔力を秘めたフレスコ画 である。 |
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マッレス・ヴェノスタ/ 聖ベネデット教会 Màlles Venosta/ Chiesa di San Benedetto |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
ヴェノスタ渓谷の上流の村で、後述のブルグシ オへと登る道の分岐点に当る。教会は閉まってい たが、村人に頼んで開けて貰う事が出来た。 二連窓があるロマネスクの塔が目印で、やはり 二連窓のある聖堂は村の礼拝堂のような規模だっ た。 写真は聖堂内部の窓と一体になったニッチ(壁 龕)に描かれたフレスコ画である。9世紀ごろと 言われる、カロリング朝時代の貴重な作品なので ある。かなり荒廃してはいるものの、色彩はかな り鮮やかに残っている方だろうと感じた。 中央にキリストと二人の天使、左に聖グレゴリ オ、右に聖ステファノが描かれている。名前を記 した文字が微かに残っている。 中央の、キリストと天使の優しい姿が印象的だ った。 |
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ブルグジォ/聖ニコラス教会 Burgusio/ Chiesa di San Nicolas |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
後述のモンテ・マリア修道院へ登って行く麓の 村で、この教会はその村外れの牧歌的な田園の中 に建っている。知らなければ通り過ぎてしまいそ うな、小さな村の礼拝堂なのである。鐘塔が唯一 ロマネスクの存在を知らせてくれている。 写真に写っている車は、私達が使っていたレン タカーなのでご容赦願いたい。 この何の変哲も無い礼拝堂では、中へ入って祭 室の壁面を見なければならない。 前面の壁と、半円形にくり抜かれた狭い後塵部 分の内壁に、朱色がかなり鮮やかに残るフレスコ 画がある。12~13世紀の作品だろうと思われ る。 栄光のキリスト像を中心に、右下に雄牛、右上 に天使が描かれている。当然、四福音書家の聖ル カと聖マタイを象徴しているのであり、左側は剥 落はしてしまったのだが、ヨハネ(鷲)マルコ(獅 子)も描かれていたはずである。 素朴だがきりっとした鮮やかな図像で、狭い空 間故に撮影困難なのが残念だった。 スイス国境のミュスタイアも含め、この一帯に は質の高いロマネスク期のフレスコ画が数多く分 布しており、旅にあれば至福の時が約束されるだ ろう。 |
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モンテ・マリア/ モンテ・マリア修道院 Monte Maria/ Abbazia di Monte Maria |
2 Bolzano (Trento-Alto Adige) |
スイス国境に近い、北イタリアのアルト・アデ ィジェ州には、知られざるロマネスクの教会やフ レスコ壁画が数多く残されている。 その中で特に注目するべき作品が、この修道院 と前述したエッパンのものだろう。 マッレス・ヴェノスタの町の北に Burgusio ブルグジオという村が有り、その背後の山の中腹 にこの立派な修道院が建っている。 フレスコ画は、修道院の建物群の中でも最も古 い、付属教会のクリプトの天井や壁に描かれてい る。驚いたことに、描かれている図像の大半が天 使の像ばかりであり、我々のよく知っている大天 使はその一部で、一口に天使といっても九つの段 階が有るという事だった。仏教の九品を連想する が、似た発想かもしれない。天使にも上中下の隊 があって、それがさらに三つの序列に分かれてい るのだという。 誠に美しい天使の大集合で、背景の鮮やかなラ イトブルーが印象的だった。 |
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