イタリア中部 (北東) のロマネスク |
(エミリア・ロマーニャ/マルケ) Emilia-Romagna/Marche |
イタリア中部(北東)の県と県都 EMILIA-ROMAGNA 1 Piacenza 2 Palma 3 Reggio nell'Emilia 4 Modena 5 Ferrara 6 Bologna 7 Ravenna 8 Forli 9 Rimini MARCHE 1 Pesaro e Urbino (Pesaro) 2 Ancona 3 Macerata 4 Ascoli Piceno |
パルマの大聖堂 Duomo Palma Emilia-Romagna |
イタリア中部(北東)といっても別段厳密な 規定をしたわけではなく、エミリア・ロマーニ ャ州とマルケ州を併せた地域、アペニン山脈の 北東側と御理解頂きたい。 掲載する上での便宜が、私的地区別とした唯 一の理由である。 この地域には、モデナ、ボローニャ、ラヴェ ンナ、ペーザロ、アンコーナといったイタリア を代表するような歴史都市が集中しており、ビ ザンチンからロマネスク、ゴシックからルネサ ンスへの変遷が記録された、芸術的な香りの濃 い地方である。 両州境の空白地は、小国として著名なサン・ マリノ共和国である。 |
|
ピアチェンツァ/ドゥオーモ Piacenza/Duomo |
1 Piacenza (Emilia-Romagna) |
ポー川の直ぐ南に位置している町で、古代ロ ーマ帝国の植民都市として栄えてきた。州境に かなり近く、中世にはロンバルディア都市同盟 にも加わった歴史もあり、ロンバルディアの雰 囲気が色濃い町である。 三つの扉口のあるファサードには薄いピンク 色の大理石が使用されており、扉口それぞれに 設けられた柱廊付きの小玄関からはとても優雅 な印象を受ける。 12~13世紀に建造された大聖堂は壮麗な 建築で、三廊式の身廊と翼廊の交差部に八角形 の円蓋と鐘楼を持つ、言葉では見事としか言い 様のない空間を構成していた。 ロンバルディア・ロマネスク様式のプランが 基礎だが、写真に見る如く、身廊上部の三連窓 の様式や天井の交差ヴォールト等のゴシック様 式がかなり古くから取り込まれていたらしい。 隣接するロンバルディアの Cremona クレ モナなど、ロンバルディア様式の大聖堂という のはいずれも壮大華麗な建築であり、思わず目 を見張らされてしまうのだが、ロマネスク好き の感性を震えさせるような魅力に満ちていると は、残念ながら言えそうもないのは何故なのだ ろう。 |
|
カステッラルクアート/聖マリア ・アスンタ参事会教会 Castell'Arquato/Collegiata di Santa Maria Assunta |
1 Piacenza (Emilia-Romagna) |
ミラノからの高速道路を走り、ピアチェンツ ァの次のフィオレンツオーラの出口を下りる。 南へ15キロほど進むと、正面に小高い丘が 現れ、近づくほどにその頂上に城郭や教会の塔 や集落が見えてくる。 麓の駐車場に車を止め、中世の面影を伝える 古い家並の続く石畳の道を登って行った。 終点は広場になっており、市庁舎、城塞と共 に、この教会の建物が美しい空間を構成してい た。 写真は三廊式バシリカの後陣部分で、左端に は礼拝堂が付け足されている。 見事に均整の取れた、この地方屈指の秀逸な 後陣だといえる。 北扉口のタンパンや重厚な身廊の柱頭等に、 彫りの深い技巧的な彫刻を見る事が出来た。 12世紀創建当初の作品である。 この日は日曜日、広場は各種の露店で賑わっ ており、軽食ながら楽しいランチを味わうこと が出来た。 |
|
ヴィゴロ・マルケーゼ/ 聖ジョヴァンニ教会 Vigolo Marchese/ Chiesa di San Giovanni |
1 Piacenza (Emilia-Romagna) |
カステッラルクアートから北西へ6キロ行っ たところに小さな集落があり、そこに目を見張 るような秀麗なロマネスクの建築が保存されて いたのだった。 町外れの閑静な場所で、いずれも11世紀初 頭に建てられた三廊式のバシリカ聖堂と洗礼堂 が並んで建っている。とりわけ美しいのが円形 の洗礼堂で、外壁には太い12本の柱と深いア ーケードと、三つの半円形後陣が付いている。 薄焼の赤い煉瓦を積んだ建築は、北イタリア のロマネスクの特徴でもあり、ロンバルディア 様式であると共にビザンチン的でもある。 扉口などに彫刻など一切の装飾の無いのは東 方の様式のようでもあり、従来のロマネスク教 会を見慣れた目にはむしろ斬新な美しさが感じ られて嬉しかった。 デジカメ写真の取り込みに失敗したので、写 真はヴィデオの静止画を使用したためかなり粗 悪である。 |
|
パルマ/ドゥオモ Parma/Duomo |
2 Palma (Emilia-Romagna) |
旧市街にあるドゥオモ広場に立てば、12世 紀のドゥオモ、13世紀ゴシックの鐘塔、そし て12世紀初頭に創建された洗礼堂などの歴史 的建築を一目で眺められる。 (当ページの表紙参照) ドゥオモの正面扉口は、獅子が両側に座る柱 廊式玄関になっており、有名な十二ケ月を表し た装飾彫刻がアーチに彫られている。内陣は三 廊式で壁一面のフレスコ画が目に入るが、これ は15~16世紀のものである。よく見れば、 幾つかの柱頭彫刻が、見事なロマネスク時代の 作品だった。 写真は右翼廊の壁にはめ込まれた「キリスト 降架」のレリーフで、12世紀アンテラミの作 品である。ロマネスク的な抽象と、静謐な悲嘆 と感動の瞬間のリアリティとが見事に融合し、 神々しい程の気品が感じられる彫刻である。キ リストや聖母や天使達の表情や、衣服の襞や髪 などの表現には、並々ならぬ美意識が秘められ ている。 |
|
フィデンツァ/ドゥオーモ Fidenza/Duomo |
2 Palma (Emilia-Romagna) |
パルマとピアチェンツァの中間に位置する小 さな町だが、ドゥオモのファサードは、エミリ ア・ロマーニャ地方に点在するロンバルディア 様式を代表する傑作である。 モデナ・ノナントラ・フェラーラ・ピアチェ ンツァ・ヴェローナなど、それぞれにライオン の彫像の有る柱廊式玄関を備えた教会が残って はいるが、彫刻の高雅な美しさと、扉口の均整 の取れた設計という意味において、このフィデ ンツァが最も印象深い。 広場に面して扉口は三つ有るが、写真の中央 扉口が左右の二つに比べ最も装飾的である。 壁面に彫られたレリーフには、ロマネスクら しくデフォルメされた図像や、ゴシックの影響 を受けた写実的な聖人像などが、彫刻コンクー ルの展示かと思われるほどの密度で並べられて いる。 どのような主題が多いのか、を見た。キリス トの洗礼やエルサレム入城などというお馴染の テーマはすぐ分かったが、聖人の殉教場面など 不明なものも多かった。いずれにせよ、高い技 術と美意識を持った設計家や石工が存在した事 の証明となっている。 |
|
モデナ/司教座大聖堂 Modena/Cattedrale |
4 Modena (Emilia-Romagna) |
ここも大きな町の大聖堂なのだが、ほぼ建築 全体が12世紀ロマネスクのままの状態で残さ れているので、ひとまわり華奢な感じがして抵 抗感を少しも感じさせないのかもしれない。 13世紀ゴシック様式のバラ窓も、軽快感に 満ちている。 身廊の三廊式に従って、ファサードの扉口は 三つの開口部を持っている。中央はライオン像 に守られたポーチだが、左右四つのレリーフは 「アダムとエヴァ」や「カインとアベル」等、 旧約の創世記が主題となっている。 内部は天井の15世紀リヴ・ヴォールトを除 けば、ロマネスクの半円アーチ列と見せかけト リビューンで構成された荘厳な雰囲気に溢れて いた。 祭壇を取り囲んでいるレリーフや説教壇の彫 刻も12世紀のものであり、当地の優れた芸術 家や石工達の仕事をこの目で見る事が出来る。 |
|
ノナーントラ/ ノナーントラ大修道院 Nonàntra/ Abbazia di Nonàntra |
4 Modena (Emilia-Romagna) |
ここは、モデナの東8キロに位置する小さな 町で、かつては城壁に囲まれた城塞都市だった という。 修道院は8世紀の創設で、12世紀に起源を 持つロマネスク様式の San Silvestolo 聖シル ヴェストロ教会が付属教会として修復された。 聖堂は三廊式で、写真はその後陣である。ロ ンバルディア帯が美しい壮麗な意匠の建築であ る。 祭室が半二階になっており、下部は地下祭室 クリプトとなっている。後陣下部の窓はクリプ トのものである。 正面扉口は可愛いライオンのポーチで、左右 の柱とヴシュールには、訪問や受胎告知などの 浅浮彫が彫刻されている。 身廊は素朴な束ね柱と半円アーチによって仕 切られており、彫刻の無い柱頭がかえって力強 い素朴な美しさを象徴しているようである。 |
|
フェッラーラ/大聖堂 Ferrara/Cattedrale |
5 Ferrara (Emilia-Romagna) |
町の中央に位置する、文字通りの大聖堂であ る。壮大な規模の割りに威圧感が無いのは、ゴ シックのような天井の高さが無いからかもしれ ない。 聖堂の外壁は、下部がロンバルディア様式の ロマネスクで、上部は連窓付きの小開廊という ゴシックである。 身廊は三廊式だが、大半がルネサンスやバロ ックに改造されていた。 写真は西正面中央扉口のタンパン彫刻で、龍 と闘う聖ゲオルギウスが中央に彫られている。 マグサ石部分には、キリスト誕生を中心とし た逸話の場面が描かれている。 大きな町の大きな教会は基本的には好きでは ないが、エステ家の興廃に興味を抱く家人に付 き合って訪ねたのであった。 家人には済まないのだが、美意識を刺激され たのは、このタンパンだけだった。 |
|
ポンポーザ/ ポンポーザ大修道院 Pomposa/Abbazia di Pomposa |
5 Ferrara (Emilia-Romagna) |
フェッラーラ Ferrara の東、アドリア海に 面したポー河の河口近くに、この広大な旧ベネ ディクト会修道院の敷地が広がっている。 写真は、修道院付属のサンタ・マリア聖堂の 正面と鐘塔である。赤い煉瓦の色が印象的で、 ラヴェンナのビザンチン様式の聖堂に似ている が、この部分は11世紀の建築である。塔の右 側は柱廊付玄関であり、三廊式の身廊を持つバ ジリカ聖堂の正面入口を保護するかのように、 11世紀に増築されたものである。 聖堂の建築年代は8世紀まで遡るらしいが、 中央祭室と壁面の一部だけが創建当初のもので あり、他は10~12世紀の改修が混在してい るという。 祭室や壁面に描かれたフレスコ画は、ロマネ スクではなく14世紀である。床面にはモザイ クで象や獅子が描かれており、ビザンチンの面 影を伝えている。 盛夏の青空に映える塔のレンガ建築は、ロン バルディア帯や飾りアーケードで装飾されてお り、ポプラの木とのコントラストが鮮やかで、 目に染みるような美しさを味わう事が出来た。 |
|
アルジェンタ/ 聖ゲオルギウス教区教会 Argenta/Pieve di San Giorgio |
5 Ferrara (Emilia-Romagna) |
ラヴェンナとフェラーラの中間、レーノ川に 沿った干拓地の中心都市である。 教会は6世紀創建のビザンチンの遺構で、川 の対岸に広がる自然公園の林の中にひっそりと 建っていた。 素朴な聖堂が好ましいが、単身廊内部の壁は 白く修復されていた。天井は木造で、後陣は半 八角形である。左右の壁にフレスコの断片が残 っていたが、ロマネスク期のものらしい。 扉口のタンパンには、聖ゲオルギウスの刃の 車輪による殉教の場面が描かれている。 左右の柱に彫られた「十二か月の仕事」が興 味深い。 |
|
ボローニャ/聖ステファノ教会 Bologna/ Chiesa di Santo Stefano |
6 Bologna (Emilia-Romagna) |
昔訪ねた時には長い昼休みに当ってしまった ために、中を見ることが出来ず涙を呑んだこと があった。 今回はラヴェンナに泊まった翌朝一番に訪ね たので内部を詳細に見ることが出来たのだが、 残念ながら堂内は全て厳しい撮影禁止となって いた。 ここは四つの古い教会の集合体で、写真は多 角形をした、12世紀の聖セポルクロ教会であ る。起源は7世紀まで遡るそうで、当初は正八 角形であったらしい。ボローニャの守護聖人聖 ペトロニオの墓所である。 最も古い聖ヴィターレ教会、中庭、回廊、聖 十字架教会など、街中に在って、修道院のよう な静謐な空間を形成している。 装飾は少ないが柱の太い質実剛健な赤レンガ 建築には、素朴な中に洗練された美しさを秘め るこの地方特有の高雅な魅力が感じられた。 |
|
ラヴェンナ/ 聖フランチェスコ教会 Ravenna/ Chiesa di San Francesco |
7 Ravenne (Emilia-Romagna) |
初期キリスト教美術を代表するビザンチン式 のモザイクで知られるこの町に、10世紀創建 のロマネスク教会があることはほとんど知られ ていない。 鐘楼の存在でそれと判るこの教会は、「聖女 の行列」のモザイクで知られる聖アポリナーレ ・ヌオヴォ聖堂の西200mに位置している。 三廊式のアーケードはロマネスクの様式を示 しているのだが、聖堂全体は幾度も修復を繰り 返してきたそうで、第二次大戦のダメージが最 も大きかったそうである。 写真に見える、ギリシャ大理石の美しい円柱 や、古い主祭壇などは創建時の名残だろう。 もう一つ、創建当初の姿を留めるクリプトが 在るのだが、水に浸かってしまったために、小 さな窓からのぞいて見ることが出来るだけだっ た。 |
|
ブリジゲッラ/聖ジョヴァンニ・ イン・オッターヴォ教区教会 Brisighella/Pieve di San Giovanni in Ottavo |
7 Ravenne (Emilia-Romagna) |
ラヴェンナの町の南西30キロの町ファエン ツ Faenza からさらに10キロ先にある小さ な町である。教会はさらに町を外れた牧歌的な アペニン山麓に位置する。 創建は10世紀初頭であり、エミリア最古の ロマネスク聖堂とされている。 聖堂は三廊式バジリカで、いかにも古色蒼然 とした佇まいが魅力的だった。 身廊を仕切るアーケードの円柱や柱頭には、 明らかにローマ時代の遺構の部材が再利用され ていた。 写真は後陣の眺めで、積まれた石の壁に古び た風情が感じられ、思わず手の平で触ってしま った。 エミリアからエトルリアへと通じる古い街道 に面して建つ、貴重な遺構である。 |
|
フォルリ/聖メルクリアーレ教会 Forli/Chiesa di San Mercuriale |
8 Forli (Emilia-Romagna) |
ラヴェンナの南西30キロに位置する、人口 11万の県都である。古代ローマの時代から、 エミリア街道の要衝として繁栄してきた。 教会に隣接する鐘楼は想像を超えた高さで、 いかにも町のシンボルといった佇まいの古塔だ った。12世紀の建築で、ロンバルディアの風 情を備えている。 教会のファサードには三つのアーケードが並 び、中央に大理石の扉口が設けられている。左 右には小ぶりの盲アーケードが連なっている。 中央のタンパンに深い浮彫の彫像が見られる が、左に東方三博士の夢、右に三博士の聖母子 礼拝の場面である。タンパンの主題としては珍 しいが、ゴシック色が見られる13世紀の作品 だそうだ。 聖堂は三廊式で、写真は身廊と側廊の間に設 けられたアーケードである。入口に近い梁間に 二段のアーケードが設けられているが、トリビ ューンなどの格別の意匠ではない。 イタリアではごく普通だが、天井は木造であ り天井を石で覆う努力をしたフランスとは違っ た面を見ることが出来る。 側廊の交差穹窿は美しく、やはり石の天井が 良いとつい思ってしまう。 |
|
サン・レオ/ 聖母被昇天教区教会 San Leo/Pieve di Santa Maria Assunta |
1 Pesaro e Urbino (Marche) |
リミニ Rimini からは南西に33キロ、地図 上ではサン・マリノ San Marino の少し奥、 というイメージである。 今回私たちはアペニン山脈を横断する高速道 路のサルシナ Sarsina から、モンテフェルト ロ山塊を抜けるコースを選んだため、険しく狭 い山道を余儀なくされたが、反面急展開する峻 険な山並の連続に感動することが出来た。 サン・レオは、そんな岩山の一つの頂上に築 かれた、難攻不落の城塞を中心に開けた山上都 市である。 城門を入ると直ぐに、歴史的な香り高い建造 物が立ち並ぶダンテ広場に出る。 先ず目に入るのは、いかにも古そうな教会の 石積の三後陣であろう。ロンバルディア帯と付 け柱装飾が素朴だ。 この教会がこの地区の教区教会で、バシリカ とも呼ばれている。 9~11世紀の創建で、切石造りの初期ロマ ネスク様式を今日まで伝えている。 写真は南側廊から祭室方向を撮ったもので、 ローマ時代の円柱と石積の角柱が混在していて 面白い。 祭室は階段上に設けられており、四本柱のチ ポリウム(9世紀)が祭壇に設けられている。 階下に素朴なクリプタが在る。 |
|
サン・レオ/大聖堂 San Leo/Duomo |
1 Pesaro e Urbino (Marche) |
広場から教区教会の横を抜けて、少し奥へと 行った所にドゥオモが建っている。 ここはかつてローマの神殿が建っていた神聖 な場所とのことで、振り返ると教区教会の側面 が良く見える。神託を受けるに相応しい、見え ざる磁場のような力が働いているのだろうか。 聖堂は12世紀の建築で三廊式、写真で見る ように身廊は四つの梁間で仕切られているが、 天井は横断アーチに半円筒ヴォールトで構築さ れている。震える程嬉しいロマネスク建築では ないか。 ここでも祭室が壇上に在り、階段を上ると低 い位置に柱頭の置かれた円柱の建つ、素朴で美 しい三つの半円形後陣に心動く。 祭室下は地下礼拝堂(クリプタ)で、円柱と 粗石積みの交差穹窿で創出された空間は、見事 ではあるが聖堂の素朴さとはやや異なった印象 を受けた。横断アーチのように用いられた分厚 いリブの繊細さを欠いた意匠のせいかもしれな い。 しかし、柱頭に彫られた小動物の姿は、何と も愛らしいもので、教会の図像といった意義と は別の感慨を抱かせてくれたのだった。 聖堂後方から眺めた後陣はロマネスクらしい 素朴さと無骨さを備えていた。少し離れた所に 建つ方形の鐘楼は12世紀とはいえ、余り魅力 は感じられなかった。 |
|
サン・ヴィットーレ・ デッレ・キウーゼ/ 聖ヴィットーレ教会 San Vittore delle Chiuse/ Chiesa di San Vittore |
2 Ancona (Marche) |
サン・マロートからアペニン山脈を縦断する ような形で北上し、アンコーナへ続く国道へと 出た。 このあたりはフラサッシ峡谷といい、深い谷 と切り立った断崖が続いている。 この村は温泉で知られており、教会は温泉施 設の並ぶ小さな集落の一番奥の小高い場所に建 っいた。 クーポラや後陣の姿からは、明らかにビザン チンの影響を受けていることが分かる。 聖堂はほぼ方形で、縦横三列九つのベイから 成り、中央にドームが設けられた東方様式なの である。 太い円柱、豪快な半円アーチ、窓の無い荒削 りの壁、など11世紀ロマネスク建築が、ぴっ たりとビザンチンのスタイルに融合しているの だ。 装飾だらけの教会を見慣れた目には、この無 垢な石積の聖堂が限りなく純粋な建築美を示し ているように見える。 |
|
アンコーナ/聖マリア・ デッラ・ピアッツァ教会 Ancona/Chiesa di Santa Maria della Piazza |
2 Ancona (Marche) |
アンコーナの旧市街、港の中央にほぼ面した 小さな広場の奥に、この小さな教会が建ってい た。現在の聖堂は5世紀の古い教会の上に構築 されており、床のガラスを通してそれが見える ようになっていた。 身廊は三廊式でクリプトの上段に祭室が設け られているが、かなり修復されている様に見え た。 ここではやはり、写真の扉口とファサードが 見所だろう。 13世紀の作だが、壁一面に彫られた四層の ブラインド・アーケード (盲アーチ列柱) は、 デザインとしても奇抜でとても鮮烈な意匠だと 思う。 扉口のヴシュールに彫られた繊細な動植物模 様や、最上部と中段に付けられた帯状のレリー フの彫刻には石工の非凡な才能を見ることが出 来る。 |
|
アンコーナ/聖チリアコ大聖堂 Ancona/Duomo di San Ciriaco |
2 Ancona (Marche) |
アンコーナの町外れ、アドリア海に突き出た 小さな岬の高台に、この壮大な歴史的遺産が建 っている。 建築はギリシャ十字形で、身廊も翼廊も三廊 式となっている。写真はクーポラのあるその交 差部で、手前が身廊入口、右奥が祭室であり、 左階段の上は北翼廊の礼拝堂となっている。 大規模な聖堂の割りに整然とし、一番嫌いな 威圧感というものを感じさせないのは、権威を 誇示するために飾る小道具類が一切無いからな のかもしれない。 正面玄関柱廊はライオンの居るロンバルディ ア・ロマネスク、扉口の先尖アーチ門はゴシッ ク、平面図はビザンチン、内部構造はロマネス ク、といった複合建築でありながら、それぞれ が控えめな主張しかしていないところに、絶妙 の均整感が生まれているのかもしれない。 アンコーナで最も期待していたポルトノヴォ の聖マリア教会 Santa Maria di Portonovo は 完全に修復中で、境内に立ち入ることも出来な かった。また来い、ということらしい。 |
|
チヴィタノーヴァ・マルケ/ 聖マリア・ア・ピエ・ ディ・キエンティ教会 Chivitanova Marche /Chiesa di Santa Maria a Piè di Chienti |
3 Macerata (Marche) |
アドリア海沿いのチヴィタノーヴァからは、 キエンティ川を約7キロ西へ遡ることになる。 ここでも親切な鍵番の老婆が、本来ならば締 めるはずだった昼の休みの時間を延長して扉を 開けてくれた。下手をすれば、3時間は待たね ばならなかったところだった。 9世紀創建と伝えられる三廊式十字形の古い 聖堂であり、最大の特徴は、祭室に周歩廊が設 けられ、小祭室が放射状に飛び出していること と、二階に周歩廊もそのままトリビューンが設 けられ、さらに天井がもう一段高くなっている ことであろう。 祭室のドームに後世のフレスコ画が描かれて いる以外、ほとんど目立った装飾の無い聖堂な のだが、トリビューンの示す立体感が調和のと れたハーモニーとなっており、あたかも建築が 奏でる荘重な音楽を聞く様な気分になっていた のだった。 |
|
マチェラータ/聖クラウディオ・ アル・キエンティ教会 Macerata/Chiesa di San Claudio al Chienti |
3 Macerata (Marche) |
キエンティ川の上流、高速道路のマチェラー タ・インターからほど近い田園地帯の只中に、 麦畑や牧草地に囲まれてポツンと建っている。 後方からの外陣の眺めは抜群だったが、外見 はほとんどビザンチンで、平面図も方形を三列 づつに区切り、三つの祭室の飛び出す様式の後 陣が付いたものである。 後方から見るとよくは分からないが、正面か ら見ると、二本の円塔に挟まれて上下に二つの 扉口が設けられ、上階へは直接石段で登れるよ うになっている。 つまり聖堂は完全に二層になっていて、円塔 内の螺旋階段のみで連絡出来るようになってい たのだった。 上下どちらも見事なまでに質素な内陣で、交 差穹窿の天井から柱頭無しでそのまま柱になる という意匠は、現代建築ではないかと思えるほ どで、むしろとても斬新な印象を受けてしまっ た。 |
|
サン・マロート/聖ジュスト教会 San Maroto/ Chiesa di San Giusto |
3 Macerata (Marche) |
アッシジの南の町フォリーノ Foligno から 西へと向かい、イタリアの背骨であるアペニン 山脈を越えてマルケ州に入る。 峠から少し下った谷間の寒村で、地図にも載 っていないのだが、教会は見晴らしの良い高台 に建っているので、峠越えの国道からも直ぐに それと判った。 隣家の老人の話では、週に一回司祭がミサの ために巡回して来た時だけ扉が開くそうで、残 念ながら私達は内陣へは入れなかった。 写真で見る通り、聖堂は完全な円形であり、 四方に半円形の礼拝堂が付いている。 ロンバルディア帯だけの装飾で、とても質素 に見えるが、二重の屋根の形や高さが絶妙であ る事が建築全体に軽快な美しさを見せている。 背後の山から見下ろしたら見事だろうと意見が 一致したが、急峻な坂道に向かって歩き出すこ とはなかった。 堂内の天井を見上げて、半球形のドームを眺 めたかったのだが、きっと大仰ではないこじん まとしたチャーミングなドームであっただろう と想像している。 聖堂は12世紀のものであり、鐘塔は後世の 追補である。 |
このページTOPへ |
次のページ (Toscana) へ |
イタリアのロマネスクへ |
ロマネスクTOPへ |
総合TOPへ 掲示板へ |