イタリア中部(南西)
     
のロマネスク 
    トスカーナ/ウンブリア
     Toscana/Umbria 
 
   
 
 ピアン・ディ・スコの教区教会
 
  
 Pieve di Santa Maria
   Pian di Scó  
Arezzo / Toscana 
 
 ここでも勝手にイタリア中部(南西)と名付け
ただけで、別段厳密な規定をしたわけではない。
 エミリア・ロマーニャ州とマルケ州を併せた地
域とは、アペニン山脈によって仕切られたその南
西地方、と御理解頂きたい。
 この地域には、イタリアのルネサンス芸術を代
表するフィレンツェ、ピーサ、シエナ、アッシジ
などという魅力的な町が密集しており、中世の芸
術と宗教の中心地として栄えてきた歴史が格別奥
深い。
 特にトスカーナは、著名なワインの産地でもあ
り、旅する喜びを約束されている。
 イタリアならではの様式も見られ、ロマネスク
最大の魅力でもある多様な美意識を満喫するため
のテキストには事欠かない。
 
 
 
 
 イタリア中部(南西)の県

  
TOSCANA
     1 Massa-Carrara (Massa)
     2 Lucca    3 Pisa
     4 Pistoia    5
Prato
     6 Firenze   7 Arezzo
     8
Siena     9 Grosseto
     10 Livorno

  
UMBRIA

     1 Perugia   2 Terni
 
 
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  ルッカドゥオーモ
   Lucca/Duomo
   
          
Lucca (Toscana)  
         
   
 
 城壁に囲まれた旧市街では、中世以降都市国家
として繁栄したルッカの栄光の面影を見ることが
出来る。大聖堂以外のロマネスク教会だけでも、
後述の聖ミケーレ、聖ジョヴァンニ、聖シモーネ
や聖アンドレア、聖アレッサンドロ、聖ジュスト
に聖フレディアーノ等等、枚挙に暇無しである。

 聖堂は11~13世紀に、聖マルティヌスに捧
て建てられた。正面のファサードには、ピサ様式
の最大の特徴である小円柱で構成された三段の小
歩廊が設けられている。色大理石による細部の装
飾には洗練された意匠を見ることが出来る。

 三つの大きなアーチを構える玄関間とも言うべ
き柱廊が、もう一つの特徴を示している。アーチ
が左右非対称となっているのは、右側にそびえる
13世紀の鐘塔の存在が影響しているらしい。
 柱廊内部の扉口には、聖マルティヌスの逸話な
どを描いた13世紀の素晴らしいレリーフが飾ら
れている。
 ファサード以外の聖堂建築は、残念ながらゴシ
ック以降のものである。

 聖十字架伝説を生んだ「聖なる顔」と呼ばれる
十字架像は身廊内の廟に飾られている12世紀の
彫刻で、東方に起源を持つと考えられている。
 
 
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  ルッカ聖ミケーレ・
    イン・フォロ教会

   Lucca/Chiesa
     di San Michele in Foro
   
          
Lucca (Toscana)  
         
   
 
 ローマ時代からの古い広場に面して、この大理
石の堂々とした聖堂が建っている。
 ファサードは勿論だが、内陣、側壁、鐘塔、外
陣全てがロマネスク様式のまま残されており、ピ
サ・ルッカ様式を最も顕著に残す建築の一つとさ
れている。

 ファサードは四層の小柱廊や大理石の象嵌細工
で飾られており、前に立って見上げる者を圧倒す
る。その高さが異常だが、本来はその高さまでの
身廊を建設する予定であったらしい。現在の三層
以上は、見せ掛けファサードの様な感じである。

 写真の側壁は、上部に設けられた小歩廊と、下
部の連続する盲アーチ列で飾られており、音楽が
聴こえてきそうな程の躍動感に満ちている。
 その奥に、ロンバルディア帯と小アーチで飾ら
れた、白亜の鐘楼が建っている。どうやら、ルッ
カの建築家は、壁面を石積みだけのままにしてお
くことが出来なかったようだ。

 内部は見かけよりは質素な三廊式バシリカ聖堂
であり、落ち着いたロマネスクの静けさが感じら
れて嬉しかった。
 
 
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  ピサドゥオーモ
   Pisa/Duomo
   
          
Pisa (Toscana)  
         
   
 
 観光的にも著名なこの建築群を、ロマネスク様
式という概念で御覧になる方は少ないかもしれな
い。しかし、手前の洗礼堂、大聖堂、そして斜塔
として知られる鐘楼と並ぶ、白亜の伽藍が創出す
る引き締まったような美しさの前では、そうした
持って回ったような様式論は無用、ということな
のかもしれない。
 洗礼堂壁面のゴシック装飾以外の建物は、いず
れも11~12世紀に着工されたピサ様式と呼ば
れるロマネスク建築である。
 連続する小円柱が作る装飾空間、多色大理石の
組み合わせによる変化に富んだ壁面や幾何学模様
にその特徴があるが、そうした表面的な装飾を無
視して、純粋な建築の構造と平面プランだけを眺
めてみると、そこには泰然たるロマネスク建築の
姿が浮かび上がって来るのだった。
 その著名さと装飾過多が嫌いで取り上げなかっ
たのだが、サルデーニャでピサ様式の魅力を知っ
て、遅まきながら再認識したというのが“今更な
がら”の理由なのである。
 
 
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  ピサ(グラード)
   
聖ピエトロ・ア・グラード教会
  Pisa (Grado)/Chiesa
    di San Pietro a Grado
   
          
Pisa (Toscana)  
         
   
 
 ピサの町の中心から西南に6キロ行くと、そこ
はもう見渡す限りの田園地帯である。
 聖ペテロがアンティオキアから来た船から上陸
したと伝えらる場所に建てられた、三廊式のバシ
リカ聖堂である。

 聖堂内は博物館のようになっており、床下の基
礎となった古代ローマの建物や初期キリスト教聖
堂の遺構を、ガラス越しに眺められるようになっ
たりしている。
 聖ペテロの説教した場所が示されており、歴史
の堆積を感じさせる雰囲気に満ちた空間となって
いる。

 ピサ様式とは関連の無い素朴なロマネスク建築
で、横から眺めた長いバシリカ壁面の朴訥さや、
写真の後陣に見られるロンバルディア帯や付け柱
が特に美しく感じられたのだった。
 
 
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  ピストイアドゥオーモ
   Pistoia/Duomo
   
          
Pistoia (Toscana)  
         
   
 
 ピサとフィレンツェの中間にあることで、小都
市国家として歴史的にも重要な立場を占めてきた
町である。
 旧市街を囲む城壁は14世紀のものだが、原形
は古代ローマからであり、8世紀にはランゴバル
ド族の城壁があったという。

 ドゥオモは12~13世紀の建築ではあるが、
17世紀に内陣が改造されており、鐘塔や後陣も
後世の建築である。従って、純然たるロマネスク
は、基礎的な三廊式プランとクリプト、そしてフ
ァサードにのみ残されている。
 写真は正面ファサードで、上部がピサ・ロマネ
スク様式の小円柱アーケードが構成する三層の小
歩廊になっている。ルッカなどに比べると地味だ
が、幾何学模様などには非凡な意匠が施されてい
る。
 なお、ファサード下部の七つのアーチの柱廊部
分は、14世紀に付け加えられたもので、場所柄
フィレンツェの影響が感じられる。
 
 
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  プラートドゥオーモ
   Prato/Duomo
   
          
Prato (Toscana)  
         
   
 
 ここも旧市街を六角形の城壁が囲んでおり、か
つてはやはり重要な都市国家の一つであった。
 14世紀中頃に、フィレンツェの統治下に入っ
ている。

 聖堂は12~13世紀に、ロマネスク様式で建
築されたのだが、14世紀になって直ぐにゴシッ
ク様式が取り入れられている。
 節操がないというよりは、上手く調和させたと
考えたほうが良さそうだ。
 ファサードの縞模様が印象的で、これは白と濃
緑色の大理石を使用したものである。
 聖堂の側面には、ピサ様式とも言える連続する
盲アーケードが意匠されている。
 鐘塔は12~14世紀のものとされており、解
説には“ロマネスク・ゴシック”様式と記してあ
った。
 三廊式の身廊は緑色の大理石円柱で仕切られて
おり、純粋な“ロマネスク”様式を見ることが出
来る。

 中央礼拝堂に飾られた、ルネサンスの巨匠フィ
リッポ・リッピのフレスコ画は見逃せない。
 
 
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  フィレンツェ
   
聖ミニアート・アル・モンテ教会
   Firenze/Chiesa
     di San Miniato al Monte
   
          
Firenze (Toscana)  
         
   
 
 アルノ川対岸の山腹に建つ教会で、テラスから
眺めるフィレンツェ旧市街の展望は、静けさの分
だけ観光名所のミケランジェロ広場より優れてい
る。
 ドゥオモ広場に建つ聖ジョヴァンニ洗礼堂と共
に、フィレンツェを代表するロマネスク建築の傑
作である。創建は1013年からとの事であり、
ゴシック・ルネサンスに先立つ建築として貴重で
ある。
 緑色と白の大理石を組み合わせた幾何学模様の
ファサードが特徴で、フィレンツェ様式と呼ばれ
ている。端正で古典的な風貌が魅力だが、ピサ様
式ほどの普及は無く、むしろ後世のフィレンツェ
への影響の方が大きかったようだ。
 三廊式の身廊や、クリプトとその上の一段高く
なった後陣なども、多彩な大理石によって飾られ
ていた。
 身廊の床は大理石の象嵌敷きであり、遍く普及
しなかったのは、こうした豪華さにあったのかも
しれない。
 フィレンツェにもこんなロマネスクが、という
お話をしてみたかったのである。
 
 
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  サン・カシアーノ・
   イン・ヴァル・ディ・ペーザ
     
教会美術博物館
   San Casciano
     in Val di Pesa
/
Museo
       San Giuliano Ghelli
   
          
Firenze (Toscana)  
         
   
 
 フィレンツェの南20キロにある山上の町。
 この美術館は町の中心部に近いサンタ・マリア
・デル・ジェズ
Santa Maria del Gesù 教会の敷
地内に建っている。
 A.ローレンツェッティやジョット工房など、
13~14世紀の作品が展示される中に、カベス
タニー工房
Le Maître de Cabestany の作品が展
示された部屋が在った。

 町の北西4キロにあるスガーナ
Sugana
ン・ジョヴァンニ教区教会から移されたものであ
る。トスカーナには他に、
Sant'Antimo サンタ
ンティモ
やプラート
Prato 大聖堂の回廊に、カベ
スタニーの作品の存在が確認されている。

 円柱に彫られていたもので、幼児キリストの逸
話が周囲表裏に描かれている。
 写真は、上が洗礼、下は受胎告知である。ちな
みに、背後には誕生と羊飼いへのお告げ、が彫ら
れている。
 カベスタニー特有の顔や肢体のデフォルメが顕
著で、図像を絡ませる手法も一連の作品に共通し
ていると思う。
 カベスタニーの拠点であったルシオンやカタル
ーニャと、トスカーナとを結ぶ線の存在がとても
ミステリアスに感じられた。
 
 
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  アレッツォ聖マリア教区教会
   Arezzo/Pieve di Santa Maria
   
          
Arezzo (Toscana)  
         
   
 
 この町を訪ねる大半の人の目的は、聖フランチ
ェスコ聖堂に飾られた、ピエロ・デラ・フランチ
ェスカのフレスコ画「聖十字架伝説」にあるだろ
う。小生が初めて訪ねた時もそうだったのだが、
後日そのすぐ近くに12世紀のロマネスク教会が
あることを知ったのだった。

 教会を訪ねると、先ずは正面ファサードの豪華
さに驚く。下部には五つの連続したアーチが意匠
されており、中央の扉口以外は全て盲アーチとな
っている。
 その上の層は、連続する盲小アーケードで、更
に上の二層には小円柱が並ぶ小歩廊が設けられて
いる。ピサやルッカの様式を、大胆に取り入れた
ファサードである、と言えるだろう。
 扉口や盲アーチのタンパン部分、内部の壁面な
どに魅力的な彫刻があるのだが、修復工事中で撮
影は出来なかった。

 内部は三廊式で、祭壇下にクリプトがあるため
に祭室は中二階状になっている。写真は、左側廊
からクリプトと祭室を眺めたものである。
 建築全体に修復の手が入っているので、何か妙
に整然とした感が否めないのだが、この最も古い
祭壇部分には、トスカーナ・ロマネスクを代表す
るような簡素だが威厳に満ちた風格といったもの
が感じられたのだった。
 
 
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  ファルネータ大修道院
   Farneta/Abbazia di Farneta
   
          
Arezzo (Toscana)  
         
   
 
 コルトーナ Cortona からシエナに向かう国道
が、キアーナ
Chiana の谷を越える手前の丘の
上に、このベネディクト派大修道院の遺構が残さ
れている。
 9~10世紀の創建だが、現在は付属教会の一
部と地下のクリプタが残されているだけである。

 教会は、単身廊に三つの後陣が付いたT字型の
プランで、天井は木造、祭壇は数段の石段でやや
高い位置に設けられている。身廊と祭室を仕切る
アーチ壁に存在感がある。
   
 クリプタは三つの後陣それぞれの地下に半円形
祭室が設けられており、それらは細い通路で結ば
れている。
 中央の祭室が最も広く、四本の円柱が祭壇の前
に立てられている。プリミティヴなクリプトらし
く、薄い煉瓦状の石を積上げてあり、天井は交差
穹窿状になっている。
 柱頭には、植物模様と人頭を組み合わせた素朴
な図像が彫られている。

 写真は、後方から眺めた三後陣で、方形の祭室
に三つの半円形が飛び出した格好はむしろ奇妙だ
が、ドイツのカロリング様式で見たような気もす
る。下の小さい窓は、半地下のクリプタの窓であ
る。    
 
 
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  ピアン・ディ・スコ
    
聖マリア教区教会
   Pian di Scó/
    Pieve di Santa Maria
   
          
Arezzo (Toscana)  
         
   
 
 フィレンツェからアレッツォへ向かうA1号線
の東側の山裾に、葡萄とオリーブが特産のこの町
が在る。
 教会は中心の通りに面して建っており、12~
13世紀に建築された三廊式バシリカ様式の聖堂
である。三後陣と鐘塔が、均整の取れた景色にな
っている。
 身廊と祭室の柱頭に彫られた彫刻が、陰影濃く
自己主張しているように感じられた。
 写真はその内の一基で、正体不明の男達が、器
のようなものを持っている。ミステリアスで面白
い。鷲や花をデフォルメした図像など、彫刻の森
に遊ぶ気分になれる。
 
 
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  グロピーナ聖ピエトロ教会
   Gròpina/Chiesa di San Pietro
   
          
Arezzo (Toscana)  
         
   
 
 今回の旅のルートを決定する際に、大きな目的
の一つとなっていた教会である。
 先述のスコ
Sco から葡萄畑を抜け南東に10
キロ走る。駐車スペースも無い細い小道しかない
寒村である。集落の入口に車を止めて、教会まで
しばらく歩く。

 三廊式バシリカ建築の聖堂は、11世紀初頭の
創建と記されている。アーケードの柱頭には個性
的でユーモラスな図像が彫られており、先ずは注
目させられる。説話からの主題なのだろうが、内
容は不明である。葡萄蔓の図案など、高度なデフ
ォルメが成されている。
 半円形祭室は二層で意匠されたアーケードにな
っており、上層が開廊列柱、下層が盲アーケード
という構成である。この内陣に対応した、外側裏
手から見た後陣は素晴らしかった。

 最も注目させられたのが、身廊に設置された写
真の説教壇である。何というユニークな装飾彫刻
であろうか。全体を覆う精緻な彫刻とレリーフの
全てが創造的で、他に類を見ない像容ばかりであ
る。
 中央の彫刻は上から鷲、人物、獅子で、それぞ
れが福音書家のシンボルとして、聖ヨハネ、聖マ
タイ、聖マルコを表している。聖ルカの牛像は、
その下の波型模様の中に潜んでいる。
 両手を挙げた風変わりな十二使徒や、ねじれた
円柱など、見飽きることが無い。
 
 
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  ソカーナ教区教会
   Sócana/Pieve di Sócana
   
          
Arezzo (Toscana)  
         
   
 
 グロピーナからこの村へは、遠回りとなるので
アレッツォ方面へは向かわず、背後のプラトマー
ニョ山地
Pratomagno を越えて行くことにした
が、とんでもない急カーブ連続の山道だった。だ
が、絶景との遭遇に気を取られて時間の経過は気
にならなかった。
 ようやくたどり着いた麓の町は
Rassina ラッ
シーナという所で、ソカーナの村は東側に隣接し
た小さな集落だった。

 教会は村の中心広場に面しているので、その存
在は直ぐに判ったのだが、扉口の鍵が閉まってい
て聖堂へは入れなかった。広場に居た親爺に相談
すると、鍵の管理者に連絡をしてくれ、直ぐに開
けて貰えたのだった。

 ファサードは改造されたものだったが、聖堂は
三身廊で天井は木造ながら、アーケードの美しい
ロマネスク建築であった。柱頭らしい装飾が成さ
れてはいるが、角柱はアーケードと一体になった
ものだった。
 祭室の中央には半円形のドームが造られている
が、左右の小祭室は方形だった。創建時には三後
陣だったとのことだったが、いつ改築されたかは
判らなかった。
 写真は鐘塔とその後陣を眺めたものだが、塔の
上部も新しそうだ。
 手前の遺構は教会以前に在ったエトルリアの神
殿跡の一部で、近年発掘されたらしい。
 
 
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  ロメーナ教区教会
   Romena/Pieve di Romena
   
          
Arezzo (Toscana)  
         
   
 
 ラッシーナの北20キロに Pratovecchio プラ
ートヴェッキオの町が在り、そこから南西へ1キ
ロ程入った田園地帯にこの教会が建っていた。
 間口に比べ身廊が短いプランだが、三廊式の美
しい聖堂である。
 エンタシス状の円柱の柱頭には、オランテのよ
うな人物や鳥、渦巻模様など、グロピーナ風の創
造的な彫刻が成されているのだが、やや修復が目
立ちすぎる感がある。
 内陣も外陣も同様に、二層のアーケードで装飾
されている。写真の外陣の眺めは、逆光だったが
感動的だった。
 
 
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  スティア聖母被昇天教会
   Stia/Chiesa
    di Santa Maria Assunta
   
          
Arezzo (Toscana)  
         
   
 
 プラートヴェッキオの町の約2キロ北に在る町
で、古い町並の残る旧市街地区にこの教会が建っ
ている。
 外観はルネサンス風でとても入る気にはならな
いが、内部はロマネスク建築一色であった。
 三廊式で、六連アーケードには個性的な柱頭彫
刻が、展覧会のように並んで壮観だった。
 写真は、杓を持つ聖人と渦巻で、他にも天使や
人魚、奇怪な動物や人面などがモチーフになって
いる。
 祭室は二層構造で、上部開口窓と下部にアーケ
ードが意匠されている。
 ルネサンスの絵画が盛り沢山だったが、宿のあ
るサン・レオ
San Leo が遠いので今回はパスす
ることにした。
 
 
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  モンタルチーノ
    
聖アンティモ大修道院
   Montalcino/
    Abbazia di Sant'Antimo
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 トスカーナの銘酒ブルネッロ Brunello の産
地として名高いモンタルチーノの町から、少し離
れた山奥に在る。
 小さな峠を越えたあたりから、オリーブと糸杉
に囲まれた広大な谷間が見え、その中心にこの美
しい修道院が建っている。
 聖堂へと続く小道を下って行くと、均整の取れ
た優雅な後陣と鐘塔が次第にくっきりと見えてく
る。いかにもトスカーナらしいそんな美しい風景
を眺めながらの修道院へのアプローチは、正にロ
マネスク探訪の旅の至福の時間と言えるだろう。

 修道院付属教会の聖堂は三廊式のバジリカ形式
で、トリビューンが備わっている。
 最大の特徴は、イタリアでは珍しい周歩廊が祭
室の周りに作られ、三つの小礼拝堂が放射状に付
けられていることである。フランスやスペインに
見られる、巡礼路教会に似ているのである。

 身廊の列柱は荘厳で、柱頭には美しい彫刻が施
されている。ダニエルとライオンの場面を彫った
柱頭が特に印象深い。フランスのルシオン地方か
ら来た
Maître de Cabestany カベスタニーの職
人による作品だという。
 南門の扉口は角柱とマグサ石で構成された単純
な門だが、マグサ石に有翼の怪獣や怪鳥が彫られ
ており、柱は幾何学的な模様でびっしりと埋めら
れている。
 
 
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  サン・クイリコ・ドルチア
    聖クイリコ参事会教会

   San Quirico d'Orcia/
    Collegiata di San Quirico
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 シエナの南東の町で、モンタルチーノとピエン
ツァの間に位置している。高台に在る旧市街は城
壁に囲まれており、この参事会教会は西側の壁に
近い。
 写真は教会堂の南側面を写したもので、余り装
飾の無いきりっとした簡素で美しい建築である。
12~13世紀とのことだが、門はややゴシック
にかかっている。
 聖堂は、単身廊に翼廊の付いた十字形で、写真
の手前の門が翼廊の南扉口である。翼廊には小さ
な祭室が付いており、後陣が見えるが角張ってい
て余り魅力は無い。
 西側の正面扉口は写真では見えていないが、身
廊南口に似ており、束ねた意匠の柱や鰐のような
怪獣の彫刻が有る。この西扉口が最も古く、三つ
の異なった時代の扉口を見ることが出来て興味深
い。
 旧市街は車通行禁止で、歴史的な家並を見なが
らゆったりと歩くのは楽しい。
 
 
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  キウージ大聖堂
    Chiusi/Duomo
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 ローマから太陽道路A1号線を北上して、トス
カーナに入った最初の町がこのキウージである。
エトルリア以来栄えた古い町である。

 旧市街のやや東側にある小さな広場に、12世
紀の鐘塔が建っており、少し離れて大聖堂のファ
サードが並んでいる。

 聖堂は三廊式のバシリカで、写真で見る通りラ
ヴェンナ風の佇まいである。5~6世紀に創建さ
れた古い歴史があり、12世紀に修復が行われた
ロマネスク建築である。
 アーケードの壁や祭室はラヴェンナの様に、美
しいモザイクで埋め尽くされている。
 祭室の天井ドームのモザイクが特に素晴らしか
ったが、ビザンチンの主題として頻繁に取り上げ
られる“聖母の死”の場面である。しかし残念な
がら、この一連のモザイクは近世の作である。
 アーケードの円柱に用いられている素材は、ロ
ーマ時代の大理石円柱であり、いずれかの遺構か
らの転用であったと思われる。

 新しいとはいえ、モザイクの存在がラヴェンナ
に似たビザンチンの雰囲気を感じさせてくれる美
しい聖堂だった。
 ローマ時代の古いモザイクの一部は、大聖堂に
隣接する大聖堂博物館に展示されていた。
 
 
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  アッシアーノ聖アガタ教会
   Asciano/Chiesa di Sant'Agata
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 シエナ Siena の南東25キロにある町で、都
市国家であったシエナが14世紀に築いた城壁が
現在も旧市街地を囲んでいる。
 町並には中世の面影が色濃く残っており、時間
が止まったようなという表現がここではぴったり
の町だ。

 教会は、中央広場に面して建つ11世紀創建の
ロマネスク建築である。
 三連の尖頭アーケードが意匠されたファサード
は、中央の扉口も新しく、どうやらゴシック以降
の改築が成されている。
 聖堂は袖廊の付いた単身廊に三後陣というプラ
ンで、ドーム状の交差部に八角形の鐘楼が立ち上
がっている。
 身廊と交差部の間に仕切り壁が設けられている
が、中央の大きな半円アーチの左右に、側廊に準
ずるような小アーチが並んでアクセントとなって
いる。
 切石積みの壁面の材質感が、ロマエスク好きの
美意識を刺激する。漆喰で塗り固められた壁面ほ
ど味気ないものはないだろう。ここでは、ぎりぎ
りの修復が成されていて素晴らしい。
 身廊の天井は木造、祭室の天井は交差穹窿であ
った。
 写真は、聖堂の南東後方からのもので、南袖廊
の小後陣、八角鐘楼と背の高い鐘塔などが毅然と
建っている。
 本来在った筈の北袖廊の小後陣は現在失われて
おり、実質的には二後陣となっている。 
 
 

    
    
  サン・ガルガーノ
    
シエピ山の隠者庵
   San Galgano/
    Eremo di Monte Siepi
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 シエナの南西35キロの、人里離れた丘陵地帯
にシトー派の聖ガルガーノ大修道院遺構が残され
ている。糸杉に囲まれた静寂な空間は魅力的だっ
たが、目的はこのゴシックに改造された修道院で
はなく、その背後に横たわるシエピ山という小高
い丘にあった。

 そこには、12世紀ロマネスク小教会が建って
いるからなのであった。修道院に車を止め、山道
をしばらく登って行く。
 円形の聖堂を中心にして、玄関間や祈祷所など
が連結して建てられている。
 教会
Chiesa ではなく Eremo と記されてい
るが、“隠者の庵”とか“陰修士の住居”とかに
訳されている。

 写真は建築群中心の円形(集中式)プランの、
正面祭室部分を写したものである。
 円形の壁面、そして天井の頂点に集中するドー
ム状の円蓋は、石灰岩と赤煉瓦を帯状に交互に積
んだ意匠からは、とても鮮烈な印象を受けた。円
蓋の天井中心を見上げると、数十本の帯状の同心
円が、無限の宇宙を想像させる気になる。
 シトー派修道院の修道士のための“庵”に相応
しく、横縞模様以外にはこれといった装飾は全く
見られない、瞑想と修行だけのための質素な空間
であった。
 
 
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  アッバディア・イソラ
    
聖サルヴァトーレ教会
   Abbadia Isola/
    Chiesa di San Salvatore
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 シエナの北西15キロに、13世紀に築かれた
円形の城壁に囲まれた町
Monteriggioni モンテ
リッジョーニがある。葡萄畑の中に浮かぶ天空の
山上都市と言える。
 そこから西へ3キロほど行くと、この小さな寒
村に到着する。

 町は聖サルヴァトーレ大修道院を中心にして発
展した門前町のようであった。
 写真は家並の間から見えた修道院付属教会のフ
ァサードである。11~12世紀に創建されたも
ので、かなりの修復はあったのだろうが、その当
時の雰囲気を良く伝えている。
 素朴なロンバルディア帯装飾、二連のアーチ窓
や三連盲アーケード、そして中央扉口などロマネ
スク好きの目が引き付けられてしまう。扉口両サ
イドの太い円柱の断片は、豪快な付け柱の痕跡か
もしれない。

 聖堂は三廊式バシリカで、アーケードには左右
それぞれ5本の円柱と半円アーチが設けられてい
る。柱頭彫刻は少ないが、中央祭室の右円柱に彫
られたオランテのように両手を挙げた聖人像は出
色であった。
 聖堂背後は崖地の草むらになっていて、後陣を
眺めるにはやや苦労する。三つの半円形後陣が綺
麗に並んでいるが、中央の後陣にのみ付け柱とロ
ンバルディア帯装飾が施されている。   
 
 
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  コネオ聖マリア大修道院
   Badia a Coneo/
     Abbazia di Santa Maria
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 イソラの町の西にあるコッレ Colle の南西7
キロ、全くの田園地帯の小高い丘に残る修道院の
遺構である。
 ファサードの柱頭には、見るべき彫刻が多い。
 二人の人物と樹木はアダムとイヴを連想させる
し、首の長い鳥や植物と人面など、廃墟に近い環
境の中で静かに佇んでいた。
 扉口は開かなかったが、単身廊に三後陣という
T字型平面プランは見えるようだ。
 写真は後陣の眺めだが、交差部に八角形のクー
ポラが建つのは予想通りだった。しかし、半円形
後陣は中央のみである。実は半円形の小祭室は、
左右の袖廊の壁に覆われて外からは見えなくなっ
ているのだった。
 
 
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  チェッロレ
   聖母被昇天教区教会

    Cèllole/Pieve
     di Santa Maria Assunta
   
          
Siena (Toscana)  
         
   
 
 観光地 San Gimignano サン・ジミニャーノ
の西北5キロにある教区教会である。糸杉と葡萄
畑に囲まれた辺鄙な場所だった。
 三廊式バシリカ建築で、七つのアーチが左右に
並ぶ身廊は見事だった。13世紀に建造されたロ
マネスク様式で、峠は越した感があるものの、素
朴な柱頭彫刻など見応えがある。
 祭室は中央に半円形後陣が設けられており、七
連の盲アーケードで飾られている。中央のみに窓
が在り、他はアーケードの中や輪郭に渦巻や植物
連続模様が施されている。
 辺鄙ゆえに残された珠玉の後期ロマネスク、と
言えるだろう。   
 
 
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  ソヴァーナ
   聖ピエトロ・パオロ大聖堂

   Sovana/Cattedrale
    di Santi Pietro e Paolo
   
          
Grosseto (Toscana)  
         
   
 
 トスカーナ南端部の辺境の町で、かつては見捨
てられた城塞の廃墟しか残っていなかったそうで
ある。
 町外れのこの教会は10世紀に起源を持つ古い
もので、改修はされているが12世紀のロマネス
ク建築を今日に伝えている。
 写真は西壁から見た三廊式の身廊で、色大理石
の柱がアクセントになっている。
 天井は14世紀の改修の時に、構築されたとい
う。
 柱頭彫刻に見るべきものが多く、アダムとイヴ
やダニエルと獅子を彫ったものなどが特に目に付
いた。
 プリミティヴな地下祭室の円柱も美しかったの
だが、北側扉口の装飾が格別印象的だった。
 組紐、網目、渦巻といったケルティックなもの
や、鳥や花をモチーフとした数々の図案で飾られ
ていた。
 
 
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  アッシジ聖ルフィーノ大聖堂
   Assisi/Duomo di San Ruffino
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 アッシジへは何度か行ったことがあるのだが、
聖フランチェスコ聖堂と聖キアラ教会しか訪ねて
いなかった。
 今回はアッシジの郊外に数泊し、未見のカルチ
ェリやアンジェリなどといった聖フランチェスコ
の遺跡を訪ねることが出来た。

 12世紀ロマネスク建築である、この大聖堂も
初めての訪問だった。聖フランチェスコも聖キア
ラも、ここで洗礼を受けたのである。
 写真は聖堂西正面のファサードと塔である。
 均整のとれた美しいファサードであり、扉口を
飾る彫刻は繊細で、相当の技量の持ち主が彫った
のだろうと推量出来る。
 三つの門はいずれも、その門柱の基礎にライオ
ンを彫っている。イタリア・ロマネスクのパター
ンなのだが、余り卓越した意匠とは思えない。何
故この当時に一世を風靡したのかは分からない。
獅子が象徴する勇気・栄光・勝利は理解出来るの
だが、日本の狛犬に余りにも似ているのが陳腐に
感じる要因かもしれない。
 右側の建物は美術館になっており、地下へ降り
ていくと聖堂のクリプトへと入ることが出来る。
最もプリミティヴな部分であり、フレスコ画や天
井の低い空間からは、創建時の美意識が伝わって
くるようだった。
 
 
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  フォリーニョ大聖堂
   Foligno/Duomo
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 アッシジの南東にあり、人口5万人以上という
ウンブリア地方有数の大きな町である。
 州都であるペルージア
Perugia とスポレート
の中間に位置している。
 ローマ以来の古い都市だが、現在の町はかなり
近代化されており、旧市街の中心広場にこの大聖
堂が辛うじて残っている、というような印象を受
ける。
   
 写真は西正面のファサードで、制作されたのは
12世紀半ばである。南の翼廊側にも扉口があり
13世紀初頭のものだが、今回は修復中でテント
の中だった。コズマーティのモザイクなど、装飾
が見事なのだが残念ながら見ることが出来なかっ
た。
 正面ファサードは四段の装飾で、最下部に三連
の扉口、二連と四連を組み合わせた開口アーケー
ド、市松模様のモザイク、そして薔薇窓という構
成になっている。
 ライオンの守る中央扉口は、アーチ部分に精巧
な連続蔓草模様が彫られている。南門はこれを更
に発展させた完成度を示しているとのことで、ま
た残念が増幅した。
 薄いピンク色の切石を巧みに積んだ優雅な建築
だが、内陣は近年にかなり改築されており、ロマ
ネスクの片鱗を探すのに苦労するほどである。ク
リプタ(地下祭室)が残されているが、これも見
学不能だった。
 
 
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  ベヴァーニャ
    聖シルヴェストロ教会

   Bevagna/Chiesa
       di San Silvestro
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 城壁に囲まれて静かにたたずむこの町は、古い
石畳の小道や美しい広場と共に、そこここに色濃
く歴史を残していた。
 城門の外に車を止め、細い路地を抜けると大き
な広場に出る。そこには広場を挟んで、聖ミケー
レ教会とこの教会とが向かい合って建っていた。
 どちらも重要なロマネスク建築なのだが、聖ミ
ケーレは内陣が完全な修復中で見ることが不可能
だった。
 どちらも12世紀後半の建造だが、こちらのフ
ァサードは未完とのことで、タンパンには何も彫
られていなかった。
 写真で見る通り、ここも三廊バジリカ式身廊、
上下二段の祭室というパターンだが、半円形外陣
は一つであった。
 また、やや太めの円柱の柱頭には、気持ちばか
りの植物模様が彫られている。柱間の半円アーチ
のスパンが大きいので、狭い空間がかなりゆった
りとして見える。
 地下のクリプトは清浄な雰囲気の静かな空間だ
ったが、古代ローマの柱が数本利用されたりして
いて、当時の石材利用は大らかだったのだなあと
思わせて面白かった。
 後陣の付け柱とロンバルディア帯装飾が印象的
だった。  
 
 
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  ベヴァーニャ聖ミケーレ・
    アルカンジェロ教会

   Bevagna/Chiesa
     di San Michele Arcangelo
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 聖シルヴェストロ教会とは向かい合わせ、とい
う何とも贅沢なロケーションだ。
 しかし、内部が修復中とのことで、聖堂内へは
入ることが出来なかった。

 こちらも12世紀後半の建造で、典雅なファサ
ードの右側に堂々とした鐘塔が合体した格好にな
っている。

 中央扉口の装飾には目を見張ってしまった。両
側の柱部分には、連続する精巧な縦縞模様が彫ら
れており、柱頭の天使像へと視線が導かれる。特
に左側の柱頭には龍と闘う大天使ミケーレ(ミカ
エル)が彫られており、この教会を象徴する図像
となっている。右側の天使像も溢れる迫力に満ち
ており、この地方の彫刻のレヴェルの高さを示し
ている。
 ヴシュール(アーチ帯状装飾)には、連続する
蔓草模様の彫刻と、外側にコズマティ風モザイク
があしらわれている。

 三連アーチの開廊の上部に、横一列のロンバル
ディア帯風の装飾が成されている。併せて軒持ち
送りに似た個性的な彫刻が、帯の先端に連続して
彫られている。龍や牛や羊、といった動物の頭が
並んでいるのが面白い。

 後陣へと回り込んでみると、いかにもロマネス
クらしい半円形祭室が聖堂から飛び出していたの
だった。粗々しい石積と付け柱の魅力。ロマネス
ク巡りの嬉しい時間の一つである。
 
 
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  カステル・リタルディ
    聖グレゴリオ教区教会

   Castel Ritaldi/
    Pieve di San Gregorio
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 サグランティーノ Sagrantino 種から造られ
る辛口ワインで知られる
Montefalco モンテフ
ァルコの町から、葡萄畑を抜けて南へ10キロ行
くとこの小さな集落へ出る。
 オリーヴやトリュフも名産の農村だが、その名
は領主の城が在ったことに由来する。

 この教区教会は静かな村の外れ、糸杉に囲まれ
た眺めの良い場所に建っている。
 ここでは、正面のファサードに注目しなければ
ならない。大まかな構造は、半円アーチ扉口と丸
窓があるだけの単純なものだが、詳細に眺めると
彫られたレリーフや装飾彫刻がとても素晴らしい
のである。

 扉口のアーチ部分に二重のヴシュールが設けら
れており、外側にライオンの口から延びた蔓草が
渦を巻きながら繋がっているという意匠になって
いる。
 内側には葡萄の枝と蔓に絡まるライオンや鳥や
猪や兎など、鳥獣戯画を思わせる楽しい場面が展
開している。

 二本の円柱に挟まれた丸窓は単純だが、両側に
彫られたマスクと人物像は彫りが鋭く興味深い。
マスクは誰が見ても悪魔だろう。
 人物像の下に名前が彫られているので、誰の像
かは直ぐに判った。いずれも預言者の像で、右は
エゼキエル
Ézechiel で、左は Jérémie エレミ
アである。   
 
 
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  ジャーノ・デッルンブリア
    聖フェリーチェ大修道院

   Giano dell'Umbria/
    Abbazia di San Felice
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 山上都市モンテファルコ Montefalco で食事
をしてから、私達はジャーノを訪ねたのだが、町
のどこにもこの修道院は無かった。その筈で、こ
こから更に数キロ山道を入った崖地で、ようやく
発見することが出来たのだった。
 さらに幸運なことに、通常は閉じられた教会の
扉が開いていたのである。この日は、司教がオル
ガンの練習をしていたのだった。
 お陰で私達は内陣を、贅沢な
BGM付きでゆっ
くりと見学出来たのである。
 三廊バジリカ式の身廊、柱頭彫刻の少ない素朴
な柱、上下二段の祭室などがイタリア・ロマネス
クの特徴なのだが、ここもこの法則通りの建築だ
った。
 写真は下段の地下祭室で、低い重厚な天井から
のアーチを受けるか細い柱が妙に美しく感じられ
た。ここの柱頭には、鳥や動物を一筆書きで描い
たような、素朴な浮彫が見られた。
 
 
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  トーディ大聖堂
   Todi/Duomo
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 エトルスキ時代、ローマ時代、中世と、三つの
時代それぞれに築かれた三重の城郭が、この町の
歴史の古さと重要さを物語っている。
 中世における町の活気を今日に伝える歴史的な
建造物が居並ぶ
Piazza del Popolo ポポロ広場
に面して、12世紀創建のこの優雅なファサード
を持つ聖堂が建っている。

 バラ色と白色の大理石で出来たファサードは、
三つの扉口が付け柱で仕切られ、中央上部にはバ
ラ窓が設けられている。この部分は13世紀以後
に、ゴシック的な改修が行われたのであろう。
 聖堂内部は三廊式で、仕切りアーケードには、
美しい柱頭彫刻の施された円柱が並んでいる。何
故か一本おきに角柱が並立していた。円柱だけで
は強度的に弱く、角柱部分が聖堂の主構造の一部
になっているのだろう。

 クリプトは修復工事中で、中へ入ることが出来
なかった。仕方なく聖堂背後へと回りこんでみる
と、狭い隣家との間に、写真のような見事な後陣
を見ることが出来た。
 この教会では、この部分こそが、ロマネスク教
会としての“らしさ”を最大に発揮しているのか
もしれない。   
 
 
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  スポレート大聖堂
   Spoleto/Duomo
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 城壁に囲まれたこの古い町は、古代ローマ時代
にはローマの自治都市であり、6~8世紀にはラ
ンゴバルド族の統治下になったこともある。

 この大聖堂は1198年に教皇イノケンティウ
ス3世によって献堂されたもので、城壁内旧市街
の東端に位置している。
 広場からは一段低い場所に建つ聖堂のファサー
ドと、すっくと延びる鐘楼を見下ろすようになっ
ている。
 ファサードは三層に分かれており、最上部には
三つのバラ窓とビザンチン風のモザイク画が飾ら
れている。描かれているのは、玉座のキリストを
中心にして立つ聖母マリアと福音書家聖ヨハネで
ある。このモザイクは1207年の作品であると
いう。
 二層目には大きなバラ窓を中心にして、五つの
バラ窓が意匠されている。中央のバラ窓の四隅に
は、福音書家のシンボルが彫られている。
 最下部の柱廊付き玄関間はルネサンス時代の改
造だが、鐘塔と共に、暮れない夏の夕日の中に、
均整の取れた絵になる光景を創出していた。

 内部は後世にかなり改築されており、身廊の床
に残るモザイクだけが創建時代のものである。
 この寺に墓がある、フィリッポ・リッピのフレ
スコ画は必見である。
 
 
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  スポレート聖ピエトロ教会
   Spoleto/Chiesa di San Pietro
   
          1 Perugia (Umbria)  

         
   
 
 町の最南端の城門を出てから Tessino テッシ
ーノ
川を渡り、モンテルーコ
Monteluco の丘の
麓へと登った所に、周囲を見晴らすような格好で
この教会が建っている。

 近世の修復もあって聖堂建築全体には余り興味
が湧かないのだが、写真のファサード扉口の両側
に施されたレリーフ装飾彫刻は絶対に見逃せない
だろう。
 制作されたのは12~13世紀であり、ロマネ
スクとしてはやや後期ということもあって、ロマ
ネスクの魅力である抽象性が失せ、ちょっとだけ
古典的な写実性が顔を出している、と分析出来る
だろう。

 四層の小盲アーチ列や擬人動物像、その外側に
は新約聖書の逸話や、様々な寓話を象徴した動物
などが彫られている。
 伝統的な古代ローマの美意識が彫らせた様な、
重厚な写実性すら感じさせる不思議なレリーフで
ある。
 
 
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  フェレンティッロ聖ピエトロ・
    イン・ヴァッレ大修道院

   Ferentillo/Abbazia
     di San Pietro in Valle
   
           Terni (Umbria)  

         
   
 
 ローマの北に位置する、ウンブリア地方の最初
の県がテルニである。県庁のあるテルニ
Terni
の町から、スポレート方面には行かず、ネーラ川
に沿って渓谷を進むと城塞の町フェレンティッロ
に着く。
 修道院へは町からさらに渓谷を遡り、左手の山
に入って急な斜面を登らねばならない。
 創建が8世紀と伝えられる古い修道院だが、大
半は12世紀の建築である。単身廊に翼廊の付い
た、十字形の簡素な教会堂には、両側の壁にフレ
スコ画が残されていたが、かなり修復の手が後世
に入っているように見えた。
 回廊の入口の側柱に彫られた聖ペテロと聖パウ
ロ像は、いかにもロマネスク的な愛らしい彫像で
気に入ってしまった。
 周囲の環境は修道院らしく人家も無い辺鄙な場
所で、清浄な空気と神聖な光に満ち溢れていて、
至福の時間を過ごすことが出来た。
 
 
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