イタリア中部 ()
     のロマネスク
 
 ローマ・ナポリ周辺と
        アブルッツォ

 
Lazio/
Abruzzo/
     Molise
/Campania
 
 
 
 パエストゥムネプチューン神殿
  
Salerno (CAMPANIA)
 
 何という力強い建築であろうか。ギリシャ人
が各地に建てた神殿の中でも、その圧倒的な存
在感は最高だろう。
 古代ローマだ、ビザンチンだ、ロマネスクだ
といった歴史的区分などを遥かに超越した、古
代ギリシャ建築の堂々たる美しさに感銘を受け
た。   
 
 
 
イタリア中部(南)の州と県 
 
  LAZIO(ラツィオ州)
    1 Viterbo   2 Roma   
    
3 Rieti
    4 Latina    5 Frosinone
 
 ◆ ABRUZZO(アブルッツォ州)
    1 L'Aquila   2 Teramo
    3 Pescara     4 Chieti  
 
 ◆ MOLISE(モリーゼ州)
    1 Campobasso   
    2
Isernia 
 
 ◆ CAMPANIA(カンパーニア州)
    1 Caserta    
    2
Benevento
    
3 Avellino    4 Napoli  
    5 Salerno  
 
 
 西はロ-マ・ナポリ、東はペスカーラ・テル
モリ周辺までをイタリア中部(南)として区分
した。
 イタリア半島の心臓部であり、常に歴史の中
心を占めてきた重要な地域である。
 それだけにこの一帯のロマネスクは特異な個
性を持っており、古代ローマやビザンチンやノ
ルマンの影響を無視することはできない。
 
 
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アクアペンデンテ大聖堂
 Acquapendente/Cattedrale
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
   
 
 トスカーナ州のシエナからローマへと続くカ
ッシア街道
Via Cassia を行くと、ラッツィオ
州へ入って最初の集落がこの町である。
 この教会は、エルサレムから“キリスト聖墓
の血染めの石”が奉献されたということで、大
いに巡礼者を集めたとのことであった。

 教会の創建は12世紀とのことだが、現在の
ネオ・クラシック風のファサードからは全く想
像も出来ないほど改造されてしまっている。
 三廊式バシリカの平面プランに名残はあるも
のの、ロマネスクは微塵も感じられなかった。

 しかし、地下のクリプトに足を踏み入れた途
端に、階上の聖堂とは全く異質の空間、忘れる
ことの出来ない美の世界が展開したのだった。
 建築年代は9世紀とも10世紀とも言われる
のだが、天井のリブ交差穹窿からは12世紀頃
が想定される。或いは、天井だけが後世に修復
されたということも有り得るだろう。
 エンタシスの曲線を描く円柱、低い位置に彫
られた造形的な柱頭、そして豪放なリブによる
天井などが醸し出す建築美のハーモニーに、ク
リプト慣れしていたはずの私たちも、目からウ
ロコの思いを拭えなかったのである。
 人頭、牡牛、水牛、鳥に加え、正体不明の怪
獣など、好みの彫像を柱頭に探すのは楽しい。
 クリプトに
Cappella del Santo Sepolcro
聖墓礼拝堂
が在ったが、石は確認出来なかった。
 
 
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ヴィテルボ大聖堂
  Viterbo/Cattedrale
     di San Lorenzo
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
   
 
 イタリアの古い街歩きを目的にこの町を訪ね
たのは、何と1977年の暮れのことだった。
当時はロマネスクの知識など皆無で、ルネサン
ス絵画とゴシック建築に目が向いていたのだっ
た。
 この町にロマネスク様式の教会が、少なくと
も8箇所は残っている、ということを知ったの
は近年の事である。

 今回最初に訪ねたのが、初めての旅で来た思
い出深い歴代教皇の館
Palazzo dei Papi だっ
た。13世紀半ばのゴシック建築で、当時は感
動したものだった。今回はそれ程の感銘を受け
なかったのは何故だろう。
 教皇館に隣接して、14世紀の鐘塔とこの大
聖堂が建っているのだが、こちらの思い出は不
思議な程残っていない。
 建立は12世紀で、数々の修復を経て今日の
姿となっている。ファサードは16世紀にルネ
サンス様式に改造されたが、三廊式バシリカ聖
堂は堂々たるもので、同じロマネスクのアーケ
ードでもいかにもローマの伝統を感じさせる整
然とした美しさを示している。
 写真で見る通り、コズマーティの工匠達によ
る床面装飾が見事だった。歩くのが申し訳ない
ほどに感じられた。
 ロマネスク建築としてはかなり改造が顕著で
記載を躊躇したのだが、私的なセンチメンタル
・ジャーニーの余興として御容赦頂きたい。
 
 
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ヴィテルボ
   聖マリア・ヌオーヴァ教会

  Viterbo/Chiesa
    di Santa Maria Nuova
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
   
 
 この町最古の教会で、11世紀に建てられた
という。大聖堂の東の街並に隠れるように建っ
ている。ファサードには、単純な半円アーチの
扉口が設けられているだけだった。

 三廊式バシリカ建築の聖堂は、間口から想像
したより奥行きがあり、思ったより規模の大き
なものだった。左右六本づつの列柱には、古典
的なコリント式柱頭が彫られている。
 半円形の三後陣が、いかにも古いロマネスク
の原形を示しているようだ。

 三後陣を眺めるために聖堂裏手に回ると、そ
こには別の入口があり、入場料が必要なのであ
った。実は、そこが本来の目的で、入口の看板
には「
Chiostro Longobarda ランゴバルドの
回廊
と記されている。
 聖堂の南側に隣接された回廊で、ランゴバル
ド時代の作とすれば6~8世紀に建造されたも
の、ということになる。案内の人との乏しい会
話では、近年発見されたものだそうだが事の詳
細は判らない。詳しく調べる必要がある。
 回廊の四方の内、聖堂に接した北側回廊のみ
が残されており、ロマネスクとしてもかなり古
い時代のものと言えそうだ。素朴な柱頭や華奢
な柱礎が気になる美しさである。
 
 
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ヴィテルボ聖シスト教会
 Viterbo/Chiesa di San Sisto    
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
 
 
 先述の聖マリア教会から真東へ行った、ロマ
ーナ門のすぐ内側に建っている。
 城壁と一体化して後陣と大鐘塔が建ち、聖堂
は斜面に沿って長く延びている。
 写真は、三廊式の身廊から祭室を眺めたもの
である。創建は、後陣部分が9世紀、更に12
世紀に聖堂の原形が出来たという。
 聖堂内に長い石段が在るのは斜面に建てられ
ているからなのだが、とてもユニークだ。
 ここでも身廊のアーケードはローマ風のバシ
リカ建築になっており、古典的な柱頭彫刻が施
されている。祭室の二重凱旋門が珍しい。
 
 
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ヴィテルボ聖ジョヴァンニ・
     イン・ゾッコリ教会

  Viterbo/Chiesa di
    San Giovanni in Zoccoli
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
 
 
 先述の聖シスト教会から、城壁に沿って北へ
歩くと、次のヴェリータ門の近くの広場でこの
教会に出会う。
 11世紀創建だが、大戦後に再建されたもの
だという。
 ファサードには半円アーチの扉口と、上部に
バラ窓が設けられている。修復を物語る二本の
アーチが対面する建物との間に構築されている
のが珍しい。
 扉口は新しそうだが、バラ窓の四隅に四福音
書家のシンボルと二羽の鷲が彫られている。
 三廊式バシリカ聖堂で、身廊のアーケードは
円形の柱頭を載せた円柱で構成されている。
 写真は、三つの半円形後陣が様になっている
が、聖堂背後からのものである。   
 
 
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トゥスカニア聖マリア・
     マッジョーレ教会

  Tuscania/Chiesa di
    Santa Maria Maggiore
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
   
 
 ローマの北、ヴィテルボの町から北西に25
キロ走ると、城壁に囲まれたこの小さな町に着
く。かつてはエトルリアの都市として栄えた場
所であり、周辺にはタルキニア
Tarquinia
どの古代死者の町の遺跡が多い。
 城壁の南側は小高い丘になっており、そこに
二つのロマネスク教会が建っている。一つはフ
レスコ画の残る聖ピエトロ教会
San Pietro
あり、もう一つが写真の聖マリア・マジョーレ
教会である。
 正面には三つの扉口があるのだが、写真には
その中央と左側の扉口が写っている。中央タン
パンには聖母子とエジプト逃避が、両側のタン
パンには不思議な怪獣のような図像が彫られて
いた。
 バラ窓やレリーフ、小開廊などが意匠された
ファサードには、ロマネスクだけでも色々な年
代が複雑に詰まっているように見える。
 聖堂は三廊式で、アーチ列柱が作り出す内陣
のハーモニーは美しい。フレスコ画の大半は後
世のものだろう。
   
 この日はトゥスカニアの町の
Al Gallo とい
う小ぎれいなオーベルジュに泊まり、主人自慢
の料理とワインを楽しんだ。
 
 
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トゥスカニア聖ピエトロ教会
  Tuscania/
    Chiesa di San Pietro
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
 
 
 町外れの小高い丘の上に建っており、そこは
かつてエトルスキ人のアクロポリス跡だったら
しい。
 四福音書家の象徴で四隅を囲まれたバラ窓を
中心としたファサードは、とても繊細な彫刻で
飾られている。エトルリアの影響を受けたよう
な妙な図像も見られて、なかなか興味深い。
 13世紀初頭の作で、前述の聖マリアのファ
サードには、大きな影響を与えたようだ。
 聖堂は、11世紀の堂々たる三廊式バジリカ
で、側廊を仕切る連続アーケードや身廊のモザ
イク床は、創建当初の壮麗さを今日まで伝えて
いる。
 中央にのみ半円形の後陣が設けられており、
その内壁には聖ペテロの逸話などを描いた創建
時のフレスコ画が残っている。
 クリプタ(地下聖堂)は28本の小円柱が林
立する異次元空間で、さながら夢幻の世界へと
迷い込んだような気分にさせてくれる。
 
 
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タルキニア聖マリア・
    ディ・カステッロ教会

  Tarquinia/Chiesa di
    Santa Maria di Castello
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
   
 
 古代エトルリア時代の町であったチェルヴェ
テリ
Cervèteri と共に、エトルリアの地下墳
墓群(死者の町)があることで知られる。
 墓の壁画を丹念に見学し、町の博物館を訪ね
た後に、私達は町の西北に設けられたカステッ
ロ地区の城跡へと入り、城壁に沿って建つこの
教会へとたどりついた。

 城門を入ると直ぐに正面のファサードが見え
る。聖堂の左には、窓一つない素朴な方形の鐘
塔が聳えている。
 付け柱で三分割されたファサードには、三つ
の扉口が設けられている。特に中央の扉口には
二重のヴシュールが造られ、コズマーティの装
飾が施されている。13世紀初頭に奉献された
聖堂に相応しいプロローグである。
 三廊式バシリカ建築で、身廊の柱は角柱と円
柱を組み合わせた片側九本づつの束ね柱が並ぶ
力強い構成になっている。天井は中央の円蓋部
分を除き、全て交差リブヴォールトで構築され
ている。半円横断アーチは四つで、五つの梁間
(ベイ)を創出している。イタリアでは、石造
の天井に巡り会うと嬉しいものである。
 祭室・後陣部分は後世の手が入っているが、
ロマネスクの様式と雰囲気は守られている。
 身廊は勿論、側廊や祭室の床に施されたコズ
マーティ工房のモザイクは特筆に値する。
 
 
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タルキニア聖マルティーノ教会
   Tarquinia/
    Chiesa di San Martino
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
 
 
 城跡から城壁に沿って東へと歩いて行くと、
集落の家並の中にこの教会の後陣が見える。半
円形の頭部が丸い帽子を載せたような形で、シ
チリアなどで見られるアラブ・ノルマン様式に
似てとても興味深かった。三後陣の南側部分は
失われているので、二後陣のように見える。
 写真は、三廊式の中央部分だが、素朴な列柱
とアーケード、半円筒ヴォールトの天井と質素
な祭室などが、愛おしくなるほどのスケールで
あることに感動した。
 正面扉口のアーチにも、白黒交互のアラブ風
縞模様が意匠されている。
 
 
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ネーピ大聖堂
   Nepi/Duomo
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
   
 
 ヴィテルボの南東35キロにある、エトルリ
ア時代から開けた古い町である。カッシア街道
Via Cassia から少し東へ入った所にある。

 町の中心、賑やかな商店の並ぶ繁華街に近い
場所に、この教会が建っている。
 三連アーチの玄関間が設けられており、いか
にもロマネスクらしい雰囲気だった。しかし、
内と外では別世界、聖堂は近世にネオ・クラシ
ック風に再建されており、壁面や天井の全てが
ルネサンス風のフレスコ画で覆われている。

 だが、諦めてはならない。正面の祭壇下に、
12世紀時代の生き残りクリプトがしっかりと
生きているのである。
 写真はその約半の部分を写している。横長な
地下祭室には、奧行の三列に各八本づつ、合計
24本の円柱が林立している。古代ローマの大
理石円柱が再利用されたりもしているようだ。
 柱頭には、得体の知れぬ怪獣や植物模様など
も見られ、36個のベイから成る天井の交差ヴ
ォールトの複雑な構造と共に謎めいて見える。
 それにしても、このクリプトの円柱の密集具
合は尋常ではない。かつてコルドヴァのメスキ
ータで見た様な、森を想起させる不思議さだ。
 力学的に荷重を支えるのに必要なのか、それ
とも24人の長老を象徴しているのだろうか。
 
 
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カステル・サンテリア
     聖エリア聖堂

  Castel Sant'Elia/
    Basilica di Sant'Elia
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
 
 
 ネーピの町から川沿いに走り、細い山道を谷
底に向かって下っていく。行き止まりの地点、
断崖に囲まれたこの聖堂が孤高な姿を見せる。
 三つの扉口それぞれに、何とも精緻で上品な
レリーフが施されている。網目や組紐、連続す
る葡萄の蔓と葉。特に左扉口の孔雀像などは、
丸でランゴバルドの遺構のようにも見えたのだ
った。
 堂内の壁面に描かれたフレスコ画で知られた
教会で、12世紀ビザンチンの落ち着いた画風
である。
 写真は正面祭室部分で、色彩が鮮やかに残っ
ている。この右側の翼廊壁面にも、四段に様々
な場面が描かれている。  
 
 
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チヴィタ・カステッラーナ
    大聖堂

    Civita Castellana/Duomo
   di Santa Maria Maggiore
    
    1 Viterbo (Lazio)     

   
          
 
   
 
 先述のネーピから東北へ17キロ、Tevere
テヴェレの支流に沿った断崖の上に開けた町を
訪ねた。町名の由来となった城塞
Rocca が丘
の上に聳えている。   

 大聖堂は町の西南端、断崖に面した段丘の上
に建っている。正面のファサードは実に個性的
で、聖堂の前面に円柱の並ぶ柱廊が設けられて
いる。柱廊の梁部分や聖堂扉口の柱やアーチに
は、コズマティ一族の手になる大理石モザイク
装飾が施されている。

 聖堂内部は全くのバロック様式だが、床面に
もコズマティ風のモザイクが残されていた。
 写真は、柱廊や鐘塔と共に、13世紀初頭の
創建時を伝える地下のクリプタである。
 大きな祭室と両脇の小さな祭室が設けられた
横長のクリプタで、中央の柱横一列には八本の
円柱が立っており、ネーピ大聖堂のクリプタに
とても似ていると思われた。ここには変則的な
31個のベイがあるが、林立する円柱と天井の
交差穹窿とが造り出す空間は、やはり何処か異
様に感じられてしまう。
 聖堂の創建時を物語ると同時に、地下の墓所
としての意味合いもあり、格別の聖なる場所と
して流れる空気の重さが違うのだろうか。
 それにしても、イタリアではクリプタの数が
多いことに驚いた。  
 
 
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ローマ聖クレメンテ教会
   Roma/Chiesa
     di San Clemente
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
  
 
 この教会は、有名な観光地コロッセオから真
東に500mほど歩いた所、規模は小さくはな
いが町並みの中に隠れる様にして建っていた。
 創建は3世紀とも言われるが、現在の建築は
12世紀に再建された三廊式のバシリカ聖堂で
ある。
 身廊の壁面や内陣は、写真の如く壮麗なモザ
イクやフレスコ画で装飾されているのだが、聖
堂の外観の質素な佇まいからは全く想像すら出
来ないほどの別世界だった。

 写真の正面、後陣の天井半ドーム部分は「十
字架の勝利」と呼ばれる12世紀前半のモザイ
クで装飾されている。十字架の根元から枝葉が
伸び、無数の茎の渦となり、その中に花を咲か
せるという象徴的な図像である。
 モザイクの下部壁面に描かれた聖人像は、ほ
とんど14世紀のフレスコ画である。
 教会正面には聖堂と隣接して、回廊のような
アトリウムが設けられている。この部分は12
世紀半ばの建築らしい。

 紀元前からの古代遺跡が残るローマにあって
は、この教会の床面の装飾や聖歌隊席も12世
紀ロマネスク時代のものだと聞くと、何故か有
り難く感じられたり、随分と新しいものなんだ
と感じたりしてしまうのは妙なものである。
 
 
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ローマ聖マリア・
   イン・トラステヴェレ教会

 Roma/Chiesa di Santa Maria
     in Trastevere
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
   
 
 テヴェレ川対岸の円形に湾曲するトラステヴ
ェレ地区は商店の立ち並ぶ下町で、噴水の有る
賑やかな広場に面して建つこの教会の正面柱廊
や、ロマネスク様式の鐘楼が一幅の絵となって
いる。
 聖堂は三廊式バシリカ形式だが、建物の周囲
に後世の建造物が付随してしまったために、外
観だけでは明確に掴み取れないだろう。
 身廊の列柱はイオニア式の柱頭を持つ古式な
円柱で、アーケードではなく横石を載せたまぐ
さ式の構造になっている。
 創建は4世紀だが、現在の建築は12世紀前
半に再建されたものが基礎になっている。

 写真は中央後陣の半ドームに描かれたモザイ
ク画で、キリストとマリアを中心とした聖人像
が描かれている。
 金色が燦然と輝くモザイクは、ロマネスクと
いうイメージとはどうしても結びつかないのだ
が、時代としては明らかに東方からの影響を受
けたロマネスクなのである。
   
 ここからトラステヴェレの市街を抜け、ロー
マを一望できるジャニコロの丘へと登る散歩は
楽しい。
    
 
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ローマ聖チェチリア・
   イン・トラステヴェーレ教会

  Roma/Chiesa di Santa 
    Cecilia in Trastevere
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
 
 
 前述の聖マリア教会から東南方向へ歩くと、
テヴェレ川が湾曲する手前にこの教会が建って
いる。9世紀創建になるが、ファサードと鐘塔
は12世紀ロマネスク時代のものだ。
 写真は、聖堂後陣の半円ドームに施された9
世紀のモザイク画である。ビザンチンの色彩が
濃い。巻物を手に祝福するキリストを中心に、
左にパウロ、右にペテロを従え、聖人達が並ん
でいる。ラヴェンナなどで見る図像にとてもよ
く似ている。
 左から二番目の戴冠する女性が、この教会に
祀られた聖チェチリアである。
 十二頭の羊は、中心の神の羊に従う十二使徒
を象徴する。    
   
 
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ローマ聖ロレンツォ・
    フオーリ・レ・ムーラ聖堂

  Roma/Basilica di San
    Lorenzo fuori le Mura
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
   
 
 ローマ旧市街を囲む城壁の東側、終着駅に近
いロレンツォ門を出てしばらく歩くと、ローマ
七大聖堂の一つであるこの教会に到着する。
 ローマ式の柱廊の付いたファサードと、左奥
に明らかにロマネスク様式と判る鐘塔が建って
いるのが見える。

 ローマのロマネスク教会は、それ以前に創建
された古い歴史を持つ建築が大半で、ロマネス
クの時代に改築されたケースが大半である。
 この聖堂も創建は4世紀とのことで、その後
様々な増改築を繰り返してきたらしい。現在見
られる建築は、第二次大戦の空襲後に13世紀
当時の姿に復元されたものである。

 コズマーティ様式の床面が美しい三廊式の身
廊はアーケードではなく“まぐさ式”の構造に
なっている。円柱は古代ローマそのまま、とい
った印象を受ける。
 身廊左右に設けられた説教壇にも、コズマー
ティのモザイク装飾が成されている。
 最奥の祭室部分は二重構造になっており、勝
利門の表面は新しいフレスコだが、アーチの内
側と裏面に6世紀のモザイクが残っている。キ
リストと聖人像が描かれている。
 中央に置かれた天蓋
Ciborium は12世紀
の作で、司教座には見事なモザイク装飾、地下
のクリプト、12世紀末の回廊など見所が多く
時間がいくらあっても足らない思いだった。
 
 
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ローマ聖ジョヴァンニ・ア・
    ポルタ・ラティーナ教会

 Roma/Chiesa di San
   Giovanni a Porta Latina
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
 
 
 城壁の東南端にあるラティーナ門近くに建つ
教会で、一般的にはほとんど知られていないの
だが、アッピア街道近くの旧道の雰囲気を伝え
ていて魅力的だ。
 5世紀創建の教会で、鐘塔と共に12世紀の
フレスコ画が保存されている。
 写真は中央祭室壁面に描かれたもので、三連
窓の両脇には“カインとアベル”の物語、下の
部分には天使達に囲まれた“栄光のキリスト”
像が描かれている。フランスの青派を思わせる
鮮やかなブルーの色彩と、ローマ伝統のような
端正なデッサンに感銘を受けた。
 “原罪”や“アダムの創造”など、多くのフ
レスコ画が残されている。
 
 
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ローマ聖ジョヴァンニ・
   イン・ラテラーノ大聖堂

  Roma/Basilica di San
    Giovanni in Laterano
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
 
 
 ゾディアック叢書のローマ編、ロマネスク教
会リストに掲載されていたこの教会の正面に立
ってつぶさに眺めてみたが、この建築の一体ど
こがロマネスクなんだろうと考えてしまった。
 創建は3~4世紀だが、現在の建築は実際に
は、ファサードは18世紀、聖堂は17世紀と
のことで戸惑ってしまったのである。
 しかし、案内書を良く見れば、13世紀初頭
の回廊が、聖堂の奥に隣接されているという。
 ローマの町の中に、こうした雰囲気の回廊が
存在したとは知らなかった。
 二本の柱が対になったアーケードで囲まれ、
従来は柱の表面がモザイクやフリーズで装飾さ
れていたらしい。現在は部分的に残っているだ
けだが、ねじれた意匠もユニークで、全体がこ
うしたデザインで統一されていたとしたら、当
時はかなりモダンだったんだろうなあ、としば
し空想に耽ってしまった。
 
 
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ローマ聖パオロ・
   フオーリ・レ・ムーラ大聖堂

  Roma/Basilica di San
     Paolo Fuori le Mura
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
  
 
 聖パウロの遺骸が埋葬されていた場所で、4
世紀に創建された教会だが何度も再建されてお
り、現在の建物は19世紀のものである。
 正面右の扉口に設けられた扉は、歴代教皇の
肖像が彫られた青銅製のもので、これは貴重な
11世紀の頃の扉そのままであった。
 サン・ピエトロ寺院に次ぐと言われる、壮大
な聖堂の規模には驚嘆するが、どうにも好きに
はなれそうにない。
 祭壇に置かれた復活祭の燭台は、びっしりと
彫刻が施された12世紀の傑作だった。
 しかしここでも、隣接する回廊が12世紀初
めの建築で、ここだけがロマネスク的な雰囲気
が感じられる唯一無二の場所だったのである。
 アーケードの形式は、二本対の柱やアーチ上
部のまぐさ装飾など、ねじれ柱は無いものの、
前述の聖ジョヴァンニにとてもよく似ていた。
 
 
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ティヴォリ
   
聖シルヴェストロ教会
 Tivoli/Chiesa di San Silvestro
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
   
 
 ローマ郊外のティヴォリは、16世紀の華麗
なエステ荘と、教皇グレゴリウスの別荘という
二つの庭園で知られる観光地である。
 ドゥオモの横を抜け、下町の露地を進むと、
そこはエステ荘の真裏に当るのだが、そこにロ
マネスクの壁画を残す小さな教会が在ることを
知る人は少ないだろう。
 ティヴォリに泊まった翌朝ここを訪れたのだ
が、ミサの準備をする司祭に運良く会え、扉を
開き快く撮影の承諾を頂いた。
 教会堂は単身廊のバジリカ形式で、外壁は粗
い石積みが魅力だったが、内部の壁や柱はすっ
かり塗り替えられており、ややがっかりした。
 しかし、写真の祭室に保存されているフレス
コ壁画は、鮮やかな色彩の図像が壁から天井ド
ームにまで描かれており、思いがけない収穫に
心が躍った。
 天井に栄光のキリスト像、その下に羊たちの
列、そして聖母子と聖人達の群像が、かなり剥
落した部分は目立つものの、見事なフレスコで
ある。
 全体的にブルーが格別美しかった。私達はこ
れをティヴォリアン・ブルーと名付けた。
 
 
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パロンバラ・サビーナ
   聖ジョヴァンニ・イン・
    アルジェンテッラ教会

  Palombara Sabina/Chiesa
    di San Giovanni
       in Argentella
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
 
 
 ティヴォリから真北に向かって車を約20キ
ロ走らせると、行く手にパロンバラの山上都市
が展開してくる。
 町の南側、谷を隔てたオリーブ林の中にこの
愛らしい聖堂がひっそりと建っている。
 写真で見る通り、三廊式だがとても清楚で引
き締まった無垢の美しさが感じられた。
 8世紀ランゴバルドの創建で、13世紀にベ
ネディクト派修道院教会として改築された。
 右手の奥にコズマーティ制作の聖像障壁があ
ったが、余り好きではなかった。
 聖堂背後から眺めた三後陣は、ローマのバシ
リカ慣れした目には新鮮な衝撃が感じられたの
だった。
 
 
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 スビアーコ
   聖ベネデット修道院

  Subiaco/Monastero
     di San Benedetto
    
    2 Roma (Lazio)     

   
          
 
   
 
 ティヴォリと次掲のアナーニとのほぼ中間に
当る、山深い谷間にこの町があり、修道院へは
さらに町から裏山へと登って行くことになる。
 手前に
Monastero di S.Scolastica 聖スコ
ラスティカ修道院が在り、11世紀の鐘楼と一
部にのみロマネスク様式が残されている。大半
はゴシックに改築されてしまった。
 ここから更に登ると、ようやくこの修道院の
入口にたどり着く。岩山にへばりついたような
聖堂で、写真は上部教会の入口だが、断崖に沿
って下部教会がずっと下まで続いている。
 幾つもの小さな聖堂は、岸壁をくり抜いた洞
窟で繋がっており、その全ての壁や天井にフレ
スコ壁画が描かれている。制作年代が13世紀
から16世紀までと、かなり幅が広い。いかに
も古そうなものを探して歩いたが、聖グレゴリ
オ礼拝堂の壁や天井に描かれていたものが、ど
うやら13世初頭の作品であるらしかった。
 孤高な修行のためとはいえ、何故こんな場所
にと思わざるを得ない絶壁の聖域である。
 
 
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アナーニ大聖堂
   Anagni/Cattedrale
    
    5 Frosinone (Lazio)     

   
          
 
     
 
 ローマからナポリ方面へ向かう高速道路を、
約100キロ進むとこの町の出口が有る。歴史
の深い由緒ある町で、歴代の教皇を何人も輩出
した場所でもある。
 谷を見下ろすことの出来る、一種の山岳都市
である。
 目的の大聖堂は、町の東端最も高い場所に建
っており、美しい後陣を眺めながら石段を登る
と、12世紀の荘重な鐘塔の在る聖堂の正面に
出る。
 三廊式の内陣建築や床のモザイクが見所だっ
たが、私達は地下のクリプト見学を優先した。
案内の人が付き撮影禁止なのだが、堂内は意外
に明るく、勿論ノーフラッシュのデジカメで一
枚撮ってしまったのがこの写真である。。
 クリプトも三廊式で小礼拝堂が付いており、
壁や天井には写真の通り、隙間無くフレスコ画
が描かれている。聖母子像やキリスト像を中心
にし、美しい装飾模様で飾られた空間は、未知
の天国を現出させたかの如く輝いて見えた。
 
 
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アルバ・フチェンス
   聖ピエトロ教会

  Alba Fucens/
    Chiesa di San Pietro
    
    1 L'Aquila (Abruzzo)  
    
              
   
 
 この町は古代ローマの遺跡で知られており、
ラクイラの南に聳えるヴェリー
Velino 山塊
の南麓に位置する眺望絶佳の場所である。
 広大な発掘現場を横に見ながら、牧草の茂る
丘を登って行くと、この簡素な教会堂が見えて
くる。
 管理人の説明では聖堂は12世紀に完成した
そうで、レリーフ彫刻に囲まれた正面扉口を入
ると、三廊式の身廊と側廊が目に入った。
 柱には縦縞が浮彫されたローマ式の円柱が用
いられており、どうやら遺跡の石材を再利用し
たものらしい。
 写真は身廊から左側廊を眺めたもので、手前
に美しい色大理石細工の模様が付いた説教壇が
据えられている。これまでも数々の事例を見て
きたが、全てコスマティと呼ばれる細工師のギ
ルドの手によるものである。
 身廊と内陣を区切る仕切板にも、同様の細工
が施されていた。
 管理人に御礼の気持ちで献金をしたのだが、
彼は私達が聖堂から出ると同時に扉口の鍵を閉
め、スタスタと丘を下って町唯一のバールへと
消えてしまった。生き神様への功徳だったか、
と思ったが、何故か別段悪い気はしなかった。
 
 
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ボミナーコ
   聖マリア・アスンタ・教会

  Bominaco/Chiesa
    di Santa Maria Assunta
    
    1 L'Aquila (Abruzzo)  
    
              
      
 
 ラクイラ L'Aquila 市の南東30キロに位置
する、人口300人という山間の小さな集落で
ある。だがこの町外れの高台に在る修道院の跡
地には、素晴らしい二つの教会が残されていた
のだった。
 一つはゴシックの聖ペッレグリーノ教会で、
13世紀ビザンチン様式のフレスコ画を保存し
ている。正面の柱廊が、とても印象的だった。
 写真は、隣接するもう一つの教会で、10世
紀末から11世紀初めの創建と伝えられる。
 写真で見る通り、三つの後陣を持つ三廊式バ
シリカ形式の聖堂で、下部にはほとんど窓の無
い石壁のみの構造体である。上部は後世の追補
で、明かり取りの窓が数箇所開けられている。
 後陣の窓の周囲に彫られたレリーフは、ライ
オンに蔓が絡まって連続する植物模様である。
 崖下から見上げた三つの半円形後陣は、いか
にもこの地方らしい、素朴で東方の香りのする
チャーミングな姿をしていた。
 内陣は思ったより狭い感じで、アーケードを
支える太い円柱が堂々としている様に見えた。
 見事なロマネスク彫刻の施された、大理石の
説教壇が据えられていた。この地方には類例が
とても多いのだが、正直を言うと余り感銘を受
けない。
 
 
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コルフィニオ聖ペリーノ聖堂
  Corfinio/Basilica
      di San Pelino
    
    1 L'Aquila (Abruzzo)  
    
              
 
 
 ペスカーラからの高速道路E80号線をプラ
トーラ・ペリーニャ
Pratola Peligna インタ
ーで降りてから、西へ5
キロ走った所にこの町
が在る。教会へは町を抜け、更に西へ2キロほ
ど行かなければならない。
 11世紀から12世紀にかけて建造された司
教座教会で、三廊式バシリカ建築である。写真
は南側面からの眺めで、右端が後陣で小礼拝堂
が側面に飛び出した変則形式が面白い。
 後陣の装飾は、繊細なレリーフや浮き出た列
柱アーケードなど、よく見ると実に手が込んで
いる。
 左端は別棟の
San Alessandro 聖アレッサ
ンド
教会で、後陣が写っている。ここは拝観禁
止になっていた。
 身廊は柱と壁が一体化したアーケードによっ
て、側廊が区切られるという簡素な構造になっ
ている。
 
 
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モスクーフォ
   
聖マリア・デル・ラーゴ教会
  Moscufo/Chiesa
    di Santa Maria del Lago
    
    3 Pescara (Abruzzo)  
    
              
 
 
 この寒村に行くには、ペスカーラの西郊外に
位置するピアネッラ
Pianella という丘の上の
町から、更に数キロ行かねばならない。
 教会の場所は直ぐ判ったのだが、扉口の鍵が
閉まって開かなかった。墓参りの婦人に尋ね、
墓地の向こうに住んで鍵を管理している尼僧に
頼んで、ようやく内陣に入ることが出来た。
 写真で見る通り、三廊式バシリカ形式の聖堂
である。小規模な建築の割りに、太い柱と豪快
なアーチが重厚な空間を創出していた。12世
紀の創建であり、まだ荒削りな素朴さが残って
いたのだろう。
 身廊の右側に置かれた説教壇はこの地方には
類例が多く、ここのものは12世紀の作品らし
い。壇周囲の浮彫彫刻は見事で、聖ゲオルグの
龍退治の場面はかなりの傑作だろう。
 扉口の装飾アーチや、後陣の窓枠を飾るメダ
イオン模様のレリーフがとても美しかった。
 
 
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セッラモナチェスカ
    
聖リベラトーレ・
     ア・マイエッラ教会

  Serramonacesca/Chiesa di
   San Liberatore a Maiella
    
    3 Pescara (Abruzzo)  
    
              
   
 
 ペスカーラの南、アレント Alento の谷に
面した寒村で、マイエッラ山塊の中腹に位置し
ている。教会は、町から更に谷に沿って山の中
へ入った場所に建っており、そこは森厳なる聖
地となっていた。
 深い森を背景にして静かに建つ白亜の鐘楼や
聖堂は、訪ねる者の胸を必ずや打つほど鮮やか
な印象を与えてくれるはずである。
 11世紀初めに創建された修道院の一部で、
聖堂は、三つの半円後陣と三つの正面扉口を持
つ、三廊式バシリカ形式の建築である。
 各々の扉口には、タンパン彫刻は無いが、二
重のヴシュールとまぐさ石、左右の柱などに、
精密な植物模様やライオンなどの動物が彫り込
まれている。
 ファサードはロンバルディア様式の影響を受
けており、またプーリア地方のロマネスクに影
響を与えたのではないか、と思えるほどプリミ
ティヴな美しさを見せている。
 身廊では結婚式の準備が行われていたが、が
らんとした印象で、生きた教会としては使用さ
れていないのかもしれない。
 小さな柱頭しか無い角柱のアーケードで、規
模の割にはとても簡素な印象を受ける。
 ここでも、見事な装飾彫刻が施された説教壇
が、とてもエレガントな存在となっている。
 
 
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トッレ・デ・パッセリ
    聖クレメンテ・
     ア・カサウリア大修道院

  Torre de' Passeri/Abbaziale
      di San Clemente
        a Casàuria
    
    3 Pescara (Abruzzo)  
    
              
   
 
 ペスカーラからローマへと通じる高速道路E
80号線を走り、カサウリア-トッレ・デ・パ
ッセリの出口を降りると、直ぐ右手にこの修道
院の敷地が広がっている。
 見所は付属教会であり、特に写真の扉口のあ
るファサードは注目に値する。9世紀の創建だ
が、教会やファサードは12世紀再建時のもの
だろう。
 三廊式十字形のプランで、後陣は一つ、扉口
は三つ、正面手前に三つのアーケードの有る柱
廊が付いている。
 写真の門は中央扉口で、青銅の扉も含め、全
体が12世紀最後の作品である。
 殉教した教皇クレメンスの遺骨を運んで、ル
ードヴィッヒ皇帝が創建したと言われ、ここに
はその逸話が彫られているそうなのだが、詳細
なストーリーは解らない。
 右側扉口のタンパンには聖母子像、左側には
聖ミカエルの像が彫られていた。
 内陣の列柱は太い角柱なので、荘厳な雰囲気
を創り出している。
 地下の祭室は低い交差穹窿の天井と、柱頭の
無い短い円柱で構成された美しい空間だった。
 
 
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テルモリ大聖堂
  Tèrmoli/Duomo
    
    1 Campobasso (Molise) 
    
              
   
 
 アドリア海に沿ってペスカラから南東に下る
と、小さな州モリーゼの港町テルモリに着く。
こじんまりとして風情に満ちた旧港に接して、
突き出した岬は城壁で囲まれており、その内側
が旧市街となっている。
 迷路のように狭く曲がりくねった石畳の街路
を進むと、小さな広場に出る。そこに12世紀
創建の大聖堂が建っており、写真は広場から教
会正面を写したものである。
 説明書によると、ファサードはピサ・プーリ
ア様式とのことで、確かに盲アーケードの中に
付け柱や二連窓が造られている。
 タンパンには四人の人物像が彫って有ったら
しいのだが、ほとんどが破壊されて判別できな
かった。
 左端のアーチ窓の中にだけ二体の像が彫られ
ており、これはどうやら受胎告知らしい。
 聖堂は小さいながらも三廊式バシリカで、三
つの後陣を有している。列柱は柱頭の無い角柱
で、両側に三本づつ並んでいる。
 祭壇はかなり高い位置に在り、身廊から祭壇
へは十段の石段を登らねばならない。祭壇の下
はクリプタになっていたが、閉鎖されて見学は
出来なかった。
 
 
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ペトレッラ・ティフェルニーナ
   
 聖ジョルジオ教会
  Petrella Tifernina/
    Chiesa di San Giorgio
    
    1 Campobasso (Molise) 
    
              
 
 
 州都カンポバッソ Campobasso から北方
へ20キロの山間の町で、石畳の美しい中世そ
のままの集落である。
 町の最上部にある小さな広場に面して、12
世紀に創建された教区教会が建っていた。
 扉口は一つだが、三つの後陣を持つ三廊式の
聖堂である。
 写真は西正面入口タンパンの彫刻で、まるで
近代絵画を観るような自由な発想が表現されて
いる。
 人間を喰う動物二匹、大蛇、十字架を負う羊
などが彫られている。救済を暗示すると思われ
るが、不思議な図像である。
 扉口は北と南にも有り、同じような意匠の動
物像が彫られているが、表現力はやや劣ってい
るようだ。
 堂内の柱頭彫刻や壁面のレリーフには、卓越
した意匠の様々な彫刻を見ることが出来た。ロ
マネスク的な不思議な図像も魅力である。
 
 
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サンタンジェロ・イン・
  フォルミス
聖ミケーレ・
     アルカンジェロ教会

  Sant'Angelo in Formis/
    Chiesa di San Michele
       Archangelo
    
    1 Caserta (Campania)
    
              
 
 
 カセルタの北西約10キロに位置するこの教
会へは、1985年の年末にシシリーへ向かう
途中で立ち寄ったことがあったが、その時は全
くの修復中で何も見る事が出来なかった。
 修復成った今回は心行くまで、フレスコ画の
魅力を堪能することが出来た。
 聖堂は三つの後陣のある三廊式バシリカで、
柱廊の付いたファサードには扉口が一つ開いて
いた。
 写真は側廊から扉口方向を眺めたものだが、
御覧のように四方の壁一面にフレスコ画が描か
れている。  
 正面の半ドームには四福音書家のシンボルに
囲まれた玉座のキリスト像、左右の壁には主に
キリストの奇跡の物語を中心とした、新約聖書
のエピソードが描かれている。ほとんどが11
世紀ロマネスク期の作品である
 デッサンや構成は稚拙だが、統一された色彩
や密度の濃い表現が、我々を異次元の世界へと
誘導してくれる。
 
 
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カセルタ・ヴェッキア大聖堂
  Caserta Vécchia/Duomo
    
    1 Caserta (Campania)
    
              
 
 
 ナポリ王国の宮殿や庭園が世界遺産に指定さ
れたカセルタの町に3泊し、そこを基地にして
カンパーニャのロマネスクを巡った。
 このカセルタの旧市街は、10キロ北に離れ
た山の上に残っている。古色蒼然たる家並の雰
囲気は格別で、町歩きが大きな魅力である。
 教会は12世紀初めの三廊式十字形で、三つ
の扉口と三つの後陣、十字交差部の八角ドーム
塔、ファサード右の方形鐘楼などが、主要な建
築となっている。   
 二つの塔の外観は見るからにノルマン的な装
飾だが、アラブ的な交差アーチの意匠も見るこ
とが出来る。
 写真は、祭壇の端から、身廊を扉口の方へ向
かって振り向いたところである。やや繊細かと
思われる列柱と、小さな幅のアーケードが整然
と美しい。
 カセルタを訪ねる観光客は多いが、ここまで
足を延ばす人はほとんど無く、静かで落ち着い
た別天地だった。 
 
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サンタガタ・デイ・ゴティ大聖堂
  Sant'Agata dei Goti/Duomo
    
    2 Benevento (Campania)
    
              
     
 
 カセルタの東20キロに在る谷間の町で、川
に沿って古い町並みが続いている。
 ここには二つの重要なロマネスク教会が在る
のだが、舗床のモザイクが美しい
San Menna
聖メンナ教会は、残念ながら閉まったままで見
る事が出来なかった。
 こちらの大聖堂は開扉を散々待たされたが、
粘り勝ちで何とか入ることが出来た。
 聖堂は近年の改修になるものだったが、目的
は祭壇下のクリプタ(地下礼拝堂)である。
 横長の狭い空間に三つの半円形祭室が在り、
10本の円柱が2列に並んでいる。写真はその
内の一本の柱頭で、ロマネスクとしての魅力的
なモチーフである。
 低い天井は交差穹窿で、暗闇に円柱の林が浮
き出る様は誠に美しい。
 
 
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アマルフィ聖アンドレア大聖堂
 Amalfi/Duomo di Sant'Andrea
    
    5 Salerno (Campania)
    
              
  
 
 紺碧の海に面した風光明媚な景勝の地で、海
運都市としても古くから開けていた。
 大聖堂は9世紀の創建で、以後各時代に様々
な修復が行われたらしい。使徒聖アンデレの聖
遺物が納められている事で良く知られている。

 幅の広い階段の上に柱廊が設けられており、
その向こうにノルマンやアラブの影響の色濃い
聖堂が堂々と聳えている。
 聖堂にはかなり修復の手が入っており、列柱
の一部や説教壇などが12世紀のものらしい。
 写真には写っていないが、創建当初の鐘楼が
左側に建っており、シシリー島のモンレアーレ
に似た意匠が見られた。

 有名な天国の回廊は13世紀中頃の建造で、
かなりゴシック的なのだが、二本対になった白
亜の列柱と交差穹窿はロマネスク的であり、交
差するアラブ風の装飾アーチとの均整の取れた
意匠はモダンでとても素晴らしい。
 
 
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カヴァ・デ・ティッレーニ
   三位一体ベネデッティーナ
       修道院

  Cava de' Tirreni/
     Abbazia Benedettina
      Santissima Trinità
    
    5 Salerno (Campania)
    
              
 
 
 サレルノからナポリへと向かって約10キロ
行ったところにこの町が在り、町の西南端の深
い谷底にこの修道院が建っている。
 修道院入口のファサードは完全なバロック様
式で、付属教会にもルネサンスかバロック様式
が目に付いた。
 目的のロマネスク回廊はガイドが付いたツア
ー見学になっており、英語の堪能な婦人が案内
をしてくれた。
 岸壁を刳り抜いて作った回廊や、複雑な構造
のクリプタなどを巡るツアーである。
 写真は回廊部分で、派手な装飾や立派な柱頭
彫刻は見られないが、瞑想に相応しい静寂のみ
の孤高な空間が創出されていた。
 写真撮影禁止となっていたが、案内の婦人は
ウィンクをしてから、後ろを向いていてくれて
いたのだった。
 
 
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サレルノ大聖堂
   Salerno/Duomo
    
    5 Salerno (Campania)
    
              
   
 
 サレルノの町に3泊したので、ロマネスクだ
けでなくパエストゥムのギリシャ遺跡などもゆ
っくりと観ることが出来た。中でも、サレルノ
の旧市街は古びた家並みが魅力で、散歩する楽
しみが増幅されてしまう。   
 聖マタイの遺体が地下に眠っているという大
聖堂は、そんな旧市街の真ん中に建っていた。
 11世紀末の創建で、門を入ると直ぐに写真
のアトリウムに出る。全体的にノルマンの影響
が強く、12世紀の鐘楼はアマルフィの塔に類
似している。
 列柱には古代ローマの円柱なども使われてお
り、多彩色の石が積まれた、まことにエキゾテ
ィックな空間だった。
 聖堂は三廊式だが完全にバロックに改修され
ており、ちょっとがっかりだったが、正面扉口
のレリーフや堂内に置かれたモザイクの美しい
二つの朗読台は12世紀のものだそうである。
 地下のクリプタは進入禁止で、残念ながら聖
マタイの墓へ詣でることは出来なかった。
 
 
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