イタリア南部の ロマネスク |
プーリアからシチリア島まで |
Puglia/Basilicata/ Calabria/Sicilia |
イタリア南部の州と州都 1 Puglia (Bari) 2 Basilicata (Potenza) 3 Calabria (Catanzaro) 4 Sicilia (Palermo) |
Colonna Romana Brindisi (Puglia) ローマからのアッピア街道の終点を示す ブリンディジの円柱は、アドリア海に向かって立っ ている。 |
このイタリア南部という区分も当方の勝手な 設定であり、イタリア半島の長靴の靴底部分と シチリア島で構成されている、と御理解いただ きたい。 地理的にも地中海を通じてギリシャやオリエ ントと結ばれており、古代よりその影響を大き く受けていた。 ギリシャの植民地であった古代都市遺跡も数 多く残っており、またビザンチンの影響色濃い ロマネスク聖堂もあって興味深い旅が約束され る地方である。 シチリアはもっと複雑で、ビザンチンに加え てアラブやノルマン様式が混淆した、独自のロ マネスクを見ることが出来る。 |
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トロイア/大聖堂 Troia / Duomo |
1 Puglia |
トロイアはフォッジア Foggia の西南17 キロに在って、車で走ると平原の向こうに忽然 と現れてくる丘の上の町という印象が強烈だ。 狭いが美しい広場に面して、アプーリア・ロ マネスク様式と呼ばれるファサードの見事な聖 堂が建っていた。 11世紀から13世紀にかけて建造された、 と伝えられている。 連続する小アーケード、扉口の精緻な彫刻と ビザンチン様式の青銅の扉、上部のバラ窓等が 整然と配されており、しかも装飾過多を感じさ せない。 聖堂は三廊式バジリカ形式で、古風な植物模 様の柱頭のある列柱で側廊を仕切っている。 一見すると十字形の聖堂のように見えるが、 袖廊のように見える部分は後補された鐘塔と礼 拝堂だろう。 向かって左側壁に小さな扉口があり、二人の 天使とキリストの姿が、タンパンに彫られてい る。 |
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モンテ・サンタンジェロ/ ロターリ廟墓 Monte Sant'Angelo/ Tomba di Rotari |
1 Puglia |
アドリア海に突き出したガルガーノ岬に聳え るこの山は、長い間私の憧れの場所だった。そ れはここが、大天使ミカエルが三度も顕現した 聖域であったからである。 もっとも現在は巡礼の聖地であると同時に、 一大観光地ともなっていた。 聖ミカエルが出現した洞窟に建てられたサン ・ミケーレ教会に詣でた後、すぐ近くのロンゴ バルド王ロターリの廟墓と伝えられる礼拝堂を 訪ねた。 廟は遺跡となった聖ピエトロ教会の後陣部分 で、写真はその入口上部に残された彫刻群であ る。 下段は、キリストが捕縛される場面で、十字 架がすでに用意されている。 上段は、十字架からキリストが下ろされる場 面だが、釘を抜いている婦人は誰なんだろう。 さらに、墓を訪ねる婦人達や、キリスト復活の 場面が彫られている。 残念ながら、内部は修復工事中で立ち入るこ とが出来なかった。 |
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マンフレドニア/ 聖マリア・ディ・シポント教会 Manfredónia/Chiesa di Santa Maria di Siponto |
1 Puglia |
シポントは、サンタンジェロ山麓の町マンフ レドニアの西郊外に当たる、古い遺跡の残る一 帯である。 ここには二つの重要な教会が有って、町に近 い方がこの聖マリア教会である。 聖堂は11世紀のロマネスク建築で、正方形 のプランや中央のクーポラなど、明らかにビザ ンチンからの影響を見ることが出来る。 古色蒼然とした佇まいが気に入ったのだが、 しっかりとした管理人がいて、内部を撮影出来 ないのが残念だった。 写真は後陣で、小さな祭室と左右二つづつの アーケードが意匠されており、単純ながら軽快 な美しさを示している。 正面のファサードは後陣と全く同様のデザイ ンで、祭室部分が扉口になった形でありアプー リア様式と言えるだろう。 地下のクリプタを特別に見せてもらったのだ が、創建当初の姿を見たような感動を覚えた。 |
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マンフレドニア/聖レオナルド教会 Manfredónia/Chiesa di San Leonardo di Siponto |
1 Puglia |
聖マリアからフォッジアへと通じる国道を進 むと、荒涼とした原野の向こうに八角ドームの 鐘塔が見えてくる。 日曜日の夕方6時に行われるミサ以外に、こ の教会へ入る方法は無かったので、モンテ・サ ンタンジェロのホテルを日曜に予約してあった のは正に幸運だった。マンフレドニアのドゥオ モの黒マリアを見たりしながら、時間の来るの を待った。 11世紀の建築で、従来は三廊式のバジリカ であり、方形のビザンチン様式だったのだが、 現在は片側の側廊の柱部分が壁になっている。 ミサの始まる直前に、内陣を見せて貰った。 ここでの見所は何と言っても北側扉口の彫刻 に尽きる。写真はその中心部である。 二人の天使によって支えられた玉座のキリス ト像が、蔓草や動物の絡まった連続模様に囲ま れて、タンパンに彫られている。 ヴシュールや柱にも精巧な模様が彫られてお り、非凡な石工が存在したことを示している。 左の柱頭にはロバに乗るバラアムの逸話と、 龍と戦う聖ミカエルの像が見える。 右の柱頭は、聖母子と礼拝する東方三博士で ある。 彫刻はかなり技巧的なので、聖堂建築の年代 よりはかなり下がった13世紀ロマネスク後期 に当たりそうである。 |
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トラニ/大聖堂 Trani/Duomo |
1 Puglia |
バルレッタからバーリへと続くアドリア海沿 岸には、トラニ、ビッシェリエ、モルフェッタ やジョヴィナッツォなどの古い港町が続き、そ れぞれにロマネスクの聖堂があるとのことでと ても楽しみだった。 中でもトラニとモルフェッタには、素朴な港 町の風光の中に建つ聖堂の姿を想像し、格別の 憧れを抱いていたのだった。 残念ながらトラニの大聖堂は、正面のファサ ードが修復中で板壁に覆われており、また港か らは完全に逆光だったので、思ったような景観 は見られなかった。 しかし三重構造になった聖堂建築は重厚で、 内陣は見応え十分であった。 写真は最上部の身廊で、対になった円柱が側 廊との境になっており、トリビューンの三連窓 によるアーケードが美しい。 階下は上部と同じ大きさでクリプタとなって おり、少し華奢な円柱群と交差穹窿とが作り出 した柱の森が印象的だった。 さらに、最下部のクリプタは天井の低い空間 で、聖マリア教会と呼ばれている。 |
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モルフェッタ/聖コッラード大聖堂 Molfetta/ Duomo di San Corrado |
1 Puglia |
港の水辺に建つモルフェッタの白亜の聖堂の 光景を眺めながら、頭の中で描いていたイメー ジとほぼ同じであったことに驚かされた。 写真は、外海との境目になっている突堤の上 から撮ったものである。 建材には白い石灰岩が使用されており、二本 の鐘塔やドームの屋根の形がとても絵になって いると感じた。 ここも四本の柱で九つのベイに区切られた、 やや縦長の方形聖堂である。東方の影響が顕著 で、中央に三つの円錐ドームが並んでいる。 思ったよりも多くの柱頭に、天使の像や鳥や 動物が植物模様の中に彫られていた。 正面のタンパンには、十字架を担いだ羊の像 が描かれていた。クリスモンのような意味合い で彫られたものかもしれない。 羊の下に車輪のような図像があり、それは十 二の花びらを持つ花のようでもあり、十二使徒 を象徴するものなのか、後世のバラ窓の原形と も思えるような彫刻だった。 |
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バーリ/大聖堂 Bari/ Cattedrale |
1 Puglia |
バーリの旧市街はアドリア海に突き出た半島 部分にあり、びっしりと立ち並んだ住居の間に 迷路のような露地が網目のように張り巡らされ ている。 露地のあちこちでパスタを干している光景は 生活感に溢れており、二つの教会へはこの旧市 街の散歩を楽しみながら行く事が出来た。 大聖堂は旧市街の中央に建っており、11世 紀の創建とのことであった。しかし、ファサー ドの意匠は余り美しいものとは思えず、様々な 改修が加えられたための不均衡が目立つのかも しれない。 だが一歩中へ入ってみると、外観からは想像 もつかぬほど、内陣は壮麗な建築だった。 身廊は三廊式で、側廊の連続アーチの上部に 造られた小アーケードは、トリビューンではな く単なる飾りとしてのものなのだが、聖堂全体 に美しい調和をもたらす効果を見せている。 写真は、側廊部分から後陣方向を眺めたもの で、右側にロマネスク時代の説教壇も写ってい る。 ベネヴェント文字で書かれた、挿絵の美しい 11世紀の巻物を見たかったが、残念ながらこ の日は展示室が閉館だった。 |
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バーリ/聖ニコラ聖堂 Bari/ Basilica di San Nicola |
1 Puglia |
旧市街を更に奥へと歩き、海岸の城壁の近く まで来ると、広場に面して建つ聖堂が見えた。 左右に鐘楼を配した正面のファサードは、写 真で見るように、飛び切り優れた意匠とも思え ない簡素なものだった。 建築は大聖堂にとてもよく似ており、三廊式 の身廊と上部に小アーケードによる装飾窓が付 けられている。 大聖堂の建築にも大きな影響を与えたと考え られるが、身廊を横断する二本の梁が平行では ないのは、後世の改修があったからなのだろう か。 祭壇には天蓋や、大理石で出来た司教座が置 かれていた。いずれも11世紀から12世紀の ものであるという。 地下にクリプタがあり、聖ニコラの墓所とな っていた。 |
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ビトント/大聖堂 Bitonto/ Cattedrale |
1 Puglia |
バーリの町から南西に15キロ行ったところ に位置する小さな町だが、この町の中心に建つ 大聖堂の素晴らしさには感嘆した。 広場に面した聖堂の側面には、大きな五つの アーケードが連なる回廊が設けられている。 ファサードには三つの扉口があり、写真はそ の中央のタンパン彫刻である。 黄泉へと下ったキリスト像で、死者を解放す る場面である。手をとっているのはアダムで、 ビザンチン美術ではよく見る主題である。 まぐさ石部分には、左から受胎告知、訪問、 東方三博士礼拝、聖堂奉献が彫られている。 三廊式の聖堂は、バーリの聖ニコラと似てお り、三連窓で構成されたトリビューンがとても 美しかった。 |
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ブリンディジ/聖ベネデット教会 Brindisi/ Chiesa di San Benedetto |
1 Puglia |
ローマからのアッピア街道やトラヤヌス街道 の終点に当たり、地中海への玄関口として現在 でもギリシャへの船便が発着している。 (当ページの表紙参照) 旧市街に建つこの教会は観光的には全く無名 で、泊まったホテルの女主人が調べてくれてよ うやく場所が分かったのだった。 外観は教会には見えないアラブの要塞の様な 聖堂だが、鐘塔が恰好の目印となっている。 三廊式のバジリカで、朝の光の差し込む明る い感じの聖堂だった。 目的は隣接する回廊だったが、そこは町の中 とは思えぬほどの静寂に包まれた別世界で、カ メラのシャッター音すら気になるほどだった。 彫刻が無い柱頭も多いのだが、瞑想の場に相 応しい凛と張り詰めた空気が漂っていることに 感動した。 扉が開いていたのに、最後まで誰にも会わな い不思議な教会だった。 |
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オトラント/大聖堂 Otranto/Cattedrale |
1 Puglia |
この教会の身廊や祭室の床全体が、12世紀 のモザイクで装飾されていると聞いていた。し かし何ということであろうか、ここではちょう ど結婚式が始まる直前で、床一面に絨毯が敷か れ多くの椅子が並べられていたのである。 式が始まる前に、見える部分だけでも撮影し ようと聖堂中を歩き回った。 モザイクの中心は、一本の大きな木が床いっ ぱいに延び、そこから広がる枝々に様々な動物 が群がっている図である。そこに原罪やカイン とアベルなど、旧約聖書の逸話が散りばめられ ている。 写真は、十二か月の仕事を描いた部分の一つ で、二月の場面だが一体何を作っているのだろ うか。 しばらくすると式が始まり出してしまい、関 係者以外は締め出されてしまった。 |
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ヴェレンツァーノ/オーニッサンティ Velenzano/ Ognissanti |
1 Puglia |
バーリから少し南の郊外、カサマッシマの農 園ホテルに3泊した。ホテルの主人がこの教会 は現在閉鎖していると言ってくれたのだが、直 ぐ近くだったので行ってみた。 金網の囲い越しに、草原の中に建つ聖堂を見 ることが出来る。うまい事に金網に人一人通れ るような穴が開いていたので、こっそりと敷地 の中へ入り、かなり聖堂に近づいて撮ったのが この写真である。 ビザンチン風のドームが三つ並んでおり、後 陣の三つの半円形祭室の付き方からも、四本の 柱で井桁に仕切られた長方形の聖堂内部を想像 することが出来る。 ホテルの主人が見せてくれた写真では、内部 は装飾の無い簡素だが剛毅な柱とアーチ、ドー ムが連なる美しい空間のようだった。 左端のアーチは、聖堂外部に取り付けられた 玄関間である。 |
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ヴェノーサ/三位一体教会 Venosa/ Chiesa di Santissima Trinita |
2 Basilicata |
ポテンツァ (Potenza) から国道を北へ走 り、しばらくしてから枝道へと入って山を幾つ も越えた。 ヴェノーサの町は古代ローマの時代から栄え た町で、その遺跡が町外れに残っている。 この教会は遺跡の中に建てられており、現在 は全くの廃墟となってしまっている。 残っているのは聖堂の壁と身廊片側の列柱、 そして写真の放射状祭室の付いた後陣部分だけ であり、天井は完全に崩落してしまっている。 聖堂プランは、ギリシャ十字型に近い十字形 で、後陣には祭壇を囲むように周歩廊が有った ようだ。 身廊の柱は堂々として太く、アカンサスの柱 頭はローマの神殿を想わせるほど古典的なもの だったようだ。かなりの規模の、壮麗な聖堂だ ったことが想像できる。 |
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アチェレンツァ/大聖堂 Acerenza/ Cattedrale |
2 Basilicata |
ヴェノーサから更に幾つもの山や谷を越え、 約40キロ山道を走って行くと、前方に小高い 丘が見えてくる。丘の上にはびっしりと家が並 んでおり、遠くからでも教会の塔が見えた。 平面プランはヴェノーサにとてもよく似た翼 廊の付いた十字形で、後陣には祭室を囲んでぐ るりと周歩廊が設けられている。三つの放射状 祭室も、同じようについている。 身廊の柱は角柱なので、聖堂内部を見た感じ はヴェノーサとはかなり違うのだが、全体の構 造は似ていたのかもしれない。 写真は十字交差部の塔と、右側に延びる北側 の翼廊とその小礼拝堂であり、左側が周歩廊の ある外陣である。 小さな窓しかない、いかにもロマネスクらし い質実剛健な石積みの建築である。 正面扉口のヴシュールは、精巧な彫刻で飾ら れている。 連続する環状の植物模様で、人間や動物が蔓 や葉に絡まった幻想的な図柄だった。 |
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サン・デメトリオ・コローネ/ 聖アドリアーノ聖堂 San Demetrio Corone / Basilica di Sant'Adriano |
3 Calabria |
この旅も次第に、イタリア半島の長靴のつま 先に近づいてきた。このあたりは土踏まずの見 当である。 イオニア海沿岸のギリシャ遺跡シバリから、 山へ向かって20キロ登るとこの村へ着く。教 会はさらに登った村外れに建っていた。 聖堂の外見は、窓のほとんど無い方形の石の 箱のように見える。ビザンチンの聖廟のようで もある。 身廊は三廊式で、三本づつの柱が側廊との境 を示している。アーチの裏側に描かれた聖人像 のフレスコは、色も良く残っていて見応えがあ った。 身廊の床には多くのモザイクがはめ込まれて おり、写真はその中で最もユニークな蛇の渦巻 きである。図柄が斬新であり、何と言っても鮮 烈な色使いが良い。 他にも蛇やライオンの像が幾つも見られた。 |
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ロッサーノ/聖マルコ教会 Rossano/ Chiesa di San Marco |
3 Calabria |
イオニア海に沿って少し先へ行くと、近代的 なロッサーノの町が海岸近く迄発展している。 しかし、目指すのは旧市街であり、そこは山へ 8キロほど登った所にある、城壁に囲まれた古 びた町だった。 小さい町なのに教会が幾つも在り、細い急坂 の路地を車で探すのは一苦労だった。 路傍に座った老人に尋ねて、ようやく妙な形 をしたこの教会へとたどり着いたのだった。 写真で見る通り、車を止めて見上げた聖堂の 姿は余り見かけない異様なものだった。 しかし良く見ると、これは後陣であって、三 つの祭室にはビザンチン式の窓が見え、屋根に はサイコロの五の目の配置でクーポラが載って いる。 聖堂の平面図は、やはりビザンチンそのもの で、正方形の聖堂を四本の柱で井桁に仕切った 形になっていた。 天井に出来る九つのベイは、一つおきに円筒 形のドームとなっている。 祭室の壁の一部に、聖母子を描いたフレスコ 画が残っている。聖マリアの顔と幼児キリスト の顔の半分以外は剥落してしまっているが、そ のいかにもビザンチン的な風貌がとても気に入 ってしまった。 |
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ロッサーノ/聖マリア・ デル・パティーレ教会 Rossano/Chiesa di Santa Maria del Pátire |
3 Calabria |
ロッサーノの町から山伝いに行けるのだが、 一旦麓へ降り別の山道を登ることにした。近く に自然公園が在るので、道が良いと聞いたから だった。 聖堂は典型的な三廊式バジリカで、長方形の 身廊に三つの半円形祭室が後陣に突き出た形を している。 赤いレンガを効果的に使った装飾アーケード の意匠からは、アラブ様式からの影響が感じ取 れる。 幾何学的な模様が少し残っているが、軒持ち 送りの下に残る彩色などからも、当初はかなり 鮮烈な配色が成されていたことが想像された。 堂内の床に素晴らしいモザイクが在ることを 知っていたのだが、季節外れの訪問は管理人す ら不在で、扉を開けて貰える術は無かった。 ケンタウロスなど伝説の動物を描いたモザイ クを見るためには、夏の良い時期に再訪せねば なるまい。 |
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カタンザーロ/聖マリア・ デッラ・ロッチェーラ教会 Catanzaro /Chiesa di Santa Maria della Roccella |
3 Calabria |
カタンザーロはこの地方の中心都市であり、 イオニア海から13キロ山へ向かって登った所 にある山上都市である。 旧市街には古い教会も多く、老舗が並ぶ賑や かな通りがあるという魅力的な町だった。 このロマネスクの遺構は町の中ではなく、ロ ッチェレッタ (Roccelletta) と呼ばれる海岸 の集落の外れに在った。考古学公園にもなって いる、広大で静かな一画である。 単身廊に翼廊の付いた十字形の聖堂で、三つ の祭室が設けられた美しいプランだが、現在残 っているのは主祭室と北側の小祭室の壁と、身 廊の壁及び西側ファサードのみだった。天井は 全て崩落してしまったらしい。 残念なことに、後陣部分が修復中で、足場が 組まれシートに覆われていて見ることが出来な かった。 写真は身廊北側の外壁部分で、北扉口の上に 開口窓と見せかけ窓が交互に配されている。 ビザンチンの色濃いレンガ積みの建築で、往 時を想像すると、さぞや壮麗なバジリカであっ たことだろう。 私達はここから程近い Staletti スタレッテ ィという集落に宿をとった。長靴の先端にもっ とも近いエリアなのである。 |
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スティーロ/カットリカ Stilo /Cattolica |
3 Calabria |
この村へ行くにはカタンザーロからさらに南 下し、海岸の町モナステラーチェから山へと入 る。山上の集落建設は、海からの侵略とマラリ アの伝染から逃れるための方策であったから、 古い町へ行くためには山道を登ることとなるケ ースが多い。 この旅で最も憧れていた場所が、このスティ ーロだった。ギリシャのミストラやマニ半島で 出会った、ビザンチン聖堂の魅力を知ったこと にも由来する。 美しい町並みのさらに上、町全体や周囲の山 々を見下ろすようにして、この小さな教会が建 っている。 ロッサーノの聖マルコと全く同じ構造になっ ている。 例の通りの井桁の四本柱である。五つのクー ポラも同様だった。 飾りの無い素朴な柱頭、繊細な太さの四本の 円柱、クーポラ以外の天井に描かれたフレスコ 画など、全てが想像した以上に美しかった。 しかし残念ながら番人が頑固親爺で、写真撮 影を許してくれなかった。 |
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ビヴォンジ/聖ジョヴァンニ教会 Bivongi/Chiesa di San Giovanni il Vecchio |
3 Calabria |
スティーロから山道を6キロ登った所がビヴ ォンジの村で、この教会までは車一台がようや く通れるような坂道を数キロ登らねばならなか った。案内の看板などは一切無い、観光とは凡 そ無縁の孤高な姿で建っていた。 聖堂の脇に住宅が在り、そこに住む修道僧の ような高潔な風貌をした青年が一人で管理をし ているのだという。 聖堂は美しい単身廊バジリカで、翼廊付きの 十字形をしており、三つの祭室が付いている。 写真は後陣の優雅な姿で、交差部に鐘塔が聳 えている。 後陣の壁面にはノルマンやアラブのような交 差アーケード装飾や、ビザンチン風の連続アー ケードが施されていてとても美しい。大半がレ ンガ積みなのである。 英語の上手なその青年の話では、かなり近年 に大掛かりな修復が成されたとのことで、修復 前の写真も見せてもらった。かつては草生して いたものの、聖堂は概ね旧状のままだが、周辺 に建てられていた後世の邪魔な建築を撤去した のだそうだ。 |
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ジェラーチェ/大聖堂 Gerace/Cattedrale |
3 Calabria |
ここは正に長靴の先端、親指の裏辺りに相当 する半島最後のロマネスクかも知れない。ステ ィーロから更に南へ40キロ、やはり海岸のロ クリから少し山へ入らねばならない山上集落で ある。 村の入口から教会の在る広場までは、かなり 急な石畳の道を登らねばならなかった。途中の カフェでピッザを食べたりして、教会の扉が開 くという3時を待った。 教会が斜面に向かって建っているので、後陣 から入る妙な入口と思っていた場所は、実はク リプタの入口だった。 クリプタは後陣の祭室と翼廊の地下に当たる 部分で、繊細な列柱が林立する美しい空間だっ た。 写真は、階上へ上った身廊部分で、三廊式十 字形の細長い聖堂だった。 階段を上り身廊へ出てくると、上段の明り取 り窓からの光が強く堂内が意外に明るいので、 クリプタの暗さとの対比が妙にドラマチックに 感じられて面白かった。 列柱の素材は様々で、溝の入ったローマ神殿 風なものまで利用されている。柱頭は植物模様 の彫刻が中心で、特記するべきものは無い。 身廊と翼廊の十字交差部は円錐形ドームにな っており、フレスコ画の痕跡が見えた。 |
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パレルモ/聖ジョヴァンニ・ デリ・エレミーティ教会 Palermo/Chiesa di San Giovanni degli Eremiti |
4 Sicilia |
私達夫婦が冬のシシリー島を訪ねたのは、何 と1985年の年末休暇に親友のM夫妻と御一 緒した時だけである。パレルモには1泊しか出 来なかったので、市内では大聖堂とここへちょ っと寄っただけだった。 ノルマン宮殿やラ・マルトラーナのモザイク を見る事が出来なかったのが心残りだったが、 何故かその後再訪の機会を得ないままである。 町の中を車で走っていて最初に目に付いたの が、この奇妙な形をした建築だった。赤の丸帽 を頭に載せたような不思議なシルエットが、思 わず車を止めさせるきっかけとなった。 写真は後陣を左後方から眺めたものであり、 丸く少し突き出たところが中央祭壇で両側が翼 廊となっている。 北側の翼廊の上が鐘塔となっており、中央二 つの大きなドームの下が単身廊である。内部は 石の壁とやや先の尖ったアーチだけで構成され た、なんとも素朴な聖堂である。 写真左側の石壁の中が、聖堂に隣接する回廊 である。 アラブ風の連続アーチと、二重の列柱による 異国情緒に満ちた遺構で、柱頭彫刻の植物模様 に開けられた無数の穴には、貴金属や宝石が象 嵌のようにはめ込まれていたのだという。ノル マン王ルッジェーロ二世が建てたからこその豪 華さだろう。 |
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モンレアーレ/大聖堂 Monreale/Duomo |
4 Sicilia |
こんな豪華絢爛な聖堂がロマネスクなんだろ うかと思わせるような建築である。 しかし、ノルマンやアラブやビザンチンが複 雑に混淆した、12世紀の三廊式バジリカで翼 廊のある十字形、三つの祭室が配されていると いうプランは間違いなくロマネスクである。 後陣の装飾、入口の青銅の扉や彫刻、内陣の モザイクによる壁画など、桁違いの完成度を見 ることが出来る。 正面祭室の天井には祝福するキリストと聖母 子が描かれ、左右の壁は旧約・新約の逸話によ って所狭しと埋め尽くされている。聖堂中がモ ザイクの金色に光輝いている、と言っても過言 ではない。 そんな中で、落ち着いた美しさを示していた のが、写真の回廊だった。 なんとも特異で奔放な図柄や意匠で飾られて いるのだが、とても美しい様式美を創出してい ることに驚かされてしまった。 |
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チェファル/大聖堂 Cefalù/Cattedrale |
4 Sicilia |
パレルモからは75キロ東に行った、ティレ ニア海沿岸の漁村である。 突堤からの素朴な集落の眺めの美しさが、い まだに忘れられないでいる。 聖堂は村の中央に建っている、シチリア・ノ ルマン様式の大建築である。 平面プランは翼廊が少し突き出ていること以 外は、モンレアレにとてもよく似ている。 三廊式で、精巧な彫刻が施された柱頭で飾ら れた列柱と、先の尖った連続アーチとによって 側廊との境界を形成している。 身廊部分にはモザイクは無いが、中央の祭室 部分の天井や壁は、写真のような見事なモザイ クで飾られていた。 半円ドーム部分の図像は万物創造主キリスト であり、ビザンチンの卓越した表現が示されて いる。 下段にはオランス型の聖母マリアを中心にし て、四人の大天使が描かれている。 交叉オジーヴの天井にも天使が描かれている が これは若干時代が下がるかもしれない。 |
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