サルデーニャ島の
  ロマネスク紀行
 
 Sardegna Romanica  
 
   
 
  SS.Trinità di Saccargia 
 
 シチリア島に次いで大きい、地中海第二の島
である。島全体がイタリア第三の大きさの特別
州となっている。州都はカリアリ
Cagliari
である。
 ヌラーゲ文化という先史時代から開けていた
島であり、地中海の要衝という立地でもある。
 比較的平地の多い地勢であるため、フェニキ
ア、カルタゴ、ローマ、ヴァンダル、ランゴバ
ルト、アラブなどが次から次へと来襲したり占
領した歴史を持っている。
 中世には、ピサとジェノヴァが島を分割して
占領していたが、その後スペインのアラゴン王
国やオーストリアに帰属していた時代もある、
という複雑な経緯を有している。
 ランゴバルトとピサの影響下で、11~13
世紀にロマネスク様式の教会が数多く建てられ
た。この島では、サルデーニャならではの独自
性が感じられる、興味深い旅が約束される。
 
 
   
 
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オルビア聖シンプリチオ教会
 Olbia/Chiesa di San Simplicio
     
      Sassari
          
 
 
 島の北東端に位置するこの町は古代カルタゴ
によって開かれた古い港町だが、近代化された
現在の町並からは、その古さを実感することは
出来ない。
 近代的な住宅地の中に取り残されたようなこ
の教会は11~12世紀の建造で、ファサード
がトスカーナ的でもあり、またロンバルディア
の様式も見られる。美しいと言うよりも、混然
とした造形というほうが正しいかもしれない。

 身廊は三廊式で角柱と円柱が交互に並んでい
る。左右に各6本づつで側廊とのアーケードを
構成しているが、円柱だけには柱頭彫刻が施さ
れている。人面をアレンジした柱頭が、特に面
白かった。
 写真では陰になっているが、側面の壁は連続
する盲アーケードで飾られている。
 ほとんど窓の無い壁面であり、付け柱とロン
バルディア帯が作り出す陰影濃い造形が印象深
かった。
 小さな半円形の突起のような後陣は、住宅が
迫っているために上手に撮影出来なかったが、
二本の付け柱に六つの半円アーチのある装飾壁
が、西日の中で強烈なコントラストを見せてい
た。    
 
 
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ビサルチオ
   聖アンティオーコ教会

  Bisarcio/Chiesa
    di Sant'Antìoco
     
      Sassari
          
   
 
 オルビアの町からは、広大な牧草地の中を西
南に向かって車を走らせた。
 自然環境はコルシカ島に類似するのだが、険
しい山は少なく比較的平坦な地形で、東南部の
山地を除けば大半が牧草地か農地である。

 現在のビサルチオ村は小麦畑や牧草地の広が
る閑散とした農村だが、この教会はかつてこの
司教区の中心に建つ大聖堂であった。
 岩盤の上に堂々と建つその偉容を、国道から
村へ至る村道へと入ってすぐの正面遥か彼方か
ら遠望することが出来た。

 12~13世紀に建立された三廊式バシリカ
で、身廊には左右各6本づつの円柱が並んでい
る。柱頭は簡素なアカンサスで、石の古びたか
び臭い雰囲気がとても良い。
 建物全体の長さは35mもある壮大な聖堂建
築で、最大の特徴は写真の玄関間(ナルテック
ス)である。
 ファサードの装飾は、アーチの縁飾り模様な
ど近付いてみるとかなり繊細に施されており、
成熟した時代の意匠を見ることが出来る。ファ
サード上部は後世の改築だが、下層のピサ風三
連アーチが素晴らしい。左側も従前は、右同様
に開口していたと思われる洗練された意匠だ。
 ナルテックスの内部には、二本の束ね柱があ
り、階上には小さな礼拝堂も設けられていた。
身廊へ入れない未洗礼者の礼拝のための場、と
いう古式が継承されたものである。
 聖堂全体があたかも要塞の様に見えるのは、
その堅固な石積と途中で切られた方形の鐘塔の
存在に原因があるようだ。
 
 
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アルダラ聖マリア・
    デル・レーニョ教会

  Àrdara/Chiesa di Santa
    Maria del Regno
     
      Sassari
          
 
 
 この丘の上の小さな村は、前述のビサルチオ
からは南西へ7
キロの至近距離にあり、ここも
牧畜や果樹園農家を中心とした集落となってい
る。
 教会は外見の堅固な建築で、ファサードの装
飾はいかにも簡潔ではあるが、不器用といった
印象のほうが強いだろう。
 12世紀の建築であり、三廊式の身廊には聖
堂の規模以上の太い円柱が並んでいる。質実な
意匠が、ロマネスク初期の特質を見事に表現し
ている。左右各8本づつ、狭い間隔にびっしり
と並んでいるのである。
 身廊の天井は木造だが、側廊には交差穹
窿の
見事なベイが連続していた。
 後陣は小さな半円形で、2m程度しか突出し
ていない簡素な造りだった。4本の付け柱に三
つの窓、ロンバルディア帯状の装飾はサルデー
ニャやコルシカでは定番となっている。
 堂守のおじさんが英語を話せる親切な人だっ
たので、飾られた聖人画の話に花が咲いた。
 
 
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プロアゲ聖ミケーレ・
    ディ・サルヴェネロ教会

  Ploaghe/Chiesa di San
   Michele di Salvènero
     
      Sassari
          
 
 
 サッサリ Sassari へ向かう国道沿い、サッ
カルジアのすぐ手前の崖の上にこの聖堂が見え
た。白黒の縞が特徴的なので、車からも直ぐに
気がついた。荒れ果てた草むらの中に埋もれて
おり、教会としては現在は使われてはいないよ
うだ。
 この教会はサルデーニャでは珍しいT字形の
聖堂建築で、単身廊に袖廊が付き、それぞれに
半円形の小祭室が設けられている。
 北側袖廊にのみ、写真のような縞模様の礼拝
堂のような建物が付設されている。
 写真は北東側から、この礼拝堂と後陣を眺め
たものである。他にも付設された建築があり、
写真に写っているこれらの部分が12世紀創建
時のものであると思う。
 聖堂西正面のファサードはピサ様式の盲アー
ケードで飾られているが、装飾としては大層地
味なものだと言える。
 
 
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サッカルジア聖三位一体教会
  Saccargia/Chiesa
   della Santissima Trinità
     
      Sassari
          
   
 
 プロアゲからさらにサッサリへと向かう国道
の脇の広大な敷地の中に、サルデーニャでは最
も著名なこの聖堂と鐘塔とが見えてくる。
 現在残っている建物以外にも、壮大な僧院群
や回廊の礎石が残されていることから、相当大
規模な修道院が存在していたのだろうと推察出
来る。事実、旧カマルドリ会大修道院の付属教
会として建てられた、12世紀の建築だった。

 写真の聖堂と鐘塔は、ピサ様式の白黒の切石
を巧妙に組み上げた、目を見張るような意匠の
ファサードである。
 三連アーチの開口部は、玄関間(ナルテック
ス)のような柱廊で、左右にも開口アーケード
が付けられている。これは少し後の13世紀の
追補らしいが、違和感は全く感じられない。
 聖堂は単身廊にT字形となる袖廊が付いてお
り、それぞれに小祭室が付設している。両袖廊
との境界は、厚い壁の半円アーチ門で仕切られ
ていた。
 このT字型に三祭室というプランは、三廊式
の聖堂には多いのだが、単身廊のものはトスカ
ーナやプロヴァンスでは幾つかの事例を知って
いた。だが、全体的には案外と少ないかもしれ
ない。

 一見派手そうに見えるこのファサードは、白
黒の石積を無視して見ると、飾りアーケードと
幾何学模様によって装飾された壁面と、スマー
トな三連アーケードの柱廊を前面に付けた、ま
ことにシックなデザインなのであることに気が
付いた。

 内陣の祭室壁面に描かれたビザンチン風のフ
レスコ画は、聖人達に囲まれた玉座のキリスト
が主題で、これも13世紀の作であるという。
 
 
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テッラーダ(サッサリ)
   聖ミケーレ・ディ・プライアヌ

 Terrada (Sassari)/Chiesa
   di San Michele di Plaianu
     
      Sassari
          
   
 
 サッサリの町からポルト・トッレスに向かう
旧国道沿いに、この素朴な教会が建っている。
変哲の無い方形のお堂なので、うっかりすれば
見逃してしまうだろう。私達も一度は通り過ぎ
てしまったほどだった。
 残念ながら扉口が閉ざされ、周辺には管理者
らしい人の気配も感じられなかった。

 11~12世紀に創建された教会で、単身廊
の箱型聖堂に半円形の後陣が突出した典型的な
様式である。最も注目すべきは写真の正面ファ
サードで、ピサ様式の小円柱による飾りアーケ
ードが上部に造られている。
 飛び切り卓越した意匠とは言い難いのだが、
島じゅうに分布していたことを考えると、時代
性とは別に、落ち着いたデザインとして当節を
風靡していたのだろう。

 ファサードの下部には三連盲アーケードと角
柱が彫り出されており、上部との対比によって
静かな躍動感を示しているように見える。
 タンパンには、何も彫刻らしきものは見当た
らない。だが、アーチの中に彫られた円形や矩
形のレリーフは、小規模ながら多彩な図案に石
工の非凡な才能を見ることが出来る。
 色大理石を小さく切り、箱根細工のようには
め込んで図案を表現する手法が本流で、前述の
サッカルジアなどにも事例が有るが、ここでは
石に直接図柄を彫り込んでいる。
 
 
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ポルト・トッレス
   聖ガヴィーノ教会

  Porto Torres/Chiesa
     di San Gavino
     
      Sassari
          
     
 
 町の名の通り、サルデーニャ北部最大の良港
で、カエサルが創設したという古代ローマとの
繋がりのあった古い町である。
 教会は11世紀半ばに着工されたという、ピ
サ様式としては島最古の建築として残った。
 写真で見る通り壮大な聖堂で、東西の長さは
58mに及ぶ。最大の特徴は、写真では判らな
いが、聖堂の東西両端に後陣が設けられている
ことだろう。
 身廊は三廊式の袖廊などは一切無い完全な方
形バシリカ聖堂であり、その両端に半円形の後
陣が突き出しているスタイルは極めて珍しいだ
ろう。
 身廊の天井は木造だが、側廊は半円筒形ヴォ
ールトと交差
窿の組み合わされた壮麗な建築
だった。列柱はローマ風で、遺跡の廃材を利用
したものと思われる。
 扉口は必然的に南北両壁面に設けられ、正面
の南門は15世紀の改築だが、北門には創建時
のタンパン跡や柱頭彫刻が残っていた。
 
 
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ボルッタ聖ピエトロ・
    ディ・ソッレス教会

  Borutta/Chiesa di San
     Pietro di Sorres
     
      Sassari
          
   
 
 ボルッタの集落から少し離れた高台の上に、
この優美なピサ様式の教会が建っている。
 周辺に残る建造物や礎石から、かなり壮大な
規模の僧院であったことが伺える。
 現在残る教会堂は東西の長さ33mという中
規模の建築で、身廊は左右4本づつの柱が並ぶ
三廊式である。
 列柱とアーチ部分は、白黒の切石を交互に組
んだ縞模様で飾られており、アラブの影響を感
じさせる意匠てが美しい。
 天井は半円筒ヴォールトに交差穹窿という力
強い構造で、建築全体にこの時代の溢れるよう
な創造性が感じられる印象的な建築だった。

 正面ファサードは、三段のアーケードで飾ら
れている。上段は三連、中段は七蓮、下段は五
連という意匠で、下部をどっしりと落ち着かせ
た見事なデザインだ。
 各々の半円アーチの中に、白黒の石を埋め込
んで箱根細工式の図案が施されている。末期的
な小細工と言ってしまえばそれまでなのだが、
洗練された意匠には自信に満ちた当代の石工達
の仕事ぶりが伺える。   

 写真は特別に見せて頂いた後陣部分で、上部
の壁面に飾られた五連のアーケードがとても美
しい。
 後陣の黒石の縞模様は内陣祭室部分の壁と同
じ配色だが、正に現代アートにも通用しそうな
意匠であり、様式化しつつあった聖堂建築の流
れの中での、創造的な石工たちの精一杯の抵抗
だったようにも見える。
  
 
 
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セメステーネ聖ニコロ・
    ディ・トゥルッラス教会

  Seméstene/Chiesa
   di San Nicolò di Trúllas
     
      Sassari
          
   
 
 見渡す限りの牧草地と小麦畑が続く中に、次
第にはっきりと見えて来るこの小さな聖堂の姿
を忘れることが出来ない。
 場所は、高速道路から離れボーザの町へと向
かう途中の、丘陵の続く田園地方だった。
 セメステーネの教会といっても、集落は全く
見えない全くの野中の一軒家なのである。
 教会と言うよりも、畑の中の鎮守堂と呼んだ
ほうがぴったりくるかも知れない。

 創建は 1113 年と明確で、二つの交差穹窿の
ベイを持つ単身廊の聖堂である。自身の持仏堂
にしたくなるような規模の、チャーミングな教
会だった。
 残念ながら扉口は閉ざされており、内陣に残
っているとされるフレスコ画の断片を見ること
は出来なかった。

 早朝に訪れたため、西側のファサードが暗く
なり逆光だったので、写真が撮れなかった。
 小さなタンパンのある門の上部に、ピサ様式
の四本の小円柱で飾られた五連アーケードが、
壁面に埋め込まれた様な格好で彫られていた。
 写真の東側後陣は、何とも素朴な構造で、ワ
ンパターンとも言えそうなこの様式が、旅に馴
染んだこの頃になると無性に愛おしく感じられ
るようにもなっていたのだった。
 
 
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ボーザ聖ピエトロ・
    エクストラ・ムロス教会

  Bosa/Chiesa di San Pietro
     Extra Múros
     
      Núoro 
          
   
 
 島の西岸に位置する古い町で、集落を見下ろ
せる高台に聳える
Serravalle セッラヴァッレ
を中心に栄えた。
 この教会は、川に沿って上った東南約2キロ
上流に位置しており、オリーブの木々に囲まれ
た聖域を形成している。

 聖堂の西側正面ファサードを見て、何だゴシ
ックの教会ではないか、と感じた。壁面装飾の
アーケードが尖頭形だったからで、扉口上まぐ
さ石彫刻の人物像も至極ゴシック的だった。
 イタリア本土のフォッサノヴァ
Fossanova
やアッシジでは、13世紀初頭にはとっくにゴ
シック様式は萌芽していたのだから、その影響
が及んでいたとしても決して不思議ではない。
 堂内に聖堂の建築年代を記した案内書があっ
て、それによれば聖堂の西側が案の定13世紀
で、中央が11世紀、東側後陣が12世紀の築
造になるらしい。
 身廊は三廊式で、左右に各8本、アーケード
の壁面と一体化した角柱が並んでいる。古びた
雰囲気を保った意匠なのだが、聖堂内部に関し
ては東西での2世紀の時差は全く感じられなか
った。
   
 11世紀らしさは、外壁に残された付け柱上
のプリミティブな柱頭彫刻に見る事が出来る。
鳥や犬のような動物像が、抽象画のような一見
稚拙とも思われる姿で描かれていた。
 写真は後陣と鐘塔で、いずれも12世紀に建
造されたものである。赤い石が特徴的で、がっ
しりと腰を据えた様な立派な後陣だと言える。
 
 
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シラヌス聖サビーナ教会
  Silanus/Chiesa
     di Santa Sabina
     
      Núoro 
          
 
 
 ボーサからマコメール Macomér を経由し
てオッターナに向かう途中、偶然発見した予定
外の教会だった。地図には載っているのだが、
ロマネスク教会としての認識が丸で無かった。
 国道からこの奇妙な形体の聖堂が見え、最初
はビザンチン風の雰囲気を感じたので、休憩が
てら寄って見たのだった。
 驚いたことに、看板には11~12世紀のロ
マネスク建築、と記してある。
 慌てて詳細に調べてみると、中央の円形の聖
Rotonda は正面に扉口があり、東側に半円
形の後陣が張り出している。
 そして、その左右に小さな礼拝堂が付設され
ていて、各々に同様の後陣が設けられていたの
である。
 一見ビザンチン十字形のように見えたのは、
こうしたプランによるものだったのである。
 内陣は素朴で、初期キリスト教会の洗礼堂の
ような清雅な趣を見せていた。
 この偶然の邂逅、何と言う幸運であったこと
だろう。隣接する荒野の中に、古代の石積塔の
遺跡ヌラーゲ
Nuraghe が建っている。これ
も感動的な出会いであった。
 
 
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オッターナ聖ニコラ教会
 Ottana/Chiesa di San Nicola
     
      Núoro 
          
   
 
 東西南北のほぼ中央、サルデーニャ島のヘソ
とも言えそうな位置にこの小さな町がある。
 教会は町のほぼ中心の、小高い丘の上に建っ
ていた。各種の書物で見ていたイメージと違っ
て、とても黒ずんだ青い石のように見えた。も
っと赤味を帯びた青を想像していたのである。

 12世紀中頃の創建で、身廊は単身廊のバシ
リカ建築だが、何とここでは袖廊が左右に張り
出していたのだった。
 前述のプロアゲの聖ミケーレでしか見かけな
かったT字型のプランで、ここでは袖廊には小
祭室は設けられてはいない。また、構造的に見
ると、身廊と袖廊とは一体化しておらず、袖廊
の建築は少し後に行われたのだと思う。

 身廊は簡素と言うよりも殺風景で、両側の高
い壁の圧迫感で押しつぶされそうな気分になっ
た。この量感こそが、不器用に石を積んだだけ
の手法で成り立っているロマネスクの本意だっ
たのだが、間口の狭さに比べてのこの異様な高
さには一寸ついていけない気分だった。
 気になって調べたのだが、間口は6m30、
高さは14m40、聖堂の長さは28m60と
いうことだった。

 この聖堂の見所はやはり写真の西正面ファサ
ードである。三段に仕切られたアーケードは、
微妙に異なる色を見せる切石の配色の妙が効果
的で、躍動的で旋律豊かなメロディーを聴いて
いるような思いがしていた。
 
 
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ボナルカド聖マリア教会
   Bonàrcado/Chiesa
      di Santa Maria
     
      Oristano 
          
     
 
 こんなに撮影条件の悪い場所も珍しかった。
強い日差しで全くの逆光なのだが、この方向以
外には聖堂全体を撮る場所が無かったからであ
る。
 前述のボーザからは近いので、赤い石の素材
は共通しているようだ。
 12~13世紀の建造で、プランは何とも変
則的だ。単身廊の身廊部分に、三廊式の側廊を
付けた袖廊がある、としか説明が付かない。写
真で見ると、手前は三廊式だが、鐘塔から先は
単身廊になっているのである。
 柱や壁は煉瓦のような切石が積まれていて、
とても簡素で端正に見えた。13世紀という時
代にしては古風なのだが、それは島の閉鎖的な
部分を示しているのかもしれない。ボーサのゴ
シック的ロマネスクと比較すると、面白い考察
が生まれるかもしれない。  
 11世紀建造の
Madonna di Bonarcatu
いう小堂
が聖堂の
手前にある。古式のギリシャ
十字形聖堂で、13世紀に改築されたという。
 
 
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シニス聖ジョヴァンニ教会
 Sìnis/Chiesa di San Giovanni
     
      Oristano 
          
 
 
 シニス半島に残るフェニキア人の遺跡タッロ
Tharros へ行く途中で、この教会に寄って
みた。
 何とも古式で、ドームの存在からも一目でビ
ザンチン風教会だなと判る。
 三廊式というよりもほぼ正方形で、左右各3
本の柱と背の低いアーケードが仕切っているの
は、やや後世の改築かなという印象だった。
 案の定、祭室に最も近い交差部のドームと、
それを支える柱が6~7世紀のもので、それ以
外は9~11世紀の建築なのだそうだ。年代の
巾は、諸説を意味する。
 写真は後陣部分で、手前が袖部分に当たる。
中央ドームも見えている。
 いずれにせよ、11世紀以前の建築であり、
サルデーニャでも異彩を放つ教会の一つである
ことは間違いない。
 教会建築が様式化され、体裁を整える以前の
ビザンツ世界らしい、荒々しい風貌が残る魅力
的な教会だった。
 
 
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サンタ・ジュスタ(オリスターノ)
   
聖ジュスタ教会
  Santa Giusta (Oristano)/
    Chiesa di Santa Giusta
     
      Oristano 
          
   
 
 サルデーニャ島の四つの県の一つ、オリスタ
ーノ県の県庁所在地である
Oristano オリス
ターノの郊外南部に位置している。
 カリアリへ通じる国道に面していて、車から
は決して見逃すことは無い。

 聖堂は12世紀の建造で、三廊式の身廊と一
段高くなった内陣があり、階段を下りたその下
は創建時の地下礼拝堂クリプタになっている。
 クリプタは低い交差穹窿の天井で、6本の円
柱が並ぶ荘重な雰囲気の空間だった。低い位置
に柱頭があるが、彫刻に見るべきものは無かっ
た。
 身廊の列柱は祭室も含め、左右に各7本づつ
がアーケードを構成している。柱頭彫刻はアカ
ンサスなどの植物模様で、ローマ時代の建築材
を利用したものらしい。さらに大理石の円柱や
花崗岩のものも見られる。

 ファサードの扉口の左右側柱上に、二頭の獅
子像が彫られている。単調なファサードにあっ
て、心を和ませてくれる存在となっている。
 写真は聖堂後方から眺めた後陣と鐘塔で、い
かにも石を積み上げたという堅牢なイメージで
ある。付け柱とアーケードの彫り込みが深いか
らだろう。
 鐘塔はロマネスク様式だが、後世の築造にな
るものらしい。

 オリスターノの大聖堂
Duomo で、有名な
ダニエルとライオンのレリーフを探したが見つ
からなかった。  
 
 
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ドリアノーヴァ
    聖パンタレオ教会

  Dolianova/
    Chiesa di San Pantaleo
     
      Cágliari 
          
 
 
 カリアリの北に位置する小さな町だが、著名
な教会が数箇所も在る古い町である。
 この教会は町の中心からはちょっと離れてお
り、門の中には建物に囲まれた広場がある。神
学校か修道院のような雰囲気で、広場に面して
この教会が建っていた。
   
 12~13世紀の創建で、三廊式聖堂は30
m近い長さがある。しかし、側廊を仕切るアー
ケードには左右各3本づつの柱しかない。
 大きなスパンのアーチを受ける柱頭に、写真
のような奇妙な彫刻を見ることが出来た。この
人物群像が何を表現しているのかは定かではな
いが、サルデーニャでは人物像の彫られた柱頭
彫刻は余り多くは見られないので、いかにもロ
マネスク的なこの彫刻がとても貴重な存在に思
えた。
 他にもキリスト誕生や、三博士礼拝などを主
題とした柱頭がある。
 ファサードや聖堂の壁面にも、多くの彫刻を
見ることが出来る素晴らしい教会だった。
 
 
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ウタ聖マリア教会
  Uta/Chiesa di Santa Maria
     
     Cágliari 
          
 
 
 カリアリの北西23Km余りに位置し、町から
やや離れた荒野の中にこの教会が建っている。
周辺は公園の様に整備されているのだが、鉄柵
に囲まれた教会へ立ち入る事は出来なかった。

 聖堂は12世紀の建造で、外観からも三廊式
の身廊であることは想像出来る。
 色々な資料から、片側4本づつの列柱で構成
されており、祭室部分は三段の石段で高くなっ
ている、と推定できる。そして、小さな半円形
の後陣が、外側に張り出している。
 聖堂四方の壁面がロンバルディア帯のような
アーケードで飾られており、そのアーケードの
持ち送り部分に、色々な意匠の彫刻が施されて
いた。
 簡素だが隠れた部分で良い仕事がしてある、
という言い方が最も適切かもしれない。
 簡潔明快な後陣の姿を見たかったのだが、鉄
柵内へ入る手段はとうとう見つからなかった。
 
 
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ヴィッラスペチオサ
   聖プラタノ教会

  Villaspeciosa/Chiesa
    di San Platano
     
      Cágliari 
          
 
 
 ウタの南にある町で、町外れの荒野を見晴ら
す高台にこの奇妙な教会が建っている。
 どう変わっているのかは写真で見る通り、二
つの半円後陣を持つ、二廊式の聖堂だからなの
である。
この様式は珍しい。
 12世紀の建築で、ファサードも含め、あち
こちから資材を寄せ集めたかのような多様な石
材が用いられている。
 白い大理石の切石をはめ込んで作った円形の
幾何学模様や、連続する花柄のレリーフなどが
ファサードに散りばめられている。それらが当
初からこの場所にあったのかどうかは不明だ。
 同じ形の扉口が二つ並ぶファサードのスタイ
ルはユニークだった。
 この建築は、やはり写真の角度で眺める後陣
が最良だろう。この聖堂のユニークさと、捨て
難い魅力が感じられるからである。
 身廊は真ん中に並んだ二本の円柱が作るアー
ケードによって、左右に仕切られている。
 
 
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トラタリアス
  聖マリア・ディ・モンセッラート

 Tratalìas/Chiesa di Santa
   Maria di Monserrato
     
      Cágliari 
          
 
 
 13世紀初頭の建築で、今まで見てきた聖堂
と同様の三廊式の身廊と半円形の後陣を配して
いる。
 この教会のファサードは、縦の線より横の線
が強調された意匠で、それ故にどっしりと構え
たイメージが強い。
 積まれた石は煉瓦のような切石で、寸分の隙
間も無いほどきっちりと積まれているので、端
正だがやや表情に乏しい物足りなさも感じてし
まう。
 身廊と側廊を仕切るのアーケードは、五本づ
つの角柱で構成されている。柱には薄っぺらな
柱頭しか無いので、何とも殺風景に感じられて
しまう。
 南側扉口のまぐさ石には、向き合った二頭の
獅子が彫られている。ロマネスク的な図案化さ
れた図像で、正面のファサード装飾と共に、面
白味に欠けそうな聖堂を単調から救ってくれて
いる。
 淡いピンクや黄色に塗られた周辺の土壁の家
並がユニークで、村の路地歩きに夢中になって
時間を忘れてしまった。
 
 
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カリアリ聖サトゥルノ教会
  Cágliari/Chiesa
      di San Saturno
     
      Cágliari 
          
 
 
 サルデーニャ州の首都であるこの町は、港か
ら続く斜面に広がった大都市で、カルタゴ、ロ
ーマが居住した古い町である。
 下町地区に建つこの聖堂は、5~6世紀に建
てられたギリシャ十字のドームの跡である。
 正方形部分を囲む四つのアーチに支えられた
ドームの東側に、写真のロマネスク三廊式の内
陣が11~12世紀に付け加えられた。
 現在ドームのアーチ部分の空間は、大きなガ
ラス張りとなっている。
 ドームの南北翼廊部分では、現在発掘調査が
進められていた。
 正面西側は12世紀の外壁が残っているが天
井は無く、現在はアトリウムの様な中庭になっ
ている。
 近年まで立ち入り禁止で、内部の見学は出来
なかったが、現在は教会内部のみ見学出来る。
 後陣などの見学は、発掘現場が危険なため断
られてしまった。
 カリアリに泊まった翌日、私達は郊外の空港
からローマへと飛び、サルデーニャの旅を終えた。   
 
 
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