東方ビザンチン美術紀行 (4)    
    トルコ・シリア・ルーマニアのビザンチン教会
      
      
                             
            
   重要なビザンチン教会の残る、旧
ユーゴスラビアのセルビア、コソボ、
モンテネグロをはじめ、クロアチア
やボスニア・ヘルツェゴビナ、マケ
ドニア、ブルガリアなどのバルカン
諸国へは行ったことがない。
 おまけに、アルメニアやグルジア、
ロシア各地もほとんどが未訪のまま
なのである。
 そんな不完全な状態で「ビザンチ
ン紀行」とは甚だおこがましいのだ
が、訪ねたことのある国と教会をま
な板の上に載せるだけでも、きっと
何かが見えてくるかもしれない、と
思いサイトを立ち上げた次第。
 何とぞ、その辺りを御理解のうえ、
御笑覧賜れば望外の喜びである。

        
         

           サン・シメオン教会
     
(カラート・サマーン/シリア)
 
           
         
   

      
        
       イスタンブール旧アヤ・ソフィア大聖堂
          Istanbul/Ayasofya Müzesi
          
                   イスタンブール県 Istanbul トルコ
              
     ローマ帝国の偉大さを回復すべく、6世紀半ば
  にユスティニアヌス帝によって建てられた壮大な
  大聖堂である。
   15世紀半ばに征服王メフメトによってイスラ
  ム・モスクに変えられるまでは、キリスト教世界
  最大の教会として君臨していた。
   巨大なドームの真下に立って見上げれば、人知
  を越えたこの建築のスケールが私達に大きな感動
  を与えてくれる。

   聖堂内は多くのモザイク画で装飾されているの
  だが、最も感動したのが写真のキリスト像だった。
   ギリシャ語でデエシス
(Deesis) と呼ばれる請願
  図で、中央にキリスト、左に聖母マリア、右に洗
  礼のヨハネが並ぶ構図になっている。
   罪深き大衆のために、聖母と聖ヨハネが審判者
  キリストに対して「とりなし」の祈りを捧げる場
  面なのだそうだ。最後の審判を象徴しているよう
  に思える。
   階上のギャラリー南端西壁に在るこのモザイク
  は13世紀末の作で、やや剥落があるものの、慈
  愛に満ちた心的表現が成されたデッサンの素晴ら
  しさと、荘厳な色彩の見事さが印象的だった。

   他にも数あるモザイクの中で、特に拝廊の扉口
  上にある聖母子のモザイクを見逃してはならない。
  10世紀末の作品で、コンスタンティヌス帝がこ
  の街を聖母子に奉献している場面である。   
                                               

      
        
       イスタンブールコーラ聖堂 (旧カーリエ・モスク)
          Istanbul/Kariye Müzesi
          
                   イスタンブール県 Istanbul トルコ
                   
     ビザンチン時代の市街を防御していたテオド
  シウスの城壁
(Surlar) の近くに、この聖堂の遺
  構は建っている。
   5世紀の初めにビザンチンのコーラ聖堂(救
  世主教会)として創建され、15世紀オスマン
  朝以後はモスクとして使用、現在は博物館とな
  っている。現在の建築は、11世紀末に建造さ
  れたものである。

   堂内を埋め尽くす鮮烈なモザイクは、モスク
  時代には漆喰で塗りつぶされていたもので、近
  年になって発見された。それだけに、往年の素
  晴らしい輝きが復活した、とも言えるだろう。

   13〜14世紀に創作されたモザイクは、ラ
  ヴェンナ以東では最高のものと言われる程で、
  確かに質量共に見応え十分であった。
   堂内へ入ってすぐ目に付くのが、聖堂を奉献
  されるキリストと聖母の像だろう。
   聖母の生涯や、キリストの逸話が次々と展開
  され、正にモザイク美術館に居るような錯覚さ
  え覚えるほどだ。
   身廊に描かれた「聖母の永眠」は、ビザンチ
  ン教会では必ずと言ってよいほど取り上げられ
  るテーマである。
   また、パラクレシオンという礼拝堂には、ア
  ダムとエヴァを救済するキリストを描いた有名
  なフレスコ画がある。黄泉(よみ)へ降りるキ
  リスト、とも呼ばれる傑作だ。
                

      
        
       ギョレメ (カッパドキア)トカル・キリセ
          Göreme/Tokalu Kilise
          
                   ネヴシェヒル県 Nevsehir トルコ
                    
     ビザンチン時代の岩窟教会が密
  集するギョレメ野外博物館の少し
  外側にある、カッパドキアを代表
  する岩窟教会で、創建は10世紀
  と言われている。
   カッパドキアでは最大規模の聖
  堂で、とても岩山をくり抜いて造
  営された聖堂とは思えぬ程の建築
  美を誇っている。
   新旧二つの教会が結ばれた形に
  なっているが、新旧の建造年代に
  1世紀も差は無いそうである。
   何より素晴らしいのが、壁面や
  天井を埋め尽くす様に描かれたフ
  レスコ画である。
   写真はキリストの生涯を伝える
  もので、一連の作品に共通するの
  が背景のブルーの鮮やかさだろう。
  以後私達は、これを“トカル・ブ
  ルー”と呼んで賞賛した。
   素朴な列柱が残る地下の礼拝堂
  を見逃してはならない。
                

      
        
       ギョレメ (カッパドキア)エルマル・キリセ
          Göreme/Elmalu Kilise
          
                   ネヴシェヒル県 Nevsehir トルコ
                            
     ギョレメ野外博物館を代表する
  岩窟教会で、名前は“リンゴの教
  会”を意味するそうだ。
   堂内には大ドームを中心にして
  八つの小ドームが構築されており、
  そのいずれにも写真のような目の
  覚めるように鮮やかな色のフレス
  コ画が描かれている。
   キリストの生涯が描かれたもの
  で、多くの聖人像も見ることが出
  来る。
   それにしても、迫害から逃れ、
  岩窟に聖堂をくり抜いた僧侶達に
  よって描かれたこれらのフレスコ
  の美しさには、驚かざるを得ない。
  想像を絶するような深い信仰心に
  よって産み出された、強烈な説得
  力を示している。
   “リンゴ”はどこにも見当たら
  なかった。以前入口にリンゴの木
  が立っていたという説と、絵の中
  の天使が持っているという説があ
  るそうだ。
                

      
        
       チャヴシン (カッパドキア)チャヴシン・キリセ (聖ヨハネ教会)
          Çavusin/Çavusin Kilise
          
                   ネヴシェヒル県 Nevsehir トルコ
                      
     この集落はギョレメとアヴァノ
  ス
(Avanos) の中ほどにあり、ゼ
  ルヴェ谷
(Zelve) への分岐点にも
  なっている。
   この岩窟教会は町の中央通りに
  面していて、堂内へは狭い入口に
  架かった鉄の梯子を上っていく。
   内部は意外と広く、半円筒の天
  井に描かれたキリスト伝を中心に
  して、両側の壁面や扉口のアーチ
  など、壮麗なフレスコ画で隙間無
  く埋め尽くされていた。
   四天使に支えられた玉座のキリ
  スト像のほか、受胎告知や訪問と
  いった聖母伝、三王礼拝やエジプ
  ト逃避、洗礼や磔刑などといった
  聖書を代表するような逸話が、ま
  るで絵巻物のように描かれている。
   絵で読む聖書、というような意
  味合いの、庶民の啓蒙を目的とし
  た図像であったのだろう。
                

      
        
       ソアンル渓谷 (カッパドキア)クブベリ・キリセ
          Soganlu Vadisi/Kubbeli Kilise
          
                   ネヴシェヒル県 Nevsehir トルコ
                  
     ギョレメから南へ50Km離れ
  たイエシヒサール
(Yesihisar)
  近い山深い谷間で、おそらくここ
  の岩窟教会群を知る人はほとんど
  いないはずである。
   写真は奥がクブベリ教会で、手
  前は隠された教会と呼ばれるサク
  ル教会
(Saklu) である。
   いずれも岩を削ってクーポラを
  切り出し、内部をくり抜いて岩窟
  聖堂としてある。
   ドームのある内陣や、柱頭の施
  された円柱や半円アーケード、さ
  らに壁面には飾りアーケードまで
  意匠されており、あたかも地下の
  クリプトに入ったような感がある。
   かなり色は剥落してしまってい
  るが、赤を主体としたフレッスコ
  画が残っており、聖母や聖人の像
  を確認することが出来る。
   ソアンルには小規模だが多くの
  ビザンチン時代の岩窟教会が残さ
  れている。   
                

      
        
       ウフララ渓谷 (カッパドキア)ユランル・キリセ
          Uhlara Vadisi/Yulanlu Kilise
          
                   イスタンブール県 Istanbul トルコ
                    
     ギョレメの西南約40Kmに位置する全長12
  
Kmの深い渓谷で、切り立った断崖に掘られた岩
  窟教会が無数に点在する魅力的な場所である。
   アクセスは両端の村(ウフララとベリスルマ)
  からか、渓谷中間の階段のみである。
   渓谷内は全て徒歩となる。

   私達は2日に分けて、渓谷内に散在する岩窟教
  会の大半を観て歩いた。
   このユランル教会は別名“蛇の教会”と呼ばれ
  ており、その名の由来となった三つの頭を持つ蛇
  の絵があるらしいのだが、堂内が暗く見逃したよ
  うで残念ながら発見出来なかった。

   聖堂内のフレスコ画は写真でも判るように、か
  なり剥落が激しい。それでも、天井や壁面を埋め
  尽くす様に描かれた聖人や殉教者の像は、実に丹
  念に制作されており、色も鮮明に残っている。
   特に、濃紺を主体に描かれた“四天使に支えら
  れる玉座のキリスト”や“聖母子”像には、作者
  の並々ならぬ技量が見て取れたのだった。

   この教会とシュムビュルル・キリセ(ヒヤシン
  スの教会)、アーチアルトゥ・キリセ(木の下の
  教会)の三教会は、ウフララ渓谷中間点の階段近
  くにあるので、それほど歩かず比較的楽に見学出
  来るだろう。

   ウフララやギョレメなど、他の洞窟教会の写真
  
を「トルコ/カッパドキアの洞窟教会」に掲載し
  てありますので御参照ください。

   
 
                

      
        
       ウフララ渓谷 (カッパドキア)コカル・キリセ
          Uhlara Vadisi/Kokar Kilise
          
                   ネヴシェヒル県 Nevsehir トルコ
                     
     私達はウフララの村から谷へ降
  り、渓谷沿いにベリスルマまでを
  走破した。名も知らぬ洞窟教会が
  無数に並んでいるので、随所に難
  所のある道中も飽きることは無い。
   この教会は“香りの教会”と呼
  ばれていたのだが、かつては一体
  何の香りが漂っていたのだろうか。

   ここも内部は半円筒形のお堂で、
  写真は天井に描かれたキリスト像
  である。玉座に座したキリストの
  光輪を、四人の天使が支えており、
  十二使徒が左右六人づつ並んでい
  る。背景の緑色が鮮やかだった。
   この絵に続いて、中央に“神の
  手”が見える大きな十字架像が描
  かれている。
   とても美しい“受胎告知”が壁
  面に見られたが、異教徒によるも
  のなのか、表面が刃物でかなり傷
  つけられていた。
                

      
        
       トラブゾンアヤソフィア
          Trabzon/Ayasofya Müzesi
          
                   トラブゾン県 Trabzon トルコ
                    
     街の中心から西へ4Km行った黒海沿岸の景勝
  地に建つ、赤い屋根が印象的な旧ビザンチン教
  会である。
   創建は5世紀と言われているが、現在の建築
  は13世紀半ばの後期ビザンチン様式である。
   15世紀半ばにオスマンによって征服されて
  以後は、他の教会と同様にイスラムのモスクと
  して使用され、近年にはロシア軍の弾薬庫にな
  っていたこともあったそうだが、現在は博物館
  として一般に公開されている。

   中央にドームのあるギリシャ十字形の聖堂で、
  写真はドーム直下から祭室方向を眺めたもので
  ある。
   正方形を「井」形に区切ったようなプランで、
  ドームが中央の一つだけであり、円蓋部分が平
  らになっているのはグルジアの影響とのことだ。
 
   祭室の天井に描かれているフレスコ画は「玉
  座の聖母子像」であり、さらにその上部には光
  輪に浮遊するようなキリスト像を四人の天使が
  支える図柄となっている。カッパドキアの石窟
  教会でも多く見られたモチーフである。

   通路となっている拝廊の壁には、保存状態の
  優れたフレスコ画が並び、まるで美術館を見る
  ような気分になる。
   最後の晩餐やキリストの奇跡の場面、四天使
  の十字架などを見ることが出来た。
                

      
        
       スメラ聖母マリア修道院
          Sümera/Meryemana Manastulu
          
                   トラブゾン県 Trabzon トルコ
                      
     トラブゾンから南のエルズルム
 
(Erzurum) へと抜ける道を30Km
  行き、そこから渓谷に沿って人里
  離れた山岳地帯へと入る。
   深い断崖の上、絶壁に張り付く
  ようにして、この修道院が建てら
  れている。
   14世紀ビザンチン時代の建築
  で、写真のような外部に突き出た
  後陣部分以外の聖堂は、大半が洞
  窟内部をくり抜いて造られている。

   壮観なのが聖堂内部は勿論、外
  壁の全てを覆い尽くすようにして
  描かれたフレスコ画である。
   最も古いものは9世紀にまでさ
  かのぼれるそうだが、かなりの部
  分が19世紀に加筆された作品だ
  という。これは古そうだ、という
  部分が幾つか確認出来たが、結果
  的には判然としなかった。
   ここでは何と言っても、この修
  道院の戦慄的な立地条件を楽しむ
  べきだろう。
                

      
        
       カルスキュムベトル・ジャミイ (旧使徒教会)
          Kars/Kümbetlu Camii
          
                   カルス県 Kars トルコ
                 
     ここは背景にカルス城の見える
  場所で、街の北側に建つモスクの
  廃墟である。雑草が生い茂り、扉
  口が塞がれているので内部へは入
  れなかった。
   創建は10世紀で、アルメニア
  の王によって使徒教会として建て
  られた。
   16世紀にイスラム・モスクと
  して利用されたが、中央のドーム
  など基本的な建築構造は残ってい
  るという。玄関の柱廊部分は19
  世紀にロシア人が増築したもので
  ある。
   創建当初のキリスト教会として
  の面影を最も良く伝えているのが、
  ドームの赤屋根の下の壁面を囲っ
  て彫られた十二使徒の像である。
  写真では見にくいが、素朴な像容
  の珍しい浮彫だった。
                

      
        
       アニ遺蹟救世主教会
          Ani/
          
                   カルス県 Kars トルコ
               
     アニはカルスの東45Kmに位置する広大な
  都市遺跡であり、10世紀半ばにはアルメニア
  の首都だった場所である。

   その後11世紀半ばにビザンチンが侵略して
  以来、ペルシャ、大セルジュク、グルジア、ク
  ルド、モンゴルまでが目まぐるしくこの都を占
  拠し、そして荒廃していったのである。
   シルクロードの重要な拠点としての地理的条
  件が、この都に過酷な歴史を強要したかのよう
  に思えてならなかった。

   近年旧ソ連が統治した時代もあり、トルコと
  アルメニアの国境紛争地帯として、遺跡も立ち
  入りが難しい時代がついこの間まで続いていた
  のである。

   広大な遺跡の中にポツンと建つこの聖堂は、
  11世紀に建てられたもので、写真の後陣ドー
  ム部分を半分残すだけで、完全に瓦礫の山とな
  ってしまっている。
   窓の少ない、飾りアーチが連続する意匠が、
  とても美しく感じられた。
   ド−ムの向こう側は祭室で、無残にも崩壊し
  た残骸が積まれており、あたかもこの街の運命
  を象徴するかの如き光景だった。
                

      
        
       アニ遺蹟フェティエ・ジャミイ(旧大聖堂)
          Ani/Fethiye Camii
          
                   カルス県 Kars トルコ
                 
     遺跡のほぼ中央に建つ最大の
  建造物で、ビザンチンの建築家
  によって、10世紀末に大聖堂
 (カテドラル)として建造された。
   アニにはかつてアルメニア総
  主教庁が置かれていたが、歴史
  の変遷に従って、この大聖堂も
  イスラム・モスクになったりキ
  リスト教会になったりという、
  数奇な運命を背負って来たので
  ある。
   建築は方形のビザンチン様式
  で、当初には中央に円形ドーム
  があったのだが、数年前に崩落
  してしまったのだという。
   内陣は高い天井が印象的で、
  高さを求めるゴシック的な発想
  が感じられた。
   原野と化してしまった広大な
  遺跡に在っては、この余りにも
  大きな建造物ですら、ちっぽけ
  な人間の営みの残滓にしか過ぎ
  なく見えてしまう。
                

      
        
       アニ遺蹟聖グレゴリオ教会
          Ani/Resimli Kilise (Tigran Honentz)
          
                   カルス県 Kars トルコ
                 
     遺跡の最も東側に位置しており、周遊道から
  はかなり谷底へ降りて行かねばならない。
   異教徒の蛮行や災害によって激しく崩壊して
  いるものの、建築が最も創建時のまま保存され
  ている聖堂である。

   アルパ・チャウ
(Arpa Çayu) という渓谷が背
  後に続いているが、ここがアルメニアとの国境
  であり、アニの歴史的運命を最も象徴する場所
  だとも言えるだろう。

   トルコではレシムリ・キリセ
(Resimli Kilise)
  と呼ばれるそうで、これは“絵のある教会”を
  意味するそうだ。
   その名の通り、玄関間から中央ドームの周辺
  に至る壁や柱の全てにフレスコ画が描かれてお
  り、保存状態はかなり良好だった。
   聖書の物語や、聖グレゴリオの殉教場面など
  を描いた、アルメニア教会の歴史絵巻にもなっ
  ている。
   別名のティグラン・ホネンツは創建者の名前
  であり、この貴族によって13世紀前半に建て
  られたものである。

   この余りにも穏やかで美しい風景からは、背
  後に展開された激烈な歴史を想像することは至
  難だろう。 
                

      
        
       アクダマル島 (ワン湖)聖十字架教会
          Akdamar (Van Gölü)/Akdamar Kilisesi
          
                   ワン県 Van トルコ
                 
     アナトリア東部、イラン国境にも近い古代ウ
  ラルトゥ王国の首都であったワン
(Van) の町に
  滞在したことがある。
   町はトルコ最大の湖ワン湖に面しており、ア
  クダマル島は湖の西部、岸からは3
Kmの沖合
  いに浮かんでいる。アクセスには、小さな観光
  船が就航し、渡し船の役を務めている。

   この教会は、10世紀前半にアルメニア王に
  よって建てられた修道院の遺構である。
   建築は中央に円形ドームのある、アニの聖グ
  レゴリオ教会にも似た、典型的なアルメニア様
  式である。
   内陣にはフレスコ画が描かれているが、残念
  ながら像容がはっきりしない程にまで褪色摩滅
  してしまっている。

   何よりも注目したいのが、写真の正面ファサ
  ード壁面を中心に施されたレリーフ彫刻である。
   平板な浅浮彫ではあるが、内容豊かで密度の
  濃い傑作だろう。
   彫刻の主題の大半は旧約聖書の物語で、私が
  確認できただけでも、アダムとイヴ、アブラハ
  ムに訪れる三天使、ダヴィデとゴリアテ、ライ
  オンの洞窟のダニエル、巨大な魚とヨナ、瓢箪
  の日蔭に休むヨナ、聖ゲオルギウスの竜退治、
  などがあり、全部じっくりと見ていたら帰りの
  船には間に合わなかっただろう。
   レリーフの連続文様に、葡萄のモチーフが多
  く用いられており、アナトリアが古くからの葡
  萄産地であったことを証明している。   
                

      
        
       カラート・サマーン聖シメオン教会
          Qala'at Samaan/San Simeon      
          
                   アレッポ Aleppoシリア Syria
                
     シリアへ行くために、旅行社のパック旅行に
  参加した。
   従前より憧れていたこのカラート・サマーン
  が旅程に入っているツアーを探し、ようやくそ
  の夢が実現した。

   アレッポ
(Aleppo) の西北50Kmに在る町で、
  トルコのアンタクヤ
(Antakya) に通じる要衝の
  地でもある。

   36年もの間、死ぬまで柱の上で修行したと
  される聖シメオンを記念して、5世紀末に創建
  された修道院である。

   聖シメオンの柱があったとされる場所を中心
  とした八角堂(写真)があり、その四方に三廊
  式のバシリカ聖堂が十字架状に延びているとい
  う、何とも特殊なプランをもっている。
   東側聖堂には、左右に小祭室が並ぶ三祭室が
  設けられており、ここが本来の聖堂の役割を果
  たしていたものと思われる。
   三廊式の細長い身廊、大小三つの祭室、半円
  アーチの輪郭に施された縁飾り、円柱と柱頭の
  彫刻など、ビザンチンというよりも、むしろロ
  マネスクの源流を見る思いだった。

   聖堂全体の正面は八角堂の南に延びた三廊堂
  で(このサイトの表紙写真参照)、三つのアー
  チと破風で成り立っている。西側でなく、南側
  を正面としたのは、古代シリアの住宅形式に倣
  ったものだそうだ。
                

      
        
       クルテア・デ・アルジェシュクルテア修道院
          Curtea de Arges/Manastirea Curtea
          
                   ワラキア地方 (アルジェシュ県) Argesルーマニア Romania
               
     ブカレスト (Bucuresti) でレンタカーを借り、
  シギショアラ
(Sighisoara) やブコヴィナ地方へ
  と向かう途中で、このワラキアの古都に立ち寄
  ってみた。

   この修道院聖堂は16世紀初頭に完成された
  建築で、この時は中央の主円蓋が修復工事中だ
  った。
   写真では判らないが、その主円蓋の東側は主
  祭室であり、南北に側祭室を設けてあるので、
  半円形の祭室が三つ葉型に飛び出している。

   何より特徴的なのが、聖堂外壁の装飾だろう。
   写真で見るように、円形や方形の浮彫石板や、
  帯状の連続文様彫刻で飾られている。
   おそらくはアルメニアやイスラムの影響だろ
  うと考えられる。
   全体的に新しい建築のように見えるのは、近
  代になって大掛かりな修復が成されたからだそ
  うだ。

   内陣の床には幾何学文様のモザイクが敷かれ
  ており、正面祭室の円形天井には二天使を従え
  た聖母子像のフレスコ画が描かれていた。
   ビザンチン特有のイコン画が描かれた衝立が
  燦然と輝く、大層華やかな聖堂だった。
                

      
        
       スチャヴァスチェヴィツァ修道院
          Suceava/Manastirea Sucevita
          
                   ブコヴィナ地方 Bucovina ルーマニア Romania
                  
     スチャヴァの町に滞在し、フレスコ壁画で著
  名な五つの修道院も含め、世界遺産に指定され
  たあちこちの修道院をレンタカーで巡った。

   スチャヴァの西北約60
Kmにある修道院で、
  フレスコ画の保存も良く、写真の通り優美な建
  築であるにも関わらず、何故かここだけが世界
  遺産には指定されていない。

   16世紀後半の創建で、修道院の敷地の規模
  はこの地方では最大のものである。

   写真は東南から撮ったものだが、こちら側の
  壁面には数え切れないほどの聖人や天使の像が
  描かれている。
   聖堂左側の南壁には、キリストの系譜を描い
  た“エッサイの樹”が綿密に描かれている。エ
  ッサイから、その子ダヴィデ王へと繋がってい
  くのである。
   北側の壁に有名な“天国への梯子”を見るこ
  とができる。斜めに渡した梯子を登る修道士達。
  右上には祝福する天使の群れ、左下には悪魔に
  誘惑されて落ちていく修道士が壮絶に描かれて
  いる。
   外壁に描かれたフレスコ画だが、500年以
  上も経っているとは思えぬほど鮮やかな色彩を
  呈している。   
                

      
        
       スチャヴァモルドヴィッツァ修道院
          Suceava/Manastirea Moldovita
          
                   ブコヴィナ地方 Bucovina ルーマニア Romania
                  
     前述のスチェヴィツァからは、
  西南に35Kmしか離れていない。
   聖堂は16世紀前半に創建され
  たもので、西側ファサードに四本
  の太い角柱のある玄関間が設けら
  れている。
   柱や壁の全てが、隙間無く鮮や
  かなフレスコ画で覆い尽くされて
  いることに感動する。
   玄関の壁に描かれた赤い天国へ
  の河と、地獄図が印象的だった。
   写真は南側の壁に描かれたフレ
  スコ画で、最下段にビザンチンの
  都コンスタンチノープルを襲撃す
  るペルシャ軍との戦闘場面が、一
  連の絵巻物のようにして連続的に
  描かれている。
   中央が海の向こうの砦で、右側
  に大砲を据えたペルシャの軍隊が
  見える。
   才能の感じられるデッサンで、
  ブコヴィナで一番気に入ったフレ
  スコ画だった。   
                

      
        
       スチャヴァヴォロネツ修道院
          Suceava/Manastirea Voronet
          
                   ブコヴィナ地方 Bucovina ルーマニア Romania
                 
     ここは前述のモルドヴィッツァ
  からは東南へ38
Km、スチャヴ
  ァからは西南へ36
Kmの位置に
  当たる。
   創建は15世紀後半で、中央円
  蓋の東に大きく祭室を張り出させ、
  南北に側祭室を三つ葉型に配置し
  ている。写真は、その東祭室と南
  側を写している。
   描かれているのは“聖人伝”で、
  多数の聖人像が丹念に描きこまれ
  ている。
   円蓋の西側は長方形の身廊で、
  さらに前室と玄関間が設けられて
  いる。
   フレスコ画が描かれたのは16
  世紀半ばになってからで、特に有
  名なのが玄関間西外壁の“最後の
  審判”だろう。
   青緑の地色が鮮やかで、選ばれ
  た聖人達の光背の金色がより美し
  く感じられた。

   アルボーレやフモールなど、他
  の修道院の写真を
ルーマニアの壁
  画修道院群に掲載してありますの
  で御参照ください。

     
                

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