Románico en España |
スペイン北西部 のロマネスク |
レオン・アストゥリアス・ ガリシア地方 |
León, Asturias y Galicia |
9世紀にサンチャゴ・デ・コンポステラでサ ンチャゴ(聖大ヤコブ)の聖遺物が発見され、 11世紀頃から巡礼は大いに盛んになった。 フランス各地を出発した巡礼路は、ソンポル ト峠 Puerto de Somport かイバニェタ峠 Puerto de Ibañeta でピレネーを越え、ナ ヴァラ Navarra の Puente la Reina プ エンテ・ラ・レイナで合流し一本の道となる。 私達は枝道に入りながら巡礼路上のロマネス ク教会を参拝し、レンタカーという安直な手段 ではあったが、真摯な気持でサンチャゴを目指 したのだった。 9~10世紀王朝美術の遺構や、初期ロマネ スクの聖堂を多数残している、オヴィエドを中 心としたアストゥリアス地方は見逃せない。 |
エル・アセボの村 El Acebo (León) レオンを出発した巡礼路は、アストルガ Astorga から険しい峠道となる。 フェロの十字架 Cruz de Ferro に詣で、峠を 下るとこの鄙びた村に着く。昔のままの素朴な家並 には、かつて大勢の巡礼が行き交った宿場の面影 が残されている。 |
■県と首都 ◆レオン (León) 地方 1 Salamanca (Salamanca) 2 Zamora (Zamora) 3 León (León) ◆アストゥリアス (Asturias) 公国 4 Asturias (Oviedo) ◆ガリシア (Galicia) 地方 5 Lugo (Lugo) 6 Ourense (Ourense) 7 Pontevedra (Pontevedra) 8 A Coruña (A Coruña) |
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アルメナーラ・デ・トルメス/ 聖母被昇天教会 Armenara de Tormes/ Iglesia de la Asunción de Nuestra Señora |
1 Salamanca |
多様な民族の歴史を残している文化都市サラマ ンカの町の西北22キロ辺りの谷間に開けた集落 で、教会は町のほぼ中央に建っている。 聖堂の基本プランは単身廊に半円形の後陣が付 いた全く素朴な建築である。身廊の天井は木造だ った。祭室の天井は交差ヴォールトで、両脇に袖 廊のような部屋が付設されているが、これは後世 の増設だろう。 聖堂南側に三つの開口部を持つアーケードが設 けられているが、これも後世のものらしい。 そのアーケードの中、聖堂の南側に美しいレリ ーフで飾られた扉口があった。写真はそのアーチ 部分のものである。大きな二本の帯状飾りアーチ や柱頭などに彫られた緻密な幾何学紋様や植物紋 様からは、イスラムのアラベスクが連想された。 事実、この教会の建設には、何人かのアラブのア ーティストが関与していたのだそうだ。 後陣の外観にも注目したい。窓は後世のものだ が、半円状の壁面は、二本の帯状装飾レリーフで 飾られている。上段は開いた花模様の帯であり、 下段はメダイオンの中に有翼の龍や他の動物像が 連続して彫られている。 |
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サモラ/プエルタ・ヌエヴァの 聖フアン教会 Zamora/Iglesia de San Juan de Puerta Nueva |
2 Zamora |
イスラムからのレコンキスタ(国土回復運動) 以後、この町には12世紀を中心として、数多く のロマネスク様式教会が建設された。 小生が調べた限りでも23箇所、門や柱頭だけ 残るものも含めれば、更に相当数の教会が密集す る奇跡の町、と言えると思う。 その内、特に印象に残った5つの聖堂を御紹介 したいと思う。 東西に細長い城郭都市サモラのほぼ中心、マヨ ール広場に面して建つ堂々たる聖堂である。大勢 の人々で賑わう広場からも、聖堂東側の後陣部分 に建つ鐘塔が目に入る。窓の無い単純な方形の壁 面だが、これは後世の建築だろうと思われる。 12世紀創建当初の面影は、聖堂南側に残され た写真のファサードだろう。 扉口にはサモラの特徴とも言える多葉飾りのア ーチが力強く彫られ、束ね柱の円柱がとてもユニ ークに感じられた。 連続する花紋様は丸で型で押したようで、反復 の面白さは有るが、豊かなイメジネーションから の創造とは言い難い。 ファサードの上部に薔薇窓が設けられている。 年代は不明だが、意匠の無骨さからはロマネスク 後期のものと考えられる。 |
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サモラ/サンタ・マリア・ ラ・ヌエヴァ教会 Zamora/Iglesia de Santa Maria la Nueva |
2 Zamora |
前述のマヨール広場から、真西に続く狭い石畳 の通りを少し行くと、右手に比較的大きな鐘塔の ある教会の建築が見えてくる。 聖堂の一番手前が半円形の後陣で、丸い周囲の 壁には七連の盲アーケードが意匠されていて先ず 圧倒される。 しかし、先へ進んで聖堂全体を眺めると、かな りの部分に改造が見られ、12世紀に建造された 当初の建築はイマジネーションの中にしか存在し ないように思えた。 現在の聖堂は単身廊に鐘塔のある玄関間、半円 形の後陣に左右の小祭室、という平面構造になっ ている。単身廊という構造そのものはプリミティ ブなものだ。 当初のイメージを保っているのは、どうやら後 陣部分だけだったようだ。 写真は後陣の盲アーケード一つおきに三つある 窓の内の一つ、南側の窓周辺のものである。 小さい窓がいかにもロマネスクらしく、更に柱 頭の彫刻が魅力的だった。主題の詳細は不明なの だが、素朴な人物像と植物の配置がたまらなく素 晴らしかった。 |
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サモラ/サンタ・マリア・ マグダレナ教会 Zamora/Iglesia de Santa Maria Magdalena |
2 Zamora |
旧市街を更に西へと進むと、通りに沿って建て られた背の高い堅固な造りの聖堂が現れる。12 世紀に創建されたとされる教会で、ここでもあち こちに後世の改造や増設があるものの、半円形の 後陣や単身廊の構造にはロマネスクの面影が色濃 く残されている。 身廊の天井は木造だったが、祭室部分だけは尖 頭ヴォールトで、半円ドームの後陣はリブ・ヴォ ールトという構造だった。 祭室との仕切り壁の手前左右に、四本の円柱に 囲まれた小礼拝堂が設けられている。ソーリアの San Juan de Duero に似た珍しい意匠が興味深 かった。 写真は、南側扉口の飾りアーチ・ヴシュールで ある。六重に見えるアーチは、四重のヴシュール と上下の飾りアーチで構成されている。 典型的なサモラの多葉飾りで、葉の浮き出た部 分もあり、なかなかの迫力を示している。 一番外側の飾りアーチには、植物の蔓と人間の 首が絡み合った連続紋様が彫られており、丸でケ ルトの図像の様に感じられた。 |
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サモラ/サンティアーゴ・ エル・ヴィエホ教会 Zamora/Iglesia de Santiago el Viejo |
2 Zamora |
Santiago de los Caballeros と呼ばれる12 世紀の教会で、旧市街の西城郭の外側直ぐ近くに 建っている。 レコンキスタの英雄エル・シド El Cid が騎士 称号を与えられた教会、とされる古い歴史を誇っ ているそうだ。 切妻型屋根の方形聖堂は単身廊、そして半円形 後陣が東側に突き出している。天井は木造だが、 これ以上は無いほど簡潔であり、建築の原点と思 えるほどの明快な魅力に満ちたプランである。 開口部が南壁の扉口だけ、というのも魅力に花 を添えている。 但し、ここでは、8本ある円柱の上に載る柱頭 に彫られた、彫刻を見なければならない。 写真は最も注目させられた作品なのだが、動物 と植物の間に群がる人間達、という以外、これと いった主題は発見出来なかった。人生の様々な葛 藤、といったところだろうか。 他の柱頭には、抱き合う妙なカップルや地獄で ライオンに食われている人間、怪鳥や四足の怪獣 など、一筋縄ではいかないような代物ばかりが彫 られており、柱頭好きにはたまらない世界が展開 する。 |
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サモラ/オリヴァレスの 聖クラウディオ教会 Zamora/Iglesia de San Claudio de Olivares |
2 Zamora |
前述の教会から旧市街の城壁に沿って100m ほど南へ歩いたドゥエロ川沿いに、割と開けた広 場が在った。教会は広場に面して建っており、大 きな半円形後陣と北側の扉口のあるファサードが 目に入る。 扉口のヴシュールには、様々な動物や植物の連 続紋様が彫られており、詳細に眺めれば興味は深 まるばかりだ。 ファサードから後陣へと続く軒持ち送りの彫刻 は、他とは比較にならない程秀逸な作品が見切れ ぬ程並んでいる。 写真は、単身廊の内陣に接する祭室壁面の柱頭 彫刻で、ケンタウルスが戦っている場面である。 二本の円柱上の柱頭の幅を上手く使っており、右 端の人魚像も個性的に描かれた傑作だろう。 サモラで、優れた柱頭を見るには、城壁の外が よろしいようだ。 |
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カンピーリョ/ ナーヴェの聖ペドロ教会 Campillo/Iglesia de San Pedro de la Nave |
2 Zamora |
ここはサモラの北西20キロにある、ドゥエロ 川に沿った村である。ダム湖底に沈む運命となっ た村の教会が、この地に移築されたものなのだと いう。 7世紀末に建造された西ゴート時代の遺構で、 切妻屋根の聖堂が十字に組まれたまことに素朴で 美しい建築である。 交差部には方形の採光塔が設けられており、扉 口は西と南にあるが、現在の出入りは南側になっ ている。 ビザンチンの聖堂にも似た十字形に交錯するア ーチ列が、落ち着いた空間を創出する。その静謐 さがたまらなく感動的だ。 写真は交差部柱頭のもので、格調高い彫りの絶 品だった。イサクを犠牲にするアブラハムが主題 で、神の手や子羊も描かれている。 他にも、ライオンの穴のダニエルなど、全て一 級品の様々な柱頭彫刻が残されている。 |
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サンタ・マルタ・デ・テラ/ 聖マルタ教会 Santa Marta de Tera/ Iglesia de Santa Marta |
2 Zamora |
サモラの北約70キロ、エスラ川 Rio Esla の 支流テラ Tera に沿って栄えた門前町である。 現在残っている教会堂は、11世紀に創建され た修道院の一部であった。 修道院の建物の一部から、教会の西正面扉口を 入ることが出来る。 単身廊で三つの梁間が設けられ、天井は尖頭ヴ ォールトで横断アーチが架けられている。 翼廊の付いたラテン十字形で、この交叉部分に 創建当初の建築が残っていた。写真は、南翼廊か ら北翼廊と祭室方向を写したものである。 やはり、美しく大胆な半円形アーチが創出する 空間の魅力は、これこそがロマネスクという感を 抱かせる。 不思議なのは、祭室や翼廊の後陣が全て方形の 平面であることである。後世の改造ではなく、当 初からのプランだそうだ。11世紀という年代か ら、初期ロマネスク的な影響があったのではない か、とも思われる。 アーチの下の柱頭彫刻が傑作揃いで、特に写真 中央の柱頭には、擬人化された魂が天使によって 昇天する場面が描かれている。見応えのある柱頭 である。 南門の扉口に、有名な巡礼姿のサンチャゴ像が あり、聖堂内に精巧なレプリカが置かれている。 |
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サン・ペドロ・デ・ラス・ ドゥエニャス/聖ペドロ教会 San Pedro de las Dueñas/ Iglesia de San Pedro |
3 León |
サハグンの町の郊外にこの小さな村が隣接して おり、私達はここにも立ち寄ってみた。 村の中央に建つこの教会が目的だった。 塔の形や内陣のプランは若干異なるものの、基 本的には三廊式バシリカ聖堂であり、赤煉瓦を基 調としたムデーハル様式である。聖堂建築は12 世紀末であり、サハグンの影響を受けたものと思 われるが、後陣などを見ると、よりイスラム色は 失せている。 建築の外観もさることながら、ここの見所は何 と言っても柱頭の彫刻に有るだろう。 写真の柱頭は、祭室と身廊の仕切りアーチの右 側のものである。柱頭の三面に七人の人物が彫ら れている。角のように見えるのは飾りで、各々巻 物を持っており、解説には Sept Moniales 七人 の修道女と書いてあった。珍しいモチーフで、い かにもロマネスク的な彫像となっている。 他にもライオンと人物が絡み合った場面や、奇 妙な顔を持つ鳥などが、私達を楽しませた。 |
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サハグン/聖ティルソ教会 Sahagún/Iglesia de San Tirso |
3 León |
レオンの手前約80キロに位置する古い町であ る。ミシュランのガイドブックにも載っていない 町だが、ロマネスク病患者には決して通り過ぎる ことの出来ない理由が有る。 特異な煉瓦建築の教会や修道院が、一つの町に 五ヶ所も残されているからである。 中でも重要なのが、次掲の聖ロレンツォ教会と 写真の聖ティルソ教会である。 微妙な意匠の差は有るものの、二つの教会建築 はとてもよく似ていた。最初にこちらを訪問した が、全体のバランスがとても美しかった印象が残 っている。 赤煉瓦のイメージはイタリアのロンバルディア やビザンチンに近いが、ここは勿論イスラムの影 響を受けた12世紀のムデーハル様式である。 単純なロンバルディア帯とはやや異なって見え るのは、オリエントのアラブ的なイメージが加わ っているからだろう。レコンキスタ(聖地回復) の名残とも言える。 聖堂はプリミティヴな三廊式バシリカ形式だ。 |
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サハグン/聖ロレンツォ教会 Sahagún/Iglesia de San Lorenzo |
3 León |
サン・ティルソから北東へ300m程歩いた所 に広場があり、そこにこの教会が建っている。と ても良く似ていて、最初は区別がつかないくらい だった。 こちらもムデハル様式で、12世紀の初めに創 建された煉瓦建築である。 尖頭アーチを中心とした三廊式で、三つの梁間 を設け、三っつの半円形後陣が意匠されている。 柱頭などの、装飾のための彫刻類は一切見られ ず、誠に清廉な美しさを見せている。ロンバルデ ィア帯と盲アーケードのみが壁面を飾っている。 シトー会の修道院でも感じることだが、装飾は 堕落の象徴なんだなと思わされてしまうこともあ り、それ程人を惹きつける魔力を持った建築であ る、ということなんだろう。 サン・ティルソの後陣が二層のアーケード装飾 に鐘塔の三層構造に対して、こちらは三層の後陣 に四層の鐘塔であり、詳細に眺めれば若干の違い が見えてくる。 どちらもサンチャゴ巡礼路に在って異彩を放っ ており、スペインならではの建築としてまことに 貴重である。 |
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サン・ミゲル・デ・エスカラダ/ 聖ミゲル教会 San Miguel de Escalada/ Iglesia de San Miguel |
3 León |
レオンへ着く前にもう一ヶ所欲張って、この不 思議な教会へ立ち寄ってみる事にした。レオンの 30キロ手前、見渡す限り荒野の只中である。 建築は遠見では素朴な外観としか見えないのだ が、近付くにつれこれは只者ではないなと思わせ てくる。そして、内陣に入ると同時に仰天させら れてしまったのである。 写真は、聖堂の身廊から眺めた祭室方向の列柱 で、イスラムの影響を受けたモサラベ様式と呼ば れる馬蹄形アーチが最大の特徴である。11世紀 プレロマネスク時代の建造になるそうだ。 聖堂のプランは単純な三廊式バシリカで、三つ の祭室を持ち、身廊と側廊を区切るアーチも全て 馬蹄形だった。まことに美しい空間である。 玄関間に飾られたレリーフには、葡萄の房やそ れをついばむ鳥をモチーフとした、西ゴート風デ ザインの図柄が見られた。 南面する玄関間のアーケードも、美しい馬蹄形 アーチで飾られている。 |
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ヴィジャヴェルデ・デ・ サンドヴァル/聖マリア修道院 Villaverde de Sandoval/ Monasterio de Santa Maria |
3 León |
レオンの手前、南東に18キロ、国道から西へ 少し入ったあたりの寒村に、この壮大な規模を持 っていたシトー派の修道院の遺構が建っている。 12世紀の創建と伝えられるが、現在残ってい るのは修道院のかつての建物の一部と遺構、そし て附属教会と回廊である。 訪問した時は回廊などが工事中で、見学は諦め ざるを得ないかと思った。が、出て来た工事の監 督と思しき中年男性が、聖堂内部を案内してくれ ると言う。 三廊式、三つの梁間、ラテン十字に三後陣とい うロマネスク様式が、後世にかなりゴシック化さ れたようだ。写真は北側廊から翼廊方向を撮った もので、半円横断アーチに交差オジーヴ穹窿が確 認出来る。工事中の中央身廊も同様の構造になっ ていた。柱頭はシトー派らしく、簡素な植物模様 が彫られているだけだった。 回廊は後世の改造が顕著だが、回廊北側の修道 院遺構には古いアーケードなのが残されていた。 案内の男性がくれた、回廊に実る熟したイチジ クは美味だった。 帰り際、墓地から見た三後陣は、なかなか見事 な眺めだった。 |
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レオン/聖イシドロ参事会教会 León/Colegiata de San Isidoro |
3 León |
かつてはレオン王国の都であり、巡礼路上最も 重要な町であった。大聖堂のステンドも見逃せな いが、私達が訪ねるべき場所は聖イシドロ教会と パンテオンしかない。 ここに掲載した写真は、南面右側扉口を飾る彫 刻で、タンパンには、左半分に昇天するキリスト と天使、右半分に復活するキリスト三人のマリア が描かれている。素晴らしい彫刻だ。壁面左の彫 像は聖パウロ、右は聖ペテロでこれもなかなかの 傑作であった。 聖堂内の建築や柱頭彫刻にも見るべきものも多 く、時間をかけて見学せねばならない。 |
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レオン/聖イシドロ美術館 (パンテオン) León/Museo de San Isidoro (Panteón Real) |
3 León |
聖堂建築はかなり後世に改修されているが、レ オン王室霊廟 Panteón Real 部分と前掲の扉口 だけは、11世紀創建のままである。 パンテオンへは、現在は隣接する美術館からし か入場出来ない。 ガイドが付き、完全な撮影禁止だったので、天 が与えてくれる奇跡を待つしかなかった。奇跡に よる恩恵は、上の写真一枚であった。 霊廟には九つの円蓋天井が在り、その全てが隙 間無くフレスコ画で覆われている。 聖書の場面や12ヶ月の仕事を表す図像など、 豊かな色彩と見事なデッサンに驚嘆させられる。 荘厳のキリストでは、福音書家の頭だけ動物とい う人間化表現が見られたり、細長いゴシック的な 人像が面白い。カタロニアのような強烈な色彩で はなく、牧歌的な穏やかさが感じられた。 それにしても、フラッシュレスの撮影を認める 余地は無いのだろうか。 |
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サンタ・マリア・デ・アルバス/ 聖マリア参事会教会 Santa Maria de Arbas/ Colegiata de Santa Maria |
3 León |
レオンからアストゥリアスのオヴィエドへ車で 行くには、現在は無料の高速道路A66号線を使 えば約一時間で済む。 だが、かつては旧国道630号線で、難所のパ ハレス峠 Puerto de Pajares を越えねばならな かった。 峠の途中に在る国道沿いの小さな村に、この参 事会教会が残されている。 教会の周囲を後世の建築が覆っているので、直 接見る事は出来ないが、聖堂には南と西に扉口が ある三廊式で、三つの梁間を持ち三つの後陣を配 している。特に珍しいのは、左右の absidiolos 小後陣が方形であることだろう。 身廊には円形の台座の上に立つ四本の束ね柱が 壮麗である。天井は交差リブ穹窿で、ゴシック的 な色合いが濃い。祭室のドームを覆う六本のリブ アーチの繊細な装飾からは、山奥ながら巡礼者の 施療院として発展してきたこの教会の歴史が伺え るようだった。 写真は、ヴシュール彫刻が見事な南門の全景で ある。縁も入れれば八重のヴシュールで、それぞ れに個性的な帯状彫刻が施されている。右上中程 に彫られた、二匹の蛇に噛まれる一匹の蛙の像が 印象的だった。 聖堂内全体が真っ暗で、撮影は難しかった。 |
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カンガス・デ・オニス/ ヴィリャヌエヴァの聖ペドロ教会 Cangas de Onis/Iglesia de San Pedro de Villanueva |
4 Asturias |
州都オヴィエド Oviedo からは真東へ約60 キロ、聖地回復運動発祥の聖地として著名なコバ ドンガ Covadonga の麓に位置している町であ る。かつて存在した修道院の遺構は、現在パラド ール(国営ホテル)に改造されているが、教会部分 だけが見事に保存されていた。 単身廊バシリカ聖堂で、三つの祭室が設けられ ている。従って、半円形の後陣が三つ突き出して いる。この部分と、現在は使用されていないが、 南側にある扉口とが創建当初の姿をそのまま留め ていると思われる。 写真は、その南扉口の柱頭彫刻の一つである。 現地の解説に「別れを惜しむ騎士」とあり、異説 もあるようだが、レコンキスタの歴史的なドラマ を想起させる。 四重のヴシュールや柱頭彫刻の素晴らしい門だ った。 |
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プリエスカ/ 聖サルヴァドール教会 Priesca/ Iglesia de San Salvador |
4 Asturias |
先述のカンガスから北西に進み、海岸に近い国 道へ出る。そこからまた少し山間部へ入った辺り に、数えるほどの戸数しかないこの集落がひっそ りと眠っていた。りと眠っていた。 教会の前に一軒の民家があり、我々の車を見る なり老婆が出てきて直ぐに教会の扉の鍵を開けて くれた。内部が見学出来るかどうか心配だったの で、何とも幸運だったと言える。 後述のヴァルデディオスやオヴィエドの一連の 遺構と共に、アストゥリアス美術を伝える貴重な 建築だったからである。 北側のギャラリーなど、後世になって聖堂の周 囲に付設された部分があるものの、聖堂の本体は かなり原形を保っているようだ。 基本プランは、方形の三廊式で、ナルテックス と三つの祭室を設けてある。ラテンのバシリカ聖 堂がモデルになったのだろう。 写真は、身廊から主祭室方向を写したものであ る。仕切り壁のアーチの奥は、奥行のある祭室と なっており、周囲の柱の柱頭には葉紋様などプリ ミティブな意匠が彫られている。 側廊の屋根は一段低くなっており、身廊上部の 開口部が採光窓になっている。ヴァルデディオス にとても良く似た構造である。 それにしても、様式の原点となる様なプリミテ ィブなものに、何故かくも感動するのだろうか。 |
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ヴィリャヴィシオーサ/ 聖マリア教会 Villaviciosa/ Iglesia de Santa Maria |
4 Asturias |
後述のアマンディとヴァルデディオスに行くた めに通過しただけの町だったのだが、歴史的な雰 囲気とロマネスクを暗示させる教会の案内板が、 私達を旧市街へと誘ったのだった。 聖堂は単身廊だがほとんどがゴシック様式に改 造されており、天井は木造で祭室は方形だった。 南側に付設されたギャラリーも、古い様式ながら 後世のものだろう。 唯一注目したのが写真の西側ファサードであっ た。上部の薔薇窓はゴシックだが、扉口は明らか にロマネスク様式だった。 左右に四本づつの円柱を設け、それぞれに柱頭 彫刻が施されている。意味不明ながら、猪か犬の ような動物と絡み合う人物像など、かなりユニー クな内容の彫刻群である。 そして更にユニークなのが、円柱に彫られた人 物像である。上部だけに彫られているので人像円 柱らしい細長い像ではないのだが、円柱と一体化 している点からは、正にロマネスク的な枠組の中 での造形と言えるだろう。 尖頭アーチの中心に聖母子像が見られるが、こ れは近年のアレンジだろうと思われる。 |
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アマンディ/聖フアン教会 Amandi/Iglesia de San Juan |
4 Asturias |
先述のヴィリャヴィシオーサから南へ3キロ登 った山上の町で、深い緑に覆われた絶景の丘にこ の聖堂が建っていた。 聖堂は方形の単身廊、ベイの無い木造屋根のバ シリカ形式という簡素なものだが、教会の創建は 12世紀末とのことであった。 半円アーチ壁の先が祭室になっており、この部 分は方形で天井は交差穹窿だった。その奥の半円 形後陣も含めた壁面は、上下二段に連なった盲ア ーケードが左右に四連づつ、後陣部分に六連、合 計十連のアーケードは壮観だった。 写真は、西正面の扉口である。凝った意匠の連 続紋様を、四重の尖頭アーチ帯装飾に見ることが 出来る。一番内側のアーチには柱頭が無いので、 側柱の基礎から一本に繋がっているのが珍しい。 聖堂の裏側へ回ってみると、見事な半円形後陣 があり、扉口の稲妻型の紋様が窓の上部アーチ装 飾にも用いられていた。 聖堂を囲むようにして、西正面に半円状の木造 アーケードが造られており、円柱の並ぶ様は何と も美しいのだが、意に反して後世の付設であるこ とが判った。 |
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ヴァルデディオス/ 聖サルヴァドル教会 Valdediós/ Iglesia de San Salvador |
4 Asturias |
オヴィエドから海岸へ出て、ヒホン Gijón の 町を経由し、Villaviciosa ヴィラヴィシオサで昼 飯を食べた。アストゥリアスを旅する雰囲気が、 何とも心地良い。 南下して谷間へ入ると、このいかにも古そうな 聖堂に出会う事が出来る。 修道院で見学の申し込みをして、ツアー方式の 案内を受ける。 9世紀に献堂された由緒有るプレ・ロマネスク 建築で、三廊式バシリカの南側に柱廊が付いた単 純なプランだ。 身廊の天井は高いが、側廊との境目のアーチ列 柱は低く、装飾の少ない太い角柱が鄙びた雰囲気 を感じさせる。 側廊の柱頭に、素朴な彫刻を見る事が出来る。 唐草や大きな葉の模様がいかにもプリミティブで あり、後に続くロマネスクを予感させるプレ・ロ マネスクの佇まいそのものである。 西ゴート様式の影響と思われる馬蹄形のアーチ や、窓にはめ込まれた透かし彫りなどには、イス ラムの影も微かに残されていた。 |
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ヴァルデディオス/ 聖マリア修道院 Valdediós/Monasterio de Santa Maria la Real |
4 Asturias |
前述のサン・サルヴァドール教会の在ったこの 谷に、13世紀初頭に開かれたのがシトー派のこ の修道院だった。現在は修道院がサン・サルヴァ ドール教会を管理している。 神の谷 Valle de Dios が地名の由来である。 度重なる洪水や変革のため、修道院は何度も改 修を余儀無くされてきた歴史を持っている。 比較的よく残っているのは附属教会部分だが、 三廊式の堅固な建築やスペインらしいバロック的 な金ぴか祭壇とはシトー派のイメージが結び付か なかった。それでも、堂内の柱頭には質素な植物 模様が目立ち、らしさが垣間見えた感じだった。 写真は、西側の玄関間の中に残された、西の扉 口である。現在の出入り口は脇へ写っているが、 従来は身廊から祭壇へと直線で結ばれる正門であ った。 タンパン部に彫刻が無いのはシトー派だからだ ろうか。三重のヴシュールには、アストゥリアス 特有の鋸刃模様とも言えそうなギザギザが彫られ ている。植物模様中心ながら、柱頭の一部に人物 の首部が彫られているのは、ちょっとした俗性の 表れだったのかもしれない。 修道院に宿泊するために訪れた巡礼者を迎える シスターの姿を見たが、巡礼者の施療院としての 歴史が未だに続いていることに感動した。 |
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オヴィエド/聖サルヴァドル 大聖堂(カマラ・サンタ) Oviedo/Catedral San Salvador (Cámara Santa) |
4 Asturias |
14~16世紀に建造されたフランボアイヤン ・ゴシック様式の大聖堂である。カマラ・サンタ は9世紀に創建された聖堂で、ロマネスク時代に 改造されその上に大聖堂が建てられたのである。 現在の聖堂の拝廊には、12世紀の十二使徒の 人像円柱が飾られている。後陣は宝の山である。 天使の十字架や勝利の十字架などが有名だが、 写真は正面に据えられた Arca Santa アルカ・サ ンタと呼ばれる十二世紀の聖遺物箱である。銀板 を被せたもので、四天使と十二使徒に囲まれた栄 光のキリスト像である。 カマラ・サンタには、荘厳な地下のクリプトも 在った。 |
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オヴィエド/聖ティルソ教会 Oviedo/Iglesia de San Tirso |
4 Asturias |
大聖堂前に広がるアルフォンソ二世広場の南側 に、初期キリスト教教会の遺構とされるこの聖堂 が建っている。 だが、聖堂の建築は後世に完全に改造されてお り、9世紀の名残りは大聖堂脇の路地を曲がった 所で見られる、写真の後陣の壁にのみ残されてい た。 はめ込まれたレンガ造り部分だけ、創建当初の 後陣の姿である。破風屋根や馬蹄形の三連アーチ からは、愛らしい祭室が想像される。 アンダルシアのコルドヴァなどで見た、アーチ 上のアルフィスというコの字型の囲いが興味深い が、イスラムの名残なのだろう。 |
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オヴィエド/ 聖マリア・デル・ナランコ聖堂 Oviedo/Santuario de Santa Maria del Naranco |
4 Asturias |
オヴィエドは、かつての王国であった現在のア ストゥリアス地方の首都である。 イスラムに破壊された町を再建したアルフォン ソ二世の子、ラミロ一世がナランコ山麓に建てた 離宮の遺構が二つ残っている。 この聖堂はその一つ、離宮の謁見の間が改造さ れたもので、9~10世紀のアストゥリアス様式 というプレ・ロマネスク建築である。 方形二階建て左右対称の建築で、二階は開かれ た大窓から採光される明るい内陣となっている。 天井は半円筒形ボールト、柱は螺旋形の束ね柱 で、柱頭はコリントス様式という複雑な意匠の装 飾である。 壁にはめ込まれたレリーフは、連続葡萄模様や 龍のようなオリエント的なモチーフを用いたメダ イヨンだ。拓本に採りたくなるような、精密で美 しい彫刻だった。 ごく最近訪ねた際には、従前とは違って入場料 を取り、ガイドツアーでないと聖堂内部へは入れ ないシステムになっていた。もっとも、そのおか げでクリプトを見る事ができた。 いつ訪ねても、素晴らしい環境の中に残された プレ・ロマネスクの、素朴ながら繊細な建築美に 感動する。 |
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オヴィエド/聖ミゲル・ デ・リリョ王室礼拝堂 Oviedo/Capilla Real San Miguel de Lillo |
4 Asturias |
ナランコ山に残るもう一つのアストゥリアス建 築で、サンタ・マリア聖堂のすぐ近くに建ってい る。いかにも歴史を感じさせる風情で、苔むし蒼 然たる風貌が素晴らしい。 後陣は改造が目立つが、内陣は複雑な構造なが ら、ビザンチンのような方形プランである。 壁面や門柱や柱頭に施された装飾のためのレリ ーフ彫刻は、オリエント的な縄目模様を中心にし て、見慣れぬモチーフが並んでいる。 特に門柱彫刻は有名で、ローマ時代の円形競技 場の場面が彫られている、と説明書には書いてあ ったが、ライオンとムチを持つ人間の場面は、ま るでサーカスの図ではないかと見えてしまった。 いくつかの窓に、アーチ列柱と透かし彫りがは め込まれている。プレ・ロマネスクとは思えぬほ ど、繊細な彫りが美しい。 オヴィエドの旧市街に残るサン・ティルソ教会 の後陣や、プラドス、そしてレナ、ノラ、ベンド ネス、サンティアネス、トゥニョン、ヴァルデデ ィオス、プリエスカ、というオヴィエド周辺に残 る9世紀アストゥリアスの教会を全て巡ってみよ うという気にさせられてしまった場所でもあった のである。 |
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オヴィエド/聖フリアン・ デ・ロス・プラドス教会 Oviedo/Iglesia de San Julián de los Prados |
4 Asturias |
町の東側に建つ9世紀前半の教会で、アストゥ リアス建築を今日に伝えるテキストのひとつとさ れている。 広々とした緑地苑の中に、歴史の厚さを秘めた 凛とした姿で、毅然と建っている簡素な聖堂に感 動した。 写真は、聖堂後方から後陣を眺めたもので、上 部の三連アーケードのある窓がいかにもアストゥ リアスらしい。 平面プランは玄関間の付いた三廊式で、三つの 祭室へと続く。特徴的なのは、身廊と祭室の間、 つまり袖廊に相当する部分、写真では最も高い屋 根の部分が横方向の身廊になっていることであろ う。 アーケードの柱は全て角柱で、ここには柱頭は 在るが彫刻は一切無い。聖堂内の壁全体を覆うフ レスコ画やロマネスク期のキリスト像は見逃せな い。但し、厳重な撮影禁止となっている。 |
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シアーニョ/聖エステバン教会 Ciaño/Iglesia de San Esteban |
4 Asturias |
オヴィエドからは、ナロン川に沿って東へ18 キロ、ラングレオ Langreo の町の東に在るやや 大きな集落である。 12世紀創建の教会は町の中心に建っており、 建築の大半は近代になってネオロマネスク様式で 復元されたものだそうだ。(案内板による) 唯一の見所が西正面の扉口である。三重のヴシ ュールには、ケルト的な鳥の口ばしのような連続 模様や、ノルマン風の稲妻模様が見られる。 写真は、印象的だった柱頭の彫刻で、聖エステ バン(聖ステファン)の殉教の場面だそうだ。か なり質の高い彫刻である。 |
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プリオリオ/聖フアン・ バウティスタ教会 Priorio/Iglesia de San Juan Bautista |
4 Asturias |
オヴィエドから西へ10キロほどの寒村だが、 教会を探して道の狭い集落の中を探すのに苦労し た。だが何と教会は、村外れの、Las Cardas の 町の近くに建っていたのだった。 後世の改築になる玄関間の中に、写真の西正面 扉口が設けらていた。 扉は開かなかったので、金網の隙間から堂内を 覗いてみた。単身廊に手の長い翼廊のある十字形 の聖堂で、正面に半円形ドームの後陣が見えた。 壁が一面白塗りなので幻滅だが、ロマネスクの構 造は生きているようだ。 見所はやはり扉口の彫刻で、特にタンパンには 二天使の下に、四福音書家のシンボルに囲まれた 栄光のキリストが彫られている。アストゥリアス ではこの手のタンパン timpano は珍しい。 人間・鷲・獅子・牛という、四つの象徴は最も 事例の多い配列になっているが、これはアーヘン の福音書やベアトス本に基づく図像だろうと言わ れている。 後陣の軒持ち送り canecillos を見るために、 聖堂後方へ回ってみた。蛇・鳥・魚まどの動物や 愛嬌たっぷりの人物たちなど、表現力豊かな彫刻 が並んでいる。日常と空想とが入り混じった不思 議な造形である。 |
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ベンドネス/聖マリア教会 Bendones/ Iglesia de Santa Maria |
4 Asturias |
オヴィエド西南の山間部の村に建つ、8~9世 紀創建のプレロマネスク教会である。 この珍しい構造の聖堂の大半は、近年に資料を 基にして再建されたものである。 写真は正面入口で、左右に控室のような部屋が あり、内部は横長の単身廊、左右端に突き出した 部屋が飛び出している。 方形の祭室は三つに区切られており、ビザンチ ンの井型がベースになっている様に思えた。 プレロマネスク特有の窓の格子模様や、煉瓦の 縁取りからはモダンなセンスすら感じられたのは 驚きだった。 |
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ポーラ・デ・レナ/ 聖クリスティナ教会 Pola de Lena/Ermita de Santa Cristina de Lena |
4 Asturias |
オヴィエドからレオンへと通じる高速道路で、 約30キロ南のレナ Pola de Lena の町へと向 かう。レオンからパハレス峠を越えて来た国道が たどり着く町でもある。 教会は町から数キロ南の北側の山の上に建って おり、車を止めてからしばらく山道を歩くことに なる。視界が開けた場所には草原があり、その先 にこの9世紀プレロマネスクの教会の孤高な姿が 見えた。 外観はオヴィエドのプラドスに似ているように 感じられたが、聖堂の内部に入って衝撃的ともい える想像外の構造に思わず感動をしていた。 写真は門を入って直ぐの壇上の祭室で、三つの アーケードが幻想的とも思える空間を創出してい たのである。壇上へは左右に設けられた石段で昇 ることになる。植物模様の彫られた障壁のような ものが置かれており、用途は判らない。後陣への 前室のような空間である。 さらに奥へは数段の階段があり、同じ三連アー ケードの中央アーチを入った所に祭壇が置かれて いた。方形の後陣である。 アーケードの窓状にはめ込まれた格子が、いか にもプレロマネスクを象徴しているようだ。 聖堂の平面プランは、アストゥリアスでは珍し いギリシャ十字の対称形である。 |
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ノラ/聖ペドロ教会 Nora/Iglesia de San Pedro |
4 Asturias |
オヴィエドの西15キロ、ナロン川の支流ノラ 川沿いに建つプレロマネスクの聖堂である。 長方形のバシリカ聖堂で、西側に玄関間が取り 付けられている以外には出っ張りは無い。 三廊式で三つの方形の後陣を備えている。写真 は後陣を斜め後ろから見たもので、三後陣それぞ れに長方形の格子を入れた窓が付いている。この 素朴さに何故感動するのだろうか。 聖堂内へは入れなかったので確認出来なかった が、後陣上部の三連アーケードのある部屋が階上 にあるという。だが、用途を含め未確認である。 しかし、ノラ川に映える、ロマネスクが花咲く 前のツボミの様に素朴な建築を見るだけで充分満 足したのだった。 |
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コルネジャナ/ 聖サルヴァドル教会 Cornellana/Iglesia de San Salvador |
4 Asturias |
オヴィエドの西40キロにある地方都市である。 オヴィエドからこの町を抜けて、アセボ峠 Alto de Acebo を越え、ルゴ Lugo へと通じる古い巡 礼路 Camino Primitivo がある。実際、この教会 の脇を歩く巡礼を数人見かけた。 11世紀創建の修道院教会だが、内部見学は出来 なかった。 正面は二本の鐘塔が“西の構え”のような形式だ が、様式はバロックだった。ロマネスクの建築は、 三つの半円後陣と三本目の鐘塔が見える写真の部分 だけだった。重量感に満ちた、なかなか見応えのあ る三後陣だった。 |
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サンティアネス・デ・プラヴィア/ 聖フアン教会 Santianes de Pravia/ Iglesia de San Juan Apóstol y Evangelista |
4 Asturias |
コルネジャナの北18キロにプラヴィアの町が あり、サンティアネスは北側のコミューンの一つ である。 教会の横に在るプレロマネスク美術館の方が、 教会の鍵を開け、内部を案内して下さった。 写真は正面玄関間部分で、中に扉口がある。 8世紀創建とのことだが、それらしい痕跡は柱 の一部と、馬蹄形アーチに微かにしか残っていな いような気がした。創建時の遺構の上に改築され た内陣には、洗礼所の跡も残っていた。 半円アーケードで仕切られた三廊式で、写真の 門上の格子窓部分は、階上のトリビューンのよう になっている。 |
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トゥニョン/聖アドリアーノ教会 Tuñon/Iglesia de Santo Adriano |
4 Asturias |
オヴィエドの西南、ナロンの支流トゥルビア川 Rio Trubia に沿って8キロ程登ったあたりに、 この小さな集落がある。 ファサードはプレロマネスクとは思えないよう な、バロック風の白塗り鐘楼門なのだが、その奥 にバシリカ式の聖堂が繋がっていた。 残念ながら聖堂内へは入ることが出来なかった が、予約をすれば案内していただけると聞いて少 々がっかりであった。 現在、南側にのみ翼廊のような方形の部屋が付 いているが、従来は北側にもあって十字形の聖堂 だったようだ。後世のロマネスク建築における、 鐘塔を建てるための交差部とは意味合いは違いそ うである。 仕方なく回り込んだ後陣部分の写真である。手 前の石壁との隙間が狭いため、この方向しか撮影 出来なかった。 お馴染みとなったアストゥリアスのプレロマネ スクの顔とも言うべき二連アーチ窓と、格子をは め込んだ三つの窓が嬉しい。付け柱までが美しく 見えてきてしまう。「プレロマネスク病」にかか る人の気持が判るようだった。 格子窓から中を覗いてみたら、白塗りになって はいたが、素朴な角柱の並ぶ三廊式の身廊が確認 出来た。フレスコ画は見えなかった。 |
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ラ・プラザ(テヴェルガ)/ 聖ペドロ参事会教会 La Plaza (Teverga)/ Colegiata de San Pedro |
4 Asturias |
前述のトゥルビア渓谷の更に奥へ20キロ入っ た谷間に開けた町である。 町外れに建つこの教会は、プレロマネスク建築 を土台として建てられている。 三廊式の長方形の聖堂で、方形の三後陣などの プランはプレロマネスクの継承だろう。 堂内の整然とした石積建築も魅力だが、何と言 ってもここでは低い位置に在る柱頭彫刻の数々だ ろう。 人物と動物、牛や馬、ロバや鳥などが中心に描 かれている。幻想と抽象が織りなす夢の世界であ り、非日常からの脱却と瞑想を促す装置だったの か、などと考えた。 写真はその内の一基だが、右端の人は何を持っ ているのだろうか。他の面には狩猟の場面が彫ら れている。 |
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ヴィリャヌエヴァ(テヴェルガ)/ 聖マリア教会 Villanueva de Teverga/ Iglesia de Santa Maria |
4 Asturias |
ラ・プラザから数キロほど奥へ入った所に在る 村で、教会は村の入口に建っている。鍵を管理す る住人が親切に扉を開けてくれた。 教会の建築は後世の改造が大きいので見るべき ポイントは少ないが、身廊に彫られた柱頭彫刻は 格別で、目を見張るような傑作で溢れていた。 ここでも様々な動物や人物が、奇妙な構図で表 現されている。聖家族のエジプトへの脱出をテー マにした柱頭もあるが、大半は写真の様な何を意 味するのか判らない謎の彫刻ばかりなのである。 写真の柱頭は、渦巻状の植物の下に、鳥の羽根 と足を持った人像と、長い髪の人魚(セイレン) らしい。似た人魚をサモラでも見た記憶がある。 その他にも、大きな植物の葉の下にうずくまる 人々や、蔓の様な植物と絡み合う口ばしの長い鳥 など、決して単なる石工の手慰みでない、深い精 神性が秘められていそうなのだが、当方の発想の 貧困はいかんともし難い。 |
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エル・セブレイロ/教会 El Cebreiro/Iglesia |
5 Lugo |
ポンフェラーダ Ponferrada の町から、巡礼 路は最大の難所である Puerto de Piedrafita ピエドラフィタ峠を登り、旧道をこの村へ向かっ て更に登らねばならない。 村へ入って驚いた。石畳の狭い通りを、十数頭 の牛が糞を垂らしながら行進していたのである。 行き先を確かめに付いて行った場所は、重厚な藁 葺き屋根の農家だった。ケルト以来の伝統的な建 築だそうで、何棟かを見る事が出来た。10世紀 近くも時が止まったままの如く、変わらぬ営みを 繰り返しているように見えた。 教会は見るからに古そうで、窓も無く、ただひ たすら石を積んだだけという、まことにプリミテ ィヴで感動的な建築だった。 9世紀創建という説明がされていたが、明らか にロマネスク様式が確立される以前の香りが残っ ている。 鐘塔はやや整然としていて、初期ロマネスクの 面影を留めている部分だろう。 奇跡の聖杯と聖遺物を納めた容器が堂内に展示 してあったが、これは巡礼最盛期のものらしい。 |
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プエルトマリン/聖ヨハネ教会 Puertomarin/ Iglesia de San Juan |
5 Lugo |
セブレイロの峠を下ると、巡礼路はダム湖のほ とりに在るこの村に着く。かつては川沿いの村だ ったが、ダム工事と共に水没するため、村ごとそ っくり現在の場所へ移転したそうだ。 教会も移築されたそうで、町の広場に面しては いるが心なしか不自然な佇まいである。 聖堂は方形のバシリカ式単身廊に、半円形の祭 室が付いただけの単純な建築である。建築全体は まるで小さな城砦のようにも見えた。 写真は西側扉口で、タンパンには聖母子像、ア ーチ装飾には楽器を持つ人物達が彫られていて興 味深い。祭室のバラ窓が写っていて美しいが、こ れは後世のものである。 南の扉口タンパンでは三人の聖人、北の扉口で は受胎告知が主題となっていて、いずれも地味だ が好ましい彫刻だった。 |
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モンドニェード/ 聖マルティン教会 Mondoñedo/ Iglesia de San Martin |
5 Lugo |
ルーゴ Lugo の北80キロにこの名の大きな 町が在るが、ここはそこから更に北へ20キロ行 った所に在る同名の村であった。 遠くから眺めると石の塊のようにも見え、あた かも堅固な要塞のようにも見える。後補の控え壁 のイメージが、美しいロマネスクの後陣を隠して しまっているからかもしれない。 三廊式バシリカ形式で、三つの半円形後陣を配 している。身廊のアーケードには、左右各三本づ つの束ね柱や角柱が並んでいる。 ここでは聖堂内へ入りたかったのだが、長い昼 休みで鍵は開かず諦めざるをえなかった。最大の 目的だった「黙示録」を啓示するレリーフや、ヘ ロデ王の宴を描いた柱頭などを見る事が出来なか ったのだった。自由旅の宿命、と諦めた。 |
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リバス・デ・ミーニョ/ 聖エステヴォ教会 Ribas de Miño/ Iglesia de Santo Estevo |
5 Lugo |
ルーゴの南60キロに在る Chantada チャン タダの町の東、ミーニョ川の段丘上に建つ12世 紀創建の教会である。 一歩教会の敷地に足を入れると、いかにも鬱蒼 と苔むしたような、かび臭い霊気に満ちた聖地と いう印象を受けた。 単身廊に尖頭横断アーチ、天井は木造、祭室は オジーヴ・ヴォールトで、半円形後陣を備えてい る。 写真は、西側正面の扉口で、左右四本づつの円 柱が基礎となって、四重のヴシュールを構成して いる。 タンパンが無地なのが淋しいが、その直ぐ上に 七人の楽師が色々な楽器を奏でていて面白い。太 く編まれた綱だの、筒に絡まる蔓のような連続紋 様は、他所では余り見かけない意匠だろう。 西のファサードは、この中央扉口の左右の盲ア ーチ、上部の薔薇窓とで構成されている。 |
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エイレ/聖ミゲル教会 Eiré/Iglesia de San Miguel |
5 Lugo |
オレンセ Ourense との県境に近い、フェッ レイラ Ferreira という町の郊外に在る寒村で ある。前述のエステヴォ教会からは、真南に15 キロほどに当たる。 現在残る建築は12世紀前半の小礼拝堂に過ぎ ないが、前身は大きな修道院であったらしい。そ の痕跡を見つけるのは難しかった。 写真は、聖堂の東北後方からの眺めで、半円形 後陣と鐘塔が写っている。 聖堂は、正方形の単身廊と鐘塔との交差部分、 ほぼ正方形の祭室に半円形後陣、という構成にな っている。礼拝所、鐘楼、祭室という教会の機能 を満たす上で、これ以上の簡潔さは無いだろう。 扉口としては西門は使用されず、北側に設けら れた装飾アーチのある北門が出入り口となってい る。 半円形のタンパンがあるのだが、幾何学紋様の 彫られたまぐさ石状のものが嵌め込まれている。 センスは感じられない。 帯状飾りアーチは二重で、ひねり棒のような意 匠の外側に、花弁を並べたような連続紋様が彫ら れ、要石部分に十字架を担いだ子羊が浮彫りされ ている。 手を延ばせば触れそうな、そんな素朴で暖かい スケールが嬉しかった。 |
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ヴィジャル・デ・ドナス/ 聖サルヴァドール教会 Villar de Donas/ Iglesia de San Salvador |
5 Lugo |
城壁の町ルゴ Lugo に泊まった翌朝、私達は 高揚した気分でホテルを出発した。何故ならこの 日の昼前後には、目指す聖地サンチャゴ・デ・コ ンポステラに到着する予定だったからである。 途中、巡礼路から少し外れて、重要なロマネス クの遺構であるこの教会へ立ち寄ってみた。 村ではサンチャゴ教会と呼んでいるらしいのだ が、12世紀にサンチャゴ騎士団の屯所が置かれ ていたかららしい。 やや人里離れた場所で、かつては修道院として の規模を誇っていたようだ。アプローチの美しい 神域で、北壁のアーチ門を入ると、すぐ聖堂西正 面の扉口が見える。写真は北門の外から撮影した ものである。実に均整の取れた設計で、建築は場 面の転換を意図したドラマの創作なんだと知るこ とができる。 幾何学模様を主体としたアーチ装飾や、ファサ ードの盲アーチ飾りに特徴が感じられ、木の扉に 施された金属細工の模様までが、優れた意匠の中 で往年の栄華を語りかけているようだった。 聖堂は、心落ち着けるバシリカ式単身廊に、左 右の袖廊が付いた十字形で、三つの祭室の在る単 純なプランが好ましかった。 |
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バンデ/聖コンバ教会 Bande/Iglesia de Santa Comba |
6 Ourense |
オレンセから南へ約40キロでバンデに着く が、この聖堂は更に10キロ南の文字通りサンタ ・コンバという看板の出ているバニョス Baños という集落の中に建っている。 7世紀に建てられたという西ゴート時代の貴重 な遺構である。 瓦屋根が新しく、石の壁面も洗ってあるので、 違和感ばかりが先に立ってしまう。 しかし、ギリシャ十字形の聖堂の原形を想いつ つ、実際十字交差部に採光塔が立っている姿を見 るのは、やはり感動的だった。 一番手前右側の建物は、十字外の後補だろう。 内部のプリミティブな建築を見たかったが、扉 口に鍵がかかっていた。鍵管理人の電話番号を記 した張り紙があったので連絡したが、全く応答が 無かった。残念。 |
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サンチャゴ・デ・コンポステラ/ 聖ヤコブ大聖堂 Santiago de Compostela/ Catedral de Santiago |
8 A Coruña |
ついにやって来た、というのが最初の感動的な 実感だった。フランス各地を出発し、ピレネーを 越えてはるばる旅した巡礼者達が、最初にくぐる 聖堂入口の門が、写真の栄光の門なのである。 タンパンには黙示録の栄光のキリスト像が彫ら れ、輪郭のアーチには黙示録の二十四長老が配さ れている。 見事な扉口彫刻だが、内容はキリスト受難が主 題であり、実は大変重い命題を投げかけられてい るのである。しかし、両手を掲げたキリストの表 情は、長い道のりを歩いてきた巡礼に対して、歓 迎と祝福の意を伝えているようにも見える。 例えレンタカーの巡礼とはいえ、ようやくたど り着いた憧れのサンチャゴに感極まってか、浄土 宗の家に育った小生も、更に日蓮宗の家人もが、 中央柱に彫られた聖ヤコブの像の足元に接吻して いたのだった。 身廊を進み、祭壇に詣で、そして地下祭室クリ プタで、聖ヤコブの遺体が眠る銀の柩を拝むこと が出来た。 聖堂前のパラドールに泊まった夜、広場の真ん 中に立って聖堂を改めて見上げた。塔やファサー ドがバロックに改修されている事など気にならな い。ついにやって来た、ピレネーを越えて! |
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ア・コルーニャ/聖マリア・ デル・カンポ参事会教会 A Coruña/Colegiata de Santa María del Campo |
8 A Coruña |
ア・コルーニャに泊まり、タコやエビといった 海鮮料理を満喫した翌朝、家屋が密集した旧市街 の中に建つこの教会を訪ねた。 十字架の建つ小さな広場に面して、聖堂西正面 のファサードが展開している。 創建は12~13世紀と言われているが、かな りの部分が後世に改造されている。 五つのベイを持つ身廊は三廊式で、翼廊は設け られていない。 天井は尖頭アーチ形ヴォールトで、横断アーチ が見られる。側廊との間のアーケードは五連アー チで、石積みも荒々しく素朴なイメージを保って いる。 写真は正面のファサードで、薔薇窓の下にタン パンのある立派な扉口が開けている。 タンパンの主題は聖母子に礼拝する三博士の像 である。その直ぐ周囲の輪郭に、十二使徒が放射 状に嵌め込まれている。数えたら、何故か十一人 しかいない。理由は分からないが、聖母子像の右 にもう一人の人物がおり、併せて十二人というこ となのだろうか。 聖堂北側にも小さな扉口があり、小さなタンパ ンが保存されている。すっくと立つ聖女と周辺に 彫られた四つの車輪から、聖カタリーナを描いた とされる。謎めいた彫刻だが、ロマネスク的な素 朴さが捨て難い。 |
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カンブレ/聖マリア教会 Cambre/ Iglesia de Santa María |
8 A Coruña |
ア・コルーニャから東南へ10キロほどに位置 する郊外の町で、周辺にはまだかなり田園風景が 残っている。 教会は、町の中心にある公園の一画に建ってい た。扉口に小さなタンパンがあり、十字架を背負 った子羊の輪を、二人の天使が支える図像が彫ら れている。 聖堂建築は四つのベイのある三廊式の身廊に翼 廊が続き、サンチャゴ巡礼教会と同じ周歩廊が、 祭室の外側に設けられている、という明快な構造 だった。 そして更にその外側に、放射状に五つの礼拝堂 が付設されている。 身廊の束ね柱と、周歩廊の柱が林立する様は何 とも壮観だった。 写真は、聖堂後方から、その五つの半円形後陣 を写したものである。堂々たる巡礼教会、と言っ て過言ではないだろう。 |
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ブレアモ/聖ミゲル教会 Breamo/Iglesia de San Miguel |
8 A Coruña |
ア・コルーニャから海岸線沿いに Ferrol フ ェロル方面へと北上すると、入江の町であるポン テデウメ Pontedeume に着く。 町の南背後は樹木が鬱蒼と繁る小高い丘になっ ており、教会はその頂上近くの深い森の中に保存 されていた。 苔むした石積みを一目見ただけで、プレ・ロマ ネスク的な素朴な聖堂である事が判る。実際には 12世紀の建築だった。 しかも、この地方には珍しい、単身廊ラテン十 字形の平面プランで、袖廊に小祭室が付いている という構造だった。 鍵がかかっており、人影も見えないので内部見 学は断念したが、そのプリミティブな美しさは、 外観からだけでも容易に想像出来るだろう。 写真は後方から眺めた後陣と翼廊だが、窓も無 い石の塊のような妙な建築に、何故かくも惹かれ るのかは未だに理解出来ないところではある。 |
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