スペイン・ロマネスク紀行 
 
Románico en España
 
 カスティーリャリオハ
  
カンタブリア
      地方のロマネスク
 
   Castilla, La Rioja
      y
Cantabria
 
 
 ■
県と首都

  
カスティーリャ (Castilla) 地方
     1 Avila (Avila)     
     2
Segovia (Segovia)
     3
Valladolid (Valladolid)
     4
Palencia
(Palencia)
     5
Burgos (Burgos)  
     6
Soria
(Soria)

  リオハ
(La Rioja) 地方
     7 La Rioja (Logroño)

  ◆カンタブリア
(Cantabria) 地方
     8 Cantabria (Santander)
 
 

  Quintanilla de las Viñas (BURGOS)
   
Ermita de Nuestra Señora
 
 
 かつての旧カスティーリャ地方は、現在カス
ティーリャ・イ・レオンと呼ばれる地方となっ
ている。ここでは便宜上レオン地方を区分し、
リオハ地方とカンタブリア地方を併せて掲載す
ることとした。
 カスティーリャはドゥエロ川流域からカンタ
ブリア山脈に至る広大な地域で、中央をサンチ
ャゴ巡礼路が東西に通過している。
 初期中世美術である西ゴート時代から、レコ
ンキスタ(キリスト教国土回復運動)を経て、
ロマネスク時代へと移行する過程を見るための
テキストが残された魅力的な地方である。
 
 
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  アヴィラ聖ヴィセンテ聖堂
  Avila/Basilica de San Vicente
                  
      1 Avila 
                        
   
 
 マドリードからも近く、城壁に囲まれた町と
して著名なこの町に、ロマネスク教会がいくつ
か在る。中でも、城壁の東北門の直前に建って
いるこの教会は、聖堂の東西両端に塔を持ち、
南面に半円アーチのアーケードが有るので、実
際の規模以上に豪壮に見える。

 西側入口の門の彫刻が最大の見所で、小アー
チが二つ複合するタンパンは、ピレネーのオロ
ロン・サント・マリーを想起させる。ここには
ラザロの奇跡などが彫られている。
 アーチの帯状装飾は精密で、絡み合った葉や
蔓のような植物模様が五重に彫られている。様
式化されてはいるものの、相当の時間と財力を
駆使して石を彫っているわけであり、このボリ
ュームと密度とを生み出している信仰を軸に据
えた情熱には、感服せざるをえない説得力を、
いずこの教会においてでも強烈に感じざるをえ
ない。

 柱の聖人群像は、柱の長さに合わせて細長く
表現されているが、顔の表情や衣服の襞などは
かなり写実的に表現されている。
 
 
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 セゴビア聖マルティン教会
  Segovia/Iglesia de San Martin 
             
       Segovia  
                                 
   
 
 旧市街の南側、大聖堂へと通じるフアン・ブ
ラボ
Juan Bravo 通りに面した広場に接して建
っている大きな教会である。
   
 写真は広場側からのもので聖堂の南側に当た
る。十三連の南側アーケード、後世に修復され
た聖堂、上部は改修されてはいるが優美さを残
している鐘塔などが写っている。

 ア-ケードは西側から北側へと、コの字型に
聖堂を囲んでいる。細いが二重の円柱によって
構成されており、やや大きめの柱頭には聖書の
物語や聖人の殉教場面などが描かれている。か
なり摩滅しているのだが、いかに優れた彫刻で
あったかを知るには十分過ぎる作品群である。

 西側の聖堂正面入口には、別棟の玄関間が造
られており、そのアーチ門へは緩やかな石段を
登って行くような設計になっている。ポーチは
玄関間内部で反対側に通じていた。
 工事中のためか堂内へは入れなかったが、玄
関間の入口の円柱に彫られた人物像は印象的だ
った。書物を持つ四人の人物像で、柱に同化し
た細長い像はモアサックやスイヤックに見られ
る人像円柱と同じ、まことにロマネスク的と言
える造形である。
 
 
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 セゴビア聖エステバン教会
  Segovia/Iglesia
      de San Esteban
 
             
       Segovia  
                          
  
 
 旧カスティーリャ王国の中心として繁栄した
町で台地の上の城壁に囲まれた旧市街には多く
の歴史的遺産が残されている。ローマ水道橋、
大聖堂、アルカサル、等が主な観光地である。
 実はセゴヴィアはロマネスク教会の密集地で
あり、街中に幾つのロマネスク教会が在るのか
は判然としない。小生がマークしただけでも十
二箇所は確認出来る。

 この教会は旧市街のほぼ中央に位置し、大聖
堂のちょうど真北300mになる。
 13世紀の創建だから、セゴヴィアのロマネ
スク教会群の中ではかなり遅い時期に建てられ
た。聖堂は後世の建築だが、ポーチ式ギャラリ
ーと鐘塔はロマネスク時代の建築である。

 どこからでも眺められるこの塔は、セゴヴィ
ア一の高さを誇っている。六段の層に積み重ね
られており、最上層の三連アーケード以外の中
四層は全て二連である。アーチ装飾も精巧な意
匠で、見るからに優美な鐘塔と言えるだろう。
 塔の四隅に小円柱が屋根まで通されているの
も、何とも憎い凝った意匠である。
 聖堂三方に配されたポーチ・ギャラリーは、
紋様の彫られたアーチや繊細な柱頭彫刻、二重
の円柱など、一級品としての風格を十分示して
いるのが感じられた。
 
 
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  セゴビア聖ミリャン教会
  Segovia/Iglesia de San Millán
             
       Segovia
                          
 
 
 水道橋から旧市街へと登らずに、西へ向かっ
て歩くと右手にこの教会が見えてくる。水道橋
からは至近で教会横の広場からは、旧市街の町
並が遥かに望めるような絶景の展望所にもかか
わらず、ここを訪ねる観光客は滅多にいない。
 この教会は12世紀初頭の創建と伝えられて
おり、三廊式のバジリカ形式である。従って後
陣には、三つの典型的な半円形祭室が張り出し
ている。
 身廊と側廊を区切る柱には、束柱と円柱とが
交互に立てられ躍動感がある。蒲鉾型をした半
円筒ヴォールトの天井が素朴で美しい。
 聖堂の外側南北両側に、セゴヴィア様式とも
言えるアーチ列の付いたギャラリーが建造され
ている。回廊のような雰囲気で、柱頭彫刻の質
も高く、見事な造形空間が楽しめる。
 このスタイルはこの地方の特徴で、セゴヴィ
アだけでなく、ソーリアに至るカスティーリャ
の広範な地域のロマネスク教会でも見ることが
出来る。
 
 
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 セゴビア聖十字架礼拝堂
  Segovia/Capilla
      de la Vera-Cruz
 
              
       Segovia
                         
 
 
 夢の城アルカサールの麓から北へ少し登った
荒地に建つ、類の無い平面プランを持った聖堂
である。
 写真は北側からの眺めで、多角形の聖堂に三
つの半円形後陣と鐘塔という構造であることが
判る。もっとも、塔と手前の半円形部分は後世
の増築で、もう一つの後陣は向こう側に隠れて
見えない。
 キリストの磔刑に用いられた十字架の木片が
聖遺物として祀られ、テンプル騎士団によって
建造された。
 注目すべきは、多角形の聖堂の内部にもう一
つの小さな十二角形の二層の礼拝堂が設けられ
ていることである。
 四方に開口部があり、他の八面は盲アーケー
ドになっている。十二本の支柱の先から多角天
井の十二方向へ延びる円筒ヴォールトは、さな
がら満開の百合の花のようであった。
 この聖堂のアーチの全てが緩やかな尖頭形で
あり、それが13世紀初頭の建築と言われる根
拠であるかもしれない。
 
 
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 ソトサルボス聖ミゲル教会
  Sotosalbos/Iglesia
        de San Miguel
 
             
       Segovia  
                          
 
 
 セプルヴェダからセゴヴィアへ向かう途中の
丘陵地帯に、住宅を中心としたこの町が在る。
 教会は町の西端の広場に面して建っており、
ここにも秀逸なポーチ式ギャラリーが残されて
いる。12世紀に築造されたものだという。
 写真はポーチの中央門で、柱頭の無い四重ア
ーチ帯装飾の意匠が珍しい。
 右に四連、左に三連のアーケードで、細身だ
が二重の円柱がいかにも洗練されている。
 柱頭の彫刻には様々な図像が在るが、比較的
損傷が激しいようだ。物語性に富んだものもあ
りそうなのでちょっと残念だった。
 このポーチのもう一つの見所は、写真でも判
るが軒持ち送りとその間の軒下飾りの彫刻の豊
富さだろう。躍動感に溢れた、多様な人物像が
彫り込まれている。
 聖堂、方形の後陣、鐘塔の上層等は、全て後
世に改築されたものである。
 
 
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 ドゥラトン聖母被昇天教会
  Duraton/Iglesia de
   la Asunción de Santa Maria
 
             
       Segovia
                          
 
 
 セプルベダの町を流れるドゥラトン川の上流
に在る町で、教会は町外れの原野にポツンと建
っていた。
 単身廊の聖堂に半円形の後陣、南側にポーチ
というこの地方の典型的な様式である。
 特徴があるのは、精緻な細工と意匠で構築さ
れたポーチで、南側だけでなくL字型に西側に
も及ぶ重厚な造りとなっている。
 中央入口の右側に四連、左側に六連のアーケ
ードという構成で、二重の円柱には重厚な柱頭
彫刻が配されている。
 彫刻の質は高く、図像の内容が豊かなので、
いつまで眺めていても飽きない程だ。御訪問や
ヨセフの夢、東方三博士の聖母子礼拝、などの
マリア伝説だけでなく、鳥や植物の蔓をモチー
フにした意匠を見る事が出来た。
 
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 セプルベダ
    聖サルヴァドール教会

  Sepúlveda/Iglesia
       de San Salvador
 
             
       Segovia
                          
 
 マドリッドの北約120キロにある、深い峡
谷の底に開けた町である。
 教会はこの段丘の上に建っているので、町か
らは石段をかなり登って行かねばならない。
 11世紀末の建立で、セゴヴィアのロマネス
ク様式の原点になった貴重な遺構である。
 半円形後陣や二層の窓を持つ鐘塔、単身廊・
円筒ヴォールトの天井の聖堂等、見るべきもの
ばかりだが、ここでは南側に設けられたポーチ
式ギャラリーに注目したい。
 二連アーケードが四つ連続した、八連アーケ
ードの見事な構成美を見せるギャラリーなので
ある。
 円柱の柱頭には様々な主題の彫刻が見られる
が、聖書の物語などではなく、鳥や馬などの動
物や怪獣のような図像が多い。いずれも造形力
に満ちた面白い発想で、ロマネスクの世界を創
出している。
 
 
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  セプルベダ聖マリア
     (ペーニャの聖母)教会

   Sepúlveda/Iglesia
       de Santa Maria
     (la Virgen de la Peña)
              
       Segovia
                         
 
 
 前述のサルヴァドール教会から、北側へと坂
道を下って行った突き当りがこの教会である。
 聖堂は、身廊の天井が円筒ヴォールトである
事と、半円形の後陣を除けばゴシック以降の建
築である。
 祭室はバロックの衝立で覆われていて、後陣
の内側を見ることが出来なかった。
 聖堂南側に二連のアーケードが残され、従前
のギャラリーの存在を想像させる。
 写真は、南側扉口のタンパン彫刻で、珍しい
構成の興味深い図像を見る事が出来た。
 タンパン中央は四福音書家の象徴に囲まれた
全能のキリスト像で、周囲に天使、ヴシュール
には二十四人の長老像がぐるっと囲んでいる。
 まぐさ石には、クリスモンを囲む天使、右が
最後の審判、左側で龍を退治するのは聖ミカエ
ルだろうか。
 
 
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 ワンバ聖マリア教会
  Wamba/Iglesia
      de Santa María
 
     
       Valladolid 
            
 
 
 カスティーリャの西端、ヴァリャドリーの西
20キロに在る古い集落である。
 10世紀創建のモサラベ様式教会として知ら
れる。
 先述のバニョスへ湯治に行ったレセスピント
王生誕の地で、その菩提寺でもあるという。し
かし、西ゴートの王は7世紀の人であり、その
根拠となる馬蹄形アーチは、西ゴートからモサ
ラベへと継承された、と見るべきなのだろう。
 三廊式の身廊で、写真は北側の側廊から三後
陣を眺めたものである。
 後陣を仕切る馬蹄形アーチと、三廊を仕切る
半円のアーケードが混在しているが、現在目に
する大半の部分が、12世紀後半に改築された
ものであることによるものだろう。
 西ゴートの伝統と、そこにイスラム的要素が
加わったモサラベ、さらに後世のロマネスクや
ゴシックが織り成す錦のような聖堂であった。
 
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 マソーテ聖セブリアン教会
  Mazote/Iglesia
     de San Cebrián
     
       Valladolid
                 
 
 
 前述のワンバから更に西へ23キロ車を走ら
せると幾重にも連なる丘陵の向こうにこの町が
見えてくる。
 教会は直線だけで構成されており、簡素なが
ら堂々たる佇まいだった。
 写真は三廊式の身廊から祭室を見たもので、
仕切りアーケードにも祭室の入口にも、モサラ
ベ様式を示す馬蹄形アーチを見る事が出来た。
 前述のワンバ同様、10世紀に創建されたモ
サラベ建築である。
 壁の白さなど、修復の痕跡が色濃いが、建築
様式からはモサラベ様式のエキゾティックなエ
ッセンスを十分感じることが出来た。
 この地がアストリアスとイスラム侵攻圏の中
間にあるという立地条件が、このモサラベ様式
を育てたのだろう。
 馬蹄形アーチを同類項とする、西ゴート、ア
ストリアス、モサラベの変遷について、もう少
し研究する必要がありそうだ。   
 
 
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 ウルエーニャ告知の聖母教会
  Urueña/Iglesia de Nuestra
     Señora de la Anunciada
 
     
       Valladolid 
                 
   
 
 教会は前述のマゾーテの西北6キロの荒野の
真ん中に建っており、数キロ先のウルエーニャ
の町の城郭を望むことが出来る。
   
 聖堂の基本プランは、三廊式の身廊に翼廊と
その交差部、中央祭室と両翼に二つの小礼拝と
いう布陣で、フランスやイタリアでは極めてノ
ーマルな様式が、スペインでは特殊に感じられ
て不思議だった。カスティリャでは滅多に見か
けない、唯一のロンバルディア様式ということ
になりそうである。

 写真は交差部の採光塔と翼廊、中央の後陣と
南側翼廊の小後陣を撮ったものである。右下の
円形の部分と方形部分とは後世の増築だろう。
壁面のロンバルディア帯装飾が妙に懐かしい。
 12世紀前半の建築だと言われている。

 建築全体に堅固なイメージが強く、聖堂内部
にも軟弱な装飾は全く見られない。身廊と側廊
を仕切るアーケードの柱は十字柱で、柱頭彫刻
も無いので清楚ではあるが一層武骨に感じられ
る。交差部のドーム天井が八角錐で、唯一たお
やかな印象を抱かせる部分となっていた。
 
 
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 パレンシア大聖堂
  Palencia/Catedral
    (Cripta de San Antolín)
 
             
       Palencia 
                    
 
 
 パレンシアを代表する大聖堂は14世紀以降
に建築されたゴシックなのだが、 私たちの目
的は別にあった。
 起源は7世紀で、西ゴート
Visgoth の聖人
アントリンの聖遺物を納めた礼拝堂として建て
られたものだ。その後11世紀にロマネスク様
式に修復された一部が、現在の大聖堂の地下の
クリプタとして保存されているのである。
 大聖堂の正面を入ると、直ぐにクリプタの案
内標が有ったが、ここへと降りていく人はほと
んど居なかった。やはり物好きの類である事は
間違いないらしい。
 円筒ヴォールトの単身廊で、一定の間隔で帯
状の半円横断アーチが設けられている。いかに
もかび臭い、古色蒼然とした空間だが、どこま
でが西ゴートのものなのかは、実は判然としな
いのである。
 最奥の二本の円柱は三連アーケードのもので
あり、ここが後陣の中心なのだ。柱頭には植物
をアレンジした幾何学紋様が彫られている。半
円形の後陣が当初のものかも不明らしく、何と
もミステリアスなクリプタである。   
 
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 バニョス・デ・セラート
     洗礼の聖ヨハネ教会

  Baños de Cerrato/Iglesia
      de San Juan Bautista
 
             
       Palencia 
                                
  
 
 パレンシアの南東15キロにある古い温泉地
で、この教会は現存する保存良好な教会として
はスペイン最古と言われている。
 7世紀半ば
(661) にここを訪れた西ゴート王
レセスピント
Récesvinthe が建立した。
 三廊式のバシリカで、側廊との左右境界に四
連アーケードが設けられている。アーチは全て
下部がやや狭くなった馬蹄形で、後年のアスト
ゥリアス美術に大きな影響を及ぼした様式だ。
 円柱が大理石であることに気がついたが、王
の権威が発揚されたものなのだろうか。
 後陣のプランは方形だが、祭室は円筒ヴォー
ルトである。アーチの切り口は馬蹄形アーチで
あり、その基部は繊細な花柄の連続紋様のレリ
ーフで飾られている。
 左右小祭室の改造等かなりの歴史的変化はあ
るものの、希少な西ゴートの教会遺構である。
 
 
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 フロミスタ聖マルティン教会
  Frómista/Iglesia
       de San Martin
 
             
       Palencia 
                                 
  
 
 サンティリャナに泊まった翌朝、焼け付くよ
うな灼熱のカスティリア高原を進んでこの町を
訪ねた。
 11世紀の創建で、巡礼者が必ず訪れる修道
院であったのだが、現在は附属教会堂のみとな
っている。
 均整の取れた完璧とも言える建築で、三廊式
のバシリカ形式である。余りにも欠点が無さ過
ぎると、感動は遅れて来るものだと知るほど完
成されている。
 石が妙に新しく見えるのは、20世紀初頭に
修復が行われたかららしい。
 美しい身廊の建築や柱頭の彫刻を楽しみにし
ていたのだが、長い昼休みのために内部へは入
れず、木陰でしばらく未練たっぷりに待ってか
ら諦めた。この日はレオンまで行かねばならな
かったからだった。

 それから雌伏22年、ようやく再訪がかなっ
た。ブルゴスから走らせた車では胸が躍った。
教会の広場は大勢の観光客や巡礼者で混雑して
いたが、聖堂内はとても静謐な空間だった。
 写真は身廊から祭室を眺めたもので、石の表
情は新しいが、11世紀建立の重厚なアーケー
ドや円筒ヴォールトの天井や、柱頭の豊かな図
像表現には、味わい深い濃厚なロマネスクのエ
ッセンスが詰まっていた。   
 
 
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 カリオン・デ・ロス・コンデス
       聖マリア教会

  Carrión de los Condes/Iglesia
   de Santa Maria del Camino
 
             
       Palencia 
                                 
   
 
 フロミスタを出たサンチャゴ巡礼路は、灼熱
のカスティージャを横切って20キロ行けばこ
の宿場町に到着する。巡礼路を進んで行くと、
教会の後陣が見え正面に至ることになる。

 聖堂の正面は南門で、前面に玄関間とも言え
るアーケードが設けられている。
 聖堂は三廊式で、半円形小後陣が南翼廊部分
に残っており、中央と右側は方形後陣に改造さ
れている。

 見所は、やはり写真の扉口とその上部のレリ
ーフだろう。
 軒持ち送りも含めたレリーフには、深い彫り
の様々な場面や人物が彫られている。馬上のシ
ャルルマーニュや東方三博士の礼拝、サムソン
とライオンらしき図像も見る事が出来る。
 多彩な図像は、様々な巡礼者達への加護を示
すために彫られたのか、とも感じられた。
 四本の円柱が中心となって、五重のアーチ帯
(ヴシュール)を構成している。柱頭には、物
語性の強い群像や、幻想的な動物が彫られてい
る。帯状に連なる人物像の意味は不明だが、詳
細に見るとそれぞれが個性的に彫り分けられて
いるようだ。
 
 
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  カリオン・デ・ロス・コンデス
       サンチャゴ教会

  Carrión de los Condes/
      Iglesia de Santiago
             
       Palencia 
                                 
  
 
 町の中をさらに先へ進むと、中心となる広場
Plaza Mayor に出る。広場の北東側に建つこ
の教会は、12世紀半ばの創建だが、火災等に
よって度重なる改修を余儀なくされたという。
 三後陣などロマネスク建築の基礎は残ってい
るのだが、扉が閉まっていたことと、家並が密
着していて外観も見えず確認出来なかった。
   
 最も当初の姿を残しているのが、写真の西正
面の扉口だろう。アーチ門の円柱には、質の高
さを思わせる天使と装飾模様が彫られている。
 柱頭には怪獣のような図像が彫られており、
どうやら善と悪の闘いを象徴しているようだ。
 円弧部分には、二頭のライオンを基礎にして
二十二人の人物像が並んでいる。明快な彫りの
彫像群で、戦士や楽士、多様な職人などを確認
する事が出来る。
Orolon-Ste-Marie オロロ
ンの楽士たちを思い出していた。
 扉口上部に大きく表現されているレリーフ彫
刻は、ロマネスク期を外れたゴシック時代の作
品だろうと思う。四福音書家のシンボルに囲ま
れたキリスト像は迫力に満ちているが、抽象よ
りも写実へと移行する時代性を表している。

 巡礼路はさらにサハグン
Sahagun からレオ
ンへと続いて行く。  
 
 
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 ピネダ聖エステバン教会
  Pineda de la Sierra/Iglesia
   de San Esteban Protomartir
 
             
       Burgos  
                                
 
 地名に付く Sierra というのは山脈のことで
あり、この地方では、デマンダ
Demanda
脈を意味する。デマンダの山懐深い渓谷の奥、
人跡未踏といったイメージの寒村に、かくも洗
練されたギャラリー・ポーチが存在する事は、
奇跡としか思えない。
 ギャラリーの内部、聖堂の南扉口周辺には、
五重のヴシュールと精緻な柱頭彫刻で飾られた
ファサードが見られた。
 だが最大の見所は写真のギャラリーだろう。
中央門の右に五連、左に六連のアーケードが設
けられており、二重の円柱に柱頭彫刻が施され
ている。この地区では、後述のレボリェードと
双璧を成す重厚な傑作、と言えるだろう。
 柱頭の意匠の大半はきっちりと彫られた植物
紋様がモチーフであり、ここからは至近のシロ
スの上層回廊を想起していた。   
 
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  ヴィスカイノストゥールスの
     聖マルティン教会

  Vizcainos de la Sierra/Iglesia
     de San Martin de Tours
             
       Burgos 
                                
 
 ブルゴスへと抜けられる山道に沿った町で、
均整の取れた美しい聖堂建築が残されていた。
広場にいた地元の親爺が教会の鍵を持って来て
くれた。

 後世に増築された部分はあるが、単身廊の聖
堂で、半円形の後陣と西側の鐘塔がとても印象
的だ。
 写真にはほとんど写っていないが、南側には
ここでも聖堂に平行したギャラリーが建造され
ている。中央の門以外に、左右に一づつのアー
チ開口部だけの質素な造りになっている。しか
し、柱頭に見られる動物や鳥の彫像は、彫りの
深い秀逸な作品であろう。
 聖堂の南扉口は四重のアーチ帯で飾られてお
り、柱頭には動物と植物が絡み合った意匠が見
られた。
 身廊の柱頭や、後陣外壁の柱頭などにも優れ
た彫刻が成されており、シロスなどに影響を受
けた石工が存在したのだろうと思う。
 
 
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 ハラミージョ・デ・ラ・フエンテ
      聖母被昇天教会

   Jaramillo de la Fuente/
     
Iglesia de la Asunción
      de Nuestra Señora
 
              
       Burgos 
                               
 
 
 前述のヴィスカイノスからは数キロしか離れ
ていない、同じ山麓の隣り村である。私達が訪
ねた時には、農家の牛が数頭教会の芝生に寝そ
べっているという、何とも牧歌的な村だった。
 しかし、教会の建築はそんな風情とは関係無
しに、ほぼ完璧なロマネスク様式を今日に伝え
ている。
 堅固だが堂々とした鐘塔、小造りだが見事な
アーケードのギャラリー、簡素ながら完璧な半
円形後陣等、見事なロマネスクのハーモニーと
言える。
 ギャラリーのアーケードは細いが二重の円柱
で出来ており、開口部が大きいのでより繊細な
感性が感じられる。ここには物語性のある場面
が彫られており、なかなかの迫力がある。
 聖堂南扉口のファサード彫刻も非凡であり、
全体的に見飽きる事の無い、シエラ地区珠玉の
ロマネスクだと言えるだろう。
 
 
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 サント・ドミンゴ・デ・シロス
       
聖ドミンゴ修道院
  Santo Domingo de Silos/
  Monasterio de Santo Domingo
 
            
       Burgos 
                   
   
 
 私達が初めて北スペイン地方を訪れたのは1
980年の暮れのことで、ブルゴーニュに次ぐ
二度目のロマネスク探訪の旅であった。
 ナヴァラとカスティーリャを旅の目的に選ん
だ大きな理由の一つが、このシロスの回廊に在
る柱や柱頭に刻まれた彫刻群を見たいからだっ
た。特にこの写真の群像彫刻は、フランスで購
入したロマネスクの写真集で見て以来、脳裏に
強く焼き付いていた。
 エマオの使徒達の前に現れた復活後のキリス
トに、磔刑の際の聖痕を確認する不信の聖トマ
スの姿を表現している。右手を高く伸ばしたキ
リストの姿が独創的であり、整然と並ぶ使徒像
とは対照的で面白い。何という魅力に満ちた表
現なのだろうか、と感動した。

 この柱の左側に別の図像があり、そこにはエ
マオに向かうキリストに気付かない弟子達の姿
が描かれている。
 四隅の柱に重要なレリーフが彫られており、
この北西の柱以外にも北東に「キリスト降架・
埋葬・復活」南西に「受胎告知」と「エッサイ
の木」、南東に「昇天・聖霊降臨」などが見ら
れる。
 均整のとれた美しくも質素な回廊だが、柱頭
の彫刻には豊かな創造性が満ち溢れており、こ
れもまた感動的だった。
 今回、待望の再訪を果たすことが出来た。
 
 
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  キンタニリャ・デ・ラス・
   ヴィニャス
聖マリア教会

  Quintanilla de las Viñas/
    Iglesia de Santa Maria
        de Lara
       
       Burgos 
                        
 
 
 ブルゴスの南東、シロス修道院に程近い場所
に、この古い教会が建っている。ロマネスクよ
り古い、7世紀西ゴート時代の遺品である。
 シロスへの途中立ち寄ったのだが、こんなに
重要な教会とは知らず、その古さと美しさに驚
いた記憶がある。当サイト巻頭の写真では余り
鮮明ではないが、聖堂外壁に横2列に浮彫彫刻
(フリーズ) 装飾が施されている。連続する円
形に囲まれた、葡萄の実や葉と鳥の模様が中心
である。優れた技術の美しい彫刻で、聖堂内部
のアーケード部にも似た意匠が見られた。
 写真は内陣に残されたレリーフで、二人の天
使に囲まれたキリスト像であり、もう一対の浮
彫と共に、7世紀西ゴート時代の貴重な遺構で
ある。

 西ゴート特有の素朴さが何とも魅力だが、ラ
ンゴバルトなどいつの時代にあっても、爛熟し
た時代の完璧な作品より、稚拙ともいえそうな
草創期の作品に惹かれるのは何故なのだろう。

 この聖堂は従来の祭室後陣部分だけが残され
たもので、内陣の凱旋門内部が後陣であったと
考えられる。凱旋門アーチの柱頭部分に、二人
の天使に囲まれた太陽神が彫られている。西ゴ
ートに太陽崇拝があったのだろうか。
 いずれの彫刻も髪と衣の線が美しい素朴な造
形で、後世のロマネスクにも大きな影響を与え
たであろうことは容易に推測出来る。立ち寄る
などとは簡単には言えない、美術史にも残るで
あろう初期中世美術の傑作のひとつである。
 
 
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 サン・キルセ・デ・ブルゴス
       聖キルセ教会

  San Quirce de Burgos/
    Iglesia de San Quirce
 
              
       Burgos 
                             
   
 
 ブルゴス郊外の広大な私有地の中にある教会
で、現在は所有者の許可を得ないと見学は出来
ない。私有地の周囲は金網の柵で囲まれている
ので、容易には立ち入る事すら不可能なのであ
る。カスティリア伯の所領という歴史を有して
いるという。
 牧草地の中の地道を数キロ行かねばならない
ので、車だけがアプローチの手段となる。

 事前に許可を貰っていた私達がゲートまで行
くと、守衛と思しき若者が扉を開いてくれた。
教会までは、若者が運転するジープに従って、
そこから更に数キロ行くことになる。

 私有地のほぼ中心と思われる場所に、数戸の
建物と一緒に、石と苔の塊みたいに見える聖堂
の塔と半円形の後陣が目に入った。
 単身廊で方形の身廊とドームのある交差部、
祭室(後陣)が、写真の様なアーチ門で仕切ら
れている。
 写真は、身廊の中央から、祭室方向を撮影し
たものである。
 質実剛健な建築が魅力だが、円柱の柱頭に施
された彫刻の質の高さには感動した。楽園追放
やカインとアベルなどのほか、祝福するキリス
ト像などが印象に残った。
 聖堂西正面の扉口上部の軒持ち送りと、その
間の壁に見逃せない彫刻が施されている。
 ここにも左半分がアダムとイヴの楽園追放、
右半分がカインとアベルの物語で、見応えがあ
る。 
 北側の外壁部分は鐘塔の下部が扉口になって
おり、現在は閉じているが、アーチ門の上部の
壁面に多数のレリーフ彫刻を見る事が出来る。
仕切られた枠の中に数々の場面や図案が散りば
められているのである。受胎告知や御訪問、四
福音書家に囲まれた栄光のキリスト像など、比
較的明快なモチーフが用いられている。
 ロマネスクの魅力に溢れた素晴らしい教会だ
った。たどり着くまでのミステリアスな興奮は
忘れられない体験だった。
      
 
 
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 ヴァレホ・デ・メナ
     聖ロレンツォ教会

  Vallejo de Mena/Iglesia
       de San Lorenzo
 
             
       Burgos 
                                      
   
 
 バスクのビルバオ Bilbao に滞在した後、
私達はカスティーリャへと向かったのだが、最
初の訪問地がこのヴァレホであった。
 ビルバオから西へバルマセダ
Balmaseda
まで30キロ、更に20キロ南下した田園地帯
の集落であった。車を教会手前の農家の庭に止
めさせて貰った。

 集落の東少し登った所に、アプローチの狭い
道からは想像も出来ない立派な聖堂が現れる。
それは重厚な五角形の後陣だった。屋根まで延
びた四本の円柱と窓の上のロンバルディア飾り
が、ここが一級品のロマネスクであることを宣
言しているかのように誇らしく感じられたのだ
った。
 12世紀初頭の創建。間口13m奥行30m
という規模で、身廊は単身廊で三つのベイ、天
井は交差リブ・ヴォールトで構成されていた。
 身廊や祭室の柱頭には、かなり個性的な彫刻
が施されていて見逃せない。

 南側と西側に扉口が設けられ、それぞれに見
事な彫刻を見ることが出来た。
 写真は西正面の扉口ヴシュールの彫刻で、サ
ンチャゴ巡礼者やアダムとイヴ、曲芸師等が彫
られた部分である。脈絡は無いが、絵解きのパ
ズルを楽しむ様な謎めいた魅力が感じられる。
 
 
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 シオネス聖マリア教会
  Siones/Iglesia de Santa Maria  
             
       Burgos 
                                   
   
 
 前述のヴァレホから山 Montes la Peña
向かって数キロ行った、何とも鄙びた山村であ
った。集落から少し離れた高台に、この12世
紀末創建の聖堂が建っていた。
 坂道を登って行くと、形の良い半円形の後陣
が目に入ってくる。やや堅固な建築だが、単身
廊に半円形後陣という簡素なプランで、西正面
にはロマネスク様式の扉口を備えている。

 教会前の民家から一人の婦人が現れ、北側の
扉口の鍵を開けてくれた。
 身廊と祭室との間に袖廊の様な部分があり、
左右に二連のアーケードが意匠されている。
 アーケードの柱頭と、内部壁面に彫られた彫
刻がこの教会での一番の目的であった。
 柱頭には豊かな発想で描かれた幻想的な図像
を見ることが出来た。これこそがロマネスク巡
礼者の果報と言えるだろう。
 その最たる作品が、写真の彫刻であった。南
側アーケードの奥壁に彫られた像である。怪獣
の髪を掴む女性像で、鳩も居るがどんな場面か
判らなかった。或る本には
Santa Juliana
リアナという聖女が悪霊と争う場面、と書かれ
ていたが、何か訴えるものが感じられる傑作で
ある。
北側には、悪魔に誘惑されるキリストの
像が、対照的に彫られている。
 
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 サン・パンタレオン・デ・ロサ
    聖パンタレオン僧院

  San Pantaleon de Losa/
   Ermita de San Pantaleon
 
      
       Burgos
                              
 
 
 これが一体何の写真なのか、ほとんどお解り
いただけないものと思う。
 巡礼路上のログロニョ
Logroño から西北
に130キロ行った所にある小さな村で、村の
背後に片側が垂直な断崖となった奇妙な岩山が
聳え、その斜面に貼りつく様にして小さな教会
が建っているのであった。
 教会へ行くには麓の村に車を止め、岩山の背
後から歩いて登らねばならなかった。もっとも
近年再訪した際には、中腹までは車で登れるよ
うになっていた。
 斜面を登り、ようやくたどりついた僧院は、
正方形の聖堂と半円形の祭室だけという、実に
質素な建築だった。
 正面の扉口には、いくつかの注目すべき彫刻
が残されている。
 門の左側に立つ円柱に刻まれた人物像は豪快
であり、門の柱頭や聖堂側壁の窓の周囲に彫ら
れた人面や模様は繊細で、余程技量の確かな石
工の作に違いない。
 それにしても、こんな不思議な場所に建つ僧
院など他に見た事がない。   
 
 
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 サン・ペドロ・デ・テハダ
    サン・ペドロ修道院
 
  San Pedro de Tejada/
   Monasterio de San Pedro
     de Tejada
              
       Burgos 
                           
   
 
 スペイン屈指の大河エブロ Rio Ebro の上流
で、ブルゴスから北方へ約80キロ、テスラ山
脈の麓に位置する山の中の修道院である。ほと
んどの地図には載っていない隠れた名刹と言え
るだろう。
 12世紀中頃の創建になる修道院で、現在は
写真の小規模ながら誠に均整のとれた“格好の
良い”聖堂が残っている。
 単身廊、ドーム部、半円形後陣が接合した何
とも単純なプランである。ドーム部の上が鐘塔
になっており、右側に螺旋階段の円塔が付いて
いる。
 身廊の天井は円筒ヴォールトであり、プリミ
ティブな柱頭彫刻が魅力だったが、案内の女性
は頑として撮影を許してくれなかった。

 西側正面の扉口周辺に貴重な彫刻が施されて
いる。柱頭彫刻は勿論だが、アーチ輪郭の装飾
や上部のレリーフ、軒持ち送りなどに優れた図
像を見ることが出来る。
 レリーフには、横一列に左右各六人づつの十
二使徒が浮彫されている。いかにもロマネスク
的な、愛らしい群像であろう。
 軒持ち送りの聖人や動物の像は、他に類を見
ないほどの質の高い彫刻である。
 後陣の背後、小麦畑の中から眺めた聖堂の姿
には、天国への梯子ででもあるかのような上昇
感が感じられたのだった。
 
 
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 モナステリオ・デ・ロディーリャ
    ヴァッレの聖マリア教会

  Monasterio de Rodilla/
   Iglesia de Santa Maria
     del Valle
 
              
       Burgos 
                            
 
 
 ブルゴスの東北30キロに位置する町で、こ
の教会は町の北西端にひっそりと建っていた。
 この日は大層霧の深い朝だったので、しっと
りとした清浄な空気に包まれた聖堂の姿が印象
的だった。
 写真の扉口は北側だが、単身廊にドーム部、
半円形後陣だけのプランは、先述のテハダにと
ても良く似ている。
 創建は12世紀後半とのことだが、身廊の天
井は尖頭ヴォールトだった。
 鐘塔部分のドーム天井はロマネスク的な優雅
な意匠で、均整のとれた美しい空間が展開して
いた。
 祭室の柱頭には繊細な彫りの彫刻が残されて
いる。聖堂の後方から眺める外観は、大きな装
飾三連アーケードの彫られた後陣と、落ち着い
た鐘塔が主役である。
 北側扉口ヴシュールのアーチ装飾にも、卓越
した幾何学紋様の意匠を見ることができる。
 
 
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 グレディーリャ・デ・セダノ
     聖ペドロ・聖パブロ教会

  Gredilla de Sedano/Iglesia
    de San Pedro y San Pablo
 
             
       Burgos
                                      
 
 
 ブルゴスから真北へと、サンタンデルへと通
じる国道623号を40キロ程進み、右側の山
岳地帯へと入って行く。思ったより大きな集落
で、教会は町に続く高みに堂々と建っていた。
 12世紀の建築で、単身廊・小袖廊・半円後
陣というプランは共通している。
 後世に改築した鐘楼や小袖廊以外は、当初の
様式や面影をよく伝えている。
 最も気になったのが写真のタンパンである。
聖堂の南側扉口で、アラブ風のアーチ装飾の中
に人物群像が彫り込まれている。
 中央に玉座の聖母像、というのが何とも珍し
い。聖母の頭部は改造されているが、天使によ
る戴冠の場面であろう。
 両端の人物は聖パウロと聖ペテロだろうが、
聖母の右の人物は誰を表わすのだろうか。杖に
片肘で瞑想する人物像を、アラゴンのアグエロ
Agüero で見た記憶があるが、あれは三王礼拝
図のヨセフの像だった。とすれば、左の天使の
存在から、受胎告知の場面が併合されているこ
とも考えられるだろう。
 聖母の頭部は別として、表現力の優れた大変
好ましい秀逸な彫刻である。
 
 
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 クレスポ
    無原罪懐胎教会

  Crespo/Iglesia de
   Inmaculada Concepción
             
       Burgos 
                              
 
 
 前述の国道をさらに30キロ北上し、カンタ
ブリアとの州境に近い
Puerto de Carrales
ラレス峠の直ぐ手前から再び東側の山間部へ入
っていく。
 この村は住民数十人という過疎そのものとい
った寒村であった。
 しかし、ひっそりと建つこの教会の佇まいに
は、目を覚めさせられる思いだった。何という
清楚で簡潔な聖堂であることだろうか。清貧な
村人の純粋な信仰心が守ってきた教会、と言え
るだろう。
 単身廊に半円形後陣だけの、これ以上無いと
いう簡素なプランだが、プリミティブな円筒ヴ
ォールトの天井や苔むした祭室の石積等には、
ロマネスク好きを唸らせるだけの要素を十分過
ぎるほど備えていたのだった。
 写真の南側扉口だけが入口で、タンパンには
浮彫された十字架がひとつ、この教会を象徴し
ているようにも見えた。
 大きな印象として残った小さな教会だった。
 
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 レボリェード・デ・ラ・トッレ
   
聖フリアン・聖バシリサ教会
  Rebolledo de Torre/
     Iglesia de San Julián
       y Santa Basilisa
              
       Burgos 
                                    
 
 ブルゴス県では最も重要な教会の一つで、ブ
ルゴスの町の西北70キロ、パレンシアとの県
境まで数キロという位置に在る整然とした町だ
った。
 気になる後陣は方形で、聖堂は単身廊だがゴ
シックに改造されている。おまけに鐘塔はルネ
サンスというのだから、普通ならパスするとこ
ろだろう。
 絶対に通り過ぎる事が出来ないのは、写真に
見る12世紀のポーチ式ギャラリーが残されて
いるからだった。
 正面の入口の他に、十個の精緻な半円アーチ
が設けられている。円柱は8本がシングル、5
本がダブルになっている。当初は全部ダブルだ
ったのだろうか。
 柱頭の彫刻は卓越した逸品で、サムソンとラ
イオンや悪魔と戦う聖ミカエルなど、物語性に
富んだ場面が迫力ある彫りで描かれている。
 ギャラリーの左奥に彫られた窓周辺のレリー
フは、アダムとイヴの誘惑を描いた精緻なもの
で見逃せない。
 
 
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 ソーリア聖ドミンゴ教会
  Soria/Iglesia
     de Santo Domingo
 
             
       Soria 
                 
   
 
 侵攻するイスラム勢力に対峙した“ドゥエロ
川の防御線
Línea del Duero”の、歴史的要
塞の一つとして知られる町である。
 丘の上のパラドールに泊まり、町に残る三箇
所の重要なロマネスク寺院を訪ねた。

 丘の町ソリアの中腹に位置しており、広場に
面した端正なファサードが目に入る。
 左右に上下二段の二連装飾アーケードが二つ
づつ並んでおり、中央に写真の扉口とバラ窓と
が設けられている。
 開口部がバラ窓と扉口だけという、いかにも
ロマネスク的なファサードの意匠に先ずは魅了
された。町の創設者、アルフォンソ八世の王妃
の出身地、フランス・ガスコーニュの影響が顕
著だ。上部に二人の像が飾られている。
 身廊は三廊式で尖頭形だが、横断アーチの用
いられたプリミティブな天井である。後陣はゴ
シックに改修されていた。
 圧倒的な量感と質の高い彫刻群で構成された
扉口が見所で、四重のアーチ帯には、楽器を演
奏する黙示録の二十四人の長老、ヘロデ王の幼
児虐殺の場面、キリストの生涯、などが描かれ
ている。ペーニャの“ぎょろ目”の影響が感ら
れた。
 タンパンは珍しい父子像で、天なる父が幼児
キリストを抱いている。周囲に彫られた四天使
が、それぞれ四福音書家のシンボルを持つ。 
 
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 ソーリアラバネラの
        聖フアン教会

  Soria/Iglesia de San Juan
       de Rabanera
 
             
       Soria
                              
  
 
 パラドール Parador の在る城の庭園へと続
く道筋に位置しており、教会の全景を眺めると
いかにもビザンチン風な十字形の聖堂であるこ
とに気が付く。
 身廊は単身廊で、翼廊との交差部に方形の鐘
塔がそびえており、後陣は半円形ながら全体的
に角張った堅固なイメージである。

 写真は西側扉口のもので、アーチ帯には目立
った装飾は無いが、タンパンと円柱の柱頭に秀
逸な彫刻を見ることが出来た。
 タンパンには七人の人物像が彫られおり、何
か案内はないものかと調べたのだが、柱頭も含
め聖ニコラウスの生涯を描いたもの、としか判
らなかった。
 従来は聖ニコラウスを祭った聖堂にあったも
のが、ここへ移築されたのだと言われている。
 像容にはややゴシック的な写実が見られるも
のの、タンパンの形に合わせて人物の大きさを
変えているところなど、何ともロマネスク的な
要素も大いに見受けられる良い彫刻だ。
 柱頭にはギョロ目の人物像も見られ、ペーニ
ャの修道院
San Juan de la Peña からの至近
な距離を感じさせる。
 主題の詳細は不明だが、聖ニコラウスの奇跡
や受難の場面であるらしい。
 
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 ソーリアドゥエロの
       聖フアン教会

  Soria/Iglesia de San Juan
       de Duero
 
             
       Soria 
                              
  
 
 町の麓を流れるドゥエロ川沿いの、緑濃い田
園風景の中に建っている教会の遺構である。エ
ルサレムの聖ヨハネ修道会救済に帰属した教会
であった。
   
 現在残っている聖堂は単身廊のバシリカで、
尖頭横断アーチの天井からなる祭室と、ドーム
が美しい半円形の後陣が設けられている。
 身廊と後陣を仕切る尖頭アーチ壁の手前左右
に、中東の丸屋根に似た、天蓋の付いた四本柱
の礼拝堂が在る。荘厳な儀式が想像できるが、
注目すべきは左右各四本づつの柱で、各々が四
本の円柱の束ね柱で構成されており、それぞれ
に秀逸な柱頭彫刻が見られることである。
 洗礼のヨハネの殉教場面など、人物像が独特
の表情を示しており、まことに奥行きの深い彫
像群だと言える。

 写真は聖堂に隣接する回廊の跡で、現在は四
方の列柱のみが残されている。興味深いのは、
四種類の異なった意匠のアーケードが見られる
ことだろう。写真はその内の一つだが、明らか
にイスラムのデザインである。回廊は12世紀
から13世紀にかけて建造されたものらしい。
 回廊の正面入口に門が在るが、そのアーチが
馬蹄形をしており、ここにもモサラベ的な要素
が散りばめられていた。
 
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 サン・エステバン・デ・ゴルマス
        
聖ミゲル教会
  San Esteban de Gormaz/
      Iglesia de San Miguel
 
              
       Soria 
                             
 
 ソーリアの南西90キロ、ブルゴスとの県境
に近い荒涼とした丘陵地に開けた辺境の町、と
いうイメージだった。ほとんど樹木が見当たら
ない。
 町の背後にはムーア人の建造した城砦址が聳
えており、その手前にこの教会の鐘塔を発見す
ることが出来た。

 ムーアの雰囲気を伝える町を抜け、急峻な坂
道を登って行くと、聖堂正面にたどり着く。
 南面するギャラリー式ポーチが美しい。アー
ケードは七連で、11世紀に創建された当初の
円柱や柱頭彫刻を見ることが出来た。アラブの
衣装を着た人物や孔雀や馬など、東方的なイメ
ージがそのモチーフとなっている。
 城郭建設を手掛けたムーアの石工達による仕
事、ではないかと思えた。
 円筒ヴォールトの単身廊、半円形の後陣も魅
力的だった。上層の採光窓はアラブのイメージ
そのものだろう。
 
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 サン・エステバン・デ・ゴルマス
      
リヴェロの聖母教会
  San Esteban de Gormaz/
   Iglesia de Nuestra Señora
        del Rivero
             
       Soria
                              
  
 
 サン・ミゲルから少し下がった町の西側の崖
地に、同じ様式のギャラリー・ポーチを設けた
もう一つの重要な教会が建っている。
 写真は、町の展望が開けたギャラリーからの
眺めである。

 12世紀創建とされる聖堂やギャラリーの規
模は聖ミゲルとは比較にならない程壮大なのだ
が、聖堂内部は後世にかなり改築されてしまっ
ているようだった。
 また、ギャラリーは、中央の入口の右側に円
柱を配した五連のアーケードを設けているが、
左側は太い角柱による三連アーケードになって
おり、左端は壁で開口部は無い。ここにも何ら
かの修復が施されているようだ。

 写真で見るように、ここの柱頭彫刻も単純だ
が彫りが深く、陰影が明快で魅力的だ。
 ターバンを巻いた人物や各種の動物像など、
聖ミゲルのコピーではないかとも思える内容で
ある。かなりの影響があったものと推察する。

 ムーア人の城砦、果てし無く広がる茶褐色の
大地、同じ色の集落と草木も無い石灰岩の丘陵
の続くこの北メセタ
La Meseta 地方を代表す
る町の佇まいだ。
 
 
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 ヴァルデネブロ聖ミゲル教会
  Valdenebro/Iglesia
       de San Miguel
 
             
       Soria 
                              
 
 
 後述のベルランガを目的に、エル・ブルゴ
El Burgo に滞在した際、周辺の小教会群を巡っ
て見る機会を得たのだった。
 エル・ブルゴの東10キロに在る小村で、教
会は背後の石灰岩の丘の中腹に建っている。
 扉口は南門で、修復された形跡が強い。長方
形の単身廊で、西正面と北側の壁には窓が一つ
も見当たらない素朴な建築である。12世紀後
半の建造だが、大きな様式改造は無かったよう
だ。見学の要は半円形後陣で、簡素な葉模様の
柱頭以外装飾は無いが、五連の盲アーケードが
主役になっていて目を引く。
 見所には乏しいが、素朴な佇まいには魅了さ
れる。
 
 
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 リオセコ聖フアン・
      バウティスタ教会

  Rioseco de Soria/Iglesia
      de San Juan Bautista
 
              
             Soria 
                             
 
 前述のヴァルデネブロから東北へ15キロ、
田園地帯の中心に在る集落である。
 村の東端に建つ聖堂は、12世紀後半の建築
で、身廊と後陣部分だけが現在まで伝わってい
る。聖堂北側の写真で、窓一つ無い身廊部分と
半円形の後陣の佇まいは、ヴァルデネブロの聖
堂に似ている。
 後陣は中央と左右に控え壁が付けられ、意匠
としては最悪だが、やや後世の流行だったのか
もしれない。上部の壁面に、連続するアーチ装
飾の痕跡が見られ、一部だけ残っているが、大
半の剥落が惜しまれる。
 聖堂の南側は大きく改造されているので、ロ
マネスクのアングルはここだけだった。
 
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  トーレアンダルス聖ドミンゴ・
       デ・シロス教会

  Torreandaluz/Iglesia de
     Santo Domingo de Silos
             
       Soria 
                              
   
 
 前述のリオセコから南へ7キロ行った所に在
る、割とにぎやかな村で、訪れた日には市のよ
うなフェスティヴァルが開催されていた。
 教会は町の東端に建っており、後陣の背後は
急に低くなっている。
 聖堂は全体が長方形で、西端に方形の鐘塔が
建ち、単身廊と方形の祭室が並んでいる。大半
が後世の改造であり、残念ながらロマネスク時
代の名残は写真の南側扉口だけとなっている。
 しかし玄関間のアーケードに守られたこの扉
口には、とても質の高い装飾が成されていた。

 大きな四本の円柱と、小円柱から立ち上がる
アーチで構成された五重のヴシュールには、稲
妻形の連続模様などが見られる。
 大きな柱頭は鮮やかな彫りの彫刻で飾られて
いる。左側は、四人の楽士とライオンと闘うサ
ムソンと思われ、右側は、馬に乗る二人の騎士
と植物の葉模様である。
 脈絡の無いモチーフだが、シロスのサント・
ドミンゴを祀る教会だとすれば、深遠な哲学が
秘められている可能性はある筈だが。

 この地区には
Andaluz, Calatañazor など、
地味だが個性的な教会が他にもあるので、また
の機会の再訪を期している。
 
 
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  ベルランガ
    聖バウデリオ礼拝堂

  Berlanga/Ermita
      de San Baudelio
              
       Soria 
                             
   
 
 以前に訪問した際には完全に閉鎖されていた
ので、時間で内部が公開されるようになってか
らは初めての訪問になった。
 11世紀初めに創建されたプレロマネスク聖
堂で、大小二つの方形聖堂が繫がった形になっ
ている。
 写真は北門を入った聖堂の中心部で、太い円
柱が中央に建ち、傘の骨の様に八本の梁が天井
を支えている。
 モサラベ様式の馬蹄形アーチを18本の円柱
が構成するトリビューンのような二層構造は、
アストリアスのレナの聖クリスチナに似ている
ように感じられた。
 こうしたプレロマネスクの建築も魅力なのだ
が、聖堂全体を覆う12世紀のフレスコ壁画の
壮麗さには圧倒されてしまう。
 褪色の激しい部分や剥落したものも多いのだ
が、ボストンやプラドへ売却された部分もある
というのは驚きだった。
 それでも、創設時の堂内の様子を想像するに
は、十分なテキストが残されている。
 階上正面には、聖霊の鳩を中心にした聖バウ
デリオなどの聖人像が描かれており、三人のマ
リア像などの聖書物語が中心になっている。他
の壁には、狩猟の場面などを筆頭にして、多く
の動物の像が見られる。牛や犬、熊やラクダな
どだが、有名な城を運ぶ象はプラド美術館が所
蔵している。
 プレロマネスクの素朴で地味な建築と、聖堂
内部の華麗さの対比が際立って印象的だった。
 
 
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  ペシーニャピッシーニャの
     聖マリア教会

  Peciña/Iglesia de
    Santa Maria de Pisciña
              
      La Rioja
      
 
 
  バスクのアラヴァ Álava 州境に近い丘陵
に、葡萄畑に囲まれてポツンと建っている。写
真は、斜面に建つ聖堂を、山側から眺めたもの
だ。
 単身廊に半円形後陣という、この地方に多い
素朴な佇まいと、古びた石の風情がとても気に
入ってしまった。もっとも沿革を調べて驚いた
のだが、12世紀半ばに後陣だけが聖別され、
半世紀後に単身廊が付設されたらしい。
 写真の手前北側のギャラリー部分は、15世
紀になってからの付設である。
 扉口は南側にあり、半円アーチの門が付けら
れている。半円タンパン部分はあるが、彫刻は
無い。ヴシュールや柱頭にも彫刻は見られず、
大層素朴で地味な扉口だと言える。
 唯一の彫刻が軒持ち送りで、逆立ちした曲芸
師などユニークなものが多い。
 内部へは入れなかったが、葡萄畑に建つ聖堂
全体の雰囲気が魅力的だった。
 
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 ヴィリャセカ聖ロマン教会
  Villaseca/Iglesia de
          San Román
 
     
      La Rioja
       
 
 カルサーダ Calzada の北25キロに広がる
平原の寒村で、12世紀のレコンキスタ以降に
入植した集落と思われ、教会も同時代に建造さ
れたものだろう。
 村の人口が百人に満たないそうで、その割り
に教会が立派なのに驚いた。
 ここも単身廊に半円形後陣が基礎となってお
り、付設された塔や他の建物は全て後世の建造
物である。
 写真は、最も美しく見える後方から半円形後
陣部分を眺めたもので、豊富な軒持ち送りの彫
刻や、窓の縁飾りの植物紋様からは卓越した技
量の石工が存在していたことが判る。
 南側扉口の築造は13世紀とのことだが、六
重のヴシュールを持つ尖頭アーキボルトは、彫
刻は無いものの堂々とした構えである。
 内陣アーチの柱頭には、植物紋様の彫刻が見
られた。
 
 
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 ティルゴエル・
     サルヴァドール教会

  Tirgo/Iglesia de El Salvador 
             
       La Rioja      
       
 
 前記のヴィリャセッカから草原の中を南へ8
キロ走ると、人口数百人という小さな集落に着
く。村の中心の広場に面して、サルヴァドール
(救世主)に奉じられた教会が建っていた。
 創建は12~13世紀で、単身廊のお堂と半
円形後陣が当初の遺構だろうと思う。鐘楼や塔
は後世のものである。
 後陣の柱頭と屋根の下の軒持ち送りには、少
し時代は下がるが、秀逸な彫刻が見られた。
 扉口は南側に設けられているが、この日は残
念ながら中へ入れなかった。
 扉口のヴシュールには柱頭が無く、アーキヴ
ォルトと円柱が一体で、更にその長さが三段に
なっているのは珍しい。
 西側のファサードには、扉口のような装飾ア
ーチが見られる。
 いずれにしてもこの地方ならではの、“素朴
だが殺風景”という独特の印象を感じていた。
 
 
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 クスクッリタソレハーナの
     聖マリア教会

  Cuzcurrita de Rio Tirón/
    Iglesia de Santa Maria
       de Sorejana
 
              
      La Rioja   
      
 
 前記ティルゴの隣村で、ティロン川に沿った
人口数百人の寒村である。
 この教会はその集落から草原を南西へ2キロ
行った耕地の只中、岩山を背景にしてポツンと
建っていた。
 ここにはソレハーナという村が在ったが、洪
水かペストが原因で離村し、教会堂だけが残っ
たということである。
 ここでも扉口が閉まっていて、内陣へは入れ
なかった。聖堂は単身廊で、後陣は半円形では
なく正方形であるところが珍しい。
 写真は南側の扉口周辺で、七重のアーキヴォ
ルトが重厚である。柱頭には、やや摩滅した人
面や植物が彫られている。
 幾何学紋様のレリーフが、ファサードの両端
まで彫られているのが憎かった。
 量感に満ちた聖堂が、荒涼とした風景の中で
異彩を放っていたのがとても印象的であった。
 
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 ソッラキン聖エステバン教会
  Zorraquin/Iglesia de
         San Esteban
 
             
       La Rioja    
                    
  
 
 巡礼路上のカルサーダから南へ15キロ行く
と、エスカライ
Escary という村に着く。こ
の集落へは、そこから更に西へ2
キロ山間部へ
入っていかねばならない。人口が50人足らず
の僻地だが、集落の高みにこの堂々とした教会
が建っていた。
 創建は10世紀と伝えられるが、見た限りで
はそうしたイメージには程遠く、聖堂の上半分
は16世紀頃に改造されてしまったとのことで
あった。

 聖堂の下半分には窓は無く、南側に扉口が設
けられているだけだった。
 聖堂は単身廊だが、後陣は正方形のプランで
後世のものと思われた。内陣では、簡素なロマ
ネスク式の洗礼盤以外には見るべきものが無か
った。

 南扉口は単純な二重のアーキヴォルトで、左
右の柱頭に彫刻が彫られている。
 写真は向かって左側の柱頭彫刻で、この教会
に祭られた聖エステバンの殉教の場面であるら
しい。
 聖エステバンは聖ステファノ
St-Étienne
ことで、石殺しにされたキリスト教最初の殉教
者と言われる。左側の男が石をいっぱいに抱え
ている図が面白い。ロマネスク後期の彫刻で、
表現がいかにもロマネスク的なところに惹かれ
てしまう。  
 
 
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 サン・ミリャン・デ・コゴーリャ
        
スソ修道院
  San Millán de Cogolla/
      Monasterio de Suso
             
      La Rioja 
                    
   
 
 ナヘラ Najera の町の南西18キロの山の
中、10世紀に創建された巡礼地としても著名
な修道院である。
 ここは山の上の修道院と呼ばれ、町から離れ
た渓谷上流の深い山中に建っている。
 5世紀以降に地元出身の聖ミリャンが隠遁生
活を送った場所とされ、その岩窟墓所が崇敬の
対象となったという。

 現在見るスソ修道院には、10世紀創建当時
の祭室の遺構が残されている。写真は二廊式身
廊の中央アーケード部分で、11世紀に拡張さ
れたものである。
 モサラベ様式の馬蹄形アーチを見ることが出
来る貴重なテキストで、従来は撮影禁止だった
が、今回の案内人は何故か見て見ぬ振りをして
くれる幸運を与えてくれたのだった。

 身廊を東西に二分するという大胆なプランに
驚いたが、西ゴートの名残でもある馬蹄形アー
チが、特異な聖堂空間を創出している。
 ギャラリーに面した聖堂への扉口は、ここも
馬蹄形アーチで、組紐紋様の二連柱頭彫刻が印
象的だった。

 夢にまで見たこの聖堂の空間に、実際身を置
くことが出来た悦びは、正に旅の醍醐味と言え
るだろう。   
 
 
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 サン・ミリャン・デ・コゴーリャ
       
ユソ修道院
  San Millán de Cogolla/
      Monasterio de Yuso
              
       La Rioja  
                  
 
 
 修道院の中枢部が在る建物群で、谷間の修道
院と呼ばれている。
 現在の修道院は広大な建築で、16~18世
紀にかけて造築されたものである。ゴシック・
ルネサンス・バロックなどの様式が混在してお
り、ロマネスク建築としては見るべき部分は全
く無いだろう。
 注目しなければならないのは、宝物庫に展示
されている二つの聖遺物箱とそれを飾っている
象牙細工だろう。いずれも11世紀の作で一つ
は聖ミリャンの聖遺物箱、もう一つが写真の聖
フェリセスのものである。
 象牙装飾面は5面の構成で、写真はその内の
“最後の晩餐”の面である。ビザンチン風の優
美な彫刻は、素晴らしいの一言に尽きる。
 修道院には格調の高い宿泊施設が備わってお
り、私達はここに二泊してリオハのロマネスク
を探訪した。
 
 
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 マンシーリャ
     聖カタリーナ礼拝堂

  Mansilla de la Sierra/
   Ermita de Santa Catalina
 
             
      La Rioja 
                    
  
 
 ダム湖に沈む村と共に、湖畔の現在の場所に
移転された小さな礼拝堂である。
 集落からは少し離れているが、ここから湖中
に沈んだ旧教会の残骸の先端の一部分を眺める
事が出来た。
 移転されたのは歴史的に重要な創建当初のロ
マネスク建築部分だったが、写真に見る通り、
現在残っているのは、更にその内の半円形後陣
部分と、それに続く単身廊の一梁(ベイ)部分
のみだ。
 写真の扉口は南門で、西壁は従来煉瓦で塞が
れていたのだが、今回は内陣が工事中でプラス
チックのボードで覆われていた。従って、湖を
バックにした聖堂の姿を撮影しても丸で絵にな
りそうもなかったので、湖側からの写真を掲載
した。
 本来の聖堂には程遠い建築の一部分でしかな
いが、湖を背景にして建つ孤高な姿には、素朴
なロマネスクに惹かれる旅人の心の琴線を鳴ら
すに十分な魅力を備えていると言えそうだ。   
 
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  カナレス聖クリストバル教会
  Canales de la Sierra/
    Iglesia de San Clistóbal
              
      La Rioja    
                   
 
 
 マンシーリャの谷の分水嶺、ブルゴスとの県
境に近い寒村である。
 12世紀創建の堂々たる聖堂が、集落最奥の
高台に建っていた。
 カスティーリャ地方のロマネスクの特徴であ
る聖堂南側の
Galería Porticada ギャラリー
式ポーチがリオハで唯一見られる場所である。
 単身廊と正方形の祭室・後陣などは17世紀
に改築されており、鐘塔とポーチの一部がオリ
ジナルとして残されている。
 現在のポーチの開口部は写真に写っている部
分だけだが、中央の入口の左側にも三連のアー
ケードが在ったものと思われる。
 アーケードの柱頭彫刻はやや剥落してはいる
が、聖人達の物語性に富んだ場面が、繊細な表
現で描かれている。
 聖堂南側扉口のアーチは三重のヴシュールで
構成されており、縁飾りの連続組紐紋様が美し
かった。 
 
 
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  サンティリャナ・デル・マル
       参事会教会

   Santillana del Mar/
          Colegiata
    
      Cantabria     
                          
   
 
 この町へ入ると同時に、時間は中世へと飛ん
でしまう。古い家並に石畳の路地、家畜小屋が
同居する昔のままの佇まいが私達を魅了した。


 町の名の由来となった聖女サンタ・フリアナ
を祭る修道院に起源のあるこの教会は、共同井
戸などの在る古い道を抜けた町の一番奥に堂々
と建っていた。
 正面にファサード彫刻の美しい扉口、左右に
方形の塔が建ち、階上にアーチ列柱の並ぶ聖堂
の全貌が目に飛び込んでくる。素晴らしく感動
的な光景だった。

 更に私達を驚愕させたのが、写真の回廊だっ
た。聖堂の北側に隣接しており、12世紀末の
重厚な建築である。数あるロマネスク回廊の中
でも屈指の傑作と言える。
 柱頭の彫刻を詳細に観て回った。感動した家
人の歓声と、撮影の指示が絶えない。
 キリスト洗礼、十字架降架や復活などといっ
た新約の主題のほかに、獅子や龍やグリフォン
などの空想動物が植物や人物と複雑に絡み合っ
た意匠が大半を占めている。
 なかなか暮れない夏の宵、長い間時間を忘れ
て見入っていた。
 
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 イェルモ聖マリア教会
  Yermo/Iglesia
      de Santa Maria
             
      Cantabria 
                                    
 
 サンティリャーナの町の南約10キロの山間
に在る小さな集落である。
 教会は村の高台に位置しており、赤味を帯び
た切り石積みの美しい聖堂建築だった。
 写真は南側の扉口で、ここが聖堂への入口に
なっている。陰になって見難いが、タンパンに
龍を退治する聖ゲオルグが彫られている。罪を
打ち負かすキリストのイメージなのだろうか。
 内部は単身廊に半円形の祭室が付いた簡素な
プランで、祭壇はバロック装飾になっている。
 アーチ基部の柱頭には三王礼拝や、柱頭には
珍しい四福音書家の象徴にまれた栄光のキリス
ト像が彫られていた。ロマネスクらしい愛らし
い人物像となっている。
 聖堂後方からの半円形後陣の眺めも良いが、
軒持ち送りの装飾彫刻に様々なモチーフが見ら
れて興味深かった。 
 
 
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 カスタニェダ聖クルス
     旧参事会教会

  Castañeda/Colegiata
      de Santa Cruz
      
      Cantabria  
                      
 
 
 朝サン・ジャン・ピエ・ド・ポールを一番に
発ってピレネーを越え、私達が最初に目指した
のがこの教会だった。
 町外れの牧歌的な谷間に建つこの教会は、赤
い煉瓦の屋根や黄色い壁の色が緑に映えて美し
かった。
 12世紀後半の創建時には単純な十字型のプ
ランだったようだが、後にいくつかの建物が付
加されたようだ。
 裏のトウモロコシ畑から眺めた後陣は大層素
朴で、十字交差部に建つ塔も武骨だが穏やかに
見える。
 八重の装飾アーチが特徴となっている西扉口
も面白いし、半円アーチを自在に組み合わせた
身廊や祭室の意匠は、石を積んだだけの重苦し
さを少しも感じさせず特に美しい。
 柱頭の彫刻にも傑作が見られた。
 私達は感動の余興にこの教会を「カンタブリ
アの真珠」と命名した。  
 
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 セルヴァトス聖ペドロ
     参事会教会

  Cervatos/Colegiata
     de San Pedro
 
              
      Cantabria     
                   
   
 
 カンタブリア南端、パレンシア州境に近い山
間部に位置している。レイノサという大きな町
の南5キロの静かな町である。
 教会の創建は不明だが、9世紀に建てられた
修道院の遺構であるらしい。現在見られる建造
物は、12世紀後半とされる写真の聖堂だけで
ある。

 単身廊に半円形後陣と鐘塔が残るだけで、北
側に付設された建物は後世の建築である。
 ここでは、南扉口のタンパンに注目したい。
 一面にレースのような葉飾り紋様が彫られて
おり、この創作的な意匠はモサラベとの相関も
考えられる。ただ、宗教的な説得力には欠けた
デザインだと言わざるをえないようだ。
 まぐさ石部分に、向かい合う六頭のライオン
が一列に彫られている。面白い表情のライオン
だが、教会の守護を意味しているらしい。

 単身廊の天井は交差リブヴォールトで、ゴシ
ック期に架け替えられたものである。
 身廊や祭室部分に多くの柱頭彫刻が見られる
が、ライオンや鷲や龍などをモチーフとしたも
のが多く見られた。ライオンのたてがみや鳥の
羽根などに、巧みな縞紋様が彫られている。
 
 
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