ケルシールエルグ
   地方のロマネスク
 
  Quercy et Rouergue
      Romanes
 
 
 
 
  ラ・クーヴェルトアラード
   (
美しい中世の城郭都市
   La Couvertoirade Aveyron 
 
 ロマネスクを志す人達にとって、この地方は
決して避けて通れない場所である。
 なぜなら、あらゆるロマネスクの聖堂建築や
図像彫刻の原点でもあるモアサックやコンクと
いう、中世美術館の如き修道院が、山あいの谷
間の村にひっそりと建っているからである。

 山深い地方なので旅をするには不便だが、よ
うやくたどりついて見上げる聖堂の美しさは格
別だ。
 山懐に抱かれた小さな集落は、その飾らぬ素
朴な佇まいが私達を心から魅了する。
            
 
 
 
 県名と県庁所在地

 ケルシー地方
     1 Lot (Cahors)
     2 Tarn-et-Garonne
        
(Montauban)

 ルエルグ地方
     3 Tarn (Albi)
     4 Aveyron (Rodez)
 
 
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スイヤック聖マリー教会
  Souillac/Église Ste-Marie

      1 Lot   

              
   
 
 聖堂を外部から俯瞰すると、三つの丸屋根と
半円形の外陣が目に入る。それらは、単身廊部
分に設けられた二つのベイと、翼廊の交差部に
よって構成された美しいドーム群だった。
 祭室に付設された三つの放射状祭室は特徴的
で、祭壇の周囲が周歩廊の役目をしており、巡
礼路教会のような構造になっている。
 建築の大半は12世紀のものだが、西側正面
の扉口と玄関間は11世紀の名残だそうだ。
 そしてその扉口の身廊側内部の壁面に、最も
注目すべき彫刻群がある。
 ひとつはタンパン部分に彫られた“修道士テ
オフィル
Theophile の伝説”で、聖ペテロや
聖ベネディクトやテオフィルを救う聖母などが
描かれており注目したい。
 扉口の右側には、モアサックのエレミア像に
影響を受けたイザヤ
Isaïe の像が見られる。
 写真は、扉口の横に据えられた奇妙な柱状の
彫刻群で、トリュモウ
Trumeau 窓間壁と呼
ばれている。しかし実際は、アーチを柱頭で受
けた角柱であり、そこに密度の濃い連続浮彫が
施されているのだった。
 動物達が折り重なって互いに喰らい合うとい
うオリエント的な図柄の中に、写真の“イサク
の犠牲”が見られた。イサクの髪を握るアブラ
ハムの表情が印象的だった。
 
 
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カルナック
   
 旧聖ピエール小修道院
  Carennac/Ancienne Prieuré
      St-Pierre
 

      1 Lot   

              
 
 
 ボーリューからドルドーニュ河に沿って少し
下った所に、小さなカレナックの町がある。
 細い路地の坂道を登っていくと、美しいタン
パン彫刻のある正面の門が見えてくる。
 息を呑むような彫りの鮮やかな造形に、ロマ
ネスクを歩く喜びが一層深まる思いだ。
 中央に四福音書家のシンボルを配した「荘厳
のキリスト」像で、その両側には十二使徒達の
群像が彫られている。
 最初のイメージは、小型のモワサック」であ
ったが、大袈裟でない端正な意匠が感動的です
らある。
 私にとっては、タンパン彫刻の魅力を再認識
させてくれた思い出の場所でもある。
 堂内の柱頭にも興味深い彫刻が多数有り、写
真を何枚も撮った記憶が新しい。 
 
 
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カオール聖エティエンヌ大聖堂
   Cahors/Cathédrale
      St-Etienne

      1 Lot   

              
   
 
 カオール大聖堂のタンパンは扉口が塞がれて
しまっていて、ここからの人の出入りは現在は
出来なかった。タンパンという不思議な扉口空
間の彫刻、というニュアンスがやや失われて、
本質的な魅力が若干だが失われているのが残念
だった。
 彫刻全体の主題は「キリスト昇天」である。
 中央にキリスト像、周囲にこれを祝福する天
使達の像などが彫られており、下段には聖母を
中心として使徒達の像が左右に五人づつ配され
ている。写真は左が聖母、右は使徒達の内の二
人である。
 私はこの清楚な聖母像がとても気に入って、
何枚も写真を撮ったのだが、良い写真は撮れな
かった。
 渡岸寺の十一面観音像の様に首をやや曲げ、
腰を少し捻ったような、神聖だが魅力的である
立ち姿として表現したかったのだったが。

 後年再度訪問したが残念なことに工事中で、
念願は果たせぬままでいる。
 香り豊かなカオールの赤ワインも魅力で、ぜ
ひもう一度カオールの町を訪ね、マリア様と再
会したいものと念願している。
 
 
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ヴェルヴェールの聖母教会
  Vers/Église
    Notre-Dame-de-Vèles
 

      1 Lot   

              
   
 
 カオールからロット川に沿って真東へ約15
キロ行くと、右手に赤い屋根のチャーミングな
鐘塔が見えてくる。
 ヴェルの集落からはかなり手前になるが、森
と川を背にしたのどかな場所に建つ、礼拝堂の
ようなこじんまりとした聖堂である。

 聖堂のプランは単身廊十字形で、祭室は半円
形の後陣を形成しており、翼廊との交差部に鐘
塔が建っている。
 正面扉口のあるファサードは、ロマネスク風
ではあるが明らかに後世の改造が顕著だ。破風
の上に飾られた聖母像が印象的だった。
 身廊の天井は、尖頭形のヴォールトに横断ア
ーチの付いた単純な様式だが、これも創建当初
の建築ではない。しかし、ロマネスクの雰囲気
を、さりげなく伝えることには成功している。
 祭室、鐘塔、後陣部分に素朴なロマネスクの
美しさが色濃く残されている。交差部のドーム
は八角形の上に乗る格好で、そこに鐘塔がすっ
くと立ち上がっている。
 四方の柱の柱頭には、聖エチェンヌの殉教場
面等、精緻な表現が成された彫刻が見られる。

 写真は、墓地や石垣を背にした後陣と鐘塔部
分を斜め後ろから写したものである。半円形の
後陣や、質素な鐘塔が大層美しく感じられた。
 
 
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ブラール聖ローラン教会
   Blars/Église St-Laurent 

      1 Lot   

              
 
 
 ロットの支流セレ Célé 沿いに北上し、更
に段丘へと上がった所にこの小さな村がある。
 教会は閉まっていたが、背後の墓地から眺め
た迫力に溢れた後陣は見事だった。
 単身廊に翼廊、三つの半円形後陣、交差部に
鐘塔というこの地方の様式通りのプランだ。
 後陣の軒持ち送り部分の彫刻が特にユニーク
で、石工のアイデア比べのようだった。
 また、翼廊南側に扉口があり、小品ながら優
れたレリーフを見ることが出来た。
 
 
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マルシャック・シュル・セレ
     
旧修道院遺蹟
  Marcilhac-sur-Célé/
     Ruines de l'Abbaye
 

      1 Lot   

              
 
 
 セレ川沿いに発展したベネディクト派修道院
の門前町で、その修道院遺構が現在も町外れに
保存されている。
 写真は、付属教会の西門から身廊部分で、ロ
マネスク様式が最も良く残されている。苔むし
た雰囲気は、遺蹟好きには堪らない。
 ゴシック様式に改築された祭室部分は、現在
も使用されている。
 北側の扉口には、聖人像などが嵌め込まれた
タンパンがある。また、奥の参事会室の柱頭に
は、目を見張るような傑作が数基、ひっそりと
隠れていた。
 
 
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モワサック
   旧聖ピエール大修道院

  Moissac/Ancienne Abbaye
      St-Pierre

    2 Tarn-et-Garonne

              
 
 
 モワサックはモントーバンとアジャンの町の
中間に位置する、ガロンヌ河に沿った静かな町
である。
 この町の大修道院教会は、扉口の彫刻群や回
廊の柱頭彫刻という、どちらもロマネスクを代
表するような、壮大な宗教美術を見ることが出
来る奇跡の聖堂である。
 扉口に立つと、本当にこれが石を刻んで造ら
れたものなのか、と驚愕する。
 写真はタンパン彫刻の主要部分で、黙示録の
キリストを表現している。聖ヨハネの記述にも
ある「玉座の神」「それを取り巻く四つの生き
物」「二人の天使」「二十四人の長老」等が、
きっちりと描きこまれているのだ。
 他の教会に絶大なる影響を与えた、比類無き
傑作といえるだろう。周辺の柱や壁にも、黙示
録の裁きを暗示する図像が彫られている。
 回廊の柱頭群は、さながら彫刻図案の見本市
で、独創的な意匠に満ち溢れている。
 
 
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レスキュール・ダルビジョア
    聖ミッシェル教会

  Lescure-d'Albigeois/
     Église St-Michel

        3 Tarn

              
   
 
 アルビ Albi の町で、最後の審判を描いた大
聖堂の内陣仕切りや、ロマネスクの回廊のある
聖サルヴィ教会を見てから、私達はタルン河を
渡って対岸の村レスキュ-ルを訪ねた。
 町外れの墓地に囲まれて建つこの聖堂は、教
会と言うよりも礼拝堂に近い建築である。三廊
式だが列柱は四本しかないバジリカ式で、質素
な祭室が付いている。
 教会の規模に比して、不釣合いと思える程立
派なファサードで、四重のアーチ装飾や柱頭彫
刻、軒持ち送りの彫刻にも見るべきものが多か
った。
 タンパンは無いが、連続模様の彫刻などは洗
練されており、その分ロマネスクらしいプリミ
ティヴな創造性には欠けているので、やや後期
の作品かと思われた。
 アーチを支える柱頭には、アブラハムの犠牲
と思われる場面や、ライオンや怪鳥らしき動物
像などが彫られていて興味深い。
 実に愛すべきスケールの小聖堂で、佇まいそ
のものに品位の満ちた美しさが漂っていた。
 
 
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ラ・プランク聖母教会
  Las Planques/
    Église Notre-Dame

      3 Tarn

              
     
 
 アルビの北約40キロに、Viaur ヴィアウ
ル渓谷という深い谷が有り、その断崖の上にロ
マネスクの聖堂が建っているという。私達は日
本を出る前から、この教会に限り無い憧れを抱
いていた。
 もうこれ以上進めないと思える場所に車を止
め、渓谷に沿った山道をかなり歩いた時、突然
眼前に写真の光景が飛び込んできた。
 扁平な石を積んだ初期ロマネスクだが、近年
修復が行われたと手前の立て看板に書いてあっ
た。
 残念ながら鍵がかかっていて内部は見られな
かったが、素朴な壁面、飾りアーチの美しい外
陣などの眺めは、たどり着くまでの労苦に思い
入れが加わって、忘れ難き格別の風景として心
に焼きついたのだった。
 教会の反対側は、切り立った断崖絶壁になっ
ていた。  
 
 
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コンク旧聖フォア大修道院
  Conques/Ancienne Abbaye
         Ste-Foy

      4 Aveyron

              
 
 
 アヴェイロン県の北部、オーベルニュ地方に
近い位置にあるコンクは、深い渓谷の斜面にへ
ばり付くようにして広がる小さな村である。そ
の中央にサンチャゴ巡礼路教会として名高い、
サント・フォアの聖堂が建っている。
 扉口のタンパン彫刻はロマネスク美術の最高
傑作と言われているが、全くその通りで、見事
な彫像がびっしりと半円形の空間に詰まってい
る。
 主題は「最後の審判」で、中央に四福音書家
の象徴に囲まれたキリストが描かれている。
 左側には天国に選ばれた聖人や善なる人々が
おり、右側は地獄に落ちて悶え苦しむ人々の様
子が、説得力のある図像として彫ってある。
 鮮やかな彩色も残り、審判のための魂の計量
をする天使と悪魔の姿や、神の手にひれ伏す清
楚な聖女フォアの姿は見逃せない。
 
 
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クレルヴォー・ダヴェイロン
    聖ブレス教会

  Clairvaux-d'Aveyron/
      Église St-Blaise

      4 Aveyron

              
  
 
 コンクからロデズへと向かう途中、ロデズの
手前12キロ程から西側に10キロ入ったやや
小高い場所に在る町である。

 教会の正面ファサードは鐘塔の下に扉口が設
けられた塔付きの門だが、この扉口部分だけは
後世に改修されているようだ。赤い砂岩が用い
られた印象的な壁面である。

 内陣は三廊式の身廊と祭室というプランで、
身廊の天井は半円形の横断アーチで仕切られ 
梁間は交差穹窿という構成になっている。
 側廊の天井は、半円筒ヴォールトに横断アー
チ、という構造になっていた。
 内陣には薄ピンク色の石材が用いられ、柔ら
かい雰囲気の空間を演出している。
 側廊部分には、半円形の小祭室が設けられて
おり、主祭室と直接通路で結ばれた格好になっ
ている。半円形の主祭室後陣には、正面を外し
た左右に小さな窓が開かれている。
 取り立てて素晴らしい意匠だというわけでは
ないが、ロマネスク期ならではの横断アーチと
梁間が作り出す、この単純な落ち着いた空間が
とても素晴らしいと思う。
 人面と植物を組み合わせた、ユニークな模様
の柱頭彫刻が数基見られた。  
 
 
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ロデズフナーユ美術館
   Rodez/Musée Fenaille

      4 Aveyron

              
   
 
 ロデズの町の旧市外、聖母大聖堂の南東にこ
の美術館が在る。展示の内容は様々だが、古代
の発掘品や人面メンヒルのコレクション、中世
の彫刻などが主となっている。

 写真は、かつて大聖堂に置かれていた大理石
製の祭壇彫刻の断片であり、玉座に座る栄光の
キリスト像である。
 大聖堂に飾られていた柱頭彫刻やレリーフな
どと一緒に展示保存されている。
 顔の部分が破損しているのは残念だが、衣の
襞の特徴的な表現が面白いし、何よりも全体に
漂う荘厳な雰囲気が素晴らしい。

 キリストが座す半円形を組合わせた玉座は、
光背であると共に交差する十字にも見える。
 中段に記されている文字はA (アルファ) と
ω(オメガ)で、事の始まりと終わりを象徴し
ている。
 玉座の二つの半円は天上と天下とを象徴し
ているようにも見え、いずれにせよ宇宙全体に
君臨する王としてのキリストを表現しているの
だろう。

 この彫刻が単なる断片だったとすると、一体
どれ程壮麗な祭壇だったかは想像もつかない。
 
 
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カイサックロマネスク井戸
   Cayssac/Puits roman

      4 Aveyron

              
 
 ロデズの町の東10キロに在る寒村だが、近
年モダンな住宅が何軒か建ってはいるらしい。
 崖下に湧く古い井戸で、屋根の在る覆屋がそ
の存在を示している。
 石造の覆屋建築はロマネスク様式であり、井
戸の入口には半円アーチの門や柱頭のついた円
柱も彫られていた。
 写真は、井戸内部の覆屋の天井部分で、四本
の梁が交差する頂点部分の要石
Clef de voûte
に彫られたキリスト像である。両手を十字架の
ように伸ばした、素朴で愛らしい像だった。
 花のような四つの星が散りばめられている。
 それにしても、ロマネスク時代の意匠を施し
た井戸が、このような辺鄙な村に残存している
とは奇跡に近いといえる。
 
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サン・ジョルジュ
     
聖ジョルジュ教会
  St-Georges-de-Camboulas/
    Église St-Georges

      4 Aveyron

              
   
 
 ヴォール Viaur 川の上流に在る辺鄙な地の
教会である。ここに、コンクのタンパンに彫ら
れたキリスト像に似ている、と言われる彫刻が
在ると或る本で読んでいたので、ロデズを訪ね
た帰りに探してみることにした。

 谷に向かって急降下する行き止まりの道で、
教会は大きな岩盤の上に建つ要塞のような建物
だった。ロマネスクではないし、余り魅力の感
じられる聖堂ではなかった。
 その起源は11~12世紀とされ、マルセー
ユに在る聖ヴィクトール
St-Victor の修道士
が創建したと伝えられている。

 目的の彫刻は、礼拝堂入口の扉口の上の壁面
に嵌め込まれていた。写真がそれである。
 ロデズ大聖堂のタンパンだったものの一部が
移された、ということだった。その経緯につい
ては、ここでは知ることが出来なかった。
 キリストの風貌、衣服の襞、上下する両腕、
四隅の天使、散りばめられた星など、確かにコ
ンクのタンパンのキリスト像によく似ている。
 芸術の多方面にわたって絶大に波及したコン
クの影響の一例、ということなのだろう。  
 
 
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ボズール聖フォスト教会
  Bozouls/Église St-Fauste

      4 Aveyron

              
  
 
 ドゥルドゥー Dourdou 川の断崖上に開け
た町で、新しい教会前の広場のテラスからは有
名なトル
Trou de Bozouls と呼ばれる渓谷を
覗き込むことが出来る。
 12世紀のこの教会は、何とこの断崖渓谷の
対岸の崖上に建っていた。そこまでどうやって
行けばよいのかと戸惑うほど急峻な場所だった
が、裏から登っていける広い道が通じていたの
だった。

 鐘塔付きの扉口は後世の建築だが、内陣は目
を見張るように鮮やかな赤い砂岩を素材とした
ロマネスクの聖堂だった。
 三廊式の身廊で、幅の狭い側廊と共に半円筒
ヴォールトに横断アーチで仕切られた五つの梁
Travée によって構成されている。
 祭室を囲むように六本の円柱が建ち、その外
側に周歩廊、更に外陣には五つの小さな祭室が
設けられている。外側後方から見た外陣は半円
形ではなく、全体が五角の突起状に見える珍し
い構造である。
 写真は祭室の円柱部分で、赤砂岩の壮麗な建
築であることが想像出来ると思う。
 柱頭など見るべき彫刻群の中で、特に気にな
ったのが壁に掛けられた旧マグサ石だった。植
物模様の中央に、十字に手を広げたキリストの
像が彫られている。前述の
Cayssac カイサッ
クの井戸を思い出していたからだった。   
 
 
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サン・トゥラリ・ドルト
   聖シル・聖ジュリット教会

  Ste-Eulalie-d'Olt/
   Église St-Cyr-et-St-Julitte

      4 Aveyron

              
   
 
 オルト Olt はロット Lot の古称だが、この
ロット渓谷にはドルト
d'Olt の付く町がたく
さん在る。
 この町もそのひとつだが、フランスの格別美
しい村
Les Plus Beaux Villages de France
選定された花いっぱいの中世の町である。

 町の中央に建つこの教会は、創建が11世紀
という古い歴史を持っているが、破壊と修復を
繰り返してきたため、当初からのロマネスク様
式は、写真の祭室や周歩廊、後陣の小祭室部分
にしか見ることが出来ない。
 しかし、この周歩廊のある祭室は、コンクの
プランに類似した見事な建築だった。
 半円状に並んだ祭室の円柱は六本で、そのア
ーケードが作る七つの面が、そのまま外陣の七
面に対応している。
 正面の小祭室を中心にして、ひとつおきの面
に左右ひとつづつ、三つの半円形小祭室が意匠
されている。コンクと瓜二つと言ってもよいだ
ろう。

 聖堂全体としては後世の改築が目立つので、
ロマネスク教会としての興味はやや薄れるが、
次掲のサン・コム
St-Côme-d'Olt も同様、
美しい町並が魅力だろう。
 
 
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サン・コム・ドルト
     聖ピエール教会

  St-Côme-d'Olt/Église
    St-Pierre-de-la-Bouîsse

      4 Aveyron

              
 
 
 中世の建物が残る町の中心にはゴシック様式
の教会が在るが、私達は町外れに建つこの教会
を先ず訪ねた。
 四つの梁間を持つ、単身廊の素朴な聖堂であ
る。天井は木造の半円筒ヴォールトで、壁面以
下に創建当初の面影が残されているようだ。
 祭室は単純な半円形で、小さな三つの窓が開
いている。
 壁面に漆喰が塗られたばかりなので、以前写
真で見た質素な石積み建築のイメージと大きく
食い違っていたのだが致し方の無いところだろ
う。
 一方、聖堂後方から眺めた後陣の姿は、周囲
の緑に溶け込んだ美しいものだった。
 
 
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ラペイル聖キャプラズィ教会
  Lapeyre/Église St-Caprazy

      4 Aveyron

              
 
 
 町の教会にロマネスク時代のタンパン彫刻が
在る、とだけしか知らずにラペイルの町を訪れ
た。小さな町だが、それらしい教会は見当たら
ず、困り果てながら川辺に立ってふと対岸を見
ると、墓地らしき区画に古い塔が見えた。写真
のタンパン彫刻は、そのファサードにはめ込ま
れるようにして保存されていたのだった。
 意匠は一見稚拙に見えるが、装飾模様など手
の込んだもので、抽象的な図案が美しい傑作だ
った。
 上部に両手を挙げた人物と動物が数頭描かれ
ているが、ダニエルと獅子ではないかと思う。
 アーチの中の五人の聖人は、それぞれが杖な
どを持ったりしているが、誰を描いたのかは全
く分からない。ルシオン地方に残る、初期ロマ
ネスクのまぐさ石に彫られた聖人像を思い出し
た。
 荒れ果てた廃墟に残る、珠玉のロマネスク彫
刻だといえる。
 
 
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ラスー聖ジャック教会
  Lassouts/Église St-Jacques

      4 Aveyron

              
 
 
 この村は、ロット Lot の谷間を望む小高い
丘陵に在る。教会は後世に改修されてしまった
が、ファサードにはめ込まれた格好でこのタン
パンは保存されていた。
 これも初期ロマネスクの雰囲気をもったタン
パンだが、四福音書家のシンボルに囲まれた荘
厳のキリストを中心としている。
 六人の聖人像や植物模様、などが精密に彫り
こまれている。よく見るとかなり洗練された作
品であることが解る。
 この地方独特の赤紫色をした石材が使われて
おり、レンガ積のように見えるが、赤い砂岩だ
ろうと思う。
 町全体がこの色で、屋根の青黒いスレートと
の対比が美しい。
 ロット河沿いには、エスパリオン
Espalion
やサンコメ
St-Comé などといった古い町が
続いており楽しめる。  
 
 
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ブセジュール聖ピエール教会
  Bessuéjouls/Église St-Pierre

      4 Aveyron

              
   
 
 エスパリオンからは至近の小さな村で、教会
は村外れの森の中に孤高な姿で建っていた。目
的は聖ピエール教会本体の聖堂ではなく、写真
の鐘塔の、二階飾りアーチ壁部分にあるサン・
ミシェル礼拝堂である。
 教会身廊の後方部分に造られた狭い石段を登
ると、複雑なアーチ列柱の林立する小さな礼拝
堂が有った。
 石造の祭壇の側面に、その名の通り聖ミカエ
ルが龍を退治している場面が描かれている。こ
の祭壇や柱頭には、ケルトを想わせる複雑に絡
み合った組紐模様や、植物の蔓や葉の模様が彫
られていた。
 小さな窓から日の光が差し込み、赤色の砂岩
に柔らかく反射して室内を薄明るく照らしてい
た。
 塔の外観を見ながら、何と不細工で装飾性の
かけらも無い建築なんだろう、と思った。しか
し、この朴訥とも思える壁の中に、この時代の
センスを証明するかのような、美意識の塊がび
っしりと詰まっていたのだった。
 私達は遅い昼食を食べに、エスパリオンの町
へと戻った。
 
 
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ペルス(エスパリオン)
    聖イラリアン教会

  Espalion (Perse)/Église
   St-Hilarian de Perse

      4 Aveyron

              
   
 
 コンクからロット河に沿って上流へと向かう
と、15世紀の石橋と城の景色で名高いエスパ
リオンの町に入る。
 ペルスの教会はこの町外れに静かに建ち、赤
い切石を積んで建てられた小さな聖堂は、墓地
に囲まれて独特の雰囲気を醸し出している。

 入口のタンパン彫刻はコンクの影響を受けた
のだろうか、黙示録の世界がテーマである。
 最上部では、太陽と月に挟まれて聖霊が降臨
し、神に選ばれた人々を祝福している。下段に
は悪魔や地獄に落ちた人々の姿が、壮絶に描か
れている。
 何故かくまでも、最後の審判を主題にした図
像があちこちの教会に彫られたのだろうか。き
っといつの世にも天国と地獄のイメージは、人
生永遠のテーマであり、特に暗黒時代であった
中世においてはなおの事、この一点において図
像に触発され、そして神にすがったのだろう。

 聖堂内部は整然とした半円形アーチで構成さ
れ、赤石に統一された美しい空間が身廊や祭室
を演出している。
 
 
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ナン聖ピエール教会
   Nant/Église St-Pierre

      4 Aveyron

              
   
 
 タルン Tarn の支流ドゥルビー Dourbie
沿いに、ミヨー
Millau の町から東へ32キロ
行ったやや大きな町である。

 この町の起源となった修道院に由来する教会
で、11~12世紀に創建されたらしい。
 聖堂の外観は些か無骨な改修が施されている
ために余り魅力は感じられないが、写真の内陣
には、創建当初の優れた設計や意匠が保存され
ている。

 聖堂は三つの梁間を持つ三廊式十字形で、身
廊の天井は半円筒ヴォールトと横断半円アーチ
で構成されている。
 側廊は飾りのような狭さで、直接翼廊へは出
られない構造になっている。
 最も特徴的なのは、身廊アーケードを形成す
る角柱の柱頭が、全て二本づつのペアになって
いることである。地元の石灰岩が用いられてお
り、柱頭は組紐や植物模様と動物などを組み合
わせた緻密な彫刻で装飾されている。
 翼廊と祭室部分が最も古い建築で、翼廊左右
に小祭室を設けている。
 
 
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レ・キュン聖母教会
 Les Cuns/Église Notre-Dame

      4 Aveyron

              
 
 
 ナンからはドゥルビー川沿いに北へ3キロ行
ったあたり、段丘の崖上に位置している。
 凝灰岩を積み上げた見るからにプリミティヴ
な建築で、基本構造は単身廊に半円形式五角形
の祭室が付いたものとなっている。
 写真の手前に張り出した部分は南側の礼拝堂
で、15世紀に増築されたものである。
 身廊はこれ以上は無いというほど簡素な石積
みであり、天井は半円筒ヴォールトに横断アー
チの付いた簡素な構造になっている。
 祭室の壁は、円柱に仕切られた五角のアーケ
ードになっており、各面に小さな窓が開いてい
る。柱頭には、人面や奇妙な動物などをモチー
フにした怪奇な像などが見られる。
 12~13世紀の建造だが、プレロマネスク
的な雰囲気が残る素晴らしい聖堂である。
 
 
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カステルノ・ペゲーロル
    
聖ミシェル教会
  Castelnau-Pégayrols/
     
Église St-Michel

      4 Aveyron

              
   
 
 ミヨーの町の西30キロに在る山上都市で、丸
で城郭のような石の家が密集している。
 町には11世紀の聖ミシェル教会と、11~
12世紀の聖母教会
Église Notre-Dame
二つが在り、いずれも外壁が刳り形アーチで囲
まれた要塞のような無骨な設計になっている。
 写真は、聖ミシェルの身廊から祭室を眺めた
もので、三廊式だが柱が方形であるためここも
無骨に見える。
 天井が半円筒ヴォールトなので、少し救われ
た気分になる。角柱の側面には二本の円柱が張
り付いており、それがそのまま天井の横断アー
チへと繋がっている。
 側廊の天井は何故か交差リブヴォールトで、
この部分には横断アーチは無い。
 角柱の上部の柱頭には背の低い石が用いられ
ており、アーチの内側部分にはそれぞれ様々な
植物や蔓草や組紐模様が彫り込まれている。
 残念ながら聖母教会のほうは閉まっていたの
で、聖堂内部は見学出来なかった。
 
 
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シルヴァネ旧シトー会修道院
   Sylvanès/Ancienne Abbaye
       Cistercienne

      4 Aveyron

              
 
 
 アヴェイロン県の最南端の、ラングドックの
エロー
Hérault 県との境界に近い山の中に、
12世紀に創設されたシトー派の修道院が残さ
れている。
 教会は巨大な単身廊で五つの梁間を有し、幅
の広い翼廊と方形の祭室というプランである。
 翼廊左右には二つづつ、方形の小祭室が備わ
っている。
 15mという幅広い身廊の天井は尖頭形ヴォ
ールトで、横断アーチが壮大である。この魅力
的な空間は南仏の多くの聖堂の手本になった、
と言われる。
 写真は、後陣の背後からの眺めで、シトー派
らしくいかにも質実剛健である。
 
 
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