ドーフィネヴィヴァレ
    
地方のロマネスク
 
  Dauphiné et Vivarais
       Romans
  
 
 
 キュルバンの教会 Eglise de Curbans
  
Hautes-Alpes 
 
 ローヌ河を挟んで、イタリア国境のアルプス
から中央高地に至る、かなり広い地域である。
 ローヌの東がドーフィネ、西がヴィヴァレイ
で、やはり山岳地帯が多い。
 ドーフィネを代表するグルノーブルはウィン
ター・スポーツの中心として著名だが、ナポレ
オン街道の要所でもあり、昔から文化が交流し
た重要なルートであったのだ。

 ルエルグやオーベルニュに接するヴィヴァレ
地方アルデシュ県には、当然ながらその影響色
濃い美しい教会が残されており、魅力に満ちた
聖堂が旅する私達を迎えてくれる。
 ロゼール県はジェボーダン
Gévaudan 地方
とも言い、山深い里の小さな聖堂が魅力的だ。
 
 
 
 
県名と県庁所在地

  ◆ドーフィネ地方
      
1 Isère (Grenoble)
      
2 Hautes-Alpes (Gap)
      
3 Drôme (Valence)

  ◆ヴィヴァレ地方
      
4 Ardèche (Privas)
      
5 Lozère (Mende)
 
 
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 ヴィズィール
    旧聖母小修道院跡

  Vizille/ Vestiges de
     l'Ancien Prieuré
       Notre-Dame
 

      1 Isère    

        
   
 
 リヨンに近いペルージュ Pérouge という中
世の町に泊まった翌朝、私達はスタンダールの
故郷グルノーブルからナポレオン街道を通り、
プロヴァンス方面へと車を走らせた。
 ここはグルノーブルの町から少し離れた隣町
で、この聖堂が建っている場所は、町の北側の
小高い丘の上に在る墓地の中である。かつてこ
こには、10世紀に創建された聖母小修道院が
建っていた。
 現在修道院は喪失し、付属聖マリア教会の西
正面扉口だけが残されている。周囲の壁の一部
と扉口のみが12世紀の名残で、他の建築は全
て近世に建てられたものらしい。
 部分的に色大理石が残っているが、茶色の石
部分は後世の補修で、当初の姿を想像するとま
ことに鮮烈なファサードだったようだ。
 半円タンパンには、玉座のキリストと四福音
書家のシンボルである、人間(天使)・鷲・雄
牛・獅子が彫られている。
 その下のマグサ石部分には、キリストの最後
の晩餐が表現されている。十二人の使徒の中央
にキリストが座し、裏切りを予言されたユダは
キリストからパンを口に受ける姿で、キリスト
の左隣に描かれている。
 右隣の使徒は鍵を持つ聖ペテロと判るが、他
の使徒達は顔が全て削ぎ落とされていてちょっ
と判らなかった。
 
 
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 ノートルダム・ド・メサージュ
     聖フィルマン教会

  Notre-Dame-de-Mésage/
      Église St-Firmin
 

       1 Isère    

        
 
 
 ヴィズイーユの町からプロヴァンスに向かう
ナポレオン街道
Route Napoléon の急な上り
坂を行かずにここでは麓へと続く脇道に入って
行く。
 それは教会と言うよりも、礼拝堂と呼ぶ方が
相応しいほどチャーミングな建築だった。聖堂
は単身廊のバジリカで、半円形の祭室が在るだ
けの素朴なもので、北側に鐘塔が付いている。
 写真は、手前が鐘塔の北側面の扉口で、左奥
に祭室の外陣が見える。
 壁の石肌が荒廃しており、風雨に晒された長
い歴史的年月を物語っていた。修復の仕方によ
っては、いくら綺麗に蘇生したとはいえ、後世
の補修によって失われるものの大きい場合は、
整形した老人のような違和感を感じてしまうこ
ともあるのだ。
 その点、損傷は痛々しいが、創建当初の風格
と味わいの感じられたこの建築には、ロマネス
クらしい素朴な美しさが残されていた。
 
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 ヴィエンヌ旧聖ピエール教会
  Vienne/Ancienne Église
        St-Pierre
 

       1 Isère    

        
  
 
 今は二つ星になってしまったのだが、この町
にはかつて三つ星だった“ピラミッド”という
料亭が在る。この旅籠に泊まって、美味な料理
を味わうことが夢だったのだが、名シェフ・マ
ダム・ポアンが亡くなって以来そのままになっ
てしまった。

 プロヴァンスからパリに戻る途中一度だけ、
表通りに面したこの教会に立ち寄った事があっ
た。夕方暗くなってからだったので、満足な写
真が撮れなかったのだが、今回再訪出来たので
一応気に入ったアングルで撮影出来た。

 12世紀の修道院跡で、この鐘塔だけが当時
の名残であるらしい。聖堂の西正面に建ってお
り、下部が玄関間と扉口になっている。
 左右にも大きな半円アーチが造られているの
で、創建当時は翼廊と身廊の交叉部だったので
はないかと想像した。
 三層の塔は上に行くほど幅が低減しており、
アーチ窓の意匠が層毎に工夫されているので華
やいだ雰囲気の美しさが感じられる。
 フランス最古の教会のひとつとされ、起源は
6世紀ともされる。内部は石像博物館になって
いるが、古色蒼然とした佇まいはしっかりと残
されている。
 
 
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 ヴィエンヌ聖モーリス大聖堂
  Vienne/Cathédrale St-Maurice 

       1 Isère    

        
 
 
 正面から聖堂全体を眺めただけでも、壮麗な
ゴシック様式の建築であることが判る。創建さ
れた12世紀の様式が身廊に残っていると解説
書に記されていたので、内陣へと入ってみた。
 身廊の東側半分の壁面とアーケード部分にロ
マネスク様式が残っている。
 柱頭彫刻にも当時の作が見られたが、一番気
に入ったのは壁に飾られたレリーフで、三人の
使徒(右から聖ペテロ、聖パウロ、聖ヨハネ)
の像だった。
 ゴシック建築の量感にはここでも完全に圧倒
されてしまったが、やはり深い感動にまでは至
らなかった。
 
 
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 ヴィエンヌ聖アンドレ・ル・バ教会
  Vienne/Église St-André-le-Bas 

      1 Isère    

        
 
 
 現在残る聖堂の建築は、祭室や単身廊の壁面
が11世紀、柱や塔が12世紀とされているの
だが、随所に尖頭アーチが目立って余り好きに
はなれなかった。
 ロマネスク病患者を喜ばせてくれたのが、隣
接する写真の付属回廊だった。
 12世紀の建造とされており、二本づつの円
柱で構成されたアーケードには繊細な美意識が
感じられる。
 柱頭には主に植物模様が彫られているが、人
面を組み合わせたものが面白かった。残念なが
ら破損が進んでおり、円柱の装飾模様もかなり
失われているようだった。
 
 
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 サン・シェフ聖トゥデール教会
  St-Chef/Église St-Theudère 

      1 Isère    

        
   
 
 ヴィエンヌからほぼ真東に45キロの位置に
在り、リヨンからの高速出口からも近い。
 12世紀の三廊式十字形の聖堂で、翼廊に左
右二つづつ小祭室が付いている。
 翼廊北側の奥の小祭室の天井部分で、半円形
外陣ドームにはフレスコ画が描かれている。聖
人像や寓話的な主題が見られた。南側の翼廊に
もフレスコが描かれている。
 実は大変残念だったのは、最重要な北翼廊の
階上にあるアルシャンジュ
Archanges 礼拝
堂が閉鎖されていたのである。

 爾来ここを再訪することが念願となっていた
が、在仏の友人が観光局での予約を代行してく
れたお陰で、17年夏にようやく夢が叶った。
 鍵を開け階段を登った先に在った礼拝堂は、
天井から壁面の全てがフレスコ画で埋め尽くさ
れた、玉手箱のような世界だった。二人とも、
大きな歓声を上げ、驚愕の余り暫くは興奮状態
の中に居たようだ。
 写真は天井部分で、中央にキリスト、下方中
央に聖母、その他多くの天使や聖人たちが並ぶ
荘厳な構図で、神の国イェルサレムを描いた図
とのことであった。
 かくも壮麗で、ほとんど修復の手が入ってい
ないフレスコ画は、今まで見たことがない。め
まいがしそうな程の圧巻に、完全に時間の経過
を忘れていた。
 
 
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 マルナン聖ピエール教会
  Marnans/Église St-Pierre 

       1 Isère    

        
 
 
 前掲のサン・シェフから、今度は真南へ50
キロの辺鄙な森の中に、この清楚な聖堂が建っ
ていた。
 12世紀の建築で、西正面の扉口には十字の
彫られたタンパンが飾られている。
 単身廊に翼廊の付いたバシリカ聖堂で、高い
天井は半円筒ヴォールトに横断アーチが四つの
梁間を構成している。
 採光窓の付いた南北の高い壁面と、10m幅
で30mの奥行がある細長い空間が、大きさに
比して質素なイメージとなっている要因のよう
だ。
 写真は、後方から眺めた後陣の姿で、主祭室
と両側の小祭室がとても均整のとれた美しさを
見せていた。
 
 
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  エンブルン旧聖母大聖堂
   Embrun/Ancienne Cathédrale
       Notre-Dame-du-Réal

      2 Hautes-Alpes    

        
 
 
 この地方の中心都市ガップ Gap に滞在しな
がら、周辺のロマネスク建築を探訪した。
 この古い町は、デュランス川北側の切り立っ
た崖の上に開けている。写真は町の対岸から撮
影したもので、大聖堂の塔などが良く見える。
 旧市街に建つ大聖堂は、扉口や内陣に黒い片
岩と白い石灰岩を交互に使用するという、洒落
た意匠でデザインされている。
 有名な北門はロンバルディア様式の典型で、
足元にライオンを置く前面の二本の柱で組まれ
た覆いが付けられていた。
 聖堂は三廊式バジリカで、四つのベイで仕切
られ三つの祭室が付いている。半円筒形の天井
も、梁や柱の全てが白黒の縞模様で、暗い堂内
を躍動的に感じさせてくれる。
 後陣や側面にはロンバルディア帯装飾が施さ
れていて、全体的に堂々と落ち着いた建築であ
った。
 
 
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 ギイエストゥル聖母被昇天教会
  Guillestre/Église
      de l'Assomption
 

       2 Hautes-Alpes    

        
  
 
 先述のエンブルンから更にイタリア国境へと
向かって北上すると、ケラス山
Le Queyras
と呼ばれる高地に入る。ギイエストルは、ケラ
ス地方の中心となるにぎやかな町である。
 旧市街の中心広場に面してこの教会が建って
いた。ちょうどミサが終わった直後で、神父と
話す数名の人々の姿が見られた。ここでは信仰
は日常的であり、葬式のみの日本の寺院では余
り見かけられない光景に見えた。
 エンブルンで見た門と同じ、ロンバルディア
様式の覆いがここにも在った。こちらは前面の
柱が四本あるが、またしてもライオンが柱を支
えている。
 本場のイタリアでも、モデナ、ヴェローナ、
フィデンツァ等々、各地で見ることが出来る様
式である。
 さして優れた意匠とも思えないが、様式の伝
播を立証する遺品としての興味は尽きない。
 
 
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 サン・ディスディエール・
   アン・デヴォルイ

        
ジコン礼拝堂
  St-Disdier-en-Dévoluy
/
      Chapelle des Gicons
  
 

      2 Hautes-Alpes    

        
   
 
 ここは今回のフレンチ・アルプス旅行一番の
目的地であり、私が長い間最も憧れていた礼拝
堂である。
 ロマネスクのバイブルでもあるゾディアック
叢書アルプ編の表紙に、この絶景の地に建つ聖
堂の写真が載っていたからである。
 ガップの北北西50キロ、深い谷間を登り、
分水嶺を越えたあたりに小さな集落が在り、礼
拝堂はそこから更に小高い丘に登った所に建っ
ていた。
 案内の看板には
La Mère Eglise と書かれ
ていたが、メールは修道女(母)を意味する。
 写真は後陣と鐘塔で、手前は墓地、向こう側
に扉口があって、そのまま谷に向かった絶壁と
なっている。
 後方は 2700
級の峰が連なる山脈であり、
出来過ぎではないかと思われる程の迫力ある景
色に囲まれている。
 建築は単身廊と塔だけであり、それぞれに小
さな祭室が付いているという、まことに簡素で
チャーミングな構造である。しかし、かえって
それがこの自然の景観とぴったり合っている。
 ロマネスクのロケーションとしては、フラン
ス屈指と言えるだろう。
 
 
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 アスプル・シュル・ブエシュ
       
聖ジェロ-教会
  Aspres-sur-Buëch/
      Église St-Geraud
 

      2 Hautes-Alpes    

        
 
 
 駅は列車の分岐点であり、数本の国道が交叉
するという交通の要所であるにもかかわらず、
町は静寂に包まれ歩いている人もほとんど見か
けない。秋も深まった、10月下旬の昼下がり
であった。
 古い家並みの奥に教会は建っていたのだが、
建築はロマネスク様式ではなく、かなり新しい
ものだった。
 扉口の、それもタンパンだけが創建当初の姿
を伝えている。
 タンパンには写真で見るとおり、可愛い三人
の人物が彫られていた。
 しかし、輪郭最内側の帯部を詳細に見ると、
SCA MARIA DNS IHS IOHS BAPT-ISTA と左
から彫られいる。
 
DNS IHSDOMINUS JESUS でキリスト
を意味し、左が聖母マリア、右が洗礼のヨハネ
を彫ったものなので、可愛いなどとは言ってい
られなくなってしまった。
 
 
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 ボスコドン旧修道院
  Boscodon/ Ancienne Abbaye 

      2 Hautes-Alpes    

        
 
 
 エンブルンの南にそびえるモルゴン山塊の、
麓の谷間に広がるボスコドンの深い森の中に、
この修道院は建てられている。
 森全山が紅葉に彩られており、秋のアルプに
来た喜びを実感させてくれた。
 写真は修道院付属教会で、近年かなりの時間
と若者達の労力を費やして、12世紀の建築を
今日の姿まで修復したものらしい。
 聖堂は単身廊に翼廊の付いた十字形であり、
高い天井は半円筒形という素朴な建築構成にな
っている。丸でシトー派のような、清冽で簡素
な美しさを見せていた。
 写真の左側が後陣で、祭室は方形である。翼
廊との交叉部に鐘塔が建っている。
 再建とはいえ、ロマネスク様式が示す往時の
美意識を、十分に再現した成功例の一つだと思
う。       
 
 
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 サント・ジャイエ
   ボーヴェールの聖母教会

  Ste-Jalle/Église Notre-Dame
     de Beauvert
 

       2 Hautes-Alpes    

        
   
 
 ガップからローヌのオランジュ Orange
抜ける山道を進み、ニヨン
Nyon の手前で左
手の山側に少し入った所にこの小さな村が在っ
た。教会は村の一番奥の、家並が途切れたあた
りに建っている。

 建築は簡明で、単身廊に翼廊が付き、それぞ
れに四分の一円形の祭室が飛び出ている。写真
はその後陣と交叉部の塔をを撮ったものだ。
 十字形というより、T字型に近いくらいだ。
 全体が12世紀のもので石積も素朴であり、
ロマネスク病患者が最も喜ぶ要素が散りばめら
れていて、とても魅力的に感じられた。

 正面扉口にはタンパン彫刻が在ったがかなり
磨耗しており、三人の人物と植物模様である事
以外は、何が彫られているのか判らなかった。
 内陣はこれもまた大層素朴であり、不器用に
石を積んだだけの壁や、半円筒の天井、四本の
柱で構成されるアーケードのある祭室など、人
間的スケールの心和む空間であった。
 
 
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  シャントメルル・レ・ブレ
      聖母教会

  Chantemerle-les-Blé/
     Église Notre-Dame

       3 Drôme 

        
  
 
 ヴァランスからローヌ川に沿って20キロ程
北上すると、旧道沿いにこの小さな集落が開け
てくる。

 教会は村の東側の小高い丘の上に建ち、急な
石段登らなければならなかった。しかし、扉口
には鍵がかかって開かない。
 村のあちこちで尋ねたが、結果的に鍵の管理
者が留守ということが判明し、今回は内部見学
を諦めることとなった。
 通常の観光ルートから外れたロマネスク教会
は、こうしたケースが多いのだが、小生は“ま
た来いよ”と言われたと思い、意に介さない。

 聖堂は三廊式で、翼廊の無い簡素なプランで
ある。
 外壁や写真の後陣部分は11世紀の建築で、
粗い石積みの素朴な工法である。小さい素朴な
付け柱と、窓の上の庇が気に入った。
 崖の上に建っているため、撮影出来る角度が
限られてしまう。ましてや聖堂全体の俯瞰は不
可能だった。
 思うようにならない教会の典型だろう。

 聖堂内部には、柱頭やレリーフなどの彫刻が
数多く在り、中でもデフォルメされた動物たち
の姿を見たかったのではあった。
 
 
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 サン・ドナ・シュル・レルバス
       旧修道院遺蹟

  St-Donat-sur-L'Herbasse/
      
Vestiges de Monastère 

      3 Drôme 

        
   
 
 前掲のシャントメルルからは、東へ10キロ
程の至近距離にある比較的大きな町である。
 町の北の高台に、新しい教会とかつての修道
院の建物が残されている。
 創建された12世紀の建築で現在も残されて
いるのは、新しい教会の入口にもなっている塔
付玄関間と、回廊の一部、修道士が生活した建
物の一部くらいだそうだ。

 玄関間を北から南側へ抜けたところがかつて
の回廊で、現在は西側のアーケードだけが残さ
れ、それ以外は跡形も無く喪失している。
 残されたアーケードは両端の太い角柱と、間
の細い角柱三本だけだが、中央の一本を除いて
各面に彫刻が施されていた。
 かなり崩壊が進んでいる中で、写真の南側角
の彫刻は生き生きとしていた。色々と調べてみ
たのだが、角柱の角に彫られた聖人像は聖バー
セルミ
St-Barthélmyで、内側に楽器を持った
楽師が躍動的な姿で彫られている。口の部分は
一部が崩壊したものだろう。
 北側角にも聖人像が在り、それは聖ドナかと
思われるのだが、不思議なことにここでも楽器
を持った楽師がセットになって彫られている。
 アダムとイヴの柱頭や、十二ヶ月の仕事の一
部かと思われるメダイオンなども興味深い。
 
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 ロマン・シュル・イゼール
    
聖バルナール参事会教会
  Romans-sur-Isère/
    Collégiale St-Barnard
 

      3 Drôme 

        
    
 
 ヴァランスの北東17キロ、イゼール川沿い
の地方都市である。人口が3万人強というのだ
から、町の規模はこの地方ではヴァランスに次
ぐ存在だろう。
 この魅力的な名の町へ入るのに渡る橋はポン
・ヴュといい、対岸からも川沿いに建つ教会を
眺めることが出来た。

 教会の建築全体のイメージは、外装がゴシッ
ク様式に覆われているために、ゴシックの教会
ではないかと思えてしまう。
 しかし、よく観察すると、西のファサードと
身廊は12世紀ロマネスク、翼廊と祭室・後陣
部分は13世紀ゴシック、と色分けが出来そう
である。柱頭より上部、天井は全て13世紀だ
ろう。
 写真は、最も色濃くロマネスクの面影を残す
西門の彫刻である。扉口の左右の角柱に二人づ
つ聖人像が刻まれているが、誰を彫ったものか
は判らない。鍵でも持っていてくれればと思う
のだが、通常の図像学的特徴は見られない。
 円柱には網目や幾何学模様が緻密に彫られて
おり、柱頭の彫刻も併せ格調の高い門となって
いる。
 身廊の柱頭には傑出した作品が在り、特に受
胎告知や魂の秤などが印象的だった。   
 
 
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 エトワール・シュル・ローヌ
     聖母教会

  Étoile-sur-Rhône/
    Église Notre-Dame
 

      3 Drôme 

        
   
 
 ヴァランスの南12キロに位置する小さな町
で、幅広いローヌの谷の中央にあると言える。
 教会は町の高台に建っており、聖堂の北側が
通りに面している。

 聖堂のプランは、バシリカとラテン十字を組
み合わせたような様式で、半円形の後陣は見ら
れない要塞のような建築である。
 身廊は三廊式で、六つの梁間があるのが特徴
的だ。
 翼廊にも交差部を含めて五つの梁間があるの
だが、それらを支えているのは八角形の太い柱
だった。正方形の柱頭部分から、尖頭形の厚い
横断アーチが延び、尖頭ヴォールトの天井を支
えている。よく言えば何とも剛毅、悪く言えば
無趣味で無骨、というところだろう。
 身廊部分が12世紀ロマネスク、翼廊及び祭
室部分は13世紀ゴシック、と色分け出来る。

 写真は、西側ではなく、道路に面した北側の
扉口のものである。アーチ部分の波型装飾は、
リムーザン地方のル・ドラ
Le Dorat に類似
して七つの刳り型の意匠である。ル・ドラの三
重に対して、こちらは一重ではあるが、アラブ
的なイメージの楽しいデザインである。
 タンパンやマグサ石に彫刻等の装飾が無いの
が淋しいが、柱頭の彫刻やねじり模様の円柱等
は楽しめる。
 
 
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 ヴァランス
   聖アポリナール大聖堂

  Valence/Cathédrale
     St-Apollinare
 

      3 Drôme 

        
 
 三廊式十字形で、巡礼路教会様式を残す12
世紀の建築である。八つの梁間と横断アーチの
天井が美しい身廊は、規模は壮大だが最もロマ
ネスクらしい建築、と言えるだろう。
 写真は南側翼廊の旧扉口のタンパンで、12
世紀彫刻の名残だろうと思われる。主題は、四
人の天使に囲まれた黙示録の栄光のキリスト像
で、足元の有翼のライオン(マルコ)雄牛(ル
カ)、飾りアーチ部分の有翼人(ヨハネ)と鷲
(マタイ)の四福音書家シンボルがそれを示し
ている。
 北側翼廊の旧扉口にはマグサ石が残され、受
胎告知やキリスト誕生、三王礼拝などの浅浮彫
が見られる。
 
 
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 セイヤン聖ジェロー教会
  Saillans/Église St-Géraud 

      3 Drôme 

        
  
 
 ヴァランスからディへ向かうD93号線は、
ドローム川に沿って次第に眼前に迫ってくる山
並を楽しみながら走ることが出来る。川の直ぐ
向こうにチャーミングな町が見えたらそこがセ
イヤンの町だ。ディまで22キロ地点である。

 教会は町の路地を抜けた東の開けた場所に建
っており、ロマネスク教会らしい三つの半円形
後陣が先ず目に入る。
 現在の建築は、12世紀に建てられて以来修
復を繰り返してきたのだが、単身廊十字形とい
う基本的な構造は維持されているようだ。
 カロリング様式の組合せ模様が施されたレリ
ーフ断片が保存されていることからも、それ以
前の修道院の歴史があったことを示している。

 写真は、身廊から翼廊交差部と南側翼廊を写
したものである。身廊には四つの梁間があり、
各々が交差穹窿で結ばれている。翼廊には小祭
室が設けられ、天井は半円筒ヴォールトになっ
ている。
 扉口や北側だけに付けられた側廊などは後年
の仕事であり、また柱頭彫刻などの装飾が無い
のは残念だった。
 聖堂のドームの下で、地元コーラス隊の練習
が行われており、良く響く歌声が聖堂の空間の
大きさを示していた。
 
 
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 ディ旧聖母大聖堂
  Die/Ancienne Cathédrale
      Notre-Dame
 

      3 Drôme 

        
 
 
 聖堂の大半は13世紀の建築だが、写真の鐘
塔下の玄関間(ナルテックス)は12世紀の遺
構である。
 タンパンは剥落がかなり激しいが、四福音書
家のシンボルに囲まれた十字架のキリスト像、
聖母、ヨハネと二人のローマ兵士、が刻まれて
いる。
 この玄関間のアンサンブルは見事で、特に三
方に開いた入口の柱頭彫刻が素晴らしかった。
北門の、カインとアベル、アブラハムの犠牲が
傑作だろう。
 モザイクの残る11世紀の礼拝堂は、残念な
がら閉鎖されていた。
 
 
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 ピエグロ・ラ・クラストル
      聖母教会

  Piegros-la-Clastre/
     Église Notre-Dame-
       de-la-Clastre
 

      3 Drôme 

        
   
 
 クレスト Crest の東7キロに在るコミュー
ンで、山の上に城のあるピエグロと、麓のラ・
クラストルが合併した形になっている広い村で
ある。
 この教会は、ラ・クラストル地区の中央に建
っており、かなり改造はされているものの、ロ
マネスク建築の特徴を良く留めている。

 聖堂の玄関部分や周辺に隣接する建物など、
後年に増築された部分が多いので、外観からは
ロマネスクらしい建築はほとんど見えない。
 しかし、単身廊の聖堂は三つの梁間で構成さ
れ、その奥に写真の半円形祭室が付いているプ
ランは、典型的な初期ロマネスクの様式である
と言える。
 一番手前の扉口を入った梁間だけが、19世
紀の増築であるという。
 身廊は12世紀中頃の創建で、やや変則的な
部分もあるが、天井は半円筒ヴォールトに横断
アーチというプリミティヴな設計である。
 祭室の壁には、正面に開口窓、その両脇に三
連の盲アーケードが意匠されている。
 正面窓の両側やアーケードの柱頭には、植物
網目に絡んだ妖しげな人面が彫られていて注目
させられる。
 身廊の円柱の柱頭にも、花や天使をモチーフ
とした古風な意匠の彫刻が見られる。  
 
 
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 ジゴール・エ・ロズロン
     聖ピエール教会

  Gigors-et-Lozeron/
     Église St-Pierre
 

      3 Drôme 

        
 
 
 先述のラ・クラストルから真北方向に進み、
15キロほど分け入った山里のコミューンだ。
 ジゴールの村外れの小高い場所に建つ、12
世紀の愛らしい聖堂である。
 単身廊に円形の祭室、半円形の小祭室の着い
た翼廊とで構成された十字形、というプランで
ある。
 半円筒ヴォールトに二本の横断アーチ、交差
部四方に半円アーチ、という絵に描いたような
聖堂だった。
 身廊の壁面は全て盲アーケードで窓は無い。
 写真は、三つの半円形後陣の景観で、素朴な
ロマネスク建築の見本のようだ。
 
 
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 シャブリヤン聖ピエール教会
  Chabrillan/Église St-Pierre
 

      3 Drôme 

        
  
 
 ディから戻る道の途中クレストを通過して直
ぐ、国道からシャブリアンへと向かって南へ入
った。しばらく行くと、黄金色に実った麦畑の
向こうに、写真の教会の全景が目に飛び込んで
きた。予期せぬ絶景は、感動的な出会いと言え
るだろう。麦の穂が風に吹かれて、まるで大き
な波が寄せて来るように揺れていた。

 聖堂のプランは三つの梁間を持つ単身廊と、
そこに交差するそれぞれに小祭室を持つ翼廊と
で構成されている。主祭室と併せて三つの半円
形の後陣が麦畑からも望め、交差部に鐘塔が聳
えている。
 西側のファサードは、扉口と採光窓が縦に並
んだだけの特徴の無いものだ。しかし、窓の無
い12世紀の身廊は、ロマネスクの素朴な美し
さを十分に見せてくれた。天井の微かな尖頭ア
ーチのヴォールトと横断アーチ、壁面の盲アー
チなど、最も理想的な規模のロマネスク聖堂だ
ろう。

 翼廊と祭室後陣部分は、身廊より古い11世
紀の建築、とされている。交差部四隅の柱や、
祭室壁面に施された盲アーケードの柱頭には、
植物模様を中心とした彫りの深い彫刻を見るこ
とが出来た。
 
 
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  モンテリマールアデマール城
  Montélimar/
    Château des Adhémar

       3 Drôme 

        
     
 
 11世紀に創建された城で、城内の礼拝室な
ど12世紀の建築が残されている。窓には半円
アーケードが残っている。
 写真は、城の一角、城壁に接して建てられた
11世紀の礼拝堂
Chapell St-Pierre である。
 単身廊に翼廊、三つの半円形後陣というプラ
ンのチャーミングな礼拝堂で、祭室や交差部の
半円アーチやドームが何とも愛らしい。漆喰が
塗りたてだったので苔むしたイメージからはほ
ど遠かったが、古式の雰囲気は十分に伝わって
くる。
 城壁に接した南側翼廊の小祭室の外観は変形
だが、内陣は北側と同じ構造であった。
 
 
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 ラ・ガルド・アデマール
     聖ミシェル教会

  La Garde-Adhémar/
     Église St-Michel
 

      3 Drôme 

        
  
 
 北から垂直に南下するローヌの流れは、モン
テリマールの町を過ぎた辺りで分流する。西側
が本流で、東側はドンゼール
Donzère とい
う運河である。
 その運河の東側は割となだらかな斜面の河岸
段丘になっており、坂道を登るにつれてそれで
もかなり展望が開けてくる。
 教会は城壁に囲まれた村の中心に位置してお
り、石壁と石畳で構成された美しい集落の狭い
路地の奥に建っていた。
 写真は鐘塔で、要塞のような下部に比べると
二層の上部は八角形をしており、アーチ窓の装
飾など洗練された様式になっている。
 後陣は半円形の三つの小祭室が、石壁から飛
び出した格好になっており、当然ながら身廊は
三廊式になっている。
 民家との間隔が狭いことと、光線の具合が悪
かったことで、後陣の写真はあきらめた。
 側廊部分は一層だが身廊は二層で、天井は高
く小さな採光窓はいかにもロマネスクらしい。
 西正面側は後世に補修されたものらしかった
が、扉口彫刻の好きな私にはやや物足りなさが
残った。
 
 
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 サン・ポール・トロア・シャトー
     旧大聖堂

  St-Paul-Trois-Château/
      Ancienne Cathédrale
 
  

      3 Drôme 

        
   
 
 前記のラ・ガルド・アデマールから山伝いに
南下すると、ローヌとドンゼル運河に挟まれた
中島に、異様な姿の建築群が見えてくる。フラ
ンス自慢の原子力発電所である。フランスらし
い反面、歪んだ現代文明の姿でもあるだろう。
 この村は、そんな妙な形の排気口やら変電所
などを遠望出来る高台に位置していた。

 ここも古い町並みの狭い路地を抜けた、小さ
な広場に面して教会が建っていた。かつて司教
座のあった大聖堂としての威厳は、その外観か
らは全く想像することは出来ない。
 しかし、一旦内陣に足を踏み込めば、認識は
一変する。半円形ヴォールトの高い天井や、三
廊式の風格ある身廊と側廊、帯状装飾の付いた
見せかけ拱廊などの佇まいは、彫刻などは少な
いものの、どっしり構えたかの如きロマネスク
建築の落ち着きを感じさせる。
 写真は翼廊と祭室が交叉する部分の、鐘塔の
真下に当たる天井のドームである。正八角形が
絞られていって、限りなく円に近づいていく。
 床面に12~13世紀の、幾何学模様のモザ
イクが残っていた。   
 
 
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 サン・レスティトゥ
     聖レスティトゥ教会

  St-Restitut/Église St-Restitut 

      3 Drôme 

        
   
 
 ここはサン・ポール・トロア・シャトーとは
県道を隔てた、向かいの隣村である。
 教会は方形の単身廊バジリカ式で、半円形の
祭室が付いている。
 写真は南側の扉口で、手前は十字架の建つ感
じの良い小さな広場になっている。朝日が爽や
かだった。
 扉の手前が玄関間になっており、ファサード
が手前に張り出した格好になっている。上下二
段の半円アーチと三角の破風、ギリシャ様式の
円柱と柱頭など、ここトリカスタン
Tricastin
地方のロマネスクの特色が良く出ている。
 聖堂の西面と南面の軒下に当たる位置の壁面
に、帯状の連続レリーフが彫刻されている。
 彫りが浅く写真ではほとんど見えないが、大
勢の人物や動物が図案風に描かれている。
 聖書の場面のようにも見えるし、聖人の伝記
のようにも見える。しっかりした彫刻で、ロマ
ネスク的な抽象化も見られて興味深いが、なぜ
あんなにも高い場所に彫刻したのだろうか。あ
くまで奉献であって、人に見せる意図は無かっ
た、ということなのだろうか。
 内陣の身廊と祭室の境目の横断アーチの上に
も、同様のレリーフが彫られている。こちらは
もっと抽象的な、動植物紋様が中心である。
 
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 ティーヌ聖母教会
  Thines/Église Notre-Dame 
 
       4 Ardèche
       

   
 
 ル・ピュイ Le Puy からサンチャゴへの巡礼
路の枝部分に当たるとのことだが、それにして
は急峻過ぎる山越えをしなければ行けないアル
デッシュ県の西端である。
 教会は僅かな数の石造民家と共に、山上都市
のような姿で渓谷奥の断崖上に建っていた。

 駐車場からのアプローチでは、最初に後陣が
目に入ってくる。単身廊なので半円形の後陣が
ひとつだが、窓の周囲と円柱、ロンバルディア
帯部分に赤い花崗岩とベージュの砂岩を、縞模
様に配した外観の意匠に驚かされる。
 長い石段の上に南門が在り、ここが正式な扉
口になっている。中央柱のあるアーチ門で、左
右の角柱には細長い聖人像が二体づつ彫られて
いる。
 タンパン部分の彫刻は、16世紀のユグノー
戦争の際プロテスタントの手によって破壊され
てしまったらしい。まぐさ石の部分には「キリ
ストのエルサレム入城」や「最後の晩餐」の群
像彫刻が残っている。
 二つの梁間のある身廊の天井は半円筒ヴォー
ルトで写真のような横断アーチで仕切られてい
る。祭室の円蓋や窓枠、円柱などに二色の石が
効果的に使われており、後陣と共に特異な印象
を与えている。
 祭室と身廊を仕切る凱旋門の両側柱頭には、
十二使徒の群像が彫られている。
 
 
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  シャンボナ聖マルタン教会
  Chambonas/Église St-Martin
 
      4 Ardèche
       

     
 
 ティーヌへの登り口に当たる町で、教会は城
の前の広場に隣接して建っている。
 13世紀初頭の建築で、単身廊に半円形後陣
とい単純なプランである。扉口周辺や鐘塔は1
5世紀とのことだ。
 身廊の天井は尖頭ヴォールトで、横断アーチ
も付けられている。
 素朴な建築が好ましいが、ここでは内陣の柱
頭や壁面、外陣の軒持ち送りなどに彫られた愛
らしい彫刻が見所だろう。写真は後陣部分のも
のである。熊、兎、猪、魚、鳥、山羊、牛、狼
と人間など、さながらロマネスクの動物園みた
いな面白さだった。
 
 
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 ヴィヌザック聖母教会
  Vinezac/Église Notre-Dame 
 
       4 Ardèche
       

   
 
 オーブナ Aubenas の町の南15キロに在
る中世の要塞都市で、葡萄畑とオリーブの木々
に囲まれた美しい町である。石畳や石段が立体
的に折り重なったような、複雑な家並が構成さ
れている。
 教会は町の中央に建ち、受胎告知の聖母教会
と呼ばれている。創建は12世紀で、単身廊に
後陣という単純な構造の聖堂に、後世になって
側廊が南北に増築されている。

 身廊の天井は写真のように尖頭アーチで、二
つの梁間と採光窓のある八角形のドーム、更に
五角形の祭室が連なっている。石材は、この地
方で採掘される砂岩だそうである。
 身廊とドーム部分を仕切る凱旋門は、六本の
束ね柱風の重厚なものである。

 祭室は五角形それぞれがアーケードになって
おり、窓の開口部が三つ、残りは盲アーチにな
っている。
 祭室のアーケードの円柱や凱旋門の柱頭彫刻
には、幻想的な動物や椰子やアカンサスといっ
た植物、天使の像などが彫られていて楽しい。
 ドーム部分に明快なフレスコ画が描かれてお
り、四福音書家の像などが珍しいのだが、勿論
ロマネスク期のものではない。
 
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 サン・ジュリアン・ドゥ・セル
     
聖ジュリアン教会
  St-Julien-du-Serre/
      Église St-Julien
 
 
      4 Ardèche
       

 
 
 オーブナの町の北6キロの丘陵地に建つ教会
で、創建は11世紀で大半の建築は12世紀と
されている。
 内陣見学は7~8月の16時からと限られて
いるので、外観だけを見ることにする。
 規模の小さい単身廊に後陣という瀟洒な聖堂
だが、後世に増築された部分もあるようだ。
 扉口である北門には五重のアーチ装飾が設け
られ、四本の円柱の柱頭には、目の大きな怪人
物や植物模様が彫られていて注目される。
 写真は、後陣の円柱に彫られた柱頭彫刻で、
謎の人面動物など、寓話的な主題が興味深い。
他の柱頭にも秀逸な彫刻が見られた。
 
 
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  ソヴプランタード
     聖ピエール教会

   Sauveplantade/
      Église St-Pierre
 
      4 Ardèche
       

   
 
 オーブナの町の南東30キロに在る、アルデ
ッシュ産のワインを醸造するブドウ畑に囲まれ
た小さな集落である。
 ブドウ畑越しに塔が見える教会は、7世紀に
創建されたと伝わる古いものだが、現在見るこ
とが出来るのは11世紀の建造物である。

 扉口は南側のみで、二つの梁間のある単身廊
に翼廊が交差し、三つの祭室が並列するプラン
である。交差部に鐘塔が立ち上がっている。
 写真は、身廊から凱旋門、交差部、そして主
祭室を眺めたものである。プリミティヴな石積
の風合いが古式を想わせ、何とも嬉しくなって
しまうではないか。
 天井は尖頭形ヴォールトだが、横断アーチは
半円形になっている。幅3m長さ8mの身廊の
何とチャーミングなことだろうか。
 凱旋門部分の内側に円柱が立ち、もう一重の
アーチを構成している。重厚な印象はここから
来ているようにも見える。その柱頭に彫られた
花模様が美しい円柱の佇まいはプレロマネスク
的で、実際7世紀創建時のものという説もある
らしい。
 聖堂の後方から眺める三つの半円形後陣はと
ても素朴で愛着の湧く形なのだが、壁面に漆喰
が塗られたためか石が積まれたという実感に薄
く、やや扁平な印象を受けてしまうのは残念だ
った。
 
 
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 ルオム聖シュルピス教会
  Ruoms/Église St-Sulpice 
 
       4 Ardèche
     
 
 人口2千人の小さな町だが、この地方の経済
の中心になっている古い城郭都市である。
 教会は城壁に囲まれた旧市街の中心に在る。
 現在は三廊式だが、創建当初は単身廊に翼廊
の十字形で、側廊は16世紀以降の後補だ。
 祭室だけが11世紀で、身廊の中央アーケー
ドと翼廊が12世紀の建築である。交差部から
見た後陣は、ロマネスクらしい質素だが造形的
な空間である。
 写真は、聖堂に隣接する聖母礼拝堂の扉口壁
面に残されたレリーフである。四福音書家のシ
ンボルで、天使(マタイ)と獅子(マルコ)が
残されている。
 
 
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  ブール・サン・タンデオル
      
聖アンデオル教会
   Bourg-St-Andéol/
      Église St-Andéol
 
      4 Ardèche
       

   
 
 ローヌの本流に沿って開けた人口8千人弱の
中都市で、教会は川沿いの小高い場所に建って
いる。八角の鐘塔が聳える壮麗な聖堂で、様式
はロマネスクでありゴシックの要素が部分的に
加えられている。

 創建は11世紀だが、現在見られる建築の大
半は12世紀のものである。
 身廊は三廊式で、翼廊と交差した十字形であ
る。鐘塔が交差部に建っており、両翼廊の東側
にゴシックの礼拝堂が設けられたために、ビザ
ンチンのように後陣が方形に設計されたかのよ
うに見えてしまう。
 交差部で上を見ると、八角のドーム天井にな
っており、そのまま八角錘の鐘塔を構成してい
る。塔の初層は盲アーケード、次層は各面に一
つの窓、その上は二連窓という意匠で、やや派
手ながらこの地方を代表する名塔と言える存在
だろうと思う。
 身廊も側廊も半円筒ゾールトの天井で、四つ
の梁間を横断アーチが区切っている。規模の大
きな聖堂だが凛としたロマネスクの空間の雰囲
気は保たれている。
 写真は南側側廊から後陣の小祭室を眺めたも
ので、光線の演出もあってとても感動的な空間
だった。置かれた石棺は、聖アンデオルの墓と
されている。
 
 
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  ラルナ聖ピエール教会
  Larnas/Église St-Pierre
 
       4 Ardèche
       

  
 
 前掲ブールの北西20キロに在る村で、広大
な葡萄畑に囲まれた牧歌的な一帯である。この
聖堂は更に村の北端の草原の外れに建っている
ので、遠くからでも素朴な聖堂の全景を眺める
ことが出来た。

 聖堂は二つの梁間を持つ単身廊に翼廊と三つ
の半円形後陣という、最も簡素な十字形建築と
なっている。
 西ファサード部分だけが新しいが、基本構造
部分は全て12世紀の建築である。

 身廊の天井は半円筒ヴォールトで、中央に一
本横断アーチが組まれている。身廊の規模は間
口が5m、奥行が10mという何とも愛らしい
建築で、初期ロマネスク的な簡素な美しさが、
ロマネスク病患者にとっては最高の癒しとなる
のだった。   
 小さな柱頭の植物模様レリーフ程度の装飾し
か見当たらないので、彫刻好きにはやや不満な
面もありそうだが、内陣の苔むした雰囲気が味
わえるだけでも感動的である。

 写真は、後方からの後陣と鐘塔の眺めで、三
つの大小半円形祭室の並ぶ姿がとても愛らしく
感じられる。
 
 
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 ヴィヴィエ聖ヴァンサン大聖堂
  Viviers/Cathédrale St-Vincent 
 
       4 Ardèche
       

   
 
 南仏のような家並や、中世の雰囲気を残す旧
市街で知られるローヌ沿いの町である。
 家並が複雑に入り組んだ路地の石段を登った
オルモー広場
Pl. de l'Ormeau から、大聖堂
の建築を見上げることが出来る。
 大聖堂の建築は12世紀にその起源があり、
扉口の四重アーチ装飾や身廊の壁に見られる盲
アーケードなどは、創建当時のロマネスク様式
を示しているが、それ以外の大半は17世紀以
降の再建になっている。

 最も注目したかったのが、大聖堂の西側に隣
接して聳える写真の鐘塔だった。
 旧市街のあちこちから眺められるこの塔は、
11~12世紀の建築で、サン・ミシェルの塔
と呼ばれ、大聖堂の入口となっていたのだ。
高さは39m弱で、方形の基礎に八角の鐘楼が
乗った格好になっている。この方形部分に、盲
アーケード等ロマネスクの意匠が残っている。
 塔の入口の内部の壁は、現在は三方が盲アー
チとなっている。階上には八角ドームの下に玄
関間のような空間が在り、壁面には三連アーチ
が意匠されている。
 壁のアーチと円蓋が交差する
Trompe トロ
ンプ
部分に彫られた四福音書家のシンボルが印
象的だった。
 
 
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 メラ聖エチェンヌ教会
  Mélas/Église St-Étienne 
 
      4 Ardèche
       

 
 
 ローヌ沿いの町ル・テイユ Le Teil の西端
に在る古い教会である。
 三廊式の聖堂は、北の側廊が11世紀、身廊
及び祭室が12世紀の建築で、南の側廊だけが
近世の再建である。
 写真の建物は11世紀初頭の洗礼堂で、北側
廊に接して建ち、上部は八角形、下部は角の丸
い正方形のような形をしている。
 内部の壁面には八本の円柱が立ち上がり、そ
のまま八本のオジーヴとなって天蓋に集約され
ている。八角の壁面には、聖堂への入口も含め
八連のアーケードが意匠されており、何とも素
朴で美しい。 
 
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  クリュア旧大修道院
      付属聖マリア教会

  Cruas/Ancienne Abbatiale
        Église Ste-Marie
 
      4 Ardèche
       

   
 
 修復中で外観も内陣も見えなかったり、クリ
プトが立入禁止だったりしたので、この近くを
通る度に何回も立ち寄ってみたことがあった。
 直近の05年の段階でも工事は続行中だった
が、写真のように工事の天幕は除去されて、ク
リプトの見学も可能だった。

 写真は後陣を写したもので、三つの半円形小
祭室と翼廊が見える。だが、建築プランでは翼
廊と主祭室とは一体化しており、そのまま三廊
式の身廊へとつながっているのである。その辺
りまでが11世紀、その他は12世紀というこ
とで、二つの塔の建つ大変古風な建築だ。

 全体がロンバルディア帯で装飾されているか
ら、一層古めかしく見えるのかもしれない。
 内部は美しく修復されており、見違えるよう
だ。身廊の最奥に、中二階のようなトリビュー
ンが造られているのが珍しいだろう。

 クリプトはまた更にプリミティヴで、数々の
細い柱頭には鳩・鶏・狐・獅子などの動物像に
混ざって、両手を延ばしたオランテのような人
物像も見られ、まるで近代美術館の抽象彫刻を
見るようだった。
 
 
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  ヴェラン旧聖母小修道院教会
   Veyrines/Ancienne Prieuré
          Notre-Dame
 
       4 Ardèche
       

  
 
 アルデッシュ Ardèche 県の最北端に在るア
ノネという町
Annonay から南西へ14キロ
Satillieu サティユーから、更に6キロ山へ
分け入った僻地の寒村である。

 かつて小修道院の在った場所に、現在は付属
教会だけが残っている。
 先述したラルナと同じ平面プランの十字形聖
堂で、西の扉口と翼廊、後陣部分が12世紀、
単身廊部分が17世紀の再建となっている。
 苔むした素朴な聖堂というだけで十分なのだ
が、ここでは二つの重要な柱頭彫刻を見逃して
はならない。
 交差部の主祭室入口アーチ下の左右柱頭がそ
れで、写真は左側の円柱の上にある柱頭彫刻で
ある。主題は原罪
Le Péché originel で、蛇
からリンゴを受け取るアダムとイヴの姿が、い
かにもロマネスクらしい天真爛漫な造形感覚で
彫られている。改めて、写実を求めるゴシック
などに比して、この抽象の素晴らしさを感じざ
るを得ない。
 右側の柱頭には、地獄へ行く「黄泉の国のキ
リスト
Christ aux Enfers 」が見られる。ビ
ザンチンにはよく登場するテーマだが、ロマネ
スクでは珍しいかもしれない。

 教会背後の草むらから眺めた後陣と鐘塔の眺
めは周辺の景色に溶け込んだとても美しいもの
だった。
  
 
 
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 シャンパーニュ・シュル・ローヌ
        
聖ピエール教会
  Champagne-sur-Rhône/
        Église St-Pierre
 
 
      4 Ardèche
       

  
 
 ローヌの西河畔を走る国道N86号線に面し
た小さな集落で、教会は国道に面して建ってい
る。シャンパーニュという村の名が銘酒を思わ
せるが、全く関係は無いようだ。

 ファサードはユニークで、三廊式の聖堂に対
応した扉口が三つ造られている。
 中央扉口の上にはタンパンが嵌め込まれてお
り、半円上部に磔刑の場面、下部まぐさ石部分
に最後の晩餐が彫られている。崩落が激しいた
め微妙な表現は不明だが、素晴らしい図像であ
っただろうことは容易に想像出来る。
 左右の扉口の上にはまぐさ石が嵌め込まれて
おり、左に「選ばれし人に戴冠するキリスト」
右に「二人の天使が支える神の子羊」が彫られ
ている。

 翼廊と三廊式の身廊が交差する十字形で、五
つの梁間と束ね柱のアーケードが壮観である。
 写真は、身廊から正面祭室を眺めたもので、
ローヌ河畔から差し込む朝日が眩しいほど輝い
ていた。
 祭室は六本の円柱に囲まれており、周歩廊を
形成しいる。下部が太くなった円柱に、アカン
サスの様な古典的な柱頭彫刻が施され、重厚な
イメージの創出された祭室周辺が見事だった。
 
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 ランゴーニュ
   聖ジェルヴェ聖プロテ教会

  Langogne/Église
    St-Gervais-et-St-Protais
 
 
       5 Lozère
       

 
 
 この町はアルデッシュとの県境に接し、ル・
ピュイ
Le Puy まで40キロという中央山地の
ど真ん中に位置している。
 12世紀の三廊式の両側にもう一重増築して
いるので、外観からはロマネスクは実感出来な
い。
 しかし一歩内陣へ入れば身廊は三つの梁間を
持ち、半円筒ヴォールトの天井や横断アーチな
ど、古色に満ちた完璧なロマネスク聖堂だった
のである。
 目を見張るのは、身廊と祭室の柱頭彫刻で、
写真は「悪い乳母」を象徴するとされるが、意
味は不明の彫刻だ。
 他の柱頭にも抽象的哲学的な主題が多いこと
が、この教会の特徴だろう。
 
 
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 ピュイローラン聖ローラン教会
  Puylaurent/Église St-Laurent 
 
       5 Lozère
       

 
 前掲のランゴーニュからティーヌ Thines
へと向かう途中で立ち寄った、山村にひっそり
と建つ教会である。
 西側は民家と接しており、左右に張り出した
部分は後補の部屋なので、実質的な12世紀ロ
マネスク聖堂は単身廊と半円形の祭室だけとい
う、丸で単細胞のような教会であった。
 外陣と同じ六連のアーケードが祭室の壁にも
施され、唯一の建築的装飾となっている。天井
は微かな尖頭ヴォールトで、横断アーチもちゃ
んと付いている。素朴な柱頭彫刻も見受けられ
て、しっかりとロマネスク・ワールドを満喫す
ることが出来た。
 
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 プレヴァンシェール
    聖ピエール教会

  Prévenchères/Église St-Pierre 
 
      5 Lozère
       

   
 
 ティーヌへ行くための行程上、どうしてもこ
の小さな村に泊まる必要があった。村へ着いた
のは夕刻だったが、幸運にも教会の扉はまだ開
いていた。
 教会の扉口は南側の門で、四重のアーチ装飾
が格調有るロマネスク聖堂の威厳を示している
ように見えて嬉しかった。
 聖堂の基本プランは、三つの梁間を持つ単身
廊に翼廊、そして半円形の祭室であった。だが
翼廊南部分は半円形の小祭室が付けられ、北部
分には別の部屋が設けられた。これは15世紀
のもので、他は全て12世紀の建築である。従
来は三つ葉形のプランだったのかもしれない。

 身廊の天井は微妙だが尖頭形ヴォールトで、
何度も漆喰を塗ったような痕跡が見られた。
 写真は、扉口を入った身廊の後方から、祭室
方向を眺めたものである。
 交差部に相当する部分には、本来は鐘塔が在
ったと思われるドームが残っている。
 祭室の壁面には、盲アーチと窓のある開口ア
ーチとを交互に配した七連アーケードが意匠さ
れている。

 その晩は、教会から表の街道へ出た所に在る
旅籠に泊まった。風情はあったが何とも寒い一
夜であった。
 
 
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 イスパニャック聖ピエール教会
  Ispagnac/Église St-Pierre 
 
       5 Lozère
     
 
 Gorges du Tarn タルン渓谷上流に在る美し
い町で、教会は町の中程に建っている。
 三重アーチ装飾の扉口とその上部の薔薇窓、
その周囲の控え壁のような柱など、城砦のよう
なユニークなファサードに先ず驚かされる。
 プランは三廊式身廊に両袖が半円形の翼廊、
三つの半円形後陣、という構成である。
 写真は、その身廊から祭室方向を眺めたもの
で、尖頭ヴォールトの天井や四つの梁間が12
世紀の建築様式を表わしている。横断アーチや
束ね柱など、ロマネスクを証明する要素が全て
揃っているようだ。
 組合わせ模様
Entrelacs の柱頭が面白い。 
 
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 サン・テニミー
    グールの聖母教会

   Ste-Énimie/Église
     Notre-Dame-du-Gourg
 
 
       5 Lozère
       

   
 
 タルン渓谷をイスパニャックから19キロほ
ど下った所に在る集落で、河畔からの斜面に家
並が密集している。坂道と石畳で構成された、
正に絵のように美しい町である。
 町の名はメロヴィング朝の王女の名に因んだ
そうで古い歴史を感じさせる。

 教会は川沿いの道から少し石段を登った場所
に建っており、半円アーチ形の窓が二段に開い
た鐘塔が目印になる。
 入口には玄関間のような空間が有るが、ファ
サード部分は後補かもしれない。
 単身廊の聖堂には三つの梁間
Travées が設
けられており、それぞれが半円形横断アーチと
方形の柱で仕切られている。天井は半円筒ヴォ
ールトで、12世紀創建の歴史を想わせる。
 写真の左手奥、北翼廊に相当する部分に鐘塔
が接している。
 写真の中央が祭室で、正面の三面とその両側
に小さな窓の開いたアーケードが設けられてい
る。両側の二面は盲アーケードになっている。
 聖堂の裏へ回って外陣を見ると、やはり五角
形になっており、各面に大きな半円装飾アーチ
が意匠されていた。

 坂道をずっと登った所に、やはり12世紀の
僧院跡(礼拝堂や食堂)が残されていたが、残
念なことに7~9月の夏季以外は閉館だった。
 
 
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 ラ・カヌルグ聖マルタン教会
  La Canourgue/Église St-Martin 
 
       5 Lozère
       

   
 
 県都マンド Mende の西南45キロに在る
古い町で、山一つ越えるとタルン渓谷へ出る位
置に在る。
 軒の張り出した木組みの家並が多数残ってお
り、旧市街の散歩は心躍るものとなる。
 教会は旧市街の家並に隠れる様にして建って
いる。

 三廊式で翼廊部分に大小の鐘塔が建ち、仕切
り壁の向こうに祭室と周歩廊、五つの放射状小
祭室が付くという、とても変則的なプランの聖
堂だった。
 ファサードや鐘塔や身廊の上部建築などは、
見るからにゴシック様式であり、実際15世紀
に改造されたらしい。

 二つの梁間のある身廊部分は、写真で見る通
り、天井は交差リブヴォールトだが、アーケー
ドや束ね柱、壁面などは12世紀ロマネスクの
様式を残している。
 側廊部分の天井は半円筒ヴォールトで、通路
はそのまま周歩廊につながっている。
 後陣の放射状小祭室は、三つの半円形祭室と
二つの方形祭室が交互に配されており、半円形
部分だけが12世紀の建築である。
 奇妙な像容の人面を彫った柱頭が幾つか見ら
れたが制作年代はやや下がるかもしれない。
 
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 ナスビナル聖母教会
  Nasbinals/Église Notre-Dame 
 
       5 Lozère
       

  
 
 オーベルニュのカンタル県、ルエルグのアヴ
ェイロン県との境界に近い、
Aubrac オーブ
ラック
山地の裾野に在る、近郷農業の中心とな
る小都市である。

 教会は町の中心の広場に面して建ち、聖堂の
南側に設けられた扉口が正門となっている。
 典型的な単身廊十字形のプランで、主祭室の
他に翼廊にも半円形の小祭室が設けられている
のが、写真の後陣の眺めからも判る。
 南の扉口は、数段の石段の上に造られた半円
アーチ門で、左右二本づつの円柱が五本のアー
チ装飾を構成したロマネスクらしい門である。

 身廊には三つの梁間があり、古色蒼然とした
石積が何とも言えぬ落ち着きを感じさせるのだ
が、天井は交差リブヴォールトであった。部分
的に17世紀の改造の手が入っているらしい。
 翼廊との交差部分は八角形のドームになって
おり、写真の鐘塔がその上に立ち上がっている
のである。
 写真の後陣と鐘塔の眺めは、とても均整が取
れた優雅な建築だと言えるだろう。主祭室の深
い切り込みのアーケードが、特に印象的な装飾
となっている。
 
 
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