ガスコーニュピレネー
 
  ミディ・トゥールーザン地方のロマネスク
  
  Gascogne, Pyrénées et
          Midi-Toulousan Romans

 
       サンチャゴへの巡礼路が通る、
  フランス最南端の重要な地域であ
  った。
   ピレネーを越える
Somport
  ンポールとイバニエタ
Ibañeta
  二つの峠が、最も著名な中世のル
  ートだった。

   バスクやトゥルーザン地方はピ
  レネーを挟んでスペインと接して
  おり、独自の伝統文化を守って来
  た誇り高き地方である。
   ロマネスクにも見るべきものが
  大層多く、自然と調和した美しい
  聖堂が数え切れないほど点在して
  いる。
                                  
   Église St-Just
 Valcabrère
 Haute-Garonne  




県名と県庁所在地

 
ガスコーニュ地方
   
1 Landes (Mont-
        de-Marsan
)
   
2 Gers (Auch)

 ピレネー地方
   
3 Pyrénées-
     Atlantiques
(Pau)
   
4 Hautes-Pyrénées
       (
Tarbes)

 ミディ・
   トゥールーザン地方

   
5 Hautes-Garonne
      
(Toulouse)
   
6 Ariège (Foix)
   
                            

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     パンボ聖バーセルミ教会
       Pimbo/ Église St-Barthélemy
    
                         1 Landes   
          
   前述のアジェトモーの東南22キロほどの台地にあ
  る村で、ガスコーニュのゲール県とピレネー・アトラ
  ンティック県までは数キロという県境の村だった。

   12世紀築造の教会で、破壊と修復の歴史を持った
  想像以上に規模の大きな建築だった。
   見せかけファサードの下部に扉口がある。五重のヴ
  シュールが壮観だがかなり崩落している。しかし、柱
  頭や帯状アーチには、かつての彫刻の一部が残されて
  いる。渦巻や幾何学文様を施した、最外アーチの彫刻
  が美しい。
   内陣は三廊式で三つの梁間があるが、天井は後補の
  扁平なヴォールトだった。祭室部分の最後のスパンの
  天井は、れっきとした半円筒ヴォールトが残されてい
  る。三後陣の中央祭室両側の壁面に施された、三連の
  盲アーケードが印象的だった。柱頭にも怪獣の首など
  面白いものがあった。

   聖堂背後に回ってみると、そこは花を中心にした庭
  園になっていて、三後陣の姿をゆっくりと見ることが
  出来た。聖堂の天井が高いので、後陣も縦長の半円形
  となっている。中央後陣に控え壁のような武骨な付け
  柱が見られるが、現実的な補強だったのかゴシック期
  の装飾的改修だったのか判然としない。いずれにせよ
  あまり美しいとは言い難い。しかし、全体的にはロマ
  ネスクの雰囲気の残る、静かで清々しい教会だった。   
                                

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     ノガロ聖ニコラ参事会教会
       Nogaro/ Collégiale St-Nicolas
    
                         2 Gers   
           
   ジェール県 Gers の北部、隣県のエ
  ール
Aire-sur-l'Adour の東20キロ
  にある古い町である。
   町の西端に建つ教会は11世紀創建
  で、革命時には倉庫として使用される
  等、破壊と修復を繰り返したらしい。
   北側の扉口、四つの梁間の内の西の
  一つ以外の三身廊、三後陣に創建時ロ
  マネスクが残されている。
   身廊の天井は半円筒ヴォールトで、
  アーケードは尖頭アーチだった。
   北扉口のタンパンには四福音書家の
  シンボルに囲まれたキリストが彫られ
  ており、柱頭にも良い彫刻が見られた
  が、一番印象に残ったのが身廊のアー
  ケードの柱頭群だった。写真はその内
  の一枚である。表情豊かな三人の人物
  は何を表現しているのだろうか。
                                

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     タスク旧聖ピエール修道院教会
       Tasque/ Ancienne Abbatiale St-Pierre
    
                         2 Gers   
           
   起源不明の古い修道院後に建てら
  れた教会だが、その建造年代も不明
  で、しかも聖堂の大半は改築されて
  要塞化している。
   唯一のロマネスクの名残りは、写
  真の西扉口に残るタンパン・柱頭・
  迫持受の彫刻群だった。
   特にタンパンには、四人の福音書
  家に囲まれたキリストが彫られてい
  る。聖人の二人は人物像、あと二人
  はシンボルの動物像で描かれており
  かなり珍しい表現だろう。
   人物上部の顔部分が破壊されてい
  るのが残念である。
   柱頭彫刻も傑作だったと思われる
  が、崩壊がかなり進んでいる。
   聖堂背後に、旧修道院の遺構の基
  礎や壁の一部が保存されている。
                                

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     サン・モン洗礼の聖ヨハネ教会
       St-Mont/ Église St-Jean-Baptiste
    
                         2 Gers   
          
   エールの東南12キロ、アドゥール川 Adour
  沿った高台の上に開けた小さな村である。
   ケルトやローマ時代からの歴史も残されているそ
  うだが、この教会の起源は11世紀の修道院に由来
  するという。
   聖堂は翼廊のある単身廊の十字形で、11〜12
  世紀のロマネスクが残るのは、身廊南壁と翼廊南側
  及びその半円形小祭室だけであった。他の部分は、
  14〜15世紀以降に改修されてしまっている。

   天井は全て交差リブ穹窿だが、柱頭部分には12
  世紀の彫刻が残されている。
   写真は、身廊と翼廊の交差部西側のアーチ(凱旋
  門)の柱頭で、高い位置に在るため小生の望遠での
  撮影には限界があった。これが精一杯だったが、先
  人の写真などを拝見すると、大勢の楽士や踊り子に
  囲まれて中央に立つのは弦楽器を持ったダヴィデで
  あるとされている。
   他にも、植物の蔓に絡まった多くのライオンとダ
  ニエルを描いた彫刻など、登って行って近くで見た
  くなるような傑作が残されている。
   中央の後陣は14世紀ゴシック様式で、方形の祭
  室には全く魅力が無かった。   
                                

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     シマクールブ聖ピエール教会
       Simacourbe/ Église St-Pierre
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   前述のセヴィニャックの東10キロ、
  田園地帯の真ん中にこの村がある。
   教会は集落の北側、森と草地の中に建
  っている。
   建物全体が満身創痍とも言えそうな雰
  囲気からも、かなり改造されている事が
  創造された。
   11世紀創建になるが、ロマネスクの
  痕跡は後陣と玄関間の扉口だけにしか見
  られなかった。残念ながら、聖堂へは入
  ることが出来なかった。
   煉瓦積みの後陣は、歴戦の勇士・名誉
  の負傷とも言うべき風格が感じられる。
  現に屋根から下は、かなり当初の姿に近
  いそうである。
   屋根で覆われた玄関間の北側扉口は、
  二重の帯状アーチ装飾が施されている。
  地味な花びらの連続模様などが彫られて
  いる。柱頭には弦楽器を持つダビデやア
  ブラハムの犠牲などが確認出来る。
                                

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     オロロン・サント・マリー聖十字架教会
       Oloron-Ste-Marie/ Église Ste-Croix
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   アスプ川 Aspe 東岸の高台に建っ
  ている11世紀末のロマネスク聖堂。
   三廊式の身廊、三つの梁間、翼の横
  幅が身廊とほとんど変わらない翼廊、
  そして三つの後陣で構成された建築で
  ある。
   北側の扉口が当初からの入口で、荒
  廃しているが四重のヴシュールを持つ
  ロマネスク様式である。
   身廊の天井は半円筒ヴォールトで古
  式が感じられ、翼廊交差部の天井には
  スペインに見られるリブによる星形の
  ドームが珍しかった。巡礼路の関連が
  考えられる。
   祭室部分は全て極彩色に塗られてい
  て絶望的だ。近年の塗装らしい。しか
  し、柱頭に関しては大目に見て、許せ
  る範疇かもしれない。写真は「アダム
  とイヴ」で、「三博士礼拝」などの傑
  作も残されている。
                                

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     ロピタル・サン・ブレーズ聖ブレーズ教会
       L'Hopital-St-Blaise/ Église St-Blaise
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   オロロンの北東17キロに位置している村で、
  かつてはその名の通りサンチャゴ巡礼者のための
  施療院などの施設があった。
   ソンポール、イバニエータのどちらの峠を越え
  る場合にも立ち寄れる場所だったようだ。

   写真は、村の中心に建つ12世紀に創建された
  教会で、正方形を五つ並べて出来る十字形を基本
  としたギリシャ十字に半円形の後陣を取り付けた
  恰好である。素人臭い表現で恐縮だが、最も解り
  易いかもしれない。

   写真は西南後方からの眺めで、右に後陣、左に
  翼廊南部、中央に八角鐘塔が写っている。
   聖堂内陣の修復や過剰装飾が激しいので、創建
  当初の素朴なロマネスクの風情は、石積みの表情
  が見える外観と、ギリシャ十字の平面プランにの
  み残されているようだった。
   内陣のアーチは全て尖頭式で、中心のドームに
  はオロロンの聖十字架教会で見たスペイン風の正
  八角形を結ぶ星形アーチが見られた。
   正面の扉口はタンパンのあるアーチ門で、六重
  のヴシュールを備えた立派な入口である。タンパ
  ンには、四福音書家のシンボルと栄光のキリスト
  が彫られているが、新しい彫刻だろう。
   ピレネーはもう目の前である。
                                

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     サン・タングラース聖アングラース教会
       Ste-Engrâce/ Église Ste-Engrâce
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   こんなに険しい渓谷の奥に、
  本当に教会があるのだろうかと
  思わせるような山奥の寒村であ
  る。ピレネー国境のピエール・
  サン・マルタン峠へと通じる林
  道の入口に当たる集落だ。
   やや開けた場所に建つ教会は
  11世紀の創建で、三廊式三後
  陣のバシリカ聖堂である。
   正面扉口のクリスモンのタン
  パンや、柱頭も見逃せないが、
  本命は祭壇周辺の柱頭彫刻であ
  る。彫刻の彫りが深く、衣服の
  襞など細部まで繊細に表現され
  た柱頭はフランスでも屈指の傑
  作だと思う。
   写真はその内の一基で「東方
  三博士の聖母子礼拝」である。
  聖母の顔が怖いが、ユニークな
  人物描写がとても気に入ってい
  る。「馬上の三博士」や「ライ
  オンの穴のダニアル」など名作
  がひしめいている。
                                

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     サン・ジャン・ピエ・ド・ポー聖ユーラール教会遺蹟
       St-Jean-Pied-de-Port/ Vestiges de l'Église St-Eulalle
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   1990年の夏に、車でサンチャゴ巡礼を企てたこ
  とがあった。ボルドーからピレネーを越えてサン
  チャゴ・デ・コンポステーラまでの巡礼路を旅し
  たのである。
   ピレネーのイバニエタ峠を越える前日に、この
  町の旅籠その名も「ル・ピレネー
Les Pyrénée
  に泊って食事をした思い出があった。
   今回はそんな感傷に浸るセンチメンタル・ジャ
  ーニーでもあったのである。

   その後、ロマネスク時代の教会の遺構が残って
  いたと知ったので、今回所在をあちこちで聞いた
  がほとんど知らない人ばかりだった。最後は、ホ
  テルのマネージャーが知っていて教えてくれたの
  だが、何とホテルの真裏の住宅の一部に、写真の
  扉口が組み込まれて保存されていたのだった。案
  内も説明も全く無かった。
   巡礼教会だったのだろうが、現在はこの扉口だ
  けの遺構で、四重の半円アーチ装飾と簡素な柱頭
  と円柱が残るのみだった。
   多くの巡礼者を見て来たであろう教会だが、詳
  しい歴史の経緯は判らない。しかし、ロマネスク
  の扉口の素朴な美しさは、歴史の中に生き残った
  奇跡的な存在から来るある種の力強さを伝えてい
  るようだった。
  
   ミシュランの星一つをずっと保持し続けている
  ホテルのレストランでのその晩の食事は、懐かし
  さも加わった忘れ難い美味となった。
                                

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     マゼール洗礼の聖ヨハネ教会
       Mazères/ Église St-Jean-Baptiste
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   行政的にはオート・ピレネー県に属しているが、
  文化圏としてはガスコーニュ地方に属しているだろ
  う。この村は、盲腸のように飛び出した県北部のカ
  ステルノー
Castelnau-Rivière-Basse という町に
  組み込まれたコミューンで、前述のタスクからは至
  近である。
   静かな住宅街の中に、この要塞みたいな箱型の聖
  堂が建っている。後世の鐘塔も建っているが、どう
  みてもロマネスク教会とは思えない。

   しかし、南面の扉口はれっきとしたロマネスクの
  アーチ門で、明らかに「ライオンの穴のダニエル」
  と思える柱頭などが見られ、もしかしたらという期
  待を抱かせたのだった。
   聖堂内に入って見た建築は全くの失望だったが、
  祭壇付近を飾る柱頭彫刻群を見て、その質の高さに
  目を見張ってしまった。むしろ“驚愕”に近い印象
  を受けたのだった。
   コの字型の祭室の壁には三段のアーケードが設け
  られており、特に最下段は三連の盲アーケードが左
  右の壁も含め連なっている。そのそれぞれの柱頭に
  彩色されてはいるが、秀逸な彫刻が配されていた。
   写真は、特に気に入った「地獄の龍に食べられる
  男」で、壮絶な筈なのにユーモラスな表現になって
  いる。「イサクの犠牲」など物語性に富んだモチー
  フのほかに、抽象的で奇抜なモチーフが数多く見ら
  れて楽しかった。
   当初閉まった扉に戸惑ったが、「鍵は葡萄の繁っ
  た白い門の家まで」と書かれた紙が貼られており、
  探し当てたその家の方に案内をしていただけたのだ
  った。感謝。
                                

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     サン・スヴェール・ド・リュスタン旧聖スヴェール修道院教会
       St-Sever-de-Rustan/ Ancienne Abbaye St-Sever
    
                         4 Hautes-Pyrénées
                             
   タルブ Tarbes の町の東北25キロ、
  ゲール
Gers 県境に間近の村である。
   修道院を中心に発展した村で、現在も静
  寂な雰囲気を保っている。
   修道院の建築群の東側に附属教会が建っ
  ており、南側にロマネスク様式の扉口が設
  けられている。
   三重アーチの門で、柱頭には「天使に支
  えられたマンドラのキリスト」など、やや
  磨耗しているがかなりの傑作がみられる。
   聖堂は単身廊で、三つの梁間と鐘塔下の
  ドーム、そして祭室がならんでいる。大半
  がゴシック以降に改造されているが、ドー
  ム下の部分だけにはロマネスクの柱と柱頭
  が残されていた。
   写真はその内の一基で、「アダムとイヴ
  の楽園追放」である。人物描写やリンゴの
  樹の表現がユニークだが、全体に漂う妖し
  げな雰囲気がロマネスクの柱頭彫刻から受
  ける印象としては、珍しく官能に訴えられ
  た感じがしていた。それこそが「原罪」か
  もしれない。
                                

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     サン・サヴァン旧聖サヴァン修道院教会
       St-Savin-en-Lavedan/ Ancienne Abbatiale St-Savin
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   聖地ルルド Lourdes の南15キロ、アル
  ジュレス・ガソスト
Argelès-Gazost の町
  の南に隣接する丘の上の集落である。
   修道院を中心にした門前村と言えそうだ
  が、現在はかつての修道院の偉容は消え、
  八角塔の聳える附属教会だけが残された。

   広場に面して扉口があり、単身廊に翼廊
  が交叉する十字形聖堂である。祭室は翼廊
  にも設けられており、半円形三後陣を構成
  している。身廊の天井は半円筒ヴォールト
  だったが、美意識に欠けた白塗りだった。
   正面扉口は十重のヴシュールを設けた華
  麗なアーチ門で、中央にタンパンと数基の
  タンパンが残されている。四福音書家のシ
  ンボルとマンドラのキリストが彫られたタ
  ンパンは、かなり摩耗していて迫力を失っ
  ている。面白かったのが写真の柱頭で、こ
  んな図像を玄関に飾る修道院とは?と考え
  てしまうほど飛んでいる。ロマネスクの不
  思議さ、としか言い様がない。
   聖堂背後の参事会室
Salle Capitulaire
  も、ひげ面の顔、鳥、星、花びらなど、判
  じ物のような奇妙な図像の組み合わせが見
  られて楽しめる。
                                

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     リュス・サン・ソヴェール聖アンドレ教会
       Luz-St-Sauveur/ Église St-André
    
                         4 Hautes-Pyrénées
                                 
          
   前記のサン・サヴァンから更に南へ、ピレネー
  の麓に向かってルス渓谷
Gorge de Luz を登って
  行く。ピレネー最大の見所と言われるガヴァルニ
  ー大圏谷
Cirque de Gavarnie への玄関口である
  この町は、ピレネー国立公園の中心に位置してい
  るのである。

   町の南側に建つこの教会は、別名をテンプル教
  会
Église des Templier ともいい、エルサレム
  のヨハネ騎士団との関連が深かったようだ。教会
  の外壁は、その名に相応しく城塞の様な堅固な造
  りになっている。11世紀の創建と言われる。
   写真は教会堂の北門の扉口で、五重のヴシュー
  ルと若干の柱頭、そしてタンパンが残っている。
  コミカルな怪獣もどきの像が彫られた柱頭、精密
  な連続模様の意匠された帯状アーチも見所だが、
  中央のタンパンが最も質の高い彫刻として注目さ
  れる。四福音書家のシンボルが、栄光のキリスト
  を囲んでいる。左上の人間(マタイ)から時計回
  りで、鷲(ヨハネ)牛(ルカ)獅子(マルコ)と
  並ぶ配列はベアトス本にも描かれたパターンで、
  ロマネスクの大半はこの意匠である。他に四つの
  パターンがあって興味深い。
   この門は13世紀半ばと記されているが、完全
  にロマネスクの様式が生き残ったものと言えるの
  だろう。
                                

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     アロ−聖エグジュペール教会
       Arreau/ Église St-Exupère
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   オール渓谷 Vallée d'Aure の入口
  にある町で、市街地の真ん中を渓流
  が流れている。
   川沿いに建つこの12世紀の教会
  は、建物の大半がゴシックに改築さ
  れている。擁壁のような支え柱の目
  立つ後陣や、尖塔の聳える八角鐘塔
  も、余り魅力が感じられない。
   創建時の姿は、鐘塔下の扉口にだ
  け残されている。三重のヴシュール
  と、クリスモンを彫ったタンパン、
  写真の素朴な柱頭彫刻が主役になっ
  ている。門全体の石が古びて情緒的
  ではあるが、崩壊寸前とも言えそう
  で心境は複雑である。見た通りの素
  朴な造形が好ましい。信仰が純粋で
  あることの証のように思えるからで
  ある。
                                

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     ヴィエル・オール聖バーセルミー教会
       Vielle-Aure/ Église St-Barthélemy
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   オール渓谷の中程に開けた町で、アローから
  は11キロ上流に当たる。
   集落の西北端、ピレネーの支脈を背景にして
  この教会が建っている。写真は、町からのアプ
  ローチで見る事の出来る後陣と鐘塔の景観で、
  背後の緑との調和がとても美しい。

   創建は11〜12世紀なのだが、その当時の
  ロマネスク様式を伝えるのは、中央の半円形後
  陣と鐘塔の一部だけだろう。
   ロンバルディア帯状の盲アーケードや小さな
  の窓の後陣は、石積みも美しく、よく当初の面
  影を伝えている。

   内陣祭室はドーム部分に彩色壁画が描かれて
  いるが、後世の作品である。
   三廊式の身廊や、側廊を区切る尖頭アーケー
  ド、三つのベイを持つ聖堂の天井は尖頭ヴォー
  ルトで、ゴシック期の改造ながらロマネスクの
  エッセンスを伝えているように感じられた。
   中央の後陣の両側に建つ小祭室は非対称で、
  半円形は南側だけである。明らかに後世に改造
  されたと思われる。

   西正面扉口も近代の改造で少々がっかりさせ
  られるが、教会全体の佇まいが優れているので
  訪ねる価値は十分にあるだろう。
                                

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     アラヌエタンプリエール礼拝堂
       Aragnouet/ Chapelle des Templiers
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   ピレネーを越える裏街道ともいう
  べき山道が数本有るが、現在は車で
  トンネルを抜ければウエスカ県のア
  インサ
Ainsa へと通じている。
   ピレネー越えの巡礼者のために、
  ヨハネ騎士団
Templiers が設営し
  たとされる施療院と共に創建された
  礼拝堂だと言われている。
   この日は曇っていたが、晴れた日
  には雪を頂くピレネーの峰が、背景
  に望めるはずだった。
   広い草原にポツンと建つ素朴な礼
  拝堂の孤高な姿は、巡礼者の後ろ姿
  のようでもあった。
   単身廊に半円形の後陣だけという
  無垢の聖堂で、12世紀に建てられ
  たものである。看板には
Chapelle
   Notre-Dame de l'Assomption
聖母
  被昇天礼拝堂と記されていた。  
                                

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     アゼ聖母被昇天教会
       Azet/ Église Notre-Dame de l'Assomption
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   前述のオール渓谷から、東側に在る支流の谷で
  あるルーロン渓谷
Vallée de Louron へと抜ける
  ための峠の途中の村である。
   集落の一番高い場所に、広い墓地を前面に構え
  た教会の聖堂が建っていた。
   
   創建は司祭も滞在したとされるロマネスク時代
  だが、その後かなり荒廃し17世紀ごろから再建
  が行われたらしい。 

   西正面に鐘塔が聳え、その上部二層には二連の
  開口アーケードが意匠されている。尖頭部分は後
  補だろう。塔の下部に扉口が設けられている。異
  質の石材が用いられているのが馴染めない。
   通用扉口は南側の門で、ここにも別の石材が使
  われている。

   ほぼ正方形の聖堂は三廊式で、柱は左右の一本
  づつが側廊を構築している。
   中央に主後陣、左右に小後陣
absidiole を配
  した素朴なプランはロマネスク創建当時のままだ
  ろう。かなりの改造や改修が顕著だが、基本的な
  平面図や石積みの肌合いには、十分に創建時のエ
  ッセンスが残っているように感じた。
   ピレネーの峰々を背景にした立地条件が、聖堂
  巡りの楽しみを倍増させてくれたようだ。
                                

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     トレボン聖ジュリアン教会
       Trébons-de-Luchon/Église St-Julien

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   サン・ゴーダン St-Gaudens の南、バニェー
  ル・ド・ルション
Bagnères-de-Luchon の町は
  ピレネー・リゾートの中心となる町である。
   スペイン国境は近く、アラン谷
Aran のボソス
  ト
Bossost までは峠越えの20キロ弱である。
   ルションの周辺には数多くのロマネスク小教会
  が集中的に密集しているので、ルションに滞在し
  てそれらを探訪した。

   ルションから最も近い場所に在るのが、この不
  思議な名前の教会だった。美味しい!というトレ
  ・ボン
très bon に似ていたからだろう。
   ルションの西3キロ地点の斜面の上に建つ素朴
  な聖堂で、11〜12世紀の創建と伝えられる。
   単身廊の聖堂、半円形の後陣、単層の鐘塔、タ
  ンパンやまぐさ石の備わった南門など、規模は小
  さいがロマネスク様式が凝縮されている。
   素朴な石積みが魅力の後陣には、ロンバルディ
  ア帯とフリーズ装飾が施されており、アラン谷へ
  の至近さを考えると、カタロニアの石工からの影
  響を考えてもよさそうである。
   彫刻も装飾もほとんど無い素朴な建築のみであ
  るが、美しいピレネーの風光に溶け込んだ佇まい
  は、それだけで訪ねて来た甲斐があったというも
  のだろう。
   なにしろ、ルション周辺には、見るべきロマネ
  スク教会が少なくとも15箇所は在るだろう。
                                

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     サン・タヴァンタン聖アヴァンタン教会
       St-Aventin-de-Larboust/Église St-Aventin

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   ルションから西へ6キロ、主
  要道に面して建つ谷一番の名刹
  だろう。
   三廊式長方形の聖堂で、三つ
  の後陣と東西二つの鐘塔を配し
  た11世紀の建築である。
   ロンバルディア帯の美しい半
  円形アプスは素晴らしいが、南
  側の門と壁面を飾る彫刻やレリ
  ーフは一級品である。
   中でも、写真のタンパン彫刻
  に注目するべきだろう。四福音
  書家に囲まれた栄光のキリスト
  像だが、四つのシンボルをそれ
  ぞれ天使が持っているとう表現
  は珍しいだろう。
   建築、彫刻共に、ルション地
  区を代表するロマネスク教会で
  ある。
                                

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     カジョー・ド・ラルブスト聖アンヌ教会
       Cazeaux-de-Larboust/Église Ste-Anne

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   サン・タヴァンタンから西へ3キロ、ルーロン
  谷からアローへ抜ける峠の麓に当たる村である。
   教会は町の西の外れ、主要道に面して設けられ
  た墓地の横に建っている。ロマネスクのアーケー
  ド窓を二層に据えた、方形の鐘塔が目印となる。

   西正面に鐘塔が聳えるが、ファサードに門は無
  い。塔の東側に長方形の単身廊が並び、南側の壁
  に扉口が設けられていた。半円形の後陣が付いて
  いるので、この谷で見られる一連の様式だと言え
  るだろう。12世紀に創建されている。

   何とも素朴なプランであり、装飾的な彫刻など
  が全く無いことで、より一層プリミティブに感じ
  られる。だが、壁面を擁護するために付けられた
  控え壁や、張り出した軒屋根が建築の風情を著し
  く損ねているのは残念である。保護のためには致
  し方ないと理解しつつも。

   聖堂内部は単身廊で二つのベイを持ち、天井は
  尖頭ヴォールトで構成されている。
   祭室のドームや天井、身廊の壁など一面を覆う
  フレスコ画は、ロマネスク的な要素も見られるが
  15世紀の作だそうだ。
                                

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     ベルネ(ビリエール)聖ベルネ教会
       Bernet (Billière)/Église de Bernet

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   ビリエールは先述のカジョーの
  北隣の村で、林に囲まれた静かで
  平和な集落である。ベルネはその
  集落の北東端に位置するコミュー
  ンである。
   写真の教会は、言われなければ
  とても教会とは思えぬ程素朴な、
  まるで倉庫か納屋のような建物で
  ある。11世紀の建築で、初期南
  仏ロマネスクの典型とされる。
   知らぬ間に心に沁みてくるよう
  な、静かな説得力のある教会だ。
   そして先ず奇異に感じられるの
  は、長方形の聖堂の東西両端に半
  円形の後陣
abside が配されてい
  ることだろう。
   粗く不揃いな石を積み上げただ
  けの、窓の無い壁面が構築する小
  さな空間は、ロマネスク建築の単
  細胞のように見える。このユニッ
  トの複合が、一般的なロマネスク
  建築へと拡大するのである。
                                

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     ベンク・デス・エ・デシュ聖ジュニエ教会
       Benqué-Dessous-et-Dessus/Église St-Geniès

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   北側の支流であるドウェイ
  ユ谷
Vallée d'Oueil へと分
  け入って直ぐに、長たらしい
  名の村がある。
   集落への急坂を登り詰めた
  所に建つ12世紀創建の教会
  で、17世紀に大きく再建さ
  れたものである。
   クリスムのレリーフがタン
  パンに彫られた南門の扉口を
  入ると、舟底形の木造天井に
  覆われた単身廊の聖堂で、半
  円形のドームで作られた祭室
  が東側に設けられている。
   塔・単身廊・祭室と並ぶ、
  この地方の素朴なプランであ
  る。祭室のフレスコは近代の
  作だが、入口付近に置かれた
  洗礼盤のロマネスク彫刻が印
  象的だった。   
                                

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     サクルヴィエル聖バーセルミー教会
       Saccourvielle/Église St-Barthélemy

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   前述のベンクとは谷を隔てた対岸の斜面に張り
  付いたような集落で、教会の鐘塔は谷の何処から
  でも眺められるシンボリックな存在である。

   創建は11世紀とも12世紀とも言われている
  が、半円形の後陣に単身廊の聖堂、西側のファサ
  ードを兼ねた鐘塔という様式は、この地方を歩て
  いれば見慣れたものである。
   れっきとしたロマネスクを感じさせるのは、存
  在感を示している鐘塔だろう。
   先端は勿論後補だが、三層に施されたロンバル
  ディア帯の盲アーケード部分に、多連の開口アー
  ケードを配した意匠は伝統の風格すら感じさせる
  建築だった。ピレネーを代表する鐘塔の一つ、と
  言っておくことに決めた。

   扉口が閉まっていたので聖堂へは入れなかった
  が、かなり改造されているようなので、敢えて鍵
  を探そうとは思わなかった。
   境内から眺めるピレネーの山々の爽快な景観が
  そうさせたのかもしれない。

   聖堂の脇に泉のように湧く水路が設けられてお
  り、清らかな流れの音が静かに聞こえるという、
  何とも穏やかで詩的な雰囲気の村であった。
                                

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     メレーニュ聖ピエール教会
       Mayrègne/Église St-Pierre

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   ドウェイユ谷を更に登って行
  くと、村外れの斜面にポツンと
  建つ小さな聖堂が目に入る。
   すっかり御馴染みの建築様式
  で、鐘塔・単身廊・後陣が揃っ
  ている。11世紀創建とのこと
  だが、平面プラン以外はかなり
  後世に改造されているようだ。
   南門の扉口が閉まっていたの
  で、聖堂内部へは入れなかった
  が、壁面に施された五連の盲ア
  ーケードと扉口のタンパンの名
  残が興味深かった。窓は後世の
  ものだろう。
   この谷最奥の村ブール
Bourg
  にもロマネスク教会が残されて
  おり、素朴な建築とピレネーの
  風光を満喫できる素晴らしい地
  域である。
                                

  
   
     サン・ポール・レ・ダックス聖ポール教会
       St-Paul-lès-Dax/Église St-Paul
    
                         1 Landes   
     
   この教会は、フランス第二の温泉地
  として名高い、ダックス
Dax の町の
  郊外の閑静な高台に建っている。

   修復中で内陣へは入れなかったのだ
  が、12世紀の創建部分は写真の後陣
  部分だけだそうなので、無念さはやや
  減少した。
   外側の壁面に組まれた盲アーケード
  と同じものが、祭室内部の壁にも飾ら
  れているので見たかったのである。
   壁面の薄いピンク色の石が朝陽に照
  り、周囲の景観の中に浮かび上がって
  綺麗だった。

   写真には小さく写っているが、壁面
  中段に帯状に彫られたレリーフを見逃
  してはならない。
   最後の晩餐、キリスト捕縛、磔刑な
  ど、一連のキリスト受難の場面が絵巻
  物のように彫られている。顔に特徴の
  有る、個性的な彫刻群である。
           

   
  
     ソルド・ラベイ聖ジャン修道院
       Sorde-l'Abbaye/ Abbaye St-Jean
    
                         1 Landes   
   
     
   教会全体がかなり修復され
  ているので、車を止めた広場
  からはゴシックの教会のよう
  に見えた。事実、後陣の半円
  形祭室や祭壇周辺にはロマネ
  スク様式の建築が見られのだ
  が、身廊の柱頭から上、天井
  や梁の部分は完全にゴシック
  様式だった。

   祭室と身廊を仕切るアーチ
  部分には、見るべき柱頭が有
  り、彩色がほんのりと残って
  いる。聖母子像やダニエルと
  獅子、キリスト誘惑等といっ
  た主題の柱頭が目に入った。

   祭壇の据えられた床一面に
  は、目を見張るようなモザイ
  クが敷き詰められている。写
  真を撮ったが、逆光のためモ
  ザイクが光っていたため余り
  上手には撮れなかった。
   近世の修復の際に発見され
  たとのことだが、色彩が見事
  に残っていて素晴らしい。
   ここでは、赤・黄・黒・白
  ・青がモザイクの基調になっ
  ており、組紐模様や葡萄の図
  や様々な動物などが巧みに図
  案化されている。
           

  
   
     ヌルビ聖ピエール教会
       Nerbis/ Église St-Pierre
    
                            1 Landes   
       
   今回の旅はランド Landes 地方を中心に歩いた
  のだが、フォアグラ等多くの美味を堪能できた。

   ダックスに泊まった翌朝、サンテ・ミリオンへ向
  かう途中で、朝もやに霞む村の外れの高台にひっそ
  りと建っているこの教会を訪ねた。
   かなりの修復が成されており、ロマネスク時代の
  名残は、写真の後陣部分と塔、そして向こう側の身
  廊の壁だけなのである。

   後陣の半円形祭室部分は三つ揃っているのだが、
  身廊の両側に在るべき側廊は北側部分しかない。
   身廊の屋根も後補であり、修復の際に大きく改造
  されたらしい。
   しかし、聖堂全体の佇まいはロマネスク的な情緒
  に満ちていて、私達は墓地の中からしばらくの間後
  陣の姿を眺めていた。
   内陣の天井はオジーヴだが、柱はロマネスク様式
  であり、素朴な柱頭も残っていて楽しめた。

   このくらいの規模のロマネスク聖堂にこそ、しっ
  くりと落ち着いた大仰でない美しさが感じられるの
  で好きである。
           

  
   
     サン・スヴェール聖スヴェール教会
       St-Sever/Église St-Sever
    
                         1 Landes   
     
   5世紀創建とも伝えられる修道院の
  付属教会であったのだが、現在は町の
  中央広場に面して建つロマネスク様式
  の教会である。
   身廊は三廊式で、それぞれに祭室が
  有り、さらに袖廊に左右二つづつの小
  祭室が付いているので、後陣には七つ
  の半円形祭室が重なって見える。
   身廊の柱に見るべき柱頭彫刻が並ん
  でいて、ロマネスク柱頭を愛する我々
  にとってはさながら至上の楽園のよう
  に感じられた。
   写真の柱頭は「ヘロデの宴」で、左
  蔭の部分に首を切られる洗礼のヨハネ
  が彫られ、正面にヘロデ王達の宴が描
  かれている。
   身を反らせて踊るサロメの姿は、ど
  こぞのフィギア・スケートの選手を想
  起させて面白い。
          

  
     
     アジェトモー聖ジロン教会
       Hagetmau/ Église St-Girons
    
                         1 Landes   
          
   いくら探してもこの教会を見つけることができなか
  ったので、仕方なく町役場を訪ねてみたのだが、そこ
  に係りの人がいて、待っていましたとばかりに案内を
  してくれた。鍵は彼が持っていたのだから、最初から
  役場へ行けばよかったのである。

   ここはクリプトの柱頭が見所で、外部から見ること
  は不可能だった。
   12世紀初めの創建で、クリプトの壁面などはかな
  り修復されてはいるものの、柱頭彫刻は比較的その当
  時のままであるらしい。

   写真のように雰囲気の良いクリプトで、柱は壁面に
  10本、中央に4本立っており、それぞれに特徴のあ
  る柱頭が彫られていた。
   写真一番手前の「ダニエルと獅子」や、右奥の「ラ
  ザロの奇跡」などが印象的だった。
   悪魔と戦う聖人の像も多く、中でも物凄い形相をし
  た怪物の姿が実にユニークである。
   ここは旧聖ジロン教会の祭室部分の地下であり、か
  つての三廊式であった教会の建造物は全て失われ、こ
  の部分だけが残されている。
   
           

     
     
     パンボ聖バーセルミ教会
       Pimbo/ Église St-Barthélemy
    
                         1 Landes   
          
   前述のアジェトモーの東南22キロほどの台地にあ
  る村で、ガスコーニュのゲール県とピレネー・アトラ
  ンティック県までは数キロという県境の村だった。

   12世紀築造の教会で、破壊と修復の歴史を持った
  想像以上に規模の大きな建築だった。
   見せかけファサードの下部に扉口がある。五重のヴ
  シュールが壮観だがかなり崩落している。しかし、柱
  頭や帯状アーチには、かつての彫刻の一部が残されて
  いる。渦巻や幾何学文様を施した、最外アーチの彫刻
  が美しい。
   内陣は三廊式で三つの梁間があるが、天井は後補の
  扁平なヴォールトだった。祭室部分の最後のスパンの
  天井は、れっきとした半円筒ヴォールトが残されてい
  る。三後陣の中央祭室両側の壁面に施された、三連の
  盲アーケードが印象的だった。柱頭にも怪獣の首など
  面白いものがあった。

   聖堂背後に回ってみると、そこは花を中心にした庭
  園になっていて、三後陣の姿をゆっくりと見ることが
  出来た。聖堂の天井が高いので、後陣も縦長の半円形
  となっている。中央後陣に控え壁のような武骨な付け
  柱が見られるが、現実的な補強だったのかゴシック期
  の装飾的改修だったのか判然としない。いずれにせよ
  あまり美しいとは言い難い。しかし、全体的にはロマ
  ネスクの雰囲気の残る、静かで清々しい教会だった。   
                                

       
     
     ノガロ聖ニコラ参事会教会
       Nogaro/ Collégiale St-Nicolas
    
                         2 Gers   
          
   ジェール県 Gers の北部、隣県のエ
  ール
Aire-sur-l'Adour の東20キロ
  にある古い町である。
   町の西端に建つ教会は11世紀創建
  で、革命時には倉庫として使用される
  等、破壊と修復を繰り返したらしい。
   北側の扉口、四つの梁間の内の西の
  一つ以外の三身廊、三後陣に創建時ロ
  マネスクが残されている。
   身廊の天井は半円筒ヴォールトで、
  アーケードは尖頭アーチだった。
   北扉口のタンパンには四福音書家の
  シンボルに囲まれたキリストが彫られ
  ており、柱頭にも良い彫刻が見られた
  が、一番印象に残ったのが身廊のアー
  ケードの柱頭群だった。写真はその内
  の一枚である。表情豊かな三人の人物
  は何を表現しているのだろうか。
                                

      
     
     タスク旧聖ピエール修道院教会
       Tasque/ Ancienne Abbatiale St-Pierre
    
                         2 Gers   
          
   起源不明の古い修道院後に建てら
  れた教会だが、その建造年代も不明
  で、しかも聖堂の大半は改築されて
  要塞化している。
   唯一のロマネスクの名残りは、写
  真の西扉口に残るタンパン・柱頭・
  迫持受の彫刻群だった。
   特にタンパンには、四人の福音書
  家に囲まれたキリストが彫られてい
  る。聖人の二人は人物像、あと二人
  はシンボルの動物像で描かれており
  かなり珍しい表現だろう。
   人物上部の顔部分が破壊されてい
  るのが残念である。
   柱頭彫刻も傑作だったと思われる
  が、崩壊がかなり進んでいる。
   聖堂背後に、旧修道院の遺構の基
  礎や壁の一部が保存されている。
                                

  
     
     サン・モン洗礼の聖ヨハネ教会
       St-Mont/ Église St-Jean-Baptiste
    
                         2 Gers   
          
   エールの東南12キロ、アドゥール川 Adour
  沿った高台の上に開けた小さな村である。
   ケルトやローマ時代からの歴史も残されているそ
  うだが、この教会の起源は11世紀の修道院に由来
  するという。
   聖堂は翼廊のある単身廊の十字形で、11〜12
  世紀のロマネスクが残るのは、身廊南壁と翼廊南側
  及びその半円形小祭室だけであった。他の部分は、
  14〜15世紀以降に改修されてしまっている。

   天井は全て交差リブ穹窿だが、柱頭部分には12
  世紀の彫刻が残されている。
   写真は、身廊と翼廊の交差部西側のアーチ(凱旋
  門)の柱頭で、高い位置に在るため小生の望遠での
  撮影には限界があった。これが精一杯だったが、先
  人の写真などを拝見すると、大勢の楽士や踊り子に
  囲まれて中央に立つのは弦楽器を持ったダヴィデで
  あるとされている。
   他にも、植物の蔓に絡まった多くのライオンとダ
  ニエルを描いた彫刻など、登って行って近くで見た
  くなるような傑作が残されている。
   中央の後陣は14世紀ゴシック様式で、方形の祭
  室には全く魅力が無かった。   
                                

   
    
     セヴィニャック聖ピエール教会
       Sévignac/ Église St-Pierre

                         3 Pyrénées-Atlantiques   

                 
   現在見るこの教会は二廊式である。側
  廊が南側にしかないのだが、北側が消失
  したのか、南側だけに増築したのかは判
  らない。
   いずれにせよ、身廊部分と写真の南門
  のみがロマネスク様式なのである。従来
  西正面のファサードだったものを、移築
  したものと考えられる。
   タンパンの中は、玉座のキリストを中
  心に、鍵を持つペテロと長い巻物を持つ
  パウロが彫られている。
   ヴシュールの外側は黙示録の二十四長
  老らしいのだが、不思議なことに一つお
  きに十二人しか居ない。
   美しい墓地の中に建つ、民家の柿葺の
  ような屋根を持った穏やかな建築の教会
  だった。
         

                    
     
     シマクールブ聖ピエール教会
       Simacourbe/ Église St-Pierre
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   前述のセヴィニャックの東10キロ、
  田園地帯の真ん中にこの村がある。
   教会は集落の北側、森と草地の中に建
  っている。
   建物全体が満身創痍とも言えそうな雰
  囲気からも、かなり改造されている事が
  創造された。
   11世紀創建になるが、ロマネスクの
  痕跡は後陣と玄関間の扉口だけにしか見
  られなかった。残念ながら、聖堂へは入
  ることが出来なかった。
   煉瓦積みの後陣は、歴戦の勇士・名誉
  の負傷とも言うべき風格が感じられる。
  現に屋根から下は、かなり当初の姿に近
  いそうである。
   屋根で覆われた玄関間の北側扉口は、
  二重の帯状アーチ装飾が施されている。
  地味な花びらの連続模様などが彫られて
  いる。柱頭には弦楽器を持つダビデやア
  ブラハムの犠牲などが確認出来る。
                                

           
          
     モルラー聖フォア教会
       Morlaas/ Église St-Foy

                         3 Pyrénées-Atlantiques   

                 
   ポー Pau 市郊外に位置するこの町は、
  とても静かな美しい所だった。
   教会は町のほぼ中心に建っている11
  世紀創建の建築だが、側廊部分は後世の
  修復であり、内陣もとても綺麗なのでや
  や戸惑ってしまう。
   しかし、扉口の装飾は必見であり、ど
  こかで見たことがあるような気がした。
  それは前述のオロロンのタンパンと同様
  に、タンパンが二重になっていたからだ
  った。
   小さいタンパンの主題は、左が「幼児
  虐殺」、右が「エジプトへの逃避」であ
  り、主タンパンは「荘厳のキリスト」で
  ある。キリストの左側に天使、右側に鷲、
  下に小さなクリスモンが彫られている。
   ヴシュールの彫刻も、オロロンの内容
  にとても似ているようだった。
          

         
        
     レスカールノートルダム大聖堂
       Lescar/Cathédrale Notre-Dame

                         3 Pyrénées-Atlantiques   

                 
   聖母マリアが出現したとされる奇跡の聖地ルル
  ドを訪ねた後に、私達はこの地にたどり着いた。
   この教会に素晴らしいモザイクが有る事を、資
  料によって調べてあったからである。
   教会の建物は三廊式で三つの祭室が有り、少し
  へこんだ程度の翼廊が両側に付いていた。全て1
  2世紀の建造である。
   モザイクは祭室最奥の床面に施されており、狩
  猟の場面や動物同士が激しく絡み合う姿が描かれ
  ている。モザイクといえばビザンチンかローマを
  連想するが、不思議とここのは12世紀ロマネス
  クのモザイクである。
   モザイク以上に感動したのが、写真のものを始
  めとした柱頭群だった。「アブラハムの犠牲」や
  「キリストと預言者達」のほかに、数々の妖怪や
  怪獣が彫られていて飽きない。ルルドの直後だっ
  たせいもあるが、写真の「東方三博士の聖母子礼
  拝」の造形美に唸ってしまった。盛り上がるよう
  な彫りは、類例を見ないほどの絶品であった。
           

          
         
     オロロン・サント・マリー聖マリー教会
     
  Oloron-Ste-Marie/Église Ste-Marie

                         3 Pyrénées-Atlantiques   

                 
   ルシオン地方から出発して、ピレネー
  山麓のロマネスク教会を巡ったことがあ
  る。出発前の計画の段階から、私はずっ
  とこの美しい響きの地名に憧れ、そこに
  建つロマネスクの寺を想像していた。
   バジリカ式の簡素な建築にも興味があ
  ったが、鐘塔の中門のような正面扉口の
  彫刻は、私が考えていたレヴェルを遥か
  に越えた素晴らしい意匠であった。
   中心柱の有る半円形タンパンの中に、
  さらに小さな半円形の二つのタンパンが
  重なるという珍しい形式である。
   中心にキリストの十字架降下を、そし
  て半円の縁飾りとして、楽器を持った黙
  示録の二十四人の長老が彫られている。
   写真はその内側に彫られた、日常的な
  庶民の暮らしの一部である。生き生きと
  した表情がとても良いのだが、いったい
  何を作っているのだろうか。
               

      
     
     オロロン・サント・マリー聖十字架教会
       Oloron-Ste-Marie/ Église Ste-Croix
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   アスプ川 Aspe 東岸の高台に建っ
  ている11世紀末のロマネスク聖堂。
   三廊式の身廊、三つの梁間、翼の横
  幅が身廊とほとんど変わらない翼廊、
  そして三つの後陣で構成された建築で
  ある。
   北側の扉口が当初からの入口で、荒
  廃しているが四重のヴシュールを持つ
  ロマネスク様式である。
   身廊の天井は半円筒ヴォールトで古
  式が感じられ、翼廊交差部の天井には
  スペインに見られるリブによる星形の
  ドームが珍しかった。巡礼路の関連が
  考えられる。
   祭室部分は全て極彩色に塗られてい
  て絶望的だ。近年の塗装らしい。しか
  し、柱頭に関しては大目に見て、許せ
  る範疇かもしれない。写真は「アダム
  とイヴ」で、「三博士礼拝」などの傑
  作も残されている。
                                

     
     
     ロピタル・サン・ブレーズ聖ブレーズ教会
       L'Hopital-St-Blaise/ Église St-Blaise
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   オロロンの北東17キロに位置している村で、
  かつてはその名の通りサンチャゴ巡礼者のための
  施療院などの施設があった。
   ソンポール、イバニエータのどちらの峠を越え
  る場合にも立ち寄れる場所だったようだ。

   写真は、村の中心に建つ12世紀に創建された
  教会で、正方形を五つ並べて出来る十字形を基本
  としたギリシャ十字に半円形の後陣を取り付けた
  恰好である。素人臭い表現で恐縮だが、最も解り
  易いかもしれない。

   写真は西南後方からの眺めで、右に後陣、左に
  翼廊南部、中央に八角鐘塔が写っている。
   聖堂内陣の修復や過剰装飾が激しいので、創建
  当初の素朴なロマネスクの風情は、石積みの表情
  が見える外観と、ギリシャ十字の平面プランにの
  み残されているようだった。
   内陣のアーチは全て尖頭式で、中心のドームに
  はオロロンの聖十字架教会で見たスペイン風の正
  八角形を結ぶ星形アーチが見られた。
   正面の扉口はタンパンのあるアーチ門で、六重
  のヴシュールを備えた立派な入口である。タンパ
  ンには、四福音書家のシンボルと栄光のキリスト
  が彫られているが、新しい彫刻だろう。
   ピレネーはもう目の前である。
                                

     
     
     サン・タングラース聖アングラース教会
       Ste-Engrâce/ Église Ste-Engrâce
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   こんなに険しい渓谷の奥に、
  本当に教会があるのだろうかと
  思わせるような山奥の寒村であ
  る。ピレネー国境のピエール・
  サン・マルタン峠へと通じる林
  道の入口に当たる集落だ。
   やや開けた場所に建つ教会は
  11世紀の創建で、三廊式三後
  陣のバシリカ聖堂である。
   正面扉口のクリスモンのタン
  パンや、柱頭も見逃せないが、
  本命は祭壇周辺の柱頭彫刻であ
  る。彫刻の彫りが深く、衣服の
  襞など細部まで繊細に表現され
  た柱頭はフランスでも屈指の傑
  作だと思う。
   写真はその内の一基で「東方
  三博士の聖母子礼拝」である。
  聖母の顔が怖いが、ユニークな
  人物描写がとても気に入ってい
  る。「馬上の三博士」や「ライ
  オンの穴のダニアル」など名作
  がひしめいている。
                                

      
     
     サン・ジャン・ピエ・ド・ポー聖ユーラール教会遺蹟
       St-Jean-Pied-de-Port/ Vestiges de l'Église St-Eulalle
    
                         3 Pyrénées-Atlantiques
          
   1990年の夏に、車でサンチャゴ巡礼を企てたこ
  とがあった。ボルドーからピレネーを越えてサン
  チャゴ・デ・コンポステーラまでの巡礼路を旅し
  たのである。
   ピレネーのイバニエタ峠を越える前日に、この
  町の旅籠その名も「ル・ピレネー
Les Pyrénée
  に泊って食事をした思い出があった。
   今回はそんな感傷に浸るセンチメンタル・ジャ
  ーニーでもあったのである。

   ロマネスク時代の教会の遺構が残っていると知
  っていたので、所在をあちこちで聞いたがほとん
  ど知らない人ばかりだった。最後は、ホテルのマ
  ネージャーが知っていて教えてくれたが、何とホ
  テルの真裏の住宅の様な建物に、写真の扉口が組
  み込まれていたのだった。案内も説明も全く無か
  った。
   巡礼教会だったのだろうが、現在はこの扉口だ
  けの遺構で、四重の半円アーチ装飾と簡素な柱頭
  と円柱が残るのみだった。
   多くの巡礼者を見て来たであろう教会だが、詳
  しい歴史の経緯は判らない。しかし、ロマネスク
  の扉口の素朴な美しさは、歴史の中に生き残った
  奇跡的な存在から来るある種の力強さを伝えてい
  るようだった。
  
   ミシュランの星一つをずっと保持し続けている
  ホテルのレストランでのその晩の食事は、懐かし
  さも加わった忘れ難い美味となった。
                                

  
     
     マゼール洗礼の聖ヨハネ教会
       Mazères/ Église St-Jean-Baptiste
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   行政的にはオート・ピレネー県に属しているが、
  文化圏としてはガスコーニュ地方に属しているだろ
  う。この村は、盲腸のように飛び出した県北部のカ
  ステルノー
Castelnau-Rivière-Basse という町に
  組み込まれたコミューンで、前述のタスクからは至
  近である。
   静かな住宅街の中に、この要塞みたいな箱型の聖
  堂が建っている。後世の鐘塔も建っているが、どう
  みてもロマネスク教会とは思えない。

   しかし、南面の扉口はれっきとしたロマネスクの
  アーチ門で、明らかに「ライオンの穴のダニエル」
  と思える柱頭などが見られ、もしかしたらという期
  待を抱かせたのだった。
   聖堂内に入って見た建築は全くの失望だったが、
  祭壇付近を飾る柱頭彫刻群を見て、その質の高さに
  目を見張ってしまった。むしろ“驚愕”に近い印象
  を受けたのだった。
   コの字型の祭室の壁には三段のアーケードが設け
  られており、特に最下段は三連の盲アーケードが左
  右の壁も含め連なっている。そのそれぞれの柱頭に
  彩色されてはいるが、秀逸な彫刻が配されていた。
   写真は、特に気に入った「地獄の龍に食べられる
  男」で、壮絶な筈なのにユーモラスな表現になって
  いる。「イサクの犠牲」など物語性に富んだモチー
  フのほかに、抽象的で奇抜なモチーフが数多く見ら
  れて楽しかった。
   当初閉まった扉に戸惑ったが、「鍵は葡萄の繁っ
  た白い門の家まで」と書かれた紙が貼られており、
  探し当てたその家の方に案内をしていただけたのだ
  った。感謝。
                                

  
     
     サン・スヴェール・ド・リュスタン旧聖スヴェール修道院教会
       St-Sever-de-Rustan/ Ancienne Abbaye St-Sever
    
                         4 Hautes-Pyrénées
                             
   タルブ Tarbes の町の東北25キロ、
  ゲール
Gers 県境に間近の村である。
   修道院を中心に発展した村で、現在も静
  寂な雰囲気を保っている。
   修道院の建築群の東側に附属教会が建っ
  ており、南側にロマネスク様式の扉口が設
  けられている。
   三重アーチの門で、柱頭には「天使に支
  えられたマンドラのキリスト」など、やや
  磨耗しているがかなりの傑作がみられる。
   聖堂は単身廊で、三つの梁間と鐘塔下の
  ドーム、そして祭室がならんでいる。大半
  がゴシック以降に改造されているが、ドー
  ム下の部分だけにはロマネスクの柱と柱頭
  が残されていた。
   写真はその内の一基で、「アダムとイヴ
  の楽園追放」である。人物描写やリンゴの
  樹の表現がユニークだが、全体に漂う妖し
  げな雰囲気がロマネスクの柱頭彫刻から受
  ける印象としては特異な感じがしていた。
                                

  
     
     サン・サヴァン旧聖サヴァン修道院教会
       St-Savin-en-Lavedan/ Ancienne Abbatiale St-Savin
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   聖地ルルド Lourdes の南15キロ、アル
  ジュレス・ガソスト
Argelès-Gazost の町
  の南に隣接する丘の上の集落である。
   修道院を中心にした門前村と言えそうだ
  が、現在はかつての修道院の偉容は消え、
  八角塔の聳える附属教会だけが残された。

   広場に面して扉口があり、単身廊に翼廊
  が交叉する十字形聖堂である。祭室は翼廊
  にも設けられており、半円形三後陣を構成
  している。身廊の天井は半円筒ヴォールト
  だったが、美意識に欠けた白塗りだった。
   正面扉口は十重のヴシュールを設けた華
  麗なアーチ門で、中央にタンパンと数基の
  タンパンが残されている。四福音書家のシ
  ンボルとマンドラのキリストが彫られたタ
  ンパンは、かなり摩耗していて迫力を失っ
  ている。面白かったのが写真の柱頭で、こ
  んな図像を玄関に飾る修道院とは?と考え
  てしまうほど飛んでいる。ロマネスクの不
  思議さ、としか言い様がない。
   聖堂背後の参事会室
Salle Capitulaire
  も、ひげ面の顔、鳥、星、花びらなど、判
  じ物のような奇妙な図像の組み合わせが見
  られて楽しめる。
                                

  
     
     リュス・サン・ソヴェール聖アンドレ教会
       Luz-St-Sauveur/ Église St-André
    
                         4 Hautes-Pyrénées
                                 
          
   前記のサン・サヴァンから更に南へ、ピレネー
  の麓に向かってルス渓谷
Gorge de Luz を登って
  行く。ピレネー最大の見所と言われるガヴァルニ
  ー大圏谷
Cirque de Gavarnie への玄関口である
  この町は、ピレネー国立公園の中心に位置してい
  るのである。

   町の南側に建つこの教会は、別名をテンプル教
  会
Église des Templier ともいい、エルサレム
  のヨハネ騎士団との関連が深かったようだ。教会
  の外壁は、その名に相応しく城塞の様な堅固な造
  りになっている。11世紀の創建と言われる。
   写真は教会堂の北門の扉口で、五重のヴシュー
  ルと若干の柱頭、そしてタンパンが残っている。
  コミカルな怪獣もどきの像が彫られた柱頭、精密
  な連続模様の意匠された帯状アーチも見所だが、
  中央のタンパンが最も質の高い彫刻として注目さ
  れる。四福音書家のシンボルが、栄光のキリスト
  を囲んでいる。左上の人間(マタイ)から時計回
  りで、鷲(ヨハネ)牛(ルカ)獅子(マルコ)と
  並ぶ配列はベアトス本にも描かれたパターンで、
  ロマネスクの大半はこの意匠である。他に四つの
  パターンがあって興味深い。
   この門は13世紀半ばと記されているが、完全
  にロマネスクの様式が生き残ったものと言えるの
  だろう。
                                

  
     
     アロ−聖エグジュペール教会
       Arreau/ Église St-Exupère
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   オール渓谷 Vallée d'Aure の入口
  にある町で、市街地の真ん中を渓流
  が流れている。
   川沿いに建つこの12世紀の教会
  は、建物の大半がゴシックに改築さ
  れている。擁壁のような支え柱の目
  立つ後陣や、尖塔の聳える八角鐘塔
  も、余り魅力が感じられない。
   創建時の姿は、鐘塔下の扉口にだ
  け残されている。三重のヴシュール
  と、クリスモンを彫ったタンパン、
  写真の素朴な柱頭彫刻が主役になっ
  ている。門全体の石が古びて情緒的
  ではあるが、崩壊寸前とも言えそう
  で心境は複雑である。見た通りの素
  朴な造形が好ましい。信仰が純粋で
  あることの証のように思えるからで
  ある。
                                

  
     
     ヴィエル・オール聖バーセルミー教会
       Vielle-Aure/ Église St-Barthélemy
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   オール渓谷の中程に開けた町で、アローから
  は11キロ上流に当たる。
   集落の西北端、ピレネーの支脈を背景にして
  この教会が建っている。写真は、町からのアプ
  ローチで見る事の出来る後陣と鐘塔の景観で、
  背後の緑との調和がとても美しい。

   創建は11〜12世紀なのだが、その当時の
  ロマネスク様式を伝えるのは、中央の半円形後
  陣と鐘塔の一部だけだろう。
   ロンバルディア帯状の盲アーケードや小さな
  の窓の後陣は、石積みも美しく、よく当初の面
  影を伝えている。

   内陣祭室はドーム部分に彩色壁画が描かれて
  いるが、後世の作品である。
   三廊式の身廊や、側廊を区切る尖頭アーケー
  ド、三つのベイを持つ聖堂の天井は尖頭ヴォー
  ルトで、ゴシック期の改造ながらロマネスクの
  エッセンスを伝えているように感じられた。
   中央の後陣の両側に建つ小祭室は非対称で、
  半円形は南側だけである。明らかに後世に改造
  されたと思われる。

   西正面扉口も近代の改造で少々がっかりさせ
  られるが、教会全体の佇まいが優れているので
  訪ねる価値は十分にあるだろう。
                                

     
     
     アラヌエタンプリエール礼拝堂
       Aragnouet/ Chapelle des Templiers
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   ピレネーを越える裏街道ともいう
  べき山道が数本有るが、現在は車で
  トンネルを抜ければウエスカ県のア
  インサ
Ainsa へと通じている。
   ピレネー越えの巡礼者のために、
  ヨハネ騎士団
Templiers が設営し
  たとされる施療院と共に創建された
  礼拝堂だと言われている。
   この日は曇っていたが、晴れた日
  には雪を頂くピレネーの峰が、背景
  に望めるはずだった。
   広い草原にポツンと建つ素朴な礼
  拝堂の孤高な姿は、巡礼者の後ろ姿
  のようでもあった。
   単身廊に半円形の後陣だけという
  無垢の聖堂で、12世紀に建てられ
  たものである。看板には
Chapelle
   Notre-Dame de l'Assomption
聖母
  被昇天礼拝堂と記されていた。  
                                

  
     
     アゼ聖母被昇天教会
       Azet/ Église Notre-Dame de l'Assomption
    
                         4 Hautes-Pyrénées
          
   前述のオール渓谷から、東側に在る支流の谷で
  あるルーロン渓谷
Vallée de Louron へと抜ける
  ための峠の途中の村である。
   集落の一番高い場所に、広い墓地を前面に構え
  た教会の聖堂が建っていた。
   
   創建は司祭も滞在したとされるロマネスク時代
  だが、その後かなり荒廃し17世紀ごろから再建
  が行われたらしい。 

   西正面に鐘塔が聳え、その上部二層には二連の
  開口アーケードが意匠されている。尖頭部分は後
  補だろう。塔の下部に扉口が設けられている。異
  質の石材が用いられているのが馴染めない。
   通用扉口は南側の門で、ここにも別の石材が使
  われている。

   ほぼ正方形の聖堂は三廊式で、柱は左右の一本
  づつが側廊を構築している。
   中央に主後陣、左右に小後陣
absidiole を配
  した素朴なプランはロマネスク創建当時のままだ
  ろう。かなりの改造や改修が顕著だが、基本的な
  平面図や石積みの肌合いには、十分に創建時のエ
  ッセンスが残っているように感じた。
   ピレネーの峰々を背景にした立地条件が、聖堂
  巡りの楽しみを倍増させてくれたようだ。
                                

             
              
     トゥールーズ聖セルナン聖堂
       Toulouse/Basilique St-Sernin

                         5 Hautes-Garonne   

                
   フランスを代表する大都市だが、旧市街
  は歴史的遺産の宝庫である。かつてのサン
  チャゴ巡礼路沿いに、この11世紀の教会
  は建っている。
   放射状祭室と周歩回廊とが、巡礼教会の
  典型的プランとして意匠されている。
   聖堂の外へ出て、ミエジュヴィルの門と
  呼ばれる扉口の彫刻を見た。
   写真はその半円形タンパンの部分で、上
  部には天使に支えられて昇天するキリスト
  像と、これを祝福する天使達が彫られてい
  る。持ち上げようとする天使のポーズと、
  両手を挙げたキリストの姿とが、上昇しよ
  うとする躍動感を見事に表現している。
   壁面にはヤコブとペテロの両聖人が、そ
  して門の柱頭には「楽園追放」や「受胎告
  知」「訪問」などが彫られている。
   少し離れた旧修道院内のオーギュスタン
  美術館にはぜひ立ち寄って、ロマネスクの
  柱頭彫刻コレクションなどを見なければい
  けない。
       

             
           
     トゥールーズオーギュスタン美術館
       Toulouse/Musée des Augustin

                         5 Hautes-Garonne   

                
   聖セルナンから南へ800m歩くと旧修道
  院があり、そこにこの重要な美術館が建って
  いる。旧石器時代からの豊富な彫刻蒐集で知
  られるが、私達はロマネスク柱頭彫刻の部屋
  へと急がねばならない。
   ダルバド聖母教会、聖セルナン、サン・テ
  ティエンヌなどに残された、創建当時の柱頭
  が集められているのだ。全てが一級品ばかり
  であり、その造形の美しさ、完成度の高さに
  は圧倒されるばかりだった。
   ロマネスク柱頭彫刻を見るための場所を一
  つだけ選ぶとしたら、ここ以外は全く考えら
  れない。
   写真は、その中で特に印象深かった作品で、
  サン・テティエンヌの「ヘロデの宴」である。
   柱頭の四面に渡って、サロメやヘロデ王や
  首を切られる洗礼のヨハネの姿が、ドラマテ
  ィックに描かれている。
   写真の面には、切られたヨハネの首が、手
  渡しでヘロデ王まで届く様を、絵巻物のよう
  に連続した場面で表現されている。
          

    
   
    サン・ゴードン旧聖ピエール聖ゴードン参事会教会
     St-Gaudens/Ancienne Collégiale St-Pierre-et-St-Gaudens
 
                         5 Hautes-Garonne   

             
   前述のサン・プランカールに旧知の一
  家を訪ねた翌日、私達はそこから程近い
  この地方の中心であるこの町を訪ねた。
  町を通過したことは何度か有ったが、こ
  この教会もロマネスク時代のものと知り、
  今回は見逃さなかったのだった。
   中央の広場に面した聖堂は壮大なもの
  だったが、後陣部分の外壁を修理してい
  る最中だった。
   内陣は三廊式で、身廊は高い半円アー
  チの天井、側廊は交差穹窿という美しい
  構成になっている。小さな窓から差し込
  む光が列柱と天井の陰影を造り出してお
  り、建築とは空間の創出なんだと改めて
  再確認させられる。
   柱頭の彫刻は非凡で、特にこのアダム
  とイヴの場面が印象的だった。大胆な構
  図、深い彫り、二人の虚ろな表情、妖し
  い蛇の誘惑など、幻想の世界へ引き込ま
  れるような気分にさせられたのだった。 
            

    
   
     サン・プランカール葡萄畑の聖ジャン礼拝堂
       St-Plancard/Chapelle St-Jean-des-Vignes

                         5 Hautes-Garonne   

               
   親友のM夫妻と御一緒にここを訪ねたのは、86
  年末の冬期休暇のことであった。教会の鍵を管理し
  ていた、親切な町の雑貨屋夫妻に世話になったのだ
  が、この交流がきっかけとなり、数年後M夫妻はこ
  の地を再訪し、爾来交誼は継続している。
   小麦畑が作る牧歌的な風景の中に、この小さな礼
  拝堂は、墓地と数本の木立に囲まれて静かに建って
  いた。名前の通り、礼拝堂の裏は小さな葡萄畑にな
  っている。
   礼拝堂は元来十字形だったのだが、現在は東南側
  のみが残っており、この翼廊の小祭室と中央祭室の
  壁面とに、鮮やかなフレスコ画が描かれていた。
   写真は、翼廊小祭室天井部に描かれた「栄光のキ
  リスト」像である。周囲にも色彩が豊かに残り、キ
  リストを支える天使や、洗礼のヨハネからの使者な
  どが描かれている。
   中央祭室にもフレスコが見られ、一部修復の痕跡
  は有るものの、東方三博士礼拝や磔刑図など美しい
  ロマネスク壁画を見ることが出来た。
   雑貨屋の御主人が先年亡くなられたので、早急に
  夫人のもとを訪ね、お悔やみをせねばならぬと思っ
  ていたが、03年10月にM夫妻と御一緒にこの念
  願を果たすことができた。 
         

    
   
     サン・ジュス・ヴァルカブレール聖ジュス教会
       St-Just-Valcabrère/Église St-Just

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   前述のコマンジュ地区にヴァルカブレールという
  集落が有り、その村外れにこの教会がポツンと建っ
  ている。ここからサン・ベルトランの聖堂が良く見
  える。
   緑一面の草原と麦畑の中に、ピレネー山塊の先端
  一部を背景とし、糸杉に囲まれた墓地を前景にし、
  そして、赤い屋根の古式な風貌をした塔や後陣の眺
  めは、全てが絵になる類稀なる景観である。

   聖堂は三廊式の単純な構造で、三つの祭室がそれ
  ぞれに付いている。扉口は側面に有り、荘厳のキリ
  ストや四福音書家を描いたタンパンや、四人の聖人
  像、繊細な柱頭彫刻などが美しい。
   特に、ローマ彫刻を連想させる四人の聖人像は珍
  しく、ローマの遺跡として栄えたコマンジュの伝統
  を、端的に表現しているようにも思えた。
   写真は、扉口左側の二人の聖人像と柱頭彫刻であ
  るが、あたかも古代ローマの彫像を想起させるよう
  なこの像に、むしろ斬新な感動を覚えてしまうとい
  う、なんとも不思議な経験であった。
 
          

   
   
    サン・ベルトラン・ド・コマンジュ
           /
コマンジュの聖マリー大聖堂
       St-Bertrand-de-Comminges
             
/
Cathédrale Ste-Marie-de-Comminges

                             5 Hautes-Garonne    
                 
   ガロンヌ渓谷を見下ろす絶景の地で、古代ローマ
  の時代から開けていたらしい。何処を掘っても必ず
  遺跡に当ってしまう、と言うほど大きな町だったと
  いう。広場の車止めにローマ式石棺のレプリカが使
  われるほどだが、本物だと言われたら信じてしまい
  そうな雰囲気の有る町なのである。
   広大なコマンジュの原野からも遠望出来る聖堂建
  築は豪壮だが、身廊や後陣はバットレスの備わった
  ゴシックである。
   だが、正面部分と身廊の西半分、さらに隣接する
  回廊の柱頭などは、れっきとした12世紀ロマネス
  クである。
   写真は回廊の柱頭彫刻で、植物模様や鳥などの動
  物をモチーフとしている。特に中央の柱には四人の
  福音書家の像が彫られており、一際光彩を放ってい
  る。
   見落としてならないのは、正面扉口のタンパン彫
  刻である。東方三博士の礼拝を受ける聖母子像と、
  右手を掲げる聖ベルトランの像が彫られている。天
  使達が上から色々な小道具を持って祝福しており、
  十二人の使徒を彫ったまぐさ石と共に、構図の面白
  さが魅力である。
          

  
   
     トレボン聖ジュリアン教会
       Trébons-de-Luchon/Église St-Julien

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   サン・ゴーダン St-Gaudens の南、バニェー
  ル・ド・ルション
Bagnères-de-Luchon の町は
  ピレネー・リゾートの中心となる町である。
   スペイン国境は近く、アラン谷
Aran のボソス
  ト
Bossost までは峠越えの20キロ弱である。
   ルションの周辺には数多くのロマネスク小教会
  が集中的に密集しているので、ルションに滞在し
  てそれらを探訪した。

   ルションから最も近い場所に在るのが、この不
  思議な名前の教会だった。美味しい!というトレ
  ・ボン
très bon に似ていたからだろう。
   ルションの西3キロ地点の斜面の上に建つ素朴
  な聖堂で、11〜12世紀の創建と伝えられる。
   単身廊の聖堂、半円形の後陣、単層の鐘塔、タ
  ンパンやまぐさ石の備わった南門など、規模は小
  さいがロマネスク様式が凝縮されている。
   素朴な石積みが魅力の後陣には、ロンバルディ
  ア帯とフリーズ装飾が施されており、アラン谷へ
  の至近さを考えると、カタロニアの石工からの影
  響を考えてもよさそうである。
   彫刻も装飾もほとんど無い素朴な建築のみであ
  るが、美しいピレネーの風光に溶け込んだ佇まい
  は、それだけで訪ねて来た甲斐があったというも
  のだろう。
   なにしろ、ルション周辺には、見るべきロマネ
  スク教会が少なくとも15箇所は在るだろう。
                                

  
   
     サン・タヴァンタン聖アヴァンタン教会
       St-Aventin-de-Larboust/Église St-Aventin

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   ルションから西へ6キロ、主
  要道に面して建つ谷一番の名刹
  だろう。
   三廊式長方形の聖堂で、三つ
  の後陣と東西二つの鐘塔を配し
  た11世紀の建築である。
   ロンバルディア帯の美しい半
  円形アプスは素晴らしいが、南
  側の門と壁面を飾る彫刻やレリ
  ーフは一級品である。
   中でも、写真のタンパン彫刻
  に注目するべきだろう。四福音
  書家に囲まれた栄光のキリスト
  像だが、四つのシンボルをそれ
  ぞれ天使が持っているとう表現
  は珍しいだろう。
   建築、彫刻共に、ルション地
  区を代表するロマネスク教会で
  ある。
                                

  
   
     カジョー・ド・ラルブスト聖アンヌ教会
       Cazeaux-de-Larboust/Église Ste-Anne

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   サン・タヴァンタンから西へ3キロ、ルーロン
  谷からアローへ抜ける峠の麓に当たる村である。
   教会は町の西の外れ、主要道に面して設けられ
  た墓地の横に建っている。ロマネスクのアーケー
  ド窓を二層に据えた、方形の鐘塔が目印となる。

   西正面に鐘塔が聳えるが、ファサードに門は無
  い。塔の東側に長方形の単身廊が並び、南側の壁
  に扉口が設けられていた。半円形の後陣が付いて
  いるので、この谷で見られる一連の様式だと言え
  るだろう。12世紀に創建されている。

   何とも素朴なプランであり、装飾的な彫刻など
  が全く無いことで、より一層プリミティブに感じ
  られる。だが、壁面を擁護するために付けられた
  控え壁や、張り出した軒屋根が建築の風情を著し
  く損ねているのは残念である。保護のためには致
  し方ないと理解しつつも。

   聖堂内部は単身廊で二つのベイを持ち、天井は
  尖頭ヴォールトで構成されている。
   祭室のドームや天井、身廊の壁など一面を覆う
  フレスコ画は、ロマネスク的な要素も見られるが
  15世紀の作だそうだ。
                                

  
   
     ベルネ(ビリエール)聖ベルネ教会
       Bernet (Billière)/Église de Bernet

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   ビリエールは先述のカジョーの
  北隣の村で、林に囲まれた静かで
  平和な集落である。ベルネはその
  集落の北東端に位置するコミュー
  ンである。
   写真の教会は、言われなければ
  とても教会とは思えぬ程素朴な、
  まるで倉庫か納屋のような建物で
  ある。11世紀の建築で、初期南
  仏ロマネスクの典型とされる。
   知らぬ間に心に沁みてくるよう
  な、静かな説得力のある教会だ。
   そして先ず奇異に感じられるの
  は、長方形の聖堂の東西両端に半
  円形の後陣
abside が配されてい
  ることだろう。
   粗く不揃いな石を積み上げただ
  けの、窓の無い壁面が構築する小
  さな空間は、ロマネスク建築の単
  細胞のように見える。このユニッ
  トの複合が、一般的なロマネスク
  建築へと拡大するのである。
                                

  
   
     ベンク・デス・エ・デシュ聖ジュニエ教会
       Benqué-Dessous-et-Dessus/Église St-Geniès

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   北側の支流であるドウェイ
  ユ谷
Vallée d'Oueil へと分
  け入って直ぐに、長たらしい
  名の村がある。
   集落への急坂を登り詰めた
  所に建つ12世紀創建の教会
  で、17世紀に大きく再建さ
  れたものである。
   クリスムのレリーフがタン
  パンに彫られた南門の扉口を
  入ると、舟底形の木造天井に
  覆われた単身廊の聖堂で、半
  円形のドームで作られた祭室
  が東側に設けられている。
   塔・単身廊・祭室と並ぶ、
  この地方の素朴なプランであ
  る。祭室のフレスコは近代の
  作だが、入口付近に置かれた
  洗礼盤のロマネスク彫刻が印
  象的だった。   
                                

  
   
     サクルヴィエル聖バーセルミー教会
       Saccourvielle/Église St-Barthélemy

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   前述のベンクとは谷を隔てた対岸の斜面に張り
  付いたような集落で、教会の鐘塔は谷の何処から
  でも眺められるシンボリックな存在である。

   創建は11世紀とも12世紀とも言われている
  が、半円形の後陣に単身廊の聖堂、西側のファサ
  ードを兼ねた鐘塔という様式は、この地方を歩て
  いれば見慣れたものである。
   れっきとしたロマネスクを感じさせるのは、存
  在感を示している鐘塔だろう。
   先端は勿論後補だが、三層に施されたロンバル
  ディア帯の盲アーケード部分に、多連の開口アー
  ケードを配した意匠は伝統の風格すら感じさせる
  建築だった。ピレネーを代表する鐘塔の一つ、と
  言っておくことに決めた。

   扉口が閉まっていたので聖堂へは入れなかった
  が、かなり改造されているようなので、敢えて鍵
  を探そうとは思わなかった。
   境内から眺めるピレネーの山々の爽快な景観が
  そうさせたのかもしれない。

   聖堂の脇に泉のように湧く水路が設けられてお
  り、清らかな流れの音が静かに聞こえるという、
  何とも穏やかで詩的な雰囲気の村であった。
                                

  
   
     メレーニュ聖ピエール教会
       Mayrègne/Église St-Pierre

                         5 Hautes-Garonne   

                     
   ドウェイユ谷を更に登って行
  くと、村外れの斜面にポツンと
  建つ小さな聖堂が目に入る。
   すっかり御馴染みの建築様式
  で、鐘塔・単身廊・後陣が揃っ
  ている。11世紀創建とのこと
  だが、平面プラン以外はかなり
  後世に改造されているようだ。
   南門の扉口が閉まっていたの
  で、聖堂内部へは入れなかった
  が、壁面に施された五連の盲ア
  ーケードと扉口のタンパンの名
  残が興味深かった。窓は後世の
  ものだろう。
   この谷最奥の村ブール
Bourg
  にもロマネスク教会が残されて
  おり、素朴な建築とピレネーの
  風光を満喫できる素晴らしい地
  域である。
                                

    
      
     モンゴーシュ聖ピエール教会
       Montgauch/Église St-Pierre

                         6 Ariège  

                  
   後述のサン・リジェから近い谷間の奥
  に、この小さな集落と教会が在る。
   入口の扉が閉まっていたが、鍵を管理
  する村人を探すのに家人が村の外れまで
  行き、一人の老婦人を伴って戻った。
   お陰で私達は内陣へと、無事入ること
  が出来た。そして、祭室の天井ドームと
  それに続く半円アーチ天井に描かれた、
  美しいフレスコ画をゆっくりと鑑賞した
  のだった。
   かなり剥落が激しいが、色彩は意外と
  鮮やかに残っている。かなり修復の手が
  入っているが、中央のキリストの顔は失
  われている。しかし大方の像容は破壊さ
  れておらず、キリスト像の周囲に描かれ
  た天使や聖人像には、ロマネスクの図像
  としての親しみを感じてしまう。
   ドームの下には御訪問や磔刑が描かれ、
  天井の部分には聖ペテロの逸話などを見
  る事が出来る。いずれも、かなりの表現
  力を持った傑作であった。
   まことに静かで素朴な里で、フランス
  の田舎を旅する事の魅力に満ちていた。  
          

     
           
     サン・リジェ旧大聖堂
       St-Lizier/Ancienne Cathédrale

                         6 Ariège   

                  
   狭い通りの両側に木組みの家々が並ぶ、雰囲気の
  良い古い街である。この聖堂は12世紀創建だがか
  なり修復されており、祭室、小祭室及び回廊だけが
  当時のままである。
   中央祭室の丸天井から壁面一杯に、やや剥落して
  はいるものの、大変シックで物静かな色使いのフレ
  スコ画が残っていた。
   天井のキリスト像にはやや後世の手が入っている
  ようだが、壁面に描かれた八人の預言者達の像や、
  その下段のマリア伝などは12世紀のものである。
   写真は「受胎告知」で、聖母マリアと大天使ガブ
  リエルを描いてある。濃紺が際立って美しく感じら
  れたが、抑えた色調がさらにレヴェルの高い美意識
  を感じさせる。右隣には、全く同じ色調の「訪問」
  が描かれていた。
   回廊は、一本と二本の柱が交互に続くという、変
  化に富んだ設計だが、半円アーチで仕切られた中庭
  は、雑草が生え荒廃していた。しかし、柱頭の彫刻
  は見事で、その複雑で繊細な意匠は見ていて飽きな
  い。 
          

    
         
     ヴァル聖母教会
       Vals/Église Notre-Dame

                         6 Ariège   

               
   トゥールーズの東南に位置するこの教
  会は、先ずその異様な佇まいに驚かされ
  る。岩山と一体化して建つ城砦のようで
  もあり、教会の入口は何と洞窟へ入るよ
  うに狭い。
   しかし、一歩堂内に入れば、そこはプ
  レ・ロマネスク時代のクリプトである。
  そして祭室に当るサン・ミシェル礼拝室
  の天井に描かれたフレスコ画の壮麗さに、
  思わず目を見張らされてしまう事になる。
   剥落が激しいが、鮮烈な色彩が残って
  おり、フレスコ好きにはたまらない空間
  である。
   蒲鉾形の天井や梁に、ピエール、マタ
  イ、アンドレ、ルカといった聖人達や、
  多くの天使、受胎告知の場面などが明快
  な輪郭線で描かれている。
   上ばかり向いていたので、すっかり首
  筋がくたびれてしまった。   
          

     
     
     ユナック聖マルタン教会
       Unac/Église St-Martin

                        6 Ariège   

             
   異端カタリ派がたてこもった山上の城砦モンセ
  ギュール
Montsegur へ登った後、私達は更に山
  を越え、ピレネーの山裾に在るこの村を訪ねた。
   スペインやアンドラとの国境にも近い、風光明
  媚だがまことに山深い辺境の村であった。
   鐘塔部分は11世紀、後陣・祭室部分は12世
  紀築造とのことだが、確かにアンドラなどで見た
  ピレネー山中のロマネスク建築に共通している。
   単身廊に袖廊が付いた十字形の聖堂で、袖廊の
  手前に塔が付いた形になっている。
   内陣はかなり修復されて小綺麗になっているが、
  創建当初からのものと思われる柱頭彫刻が何個か
  見られた。それは、モアサックの回廊の彫刻を連
  想させるほどの、優れた表現力を示していた。特
  に、獅子をモチーフにしたものが出色だった。
   西側のファサードは破壊されたようで、見所は
  自ずと後陣と鐘塔である。周囲の山並みをも取り
  込んだ景観が美しかったが、素朴さの中に秘めら
  れたロマネスクならではの洗練されたフォルムの
  素晴らしさが感じられたことが、何よりもて嬉し
  かった。 
                          

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