北イタリア (西部)
     の
ロマネスク  
   
 ピエモンテ・ロンバルディア・
    アオスタ地方など
 Piemonte / Lombardia /
    Aosta
/
Liguria  
 
 北イタリア(西部)といっても厳密な区画が
有る訳ではなく、ロンバルディア、アオスタ、
リグーリアの各州を総合してそう呼んだだけの
ことである。   
 この地方のロマネスク教会を歩くと、一般的
なイタリアの風景とはかなり異なった、まった
く別の姿が見えてきて大変に面白い。
 イタリアといえば、古代ローマの遺跡とルネ
サンスの美術のイメージが、余りにも強いから
かもしれない。
 ローマの影響よりも北のカロリング朝やフラ
ンスの影響が強い、一味違ったイタリアのロマ
ネスクを味わえる地域である。
      
 
 
北西イタリアの州と州都 ()

 ■ロンバルディア (Lombardia)
    1 Milano  2 Pavia  3 Lodi
    4
Cremona  5 Mantova
    6
Brescia  7 Bergamo
    8
Sóndrio  9 Lecco
   10
Como   11 Varese

 ■ヴァッレ・ダオスタ
   (Valle d'Aosta)

    1 Aosta  

 ■リグーリア (Liguria)
    1 Impéria   2 Savona
    3
Génova   4 La Spézia

 ■ピエモンテ (Piemonte)
    1 Cúneo      2 Asti
    3
Alessándria   4 Torino
    5
Vercelli      6 Novara
    7
Biella
    8
Verbano Cusio Ossora
 
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 コルタッツォーネ
     聖セコンド教会

   Cortazzone/
    
Chiesa di San Secondo 

      
2 Asti (Piemonte)   
                  
 
 
 ピエモンテのワイン産地として名高いモンフ
ェラート
Monferrato の丘は、アスティの町
の北に広がる一面の葡萄畑に覆われている。
 この教会は後述のオレッジオ聖堂に似た建築
であり、三列の身廊を区切る豪快なアーチと、
太い柱に大きな柱頭が特徴である。
 特に柱頭の彫刻は八本の柱すべてに、興味深
い図像が刻まれている。
 写真の柱頭には、魚・馬・人面などが彫られ
ており、隣には股を広げた人魚像が描かれてい
る。丸で判じ物みたいで、意味はさっぱり判ら
ない。判らないが面白い。
 他にも、鳩や兎や双頭の動物などが見られ、
不思議な動物園を覗いている様な気分になる。
 小さな聖堂だがどっしりとした柱頭彫刻が、
ロマネスクを旅する者に限り無い夢を提供して
くれている。
 
 
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 ヴェッツォラーノ
    聖マリア大修道院

  Vezzolano/
   Abbazia di Santa Maria
 

      
2 Asti (Piemonte)   
                  
 
 美しいモンフェラートの丘を更に北へと進ん
で行くと、緑に満ち溢れた谷間にこの赤い屋根
の修道院が見えてくる。
 教会は13世紀の建築で、ファサードには盲
アーケードと三段に分けられた列柱や、大小の
聖人像が飾られている。タンパンには中央に玉
座の聖母像が、両側に聖人像が彫られている。
 聖堂内部の天井は尖頭アーチの交差穹窿で、
ロマネスク後期からゴシック初期にかけての様
式である。梁や祭室半ドームのツートーンが、
ノルマン的なイメージを作っている。
 身廊に造られた仕切りアーケードは12世紀
のもので、聖母の生涯や旧約の族長の姿が彫ら
れている。
 右側の側廊が無く、そのまま回廊の壁となっ
ているのが珍しい。
 後陣の窓柱両側に聖母マリアと大天使ガブリ
エルが彫られている。受胎告知の場面である。
 精神の洗われる、清冽な印象の教会だった。
 
 
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 サクラ・ディ・サン・ミケーレ
      大修道院
/付属教会
   Abbazia di Sacra di
      San Michele
/Chiesa
 

      
4 Torino (Piemonte)   
                  
   
 
 ピエモンテ州スーザの谷の入口に聳えるこの
山と修道院は、聖ミケーレという名前からも、
フランスのモン・サン・ミッシェルが連想され
る。同一人による建築説もあるらしい。
 車で七合目まで登り、残りを歩かねばならな
いが、周囲のアルプスの景観を楽しんでいれば
苦も無く着く。

 写真は、西側正面のファサードで、最上段の
聖堂までは崖にへばりついたような急な石段を
登らねばならない。石段上の聖堂入口にはゾデ
ィアコ門があり、石段は天国への階段という俗
称がついているらしいが、この天国へは容易に
たどり着けない。
 美しいレリーフ彫刻や柱頭に飾られた見事な
門である。
 聖堂はゴシック様式も混在しており、想像よ
り遥かに軽やかな内陣であった。
 地下の祭室には、かなり古いプレ・ロマネス
クのプリミティブな石積みの壁が見られた。
 テラスから見晴らせるのアルプス及びスーザ
の谷の眺望は、それだけのためにでも登ってく
る価値がある。 
 
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 オルタ・サン・ジュリオ
       聖ジュリオ聖堂

   Orta San Giulio/
     Basilica di San Giulio
 

      
6 Novara (Piemonte)   
                  
 
 
 マジョーレ湖のすぐ西にサン・ジュリオ湖が
在り、聖堂は沖に浮かぶサン・ジュリオ島に建
っている。島へはオルタからの渡し舟に乗って
行くことになる。
 オルタまで来る途中の峠から眺めた湖と島全
体の景色は、正に聖地に相応しい絶景だった。
 写真は渡船が島に近づいた景観で、島で最古
の建築である11世紀の鐘楼が、水面に映えて
美しい。
 聖堂や建築が接近しているので、桟橋から迷
路を歩けば、知らぬ間に聖堂へと入っていく感
じである。
 建築は三廊式十字形の聖堂で、後陣が三つ付
いており、片側四本づつの柱で側廊を仕切って
いる小規模な教会である。
 12世紀の建築だが、かなり修復はされてい
るようだ。
 ロマネスク期の説教壇が在り、彫刻によって
装飾された見事な作品だった。
 
 
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 オレッジオ聖ミケーレ教会
  Oleggio/Chiesa
      di San Michele
 

      
6 Novara (Piemonte)   
                  
 
 
 オレッジオはピエモンテ州 Novara ノヴァ
ラの町の北に在る小さな町である。
 この教会は町の西端に有る、広い墓地の中に
建っている。
 聖堂は窓の無いバジリカ形式で、赤煉瓦の構
造体と石の壁とで成り立っており、ロンバルデ
ィア帯や盲アーチの装飾も見られる。
 聖堂内部の壁に描かれたフレスコ画は、近年
修復を一通り終えたばかりだという。修復の痕
跡を詳細に見たが、かなり剥落と褪色が激しか
ったようで、その緻密で原形に忠実な修復方法
には感服した。
 祭室のドームには栄光のキリスト像が描かれ
ているが、ルネサンス以降にかなり改修された
痕跡が見られるのは残念だった。ただ、キリス
ト像の周囲に描かれた天使の群像は、間違い無
くロマネスク期のものと思われた。
 簡単に筆を加えることの可能な壁画は、その
保存の困難さも伴って、様々な時代が混在して
しまうという難解な問題をしみじみと感じさせ
られてしまった。
 簡素な柱と天井だけで、全く装飾の無いクリ
プトの造形も見応えがあった
 
 
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 アオスタ聖オルソ参事会教会
  Aosta/Collegiata di Sant'Orso 

      1 Aosta (Valle d'Aosta)

                  
   
 
 モンテ・ビアンコ(モン・ブラン)やチェル
ヴィーノ(マッター・ホルン)、モンテ・ロー
ザなどといった秀峰の連なるアルプスの麓、ア
オスタ谷の中心都市である。
 アオスタの先、
Courmayeur クールマイユ
ールからモンブラン・トンネルを抜ければ、も
うそこはフランスのシャモニーなのである。
 ローマ皇帝アウグストゥスの凱旋門が残るほ
ど古い歴史を持つ町であり、小サン・ベルナー
ル峠を通じてプロヴァンスと結ばれていた。
 東端に在るアウグストゥス凱旋門に近いこの
参事会教会の外観は、アルプスの山々を背景に
して建つ鐘塔が美しい。
 私達は11世紀に建造されたクリプトを参拝
してから、12世紀の回廊へと入った。構造は
後世の修復によるものらしいが、柱頭彫刻は創
建当初のものである。ヤコブに関する逸話を主
題にしたものが多く、エジプト逃避やラザロの
蘇生などの定番も見える。いずれも、心なしか
プロヴァンスのサン・ジルや、サン・トロフィ
ウムに似ているような気がする。
 身廊屋根裏のフレスコ画を見損なったのは生
涯の不覚だったが、再度のアオスタ訪問でよう
やく見る事が出来た。写真撮影は不可だった。
 
 
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 ミラノ聖アンブロジオ聖堂
   Milano
/Basilica
      di Sant'Ambrogio
 

        Milano (Lombardia)   

                  
  
 
 ミラノを訪れたことのある人は多いが、ロン
バルディアを代表するロマネスク聖堂であるこ
の教会を知る人は案外少ない。有名なドゥオモ
の西1キロ足らずの、静かな一画である。
 聖堂を挟んで二つの塔が建っているが、写真
は左の鐘塔で12世紀建造であり、右の塔は9
世紀らしい。
 回廊のように見える部分は、聖堂の前庭でア
トリウムと呼ばれ、荘厳なアーチの柱廊に囲ま
れていて大変美しい。
 柱頭には、怪奇な架空の動物や植物模様が精
緻に彫られており、その一つ一つを丹念に見て
歩くのは実に楽しい。
 赤煉瓦を積んだ建築様式は、ロンバルディア
の他の教会にも数多く見られ、オリエントやビ
ザンチンからの影響だろうと思う。
 聖堂のファサードはロンバルディア様式の典
型で、後年やや様式化し過ぎた傾向があるが、
ここがその原形となったのかもしれない。
 聖堂内部では、4世紀の石棺を組み合わせて
12世紀に作られた説教台と、9世紀カロリン
ガ朝時代の祭壇布は見逃せない。
 
 
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 アリアーテ聖ピエトロ・
     聖パオロ聖堂

  Agliate/Basilica dei
   Santissima Pietro e Paolo
 

      1 Milano (Lombardia)   

                  
 
 写真は聖堂を南側から眺めたもので、手前に
独立して建っているのは洗礼堂である。写真に
は写っていないが、聖堂の左(西)側に鐘塔が建
っており、右側が後陣となっている。
 壁面の石が露出しているので、伽藍全体が古
色蒼然とした雰囲気に満ちていて、ロマネスク
を旅する者にとっては誠に好ましい佇まいであ
った。
 聖堂は三廊式バジリカ形式で、ビザンチン式
の柱頭の無いアーケードがより素朴な建築を演
出しているようだ。
 半地下のクリプタは、かなり修復されている
ようだったが、プリミティヴな植物模様の柱頭
が光線の中に浮き上がって見えた。
 洗礼堂は変則八角形で、右側の長い一辺に半
円形の祭室が飛び出している。入口は左側に有
ったが、扉が閉まって中へは入れなかった。
 聖堂の周囲を歩くだけでも、10世紀後半と
される古い建築が醸し出す独特のオーラを感じ
取ることが出来る。
 
 
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 ヴァプリオ・ダッダ
      
聖コロンバーノ教会
  Vaprio d'Adda/
   Chiesa di San Colombano
 

      1 Milano (Lombardia)   

                  
   
 
 ミラノからベルガモ Bergamo へ通じる国
道P525号線が、アッダ川
Adda を渡る手
前の町である。ミラノからは約25キロの距離
で、後述のベルガモ県リヴォルタ
Rivolta
共に、アッダ河畔は重要なロマネスクの教会が
点在する場所なのである。

 教会の正面は質素な切り妻のお堂なのだが、
扉口の柱に彫られた浮彫像に注目させられた。
 多様な人物・動物像に混ざって、人像円柱の
ような天使像が在る。大きな天使が子供のよう
な小天使を抱いている姿である。正体不明な像
ばかりだが、この教会が尋常ではないことを予
感させるファサードだった。
 単身廊に三後陣、天井は木造で、祭室周辺の
柱頭には、肢体をくねらせた怪物など表情豊か
な彫像が彫られている。

 写真は南側扉口のリュネットで、イタリア特
有の獅子像に挟まれて四人の人物が彫り込まれ
ている。プリミティヴだが、しっかりと半円形
に収まったロマネスク的な表現と言えそうだ。
中央の大きな聖コロンバーノを祝福する場面ら
しい。
 北側の扉口にもリュネット彫刻があり、棒と
鳥を持った人物と羊のような動物が彫られてい
る。何を表現しているのかは、判らぬままだ。
 聖堂の角に彫られた守護神のような彫像も忘
れ難い。   
 
 
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 パヴィア聖ミケーレ教会
  Pavia/Chiesa di San Michele 

       2 Pavia (Lombardia)   

                  
   
 
 観光的に有名なパヴィアの僧院はチェルトー
ザ・ディ・パヴィアと呼ばれ、パヴィアの町北
郊外に在ってロマネスクではない。

 聖ミケーレ教会は町の中心である旧市街の南
部に在り、12世紀創建のロマネスク様式が生
きている美しい教会である。旧市街の家並を抜
けると突然目の前に出現したように感じられた
が、規模はかなり大きい聖堂である。

 西正面ファサードは、三つの扉口と膨大な数
のレリーフ、そして上部の段違いアーケード小
開廊という、まさに壮大な装飾パネルである。
 写真は、付け柱で区分された三つの扉口の内
の、中央扉口部分である。他の二つと同様に、
タンパンに大天使ミケーレの像が彫られている
のは珍しい。周囲の細密で美しい意匠の帯状装
飾と壁面のレリーフとが、やや単調なファサー
ドに効果的なアクセントを付けている。
 扉口の柱頭は、お馴染の股広げの人魚や、首
ばかり集めたケルトのような意匠が見られた。
 身廊はトリビューンと八角ドームの有る見事
な建築で、太い柱の柱頭彫刻には深い彫りの美
しい彫刻が施されている。カイントアベル、サ
ムソンとライオン、ライオンの穴のダニエル等
が印象的だった。
 地下クリプトやモザイク床など見るべき造形
に満ち溢れており、さながら「美術の森教会」
とでも言えそうな程である。
 
 
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 パヴィア聖ピエトロ・
    イン・チエル・ドーロ教会

   Pavia/Chiesa di San Pietro
          in Ciel d'Oro

       2 Pavia (Lombardia)   

                  
   
 
 ランゴバルド王国やカロリング朝時代には、
イタリア王国の首都だった古都である。現在も
残る城郭の中に、歴史の澱が溜まったような旧
市街が残されていると同時に、歴史ある大学も
存続している、活気に満ちた町でもある。

 城郭の東北端に建つ12世紀に創建された教
会で、聖堂全体が赤煉瓦造りである。
 ファサードはサン・ミケーレを模したのか、
上部に段違いアーケードを設け、壁面を付け柱
で三区分している。ちょっと違うのは、こちら
には扉口は一つしかないことだろうか。
 何故か、扉口の上に天使像が飾られているの
だが、これも聖ミシェルなのだろうか。
 身廊は三廊式で、半円筒の横断アーチで仕切
られた天井は交差リブ穹窿だった。
 身廊の柱頭には、半人獣など物語性の強い内
容の優れた彫刻が満ちている。

 最奥の祭室は石段上の中二階で、交差部の八
角円蓋や後陣の半円ドームが構成美を見せる。
 写真は祭室地下のクリプタで、16本の円柱
に架けられたアーチを構成する赤煉瓦の縁取り
が鮮やかである。12世紀の建築だが、19世
紀に復元されたらしい。パヴィアには多くのク
リプタが残されており、歴史の格の違いを知る
ことが出来る。
 
 
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 パヴィア聖マリア・
     イン・ベトレム教会

   Pavia/Chiesa di Santa
      Maria in Betlem
 

      2 Pavia (Lombardia)   

                  
   
 
 旧市街の南側を流れるティチノ川 Ticino
に架かる古い石橋
Ponte Coperto を渡る。
屋根の付いた、風情のある橋である。
 この教会は対岸のボルゴ・ティチノという地
Borgo Ticino の表通りに面して建ってい
た。正午を少し過ぎていたので、もう扉は閉ま
っているかと半ば諦めていたのだが、丁度鍵を
掛けようとしていた黒人のシスターが親切にも
中へ入れてくれたのだった。

 三廊式の整然とした聖堂は12世紀後期の建
築で、半円筒横断アーチで仕切られた三つのベ
イと交差穹窿の天井がロマネスクのお手本の様
だ。交差部には八角鐘楼のドームが立ち上がっ
ているが、鐘塔は聖堂に隣接して建てられてい
る。
 後陣は半円形の祭室と、左右両袖廊に付けら
れた二つの小祭室で構成されている。ロンバル
ディア特有の赤煉瓦が印象的だった。

 ファサードはサン・ミケーレをお手本にした
らしく、上部に段違いアーケード、付け柱によ
る三分割という意匠がとてもよく似ている。扉
口は中央に一つ設けられている。

 シスターにお礼を言い、建物の後ろへ回った
が個人の土地で入れず、鐘塔と南側翼廊しか見
ることが出来なかった。
 
 
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 パヴィア旧聖エウセビオ教会
        (クリプタ)

  Pavia/Cripta di Sant'Eusebio 

       2 Pavia (Lombardia)   

                  
   
 
 6~8世紀に栄えたランゴバルド王国の遺構
として、この旧教会のクリプタが残っており、
頼めば見学も出来るということを知った。
 場所は大学脇のレオナルド・ダ・ヴィンチ広
場で、見学申し込みはヴィスコンティ城内の博
物館だったので、事前にネットを駆使して申し
込んであった。
 お城の前で案内の人と待ち合わせ、大学構内
を抜けてクリプタまで歩いた。
 金網の柵に囲まれたクリプタへは、通常は中
へ入れない。金網越しには、地下祭室を覆う天
井だけしか見えない。

 写真が、そのクリプタである。思ったより明
るい場所だったが、電灯が点けられた途端に浮
かび上がった天井の複雑な交差穹窿が、秘めら
れたランゴバルドの歴史に明かりを当てたよう
な、とてもミステリアスな気分になっていた。
 このクリプタは7世紀の建築との事だが、建
築的にどの部分にランゴバルドらしい特徴があ
るのかは係りの人には判らないようだった。
 繊細な円柱、素朴な柱頭の制作年代、交差穹
窿というロマネスク後期のような天井の構成、
崩れかかった煉瓦は何時のものなのか、など何
も解明出来なかった。
 ただ、間違いなく、ランゴバルドの残した痕
跡の真ん中に立っている、という実感だけは確
かなものだった。
 
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 クレモナ大聖堂
   Cremona/Duomo 

     4 Cremona (Lombardia)   

                  
   
 
 ブレーシアの南方50キロに位置する地方都
市で、ポーとアッダ両河が合流する肥沃な土地
の豊かさから、歴史的に争奪が繰り返される重
要な要衝であった。
 “ストラディヴァリウス”で知られる弦楽器
職人の町として世界的に有名である。

 旧市街のコムーネ広場
Pzza. del Comune
に面して、ファサードの素晴らしい大聖堂が建
っている。白大理石のファサードが夕日に映え
てとても美しかった。
 扉口に柱廊式小玄関が設けられており、ファ
サード中段には二層のアーケードやバラ窓が配
されている。ロマネスク末期の、断末魔とも言
えそうな派手な装飾だろう。
 創建は12世紀初めだったが、16世紀に至
るまでに様々な改造が成されてきている。
 三廊式の内陣は眩いほどのクレルモ派のフレ
スコ画(16世紀)で覆われており、内陣のロ
マネスク要素は身廊の半円アーケードに残って
いるだけのようだ。
 表へ回り、柱廊式の小玄関とバラ窓のある翼
廊と、上部に小開廊を設けた三後陣を見た。ロ
マネスクの名残だろう。   
 
 
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 カヴリアーナ聖マリア・
    デッラ・ピエーヴェ教会

  Cavriana/Chiesa di
    Santa Maria della Pieve
 

     5 Mantova (Lombardia)   

                  
   
 
 マントーヴァの西北30キロ、ヴェローナの
南西35キロという位置に在る田園地帯の鄙び
た農村である。村の中心から南東へ約1キロ行
った、やや小高い丘の上にこの教会が建ってい
た。林に囲まれた静かな場所だった。

 教会は11世紀の創建と言うのに相応しい煉
瓦造りのバシリカで、切妻式単身廊に三つの後
陣という魅力的な建築である。
 車を止めると、先ず写真の後陣と鐘塔の姿が
目に飛び込んでくる。完全な逆光だったので、
印象的だった割にはボケたような写真になって
いる。
 聖堂全体が浮彫の付け柱装飾で覆われ、聖堂
側壁には三つしか窓の無い何ともプリミティヴ
な建築であった。

 聖堂内部は、両側の壁面と木組みの天井で構
成されており、素朴な空間が和みを感じさせて
くれる。祭室には三つの壁龕が設けられ、その
まま後陣を形成している。
 身廊や祭室の壁面の、あちこちの漆喰の下か
ら、12~14世紀のフレスコ画が発見されて
いる。
 部分的なので全貌は見えないが、ロマネスク
的な聖女像なども在るので、何故もっと早く発
掘を急がないのかが疑問に感じられた。
 
 
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 ブレーシア
    聖サルヴァトーレ教会

   Brescia/Chiesa
      di San Salvatore
 

     6 Brescia (Lombardia)   

                  
   
 
 古代ローマ以来の重要な都市であった事が、
町のあちこちに残る神殿や劇場の遺跡によって
理解出来る。中世にロンバルディア都市同盟の
一員となるが、それ以前の8世紀にはランゴバ
ルド公国に編入されている。

 この教会は修道院の一部であり、現在は修道
院全体が博物館
(
Museo Santa Giulia) として
整備され公開されている。他の付属教会も、博
物館の構成に組み込まれている。

 三廊式でアーケードが側廊を区分しており、
円柱や柱頭を見ると、ローマ時代の縦縞の入っ
た円柱や色大理石が用いられている。アーチの
内側には、繊細な植物や組紐の模様が彫られて
いた。
 9世紀の建立とのことだが、8世紀ランゴバ
ルド時代の教会の上に建てられたという。
 その8世紀の遺構とも言えるクリプタが、祭
室の地下に残されている。写真はその全容であ
る。縦3列横6列の円柱の林が壮観なのだが、
どこまでが8世紀のままなのかは不明だ。
 大半が修復されたものと思えるのだが、雰囲
気がパヴィアの聖エウセビオのクリプトに似て
おり、やや細い円柱が林立する空間というのが
共通点になりそうである。天井の交差穹窿も共
通するが、こちらの方が妙に新しいのが気にか
かる。   
 
 
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 ブレーシア聖ジュリア博物館
  Brescia/
    Museo di Santa Giulia
 

            6 Brescia (Lombardia)   

                  
 
 
 博物館の所蔵品の中で、最も見たかったラン
ゴバルド時代の孔雀のレリーフである。私たち
が訪ねた時には、聖サルヴァトーレ教会の身廊
の奥の方に陳列されていた。展示方法が唐突な
ので、もしかするとレプリカだったのかもしれ
ない。それも飛び切り上質の。
 8世紀のレリーフで、祭壇前の柵に施された
彫刻の断片だろうと思われる。
 チヴィダーレなどでも見られた、精密で鮮や
かな彫りの組み合わせ模様も、ランゴバルド芸
術の特徴だろう。それにしても、この孔雀の羽
根の表現など、初期ロマネスクとは別の仕分け
をしなければならないかもしれない。
 
 
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 ブレーシア旧大聖堂
     (ロトンド)

   Brescia/Duomo Vecchio
         (Rotondo)
 

     6 Brescia (Lombardia)   

                  
 
 
 旧市街の中心に建つ大聖堂は17世紀の壮大
な建築だが、その隣にかつてドゥオモであった
円形の小規模な12世紀の聖堂が建っている。
 堂内には円形にアーケードが廻り、周歩廊が
これを囲んでいる。天井は中央が円蓋で、周歩
廊は交差穹窿だった。
 周歩廊の隅から地下へと降りる石段があり、
11世紀とされるクリプタが開放されていた。
無骨な円柱がいかにもロマネスクらしく、もっ
と古いはずのランゴバルドとの違いが奇妙に思
えたのだった。
 
 
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 カーポ・ディ・ポンテ
     
聖サルヴァトーレ教会
   Capo di Ponte/
    Chiesa di San Salvatore
 

     6 Brescia (Lombardia)   

                  
   
 
 カーポ・ディ・ポンテの北東の町外れ、少し
登った辺りにこの教会は建っている。
 広大な敷地であり、入口はどこかの邸宅のよ
うな鉄の扉が閉まっているが、インターフォン
で来意を告げると開けてくれた。
 三列の身廊に三つの祭室という単純な構造で
あり、四本づつ二列の柱が並んでいる。写真は
左の列柱と、祭室である。中央の四本の柱に囲
まれた天井は、八角形の鐘塔となるドームにな
っている。
 八個の柱頭には各々秀逸な彫りの彫刻が施さ
れており、堂内の苔むした雰囲気と共に、素晴
らしいロマネスクの空間を創出していた。
 股を広げた人魚像、尻尾の絡み合った鳥の様
な動物、植物の蔓に絡まった人物や怪獣など、
意味は不明だが最もロマネスク的なモチーフば
かりである。
 入口のファサードにも注目すべき彫刻やレリ
ーフがあり、さらに境内のテラスからは、カー
ポの町と
S.Siro di Cemmo チェンモの聖シロ
教会の一部が遠望できた。
 峻険な岩山が背景となり見事な眺めだった。
この教会も訪ねるべき遺構で、特に後陣の景色
が美しい。
 
 
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 チェンモ聖シーロ教会
  Cemmo/Chiesa di San Siro 

     6 Brescia (Lombardia)   

                  
   
 
 前述のカーポ・ディ・ポンテの町を流れるオ
リオ川の対岸は急峻な崖地になっており、その
岩場の上にこの教会が建っている。川に沿った
町側の道路から、山を背にした教会の後陣や鐘
塔の全貌を眺めることが出来る。しかし残念な
がら、その前面に大きな鉄塔が数本建ち、高圧
線が景色を寸断していて絵にならなかった。
 教会へは町の中心から大きく迂回をして、背
後から登っていくことになる。駐車場からしば
らく歩かねばならない。
 聖堂は崖地の条件に合わせたのか、15m四
方の小さな建築である。それでも、身廊に両側
廊の付いた三廊式で、三つの見事な後陣が設け
られ、その下部が崖を掘り下げたクリプトとな
っている。11世紀の落ち着いた建築である。
 写真は、唯一の入口である南門で、タンパン
彫刻などで飾られた美しい扉口である。タンパ
ンには格別の主題があるのではなく、動物や植
物が複雑に絡み合った図案が中心である。柱頭
やヴシュールや円柱も、同様の連続模様で統一
されていた。
 半円アーチと天井の交差穹窿で構成された内
部は、狭いけれどもロマネスク建築の質実剛健
な純粋さが凝縮しているように見えた。
 
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 シルミオーネ聖ピエトロ・
      イン・マヴィーノ教会

   Sirmione/Chiesa
    di San Pietro in Mavino
 

     6 Brescia (Lombardia)   

                  
   
 
 地図を見ていて、思わず行きたくなってしま
う場所というのがある。ガルダ湖の南側に、盲
腸のように突き出した半島があり、かねてより
行ってみたいと思っていたのである。
 夏のバカンス渋滞が予想されたが、ヴェロー
ナ滞在中に“ままよ”と出かけて行った。駐車
に少し苦労したが、何とか城門手前まで行き、
後は歩いて半島の先端に建つ教会まで行くこと
が出来たのだった。

 8世紀に創建された古刹で、11~14世紀
あたりに改築されているようだ。
 切妻式の簡素なファサードには半円アーチ窓
が三つ開いており、扉口は新しいものだった。
 単身廊の聖堂は木造の天井で、祭室には三つ
の壁龕祭壇が設けられている。単純な壁をただ
刳り抜いたような後陣で、この何とも粗末なス
タイルの信仰が千数百年も続いてきたことにむ
しろ驚きを感じていた。
 祭室や身廊の壁にフレスコ画の断片がが残っ
ている。聖人の像が主体だが、古いものは13
世紀まで遡れるという。かなり色褪せているの
だが、その方がもっともらしいのである。
 写真は背後からのもので、12世紀に建立さ
れた鐘塔と、8世紀そのものと言えそうな後陣
の北側半分である。
 
 
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 モンティキアーリ
     
聖パンクラツィオ教会
   Montichiari/
    Chiesa di San Pancrazio
 

     6 Brescia (Lombardia)   

                  
   
 
 ブレーシアの東南27キロにある田園都市で
ある。村外れの緑に囲まれた小高い丘の上に、
塔のある聖堂が建っているのが確認できた。

 聖堂は12世紀の建築で、外観からも四つの
ベイ(梁間)を擁したバシリカであることが判
る。聖堂の東西は40mはあるだろう。
 西のファサードは中央に単純なアーチ門の扉
口があり、上部に三連窓が付けられただけの素
朴な意匠だった。

 写真は三廊式の身廊部分で、横断アーチで仕
切られた中に二連づつのアーケードが並んでい
る。中間の柱は円柱で、固いイメージの構造空
間に和らぎをもたらしている。
 イタリアの伝統的なバシリカの天井は木造な
のだが、天井まで石で覆うことを考えたフラン
スとは違った方向性が見えてくる。
 側廊の天井も木造だった。

 祭室部分は中央に数段の石段を設け、やや高
くなっている。フレスコ画は後世のものだ。
 半年形の後陣は側廊部分にも付けられている
ので、背後から見ると三後陣なのだが、何故か
北側の後陣に接するように鐘塔が建てられてい
る。何らかの改築があったのだろう。
 
 
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 アルメンノ・サン・サルヴァトーレ
        /
聖トメ教会
   Almenno San Salvatore/
       Chiesa di San Tomé
 

     7 Bergamo (Lombardia)   

                  
  
 
 マントーヴァ Mantova に 在る聖ロレンツ
ォ教会や、ブレシアの大聖堂に見られるものと
よく似た円形聖堂
Rotonda が、ここアルメ
ンノの町外れ、トウモロコシの実る畑の先に建
っていた。
 扉口と小さな窓以外何も無い石の壁、ロンバ
ルディア帯装飾のみという、素朴で純粋なロマ
ネスク建築である。
 平面が前方後円墳の様に後方に祭室が飛び出
しており、内部は八本の柱が円形に並んで、外
壁との間に円形の周歩廊を造っている。階上は
トリビューンの様な二層構造になっており、同
じ位置に少し細い柱が有り、半円アーチが天井
を支えている。内部の照明効果が巧妙なので、
円形に連なる柱がくっきりと浮き上がり、立体
的な迫力が生まれている。
 柱頭に彫られた彫刻も、横からの光に陰影を
際立たせており、ノミ跡も鋭く劇的である。股
を開き両足を持つ奴や、両手を後ろに高く掲げ
た奴、舌をペロリと出して笑う奴など、ロマネ
スクという属種の奇妙な人物や動物で、柱頭は
すっかり埋め尽くされている。
 
 
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 ボナーテ・ソット
     聖ジューリア聖堂

   Bonate Sotto/
     Basilica di San Giulia
 

     7 Bergamo (Lombardia)   

                  
 
 
 ベルガモの西10キロにある小さな町で、ガ
イドブックなどには全く載っていないが、ロマ
ネスクの分野では知られた存在である。
 町の外れの広大な墓地の一画に残された、教
会の遺構である。コルシカの聖ジューリアに捧
げられた、12世紀建造の聖堂とされる。
 五つのベイを持つ三廊式バシリカだったが、
現在は東側の祭室部分だけが残されている。身
廊部分は塀に囲まれて残っているが、現在は墓
地となっている。
 写真は三後陣で、付け柱にロンバルディア帯
彫刻、小さな窓など、ロマネスク後陣のお手本
の様だ。窓の縁飾りや祭室の柱頭彫刻の質の高
さから、失われた聖堂の姿が少し見えた様な気
がしていた。
 
 
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 リヴォルタ・ダッダ聖マリア
      聖シジスモンド聖堂

  Rivolta d'Adda/Basilica di  
     Santa Maria e 
      San Sigismondo
 

     7 Bergamo (Lombardia)   

                  
   
 
 ベルガモとミラノの間を流れるダッダ川は、
右岸が前述のヴァプリオの在るミラノ県、左岸
がこのリヴォルタの在るベルガモ県の県境とな
る。ミラノからたった25キロの場所に、かく
も見応えのある教会があろうとは全く知らなか
った。

 町の中央広場に入ると、聖堂の後陣と鐘塔が
目の前にいきなり現れる。煉瓦造りの建築で、
特に後陣は上層にロンバルディア帯と開廊アー
ケードを備えた荘重な建築である。
 こいつは“モノ”が違うな、という予感が嬉
しい。
  
 西正面には三つの扉口が設けられており、そ
れぞれにタンパンが見られる。タンパンに彫刻
は無いが、アーチの縁やマグサ石部分には精巧
な植物模様やレリーフなどが彫られている。
 内部は予想外に色彩の豊富な装飾が施されて
いたが、三廊式に二つのベイ、交差リブ穹窿の
天井など重厚な構成になっている。側廊は交差
穹窿、祭室は円筒ヴォールトであった。
 最も注目すべきは身廊の柱頭彫刻で、写真は
その内の一基である。何ともユーモラスなモチ
ーフだが、他にも股を広げた人魚、怪物のよう
な馬や鳥などで溢れており、さながら正体不明
の動物園である。
 ロマネスク教会に彫りつけられた奇妙な図像
の謎、ミステリーのままの方が夢が膨らんで良
いかもしれない。
 
 
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 チヴァーテ聖ピエトロ・
    アル・モンテ聖堂

  Civate/Basilica di
     San Pietro al Monte
 

     9 Lecco (Lombardia)   

                  
      
 
 「人」の形をしたコモ湖の左先端にあるのが
コモの町で、反対側の右先端がレッコ
Lecco
の町である。コモとレッコの間にチヴァーテの
町が有り、聖堂へは町の外れから山道を徒歩で
約2時間登らねばならなかった。
 聖堂内部の見学は予約が必要なので、司祭に
直接電話で申し込んであった。
 近年道は整備されたらしいが、それでもかな
りの急勾配で、聖堂にたどり着いた時の感激は
格別のものであった。
 写真は、聖堂から振り返った聖ベネデット祈
祷堂
Oratorio di S.Benedetto である。聖堂
はいずれも11~12世紀の、簡素だが美しい
建築だ。
 聖堂内部の左壁に描かれたフレスコ画が一番
の目的で、「龍と戦う天使像」や「天国へ続く
四本の河」のほかにも多くの聖人像などを見る
ことが出来た。
 いずれも品格に満ちた端正な図像ばかりであ
ったが、写真撮影は厳禁との事で涙をのんだ。
 残念だが、クリプタは閉鎖されていた。 
 

     
      
 ピオナ聖ニコロ大修道院
  Piona/Abbazia di San Nicolo 

     9 Lecco (Lombardia)   

                  
 
 
 「人」の字の形をしたコモ湖の左下 (南西)
端に在るコモの町から湖畔を時計の針方向に進
み、上北端近くに後述の
Gravedona の町が
在る。
 ピオナの修道院はそこから上端を回り込み、
少し南へ下ったあたりに建っている。
 オルジアスカ
Olgiasca の村からコモ湖に
突き出した小さな半島があり、修道院はその先
端の美しい風光の中に位置している。
 教会は11世紀の創建で、窓の少ない単身廊
の素朴な建築だった。特に後陣や外壁面は、ロ
ンバルディア帯と盲アーケードだけが飾りの大
層質素なものであった。
 写真は隣接する回廊で、こちらは赤煉瓦が中
心となっているので、パッと明るい感じが対照
的だった。ロマネスク後期の建築であり、やや
ゴシック的な要素が入っている様に感じられた
が、とても爽快感に満ちた美しい回廊だった。
 
 
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 コモ聖アッボンディオ聖堂
  Como/Basilica
       di Sant'Abbondio
 

     10 Como (Lombardia)   

                  
   
 
 コモ湖は湖水地方を代表する美しい湖で、そ
の先端に位置するコモの町は現在では著名な別
荘地となっている。郊外のアウトレットを訪れ
る人が多い、とも聞いた。
 忘れてならないのは、石工として建築家とし
て7世紀からその存在が知られ、ロンバルディ
ア様式を全ヨーロッパに伝播した“コモの石工
集団
Maestri Comacini”と呼ばれる技術者た
ちは、ここが出身地であったことである。
 町ではルネサンス期の大聖堂と、二つのロマ
ネスク教会を見逃してはならない。
 サン・タッボンディオ聖堂は11世紀末の献
堂で、町外れに建っており、優雅なロンバルデ
ィア様式のファサードが印象的だった。
 二本の鐘塔や後陣の姿は質実剛健であり、身
廊は片側二廊づつの側廊を擁した堂々たる五廊
式となっている。この規模の聖堂では珍しい。
 写真は身廊中央から祭室を眺めたもので、正
面のフレスコ画は14世紀のものである。
 余り飾り気の無い太い円柱の列が、かえって
力強い造形美を示しているように見える。装飾
という発想そのものが軟弱なのだ、とでも言う
かのように。
 
 

     
      
 コモ聖フェデーレ教会
  Como/Chiesa di San Fedele 

     10 Como (Lombardia)   

                  
   
 
 コモのもう一つのロマネスク教会は、町の賑
やかな中心部に位置している。
 教会の創建は12世紀とのことで、正面ファ
サードなどはロンバルディア様式である。
 平面プランは特殊で、三廊式バシリカ形式で
袖廊部分の南北両先端が、ビザンツのように円
形となっているのである。また、その更に外側
に袖廊を囲むようにして側廊が巡っているので
ある。
 つまり、単身廊十字形の聖堂の外側の、正面
・後陣以外の部分を全て側廊で覆った形となっ
ているのである。
 聖堂の内部は後世の改修がかなり行われた様
で、ルネサンスやバロックの影響が顕著だ。後
陣部分の連続アーケードなどは創建当初のもの
だろう。
 写真は、後陣に開かれている東門を出たとこ
ろの、壁面に彫られた妙な浮彫である。
 主題は、獅子の穴の中のダニエルである。右
側の獅子の像のほかに、天使に導かれるハバク
クの姿が上部に彫られている。ダニエルに食物
を運ぶハバククは聖餐の象徴とも、処女懐胎の
聖母とも見なされた。いかにもロマネスク的な
謎めいた雰囲気がとても楽しい彫刻である。
 
 
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 グラヴェドーナ聖マリア・
    デル・ティリオ教会

  Gravedona/Chiesa
   di Santa Maria del Tiglio
 

     10 Como (Lombardia)   

                  
   
 
 この写真からは判らぬが、聖堂の平面はほぼ
正方形で、三方に半円形の祭室が飛び出してい
る。鐘塔の下が正面ファサードで、入口になっ
ているのである。
 5世紀の洗礼堂が、12世紀にロンバルディ
ア様式に改修された、ということは平面プラン
からも容易に想像出来そうである。初期キリス
ト教建築的でもあり、ビザンチン風でもある。
 内陣に柱は無く、南北の面にはトリビューン
のような階上連続アーケードが設けられ、美し
い配色が考慮された石使いとのハーモニーが素
晴らしく、聖堂の真ん中に立っていると、建築
が奏でるメロディーが聞こえて来るような錯覚
を感じるほどだった。
 コモ湖に面して建つこの聖堂は、アルプスを
背景として絶好の景観を創り出している。写真
は湖畔側から後陣と南壁を眺めたものである。
 コモの町からこの地へと至る湖畔の街道筋に
は、
Lenno, Spurano など小さなロマネスク
教会が多数点在しているのだが、時間の関係も
有って今回は立ち寄ることが出来なかった。
 
 
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 ガッリアーノ
    聖ヴィンチェンツォ聖堂

   Galliano/
    Basilica di San Vincenzo
 

     10 Como (Lombardia)   

                  
   
 
 ロンバルディアのミラノ北部一帯には、独立
した洗礼堂を伽藍の中に有する一連の教会が点
在している。先述のアリアーテと共に、このガ
ッリアーノにも聖堂と並んで、聖ジョヴァンニ
という洗礼堂が建っている。
 洗礼堂はロンバルディアでは最古の部類に入
る10世紀以前のものらしいのだが、壁面が崩
落するなどかなり荒廃していた。
 聖堂は元来は左右に側廊を擁した三廊式であ
ったのだが、現在は南側の側廊は失われてしま
っている。
 祭室のドームや周囲の壁面が、鮮やかな色を
残したフレスコ画で飾られている。11世紀の
ものと伝えられているが、近年修復が行われた
ということである。
 写真はその一部で、預言者エレミヤを描いた
ものである。左上にその名が書かれている。エ
ルサレムの滅亡を説いた受難の予言者として描
かれるのが通常だが、この絵が何を表現してい
るのかは判然としない。
 しかし、生き生きとした表現は卓越した存在
で、この地方を代表する作品だろうと思う。
 
 
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 アルサゴ・セプリオ
     聖ヴィットーレ聖堂

   Arsago Seprio/
     Basilica di San Vittore
 

     11 Varese (Lombardia)   

                  
   
 
 ミラノ・マルペンサ空港の北側に位置する小
さな集落で、一目でこれは古いと感じられる聖
堂と八角形の洗礼堂が建っている。
 聖堂は三廊式のバシリカで、三つの後陣を持
っており、鐘塔が北側の側廊に隣接している。
 9世紀から12世紀にかけて築造され、かな
り古色蒼然とした外観である。
 身廊と側廊を仕切るアーケードに、太い角柱
と細い円柱とが交互に使われているのは、プリ
ミティヴながらも優れた意匠である。円柱にの
み柱頭が置かれている。変化をつける意味で面
白い。
 よく見ると、ローマ時代の遺跡から運んでき
たような彫刻が転用されている。
 外観に比べて、妙に聖堂内がさっぱりとした
印象を受けるのは、壁面に漆喰が塗られていて
石の質感が無いからだろう。おまけに、バロッ
ク風の祭壇が据えられているので、ちぐはぐな
感が拭えないのも致し方無いところである。
 西正面に建つ洗礼堂は、もっと古そうに見え
たのだが、12世紀中頃の建築だそうだ。
 円形ドームの下に、トリビューンのような列
柱アーケードが八角形に造られており、この部
分だけはアルメンノのサン・トメに似ている。
 
 
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