北イタリアロマネスク
  
           ピエモンテ・ロンバルディア・ヴェネト地方など
              
Piemonte
/ Lombardia / Veneto
   

   北イタリアといっても厳密な区
  画が有る訳ではないのだが、凡そ
  ジェノヴァとヴェネツィアを結ん
  だ線より北といった程度と御理解
  頂きたい。
   この地方のロマネスク教会を歩
  くと、一般的なイタリアの風景と
  はかなり異なった、まったく別の
  姿が見えてきて大変に面白い。イ
  タリアといえば、古代ローマの遺
  跡とルネサンスの美術のイメージ
  が余りにも強いからかもしれない。
   また同じイタリアのロマネスク
  でも、地方によって異なったスタ
  イルを見せる建築や彫刻や壁画の
  魅力は格別である。



  
北イタリアの州と州都

   
1 Liguria (Genova)
   
2 Piemonte (Torino)
   
3 Valle d'Aosta (Aosta)
   
4 Lombardia (Milano)
   
5 Trentino Alto Adige (Trento)
   
6 Veneto (Venezia)
   
7 Friuli Venezia Giulia (Trieste)

          
     

        
                         
     サクラ・ディ・サン・ミケーレ大修道院付属教会
       Abbazia di Sacra di San Michele/Chiesa

                          Piemonte

               
   ピエモンテ州スーザの谷の入口に
  聳えるこの山と修道院は、聖ミケー
  レという名前からも、フランスのモ
  ン・サン・ミッシェルが連想される。
  同一人による建築説もあるらしい。
   車で七合目まで登り、残りを歩か
  ねばならないが、周囲のアルプスの
  景観を楽しんでいれば苦も無く着く。
   崖にへばりついたような急な石段
  を登るとゾディアコ門に出る。天国
  への階段という俗称がついているら
  しいが、天国へは容易にたどり着け
  ない。
   美しいレリーフ彫刻や柱頭に飾ら
  れた見事な門である。
  聖堂はゴシック様式も混在しており、
  想像より遥かに軽やかな内陣であっ
  た。
   地下の祭室には、かなり古いプレ
  ・ロマネスクのプリミティブな石積
  みの壁が見られた。
   テラスからのアルプス及びスーザ
  の谷の眺望は、それだけのためにで
  も登ってくる価値がある。 
    

    
   
     コルタッツォーネ聖セコンド教会
       Cortazzone/Chiesa di San Secondo

                       Piemonte

                 
   ピエモンテのワイン産地として名
  高いモンフェラート
(Monferrato)
  丘は、アスティの町の北に広がり葡
  萄畑に覆われている。
   この教会はオレッジオの聖堂に似
  た建築であり、三列の身廊を区切る
  豪快なアーチと、太い柱に大きな柱
  頭が特徴である。
   特に柱頭の彫刻は八本の柱すべて
  に、興味深い図像が刻まれている。
   写真の柱頭には、魚・馬・人面な
  どが彫られており、隣には股を広げ
  た人魚像が描かれている。丸で判じ
  物みたいで、意味はさっぱり判らな
  い。判らないが面白い。
   他にも、鳩や兎や双頭の動物など
  が見られ、不思議な動物園を覗いて
  いるような気分になる。
   小さな聖堂だが、どっしりとした
  柱頭彫刻が、ロマネスクを旅する者
  に限り無い夢を提供してくれている。
    

   
   
     ヴェッツォラーノ聖マリア教会
       Vezzolano/Chiesa di Santa Maria

                          Piemonte

                 
   美しいモンフェラートの丘を更に北
  へと進むと、緑に満ち溢れた谷間にこ
  の赤い屋根の修道院が見えてくる。
   教会は13世紀の建築で、ファサー
  ドには盲アーケードと三段に分けられ
  た列柱や、大小の聖人像が飾られてい
  る。タンパンには、中央に玉座の聖母
  像が、両側に聖人像が彫られている。
   聖堂内部の天井は尖頭形アーチの交
  差穹窿で、ロマネスク後期からゴシッ
  ク初期にかけての様式である。梁や祭
  室半ドームのツートーンが、ノルマン
  的なイメージを作っている。
   身廊に造られた仕切りアーケードは
  12世紀のもので、聖母の生涯や旧約
  の族長の姿が彫られている。
   右側の側廊が無く、そのまま回廊の
  壁となっているのが珍しい。
   後陣の窓柱両側に、聖母マリアと大
  天使ガブリエルが彫られている。受胎
  告知の場面であろう。
   精神の洗われる、清冽な印象の教会
  だった。
   

   
   
     オルタ・サン・ジュリオ聖ジュリオ聖堂
       Orta San Giulio/Basilica di San Giulio

                          Piemonte

                 
   マジョーレ湖のすぐ西にサン・ジュ
  リオ湖が在り、聖堂は沖に浮かぶサン
  ・ジュリオ島に建っている。島へはオ
  ルタからの渡し舟に乗って行くことに
  なる。
   オルタまで来る途中の峠から眺めた
  湖と島全体の景色は、正に聖地に相応
  しい絶景であった。
   写真は船が島に近づいた場面で、島
  最古の建築である11世紀の鐘楼が水
  面に映えて美しかった。
   聖堂や建築が接近しているので、桟
  橋から迷路を歩けば、知らぬ間に聖堂
  へと入っていく感じである。
   建築は三廊式十字形で、後陣が三つ
  付いており、片側四本づつの柱で側廊
  を仕切っている小規模な教会である。
  12世紀の建築だが、かなり修復はさ
  れているようだ。
   ロマネスク期の説教壇が在り、彫刻
  によって装飾された見事な作品だった。  
    

           
                             
     オレッジオ聖ミケーレ教会
       Oleggio/Chiesa di San Michele

                         Piemonte

                 
   オレッジオは、ピエモンテ州ノヴァラ
  
Novara の町の北に在る小さな町である。
   この教会は町の西端に有る、広い墓地
  の中に建っている。
   聖堂は窓の無いバジリカ形式で、赤煉
  瓦の構造体と石の壁とで成り立っており、
  ロンバルディア帯や盲アーチの装飾も見
  られる。
   聖堂内部の壁に描かれたフレスコ画は、
  近年修復を一通り終えたばかりだという。
  修復の痕跡を詳細に見たが、かなり剥落
  と褪色が激しかったようで、その緻密で
  原形に忠実な修復方法には感服した。
   祭室のドームには栄光のキリスト像が
  描かれているが、ルネサンス以降にかな
  り改修された痕跡が見られるのは残念だ
  った。ただ、キリスト像の周囲に描かれ
  た天使の群像は、間違い無くロマネスク
  期のものと思われた。
   簡単に筆を加えられる壁画の保存の困
  難さ故に、様々な時代が混在してしまう
  という難解な修復の問題をしみじみと感
  じさせられてしまった。
   簡素な柱と天井だけで、全く装飾の無
  いクリプトの造形も見応えがあった。 
    

   
  
     アオスタ聖オルソ参事会教会
       Aosta/Collegiata di Sant'Orso

                         
Valle d'Aosta
    
   モンテ・ビアンコ(モン・ブラン)やチェルヴィ
  ーノ(マッター・ホルン)、モンテ・ローザなどと
  いった秀峰の連なるアルプスの麓、アオスタ谷の中
  心都市である。
   アオスタの先、クールマイユール
(Courmayeur)
  からモンブラン・トンネルを抜ければ、もうそこは
  フランスのシャモニーなのである。
   ローマ皇帝アウグストゥスの凱旋門が残るほど古
  い歴史を持つ町であり、小サン・ベルナール峠を通
  じてプロヴァンスと結ばれていた。
   東端に在るアウグストゥス凱旋門に近いこの参事
  会教会の外観は、アルプスの山々を背景にして建つ
  鐘塔が美しい。
   私達は11世紀のクリプトを参拝してから、12
  世紀の回廊へと入った。構造は後世の修復によるも
  のらしいが、柱頭彫刻は創建当初のものである。ヤ
  コブに関する逸話を主題にしたものが多く、エジプ
  ト逃避やラザロの蘇生などの定番も見える。いずれ
  も、心なしかプロヴァンスのサン・ジルや、サン・
  トロフィウムに似ているような気がする。
   身廊屋根裏のフレスコ画を見損なったのは生涯の
  不覚で、再度のアオスタ訪問が確定してしまった。
    

   
   
     ミラノ聖アンブロジオ聖堂
       Milano
/Basilica di Sant'Ambrogio

                         
Lombardia

            
   ミラノを訪れたことのある人は多いが、ロンバルデ
  ィアを代表するロマネスク聖堂であるこの教会を知る
  人は案外少ない。有名なドゥオモの西1キロ足らずの、
  静かな一画である。
   聖堂を挟んで二つの塔が建っているが、写真は左の
  鐘塔で12世紀建造であり、右の塔は9世紀らしい。
   回廊のように見える部分は、聖堂の前庭でアトリウ
  ム
Atrio と呼ばれ、荘厳なアーチの柱廊に囲まれてい
  て大変美しい。
   柱頭には、怪奇な架空の動物や植物模様が精緻に彫
  られており、その一つ一つを丹念に見て歩くのは実に
  楽しい。
   赤煉瓦を積んだ建築様式は、ロンバルディアの他の
  教会にも数多く見られ、オリエントやビザンチンから
  の影響だろうと思う。
   聖堂のファサードはロンバルディア様式の典型で、
  後年やや様式化しすぎてしまった傾向があるが、ここ
  はその原形となったかもしれない。
   聖堂内部では、4世紀の石棺を組み合わせて12世
  紀に作られた説教台と、9世紀カロリンガ朝時代の祭
  壇布は見逃せない。
    

  
   
     アルサゴ・セプリオ聖ヴィットーレ聖堂
       Arsago Seprio/Basilica di San Vittore

                         Lombardia

                 
   ミラノ・マルペンサ空港の北側に位置する小さ
  な集落で、一目でこれは古いと感じられる聖堂と
  八角形の洗礼堂が建っている。
   聖堂は三廊式のバシリカで、三つの後陣を持っ
  ており、鐘塔が北側の側廊に隣接している。
   9世紀から12世紀にかけて築造されたもので、
  かなり古色蒼然とした外観である。
   身廊と側廊を仕切るアーケードに、太い角柱と
  細い円柱とが交互に使われているのは、プリミテ
  ィヴながらも優れた意匠である。円柱にのみ柱頭
  が置かれているのも、変化をつける意味で面白い。
   よく見ると、ローマ時代の遺跡から運んできた
  ような彫刻が転用されている。
   外観に比べて、妙に聖堂内がさっぱりとした印
  象を受けるのは、壁面に漆喰が塗られていて石の
  質感が無いからだろう。おまけに、バロック風の
  祭壇が据えられているので、ちぐはぐな感が拭え
  ないのも致し方無いところである。
   西正面に建つ洗礼堂は、もっと古そうに見えた
  のだが、12世紀中頃の建築だそうだ。
   円形ドームの下に、トリビューンのような列柱
  アーケードが八角形に造られており、この部分だ
  けはアルメンノのサン・トメに似ている。
    

                   
                   
     チヴァーテ聖ピエトロ・アル・モンテ聖堂
       Civate/Basilica di San Pietro al Monte

                         Lombardia

                 
   「人」の形をしたコモ湖の左先端がコ
  モ
(Como) の町で、反対側の右先端がレ
  ッコ
(Lecco)の町である。コモとレッコ
  の間にチヴァーテの町が有り、聖堂へは
  町の外れから山道を徒歩で約2時間登ら
  ねばならなかった。
   聖堂内部の見学は予約が必要なので、
  司祭に直接電話で申し込んであった。
   近年道は整備されたらしいが、それで
  もかなりの急勾配で、聖堂にたどり着い
  た時の感激は格別のものであった。
   写真は、聖堂から振り返った聖ベネデ
  ット祈祷堂
(Oratorio di S.Benedetto)
  ある。いずれも11〜12世紀の、簡素
  だが美しい建築だ。
   聖堂の左壁に描かれたフレスコ画が一
  番の目的で、「龍と戦う天使像」や「天
  国へ続く四本の河」のほかにも多くの聖
  人像などを見ることが出来た。
   いずれも品格に満ちた端正な図像ばか
  りであったが、写真撮影は厳禁とのこと
  で涙をのんだ。 
    

                     
                    
     コモ聖アッボンディオ聖堂
       Como/Basilica di Sant'Abbondio

                         Lombardia

                 
   コモ湖は湖水地方を代表する美しい湖で、その
  先端に位置するコモの町は現在では著名な別荘地
  となっている。郊外のアウトレットを訪れる人が
  多い、とも聞いた。
   忘れてならないのは、石工として建築家として
  7世紀からその存在が知られ、ロンバルディア様
  式を全ヨーロッパに伝播した
Maestri Comacini
  と呼ばれる“コモの石工集団”はここが出身地で
  あったことである。
   町ではルネサンス期の大聖堂と、二つのロマネ
  スク教会を見逃してはならない。
   サン・タッボンディオ聖堂は11世紀末の献堂
  で、町外れに建っており、優雅なロンバルディア
  様式のファサードが印象的だった。
   二本の鐘塔や後陣の姿は質実剛健であり、身廊
  は片側二廊づつの側廊を擁した、堂々たる五廊式
  となっている。この規模の聖堂では珍しいだろう。
   写真は身廊中央から祭室を眺めたもので、正面
  のフレスコ画は14世紀のものである。
   余り飾り気の無い太い円柱の列が、かえって力
  強い造形美を示しているように見える。装飾とい
  う発想そのものが軟弱なのだ、とでも言うかのよ
  うに。
    

                     
    
     コモ聖フェデーレ教会
       Como/Chiesa di San Fedele

                         Lombardia

                 
   コモのもう一つのロマネスク教会は、町の賑やか
  な中心部に位置している。
   教会の創建は12世紀とのことで、正面ファサー
  ドなどはロンバルディア様式である。
   平面プランは特殊で、三廊式バシリカ形式で袖廊
  部分の南北両先端が、ビザンツのように円形となっ
  ているのである。また、その更に外側に袖廊を囲む
  ようにして側廊が巡っているのである。
   つまり、単身廊十字形の聖堂の外側の、正面・後
  陣以外の部分を全て側廊で覆った形となっているの
  である。
   聖堂内部は後世の改修がかなり行われたようで、
  ルネサンスやバロックの影響が顕著である。後陣部
  分の連続アーケードなどは創建当初のものだろう。
   写真は、後陣に開かれた東門を出たところの、壁
  面に彫られた妙な浮彫である。
   主題は、獅子の穴の中のダニエルである。右側の
  獅子の像のほかに、天使に導かれるハバククの姿が
  上部に彫られている。ダニエルに食物を運ぶハバク
  クは聖餐の象徴とも、処女懐胎の聖母とも見なされ
  た。いかにもロマネスク的な、謎めいた雰囲気がと
  ても楽しい彫刻である。
    

                     
    
     グラヴェドーナ聖マリア・デル・ティリオ教会
       Gravedona/Chiesa di Santa Maria del Tiglio

                         Lombardia

                 
   この写真からは判らぬが、聖堂の平面はほぼ正
  方形で、三方に半円形の祭室が飛び出している。
  鐘塔の下が正面ファサードで、入口になっている
  のである。
   5世紀の洗礼堂が、12世紀にロンバルディア
  様式に改修された、ということは平面プランから
  も容易に想像出来そうである。初期キリスト教建
  築的でもあり、ビザンチン風でもある。
   内陣に柱は無く、南北の面にはトリビューンの
  ような階上連続アーケードが設けられており、美
  しい配色が考慮された石使いとのハーモニーが素
  晴らしく、聖堂の真ん中に立っていると、建築が
  奏でるメロディーが聞こえて来るような錯覚を感
  じるほどだった。
   コモ湖に面して建つこの聖堂は、アルプスを背
  景として絶好の景観を創り出している。写真は湖
  畔側から、後陣と南壁を眺めたものである。
   コモの町からこの地へ至る湖畔筋には、
Lenno,
  
Spurano など小さなロマネスク教会が多数点在
  しているのだが、時間の関係も有って今回は立ち
  寄ることが出来なかった。
    

                     
    
     ピオナ聖ニコロ大修道院
       Piona/Abbazia di San Nicolo

                         Lombardia

                 
   「人」の字の形をしたコモ湖の左下
  (南西)端に在るコモの町から、湖畔を
  時計の針方向に進み、上(北)端近くに
  前述の
Gravedona の町が在る。
   ピオナの修道院はそこから上端を回
  りこんで、少し南へ下ったあたりに建
  っている。
   オルジアスカ
(Olgiasca) の村から
  コモ湖に突き出した小さな半島があり、
  修道院はその先端の美しい風光の中に
  位置している。
   教会は11世紀の創建で、窓の少な
  い単身廊の素朴な建築だった。特に後
  陣や外壁面は、ロンバルディア帯と盲
  アーケードだけが飾りの大層質素なも
  のであった。
   写真は隣接する回廊で、こちらは赤
  煉瓦が中心となっているので、パッと
  明るい感じが対照的だった。ロマネス
  ク後期の建築であり、ややゴシック的
  な要素が入っているように感じられた
  が、とても爽快感に満ちた美しい回廊
  だった。
    

   
                                                 
     アルメンノ・サン・サルヴァトーレ聖トメ教会
       Almenno San Salvatore/Chiesa di San Tomé

                         Lombardia

                 
   マントーヴァ(Mantova)に在る聖ロレンツォ教
  会や、ブレシア
(Brescia)の大聖堂に見られるも
  のとよく似た円形聖堂
(Rotonda)が、ここアルメ
  ンノの町外れ、トウモロコシの実る畑の先に建っ
  ていた。
   扉口と小さな窓以外何も無い石の壁、ロンバル
  ディア帯装飾のみという、素朴で純粋なロマネス
  ク建築である。
   平面が前方後円墳の様に後方に祭室が飛び出し
  ており、内部は八本の柱が円形に並んで、外壁と
  の間に円形の周歩廊を造っている。階上はトリビ
  ューンの様な二層構造になっており、同じ位置に
  少し細い柱が有り、半円アーチが天井を支えてい
  る。内部の照明効果が巧妙なので、円形に連なる
  柱がくっきりと浮き上がり、立体的な迫力が生ま
  れている。
   柱頭に彫られた彫刻も、横からの光に陰影を際
  立たせており、ノミ跡も鋭く劇的ですらある。股
  を開き両足を持つ奴や、両手を後ろに高く掲げた
  奴、舌をペロリと出して笑う奴など、ロマネスク
  という属種の奇妙な人物や動物で、柱頭はすっか
  り埋め尽くされている。
    

                     
    
     アリアーテ聖ピエトロ・聖パオロ聖堂
       Agliate/Basilica dei Santissima Pietro e Paolo

                         Lombardia

                 
   写真は聖堂を南側から眺めたもので、
  手前に独立して建っているのは洗礼堂
  である。写真には写っていないが、聖
  堂の左(西)側に鐘塔が建っており、右
  側が後陣となっている。
   壁面の石が露出しているので、伽藍
  全体が古色蒼然とした雰囲気に満ちて
  いて、ロマネスクを旅する者にとって
  はまことに好ましい佇まいであった。
   聖堂は三廊式バジリカ形式で、ビザ
  ンチン式の柱頭の無いアーケードがよ
  り素朴な建築を演出しているようだ。
   半地下のクリプタは、かなり修復さ
  れているようだったが、プリミティヴ
  な植物模様の柱頭が光線の中に浮き上
  がって見えた。
   洗礼堂は変則八角形で、右側の長い
  一辺に半円形の祭室が飛び出している。
  入口は左側に有ったのだが、扉が閉ま
  って中へは入れなかった。
   聖堂の周囲を歩くだけでも、10世
  紀後半とされる古い建築が醸し出す独
  特のオーラを感じ取ることが出来る。
    

                    
    
     ガッリアーノ聖ヴィンチェンツォ聖堂
       Galliano/Basilica di San Vincenzo

                         Lombardia

                 
   ロンバルディアのミラノ北部一帯には、独立し
  た洗礼堂を伽藍の中に有する一連の教会が点在し
  ている。先述のアリアーテと共に、このガッリア
  ーノにも聖堂と並んで、聖ジョヴァンニという洗
  礼堂が建っている。
   洗礼堂はロンバルディアでは最古の部類に入る
  10世紀以前のものらしいのだが、壁面が崩落す
  るなどかなり荒廃していた。
   聖堂は元来は左右に側廊を擁した三廊式であっ
  たのだが、現在は南側の側廊は失われてしまって
  いる。
   祭室のドームや周囲の壁面が、鮮やかな色を残
  したフレスコ画で飾られている。11世紀のもの
  と伝えられているが、近年修復が行われたという
  ことである。
   写真はその一部で、預言者エレミヤを描いたも
  のである。左上にその名が書かれている。エルサ
  レムの滅亡を説いた受難の予言者として描かれる
  のが通常だが、この絵が何を表現しているのかは
  判然としない。
   しかし、生き生きとした表現は卓越しており、
  この地方を代表する作品だろうと思う。
   
   

   
   
     パヴィア聖ミケーレ教会
       Pavia/Chiesa di San Michele

                          Lombardia

                              
                 
   観光的に有名なパヴィアの僧院は
  チェルトーザ・ディ・パヴィアと呼
  ばれ、パヴィアの町北郊外に在りロ
  マネスクではない。
   聖ミケーレ教会は町の中心である
  旧市街の南部に在り、12世紀創建
  のロマネスク様式が生きている美し
  い教会である。
   写真は正面ファサード、三つの扉
  口の内の右扉口左側柱頭部分である。
  各々のタンパンには大天使ミケーレ
  と思しき像が彫られ、周囲の細密で
  美しい意匠の帯状装飾と壁面のレリ
  ーフとが、やや単調なファサードに
  効果的なアクセントを付けている。
   この写真の柱頭は、お馴染の股広
  げの人魚や、首ばかり集めたケルト
  のような意匠が面白かった。
   身廊はトリビューンと八角ドーム
  の有る見事な建築で、太い柱の柱頭
  彫刻には深い彫りの美しい彫刻が施
  されている。
   地下クリプトやモザイク床など、
  見るべき造形に満ち溢れており、さ
  ながら「美術の森教会」とでも言え
  そうである。
     

    
    
     カーポ・ディ・ポンテ聖サルヴァトーレ教会
       Capo di Ponte/Chiesa di San Salvatore

                          Lombardia

                              
        
   カーポ・ディ・ポンテの北東の町外れ、少し登っ
  た辺りにこの教会は建っている。
   広大な敷地であり、入口はどこかの邸宅のような
  鉄の扉が閉まっているが、インターフォンで来意を
  告げると開けてくれた。
   三列の身廊に三つの祭室という単純な構造で、四
  本づつ二列の柱が並んでいる。写真は左の列柱と、
  祭室である。中央の四本の柱に囲まれた天井は、八
  角形の鐘塔となるドームになっている。
   八個の柱頭には各々秀逸な彫刻が施されており、
  堂内の苔むした雰囲気と共に、素晴らしいロマネス
  クの空間を創出していた。
   股を広げた人魚像、尻尾の絡み合った鳥の様な動
  物、植物の蔓に絡まった人物や怪獣など、意味は不
  明だが最もロマネスク的なモチーフばかりである。
   入口のファサードにも彫刻やレリーフが見られ、
  さらに境内のテラスからは、カーポの町とチェーモ
  の聖シロ教会(S.Siro di Cemmo)が遠望できた。
   峻険な岩山が背景となり、見事な眺めだった。こ
  の教会も訪ねるべき遺構で、後陣の景色が美しい。
    

   
  
     チェンモ聖シーロ教会
       Cemmo/Chiesa di San Siro

                          Lombardia

                              
        
   前述のカーポ・ディ・ポンテの町を流れるオリ
  オ川の対岸は急峻な崖地になっており、その岩場
  の上にこの教会が建っている。川に沿った町側の
  道路から、山を背にした教会の後陣や鐘塔の全貌
  を眺めることが出来る。しかし残念ながら、その
  前面に大きな鉄塔が数本建ち、高圧線が景色を寸
  断していて絵にならなかった。
   教会へは町の中心から大きく迂回をして、背後
  から登っていくことになる。駐車場からしばらく
  歩かねばならない。
   聖堂は崖地の条件に合わせたのだろうか、15
  m四方の小さな建築である。それでも、身廊に両
  側廊の付いた三廊式で、三つの見事な後陣が設け
  られ、その下部が崖を掘り下げたクリプトとなっ
  ている。11世紀の落ち着いた建築である。
   写真は、唯一の入口である南門で、タンパン彫
  刻などで飾られた美しい扉口である。タンパンに
  は格別の主題があるのではなく、動物や植物が複
  雑に絡み合った図案が中心になっている。柱頭や
  ヴシュールや円柱も、同様の連続模様で統一され
  ていた。
   半円アーチと天井の交差穹窿で構成された内部
  は、狭いけれどもロマネスク建築の質実剛健な純
  粋さが凝縮しているように見えた。
    

     
     
     モンテ・マリアモンテ・マリア修道院
       Monte Maria/Abbazia di Monte Maria

                          
Trentino-Alto Adige

    
     スイス国境に近い、北イタリアのアル
  ト・アディジェ州には、知られざるロマ
  ネスクの教会やフレスコ壁画が数多く残
  されている。その中で特に注目するべき
  作品が、この修道院と次に記したエッパ
  ンのものだろう。マッレス・ヴェノスタ
  の町の北にブルグジオ
(Burgusio)という
  村が有り、その背後の山の中腹にこの立
  派な修道院が建っている。
   フレスコ画は、修道院の建物群の中で
  も最も古い、付属教会のクリプトの天井
  や壁に描かれている。
   驚いたことに、描かれている図像の大
  半が天使の像ばかりであり、我々のよく
  知っている大天使はその一部で、一口に
  天使といっても九つの段階が有るという
  事だった。仏教の九品を連想するが、似
  た発想かもしれない。天使にも上中下の
  隊があって、それがさらに三つの序列に
  分かれているのだという。
   誠に美しい天使の大集合で、背景の鮮
  やかなライトブルーが印象的だった。
     

     
     
     エッパンホッホエッパン城(聖マダレーナ礼拝堂)
       Eppan/Hocheppan(Cappella di Santa Maddalena)

                         Trentino-Alto Adige

     
   2000年夏に訪れた時は修復中で、
  城の中にも入れず悔しい思いをした。2
  年後の秋に、ようやくその恨みを晴らす
  ことが出来た。
   礼拝堂は城郭の中心に建っており、城
  までは駐車場からきつい勾配をかなり歩
  かねばならない。しかし、途中で眺めら
  れる展望は、ボルツァーノの町から遥か
  ドロミテ山塊にまで開けて壮大であり、
  疲れをすっかり吹き飛ばしてくれた。
   礼拝堂は写真の通り愛らしい建築で、
  外壁にも動物や人物の壁画が描かれてい
  た。内部は撮影禁止で写真が撮れず、こ
  こに掲載出来ないのは残念だが、内陣の
  壁一面に描かれたフレスコは、色彩豊か
  な素晴らしいものだった。
   祭室中央の壁には聖母子像が描かれ、
  右の祭室には、ペテロに鍵をパウロに巻
  物を授けるキリスト像が、そして左には
  洗礼のヨハネと福音書家ヨハネが描かれ
  ている。他の三方の壁にも、受胎告知、
  三博士礼拝、聖堂奉献、カナの饗宴等、
  キリストに関する説話が美しく描かれて
  いる。 
     

   
           
     ブルグジォ聖ニコラス教会
       Burgusio/Chiesa di San Nicolas

                         Trentino-Alto Adige

                              
    
   前述のモンテ・マリア修道院へ登って行く
  麓の村で、この教会はその村外れの牧歌的な
  田園の中に建っている。知らなければ通り過
  ぎてしまいそうな、小さな村の礼拝堂なので
  ある。鐘塔が唯一、ロマネスクの存在を知ら
  せてくれているようだった。
   写真に写っている車は、私達が使っていた
  レンタカーなのでご容赦願いたい。
   この何の変哲も無い礼拝堂では、中へ入っ
  て祭室の壁面を見なければならない。
   前面の壁と、半円形にくり抜かれた狭い後
  塵部分の内壁に、朱色がかなり鮮やかに残る
  フレスコ画がある。12〜13世紀の作品だ
  ろうと思われる。
   栄光のキリスト像を中心に、右下に雄牛、
  右上に天使が描かれている。当然、四福音書
  家の聖ルカと聖マタイを象徴しているのであ
  り、左側は剥落はしてしまったのだが、ヨハ
  ネ(鷲)、マルコ(獅子)も描かれていたはずで
  ある。
   素朴だがきりっとした鮮やかな図像で、狭
  い空間故に撮影困難なのが残念だった。
   スイス国境のミュスタイアも含め、この一
  帯には質の高いロマネスク期のフレスコ画が
  数多く分布しており、旅にあれば至福の時が
  約束されるだろう。
   
    

   
         
     グリッシャーノ聖ヤコポ教会
       Grissiano/Chiesa di San Iacopo

                         Trentino-Alto Adige

     
   
   この村はメラーノの町から近く、エ
  ッパン城の在る山並みに続いた山麓の
  寒村である。
   ここでも半円ドームの後陣内壁に、
  四福音書家の象徴に囲まれた荘厳のキ
  リスト像を中心とした、色鮮やかなフ
  レスコ画が残されていた。両脇には、
  聖母マリアと洗礼のヨハネ像が描かれ
  ている。ここでも朱色が美しかった。
   前面の壁面には、画風が別のやや趣
  の異なったフレスコが見られた。
   上部は、イサクを犠牲にするアブラ
  ハムの物語であり、下部は、アベルの
  神への奉献の場面である。
   こちらの絵は、アベルの顔などかな
  りリアルに描かれているので、ロマネ
  スク後期からゴシックにかけての作品
  だろう。
   教会のテラスから眺めたドロミテ山
  塊の景観は、ここまで登ってきた疲れ
  を忘れさせてくれる。
     

   
       
     テルメノ聖ヤコポ教会
       Termeno/Chiesa di San Iacopo

                         Trentino-Alto Adige

     
   
   アディジェ川に沿って分布する一連のフレスコ
  教会は、トレント
(Trento) の町から程近いこの
  地が最下流に位置している。
   斜面に造られた葡萄畑の向こうに小さな教会が
  建つ景観が、またどんなに素晴らしいフレスコ画
  を秘めているのだろうかという期待を抱かせた。
   ここでも、くり抜かれたような後陣のドーム内
  壁に、やや色あせてはいるものの、素晴らしいフ
  レスコ画が残されていた。
   上部のドーム部分は、四福音書家の象徴に囲ま
  れたキリスト像だが、かなり剥落してしまってい
  て、その像容が薄れてしまっている。
   最下部は、様々な怪物を描いたユニークなもの
  なのだが、輪郭線などかなり現代的な手が入って
  しまっているようだ。
   中段の人物群像は、キリストの十二使徒が描か
  れたものである。いずれもロマネスク的な図像で
  あり、この部分で救われた感がある。一人ひとり
  の描き方が、とても素朴な中に個性を表現しよう
  としていることから、かなり後期の作だろうと思
  う。
   鍵を持つ聖ペテロは明白なのだが、他の使徒を
  図像から特定するのは私の知識では不可能だった。
  教会の解説書には書かれているが、詳細に調べる
  気は無かった。
     

    
    
     コンコルディア・サジッタリア大聖堂
       Concórdia Sagittaria/Cattedrale

                           
Veneto
                        
   この町は、ヴェネツィアから東へ
  60キロ、ちょうどトリエステとの
  中間に位置している。
   大聖堂の建築は15世紀だが、鐘
  塔はロマネスク様式である。目的は
  聖堂の脇に建っているビザンチン的
  要素が濃い11世紀の洗礼堂で、内
  部は天井を中心にして、壁面上部は
  フレスコ画で埋め尽くされている。

   写真は天井ドーム部分の「玉座の
  キリスト」で、簡素な色彩だが落ち
  着いた優雅な姿がとても気に入った。
  三人の天使像も象徴的で、大変美し
  い図像である。
   四福音書家を中心にした聖人像が、
  アーチと柱で出来た壁面に描かれて
  おり、これも均整の取れた美しい空
  間を演出している。
   洗礼堂は煉瓦を積んだ八角形で、
  三つの祭室と後陣を持つ、小規模だ
  が見事に調和の取れた愛らしい建築
  であった。
     

     
    
     アクイレイア聖堂
       Aquileia/Basilica

                           Veneto

                        
   国境の町トリエステ (Trieste) の西に位置し、
  紀元前2世紀にローマ帝国によって建造された重
  要な都市であった。
   現在の聖堂は11世紀に建造されたもので、そ
  の後ゴシックやルネサンス時代の手が加えられて
  いる。三廊式ラテン十字形の建築で、側廊を仕切
  るアーケードはゴシック様式の尖頭アーチになっ
  ており、柱頭から下の円柱部分がロマネスク様式
  になっている。
   床は前身の4世紀ローマ時代のモザイクで、と
  ても美しい造形が残されている。
   正面の後陣ド−ムには11世紀のフレスコ画が
  描かれており、内陣地下は三廊式のクリプタとな
  っている。
   クリプタは、6本の柱が創出する柱と、交差す
  る半円形によって構成された天井の空間に、びっ
  しりと描かれたフレスコ画が見所である。
   キリスト磔刑や降下の場面、聖母子像などが特
  に印象的だった。朱色は褪せているが、水色と緑
  色が鮮やかだったと記憶している。落ち着いたプ
  リミティヴなクリプタで、低い柱頭の位置が何と
  も好ましかった。
   残念ながら撮影が禁止されていたので、自分の
  映像は無い。得意の特殊撮影技術も発揮出来なか
  った。
     

     
    
     トルチェッロ聖マリア・アッスンタ教会
       Torcello/Chiesa di Santa Maria Assunta

                           Veneto

                        
   ヴェネツィア沖のラグーナと呼ばれる潟に開
  かれた村で、7世紀以来の歴史を有する古い遺
  跡も多い場所である。ヴェネツィアのフォンダ
  メンテ・ヌオヴォからの渡し舟で訪ねることが
  出来る。

   港から運河に沿ってしばらく歩くと、ビザン
  チン風の素朴な聖堂が見えて来る。
   三廊式のバシリカ形式で、三つの後陣を備え
  ている。中央と右側の後陣のドーム壁面に、ビ
  ザンチン様式のモザイクが残っている。
  写真は中央後陣の聖母子像である。下部の使徒
  像も含め、時代が放つ荘厳で純粋な表現に感動
  した。
   右後陣には二天使を従えた玉座のキリスト像
  が描かれており、身廊を挟んだファサード裏側
  の最後の審判と共に、聖堂全体がモザイクで飾
  られた壮麗な空間となっている。
   隣接する聖フォスカ教会
(Santa Fosca) は、
  円形ドームを中心としたギリシャ十字形プラン
  で、柱廊の美しい10世紀のビザンチン建築で
  ある。
     

     
    
     ムラーノ聖マリア・聖ドナート教会
       Murano/Chiesa dei Santissima Maria e Donato

                           Veneto

                        
   トルチェロへと向かう渡し舟は、途
  中でこのムラーノ島とブラノ島へ寄港
  する。
   この島を訪れる客の大半は、ヴェネ
  チアン・ガラスの工房や直売店が目的
  である。
   教会は船着場から町の中を歩き、橋
  を渡り、運河に沿って更に進んだサン
  ・ドナート運河のほとりに建っている。
   赤味を帯びた煉瓦造りなので、ビザ
  ンチンの聖堂を想わせる東方的な雰囲
  気に満ちている。
   聖堂は三廊式バシリカ形式だが、階
  上は十字形になっている。
   身廊の床のモザイクや柱頭は12世
  紀のものらしく、後陣ドームのモザイ
  クは聖母像で13世紀だと解説に書か
  れていた。
   写真は、ロッジェッタと呼ばれる小
  開廊アーケード部のある後陣で、運河
  のほとりという立地条件もあって大層
  美しい景観を見せていた。鐘楼と共に
  12世紀の建築である。 
      

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