リオネーフランシュ・コンテ地方のロマネスク
       
Lyonnais et Franch-Comté Romanes
      
       
       アルザスの南、スイスと国境を接するフランシュ・コンテ地
      方は、その名が示す「自由の国」という通り、独立共同体意識
      の強い地方である。
       ジュラでは、格別香しい白ワインが造られている。
       リヨンはフランス第二の大都市だが、一歩郊外へ出れば、緩
      やかな起伏の田園地帯である。サヴォアはスイスにも似た風土
      で、シャモニーからはモンブラン・トンネルでイタリアのアオ
      スタ谷に直結している。

        
 

 
県名と県庁所在地
  
1 Haute-Saône (Vesoul)
  
2 Territoire de Belfort (Belfort)
  
3 Doubs (Besançon)
  
4 Jura (Lons-le-Saunier)
  
5 Rhône (Lyon)
  
6 Ain (Bourg-en-Bresse)
  
7 Haute-Savoie (Annecy)
  
8 Savoie (Chambéry)

                
Prieuré Vestiges de l'Abbaye
            
Lieu-Dieu
            
Doubs







     
    
     ブザンソン聖ジャン大聖堂
     Besançon/Cathédrale St-Jean
 
                         3 Doubs

             
   ディジョン Dijon の旅籠に宿泊した翌朝、私達
  は高速道路をA39からA36に入って東を目指
  した。目的地はフランシュ・コンテ地方の首都、
  ブザンソンである。

   観光地である城砦
(Citadelle) へ登り、塔の上
  から町の絶景を眺望した。教会はその登山口に当
  る高台に建っていた。
   聖堂の壮大さには圧倒されたが、その大部分が
  ゴシックに修復されていたのが残念だった。三廊
  式の身廊だが、柱から上の天井には歴然とゴシッ
  クの梁が見られる。

   11世紀から18世紀まで、様々な修復が成さ
  れたため、今日見る姿は誠に複合的だが、それで
  も、身廊の柱や南側の壁面や祭壇近くの柱頭群に
  は、明らかにロマネスク時代の痕跡が顕著に残さ
  れていた。

   ヘロデ王の前の場面やキリスト誕生を礼拝する
  東方三博士を描いた柱頭が、創建当初の面影を伝
  える傑作だが、祭室に立ち入れず遠くから眺めた
  だけで写真には出来なかった。
   

    
    
     アルボア聖ジュス教会
     Arbois /Église St-Just

                         4 Jura

         
   途中の小さな村にある教会を訪ねながら、ブザ
  ンソンから南西に50Km走ると、アルボアという
  やや大きな集落に着いた。ここはジュラ
Jura
  ワインと、生物学者パストゥールで知られる町な
  のである。

   キュイザンス
(Cuisance)の流れに架かる石橋を
  渡ると、すぐに鐘塔のある教会が見えた。
   三廊式の身廊で、側廊のさらに外側に礼拝堂を
  備えた複雑な構造になっている。身廊の柱は11
  世紀創建当初のものだが、それ以外は12世紀以
  降のもので、上部はゴシック様式となっていた。

   写真は側廊から身廊を眺めたもので、角柱と円
  柱が交互に立っている。柱の太さがプリミティヴ
  なロマネスク建築を象徴しており、当時のダイナ
  ミックな創造性を感じさせてくれた。

   ブザンソンでも感じたことだが、それにしても
  何故、ゴシックを陳腐と感じてしまうのだろう。
  単なるロマネスク病で片付けてよいものなんだろ
  うか、という疑問が頭から離れない。
   

    
    
     サン・ロタン聖ロタン教会
     St-Lothain/Église St-Lothain

                          4 Jura

               
   観光的には全く無名のこの村は、ア
  ルボアの町から10Km南西にあるポリ
  ニイ
(Poligny)に程近い。
   痩せた葡萄畑が続く寒村で、教会は
  集落から離れた斜面に、墓地に囲まれ
  てポツンと建っていた。
   目的は唯一つ、地下の祭室であるク
  リプト(Crypt)だったが、運良く鍵は
  開いていた。留守番の老婦人が一人、
  写真のクリプトで椅子に掛けていた。
  写真の許可を頂いたが、親切な婦人は
  邪魔だろうと言って、撮影の間だけ上
  の身廊へと出て行った。
   教会は後世の修復でロマネスクの原
  形を留めていなかったが、壁の修復は
  成されてはいるものの、このクリプト
  は、当初のストイックな雰囲気と素朴
  なアーチで構成された美しい空間を見
  事に保っていたのだった。
   少なからず感じていたゴシック病か
  ら、完全に抜けきる時間が持てた。
   

     
      
     ロン・ル・ソーニエ聖デズィレ教会
     Lons-le-Saunier/ Église St-Désiré

                          4 Jura

           
   ローマ時代から温泉で知られた古い町で、塩取
  引で栄えた歴史が塩商人を意味するソーニエとい
  う名に表れている。ジュラ県の県庁所在地だ。

   教会は県庁に隣接した、町の中心部に建ってい
  た。ファサードは近年に、上部がゴシックに改造
  されているが、写真で見る通り、聖堂の柱は見事
  に太く石積みの美しい、何とも剛直な空間を構成
  していた。

   この太い柱を見ながら、ブルゴーニュのトゥー
  ルニュやシャペイズの教会を思い出していた。ロ
  マネスク初期の、不器用で不細工であった筈の様
  式が、逆に腰の座ったロマネスクの美しさの重要
  な要素となった不思議な価値観の逆転。

   聖堂の平面構造はアルボアの聖ジュスに似てい
  るが、祭室や後陣はこちらの方が保存が良い。
   11世紀の創建を物語るもう一つの証拠が、地
  下に見られたクリプトである。
   細い柱が10本林立する地下祭室で、かなり修
  復されてはいたが、それでも充分にこの教会の基
  礎となった神聖な場所として保存されていた。
    

     
      
     サン・タンドレ・ド・バージェ聖アンドレ教会
     St-André-de-Bâges/Église St-André

                         6 Ain

          
   マコン Mâcon の町とはザオーネ Saône 河の
  東対岸に隣接する格好で、バージェと呼ばれる広
  い地域が有る。
   集落から離れた場所に、この教会はポツリと建
  っており、特異な八角の鐘塔がすぐに眼に飛び込
  んでくる。良く眺めると、アーチ窓や盲アーチ装
  飾が施された、堂々たる美しい塔である。

   中央の入口と上部の窓以外、ファサードにはほ
  とんど窓は無い。全面に装飾盲アーチが意匠され
  ており、地味だが特徴の有る構成である。
   だが、アーチ門のタンパンやまぐさ石には何も
  彫刻されておらず、また唯一の柱頭彫刻もかなり
  摩滅していた。巻物を持つ聖人のようだが、聖パ
  ウロなのか、あるいは他の聖人なのか判らない。

   聖堂は三廊式、翼廊の有る十字型であり、交叉
  部に鐘塔が立ち、小礼拝堂が付いている。後陣か
  らの眺めは、三つの半円祭室が並ぶなかなかの景
  観であった。
   聖堂全体が均整の取れた建築であり、遠景が絵
  になる教会だった。
   

     
    
     ヴァンデン聖母教会
     Vandein/Église Notre-Dame

                         6 Ain

           
   ブルグ・アン・ブレス (Bourg-en-
  
Bresse) の町の西10Kmに在る、小
  さな農村である。ブレス産の鶏として、
  食通の方なら御存知の地方だ。
   教会は町の礼拝堂のような可愛らし
  い建築で、木造の屋根の入母屋造りで
  ある。聖堂自体は、それ程古いもので
  はなく、おそらくルネサンスかバロッ
  ク期のものではないだろうか。
   見たかったのは、入口にタンパンの
  ような格好で飾られた、写真の彫刻で
  あった。元来タンパンであったのだろ
  うが、ファサード建築は失われている
  のである。
   二人の天使に支えられた栄光のキリ
  スト、最後の晩餐、洗足の場面、など
  が描かれた見事な彫刻である。このタ
  ンパンをもつ扉口の在る、創建当初の
  ファサードがいかに壮麗であったかを
  想像するのは楽しかった。
    

     
     
     イリア聖ローラン教会
     Illiat/Église St-Laurent

                         6 Ain

            
   アン(Ain)県の南西部、ブレスとリヨン(Lyon)
  中間地帯はドンブ
(Dombes)高地と呼ばれる丘陵
  地帯である。小さなロマネスクの教会が点在する
  魅力的な地方で、イリアもその一つ、ヴァンデン
  の西20
Kmに在る簡素な村である。

   聖堂は単身廊に翼廊の備わった十字型で、小さ
  な半円の祭室が在る。鐘塔は交叉部ではなく、別
  の場所に単独で後世に建てられたらしい。後陣の
  外壁などはかなり修復されており、窓の輪郭など
  やや不自然な部分も見られた。

   見所は内陣で、特に祭室部分の装飾が素晴らし
  かった。三つ在る半円アーチ窓の両側が、それぞ
  れ盲アーチになっており、フレスコで聖人像が描
  かれている。色彩が鮮やかで、眼の大きな聖母マ
  リアの像が、特に印象に残った。

   写真は、二つ在る重要な柱頭彫刻の一つで、自
  ら目隠しをする人物の顔が彫られていて珍しい。
  もう一つの柱頭には、鬼のような顔の怪獣が彫ら
  れており、宗教的な比喩なのか、諧謔的な暗示な
  のか判然とはしないが、興味深い主題である。
    

     
     
     サン・ポール・ド・ヴァラックス聖ポール教会
     St-Paul-de-Varax/ Église St-Paul

                          6 Ain

            
   ドンブ地方のもう一つの重要なロ
  マネスクの遺構で、ブルグの南18
  キロに位置するやや大きな村である。
   ここで珍しくも、フランス人の団
  体ツアーと出くわしたのだが、中世
  の教会巡りが目的だそうだった。私
  の6×7判カメラに興味を示す人が
  多かった。
   聖堂はかなり改築されており、見
  るべきロマネスクは、南門の小タン
  パンとこの西面ファサードである。
   扉口上のタンパン部分には、二人
  の天使や聖人群像を伴った栄光のキ
  リスト昇天が描かれている。顔の大
  半が削られているが、精緻で美しい
  彫刻である。
   左右の帯状レリーフも傑作で、門
  の右側に地獄の懲罰が、左に聖ポー
  ルの物語が彫り込まれている。
   彫刻の内容も素晴らしいが、全体
  に簡素ながら均整のとれた美しいフ
  ァサードだった。
    

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