ロワール地方のロマネスク
          Loire Romane

                                                                        

         パリから近いこの地方は、フランスの庭とも称される風光明媚
        な景勝地で、特に河畔の城館巡りで知られている。
         ロワール河の支流であるル・ロワール河、ヴィエンヌ河・アン
        ドル河・シェール河などの流域には、数多くのロマネスク聖堂が
        残されている。
         建築はゴシックへと移行したものも多いのだが、特徴の有るロ
        マネスク期のフレスコ壁画が必見である。

             


 
県名と県庁所在地
   
1 Loiret (Orléans)
   
2 Loir-et-Cher (Blois)
   
3 Indre-et-Loire (Tours)
   
4 Maine-et-Loire (Angers)
   
5 Sarthe (Le Mans)
   
6 Mayenne (Laval)
        
  
          Notre-Dame de Fougeray
          Cormery
          Indre-et-Loire





    
    
     サン・ブノア・シュル・ロワール聖ブノア修道院教会
     St-Benoît-sur-Loire / Église Abbatiale St-Benoît

                         1 Loiret

                    
   城巡りで名高いロワール河畔、オルレアンから暫く
  東に走ると高い塔の有る修道院が見えて来る。とても
  穏やかな景色だ。

   写真は正面入口の、玄関間に林立する太い列柱であ
  る。柱頭の彫刻はいずれも大らかで、陰影豊かな夢に
  満ちている。エジプト逃避やエリザベス訪問など、魅
  力的な主題の傑作の他に、不思議な動物や蔓模様が絡
  み合った怪奇な図像も多い。
   芸術の草創期が示すのは、いつもやや粗野ではある
  が、湧き上がってくるような造形への情熱が生み出し
  た、力感溢れる作品ばかりである。11世紀半ばのこ
  のサン・ブノアも、また例外ではなかった。ここは単
  に教会の玄関だったのでは決してなく、石を刻む事に
  命がけの石工達の壮大なアトリエだったに違いない。

   教会堂内部の荘重な雰囲気を、陳腐な言葉で表現す
  るのは困難だ。それは、ロマネスクなどという建築様
  式を超越した、異次元の美しさを備えているように感
  じられたからだった。
   それはきっと信仰という目に見えない偉大な力と、
  石の建築という上辺の姿としての入れ物との間が、見
  事に融合し合って存在しているからなのだろう。 
   

      
     
     ジェルミニー・デ・プレ旧パラティーヌ礼拝堂
     Germigny-des-Prés / Ancienne Chapelle Palatine
 
                         1 Loiret

     
   サン・ブノアからオルレアン方面に向かって、約
  4Kmのところに在る、フランスで最も古い教会の一
  つであり、カロリング王朝時代の素晴らしい芸術の
  遺構である。
   皇帝シャルルマーニュの側近で、サン・ブノアの
  大修道院長であったテオドュルフの礼拝堂だった。
   ギリシャ十字型東側の小後陣、盲アーケードの上
  部ドーム天井に、美しいモザイク画が残されている。
   モザイクは9世紀初頭のものと伝えられるが、ラ
  ヴェンナの作品を想起させる。

   正面に箱が描かれているが、これは契約の櫃とそ
  れを取り囲む天使達の像を描いたものである。神と
  神に選ばれし民との契約のことだ。
   櫃を囲んでいるのは、神の知恵を表すとされる智
  天使である。智天使は、熾天使・座天使と共に、天
  使軍の上級三隊を編成している。
   ちなみに、中級三隊は主天使・力天使・能天使、
  下級三隊は権天使・大天使・天使から成る。
   外側の天使は大天使で、二人の頭の間から神の手
  が下へ延びている。
   燦然と眩いばかりの金色モザイクだが、品格に満
  ちたデッサンが優雅な美しさをより高めている。   
   

New!   
      
     ベルガルド・ドュ・ロワレ聖母教会
     Bellgarde-du-Loiret/ Église Notre-Dame
    
                          1 Loiret

          
     この町はオルレアネ (Orléanais) 地方と呼ばれ
  るロワレ
(Loiret) 県の東端部に位置しており、モ
  ンタルジ
(Montargis) の町の西25Kmにある。
   濠に囲まれた優美な城塞で知られる、瀟洒な佇
  まいの町だった。
   
   聖堂は三廊式で、十字交差部に鐘塔の建つ荘重
  な建築だが、翼廊や後陣などはゴシック期の改造
  がどうしても目に付いてしまう。
   この教会の見所は、やはり写真の西側正面ファ
  サードだろう。
   正面の装飾は12世紀当初のものが保存されて
  おり、上部の三連窓と下部の三連アーケードのバ
  ランスが美しい。
   中央の扉口は多重のヴシュールと、それを受け
  る柱頭と側円柱、珍しい意匠のタンパンとで構成
  されている。
   ヴシュールには、ねじれた縄模様や連続するギ
  ザギザ模様など、ユニークな意匠が見られる。
   タンパンに彫られた図柄は連続する蔓草模様が
  中心となり、円形に絡まる蔓の中にそれぞれ三枚
  の葉が入ったものである。さして優れた意匠とは
  思えないが、この地方に多い単純な幾何学模様を
  配したタンパンの事例のひとつである。
                 

New!   
      
     コルトラ旧コルトラ教会
     Cortrat/ Ancienne Église de Cortrat 
    
                          1 Loiret

          
     無名のこの村は、モンタルジの
  南20
Kmに位置する、数軒の農
  家しかない寒村である。
   村の礼拝堂のような、単身廊の
  素朴な聖堂である。従来の後陣は
  崩壊していて、壁で仕切られた新
  しい祭檀が設けられている。
   ここでも見所は正面の扉口であ
  り、特にタンパンに彫られた奇妙
  な図柄に興味をそそられる。
   タンパン外周の連続する不規則
  な植物らしき模様や、中央の迷路
  のような図が一体何を物語るのか
  は全く不明である。
   迷路の渦に絡まれたような人物
  像が左右に配されており、シャガ
  ールの抽象画を見るような胸のと
  きめきすら感じられてしまう。
   なんとも妙な教会があったもの
  である。
                 

     
    
     アレーヌ聖母教会
     Areines/ Église Notre-Dame
    
                          2 Loir-et-Cher

         
   古都ヴァンドーム Vendôme から東へ
  3
Km、ル・ロワール川に沿って走ると、
  清楚だが歴史の深いこの小さな村に着く。
   教会は単身廊の素朴な礼拝堂のようで
  あるが、後陣以外の身廊や鐘塔はロマネ
  スク以降の建築らしい。
   しかし内陣の壁面に描かれたフレスコ
  画は12世紀以来の作品である。部分的
  に、後世の手が入っているようだ。
   祭室正面に、四福音書家のシンボルに
  囲まれたキリスト像が描かれ、さらに多
  くの使徒達が並んでいる。
   正面の窓の開口部壁面には、聖戦の騎
  士像が描かれ、鎧と光輪が印象的だ。
   写真は半円天井に描かれた、受胎告知
  ・御訪問の場面である。かなり剥落して
  いるが、デフォルメされた像容がとても
  美しい。
   光背に使われている青色はセルリアン
  ・ブルーと呼ばれるロワール地方独自の
  色で、全体に鮮烈な印象を与えている。
    

     
     
     プズー聖ピエール教会
     Pezou / Église St-Pierre

                         2 Loir-et-Cher

                 
   ヴァンドーム周辺には、正面の入口に半円アーチの
  帯状装飾が有る門を持つ教会がいくつも点在している。
   ルアン
Ruan 、エコマン Ecoman 、シャトー・ダン
  
Châteaudun などだが、このプゾーの教会でも、ユニ
  ークな意匠の装飾を見ることが出来た。
   教会建築の大半はロマネスク以後に改修されたもの
  で、聖堂の側面や鐘塔だけを見たら、きっと通り過ぎ
  てしまうだろう。
   西正面のファサードにはめ込むような格好で、写真
  のポルタイユ(門)が保存されていた。
   基本的には丸と三角の連続模様を使った、至極単純
  な意匠である。しかし、彫りが深く剛直であり、陰影
  の濃い美しい装飾となっている。
   私はかつてアイルランドで見た、ケルトの影響を受
  けたタンパンの彫刻を思い出していた。そういえば、
  アーチの上の軒持ち送りに並ぶ生首彫刻は、あたかも
  ケルトの装飾のようである。
   三角の連続模様は、まるで鋸の刃のようでもあり、
  サメが口を開けているようにも見える。
   そもそも、こうした抽象的な模様の装飾を、教会の
  入口に施した意味合いとは一体何だったのだろうか。
   聖堂荘厳のため、魔除け的な結界を作るため、それ
  とも石工の洒落だったのだろうか。
   

    
    
     モントワール・シュル・ル・ロワール聖ジル礼拝堂
     Montoire-sur-le-Loir/ Chapelle St-Gilles

                          2 Loir-et-Cher

                           
    ロワール河の支流にロワール河が有る、と言われ
  ても謎々みたいで分からない。
   本流がロワール
(Loire) 川で支流がル・ロワール
  (
Le Loir) 川というのが正しい答えだ。フランス人に
  発音の差を訊いてみたが、まったく変わらないとの
  ことだった。
   城下町ヴァンドームを流れているのが支流ル・ロ
  ワールで、その下流にモントワールの町がある。

   お堂の壁から天井から、全ての空白がびっしりと
  フレスコ画で埋められたこの小さな礼拝堂は、まる
  で宝石箱のような光に満ち溢れていた。
   大半は12世紀ロマネスクの壁画だが、この写真
  の天使の何と大らかなことか。こんなにシュールな
  天使は、あまり見たことがない。これは、栄光のキ
  リスト像の周囲に舞う天使の一人で、私の大好きな
  図像の一つだ。
   自由なデッサンという見方と、制約された空間に
  無理やりはめ込んだ結果の産物という二つの見方が
  有りそうだが、そのどちらも正しいような気がして
  いる。ロマネスク図像の原論に迫っているような大
  胆な言い方に、言ってしまってから一瞬腰が引けて
  いる。
   とまれ、めくるめくようなフレスコとの出会いで
  あった。
    

     
    
     サン・テニャン・シュル・シェール聖エニャン教会
     St-Aignan-sur-Cher / Église St-Aignan

                         2 Loir-et-Cher

                  
   有名なシュノンソー城の下を流れるシェール河の
  上流に有る町で、教会は高台にある城の麓に建って
  いた。
   建築は荘重だが、やや修復の跡が目に付く。しか
  し目的はここではないので、地下の祭室に降りなけ
  ればならない。
   地下のクリプトは地上の祭室とほとんど変わらぬ
  設計で、周歩廊の周りに小さな祭室が三つ有り、そ
  れぞれにフレスコ画が描かれていた。
   写真はその一つである。照明が暗かったので、そ
  の割には良く撮れたかと、自画自賛をしているのだ
  が。
   写真の部分は聖ジルの伝説が描かれており、貧し
  い人に衣服を施す場面である。照明のスイッチを入
  れ、そして、太く明瞭な輪郭線と色彩が、祭室の闇
  の中からパッと現れ出て来た瞬間は、震えるほど心
  揺さぶられる思いだった。
   別の祭室には、キリストがラザロを復活させる奇
  跡の場面が描かれているが、これも同じ工房による
  ものか、聖ジルに似たタッチの傑作だった。
   中央祭壇の天井の半ドームに、いかにもロマネス
  クらしい玉座のキリスト像のフレスコが有る。ビザ
  ンチンのキリストの様な雰囲気があるが、やや抽象
  化された像容にすっかり見入ってしまった。
    

     
      
     ラヴァルダン聖ジュネ教会
     Lavardin / Église St-Genest

                         2 Loir-et-Cher

                                                           
   ラヴァルダンはル・ロワール河に面した、モント
  ワールの上流に位置する美しい町である。ゴシック
  の石橋や城砦が格好の景観を構成しており、画材を
  持参しなかった事を後悔させられた。

   聖ジュネ教会の外観は城塞のような鐘楼が有るこ
  とでいかにも無骨に見えるのだが、内部では愛すべ
  き初期ロマネスク建築の魅力を充分に堪能できる。

   半円アーチの列柱で両側廊が仕切られており、主
  に祭室部分の壁面は目を見張る程のフレスコ画で埋
  め尽くされている。いろいろな時代のものが複雑に
  存在しているので明確には分からないのだが、左側
  の小祭室の柱に描かれた「洗礼のキリスト」と「エ
  ッサイの木」が最も古い12世紀のものらしい。写
  真に写っている奥の壁のフレスコは、ロマネスクの
  印象からはややかけ離れたものだった。

   私の目には、写真の柱頭が最も古そうに見えた。
  左側の聖母子像がユニークであり、特にケルト的な
  意匠である渦巻の模様の使い方は興味深かった。他
  の面には未完成の部分もあり、何とも不思議な柱頭
  だった。  
    

      
      
     サン・ジャック・デ・ゲレ聖ジャック教会
     St-Jacques-des-Guérets / Église St-Jacques

                          2 Loir-et-Cher

                                  
   サン・ジャック・デ・ゲレの村もまたル・ロワー
  ル河のほとりに有り、モントワールの下流の町トゥ
  ルー
Troo の対岸に位置している。
   礼拝堂とも言うべき小さな教会だが、ゴシックの
  尖塔が印象的なので、その外観からはロマネスクの
  息吹は感じられない。
   しかし一歩内陣へ入れば、そこは色彩豊かな溢れ
  んばかりのロマネスク壁画の世界だった。
   12世紀の作品で、比較的修復も無く制作当初の
  雰囲気をしっかりと保持しているように見える。
   四福音書家の象徴に囲まれた「玉座のキリスト」
  像と、「最後の晩餐」が祭室正面の壁右側に描かれ
  ている。左側はキリストの十字架磔刑の図で、十字
  架に仕切られた四方に人物像が描かれている。左上
  は太陽を右上は月を象徴した人物像で、やや難解で
  ある。左下は聖母マリアであり、写真は右下の、本
  を持つ使徒聖ヨハネ
(St-Jean) である。イエスの愛
  した弟子と呼ばれ、聖母マリアやマグダラのマリア
  達と共に磔刑に居合わせたとされている。
   色彩の鮮やかな図像であり、ロマネスク壁画の抽
  象がつまらぬ写実を遥かに凌駕した表現力を示す、
  という何よりのテキストとなっている。
           

      
    
     リヴィエール聖母教会
     Riviére/ Église Notre-Dame
     
                          3 Indre-et-Loire

              
   城下町シノンに泊まった翌朝、絶妙な赤ワイン
  を産する葡萄畑を抜け、ヴィエンヌ川に沿ってし
  ばらく走って、この不思議な教会を訪ねた。
   方形の単身廊の先端に、一段高くなって祭室が
  設けられている。祭室は三廊式でやはり方形の祭
  壇部分が外陣へ飛び出した形である。
   祭室の下は一段低くなっていて、地下のクリプ
  トとなっている。
   写真は、祭室の中央から側廊を見たところで、
  天井は半円筒ヴォ−ルトのれっきとしたロマネス
  ク建築である。鮮烈な彩色が施されているので、
  ロマネスクのイメージからはかけ離れて見えてし
  まうから不思議だ。どの時代に塗られたのかは不
  明だが、それにしても悪趣味すぎる。
   だが、建築や柱頭彫刻を詳細に見ている内に、
  彩色を無視して見えるようになった。柱頭は抽象
  的なモチーフが多く、怪物や動物の顔など幻想的
  な傑作が揃っている。物の本質を見ることの難し
  さが、少し見えた気がした。
   後陣の壁に彫られたレリーフや、壁面に施され
  た幾何学模様が珍しかった。
      

     
       
     タヴァン聖ニコラ教会
     Tavant/ Église St-Nicolas
   
                         3 Indre-et-Loire

              
   この教会を過去に2回訪ねている。その度に閉ざ
  された扉の前で失意を味わったものだった。休暇の
  取れる冬にしか来ることが出来なかったのだが、こ
  の教会が冬季に閉鎖されてしまうことを2回目に初
  めて知った。
   2004年秋にようやく念願かなって見ることが出来
  たが、これは正にリタイアの功徳であった。
   ここでは地下祭室(クリプト)の柱や壁に描かれた
  フレスコ画だけが目的である。村役場の係員に鍵を
  開けてもらわねば、決して中へは入れない。
   夢にまで見たフレスコの数々は、想像以上に色彩
  豊かであり、ロマネスクの時代とは思えぬほど躍動
  的なデッサンだった。
   フレスコ画を見ることに、これほど興奮する場面
  が今までに何度も有ったとは思えない。それほど大
  きな憧れの存在だったのである。
   クリプトの柱は8本、壁面に11本有り、柱頭の
  上壁から天井にかけて、全ての空間にフレスコが描
  かれていた。聖母像やアダムとイヴ、ダヴィデ像な
  ど、見飽きることが無い。
   写真は、大好きな“踊る人”で、なんと生き生き
  としたデッサンであろうか。撮影禁止の中でこの1
  枚だけ、かなりの幸運が私に訪れたのであった。
       

    
      
     アゼー・ル・リドー聖シンフォリアン教会
     Azay-le-Rideau /Église St-Symphorien

                         3 Indre-et-Loire

                 
   ここもロワールの城巡りの中では、
  珠玉の名城として知られる美しい城館
  の在ることで有名な町である。
   しかし、その城のすぐ脇に、初期ロ
  マネスク時代の美しいレリーフをファ
  サードに持つ教会の在ることは、余り
  知られていない。
   建築はゴシック期以降に改築された
  もので、彫刻は壁面にはめ込まれた格
  好で保存されている。
   聖人像が窓の右側に三体、左側に四
  体、上部に七体、合計十四体が残って
  いる。写真は、その上部七体である。
   半円アーケードの中に一人づつ立っ
  ているのだが、コケシのように素朴で
  あり、お地蔵様のように愛らしい。
   中央はキリストで、左端は聖母子の
  像ではないかと思う。残りが十二使徒
  ならば計算は合うのだが、キリストの
  左二人は女性像のように見えるので、
  そう簡単ではなさそうである。
     

         
    
     ラ・リシュ(トゥール)聖コーム小修道院
     La Riche (Tours)/ Prieuré St-Cosme
    
                          3 Indre-et-Loire

                

   トゥールの町の中心からロワール河に沿って西
  へ数キロ下った所に、この修道院の遺構が残され
  ている。庭園風に管理された、美しい区画となっ
  ていた。16世紀の詩人ロンサールの墓が有ると
  書かれていたが、残念ながら読んだことも無い。

   写真には、部分的に残された付属教会の一部で
  ある祭室を囲む周歩廊と、その外側に張り出した
  小祭室の一つが写っている。素朴な半円アーチが
  外側からの光に照らし出されて、とても美しく見
  えた。
   剥落した漆喰、苔むした石の壁や柱などは、1
  1世紀といわれる創建の時代を髣髴とさせてくれ
  る。この小祭室の外観も見事だった。
   修道院遺跡に残るもう一つの建物は、少し離れ
  た所に建つ12世紀の修道士食堂である。鋸の刃
  のような形をした連続模様の彫られた門や、内部
  には説教壇の細密な彫刻などが見事に保存されて
  いた。
   冬の季節ということもあったが、トゥールの町
  もここまで来るとまことに閑静で、ロワールの静
  かな流れと共に落ち着いた雰囲気を味わうことが
  出来たのだった。 
    

   
   
     トゥール旧聖マルタン聖堂遺跡
     Tours/Vestiges de l'Ancienne Basilique St-Martin

                         3 Indre-et-Loire

                  
   旧市街のレアル通りを歩くと右側に時計塔が建
  っており、さらにその先左側にシャルルマーニュ
  塔
(Tour Charlemagne) が在る。
   いずれも旧聖マルタン聖堂の一部であった。時
  計塔は正面入口の右塔であり、シャルルマーニュ
  塔は北側袖廊の名残である。つまり現在のレアル
  通りは、今は失われてしまったかつての身廊の真
  ん中を貫通していることになるのだ。

   シャルルマーニュ塔には美しい柱頭が残されて
  おり、レアル通り側から見ることが出来る。
   何を意味するのか不明だが、四方に二頭のライ
  オンが腕を組み合ったようにして彫られている。
   中央に聖人が立ち、ライオンの背後で二人の男
  が棒のような物を持っている。聖人の説話なのか、
  それとも何かを比喩した寓話なのか。
   部分的に剥落しているのは惜しいが、確かなデ
  ッサンに裏付けられた見事な彫刻で、12世紀の
  作であることは間違いないようだ。
   塔の内部に、聖ジョルジュを描いたフレスコ画
  が在ると聞いていたのだが、周囲の金網に鍵がか
  かっていて入ることが出来なかった。   
    

      
    
     リール・ブーシャール聖レオナール小修道院
     L'Ill-Bouchard /Prieuré St-Léonard

                         3 Indre-et-Loire

               
   ロワールの支流ヴィエンヌ河に面して、ジャンヌ
  ・ダルクゆかりの城下町シノンが有る。そこから更
  に河を遡ると、そこがかつて水運で繁栄したリール
  ・ブシャールの町である。
   町の南、やや小高くなった場所に修道院の遺構が
  残されている。今見ることの出来るのは礎石や残骸
  ばかりで、修道院付属教会の後陣祭室部分だけが、
  残存する唯一の建造物だった。身廊などの堂宇は完
  全に失われ、祭室の周歩廊と小祭室、その列柱と柱
  頭のみが幻影のようにたたずんでいた。

   だが、柱頭の彫刻を詳細に眺めて、その充実した
  内容に驚いた。中心は四本の大きな柱頭で、「エジ
  プト逃避」「キリスト磔刑」「エルサレム入城」、
  写真の「受胎告知」が主題となり、それぞれの面に
  付随した逸話が彫られているのである。堂々たる人
  物像が特徴で、おおらかなデッサンと精緻な細部表
  現とが見事に調和している。受胎告知の右は「エリ
  ザベス訪問」であり、左は「羊飼達の聖母子礼拝」
  である。
     

     
    
     パルセイ・シュル・ヴィエンヌ聖ピエール教会
     Parçay-sur-Vienne/ Église St-Pierre

                         3 Indre-et-Loire

         
   ヴィエンヌ川流域には珠玉のロマネスクが点
  在しており、この村の教会もそのひとつに数え
  られる。
   ここでは聖堂正面の扉口を含む、ファサード
  全体が見所である。
   従来のロマネスクと違い、アーチや柱が浮い
  てしまっていて、建築構造には関係の無い単な
  る装飾だけのように見える。中央門の内側に、
  タンパンではなく、石を積んで小さな門を造っ
  ているからかなと感じた。
   中央のアーチ装飾は美しい。一重目は人の顔
  と植物とを組み合わせた図像、二重目は植物の
  蔓の連続模様、三重目に髭を生やした男の首が
  並んでいる。
   扉口の門の両側に造られた装飾盲アーチなど
  は、ポアトーやサントンジュ地方に多いファサ
  ードの様式に似ているようだ。柱頭には、やは
  りポアトー地方に多い人魚シレーヌの像も彫ら
  れていた。
   盲アーチ部分の柱頭にも巧妙な彫刻が見られ、
  小さなファサード全体が、繊細な彫刻がびっし
  りと散りばめられた、まるで精密画のような世
  界だった。
     

     
    
     セル・シュル・シェル聖ウーシス教会
     Selles-sur-Cher/ Église St-Eusice

                         3 Indre-et-Loire

                 

   ロワールの支流シェル川の上流に在る町で、
  もう少し行くとベリー地方との境界になる。 
   町の始まりは聖ウーシスが修道院を創設した
  ことによるが、その後町は大きく発展した。現
  在残されている教会は、旧修道院付属教会の聖
  堂である。
   正面の扉口は半円アーチのロマネスクだが、
  ここでは先ず教会の背後へ回り、後陣の壁面に
  彫られたレリーフやフリーズを見なければなら
  ない。
   写真でもお判りのように、半円アーチ窓の上
  部と窓のすぐ下に、連続して多くの人物像が彫
  り込まれているのである。
   キリストの生涯を描いた場面が中心で、カナ
  の饗宴・弟子の足を洗うキリスト・ラザロの復
  活・キリスト受難などが主要な主題である。
   技術的に大それたものではないが、素朴な彫
  りながら統一感のあるフリーズ彫刻で、人物の
  大きな目に特徴がある。
   聖ウーシスの生涯や、月々の仕事を描いたフ
  リーズも見られた。
   聖堂は三廊式で、祭室には周歩廊と放射状に
  付けられた三つの小礼拝堂、翼廊の小祭室など
  壮麗な12世紀の建築である。   
    

      
    
     ロッシュ聖ウールス教会
     Loches/ Église St-Ours

                         3 Indre-et-Loire

       
   この町の旧市街はアンドル川に沿った
  小高い丘に、城壁に囲まれた城郭塞都市
  である。王家の門から入り、城塞へ登る
  途中にこの教会が建っている。
   正面の門を入った所が玄関間
(Narthex)
  で、そこから聖堂に入るための扉口に彫
  られているのが、写真の彫刻である。
   最上部はかなり崩落しているが、聖母
  子に礼拝する東方三博士の場面である。
  全員の首が失われているのが残念だ。
   アーチの輪郭であるヴシュールには、
  奇妙な動物や様々な人物の姿が彫られて
  いる。彫りも良く、一体一体が何やら意
  味ありげな彫像ばかりなので、順番に見
  ているとなかなか聖堂内に入れない。
   聖堂は単身廊で、二つの八角形ドーム
  天井が造られていて珍しい。
   柱頭にも目を引く彫刻がいくつも在っ
  た。扉口と同様に彩色が見られるのだが、
  誰がいつ塗ったものかは判然としない。
   旧市街の石畳の道を歩き、主櫓まで行
  ってみた。ロッシュの町や周囲の森まで
  が、眼下に広がって見えた。
    

   
     
     ル・リジェ聖ジャン礼拝堂
     Le Liget/ Chapelle St-Jean

                         3 Indre-et-Loire

                          
   城下町ロッシュの東、延々と続く森の中
  に旧リジェ修道院が有る。その広大な寺域
  の一角に立つ、円形の小さな礼拝堂が目的
  であった。修道院に住む親切な管理人が、
  大らかなことにも鍵を貸してくれた。
   扉を開いて中へ入ってみると、そこは円
  形に連なる絵巻物の世界だった。二つの入
  口と七つの半円アーチ窓に仕切られた壁の
  上部全てに、淡く優しい色のフレスコ画が
  描かれていた。
   キリストの誕生、十字架降架、復活を表
  す墓場の聖女達などのほか、窓の側壁には
  ペテロやパウロ、ブノアやニコラなどの聖
  人像が見られる。
   写真のフレスコ画は、壁部分に有る聖母
  マリアの死と、そこに集まった聖人達の像
  である。安らかなマリアの顔や、他の聖人
  の表情が、ロマネスクにふさわしい抽象の
  成された美しい図像である。
   しかし、何よりも魅力なのは、品格に溢
  れた場面構成の質の高いことであり、色彩
  のバランスが渋めの色に統一して表現され
  ていることだろう。
    

     
       
     アンジェ旧修道院棟(旧聖オーバン修道院)
     Angers/ Anciens bâtiments coinventuels
             
(Ancienne Abbaye St-Aubin)

                          4 Maine-et-Loire

               
   アンジェの町は、アンジュー Anjou 地方の旧首
  都であり、また現在のメーヌ・エ・ロワール
(Maine
  
-et-Loir)県の県庁所在地でもある。
   その県庁舎の建物は、旧サン・トーバン修道院の
  一部を利用しており、現在の中庭の一部に、ロマネ
  スク時代の装飾彫刻の残るアーケードが保存されて
  いた。

   それは回廊と教会とを繋ぐ部分で、大きな半円ア
  ーチ門とそれに連なる装飾アーケード群で構成され
  ている。写真はアーケードの内、フレスコ装飾の残
  る最も美しい部分である。フレスコの上部には、香
  を持つ二人の天使によって支えられた玉座の聖母像
  が彫られ、さらに外側の大きなアーチには、無数の
  天使達がこれを祝福している。
   壁と柱の全てが濃密な図像と精緻な装飾模様に埋
  め尽くされているにもかかわらず、アーケード全体
  が軽やかな統一感に満ち、けばけばした厭らしさは
  微塵も感じられない。

   生きている教会ではなく、博物館に飾られてしま
  った教会建築の遺構のつまらなさは、クリュニー美
  術館などで知っているが、ここだけは別物である。
    

      
      
     サヴニエール聖ピエール教会
     Savennières/ Église St-Pierre
    
                         4 Maine-et-Loire

               
   2002年の冬のロワールの旅の際、私達は教会の前
  に三脚を立て、ファインダーを覗いていた。その時
  一人の日本人女性が、なんと視界を横切ったのであ
  る。およそ観光客などは行かない、全くの田舎の村
  である。彼女は縁有ってこの地のワイナリーの若旦
  那と出会い、この町で一緒に住んでいたのだった。
  以来、その若夫婦との交誼は、親しく継続している。

   教会は十字形単身廊の簡素なプランで、南袖廊部
  分が鐘塔に改造されている。ロマネスク初期の古い
  聖堂の南側にアーチ門を造り、東側に写真の半円形
  祭室を張り出した格好となっている。
   祭室の半球形ドームや、半円アーケードとなって
  いる窓の部分はロマネスクならではの美しさである。
   壁の一部には、創建当初の古い装飾煉瓦が残され
  ている。
   後陣と南門には、軒持ち送りの装飾彫刻が見られ、
  一つ一つがしっかりと彫られた傑作ばかりである。
  
   アンジェーの西15
Km、ロワール河沿いの静か
  な村で、村名の
AOCを持つ通好みの白ワインを産出
  している。畑の石の香り豊かな辛口で、爽快な喉越
  しと芳醇な後味が自慢だ。典型的な“花より団子”
  の里である。
    

    
       
     キュノーノートルダム教会
     Cunault/ Église Notre-Dame

                           4 Maine-et-Loire

                       
   キュノーの教会はロワールの流れに沿った、アン
  ジェの上流約30
Kmにある修道院の付属教会堂で
  ある。
   聖母マリアへの巡礼を受け入れるための壮大な規
  模の割に、清楚で質実な印象を受けるのは、やはり
  ベネディクト会に属する修道院の影響だろう。

   半円アーチを基本とした高い天井と無数の列柱が
  構成する空間は、厳寒の空気をさらに浄化させるよ
  うな引締まった美しさを見せていた。

   ここで見逃せないのは、それぞれの柱の上部に彫
  られた200個以上の柱頭彫刻である。だが、写真
  でもお分かりの通り、かなり高い所にあるために、
  その詳細を鑑賞するためには望遠鏡が必需である。
  私は撮影用の望遠レンズで、撮影と鑑賞の楽しみを
  同時に味わうこととなった。
   聖書の逸話も見られるが、何より面白いのは様々
  な姿をした怪獣や怪物である。想像しうる全てのイ
  メージが出揃っているのではないか、と思われるほ
  どの内容と数量である。彩色、特に朱色が残ってお
  り、当初はかなり派手だったのかもしれない。
   上ばかり向いていて、首が痛くなってしまった。 
    

     
     
     ソミュールナンティイの聖母教会
     Saumur /Église Notre-Dame-du-Nantilly

                         4 Maine-et-Loire

     
   ロワールの城巡りの中で、重要な城の一つが在
  る事で有名な町である。私にとっては、ロワール
  の赤の代表として、シノン
Chinon やブルグイユ
  
Bourgueil と共に、決して無視して通過すること
  のできない場所なのである。

   教会は城の背後の小高い丘の上に建っており、
  全体の印象はほとんどがゴシックに改修されてい
  るというものだった。
   後陣の祭室部分が歴然としたロマネスクだった
  ので、少し安心して身廊に入った。しかし、身廊
  の天井は尖頭ヴォールトながら、柱頭から下は半
  円アーケードが連続するロマネスクで、翼廊との
  交差部の天井だけが交差リブのゴシックだった。
   ロマネスク病患者にとって、ゴシックへの改造
  というものは異質の病原菌に侵されたようなもの
  なのである。
   柱頭彫刻には、目を見張らされる様な傑作が数
  多く見られた。写真はそのひとつで、主題は不明
  だったが、彫りの鋭さや明快な像容の捉え方に、
  並々ならぬ美意識が感じられたのだった。
    

     
      
     フォントヴローフォントヴロー旧大修道院
     Fontevrault/ Ancienne Abbaye de Fontevrault

                          4 Maine-et-Loire

             
   ソミュールとシノン Chinon のほぼ中間、ロ
  ワールの流れから少し丘陵地帯へ上った森の中
  から、この修道院を中心にした門前町が忽然と
  現われる。
   修道院は12世紀初頭の創建で、王家の庇護
  も厚かったため、当時は壮大な規模を誇ってい
  た。現在まで残った敷地や建造物からも、それ
  は容易に想像できる。
   写真は、大修道院付属教会の後陣から、翼廊
  と鐘塔を眺めたもので、全て12世紀の建築で
  ある。完璧すぎてかえって面白くないと家内は
  言うが、私はこの潔癖な美しさが好きである。
   単身廊だが四つの円蓋が連続しており、こん
  なに膨大かつ美しい身廊は滅多に無い。
   祭室には放射状に三つの礼拝堂が付けられ、
  翼廊には左右に小祭室が飛び出している。写真
  で、その意匠がよく判るだろう。
   随所に巧みに彫られた柱頭彫刻が配され、束
  ねられた太い柱の林立する姿は、格別の法悦を
  演出するに足る空間であったのだろう。
   回廊の西北端に12世紀の台所
(Cuisine)
  残っている。ロマネスク様式で建造された珍し
  い遺構で、煙突部分などとても美しい。
    

   
   
     ジュヌテイユ聖マルタン教会
     Genneteil/ Église St-Martin
    
                          4 Maine-et-Loire

               
   ル・ロワールの谷からアンジェに向かい、ラ・
  フレーシュ
La Flèche の町から南下し丘陵地帯に
  入ったところにこの村がある。
   教会は村の中心に建っており、正面の半円アー
  チ門以外は大半がゴシックに改築されていた。
   少しがっかりだったが、身廊に入り、さらにフ
  レスコ画の描かれた後陣の礼拝堂に入ってびっく
  りしてしまった。この部屋にだけ、完璧なロマネ
  スクの空気が充満していたからである。
   半円アーチ天井と両端の壁の部分は、鮮烈な朱
  とオレンジ色を主体としたフレスコ画で埋め尽く
  されている。
   写真は東壁と蒲鉾形半円天井を見上げたところ
  で、二人の天使に玉座を支えられた、栄光の聖母
  子像である。
   天使の横から人物像が続いていて、片側に8人
  づつ合計16人の女性が並んでいる。手に燭台か
  油壷のようなものを持った、聖女の行進を描いた
  ものらしい。その意味合いは余りよく判らない。
   反対側の西壁には、ヨハネから洗礼を受けるキ
  リストが、礼拝堂入口のアーチ内壁には、カイン
  とアベルの物語が描かれている。
    

     
       
     ポンティニェ聖ドニ教会
     Pontigné/ Église St-Denis
     
                          4 Maine-et-Loire

                   
   ジュヌテイユから田園地帯をさらに10
  Km走ると、小麦畑の向こうに黒い色をした
  尖塔が見えてくる。そこがポンティニェの
  集落だった。
   ここも正面入口にはロマネスクの面影が
  残されているが、内陣の印象はほとんどが
  ゴシック一色だった。リブ・ボールトとい
  う梁を使った天井は、アンジュー地方独自
  のプランタジュネ様式で、ロマネスクから
  ゴシックへの過渡期の様式である。
   柱頭から下の基礎的な建築部分には、ロ
  マネスクの石積感覚的な素朴さが残されて
  いた。
   特に、写真に見るような、怪物を主題に
  した柱頭彫刻は、ロマネスク時代の謎めい
  た美意識がたっぷりと発揮されたものであ
  る。翼廊部分のものが最も古く、他にも妙
  な動物や植物の化け物が見られて楽しい。
   彩色がどの時代に成されたかは不明だが、
  それほど違和感は感じられず、かえって愛
  嬌と迫力とが感じられたのだった。
   村で唯一の店であるクレッペリーで、ブ
  ルターニュ式の旨いクレープを食べた。
    

      
    
     ル・マンラ・クチュール聖母教会
     Le Mans/ Église Notre-Dame-de-la-Couture
     
                          5
Sarthe
                   
   ル・マンでは駅の近くの安宿に泊まったのだが、翌
  朝この教会まで歩いて行くのにはとても便利な場所だ
  った。
   大きな広場に面して建つ堂々とした建築で、西側正
  面はドイツの西の構えのような双塔を備えている。
   いずれも、ロマネスクの基礎の上に、ゴシックが乗
  っているといった印象を受けた。
   玄関間のような空間の奥に扉口があり、タンパンを
  備えていて、左右両壁に人物群像が配されている。
   これらの彫刻は全てゴシック以降に制作されたもの
  らしい。

   身廊は創建当初の様式らしく、ファサードのイメー
  ジとは全く異なる単身廊で、翼廊を備えた十字形の聖
  堂である。身廊の壁を眺めると、一層目はロマネスク
  のイメージ通り窓は無く、二層目がゴシック的な採光
  窓となっている。
   内陣が馬蹄形のアーケードとなっており、十本の円
  柱と二本の束ね柱が美しい祭室を構成している。周囲
  が周歩廊となっていて、翼廊から後陣を半周すること
  が出来る。
   写真は、翼廊から馬蹄形アーケードの一部を眺めた
  もので、豪快な円柱によって構成された祭室の壮麗な
  雰囲気が出ていると思う。このあたりの円柱や柱頭彫
  刻は、11世紀後半のものらしい。
   地下のクリプトには、交差穹窿の天井と素朴な柱頭
  が残されており、もの静かにこの教会の歴史を伝えて
  いる。
  
    

    
    
     ル・マン聖ジュリアン大聖堂
     Le Mans/ Cathédrale St-Julien
     
                          5
Sarthe
                   
   ル・マンの大聖堂といえば、誰もが
  華麗なゴシック建築やステンドグラス
  を思い浮かべるだろう。
   しかし、それは翼廊から東側の内陣
  部分の話であり、正面も含め西側の身
  廊部分には、写真のようなロマネスク
  様式が見事に残っているのである。
   身廊は三廊式で、写真は側廊部分を
  写したものだ。側廊には半円横断アー
  チと交差穹窿のベイが十個続いており、
  片側二個づつで身廊の五個のベイを構
  成しているのである。何とも美しい構
  造ではないか。
   身廊は天井だけがゴシックに改造さ
  れており、盲アーケードと採光用の窓
  が仕切りアーケードの上に、実際は二
  層だが、あたかも三層構造であるかの
  ように配されている。
   側廊にもステンドグラスがはめ込ま
  れており、これらの中には11世紀ロ
  マネスク時代の作品も含まれている。
  “十字架の凱旋”や“昇天”などをモ
  チーフとしたものが特に古い。
   柱頭彫刻にも見るべきものが多く、
  ル・マン大聖堂は正にロマネスクのお
  寺なのである。
    

    
    
     ポンセ・シュル・ル・ロワール聖ジュリアン教会
     Poncé-sur-le-Loir/ Église St-julien
     
                          5
Sarthe
                   
   一連のフレスコ画が密集したロワー
  ルの支流ル・ロワール川の下流の町で、
  城は有名だがこの教会はほとんど知ら
  れていない。
   町外れの眺めの良い丘の上に建つ礼
  拝堂のような教会で、半円形の後陣を
  持つ三廊式のこじんまりとした聖堂だ
  った。主要な部分には、12世紀初頭
  の建築が残っているのだという。
   写真のように、壁面全体がフレスコ
  画で埋め尽くされている。保存状態は
  決して良いとは言えず、全体に退色が
  かなり進んでいる。朱色以外の、特に
  青や緑が白っぽく変色してしまってい
  るのが残念だ。
   “エジプト逃避”や“幼児虐殺”な
  どのほかに、ラザロの物語や踊り子の
  絵、狩猟図などが印象に残った。
   聖堂奥の祭室部分は色が鮮明なのだ
  が、全て後世に描かれたものだった。
   フレスコの枝葉を持つル・ロワール
  という川の流域は、何とも不思議な独
  特の雰囲気を持っているような気がす
  る。
                 

     
   
     アスニエール・シュル・ヴェグル聖イレール教会
     Asnières-sur-Végre/ Église St-Hilaire
     
                          6
Mayenne
                   
   ル・ロワール川と下流で合流するサル
  ト川
Sarthe のまた支流が、この村を流
  れるヴェグルである。中世の石橋や水草
  の美しい水辺の、絵のような集落の中に
  この小さな教会は建っている。
   単身廊の聖堂で、アーチによって内陣
  と仕切られている。この方形の身廊部分
  のみが11世紀後半の遺構であり、壁面
  にフレスコ画が残されている。
   我々素人の眼にも、全体的な修復の筆
  跡が目立つのだが、今日まで残ってきた
  だけでも素晴らしいことだ、と考えるべ
  きだろう。
   写真は、仕切りアーチの壁に描かれた
  聖母子像で、部分的に剥落してはいるも
  のの、最も古い時代の作品だと言われて
  いる。
   三博士礼拝や幼児キリストを探すヘロ
  デの兵隊を描いた場面は傑作だが、地獄
  の責苦に喘ぐ亡者の姿はいかにもロマネ
  スク的で面白かった。
   
           

   
    
     ラヴァルアヴェスニエール聖母教会
     Laval/ Église Notre-Dame-d'Avésnières
     
                          6
Mayenne
                   
   ラヴァルの町では、プリッツのノートルダム教会
  
Notre-Dame de Pritz のフレスコ画が最大の目的だ
  ったのだが、残念なことに夏季しか公開していない
  のだという。
   
   もう一つの重要なロマネスク遺構であるこの教会
  は、城を中心とした旧市街からマイエンヌ川沿いに
  南へ少し歩いた所に堂々と建っている。
   三廊式十字形の壮麗な聖堂だが、西のファサード
  から身廊や側廊の大部分は19世紀に再建されたも
  のである。
   写真は川の対岸から眺めた後陣で、七つの半円形
  小祭室を持った美しい建築だが、この袖廊から東側
  の内陣・後陣部分が11世紀から12世紀にかけて
  のロマネスク時代のものなのである。
   六本の円柱が立つ馬蹄形の祭室の外側に、巡礼教
  会様式の周歩廊が設けられており、さらに小祭室が
  放射状に五つ並んでいる。
   さらに袖廊の両端に付けられた二つの小祭室を併
  せて、ここからは七つの祭室と、中央の大きな祭室
  の外観を一目で見ることが出来た。
   見事な彫刻の柱頭が美しい円柱によって馬蹄形に
  組まれたアーケードは、さらに上部に二層のアーケ
  ードを加えて三層になっている。
   薄暗い堂内で、巧みな照明によって浮かび上がっ
  た内陣の列柱の陰影は、幽玄の世界に誘われるよう
  な効果十分の演出が成されていた。
                 

     
      
     シャトー・ゴンティエ洗礼の聖ヨハネ教会
     Château-Gontier/ Église St-Jean-Baptiste
     
                          6
Mayenne
                   
   アンジェからマイエンヌ川(Mayenne)に沿って北
  上すると、古都らしい落ち着いた風光明媚なこの町
  に着く。
   教会は川沿いの小高い丘の上に建っており、ロマ
  ネスク様式の鐘塔と後陣が公園の木々の間から見え
  隠れしている。
   聖堂は三廊式で、翼廊のある十字型である。祭室
  は主祭室のほかに、翼廊に小祭室が二つ付いている。
   主祭室にはステンドグラスも見られ、ここだけは
  大きくゴシックに改造されているようだった。
   身廊と側廊の境界は、写真のような切石を積んだ
  角柱と、半円アーチで構成されたアーケードになっ
  ている。写真は、側廊の内側から、反対側の翼廊部
  分を眺めたものである。曲線が交叉して創出された
  空間は、あたかも音楽を聴くように旋律的で、とて
  も心地よく感じられた。
   身廊や翼廊の壁にはフレスコ画が残っているが、
  新旧の時代が混在しているようだ。翼廊の絵の一部
  は12世紀である、と説明板には記されていた。
   クリプトは三廊式の素朴な地下祭室で、各柱間は
  交差ボールトの円形天井になっている。柱頭には、
  いかにも古そうな渦巻模様が彫られていた。
     

        このページTOPへ  次のページ (Berry)  前のページ (Bretagne)   ロマネスクTOPへ
  
     
日本庭園TOPへ 石造美術TOPへ 古代巨石文明TOPへ 総合TOPへ  掲示板へ