ロワールメーヌ地方
      のロマネスク
 
 Loire et Maine Romanes 
 
 
 
 Chapelle St-Georges-de-la-Couée
 St-Fraimbault Sarthe  
 
 パリから近いこの地方はフランスの庭とも
称される風光明媚な景勝地で、特に河畔の城
館巡りで知られている。
 ロワール河の支流であるル・ロワール河、
ヴィエンヌ河・アンドル河・シェール河など
の流域には、数多くのロマネスク聖堂が残さ
れている。

 ル・マンを中心としたメーヌ地方も併せて
記載した。

 建築はゴシックへと移行したものも多いの
だが、特徴の有るロマネスク期のフレスコ壁
画が必見である。
 
 
 
 
 県名と県庁所在地

  
ロワール地方
     
1 Loiret (Orléans)
     
2 Loir-et-Cher (Blois)
     
3 Indre-et-Loire (Tours)

  
アンジュー地方
     
4 Maine-et-Loire (Angers)

  
メーヌ地方
     
5 Sarthe (Le Mans)
     
6 Mayenne (Laval)
 
 
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 ジロール聖ドニ教会
  Girolles/Église St-Denis
 

      
1 Loiret
 
      
 
 
 ゾディアック叢書の別冊でこのタンパンの写
真を見て以来、その所在を探査していた。ブル
ゴーニュに在る同名の村を訪ねる、などといっ
た失敗もあったので、このロワール北端の教会
の発見は格別だった。
 次掲載のボエスに似たポーチの残る清楚な教
会だが、見所はやはりこのタンパンだろう。
 怪奇な顔を持つ唐草は龍を表すのだろうか。
奇妙な鳥や蔓と人面の謎。十字架を背負った神
の羊と栄光のキリスト。
 「黙示録の賛美」を主題としていることは間
違いなさそうだが、謎に満ちた貴重なタンパン
彫刻である。
 
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 ボエス聖ジェルマン教会
  Boësse
/Église St-Germain 

      
1 Loiret
 
      
 
 
 フォンテーヌブロウの南一帯はガーティネー
Gâtinais 地方と呼ばれる農村地帯だが、正面
の入口に特有のポーチを付けた小さな教会が点
在している。
 厳密にはロワール地方
Loiret の北端に、こ
の村は位置している。
 大半が12世紀に築造されたもので、いずれ
もロマネスクの特徴を備えているのが嬉しい。
 ボエスは人口300人足らずの寒村だが、教
会には写真のような威厳在るポーチが残されて
いた。
 聖堂入口の有る正面に付けられた、流れ屋根
で覆われている玄関間である。片側が回廊形式
のアーケードになっているのが特徴で、半円ア
ーチや柱頭の付いた列柱のシルエットがとても
美しい。柱頭の彫刻にはロマネスク的なモチー
フが見られたが、身廊や後陣はかなりゴシック
に改造されていた。
 
 
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 サン・ブノア・シュル・ロワール
      聖ブノア修道院教会

  St-Benoît-sur-Loire /
   Église Abbatiale St-Benoît

      
1 Loiret
 
      
  
 
 城巡りで名高いロワール河畔、オルレアンか
ら暫く東に走ると高い塔の有る修道院が見えて
来る。とても穏やかな景色だ。

 写真は正面入口の、玄関間に林立する太い列
柱である。柱頭の彫刻はいずれも大らかで、陰
影豊かな夢に満ちている。エジプト逃避やエリ
ザベス訪問など、魅力的な主題の傑作の他に、
不思議な動物や蔓模様が絡み合った怪奇な図像
も多い。
 芸術の草創期が示すのは、いつもやや粗野で
はあるが、湧き上がってくるような造形への情
熱が生み出した力感溢れる作品ばかりである。
11世紀半ばのこのサン・ブノアも、また例外
ではなかった。ここは単に教会の玄関だったの
では決してなく、石を刻む事に命がけの石工達
の壮大なアトリエだったに違いない。

 教会堂内部の荘重な雰囲気を、陳腐な言葉で
表現するのは困難だ。それは、ロマネスクなど
という建築様式を超越した、異次元の美しさを
備えているように感じられたからだった。
 それはきっと信仰という目に見えない偉大な
力と、石の建築という上辺の姿としての入れ物
との間が、見事に融合し合って存在しているか
らなのだろう。
 
 
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 ジェルミニー・デ・プレ
     
旧パラティーヌ礼拝堂
  Germigny-des-Prés /
  Ancienne Chapelle Palatine

       
1 Loiret
 
      
   
 
 サン・ブノアからオルレアン方面へと向かっ
て、約4キロのところに在る、フランスで最も
古い教会の一つであり、カロリング王朝時代の
素晴らしい芸術の遺構である。
 皇帝シャルルマーニュの側近で、サン・ブノ
アの大修道院長であったテオドュルフの礼拝堂
だった。
 ギリシャ十字型東側の小後陣、盲アーケード
の上部ドーム天井に、美しいモザイク画が残さ
れている。
 モザイクは9世紀初頭のものと伝えられて
いるが、ラヴェンナの作品を想起させる。

 正面に箱が描かれているが、これは契約の櫃
とそれを取り囲む天使達の像を描いたものであ
る。神と神に選ばれし民との契約のことだ。
 櫃を囲んでいるのは、神の知恵を表すとされ
る智天使である。智天使は、熾天使・座天使と
共に、天使軍の上級三隊を編成している。
 ちなみに、中級三隊は主天使・力天使・能天
使、下級三隊は権天使・大天使・天使という布
陣から成る。
 外側の天使は大天使で、二人の頭の間から神
の手が下へ延びている。
 燦然と眩いばかりの金色モザイクだが、品格
に満ちたデッサンが優雅な美しさをより高めて
いる。
 
 
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 ベルガルド・ドュ・ロワレ
          
聖母教会
  Bellgarde-du-Loiret/
      Église Notre-Dame

      
1 Loiret
 
      
   
 
 この町はオルレアネ Orléanais 地方と呼ば
れるロワレ県の東端部に位置しており、モンタ
ルジ
Montargis の町の西25キロにある。
 濠に囲まれた優美な城塞で知られる、瀟洒な
佇まいの町だった。
   
 聖堂は三廊式で、十字交差部に鐘塔の建つ荘
重な建築だが、翼廊や後陣などはゴシック期の
改造がどうしても目に付いてしまう。
 この教会の見所は、やはり写真の西側正面フ
ァサードだろう。
 正面の装飾は12世紀当初のものが保存され
ており、上部の三連窓と下部の三連アーケード
のバランスが美しい。
 中央の扉口は多重のヴシュールと、それを受
ける柱頭と側円柱、珍しい意匠のタンパンとで
構成されている。
 ヴシュールにはねじれた縄模様や連続するギ
ザギザ模様など、ユニークな意匠が見られる。
 タンパンに彫られた図柄は連続する蔓草模様
が中心となり、円形に絡まる蔓の中にそれぞれ
三枚の葉が入ったものである。さして優れた意
匠とは思えないが、この地方に多い単純な幾何
学模様を配したタンパンの事例の一つである。
 
 
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 コルトラ旧コルトラ教会
  Cortrat/Ancienne Église
         de Cortrat
 

       
1 Loiret
 
      
 
 
 無名のこの村は、モンタルジの南20キロに
位置する、数軒の農家しかない寒村である。
 村の礼拝堂のような、単身廊の素朴な聖堂で
ある。従来の後陣は崩壊していて、壁で仕切ら
れた新しい祭檀が設けられている。
 ここでも見所は正面の扉口であり、特にタン
パンに彫られた奇妙な図柄には興味をそそられ
る。
 タンパン外周の連続する不規則な植物らしき
模様や、中央の迷路のような図が一体何を物語
るのかは全く不明である。
 迷路の渦に絡まれたような人物像が左右に配
されており、シャガールの抽象画を見るような
胸のときめきすら感じられてしまう。
 なんとも妙な図像があったものである。
 
 
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 オルレアン聖エニャン教会
  Orléans/ Église St-Aignan

       
1 Loiret
 
      
   
 
 フランスのポアティエに滞在中、フランス在
住の友人から電話を貰い、サン・テニャンのク
リプトが特別公開されている、と教えられた。
パリへ戻る途中で、何としても立ち寄ってみる
ことにした。
 通常は閉鎖されており、見学には事前に市役
所の許可を必要とし時間的な制約も厳しかった
ので、今まで全く旅程に入れたことが無かった
だけに、友人の連絡は正に“神の声”だった。
      
 オルレアンの町の東南に建つ教会は、どこか
ら見ても完全なゴシック様式だった。クリプト
へは建物の背後、後陣の脇から地下へと降りて
いくことになる。

 起源は5世紀半ばまで遡るそうだが、クリプ
トは11世紀初頭に聖エニャンの聖遺物を祀る
ために設けられたのだという。
 クリプトの中心は周歩廊の付いた祭室で、五
つの半円形小祭室が周歩廊の外側に設けられて
いる。写真は、周歩廊の一部と、北側壁面に飾
られた六連アーケードである。円柱は壁面から
は離れており、抜群の技術を秘めている。
 随所にロマネスクらしい柱頭彫刻が埋め込ま
れており、一寸した宝探し気分になる。
 狐のような奇妙な動物と人物が描かれた柱頭
などは、石壁に覆われていたようだ。他にも、
ダニエルとライオンや様々な植物模様など、興
味深いモチーフに満ちている。  
 
 
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 ヴァンドーム旧トリニテ修道院
  Vendôme/Ancienne Abbaye
          de la Trinité

      
2 Loir-et-Cher
 
      
 
 
 修道院付属教会はフランボワイアン・ゴシッ
ク建築で、ロマネスク的な要素はほとんど見ら
れなかった。
 離れて建つ鐘塔はシャルトルの古塔のモデル
にもなった、12世紀ロマネスク様式である。
 写真は、教会参事会室
Salle Capitulaire
壁面に描かれた12世紀のフレスコ画である。
 キリストは復活後に十人の弟子の前に現れ、
湖上で網いっぱいの魚を獲った、というヨハネ
伝の記述を絵画化したものである。生き生きと
した弟子たちの表情や、色彩がとても美しい。
 
 
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 アレーヌ聖母教会
  Areines/ Église Notre-Dame    
 

      2 Loir-et-Cher 
 
      
 
 
 古都ヴァンドーム Vendôme から東へ3キ
ロ、ル・ロワール川に沿って走ると、清楚で歴
史の深いこの村に着く。
 教会は単身廊の素朴な礼拝堂の様であるが、
後陣以外の身廊や鐘塔はロマネスク以降の建築
らしい。
 しかし、内陣の壁面に描かれたフレスコ画は
12世紀以来の作品である。部分的に、後世の
手が入っているようだ。
 祭室正面に、四福音書家のシンボルに囲まれ
たキリスト像が描かれ、さらに多くの使徒達が
並んでいる。
 正面の窓の開口部壁面には、聖戦の騎士像が
描かれ、鎧と光輪が印象的だ。
 写真は半円天井に描かれた、受胎告知・御訪
問の場面である。かなり剥落しているが、デフ
ォルメされた像容がとても美しい。
 光背に使われている青色はセルリアン・ブル
ーと呼ばれるロワール地方独自の色で、全体に
鮮烈な印象を与えている。
 
 
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 プズー聖ピエール教会
  Pezou / Église St-Pierre    
 

      2 Loir-et-Cher 
 
      
   
 
 ヴァンドーム周辺には、正面の入口に半円ア
ーチの帯状装飾が有る門を持つ教会が幾つも点
在している。
 ルアン
Ruan 、エコマン Ecoman 、シャト
ー・ダン
Châteaudun などだが、このプゾー
の教会でもユニークな意匠の装飾を見ることが
出来た。
 教会建築の大半はロマネスク以後に改修され
たもので、聖堂の側面や鐘塔だけを見たら、き
っと通り過ぎてしまうだろう。
 西正面ファサードにはめ込むような格好で、
写真のポルタイユ(門)が保存されていた。
 基本的には丸と三角の連続模様を使った、至
極単純な意匠である。しかし、彫りが深く剛直
であり、陰影の濃い美しい装飾となっている。
 私はかつてアイルランドで見た、ケルトの影
響を受けたタンパンの彫刻を思い出していた。
そういえば、アーチの上の軒持ち送りに並ぶ生
首彫刻は、あたかもケルトの装飾の様である。
 三角の連続模様は、まるで鋸の刃のようでも
あり、サメが口を開けているようにも見える。
 そもそも、こうした抽象的な模様の装飾を、
教会の入口に施した意味合いとは一体何だった
のだろうか。
 聖堂荘厳のため、魔除け的な意味合いの結界
を作るため、それとも石工の洒落だったのだろ
うか。
 
 
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 モントワール・
  シュル・ル・ロワール

         
聖ジル礼拝堂
   Montoire-sur-le-Loir/
       Chapelle St-Gilles
    

      
2 Loir-et-Cher 

      
   
 
 ロワール河の支流にロワール河が有る、と言
われても謎々みたいで分からない。

 本流がロワール
Loire 川で支流がル・ロワ
ール
Le Loir というのが正しい答えだ。
 フランスの友人に発音の差を訊いてみたが、
まったく変わらないとのことだった。
 城下町ヴァンドームを流れているのが支流ル
・ロワールで、その下流にモントワールの町が
ある。

 お堂の壁から天井から、全ての空白がびっし
りとフレスコ画で埋められたこの小さな礼拝堂
は、まるで宝石箱の様な光に満ち溢れていた。
 大半は12世紀ロマネスクの壁画だが、この
写真の天使の何と大らかなことか。こんなにシ
ュールな天使は、あまり見たことがない。これ
は、栄光のキリスト像の周囲に舞う天使の一人
で、私の大好きな図像の一つだ。
 自由なデッサンという見方と、制約された空
間に無理やりはめ込んだ結果の産物という二つ
の見方が有りそうだが、そのどちらも正しいよ
うな気がしている。ロマネスク図像の原論に迫
っているような大胆な言い方に、言ってしまっ
てから一瞬腰が引けている。
 とまれ、めくるめくようなフレスコとの出会
いであった。
 
 
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 ラヴァルダン聖ジュネ教会
  Lavardin / Église St-Genest

      2 Loir-et-Cher 

      
   
 
 ラヴァルダンはル・ロワール河に面した、モ
ントワールの上流に位置する美しい町である。
 ゴシックの石橋や城砦が格好の景観を構成し
ており、スケッチ用の画材を持参しなかった事
を後悔させられた。

 聖ジュネ教会の外観は城塞のような鐘楼が有
ることでいかにも無骨に見えるのだが、内部で
は愛すべき初期ロマネスク建築の魅力を充分に
堪能できる。

 半円アーチの列柱で左右の側廊が仕切られて
おり、主に祭室部分の壁面は目を見張る程のフ
レスコ画で埋め尽くされている。
 いろいろな時代のものが複雑に存在している
ので明確には分からないのだが、左側の小祭室
の柱に描かれた「洗礼のキリスト」と「エッサ
イの木」が最も古い12世紀のものらしい。写
真に写っている奥の壁のフレスコは、ロマネス
クの印象からはややかけ離れたものだった。

 私の目には、写真の柱頭が最も古そうに見え
た。左側の聖母子像がユニークであり、特にケ
ルト的な意匠である渦巻の模様の使い方は興味
深かった。他の面には未完成の部分もあり、何
とも不思議な柱頭だった。  
 
 
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 サン・ジャック・デ・ゲレ
       聖ジャック教会

  St-Jacques-des-Guérets /
       
Église St-Jacques

      2 Loir-et-Cher 
 
      
   
 
 サン・ジャック・デ・ゲレの村もまたル・ロ
ワール河のほとりに有り、モントワールの下流
の町トゥルー
Troo の対岸に位置している。
 礼拝堂とも言うべき小さな教会だが、ゴシッ
クの尖塔が印象的なので、その外観からはロマ
ネスクの息吹は感じられない。
 しかし一歩内陣へ入れば、そこは色彩豊かな
溢れんばかりのロマネスク壁画の世界だった。
 12世紀の作品で、比較的修復も無く制作当
初の雰囲気をしっかりと保持しているように見
える。
 四福音書家の象徴に囲まれた「玉座のキリス
ト」像と、「最後の晩餐」が祭室正面の壁右側
に描かれている。左側はキリストの十字架磔刑
の図で、十字架に仕切られた四方に人物像が描
かれている。左上は太陽を右上は月を象徴した
人物像で、やや難解である。左下は聖母マリア
であり、写真は右下の、本を持つ使徒聖ヨハネ
St-Jean である。イエスの愛した弟子と呼ば
れ、聖母マリアやマグダラのマリア達と共に磔
刑に居合わせたとされている。
 色彩の鮮やかな図像であり、ロマネスク壁画
の抽象がつまらぬ写実を遥かに凌駕した表現力
を示す、という事を語る何よりのテキストだろ
うと思う。
 
 
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 サン・テニャン・シュル・シェール
         
聖エニャン教会
   St-Aignan-sur-Cher /
        Église St-Aignan

             
2 Loir-et-Cher
 
      
   
 
 有名なシュノンソー城の下を流れるシェール
河の上流に有る町で、教会は高台にある城の麓
に建っていた。
 建築は荘重だが、やや修復の跡が目に付く。
しかし目的はここではないので、地下の祭室に
降りなければならない。
 地下のクリプトは地上の祭室とほとんど変わ
らぬ設計で、周歩廊の周りに小さな祭室が三つ
有り、それぞれにフレスコ画が描かれていた。
 写真はその一つである。照明が暗かったので
その割には良く撮れたかと、自画自賛をしてい
るのだが。
 写真の部分は聖ジルの伝説が描かれており、
貧しい人に衣服を施す場面である。照明のスイ
ッチを入れ、そして、太く明瞭な輪郭線と色彩
が、祭室の闇の中からパッと現れ出て来た瞬間
は、震えるほど心揺さぶられる思いだった。
 別の祭室には、キリストがラザロを復活させ
る奇跡の場面が描かれているが、これも同じ工
房によるものか、聖ジルに似たタッチの傑作だ
った。
 中央祭壇の天井の半ドームに、いかにもロマ
ネスクらしい玉座のキリスト像のフレスコが有
る。ビザンチンのキリストの様な雰囲気がある
が、やや抽象化された像容にすっかり見入って
しまった。
 
 
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 セル・シュル・シェル
       
聖ウーシス教会
  Selles-sur-Cher/
      Église St-Eusice

      2 Loir-et-Cher
 
      
   
 
 ロワールの支流シェル川の上流に在る町で、
もう少し行くとベリー地方との境界になる。 
 町の始まりは聖ウーシスが修道院を創設した
ことによるが、その後町は大きく発展した。現
在残されている教会は、旧修道院付属教会の聖
堂である。
 正面の扉口は半円アーチのロマネスクだが、
ここでは先ず教会の背後へ回り、後陣の壁面に
彫られたレリーフやフリーズを見なければなら
ない。
 写真でもお判りのように、半円アーチ窓の上
部と窓のすぐ下に、連続して多くの人物像が彫
り込まれているのである。
 キリストの生涯を描いた場面が中心で、カナ
の饗宴・弟子の足を洗うキリスト・ラザロの復
活・キリスト受難などが主要な主題である。
 技術的に大それたものではないが、素朴な彫
りながら統一感のあるフリーズ彫刻で、人物の
大きな目に特徴がある。
 聖ウーシスの生涯や、月々の仕事を描いたフ
リーズも見られた。
 聖堂は三廊式で、祭室には周歩廊と放射状に
付けられた三つの小礼拝堂、翼廊の小祭室など
壮麗な12世紀の建築である。   
 
 
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 ロッシュ聖ウールス教会
  Loches/ Église St-Ours

      
3 Indre-et-Loire
 
      
  
 
 この町の旧市街はアンドル川に沿った小高い
丘に、城壁に囲まれた城郭塞都市である。王家
の門から入り、城塞へ登る途中にこの教会が建
っている。
 正面の門を入った所が
Narthex 玄関間で、
そこから聖堂に入るための扉口に彫られている
のが、写真の彫刻である。
 最上部はかなり崩落しているが、聖母子に礼
拝する東方三博士の場面である。全員の首が失
われているのが残念だ。
 アーチの輪郭であるヴシュールには、奇妙な
動物や様々な人物の姿が彫られている。彫りも
良く、一体一体が何やら意味ありげな彫像ばか
りなので、順番に見ているとなかなか聖堂内に
入れない。
 聖堂は単身廊で、二つの八角形ドーム天井が
造られていて珍しい。
 柱頭にも目を引く彫刻がいくつも在った。扉
口と同様に彩色が見られるが、誰がいつ塗った
ものかは判然としない。
 旧市街の石畳の道を歩き、主櫓まで行ってみ
た。ロッシュの町や周囲の森までが、眼下に広
がって見えた。
 
 
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 ル・リジェ聖ジャン礼拝堂
  Le Liget/ Chapelle St-Jean

      
3 Indre-et-Loire
 
      
 
 
 城下町ロッシュの東、延々と続く森の中に旧
リジェ修道院が有る。その広大な寺域の一角に
立つ、円形の小さな礼拝堂が目的であった。修
道院に住む親切な管理人が、大らかなことにも
鍵を貸してくれた。
 扉を開いて中へ入ってみると、そこは円形に
連なる絵巻物の世界だった。二つの入口と七つ
の半円アーチ窓に仕切られた壁の上部全てに、
淡く優しい色のフレスコ画が描かれていた。
 キリストの誕生、十字架降架、復活を表す墓
場の聖女達などのほか、窓の側壁にはペテロや
パウロ、ブノアやニコラなどの聖人像が見られ
る。
 写真のフレスコ画は、壁部分に有る聖母マリ
アの死と、そこに集まった聖人達の像である。
安らかなマリアの顔や、他の聖人の表情が、ロ
マネスクにふさわしい抽象の成された美しい図
像である。
 しかし、何よりも魅力なのは、品格に溢れた
場面構成の質の高いことであり、色彩のバラン
スが渋めの色に統一して表現されていることだ
ろう。
 
 
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 パルセイ・シュル・ヴィエンヌ
       聖ピエール教会

  Parçay-sur-Vienne/
       Église St-Pierre

      
3 Indre-et-Loire
 
      
  
 
 ヴィエンヌ川流域には珠玉のロマネスクが点
在しており、この村の教会もそのひとつに数え
られる。
 ここでは聖堂正面の扉口を含む、ファサード
全体が見所である。
 従来のロマネスクと違い、アーチや柱が浮い
てしまっていて、建築構造には関係の無い単な
る装飾だけのように見える。中央門の内側に、
タンパンではなく、石を積んで小さな門を造っ
ているからかなと感じた。
 中央のアーチ装飾は美しい。一重目は人の顔
と植物とを組み合わせた図像、二重目は植物の
蔓の連続模様、三重目に髭を生やした男の首が
並んでいる。
 扉口の門の両側に造られた装飾盲アーチなど
は、ポアトーやサントンジュ地方に多いファサ
ードの様式に似ているようだ。柱頭には、やは
りポアトー地方に多い人魚シレーヌの像も彫ら
れていた。
 盲アーチ部分の柱頭に巧妙な彫刻が見られ、
小さなファサード全体が、繊細な彫刻がびっし
りと散りばめられた、まるで精密画のような世
界だった。
 
 
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 リール・ブーシャール
     聖レオナール小修道院

  L'Ill-Bouchard /
      Prieuré St-Léonard

      
3 Indre-et-Loire
 
      
   
 
 ロワールの支流ヴィエンヌ河に面して、ジャ
ンヌ・ダルクゆかりの城下町シノンが有る。そ
こから更に河を遡ると、そこがかつて水運で繁
栄したリール・ブシャールの町である。
 町の南、やや小高くなった場所に修道院の遺
構が残されている。今見ることの出来るのは礎
石や残骸ばかりで、修道院付属教会の後陣祭室
部分だけが、残存する唯一の建造物だった。身
廊などの堂宇は完全に失われ、祭室の周歩廊と
小祭室、その列柱と柱頭のみが幻影のようにた
たずんでいた。

 だが、柱頭の彫刻を詳細に眺めて、その充実
した内容に驚いた。中心になるのは四本の大き
な柱頭で、「エジプト逃避」「キリスト磔刑」
「エルサレム入城」、写真の「受胎告知」が主
題となり、それぞれの面に付随した逸話が彫ら
れているのである。堂々たる人物像が特徴で、
おおらかなデッサンと精緻な細部表現とが見事
に調和している。受胎告知の右は「エリザベス
訪問」であり、左は「羊飼達の聖母子礼拝」で
ある。
 
 
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 タヴァン聖ニコラ教会
  Tavant/ Église St-Nicolas

      3 Indre-et-Loire
 
      
   
 
 この教会を過去に2回訪ねている。その度に
閉ざされた扉の前で、呆然とした失意を味わっ
たものだった。休暇の取れる冬にしか来ること
が出来なかったのだが、この教会が冬季に閉鎖
されてしまうことを2回目に初めて知った。
 2004年秋にようやく念願かなって見るこ
とが出来たが、これは正に現役からのリタイア
の功徳であった。
 ここでは地下祭室 (クリプト) の柱や壁に描
かれたフレスコ画だけが目的である。村役場の
係員に鍵を開けてもらわねば、決して中へは入
れない。
 夢にまで見たフレスコの数々は、想像以上に
色彩豊かであり、ロマネスクの時代とは思えぬ
ほど躍動的なデッサンだった。
 フレスコ画を見ることに、これほど興奮する
場面が今までに何度も有ったとは思えない。そ
れほど大きな憧れの存在だったのである。
 クリプトの柱は8本、壁面に11本有り、柱
頭の上壁から天井にかけて、全ての空間にフレ
スコが描かれていた。聖母像やアダムとイヴ、
ダヴィデ像など、見飽きることが無い。
 写真は、大好きな“踊る人”で、なんと生き
生きとしたデッサンであろうか。撮影禁止の中
でこの1枚だけ、かなりの幸運が私に訪れたの
であった。
 
 
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 リヴィエール聖母教会
  Riviére/ Église Notre-Dame

       
3 Indre-et-Loire
 
      
   
 
 城下町シノンに泊まった翌朝、絶妙な赤ワイ
ンを産する葡萄畑を抜け、ヴィエンヌ川に沿っ
てしばらく走ってこの不思議な教会を訪ねた。
 方形の単身廊の先端に、一段高くなって祭室
が設けられている。祭室は三廊式でやはり方形
の祭壇部分が外陣へ飛び出した形である。
 祭室の下は一段低くなっていて、地下のクリ
プトとなっている。
 写真は、祭室の中央から側廊を見たもので、
天井は半円筒ヴォ-ルトのれっきとしたロマネ
スク建築である。鮮烈な彩色が施されているの
で、ロマネスクのイメージからはかけ離れて見
えてしまうから不思議だ。どの時代に塗られた
のかは不明だが、それにしても悪趣味すぎる。
 だが建築や柱頭彫刻を詳細に見ている内に、
彩色を無視して見えるようになった。柱頭は抽
象的なモチーフが多く、怪物や動物の顔など幻
想的な傑作が揃っている。物の本質を見ること
の難しさが、少し見えた気がした。
 後陣の壁に彫られたレリーフや、壁面に施さ
れた幾何学模様が珍しかった。
 
 
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 アゼー・ル・リドー
     
聖シンフォリアン教会
  Azay-le-Rideau /
    Église St-Symphorien

      
3 Indre-et-Loire
 
      
 
 
 ここもロワールの城巡りの中では、珠玉の名
城として知られる美しい城館の在ることで有名
な町である。
 しかし、その城のすぐ脇に、初期ロマネスク
時代の美しいレリーフをファサードに持つ教会
の在ることは、余り知られていない。
 建築はゴシック期以降に改築されたもので、
彫刻は壁面にはめ込まれた格好で保存されてい
る。
 聖人像が窓の右側に三体、左側に四体、上部
に七体、合計十四体が残っている。写真は、そ
の上部七体である。
 半円アーケードの中に一人づつ立っているの
だが、コケシのように素朴であり、お地蔵様の
ように愛らしい。
 中央はキリストで、左端は聖母子の像ではな
いかと思う。残りが十二使徒ならば計算は合う
のだが、キリストの左二人は女性像のように見
えるので、そう簡単ではなさそうである。
 
 
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 ラ・リシュ(トゥール)
      
聖コーム小修道院
  La Riche (Tours)/
     Prieuré St-Cosme

             
3 Indre-et-Loire
 
      
   
 
 トゥールの町の中心からロワール河に沿って
西へ数キロ下った所に、この修道院の遺構が残
されている。庭園風に管理された、美しい区画
となっていた。16世紀の詩人ロンサールの墓
が有ると書かれていたが、残念ながら読んだこ
とも無い。

 写真には、部分的に残された付属教会の一部
である祭室を囲む周歩廊と、その外側に張り出
した小祭室の一つが写っている。素朴な半円ア
ーチが外側からの光に照らし出されて、とても
美しく見えた。
 剥落した漆喰、苔むした石の壁や柱などは、
11世紀といわれる創建の時代を髣髴とさせて
くれる。この小祭室の外観も見事だった。
 修道院遺跡に残るもう一つの建物は、少し離
れた所に建つ12世紀の修道士食堂である。鋸
の刃の様な形をした連続模様の彫られた門や、
内部には説教壇の細密な彫刻などが見事に保存
されていた。
 冬の季節ということもあったが、トゥールの
町もここまで来るとまことに閑静で、ロワール
の静かな流れと共に落ち着いた雰囲気を味わう
ことが出来たのだった。 
 
 
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 トゥール
    
旧聖マルタン聖堂遺跡
  Tours/Vestiges
    de l'Ancienne Basilique
         St-Martin

      3 Indre-et-Loire
 
      
   
 
 旧市街のレアル通りを歩くと右側に時計塔が
建っており、さらにその先左側にシャルルマー
ニュ塔
Tour Charlemagne が在る。
 いずれも旧聖マルタン聖堂の一部であった。
時計塔は正面入口の右塔であり、シャルルマー
ニュ塔は北側袖廊の名残である。つまり現在の
レアル通りは、今は失われてしまったかつての
身廊の真ん中を貫通していることになるのだ。

 シャルルマーニュ塔には美しい柱頭が残され
ており、レアル通り側から見ることが出来る。
 何を意味するのか不明だが、四方に二頭のラ
イオンが腕を組み合ったようにして彫られてい
る。中央に聖人が立ち、ライオンの背後で二人
の男が棒のような物を持っている。聖人の説話
なのか、それとも何かを比喩した寓話なのか。
 部分的に剥落しているのは惜しいが、確かな
デッサンに裏付けられた見事な彫刻で、12世
紀の作であることは間違いないようだ。
 塔の内部に、聖ジョルジュを描いたフレスコ
画が在ると聞いていたのだが、周囲の金網に鍵
がかかっていて入ることが出来なかった。 
 
 
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 レスティーニェ聖マルタン教会
  Restigné/Église St-Martin

      3 Indre-et-Loire
 
      
 
 
 ロワール産赤ワインのひとつとして知られる
ブルグイユ
Bourgueil の中心的な村の一つで
ある。
 教会は村の北端に建っており、周辺は広場に
なっている。カロリング時代に起源を持つ11
世紀の教会だが、現在は12世紀のロマネスク
様式を部分的に伝えているのみである。
 その一つが写真のタンパンで、聖堂南壁の扉
口に残されている。
 塔婆形のプレートや、葵の葉のような植物紋
を彫り込んだウロコ状の意匠が珍しい。下部に
は、尻尾に頭の生えた怪獣が二頭、左右にライ
オンと穴の中のダニエルを見る事が出来る。
 
 
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 フォントヴロー
    
フォントヴロー旧大修道院
  Fontevrault/Ancienne Abbaye
        de Fontevrault

      4 Maine-et-Loire
 
      
   
 
 ソミュールとシノンのほぼ中間、ロワールの
流れから少し丘陵地帯へ上った森の中から、こ
の修道院を中心にして開けた門前町が忽然と現
われる。
 修道院は12世紀初頭の創建で、王家の庇護
も厚かったため、当時は壮大な規模を誇ってい
た。現在まで残った敷地や建造物からも、それ
は容易に想像できる。
 写真は、大修道院付属教会の後陣から、翼廊
と鐘塔を眺めたもので、全て12世紀の建築で
ある。完璧すぎてかえって面白くないと家内は
言うが、私はこの潔癖な美しさが好きである。
 単身廊だが四つの円蓋が連続しており、こん
なに膨大かつ美しい身廊は滅多に無い。
 祭室には放射状に三つの礼拝堂が付けられ、
翼廊には左右に小祭室が飛び出している。写真
で、その意匠がよく判るだろう。
 随所に巧みに彫られた柱頭彫刻が配され、束
ねられた太い柱の林立する姿は、格別の法悦を
演出するに足る空間であったのだろう。
 回廊の西北端に12世紀の台所
Cuisine
残っている。ロマネスク様式で建造された珍し
い遺構で、煙突部分などとても美しい。
 
 
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 ソミュール
    ナンティイの聖母教会

  Saumur /Église
   Notre-Dame-du-Nantilly

      4 Maine-et-Loire
 
      
   
 
 ロワールの城巡りの中で、重要な城の一つが
在る事で有名な町である。私にとっては、ロワ
ールの赤の代表として、シノン
Chinon やブ
ルグイユ
Bourgueil と共に、決して無視して
通過することのできない場所なのである。

 教会は、城の背後の小高い丘の上に建ってお
り、全体の印象はほとんどがゴシックに改修さ
れているというものだった。
 後陣の祭室部分が歴然としたロマネスクだっ
たので、少し安心して身廊に入った。しかし、
身廊の天井は尖頭ヴォールトながら、柱頭から
下は半円アーケードが連続するロマネスクで、
翼廊との交差部の天井だけが交差リブのゴシッ
クだった。
 ロマネスク病患者にとって、ゴシックへの改
造というものは異質の病原菌に侵されたような
ものなのである。
 柱頭彫刻には、目を見張らされる様な傑作が
数多く見られた。写真はそのひとつで、主題は
不明だったが、彫りの鋭さや明快な像容の捉え
方に、並々ならぬ美意識が感じられた。
 
 
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 トレーヴ聖オーバン教会
  Trèves/Église St-Aubin

             4 Maine-et-Loire
 
      
 
 
 12世紀初頭に創建された教会で、ロワール
河畔に面した小さな集落の中に建っている。
 三連アーケードの中央の扉口を入ると、写真
の単身廊が目に入る。
 アーチの数々や付け柱などが清楚でとても美
しい。天井は残念ながら木造であり、アーチの
大半が尖頭形だが、建築の構造美の感じられる
好ましい身廊である。
 右側の方形の出張りは鐘塔の基礎部分で、壁
面の盲アーチの二重縁飾りには繊細で精緻な連
続植物模様が彫られている。
 後陣には小祭室も設けられ、三後陣が揃って
いて泣ける。
 
 
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 キュノーノートルダム教会
  Cunault/ Église Notre-Dame

      
4 Maine-et-Loire
 
      
   
 
 キュノーの教会はロワールの流れに沿った、
アンジェの上流約30キロにある修道院の付属
教会堂である。
 聖母マリアへの巡礼を受け入れるための壮大
な規模の割に清楚で質実な印象を受けるのは、
やはりベネディクト会に属する修道院の影響だ
ろう。

 半円アーチを基本とした高い天井と無数の列
柱が構成する空間は、厳寒の空気をさらに浄化
させるような引締まった美しさを見せていた。

 ここで見逃せないのは、それぞれの柱の上部
に彫られた200個以上の柱頭彫刻である。だ
が、写真でもお分かりの通り、かなり高い所に
あるために、その詳細を鑑賞するためには望遠
鏡が必需である。
 私は撮影用の望遠レンズで、撮影と鑑賞の楽
しみを同時に味わうこととなった。
 聖書の逸話も見られるが、何より面白いのは
様々な姿をした怪獣や怪物である。想像しうる
全てのイメージが出揃っているのではないか、
と思われるほどの内容と数量である。彩色、特
に朱色が残っており、当初はかなり派手だった
のかもしれない。
 上ばかり向いていたので、首が痛くなってし
まった。
 
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 アンジェ旧修道院棟
     (旧聖オーバン修道院)

  Angers/ Anciens bâtiments
         coinventuels
  
(Ancienne Abbaye St-Aubin)

      
4 Maine-et-Loire

      
   
 
 アンジェの町は、アンジュー Anjou 地方の
旧首都であり、また現在のメーヌ・エ・ロワー
ル県の県庁所在地でもある。
 その県庁舎の建物は、旧サン・トーバン修道
院の一部を利用しており、現在の中庭の一部に
ロマネスク時代の装飾彫刻の残るアーケードが
保存されていた。

 それは回廊と教会とを繋ぐ部分で、大きな半
円アーチ門とそれに連なる装飾アーケード群で
構成されている。写真はアーケードの内、フレ
スコ装飾の残る最も美しい部分である。フレス
コの上部には、香を持つ二人の天使によって支
えられた玉座の聖母像が彫られ、さらに外側の
大きなアーチには、無数の天使達がこれを祝福
している。
 壁と柱の全てが濃密な図像と精緻な装飾模様
に埋め尽くされているにもかかわらず、アーケ
ード全体が軽やかな統一感に満ち、けばけばし
た厭らしさは微塵も感じられない。

 生きている教会ではなく、博物館に飾られて
しまった教会建築の遺構のつまらなさは、クリ
ュニー美術館などで知っているが、ここだけは
別物である。
 
 
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 サヴニエール聖ピエール教会
  Savennières/ Église St-Pierre

      4 Maine-et-Loire

      
   
 
 2002年冬のロワールの旅の際、私達は教
会の前に三脚を立て、ファインダーを覗いてい
た。その時一人の日本人女性が、なんと視界を
横切ったのである。およそ観光客などは行かな
い、全くの田舎の村である。彼女は縁有ってこ
の地のワイナリーで働いていたのだが、これが
御縁で、以来彼女との交誼は親しく継続してい
る。近年、彼女は新しい生活をブルターニュで
始めることになった。

 教会は十字形単身廊の簡素なプランで、南袖
廊部分が鐘塔に改造されている。ロマネスク初
期の古い聖堂の南側にアーチ門を造り、東側に
写真の半円形祭室を張り出した格好となってい
る。
 祭室の半球形ドームや、半円アーケードとな
っている窓の部分はロマネスクならではの美し
さである。壁の一部には、創建当初の古い装飾
煉瓦が残されている。
 後陣と南門には、軒持ち送りの装飾彫刻が見
られ、一つ一つがしっかりと彫られた傑作ばか
りである。
  
 アンジェーの西15キロ、ロワール河沿いの
静かな村で、村名のAOCを持つ通好みの白ワ
インを産出している。畑の石の香り豊かな辛口
で、爽快な喉越しと芳醇な後味が自慢だ。典型
的な“花より団子”の里である。
 
 
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 ジュヌテイユ聖マルタン教会
  Genneteil/ Église St-Martin

      4 Maine-et-Loire
 
      
   
 
 ル・ロワールの谷からアンジェに向かい、ラ
・フレーシュ
La Flèche の町から南下し丘陵
地帯に入ったところにこの村がある。
 教会は村の中心に建っており、正面の半円ア
ーチ門以外の大半は、ゴシックに改築されてし
まっている。
 少しがっかりだったが、身廊に入り、さらに
フレスコ画の描かれた後陣の礼拝堂に入ってび
っくりしてしまった。この部屋にだけ、完璧な
ロマネスクの空気が充満していたからである。
 半円アーチ天井と両端の壁の部分は、鮮烈な
朱とオレンジ色を主体としたフレスコ画で埋め
尽くされている。
 写真は東壁と蒲鉾形半円天井を見上げたとこ
ろで、二人の天使に玉座を支えられた、栄光の
聖母子像である。
 天使の横から人物像が続いていて、片側に8
人づつ合計16人の女性が並んでいる。手に燭
台か油壷のようなものを持った、聖女の行進を
描いたものらしい。その意味合いは余りよく判
らない。
 反対側の西壁には、ヨハネから洗礼を受ける
キリストが、礼拝堂入口のアーチ内壁には、カ
インとアベルの物語が描かれている。
 
 
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 ポンティニェ聖ドニ教会
  Pontigné/Église St-Denis

      4 Maine-et-Loire
 
      
 
 
 ジュヌテイユから田園地帯をさらに10キロ
走ると、小麦畑の向こうに黒い色をした尖塔が
見えてくる。そこがポンティニェの村だった。
 ここも正面入口にはロマネスクの面影が残さ
れているが、内陣の印象はほとんどがゴシック
一色だった。リブ・ボールトという梁を使った
天井は、アンジュー地方独自のプランタジュネ
様式で、ロマネスクからゴシックへの過渡期の
様式である。
 柱頭から下の基礎的な建築部分には、ロマネ
スクの石積感覚的な素朴さが残されていた。
 特に、写真に見るような、怪物を主題にした
柱頭彫刻は、ロマネスク時代の謎めいた美意識
がたっぷりと発揮されたものである。翼廊部分
のものが最も古く、他にも妙な動物や植物の化
け物が見られて楽しい。
 彩色がどの時代に成されたかは不明だが、そ
れほど違和感は感じられず、かえって愛嬌と迫
力とが感じられたのだった。
 村で唯一の店であるクレッペリーで、ブルタ
ーニュ式の旨いクレープを食べた。
 
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 ポンセ・シュル・ル・ロワール
       
聖ジュリアン教会
  Poncé-sur-le-Loir/
      Église St-julien

      
5 Sarthe
 
      
 
 
 一連のフレスコ画が密集したロワールの支流
ル・ロワール川の下流の町で、城は有名だがこ
の教会はほとんど知られていない。
 町外れの眺めの良い丘の上に建つ礼拝堂のよ
うな教会で、半円形の後陣を持つ三廊式のこじ
んまりとした聖堂だった。主要な部分には12
世紀初頭の建築が残っているのだという。
 写真のように、壁面全体がフレスコ画で埋め
尽くされている。保存状態は決して良いとは言
えず、全体に退色がかなり進んでいる。朱色以
外の、特に青や緑が白っぽく変色してしまって
いるのが残念だ。
 “エジプト逃避”や“幼児虐殺”などのほか
に、ラザロの物語や踊り子の絵、狩猟図などが
印象に残った。
 聖堂奥の祭室部分は色が鮮明なのだが、全て
後世に描かれたものだった。
 フレスコの分布枝葉を持つル・ロワールとい
う川の流域は、何とも不思議な独特の雰囲気を
持っているような気がする。
 
 
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 アスニエール・シュル・ヴェグル
        
聖イレール教会
  Asnières-sur-Végre/
      Église St-Hilaire

      5 Sarthe
 
      
 
 
 ル・ロワール川と下流で合流するサルト川の
また支流が、この村を流れるヴェグルである。
 中世の石橋や水草の美しい水辺の、絵のよう
な集落の中にこの小さな教会は建っている。
 単身廊の聖堂で、アーチによって内陣と仕切
られている。この方形の身廊部分のみが11世
紀後半の遺構であり、壁面にフレスコ画が残さ
れている。
 我々素人の眼にも、全体的な修復の筆跡が目
立つのだが、今日まで残ってきただけでも素晴
らしいことだ、と考えるべきだろう。
 写真は、仕切りアーチの壁に描かれた聖母子
像で、部分的に剥落してはいるものの、最も古
い時代の作品だと言われている。
 三博士礼拝や幼児キリストを探すヘロデの兵
隊を描いた場面は傑作だが、地獄の責苦に喘ぐ
亡者の姿はいかにもロマネスク的で面白い。
 
 
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 ル・マン
    ラ・クチュール聖母教会

  Le Mans/ Église
   Notre-Dame-de-la-Couture

      
5 Sarthe
 
      
   
 
 ル・マンでは駅の近くの安宿に泊まったのだ
が、翌朝この教会まで歩いて行くのにはとても
便利な場所だった。
 大きな広場に面して建つ堂々とした建築で、
西側正面はドイツの西の構えのような双塔を備
えている。
 いずれも、ロマネスクの基礎の上に、ゴシッ
クが乗っているといった印象を受けた。
 玄関間のような空間の奥に扉口があり、タン
パンを備えていて、左右両壁に人物群像が配さ
れている。
 これらの彫刻は全てゴシック以降に制作され
たものらしい。

 身廊は創建当初の様式らしく、ファサードの
イメージとは全く異なる単身廊で、翼廊を備え
た十字形の聖堂である。身廊の壁を眺めると、
一層目はロマネスクのイメージ通り窓は無く、
二層目がゴシック的な採光窓となっている。
 内陣が馬蹄形のアーケードとなっており、十
本の円柱と二本の束ね柱が美しい祭室を構成し
ている。周囲が周歩廊となっていて、翼廊から
後陣を半周することが出来る。
 写真は、翼廊から馬蹄形アーケードの一部を
眺めたもので、豪快な円柱によって構成された
祭室の壮麗な雰囲気が出ていると思う。このあ
たりの円柱や柱頭彫刻は、11世紀後半のもの
らしい。
 地下のクリプトには、交差穹窿の天井と素朴
な柱頭が残されており、もの静かにこの教会の
歴史を伝えている。
 
 
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 ル・マン聖ジュリアン大聖堂
  Le Mans/ Cathédrale St-Julien

      
5 Sarthe
 
      
 
 
 ル・マンの大聖堂といえば、誰もが華麗なゴ
シック建築やステンドグラスを思い浮かべるだ
ろう。
 しかし、それは翼廊から東側の内陣部分の話
であり、正面も含め西側の身廊部分には、写真
のようなロマネスク様式が見事に残っているの
である。
 身廊は三廊式で、写真は側廊部分を写したも
のだ。側廊には半円横断アーチと交差穹窿のベ
イが十個続いており、片側二個づつで身廊の五
個のベイを構成しているのである。何とも美し
い構造ではないか。
 身廊は、天井だけがゴシックに改造されてお
り、盲アーケードと採光用の窓が仕切りアーケ
ードの上に、実際は二層だが、あたかも三層構
造であるかのように配されている。
 側廊にもステンドグラスがはめ込まれ、これ
らの中には11世紀ロマネスク時代の作品も含
まれている。
 “十字架の凱旋”や“昇天”などをモチーフ
としたものが特に古い。
 柱頭彫刻にも見るべきものが多く、ル・マン
大聖堂は正にロマネスクのお寺なのである。
 
 
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 フレスネイ・シュル・サルト
         
聖母教会
  Fresnay-sur-Sarthe/
      Église Notre-Dame

      5 Sarthe
 
      
 
 
 ル・マンの北35キロに開けた中都市で、教
会は町のほぼ中心の広場に面して建っている。
 12世紀創建、単身廊で三つの梁間、翼廊と
の交差部に鐘塔、三後陣を配置、という文句無
しのロマネスク様式である。
 ただ、天井のヴォールトや横断アーチの全て
が尖頭アーチなのが気に入らないが、この場所
でゴシックの荒波を避けることは至難であった
証左だろう。
 西正面のファサードが端正だ。上段の三連ア
ーケードと下段の扉口のバランスが美しい。ユ
ニークな軒持ち送り彫刻も見られる。
 
 
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 テニー聖コルネイユ
    聖シプリアン旧小修道院

  Tennie/ Ancienne Priorale  
   St-Corneille-et-St-Cyprien

             
5 Sarthe
 
      
 
 
 ル・マンの西30キロ、先述のフレスネイの
南28キロに位置する小村である。
 11世紀の創建で、現在の建築の大半は12
世紀の遺構という。
 単身廊に翼廊、半円後陣は中央のみという簡
素な構造である。交差部の柱頭は、様々な奇怪
な姿の像で飾られている。
 写真はその内の一つで、人面を持つ動物が絡
み合う図である。他に、猿や龍のお化けみたい
な動物たちや怪しい大男など、まるで怪獣図鑑
を見る様な気分にさせられる。
 正面ファサードの、上下二段のギザギザ波型
アーチ飾りが印象的だった。
 
 
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 シャトー・ゴンティエ
     洗礼の聖ヨハネ教会

  Château-Gontier/ Église
        St-Jean-Baptiste

      6 Mayenne
 
      
   
 
 アンジェからマイエンヌ川に沿って北上する
と、古都らしい落ち着いた風光明媚なこの町に
着く。
 教会は川沿いの小高い丘の上に建っており、
ロマネスク様式の鐘塔と後陣が公園の木々の間
から見え隠れしている。
 聖堂は三廊式で、翼廊のある十字型である。
祭室は主祭室のほかに翼廊に小祭室が二つ付い
ている。
 主祭室にはステンドグラスも見られ、ここは
大きくゴシックに改造されているようだった。
 身廊と側廊の境界は、写真のような切石を積
んだ角柱と、半円アーチで構成されたアーケー
ドになっている。写真は、側廊の内側から、反
対側の翼廊部分を眺めたものである。曲線が交
叉して創出された空間は、あたかも音楽を聴く
ように旋律的で、とても心地よく感じられた。
 身廊や翼廊の壁にはフレスコ画が残っている
が、新旧の時代が混在しているようだ。翼廊の
絵の一部は12世紀である、と説明板には記さ
れていた。
 クリプトは三廊式の素朴な地下祭室で、各柱
間は交差ボールトの円形天井になっている。柱
頭には、いかにも古そうな渦巻模様が彫られて
いた。
 
 
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 エヴロンレピーヌの聖母聖堂
  Évron/ Basilique
     Notre-Dame-de-l'Épine

      
6 Mayenne
 
      
   
 
 ラヴァルの東32キロ、ル・マンの西55キ
ロという場所に在る地方都市である。
 “謎の聖堂”として知られる教会なのだが、
何が謎なのかはついに判らなかった。
 7世紀に創建されたとか、11世紀に何らか
の奇跡があって建てられたと記されているが、
創建の由来が謎と言えば謎なのかもしれない。

 祭室も含め、聖堂の重要な中心部分は全て完
全なゴシック様式なのだが、西側に付け足した
おまけの様に残された身廊と側廊部分にのみ、
12世紀のロマネスク様式が残されていた。
 写真は、南側の側廊から左側の身廊方向を撮
ったもので、玄関間と四つの梁間が保存されて
いるのである。ゴシック部分の豪華絢爛さに比
して、何故かくも地味で簡素な尻尾のような部
分を残したのか、これも謎なのかも知れない。
 写真の後方に、あと二つの梁間と玄関間が続
いており、北側の側廊は失われている。
 私達の様なロマネスク信奉者にとっては、奇
跡に近い遺構と言わざるを得ない。

 ゴシック聖堂の北側に隣接して、12~13
世紀のチャペルが在るのだが、この日は閉鎖さ
れていて何らかの事前予約が必要であるらしく
交渉は不発に終わった。再来を期すほどの建築
ではないと決め込み、諦めることにした。
 
 
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 ラヴァル
   
アヴェスニエール聖母教会
  Laval/ Église
   Notre-Dame-d'Avésnières

      
6 Mayenne
 
      
   
 
 ラヴァルの町では、プリッツのノートルダム
教会
Notre-Dame de Pritz のフレスコ画が最
大の目的だったのだが、残念なことに夏季しか
公開していないのだという。
   
 もう一つの重要なロマネスク遺構であるこの
教会は、城を中心とした旧市街から、マイエン
ヌ川沿いに南へ歩いた所に堂々と建っている。
 三廊式十字形の壮麗な聖堂だが、西のファサ
ードから身廊や側廊の大部分は19世紀に再建
されたものである。
 写真は川の対岸から眺めた後陣で、七つの半
円形小祭室を持った美しい建築だが、この袖廊
から東側の内陣・後陣部分が11世紀から12
世紀にかけてのロマネスク時代のものである。
 六本の円柱が立つ馬蹄形の祭室の外側に、巡
礼教会様式の周歩廊が設けられており、さらに
小祭室が放射状に五つ並んでいる。
 さらに袖廊の両端に付けられた二つの小祭室
を併せて、ここからは七つの祭室と、中央の大
きな祭室の外観を一目で見ることが出来た。
 見事な彫刻の柱頭が美しい円柱によって馬蹄
形に組まれたアーケードは、さらに上部に二層
のアーケードを加えて三層になっている。
 薄暗い堂内で、巧みな照明によって浮かび上
がった内陣の列柱の陰影は、幽玄の世界に誘わ
れるような効果十分の演出が成されていた。
 
 
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 ラヴァル旧城
  Laval/ Vieux Château

      
6 Mayenne
 
      
 
 
 マイエンヌ川沿いに天守閣のそびえる要塞の
様な城郭で、塔上からの眺望は絶景だった。
 城内広場の細い石段を降りた所に、地下の部
Le Salle basse と呼ばれる写真の礼拝堂が
保存されている。
 まるで教会のクリプトの様でもあり、円柱や
柱頭、交差穹窿の天井など、見事なロマネスク
様式が保たれている。
 特に柱頭には、彫りの深い蔓状に絡まる様々
な植物模様が意匠されていており、ラヴァル伯
爵の居城であっただけに、名だたる石工が動員
されたのだろう。 
 この部屋からも、マイエンヌの流れを眺望で
きる。
 
 
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 クレルモン旧シトー派修道院
  Clermont/ Ancienne Abbaye
          Cistercienne

      
6
Mayenne
      
 
 
 12世紀前半に創設されたシトー派の修道院
で、革命以来農作物の倉庫になっていた。近年
になって発掘、修復されたものだそうだ。
 写真は身廊から祭室部分を眺めたもので、三
段の窓がいかにもシトー派らしい精一杯の装飾
のようだ。
 右へ延びる部分は長い翼廊で、左右に大きな
翼を広げたような構造になっている。壮大な僧
院であったことが想像される。
 聖堂の南側に大きな回廊の廃墟が残され、現
在は雑草に覆われているが、かつての瞑想と信
仰の場としての厳粛さを今に伝えているかのよ
うだった。
 
 
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