| ロワール地方のロマネスク |
| Loire Romane |
| パリから近いこの地方は、フランスの庭とも称される風光明媚 な景勝地で、特に河畔の城館巡りで知られている。 ロワール河の支流であるル・ロワール河、ヴィエンヌ河・アン ドル河・シェール河などの流域には、数多くのロマネスク聖堂が 残されている。 建築はゴシックへと移行したものも多いのだが、特徴の有るロ マネスク期のフレスコ壁画が必見である。 |
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県名と県庁所在地 1 Loiret (Orléans) 2 Loir-et-Cher (Blois) 3 Indre-et-Loire (Tours) 4 Maine-et-Loire (Angers) 5 Sarthe (Le Mans) 6 Mayenne (Laval) |
Notre-Dame de Fougeray Cormery Indre-et-Loire |
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| サン・ブノア・シュル・ロワール/聖ブノア修道院教会 St-Benoît-sur-Loire / Église Abbatiale St-Benoît |
1 Loiret |
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城巡りで名高いロワール河畔、オルレアンから暫く 東に走ると高い塔の有る修道院が見えて来る。とても 穏やかな景色だ。 写真は正面入口の、玄関間に林立する太い列柱であ る。柱頭の彫刻はいずれも大らかで、陰影豊かな夢に 満ちている。エジプト逃避やエリザベス訪問など、魅 力的な主題の傑作の他に、不思議な動物や蔓模様が絡 み合った怪奇な図像も多い。 芸術の草創期が示すのは、いつもやや粗野ではある が、湧き上がってくるような造形への情熱が生み出し た、力感溢れる作品ばかりである。11世紀半ばのこ のサン・ブノアも、また例外ではなかった。ここは単 に教会の玄関だったのでは決してなく、石を刻む事に 命がけの石工達の壮大なアトリエだったに違いない。 教会堂内部の荘重な雰囲気を、陳腐な言葉で表現す るのは困難だ。それは、ロマネスクなどという建築様 式を超越した、異次元の美しさを備えているように感 じられたからだった。 それはきっと信仰という目に見えない偉大な力と、 石の建築という上辺の姿としての入れ物との間が、見 事に融合し合って存在しているからなのだろう。 |
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| ジェルミニー・デ・プレ/旧パラティーヌ礼拝堂 Germigny-des-Prés / Ancienne Chapelle Palatine |
| 1 Loiret |
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サン・ブノアからオルレアン方面に向かって、約 4Kmのところに在る、フランスで最も古い教会の一 つであり、カロリング王朝時代の素晴らしい芸術の 遺構である。 皇帝シャルルマーニュの側近で、サン・ブノアの 大修道院長であったテオドュルフの礼拝堂だった。 ギリシャ十字型東側の小後陣、盲アーケードの上 部ドーム天井に、美しいモザイク画が残されている。 モザイクは9世紀初頭のものと伝えられるが、ラ ヴェンナの作品を想起させる。 正面に箱が描かれているが、これは契約の櫃とそ れを取り囲む天使達の像を描いたものである。神と 神に選ばれし民との契約のことだ。 櫃を囲んでいるのは、神の知恵を表すとされる智 天使である。智天使は、熾天使・座天使と共に、天 使軍の上級三隊を編成している。 ちなみに、中級三隊は主天使・力天使・能天使、 下級三隊は権天使・大天使・天使から成る。 外側の天使は大天使で、二人の頭の間から神の手 が下へ延びている。 燦然と眩いばかりの金色モザイクだが、品格に満 ちたデッサンが優雅な美しさをより高めている。 |
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| ベルガルド・ドュ・ロワレ/聖母教会 Bellgarde-du-Loiret/ Église Notre-Dame |
| 1 Loiret |
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この町はオルレアネ (Orléanais) 地方と呼ばれ るロワレ (Loiret) 県の東端部に位置しており、モ ンタルジ (Montargis) の町の西25Kmにある。 濠に囲まれた優美な城塞で知られる、瀟洒な佇 まいの町だった。 聖堂は三廊式で、十字交差部に鐘塔の建つ荘重 な建築だが、翼廊や後陣などはゴシック期の改造 がどうしても目に付いてしまう。 この教会の見所は、やはり写真の西側正面ファ サードだろう。 正面の装飾は12世紀当初のものが保存されて おり、上部の三連窓と下部の三連アーケードのバ ランスが美しい。 中央の扉口は多重のヴシュールと、それを受け る柱頭と側円柱、珍しい意匠のタンパンとで構成 されている。 ヴシュールには、ねじれた縄模様や連続するギ ザギザ模様など、ユニークな意匠が見られる。 タンパンに彫られた図柄は連続する蔓草模様が 中心となり、円形に絡まる蔓の中にそれぞれ三枚 の葉が入ったものである。さして優れた意匠とは 思えないが、この地方に多い単純な幾何学模様を 配したタンパンの事例のひとつである。 |
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| コルトラ/旧コルトラ教会 Cortrat/ Ancienne Église de Cortrat |
| 1 Loiret |
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無名のこの村は、モンタルジの 南20Kmに位置する、数軒の農 家しかない寒村である。 村の礼拝堂のような、単身廊の 素朴な聖堂である。従来の後陣は 崩壊していて、壁で仕切られた新 しい祭檀が設けられている。 ここでも見所は正面の扉口であ り、特にタンパンに彫られた奇妙 な図柄に興味をそそられる。 タンパン外周の連続する不規則 な植物らしき模様や、中央の迷路 のような図が一体何を物語るのか は全く不明である。 迷路の渦に絡まれたような人物 像が左右に配されており、シャガ ールの抽象画を見るような胸のと きめきすら感じられてしまう。 なんとも妙な教会があったもの である。 |
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| アレーヌ/聖母教会 Areines/ Église Notre-Dame |
| 2 Loir-et-Cher |
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古都ヴァンドーム Vendôme から東へ 3Km、ル・ロワール川に沿って走ると、 清楚だが歴史の深いこの小さな村に着く。 教会は単身廊の素朴な礼拝堂のようで あるが、後陣以外の身廊や鐘塔はロマネ スク以降の建築らしい。 しかし内陣の壁面に描かれたフレスコ 画は12世紀以来の作品である。部分的 に、後世の手が入っているようだ。 祭室正面に、四福音書家のシンボルに 囲まれたキリスト像が描かれ、さらに多 くの使徒達が並んでいる。 正面の窓の開口部壁面には、聖戦の騎 士像が描かれ、鎧と光輪が印象的だ。 写真は半円天井に描かれた、受胎告知 ・御訪問の場面である。かなり剥落して いるが、デフォルメされた像容がとても 美しい。 光背に使われている青色はセルリアン ・ブルーと呼ばれるロワール地方独自の 色で、全体に鮮烈な印象を与えている。 |
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| プズー/聖ピエール教会 Pezou / Église St-Pierre |
2 Loir-et-Cher |
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ヴァンドーム周辺には、正面の入口に半円アーチの 帯状装飾が有る門を持つ教会がいくつも点在している。 ルアン Ruan 、エコマン Ecoman 、シャトー・ダン Châteaudun などだが、このプゾーの教会でも、ユニ ークな意匠の装飾を見ることが出来た。 教会建築の大半はロマネスク以後に改修されたもの で、聖堂の側面や鐘塔だけを見たら、きっと通り過ぎ てしまうだろう。 西正面のファサードにはめ込むような格好で、写真 のポルタイユ(門)が保存されていた。 基本的には丸と三角の連続模様を使った、至極単純 な意匠である。しかし、彫りが深く剛直であり、陰影 の濃い美しい装飾となっている。 私はかつてアイルランドで見た、ケルトの影響を受 けたタンパンの彫刻を思い出していた。そういえば、 アーチの上の軒持ち送りに並ぶ生首彫刻は、あたかも ケルトの装飾のようである。 三角の連続模様は、まるで鋸の刃のようでもあり、 サメが口を開けているようにも見える。 そもそも、こうした抽象的な模様の装飾を、教会の 入口に施した意味合いとは一体何だったのだろうか。 聖堂荘厳のため、魔除け的な結界を作るため、それ とも石工の洒落だったのだろうか。 |
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| モントワール・シュル・ル・ロワール/聖ジル礼拝堂 Montoire-sur-le-Loir/ Chapelle St-Gilles |
2 Loir-et-Cher |
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ロワール河の支流にロワール河が有る、と言われ ても謎々みたいで分からない。 本流がロワール (Loire) 川で支流がル・ロワール (Le Loir) 川というのが正しい答えだ。フランス人に 発音の差を訊いてみたが、まったく変わらないとの ことだった。 城下町ヴァンドームを流れているのが支流ル・ロ ワールで、その下流にモントワールの町がある。 お堂の壁から天井から、全ての空白がびっしりと フレスコ画で埋められたこの小さな礼拝堂は、まる で宝石箱のような光に満ち溢れていた。 大半は12世紀ロマネスクの壁画だが、この写真 の天使の何と大らかなことか。こんなにシュールな 天使は、あまり見たことがない。これは、栄光のキ リスト像の周囲に舞う天使の一人で、私の大好きな 図像の一つだ。 自由なデッサンという見方と、制約された空間に 無理やりはめ込んだ結果の産物という二つの見方が 有りそうだが、そのどちらも正しいような気がして いる。ロマネスク図像の原論に迫っているような大 胆な言い方に、言ってしまってから一瞬腰が引けて いる。 とまれ、めくるめくようなフレスコとの出会いで あった。 |
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| サン・テニャン・シュル・シェール/聖エニャン教会 St-Aignan-sur-Cher / Église St-Aignan |
| 2 Loir-et-Cher |
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有名なシュノンソー城の下を流れるシェール河の 上流に有る町で、教会は高台にある城の麓に建って いた。 建築は荘重だが、やや修復の跡が目に付く。しか し目的はここではないので、地下の祭室に降りなけ ればならない。 地下のクリプトは地上の祭室とほとんど変わらぬ 設計で、周歩廊の周りに小さな祭室が三つ有り、そ れぞれにフレスコ画が描かれていた。 写真はその一つである。照明が暗かったので、そ の割には良く撮れたかと、自画自賛をしているのだ が。 写真の部分は聖ジルの伝説が描かれており、貧し い人に衣服を施す場面である。照明のスイッチを入 れ、そして、太く明瞭な輪郭線と色彩が、祭室の闇 の中からパッと現れ出て来た瞬間は、震えるほど心 揺さぶられる思いだった。 別の祭室には、キリストがラザロを復活させる奇 跡の場面が描かれているが、これも同じ工房による ものか、聖ジルに似たタッチの傑作だった。 中央祭壇の天井の半ドームに、いかにもロマネス クらしい玉座のキリスト像のフレスコが有る。ビザ ンチンのキリストの様な雰囲気があるが、やや抽象 化された像容にすっかり見入ってしまった。 |
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| ラヴァルダン/聖ジュネ教会 Lavardin / Église St-Genest |
2 Loir-et-Cher |
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ラヴァルダンはル・ロワール河に面した、モント ワールの上流に位置する美しい町である。ゴシック の石橋や城砦が格好の景観を構成しており、画材を 持参しなかった事を後悔させられた。 聖ジュネ教会の外観は城塞のような鐘楼が有るこ とでいかにも無骨に見えるのだが、内部では愛すべ き初期ロマネスク建築の魅力を充分に堪能できる。 半円アーチの列柱で両側廊が仕切られており、主 に祭室部分の壁面は目を見張る程のフレスコ画で埋 め尽くされている。いろいろな時代のものが複雑に 存在しているので明確には分からないのだが、左側 の小祭室の柱に描かれた「洗礼のキリスト」と「エ ッサイの木」が最も古い12世紀のものらしい。写 真に写っている奥の壁のフレスコは、ロマネスクの 印象からはややかけ離れたものだった。 私の目には、写真の柱頭が最も古そうに見えた。 左側の聖母子像がユニークであり、特にケルト的な 意匠である渦巻の模様の使い方は興味深かった。他 の面には未完成の部分もあり、何とも不思議な柱頭 だった。 |
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| サン・ジャック・デ・ゲレ/聖ジャック教会 St-Jacques-des-Guérets / Église St-Jacques |
2 Loir-et-Cher |
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サン・ジャック・デ・ゲレの村もまたル・ロワー ル河のほとりに有り、モントワールの下流の町トゥ ルー Troo の対岸に位置している。 礼拝堂とも言うべき小さな教会だが、ゴシックの 尖塔が印象的なので、その外観からはロマネスクの 息吹は感じられない。 しかし一歩内陣へ入れば、そこは色彩豊かな溢れ んばかりのロマネスク壁画の世界だった。 12世紀の作品で、比較的修復も無く制作当初の 雰囲気をしっかりと保持しているように見える。 四福音書家の象徴に囲まれた「玉座のキリスト」 像と、「最後の晩餐」が祭室正面の壁右側に描かれ ている。左側はキリストの十字架磔刑の図で、十字 架に仕切られた四方に人物像が描かれている。左上 は太陽を右上は月を象徴した人物像で、やや難解で ある。左下は聖母マリアであり、写真は右下の、本 を持つ使徒聖ヨハネ (St-Jean) である。イエスの愛 した弟子と呼ばれ、聖母マリアやマグダラのマリア 達と共に磔刑に居合わせたとされている。 色彩の鮮やかな図像であり、ロマネスク壁画の抽 象がつまらぬ写実を遥かに凌駕した表現力を示す、 という何よりのテキストとなっている。 |
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| リヴィエール/聖母教会 Riviére/ Église Notre-Dame |
| 3 Indre-et-Loire |
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城下町シノンに泊まった翌朝、絶妙な赤ワイン を産する葡萄畑を抜け、ヴィエンヌ川に沿ってし ばらく走って、この不思議な教会を訪ねた。 方形の単身廊の先端に、一段高くなって祭室が 設けられている。祭室は三廊式でやはり方形の祭 壇部分が外陣へ飛び出した形である。 祭室の下は一段低くなっていて、地下のクリプ トとなっている。 写真は、祭室の中央から側廊を見たところで、 天井は半円筒ヴォ−ルトのれっきとしたロマネス ク建築である。鮮烈な彩色が施されているので、 ロマネスクのイメージからはかけ離れて見えてし まうから不思議だ。どの時代に塗られたのかは不 明だが、それにしても悪趣味すぎる。 だが、建築や柱頭彫刻を詳細に見ている内に、 彩色を無視して見えるようになった。柱頭は抽象 的なモチーフが多く、怪物や動物の顔など幻想的 な傑作が揃っている。物の本質を見ることの難し さが、少し見えた気がした。 後陣の壁に彫られたレリーフや、壁面に施され た幾何学模様が珍しかった。 |
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| タヴァン/聖ニコラ教会 Tavant/ Église St-Nicolas |
| 3 Indre-et-Loire |
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この教会を過去に2回訪ねている。その度に閉ざ された扉の前で失意を味わったものだった。休暇の 取れる冬にしか来ることが出来なかったのだが、こ の教会が冬季に閉鎖されてしまうことを2回目に初 めて知った。 2004年秋にようやく念願かなって見ることが出来 たが、これは正にリタイアの功徳であった。 ここでは地下祭室(クリプト)の柱や壁に描かれた フレスコ画だけが目的である。村役場の係員に鍵を 開けてもらわねば、決して中へは入れない。 夢にまで見たフレスコの数々は、想像以上に色彩 豊かであり、ロマネスクの時代とは思えぬほど躍動 的なデッサンだった。 フレスコ画を見ることに、これほど興奮する場面 が今までに何度も有ったとは思えない。それほど大 きな憧れの存在だったのである。 クリプトの柱は8本、壁面に11本有り、柱頭の 上壁から天井にかけて、全ての空間にフレスコが描 かれていた。聖母像やアダムとイヴ、ダヴィデ像な ど、見飽きることが無い。 写真は、大好きな“踊る人”で、なんと生き生き としたデッサンであろうか。撮影禁止の中でこの1 枚だけ、かなりの幸運が私に訪れたのであった。 |
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| アゼー・ル・リドー/聖シンフォリアン教会 Azay-le-Rideau /Église St-Symphorien |
3 Indre-et-Loire |
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ここもロワールの城巡りの中では、 珠玉の名城として知られる美しい城館 の在ることで有名な町である。 しかし、その城のすぐ脇に、初期ロ マネスク時代の美しいレリーフをファ サードに持つ教会の在ることは、余り 知られていない。 建築はゴシック期以降に改築された もので、彫刻は壁面にはめ込まれた格 好で保存されている。 聖人像が窓の右側に三体、左側に四 体、上部に七体、合計十四体が残って いる。写真は、その上部七体である。 半円アーケードの中に一人づつ立っ ているのだが、コケシのように素朴で あり、お地蔵様のように愛らしい。 中央はキリストで、左端は聖母子の 像ではないかと思う。残りが十二使徒 ならば計算は合うのだが、キリストの 左二人は女性像のように見えるので、 そう簡単ではなさそうである。 |
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| ラ・リシュ(トゥール)/聖コーム小修道院 La Riche (Tours)/ Prieuré St-Cosme |
| 3 Indre-et-Loire |
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トゥールの町の中心からロワール河に沿って西 へ数キロ下った所に、この修道院の遺構が残され ている。庭園風に管理された、美しい区画となっ ていた。16世紀の詩人ロンサールの墓が有ると 書かれていたが、残念ながら読んだことも無い。 写真には、部分的に残された付属教会の一部で ある祭室を囲む周歩廊と、その外側に張り出した 小祭室の一つが写っている。素朴な半円アーチが 外側からの光に照らし出されて、とても美しく見 えた。 剥落した漆喰、苔むした石の壁や柱などは、1 1世紀といわれる創建の時代を髣髴とさせてくれ る。この小祭室の外観も見事だった。 修道院遺跡に残るもう一つの建物は、少し離れ た所に建つ12世紀の修道士食堂である。鋸の刃 のような形をした連続模様の彫られた門や、内部 には説教壇の細密な彫刻などが見事に保存されて いた。 冬の季節ということもあったが、トゥールの町 もここまで来るとまことに閑静で、ロワールの静 かな流れと共に落ち着いた雰囲気を味わうことが 出来たのだった。 |
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| トゥール/旧聖マルタン聖堂遺跡 Tours/Vestiges de l'Ancienne Basilique St-Martin |
3 Indre-et-Loire |
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旧市街のレアル通りを歩くと右側に時計塔が建 っており、さらにその先左側にシャルルマーニュ 塔 (Tour Charlemagne) が在る。 いずれも旧聖マルタン聖堂の一部であった。時 計塔は正面入口の右塔であり、シャルルマーニュ 塔は北側袖廊の名残である。つまり現在のレアル 通りは、今は失われてしまったかつての身廊の真 ん中を貫通していることになるのだ。 シャルルマーニュ塔には美しい柱頭が残されて おり、レアル通り側から見ることが出来る。 何を意味するのか不明だが、四方に二頭のライ オンが腕を組み合ったようにして彫られている。 中央に聖人が立ち、ライオンの背後で二人の男 が棒のような物を持っている。聖人の説話なのか、 それとも何かを比喩した寓話なのか。 部分的に剥落しているのは惜しいが、確かなデ ッサンに裏付けられた見事な彫刻で、12世紀の 作であることは間違いないようだ。 塔の内部に、聖ジョルジュを描いたフレスコ画 が在ると聞いていたのだが、周囲の金網に鍵がか かっていて入ることが出来なかった。 |
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| リール・ブーシャール/聖レオナール小修道院 L'Ill-Bouchard /Prieuré St-Léonard |
3 Indre-et-Loire |
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ロワールの支流ヴィエンヌ河に面して、ジャンヌ ・ダルクゆかりの城下町シノンが有る。そこから更 に河を遡ると、そこがかつて水運で繁栄したリール ・ブシャールの町である。 町の南、やや小高くなった場所に修道院の遺構が 残されている。今見ることの出来るのは礎石や残骸 ばかりで、修道院付属教会の後陣祭室部分だけが、 残存する唯一の建造物だった。身廊などの堂宇は完 全に失われ、祭室の周歩廊と小祭室、その列柱と柱 頭のみが幻影のようにたたずんでいた。 だが、柱頭の彫刻を詳細に眺めて、その充実した 内容に驚いた。中心は四本の大きな柱頭で、「エジ プト逃避」「キリスト磔刑」「エルサレム入城」、 写真の「受胎告知」が主題となり、それぞれの面に 付随した逸話が彫られているのである。堂々たる人 物像が特徴で、おおらかなデッサンと精緻な細部表 現とが見事に調和している。受胎告知の右は「エリ ザベス訪問」であり、左は「羊飼達の聖母子礼拝」 である。 |
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| パルセイ・シュル・ヴィエンヌ/聖ピエール教会 Parçay-sur-Vienne/ Église St-Pierre |
3 Indre-et-Loire |
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ヴィエンヌ川流域には珠玉のロマネスクが点 在しており、この村の教会もそのひとつに数え られる。 ここでは聖堂正面の扉口を含む、ファサード 全体が見所である。 従来のロマネスクと違い、アーチや柱が浮い てしまっていて、建築構造には関係の無い単な る装飾だけのように見える。中央門の内側に、 タンパンではなく、石を積んで小さな門を造っ ているからかなと感じた。 中央のアーチ装飾は美しい。一重目は人の顔 と植物とを組み合わせた図像、二重目は植物の 蔓の連続模様、三重目に髭を生やした男の首が 並んでいる。 扉口の門の両側に造られた装飾盲アーチなど は、ポアトーやサントンジュ地方に多いファサ ードの様式に似ているようだ。柱頭には、やは りポアトー地方に多い人魚シレーヌの像も彫ら れていた。 盲アーチ部分の柱頭にも巧妙な彫刻が見られ、 小さなファサード全体が、繊細な彫刻がびっし りと散りばめられた、まるで精密画のような世 界だった。 |
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| セル・シュル・シェル/聖ウーシス教会 Selles-sur-Cher/ Église St-Eusice |
3 Indre-et-Loire |
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ロワールの支流シェル川の上流に在る町で、 もう少し行くとベリー地方との境界になる。 町の始まりは聖ウーシスが修道院を創設した ことによるが、その後町は大きく発展した。現 在残されている教会は、旧修道院付属教会の聖 堂である。 正面の扉口は半円アーチのロマネスクだが、 ここでは先ず教会の背後へ回り、後陣の壁面に 彫られたレリーフやフリーズを見なければなら ない。 写真でもお判りのように、半円アーチ窓の上 部と窓のすぐ下に、連続して多くの人物像が彫 り込まれているのである。 キリストの生涯を描いた場面が中心で、カナ の饗宴・弟子の足を洗うキリスト・ラザロの復 活・キリスト受難などが主要な主題である。 技術的に大それたものではないが、素朴な彫 りながら統一感のあるフリーズ彫刻で、人物の 大きな目に特徴がある。 聖ウーシスの生涯や、月々の仕事を描いたフ リーズも見られた。 聖堂は三廊式で、祭室には周歩廊と放射状に 付けられた三つの小礼拝堂、翼廊の小祭室など 壮麗な12世紀の建築である。 |
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| ロッシュ/聖ウールス教会 Loches/ Église St-Ours |
3 Indre-et-Loire |
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この町の旧市街はアンドル川に沿った 小高い丘に、城壁に囲まれた城郭塞都市 である。王家の門から入り、城塞へ登る 途中にこの教会が建っている。 正面の門を入った所が玄関間(Narthex) で、そこから聖堂に入るための扉口に彫 られているのが、写真の彫刻である。 最上部はかなり崩落しているが、聖母 子に礼拝する東方三博士の場面である。 全員の首が失われているのが残念だ。 アーチの輪郭であるヴシュールには、 奇妙な動物や様々な人物の姿が彫られて いる。彫りも良く、一体一体が何やら意 味ありげな彫像ばかりなので、順番に見 ているとなかなか聖堂内に入れない。 聖堂は単身廊で、二つの八角形ドーム 天井が造られていて珍しい。 柱頭にも目を引く彫刻がいくつも在っ た。扉口と同様に彩色が見られるのだが、 誰がいつ塗ったものかは判然としない。 旧市街の石畳の道を歩き、主櫓まで行 ってみた。ロッシュの町や周囲の森まで が、眼下に広がって見えた。 |
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| ル・リジェ/聖ジャン礼拝堂 Le Liget/ Chapelle St-Jean |
3 Indre-et-Loire |
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城下町ロッシュの東、延々と続く森の中 に旧リジェ修道院が有る。その広大な寺域 の一角に立つ、円形の小さな礼拝堂が目的 であった。修道院に住む親切な管理人が、 大らかなことにも鍵を貸してくれた。 扉を開いて中へ入ってみると、そこは円 形に連なる絵巻物の世界だった。二つの入 口と七つの半円アーチ窓に仕切られた壁の 上部全てに、淡く優しい色のフレスコ画が 描かれていた。 キリストの誕生、十字架降架、復活を表 す墓場の聖女達などのほか、窓の側壁には ペテロやパウロ、ブノアやニコラなどの聖 人像が見られる。 写真のフレスコ画は、壁部分に有る聖母 マリアの死と、そこに集まった聖人達の像 である。安らかなマリアの顔や、他の聖人 の表情が、ロマネスクにふさわしい抽象の 成された美しい図像である。 しかし、何よりも魅力なのは、品格に溢 れた場面構成の質の高いことであり、色彩 のバランスが渋めの色に統一して表現され ていることだろう。 |
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| アンジェ/旧修道院棟(旧聖オーバン修道院) Angers/ Anciens bâtiments coinventuels (Ancienne Abbaye St-Aubin) |
4 Maine-et-Loire |
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アンジェの町は、アンジュー Anjou 地方の旧首 都であり、また現在のメーヌ・エ・ロワール(Maine -et-Loir)県の県庁所在地でもある。 その県庁舎の建物は、旧サン・トーバン修道院の 一部を利用しており、現在の中庭の一部に、ロマネ スク時代の装飾彫刻の残るアーケードが保存されて いた。 それは回廊と教会とを繋ぐ部分で、大きな半円ア ーチ門とそれに連なる装飾アーケード群で構成され ている。写真はアーケードの内、フレスコ装飾の残 る最も美しい部分である。フレスコの上部には、香 を持つ二人の天使によって支えられた玉座の聖母像 が彫られ、さらに外側の大きなアーチには、無数の 天使達がこれを祝福している。 壁と柱の全てが濃密な図像と精緻な装飾模様に埋 め尽くされているにもかかわらず、アーケード全体 が軽やかな統一感に満ち、けばけばした厭らしさは 微塵も感じられない。 生きている教会ではなく、博物館に飾られてしま った教会建築の遺構のつまらなさは、クリュニー美 術館などで知っているが、ここだけは別物である。 |
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| サヴニエール/聖ピエール教会 Savennières/ Église St-Pierre |
| 4 Maine-et-Loire |
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2002年の冬のロワールの旅の際、私達は教会の前 に三脚を立て、ファインダーを覗いていた。その時 一人の日本人女性が、なんと視界を横切ったのであ る。およそ観光客などは行かない、全くの田舎の村 である。彼女は縁有ってこの地のワイナリーの若旦 那と出会い、この町で一緒に住んでいたのだった。 以来、その若夫婦との交誼は、親しく継続している。 教会は十字形単身廊の簡素なプランで、南袖廊部 分が鐘塔に改造されている。ロマネスク初期の古い 聖堂の南側にアーチ門を造り、東側に写真の半円形 祭室を張り出した格好となっている。 祭室の半球形ドームや、半円アーケードとなって いる窓の部分はロマネスクならではの美しさである。 壁の一部には、創建当初の古い装飾煉瓦が残され ている。 後陣と南門には、軒持ち送りの装飾彫刻が見られ、 一つ一つがしっかりと彫られた傑作ばかりである。 アンジェーの西15Km、ロワール河沿いの静か な村で、村名のAOCを持つ通好みの白ワインを産出 している。畑の石の香り豊かな辛口で、爽快な喉越 しと芳醇な後味が自慢だ。典型的な“花より団子” の里である。 |
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| キュノー/ノートルダム教会 Cunault/ Église Notre-Dame |
4 Maine-et-Loire |
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キュノーの教会はロワールの流れに沿った、アン ジェの上流約30Kmにある修道院の付属教会堂で ある。 聖母マリアへの巡礼を受け入れるための壮大な規 模の割に、清楚で質実な印象を受けるのは、やはり ベネディクト会に属する修道院の影響だろう。 半円アーチを基本とした高い天井と無数の列柱が 構成する空間は、厳寒の空気をさらに浄化させるよ うな引締まった美しさを見せていた。 ここで見逃せないのは、それぞれの柱の上部に彫 られた200個以上の柱頭彫刻である。だが、写真 でもお分かりの通り、かなり高い所にあるために、 その詳細を鑑賞するためには望遠鏡が必需である。 私は撮影用の望遠レンズで、撮影と鑑賞の楽しみを 同時に味わうこととなった。 聖書の逸話も見られるが、何より面白いのは様々 な姿をした怪獣や怪物である。想像しうる全てのイ メージが出揃っているのではないか、と思われるほ どの内容と数量である。彩色、特に朱色が残ってお り、当初はかなり派手だったのかもしれない。 上ばかり向いていて、首が痛くなってしまった。 |
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| ソミュール/ナンティイの聖母教会 Saumur /Église Notre-Dame-du-Nantilly |
4 Maine-et-Loire |
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ロワールの城巡りの中で、重要な城の一つが在 る事で有名な町である。私にとっては、ロワール の赤の代表として、シノン Chinon やブルグイユ Bourgueil と共に、決して無視して通過すること のできない場所なのである。 教会は城の背後の小高い丘の上に建っており、 全体の印象はほとんどがゴシックに改修されてい るというものだった。 後陣の祭室部分が歴然としたロマネスクだった ので、少し安心して身廊に入った。しかし、身廊 の天井は尖頭ヴォールトながら、柱頭から下は半 円アーケードが連続するロマネスクで、翼廊との 交差部の天井だけが交差リブのゴシックだった。 ロマネスク病患者にとって、ゴシックへの改造 というものは異質の病原菌に侵されたようなもの なのである。 柱頭彫刻には、目を見張らされる様な傑作が数 多く見られた。写真はそのひとつで、主題は不明 だったが、彫りの鋭さや明快な像容の捉え方に、 並々ならぬ美意識が感じられたのだった。 |
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| フォントヴロー/フォントヴロー旧大修道院 Fontevrault/ Ancienne Abbaye de Fontevrault |
4 Maine-et-Loire |
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ソミュールとシノン Chinon のほぼ中間、ロ ワールの流れから少し丘陵地帯へ上った森の中 から、この修道院を中心にした門前町が忽然と 現われる。 修道院は12世紀初頭の創建で、王家の庇護 も厚かったため、当時は壮大な規模を誇ってい た。現在まで残った敷地や建造物からも、それ は容易に想像できる。 写真は、大修道院付属教会の後陣から、翼廊 と鐘塔を眺めたもので、全て12世紀の建築で ある。完璧すぎてかえって面白くないと家内は 言うが、私はこの潔癖な美しさが好きである。 単身廊だが四つの円蓋が連続しており、こん なに膨大かつ美しい身廊は滅多に無い。 祭室には放射状に三つの礼拝堂が付けられ、 翼廊には左右に小祭室が飛び出している。写真 で、その意匠がよく判るだろう。 随所に巧みに彫られた柱頭彫刻が配され、束 ねられた太い柱の林立する姿は、格別の法悦を 演出するに足る空間であったのだろう。 回廊の西北端に12世紀の台所 (Cuisine) が 残っている。ロマネスク様式で建造された珍し い遺構で、煙突部分などとても美しい。 |
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| ジュヌテイユ/聖マルタン教会 Genneteil/ Église St-Martin |
| 4 Maine-et-Loire |
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ル・ロワールの谷からアンジェに向かい、ラ・ フレーシュ La Flèche の町から南下し丘陵地帯に 入ったところにこの村がある。 教会は村の中心に建っており、正面の半円アー チ門以外は大半がゴシックに改築されていた。 少しがっかりだったが、身廊に入り、さらにフ レスコ画の描かれた後陣の礼拝堂に入ってびっく りしてしまった。この部屋にだけ、完璧なロマネ スクの空気が充満していたからである。 半円アーチ天井と両端の壁の部分は、鮮烈な朱 とオレンジ色を主体としたフレスコ画で埋め尽く されている。 写真は東壁と蒲鉾形半円天井を見上げたところ で、二人の天使に玉座を支えられた、栄光の聖母 子像である。 天使の横から人物像が続いていて、片側に8人 づつ合計16人の女性が並んでいる。手に燭台か 油壷のようなものを持った、聖女の行進を描いた ものらしい。その意味合いは余りよく判らない。 反対側の西壁には、ヨハネから洗礼を受けるキ リストが、礼拝堂入口のアーチ内壁には、カイン とアベルの物語が描かれている。 |
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| ポンティニェ/聖ドニ教会 Pontigné/ Église St-Denis |
| 4 Maine-et-Loire |
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ジュヌテイユから田園地帯をさらに10 Km走ると、小麦畑の向こうに黒い色をした 尖塔が見えてくる。そこがポンティニェの 集落だった。 ここも正面入口にはロマネスクの面影が 残されているが、内陣の印象はほとんどが ゴシック一色だった。リブ・ボールトとい う梁を使った天井は、アンジュー地方独自 のプランタジュネ様式で、ロマネスクから ゴシックへの過渡期の様式である。 柱頭から下の基礎的な建築部分には、ロ マネスクの石積感覚的な素朴さが残されて いた。 特に、写真に見るような、怪物を主題に した柱頭彫刻は、ロマネスク時代の謎めい た美意識がたっぷりと発揮されたものであ る。翼廊部分のものが最も古く、他にも妙 な動物や植物の化け物が見られて楽しい。 彩色がどの時代に成されたかは不明だが、 それほど違和感は感じられず、かえって愛 嬌と迫力とが感じられたのだった。 村で唯一の店であるクレッペリーで、ブ ルターニュ式の旨いクレープを食べた。 |
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| ル・マン/ラ・クチュール聖母教会 Le Mans/ Église Notre-Dame-de-la-Couture |
| 5 Sarthe |
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ル・マンでは駅の近くの安宿に泊まったのだが、翌 朝この教会まで歩いて行くのにはとても便利な場所だ った。 大きな広場に面して建つ堂々とした建築で、西側正 面はドイツの西の構えのような双塔を備えている。 いずれも、ロマネスクの基礎の上に、ゴシックが乗 っているといった印象を受けた。 玄関間のような空間の奥に扉口があり、タンパンを 備えていて、左右両壁に人物群像が配されている。 これらの彫刻は全てゴシック以降に制作されたもの らしい。 身廊は創建当初の様式らしく、ファサードのイメー ジとは全く異なる単身廊で、翼廊を備えた十字形の聖 堂である。身廊の壁を眺めると、一層目はロマネスク のイメージ通り窓は無く、二層目がゴシック的な採光 窓となっている。 内陣が馬蹄形のアーケードとなっており、十本の円 柱と二本の束ね柱が美しい祭室を構成している。周囲 が周歩廊となっていて、翼廊から後陣を半周すること が出来る。 写真は、翼廊から馬蹄形アーケードの一部を眺めた もので、豪快な円柱によって構成された祭室の壮麗な 雰囲気が出ていると思う。このあたりの円柱や柱頭彫 刻は、11世紀後半のものらしい。 地下のクリプトには、交差穹窿の天井と素朴な柱頭 が残されており、もの静かにこの教会の歴史を伝えて いる。 |
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| ル・マン/聖ジュリアン大聖堂 Le Mans/ Cathédrale St-Julien |
| 5 Sarthe |
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ル・マンの大聖堂といえば、誰もが 華麗なゴシック建築やステンドグラス を思い浮かべるだろう。 しかし、それは翼廊から東側の内陣 部分の話であり、正面も含め西側の身 廊部分には、写真のようなロマネスク 様式が見事に残っているのである。 身廊は三廊式で、写真は側廊部分を 写したものだ。側廊には半円横断アー チと交差穹窿のベイが十個続いており、 片側二個づつで身廊の五個のベイを構 成しているのである。何とも美しい構 造ではないか。 身廊は天井だけがゴシックに改造さ れており、盲アーケードと採光用の窓 が仕切りアーケードの上に、実際は二 層だが、あたかも三層構造であるかの ように配されている。 側廊にもステンドグラスがはめ込ま れており、これらの中には11世紀ロ マネスク時代の作品も含まれている。 “十字架の凱旋”や“昇天”などをモ チーフとしたものが特に古い。 柱頭彫刻にも見るべきものが多く、 ル・マン大聖堂は正にロマネスクのお 寺なのである。 |
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| ポンセ・シュル・ル・ロワール/聖ジュリアン教会 Poncé-sur-le-Loir/ Église St-julien |
| 5 Sarthe |
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一連のフレスコ画が密集したロワー ルの支流ル・ロワール川の下流の町で、 城は有名だがこの教会はほとんど知ら れていない。 町外れの眺めの良い丘の上に建つ礼 拝堂のような教会で、半円形の後陣を 持つ三廊式のこじんまりとした聖堂だ った。主要な部分には、12世紀初頭 の建築が残っているのだという。 写真のように、壁面全体がフレスコ 画で埋め尽くされている。保存状態は 決して良いとは言えず、全体に退色が かなり進んでいる。朱色以外の、特に 青や緑が白っぽく変色してしまってい るのが残念だ。 “エジプト逃避”や“幼児虐殺”な どのほかに、ラザロの物語や踊り子の 絵、狩猟図などが印象に残った。 聖堂奥の祭室部分は色が鮮明なのだ が、全て後世に描かれたものだった。 フレスコの枝葉を持つル・ロワール という川の流域は、何とも不思議な独 特の雰囲気を持っているような気がす る。 |
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| アスニエール・シュル・ヴェグル/聖イレール教会 Asnières-sur-Végre/ Église St-Hilaire |
| 6 Mayenne |
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ル・ロワール川と下流で合流するサル ト川 Sarthe のまた支流が、この村を流 れるヴェグルである。中世の石橋や水草 の美しい水辺の、絵のような集落の中に この小さな教会は建っている。 単身廊の聖堂で、アーチによって内陣 と仕切られている。この方形の身廊部分 のみが11世紀後半の遺構であり、壁面 にフレスコ画が残されている。 我々素人の眼にも、全体的な修復の筆 跡が目立つのだが、今日まで残ってきた だけでも素晴らしいことだ、と考えるべ きだろう。 写真は、仕切りアーチの壁に描かれた 聖母子像で、部分的に剥落してはいるも のの、最も古い時代の作品だと言われて いる。 三博士礼拝や幼児キリストを探すヘロ デの兵隊を描いた場面は傑作だが、地獄 の責苦に喘ぐ亡者の姿はいかにもロマネ スク的で面白かった。 |
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| ラヴァル/アヴェスニエール聖母教会 Laval/ Église Notre-Dame-d'Avésnières |
| 6 Mayenne |
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ラヴァルの町では、プリッツのノートルダム教会 Notre-Dame de Pritz のフレスコ画が最大の目的だ ったのだが、残念なことに夏季しか公開していない のだという。 もう一つの重要なロマネスク遺構であるこの教会 は、城を中心とした旧市街からマイエンヌ川沿いに 南へ少し歩いた所に堂々と建っている。 三廊式十字形の壮麗な聖堂だが、西のファサード から身廊や側廊の大部分は19世紀に再建されたも のである。 写真は川の対岸から眺めた後陣で、七つの半円形 小祭室を持った美しい建築だが、この袖廊から東側 の内陣・後陣部分が11世紀から12世紀にかけて のロマネスク時代のものなのである。 六本の円柱が立つ馬蹄形の祭室の外側に、巡礼教 会様式の周歩廊が設けられており、さらに小祭室が 放射状に五つ並んでいる。 さらに袖廊の両端に付けられた二つの小祭室を併 せて、ここからは七つの祭室と、中央の大きな祭室 の外観を一目で見ることが出来た。 見事な彫刻の柱頭が美しい円柱によって馬蹄形に 組まれたアーケードは、さらに上部に二層のアーケ ードを加えて三層になっている。 薄暗い堂内で、巧みな照明によって浮かび上がっ た内陣の列柱の陰影は、幽玄の世界に誘われるよう な効果十分の演出が成されていた。 |
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| シャトー・ゴンティエ/洗礼の聖ヨハネ教会 Château-Gontier/ Église St-Jean-Baptiste |
| 6 Mayenne |
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アンジェからマイエンヌ川(Mayenne)に沿って北 上すると、古都らしい落ち着いた風光明媚なこの町 に着く。 教会は川沿いの小高い丘の上に建っており、ロマ ネスク様式の鐘塔と後陣が公園の木々の間から見え 隠れしている。 聖堂は三廊式で、翼廊のある十字型である。祭室 は主祭室のほかに、翼廊に小祭室が二つ付いている。 主祭室にはステンドグラスも見られ、ここだけは 大きくゴシックに改造されているようだった。 身廊と側廊の境界は、写真のような切石を積んだ 角柱と、半円アーチで構成されたアーケードになっ ている。写真は、側廊の内側から、反対側の翼廊部 分を眺めたものである。曲線が交叉して創出された 空間は、あたかも音楽を聴くように旋律的で、とて も心地よく感じられた。 身廊や翼廊の壁にはフレスコ画が残っているが、 新旧の時代が混在しているようだ。翼廊の絵の一部 は12世紀である、と説明板には記されていた。 クリプトは三廊式の素朴な地下祭室で、各柱間は 交差ボールトの円形天井になっている。柱頭には、 いかにも古そうな渦巻模様が彫られていた。 |
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