ベリイリムーザン地方のロマネスク
         
Berry et Limousin Romans

        

         大西洋とオーベルニュ中央高地との間に位置する一帯をひとまとめ
        にしたが、格別の意味が有るわけではなく、旅をするルートのひとつ
        としてまとめたものと御理解いただきたい。
         ベリイ地方では、ロワールの支流である二つの河シェールとアンド
        レが、そのまま県名になっている。貴重なフレスコ壁画を中心とした
        珠玉のロマネスク地帯、という認識が小生にはあり、実は何度も訪れ
        ている大好きな地方である。
         リムーザン地方は、緑の草原と小麦畑、深い森に覆われたロマンテ
        ィックな田園地帯である。そして、サンチャゴ巡礼路上に位置しても
        いる、歴史の色濃い地方でもある。
         それぞれに特徴的なロマネスク聖堂が有り、ここだけを旅の目的と
        してもいい魅力に満ちている。

             

 県名と県庁所在地
   1 Cher (Bourges)
   
2 Indré (Châteauroux)
   3 Creuse (Guéret)
   
4 Haute-Vienne (Limoges)
   
5 Corrèze (Tulle)

    
          聖ブレース教会
          Eglise St-Blaise
          La Cell-Bruère
              
(Berry)





   
       
     アルイ聖ジェルマン教会
       Allouis/Église St-Germain

                           
1 Cher
                                  
   シェール (Cher) 川を挟み、ブリネー (Brinay)
  の対岸に位置している小さな村落である。
   ゴシックの尖塔が印象的な教会の外観は、後世
  にかなり改修されてしまっているので、ロマネス
  クの片鱗は半円形の後陣辺りにしか残っていない。
   聖堂は単身廊で、鐘塔部分が交差部となった十
  字形が基礎となっている。
   身廊と交差部とを仕切る壁があり、半円アーチ
  の開口部が祭壇を象徴的に見せている。
   その壁の東側面いっぱいに、フレスコ画が描か
  れている。図像はやや剥落が激しいのだが、色彩
  がかなり鮮やかに残っており、ブリネーの色使い
  にとても似ているような気がした。
   写真は壁面アーケードの左側部分で、上は「キ
  リストの埋葬」であり、下は「磔刑」である。
   右側には「聖母の凱旋」と「キリストの墓に詣
  でる三人のマリア」が描かれている。取り上げら
  れた主題は格別珍しくはないが、総合的に“キリ
  ストの復活”を暗示しているようにも思える。
   このアーケードは、そういう意味の凱旋門なん
  だろう、と勝手に解釈した。
   アーケードのアーチ内側には、十二ヶ月の仕事
  を象徴した場面が描かれていてこれも面白かった。   
   

   
       
     ヌイイ・アン・ダン聖ロシュ教会
       Neuilly-en-Dun/Église St-Roch

                           1 Cher

                                  
   ブールジュから旧ベリイ運河 (Ancien Canal
   du
Berry) とそれに並行するオーロン (Auron)
  川に沿って東南に約50
Km行ったあたりは全く
  の田園地帯で、ここは幾つかの教会が建っている
  ほどのやや大きな集落だった。
   高い建物が他に無いので、鐘塔さえ見つけられ
  れば教会を探す苦労はほとんど必要ない。

   写真は後方から眺めた教会の全景で、半円形の
  後陣と鐘塔を持つ12世紀の建築である。
   聖堂はとても細長い設計で、単身廊、鐘塔部分、
  祭室とが繋がった境界部分に、それぞれ半円アー
  チの開口部のある仕切壁が設けられている。
   後陣の軒下にある柱頭にも、動物や植物をモチ
  ーフとした精巧な彫刻が見られたが、内陣の柱頭
  彫刻はさらに精緻なものだった。
   特に鐘塔部分の仕切壁を構成するアーチの柱頭
  に、完成度の高いものが集中している。
   単純に動物と思っていた像は、良く見るとすべ
  てライオン像で、北側の柱の柱頭に彫られたもの
  が格別目に付いた。
   その主題は「ライオンの穴の中のダニエル」な
  のだが、ダニエル、ライオン、天使、神の手など
  が交錯した興味深い群像だった。
   

  
       
     シャリヴォア・ミオン聖マルタン教会
       Chalivoy-Milon/Église St-Martin

                           1 Cher

                                  
   先述のヌイイ・アン・ダンから西北へ12Km
  ブールジュ方面へ戻った場所にこの村がある。
   この教会の建築は、規模はやや大きいものの単
  身廊の聖堂で、後陣や鐘塔にはかなり改造された
  痕跡が見られた。
   しかし、この教会の見所は何と言っても祭室内
  のフレスコ画であり、剥落はあるものの内陣の壁
  にもかなり残っている。
   写真は祭室部分を中心に撮ったものだが、肝腎
  のドーム部分がやや暗くてはっきりしない。
   中央の楕円形の中にはキリストが立っており、
  その下部周辺に多くの預言者や聖人や天使が描か
  れている。
   色はかなり褪せてはいるが、とても精巧に描か
  れていることが判る。
   手前の内陣天井にも、びっしりと図像が描き込
  まれている。小さなメダイオンの中は全て人物の
  顔であり、天井部分のフレスコはまるで曼荼羅を
  見るような気分だった。
   北側の壁面には「ラザロの復活」や「エルサレ
  ム入城」が、南側には「商人を追い払うキリスト」
  などが確認できた。
   かなり退色してしまっていて、黄色と褐色が大
  半となっているのは残念だが、オリジナルの色を
  想像するのは楽しかった。
   

     
       
     ヴェロー聖マルタン教会
       Véreaux/Église St-Martin

                           
1 Cher
                                  
   シェール県の東端に近い田園地帯の村で、ブルゴ
  ーニュ地方との境界でもあるアリエ
(Allier) 川まで
  はかなり近いのである。
 
   教会の尖塔はここでもゴシック風な厳めしさだが、
  塔の下部は盲アーケードの意匠で、ここがロマネス
  クの聖堂であることを示している。
   身廊には一部側廊が付け加えられているが、従来
  は単身廊十字形の聖堂だったらしい。
   ここでは、西正面の入口に注目したい。
   ファサード部分に庇を付けた格好で、この入口の
  門部分が保存されている。
   半円アーチの門にはタンパンは無く、二重のヴシ
  ュールには連続的な花模様の意匠が施されている。
   ヴシュールを支える左右の柱頭の下に、細長い人
  物像が刻まれている。
   いずれも冠を戴いた女性像で、左側の像は小鳥の
  羽を持っているようにも見える。また右側の像も、
  小鳥と木の葉を持っているのだが、何を意味するの
  かは不明だ。
   しかし、円柱をフルに使用した痩身の人物像とい
  うものは、いかにもロマネスク的である。構造体と
  もいうべき円柱を、そのまま見事に彫刻にしてしま
  っているからなのである。  
   

              
             
     ブリネー聖エニャン教会
       Brinay/ Église St-Aignan

                           1 Cher

                                  
   ヴィエルゾン (Vierzon) の町から、シェール
  河の対岸をブールジュに向かって8
Km走ると、
  そこがこの小さな寒村である。
   村の礼拝堂のようなチャーミングなたたずまい
  の教会は、丸で民家の間に隠れるようにして、木
  立の陰にひっそりと建っていた。

   しかし、一歩堂内に入ると、そこは外界とは隔
  絶された、異次元とも言うべき輝くような別世界
  だったのだ。祭室の壁の全てが、彩色も鮮やかに
  残されたフレスコ画で埋め尽くされている。濃い
  朱色と緑と黄が主体で、窓からの自然光に映えて
  殊更美しかった。

   生誕から磔刑に至る、キリストの生涯を中心に
  した場面が多く、落ち着きと品格に溢れた優しい
  図像ばかりであった。
   私が写真の「エジプトへの逃避」を特に気に入
  ったのは、聖母子の過酷な境遇を予感させる劇的
  な場面が、平和で情感豊かな静寂さに満ちていた
  からだった。
   「東方三博士の礼拝」や「悪魔の誘惑」「最後
  の晩餐」など、いずれも甲乙つけがたい傑作であ
  ろう。
   

              
              
     ヴィック聖マルタン教会
       Vicq/ Église St-Martin

                           1 Cher

                        
   ブリネーと共に、ベリイ地方のロマネスク壁画
  を代表する傑作である。
   ノアン・ヴィック
(Nohant-Vicq) はシャトー
  ルー郊外に有る、ジョルジュ・サンドに縁の深い
  村であり、彼女の尽力によってこの壁画が残され
  たという。

   ブリネーと同様に、教会は村の礼拝堂とも言え
  るような、愛らしいたたずまいである。
   太く力強い輪郭線が特徴のこのフレスコ画は、
  内陣を仕切るアーチ壁も含め、聖堂の壁面全てに
  描かれており、色はやや褪色しているものの、盛
  り上がるような迫力は少しも失われていない。

   写真は、上部に「聖マルタンの逸話」、下部に
  「キリストの捕縛」が描かれている中の、特にキ
  リストに接吻するユダの姿である。
   振り返るキリストと、周囲の兵士や使徒たちの
  群像が躍動的である。
   「三博士礼拝」や「エルサレム入城」など、魅
  力的な主題が取り上げられていて見応えが有る。
   ロワールからベリイ地方にかけて分布する一連
  のフレスコ壁画には、優れた筆致の躍動的な表現
  力が見られる。
   

    
    
     ブールジュ聖エチェンヌ大聖堂
       Bourges/ Cathédrale St-Etienne

                           1
Cher

        
     12世紀末創建になる文字通りの大聖堂で、
  正面入口のゴシック彫刻が示す迫力には圧倒さ
  れてしまった。中央のタンパンに彫られた「最
  後の審判」は、ゴシックの傑作として見応えが
  あった。

   内陣の13世紀ステンドグラスを見てから、
  私達は聖堂の両脇に有る南北両扉口へ行ってみ
  た。創建時のロマネスク建築が残された場所で
  ある。写真は南の扉口で、ロマネスク様式のタ
  ンパンを中心とした彫刻群を見る事が出来た。
   シャルトルの中央扉口に似ているなあと最初
  に感じた。タンパンの四福音書家シンボルに囲
  まれた荘厳のキリスト像、その下のまぐさ石に
  彫られた十二使徒、両脇の円柱に彫られた細長
  い聖人像など、構成が全く同じなのである。
   正面ゴシックの生々しい写実を見た直後だっ
  たので、ロマネスクの諸像が示す一見稚拙な彫
  りが、むしろ深みの有る造形的表現として感じ
  られたのだった。
   中央柱の彫像は、13世紀後補のキリスト像
  らしい。北門には聖母マリアを中心とした彫像
  が見られた。   
    

     
    
     プレンピエ聖マルタン旧修道院付属教会
       Plaimpied/ Église St-Martin Abbatiale

                          1 Cher
       
   ブールジュの町の東南8Kmに位置す
  るオーロン
(Auron) 河畔の美しい村の
  真ん中に、この旧修道院は在る。
   聖堂は11世紀の創建だが、16世
  紀頃の度重なる戦乱で損壊し、修復が
  繰り返されたため、当初の建築はほと
  んど残っていない。
   創建時の面影を伝えるのが、身廊の
  柱頭に飾られた彫刻群である。これと
  てかなりの修復が見られるが、像容に
  致命的な変貌は無さそうで、ポアトウ
  のショウヴィニイにも似た、悪魔や怪
  物が主役の空間が出来上がっている。
   写真は「悪魔に誘惑されるイエス」
  で、優れた描写力が幻視的な場面を見
  事に表現してある。
   他にも、双頭の獅子や怪鳥、植物か
  ら生まれる人間など、直接には聖書と
  は関連の無さそうな図像ばかりが多い
  のだが、ロマネスク特有の不可思議な
  世界を感じさせる。
    

     
     
     シャトーメイヤン聖ジュネ教会
       Châteaumeillan/ Église St-Genès

                         1
Cher

        
   灰色ワインと呼ばれるガメイ種の淡麗な赤ワ
  インで知られる町で、ブールジュの南約70キ
  ロに位置している。

   教会は三廊式で、左右の翼廊に二つづつ小祭
  室が有るため、全部で七つの祭室を持つ壮大な
  建築である。
   12世紀の創建で、褐色の石材が落ち着いた
  雰囲気を演出している。
   扉口や柱頭彫刻に優れた意匠が見られるが、
  特に美しかったのが、翼廊の交差部から祭室へ
  と至る内陣空間だった。太い四方柱とその間に
  配された細い柱とが造り出す、荘厳だが軽快で
  繊細な感覚は、他に余り見られない構造だ。
   「柱の森」とも称される程の細い列柱だが、
  そこには、石を積んだだけというプリミティヴ
  なロマネスクのイメージとは対極に位置する理
  知的な美しさが秘められている。

   柱頭には様々な図像が彫られているが、アダ
  ムとイヴの創造や誘惑、カインとアベルなどの
  図像が興味深かった。   
    

      
      
     サン・トゥートリール・アン・グラセイ聖ウートリール教会
       St-Outrille en Graçay/Église St-Outrille

                          1
Cher

        
   イスーダン (Issoudun) の郊外に泊まった翌
  朝、私達はグラセイの町の西に建つこのチャー
  ミングな教会を訪ねた。
   朝市の立つ広場の近く、小川が流れる緑に囲
  まれた爽快な聖域となっている。
   鐘塔は後世のものだろうが、躍動感に満ちた
  後陣外観のアンサンブルが目を引いた。中央に
  ロンバルディア帯の装飾があり、三つの小祭室
  壁面は窓だけという単純な姿である。右端のも
  のは後補らしい。

   聖堂は単身廊で、翼廊のある十字型である。
  身廊は15世紀の再建になったものだが、翼廊
  との境目には、創建当初のものと思われる素朴
  な半円形アーチが残されていた。
   祭室部分の壁面や柱の全てが綺麗に洗浄され
  ているので、真新しい建築のように見える。し
  かし、これはれっきとした13世紀初頭の建築
  であり、左右に三連アーチの装飾窓を設けた意
  匠からは、この地方がいかに非凡な美意識を所
  有していたかを窺い知ることが出来る。
   様々な時代の建築が混合しているにもかかわ
  らず、均整がとれた美しい建築だった。   
   

    
     
     アヴォール聖ユーグ教会
       Avord/ Église St-Hugues

                         1
Cher

                
   この村は、ブールジュの東南20Kmにある
  小さな集落である。
   教会は村の規模に相応しい素朴な建築で、単
  身廊の箱型バジリカである。
   西正面扉口のアーチ門装飾以外には、ロマネ
  スク建築として見るべきものは無い。
   しかしここでは、聖堂へと入り、祭室部分ま
  で歩を進め、正面の窓周辺や左右の壁面を注視
  せねばならない。
   そこには、ロマネスク時代の愛らしくもシュ
  ールな、美しいフレスコ画の図像が在るのだ。
   20世紀半ばになって、上塗りされていた漆
  喰の下から、奇跡的に発見されたらしい。
   正面窓の両側に描かれた、鍵を持つ聖ペテロ
  と法典を持つ聖パウロの像が最大の目的だった
  のだが、窓からの光線が強過ぎて写真が撮れな
  かった。
   掲載した写真は、祭室脇の壁面に描かれた女
  性の像である。僧衣をまとった不思議な姿で、
  描かれた趣意は判読出来ないが、何故かブリネ
  ーの聖母像が連想されてならなかった。
   かなり損傷が激しいものの、創作当初の流れ
  るような抽象美を少しも失っていない。
    

    
     
     ラ・セル・ブルエール聖ブレース教会
       La Celle Bruère/ Église St-Blaise

                           1 Cher

       
   ここはブールジュの南50Km、シェル河畔
  に近い、背後に深い森のある牧歌的な村である。
   かなり細長いシンプルな聖堂であり、鐘塔も
  ロマネスク様式なのだが、身廊部両サイドに飛
  びアーチのような梁が付けられているので、ゴ
  シック期に大きな改造があったようだ。

   後陣は主祭室のほかに四つの小祭室が揃った
  豪壮な眺めであり、自ずと三廊式の身廊が想定
  された。
   西正面のファサードは改修された味気無いも
  のだったが、数個のユニークな人物と動物のレ
  リーフが壁面に嵌め込まれていた。
   身廊は思った通り三廊式で、翼廊の両側には
  小礼拝堂が造られている。半円筒ヴォールトの
  天井には、連続する横断アーチが6つ見られ、
  まことに優美かつ豪快な建築である。
   祭室部分の側廊との区切りが三つの連続アー
  チになっており、太い円柱が落ち着いた空間を
  創出している。
   柱頭彫刻も見事で、写真はその一つ。ライオ
  ンと植物を意匠した、彫りの良い作品である。
    

    
     
     ヌヴィー・サン・セピュルクル聖エチェンヌ教会
       Neuvy-St-Sépulchre/Église St-Etienne

                           2 Indré
         
   ヴィックから近いこの町の聖堂は、大
  変珍しい構造である。それは、バジリカ
  式の三廊式身廊に、エルサレムの聖墳墓
  教会を模した円形聖堂
(Rotonde) が組
  み合わされたような姿だからである。
   円形聖堂は二層構造で、11本の柱と
  それを結ぶ連続アーチによって仕切られ
  ている。円の中央は天蓋まで吹き抜けに
  なっており、柱頭彫刻を間じかに見なが
  ら二階部分を歩くのは楽しかった。
   柱は太くずっしりと重厚で、施された
  柱頭彫刻はいずれもロマネスクらしい幻
  想に満ちた図像ばかりである。
   写真右の柱頭では猿と猫のダンスが見
  られ、左ではふんどし一丁の髭親爺に、
  出した舌が植物の葉っぱになっている猫
  などが見られる。
   他の柱頭でも、植物模様の蔓の先が人
  間の姿に変貌したり、葉の中から人物が
  覗いたりしている。何と豊かな想像力で
  あり、遊び心であることだろうか。
    

      
     
     フォンゴンボウ聖母聖ジュリアン修道院教会
       Fongombault/ Église de l'Abbaye Notre-Dame et St-Julien

                           2 Indré

       
   ポアティエの東70Km、ベリー地方
  に入ってすぐの、クルーズ
(Creuse)
  に沿った美しい町で、修道院は町外れの
  森の中に在る。

   82年の正月、ポアトウのロマネスク
  探訪の際に訪れた時は完全に冬季閉鎖状
  態で、正面の外観しか見る事が出来なか
  った。
   03年の10月に再訪の機会を得たの
  で、午前のミサに合わせてポアティエか
  ら車を飛ばした。

   参列の人数は少なかったが、荘重な雰
  囲気の中で、大勢の僧侶達が祭壇で香を
  焚き、説教をしていた。
   聖堂に響き渡るグレゴリオ聖歌の典雅
  な美しさは、仏教徒の私達をしても、引
  き込まれそうな魔力を感じさせた。

   時を忘れたかのように続くミサのお陰
  で動き回ることが出来ず、内陣の柱頭や
  祭室、中庭からの見事な後陣の景観を見
  損なってしまった。
   もう一度、ここを訪ねる計画を立てね
  ばならない。
    

   
       
     サン・ジェヌー聖ジェヌー教会
       St-Genou/Église St-Genou

                            2 Indré
       
                                  
   シャトールー (Châteauroux) からロッ
  シュ
(Loches) に向けて、アンドレ川に沿
  った国道を約30
Km走る。
   創建は9世紀だが、ノルマンに破壊され
  た修道院が11世紀には再建されたという。
   写真は後陣の斜め後ろからのもので、こ
  こに写っている白い建築部分だけがロマネ
  スク時代のものである。
   従来は翼廊の無い三廊式だったが、ゴシ
  ック以降に鐘塔部分が入口となり、袖廊が
  付け加えられたのだと思う。
   身廊には左右四本づつの円柱が即廊との
  境目にアーケードを構成している。その上
  にトリビューンのような盲アーケードと、
  さらに上の採光窓と重なっており、小規模
  ながら壮麗な建築美を見せている。
   それぞれの柱頭には、切り口の鮮やかな
  彫刻が飾られている。ライオン、鳥、葉人
  間などをモチーフとしたものの他に、「東
  方三博士礼拝」や「ライオンの穴のダニエ
  ル」などが傑作だ。
   柱頭の全てにやや綺麗過ぎる修復が施さ
  れており、それがとても気になるところで
  はある。   
   

      
       
     パルオー・シュル・アンドレ旧聖ローラン教会
       Palluau-sur-Indré/Ancienne Église St-Laurent

                            2 Indré
                                  
            
   後陣の一部は残っているものの、教会の外観から
  このフレスコ画の存在を想像することは不可能だろ
  う。正面の入口がアルミサッシで出来ていたからな
  のだが、この旧小修道院の内部空間には、奇跡的と
  も思える程の創造的な壁画が残されているのである。

   ロマネスクの建築としては、聖堂の祭室部分だけ
  が残っており、さらに半円筒ヴォールトの天井部分
  と祭室のドーム部分にそれらの貴重な壁画を見るこ
  とが出来た。
   手前に栄光のキリスト像がある。右手を上げ、左
  手に律法を持ち、四福音書家のシンボルに囲まれな
  がら、楕円形の輪郭の中の玉座に座している。

   写真は祭室ドームに描かれた聖母子像で、ブリネ
  ーと同じような朱色と緑色が鮮やかで、色彩の調和
  がとても美しい。
   両端に竜頭がデザインされた椅子に座っている聖
  母というのは珍しいが、慈愛がデフォルメされたよ
  うな何とも素朴で愛らしい像容である。
   聖母と幼児キリストの頬に、ホクロのような点が
  二つづつ描かれている。これはヴィックにもその事
  例が見られるのだが、何と手前のキリスト像や周囲
  の聖人の頬にもこのホクロが描かれていた。聖なる
  もの、を表現したものなのだろうか。
   ノルマンディーやロワール一帯のフレスコ壁画に
  は、何故かこの“ホクロ”状またはややぼやかした
  “頬紅”状のドットが描かれているものが多い。   
   

    
     
     ボミエール聖ピエール教会
       Bommiers/ Église St-Pierre

                          2 Indré

                   
   この教会は、宿泊していたイスーダンの真
  南、シャトールー
(Châteauroux) の町の真
  東に位置する小さな村に在る。
   いきなり聖堂に入るのではなく、その前に
  西正面ファサードや後陣など、建築の外観を
  眺めてみるのが、中世の建築に対する敬意を
  示すための私達の作法となっている。
   しかしここでは、後陣の見える場所が個人
  のお庭だったので、特別に許可を頂かねばな
  らなかった。作法も時には困難となる。
   いかにもベリー地方らしい、均整の取れた
  後陣だったが、小祭室と主祭室の間に一段小
  さい祭室が有るのが特徴だった。

   聖堂は翼廊付きの十字で単身廊という、単
  純明快なプランである。修復や改修を重ねて
  いるものの、鐘塔以外の大部分がほぼ創建当
  初の雰囲気を保っていそうである。
   十字交差部に残る柱頭彫刻は見事で、撮影
  はしたのだが、かなり高い位置に在ったため
  良い写真にはならなかった。望遠レンズを忘
  れたのが、何とも悔やまれたものだった。
    

    
      
     メオベック聖ピエール教会
       Méobecq/ Église St-Pierre

                         2 Indré

         
   静かな町の広場に面して、この教会は建って
  いる。正面の扉口に見るべきものは無かった。
   聖堂の後方へと回ると隣家との間隔が狭く、
  後陣の全貌を一望することは出来なかった。
   身廊と翼廊部分の外壁が工事中で、足場が邪
  魔をして建築外観は写真にならなかった。
   身廊は三廊式で落ち着いた雰囲気だが、やや
  後世の修復が露骨だった。

   写真は中央主祭室部分から側廊の小祭室を、
  連続アーチ越しに眺めたところである。この辺
  りは巧みに美しい空間が演出されており、ロマ
  ネスクらしい構成となっている。
   祭室の半円ドームには、荘厳のキリストと使
  徒達の像が描かれているが、これはどうやら後
  世に手が加えられているようだ。
   窓の高さの柱や壁面に描かれているフレスコ
  画には、当代の見るべき図像が残っている。や
  はり、近年になって奇跡的に発見されたもので
  ある。
   大半が聖人像で、聖ペテロ、聖ベネディクト
  などという文字が像の横に書いてあるので、そ
  れと知れるのである。  
   

    
     
     ポールネー聖エチェンヌ教会
       Paulnay/ Église St-Étienne

                        2 Indré

            
   シャトールーからトゥール (Tours) へ向か
  う途中で、予定外の立ち寄りから発見した教会
  である。物の本には教会の存在は載っているも
  のの、この見事な扉口については何も書かれて
  はいない。
   珈琲が飲みたくてキャフェを探し、店の前の
  小さな広場の駐車場に車を止めた。何と目の前
  がこの教会だったのである。花の存在すら知ら
  ず、団子のみを追いかけていたことになる。
   しかし、たまたま寄ったこの教会のファサー
  ドは、通過していたらさぞや悔やまれるであろ
  う程の傑作だった。

   ファサードの構成は、隣接するポアトウ地方
  の様式に似ている。タンパンの無い三連のアー
  チ、多重のヴシュール装飾、横一列の持ち送り
  彫刻などが挙げられる。
   彫刻の彫りがしっかりしているので、研磨ま
  たは修復されたと見るべきなのだが、ロマネス
  ク彫刻の華とも言える作品が、名も知れぬ町に
  存在していたということが無性に嬉しかった。
    

       
       
     シャンボン・シュル・ヴーエイズ聖ヴァレリー教会
       Chambon-sur-Voueize/Église St-Valérie

                            3 Creuse
           
                   
                                  
   オーベルニュ北部のネリ・ル・バン (Neris-les-
   Bains) に滞在していた時に行ったので、この町
  がリムーザン
(Limousin) 地方の最東北端にあっ
  たことを知らなかった。二つの地方の境界となっ
  ているシェール
(Cher) 川の支流タルド (Tardes)
   
の、そのまた支流がヴーエイズ川なのであった。

   この壮大な規模の教会は、町の外側の森の彼方
  からも双塔が眺められる程の大きさだった。
   残念なことに後陣が修復中で、見事な半円形の
  祭室群が見えなかったのが心残りだった。
   三廊式十字形の聖堂で、身廊には左右6本づつ
  の柱が側廊との間のアーケードを構成している。
   柱は角柱で、四方に円柱が配されている。
   写真は、身廊の一番奥の聖歌隊席から、十字交
  差部と祭室を眺めたものである。ここは半円筒ヴ
  ォールトだが、身廊や側廊の天井は交差穹窿であ
  った。   
   ヴェズレーからの巡礼路上に位置しているので、
  巡礼教会としての周歩廊が内陣の外側に設計され
  ている。三つの小後陣を配した、美しい放射状祭
  室が演出されているのだった。
   創建は10世紀末の修道院で、現在の教会建築
  は祭室・後陣部分が12世紀、身廊部分は11世
  紀のものである。
   

                
              
     ル・ドラ聖ピエール参事会教会
       Le Dorat/ Église Collégiale St-Pierre

                        4 Haute-Vienne

                            
   ポアティエからリモージュへ向かって国道を走
  り、リムーザン地方へ入って直ぐの町がル・ドラ
  である。

   教会の建物は、全体に煉瓦のような切石を積ん
  だ重厚な建築で、内陣は側廊の有る三列の身廊か
  ら成り立っている。身廊の天井は半円アーチ、側
  廊の天井は交差ボ−ルトになっている。
   祭室には周歩廊が有り、小祭室も付いた完璧な
  プランと言えるだろう。
   地下のクリプトの壁も含め、柱もアーチも積ん
  である切石がとても美しく見える落ち着いた聖堂
  である。

   正面のファサードには、盲アーチで装飾された
  豪快な塔と、それを挟む八角形の二つの小塔があ
  り、その下に特異な飾りの門が造られている。
   入口の周囲のアーチ部分は、波型のアーチ模様
  が四重に重なっており、これは他に類例を見ない
  珍しい意匠であった。

   この聖堂のどこが格別美しいというのではない
  が、このどっしりとしていながら、さして飾らぬ
  素朴さに惹かれるのだろう。これこそが即ち、ロ
  マネスク建築の美しさの本質なのではないだろう
  か。  
   

     
     
     ソリニャック聖ピエール旧修道院付属教会
       Solignac/ Ancienne Église St-Pierre Abbatiale

                        4 Haute-Vienne

         
   リモージュ (Limoges) の町の南に
  隣接する、静かな集落の真ん中にこの
  教会の聖域が在る。
   聖堂は三つの円形ドームを持った、
  ビザンチンの面影も伝える12世紀後
  半の建築である。聖堂は単身廊の十字
  形で、身廊部分に二つ、翼廊との交差
  部分に一つ、ぽっかりと穴が開いたよ
  うに半球体形の天井が連続している。

   写真は後陣部分で、祭室から放射状
  に三つの小祭室が張り出ており、翼廊
  にも小礼拝堂が付随している。
   祭室の上部は八角形の塔のように見
  えるが、五角のみが迫り出し、残りの
  三角の部分で身廊と翼廊に接合されて
  いるのである。
   一見無骨そうだが、全体にバランス
  のとれた美しい建築である。
   聖ペテロに鍵を渡すキリスト像等、
  身廊の柱頭には美しい彫刻がある。
   

    
    
     サン・レオナール・ド・ノブラ聖レオナール参事会教会
       St-Léonard-de-Noblat
/Collégiale St-Léonard

                         4 Haute-Vienne

           
   ベリー地方からリモージュを経由し、
  ドルドーニュまでドライブした事があっ
  た。95年の夏休みのことで、途中この
  町に寄ってみることにしたのだが、ただ
  の立ち寄りには勿体無いような教会が在
  ったのに驚いた記憶がある。

   最初に目に入ったのが、写真右の奇妙
  な格好をした鐘塔だった。余り美しいと
  は言い難い塔だが、一階が聖堂への玄関
  間になっており、その柱頭に素晴らしい
  彫刻が在ったのである。暗く狭い空間な
  ので、残念ながら写真は上手く撮れなか
  った。
   単身廊だが部分的に側廊が後補された
  変則的な構造で、祭室には巡礼教会のよ
  うな周歩廊と七つの放射状祭室が設けら
  れるという、複合的な平面プランを示し
  ている。
   写真でもその複雑さが容易に理解でき
  るが、石を盛り上げたような後陣の景観
  は、建築の面白さに満ち溢れていた。
    

   
       
     サン・ジュニアン聖ジュニアン参事会教会
       St-Junien/Collégiale St-Junien

                            4 Haute-Vienne                              
                                  
   リモージュ (Limoges) の町を流れるロワールの支
  流ヴィエンヌ
(Vienne) 川に沿って約30Km下った
  ところに、この地方の中都市であるこの町が在る。

   町の中心に建つこの教会は、聖ジュニアンの隠棲
  所としての起源を持っている。
   その後、ノルマンによる破壊や幾多の修復を繰り
  返して現在に至っているそうである。
   煉瓦のような切石を積んだ建築は、ル・ドラやソ
  リニャックなど一連のリムーザン地方の聖堂に共通
  している。
   三廊式十字形の聖堂だが、半円形の後陣の無い方
  形の祭室となっている。祭室部分は13世紀に改造
  されているので、当初からの姿ではないと考えたほ
  うが良いのかもしれない。
   写真の西側正面ファサードは、ル・ドラの聖堂建
  築のイメージに共通しているように見える。堅固な
  要塞風であり、両サイドの小塔の装飾も似ている。
  このファサード部分は12世紀の建造で、身廊の大
  半は11世紀のものだそうである。

   内陣に聖ジュニアンの墓所があり、その各面に精
  巧な彫刻が彫られているのだが、ここも残念ながら
  修復中で見えなかった。覆いの隙間から、北面の聖
  母子像がかすかに見えただけだった。
           

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