オーヴェルニュ(北部)
    のロマネスク紀行
   
   Auvergne Nord
      Romane
 
 
 
 
 ノートルダム・デュ・ポール教会 
  
クレルモン・フェラン
  
 
 フランス中央山塊の大部分を占める地方で、
それだけ伝統的な風物が今日まで伝えられた地
域である。
 中世サンチャゴへの巡礼路に当るので、巡礼
教会と共にロマネスク聖堂が数多く建立され、
今日まで伝えられた。オーベルニュ特有の周歩
廊の有る祭室は壮麗で、柱頭彫刻も質の高いも
のばかりである。
 ロワール川の上流地域もオーベルニュ地方な
ので、中流とも言えるロワール県も同じ地域と
解釈して加えた。
 従来の地理的区分とは若干異なっている点は
御容赦願いたい。
 アリエ県はブルボネ地方とも称される。
 
 
 
   県名と県庁所在地

 
オ-ベルニュ北部
    
1 Allier (Moulins)
    
2 Puy-de-Dôme
        (
Clermont-Ferrand)
    5 Loire (St-Etienne)   

 オーヴェルニュ南部
    
3 Cantal (Aurillac)
  
  4 Haute-Loire (Le Puy)
   
 
 
 
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 シャップ聖アンヌ教会
   Chappes/Église Ste-Anne 
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 この町はモンマローの真北に位置している寒
村で、夕方訪ねたからなのか、教会の場所を尋
ねたくても人影ひとつ見えなかった。
 しかし、八角形の鐘塔が目に入ったので、教
会へは比較的容易に着く事が出来た。
 聖堂の外観を眺めてみると、建築は全体的に
ゴシック的な改修が行われてきた様に思える。
 しかし、半円形の後陣や聖堂の側面、さらに
西側正面ファサード周辺を詳細に観察すると、
ロマネスクらしい意匠がかなり色濃く残っても
いたのである。
 正面の入口は半円の三重ヴシュールで飾られ
ており、タンパン部分に彫刻は無かった。
 従来の扉は消失しており、鉄パイプ製の扉が
付けられていて開かない。
 隙間から中を覗くと、三廊式の身廊や数多く
の柱頭の彫刻の存在が確認出来る。
 鉄パイプ扉を無理矢理引っ張ったら、何と少
し隙間が出来て中へ入る事が出来たのだった。
神が与えてくれた絶好の機会だったのか、或い
は単なる不法侵入だったのだろうか。
 写真は数ある柱頭彫刻の内の、最も古そうな
ものの一つである。正面や両脇に、手を挙げた
り棒のようなものを持っている人物が五人彫ら
れている。どんな場面なのかは想像もつかなか
ったが、夢に満ちた柱頭彫刻の展覧会のようだ
った。   
   
  
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 ブルボン・ラルシャンボー
    
聖ジョルジュ教会
   Bourbon-l'Archambault/
    Église St-Georges
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 ブルボン地方のロマネスク教会を巡る拠点と
して、温泉町ネリ
この町の両方に数泊づつ滞
在した。この町のホテルからこの教会までは散
歩の範疇だったので、まだ朝靄が煙っている中
を一番に歩いて行ってみた。

 鐘塔が朝日に輝いて美しかったが、塔の先端
はすっくと尖ったゴシック風のものだった。
 聖堂は三廊式十字形で、基本的にはロマネス
クが基盤となっているので、部分的な尖頭アー
チやリブヴォールトは気にならない。
 何時の時点で色が付けられたのかは明確では
ないが、円柱や柱頭、壁面の一部に彩色が施さ
れている。
 写真は塔の下の交差部の円柱にある古い柱頭
彫刻の一つで、とても気に入ったものである。
 楽団の演奏風景なのだろうが、どう見ても聖
歌や賛美歌を演奏しているようには見えない。
庶民の通俗的な民謡が聞こえてくるようだ。
 箱型の妙な楽器を吹く男、縦笛を口にした小
さな男、そして弦楽器を弾く髭親爺。
 ロマネスクの教会というのは、なんでこんな
変チクリンな彫刻で飾られているのだろうか。
   
  
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 ヌイイ・アン・ドンジョン
      聖マドレーヌ教会

   Neuilly-en-Donjon /
     Église Ste-Madeleine
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 ブルゴーニュのブリオネーからロワール河を
渡ると、そこはもうオーヴェルニュ地方なので
ある。しかしこのタンパン彫刻は明らかにブリ
オネーの文化圏に属している。

 半円形のタンパンに収めるための図像は、極
端に細長い人物や無理矢理押し込んだような動
物像を創出した。
 しかし、それがむしろ抽象的で暖かく、写実
を超えた楽しいデフォルメを生んだのである。
 上部は、聖母子に拝謁する東方三博士と、こ
れを祝福してラッパを吹く天使であり、下部は
アダムとイヴの原罪と最後の晩餐である。
 見事な配列の意匠で、彫刻の技術も秀逸であ
り、小さなタンパンだがロマネスクを代表する
彫刻と言っても良いほど気に入っている。
   
  
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 サン・デジーレ
     聖デジーレ教会

   St-Désiré/Église St-Désiré
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 モントルソンの西北25キロにある、ブルボ
ネ地方北西端の町である。
 朝一番に訪ねたら教会の扉はまだ閉まってい
たので、何処へ訊ねたものかと途方に暮れてし
まった。しかし、少し離れた所に小さなカフェ
が在り、そこの奥さんが鍵を持ってやって来る
と直ぐに開けてくれた。

 三廊式十字形が基本となった聖堂で、西側の
塔のある正面部分は後世の建築らしい。現在の
入口は、この後補部分の北側に取り付けられて
いる。
 身廊と側廊の天井はどちらも半円筒ヴォール
トで、最もプリミティブでいかにもロマネスク
らしい雰囲気に満ちていた。三本の横断アーチ
が、四つのベイを構成している。
 小さな窓があるだけの壁面や、盲アーケード
で仕切られた祭室等が簡素な美しさを見せてく
れている。

 中央祭室は一段高くなっており、下部はクリ
プトになっていた。祭室の両サイドに細長い礼
拝堂が設けられており聖堂の背後からは、袖廊
両端の小礼拝堂と併せて五つの半円形後陣を見
ることが出来た。
 写真は後陣の姿で、中央祭室とその北側の小
礼拝堂である。
   
  
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 ドメラ聖母教会
  Domérat/Église Notre-Dame 
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 モントルソン郊外の大きな町で、教会は広場
に面して建っている。この地方には素晴らしい
地下祭室(クリプト)が多く分布しているが、
ここもその一つである。
 西側に三つの扉口のある三廊式十字形の聖堂
である。
 聖堂の背後に回ると、中央の祭室と袖廊の小
礼拝堂を併せて、三つの半円形後陣を見ること
が出来た。

 身廊の柱頭彫刻には奇想天外なモチーフが多
く、彩色された痕跡が残っているが、どうやら
後世の手が入っているようだ。

 写真のクリプトは11世紀創建時のもので、
三廊式四本づつ二列の円柱と素朴な柱頭とが、
天井の交差ヴォールトを支えている。
   
  
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 メイエール聖ジュリアン教会
   Meillers/Église St-Julien 
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 この地方の中心都市であるブルボン・ラルシ
ャンボウの町に数日宿泊しブルボネイ地方をの
んびりと歩いた。
 ブルボンの南に広がるメッサージュの森の入
口にこの静かな村があり、教会は森へと通じる
道の脇に建っている。

 聖堂は三廊式バシリカ形式で、身廊の小さい
割りに太い角柱が側廊との間に左右二本づつ立
てられており、半円筒ヴォールトの天井と共に
ロマネスク建築の素朴さを演出している。
 聖堂後方からの眺めは美しく、交差部に相当
する部分に立つ鐘塔と半円形の後陣がとても絵
になっている。どうやら創建時には十字形だっ
たが、後世になって翼廊が取り外されたものら
しい。

 ここでは西正面扉口の彫刻を見逃してはなら
ない。タンパン部分には、まぐさ石のようなや
や不自然な形の彫刻がはめ込まれている。クレ
ルモン・フェランの聖母教会に見られる、タン
パンの形に似ているようだ。
 栄光のキリスト像と光背を支える二天使、両
側のアーケードには左右五人づつの使徒の群像
が彫られている。
 左右円柱の柱頭彫刻が面白い。特に写真右端
の柱頭には、竪琴を弾くロバが彫られていて注
目させられる。
   
  
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 オートリー・イサール
      三位一体教会

  Autry-Issards/
    Église de la Trinité
 
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 前述のメイエールから北方へ7キロ行った所
に、この小さな教会の建つ集落がある。
 花盛りの広場に面して建っており、メイエー
ルの扉口に似たタンパン彫刻を見ることが出来
る。まぐさ石のような様式は同じで、中央にア
ーモンド形の光背が見える。だがそこに居るべ
きキリスト像は崩落したらしい。
 光背を支える二天使は同じだが、両側のアー
ケードには使徒は彫られておらず、ウサギか羊
のような形をしたものが彫られている。解説書
によると、それはどうやらランプらしい。何を
意味するのか、までは書いてなかった。

 聖堂は単身廊の素朴な建築で、半円筒ヴォー
ルトの天井と半円ドームの祭室がいかにもロマ
ネスクらしい美しさだった。
 しかし、素人の感性など当てにはならず、西
ファサードと身廊、聖堂中央に建つと思われた
鐘塔や半円形の祭室など、大半の建築が改造さ
れていたのだった。わヶで、つまりは後世に建
て替えられたのであり、プリミティブなロマネ
スクらしさとは別物ということになってしまう
のである。
  
  
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 サン・ムヌー聖ムヌー教会
  St-Menoux/Église St-Menoux
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 前回スーヴィニーの小修道院教会が完全工事
中で、何一つ見る事が出来なかった。重要な目
的の一つであっただけに、すっかり落胆してい
たのだが、それを救ってくれたのがこの素晴ら
しい教会だった。
 スーヴィニーの北6キロの、国道に面した町
で、国道はこの教会の建物を迂回するように湾
曲して通じている。
 東西62mという大きな聖堂で玄関間、四つ
のベイ、そして長い馬蹄形の祭室を有する三廊
式のバシリカ様式である。
 側廊は、そのまま祭室の周囲を巡る周歩廊に
なっており、五つの小祭室が外側に向かって放
射状に配置されている。
 写真は祭室の馬蹄形部分で六本の円柱が半円
形に立てられており、二層の優雅なアーケード
を構成している。
 柱頭の彫刻は主に植物模様が多く、見事な彫
りの深い立派なものである。

 背後から眺めた後陣の景色は、放射状祭室、
中央祭室の上層そして身廊との接合部に建つ鐘
塔が三段に連なるオブジェのように見えた。
   
  
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 アゴンジュ聖母教会
  Agonges/Église Notre-Dame 
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 この村は前述のサン・ムヌーから、牧草地の
中を北へ2キロ行った隣村である。この小さな
村にも、ロマネスクの鐘塔が建ち、半円形の後
陣が美しい中世の聖堂が残されていた。
 建築プランは単身廊十字形という至極簡素な
もので、中央祭室の両隣に袖廊の小祭室が配さ
れている。
 写真は聖堂の北側で扉口と鐘塔の下部が写っ
ている。朱色のレンガ積みが美しいのだが、注
目して頂だきたいのが塔壁面のレリーフ彫刻で
ある。
 レンガのブロック一個大の彫刻が十一個はめ
込まれているのが確認出来る。図像は走ってい
る動物で、犬か狼のように見える。
 解説には
Scène de Chasse と書かれ、ど
うやら狩猟の場面であるらしい。何を意味する
のか解らないところがロマネスク的である、と
言えないこともない。
     
  
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 スヴィニー聖ピエール
     聖ポール小修道院教会

   Souvigny/Église Prieurale
      St-Pierre-et-St-Paul
 
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 11世紀に創建された小修道院で、クリュニ
III をモデルにしたのだそうだ。
 08年に訪ねた際には完全な修復工事中で、
内部は勿論外観すら見る事が出来なかったが、
今回の再訪の結果は惨憺たる失望だった。聖堂
内の全てが漆喰のような塗料で塗り立てられて
いる。柱は濃い黄色、他の壁や天井は真っ白、
だった。写真の様に柱頭彫刻ですら一律に真っ
白に、なのである。
 これは「キリストの祝福」が主題だが、他に
も優れた表現の柱頭が多く見られた。陰影さえ
あれば鑑賞に耐えられるが、無ければ最悪だろ
う。当節のこの修復方法には、きっと意味が在
るのだろうと信じているのだが。
 現在見られる建築は度重なる修復を経験して
おり、凡その印象は構造はロマネスク、ヴォー
ルトはゴシックと見える。
 三つの塔、二つの翼廊、五つの梁間など、壮
大な建築プランが歴史を物語る。美術館に保存
された「十二か月の仕事」の石柱彫刻は見逃せ
ない。
     
  
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 ル・モンテ
   聖ジェルヴェ聖プロテ教会

  Le Montet/Église
     St-Gervais-et-St-Protais
 
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 ル・モンテはスーヴィニーの町から南西方向
に18
キロ行ったところにある、高台の上に発
展した比較的大きな町である。聖堂は三廊式バ
シリカで、祭室は側廊の突き当り、二つの小祭
室を入れて三つ並んでいる。
 身廊の天井やアーケードは全て尖頭アーチで
構成され、柱頭から上はゴシックに改造されて
いる。
 この教会で注目したいのは写真の扉口装飾だ
ろう。ロワール川沿いの一帯に幾つかの類例を
見る事が出来るのだが、複雑な幾何学模様や多
様な図案をアレンジした意匠がタンパンに応用
されているのである。
 干菓子の型みたいだと家人が言うように、本
当によく似ている。図柄のモザイク、と言った
小生の方が陳腐に感じられてしまった。
 このデザインはタンパンだけではなく、半円
ヴシュールから柱頭、円柱や中央の角柱に至る
までびっしりと広がっているのである。 
     
  
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 ベルナーヴ聖マルタン教会
  Bellenaves/Église St-Martin 
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 この辺りはアリエ県の南端部分で、隣県の首
都クレルモン・フェランの町までは50キロ以
内とはいえ、まだ山深いといった立地である。
 三廊式十字形のプランではあるが、交差部の
鐘塔や天井はゴシックに改修されている。
 聖堂建築には正直余り興味を惹かれなかった
のだが、西正面の見せ掛けファサードの意匠に
は一寸注目した。
 三つの扉口があり、その上部に五連の半円ア
ーケードが意匠されている。アーチの縁飾りや
円柱など、なかなか洗練されたデザインだ。
 写真は中央扉口のタンパン彫刻で、二天使に
光背を支えられた図像の下のまぐさ部分には、
最後の晩餐の場面が彫られている。
 ブルボン特有のはめ込み式タンパンで、何故
か半円形いっぱいには彫られていない。
     
  
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 ヴォース聖クロワ教会
   Veauce/Église St-Croix
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 前述のベルナーヴから南へ6キロ、畑の畦道
のような細い道を行った雑木林の中にこの教会
が建っていた。別荘地のような、静かで落ち着
いた集落だった。

 写真で見る通り、聖堂はまことにチャーミン
グでとても壮麗である。
 しかし、写真右側の後陣や翼廊との交差部に
建つ鐘塔の立派な割に、左側にちょっと見える
身廊は5mくらいの長さしかない。三廊式の側
廊との境界に、左右一本づつの柱しか立ってい
ないのである。
 当然ながら従来はもっと規模の大きな身廊が
あったものと思われ、少なくとももう10mは
長かったはずである。
 半円形の祭室の周囲に、巡礼教会のような周
歩廊が設けられている。
 六本の円柱と簡素な柱頭、二層の半円アーケ
ードが構成する聖堂空間は清楚で、11世紀創
建当時の身廊建築がいかに荘厳さに満ちていた
かが想像出来る。
     
  
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 エブルイユ聖レジェール教会
   Ébreuil/Église St-Léger 
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 シウール Sioule の流れに沿った緑濃い美
しい町で、石橋の上からこの教会の鐘塔や赤い
屋根が眺められた。
 細い路地を抜けて行くと、突然この教会の建
つさして広くない広場に出る。
 ちょうど聖堂の北側の壁を横一文字に見る事
となり、写真の西正面から後陣までおよそ60
m弱はありそうな規模にびっくりした。

 現在の身廊は三廊式バシリカで、方形の列柱
は11世紀のものらしい。しかし柱頭の無いの
っぺらぼうのまま上部壁面となってしまうアー
ケードには、正直余り感動は無かった。
 放射状に構築された祭室は13世紀ゴシック
であり、身廊の外壁は近年の修復による。

 写真の鐘塔のある玄関間は12世紀の建築で
あり、中の空間に二本の円柱が立っている。
 このナルテックスと身廊との間を仕切る壁が
あるが、身廊側にはバルコニーが造られ、その
壁面にフレスコ画が描かれている。
 受胎告知や聖ヴァレリーの殉教場面などが描
れているが、階上へは上ることが出来ず、遠目
にしか見る事ができなかったのは残念だった。
  
  
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 ビオザ聖シンフォリアン教会
  Biozat/Église St-Symphorien
    
        
1 Allier  
 
     
   
 
 ヴィッシー Vichy の西南15キロに在る町
の中心に建つ教会で、表通りから眺められる写
真の後陣と鐘塔の佇まいを見ただけで、ここが
一級のロマネスク寺院である事が即座に判る。

 西側正面のファサードは平板な意匠で、後世
の手がかなり入っていると思われた。
 しかし身廊に入った瞬間に身の引き締まる思
いがしたのは、三廊式の聖堂で天井が横断アー
チの無い半円筒ヴォールトだったからだ。12
世紀創建時の様式のままと思われたのだった。
側廊は幅の狭い空間なので、天井は四分の一円
筒ヴォールトになっている。

 翼廊との交差部分から、祭室周辺の円柱や壁
は大半が彩色されているのだが、ドームのフレ
スコ画は後世の作だろうと思われる。
 交差部円柱の柱頭に彫られた彫刻には、オー
ベルニュの伝統的主題である羊担ぎの図や、山
羊に乗る男、猿使いなどが見られた。

 鐘塔は八角形で、上部に二連アーケードの窓
が各面に付けられている。三後陣に鐘楼という
のがロマネスクの典型的様式の一つとなってい
るが、詳細に眺めると人の顔が違うように、そ
れが個性的であるからこそ面白いのだろう。
 建築様式としてのロマネスクに聖堂の規模は
無関係なのだが、好き嫌いを言えば、この位の
規模が最も親しみ易いと思う。 
  
  
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 シャテル・モンターニュ
       聖母教会

  Châtel-Montagne/
      
Église Notre-Dame
    
        
1 Allier  
 
     
 
 
 古いオーベルニュの写真集を見た時からの憧
れの聖堂だったので、今回この秘境ともいえる
聖地を訪ねられたのは無上の喜びだった。
 花崗岩の荒々しい風貌と、簡素な建築とが見
事に融合して、質実とも言える特異な聖堂空間
を創出している。
 写真の玄関間とファサード、三廊式バシリカ
の身廊、四つのベイを持つ二層のアーケードと
半円筒ヴォールトや交差部のドームと鐘塔、周
歩廊のある祭室と四つの放射状小祭室など、ど
こをとってもオーベルニュ・ロマネスクの様式
である。交差部以外の建築は、概ね12世紀中
頃に創建されたものである。
 身廊と側廊の間の束ね柱の柱頭には、ロバや
馬などのユーモラスな動物像や、股を広げた人
魚のような像、両手を広げたり、ラッパを吹く
奇妙な人物像などが彫られており、ロマネスク
病患者にとっては正に病原菌の巣窟とでも言え
そうな場所である。
     
  
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 トゥーレ聖リマン教会
   Thuret/Église St-Limin
    
      Puy-de-Dôme 

     
 
 
 この旅で訪ねたフランスの友人がくれた雑誌
にこのタンパン彫刻の写真が載っていたのを見
て、即座にコースに入れてしまったのだった。
 大天使ガブリエルとミカエルに光背を支えら
れた栄光のキリスト像が、あたかもまぐさ石の
ようにタンパンにはめ込まれている。ブルボン
地方に類型の多い様式である。
 三人の妙な表情や仏像の翻波式にも似た衣の
襞の表現など、かなりレヴェルの高い彫刻だ。
 聖堂は三廊式十字形で、天井以外は見事なロ
マネスク様式である。
 最も注目すべきは、下地が赤く塗られたユニ
ークな柱頭彫刻だろう。
 かなり抽象化された人物や動物像が大半で、
まるで近代彫刻を見る様な気分になっていた。
 特に興味深かったのがアダムとイヴで、奇妙
な形のリンゴと蛇や蝋人形のような二人の姿は
他に類の無い図像かもしれない。単なる稚拙に
過ぎない表現のか、或いは卓越した抽象なのか
悩ましい。
   
  
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 エヌザ聖ヴィクトール
       聖クーロンヌ教会

  Ennezat
/Église
    St-Victor-et-St-Couronne
 
    
      Puy-de-Dôme 

     
   
 
 首都クレルモン・フェランの東北20キロ
リオムの東10
キロという場所なのだが、この
町へ至る周辺は田園風景が続いて誠に牧歌的で
ある。
 教会は町のほぼ西の外れに近く、北側に展望
の開けたやや高い場所に建っている。
 西側には青い石を縞模様に使ったファサード
のある玄関間があり、四つのベイを持つ三廊式
の身廊が続く。十字形の交差部があり、その上
に鐘塔が建ち、本来祭室のあった部分にさらに
新しい身廊と祭室が繋がっていた。
 つまり、翼廊と交差部より西側が古いロマネ
スクであり、東側は全く新しいゴシック様式の
別物だったのである。
 写真は、11世紀建造になる身廊と側廊で、
半円形の横断アーチと交差ヴォールトによる天
井、さらに階上のトリビューンによって、やや
修復の痕跡は目立つものの、見事なロマネスク
の構造的空間を創出している。
 玄関間との仕切りに設けられた、横断アーチ
とその上部階上部分のアーケードが特に美しい
と感じられた。
 柱頭彫刻にも見るべき作品が多く、守銭奴に
罰が与えられる場面等はかなりの傑作だろう。
     
  
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 モザック聖ピエール教会
   Mozac /Église St-Pierre 
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 クレルモン・フェラン市の北西、リオンの西
部、ドームという特異な山脈の続く山麓の、ミ
ネラル水で名高いヴォルヴィック
Volvic
近くにモザックの町が有る。

 側廊が有るとはいえ、教会はそれ程大きな建
築ではなく、静かな祈りの場にふさわしい規模
である。だが、ここは15世紀頃に改築されて
おり、旧修道院時代の柱頭だけが誇らしげに内
陣に飾られていた。

 初めてこの彫刻を見た時、これはどう見ても
具象のデフォルメを生命としている筈のロマネ
スクとは思えない、と私は戸惑った。図像の全
てが写実的で、余りにも生々しいからだ。
 しかしよく見ると、頭の異常な大きさや体形
の不自然さが見え始め、それは写実的に生々し
いのではなく、制作者の造形に対する情熱その
ものが強く溢れ出ている事によるのだ、と気が
付いたのだった。

 写真はキリストの墓に詣でる三人のマリア達
の横で、これを祝福する天使の像である。それ
にしても、こんなに清々しく穏やかな天使の像
が他に有るだろうか。鋭い視線を放つマリア達
や、墓の脇で眠る兵士達の群像も魅力的だ。
     
  
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  リオン聖アマブル聖堂
   Riom/Basilique St-Amable
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
 
 
 クレルモンの北にある大きな都市で、この地
方を代表する町のひとつである。
 旧市街の中心に建つ聖堂は12世紀に創建さ
れた歴史を持っているが、大半は近世になって
再建されたという。
 平面プランは創建時のロマネスク様式だが、
随所にゴシック様式が取り入れられている。
 写真の身廊が最も古い部分で、後期ロマネス
クのアーケードとトリビューンが残っていた。
身廊の天井は尖頭ヴォールトだが、側廊には尖
頭横断アーチが用いられている。
 翼廊より東部分は祭室や周歩廊の改築が際立
っている。
   
  
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 マルサ聖母教会
  Marsat/Église Notre-Dame
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 リオンの南西に隣接する村。モザックへは北
に2キロ、ヴォルヴィックへは西へ3キロと、
ロマネスク関連の教会が密集している。

 教会は村のほぼ中央に建っており、半円アー
チのロマネスク門が南側に設けられている。
 堂内に入って先ず違和感を覚えるのは、身廊
の北側に側廊が設けられているが南側には無い
からなのだろう。
 つまり二廊式の聖堂なのであった。
 身廊は交差穹窿のゴシック様式で、余り面白
くない。ところが、北側の側廊というかもう一
つの身廊は、11世紀後半のロマネスク様式だ
ったのである。天井は、横断アーチの付いた半
円筒ヴォールトで、太い角柱ながら仕切りのア
ーケードには半円アーチが連続していた。

 ここでは、北側身廊の祭壇に置かれた写真の
聖母子像に注目したい。
 オーベルニュ地方には特に多い、例の“黒い
聖母像”のひとつだった。6世紀にはこの地の
聖母信仰の記録が有り、かなり古い像であるこ
とは間違いない。土俗的な神秘性と、この地の
風土とが合致して特有の信仰を増幅させたのだ
ろう。
 近世に塗り直された事と衣装が金ピカである
ことで、やや浮わついた感があるが、とても優
れた表現の彫刻だと思う。聖母マリアというよ
りは、何やらこの村土着の婦人像のようにも見
えてくるから面白い。
     
  
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 ヴォルヴィック
     聖プリースト教会

   Volvic/Église St-Priest 
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
 
 “円錐状の火山”Puy de Dôme そのま
ま県名となった一帯で、その中心にあるミネラ
ル水で知られた村である。
 教会の歴史は古いが、現在残った建築は12
世紀の祭室の一部だけで、ロマネスク様式なが
ら大半は19世紀に修復されたものである。
 三廊式の更に南北外側に礼拝堂が設けられて
いる。身廊の天井は横断アーチの付いた半円筒
ヴォールトで、側廊との仕切りは半円アーチの
アーケードになっている。
 写真は、周歩廊に三つの小祭室の付いた内陣
で、六本の円柱が祭壇を囲んでいる。夫々の柱
頭彫刻には、見応えがある作品が含まれる。身
廊の柱頭にも傑作が多い。
 
   
  
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 クレルモン・フェラン
  ノートルダム・デュ・ポール
       教会

 Clermont-Ferrand/Basilique
     Notre-Dame-du-Port
 
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 サン・ネクテールやオルシヴァル、イソワー
ルなどと共に、この地方を代表する巡礼教会の
一つである。教会も町も、全てが黒い色調であ
るのが印象的だが、地元産の黒色安山岩が用い
られているからだそうだ。

 巡礼教会の様式である周歩廊の付いた祭室を
列柱が円形に囲み、それぞれの柱頭には、眼を
見張るほどの美しい彫刻が施されている。美徳
と悪徳の象徴が戦う場面が鮮烈だが、ノートル
ダム(聖母)にふさわしい主題であるこの写真
の「訪問」が特に気に入った。
 イエスを受胎した聖母マリアが、同じ様に洗
礼のヨハネの受胎を告知された従姉のエリザベ
ートを訪問する場面である。
 神聖なテーマに似合った荘重な彫刻であり、
細部の表現も溢れるばかりの図像の密度の濃さ
も、他に類を見ぬ見事な柱頭だった。

 教会入口のタンパン彫刻も含め、教会全体が
彫刻美術館と言える程充実した図像ばかりで、
知らぬ間に時間を忘れて夢中になってしまって
いたのだった。
     
  
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 ティエール聖ジュネ教会
   Thiers/Église St-Genès
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 クレルモン・フェランの東方35キロ、デュ
ロール川の蛇行する段丘に開けた町である。伝
統的な刃物工業で知られ、坂道が多く入り組ん
だ家並がとても美しい。

 この教会は段丘の上の旧市街地先端部あたり
に建っており、11~12世紀の創建で、まる
で要塞の様な姿を見せている。
 小石段を上る西扉口は、ロマネスク様式の半
円アーチ門だったが、かなり修復されている様
だった。
 三廊式の聖堂で、写真は、身廊の中程から交
差部と祭室方向を眺めたものである。リブ交差
穹窿からも、天井から上はゴシック様式となっ
ていることが判る。
 身廊との境のアーケードは半円アーチで、角
柱に円柱が束ね柱のように組み合わされている
のが特徴だ。
 側廊には、半円横断アーチが設けられた四分
の一円筒ヴォールトと多彩な様式が混在する。
 身廊と交差部のドームとの仕切りアーチ上部
に意匠された、三連アーケード窓の洗練された
姿がとても気に入った。交差部鐘塔八角ドーム
は力強いもので、オーベルニュ地方では最大級
の部類に入る。
 主祭室の後陣は半円形で、ロマネスクらしい
様式美を示している。翼廊の南北両小祭室も半
円形の礼拝堂になっているのだが、聖堂背後か
ら眺めると、なぜか方形の壁で覆われており、
半円形の後陣は中央のひとつだけだった。 
    
  
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 ティエール
    ムーティエ教会遺構

  Thiers/Vestiges de l'Église
     du Moutier
 
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 町の南端から坂を下りデュロール川を渡った
対岸に、この古い教会の遺構が残されている。
 元来は隣接する聖シンフォリアン修道院の附
属教会だったが、現在はその歴史的遺構として
保存されている。

 正面から見ると明らかに修復された痕跡が顕
著な鐘塔と、殺風景な扉口に落胆させられる。
 しかし、身廊へ入った途端に、その杞憂は吹
き飛んでしまった。11~12世紀に創建され
ただけのことはあり、ロマネスクらしい風格を
見事に示してくれたのだ。
 三廊式身廊の半円アーケード、半円筒ヴォー
ルトに横断アーチ、という建築様式を見るだけ
でも心が落ち着くという精神構造は、一体どこ
からくるのだろうか。
 側廊は半円横断アーチに交差穹窿という組み
合わせだった。残念なことに、祭室が方形に改
造されているために、後陣には全く魅力が無か
った。
 ここで見逃せないには、柱頭彫刻に傑作が多
いことだろう。柱頭が低い位置にあるので、鑑
賞や撮影には最適である。内容は不明だが、不
思議な姿の植物の葉に絡まる人物像、怪しい鳥
や人魚などが興味深い。比喩的な暗示なのか単
なる石工の余興なのかが、ロマネスク柱頭彫刻
の永遠の謎である。
     
  
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 クールピエール
    聖マルタン教会

  Courpière/Église St-Martin 
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 ティエールから南へ15キロ、ドール川に沿
って開けた町である。
 教会は旧市街の中心に建っており、随所に改
築の痕が見られるものの、11世紀に創建され
たという歴史に相応しい荘厳さを見せている。

 聖堂は三廊式で、翼廊との交差部に鐘塔を設
け、半円形の三後陣を意匠した理想的なロマネ
スク様式のプランとなっている。
 アーケードは角柱で、内側に円柱アーチを束
ねた格好になっているのでとても重厚な印象を
受ける。身廊の角柱部分が11世紀のもので、
円柱や翼廊、後陣は12世紀のものである。
 半円形祭室には三つの開口窓があり、翼廊の
小祭室とで均衡のとれた三後陣を形成する。
 最大の見所は、身廊の柱頭彫刻であろう。特
に、様々な種類のシレーヌ
Sirène 像が彫られ
ていて飽きない。
 写真はその内の一基で、両手で両方の尻尾を
掴む姿は共通している。本来は下半身が鳥であ
ったのだが、中世から人魚像とイメージが混同
されたようだ。一体何を叫び、誰を誘惑しよう
というのだろうか。ギリシャ語では“セイレー
ン”と呼ばれる海の精である。
    
  
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 グレーヌ・モンテギュ
     聖ジャン教会

  Glaine-Montaigut/
      Église St-Jean
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
 
 
 クールピエールからは西へ15キロ、次掲の
ビヨムからは東北へ5キロの村。狭い範囲に重
要な教会が集中する。教会は村外れの緑の中に
建っている。
 12世紀の建築で、派手な彩色が成されてい
るが建築は伝統的なロマネスクの三廊式で、天
井は半円筒ヴォールトである。
 側廊は、半円横断アーチ付き四分の一円筒ヴ
ォールトという構成が素晴らしい。三つの半円
形後陣は、内陣も外観も絵になっている。
 柱頭彫刻が見事であり、アトランティス、セ
イレン、ケンタウロス等といった伝統的なモチ
ーフが中心になっている。
     
  
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 ビヨム聖セルヌフ教会
   Billom/Église St-Cerneuf
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
 
 
 クレルモンの東20キロに位置する小都市で
ある。教会の起源は11世紀まで遡るのだが、
現在の建築はロマネスクの基盤の上に建ったゴ
シック聖堂、と言えるだろう。
 創建時の痕跡を、地下祭室(クリプト)に見
ることが出来る。写真は正面祭壇の周辺で、周
歩廊のように太い円柱が囲んでいる。細い円柱
と太い角柱が交互に、縦に二列に並んでいる。
天井の大半は交差穹窿という構造だった。
 これといった装飾も無い、武骨だが素朴な林
立する柱だらけの空間。これがロマネスクの原
点なんだろう。   
    
  
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 シャマリエール聖母教会
   Chamalières/
      Église Notre-Dame
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 クレルモンの町の西側に、衛星都市の様に密
着した町で、教会は市街の中心に建っている。

 西側にナルテックス(玄関間)を備えた三廊
式で、柱頭の無い角柱のアーケードが側廊との
間を仕切っている。天井は尖頭ヴォールトで、
上部に採光窓が付いている。周歩廊の付いた祭
室は四本の束ね柱に囲まれており、外側に四つ
の小礼拝堂を張り出している。
 聖堂背後から眺めると、四つの半円形外陣が
いかにもオーベルニュらしい様式で、見事な建
築美を誇っている。
 しかし残念な事に、この祭室から外陣に至る
部分は鐘塔も含め、革命で破壊された建築は、
19世紀になって修復改築されているそうだ。

 写真は祭室側から身廊とナルテックス方向を
撮影したもので、この部分が10~12世紀に
建築されて今日まで生き残った部分である。
 カロリングに起源を持つと言われており、確
かに両サイドの壁面や採光窓、正面ナルテック
スのアーケードの雰囲気は、北ドイツで見たク
ベドリンブルグやコルヴァイの雰囲気にとても
似ているように感じられた。柱頭彫刻などの装
飾が全く無いところまで似ているのが、やや物
足りない感は拭えないが。
 ナルテックス下部のアーケードに残された二
基の柱頭には、アカンサスの葉の変形と抽象的
な植物模様が残され、当初の面影を今に伝えて
いる。
   
  
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 ロワイヤ聖レジェール教会
   Royat/Église St-Léger
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 シャマリエールから2キロ程南西へ行ったク
レルモンの衛星都市だが、ローマ時代以来の温
泉地として知られていた。教会は町の中心を少
し離れた閑静な住宅街の高台に建っており、あ
たかも要塞の様な堅固なイメージの方が強い。
 10~11世紀に創建されたが、自衛の意味
で12~13世紀頃に要塞のような建築で守り
を固めたのだという。
 単身廊の十字形で、半円筒ヴォールトの天井
に横断アーチが施されている。微かに尖頭形が
見られるが、この部分はロマネスクの名残なの
だろうと思う。残念ながら後陣はゴシック様式
の方形だった。

 ここでの目的は写真のクリプトで、祭室下に
保存されている10世紀の遺構である。
 東側の祭壇を挟んで二列、三本づつ計六本の
円柱が地下の空間を形成している。かなり綺麗
に整備されているので修復の手は当然入ってい
ると思われるのだが、クリプト好きにはこの上
ない魅力を保っていると思えたのだった。柱頭
の彫刻は、全て植物模様をアレンジしたもので
ある。
 祭壇に対面する壁際に、黒マリア像が立って
いた。幼子イエスを抱いた聖母子の立像で、そ
の土俗的な風貌はどこか神秘的に感じられた。
オーベルニュという特異な風土が、そうした概
念を生むのかもしれない
    
  
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 サン・サテュルナン
     聖サテュルナン教会

  St-Saturnin/
     Église St-
Saturnin
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 今回の訪問は、83年に始めてオーベルニュ
を旅した時以来のものであった。教会やその前
の小さな広場の雰囲気はそのままだったが、町
は城を中心として綺麗に整備されていた。

 教会では部分的な修復工事が行われており、
特に後陣にはテントが張られていて全貌を見る
ことが出来なかった。しかし、内陣には交差部
に足場が組んである以外は、見学には全く支障
は無かった。
 この教会の魅力は、構造的にほとんど改修さ
れていない落ち着いたロマネスク建築であると
いうことだろう。典型的なオーベルニュの様式
を見ることが出来る。
 聖堂は三廊式十字形で、六本の円柱が半円形
に並んだ祭室の周りに、周歩廊が設けられてい
る。放射状の小祭室は、ここでは見られない。
翼廊の左右に小礼拝堂が付けられている。
 身廊のアーケードの上層はトリビューンにな
っており一つのベイに三連のアーケードが設け
られているので、とても開放的な構成の美を感
じることが出来る。

 地下の祭室クリプトへ降りると、太い円柱が
密度濃く並んでおり、高さの低い天井の交差ヴ
ォールトが初期の質実剛健な建築様式を伝えて
いる。
    
  
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 オルシヴァル
     ノートルダム教会

   Orcival
/
     Basilique Notre-Dame
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 古い町並みの残る、谷間の牧歌的な風景に溶
け込むようにして、この教会が建っているのが
見えた。巡礼路としては支道ではあったが、ク
レルモンからスイアックへと通じる重要なルー
ト上に建っていたのである。

 深い緑を背景にした後陣からの眺めは、十字
形の堂宇や中心の鐘塔、祭室の周歩廊と放射型
小祭室、といったオーヴェルニュ特有の形式を
見せてくれるが、何よりもその重厚で荘厳なた
たずまいが感動的であった。

 聖母信仰の強いオーヴェルニュにふさわしい
聖母子像が祭壇近くに祀られており、溢れるほ
どの蝋燭の光に輝いていた。
 聖母子の土俗的ではない高貴な風貌が、この
教会の格式を物語っているようにも思えた。

 柱頭彫刻が豊富で、悪魔や奇怪な動物が大活
躍できる場面を与えられている。
 聖書の具体的な場面ではなく、その精神が抽
象化された主題ばかりでとても難解なのだが、
図像としての面白さには文句なしに魅せられて
しまっていた。   
    
  
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 シャンボン・シュル・ラック
     墓地円形礼拝堂

  Chambon-sur-Lac/Chapelle
    circulaire du Cimetière
 
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
 
 
 ドール山塊の北東麓にシャンボン湖があり、
同名の町が西側湖畔にある。
 夏にはリゾートとして賑わうこの辺りも、紅
葉の色づく季節には行き交う人の姿すら無かっ
た 町の中央にこじんまりとした教会が在り、
単身廊十字形の素朴なプランと後陣の佇まい、
そして扉口のまぐさ石彫刻が好ましかった。
 しかし、塔も含めやや後世の改修が顕著なの
が残念だった。
 町外れの墓地に、写真のような円形礼拝堂が
在った。洗礼堂かと思ったが、独立した教会で
あるらしいので行ってみた。
 扉口と後陣部分に方形の出っ張りが取り付け
られているが、堂内は完全な円形だった。窓の
部分にアーケードが造られ、柱頭には聖人の群
像らしき彫刻が彫られている。素朴で愛らしい
建築だった。写真の左端に町の教会聖エティエ
ンヌの塔が見える。
    
  
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 サン・ネクテール
     聖ネクテール教会

  St-Nectaire/
     Église St-Nectaire
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 サン・サトゥルナンから峠を越え、麓へ下る
途中で教会の全景が眺望出来た。やや霞んでは
いたが、三本の塔や複合した祭室の後姿は、周
囲の爽やかな風光と同化して、正に絵のようで
あった。
 サンチャゴ巡礼路の枝道上に有る巡礼教会な
ので、祭室は二重の歩廊で巡拝出来る設計にな
っている。古びた石の色合いが、落ち着いた空
間を創出していた。
 ここでは、祭室の内側に円弧状に連なってい
る六本の柱の上部に彫られている、彩色の施さ
れた柱頭彫刻を見なくてはいけない。
 彫刻の主題として、最後の晩餐、キリストの
笞刑、ゴルゴダへの道行き、墓所の三人のマリ
アなど、キリストの磔刑前後の物語が順番に展
開していく。聖ネクテールの逸話も、間に入っ
ている。
 写真は、キリストの復活を疑って傷の痕跡を
確認する「トマの不信」の場面である。
 節度有る彩色が決して邪魔にはならず、巧み
な図像構成がむしろ親しみを感じさせてくれる
ようだ。

 従前は内部が撮影禁止で、礼拝の場としては
むしろ当然かと諦めていたが、近年撮影は自由
になった。啓蒙のための寛容な精神が大らかに
働いたのか、或いは修復資金調達を目的とした
観光の功徳であるのかは判然としない。
     
  
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 イソワール
    聖オーストルモアヌ教会
   Issoire/Église
      St-Austremoine
 
    
      Puy-de-Dôme 
 
     
   
 
 イソワールの町に有る旧修道院の付属教会だ
が、外壁も内陣も全てがやや過剰に装飾された
建築である。
 壁の幾何学模様は余り良い趣味だとは思えな
いが、建築の構造そのものは、オーベルニュに
共通した特徴である周歩廊付きの祭室を持って
いる。

 一歩教会の内部に足を入れて先ず驚くのは、
側廊の有る身廊や祭室の柱や壁の全てが彩色さ
れていることである。
 多様な色彩模様が修道院時代からのものかど
うか私には分からないが、ロマネスクの意匠と
はやや異質に感じられた。だが、サン・ネクテ
ール教会と同様に、祭壇を半円形に囲む柱頭群
の彩色は落ち着いていて、彫刻の質を些かなり
とも損ねてはいないようだ。
 写真の柱頭は最後の晩餐の図像であり、ぐる
りと四面全てを使ってキリストと十二使徒を表
現した意匠は卓越している。
 キリストにもたれかかるヨハネが愛らしく、
丹念に彫られた聖人達の像一つ一つが、かぐわ
しいばかりの芳香を放っている様だった。
 その他の柱頭にも傑作が多く、聖書物語が中
心で、
抽象的にデフォルメされた図像には興味
は尽きない。
   
  
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 ロジエール・コート・ドーレック
     /
旧小修道院教会
   Rozier-Côtes-d'Aurec
/
      Église Ancien Prieuré
    
          Loire 
 
     
   
 
 ロワールの谷を更に北へと下って行く内に、
いつの間にか周囲は川面から立ち込める霧の真
っ只中に入ってしまった。この村は完全に霧の
中に埋まってしまっていたが、教会の鐘塔も真
下に寄ってようやく微かに見えるほどだった。

 11世紀に創建された、見事なほど愛らしい
規模の聖堂だった。東西20m、南北10m程
の、村の礼拝堂といった規模の存在だった。現
存の建築は12世紀のものらしい。
 単身廊バシリカで、中央祭室のほかに小さな
翼廊の小祭室が設けられている。
 聖堂の規模に比して、交差部の鐘塔は意外と
立派に見えた。

 最も印象に残ったのが、写真のタンパン彫刻
だった。西正面の扉口はまったくの質素な門だ
が、素地のまぐさ石の上にタンパンのような格
好ではめ込まれているレリーフと言う方が正し
いかもしれない。
 何とも素朴な風貌の聖母子と、礼拝する東方
三博士の像である。久しぶりにロマネスクらし
い、巧まざる抽象図像を観た思いだった。
 写真上部の像は、祝福を与える
St-Blaise
ブレーズという聖人とのことであった。
    
  
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 サン・ロマン・ル・ピュイ
      旧小修道院

   St-Romain-Le-Puy
/
       
Ancien Prieuré 
    
          Loire 
 
     
 
 
 葡萄畑に囲まれた城跡の残っている岩山の上
の聖堂は、この時期は閉鎖されているとの事で
あった。町役場でそこを何とかと、ダメ元で交
渉すると、親切な係の女性が教会の管理者に連
絡し、何と見学許可を貰えたのだった。
 教会では貴族然とした紳士が私達を待ってい
てくれ、鍵を開けてくれた。単なる管理人とは
思えず、この城山全体のオーナーだったのかも
しれないと思われた。
 単身廊十字形が基本で、翼廊の祭室も含め三
つの半円形祭室が並んでいる。
 10世紀から11世紀の建築で、内部は美術
品販売のギャラリーとしても使用されていたよ
うだった。
 交差部や祭室の上品な円柱や、その柱頭に描
かれた深い彫りの図像は、高い水準の知性が構
築した聖堂であることを物語っている。
 地下のクリプトや後陣外壁のレリーフなど、
見るべき物で埋め尽くされていた。
 美術品を売るための言葉を一言も言わなかっ
た紳士に敬意を表した礼を述べ、私たちは山を
下ったのである。
     
  
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 シャンデュー
     聖セバスティアン教会

   Champdieu
/
      Église St-Sébastien
    
          Loire 
 
     
   
 
 私達がロマネスクを旅していると言うと、サ
ン・ロマンの紳士は「近くに素晴らしいクリプ
トが在る」とこの教会を教えてくれた。そこは
サン・ロマンの北15
キロのモンブリゾンの町
を抜けて直ぐの小さな町だった

 聖堂は小修道院に付属しているのだが、門と
交差部に二つの鐘塔の立つ、まるで要塞のよう
に堅固なイメージの教会だった。
 しかし、内部に入ると全くの別世界で、角柱
と円柱を組み合わせたアーケードながら、三廊
式十字形の簡素で明快な聖堂だったのである。
 円柱部分の柱頭に、ロマネスクらしい図像が
彫り込まれていて楽しかった。足を広げた頭で
っかちの人間、草の蔓に絡まった人物、下半身
が人魚のようになった女性や植物の若芽の間か
ら生えた人間の首等々、まるで見世物小屋のよ
うな面白さである。

 目的の地下祭室は、一転して荘厳で厳粛な雰
囲気に溢れていた。六本の円柱と交差穹窿、そ
れを繋ぐ柱頭が、創建当初の神聖な空気を今日
まで伝えているのだ。
 ここではクリプトこそが、その教会の精神の
オリジナルを象徴している場所なのだ、と言っ
ているように感じられた。
      
  
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 ポミエール・アン・フォレ
   聖ピエール聖ポール教会

  Pommiers-en-Forez
/
     Église St-Pierre-et-
         St-Paul
    
          Loire 
 
     
   
 
 ロワールに沿ってさらに下り、このあたりま
で来るともうロアンヌの町も近く、緯度はクレ
ルモン・フェランとほぼ同じ位置まで北上して
いたのだった。

 修道院を中心にした集落で、城壁のような石
垣に囲まれている。城門のような入口から中へ
入ると、時間が止まったまま動いていないよう
な、しかし妙に生活感のある空間だった。

 写真は門から眺めた教会の後陣と鐘塔で、聖
堂内部は角柱の並ぶ三廊式の質実なアーケード
が印象的だった。従来は十字形だったのだろう
が、写真の塔の左側、つまり南側の翼廊は側廊
の壁と一直線で、外側へ突き出していない。
 建築全体は11世紀のもので、西正面の入口
から、身廊の柱一本分のスパンまでが15世紀
に修復されたらしい。
 身廊の天上は横断アーチも無い蒲鉾形の半円
筒ヴォールトで、在りそうでなかなかお目にか
かれない逸品だ。
 側廊の天上は交差ヴォールトで、これも古式
の良い雰囲気である。
 角柱には柱頭が無いのでロマネスク彫刻好き
には少し寂しいのだが、それがかえって修道院
の教会に相応しい簡潔で清々しいイメージを抱
かせてくれたのだった。
   
  
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 シャルリュー
   旧聖フォルトゥーナ修道院

  Charlieu/Ancien Prieuré
       St-Fortunat
 
    
          Loire 
 
     
 
 
 ロマネスク愛好家でこのシャルリューを知ら
ない人はいないであろう、と思える程重要な場
所なので、今更という観は間逃れないだろう。
理由は簡単で、最初の訪問時には撮影に失敗し
良い写真が無かったのであった。今回も褒めら
れたものではないが、何とか御容赦願いたいも
のである。
 ここも様式的にはブルゴーニュのブリオネー
に属すのだが、ロワール県の北端に位置してブ
リオネーに接しているのだった。
 ベネディクト会修道院の跡で、ここには重要
なタンパン彫刻がいくつかある。写真はその内
の一つで、北表門のタンパンである。
 玉座のキリストを二人の天使と四福音書家の
シンボルが囲む図は明らかに「黙示録のキリス
ト」である。二十四人の長老に代わって十二使
徒が下段に彫られているのは、アルルなどに共
通している。彫刻の技術は卓越していて目を見
張らされるが、上部の神の羊像の繊細な表現が
忘れられないでいる。
     
  
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