ギュイエンヌ
  
ペリゴール
   
地方のロマネスク      
 
Guyenne et Périgord
     Romans
 
 
 
 
  MOIRAX Eglise Ste-Marie 
   
Lot-et-Garonne 
 
 ガロンヌ河とドルドーニュ河が合流してジロ
ンド河となり、大西洋に注ぐ一帯である。何と
言ってもフランス屈指のワイン産地であり、旅
する楽しみは尽きないが、巡礼路上に位置する
事から、数々の美しい聖堂が点在する魅力的な
地方でもある。

 特にボルドーの東、両河の合流する三角地帯
はアントレ・ドゥ・メール地方と呼ばれ、葡萄
畑の中に点在するロマネスク聖堂の姿は格別美
しい。

 ドルドーニュ(ペリゴール)地方は、フォア
グラとトリュフの故郷である。
 「ほあぐら」と名乗っている原点は、実はこ
こにある。
 
 
 
 
 県名と県庁所在地

  
ギュイエンヌ地方
      1 Gironde (Bordeaux)
      
2 Lot-et-Garonne (Agen)

  ペリゴール地方
      
3 Dordogne
(Périgueux) 
 
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 サン・レオン・シュル・ヴェゼール
       
聖レオン教会
  St-Léon-sur-Vézère/
     Église St-Léon
 

      3 Dordogne 

         
   
 
 夏のドルドーニュ地方を旅した際に、この町
と教会を訪ねたことがある。町を流れるヴェゼ
ール河は澄んで涼しく、緑の柳が揺れ、この教
会の塔の影を水面に映すという、まことに美し
い光景であった。

 教会の建築は理想的ともいえる規模で、十字
型をしており、祭室の他に翼廊に小さな礼拝堂
を備えていた。
 教会の背後に廻り、後陣を眺めると、これ以
上に無駄の省かれたロマネスク建築というもの
が他に有るだろうか、と思わせられてしまうほ
ど、この聖堂は均整のとれた美しさを見せてく
れたのだった。
 正面の扉口に立派な装飾でも無い限り、聖堂
の最も美しい姿を見たければ後陣へ回れ、とい
うくらいだが、これほど純粋で完璧な後姿も珍
しい。

 聖堂内部には若干の修復の手が入っていたの
だが、さして不自然ではなく、ちょうどリハー
サル中の室内楽にしばし聞きほれていた。 
 
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 ティヴィエール
    ノートルダム教会

  Thiviers/Église Notre-Dame 

      3 Dordogne 

          
  
 
 ペリゴール地方の特産である、フォアグラと
トリュフの集散地として有名な町である。
 教会はゴシック様式に修復されてしまってい
るが、内陣の柱頭から下はロマネスクが保持さ
れている。
 柱頭の彫刻には様々な図像が無数に溢れてお
り充分に見応えの有る作品ばかりである。
 写真はその中でも最高の傑作で、聖ペテロと
マグダラのマリアに挟まれたキリストの像であ
る。私の最も好きな柱頭の一つであるが、なん
と優しく愛らしい図像であろうか。
 いかなる写実をも凌駕するほどの、この抽象
に秘められた表現力には感嘆せざるをえない。
 他にも、「ライオンと戦うサムソン」なども
有り、さらに無数の怪獣や怪物が跋扈する不思
議空間である。
 
 
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 ベッス聖マルタン教会
  Besse/Église St-Martin 

      3 Dordogne 

          
   
 
 ベッスの村は、詳細な地図にしか記載されて
いないような小さな寒村なのだが、ひっそりと
してチャーミングな雰囲気に包まれていた。
 高い塔が目印になっていて、教会を探す苦労
は全く無かった。
 写真は村の石畳の路地に面した石の門から、
教会の西正面入口を眺めたものである。
 建築年代は複合していて明確ではないが、聖
堂正面の部分は12世紀、その奥一部が11世
紀で、背後の翼廊や祭室・鐘塔部分は15世紀
以降の再建であるらしい。
 この教会を訪れた最大の目的は、正面の門に
施された装飾彫刻だった。
 特に、三重のアーチ状に彫られたヴシュール
のレリーフは、とても興味深い作品だった。
 アダムとイヴを主題とした場面や、多くの天
使や聖人、馬や鹿や羊などが彫られている。
 人物や動物の表現は稚拙であったが、真摯な
信仰心が背景に感じられる素晴らしい彫刻だっ
たのである。
 この村で私達はランチの食べられそうな店を
探したのだが、雑貨屋が一軒あるのみだった。
 
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 メルランド
    旧聖ジャン小修道院

  Merlande/
   Ancienne Prieuré St-Jean
 

      3 Dordogne 

          
   
 
 この聖堂は、ペリギュ Périgueux の町の西
北約10キロに位置している。いかにも修道院
であったに相応しい、森の中の静かな一画であ
った。
 聖堂は単身廊のバジリカ式だが、三つの部屋
が縦に並んでいるような様式になっている。
 中央の部屋の天井は、円形ドームになってお
り、写真はその奥の祭室部分の入口から中を覗
いたものである。
 全体に12世紀の建築らしいのだが、どうや
らこの祭室部分が最もオリジナルに近そうだ。
 凱旋門と呼ばれるこの入口の柱頭の彫刻で判
る様に、質の高い内容の彫刻を随所に見ること
が出来た。この柱頭彫刻はライオンの群像で、
四頭が絡み合った美しい彫刻だった。
 その他にも、ライオンや植物模様を彫った柱
頭が在る。比較的目線に近い高さに彫られてい
るので、ディテールまで観賞できるのが嬉しか
った。
 修道院の礼拝堂であったと思われるが、他の
建物は全て消失してしまったらしい。
 私達はその後ここから数Km車を走らせ、ブラ
ントム
Brantome という村に在る旅籠に泊ま
った。水清い爽やかな宿だった。
 
 
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 セナック聖母教会
  Cénac/Église
    Notre-Dame de Cénac
 

      3 Dordogne 

          
 
 
 ドルドーニュ地方には、英仏百年戦争時代の
要塞都市が数多く残っている。モンパズィエや
ドムなどが著名だが、そのドムの町から崖を下
ったドルドーニュ川に沿った場所にこの教会が
建っている。
 聖堂の背後は墓地になっていたが、ここから
眺める後陣の姿がとても美しく感じられた。
 もっともその筈で、12世紀創建当初の建築
は、写真に写っている半円形の祭室と、両翼廊
に付随したやはり半円形の二つの小礼拝堂だけ
だったからである。
 それ以外の翼廊や塔は取って付けたような不
自然さが目立つだけに、後陣部分にはロマネス
クらしい均整の取れた落ち着きが、一際強烈に
感じられる。
 身廊部分の大半も失われてしまったようで、
これらは全て後世に再建されたと思われる。
 祭室内部の柱頭には、怪獣などが活躍するロ
マネスク的な彫刻が見られた。
 
 
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 サン・タマン・ド・コリイ
     
聖アマン教会
  St-Amand-de-Coly/
     Église St-Amand
 

      3 Dordogne 

          
   
 
 この町は先述のサン・レオンの在るヴェゼー
ル谷から、その支流に沿って少し山に入った所
に在る。静かで閑散とした町だったが、黒っぽ
い扁平な石を屋根に敷き、黄色い石を組んで建
てられた家並みはとても美しく感じられた。
 教会は元は修道院だったらしく、門や塁壁な
どは丸で要塞のように堅固である。
 聖堂は典型的な十字形ではあるが、両翼廊に
は八角形を半分にした小礼拝堂が付いている。
祭室は方形で、要塞のように見えるのはこうし
た建築プランが影響しているらしい。
 翼廊両端のファサードも、まるで城郭建築の
ような風貌で、聖堂の外観はあまり美しいとは
言い難かった。
 しかし、内陣は荘厳で、ロマネスクらしい石
の壁と半円アーチで構成された美しい建築であ
る。高い天井と長い柱や柱頭の彫刻が創出する
その空間は、幻想的で優麗な雰囲気に満ちてい
た。
 写真の柱頭は、龍と戦う聖人で、肩を噛まれ
て痛そうである。
 
 
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 モンセンプロン聖ジェロウ教会
  Monsempron/Église St-Géraud 

      2 Lot-et-Garonne
 
          
   
 
 ロット川沿いの道を、ボルドーに向かって走
っている途中で立ち寄った町である。
 聖堂の扉が閉まっていたため、開けて貰うの
に洗濯屋のお兄さんや市役所のおじさんのお世
話になった。
 内陣は複雑な構造になっていた。12世紀当
初から17世紀あたりまでの建築が、複合的に
重なり合っているからである。
 聖堂の基本的なプランは三廊式であり、祭室
部分が一段高くなっている。両側廊端に半円形
祭室が設けられているが、主祭室部分は細長く
延長した形で再建されている。
 写真の半円形祭室部分と塔だけが12世紀の
もので、右側は再建された16世紀の主祭室部
分である。
 身廊の円柱の柱頭部分に彫られた帯状のレリ
ーフは、かなり修復はされているものの、ケル
ト的な生首の行列も見られて面白かった。
 旧祭室部分の柱頭彫刻は、主題は明確ではな
いが素朴であり、おそらく創建当初の彫刻だろ
うと思う。
 心配して見に来てくれた洗濯屋のお兄さんや
市役所のおじさんに、心からの感謝を伝えた。
 
 
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 フレスペシュ聖母教会
  Frespech/Église Notre-Dame 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
      
 
 モアサック Moissac に泊まった翌日、カオ
ール
Cahors を訪ねた帰り道に立ち寄った小
さな教会だった。
 まるで農家の入口みたいだったので、そのま
ま通り過ぎようかと思った時、写真の後陣建築
がちらっと見えたので、慌てて車を止めたのだ
った。この地方からメドック地方にかけて、後
陣に特徴を持つ教会建築が広く分布している。

 聖堂全体は単身廊で三つの空間に分けられ、
身廊と鐘塔、そして祭室それぞれが半円アーチ
の門で仕切られている。
 何とも単純素朴な建築だが、三重のアーチの
幻想的な柱頭彫刻によって構成された内陣は、
ロマネスクの原点を見る思いにさせてくれた。
 写真に見る後陣建築は、注意しなければ見逃
してしまいそうなほど素朴だが、屋根や軒持送
りや壁面の全てがお手本とも言うべき純粋美を
示している事に気が付かねばならない。
 教会周辺はまことに牧歌的な農村であり、素
朴な信仰が営まれてきたからこそ、こうした原
初的な建築が今日まで伝えられたのであろう
 
 
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 アジャン聖カプレー大聖堂
  Agen/Cathédrale St-Caprais 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
 
 
 県庁所在地の大都会に建つ大聖堂としては、
かなり規模が小さいかもしれない。二つの梁間
に翼廊と後陣だけのラテン十字形聖堂である。
 残念ながら建物の大半がゴシック様式に改造
されており、12世紀ロマネスクは写真の後陣
Abside 部分と、身廊と翼廊に残る柱頭彫刻の
傑作群だけに残されているだろう。
 主後陣に三つ、翼廊に二つ、半円形の小祭室
が設けられているのが特徴だ。
 隣接する旧回廊の遺構に残されている柱頭彫
刻は、深く緻密な彫りで必見である。
 
 
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 モワラ聖母教会
  Moirax/Église Notre-Dame 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
  
 
 アジャン Agen の郊外に在る町で、ロマネ
スクに興味のある人には、通り過ぎてしまう事
の決して許されない場所である。
 私達がこの町に着いたのは冬の日の夕方で、
堂内はすっかり暗くなっていた。
 三廊式の壮大な聖堂で、身廊には左右六本づ
つの太い柱が立ち立派な祭室へと続いている。
 最も古いのは身廊と翼廊部分で、11世紀の
ものである。祭室は12世紀創建されたと言わ
れている。
 身廊の柱にはいずれも、素晴らしい柱頭彫刻
が見られる。写真はその内の一基で、聖人や聖
女らしき人物が彫られているが、どういう主題
かは不明である。
 持参した簡易照明を横から当てるなどして、
苦心惨憺努力した結果がこの写真である。真っ
暗な中にしては良く撮れたと解釈していただき
たい。
 見るべき柱頭が十基以上有ったので、私達は
撮影のために2時間近く聖堂に居たのだった。
 
 
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 レラック聖マルタン教会
  Layrac/Église St-Martin 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
 
 
 アジャンの南、ガロンヌ川の対岸、モワラの
東に位置している。
 11世紀に起源を持つ12世紀の教会で、単
身廊ながら、7つの梁間を擁した十字形の聖堂
である。天井は尖頭ヴォールトに横断アーチだ
が、後世の修復だろう。
 翼廊との交差部に鐘塔が設けられている後補
である。
 九つの窓を持つ祭室は壮観で、写真の外観か
らも想像出来る。
 翼廊や身廊の柱頭彫刻は、動植物の組み合わ
せなど興味深いものが多い。
 祭室の床モザイクはロマネスク時代のもので
ある。  
 
 
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 オビアック聖マリア教会
  Aubiac/Église Ste-Marie 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
   
 
 アジャンの南西8キロ、主要道路 D931 沿
いに建つ12世紀の遺構である。モワラからも
数キロの地点である。

 三つのベイを擁した単身廊の聖堂で、翼廊と
の交差部に方形の鐘塔が建っている。
 珍しいのは翼廊に当たる南北両翼部分が半円
形の祭室
absides になっていることである。
 ドイツのケルンで見た三つ葉型の内陣に似て
いる。これらの部分はこの教会最古の部分で、
12世紀初めの建築とされている。
 石材の質感がしっかり残っているので、ロマ
ネスク好きにとっては身震いするほど嬉しい。

 聖堂正面はもう一つの鐘塔に扉口の付いた、
これも珍しい
Clocher-Porche とも言える。
 扉口両側の柱頭に、秀逸な彫刻があった。渦
巻状の蔓と向き合って頬寄せした二頭のライオ
ン、怪鳥の間から人面が覗いているもの等で、
やや磨滅してはいるが傑作の部類だろう。

 身廊は高い天井で、尖頭ヴォールトに横断ア
ーチが施されている。身廊部分は内陣と同じ1
2世紀だが、やや遅れて建造されたようだ
 
 
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 クレルモン・デス
     洗礼の聖ヨハネ教会

  Clermont-Dessous/
     Église St-Jean-Baptiste
 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
   
 
 アジャンの西約20キロ、ガロンヌの流れを
望む高台に、城郭のような風貌のこの聖堂が建
っている。教会へは石垣に沿った石段を登って
行くことになる。

 思ったより規模の小さい、まるで礼拝堂のよ
うな聖堂である。長方形の鐘塔を中心にして、
東に後陣
Abside、西に方形の身廊 Nef、南北
に丈の短い袖廊
Transept が配された、小さ
な十字形の建物なのである。
 写真は、身廊部分から塔の真下に当たる袖廊
との交差部分、そして祭室(後陣)を撮ったも
のである。
 手前とその次のアーチの間が袖廊部分で、見
上げると鐘塔を組み上げたドーム
Coupole
確認出来る。塔の平面が長方形なので、ドーム
も必然的に横長の八角形になっている。
 三番目のアーチとの間に祭壇が置かれ、最奥
が後陣となっている。

 修復が成されているのは自明の理だが、壁も
天井も石を積み上げて構築されたことが良く見
える手法で、全面白塗りが横行する昨今、ロマ
ネスクの原点を見るような思いが喚起されたの
だった。

 聖堂背後から眺める景観は、ガロンヌとポル
Port-Ste-Marie の町を背景にした、円形後
陣と鐘塔が見事だった。
    
 
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 カディヤック聖マルタン教会
  Cadillac/Église St-Martin 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
 
 
 マルマンド Marmande の北東30キロ、ア
ルマン
Allemans-du-Dropt の町外れにある
寒村である。畑の中にポツンと建つ、村の礼拝
堂の様な聖堂で、単身廊に半円後陣が付いた質
素な建物である。
 写真は南門のタンパン部分である。中央に十
字架を背負う子羊。キリストを象徴しているの
だろうが、脇侍のような両脇の鳥は何なんだろ
うか。
 大きな持ち送り
modillon の部分には、怪
獣の頭と鶏の姿が彫られ、丸で仁王門のようで
ないか。
 左右の柱頭も興味深い。かなり磨滅が激しい
のだが、右がアダムとイヴ、左は乞食に外套を
与える聖マルタンの逸話かと思われる。
 
 
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 モンテトン聖母教会
  Monteton/Église Notre-Dame 

      2 Lot-et-Garonne
 
           
  
 
 先述のアルマンの教会 St-Eutrope でゴシ
ック期のフレスコ画の傑作を観てから、丘の上
に建つこの教会を訪ねた。
 その日は日曜日の昼前で、ちょうどミサが終
わるところだった。親切な信者の方が、見所の
柱頭などを教えてくれた。

 12世紀に創建された聖堂は四つの梁間を持
つ単身廊で、東側に段差を設けて半円形の後陣
と祭壇を置いている。
 身廊の壁面には、大きな空間の割には小さな
窓しか開けられておらず、味気ない石の壁とし
か見えない程の素朴さであった。
 身廊部分の天井は尖頭アーチ形のヴォールト
で、横断アーチが設けられている。

 写真は、段の付いた祭室部分で、交錯するア
ーチの構成がとても美しい。この部分の天井は
半円筒ヴォールトになっていて安心する。
 古い柱頭はこのあたりに在って、人物と植物
が絡み合ったような、とても物語性の高いモチ
ーフが用いられているようだった。

 聖堂の背後は崖で展望所が設けられており、
雄大な田園風景を楽しむ事が出来る。
 
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 サン・ジョルジュ・ド・モンターニュ
       
聖ジョルジュ教会
   St-Georges-de-Montagne/
      Église St-Georges
 

      1 Gironde

           
   
 
 ワイン産地のモンターニュは、モンターニュ
・サンテミリオン
Montagne-St-Emilion
いう呼称のAOCを認められた、高級赤ワイン
の産地サンテ・ミリオンの衛星地区の一つでも
ある。
 サンテ・ミリオンの有名なシャトー群を横目
に見ながら北上すれば、すぐにモンターニュの
町に入る。ここはそのモンターニュに隣接して
いる集落である。
 背後からの教会の眺めは素晴らしいもので、
後陣と鐘塔の佇まいは、ロマネスクが示すであ
ろう簡素な美しさの標本のようであった。
 入口のファサードは、やや荒廃しているが、
太いアーチ、素朴なレリーフや柱頭など、この
聖堂にふさわしい質素な装飾で好感が持てる。
 単身廊で祭室が有り、翼廊が付いた十字形の
プランである。翼廊の片方の上部が、写真でも
分かるように塔になっているのである。そして
小さな礼拝堂が付いており、これら全ての建築
が11世紀のものである。
 一見地味だが、飲み進む内に深い味わいと香
りに感動させられる、メルロー種中心のサンテ
・ミリオンのワインにも似て、通好みのロマネ
スクである。
 
 
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 モンターニュ聖マルタン教会
  Montagne/Église St-Martin

      1 Gironde

            
      
 
 前述のサン・ジョルジュ・ド・モンターニュ
村の隣にモンターニュ村が在り、こちらの教会
は聖マルタンを祀っている。
 なんとも紛らわしい話だが、どちらも素晴ら
しいロマネスク教会だった。
 単身廊の十字形、祭室と翼廊に張り出た小礼
拝堂二つが、共に角形になっている。
 交差部に鐘塔が建つという、典型的な十字教
会である。
 部分的にかなり補修の手が入っているので、
ややまとまりに欠けた後陣からの眺めとなって
いるが、ロマネスクの教会しての愛らしさが感
じられるのがとても気に入ったのだった。
 もっとも、モンターニュ産のサンテ・ミリオ
ンが安くて上質であることが、教会の評価にま
で影響しているかどうかについては御想像にお
任せしよう。
 
 
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 ヴィルヌーヴ聖ヴァンサン教会
  Villenueve/Église St-Vincent 

      1 Gironde

            
   
 
 ジロンド河の東岸、メドックへの渡し舟が発
着するブライ
Blaye の町の南側に位置する村
である。ブール地区
Côte de Bourg という葡
萄の産地の一画である。

 教会は集落の中心に立っているのだが、どこ
かにロマネスクの魅力に欠けた違和感が感じら
れたのだった。
 11世紀創建と伝えられる聖堂だが、長い年
月の間に様々な改修が重ねられ、近代になって
ネオ・ロマネスク様式で大改造された、という
話で納得せざるを得なかった。

 当初の純粋なロマネスク様式は、どうやら鐘
塔と後陣下部だけに残っているようだった。
 正面扉口は堅く閉ざされていて聖堂内部へは
入れなかったが、高い天井の単身廊に翼廊の付
いた十字形で、三つの後陣を備えたプランは堅
固だ。
 住民の生活に密着した教会が、快適な空間を
求めて改造されることは致し方ない。
 それでも、継続的に保持されるであろう歴史
的な美意識の片鱗が、わずかでも認めらること
を期待して旅している者にとっては、扉だけは
何とか開放していただきたいものである。

 写真は裏の畑から眺めた聖堂で、余計な装飾
は多いものの、ロマネスクのエッセンスは十分
感じられたのだった。
 
 
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  バイヨン聖母教会
   Bayon-sur-Gironde/
     Église Notre-Dame

      1 Gironde

            
   
 
 前述の村から、ジロンドに沿って約5キロ程
南下すると、この閑静で瀟洒な集落に着く。
 ここもブール地区の葡萄の集散地として知ら
れている。

 教会は広々とした解放的な場所に建っている
ので、迷う心配は一切無い。
 12世紀に創建された聖堂で、単身廊に半円
形の後陣と翼廊部分に半円形小祭室が付いた変
則的な十字形のプランとなっている。
 写真は最も特徴的な中央後陣で、七角の面を
三段に区切ってそれぞれ違ったアーケードが意
匠されている。二段はあちこちで見かけるが、
三段のアーケードは珍しいだろう。リズム感に
溢れていて、とても美しい。

 玄関には、面白い柱頭彫刻や軒持ち送り彫刻
が見られた。
 単身廊の天井は交差リヴ・ヴォールトで、少
々がっかりだったが、柱頭彫刻に秀逸なものが
確認出来て溜飲を下げた。高い位置に在って、
見えにくいのが難点ではあったのだけれど。
 
 
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 モンブリエ聖スルピス教会
  Monbrier/Église St-Sulpice 

      1 Gironde

            
   
 
 バイヨンの東、ジロンド河畔としてはやや高
台に位置しており、周辺には美しい葡萄畑が広
がっている。葡萄畑を見ると、豊かな興奮を感
じるのは何故だろう。可憐な果実が、奥深い神
秘的な味わいの液体へと劇的な変貌を遂げる事
を予知させるからだろうか。
  
 広大な葡萄畑の向こうに見える尖塔が、モン
ブリエの教会だった。
 この聖堂もかなり修復されているようで、ロ
マネスク創建時である12世紀のテイストは、
残念ながら後陣
Abside と鐘楼の下部にのみ
残っているようだ。

 写真は聖堂後方からのもので、広い芝生の広
場になっており、単身廊の両翼に鐘楼と礼拝堂
が附属され、三つの後陣が意匠されているのが
嬉しい景観である。
 五角(正八角形の一部)の壁面を持つ中央の
後陣の軒持ち送りには、ロマネスクらしいユニ
ークな彫刻が見られた。妙な格好をした人物像
が大半である。
 付け柱の先端には、ライオンや鳥が重なり合
ったような精巧な柱頭彫刻も残っており、ここ
いらに知られざるロマネスク教会を巡る楽しみ
が隠されているようでもあった。単なるマニア
ックな話しにすぎないのかもしれないが。
 
 
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 トーリアック聖エチェンヌ教会
  Tauriac/Église St-Étienne 

      1 Gironde

            
 
 
 ドルドーニュ川がガロンヌ川と合流してジロ
ンド川となるのだが、この村はその合流点から
かなり近い場所に在る。前述のフロンサックか
らは、国道を隔てて至近である。
 この教会の正面にも、見せ掛けファサードが
造られている。国道を北上すればすぐサントン
ジュであるだけに、様式が似ているのは当然か
もしれない。
 門の左右と、上段に盲アーケードが造られて
いる。ファサード全体が、やや無骨な感じのす
るアーチである。
 写真は、正面入口の右側に造られた盲アーチ
で、半円の内部にタンパンのようなレリーフが
彫られている。
 十字旗を持つ小羊はキリストの象徴であり、
受難や死を超えて復活したキリストの勝利を表
現している。小品ながらタンパン彫刻としても
傑作である。
 左のアーチには、ポアトウ地方ではよく見ら
れる、コンスタンティヌス帝の騎馬像が彫られ
ている。
 
 
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 ラ・ランド・ド・フロンサック
     聖ピエール教会

  La Lande de Fronsac/
     Église St-Pierre
 

      1 Gironde

            
 
 
 サンテ・ミリオンからドルドーニュ河に沿っ
て下って行くと、これも赤ワインで有名なポム
ロールに至り、その先がフロンサックである。
ラ・ランドはフロンサックの外れに在る、葡萄
畑に囲まれたのどかな村だった。ここにも知る
人ぞ知る通好みの、隠れた銘酒が有る。

 教会は、鄙びた村の更に村外れ、深い木立と
墓地に囲まれてひっそりと建っていた。
 ボルドーの東、つまり
Guyenne ギュイエン
地方と呼ばれる一帯からサントンジュ地方に
かけての広い範囲に、装飾的なファサード彫刻
を持つ教会が多数分布している。ここの教会も
その一つであり、扉口の見事な彫刻を見ること
が出来た。
 中央のタンパンは小型だが、周囲の四重アー
チ装飾は、門の大きさに比してかなり厚みのあ
る迫縁が圧倒的な重量感を持っている。
 タンパンなど図像の大半の内容は分からなか
ったが、しっかりとした彫りの美しさには不思
議な説得力が有る。
 キリストの背後の花と剣、蔓の先に有る聖堂
と聖パウロ。ここのタンパンは、丸で江戸の判
じ物みたいな謎だらけだ。 
 
 
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  カステルヴィエイユ
     ノートルダム教会

  Castelviel/Église Notre-Dame

      1 Gironde

            
   
 
 Entre-Deux-Mers アントル・ドゥ・メール
と呼ばれるドルドーニュ・ガロンヌ両河が合流
する三角の地帯は、白ワインの名産地であると
共に、珠玉のロマネスクが潜む隠れた聖地でも
ある。
 この地方でも、サントンジュに似た装飾の美
しいファサードの教会が、葡萄畑に囲まれた村
毎に点在している。葡萄畑を抜けると、そこは
ロマンの寺だった、などと言えば些か大袈裟だ
が、決してイメージは間違ってはいない。
 ルピアック
LoupiacBlasimon ブラシモ
、ガバルナック Gabarnac など、優れた意
匠のファサードを見たが、中でもこのカステル
ヴィーユの門が最も美しく印象的だった。
 両脇に小さな見せかけアーチを付けた壮大な
門であり、飾りアーチ迫縁(ヴシュール)は五
重に作られている。
 柱頭や小アーチ部分に美しい図像が集中して
いるが、全体的には、けばけばしさの余り感じ
られない趣味の良い豪華版である。装飾図像の
統一的な主題は、天国と地獄を表現したものの
ように私には見えた。
 
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  サンテ・ミリオン
    聖エミリオン参事会教会

   St-Émilion/
    Colllégiale St-Émilion

      1 Gironde

            
  
 
 サンテ・ミリオンのオーベルジュに泊まり、
たっぷりワインと料理を楽しんだ。勿論それが
目的なのではなく、夕方訪ねた当教会のロマネ
スクが本命だったのだ、と申し上げておく。
 それにしても、メルロー種の葡萄を主体に醸
造されるサンテ・ミリオンは格別だった。

 さて、この写真は参事会教会のファサードで
ある。最も重要な地下教会
Église Monolithe
では暗くて人が多かったために、良い写真が撮
れなかったので、次に訪ねた当教会を掲載する
ことにしたのである。

 半円アーチの門や窓や盲アーチが、均整の取
れたアンサンブルになっているのだが、どんよ
りと曇っていて、ファサード全体が薄暗く、彫
刻の陰影を浮き上がらせる事が出来なかった。

 身廊の天井は尖角アーチで、ややゴシック的
だが12世紀後期とされている。
 翼廊や祭室部分は交差オジーヴの完全なゴシ
ックで、ステンドグラスだけは美しかった。

 翌日、この教会の建つ丘の西南斜面に在るシ
ャトー・オゾンヌの畑を訪ねたが、ボルドーを
代表する銘酒の一つであり感激した。
 
 
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 プティ・パレ聖ピエール教会
  Petit-Palais/Église St-Pierre 

      1 Gironde

            
 
 
 サンテ・ミリオンの町を中心にして、広大な
葡萄畑が果てしなく続いている。郊外の村に残
る教会を訪ねることは、そのままワインの里を
巡ることとなる素晴らしい旅だ。
 この村も、そうした葡萄畑に囲まれた閑静な
集落だった。
 村外れの墓地を前景にして、このチャーミン
グな教会が建っていた。
 ここでは、正面のファサードに注目しなけれ
ばならない。
 聖堂建築の構造にとっては力学的な意味の全
く無い、装飾のための“見せ掛けファサード”
であり、これはお隣のサントンジュ地方ではよ
く見られる様式だ。
 門の左右や中段、上段に、盲アーケードが多
用され、それぞれのアーチ部分に繊細な模様が
彫られている。
 ファサード全面を利用した意匠は情熱的で、
聖堂を荘厳しようとした12世紀の信仰心の強
さと高い美意識とを感じ取ることが出来た。
 
 
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 サン・フェルム
    
旧聖フェルム大修道院
   St-Ferme/Ancienne
     Abbatiale St-Ferme
 

      1 Gironde

            
 
 
 ガロンヌ川とドルドーニュ川が合流する手前
の三角州地帯は、アントレ・ド・メールと呼ば
れる有名な白ワインの産地である。
 ここの村々には数多くのロマネスク教会が残
されていて、旅する私達の目的が時として狂わ
されてしまうという、何とも悩ましい地方であ
る。
 その中で最も美しい柱頭彫刻を見る事が出来
るのが、この小さな村の小さな教会なのだ。
 聖堂の建築は後世に再建されたものだが、柱
頭彫刻だけは創建時のものが残されている。
 東方三博士礼拝、弟子の足を洗うキリストの
場面や、ライオンとダニエルなど聖書の逸話を
主題にしたものが多い。
 写真右の人物は、ダヴィデによって殺される
ベリシテ人の戦士ゴリアテである。敵役にして
は憎めない表情をしている。
 ここはあたかも、柱頭彫刻美術館さながらに
楽しめる、別世界の教会だった。
 
 
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 ブラジモン聖ニコラ教会
  Blasimon/Église St-Nicolas 

      1 Gironde

            
   
 
 前掲のサン・フェルムから比較的近い、やは
りここもアントレ・ド・メールの村の一つであ
る。かつては壮大な修道院であり、現在でもそ
の遺構が残されている。礎石を見ただけでも、
いかにその規模が大きかったかが判る。鐘塔や
壁の一部が残存する部分も見られる。
 この教会は、修道院付属教会のような形で、
敷地内の遺構に隣接する格好で建っている。外
観はゴシックだが、西正面の門だけにロマネス
クの装飾が残されていた。
 先の尖ったアーチになっているが、六重のヴ
シュールを飾る彫刻にはロマネスクからゴシッ
クへと移り行く時代の特徴を見る事が出来る。
 ほとんどが植物の葉の連続模様なのだが、一
番内側と四重目の帯には、とてもひょろ長い人
物像が彫られている。悪徳を意味する怪物を、
美徳を象徴する人物が踏みつけている図だ。
 帯状の中に収めるためなのだが、円柱に細長
い人物像が彫られる前兆と考えられ、ゴシック
的な造形へ移行する前触れででもあるかのよう
に、私には思えたのだった。
 
 
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 ラ・ソーヴ・マジュール
     
旧聖ジェロウ修道院
   La Sauve-Majeure/
  Ancienne Abbaye St-Géraud
 

      1 Gironde

            
  
 
 ボルドーとサンテ・ミリオンの中程から、少
し南に下がった辺りに、この大規模な修道院の
遺跡が残っている。
 数多くの壁や円形ドームや柱など、聖堂建築
の一部がかなり当初の姿を留めたまま廃墟とな
ってしまっている。
 写真は、天井は落ちてしまっているが、側廊
やトリビューンの面影を伝える身廊の内壁を撮
ったものである。崩落した姿は痛々しいが、廃
墟が示す凛とした独特の美しさがとても好きだ
った。
 堂々たる太い柱は飾らぬ素朴さの表現で、当
代の美意識がいかに豪胆で大らかであったかを
示すものだろう。
 聖堂は三廊式十字形で、主祭室の両側に小祭
室が、更に両翼廊には小礼拝堂が付いている。
 つまり、半円形の祭室が横一列に、五つ並ん
でいるという壮麗なものだったようだ。祭室周
辺に残る柱頭彫刻や、美しいアーケードなどが
それを物語っている。
 鐘塔のてっぺんからの眺めは抜群で、修道院
全体が見渡せる。礎石の配置から、回廊であっ
た場所も判る。目を遠くに転じると、アントレ
・ド・メールの葡萄畑の向こうに、美しく輝く
ガロンヌの流れが光の帯のように見えた。  
 
 
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 ボルドー聖スラン教会
  Bordeaux/Église St-Seurin 

      1 Gironde

            
   
 
 大都市ボルドーでは最古の教会で、聖堂建築
の大半が12世紀から13世紀にかけてのもの
であり、ポーチやクリプトなどの一部が11世
紀なのだと言われている。
 身廊は三廊式で、12世紀の建築である。
 祭室は現在方形だが、かつては半円形の祭室
があったらしい。後年に増築された部分が多い
が、外観を見た限りでは、そんなに新しいとい
う印象は受けなかった。

 写真は身廊入口から、ポーチ部分を振り返っ
て見たところである。全てに、11世紀という
時代の風格のようなものが感じられる。古色蒼
然とした中に、揺るがぬフォルムの美しさが腰
を据えて存在しているのである。
 天井の半円ヴォールト、大きな柱頭彫刻、太
い円柱、堂々たる盲アーチの意匠など、どれを
とってもロマネスクの基本的な美しさを備えて
いる。
 そして、それらが見事に調和しながら、建築
全体の美しさを構成しているのである。

 クリプトの入口が閉鎖されていたので、残念
ながら内部を見る事が出来なかった。
 
 
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 ボルドー聖十字架教会
  Bordeaux/Église Ste-Croix 

      1 Gironde

            
   
 
 7世紀に創建されたベネディクト派修道院の
附属教会として11~12世紀に建造された。
 ボルドーの町の中心、ガロンヌ川西岸地区に
建つ壮麗なロマネスク寺院である。

 身廊は五つの梁間を持つ三廊式で、翼廊部分
に小祭室を設けた三後陣様式になっている。身
廊の左右の壁が11世紀とのことだったが、全
体が古色蒼然たる雰囲気なので格別の古さは感
じられなかった。聖堂の大部分は、太い円柱も
含め大半が12世紀のものである。
 天井は交差リブ・ヴォールトだったが、祭室
部分などに石の材質感がにじみ出ており、ロマ
ネスクの原点を見る想いが感じられた。

 写真は正面ファサードのものである。各層の
アーケードはサントンジュ地方で見られるよう
な意匠であり、その先駆けとなったのだろう。
 中央扉口の帯状アーチには、精巧で緻密な装
飾彫刻が施されている。特に最外側のアーチに
は、色々な楽器や器を持った預言者達の姿が、
その内側には、十二か月の仕事や星座のシンボ
ルが彫られている。いずれにも卓越した表現が
成されており、眺めていると容易にはここをパ
スして門を入ることは出来ない。

 聖堂の外側を背後に回り込むと、三後陣の端
正な建築を眺めることが出来る。   
 
 
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 アルサック聖ジェルマン教会
  Arsac/Église St-Germain 

      1 Gironde

            
 
 
 ボルドーから銘酒の里 Margaux マルゴー
へ向かう途中の集落である。

 19世紀に大きく改造された聖堂で、写真の
南門だけがロマネスクの遺品である。
 やや剥落気味だが、七重のヴシュールは圧巻
で、様々な意匠が目を引く。花びらの集積、幾
何学的織物図形、連続植物模様など、緻密な彫
刻が施されている。
 外から二重目に、十二か月の仕事らしき図像
があって興味深いがかなり損傷が激しい。
 鐘塔や後陣、身廊などは全て後世のものであ
った。  
 
 
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 アヴァンサン聖ピエール教会
  Avensan/Église St-Pierre 

      1 Gironde

            
   
 
 マルゴーの町から西へ5キロ、東のカステル
ノー
Castelnau までは2キロという位置にあ
る村である。メドック
Medoc を名乗るワイン
産地の中心に近い魅力的な場所なのである。

 扉口のある門を備えた立派な鐘塔が目印とな
るのだが、塔を含め三廊式の身廊などの建築の
大半が19世紀の再建によるものであった。
 様式はロマネスクなのだが、何か真新しい印
象を受けるのは、このネオ・ロマネスク的な改
築によるものであった。

 創建時のロマネスク様式を伝えているのが、
写真の後陣
Chevet 部分である。当初は、単
身廊にこの後陣を備えた聖堂であったという。
 半円形に束ね柱の付け柱が六本で五つの壁面
を創出し、両端に並行した壁面を一面づつ加え
て七面で構成されている。これは後述のベガダ
ンやサン・ヴィヴィアンに共通している。

 同じロマネスクの半円形後陣でも多様な意匠
があり、それぞれにロマネスクならではのバラ
ンスのとれた美意識が存在する。建築としては
正面の出入口付近が最も注目されるので真新し
い改造が行われ易く、後陣はそのまま放置され
たケースが多いことが、後陣にロマネスクが残
る事例が多いことの理由なのだろうと思う。
 
 
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 ブノン聖母教会
  Benon/Église Notre-Dame 

      1 Gironde

            
   
 
 カステルノーから北へ16キロに行くと、サ
ン・ローラン
St-Laurent-Médoc という町が
あリ、更に南西へ向かって森の中を行くと、小
さな文字で
Notre-Dame と記された看板があ
った。細い道を行くと前が開け、牧草地の様な
広々とした草原に、写真の聖堂が建っていた。

 エルサレムのヨハネ騎士団に由来する教区教
会で、かつては施療院も併設した大規模な教会
であったらしい。メドックを経由するサンチャ
ゴへの巡礼路にもあたっていたそうだ。

 現在の教会は12世紀のもので、写真のファ
サードは下層扉口のアーチ門と、上層の五連ア
ーケードの二層構造になっている。最上部の三
角部分は18世紀の後補によるものである。
 扉口には三重のヴシュールが意匠されている
のだが、格別の装飾彫刻は見られない。
 上部のアーケードも、そして扉口の中心も左
にずれており、妙にアンバランスなのだが、単
身廊の内部にはずれは感じられなかった。五つ
の梁間と尖頭ヴォールトの天井が美しかった。
後陣は方形だった。
 おそらくは、後世の修復や改造の際に、不自
然な残り方をしたのだろう。扉口の位置から、
かつては三廊式だった可能性はないだろうか。
 
 
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 ヴェルタイユ
   旧聖ピエール修道院教会

  Vertheuil/Ancienne
     Abbatiale St-Pierre
 

      1 Gironde

            
   
 
 10世紀に起源のあるベネディクト派修道院
の附属教会であり、現在の建築は11世紀に建
てられたものが基礎となっている。

 訪ねた時には、南面の扉口が修復中で、ヴシ
ュールの彫刻を石工たちが補修をしていた。修
理ではなく、連続模様の欠落部に同じものを新
規に彫る、と言う石工の作業には愕然とした。
三日で完成する、と得意げに語ってくれたのだ
が、いいのだろうか。
 黙示録二十四人の長老などが彫られた秀逸な
ヴシュールなので、質の高い修復を期待したい
ものだ。

 写真は祭室部分のもので、祭壇を囲む六本の
柱の周囲を周歩廊が巡っている。三つの小祭室
が外側に意匠されている。巡礼教会の様式であ
る。何とも美しい祭室で、天井のドーム部分が
リブを用いたドーム状の梁になっている。リブ
の先端の格縁
nervures と呼ばれる部分に、
様々な人物や場面が彫られていた。ロマネスク
的ゴシックと言えるかもしれない。

 身廊は、四つ半の梁間(ベイ)を持つ三廊式
で、窓の少ないロマネスク建築なのだが、上部
は交差リブ・ボ-ルトの天井などゴシック様式
になっている。柱頭はやや高い位置にあるので
よく見えないが、双眼鏡で覗くと奇妙な人物や
動植物がが絡み合う精巧な彫刻であることが判
る。    
 
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  シヴラック聖ピエール教会
   Civrac-en-Médoc/
       Église St-Pierre

      1 Gironde

            
   
 
 レパール Lesparre の町を中心としたバ・メ
ドック
Bas-Médoc と呼ばれる一帯で、もち
ろんワインの重要な産地である。
 この町は、レパールの東北5キロの場所に位
置する静かな農村である。

 教会は、こんな閑静な場所に何故、と思える
ような規模の建築を残している。
 先ず驚かされるのは、聖堂の細長さである。
身廊が七つの梁間(ベイ)を持っており、三廊
式は過剰とも思える程壮麗に装飾されていて、
ロマネスク好きにはやや違和感を抱かされる。
天井は尖頭ヴォールトで何本もの横断アーチは
豪華だが、ゴシック時代にかなり改造された証
しだろう。

 正面ファサードは鐘塔の下に扉口が設けられ
ており、半円アーチのロマネスク門の上部に三
連の盲アーチが意匠されている。この地域らし
い装飾で、これは落ち着くデザインである。鐘
塔は後世のものである。

 ロマネスクとしての見所は、写真の後陣
で、
二連と単アーチが交互に配されており、付け柱
とのバランスがとても美しい。
 メドックにはロマネスクの後陣の傑作が多く
残されているが、ここは地味ながら知られざる
傑作として小生のお気に入りの場所である。
 
 
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 ベガダン聖サトゥルナン教会
   Bégadan/Église St-Saturnin 

      1 Gironde

            
 
 
 ジロンド川と大西洋に挟まれた半島はメドッ
Medoc 地方と呼ばれ、ボルドーワインの
重要な産地となっている。メドックでのグラン
クリュ・ワインの最北端は
St-Estèphe サン
・テステフなのだが、この町はそこから更に北
へ行ったところである。
 教会の建物はわざわざ訪ねるほどのものでは
ないか、と正直がっかりした。しかし、背後に
回り込み、後陣を見てびっくりしてしまった。
単身廊の半円形祭室なのに、これほど迄に見事
に装飾されたものは珍しいだろう。
 細長い半円アーチの窓がぐるりと並び、その
上層に盲アーケイドが平行している。それぞれ
のアーチには円柱と柱頭と縁飾りが付き、見る
からにリズミカルな意匠となっている。
 写真は、そのアーケードと柱頭、後陣北側の
ものである。屋根のすぐ下の帯状装飾等にも、
目立たぬ所にまで繊細なセンスを感じさせるよ
うな細やかな配慮が成されている。
 ワインだけでなく、ロマネスクのグラン・ク
リュがメドックに存在したことが嬉しかった。
ポイアックの宿で、取って置きの赤を注文し乾
杯をしたことは言うまでもない。
 
 
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 サン・ヴィヴィアン
    聖ヴィヴィアン教会

   St-Vivien-de-Medoc/
      Église St-Vivien
 

      1 Gironde

            
 
 
 ベガダンからさらにジロンド河口の方に、つ
まり半島の先端に向かって道なりに北上すると
この町に着く。
 教会の建築を正面から見ると、ここも全く凡
庸だったのだが、祭室の後陣はベガダンと瓜二
つの見事な装飾建築だった。
 半円の細長い窓も、上層の盲アーケードも全
く同じ意匠である。
 ただ、窓のすぐ上の円形帯状のレリーフ装飾
は、ベガダンでは見られなかったものだ。
 どちらが先駆的だか判らないが、影響し合っ
たことだけは間違いない。同じ建築家か石工だ
ったのかもしれない。
 もう一つの違いは、左側二つの窓が盲アーチ
になっていて、半円タンパン状の彫刻が見える
ことである。
 左側は音楽師と曲芸師、右側には四人の人物
が対峙している場面が描かれている。
 装飾の網目や植物模様も含め、石工のレヴェ
ルは相当高いものだと思う。
 
 
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 スラック聖母教会
  Soulac-sur-Mer/
    Église Notre-Dame
      de la Fin-des-Terres
 

      1 Gironde

            
 
 
 メドック半島の最先端の町で、教会の名に地
の果て
Fin-des-Terres と付いている程の先端
である。
 海路を来て上陸したサンチャゴ巡礼者達が、
聖地を目指す陸路の出発点としていたらしい。
 11世紀のベネディクト派修道院に起源を持
つが、聖堂は12世紀の建造である。

 広場から眺める正面ファサードは端正だが、
中央扉口の左側に鐘塔が建っているので左右対
称ではない。
 四つのスパンを持つ三廊式の身廊と、翼廊と
が交差して十字形を形成し、三つの後陣によっ
て、聖堂は完成されている。
 
 写真は中央の後陣で、周辺が暗いために見難
いのだが、半円形のドーム天井下の壁には五連
アーケードが意匠されている。
 各々のアーチの柱頭には優れた技術による彫
刻が施されており、特に“ライオンの穴の中の
ダニエル”や“イサクの犠牲”などが秀逸であ
る。
 聖堂背後の三後陣の景観も、レヴェルの高い
メドックの後陣群にあっても抜群の存在感を呈
していた。
 
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