ドイツ (北部)
    のロマネスク
 
 Romanik in Deutschland 
     (Nördlich)
 
 
 前期ロマネスク様式とも言うべきカロリング
朝時代の建築を初め、オットー一世が神聖ロー
マ帝国の皇帝となったオットー朝時代には更に
特徴的な様式が確立されていった。
 ライン地方のロマネスクも、三つ葉型内陣な
どに見られるような、ドイツならではの様式が
発展していったのである。

 印象に残ったドイツの教会を、便宜的に南北
に分けて掲載する。
 
   
 
  ドイツ北部の州と州都
    
1 Schleswig-Holstein (Kiel)
    
2 Mecklenburg-Vorpommern
        
(Schwerin)
    3 Brandenburg (Potsdam)
    4 Sachsen-Anhalt (Magdeburg)
    5 Niedersachsen (Hannover)
    6 Nordrhein-Westfalen
         (Düsseldorf)
 
 
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 イェリコー聖マリー
    聖ニコラス修道院教会

  Jerichow/Klosterkirche
   St Marien und St Nikolaus
 
     
      3 Brandenburg
                
 
   
 
 ベルリンのブランデンブルク門から、ほぼ真
西に車を走らせる。ポツダムやブランデンブル
クの町を過ぎベルリンから約100
キロ走ると
この小さな集落に着く。かつてはエルベ川の古
い流れに沿って開けた所だが、ここまで来ると
現在でもなお、牧農を中心とした田園の香り
に満ちていた。

 この修道院教会は集落の西北端に位置してお
り、修道院は想像した以上に規模が大きく、そ
して聖堂は何とも美しかった。
 12世紀の中頃に創設された修道院の付属教
会であり、西正面の双塔をはじめ内陣から後陣
に至るまでの全てが鮮やかな朱色の煉瓦で組ま
れているのである。
 写真は、三廊式の壮麗な身廊で、正面の段上
に祭室が見える。半地下部分は、やはり煉瓦造
りの地下祭室クリプタである。
 まるでシトー派の修道院のように、彫刻や絵
画など一切の装飾を排しているというのに、と
ても明るく鮮やかに見えるのは、明快な建築プ
ランと朱色の煉瓦という演出によるものなのだ
ろう。   
 
 
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  マグデブルク
    聖母マリア修道院

   Magdeburg/Kloster
     Unser Lieben Frauen
     
      4 Sachsen-Anhalt
                
 
   
 
 エルベ川に面した交易要衝の地として古くか
ら栄えた商業都市だが、三十年戦争と第二次大
戦で町は大きく破壊された。
 創建は11世紀初期だが、破壊されるたびに
修復を繰り返してきた。しかし、今日見る聖堂
建築の姿は、天井など部分的なゴシック様式を
除けば、ほぼ当初の美しさを再現させていると
言えるだろう。
 聖堂の身廊はやや空々しい建築で、天井はゴ
シックそのものの交差リブによるオジーヴ・ヴ
ォールト、側廊は普通の交差ヴォールトだ。
 西側正面の双円塔に挟まれた塔が修復中で、
シートに覆われていて、その姿を全く見ること
が出来なかったのは残念である。
 最も感動したのは、聖堂の北側に隣接してい
る回廊部分だった。煉瓦造りの美しい空間で、
二層の建築に南仏様式のアーケードが造られて
いる。一つのアーチの中に小さなアーチが三つ
組み込まれている、あの見慣れた様式である。
 写真は、中庭に少し飛び出した回廊部分で、
井戸の在る礼拝所
Brunnenkapelle と呼ばれ
ている。現地の解説には
Tonsur と記してあ
ったので、僧侶の剃髪場所でもあったらしい。
 ドイツ屈指の美しい回廊だと思う。
 
 
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 ハルバーシュタット
     
聖母マリア修道院教会
  Halberstadt/Klosterkirche
     Unser Liebfrauen
 
     
      4 Sachsen-Anhalt
                
 
   
 
 魔女の山ハルツへ登るために滞在していたヴ
ェルニゲローデ
Wernigerode から、車を飛
ばして約20キロ東北の場所に在る。
 町に近付くと、牧草地の向こうに大聖堂の尖
塔二基とこの教会の東西それぞれの双塔、併せ
て六本の塔が見えてくるのは壮観だった。
 13世紀中頃から造られ始めた大聖堂は完全
なゴシック建築で、細長い広場の対極に位置し
ている。

 この修道院教会は従来は西構えだった正面部
分に、修道院の回廊などが増設されたために、
聖堂の中間に双塔が建っているように見える。
写真の左側の角塔が双塔の片方である。
 写真の中心は、広場から見た東側の後陣部分
で、八角の塔が翼廊に隣接する東側双塔の片方
というわけである。それぞれの双塔のもう片方
は、写真の左上にちらっと写っている。
 三つの半円形後陣と、四本の塔を含めた建築
全体の立ち姿がとても気に入った。いかにもド
イツらしい、端正でありながら剛毅な建築なの
である。
 時間なのか曜日の関係なのか、入口の扉が閉
まっており、残念ながら聖堂内へは入れなかっ
た。内陣の仕切りに彫られた聖人像のレリーフ
を観ることが出来なかったのは残念だった。
 
 
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 ハメルスレーベン
    
聖パンクラティウス教会
  Hamelsleben/
    Stiftskirche St Pankratius
 
     
      4 Sachsen-Anhalt
                
 
   
 
 ハルバーシュタットから更に北へ20キロ行
くと、この小さな集落へたどり着く。
 広大な敷地に建つ教会の場所は直ぐに判った
が、聖堂入口の門扉は閉ざされたままだった。
参道を掃除している地元の婦人の話では、何と
月に数回僧侶が巡回してくる時だけ開く、とい
うことである。

 裏門の場所を教えて貰い、後陣の姿だけでも
観ることが出来たのは幸いだった。写真はその
時撮ったものだが、負け惜しみ半分で言うとハ
ルバーシュタットもそうだったが、後陣にその
聖堂の美しさが最も顕著に出る、ということが
確認できたのが良かった。
 翼廊と後陣の間に切妻部分が見えるが、これ
はおそらく増設された部分だろう。
 それでも、半円形の後陣の姿は、まことに絵
になって美しいものである。

 聖堂の南側に扉口があり、有翼動物を刻んだ
タンパンが有った。翼廊の南には、扉口の跡が
あり、獅子を彫ったタンパンが残されていた。
 
 
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  クヴェドリンブルク
     
聖ゼルヴァティウス教会
   Quedlinburg/
     Stiftskirche St Servatius
     
      4 Sachsen-Anhalt
                
 
 
 
 旧市街に残された木骨組みの家並を楽しみな
がら、曲がりくねった石畳の小路を城山という
高台に登っていった。
 聖堂は写真のような三廊式バシリカで、11
世紀に着工され、12世紀に献堂されたもので
ある。
 西側西構えのナルテックス、東側に祭室とい
う、カロリング朝様式の華麗な伝統を観ること
が出来る。残念ながら、西構えの双塔部分は修
復中だった。
 身廊の柱頭には観るべきものが多く、聖人や
動物の抽象的図像や幾何学模様の彫刻は全て一
級品である。
 地下のクリプタは交差穹窿の見事な空間で、
更に深く掘られた地底の後陣のアーチが印象的
だった。
 
 
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 ゲルンローデ
     聖ツィリーアクス教会

  Gernrode/Stiftskirche
       St Cyriakus
 
     
      4 Sachsen-Anhalt
                
 
   
 
 10世紀に建てられた聖堂で、身廊はオット
ー朝様式を見事に伝える建築である。
 三廊式の身廊と側廊の間は、左右それぞれ二
本の円柱と一本の角柱で仕切られている。
 二階はトリビューン形式で、三層目の窓は採
光のためのものだ。天井は木組みの平天井であ
り、簡素だが整然とした美しさが感じられるバ
シリカ聖堂だった。
 東側の内陣とその地下聖堂クリプタはドイツ
でも最古の部類なのだが、天井が真っ白な漆喰
で塗り替えられていたので新しく見えた。
 しかし装飾の無い質素な角柱と荒削りな天井
は、創建当初の雰囲気を伝えている様だった。
 写真は12世紀に改築された「西側の構え」
である。螺旋階段の付いた双円塔と、半円形に
飛び出した外陣が特徴的で、この聖堂を代表す
る景観となっている。
 西内陣は上段がオルガンの置かれた祭室で、
半地下が西側のクリプタとなっている。
 大きな柱頭、エンタシス状の円柱、
交差穹窿
の天井などがロマネスク最盛期の様式を示して
いた。
 聖堂南壁に接してアーケードが設けられてい
るが、回廊の北側部分が残されたものらしい。
 
 
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 ドリューベック
    聖ヴィトゥス修道院教会

  Drübeck/Klosterkirche
      St Vitus
 
     
      4 Sachsen-Anhalt
                
 
 
 
 ハルツ山塊の北側に位置し、ゴスラーとヴェ
ルニゲローデの間に在る素朴な町だ。
 背の高い二本の塔を持つ
Westbau 西の構
えが聖堂の特徴で、小さな町の何処からでもそ
の威容を望むことが出来た。
 双塔は八角形であり、西のファサードからは
やや無骨な印象を受けた。
 オットー様式の身廊は従来は三廊式だったの
だろうが、現在は北側の側廊が失われて壁にな
っており、南の側廊との間にだけアーチ列柱が
残されている。
 最も印象的だったのが写真の地下聖堂で、東
側内陣の下に造られたクリプタである。
 現在は北側の扉口から入れるようになってお
り、粗削りだが素朴な姿は10世紀末とされる
創建時の姿を物語っているように感じられた。
 いくつかの柱頭には、高度な技術を持った石
工の仕事が残されている。
 
 
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 ゴスラー旧大聖堂玄関間
   Goslar/Domvorhalle 
     
      5 Niedersachsen
                
 
   
 
 11世紀半ばに神聖ローマ帝国の皇帝宮殿が
置かれたこの町は、以来自由都市として繁栄し
た。旧市街には美しい木骨組みの家並が残って
おり、私の大好きな町のひとつだ。
 この建物は小さな礼拝堂のように見えるが、
11世紀に皇帝ハインリッヒ三世が建造した大
聖堂
 
Dom の玄関間部分だけが残ったもので
ある。
 ベイが二つある贅沢なナルテックスであり、
現在は跡形一つ残ってはいないものの、そこか
らも大聖堂の壮麗さが想像出来る。しかし、聖
堂建築の大半は19世紀半ばに取り壊されたの
だと聞いて驚いた。
 写真は西側のファサードで、中央入口のアー
ケードと柱頭がとても美しい。上部には聖母子
像や聖人の彫像、天使のフレスコ画などが見ら
れる。
 入口がガラス張りになっていて、中には入れ
なかったが、宝物である玉座台に彫られた獅子
と龍のレリーフを見ることは出来た。

 ゴスラーのロマネスクとしては、ノイヴェル
ク修道院教会も在るのだが、漆喰や色の塗り替
えが余りにも極端なために、当「美の世界」選
考枠から外れてしまった。
 
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  ヒルデスハイム
      聖ミヒャエル教会

   Hildesheim/
      St Michaeliskirche
     
      5 Niedersachsen
                
 
 
 ドイツのロマネスクを語る上で、このヒルデ
スハイムを外すことは出来ない。
 それはこの地がオットー大帝時代の建築術の
中心地だったからである。
 その建築様式を伝える最良のテキストが、こ
の教会だと言える。
 最大の特徴は、三廊式のバシリカ聖堂の東西
両端に内陣がある、というものであり、これは
カロリング朝様式に見られた西の構え建築と二
重アプシス様式を、継承改変させたものと考え
られる。
 写真は南側から聖堂を眺めたもので、東西両
端に祭室があり、それぞれの翼廊との交差部に
方形の鐘塔が建っている。つまり二重の十字形
となっているのである。
 身廊の列柱は、角柱の間を二本の円柱で結ぶ
三連アーチが三つ連なった豪華なもので、さら
に階上には十の採光窓が開かれている。
 周歩廊形式になった西側の内陣部分は特に豪
華だが三つのベイしかないこの時代の身廊の規
模はまだ小さかった、と言えるだろう。 
 
 
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 ケニッヒスルター聖ペーター
    聖パウル修道院教会

  Königslutter am Elm/
      Stiftskirche St Peter
        und St Paul
 
     
      5 Niedersachsen
                
 
   
 
 ブラウンシュヴァイク Brraunschweig の東
に展開する広大なエルムの森の北端に位置する
この町は、ベネディクト会の大修道院によって
良く知られている。
 この教会は旧修道院付属教会で、静寂な環境
の中に優雅な佇まいを見せていた。
 聖堂に近付いて行くと、森に隠れて見えなか
ったのだが、三本の塔があることが判った。
 西構えの部分の両側に双塔が、そして写真の
翼廊十字交差部に鐘塔がある。
 身廊は三廊式で、翼廊部分左右に大小の半円
形祭室が合計五つ設けられている。
 翼廊の北扉口から内陣へと入ると、極彩色の
壁画が目に飛び込んで来る。天使や聖人の群像
だが、修復が生々しいのでいつの時代のものか
は判別困難だった。
 写真は東側の後陣部分で、ここも古い写真と
比較すると、修復が完璧すぎて近年に建築され
たかのような印象を受ける。いかにもドイツら
しい修復だと思うのだが、復元するのか現状維
持に留めるかは意見の分かれるところだろう。
 中央の後陣壁面に彫られたロンバルディア帯
の中には、種々の寓意的図像が彫られていて見
飽きない。
 
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 イーデンセン
      ズィグヴァルド教会

   Idensen/Sigwardskirche 
     
      5 Niedersachsen
                
 
   
 
 ハノーヴァー Hannover から真西へ15キ
ロ行った所に在る全くの寒村なのだが、緑豊か
で瀟洒な住宅地でもある。
 教会は町の北端に建っており、入口の扉は固
く閉ざされていた。あちこちで尋ね、鍵を管理
する司祭の家が分かった。司祭は快く見学を承
諾し、鍵を貸してくれた。鍵は帰り際に郵便受
けへ入れてくれと言い、写真撮影も許可してく
れた。

 写真は単身廊の入口付近から祭室方向を眺め
たもので、壁面上部から半円筒形の天井いっぱ
いにフレスコ画が描かれていた。
 堂内は比較的明るいので見易いが、フレスコ
の保存には問題だろうと感じた。
 創建は12世紀前半とのことだが、フレスコ
は何度も修復されたらしい。

 写真の、すぐ手前左上天井に描かれているの
は「聖霊降臨」の場面で、神の手から十二使徒
に聖霊の条光が放たれている。
 さらに奥には、最後の審判・洗礼・聖パウロ
の受難などといった主題を見ることが出来る。
鮮やかな色彩、特にブルーが印象的だった。
 単身廊十字形の聖堂は素朴で、こじんまりと
した愛らしい後陣の佇まいは、大教会の多いド
イツではほっとする眺めだった。   
 
 
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 コルヴァイ修道院教会
  Corvey/Klosterkirche
     St Stephanus und Vitus
 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 カロリング朝時代の遺構として復元されてい
る、堂々たる西の構えが最大の目的だった。し
かし、修道院に近付くにつれ見えてくる西正面
の双塔部分は、鉄骨で組まれた足場やシートで
完全に覆われていた。
 かなりがっかりしたのだが、工事はファサー
ドの壁面補修だけで、西の構えの内部はちゃん
と見る事が出来た。

 かつてベネディクト派の修道院に付属したこ
の聖堂の西の構えは壮大で、正面は六層にも及
び、両側の双塔は更にもう一層高くなっていた
のだった。
 西の構えの内部は、二層目にトリビューンの
ある玄関間(ナルテックス)で、写真はその二
層目南側部分の眺めである。簡素だが気品に満
ちた、美しい空間だった。
 聖堂は、単身廊バシリカ形式であったと考え
られるが、それにしても西の構え部分が他を圧
する大きさであり、三廊式になっているこのナ
ルテックス階上部分が、皇帝専用の礼拝堂とし
て構築されたという説は否定できないような気
がする。
 一階部分は十二本の柱がある交差穹窿の空間
で、まるで地下祭室(クリプト)のような建築
である。
 後世の双塔形式に大きな影響を与えた、重要
な建築遺構である。
 
 
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 ミンデン大聖堂
  Minden/Dom 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 雨の中を歩いて訪ねたこの大聖堂の西の構え
は、10世紀の遺構と言われる見事な建築であ
った。コルヴァイの影響と言われている西正面
建築は、両端の塔と中央の塔が一体化したよう
な形式に変化はしているものの、ドイツ・ロマ
ネスク最大の特徴である西の構えの重厚な素晴
らしさを示している。

 前方に張り出した切妻部分は玄関間で、この
部分は11世紀に増設された部分である。
 ヴェストファーレンには、こうした玄関間の
付いた西の構えの作例が幾つか見られる。

 身廊は交差リブ穹窿で構成されたゴシック建
築で、余りにも壮麗であることに違和感を覚え
てしまった。
 身廊に立ったまま振り返ると、西の構え部分
との境界の壁が見える。二層になった上部はト
リビューンとなっていて、そこには現在パイプ
オルガンが設置されている。二本の円柱で仕切
られた三連アーケードが、古い形式を示してい
る。
 11世紀のキリスト磔刑像やペテロの聖遺物
箱が納められた宝物館は閉館中で、残念ながら
見ることが出来なかった。
 
 
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 パーダボルン大聖堂
   Paderborn /Dom 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 かつてのハンザ同盟の町で、カール大帝が教
皇レオン三世と会見した場所として知られ、最
も早く司教座が置かれた重要な町である。
   
 8世紀にカール大帝が建てた教会が創始とさ
れるのだが、現在の聖堂は13世紀のもので、
聖堂内部は大半がゴシック様式である。
 写真は南側の扉口前に設けられた玄関間で、
左側に見えるのが西正面の塔である。ロマネス
ク様式の窓が多数ついた背の高い塔だが、余り
優れた意匠の感じられるものではない。

 玄関間の奥の扉口は「天国の門」と呼ばれ、
タンパンの中央に聖母子像の彫られた柱が立っ
ている。タンパンには天使、両脇の列柱には聖
人像が浮彫されている。これらは13世紀半ば
の作だと言われている。

 聖堂の下は三廊式の地下祭室で、交差穹窿の
美しいロマネスク様式だった。
 また、西側に隣接する大聖堂付属の聖バルト
ロメウス礼拝堂
Bartholomäuskapelle は、
11世紀初めのビザンチン様式聖堂である。細
い列円柱の並ぶ横断アーチの古い様式で、柱頭
は美しいコリントス式の植物模様だった。
 
 
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 エルヴィッテ
     
聖ラウレンティウス教会
  Erwitte/St Laurentius Kirche 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
 
 
 パーダボルンとゾーストの中間にある町で、
地方の小都市といった規模である。
 教会の建物は町の中央広場に面して建ってお
り、瀟洒な後陣が可愛らしい小聖堂である。
 写真は南側扉口のタンパンで、龍と戦う聖ミ
カエルである。13世紀作とのことだが、タン
パンの半円スペースを巧みに利用したロマネス
クらしい意匠の図像である。
 もう一つタンパンがあるのだが、ここでは内
陣の浮彫彫刻を見なければならない。
 袖廊の交差部で、祭室との境界に造られた半
円アーチの縁の左右円柱部分に、上下に連続す
る天使の像が彫られているのである。
 装飾デザインとしても見事な彫刻で、タンパ
ンと同一作者のような気がするのだが、確証は
無い。暗くて撮影が出来ないのが難点だった。
 
 
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 ゾースト
    聖パトロクロス大聖堂

  Soest/St Patroklidom 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 ゾーストには3箇所のロマネスク教会がある
ので、ここには数日滞在し、周辺の町も含めゆ
っくりと見学することが出来た。
 入り組んだ路地や木骨組の家並からは、この
町が中世の面影を現在にまで伝えていることが
強く感じられた。

 大聖堂は町の中心に建つ市庁舎に隣接してお
り、同じ広場には、ロマネスクの玄関間の残る
聖ペテロ教会
Petrikirche もある。

 写真は西正面の眺めだ。塔の位置に西の構え
が構築されており、手前に張り出した部分はナ
ルテックスの覆いのような構造になっている。
 11世紀初頭から12世紀半ばにかけて何回
も修復された建築で、最古の部分は塔の下のナ
ルテックス部分と身廊及び袖廊である。
 ファサードのアーケード装飾が見事である。
 二重のアーケードとその下に並ぶ小さな円柱
とが、塔上部のアーケードと対比を成している
のである。
 袖廊の北扉口にタンパンがあり、四福音書家
のシンボル像に囲まれたキリストが彫られてい
る。写実的な表現へと向かいつつある、ロマネ
スク後期の彫刻だろう。
 
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 ゾーストホーネ教会
   Soest/Hohnekirche 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 市の中心から北東に500mほど歩いた閑静
な場所に、この妙な形の聖堂は建っていた。一
見すると、ビザンチン形式のような方形建築に
も見えるのだが、詳細に眺めると、西ファサー
ドも後陣も左右非対称の不規則な建築である。
 写真は北側の壁面で、建築には緑色をした石
が特徴的に使われており、タンパンのある扉口
が現在の教会入口になっている。
 タンパンには、磔刑のキリストを中心に、左
にイエス誕生の場面、右に三人の聖女のいる復
活の場面が彫られている。
   
 方形の内部は二本の束ね柱で区切られ、交差
穹窿のベイが六つ構成されている。つまり、身
廊に相当する二つの大きなベイと、側廊に当た
る部分に左右二つづつのベイがあるのだ。
 祭室は西に三つ、東に二つあるという、何と
も奇妙な様式だった。

 祭室の壁面やヴォールトは全てフレスコ画で
装飾されており、ブルーと金が鮮烈な印象を与
えている。
 13世紀に描かれたそうだ。特に16人の天
使に囲まれた玉座の聖母子像は、この教会の別
名聖マリア教会に相応しい優雅さを示した美し
い天井画だった。
 
 
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 フレッケンホルスト
    聖ボニファティウス
      参事会教会

  Freckenhorst/
   St Bonifatius Stiftskirche
 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 ドイツ・初期ロマネスク教会の中でも、特に
オットー朝建築様式の最も典型的な遺構とされ
ている。
 写真は西側正面の「西の構え」で、円形の双
塔と方形の中央塔がまるで要塞のように堂々と
建っている。
 写真には片側しか写っていないが、東側の後
陣部分には方形の双塔が聳えているという、ま
ことに壮観としか言えない程の威容である。
 西の構え部分はオットー朝時代の遺構で、聖
堂は部分的に近年の修復があるが、大半は11
世紀後半から12世紀前半の創建である。
 カロリング時代の西の構えが進展して、東西
両端にアプシス(後陣)を設けるという様式と
融合確立していくのだが、ここではそれが最も
完成された姿として見ることが出来る。
 身廊は三廊式で、南外壁を除いた翼廊や後陣
部分も含め,ここでも良くオットー朝様式を伝
えている。
 キリストの生涯の物語などが彫られた、ロマ
ネスク時代の見事な洗礼盤が側廊の片隅に置か
れているが、これは必見である。
 
 
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 エッセン大聖堂
   Essen/Münster
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 カロリング朝建築を代表するアーヘンのカー
ル大帝宮廷礼拝堂に示された、八角堂を囲む円
形聖堂形式は、実は余り多くの発展を見せなか
った。多くの人の集う祈りの場としては、奥
行のあるバシリカ聖堂の方が最適だったからで
あろう。

 アルザスのオットーマルスハイムと並んで、
そのアーヘンの珍しい多角形二層形式を部分的
に再現したのが、このエッセン大聖堂の西の内
陣である。
 ここでは八角形の三辺だけが、身廊と西内陣
との境に組まれ、写真のような二層のアーケー
ドが美しく構成されている。確かにイメージは
後述のアーヘン礼拝堂にかなり近い。
 部分的とはいえ、アーヘンの様式を巧みに取
り入れた貴重な事例といえるだろう。
 西正面部分にはアーケードやアトリウムのよ
うな内庭が付けられているので見難いのだが、
様式は西の構えであり、階下はナルテックス、
階上は西の祭室となっているのである。

 礼拝堂に黄金の聖母像が飾ってある。10世
紀末の至宝で、西欧最古の聖母子像だと言われ
ている。幼子イエスが真横を向いているのが珍
しい。
 
 
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 ボン聖マルティン大聖堂
  Bonn/Münster St Martin
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 楽聖ベートーベンのブロンズ像の建つミュン
スター広場からは、この壮大な大聖堂の南側面
を眺めることが出来る。
 東西両端に双塔が建ち、中央の翼廊交差部に
八角形の大塔がそびえているという気宇壮大な
聖堂である。
 おまけに、翼廊の突出部は半円形であり、様
々な様式が複合した13世紀の建築ならではの
複雑さである。
 創建は11世紀の三廊式バシリカだが、火災
後に再建されたものらしい。
 写真は西側後陣で、ライン地方の質実なロマ
ネスク様式を見事に伝えているように見えた。
 身廊の尖頭アーチ列柱や、高い天井のリブ構
造などが、直ぐ来るであろうゴシック様式への
転換点を示している。

 身廊の柱や壁は全て真白に塗り替えられてお
り、その真新しさに少しがっかりした。
 しかし、聖堂内部では折から厳粛なミサが行
われていて大勢の信者が祈っており、現役の教
会として機能している以上これは致し方がな
いのだろうと諦めた。
 それよりも、こうした宗教活動に無縁な私達
の方こそが、むしろ不自然に思えたのだった。
 
 
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 シュヴァルツ・ラインドルフ
      聖クレメンス教会

  Schwarz-Rheindorf/
      St Klemens Kirche
 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
 
 
 ライン川を挟んだボンの町の対岸に位置する
閑静な住宅地で、行政的にはボン市に属してい
るようだ。
 この教会の建物を前にした人は、ここがロマ
ネスクの礼拝堂であることが信じられないだろ
う。真っ白の壁面と、朱色に塗られた柱とアー
チの輪郭線とが、どう見ても場違いに感じられ
る。しかし、よく見ると、半円アーチの連続す
るアーケードや後陣の形、翼廊交差部の鐘塔な
ど、建築プランや様式は間違いなくロマネスク
様式だ。

 内陣に入って驚愕したのは、写真のように壁
から天井までの全てのスペースが、鮮やかなフ
レスコ画で埋め尽くされていたのである。
 教会の説明によると、描かれているのは旧約
聖書の「エゼキエル書」の場面らしいのだが、
具体的には余り良く判らなかった。エルサレム
の町の姿や、多くの人物像が比較的リアルなデ
ッサンで表現されている。
 最も美しかったのは写真の十字交差部で、ド
ームの上部が二層になっており、天井には八角
の吹き抜け窓が開いている。上部は大司教とそ
の親族のために造られたとのことで、階上へは
上ることが出来なかった。
 窓の奥階上のドーム部分には、神の象徴とし
ての羊や多くの天使や聖人像が描かれているの
が見える。
 
 
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 ケルン聖アポステル教会
   Köln/St Aposteln Kirche 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
 
   
 
 ロマネスク時代のケルンの町は、宗教的に最
も充実した時期であった。旧市街には現在でも
その当時に創建された教会が、12個所も残さ
れているのである。
 私たちはケルンに数日滞在し、歩いてそれら
の教会を探訪したのだが、一つの町にこれ程多
くのロマネスク教会が存在するのはケルンしか
ないだろう。

 旧市街の西、トラムの通るノイマルクト広場
に面して、この壮麗な聖堂が建っている。写真
は、広場から後陣を眺めたところである。
 身廊は三廊式で、交差部に八角塔が建ってい
る。最大の特徴は、翼廊の突出部が半円形の祭
室となっており、東の後陣と併せて三つの半円
形が連なる形となっている。
 これは後述するカピトールの聖母マリア教会
と共通するもので、三つの半円形後陣のあるこ
とから「三つ葉型後陣
Dreikonchenchor」と
呼ばれるケルンならではの構造である。

 身廊の天井は交差リブでゴシックの様相を呈
しているのだが、側廊の天井は半円横断アーチ
に交差穹窿というプリミティヴなものだった。
 身廊も後陣もトリビューンのある二層構造に
見えるが、上部は採光用の窓であり、小さなア
ーケードは装飾建築である。それでも、13世
紀に再建されたとされる後陣部分は、繁華街の
中に在ってもなお、八角形の細い双塔を含め堂
々たる佇まいとなっている。
 
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 ケルン聖マルティン大教会
  Köln/Abteikirche Groß
        St Martin
 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
  
   
 
 ラインに架かるドイツ橋 Deutzer Brücke
から眺める町の景観は雄大で、壮麗な姿のゴシ
ック大聖堂に負けないほどの存在感をこの聖堂
は示している。
 目立つ割には行きにくい場所に在り、旧市庁
舎広場の方から迷路の様な細い路地を抜けて、
ようやくたどり着くことが出来た。

 司教座の置かれた参事会教会に起源を持つ由
緒正しいこの教会は、ラインの船着場からは見
上げるような高台に建っている。
 身廊は三廊式バシリカで、太い角柱が左右各
三本並んで側廊を区分している。大きなベイが
四つしかない割に壮大な大きさを感じるのは、
アーチの弧がとても大きいからなのだろう。
 翼廊の両端が半円形祭室になっており、中央
の祭室と併せ、ここにも三つ葉型祭室を見るこ
とが出来る。
 交差部の中央に立って見ると、三つの祭室が
並ぶ様は壮観としか言いようが無い。下層の盲
アーケードの列、上層の半円形の窓と盲アーチ
が交互に配列された意匠など、建築的なハーモ
ニーの旋律が聞こえてくる様な気がしていた。

 写真は北側から、翼廊交差部に建つ鐘塔を眺
めたものである。翼廊北側の半円形後陣と、八
角形の隅櫓を四本持った塔が特異な景観となっ
ている。
 
 
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 ケルン聖パンタレオン教会
   Köln/St Pantaleon Kirche 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
  
   
 
 旧市街の南に位置する古い教会で、緑濃い公
園のような静かな環境の中に建っていた。
 写真は西正面の写真だが、見ての通りオット
ー朝様式の見事な西の構えである。
 10世紀末の創建とされるが、東側には翼廊
と後陣が設けられており、西の構えと一体化し
たオットー朝様式の先駆的な存在である。

 三廊式身廊で、側廊とは角柱のアーケードで
仕切られている。これは質実剛健そのもので、
余り優れた意匠とは感じられなかった。上部に
は採光のための窓が並ぶのみで、トリビューン
などは設けられていない。
 カロリング朝様式を継承したオットー朝様式
が、次第に形を変えていったことを示す素晴ら
しいテキストだろう。
 東側内陣と身廊とは、ゴシック様式の精密な
仕切り壁で分けられている。

 特に素晴らしいのは西の構えの交差部で、こ
こはナルテックス(玄関間)にもなっており、
二階部分(トリビューン)がコの字型に設けら
れているのである。
 柱やアーチ部分が赤と白の縞模様に塗られて
いるので印象が強いのだが、何よりも二層に組
まれた三連半円アーチの古式な美しさが際立っ
ていた。

 地下聖堂にはオットー大帝の弟、ブルーノ大
司教の墓が収められていた。
 
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 ケルンカピトール丘の
     聖母マリア教会

   Köln/Kirche St Maria
      in Kapitol
 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
  
 
 
 旧市街の中心からトラム軌道を隔てた小高い
所に、この魅力的な名前の教会が建っている。
周辺は全くの住宅地で、ちょっと離れると塔の
先端が少し見えるだけの密集地の中である。
 11世紀オットー朝後期の建築で、西の構え
の双塔や二層の玄関間(ナルテックス)が残さ
れている。身廊から眺める二段重ねのこの時代
の三連アーケードはやはり美しい。
 さて、ここでの最大の見所は、写真の三つの
外陣のある三つ葉型内陣だろう。十字交差部の
両翼と、正面に半円形の内陣が連なる様は荘厳
である。
 いずれも半円の外側に周歩廊のような通路が
設けられており、祭壇とを連続する半円アーケ
ードが仕切っている。
 三つ葉型内陣としてはケルン最古のものとさ
れる。
 内陣の地下には、クリプタの素晴らしい空間
が広がっている。シュパイアーのものに匹敵す
る、簡素だが荘厳な地下聖堂である。
 
 
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 ケルン聖ゲーレオン教会
   Köln/St Gereon Kirche 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
  
  
    
 
 旧市街の西北部に位置しており、写真の通り
に面した東側後陣と双塔の美しい佇まいに先ず
感動してしまった。

 創建は4世紀とされ、ケルンの守護聖人ゲー
レオンがローマ墓地に建てた教会が起源だそう
だ。
 双塔や後陣は11世紀のもので、いかにもド
イツのロマネスクらしい潔癖さが感じられるの
だが、その奥の単身廊部分と十角の聖堂は13
世紀のものである。
 交差リブが用いられており、ゴシックの片鱗
を見ることが出来るが、十角聖堂の四層に連な
るアーケードやアーチ窓は、豪華過ぎて目が回
りそうだった。

 地下の聖堂へ下りて行くと、交差穹窿の天井
と素朴な柱頭が目に入った。壁面から天井にか
けて、フレスコ画が描かれている。聖ゲーレオ
ンや多くの聖人達の殉教場面を中心とした、1
3世紀の作品らしい。
 床にモザイク画が残されているが、ローマと
は無関係で11世紀のものだという。サムソン
とライオンの戦う場面が、特に印象的だった。
 
 
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 アーヘン大聖堂
      (宮廷礼拝堂)

  Aachen/Cathedral
      (Pfalzkapelle)
 
     
      6 Nordrhein-Westfalen
                
  
   
 
 カロリング朝建築の大半が破壊されたり改造
されてしまい、残念なことに今日その実物を見
ることが出来ない。しかし、このカール大帝に
よって800ADに完成されたこの宮廷礼拝堂
が、唯一その価値ある建築を今日まで伝えた
ことは大いなる幸運であった。
   
 塔のある西側の入口を入ると、すぐ円形聖堂
の外側回廊である。回廊部分は二層構造で、階
上へ上ることも出来る。
 内陣は正八角形で、天井ドームまでの吹き抜
けになっている。写真は二層になった回廊部分
の壮麗な構造であり、階上にはカール大帝の玉
座が設けれている。
 集中式八角聖堂という意匠は、ラヴェンナの
聖ヴィターレに見られるビザンチンの影響であ
ろう。聖ヴィターレでは聖堂の外周も八角形で
あるのに対し、アーヘンでは十六角形になって
いるのが面白い。
 八角堂の西外側、階上のトリビューン部分に
玉座が置かれ、その背後に層塔が建てられてい
る。これは以後のオットー朝様式にも通じる、
西の構えの先駆けのようにも見えるし、塔を重
視するようになっていく中世建築を予見してい
るようにも見える。
 聖堂の東側には、ゴシック様式の内陣が付け
加えられている。パラドーロと呼ばれる創建当
初の黄金の祭壇や、カール大帝の聖遺物箱など
が見られる。
 
 

            
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