ドイツ (南部)
   のロマネスク
 
 Romanik in Deutschland
     
(Südlich) 
 
 一般的にドイツらしい建築という言い方が
あるとすれば、それはロマネスクではなく、
バイエルン地方のバロック様式の修道院など
に顕著だ、とよく言われる。
 確かに、カール大帝のフランク王国から、
ロマネスク最盛期だった神聖ローマ帝国まで
の時代は、フランスやイタリアをも包括した
ドイツだけにとどまらない広大な文化圏だっ
た。
 それでもドイツのロマネスク建築には、そ
れこそがロマネスクの特徴である多様性に富
んだいかにもドイツらしい様式が残されてい
るのである。
 フランスやスペインの愛らしいロマネスク
に魅了された目には、やや異様に映る大きさ
ではあるのだが。
 
 
   

 
ドイツ(南部)の州と州都

   1 Sachsen(Dresden)
   
2 Thüringen (Erfurt)
   
3 Hessen (Wiesbaden)
   
4 Rheinland-Pfarz (Mainz)
   
5 Saarland (Saarbrücken)
   
6 Baden-Württemberg
        (Stuttgart)

   
7 Bayern (München)
 
 
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 エアフルト大聖堂
  Erfurt/Dom 
      
       2 Thüringen
          
 
 
 この町はナポレオンとゲーテの逸話で知ら
れ、現在はテューリンゲン州の首都である。
 大聖堂の創建は12世紀半ばのロマネスク
様式であったが、14世紀以降に今日見られ
るゴシック様式に改造されている。
 平面が三角形の二辺で接する二つの入口の
ある北側のゴシック門は、その優美な装飾で
知られている。
 写真は、ロマネスク時代の名残で、聖母子
と諸聖人の像を飾った祭壇である。カタロニ
アや南仏のものとは異質の、素朴ではあるが
いかにもドイツらしい剛毅なイメージの伴う
聖母子像だ。   
 祭壇の前に置かれた同時代の燭台と共に、
創建当初の面影を伝えている唯一の存在とな
っている。
 ステンドグラスは古びて懐かしいが、14
世紀に制作されたものだという。
 
 
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 アイゼナッハヴァルトブルク城
   Eisenach/Die Wartburg 
      
       2 Thüringen
          
  
 
 ルードヴィッヒ一世によって12世紀末に
構築された城郭で、ここは長い間ドイツ文化
の中心的存在であった。
 ワグナーの「タンホイザー」に取り上げら
れた歌合戦でも知られ、楽聖バッハや宗教改
革のルターを輩出した町として著名である。

 城郭の大半は15世紀以降の建造だが、本
丸に当たるロマネスク様式の城館は12世紀
には完成していたらしい。
 写真は“騎士の間”と呼ばれる部屋で、中
央の円柱と柱頭彫刻が際立って目を引く。
 近年に修復されたそうだが、天井の交差穹
窿やリブ・ボールトの連続する空間は、世俗
建築とは思えぬ格調を示している。
 柱頭には鳩の様な鳥をモチーフとした彫刻
が彫られており、羽根等の繊細な表現は見事
だ。

 隣の部屋には11世紀に造られたという柱
頭が在ったのだが、見物客が余りにも多く写
真を撮ることが出来ず残念な思いをした。
 鳥と植物模様を彫った、厚みのある古式の
柱頭彫刻だった。
 
 
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    .
 バート・ヘルスフェルド
       
修道院廃墟
   Bad Hersfeld/Stiftsruine 
      
       3 Hessen
          
 
 
 美しい旧市街から少し離れた森の中にある
遺蹟で、11世紀から12世紀に建造された
修道院の廃墟である。写真は、その修道院付
属教会の後陣の眺めだ。
 聖堂の東西両端に内陣が設けられた、三廊
式バシリカ形式である。カロリング朝から、
オットー朝へと移行する時代の様式を見るこ
とが出来る。写真の西側後陣に見られるよう
に、南北に延びる広大な袖廊と、手前に大き
く突き出した半円形内陣とが特徴である。
 聖堂内部の身廊では、演奏会の準備が行わ
れていたが、格別に見学を許可して貰えた。
 東西100mにも及ぶ身廊は、かつてはど
れ程の壮麗な聖堂であったかを髣髴させるに
十分な雰囲気を鮮烈に保っている。
 
 
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 フルダミヒャエル教会
  Fulda/Michaelskirche 
      
       3 Hessen
          
 
 
 カロリング朝時代の二重内陣様式がプラン
にだけ残るバロックの大聖堂を観てから、高
台に建つこの教会を訪ねた。
 9世紀初めに建てられたロトンド様式(丸
屋根のある円形建築)の聖堂を中心にして、
方形の鐘塔などが建っている。
 写真はロトンドの内部で、祭壇をアーケー
ドで結ばれた八本の柱が円形に取り囲み、周
辺が周歩廊となっている。何とも優雅な佇ま
いであり、ローマ様式の洗礼堂やアーヘンの
宮廷礼拝堂を連想させる。
 地下にカロリング朝時代のクリプタがあっ
て、一本の柱が中心で天井を支えている。柱
頭にはイオニア式の渦巻装飾が成され、ロマ
ネスク好きにはたまらない素朴さだ。
 しかし、意に反して、渦巻はどうやら後世
の追補らしい。
 
 
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  リンブルク・アン・デア・ラーン
        大聖堂

   Limburg an der Lahn/Dom
      
       3 Hessen
          
   
 
 写真はラーン川の支流が作った谷の対岸か
ら眺めた大聖堂の全容だが、派手な色使いの
印象から、どう見てもロマネスク時代の建築
とは見えない。
 しかし良くみると、半円アーチの窓、連続
するアーケード、半円形の後陣、双塔の並ぶ
西正面ファサードなどは、純然たるロマネス
ク建築である。
 見方を変えれば、こんなに美しい景観の聖
堂というのも珍しい、とも言えるだろう。
 この場所は8世紀に建造された城郭跡で、
9世紀に聖ゲオルグを祀った城内の教会が起
源である。

 現在のこの聖堂は、13世紀初頭に建てら
れたもので、後期ロマネスクから初期ゴシッ
クに至る過渡期の建築である。
 三廊式の身廊は、尖頭アーチのアーケード
で仕切られ、階上のトリビューンと更に上の
盲アーケードとが天井の高い壮麗な空間を構
成している。イメージは完全にゴシックだ。
 祭壇のある後陣部分が最もロマネスク的な
雰囲気に満ちており、ライン川地方に共通し
たボンなどの様式に似た意匠が見られた。

 丘の上の大聖堂へ至る道は、旧市街の木組
みの家並みが続く石畳の坂道だ。観光地とし
ても素直に楽しめる、美しい町だった。
 
 
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 エーベルバッハ
    
旧エーベルバッハ修道院
  Eberbach/Stiftung Kloster
       Eberbach
 
      
       3 Hessen
          
   
 
 ライン川流域のラインガウ丘陵は、川に向
かって広大な南斜面を形成しており、そこは
絶好の葡萄畑となっている。
 葡萄畑の奥にひっそりと建っているこの修
道院はかつてはシトー会に所属する壮大な祈
りの場であったが、19世紀にワイン醸造所
に改造され、現在は国立ワイン貯蔵所となっ
ている。
   
 残存する修道院建築群の中心に位置する回
廊は後世の再建で、写真の修道院付属教会が
12世紀に建造された三廊式バシリカ聖堂で
ある。
 部分的にはゴシックやバロックの様式によ
る改造が見られるが、交差穹窿や翼廊のスタ
イルには、創建当初の建築意匠を見る事が出
来る。
 無駄をそぎ落としたかの様な簡素な建築は
シトー会修道院の特徴であり、一切の彫刻や
絵画などといった装飾を排除した姿はここに
も在ったようだ。
 12世紀後半の建築である修道士の食堂は
かなり修復されており、当初の遺構はロマネ
スク様式の扉口だけとなってしまっている。

 シトー派とワイン栽培はブルゴーニュでも
密接な関係にあったのだが、現在の旧修道院
ではワインの販売までやっていた。
 
ErbachMarcobrunn などの一流品ま
であり、ここで購入したワインは最高の土産
となった。
 
 
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 コブレンツ聖カストール
     司教座教会

   Koblenz/Stiftskirche
       St Kastor
 
      
       4 Rheinland-Pfarz
          
   
 
 モーゼル川がライン川に合流する地点に突
き出した三角州のような一画には、皇帝ヴィ
ルヘルム一世の銅像が建っていて、ドイツの
Deutsches Eck と呼ばれる名所だ。この
教会はその“ドイツの角”に隣接して建って
いる。

 フランク王国の分割協議がここで行われた
と言われる程で、教会の存在はカロリング朝
の9世紀まで遡るのだが、現在の西側正面は
写真に見るように、後年の二塔式西正面構成
となっている。   
 創建当初にはおそらく、コルヴァイなどの
ように三塔を擁していたものと思われる。

 身廊は三廊式で翼廊のある十字形だが、東
側の半円形後陣両脇にも塔が建っている。こ
れは明らかにオットー朝様式のヒルデスハイ
ム・聖ミハエル修道院教会などを意識して、
ロマネスク時代に建てられたものだろう。本
家と比べると圧倒的に貧弱だが、平面図にそ
の名残が見られる。

 内部はかなりゴシックに改造されてしまっ
ているのだが、ラインとモーゼルのほとり、
緑に囲まれた美しい環境の中に在る好ましい
聖堂だった。
 
 
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 マリア・ラーハ
     
マリア・ラーハ修道院
   Maria Laach/Kloster
      Maria Laach
 
      
       4 Rheinland-Pfarz
          
    
 
 ドイツの修道院を代表する程著名なこの建
物は、コブレンツの西方に広がるアイフェル
山地最大の火口湖の湖畔に、周辺の深い森や
林に囲まれて建っている。

 聖堂はドイツを代表する典型的なロマネス
ク建築で三廊式バジリカ様式。東西両端に内
陣を構え、両翼廊交差部の塔のほかに左右の
双塔を備えているので、六本の塔が聳える壮
大な聖堂である。
 創建は11世紀で、建築の完成は13世紀
にまで及んだという。身廊の天井は半円筒ヴ
ォールトに交差穹窿構造で、この辺は12世
紀のものである。

 西正面にはアトリウムと呼ばれる前庭玄関
ホールが付設されており、その美しさが絶賛
されている。
 華奢な柱のアーケードやスペイン趣味的パ
ティオ風中庭などは、とてもドイツらしから
ぬ堕趣味だと小生は主張するのだが、どの解
説書でも絶賛されるばかりで、これはどうや
ら少数意見らしい。

 写真は、通常余り紹介されていない東側の
外陣で、塔は西側より古いとされている。中
央半円後陣地下がクリプタで、素朴だが力強
い創建当初の剛健な建築が残されている。
 クリプタのイメージはシュパイアーのそれ
にとてもよく似ており、何らかの影響があっ
たものと思う。
 
 
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 トリアー大聖堂
   Trier/Dom 
      
       4 Rheinland-Pfarz
          
    
 
 4世紀ローマ帝国のコンスタンティヌス大
帝による創建時の聖堂建築は、右側に隣接す
る聖母教会も含め遥か手前まで延びていたと
いう。
 写真の西側正面ファサードは、ロマネスク
様式の塔や後陣も含め11世紀に修復完成さ
れたものである。

 平面プランの基礎は、東西両側に祭室を設
けた三廊式バジリカ形式なのだが、度重なる
修復によってゴシックやバロックの意匠が複
合的に絡み合っているような印象を受ける。
 残念ながら、ロマネスク教会としての味わ
いに欠ける点は否めない。

 南側に隣接する聖母マリア教会へ通じる南
壁の扉口に、半円形のタンパンが残されてい
る。キリストを中心に、左に聖母マリア、右
に聖ペテロの像が彫られている。様々な様式
が混在する中で、これは間違いなくロマネス
ク時代の作品である。
   
 もう一つ見逃せないのが、三箇所に残るク
リプタ地下聖堂である。東側祭室の地下には
11世紀の中央地下聖堂と12世紀の東側地
下聖堂があり、西側の祭壇下には11世紀の
西側地下聖堂がある。
 ここもかなり修復はされているものの、教
会の原点を見るような雰囲気に満ちている。
 
 
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 マインツ大聖堂
   Mainz/Dom 
      
       4 Rheinland-Pfarz
          
    
 
 余りにも圧倒的なその巨大さに、これが本
当にロマネスク教会なのか、と疑ってしまい
たくなる程の驚きを隠せない。
 例の通り聖堂の東西両端に内陣を設け、そ
れらを三廊式バジリカ形式の身廊が結んでい
る。
 西側の袖廊は特に壮大だが、交差部に聳え
るクーポラは異様だった。解説書では、ライ
ンラント様式を代表する美しさと表されてい
るが、上部のバロック的装飾過多の意匠には
馴染めなかった。

 聖堂へは、マルクト広場に面した北側の扉
口から入る。隣接するロマネスク様式の聖ゴ
ットハルト礼拝堂は、残念ながら閉鎖されて
いた。
 身廊の天井はリブのあるオジーブでゴシッ
ク様式を示しているが、側廊にはロマネスク
的な交差穹窿が用いられていた。
 東側の内陣は西側に比べると簡素な建築で
あり、最もロマネスク的な雰囲気の感じられ
る場所だった。祭壇の地下に、プリミティヴ
なクリプタもあった。

 写真は、その東側の外陣を聖母広場から眺
めたものである。西に比べ落ち着いていると
は申せ、この規模である。ドイツ・ロマネス
クの好き嫌いが分かれるところだが、旅を通
じて小生はこの様式美が決して嫌いではなく
なってきている。
 
 
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 ヴォルムス聖ペテロ大聖堂
   Worms/Dom St Peter 
      
       4 Rheinland-Pfarz
          
    
 
 前述のマインツや、後述のシュパイアーと
共に、ラインラントを代表するロマネスク聖
堂として知られる。
 写真は西側の後陣を眺めたものだが、張り
出した内陣、両脇の円塔、交差部の採光塔、
壁面の連続アーチ装飾、上部のアーケードの
ある小回廊など、非常に似通った意匠となっ
ている。
 建築年代は11世紀のものとされる、この
西側両端の円塔が最も古いとされている。

 平面プランはマインツにとても良く似てい
るが、東側内陣は今回訪ねた時には工事中だ
ったので、すっぽりと覆いが被されていて外
観は全く見えなかった。
 バロック風の主祭壇は東側内陣で、ちょう
どミサが行われていた。この東側の袖廊との
交差部ドームの下に、有名な聖歌隊席が設け
られているのである。

 写真の西側の内陣は質素で、半円ではなく
五角形で構成されている。内側壁下部は五つ
の面それぞれに、四重のヴシュールを持った
半円アーチ装飾が彫られ、ロマネスクの壁面
を背景とした美しい祭室となっている。
  
 側廊に一枚のタンパンが置かれてあるが、
創建時の聖堂入口を飾ったもののようだ。玉
座のキリストを中心にして五人の聖人が彫ら
れているのだが、暗くて詳細は判然としなか
った。

 ヴォルムス郊外のオーベルジュに数日泊ま
って、地の赤ワインを楽しむことが出来た。
 
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 シュパイアー大聖堂
  Speyer/Dom 
      
       4 Rheinland-Pfarz
          
    
 
 聖堂の外観を眺めると、他のドイツ・ロマ
ネスク聖堂のように、東西に各二本づつの四
本の塔と交差部の採光塔が見えるのだが、こ
このプランには西側の内陣は無かった。
 西側は玄関間の様になっており、東西両ア
プシス形式の誕生する前のスタイルである。

 三廊式十字形の典型的なロマネスク聖堂で
あり、半円筒ヴォールトの天井は各区画が交
差穹窿で構成されている。ドイツにおける石
造の天井は、ここシュパイアーが最初である
らしい。
 身廊の上部の採光窓と、側廊とを仕切るア
ーケードとの二層になった開口部それぞれを
区切る壁に、天井から床まで繋がる円柱が付
けられている。他には無い優美なデザインで
ある。

 ここへ来て決して見逃してならないのが、
写真の地下聖堂クリプタであろう。
 ドイツ最高傑作と言われるだけのことはあ
って、写真でも判るように、とても質素であ
るのに、優雅な品格すら感じる事が出来た。
 迫り石部分に白とピンクの砂岩を交互に配
した意匠は、コルドバなどのイスラムのイメ
ージにも通じている。
 交差部の地下が四つの部分に仕切られ、林
立する柱の列が静寂な空間を創出している。
 
 
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 リンブルク・エン・ハールト
        修道院廃墟

  Limburg en Haardt/
       Kloster Ruines
 
      
       4 Rheinland-Pfarz
          
  
 
 マンハイムの西に広がるプファルツの森の
中に、バート・ドュルクハイムの町がある。
 かつてはベネディクト派の修道院だった廃
墟が、町外れの山の上に残っている。聖堂の
輪郭とも言える壁と柱の一部、崩れた塔や、
写真の後陣部分が残るのみである。建築の全
てが、煉瓦を積んだものであったようだ。
 写真は東側後陣で、手前に突出した祭室は
ほぼ正方形に近い。
 左右に延びた袖廊の大きさは、ヘルスフェ
ルドの廃墟のそれに似ている。
 いずれも11世紀、オットー朝時代の建築
である。
 復元された平面図によれば三廊式バジリカ
形式で、身廊と側廊の間は10本の柱で仕切
られていたらしいが、その高さを想像すると
かなりの規模の聖堂であった事が分かる。
 
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 ローシュ旧修道院入口門廊
  Lorsch/Torhalle 
      
       6 Baden-Württemberg
          
 
 
 西暦774年に建造された、カロリング朝
時代の修道院跡地である。
 写真は修道院入口に建つ門廊で、創建当初
の姿をとどめている。奥に見えるのは、後世
に建てられた教会である。
 ローマの凱旋門に似た門と言われ、柱頭の
無い古式のアーチが美しい。
 壁面は紅白の陶器象嵌による装飾で、とて
も現代にも通用しそうなモダンな意匠に見え
る。
 二層目を支える様な形をした柱頭は装飾な
のだが、イオニア式とコリント式が混ざった
ようなデザインが面白い。
 ギザギザ模様の尖塔形をモチーフとした意
匠の盲アーケードは斬新で、他に余り例の無
い装飾である。
 王のホールだったという説もあるが、いず
れにせよ、こんな素晴らしい門のあった修道
院とは一体どのような建築だったのだろう。
 
 
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 マウルブロン
    旧シトー派修道院

  Maulbronn/Ehemaliges
      Zisterzienser Kloster
 
      
       6 Baden-Württemberg
          
 
 初めてのドイツ旅行の際に、ヘッセに憧れ
てこの修道院を訪ねたことがあった。若き日
のヘッセが学んだ場所だったからである。
 12世紀半ばに創建されたシトー派の修道
院で、同世紀後半に献堂された付属教会や回
廊などの他に、食堂や調理場などといった、
修道士の生活空間も残されている。
 建築の大半が、ロマネスクからゴシックへ
と改造されており、純粋にロマネスクのまま
残された部分はほとんど見当たらない。しか
し、修道院全体がシトー派らしく、簡素な清
潔感に満ち溢れているので、それほどの違和
感が感じられないのである。
 写真は回廊の西側に接した食堂の外壁で、
ロマネスク様式の窓が気に入ったのだが、後
年の補修が入っているかもしれない。
 右奥の尖塔のある建物が、修道院付属教会
である。
 
 
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 バンベルク大聖堂
  Bamberg/Dom 
      
       7 Bayern
          
    
 
 川の上に建てられた旧市庁舎の映像で観光
的にも著名なこの町は、11世紀初頭にハイ
ンリッヒ二世の力によって繁栄した美しい町
だ。

 この大聖堂は、旧市街西の小高い丘の上に
建っており、テラスからは赤い瓦屋根の連な
る古い家並全体を眺望することが出来る。

 聖堂はオットー朝以来のドイツ・ロマネス
クの特徴である、東西両端に内陣を構えた構
造になっている。
 両方の内陣を結ぶ身廊は三廊式で、尖塔ア
ーチのアーケードや天井の交叉リブ・ヴォー
ルトというゴシック様式に改造されている。
 身廊の柱の傍に置かれた有名な彫像“バン
ベルクの騎士像”は、13世紀の素晴らしい
彫刻である。

 西側の祭室は完全にゴシックだが、東側の
祭室部分は階下にクリプタを設けたロマネス
ク時代の姿を留めている。
 写真はその東側正面の後陣で、五角形に飛
び出た祭室と双塔には、ロマネスクの示す均
整のとれた美意識が感じられる。
 この聖堂はロマネスク様式のプランを基礎
として、時代とともに少しづつゴシック化し
ていったプロセスを示すための、恰好のテキ
ストとなっている。
 
 
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 レーゲンスブルク
     
聖ヤーコプ教会
  Regensburg/St Jakobskirche
      
       7 Bayern
          
   
 
 12世紀初頭に、アイルランドの修道士達
を迎え入れるために創建されたのだという。

 聖堂は三廊式バジリカ形式で、翼廊が無い
ので十字形ではなく、半円形に飛び出した三
つの祭室が設けられている。
 西正面は壁で閉ざされており、扉口は北側
面に開けられている。写真はその北扉口と、
その装飾壁面である。ドイツでは珍しい貴重
な門なので、門全体が大きくガラス・ケース
で覆われている。

 半円形タンパンには、キリストを中心にし
て聖ヤコブと聖ヨハネが彫られている。
 門の周囲は、十重のヴシュール、植物模様
の彫り込まれた円柱、獅子や猫の様な動物、
人物の坐像やアカンサスの葉の柱頭などで飾
られている。
 扉口の左右の壁面にも、寓意的で意味不明
な図像や聖人像が彫られており、久しぶりに
謎めいたいかにもロマネスクらしい彫像に会
えた、という気がしたのだった。

 レーゲンスブルクには、聖エメラム教会や
ニーダーミュンスターなど数箇所に、部分的
だがロマネスクの遺構が残っていた。
 旧市街の狭い範囲なので、町歩きの楽しさ
も味わえる。ドナウ川に架かる石橋のたもと
にある店で食べた焼ソーセージの味は、聖ヤ
ーコブの門の彫刻とセットで忘れ難いものと
なった。
 
 
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 シュトラウビンク
     聖ペテロ教会

  Straubing/Pfarrkirche
        St Peter
 
      
       7 Bayern
          
 
 レーゲンスブルクからドナウ川に沿って約
40キロ下って行くと、周囲は一面すっかり
牧歌的な田園風景となる。バイエルン屈指の
穀倉地帯で、この町はその中心に位置してい
る。
 ドナウ川沿いの町外れに、苔むした墓地に
囲まれてこの教会が建っていた。
 双塔を配した西の構えが印象的だが、身廊
は三廊式翼廊の無い質素な聖堂である。内陣
は三つの半円形祭室から成り、後陣背後から
の眺めは素晴らしかった。
 タンパンのある扉口が、西正面と南側にあ
る。写真は西のタンパンだが、龍と戦う騎士
がテーマで、龍の口の中に人の頭が見える。
 南門のタンパンには、龍と獅子が彫られて
いた。
 
 
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 バート・ゲギング
     聖アンドレア教会

   Bad Gögging/
     St Andrea Kirche
 
      
       7 Bayern
          
    
 
 レーゲンスブルクからドナウ川に沿って、
今度は上流へと向かって約40キロ車を走ら
せると、アーベンスベルク
Abensberg とい
う小さな町に着く。
 ここからドナウの流れの方向へ少し入った
所に、療養所などもある温泉地であるこの町
があった。
  
 教会は町の中心に建っており、鐘塔と小さ
な礼拝堂が繋がっただけという質素な教会だ
った。だが、隣接してモダンな聖堂が建って
いるので、ここは現在は博物館の様な存在で
あるらしい。

 写真の扉口は礼拝堂の北側に設けられたも
ので、小さなタンパンと周囲の壁に嵌め込ま
れたレリーフ彫刻が興味深かった。
 タンパンには、左右に二天使を配したキリ
スト像が彫られている。狭いスペースに彫ら
れたために、両脇の天使は無理矢理腰を曲げ
たスタイルになっている。
 しかし、かえってそれが面白い図像を生ん
でおり、その点はいかにもロマネスク的だ。
 
 周囲のレリーフには、キリスト磔刑や受胎
告知などの聖書物語が彫られており、稚拙な
がらほのぼのとした味わいが感じられた。
 上部の左右に、十字を持ち復活するキリス
ト像と、香油瓶を持ったマグダラのマリア像
が彫られていた。
 
 
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 アイナウ聖ウルリッヒ教会
  Ainau/St Ulrich Kirche 
      
       7 Bayern
          
    
 
 前述のバート・ゲギングから、更に25キ
ロ西南へと向かう。
Geisenfeld ガイセンフ
ェルドという小さな町の郊外に小麦畑に囲ま
れたこの村がある。

 教会は緑濃い林の中に木立に囲まれて建っ
ていた。林の入口近くに清冽な泉が湧く等、
墓所や聖堂の場所として相応しい神聖な場所
であるようだ。

 聖堂は単身廊バジリカで、東側に鐘塔が建
ち半円形の後陣が設けられている。全体にこ
じんまりとした村の礼拝堂のようであり、赤
い瓦屋根と白い石壁との対比がチャーミング
だった。

 写真の門は南側に開かれており、タンパン
には小振りながら優れた意匠の彫刻が彫られ
ていた。
 中心人物はアブラハムで、布のようなもの
で四人の人達を胸に抱えている様に見える。
 周囲にも聖人像が配されており、着色の痕
跡が見えるが当初のものとは思えない。外側
の四角い輪郭はおそらく後世の追補だろう。

 写真には無いが、門の右側壁面にレリーフ
が飾られている。よく見ると、小枝を持つ人
達やロバに乗った人物がいるので、キリスト
のエルサレム入城が表現されたものと思う。

 ドイツには珍しい小教会が多い地域で、大
聖堂に疲れ果てていた目が少し癒された気分
だった。   
 
 
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