ドイツ (南部) のロマネスク |
Romanik in Deutschland (Südlich) |
一般的にドイツらしい建築という言い方が あるとすれば、それはロマネスクではなく、 バイエルン地方のバロック様式の修道院など に顕著だ、とよく言われる。 確かに、カール大帝のフランク王国から、 ロマネスク最盛期だった神聖ローマ帝国まで の時代は、フランスやイタリアをも包括した ドイツだけにとどまらない広大な文化圏だっ た。 それでもドイツのロマネスク建築には、そ れこそがロマネスクの特徴である多様性に富 んだいかにもドイツらしい様式が残されてい るのである。 フランスやスペインの愛らしいロマネスク に魅了された目には、やや異様に映る大きさ ではあるのだが。 |
ドイツ(南部)の州と州都 1 Sachsen(Dresden) 2 Thüringen (Erfurt) 3 Hessen (Wiesbaden) 4 Rheinland-Pfarz (Mainz) 5 Saarland (Saarbrücken) 6 Baden-Württemberg (Stuttgart) 7 Bayern (München) |
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エアフルト/大聖堂 Erfurt/Dom |
2 Thüringen |
この町はナポレオンとゲーテの逸話で知ら れ、現在はテューリンゲン州の首都である。 大聖堂の創建は12世紀半ばのロマネスク 様式であったが、14世紀以降に今日見られ るゴシック様式に改造されている。 平面が三角形の二辺で接する二つの入口の ある北側のゴシック門は、その優美な装飾で 知られている。 写真は、ロマネスク時代の名残で、聖母子 と諸聖人の像を飾った祭壇である。カタロニ アや南仏のものとは異質の、素朴ではあるが いかにもドイツらしい剛毅なイメージの伴う 聖母子像だ。 祭壇の前に置かれた同時代の燭台と共に、 創建当初の面影を伝えている唯一の存在とな っている。 ステンドグラスは古びて懐かしいが、14 世紀に制作されたものだという。 |
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アイゼナッハ/ヴァルトブルク城 Eisenach/Die Wartburg |
2 Thüringen |
ルードヴィッヒ一世によって12世紀末に 構築された城郭で、ここは長い間ドイツ文化 の中心的存在であった。 ワグナーの「タンホイザー」に取り上げら れた歌合戦でも知られ、楽聖バッハや宗教改 革のルターを輩出した町として著名である。 城郭の大半は15世紀以降の建造だが、本 丸に当たるロマネスク様式の城館は12世紀 には完成していたらしい。 写真は“騎士の間”と呼ばれる部屋で、中 央の円柱と柱頭彫刻が際立って目を引く。 近年に修復されたそうだが、天井の交差穹 窿やリブ・ボールトの連続する空間は、世俗 建築とは思えぬ格調を示している。 柱頭には鳩の様な鳥をモチーフとした彫刻 が彫られており、羽根等の繊細な表現は見事 だ。 隣の部屋には11世紀に造られたという柱 頭が在ったのだが、見物客が余りにも多く写 真を撮ることが出来ず残念な思いをした。 鳥と植物模様を彫った、厚みのある古式の 柱頭彫刻だった。 |
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バート・ヘルスフェルド/ 修道院廃墟 Bad Hersfeld/Stiftsruine |
3 Hessen |
美しい旧市街から少し離れた森の中にある 遺蹟で、11世紀から12世紀に建造された 修道院の廃墟である。写真は、その修道院付 属教会の後陣の眺めだ。 聖堂の東西両端に内陣が設けられた、三廊 式バシリカ形式である。カロリング朝から、 オットー朝へと移行する時代の様式を見るこ とが出来る。写真の西側後陣に見られるよう に、南北に延びる広大な袖廊と、手前に大き く突き出した半円形内陣とが特徴である。 聖堂内部の身廊では、演奏会の準備が行わ れていたが、格別に見学を許可して貰えた。 東西100mにも及ぶ身廊は、かつてはど れ程の壮麗な聖堂であったかを髣髴させるに 十分な雰囲気を鮮烈に保っている。 |
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フルダ/ミヒャエル教会 Fulda/Michaelskirche |
3 Hessen |
カロリング朝時代の二重内陣様式がプラン にだけ残るバロックの大聖堂を観てから、高 台に建つこの教会を訪ねた。 9世紀初めに建てられたロトンド様式(丸 屋根のある円形建築)の聖堂を中心にして、 方形の鐘塔などが建っている。 写真はロトンドの内部で、祭壇をアーケー ドで結ばれた八本の柱が円形に取り囲み、周 辺が周歩廊となっている。何とも優雅な佇ま いであり、ローマ様式の洗礼堂やアーヘンの 宮廷礼拝堂を連想させる。 地下にカロリング朝時代のクリプタがあっ て、一本の柱が中心で天井を支えている。柱 頭にはイオニア式の渦巻装飾が成され、ロマ ネスク好きにはたまらない素朴さだ。 しかし、意に反して、渦巻はどうやら後世 の追補らしい。 |
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リンブルク・アン・デア・ラーン/ 大聖堂 Limburg an der Lahn/Dom |
3 Hessen |
写真はラーン川の支流が作った谷の対岸か ら眺めた大聖堂の全容だが、派手な色使いの 印象から、どう見てもロマネスク時代の建築 とは見えない。 しかし良くみると、半円アーチの窓、連続 するアーケード、半円形の後陣、双塔の並ぶ 西正面ファサードなどは、純然たるロマネス ク建築である。 見方を変えれば、こんなに美しい景観の聖 堂というのも珍しい、とも言えるだろう。 この場所は8世紀に建造された城郭跡で、 9世紀に聖ゲオルグを祀った城内の教会が起 源である。 現在のこの聖堂は、13世紀初頭に建てら れたもので、後期ロマネスクから初期ゴシッ クに至る過渡期の建築である。 三廊式の身廊は、尖頭アーチのアーケード で仕切られ、階上のトリビューンと更に上の 盲アーケードとが天井の高い壮麗な空間を構 成している。イメージは完全にゴシックだ。 祭壇のある後陣部分が最もロマネスク的な 雰囲気に満ちており、ライン川地方に共通し たボンなどの様式に似た意匠が見られた。 丘の上の大聖堂へ至る道は、旧市街の木組 みの家並みが続く石畳の坂道だ。観光地とし ても素直に楽しめる、美しい町だった。 |
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エーベルバッハ/ 旧エーベルバッハ修道院 Eberbach/Stiftung Kloster Eberbach |
3 Hessen |
ライン川流域のラインガウ丘陵は、川に向 かって広大な南斜面を形成しており、そこは 絶好の葡萄畑となっている。 葡萄畑の奥にひっそりと建っているこの修 道院はかつてはシトー会に所属する壮大な祈 りの場であったが、19世紀にワイン醸造所 に改造され、現在は国立ワイン貯蔵所となっ ている。 残存する修道院建築群の中心に位置する回 廊は後世の再建で、写真の修道院付属教会が 12世紀に建造された三廊式バシリカ聖堂で ある。 部分的にはゴシックやバロックの様式によ る改造が見られるが、交差穹窿や翼廊のスタ イルには、創建当初の建築意匠を見る事が出 来る。 無駄をそぎ落としたかの様な簡素な建築は シトー会修道院の特徴であり、一切の彫刻や 絵画などといった装飾を排除した姿はここに も在ったようだ。 12世紀後半の建築である修道士の食堂は かなり修復されており、当初の遺構はロマネ スク様式の扉口だけとなってしまっている。 シトー派とワイン栽培はブルゴーニュでも 密接な関係にあったのだが、現在の旧修道院 ではワインの販売までやっていた。 Erbach の Marcobrunn などの一流品ま であり、ここで購入したワインは最高の土産 となった。 |
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コブレンツ/聖カストール 司教座教会 Koblenz/Stiftskirche St Kastor |
4 Rheinland-Pfarz |
モーゼル川がライン川に合流する地点に突 き出した三角州のような一画には、皇帝ヴィ ルヘルム一世の銅像が建っていて、ドイツの 角 Deutsches Eck と呼ばれる名所だ。この 教会はその“ドイツの角”に隣接して建って いる。 フランク王国の分割協議がここで行われた と言われる程で、教会の存在はカロリング朝 の9世紀まで遡るのだが、現在の西側正面は 写真に見るように、後年の二塔式西正面構成 となっている。 創建当初にはおそらく、コルヴァイなどの ように三塔を擁していたものと思われる。 身廊は三廊式で翼廊のある十字形だが、東 側の半円形後陣両脇にも塔が建っている。こ れは明らかにオットー朝様式のヒルデスハイ ム・聖ミハエル修道院教会などを意識して、 ロマネスク時代に建てられたものだろう。本 家と比べると圧倒的に貧弱だが、平面図にそ の名残が見られる。 内部はかなりゴシックに改造されてしまっ ているのだが、ラインとモーゼルのほとり、 緑に囲まれた美しい環境の中に在る好ましい 聖堂だった。 |
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マリア・ラーハ/ マリア・ラーハ修道院 Maria Laach/Kloster Maria Laach |
4 Rheinland-Pfarz |
ドイツの修道院を代表する程著名なこの建 物は、コブレンツの西方に広がるアイフェル 山地最大の火口湖の湖畔に、周辺の深い森や 林に囲まれて建っている。 聖堂はドイツを代表する典型的なロマネス ク建築で三廊式バジリカ様式。東西両端に内 陣を構え、両翼廊交差部の塔のほかに左右の 双塔を備えているので、六本の塔が聳える壮 大な聖堂である。 創建は11世紀で、建築の完成は13世紀 にまで及んだという。身廊の天井は半円筒ヴ ォールトに交差穹窿構造で、この辺は12世 紀のものである。 西正面にはアトリウムと呼ばれる前庭玄関 ホールが付設されており、その美しさが絶賛 されている。 華奢な柱のアーケードやスペイン趣味的パ ティオ風中庭などは、とてもドイツらしから ぬ堕趣味だと小生は主張するのだが、どの解 説書でも絶賛されるばかりで、これはどうや ら少数意見らしい。 写真は、通常余り紹介されていない東側の 外陣で、塔は西側より古いとされている。中 央半円後陣地下がクリプタで、素朴だが力強 い創建当初の剛健な建築が残されている。 クリプタのイメージはシュパイアーのそれ にとてもよく似ており、何らかの影響があっ たものと思う。 |
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トリアー/大聖堂 Trier/Dom |
4 Rheinland-Pfarz |
4世紀ローマ帝国のコンスタンティヌス大 帝による創建時の聖堂建築は、右側に隣接す る聖母教会も含め遥か手前まで延びていたと いう。 写真の西側正面ファサードは、ロマネスク 様式の塔や後陣も含め11世紀に修復完成さ れたものである。 平面プランの基礎は、東西両側に祭室を設 けた三廊式バジリカ形式なのだが、度重なる 修復によってゴシックやバロックの意匠が複 合的に絡み合っているような印象を受ける。 残念ながら、ロマネスク教会としての味わ いに欠ける点は否めない。 南側に隣接する聖母マリア教会へ通じる南 壁の扉口に、半円形のタンパンが残されてい る。キリストを中心に、左に聖母マリア、右 に聖ペテロの像が彫られている。様々な様式 が混在する中で、これは間違いなくロマネス ク時代の作品である。 もう一つ見逃せないのが、三箇所に残るク リプタ地下聖堂である。東側祭室の地下には 11世紀の中央地下聖堂と12世紀の東側地 下聖堂があり、西側の祭壇下には11世紀の 西側地下聖堂がある。 ここもかなり修復はされているものの、教 会の原点を見るような雰囲気に満ちている。 |
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マインツ/大聖堂 Mainz/Dom |
4 Rheinland-Pfarz |
余りにも圧倒的なその巨大さに、これが本 当にロマネスク教会なのか、と疑ってしまい たくなる程の驚きを隠せない。 例の通り聖堂の東西両端に内陣を設け、そ れらを三廊式バジリカ形式の身廊が結んでい る。 西側の袖廊は特に壮大だが、交差部に聳え るクーポラは異様だった。解説書では、ライ ンラント様式を代表する美しさと表されてい るが、上部のバロック的装飾過多の意匠には 馴染めなかった。 聖堂へは、マルクト広場に面した北側の扉 口から入る。隣接するロマネスク様式の聖ゴ ットハルト礼拝堂は、残念ながら閉鎖されて いた。 身廊の天井はリブのあるオジーブでゴシッ ク様式を示しているが、側廊にはロマネスク 的な交差穹窿が用いられていた。 東側の内陣は西側に比べると簡素な建築で あり、最もロマネスク的な雰囲気の感じられ る場所だった。祭壇の地下に、プリミティヴ なクリプタもあった。 写真は、その東側の外陣を聖母広場から眺 めたものである。西に比べ落ち着いていると は申せ、この規模である。ドイツ・ロマネス クの好き嫌いが分かれるところだが、旅を通 じて小生はこの様式美が決して嫌いではなく なってきている。 |
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ヴォルムス/聖ペテロ大聖堂 Worms/Dom St Peter |
4 Rheinland-Pfarz |
前述のマインツや、後述のシュパイアーと 共に、ラインラントを代表するロマネスク聖 堂として知られる。 写真は西側の後陣を眺めたものだが、張り 出した内陣、両脇の円塔、交差部の採光塔、 壁面の連続アーチ装飾、上部のアーケードの ある小回廊など、非常に似通った意匠となっ ている。 建築年代は11世紀のものとされる、この 西側両端の円塔が最も古いとされている。 平面プランはマインツにとても良く似てい るが、東側内陣は今回訪ねた時には工事中だ ったので、すっぽりと覆いが被されていて外 観は全く見えなかった。 バロック風の主祭壇は東側内陣で、ちょう どミサが行われていた。この東側の袖廊との 交差部ドームの下に、有名な聖歌隊席が設け られているのである。 写真の西側の内陣は質素で、半円ではなく 五角形で構成されている。内側壁下部は五つ の面それぞれに、四重のヴシュールを持った 半円アーチ装飾が彫られ、ロマネスクの壁面 を背景とした美しい祭室となっている。 側廊に一枚のタンパンが置かれてあるが、 創建時の聖堂入口を飾ったもののようだ。玉 座のキリストを中心にして五人の聖人が彫ら れているのだが、暗くて詳細は判然としなか った。 ヴォルムス郊外のオーベルジュに数日泊ま って、地の赤ワインを楽しむことが出来た。 |
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シュパイアー/大聖堂 Speyer/Dom |
4 Rheinland-Pfarz |
聖堂の外観を眺めると、他のドイツ・ロマ ネスク聖堂のように、東西に各二本づつの四 本の塔と交差部の採光塔が見えるのだが、こ このプランには西側の内陣は無かった。 西側は玄関間の様になっており、東西両ア プシス形式の誕生する前のスタイルである。 三廊式十字形の典型的なロマネスク聖堂で あり、半円筒ヴォールトの天井は各区画が交 差穹窿で構成されている。ドイツにおける石 造の天井は、ここシュパイアーが最初である らしい。 身廊の上部の採光窓と、側廊とを仕切るア ーケードとの二層になった開口部それぞれを 区切る壁に、天井から床まで繋がる円柱が付 けられている。他には無い優美なデザインで ある。 ここへ来て決して見逃してならないのが、 写真の地下聖堂クリプタであろう。 ドイツ最高傑作と言われるだけのことはあ って、写真でも判るように、とても質素であ るのに、優雅な品格すら感じる事が出来た。 迫り石部分に白とピンクの砂岩を交互に配 した意匠は、コルドバなどのイスラムのイメ ージにも通じている。 交差部の地下が四つの部分に仕切られ、林 立する柱の列が静寂な空間を創出している。 |
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リンブルク・エン・ハールト/ 修道院廃墟 Limburg en Haardt/ Kloster Ruines |
4 Rheinland-Pfarz |
マンハイムの西に広がるプファルツの森の 中に、バート・ドュルクハイムの町がある。 かつてはベネディクト派の修道院だった廃 墟が、町外れの山の上に残っている。聖堂の 輪郭とも言える壁と柱の一部、崩れた塔や、 写真の後陣部分が残るのみである。建築の全 てが、煉瓦を積んだものであったようだ。 写真は東側後陣で、手前に突出した祭室は ほぼ正方形に近い。 左右に延びた袖廊の大きさは、ヘルスフェ ルドの廃墟のそれに似ている。 いずれも11世紀、オットー朝時代の建築 である。 復元された平面図によれば三廊式バジリカ 形式で、身廊と側廊の間は10本の柱で仕切 られていたらしいが、その高さを想像すると かなりの規模の聖堂であった事が分かる。 |
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ローシュ/旧修道院入口門廊 Lorsch/Torhalle |
6 Baden-Württemberg |
西暦774年に建造された、カロリング朝 時代の修道院跡地である。 写真は修道院入口に建つ門廊で、創建当初 の姿をとどめている。奥に見えるのは、後世 に建てられた教会である。 ローマの凱旋門に似た門と言われ、柱頭の 無い古式のアーチが美しい。 壁面は紅白の陶器象嵌による装飾で、とて も現代にも通用しそうなモダンな意匠に見え る。 二層目を支える様な形をした柱頭は装飾な のだが、イオニア式とコリント式が混ざった ようなデザインが面白い。 ギザギザ模様の尖塔形をモチーフとした意 匠の盲アーケードは斬新で、他に余り例の無 い装飾である。 王のホールだったという説もあるが、いず れにせよ、こんな素晴らしい門のあった修道 院とは一体どのような建築だったのだろう。 |
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マウルブロン/ 旧シトー派修道院 Maulbronn/Ehemaliges Zisterzienser Kloster |
6 Baden-Württemberg |
初めてのドイツ旅行の際に、ヘッセに憧れ てこの修道院を訪ねたことがあった。若き日 のヘッセが学んだ場所だったからである。 12世紀半ばに創建されたシトー派の修道 院で、同世紀後半に献堂された付属教会や回 廊などの他に、食堂や調理場などといった、 修道士の生活空間も残されている。 建築の大半が、ロマネスクからゴシックへ と改造されており、純粋にロマネスクのまま 残された部分はほとんど見当たらない。しか し、修道院全体がシトー派らしく、簡素な清 潔感に満ち溢れているので、それほどの違和 感が感じられないのである。 写真は回廊の西側に接した食堂の外壁で、 ロマネスク様式の窓が気に入ったのだが、後 年の補修が入っているかもしれない。 右奥の尖塔のある建物が、修道院付属教会 である。 |
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バンベルク/大聖堂 Bamberg/Dom |
7 Bayern |
川の上に建てられた旧市庁舎の映像で観光 的にも著名なこの町は、11世紀初頭にハイ ンリッヒ二世の力によって繁栄した美しい町 だ。 この大聖堂は、旧市街西の小高い丘の上に 建っており、テラスからは赤い瓦屋根の連な る古い家並全体を眺望することが出来る。 聖堂はオットー朝以来のドイツ・ロマネス クの特徴である、東西両端に内陣を構えた構 造になっている。 両方の内陣を結ぶ身廊は三廊式で、尖塔ア ーチのアーケードや天井の交叉リブ・ヴォー ルトというゴシック様式に改造されている。 身廊の柱の傍に置かれた有名な彫像“バン ベルクの騎士像”は、13世紀の素晴らしい 彫刻である。 西側の祭室は完全にゴシックだが、東側の 祭室部分は階下にクリプタを設けたロマネス ク時代の姿を留めている。 写真はその東側正面の後陣で、五角形に飛 び出た祭室と双塔には、ロマネスクの示す均 整のとれた美意識が感じられる。 この聖堂はロマネスク様式のプランを基礎 として、時代とともに少しづつゴシック化し ていったプロセスを示すための、恰好のテキ ストとなっている。 |
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レーゲンスブルク/ 聖ヤーコプ教会 Regensburg/St Jakobskirche |
7 Bayern |
12世紀初頭に、アイルランドの修道士達 を迎え入れるために創建されたのだという。 聖堂は三廊式バジリカ形式で、翼廊が無い ので十字形ではなく、半円形に飛び出した三 つの祭室が設けられている。 西正面は壁で閉ざされており、扉口は北側 面に開けられている。写真はその北扉口と、 その装飾壁面である。ドイツでは珍しい貴重 な門なので、門全体が大きくガラス・ケース で覆われている。 半円形タンパンには、キリストを中心にし て聖ヤコブと聖ヨハネが彫られている。 門の周囲は、十重のヴシュール、植物模様 の彫り込まれた円柱、獅子や猫の様な動物、 人物の坐像やアカンサスの葉の柱頭などで飾 られている。 扉口の左右の壁面にも、寓意的で意味不明 な図像や聖人像が彫られており、久しぶりに 謎めいたいかにもロマネスクらしい彫像に会 えた、という気がしたのだった。 レーゲンスブルクには、聖エメラム教会や ニーダーミュンスターなど数箇所に、部分的 だがロマネスクの遺構が残っていた。 旧市街の狭い範囲なので、町歩きの楽しさ も味わえる。ドナウ川に架かる石橋のたもと にある店で食べた焼ソーセージの味は、聖ヤ ーコブの門の彫刻とセットで忘れ難いものと なった。 |
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シュトラウビンク/ 聖ペテロ教会 Straubing/Pfarrkirche St Peter |
7 Bayern |
レーゲンスブルクからドナウ川に沿って約 40キロ下って行くと、周囲は一面すっかり 牧歌的な田園風景となる。バイエルン屈指の 穀倉地帯で、この町はその中心に位置してい る。 ドナウ川沿いの町外れに、苔むした墓地に 囲まれてこの教会が建っていた。 双塔を配した西の構えが印象的だが、身廊 は三廊式翼廊の無い質素な聖堂である。内陣 は三つの半円形祭室から成り、後陣背後から の眺めは素晴らしかった。 タンパンのある扉口が、西正面と南側にあ る。写真は西のタンパンだが、龍と戦う騎士 がテーマで、龍の口の中に人の頭が見える。 南門のタンパンには、龍と獅子が彫られて いた。 |
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バート・ゲギング/ 聖アンドレア教会 Bad Gögging/ St Andrea Kirche |
7 Bayern |
レーゲンスブルクからドナウ川に沿って、 今度は上流へと向かって約40キロ車を走ら せると、アーベンスベルク Abensberg とい う小さな町に着く。 ここからドナウの流れの方向へ少し入った 所に、療養所などもある温泉地であるこの町 があった。 教会は町の中心に建っており、鐘塔と小さ な礼拝堂が繋がっただけという質素な教会だ った。だが、隣接してモダンな聖堂が建って いるので、ここは現在は博物館の様な存在で あるらしい。 写真の扉口は礼拝堂の北側に設けられたも ので、小さなタンパンと周囲の壁に嵌め込ま れたレリーフ彫刻が興味深かった。 タンパンには、左右に二天使を配したキリ スト像が彫られている。狭いスペースに彫ら れたために、両脇の天使は無理矢理腰を曲げ たスタイルになっている。 しかし、かえってそれが面白い図像を生ん でおり、その点はいかにもロマネスク的だ。 周囲のレリーフには、キリスト磔刑や受胎 告知などの聖書物語が彫られており、稚拙な がらほのぼのとした味わいが感じられた。 上部の左右に、十字を持ち復活するキリス ト像と、香油瓶を持ったマグダラのマリア像 が彫られていた。 |
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アイナウ/聖ウルリッヒ教会 Ainau/St Ulrich Kirche |
7 Bayern |
前述のバート・ゲギングから、更に25キ ロ西南へと向かう。Geisenfeld ガイセンフ ェルドという小さな町の郊外に小麦畑に囲ま れたこの村がある。 教会は緑濃い林の中に木立に囲まれて建っ ていた。林の入口近くに清冽な泉が湧く等、 墓所や聖堂の場所として相応しい神聖な場所 であるようだ。 聖堂は単身廊バジリカで、東側に鐘塔が建 ち半円形の後陣が設けられている。全体にこ じんまりとした村の礼拝堂のようであり、赤 い瓦屋根と白い石壁との対比がチャーミング だった。 写真の門は南側に開かれており、タンパン には小振りながら優れた意匠の彫刻が彫られ ていた。 中心人物はアブラハムで、布のようなもの で四人の人達を胸に抱えている様に見える。 周囲にも聖人像が配されており、着色の痕 跡が見えるが当初のものとは思えない。外側 の四角い輪郭はおそらく後世の追補だろう。 写真には無いが、門の右側壁面にレリーフ が飾られている。よく見ると、小枝を持つ人 達やロバに乗った人物がいるので、キリスト のエルサレム入城が表現されたものと思う。 ドイツには珍しい小教会が多い地域で、大 聖堂に疲れ果てていた目が少し癒された気分 だった。 |
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