コルシカ島
   ロマネスク紀行
 
 Corse Romane 
 
 
  県名県庁所在地
    1 Haute-Corse (Bastia) 
    2 Corse-du-Sud (Ajaccio)
 
 
 
 Tollare コルシカ島最北端の小さな漁村 
 
 「地中海に浮かぶ山」と称されるフランス領
のコルシカ島は、2000m級の山岳が連なる
急峻な地勢が続いている。東西83キロ、南北
183キロという、意外に大きな島である。
 二つの県で構成されており、東海岸の一部以
外の場所はほとんどが山岳地帯である。
 古代巨石文明の遺跡も残る程の歴史の島で、
イタリアのピサ共和国に支配された11~13
世紀にトスカーナの建築家によってロマネスク
様式の教会が数多く建てられた。
 素朴なバジリカ建築にピサ・ルッカ様式の装
飾が施された簡素な建築が多く、荒廃した聖堂
の廃墟が特に美しかった。
 アジャクシオ
Ajaccio はナポレオンの誕生
した町で、ボナパルト家は町の名門として知ら
れる。
 
 
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 マリアナ旧聖母被昇天教会
   Mariana/Église
      Santa Maria Assunta
 

      1 Haute-Corse 

    
      
   
 
 バスティア Bastia の町の南に広がるビグー
リア池の近くにバスティア国際空港がある。そ
こからさらに南に広がる広大な草原一帯はマリ
アナと呼ばれ、4世紀に起源を持つ古い聖堂が
建っていたらしい。
 その遺跡からは聖堂跡や洗礼堂跡が発掘され
ており、円柱やモザイクも発見された。
 遺跡に隣接して、写真のような堂々たる教会
が12世紀の初めに建てられた。現在は聖母被
昇天教会となっているが、かつてはカノニカの
大聖堂と称されていた名刹である。
   
 聖堂は方形のバジリカで、三廊式の威厳に満
ちた建築である。天井は高く、窓はほとんど無
い。身廊には左右6本づつの角柱がアーケード
を構成して、側廊とを仕切っている。
 写真は遺跡から眺めた後陣で、ロンバルディ
ア帯とブラインド・アーケードだけが壁面を装
飾する手段となっている。
 切石を積んだだけの素朴な建築だが、だから
こそそれが薄っぺらではない圧倒的な存在感を
示している。
 西正面扉口タンパンの縁飾りに、数種の動物
像が刻まれており、まぐさ石部分の植物模様と
共にとても印象的だった。
 
 
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 マリアナ聖パルテオ教会
   Mariana/Église San Parteo 

      1 Haute-Corse 

    
      
   
 
 前述の聖母被昇天教会から程近い牧草地の真
ん中に、この聖堂だけがポツンと建っている。
 もの凄い悪路だったが、聖堂の近くまで車で
なんとか近づくことが出来た。聖堂の背後で、
羊飼いがおびただしい数の羊を追っているとい
う、何とも牧歌的な風景だった。

 この教会は、どうやら現在は使われてはいな
いようで、西正面の木の扉をこじ開けて見た内
陣は、すっかり荒れ果てており、祭室付近では
発掘調査が行われたような跡が残されていた。
 聖堂は方形バシリカ建築で柱の無い単身廊で
ある。両側面の壁には窓がほとんど無く、小さ
な半円アーチの採光窓が二つづつ開いているだ
けだった。
 写真は、東南側から眺めた後陣部分である。
この半円形の突起が無ければ、建築全体は単な
る箱型の倉庫としか見えないだろう。
 しかし、単純に見える壁面をじっくりと眺め
てみると、大小様々な切石を積み上げた当代の
石工達の、地味だがレヴェルの高い技術を見る
ことが出来る。
 装飾は後陣部分に集中しており、半円アーケ
ードや柱頭彫刻によって荘重な雰囲気が創出さ
れている。
 南側にある小さな扉口のまぐさ石には、向き
合った二頭の獅子らしき動物が彫られていて注
目される。
 
 
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 シスコ聖ミケーレ礼拝堂
  Sisco/Chapelle San Michele 

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 
 コルシカ島の北部は突き出した半島になって
おり、キャップ・コルス
Cap Corse と呼ばれ
ている。半島は全体が山深い傾斜地で、各集落
は孤立しており、それぞれへは海岸線から登っ
ていくしか手段は無い。
 シスコへは東海岸から登り集落の外れに車を
停め、この教会へはそこから山道を徒歩で30
分登らねばならなかった。
 沢を渡り、生い茂る薮をかき分けて進んだの
だが、その日は霧が深くとても心細い思いだっ
た。しかし、突如霧が晴れて目の前に、写真の
ような光景が表れたのは奇跡とも思えるような
感激だった。
 鍵が固く、内陣へは入れなかった。だが、半
円の後陣を備えた単身廊の礼拝堂は、孤立した
岩盤の上に建てられており、小振りながら何と
も愛すべき孤高なる佇まいを見せていた。
 聖堂の西側扉口付近にはやや平らな場所があ
るが、後陣の背後は切り立った断崖となってい
る。かくも緊迫した場所で、人は一体何を求め
何を祈ったのだろうか。
 
 
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 オルカーニ
    聖キリコ礼拝堂遺跡

   Olcani/Vestiges de
     la Chapelle San Quilico
 

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 
 キャップ・コルスで印象に残ったもう一つの
教会である。この集落へは車一台がようやく走
れる程の道だけが、西海岸からの唯一のアプロ
ーチとなっている。
 この教会は、現在は完全な廃墟で、集落から
はかなり離れた山の中にあった。
 写真で見る通り、聖堂の屋根は落ち壁は苔む
し、後陣には雑草が生い茂るといった惨憺たる
有様だった。
 しかし、廃墟好きの小生の目には、この自然
の美しさに同化したかの如き、かつての祈りの
場であった荘重な建築の落日の残影がとても美
しいものに思えた。
 コルシカ島に残るロマネスク聖堂に共通する
のは、バジリカ型に半円形後陣というトスカー
ナの様式である。しかし、余りに不便な僻地で
あるが故に、ピサやルッカとは違って無駄な装
飾を排し、簡素に造らざるをえなかった事が、
コルシカならではの清楚だが凛然とした聖堂の
多くを産み出したのだろうと思う。
 忘れられないプレ・ロマネスク廃墟の聖堂の
一つとなった。
 
 
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 サン・フローラン
    聖母被昇天教会

   St-Florent/Église
     Santa Maria Assunta
 

      1 Haute-Corse 

    
      
   
 
 現在のサン・フローランの町に隣接する、か
つてネッビオ
Nebbio と呼ばれた場所に建つ
旧大聖堂でもあった立派な教会である。
 残念ながら扉口が堅く閉ざされており、開扉
の手段も判らず内陣への入場は諦めた。

 西側正面は、下層に五連上層に三蓮のアーケ
ードが造られており、そのいずれもの中央部分
だけが開口部となっている。
 アーケードの柱頭部分に、龍や羊などの彫刻
が見られたが、三廊式と思われる身廊にも渦巻
模様を中心とした見事な柱頭彫刻があったはず
で、それだけが少し心残りではあった。
 身廊の長さが28m近い壮麗な建築だが、様
式は方形のバジリカに半円の後陣が付けられた
という至極簡素なものなのである。
 写真は北東側から眺めた後陣部分で、後陣の
高さだけでも10m、屋根は13mもあるコル
シカ屈指の大教会だった。
 ここでも盲アーケードとロンバルディア帯だ
けが、壁面を飾る唯一の方策となっている。ワ
ンパターンと言ってしまえばそれまでだが、歴
史の中で時代が示す様式というものはそういう
ものだろうし、その変遷こそが時代の移り変わ
りを示しているのである。しかし、それにして
も、このスタイルが島じゅうに残されているこ
とに、閉鎖的であった僻地の島の歴史を感じて
しまう。
 
 
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 ミュラート聖ミケーレ教会
  Murato/Église San Michele 

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 
 コルシカを代表する美しいロマネスク聖堂の
一つだろう。
 ミュラートの町外れ、連なる山々の峰を一望
できる高台の草原に、この聖堂だけがポツンと
建っている。
 最初に見た聖堂の姿は飛び立つ鷺か鶴のよう
で、息を飲む景色とはこういうことなのだろう
と思った。
 正面のポーチと鐘塔が見事で、単調な構造の
中で大きなアクセントとなっている。
 壁面を彩る青い石は、近くの谷で採れる蛇紋
大理石で、白い石は石灰岩である。不規則に積
まれているが、調和の取れた不思議な意匠であ
る。正面扉口玄関間の円柱やアーケードの縁飾
り部分のみ、二色が規則的に交互に並べられて
いる。
 聖堂は方形のバジリカ様式で、単身廊に円形
後陣が張り出した素朴な建築である。
 小さな窓の周辺などに、ロマネスク的なレリ
ーフ彫刻がはめ込まれていた。原罪や天使像が
モチーフとなっている。
 ここからさらに続く渓谷の奥には、珠玉のロ
マネスクが密集している。
 
 
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 ラパール聖チェザリオ教会遺跡
  Rapare/Ruines de l'Église
      San Cesario
 

      1 Haute-Corse 

    
      
   
 
 この村は、前述のミュラートから山筋を一つ
隔てた谷間の静かな集落である。
 この教会の遺跡へは、村の脇から続く細い山
道をひたすら登らねばならない。時折石畳の坂
や石段が現れさらに細い急坂が続くのだが、ハ
イキングコースとして比較的整備されているよ
うだ。
 教会の建つ斜面までは、休憩時間も入れて約
30分というところだろう。溢れる程の清冽な
鳥の声に、流れ出る汗がスーっと引いていた。

 聖堂の内部と後陣部分は修復中で、工事用の
足場が組まれていて写真にはならない。後陣が
特に美しいのでやや残念だったが、ここでも青
石を使った壁面が見事だったので、正面の写真
を掲載することにした。
 斜面にへばり付くように建てられた聖堂は単
身廊のバジリカで、青石のほかには茶色や赤な
ど様々な石が使われている。山の上という立地
条件からも、この山で産出する石が中心となっ
ているようだ。
 天井は落ち、内陣の敷石は失われているとい
う、見るからに完璧な廃墟だったが、かつての
姿を髣髴させる雰囲気が十分に保たれているの
が嬉しかった。
 後陣の唯一の装飾となっているロンバルディ
ア帯の彫刻が、崩落寸前の聖堂の歴史の証しの
ようにも見えた。
 一日も早い修復工事の完成を祈念しながら、
出発前にバスティアのホテルで作った握り飯を
家内と二人で食べた。
 
 
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 サント・ピエトロ・ディ・テンダ
     旧聖ピエトロ教会

  Santo-Pietro-di-Tenda/
   Ancienne Église San Pietro
 

      1 Haute-Corse 

    
      
   
 
 さらに谷の奥の集落だが、いくら探してもこ
の教会の所在が知れなかった。それもそのはず
で、町からかなり離れた谷底のオリーブ林の中
にひっそりと建っていたからだった。おまけに
そこは、オリーブ農園を経営する個人の所有す
る土地の中だったのである。
 聖堂の見学を申し出ると、若い学者風の主人
は私達を快く迎え入れてくれた。彼の奥さんの
お父さんがこの教会を管理していたそうで、娘
夫婦一家が住み着いてオリーブ園を経営してい
るということらしい。
  
 単身廊の聖堂の内部は荒廃しており物置同様
だったが、正面ファサードや写真の後陣の外面
は完璧な状態で保護されている。
 御主人が私を誘って「屋根に上ろう」と言う
ので、高所恐怖症の私だが、彼の友情に報いる
ために決死の覚悟で上った屋根のてっぺんから
撮ったのがこの写真である。
 この後私達は何と、鼠小僧のように屋根伝い
に歩いて、聖堂の屋根にまで上ってしまったの
である。
 屋根の素材はこの近くで採れる緑泥片岩とい
う偏平な石で、日本でも庭石や板碑などに使わ
れることで知られる。
 後陣の壁面にはロンバルディア帯装飾と、渦
巻模様などのレリーフが施されていた。
 彼はこの地方ではオリーブ栽培の名人として
著名な人で、話はロマネスクから離れ、もっぱ
らオリーブ農園の経営に関することが中心とな
ってしまった。
 
 
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 ルミオ聖ピエトロ聖パウロ教会
  Lumio/Église San Pietro
     e San Paulo
 

      1 Haute-Corse 

    
      
   
 
 島の北東部の山間地一体は La Balagne バラ
ーニュ地方と呼ばれる景勝の地で、美しい山上
都市や小さな教会などがが散りばめられた魅力
的な場所である。
 そこに以下の三つの教会が在るので、私達は
リル・ルッス
L'Île-Rousse という港町に泊ま
り、じっくりとこの地方を歩くことにした。
 手始めはカルヴィ
Calvi へ行く途中のこの
町で、町外れの大きな墓地の中にこの教会が建
っていた。
 西正面のファサードは要塞風で、余り優れた
意匠ではないが、扉口の両側に彫られた狛犬の
ような獅子頭の像はとてもロマネスク的な大ら
かさが良かった。
 聖堂は単身廊の箱型で素朴なのだが、内陣は
改造が目立って感動からは程遠いものだった。

 この教会のハイライトは、何と言っても写真
の後陣部分だろう。五連の半円盲アーケードが
美しく、特に半円アーチの中に彫られた幾何学
模様がユニークである。
 二重に彫られた菱形や円形が不規則に並んで
いるのだが、何かを暗示するのか、それとも単
なる思いつきデザインなのかは判然としない。
似たような意匠はこの後に訪ねるサルデーニャ
島にもあったので、一種の流行だったのかもし
れない。
 さして傑出した意匠とは思えないが、装飾の
少ないコルシカのロマネスク教会建築において
は、異彩を放つ存在に見えてきてしまう。
 
 
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 アレーニョ三位一体教会
  Aregno/Église de la Trinita 

       1 Haute-Corse 

    
      
   
 
 ルミオから山道を8キロほど登ったところに
この小さな集落があり、この壮麗な教会は墓地
を背にして町外れの山際に建っていた。
 建築は一連の単身廊バジリカ様式だが、建築
全体の石の色使いの見事さと、写真のファサー
ドの意匠や彫刻が見事である事で知られる。
 上部の二段に重なった盲アーケードの意匠は
いかにもピサ風であり、はじけるように多彩な
石の色が躍動感に満ちた意匠を演出している。
まるで現代アートの絵画のように見えてくるか
ら不思議だ。
 扉口の上に半円形のタンパンがあり、その左
右に人物像の彫刻が飾られている。左側は長い
スカート状の衣服を纏った女性のようであり、
右側は巻物を持って膝まづく男性の像である。
何を意味するのかは、判じ物めいて解らない。
 さらに、ファサードの頂点には、片足を組ん
だ半跏の男性像が置かれている。遠くを見据え
るようなポーズが面白いが、これも意味は不明
だ。
 アーケードの縁飾りにも繊細な装飾がしっか
りと施されており、ファサード全体があたかも
彫像やレリーフのキャンバスになっているかの
ように見えた。
 内陣は、間口が狭い割には奥行きがあり、天
井が高いので、窓の無い左右の壁が息苦しいほ
どの圧迫感を感じさせる。このある種の威圧感
を受ける聖堂は、当初から意図的に設計された
空間だったのだろうか。
 聖堂の背後からの眺めは前方に広がる山並を
背景にして、パッチワークのように多彩な石を
積んだ後陣の美しさがとても印象的だった。  
 
 
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 モンテマジョーレ
     
聖ライニエ礼拝堂
  Montemaggiore/
     
Chapelle St-Rainier
 

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 
 アレーニョから一つ峠を越えたところに、小
高い台地の上に家々が密集した山上都市とも言
うべきこの集落が見えた。イタリアでは珍しく
は無いが、島全体が山岳地帯であるコルシカで
も、あちこちで見かけた光景ではあった。
 墓地に囲まれたこの聖堂は、町とは谷を一つ
隔てた斜面に建っていた。
 建築はアレーニョの教会にとてもよく似た構
造であったが、こちらのファサードは装飾のほ
とんど無い至極簡素な造りになっている。使用
されている石の種類は、ほとんど同じだろうと
思う。
 扉口が閉まっていて中へは入れなかったのだ
が、単身廊に祭室というプランは外観からも推
定出来る。
 後陣も同様だが、アレーニョに比してこの聖
堂には彫刻などの装飾というものがほとんど見
られないが、それがかえって簡素な味わいを醸
し出しているように思えた。
 後陣の眺めがまた格別素晴らしかった。写真
には写っていないが、聖堂の向こう側に山上に
密集する集落の姿が見え、遠く地中海までも眺
めることが出来たのである。
 
 
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  ヴァル・ディ・ロスティーノ
     聖マリア教会遺跡

  Valle-di-Rostino/Ruines
     de l'Église Santa Maria

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 18世紀にジェノヴァ共和国からのコルシカ
独立運動の拠点となった、
Castagniccia カス
タニッツィア
と呼ばれる山岳高地の入口にこの
村がある。
 農場の入口に車を止め、荒れ果てた山道を2
0分ほど行くと、写真の後陣を中心とした教会
の遺跡が潅木の林の向こうに見えてくる。
 10世紀のプレ・ロマネスク遺構であり、写
真の後陣の佇まいにもその風格が滲み出ている
様に思えた。水色の石使いが印象的で、プリミ
ティブな石の積み方が何とも言えず魅力的だ。
 聖堂の構造は単身廊のバジリカで、崩落した
壁面は後陣も含め、かなり上手に修復されてい
るという。それは、手元に修復以前の写真があ
るので、比較してみて明らかである。
 聖堂に隣接して同時代の洗礼堂遺跡が残って
いる。
 不規則な八角形で、外壁しか残存しないが、
入口に飾られていた「原罪」を主題にしたタン
パン彫刻が面白い。一体どのような洗礼堂だっ
たのだろうか。
 
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 カンビア聖キリコ教会
  Cambia/Église San Quilico 

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 
 前述のロスティーノから迷路のような山道を
登ってさらに山奥へと進み、ようやくこの村を
探し当てた。しかし、教会はさらに谷の奥で、
駐車場から15分程急坂を下りなければならな
かった。
 彫刻好きの私には、この教会の二つのタンパ
ンが一番の目的だった。
 教会へ着いてみると、聖堂の壁面全体が修理
中で、足場が建築を覆っていることにがっかり
した。しかし足場に登らせてもらうと、通常で
は見ることの出来ないアングルでタンパン彫刻
を観ることが出来たのだった。
 写真は南門のタンパンで、蛇を退治する男の
像だ。通常はタンパンを真正面から眺めるのは
不可能で、修復工事がもたらした幸運と理解し
た。
 12世紀創建の単身廊の聖堂は素朴さが魅力
で、西扉口のタンパンに彫られたアダムとイヴ
の「原罪」と共に楽しめた。
 帰る頃には、足場の存在が全く感じられなく
なっていたのが不思議だった。
 
 
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  コルソーリ聖マリア教会
  Corsoli/Église Santa Maria

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 
 前述のカンビアとは山続きの村で、教会へは
別の山道を徒歩で登らねばならなかった。山道
の途中からはサン・キリコ教会に近い、農家の
建物が見えるほどの距離なのである。
 ここは13世紀に建てられたのだが、隣接す
るサン・キリコの建築にとてもよく似ている。
 ここにも西と南に扉口があるのだが、タンパ
ンには何も彫刻されていなかった。
 同じ単身廊の聖堂でも、祈りの場としては、
この規模の空間が一番相応しいように思える。
 それにしても、長方形と半円をくっつけただ
けの単純なプランの建築の、一体どこがかくも
魅力的なのだろうか。
 近くに半円アーチ門の残る礼拝堂の遺構があ
り、積まれた偏平な石の美しさが感じられた。
 もしかしてという予感が的中し、その横に片
岩を利用したメンヒルを発見したのだった。
 
 
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 コルト洗礼の聖ヨハネ教会遺跡
   Corte/Ruines de l'Église
      San Giovanni Battista
 

      1 Haute-Corse 

    
      
 
 
 城塞の町コルトの中心から南東へ3キロ、人
里離れた山麓にこの古い教会の遺跡が残されて
いる。
 この教会がいかに古いかは、聖堂の石をみた
だけで容易に感じ取ることが出来そうだ。
 創建は9世紀というプレ・ロマネスク建築な
のである。
 写真は南側からの眺めで、右側が十字形の洗
礼堂、左側が教会堂の後陣である。
 洗礼堂は十字形に、ビザンチン風の三つのド
ームを備えた素朴な建築。
 教会聖堂の身廊部分は、礎石しか残っていな
いのだが、三廊式バジリカで左右に五本づつの
角柱が立っていた。
 しっかりと残された後陣部分が最も魅力的で
あり、石は乱雑に積まれながらプロポーション
の美しさを形成している力強さに、草創期の持
つエネルギーのようなものが感じられる。
 芸術というものは押しなべて、後年に至るほ
ど技巧のみに走り過ぎ、創造的な力強さを喪失
していくのである。
 
 
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  カルビーニ
    洗礼の聖ヨハネ教会

   Carbini/Église
     San Giovanni Battista
   
      2 Corse-du-Sud

        
 
 
 ロマネスク教会の分布の希薄なコルシカ南部
にあって、唯一とも言える壮麗な建築群だ。ポ
ルト・ヴェッキアの町からは、細い山道を約2
5キロも山奥へ分け入らねばならない。
 鄙びた寒村だが洒落た家並が多く、教会の洗
練された佇まいからも歴史や文化のレヴェルの
高さを感じさせた。
 12世紀に建立された聖堂と鐘塔で、緑濃い
山並みを背景にすっくと建つ姿は何とも秀麗で
あった。
 聖堂は単身廊で、屋根の下に彫られたロンバ
ルディア帯と後陣の軒持ち送りだけが装飾らし
い加工で、それ以外は単なる石積みの家にしか
見えない。
 コルシカのロマネスク教会の大半がこのスタ
イルなのだが、簡素質実すぎて愛嬌が無いよう
に見えてしまう。しかし本来の信仰の場には、
余計な装飾や絵画彫刻などといった“色物”は
不要なのであり、そう考えると凛とした気高さ
が感じられて来るような気もする。何にしても
これがコルシカのロマネスクの魅力なのだ。
 
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 フィガニエッラ聖母被昇天教会
  Figaniella/Église
      Santa Maria Assunta
 
   
      2 Corse-du-Sud

         
 
 港町プロプリアーノPropriano から渓谷上
の尾根伝いに車を走らせると、最奥に近い辺り
でこの集落が見えてくる。教会の鐘塔が目印と
なって、私達を導いてくれるようだった。
 町外れの高台に建つ教会のテラスからは、通
過してきた村々や遥かヴァリンコ湾をも臨むこ
とが出来た。
 12世紀に建造された単身廊の聖堂は堅固な
イメージが目に付くのだが、総体的には前述の
カルビーニの建築にとてもよく似て静謐な落ち
着きが感じられた。
 鐘塔は後世に改造されたものだろうが、雰囲
気的にはこの聖堂にとても同化しているように
思える。
 後陣も含め、軒下のアーケード状装飾が特徴
的で、単調になりそうな壁面を躍動的に飾って
いる。
 聖堂の周囲には、白い百合の花が咲き乱れて
おり、まるで聖母マリアの純潔を象徴している
かの様に見えた。
 
 
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 フィガーリ旧聖キリコ礼拝堂
  Figari/Ancienne Chapelle
     San Quilico di Montilati
 
   
      2 Corse-du-Sud

        
 
 
 フィガーリの町の中心から北東へ5キロ、そ
こから山の中へ入ってしばらく進むと一軒の農
家へ突き当たる。一瞬戸惑うが、この小さな礼
拝堂はその農家の敷地の中に保存されているの
だった。
 これぞロマネスク、と言えそうなほど愛らし
い素朴な建築ではないか。
 12世紀に建てられた礼拝堂で、間口が3m
奥行が7.5mという規模だ。
 窓と言えるものは後陣に一つあるだけで、正
面の入口の他は全くの石壁だけの構造である。
積まれた石の配列が、とても美しい。
 内部は勿論単身廊で、半円筒の蒲鉾型アーチ
の天井が、ロマネスク建築の原点を示している
ようだ。無駄を排した構造体そのものが示す無
垢の美しさ、とでも言うしか説明がつかないよ
うな感動。
 これほど小規模で地味な小堂が、多少の修復
はあったにせよ、900年もの間生き続けてき
たことは奇跡に近いだろう。人里離れた山奥と
言う立地条件と、この地の人々の素朴な信仰心
とが、この貴重な礼拝堂を守り続けてきたのだ
ろう。
 
 
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 ボニファチオ
    聖マリア・マジョーレ教会

   Bonifacio/Église
     Santa Maria Maggiore
 
   
      2 Corse-du-Sud

        
   
 
 断崖の上に建ち並ぶボニファチオ旧市街を、
海側の船上から眺めた奇異な光景への感動が忘
れられないでいる。家々の土台となっている崖
の一部はえぐれていて、まるで天空に浮かぶ船
のように見える。

 そんな旧市街の中央に、12世紀から13世
紀にかけて建立されたこの教会がある。
 写真は後陣部分と鐘塔で、密集した旧市街の
家並に埋まるようにして建っている。
 聖堂そのものは後世にかなり修復されている
が、塔の窓の周辺などに残るレリーフ彫刻は創
建当初のものである。写真ではよく見えないの
だが、イスラムの影響を感じさせるような繊細
なアラベスクにも似た植物模様や、素朴な動物
像などが確認出来た。
   
 聖堂正面は玄関間のようなアーケードになっ
ていて古い形式を残している。上部のバラ窓な
どがゴシックやルネサンス期の改築を示してお
り、三廊式の身廊部分も同様の改造が行われた
ようだ。
 祭室の天井の、大きな半球形のドームが印象
的だった。

 私達はこの港町に宿泊し、翌朝のフェリーで
サルデーニャ島のサンタ・テレザ港へ渡った。
 
 
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