イル・ド・フランスノール
         シャンパーニュ
地方のロマネスク
      
Ile-de-France, Nord et Champagne Romanes
          
          
 県名と県庁所在地

   ◆Ile-de-France (イル・ド・フランス)
        1 Paris (Paris)
       
2 Hauts-de-Seine (Nanterre)
       
3 Seine-St-Denis (Bobigny)
       
4 Val-de-Marne (Crétel)
       
5 Eure-et-Loir (Chartres)
       
6 Yvelines (Versailles)
       
7 Essonne (Evry)
       
8 Seine-et-Marne (Mellun)
       
9 Val-d'Oise (Pontoise)
      
18 Oise (Beauvais)

   ◆Nord (ノール)
      
10 Somme (Amiens)
      
11 Pas-de-Calais (Arras)
      
12 Nord (Lille)

   ◆Champagne (シャンパーニュ)
      
13
Aisne (Laon)
      
14 Ardennes (Charleville-Mézières)
      
15 Marne (Châlons-en-Champagne)
      
16 Aube (Troyes)
      
17 Haute-Marne (Chaumont)
     

    
    
     パリ聖ジェルマン・デ・プレ教会
       Paris
/Église St-Germain-des-Prés

                         1 Paris

              
     サルトルやジュリエット・グレコに代表され
  るような、1950年代のパリを代表する芸術
  家や文学者の溜まり場だった地区である。当時
  の面影を伝えるカフェやブラスリーは、今でも
  魅力的な存在となっている。パリで大好きな場
  所のひとつ。

   広場の向こう側でそんな時代の変遷を見続け
  てきたこの教会は、6世紀に創建されたパリ最
  古の教会として知られる。
   8世紀には、ベネディクト会の重要な修道院
  となっていたが、その後のノルマン人による破
  壊や様々な変遷を経て今日の姿となった。

   正面の鐘塔門と身廊、そして北側の翼廊とが
  11世紀のロマネスク様式を伝えている。
   ロマネスク時代の天井は木造だったのだが、
  ここは17世紀にゴシック様式のリブ・ヴォー
  ルトに改造された。
   内陣は12世紀のもので、上部の窓の下に設
  けられたトリビューンのようなアーケードと、
  祭壇を取り巻く周歩廊の存在が特徴である。
   身廊や翼廊に見られる柱頭彫刻の大半は11
  世紀の作品のコピーであり、オリジナルはクリ
  ュニー美術館に収蔵されている。
   しかし、死んだ博物をガラスケースの中に見
  るよりも、活きた建築空間の中で見るコピーの
  ほうに、より深い魅力を感じていた。
             

    
    
     サン・ドニ聖ドニ大聖堂
       St-Denis
/Cathédrale St-Denis

                         3 Seine-St-Denis

              
   パリから10Kmの地点にこの大聖堂が在る
  が、ロマネスクの時代にすでにゴシック的な造
  形や思想が完成していた、という意味でこのサ
  ン・ドニは特別の存在である。

   抽象や象徴や神性を重んじるロマネスクより
  も、具体や写実や人間性を通じて、より現実的
  な世界を追求するというゴシック的な精神が、
  ここサン・ドニで初めて具現化していったので
  あった。1140年というロマネスクの最盛期
  において、なのである。
   扉口完成当初の円柱人物像は失われ、その一
  部をクリュニー美術館で見ることが出来るが、
  これは正にゴシックでありかなり写実的だった。

   写真は現在の中央扉口で、タンパンは「最後
  の審判」というゴシック的なテーマである。円
  柱人物像が彫られた姿を推測すると、かなりリ
  アリティに満ちた迫力であったと思われ、他の
  二面の扉口と併せて、ゴシック的表現に突進す
  る息吹が強く感じられる。
   ここでは、好き嫌いをしっかり別にしておか
  なければなければなるまい。何故なら、ロマネ
  スクの中にゴシックが台頭していった革新的な
  時代の最重要とも言うべきポイントを示す、こ
  こは正にその無二のテキストだからである。
   それでも、ロマネスク本来の不器用とすら思
  える「抽象」に、こよなく愛着を感じることに
  ついては、微塵の揺るぎも無い。   
       

   
    
     ガッシクール聖アンヌ教会
       Gassicourt
/Église Ste-Anne

                         6 Yvelines

              
     住宅街を中心としたこの地区は、セーヌ川沿
  岸の町マント・ラ・ジョリ
(Mantes-la-Jolie)
  隣接している。マントは、コローの描いた「マ
  ントの橋」として知られるリメーの古橋
(Vieux
   Pont de Limay)
が在ることで有名な都市である。

   町の広場に面して、それほどの規模ではない
  が存在感のある教会が建っている。
   三廊式十字形の聖堂で、翼廊との交差部に鐘
  塔が聳えている。
   内部へは南側の扉口から入ることが出来た。

   写真は南側の側廊から、身廊の西向き部分を
  写したものだ。
   魅力的な柱頭彫刻の見られる円柱やアーケー
  ドで構築された身廊部分は、鐘塔や西ファサー
  ドと共に12世紀の建築であるという。
   残念だったのは、翼廊と祭室部分が、13世
  紀から16世紀にかけてゴシック様式に改造さ
  れていることだった。

   西正面のファサードは、とても特徴的だった。
   扉口がやや幅広であり、大きなタンパンの意
  匠が連続する幾何学模様だった。これは余り面
  白いものではない。
   ヴシュールの縁に彫られた軒持送りのような
  連続するアーチと人の首の像は、ケルトを連想
  させた。その内側に連なる中心が穴になった同
  心円の模様も、余り類例の無いものであった。   
                 

       
    
     ガイオン・シュル・モンシエン聖母被昇天教会
       Gaillon-sur-Montcient
/Église de l'Assomption

                         6 Yvelines

              
     マントからセーヌ沿いに15Km上流に行く
  と、川の北側にムーラン
(Meulan) という小さ
  な町がある。パリの中心からは、約30
Km
  流ということである。
   そこからセーヌの支流であるモンシエン川に
  沿って数キロ山側に入ったところに、この小さ
  な教会のある村がひっそりと佇んでいる。

   この村の広場に車を停めながら、礼拝堂のよ
  うにチャーミングな建築に見とれてしまった。
   しかし、扉口は押せども引けども開かず、ま
  た人の気配も無いので鍵の所在も不明だった。

   聖堂を詳細に眺めてみると、かなりの増改築
  が重ねられて来たように見える。
   創建時の姿に近いのは、写真の北側扉口のあ
  る身廊部分と鐘塔だけかも知れなかった。
   現在は鐘塔の東側、つまり写真の塔の向こう
  側に身廊や側廊が見られるのだが、従来は塔の
  東には祭室のみがあったのではないか、と思わ
  れた。つまり、写真に写っている部分のみが従
  来の教会だったのではないか、と勝手に想像し
  ていた。

   パリ近郊に残る一連のロマネスク小聖堂は他
  にも在り、特にセーヌ沿いには
Épône, Juziers,
   Comeilles-en-Vexin, Poissy
などなど見るべき
  教会が点在するのだが、実はほとんど知られて
  おらず、ガイドブックにも無縁であり、また大
  半が門戸を閉ざしていることは何とも残念でな
  らない。
             

       
    
     ラヴィルテルトル聖母教会
       Lavilletertre
/Église Notre-Dame

                         18 Oise

              
     ボーヴェからは南へ約45Km、ポントワー
  ズ
(Ponotise) からは西北へ25Kmという位
  置にある村で、パリ近郊とは思えないほど広大
  な小麦畑と深い森を抜けてようやくたどり着く。
   牧歌的な美しい村の教会は、ここでも扉口を
  固く閉ざしたままだった。向かいの役場も閉ま
  って人の気配が全く無いのである。

   写真は西側の正面扉口と鐘塔で、未練がまし
  い私達は扉の鍵穴から中を覗いて見た。運良く
  大きな穴だったので、身廊の概要を見ることが
  出来た。
   三廊式十字形の聖堂であり、束ね柱のアーケ
  ードは尖頭アーチが連続していた。
   天井は身廊も側廊も尖頭アーチ形であり、横
  断アーチと交差リブ・ヴォールトによって構築
  されていることが判った。
   また真正面には柱頭の植物模様の彫刻が見え
  たが、穴からの撮影は不可能だったので、中へ
  入れない無念さが増幅してしまった。

   聖堂の周囲を回ってみた。翼廊と祭室後陣部
  分には半円窓が見られ、後世に改築されたこと
  は歴然としているものの、ロマネスク教会の雰
  囲気を失っていないことが嬉しかった。
   正面扉口の三重ヴシュールに、それぞれ異な
  った意匠の連続幾何学模様が施されており、こ
  れも非凡なアイディアであると言える。  
               

      
    
     ボーヴェ聖エチェンヌ教会
       Beauvais
/Église St-Étienne

                         18 Oise

              
     未完のゴシック大聖堂に驚愕した
  後に、私達は町並の間を歩いてこの
  教会を訪ねた。
   11〜12世紀に建造された聖堂
  は、身廊と翼廊にその面影を留めて
  いるものの、新しい身廊や祭室や後
  陣が、完全なゴシック様式で翼廊の
  更に奥に増設された格好で改築され
  ているのだった。
   複雑な植物の蔓に絡まる二頭の龍
  が彫られたタンパンが、北側の旧身
  廊の扉口に見られる。ファサード全
  体で、ロマネスク門の素晴らしさを
  伝えているように思えた。
   最も注目したのが写真のバラ窓で、
  これは翼廊の北側の二つの窓の上に
  設けられている。
   運命の車輪
(Roue de la Fortune)
  と呼ばれるバラ窓で、逆時計回りす
  る車輪が描かれているのである。

        輪郭外側の右側に頂上の天国を目指して登る人物像が、そして左側
       には天国から滑り落ちていく人々が描かれている。車輪全体が“最後
       の審判”を下しているのか、それとも運命の気紛れに翻弄される無常
       や不安を表現したものなのだろうか。
        柱頭のある12本の支柱はキリストの十二使徒であり、中央にキリ
       ストのシンボルが嵌め込まれているらしい。
        サン・ドニのファサードや、後のゴシック聖堂に多大な影響を与え
       たと言われている。
                  
              

      
   
      ブリー聖ルシアン教会
       Bury
/Église St-Lucien

                         18 Oise

              
     ボーヴェの町からテレーン川 (Thérain) の谷
  間を南東に25
Km下ったあたり、緑濃い森に
  囲まれてこの村がひっそりと眠っている。
   教会の扉は閉まっていたが、役場の親切な職
  員が、嬉しいことに長い昼休み中にも関わらず
  門の鍵を貸してくれた。

   三廊式十字形の典型的なロマネスク聖堂だが、
  ここでも翼廊から東の祭室や後陣や鐘塔はゴシ
  ック様式に改造されている。
   ヴシュールのジグザグ模様が特徴的な西門を
  入ると、身廊と側廊を仕切るアーケードが目に
  入った。そのアーチの輪郭にも、ジグザグ状の
  連続模様が幾重にも彫られていた。
   天井は完全なゴシック様式で、尖頭形の横断
  アーチと交差リブ・ヴォールトによって構成さ
  れていた。

   写真は側廊の柱頭部分で、そこは丸で彫刻美
  術館のようであった。聖ドニの“首提灯”など、
  興味深い図像に満ちていたが、最も面白かった
  のは写真左上の両手を挙げて座る人物像だった。
   北側側廊の一画で、四隅の柱頭から延びるオ
  ジーブの根本に、各々計四人の人物像が彫られ
  ているのだった。いずれも不思議なバンザイの
  スタイルである。
   柱頭の上部、オジーブの形にフィットさせた
  意匠と言え、とてもロマネスク的な発想の感じ
  られる図像であることが嬉しかった。
            

      
    
     ヴィラー・サン・ポール聖ポール教会
       Villers-St-Paul
/Église St-Paul

                         18 Oise

              
     サンリス (Senlis) の北、オワー
  ズ川
(Oise) の北岸に広がる静か
  な住宅街の続く町である。
   教会の扉は、隣接する司祭の家
  に頼んで開けて貰うことが出来た。
   12世紀半ばの創建とのことだ
  が、聖堂の大半はゴシック様式や
  後世の改造が目立っている。
   写真は北側廊から身廊方向を撮
  ったもので、アーケードは尖頭ア
  ーチながら、柱頭の彫刻に優れた
  意匠が見られることがお判りいた
  だけるものと思う。
   不思議な形をした植物や渦巻の
  ような蔓、蛇を小脇に抱えた人物
  や何かのために並立する人物など
  など、私達を惑わせるロマネスク
  彫刻の役者達が勢揃いしたかのよ
  うに思えた。
   正面入口の門は、タンパンが失
  われているものの、重厚なヴシュ
  ールや側柱、柱頭などに見るべき
  部分が多く、大いにロマネスク・
  エッセンスを満喫したのだった。
                 

      
    
     リュイ聖ジェルヴェ・聖プロテ教会
       Rhuis
/Église St-Gervais-et-St-Protais

                         18 Oise

              
     前述のヴィラーからオワーズ川沿いに東へ約
  20
Km行くと、そこはもうコンピエーニュの
  森
(Forêt de Compiègne) にかなり近い閑静
  な村であった。
   教会は村外れの小高い場所に建っており、ガ
  イドブックにちらっと載っていた三階建ての鐘
  塔が直ぐに目に入った。

   11世紀に創建された三廊式の聖堂だが、半
  円形の祭室は中央に一つだけしか見られない。
  側廊の延長線の片側に鐘塔が在るだけなので、
  やや不自然なプランではある。鐘塔手前の建築
  は近代になって増築されたものらしい。
   正面のファサードは創建時代の遺構らしいの
  だが、特徴の無い意匠だった。身廊部分は漆喰
  で塗り固められてた偏平な壁面が単調で、柱頭
  彫刻も無く余り魅力的な聖堂とは言い難いもの
  だった。
   写真の後陣部分は11世紀の遺構だが、身廊
  が短い割にはその半円祭室が10m近くも突き
  出しているので、やはり両側に小祭室があった
  ことが想像されてしまう。

   鐘塔はこの地方に多い三層式の典型で、重厚
  感の備わった堂々たる11世紀の建築である。
   この後訪ねるサン・ヴァースト・ド・ロンモ
  ン
(St-Vaast-de-Longmont)、モリエンヴァル
  
(Morienval)、ポンポアン (Pontpoint) などで、
  優れた意匠の鐘塔を見ることが出来た。
                

     
    
     サン・ヴァー・ド・ロンモン聖ヴァースト教会
       St-Vaast-de-Longmont
/Église St-Vaast

                         18 Oise

              
     前述のリュイからは数キロしか離れていない
  ヴェルベリー
(Verberie) の町から、山手に向
  かって隣接する小村である。
   教会は深い森を背景とした高台に建っており、
  教会まで通じる山道は昼も暗いほど鬱蒼と繁っ
  た木々の間を抜けていくことになる。
   正面の鉄製外門が閉まっていたので、聖堂へ
  のアプローチを半ば諦めかけていると、停めた
  車の中にいた若い男女が、裏の墓地から入れる
  ことを教えてくれた。
  
   背後から聖堂を眺めて驚いた。中央の半円形
  の後陣と中央に聳える三層の鐘塔は、この地で
  は見慣れた様式なのだが、北側にのみ半円形の
  小後陣が付いていたのだった。
   従来は単身廊だった聖堂に、北側だけに側廊
  と祭室が設けられた格好となっている。創建時
  から二身廊だったものかどうか、を知る手がか
  りは見付からず判然としなかった。

   西側の正面に回り込み、扉口を見て再び驚い
  た。写真が、その西側の門である。
   様々な意匠の門を今まで見てきたが、ここの
  門はかなり変った部類に入るだろう。
   入口そのものはバロック的なデザインに改造
  されているが、四重のヴシュールが尖った四角
  錐の連続模様で覆われ、それが更に側柱部分ま
  で続いているのである。
   こんな小さな教会に、かくも斬新で大胆なデ
  ザインの門が制作されてい事に再度驚いていた。   
                 

     
    
     モリアンヴァル聖母教会
       Morienval
/Église Notre-Dame

                         18 Oise

              
     コンピエーニュ (Compiègne) の町外れにあ
  る静かな宿に滞在していたのだが、そこはコン
  ピエーニュの壮大な森の丁度北側に当たる。
   モリエンヴァルは森を隔てた真南に当たり、
  森を抜けるのに何と20
Km車を走らせねばな
  らないのである。

   鍵を管理するお宅を見つけ、何とか聖堂の中
  へ入ることが出来た。
   石積みの美しい聖堂で、写真は身廊から翼廊
  との交差部と祭室を眺めたものである。
   身廊の横断アーチ上に意匠されたアーケード
  が、とても洗練されたデザインに感じられた。
   三廊式の身廊には二本の中間柱によって作ら
  れた三つのベイがあり、それぞれの束ね柱の柱
  頭には、優れたデザインと幻想的なモチーフの
  彫刻を観ることが出来た。渦巻き模様を進展さ
  せた意匠が多く、コンピエーニュの森の連想か
  らまたもやケルトがイメージされてくる。

   聖堂建築の外観はとてもユニークだった。
   西の正面中央に鐘塔が聳え、その真下が扉口
  となっている。門の部分は改造されていてロマ
  ネスクではなかった。
   最大の特徴は、翼廊と思われた交差部両側の
  翼の部分に塔が二本建っていることだった。
   正面と併せ、三本の塔が聳える光景は壮観で、
  東側から後陣を見たいと思ったが、背後は崖に
  なっていて近づけなかった。
   しかし、森へ向かう山道から眺めた、逆光の
  中の三本の塔の姿は忘れ難いものだった。
            

    
    
     エタンプノートルダム参事会教会
       Etampes/Collégiale Notre-Dame

                          7 Essonne

        
   かつてはオルレアンに通じる街道に面した重
  要な町であったが、現在はやや取り残された感
  がある。旧市街には、往年の繁栄を物語る教会
  や、多くの古い建築を見る事が出来る。
   冬のブルターニュを旅した帰路にパリ周辺を
  歩いたのだが、その際にこの町を訪ねたのだっ
  た。生憎の雨模様だったのでスナップ写真しか
  無いが、パリから至近の美しいロマネスク彫刻
  を御紹介したくて掲載した次第である。故に、
  愚妻の存在を御容赦願えれば幸甚である。

   写真の豪壮な彫刻群は、聖堂南門のものであ
  る。イメージはシャルトルの王の門に近いが、
  大半の聖人の顔が失われているのは惜しい。
   柱に彫られた細長い聖人の像は、衣の襞など
  技術の優れた彫像で、これらもシャルトルを連
  想させるような傑作である。

   壁面上部の左右両側には天使の像が有り、躍
  動する美しさを見せているが、残念なことにこ
  こでも首部が失われている。宗教戦争の愚行だ
  ろうが、いつの世にも、歴史が示すのは人間の
  弱さそのものなのかもしれない。  
     

    
    
     メルヴィイエール旧教会跡
       Mervillier
/Ruines d'Ancienne Église

                         7 Essonne

            
   この村がシャルトルの東に在ることが
  判ったので、すぐに村までは行けたのだ
  が、それからこのタンパン彫刻を見るま
  でに、どれだけの苦労をしただろうか。
  今までに、ここまで所在が不明だった事
  例は無い。地図には勿論掲載されていな
  いし、村の誰に聞いても判らないのであ
  る。それは、最後の最後に偶然会った人
  の自邸の、全くプライヴェートな中庭の
  壁に保存されていたのだった。

   小さなタンパンだが、デフォルメされ
  た人物像が魅力的であり、判じ物みたい
  な不思議な図像は、何が表現されている
  のか正直言うと判らない。
   キリスト、天使、聖母、聖人、騎士と
  思しき図像は想像できても、どういう場
  面かは全く不明である。それでも惹かれ
  るのは、抽象が凝縮されたロマネスク的
  な宇宙観、曼荼羅のような世界観を感じ
  るからなのだろうか。
    

    
   
     サン・ルー・ド・ノー聖ルー教会
       St-Loup-de-Naud/Église St-Loup

                         8 Seine-et-Marne

        
   教会に祭られた聖人の名前をそのまま名乗っ
  ているこの町は、セーヌ河の上流、フォンテー
  ヌブローよりさらに奥のプロヴァン
Provins に
  近い。訪れたのは夏の盛りで周辺は緑濃く、野
  草が咲き乱れる美しい町だった。
   立派な鐘塔が町のどこからも見えるので、教
  会へは容易にたどり着くことが出来る。

   聖堂は三廊式で、それぞれに祭室が備えられ
  ており、後陣の姿は見応えがある。塔の有る交
  差部から奥は11世紀、身廊から正面入口にか
  けては12世紀との案内が有った。かなりの修
  復と改造があったようだが、往時の面影は充分
  に残されているようだった。

   正面入口の門に施された彫刻が圧巻だった。
  タンパンには四福音書家に囲まれた栄光のキリ
  スト像が彫られ、マリア像や聖人像がかなりの
  密度で加えられている。
   写真は、タンパンの下の門の、支柱に彫られ
  た聖ルーの像である。柱の長さに合わせた細長
  い像で、まことにロマネスク的であると同時に
  ゴシックの予感をすでに包含した美しい彫刻で
  ある。
    

    
    
     ボエス聖ジェルマン教会
       Boësse
/Église St-Germain

                         8 Seine-et-Marne

          
   フォンテーヌブロウの南一帯はガーテ
  ィネー
Gâtinais 地方と呼ばれる農村地
  帯だが、正面の入口に特有のポーチを付
  けた小さな教会が点在している。
   大半が12世紀に築造されたもので、
  いずれもロマネスクの特徴を備えている
  のが嬉しい。
   ボエスは人口300人足らずの寒村だ
  が、教会には写真のような威厳在るポー
  チが残されていた。
   聖堂入口の有る正面に付けられた、流
  れ屋根で覆われている玄関間である。片
  側が回廊形式のアーケードになっている
  のが特徴で、半円アーチや柱頭の付いた
  列柱のシルエットが美しい。柱頭の彫刻
  にはロマネスク的なモチーフが見られた
  が、身廊や後陣はかなりゴシックに改造
  されていた。
    

    
    
     モンドルヴィル旧聖ペ教会
       Mondreville
/Ancienne Église Ste-Paix

                          8 Seine-et-Marne

            
   ボエスから程近い鄙びた村であり、こ
  こがパリから数十キロの場所とはとても
  信じられないような素朴な農村である。
   写真は教会のポーチ部分の全景である。
   聖堂は単身廊の素朴なプランで、鐘塔
  だけが飛び出した形式になっている。様
  式はロマネスク風だが、後補によるもの
  かもしれない。
   ポーチは、ボエスより幅は狭いが奥行
  きがある。側面にも小さなアーケードが
  有るのが最大の特徴である。
   柱頭には単純だがセンスの良い意匠が
  彫られており、小さいが美しいアーケー
  ドになっている。

   雲が低く垂れ込めた冬の空の下で、教
  会は訪れる人も無く、ひっそりと身を縮
  めているように見えた。この静寂こそ、
  ロマネスク行脚には冬が最適、と言わし
  むる所以である。
    

    
     
     ベルジー・ル・セック聖クェンタン教会
       Berzy-le-Sec/Église St-Quentin
 
                         13 Aisne

         
   ゴシックの遺構が残るソアッソン
  
(Soisson) の町からは、南へ4Km
  という至近距離に位置している。
   丘陵の上に開けた閑静な村で、教
  会は写真で見るように、村の礼拝堂
  に相応しいとてもチャーミングな聖
  堂だった。
   教会の歴史は9世紀までさかのぼ
  るそうだが、現在見る建築は12世
  紀半ば以降の増改築の結果である。
   正面のファサードは単純だが、内
  部は三廊式の聖堂で、二本の中柱の
  ある三連のアーケードが両側に設け
  られ、側廊との仕切りになっている。
   翼廊は無く、中央に鐘塔が聳え、
  半円形祭室が後陣に突き出している。
   鐘塔と側廊の接点部分が不自然に
  感じられたが、翼廊が壊されたか、
  側廊が後から増築されたかのどちら
  かだろう。
   鐘塔を支える柱に施された柱頭彫
  刻は、聖書の逸話を主題としたもの
  が大半で、彫りの鮮やかな秀逸な作
  であった。   
                

    
     
     バーロン聖レミ教会
       Baalons/Église St-Rémy
 
                         14 Ardennes

         
   ランスの北東約60Km、シャン
  パーニュ地方の北端、ベルギー国境
  まで30
Km程度、という場所にあ
  る何とも鄙びた農村である。
   教会とは名ばかりで、村の礼拝堂
  と言うに相応しい小建築だった。
   大半が後世の建築で、三廊式の側
  廊も増築されたもののようだ。
   だが、ここでの目的はひとえに写
  真のタンパンにあったのである。
   半円形の上部は喪失したらしいが、
  図像の中心部が見事に保存されてい
  ることが嬉しかった。
   ランスの大聖堂で、ゴシック彫刻
  を代表する写実的な天使の微笑みを
  受けた直後だったので、いかにもロ
  マネスク的な素朴な図像に会えて久
  しぶりに感動した。
   笏杖と書物を持つ聖人の両側に、
  剣や法具を持った二天使が立ってい
  る。左は羽根を上げ、右は下げてい
  る意味は不明だが、対比が面白い。
             

      
     
     ランス旧聖レミ修道院
       Reims/Ancienne Abbaye St-Remy
 
                         15 Marne

         
   ランスやエペルネイ(Épernay) を訪れる人の
  目的は明白である。それは決してロマネスクや
  ゴシックの教会等ではなく、フルーティーな甘
  い香りと繊細な発泡が魅力である琥珀色の液体
  にこそ、その目的が集中しているに違いないの
  である。おかげで、ドンペリよりもクリュッグ
  やベルエポックのほうが、遥かに美味いことも
  知った。
   ここでは「団子」の話題は置いておいて、し
  っかりと「花」のお話をしなければならない。
   「花」の代表その一番はゴシックの傑作であ
  る大聖堂
(Cathédrale) と、12世紀の内陣が残
  されたこの教会であろう。

   ゴシック初期と重複した12世紀後半のロマ
  ネスクで、両方の美しさが生かされた荘重な傑
  作であろう。三廊式の内陣や礼拝堂付き翼廊、
  小祭室付き周歩廊が廻らされた祭室など、はっ
  きりとした巡礼教会の様式である。
   写真は身廊から側廊方面を眺めたものだが、
  半円アーチを組み合わせたトリビューンや、天
  井に展開する交差オジーブが見事に調和して、
  壮大な空間を創出した。精神は完全にゴシック
  的であるが、ロマネスク的な素朴さの残る壁面
  には愛着を感じる。大き過ぎるが、まだ美しい
  のである。
      

      
      
     ヴェルテュ聖マルタン教会
       Vertus/Église St-Martin

                         15 Marne

          
   シャンパン街道 La route du Champagne はラ
  ンスを出発すると、葡萄畑に囲まれた小さな村々
  を巡り、マルヌ川を渡り、エペルネイの町を過ぎ
  てからこの村で終点となる。
   花と団子の両方が楽しめる魅力の街道である。

   写真は後陣の眺めで、左の鐘塔は翼廊の上部に
  建てられた格好となっている。塔の部分は12世
  紀だが、後陣・祭室部分は15世紀以降の再建で
  あるらしい。
   ロマネスクは全体の3割程度で、大抵は取り上
  げないが、周囲の葡萄畑に敬意を表した。

   内陣は三廊式十字形だが、祭室は方形で余り魅
  力的ではない。身廊の列柱は11世紀とのことだ
  が、交差オジーブの天井なので些かがっかりした。
  しかし、ゴシックの台頭が早いこの地方では、致
  し方の無いところである。
   教会背後に村の貯水槽が有り、対岸は民家と接
  しているという特異な配置で、白鳥などの遊泳す
  る珍しい光景だった。

   この後宿泊したシャンピオン
(Champillon)
  オーベルジュは、瀟洒な料理と芳醇なシャンパー
  ニュでもって私たちを満足させてくれた。団子の
  有難味を満喫させてくれる、至福の場所だと言え
  るだろう。   
     

     
      
     サン・ティエリー聖イレール教会
       St-Thierry/Église St-Hilaire

                         15 Marne

          
   ランスの町を囲む外環自動車道路
  の外側、町から8
Kmの場所だが、
  葡萄と小麦の畑に囲まれた何ともの
  どかな村だった。
   12世紀に建造された聖堂で、正
  面に鐘塔門のある三廊式の整然とし
  たバシリカ建築だった。
   正面に設けられた玄関間のような
  アーケードも美しかったが、何と言
  っても、聖堂の背後から眺めた写真
  の後陣が気に入ってしまった。
   朴訥とした石の壁の風情が良いし、
  三つの後陣が生き生きとしているよ
  うに感じられた。窓の大きさが気に
  なったが、ゴシックの地とてこの程
  度の修復は許容範囲だろう。
   内陣のアーケードが角柱で、柱頭
  も無く、意匠以前のつまらなさを感
  じただけにそう思われたのかもしれ
  ない。
      

    
      
     クールヴィル聖ジュリアン教会
       Courville/Église St-Julien

                         15 Marne

          
   ランスの西25Km付近のフィ
  スム
(Fismus) という町から、ア
  ルドル
(Ardre) という細い川が流
  れる小さな谷間を少し入った酪農
  の村である。
   聖堂は三廊式で、身廊の高い天
  井は横断アーチのある円筒ヴォー
  ルトだった。柱や壁には不規則な
  大きさの石を、いかにも武骨に積
  んだような素朴さが残っており、
  今回の旅でこれぞロマネスクと感
  じさせてくれた教会の一つだった。
   写真は北側廊から身廊方向を撮
  ったもので、側廊の天井は低い交
  差穹窿である。
   低い位置にある柱頭彫刻が素晴
  らしく、写真中央の柱頭のように
  各種の花を図案化したものが中心
  だった。非凡な技術を持った石工
  の仕事だろう。
   半円の代わりに三つの半六角形
  の突き出した後陣の眺めも捨て難
  い魅力を秘めていた。
      

     
      
     ワッシー聖母教会
       Wassy/Église Notre-Dame

                         17 Haute-Marne

          
   シャンパーニュ南部の町で、サ
  ン・ディズィエ
(St-Dizier) の20
  
Km南に位置している。
   12世紀の創建だが、ファサー
  ドは基礎を残してゴシックに改造
  され、聖堂両側の側廊の外壁面に
  は小礼拝堂が増築されている。
   祭室も近年の改造なので、創建
  当初の外観が見られるのは翼廊部
  分と交差部に建つ鐘塔のみだろう。
   しかし、内陣のアーケードや束
  ね柱や柱頭部分は12世紀のもの
  であり、特に柱頭には卓越した彫
  刻が数多く残されていた。
   写真はその内の傑作のひとつで、
  植物と人物とを絡ませた深い彫り
  が印象的だった。葡萄の蔓と一体
  化した葉人間のようでもあり、聖
  樹信仰からケルトへと、思いは広
  がっていく。
   教会の鍵を開けるために、観光
  案内所の方のお世話になった。
      

     
      
     ヴィニョリー聖エチェンヌ教会
       Vignory/Église St-Étienne

                         17 Haute-Marne

          
   前述のワッシーからマルヌ川に沿って南下、
  ショーモン
(Chaumont) 方面へ向かい約45
  
Km車を走らせる。
   緑濃い谷間の町で、マルヌ川沿いの国道から
  は少しだけ高い場所になる。

   11世紀に建造されたこの聖堂は、翼廊の無
  い三廊式バシリカ聖堂である。
   珍しいのは、側廊を真っ直ぐ進むと、そのま
  ま祭室の外側に造られた周歩廊に続き、ぐるっ
  と回って反対側の側廊へと戻る、そういう設計
  なのである。
   周歩廊には三つの半円形小礼拝堂が設けられ
  ており、側廊の北側の先端上部に鐘塔が建てら
  れているのだが、後方から撮った写真でそうし
  た構造が想像出来るはずである。
   池に写った聖堂の姿は、当地方の観光ポスタ
  ーになっていた。

   身廊と側廊の間を仕切る高い天井まで届くア
  ーケードは、三段のアーチで構成されており、
  身廊はかなり巾の狭く感じられる空間となって
  いる。そんな圧迫感を和らげているのが、二段
  目のアーケードで、これは側廊の上に設けられ
  たトリビューン(階上回廊)の開口部である。

   柱頭には見るべきものが多く、特に周歩廊の
  内側に並ぶ祭室の円柱に集中している。ライオ
  ンなどの動物をモチーフとした傑作で飾られて
  いるのである。  
      

     
      
     ラングル聖マンメ大聖堂
       Langres/Cathédrale St-Mammés

                         17 Haute-Marne

          
   シャンパーニュの最南端に位置しており、
  ブルゴーニュ北端のディジョン
(Dijon) まで
  は60
Km足らずである。

   大聖堂の建造は12世紀とも言われるが、
  現在残っている聖堂は13世紀のものと思わ
  れる。
   三廊式で翼廊部分があるのだが、前述のヴ
  ィニョリーと同じ様式で、側廊から祭室の周
  歩廊へと直結している。側廊の上部は後陣も
  含めてぐるりとトリビューンになっており、
  二連のアーケードがその開口部を装飾してい
  るという大層豪華な設計である。
   
   身廊アーケードは尖頭アーチで構成されて
  おり、天井も横断尖頭アーチと交差リブ・ヴ
  ォールトが基本となっている。
   13世紀はロマネスクも後期であり、ゴシ
  ック的な意匠の事例はシャンパーニュには事
  欠かず、さらにブルゴーニュの巡礼教会にも
  似たプランを取り入れているところが、この
  教会の渾然とした面白さとなっているのだろ
  うと思う。

   ちなみに、後陣に張り出した五つの小祭室
  は14世紀、西正面のファサードは18世紀
  の建築である。
      

        このページTOPへ  次のページ (Alsace)   前のページ (Auvergne)  ロマネスクTOPへ
  
     
日本庭園TOPへ 石造美術TOPへ 古代巨石文明TOPへ 総合TOPへ 掲示板へ