英国(北部)のロマネスク
      Romanesque in North Britain
       
   英国はイングランド、ウェールズ、ス
  コットランド、北アイルランドから成り
  立っている。
   連合王国
(United Kingdom)としての英
  国は一つだが、州や県ではなく別の国々
  であると解釈したほうが理解しやすいか
  もしれない。
 
   編集の都合上、英国を北部と南部に分
  けて掲載する。
Leicester, Stafford,
  
Cheshire 以北を「北部」とした。

   6世紀の中頃にアイルランドから渡っ
  てきた聖コロンバによって始められた修
  道院の建設は、アイオナから各地へと広
  がっていった。
   ピクトなどの先住民は熱心な信者とな
  ったが、16世紀の宗教改革で修道院廃
  止が敢行され、それ以前のロマネスク的
  な建築や彫刻はその大半が失われてしま
  っている。
   かすかに残るロマネスクの名残を英国
  各地に追い求めて見た。   
 ピクトの石 (Pictish Symbol Stone)
 
Maiden Stone  
 
Inverurie (Aberdeenshire/Scotland)

  
       

   
   
     セント・アンドリュース聖レグルス教会
       St.Andrews/ St.Regulus Church

                        
Fife (Scotland)

      
   4世紀に聖アンドリューの聖遺物が聖レグル
  ス
(St-Regulus)によってもたらされて以来、こ
  こはスコットランドの守護聖人を祀る重要な巡
  礼の聖地となった。
   現在の大聖堂はその大半の建築を失ってしま
  っており、最も古い部分は写真の翼廊部分と、
  アーチの向こうに見える聖レグルス教会の塔で
  ある。創建は1160年で、大聖堂はここから発展
  していったのである。
   後世の大聖堂や修道院が隣接していたので、
  遺跡は無数の礎石や崩れた柱で埋め尽くされ、
  まさに壮観と言える。礎石から往時の聖堂建築
  が想像出来るのは、遺跡を旅する大きな楽しみ
  だろう。
   しかし、宗教改革によって英国国教にと改宗
  されたことで、それ以前に建てられていた修道
  院や聖堂の大半が喪失してしまったことを、こ
  れらの遺跡が悲痛に物語っていることも事実で
  ある。
   私達はゴルフリンクスに隣接するホテルに数
  日滞在し、ゴルフの聖地としてのオールド・コ
  ースでのプレイも楽しんだ。
   

   
   
     ロウチャーズ教区教会  
       Leuchars/ Parish Church

                         Fife (Scotland)

          
   セント・アンドリュースに滞在していた或る日
  の午後、私達は約10
Km離れたこの小さな村を
  訪ねた。丘の上に建っている、写真の小さな教会
  を見るためだった。

   聖堂は単身廊のバジリカ式で、半円形の祭室の
  上に鐘塔が載った格好になっている。
   祭室と内陣を仕切る二つのアーチの輪郭に、ノ
  ルマンの影響を受けた細かい幾何学模様が彫られ
  ている。写真の左端部分は後世に再建されたもの
  らしい。

   外壁にもノルマンの意匠が見られる。重なり合
  って連続する盲アーチ列や、上段のアーチの輪郭
  に彫られた細かい模様などがそれである。
   それらの特徴は半円形をした後陣部分でも顕著
  で、量感に溢れたアーチが連続している。美しい
  と言うよりも、建築の構造と一体化したままの盲
  アーチというプリミティヴな装飾こそが、いかに
  もロマネスク的であると言えるだろう。
    

    
   
     アバレムノピクト石造彫刻
       Aberlemno/Pictish Stone
 
                         
Angus (Scotland)

         
   有名な城の在るグラミス (Glamis) に近いブレ
  チン
(Brechin) の町を中心とした一帯には、かつ
  ての先住民族であったピクト人の遺跡が数多く残
  っている。特にこのアバレムノの村では、不思議
  な模様の石造彫刻を四基見る事が出来た。
   写真はその内の一つで、教会の墓地に建ってい
  たものである。9〜10世紀のものらしいが、ア
  イルランドで見られるようなケルトのハイクロス
  や、いかにもケルトらしい蔓草や渦巻模様が彫ら
  れている。
   4世紀初頭に伝わり、6世紀には修道院布教が
  行われたキリスト教文化と、謎のピクト文明、ケ
  ルトの末裔であったスコット人の美意識、などが
  複雑に混合された図像である。
   重厚なデザインの石碑であり、ハイクロスの意
  匠としても見事な図案だろう。ケルズ書などの写
  本に描かれた装飾模様を見る思いがするほど、技
  術的にも高度な彫刻だといえる。
   アバディーン
(Aberdeen)周辺でも、ピクトの石
  を見る事が出来た。<当サイト巻頭写真参照>
   

    
    
     ダンファームリン修道院附属教会
       Dunfermline/Abbey Church

                         Fife (Scotland)

           
   修道院を中核としたこの町は、スコットラン
  ドのかつての首都であり、歴史や文化の中心で
  あった。
   後に修道院は衰退し、附属教会のみが現在の
  教区教会として存続したという。稀代の英雄ロ
  バート・ザ・ブルースを筆頭に、歴代の王の墓
  がこの教会に在る。
   写真はノルマン式身廊
(Norman Nave)と呼ば
  れる教会堂の西半分で、ケルトがノルマンの影
  響を受けたアングロ・ノルマン時代とも言える
  12世紀修道院創建時の壮麗さを今日に伝えて
  いる。
   身廊は太い列柱で仕切られた三廊式で、数本
  残っている装飾彫刻の施された柱や、アーチの
  輪郭を飾る彫刻、壁面の盲アーチ飾りの意匠な
  どが、往時の栄華を証明するかのようである。

   前出のロウチャーズや後出のダルメニーも同
  時代の遺品であり、ノルマンの影響を知るため
  の最良のテキストとなっている。
    

   
    
     カークウォール聖マグナス大聖堂
       Kirkwall/St.Magnus Cathedral

                      
Isle of Orkney (Scotland)

        
   オークニー島の西北端に位置するブロッホ・
  オブ・バーセイ
(Brough of Birsay) 島に在っ
  た大聖堂は、12世紀に司教座がここカークウ
  ォールに移って以来、完全に廃墟と化した。実
  際島で見た遺跡は、荒涼とした浜辺に礎石と壁
  石が残るのみだった。
   半面、カークウォールの大聖堂は保存も良く、
  建築全体にロマネスク(ノルマン)様式を見る
  事が出来るが、各時代にかなりの修復が成され
  てもいる。
   写真は西のファサードで13世紀のものだが、
  雰囲気が良いので掲載した。赤色と黄色の砂岩
  を用いた三つの門は、ややゴシックがかっては
  いるが大変に美しかった。
   聖堂内部は三廊式の方形十字で、ほぼ中央に
  翼廊が出ており、やはり方形の小礼拝堂が付い
  ている。太い柱は荘重で、部分的には12世紀
  創建時のものも残っているらしい。壁面の盲ア
  ーチ列などにも、北端の島ならではのノルマン
  の強い影響が感じられる意匠だった。   
    

   
    
     アイオナ島修道院
       Isle of Iona/Abbey

                         
Argyll and Bute (Scotland)

     
  スコットランドの西に浮かぶマル島の西端に在
  る小島だが、キリスト教の歴史にとっては決して
  忘れてはならない聖地である。
   6世紀半ばにアイルランドから渡来した聖コロ
  ンバによって、この島に修道院が建設され、キリ
  スト教への改宗の拠点となった。ダブリンのトリ
  ニティー・カレッジに所蔵された至宝ケルズの書
  はここで写本されたのだという。
   宗教改革によって修道院の建築はほとんど失わ
  れてしまったが、聖オランの礼拝堂と、写真の女
  子修道院
(Nunnery)遺跡にのみ、12〜13世紀
  のロマネスク様式が残っていた。
   廃墟の聖堂跡に立ち、かつての清雅な修道院教
  会の姿を想像する楽しみは格別だった。
   再建された男子修道院正面には、三基のケルト
  十字のハイクロスが立ち、アイルランドとの密接
  な関係を物語っている。
   聖マルタン十字架は8世紀、聖マシュー十字架
  は9世紀のものである。聖ヨハネ十字架はレプリ
  カで、8世紀の本物は附属美術館に収納されてお
  り、残念ながらかなり損傷していた。
    

    
    
     ダルメニー聖カスバート教会
       Dalmeny/St.Cuthbert's Church

                        
City of Edinburgh (Scotland)

           
   エジンバラの町から北へ向かうためには、フ
  ォース河口にかかるフォース橋を渡らねばなら
  ないが、この村はその橋への道の少し手前に在
  る。菜の花が咲き乱れる、とてもエジンバラ市
  内とは思えぬほど牧歌的な集落であった。
   教会は静かな町のほぼ中央、広々とした通り
  に面してにひっそりと建っていた。通りの反対
  側のお宅で、教会入口の鍵を貸して頂いた。
   写真はその扉口と、ファサード全体である。
  量感に満ちた彫刻で、いかにもノルマンらしい
  豪快に重なり合った盲アーチ列の印象が強烈だ
  った。タンパンは無いが、アーチ装飾には繊細
  な連続模様や、ケルト色の濃い動植物の図案が
  びっしりと彫り込まれている。スコットランド
  では、最も美しいファサードだろう。
   凹凸は有るが単身廊のバジリカで、半円形の
  祭室が付いている。後陣の眺めも見事だった。
   身廊を仕切る二つのアーチには、ノルマンの
  特徴でもあるギザギザ模様が彫られている。
   小規模ながら英国では珍しい、全てが完璧に
  残ったロマネスク教会である。   
    

    
   
     ジェドバラ修道院教会
       Jedburgh/Abbey Church

                         
Scottish Borders (Scotland)

           
  アウグスティヌス派の修道院として、1138年
  に建てられた。
   ロマネスクの様式は随所に残されてはいるが、
  イングランドの急襲や宗教改革の破壊からは逃
  れられなかった。ボーダー地方の他の修道院と
  比べると、比較的保存は良い方かも知れない。
   赤味を帯びた砂岩の廃墟には、風格有る雰囲
  気が満ちていた。天井は落ち壁は磨耗している
  ものの、壮大で重厚であった聖堂の往時を偲ば
  せるに充分である。

   写真は、西門から身廊を眺めたものである。
  門の装飾や身廊の柱は、概ね12世紀末のもの
  だそうだ。多重アーチ(ヴシュール)の装飾は
  最内側以外が、ほとんど磨滅しているのが残念
  だった。きっと壮麗な門であったに違いない。
   身廊は三廊式で、翼廊が付いた十字型の聖堂
  であったらしい。現在は翼廊の北側しか残って
  いない。祭室も小礼拝堂も全て方形で、平面図
  に曲線が無いのはいかにも英国の聖堂らしいが、
  やや物足りなさを感じてしまう。
    

    
    
     ドライバラ修道院
       Dryburgh/Abbey

                        Scottish Borders (Scotland)

             
  前出の町ジェドバラやエジンバラ
  
(Edinburgh)もそうだが、語尾に付
  くバラ
(Burgh)は、自治独立した要
  塞都市を意味するらしい。
   この修道院の破壊はかなりのもの
  で、附属教会や回廊はほとんど原形
  を残していない。
   しかし、礎石や土台ばかりの静謐
  な廃墟の中に立つと、12〜13世
  紀に建造された建築群が見えてくる
  ような錯覚を感じた。
   写真は、建造物が最も美しく残っ
  ている部分である。手前の芝は回廊
  跡で、突き当たりのアーチ門が聖堂
  へ通じる側廊南門、そのすぐ右の高
  い部分が翼廊なのである。
   右側に連なる建物やアーチ門は、
  聖具室など僧院の各部屋で、回廊に
  面して入口があったことになる。
   聖堂跡で野外結婚式が行われてい
  たが、質素で趣味の良いとてもチャ
  ーミングな儀式だった。  
    

   
     
     ケルソ修道院
       Kelso/ Abbey

                        Scottish Borders (Scotland)

           
   ボーダー地方には前出の二つのほかに、ここ
  とメルローズ
(Melrose) など、中世の重要な修
  道院が密集していた。
   ツイード生地で有名なツイード川流域は、従
  来から産業が盛んで、自治意識の強い土壌が在
  ったからだろう。
  
   荒廃の程度はこの廃墟が最も大きいのだが、
  残された遺構は12世紀創建当初のもので、随
  所にロマネスク時代の痕跡を見る事が出来る。
   現存する建造物は写真の西ファサードと、そ
  れに続く翼廊だけであり、その奥の身廊や祭室
  部分は完全に失われている。
   翼廊が手前にあるのが妙だが、両端に翼廊を
  持つオットー朝様式だったのかもしれない。
   五重のアーチ装飾を施したヴシュールが入口
  を飾っていたのだが、現在は左端部分が少しだ
  け残っているに過ぎない。
   翼廊の北門は比較的保存が良く、やや修復の
  跡が見えるものの、ノルマン的な盲アーチ装飾
  が残存している。
    

    
    
     ビューキャスルハイクロス
       Bewcastle/High Cross

                         
Cumbria (England)

           
   スコットランドとイングランドの国境周辺に
  は、初期中世キリスト教美術ともいうべき十字
  架が残っていることを知った。
   ラスウェル
(Ruthwell) とここの二ヶ所だっ
  たが、旅程の都合で、どうしても見たかったハ
  ドリアヌス帝の壁
(Hadrian's Wall) に近いこち
  らを選んだのだった。
   小さな礼拝堂の墓地に建つこの十字架には、
  明らかにケルト的な装飾彫刻が成されている。
  十字部分は失われているが、ケルト十字のハイ
  クロスであったらしく、その規模は空前の大き
  さであっただろう。
   ラスウェルのものは7世紀とのことだが、こ
  こはその直後の作ではないかと思う。
   各面に彫られた図像は、大変興味深いものば
  かりである。西面の人物像は、上から洗礼のヨ
  ハネ、荘厳のキリスト
(The Majesty)、福音書
  のヨハネだろうと言われている。
   南面には、日時計の有る蔓草模様、複雑な組
  紐模様、葡萄の蔓などが描かれており、判じ物
  みたいで意味は不明とはいえ、大層美しい彫刻
  である。
    

   
   
     リンカーン大聖堂
       Lincoln/Cathedral

                         
Lincolnshire (England)

           
   この大聖堂は11世紀後半に征服王ウィリ
  アムスによって創建されたのだが、約百年後
  の地震で崩壊してしまった。創建当初の姿を
  留めているのは、写真の西正面ファサード下
  部と門だけなのだ。
   現存する壮麗な聖堂建築の大半は、12世
  紀後半から13世紀後半にかけての初期イン
  グランド・ゴシック様式である。
   扉口として正面中央部分に三つのアーチ門
  があり、それぞれが四重か五重のヴシュール
  彫刻に飾られている。両側の柱や柱頭にもノ
  ルマン的な幾何学模様が彫られており、繊細
  な美しさを見せている。熱狂的なほどの迫力
  を示すゴシック建築の中にあって、この部分
  だけが至極冷静な感じがした。
   最も左の小アーチの上に、白い帯状に見え
  る部分がある。聖書の物語を主題としたレリ
  ーフが、絵巻物のようにはめ込まれているの
  だった。
   楽園追放やカインの物語、ノアの箱舟、ダ
  ニエルとライオン、ラザロの物語など、新旧
  約の説話が彫られているのだが、洗われたの
  か修復されたのか、昔よりかなり綺麗になっ
  てしまっている。
   
    

   
   
     サウスウェル大聖堂
       Southwell/Minister

                         
Nottinghamshire (England)

           
   イングランドでは珍しいスタイルの大聖堂
  で、写真は二本の塔の建つ西側からの眺めで
  ある。
   ロマネスクとゴシックが混在しているのだ
  が、大まかには西半分がロマネスクで、東半
  分がゴシックだといえるだろう。
   身廊は三廊式で、中央に袖廊が付く十字型
  になっている。
   従来後陣であった部分に、更なる身廊が継
  ぎ足されたような格好なのだ。
   身廊内部の建築は壮麗で、太い円柱が豪快
  に連なり、トリビューンのような二階部分と
  採光用の窓のある階が重なった、三層構造に
  なっているのが特徴だ。
   ロマネスク部分にはこの太い円柱が片側六
  本づつ、計十二本が立っているので、とても
  荘重なイメージが形作られている。
   袖廊と身廊の交差部分の柱頭に、カナの宴
  やキリストのエルサレム入城などをモチーフ
  にした彫刻が見られた。
   袖廊の壁にタンパン彫刻が飾られている。
  中央に彫られているのは、龍と戦う聖ミカエ
  ルの姿である。
   
    

   
   
     サンドバッチ十字架
       Sandbach/Crosses

                         
Cheshire (England)

           
   マーケット広場に建つこれら二本の石柱は
  9世紀ごろのものらしいのだが、どこを探し
  ても案内看板など無かった。
   一人の紳士が私に歩み寄り「この十字架は
  アングロ・サクソンが建てたんだよ」と説明
  してくれた。そこで「いつ頃ですか?」と訊
  ねると、彼がそう答えたのだった。
   「アングロ・サクソン!」という「サ」を
  強調する発音の仕方に、イングランドの盟主
  たる誇りのようなものが感じられた。
   ケルトの十字架とは、少しイメージが違う
  ようだ。だが、柱身部に彫られた精密な彫刻
  は、こちらも見事なものだ。蔓草のような枝
  葉が天に延びていく図柄などは、ケルトのイ
  メージに似ているような気もする。
   右側の十字架の中央部分に磔刑図が彫られ
  ており、その周囲に多くの聖人像が散りばめ
  てある。ペテロとパウロは確認できたが、他
  はほとんど判別できなかった。
   やや彫りは稚拙ではあるが、5mを越す石
  造十字架の示す存在感にはかなりの説得力が
  感じられる。
   
    

  
   
     タトベリー聖マリー教会
       Tutbury/Church of St Mary

                         
Staffordshire (England)

           
   ダービー州との境界に近い小さな町で、ダー
  ビー
(Derby)の町の西10Kmに位置している。
   教会は町から少し外れた丘の上に建っており、
  苔むした緑濃い雰囲気に囲まれていた。
   ここでもロマネスクとゴシックが、共存する
  かのように混在している。
   聖堂の下部構造はロマネスクであり、上半分
  が大きな窓を持つゴシックだった。
   写真は西門とファサードである。五重のヴシ
  ュール装飾によるアーチ門は荘重であり、詳細
  に眺めると、花や蝶、馬や猫らしき動物像をア
  レンジした連続模様がアーチを飾っている。
   現在の聖堂への扉口は南側の門となっており、
  ここにも飾りアーチやまぐさ石彫刻が見られた
  が、かなり摩滅しており明らかな修復部分も確
  認できた。
   身廊は三廊式で、太い四本の柱を十字に束ね
  た豪壮な柱が並んでいるのは圧巻だった。ただ、
  この部分もかなり修復されているようだ。
   英国には創建当時のままのロマネスク教会は
  ほとんど存在しないと分かっているとはいえ、
  欲求不満が少しづつ溜まってきているような気
  がしていた。
    

   
   
     ピーターバラ大聖堂
       Peterborough/Cathedral

                         
Cambridgeshire (England)

           
   ピーターバラの郊外に2泊しながら、近郊のロ
  マネスク教会や古い町を見て歩いた。
   この大聖堂は町の中心に建っており、やはり御
  多分に漏れずロマネスクとゴシックが重なり合っ
  ている。
   ここでは、12世紀のロマネスク身廊建築を、
  ゴシックという外壁で覆った、という表現が適切
  かもしれない。
   つまり、身廊の外壁、トリビューンの上の採光
  階、側廊天井の交差リブ、後陣の外壁などが完全
  にゴシックに改造されているのである。
   訊ねたのは雨の夕暮れ時で堂内は大層暗かった
  のだが、やわらかい照明によって浮き上った内陣
  は、ロマネスクの構造体が示す美しさをより鮮明
  に見せていたのだった。
   写真は、身廊と側廊を仕切るアーケードとトリ
  ビューンで、大小の半円アーチが作り出すリズミ
  ックな美しさが感じられる。
   特に、トリビューンの二連アーチによるアーケ
  ードの意匠は洗練されており、さほど珍しくはな
  いのだがロマネスク不毛の英国に在っては、キラ
  リと輝く存在に思えたのだった。
    

   
   
     キャスター聖キーンバラー教会
       Castor/Church of St Kyneburgha

                         
Cambridgeshire (England)

           
   ピーターバラの西郊外にある、
  安価だが瀟洒な宿に滞在していた。
  この村はそこから車で数分の、緑
  に囲まれた静かな集落だった。
   この愛らしい教会は小高い丘の
  上に建っており、外観からは扉口
  と鐘塔だけが明らかにロマネスク
  だと確認は出来るのだが、聖堂の
  大半はゴシックなど後世の改修が
  顕著である。
   鐘塔の下は身廊と翼廊の交差部
  で、その四隅に建つ柱は古く、柱
  頭にはロマネスク時代の彫刻が残
  されていた。
   写真はその内の一部で、ロマネ
  スクでは定番かもしれないが、植
  物模様と怪獣面が組み合わされた
  ものだ。
   彫りはやや浅いが、四隅各面の
  柱頭全てに彫刻が施されていて壮
  観だった。
    

   
   
     ブリードン・オン・ザ・ヒル小修道院
       Breedon-on-the-Hill/Priory

                         
Leicestershire (England)

           
   ダービーの南10マイルにあ
  る、小さな村である。その名の
  通り見晴らしの良い丘の上の集
  落で、教会はさらに奥の台地に
  建っていた。修道院は廃墟で、
  現在は墓地と教会堂しか残って
  いないようだ。
   ゴシックの聖堂だが、村の礼
  拝堂といった規模の親しみ易い
  お堂である。
   三廊式側廊の奥壁に、アング
  ロ・サクソンの彫刻レリーフが
  ずらり並んではめ込まれている。
   中央に聖母像、そして両側に
  使徒や聖人の像が並んでいた。
   これらの彫刻が、何らかの権
  力を背景とした威圧的な存在で
  は全くなく、大衆の素朴な信仰
  にのみ支えられたことを立証す
  るかのような稚拙さこそが好ま
  しかった。
    

   
   
     メルボルン聖ミシェル教区教会
       Melbourne/ Parish Church of St Michel

                         
Derbyshire (England)

           
   前記のブリードンからダービ
  ーへと戻る途中に、丸で湖畔の
  別荘地のように瀟洒なこの集落
  がある。
   聖堂はまるで要塞のような建
  築で、ロマネスクのように無骨
  な構造でありながら、窓は全て
  ゴシック様式になっていた。
   ロマネスクの壁を維持しなが
  ら、可能な限り窓を広げた結果
  なのかもしれない。
   しかし、堂内へと入ると、写
  真のように完全なロマネスクの
  世界へと変わっていく。
   三廊式十字形で、後陣はゴシ
  ックながら三つの祭室を備えた
  美しいロマネスク・プランでは
  ないか。
   本格的なロマネスク聖堂の出
  現に、まるで久しぶりに素敵な
  恋人と出会ったような感激をし
  てしまったのである。
     

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