ブルターニュ地方
     のロマネスク

 Bretagne Romane
 
   

   
ケルト色濃いブルターニュの教会 
    
Eglise de Perros-Guirec
    
Côtes-d'Armor Bretagne
 
 
 フランス最西端のブルターニュ地方はかつて
のブルターニュ公国であり、ケルトやブリテン
の先住民も住んでいた地方である。
 この地方独自の言語であるブルトン語が話さ
れ、中世以来の収穫祭りやパルドン祭が毎年行
われる等、ケルト色を濃く残した地方である。
 ロマネスク教会にもそうした地方色豊かな彫
刻などが残る、まことに幻想的な雰囲気を伝え
ている。
 
 
 
 
 
県名と県庁所在地

   1 Ille-et-Vilaine (Rennes)
   
2 Côtes-d'Armor (St-Brieuc)
   
3 Finistère (Quimper)
   
4 Morbihan (Vannes)
   
5 Loire-Atlantique (Nantes)
      
 
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  ディナン聖ソヴール教会
  Dinan / Église St-Sauveur

      2 Côtes-d'Armor  

               
   
 
 ディナンの町は丘の上に在り、城壁に囲まれ
た旧市街には石畳の道と木造の家並が残されて
いる。商店が立ち並ぶ賑やかな一画に隣接して
広場があり、正面にこの教会が建っている。

 聖堂はゴシックやルネサンスに改造されてい
るが、正面の門と左右のアーケード、それに身
廊右側の壁面だけがロマネスクの遺構である。

 扉口上部のタンパンには、キリストと二天使
が彫られているが、明らかに後世の作品だと思
われる。二重のヴシュールには植物模様と聖人
像が連続して彫られおり、この部分の彫刻には
12世紀創建当初のロマネスクらしい素朴さが
見られる。
 柱頭には、ヘロデ王と三博士の場面や、聖イ
ノセントの殉教などが描かれているのだが、残
念ながらかなり摩滅している。
 アーチ上部左右に、聖マルコを象徴する獅子
と、聖ルカを象徴する雄牛が彫られている。ど
ちらも天使のような羽を持っているところが面
白い。   
 
 
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 ランレフ聖マリー教会跡
  Lanleff/Ruines
     de l'Église Ste-Marie
 

      2 Côtes-d'Armor  

                
 
 
 サン・ブリウー St-Brieuc から、ピエール
・ロティの小説「氷島の漁夫」の舞台として知
られる漁港ペンポルへと向かう途中にこの名も
無き寒村が在る。
 村を歩いていると
“Temple” と書かれた看
板が有った。“神殿”を意味するその言葉に誘
われて、一体どんな建築が在るのかと思いなが
ら細い道を曲がった。と、そこには妙な聖堂が
私達を待っていたのだった。
 半円アーチ窓が連続する円形の壁の中に、1
2本の柱でやはり円形の祭室が造られている。
その間は、必然的に円形の側廊となっているの
であった。天井は完全に崩落しているので、輪
郭は城壁のように見える。
 写真は円形祭室の内側から外側に向いて側廊
を眺めたもので、アーチの外側が側廊である。
 円形教会の事例はほぼ円形の正多角形のもの
も含め、稀ではあるものの各地に存在する。だ
がこの聖堂の不思議さは、ローマ時代の神殿の
ようなイメージや、ケルトの土俗性を感じさせ
るような雰囲気に有るのだろう。いかにもブル
ターニュらしくなってきた、と興奮したもので
ある。
 12世紀にこの地の領主が、十字軍遠征の際
に見たエルサレムの聖墳墓教会を真似て建てさ
せた、という歴史的背景も存在する。  
 
 
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 ブールブリアック
    聖ブリアック教会

  Bourbriac / Église St-Briac 

      2 Côtes-d'Armor  

                
 
 ここはギンガン Guingamp の南13キロに
位置しており、小高い丘の上に旧市街のある静
かな町だ。
 教会は豊かな緑と花に囲まれた、チャーミン
グな広場の中心に建っている。
 鐘塔や扉口や聖堂の大半がフランボワイアン
・ゴシック様式に改築されている。先ずは目的
の地下祭室クリプトへと降りた。
 なんとも狭い素朴な空間で柱は四本あり、円
柱が二本と四角・八角が各一本という変則的な
構造である。
 天井は漆喰で固められており、交差穹窿の曲
線がしなやかだった。
 半地下のような構造になっているので、窓か
ら差し込む光が明るくクリプト内を照らしてい
た。教会の原点を示すクリプトの魅力は、ロマ
ネスク行脚の楽しみの中でも重要な要素の一つ
である。
 
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 トレギエ
   聖テュグデュアル大聖堂

  Tréguier/ Cathédrale
      St-Tugdual
 

      2 Côtes-d'Armor  

                
 
 
 この大聖堂は、ブルターニュで最も美しいゴ
シック建築、と言われる。三廊式の身廊で、高
い天井や尖頭アーチなど、完全にゴシック様式
なのだが、どこかシックで落ち着いた雰囲気で
ある。
 袖廊は南側に現在の扉口が設けられており、
反対の北側はアスタン
Hastings と呼ばれる
鐘塔になっている。この塔部分だけに、12世
紀建造のロマネスク様式が残されている。南の
入口から堂内へ入り、身廊を横切って袖廊の北
側へ行くと、もうそこが塔の内部なのである。
 身廊との境界は二連のアーチになっており、
アーチを支える部分には柱頭彫刻が施されてい
る。写真は中央の柱の柱頭で、ケルト的な意匠
の組紐や渦巻の文様で飾られている。
 柱の土台である柱礎にも柱頭をひっくり返し
たような部分があり、やはり同じ様な紐や渦巻
が彫られていた。
 ゴシック様式の回廊から、初めてこの塔の全
容を見ることが出来た。
 
 
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 ブレレヴネ三位一体教会
  Brélévenez/Église de la Trinité 

      2 Côtes-d'Armor  

                 
 
 ラニオン Lannion の町に隣接するこの高
台地区へのアプローチは、見上げるような石段
を登るか、裏側から通じる細い道を車で行くし
かない。
 教会のテラスからの眺望は抜群だった。
 身廊は三廊式で太い円柱が魅力だが、かなり
の部分がゴシック以降に改築されている。身廊
の円柱と南側の扉口、そして写真の後陣部分の
みが12世紀後半のロマネスク様式である。
 写真は、側廊がそのまま後陣の周歩廊につな
がっている部分を写している。周歩廊の外側に
は通常幾つかの放射状祭室が付いているが、こ
こでは正面に大きな祭室が設けられているのみ
である。
 後陣を外の墓地から眺めてみた。小さな窓と
石を積んだ壁が、見事にロマネスクを証明して
いた。
 太い円柱や半円アーチの窓に安心感を覚え、
柱頭の素朴な装飾彫刻を見て喜んでしまうとい
う、この“ロマネスク病”は完全に重症と化し
てしまったようだ。
 
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 ペロス・ギレック
    聖ジャック聖ギレック教会

  Perros-Guirec/Église
     St-Jacques-et-St-Guirec
 

      2 Côtes-d'Armor  

                 
   
 
 ラニオンの町から真北に向かい海岸線まで出
てから、北端の岬に近いこの町を訪ねた。
 教会の起源は5世紀で、ウェールズから来た
聖ギレックに由来するという。

 聖堂の建築は三廊式、天井は木造の箱型バジ
リカ形式という至極質素な様式なのだが、身廊
と側廊を仕切る北側の円柱が、写真のような素
朴な姿でアーチ列柱を構成しているのに目を奪
われた。

 柱頭の部分が円筒形のままであるのが特徴で
あり、ここに様々な図案が彫られていた。特に
注目したのが写真の菊紋と渦巻だった。菊紋は
車輪で、聖カタリーナの象徴かと思われたが、
渦巻はいかにもケルト的なモチーフである。
 柱頭の上部に浮き彫りされた顔は、ケルト特
有の生首彫刻のようにも見える。

 南側の列柱には普通の形をした柱頭が付いて
おり、旧約聖書の物語らしい素朴で可愛い彫刻
が彫られていた。
 西欧的な価値観とは異なった、ケルト的な美
意識の散りばめられた教会だった。
 
 
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 ランムール
   ケルニトロンの聖母礼拝堂

  Lanmeur/Chapelle
   Notre-Dame de Kernitron
 

      3 Finistère  

                 
 
 
 ランムールに着いた時は豪雨の真っ只中だっ
たが、郊外の静かなこの教会の前で開門をしば
らく待っていた間に、雨は奇跡的に上ってしま
った。
 礼拝堂と言うにはかなり大きな建築だが、構
造は簡素な単身廊の十字形である。袖廊の南正
面が扉口になっている。摩滅したタンパンとヴ
シュールが残るこのファサード部分と袖廊、そ
して身廊の西側部分が12世紀ロマネスクであ
る。東側部分は14世紀以降のゴシック様式に
よる改築が成された祭室である。
 写真の柱頭彫刻は、最も素朴さの残る袖廊の
西壁部分のものである。
 アーケードの一つ一つに人間の首が彫られて
おり、アイルランドで見たケルト色の濃い生首
意匠と瓜二つである。
 しかし、高度の洗練された美意識を持ってい
たケルトが、なぜ生首に格別の愛着を抱いてい
たのかが理解できないでいる。
 
 
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 ランムール聖メラー教会
  Lanmeur/ Église St-Mélar 
 
      3 Finistère  

                 
 
 
 この地区教会は、ランムールの町の中心部に
建っている。聖堂建築は残念ながら後世の再建
で、ゴシックなど様々な様式が混ざってしまっ
ているようだ。目的は地下のクリプトなので、
さして落胆することはなかった。
 クリプトは幅5m奥行8m程の広さで、円柱
が二列に4本づつ並んでいる。
 天井の半円アーチや太い柱、装飾の無い柱頭
が、いかにも12世紀創建当初の素朴な聖堂の
姿を髣髴とさせてくれる。
 ユニークなのは柱身に施された文様彫刻であ
る。中央の最も太い二本の柱に、植物の蔓のよ
うな、また幾つもの頭を持つ蛇のようにも見え
る浮彫が見られる。
 何処かで見たような模様だが、モルビアン湾
のガヴリニ島にある古代遺跡で見たことを思い
出した。古代のデザインに啓発されたケルトの
イメージとして、中世まで伝えられた可能性は
ありそうだ。
 それにしても、血管の浮き出たような意匠は
なんとも薄気味の悪いものだった。  
 
 
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 ロケノレ聖ゲノレ教会
  Locquénolé/ Église St-Guénolé 

      3 Finistère  

                  
   
 
 モルレー Morlaix の北7キロに位置する小
さな町で、ジャルロ
Jarlot 川の河口でモルレ
ー湾の入り口に当たる沿岸の斜面に開けた集落
である。

 教会は町の斜面の上方に建っており、中世の
雰囲気に満ちた聖域となっている。境内には、
16世紀頃のカルヴェール(十字架)が設けら
れている。
   
 聖堂の歴史は古く創建は11世紀だが、かな
りの修復が成されて今日に至っている。ロマネ
スクは柱頭など部分的に見られるが、一部には
カロリング朝時代の遺構も認められる。

 身廊と翼廊の交差部分、特に四方の柱の柱頭
部分に写真の様な渦巻文様を主体とした装飾が
何基も見られる。
 渦巻と人物像、十字架、幾何学模様などが組
み合わされており、ロックトゥデイの聖トゥデ
イ教会などと共に最もケルト的な意匠が見られ
る場所だと思う。
 しかし、子供が描いたような稚拙とも思える
図像に、何故かくも惹かれるのだろうか。素朴
や抽象を遥かに超越して訴えてくるもの、それ
は現代の人類がとっくに失ってしまった郷愁の
ようなものに近い美意識なのかもしれない。
 
 
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 ダウラス聖母修道院遺跡
  Daoulas/Vestiges
     de l'Abbaye Notre-Dame
 
 
      3 Finistère  

                 
   
 
 モルレーに滞在して、 Calvaire カルヴェー
ルという十字架を表現した一連の彫刻群を、各
地に探訪しながら半島の西部へとやって来た。

 この修道院前の広場にも十字架彫刻が有った
が、私達の目的はひたすら修道院内に残ってい
る回廊だった。
 全体が遺跡として保存されている中で、辛う
じて原形を保っているとされる回廊ですら、完
全な廃墟としか見えなかった。
 屋根は落ち、壁は完璧に失われている。アー
チ列柱は苔むして黒ずみ、三方しか残っていな
いのである。

 写真は回廊の内庭に据えられた水盤である。
泉水を受けるためなのか、手を洗うためのもの
なのかは判らない。水盤の側面を詳細に眺めて
みたが、彫られた模様は竹籠形・菱形・鋸刃型
・車輪形など多岐にわたる。そして、口を開い
た生首が、等間隔に並んでいるのである。
 フランスではこのイメージはブルターニュ独
特であり、古代ケルトの遺品やアイルランドで
見るケルトの印象にかなり近い。
 今回、再訪を果たしたが、修道院入口などが
美術館として整備された以外、特に回廊周辺に
大きな改修は見られなかった。
 
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 ランデヴェネック
    聖ゲノレ修道院教会遺構

   Landévénnec/Ruines
     de l'Abbatiale St-Guénolé
 
 
      3 Finistère  

                 
 
 
 入り組んだブレスト湾の最奥、クロゾン半島
の付け根の町で、新旧の修道院があることで知
られる。
 5世紀に起源を持つ旧修道院は、現在は完全
な廃墟となり、付属教会や回廊の遺構だけが残
されている。
 写真は教会遺構の三後陣で、かつての聖堂の
規模や壮麗さを髣髴とさせるものである。
 ロマネスク様式の三廊式身廊跡には、付け柱
のある角柱が並び、いかに壮大な聖堂であった
かが十分に想像出来る。
 付属の美術館に、収納された旧教会の柱頭や
レリーフなどが展示されており、想像した往時
の姿に現実味が加わってくる。
 
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 ケリネックノートルダム礼拝堂
  Kérinec/Chapelle Notre-Dame 
 
      3 Finistère  

                 
   
 
 オペラでも有名なトリスタンの島で知られる
ドゥアルヌネ
Douarnenez の西8キロにある
寒村で、ロマネスクの礼拝堂と古代遺跡のドル
メン
Dolmen が目的であった。

 木立に囲まれた教会堂は、落ち着いた雰囲気
が抒情をくすぐるような佇まいだった。
 聖堂建築全体を一目見ただけで、鐘塔などか
なりゴシック様式に改造されている、と気付か
される。後陣や袖廊の窓は大きめの尖頭形であ
り、ステンドグラスがはめ込まれていたからで
あった。

 しかし、写真で見る通り、聖堂内部は大分趣
が変わっており、特に身廊部分に設けられたア
ーケードは、連続する半円アーチが見事にロマ
ネスクの安定した美しさを伝えていた。
 創建は13世紀とのことなので、時代的には
当然ゴシック的な要素が有って当然なのだが、
ロマネスク末期の様式が残されたものだろうと
思う。
 アーケードの柱は8本の円柱の束ね柱で、こ
れこそはロマネスク期になって現れた建築様式
なのである。軽快なバランスの美しいアーケー
ドが構成されている。
 天井は木造だが、半円筒形のヴォールトを形
づくっている。
 
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 ポン・クロワ聖母参事会教会
  Pont-Croix
/Collégiale
    Notre-Dame-de-Roscudon

      3 Finistère  

                  
   
 
 前述のケリネックから更に西へと8キロほど
行けば、この地方の中心となっているこの町へ
と到着する。絵に描きたくなるような愛らしい
町である。

 この壮大な教会堂は町の南側に建っており、
四本の小塔を持つ15世紀の優美な鐘塔は、町
のどこからでも眺めることが出来る。

 建築最古の部分は12世紀とのことだが、八
つのベイ(梁間)を持つ身廊は、束ね柱の円柱
アーケードによって三廊式の側廊とが仕切られ
ている。この辺りにロマネスク時代の痕跡を見
ることが出来るのだろう、と思う。

 写真は、身廊東寄り部分から北側廊方向を眺
めたもので、側廊の外側に更にもう一列側廊が
設けられた珍しいケースである。これは15世
紀頃の補修であるらしい。
 有名なのは南側の扉口で、派手なゴシック様
式の彫刻装飾が成されているが、これも15世
紀の作であるらしい。見ようによっては、悪趣
味の権化、とも言えそうな代物である。
 前述のケリネックもそうだが、この地方の聖
堂建築のモデルとなっていたようである。

 絶景のラズ岬
Pointe du Raz へは、この町
から20キロ足らずである。
 
 
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 ランギドゥ聖ギュイ礼拝堂跡
  Languidou/Ruines
     de la Chapelle St-Guy
 
 
      3 Finistère  

                 
   
 
 半島の西端ラズ岬から海岸沿いに車を走らせ
て、
Notre-Dame de Tronoën トロノエンの
聖母と呼ばれる教会を私達は目指していた。そ
の途中で、全くの偶然から立ち寄ることとなっ
た廃墟である。
 隠れロマネスクの発見と自慢しようと思って
いたら、何とゾディアック叢書が既に片隅なが
らちゃんと掲載していた事を後日知るという、
我が家では問題の廃墟である。
 廃墟好きの私が、フランス国土地理院発行の
10万分の1の地図を見ていて発見したのだっ
たが、ここは廃墟と言うにはかなりの建造物が
残っていた。

 礼拝堂は方形で三廊式。正面の薔薇窓などか
なりの部分がゴシックに改修されてはいるが、
身廊の柱やアーチ壁、さらに側廊に残る半円ア
ーチ門などにはロマネスクがきりっと残されて
いた。
 写真は、礼拝堂の内部を仕切る柱周辺から、
祭室方向を写したものである。おそらく、身廊
を前後に分ける横断アーチが、この柱頭の上に
載っていたのだろう。柱頭の網目のような模様
が、少しケルト的な図案かもしれない。

 手前半分は、外側の壁と数本の柱以外の建築
の大半が失われており、緑一色の草原の只中に
浮かぶようにして残された聖堂遺跡は、まるで
難破船の残骸のように見えた。
 
 
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 ロックトゥディ聖トゥディ教会
  Loctudy/ Église St-Tudy 

      3 Finistère  

                  
 
 
 この町はカンペール Quimper の西南に伸
びる半島の先端に位置する港町である。かくも
美しい教会と、深い入り江のあるこの場所が、
何故ほとんどのガイドブックに載っていないの
だろうか。
 教会は町の中心に建っており、木靴を履いた
おじさんやらレースの円筒帽子を被ったおばさ
んやらが行き交っている。
 建築は三廊式、半円形祭室の周囲に周歩廊が
有り、さらに外側に三つの半円形小祭室が飛び
出しているという、ブルターニュではむしろ珍
しい“ちゃんとした”ロマネスクだった。
 天井は木造だが、身廊も側廊も柱ごとに横断
アーチで仕切られていた。壁は二層で、上層に
は採光のための窓が付けられているという、高
さも十分の立派な聖堂である。
 写真は円形祭室の部分で四本の列柱で飾られ
ている。
 この柱頭の彫刻に注目してほしい。通常は聖
書の物語やロマネスク的なモチーフが多いのだ
が、ここでは植物紋様と渦巻しか彫られていな
い。ブルターニュの特徴であるとともに、とて
もケルト的である。
 柱の台座に彫刻が施されるのも、ブルターニ
ュならではの特色である。
 
 
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 カンペール
    ロクマリアの聖母教会

  Quimper/Église Notre-Dame
      de Locmaria
 

      3 Finistère  

                  
     
 
 この教会の在るロクマリア地区はカンペール
発祥の地であり、現在はカンペール焼として知
られる製陶の中心にもなっている。
 カンペールに滞在していたある日、私と家人
はホテルから市内を流れるオデット川
Odet
に沿って約1
キロ歩き、今では少し町外れとい
った感のある広場に建つこの教会を訪ねた。

 写真は最初に目に飛び込んでくる鐘塔と、ロ
マネスク建築の重厚さを示す後陣部分である。
創建は11世紀でその後の改造は見られるもの
の、ほぼ完全に当初の様式が保存されている。
 聖堂は三廊式十字形で袖廊左右の小祭室を併
せ、大小三つの祭室が設けられており、十字の
交差部に鐘塔が立ち上がっている。
 身廊と側廊の境界は、簡素な角柱と半円アー
ケードで仕切られており、側壁上段に採光用の
窓が並んでいる。柱に柱頭が無いので、身廊の
簡素な美しさが余計際立って見える。
 交差部四隅の高い柱に、この教会ではここだ
けという注目すべき柱頭彫刻が見られた。柱頭
好きとしてはとても嬉しい発見だった。ケルテ
ィックな渦巻をアレンジした意匠なのだが、こ
のレヴェルの教会にしてはどこにも解説が無か
ったので、もしかしたら後世の作だったのかも
しれない。

 教会の前にカンペール焼の即売所があったの
だが、「危険物」は取り扱わない主義の私は、
家人の腕を引っ張って急ぎ町へと戻ったのであ
った。   
 
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 フーエナン聖ピエール教会
  Fouesnant/Église St-Pierre 

      3 Finistère  

                  
 
 
 この町へ行くには、カンペールから真南に約
15キロ走
れば着く。ここから西一帯は古代巨
石文化の遺構であるドルメンやメンヒルの密集
地帯であり、石好きの私にとっては天国のよう
な地方なのである。
 教会の入口にカルヴェール(十字架)が建って
いるが、ブルターニュではよく見る石造彫刻群
で、磔刑とそれを取り巻く人々の群像が彫られ
ている。

 聖堂は三廊式十字形で、西正面扉口と後陣は
後世に再建されたものである。
 ここでの見所は柱頭彫刻であり、写真もその
一つである。身廊と側廊の境目に立つ柱は全て
束ね柱であり、それぞれが柱頭彫刻に飾られて
いて見飽きない。
 植物模様や渦巻をモチーフとしたものが多い
のが特徴なのだが、交差部壁面に立てられた柱
頭に人物像を見つけたのが写真の彫刻である。
いかにもロマネスク的な素朴な像で、小さな渦
巻模様も面白い。
 
 
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 カンペルレ聖クロア教会
  Quimperlé/ Église Ste-Croix 

       3 Finistère  

                  
 
 
 古い木組みの家並が残る美しい町の中心に、
このユニークな教会の建築が残っている。
 この教会の平面図は円形で、四方に祭室や玄
関が飛び出した格好になっている。最適なイメ
ージは、ケルト十字だろう。
 ランレフの円形教会と同様、エルサレムの聖
墳墓教会がお手本で11世紀の創建だという。
 中央が四本の柱で囲まれて一段高くなってお
り、ここがどうやら祭壇らしい。
 写真はその祭壇のところから石段を下りた、
地下の礼拝堂(クリプト)である。中央に石棺が
置かれており、地下の墓所でもある。真っ暗な
中で電灯のスイッチを探したが、余り気色の良
いものではなかった。
 背の低い円柱と、重量感のある柱頭の佇まい
に心惹かれた。
 柱頭彫刻は繊細で複雑に絡まった蔓草などの
紋様からは、地中海系の植物とは異なる奥深い
森林のイメージが感じられる。ここもケルトな
のだろうか、との想いが強い。
 柱の基礎に、逆柱頭のような彫刻が見られる
が、前述の通りこれがブルターニュならではの
特徴である。   
 
 
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 ロックマリアケール聖母教会
  Locmariaquer/
      Église Notre-Dame
 

      4 Morbihan  

                  
   
 
 蟹のハサミのような二つの大きな半島が、モ
ルヴィアンという大きな入り江を囲んでいる。
東側から南に伸びる半島の先端に、このチャー
ミングな港町が在る。
 古代巨石文化に興味のある者にとっては、こ
の地方は涙の出るほど素晴らしい遺跡の宝庫で
ある。この町にも多くの訪れるべきドルメンや
メンヒルが点在している。
 が、ここではそれは別として、港の広場に面
してひっそりと建っているこの教会の扉を押さ
ねばならない。

 聖堂は三廊式だが、中央にゴシック期の鐘塔
が建っているという変則的な建築である。祭室
周辺にはロマネスク時代の建築が残っており、
半円アーチを支える柱頭には面白い彫刻が数多
く見られた。
 写真はその中で最も気に入ったもので、何や
ら判じ物みたいでもあり謎めいた暗号の様にも
見えた。
 柱頭はかなり在るのだが、大半が植物紋様と
渦巻ばかりの中で、人物や動物像が彫られてい
たからだろう。
 山菜のゼンマイみたいな渦巻やら、花束のよ
うな渦巻の間に、犬か猫のような動物とケルト
的な人面がちりばめられている。
 なぜこの様なモチーフを教会の中に持ち込ん
だのかというのはロマネスク共通の疑問だが、
ここではそれを特に強く感じてしまった。
 いずれにせよ、この地とアイルランドやコー
ンウォールとは、海峡を隔てて直結しているの
である。
 
 
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 ランゴネット聖ピエール
     聖ポール教会

  Langonnet/Église St-Pierre-
       et-St-Paul
 

      4 Morbihan  

                   
  
 
 カンペルレの北30キロに位置する小さな町
で、教会は町の中心部に堂々と建っている。建
築の外観はどう見てもロマネスク教会とは思え
ない、ゴシックとバロックを混ぜたようなスタ
イルだった。
 内部に入って判った事だが、三廊式の身廊の
14本の柱の内の9本とアーケード、それに後
陣祭室部分だけがロマネスクだったのである。
 ロマネスクの柱は束ね柱で、後補の柱は単純
な円柱だった。束ね柱の各々には、柱頭と平板
な飾り柱頭とが交互の組になり彫られている。
 写真は束ね柱の内の一本で、単純だが美しい
植物模様の意匠が素晴らしかった。ライティン
グの方法次第で良い写真が撮れるのだが、自然
光のままにしては内部の暗い割りには良く撮れ
た方かと諦めた。
 彫刻のモチーフは大半が植物模様で、ゼンマ
イのような渦を巻いた草を数本握った手の像な
ど、不思議なものも多かった。宗教的な気配の
丸で無い、こうした題材がなぜ選ばれたのだろ
うか。きっとロマネスクの時代には、大らかで
自由な発想の出来る環境があったのだろう。
 
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 プロエルデュ聖ピエール教会
  Ploërdut/Église St-Pierre 

      4 Morbihan  

                   
      
 
 前述のランゴネットから田舎の道を東へ20
キロ行くと、小さなこの町に到着する。かつて
はケルトが定着していた地だという。
 教会は町の南側に建っており、外観はゴシッ
ク様式の建築である。
 身廊部分は11~13世紀だが、祭室部分は
17世紀頃の再建、玄関の在る鐘塔部分は13
世紀の建築である。
 見所は写真の身廊のアーケードで、ケルトら
しい組紐や幾何学模様、渦巻や網目をモチーフ
とした柱頭彫刻が何とも多彩に展開されていて
楽しめる。
 
 
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 プリジアック聖ブホウ教会
  Priziac/Église St-Beheau 

      4 Morbihan  

                   
   
 
 プロエルデュから真っ直ぐ西へ12キロ行っ
た所に開けた町で、教会が数か所もあるような
比較的大きな町である。
 この教会は、町の西端に位置している12世
紀創建のロマネスク建築だが、外観は後世にか
なり改造されてしまっているようだ。

 写真は南側廊から身廊・祭室方向を撮影した
もので、創建時の朴訥とした建築様式の面影を
静かに伝えているようだ。
 太い円柱、単純な束ね柱、今にも崩れそうな
石積、連続する半円アーチ、などが良い。
 壁面だけが塗り替えられてしまっているが。
   
 ここでも最大の特長が見られるのは、柱頭彫
刻の図柄だろう。写真にも写っているが、ここ
にも渦巻をアレンジしたものや網目や幾何学的
な模様、人間の顔などが並んでいる。

 ブルターニュにケルト色が残るのは当然なが
ら、先述のランゴネット、プロエルデュを含む
この地域には、ロマネスク期に描かれた図像を
見る限り、ローマに駆逐され同化していったガ
リア人
Gaulois の歴史的な記憶が、特に色濃
く刻まれた地域のようにみえた。
 
 
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 カラン三位一体教会
  Calan/Église de la Trinité 
 
      4 Morbihan  

                  
   
 
 ローリアン Lorient の町にしばらく滞在し
ていた。この集落は北へ約10キロという至便
な場所に在った。それでもブルターニュの壮大
な田園地帯を走るので、短時間とはいえドライ
ブはまことに爽快だった。
   
 教会は開放的な広場に面しており、聖堂の前
は小さな墓地になっている。中央のゴシック式
尖塔の屋根が黒く光っていた。
 南正面ファサードの横に小さな回廊風のアー
ケードが造られている以外には、ここも聖堂建
築の大半がロマネスクとは見えなかった。事実
アーケードも後世のものであり、なんとロマネ
スク時代のものは、写真の身廊部分の壁から下
だけということであった。

 私がここを気に入ったのは、聖堂の幅の狭い
空間が誠に人間的なスケールに感じられたから
だった。何しろ、身廊に置かれた木のベンチに
は、一列に六人しか座れないのである。小さな
村の礼拝堂、といった風情だった。
 聖堂のスケールの割には円柱が太くどっしり
としているのは、重い天井を支えていたロマネ
スクの名残である。
 柱頭部分は妙な形をしており、彫刻らしきも
のは見られない。角柱、円柱、束ね柱が不規則
に混在している。当初からのものなのかは判然
としないが、不思議なハーモニーが聞こえてく
るような気がしていた。十字交差部分の柱に、
地味だが素朴な味わいのある柱頭彫刻が数基見
られた。   
 
 
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  メルルヴネジョワの聖母教会
  Merlévenez/Église
       Notre-Dame-de-Joie

      4 Morbihan  

                   
 
 
 ローリアンの対岸を、西へ15キロ行った町
である。
 11~12世紀に創建された教会は三廊式十
字形で、身廊のアーケードや壁面、翼廊の南扉
口などにロマネスク様式を見ることが出来る。
 美しい八角の鐘塔は、14世紀の建築だとい
う。
 写真は、身廊アーケードの柱頭彫刻で、内容
は不明だが謎に満ちた人物群像に動きが有って
興味深い。
 他にも怪獣や怪鳥と戦う人物や、絡まる蔓を
口にくわえる男など、宗教的な意味合いは余り
感じられないが、見過ごせないといった様なミ
ステリアスな図像が聖堂一杯に連なっている。
 信仰の場としては、何とも不可思議な空間で
ある。
 
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  ベル聖カド教会
  Belz/Église St-Cado

      4 Morbihan  

                   
 
 
 オーレイとローリアンの中間に位置するこの
教会の魅力は、何といっても深い入江に突き出
した半島や岬に建っているという立地条件だ。
 創建は11世紀と古く、建築全体はプレロマ
ネスク的な素朴さを感じさせる。
 内陣は写真のように随所に時代の片鱗を見る
ことが出来るが、壁の塗り替えや天井の改造な
ど修復も激しい。
 プリミティヴな柱頭彫刻が魅力的だった。観
光客が多いのが欠点だったが。
 いずれにしても、潮の干満が大きい入江の魅
力が、この教会を含めて素晴らしい景観となっ
ている。   
 
 
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 ブレッシュ聖アンドル教会
  Brech/Église St-Andre 

      4 Morbihan  

                    
 
 
 オーレイ Auray の北10キロにあるこの町
の名は地元では
Brec'h と表記されており、
ブレックともブレッシュとも聞こえる発音をし
ていた。英国のウェールズやここブルターニュ
の地名の難しさは半端ではなく、容易に読める
ものではない。
 ここも一連の教会と同様、建築の外観はルネ
サンスやバロックなど後世の様式に改築されて
いて、どこにもロマネスクらしきものは見当た
らなかった。
 内部に入って初めて、三廊式の身廊アーケー
ド部分だけがロマネスク様式であることに気が
付くのだった。
 柱は角柱なのだがアーチの内側が二重になっ
ており、角柱に円柱が張り付いた格好になって
いる。円柱部分の柱頭に、魅力的な彫刻が数多
く見られた。
 妙な人物像と植物模様の組み合わせが大半で
あり、写真はその一つである。いずれも人物像
と言っても首だけで、やはりブルターニュなら
ではの特異な印象を受ける。
 
 
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  プリュメルガ聖トゥリオ教会
  Plumergat/Église St-Thuriau

      4 Morbihan  

                    
  
 
 ブルターニュのパルドン祭で知られるサンタ
ンヌ・ドーレイ
Ste-Anne-d'Auray の北東6
キロに在る小さな町である。

 城塞のような後世の塔が玄関になっており、
とてもロマネスクの教会とは思えないのだが、
三廊式の長い聖堂に入れば、アーケードの石積
や半円筒ヴォールトの天井からは、十分にロマ
ネスクの心地よい香りが漂ってくるのが感じら
れた。

 どうやら創建は11~12世紀とのことなの
だが、ロマネスクの様式だけが伝わった感が強
く、建築のあちこちに修復改造の痕跡が歴然と
残されているのは残念だった。

 しかし、一番の目的は柱頭彫刻なのだと気を
取り直してみると、なかなかに興味深い図像が
秘められていることに気が付いた。
 ケルト色はそれ程濃くはないが、何重にも折
り重なったような植物の葉や芽、花びらなどの
模様には、先住民族から受け継いだ自然観がに
じみ出ているのかも知れない。縄目模様や網目
模様はブルターニュに共通する意匠だろう。
 写真は、葉のような衣装を着た耳の有る動物
と人物らしき像で、物語性の感じられる唯一の
彫刻だった。内容は不明だが、注目させられて
しまった。
 
 
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 サン・ジルダ・ド・リュイス
     聖ジルダ教会

  San-Gildas-de-Rhuys/
       Église St-Gildas
 

      4 Morbihan  

                    
 
 
 蟹の爪みたいな格好で、モルビアン湾を囲む
ように突き出しているリュイ半島のほぼ先端に
この町がある。
 ここへやって来て、久しぶりに聖堂建築全体
がロマネスクである教会を訪ねる事が出来た。
 三廊式十字形の聖堂、半円筒ヴォールトと交
差穹窿の天井、交差部のドーム、側廊から続く
周歩廊と三つの放射状祭室、彫刻の施された洗
礼盤、柱頭彫刻の数々等、全てが揃った綺麗過
ぎるほど見事なロマネスク聖堂だった。
 綺麗過ぎるということは古色を残すという意
識は無かったことなのであるが、様式をそのま
ま伝える修復作業は立派に行われたのであり、
博物館ではない生きている教会にとっては最良
の方策だったのである。
 写真は内陣中央部分で、柱頭の美しい4本の
円柱の向こうが半円状の周歩廊となっている。
アーケード上部に、盲アーチによる飾りアーケ
ードが造られているのが珍しい。
 聖堂背後から眺めた三つの祭室など、後陣全
体の姿も絵になっている。
 
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  ゲランド聖オーバン教会
  Guérande/Église St-Aubin

      5 Loire-Atlantique  

                    
 
 
 祭りで賑わうこの町の広場に、高い尖塔を持
つ荘重なゴシックの聖堂が堂々と建っていた。
塩田でも知られている。
 ブルターニュでは、聖堂建築全体がロマネス
クという教会には滅多に会えない。
 三廊式のゴシック聖堂だが、西門に近い身廊
部分の円柱と束ね柱5本だけがロマネスク時代
である12世紀後半の名残なのである。
 柱だけ見るというのも情けないのだが、柱頭
に彫られた彫刻を見ればわざわざここまでやっ
て来た甲斐がある、という事になるのである。
 写真はその柱頭の一つで、こうした人物の群
像や動物、殉教の場面と思われる激しい描写、
怪物と神話などの彫刻が、束ね柱をぐるりと囲
んでいるのである。
 制限されたスペースにデフォルメされた人物
がいきいきと彫られている、まことにロマネス
ク的な彫刻の傑作だと言える。
 高い位置に在るので望遠レンズで撮影したの
だが、見学には望遠鏡が必要である。彫刻の詳
細な内容を記した案内書を探したが無かった。
 興味は次第に、聖堂の前で行われていた祭の
仮装行列へと移ってしまった。
 
 
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  ル・ロルー・ボットゥロー
      洗礼の聖ヨハネ教会

   Le Loroux-Bottereau/
     
Église St-Jean-Baptiste

      5 Loire-Atlantique  

                     
   
 
 ロワール川の下流、ナント Nantes の東2
0キロの辺りに位置する小都市である。
 町の中央広場に面して建つこの教会は、ネオ
ゴシックとも見える近代の建築で、とてもロマ
ネスクの雰囲気には程遠かった。
 しかし、目的は建築や彫刻ではなく、あくま
で写真のフレスコ画にあった。

 身廊の右手の壁に、元はサン・ローランとい
う礼拝堂に在ったこの12世紀のフレスコ画が
飾ってあった。
 彩色はかなり褪せているが図像は鮮明に残さ
れており、ロマネスク期のフレスコ画として貴
重な存在とされている。
 いずれもシャルルマーニュ大帝のエピソード
を描いたものとされる。上部は白馬に乗る大帝
と、ゴートの王フラヴィウスの狩猟の場面であ
る。
 下部は、妹との近親相姦の罪の許しを膝まず
いて聖ジルに乞う大帝と、妹及び彼女を娶るア
ンジェの王ミロンが描かれている。
 大帝の逸話は多彩だが、伝説の英雄ローラン
はミロンの子という説もあるらしい。
 それにしても、この様な題材の絵が何故教会
に飾られたか不可解だが、聖ジルの偉大さを示
そうとしたものなのかもしれない。
 
 
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 ルドン聖ソヴェール教会
  Redon/Église St-Sauveur 

      1 Ill-et-Vilaine  

                     
   
 
 ルドンの町を訪ねた時は、激しく長い夕立が
降り続いていた。おまけに聖堂内では特別のミ
サが行われていたので、雨宿りをしつつ町を歩
きながら時間をつぶさなければならなかった。

 聖堂は三廊式十字形で、巡礼教会の様に周歩
廊と五つの放射状祭室が後陣に配されている。
後陣部分にはステンドグラスも見られ、祭室か
ら東部分は完全にゴシックに改造されている。
 身廊の柱には柱頭は無く、アーチを受ける円
柱がそのままつながった形で、カニグーなどで
見たプリミティヴな柱を連想していた。
 身廊部分のアーケードはいかにもロマネスク
的な雰囲気に満ちているのだが、十字交差部よ
り奥のゴシック建築部分とは全く違った印象を
受けることになる。
 交差部を下から見上げると美しいフレスコの
描かれたドームになっており、ここは鐘塔の天
井でもある。写真は、聖堂の外からこの塔を望
遠したものである。

 ミサに使用した豪華なパイプ・オルガンがま
だ鳴り響いており、荘厳な気分の中でBGM付
きの見学を楽しむことが出来た。
 明朝
St-Just の古代巨石遺蹟を訪ねてから
パリへと戻ることにしていた。
 
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