ブルゴーニュ地方
 (南部)の
ロマネスク

 Bourgogne (Sud)
  Romane
 
 

 夕暮れのマコネーズ (MACONNAIS)
  OUGY 付近 (Saône-et-Loire)
 
 各派修道院発祥の地であり、中世以来宗教の
中心であった。ロマネスクの遺構が数多く残さ
れている。北部のボーヌほどではないが、シャ
ロンやマコンのワインも有名である。

 当地方はオータンを筆頭に、トゥールニュ、
クリュニーなど、ロマネスクを代表するような
重要な教会が集中している地域である。

 マコネーやブリオネー地区には、珠玉の小教
会が密集しており、美しい田園風景の中に点在
するロマネスク教会の魅力を満喫することが出
来る。
 
便宜上 Saône-et-Loire 県を南部とした。
 
 
 
 ブルゴーニュ地方の県名
  と
県庁所在地
  北部  
1 Yonne (Auxerre)  
       2
Côte-d'Or (Dijon)
       
3 Nièvre (Nevers)   
  南部  4 Saône-et-Loire (Mâcon)
  
 
 
 
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オータン聖ラザール大聖堂
 Autun/Cathédral St-Lazare  

    4 Saône-et-Loire 
       
 
    
 
 ヴェズレイと共にロマネスクの聖地として著
名なこの大聖堂は、12世紀に創建されゴシッ
ク期に再建されている。最後の審判を描いた中
央門のタンパン彫刻や、身廊の柱頭彫刻はしっ
かりと残されており、ロマネスク期の作品とし
て見応えが有る。
 更に最も素晴らしいのは創建当初の彫刻で、
聖堂向かいのローラン美術館に展示された「エ
ヴァの誘惑」像と、僧会堂に保管されている多
くの柱頭彫刻がそれである。

 「エジプトへの逃避」「ユダの首くくり」や
「聖堂奉献」などロマネスクを代表する傑作ば
かりだが、「東方三博士の眠り」と共に、私は
写真の「東方三博士の礼拝」が気に入ってしま
った。官能的な表現の「エヴァの誘惑」も魅力
だが、博士の礼拝を受けるこの聖母子の無垢な
素晴らしさが、一体何に例えられるだろうか。

 稚拙な彫り、歪んだデッサン、無理な構図、
そんな従来の価値観からの評価の全てを超越し
て、なお美しく感じられるのは何なんだろう。
 写実を超えたフォルム、深い精神性や美意識
に裏打ちされた、ロマネスクの命とも言うべき
“抽象”が、その背景に見えてくるようだ。
 
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 キュルジー
    聖フェレオール教会

  Curgy/Église St-Ferréol  
 
    4 Saône-et-Loire 
       
 
 
 
 オータンの町の東7キロにある山の上の小さ
な村で、教会は村外れの墓地に隣接して建って
いる。
 ロマネスク様式の窓を持つ堅固なイメージの
鐘塔以外は、かなり外観が改造された小さな教
会である。
 しかし、聖堂は三廊式、半円筒ヴォールトの
天井、角柱のアーケードで構成されたバジリカ
建築である。
 写真は、祭室のドーム天井に描かれた、ロマ
ネスク期のフレスコ画である。
 黙示録のキリスト像で、周囲に四福音家のシ
ンボルである動物たち(獅子・雄牛・人・鷲)
が描かれており、栄光のキリスト像とも呼ばれ
ている。
 緑や藍がかすかに見られるが、総体的には朱
色と黄色のみがが鮮やかに残っている。
 獅子像など、後掲のグルドンのキリスト像に
共通する意匠が見られる。
 隣接する小礼拝堂の天井にも、天使像などが
かすかに残っている。   
 
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シャロン・シュル・ソーヌ
     旧聖ヴァンサン大聖堂

  Chalon-sur-Saône/Ancienne
     Cathédrale St-Vincent
   

    4 Saône-et-Loire 
       
  
 
 中世から商業の栄えた大きな町で、大聖堂は
その旧市街の中心に建っている。
 11世紀の創建だが、三廊式十字形の聖堂の
大半がゴシック様式に増改築されている。最も
ロマネスク様式が残されているのが翼廊北側の
小祭室で、写真の北側側廊の突き当たり部分で
ある。
 この側廊もゴシック期の改築だが、雰囲気は
十分ロマネスクだろう。部分的な改造はあって
も、基本的なプランや構造は変わっていない筈
だからである。
 ロマネスクとゴシックが重複する時代の到来
は、フランスの北部では特に早く12世紀には
サン・ドニが既に完成している。時代の推移に
伴う美意識の変化というものの、不思議さ面白
さを味わうのも一興だろうと小生は考えている
が、純粋なロマネスク一辺倒派には、この場所
は不向きかもしれない。
 
 

     
    
 レーヴ聖マルタン教会
  Laive/Église St-Martin  

    4 Saône-et-Loire 
       
  
 
 シャロンの南15キロ位置する小さな町で、
教会は町外れの丘の上にポツンと建っている。
 創建は11世紀と古いが、写真の窓の尖頭形
を見ただけでも判る通り、建築の大半にゴシッ
ク的な改築が施されている。
 聖堂は三廊式の身廊と翼廊、祭室と両翼二つ
の小祭室というプランである。十字の交差部に
やや異質の鐘塔が聳えている。
 ファサードは後世に改造されたものだがロン
バルディア帯装飾が成されており、後陣のそれ
と共にロマネスクの貴重な痕跡となっている。
 身廊の天井は古式の円筒ヴォールトで、三つ
の梁間が有って横断アーチで仕切られている。
側廊の天井は交差ヴォールトで、アーケードを
構成する太い角柱が創建時の名残なのだろう。
 
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トゥールニュ
    旧聖フィリベール修道院

  Tournus/Ancienne Abbaye
      St-Philibert
   
 
    4 Saône-et-Loire 
       
 
   
 
 9世紀に創建された由緒正しい教会で、ロマ
ネスクの原点のような存在である。
 幹線上の町に有るので、何度も立ち寄った経
験があるのだが、その度に新鮮な感動を与えて
くれる教会なのである。

 誰もが最初に驚くのは写真の身廊の柱の太さ
だろう。ロマネスクの聖堂としては広大すぎる
ほどの空間だが、それを支えるためには、これ
ほどまでに不器用な柱が必要だったのだ。

 だが改めてじっくりとこの柱を眺めると、そ
れはむしろ不細工だが重厚で、純粋で野太い美
しさを感じさせてくれる。おしなべて大きい教
会は嫌いなのだが、ここには全く異質の、心を
安らげてくれる平穏な空気が存在している。

 玄関間の上、パイプオルガンの後ろ側に聖ミ
ッシェル礼拝堂が有る。11世紀の建造で、石
積みの魅力に溢れたプリミティヴな美しさが堪
能できる。
 狭いお堂に太い柱の林立する光景は、ルクソ
ールの神殿のような迫力に満ちていた。 
  
 
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 ファルジュ・レ・マコン
     
聖バーセレミー教会
 Farges-lès-Mâcon/
     Église St-Barthélémy
  

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
  
   
 
 トゥールニュの南8キロに在る小さな村で、
教会は後述のユシジーやシャペーズと共に、ト
ゥールニュ大修道院の影響を受けた11世紀創
建の建築である。

 ファサードは改装されているが、渦巻や植物
模様の奇抜な柱頭のある入口を入る。
 円筒ヴォールトの天井、太い円柱の並ぶ身廊
や側廊の交差穹窿、四つに仕切られた梁間と横
断アーチなどが、見事にロマネスクの光を放っ
て私達を至福の世界へと誘ってくれた。
 身廊は三廊式だが翼廊部分に小祭室は設けら
れておらず、写真で見る様に半円形後陣が一つ
あるのみだった。
 側廊の幅が狭いことと、翼廊を身廊の幅より
大きくしていないことによるものと思われた。
 祭室の天井にフレスコ画が描かれているが、
どうやらゴシック期の作だろう。

 交差部に建つ鐘塔は三層構造で、上二層に開
口二連アーケードが意匠されている。その両側
に施された、やはり二連のロンバルディア帯状
盲アーケードは、当時には相当洒落た意匠だっ
たのだろう。
 
 
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ユシジー聖ピエール教会
  Uchizy/Église St-Pierre   
 
    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
 
   
 
 ファルジュからさらに2キロ南に下がった所
に在る村で、見るからにプリミティヴな聖堂が
村の真ん中に建っていた。
 11世紀に創建された聖堂と聞けば、古い建
築のみが放つ独特の芳香と共に、強く訴えかけ
てくるパワーに納得する。
 かつての小修道院時代の建物が西側に隣接し
ているので、この聖堂の入口は身廊南北に設け
られた二つの門となっている。

 身廊は三廊式で、翼廊との交差部に背の高い
鐘塔が聳え、後陣は主祭室と翼廊の両小祭室に
よって構成されている。
 身廊の天井は尖頭ヴォールトで、四つの梁間
は尖頭形横断アーチで仕切られている。
 最もロマネスクらしい美しさが見られるのは
半円アーチで四方を囲まれた、身廊と翼廊の交
差部分だろう。際立って面白い柱頭彫刻などは
見られないが、石の建築であるという基本的な
重量感と、それを忘れさせる優美さが均衡を保
って同時に感じられるのが嬉しい。
 
 
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ブランシオン聖ピエール教会
  Brancion/Église St-Pierre   

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
  
   
 
 赤い瓦屋根が美しい丘の上の集落で、村の外
れの小高い部分には、かつて要塞として機能し
ていた城跡が残っている。
 城跡に立つと、中世そのままではないかとす
ら思える村の家並みの向こうに、この教会の塔
と後陣の全貌を眺望できた。

 教会は12世紀の創建で、シトー派に属して
いる。内陣へ入ると、確かに装飾と言えそうな
物は何一つ無い、剛直かつ簡潔な聖堂だった。
 正面ファサードは、扉口のほかに三つの小さ
な窓があるだけの質素な造りである。
 身廊は側廊のある三廊式で、天井は尖頭ボー
ルトである。アーケードもゆるい尖頭アーチと
剛毅な角柱で構築されている。
 柱頭らしきものは部分的にはあるが、彫刻は
全く施されていない。
 祭室の壁にフレスコ画が描かれているが、ど
うやら14世紀のものらしい。
 この教会で最も美しい部分は、やはり写真の
後陣部分だろう。半円形に飛び出した三つの祭
室と、交差部に建つ鐘塔の構成美はどの教会で
も見所ではあるが、ここは特に絵になる素晴ら
しさだ。
  
 
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ラ・シャペル・スー・
ブランシオン
聖母被昇天教会
 La Chapelle-sous-Brancion/
  Église Notre-Dame-
       l'Assomption
  
 
    4 Saône-et-Loire (Mâconnais) 
       
 
  
 
 前述のブランシオンから西側へ谷を下ってい
くと、村続きのように隣接したチャーミングな
この集落が見えて来る。
 教会は牧草地に囲まれた小高い場所に建って
いて、少し離れて眺めた建築の景観はとても象
徴的だった。
 12世紀半ばの遺構で、十字形単身廊の聖堂
に半円形の後陣が設けられている。
 西の門や身廊の一部が改造されているようで
ややがっかりしたが、翼廊との交差部から祭室
にかけたあたりの建築は、彩色が気に入らなか
ったものの、十分にロマネスク様式の落ち着き
を感じさせてくれた。
 ブランシオンと同じように、祭室の壁からフ
レスコ画が発見され修復されたそうだが、ここ
の作品は13世紀ゴシック期のものらしい。
 この地域の新しい様式の取り入れ方は早く、
天井はここでも既に尖頭アーチだった。
 写真は聖堂後方の牧草地から撮ったもので、
全体のシルエットの良さ、大きな半円形後陣、
素朴な鐘塔などがとても絵になっていたように
感じた。
 
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ランシャール旧修道院教会
 Lancharre
/Ancienne Abbatiale   
 
    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
 
  
 
 後述のシャペイズの町の聖マルタン教会から
北東に10キロ余り車を走らせると、うねうね
と続く牧草地の向こうに、塔と後陣が見事なバ
ランスを見せるこの教会が見えて来る。
 シャペイズとは双子ではないかと思えるほど
似ており、そのたたずまいもまた同じ様に美し
い。雨上がりの緑の中に白亜の聖堂が建つ光景
は、滅多にお目にかかれないという、邪魔物が
一切無い絵になる風景であった。
 聖堂の一部は崩壊しており、身廊部分は完全
に失われている。翼廊と祭室部分及び鐘塔しか
残っていないのが残念だが、少し離れた所から
眺めたロマネスクの後ろ姿は魅力的である。

 この地域には、ブランシオン
Brancion
・シャペル
La Chapelleシセイ・レ・マコ
Chissey-lès-Mâcon など、魅力的な佇まい
の教会が密集しており、マコネーのワインと共
に楽しめる。 
 
 
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シャペーズ聖マルタン教会
 Chapaize/Église St-Martin    

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
  
   
 
 トゥールニュの町の西に有る牧草地と雑木林
に囲まれたいかにも牧歌的な小さい集落だが、
村の中心に建つ十一世紀の聖マルタン教会を見
逃してはならない。

 先ず私は教会の背後に隣接した墓地に廻り、
そこからすっくと伸びる鐘楼と大小三つの祭室
の外陣を眺めた。
 それは楚々とした質素な佇まいだったが、あ
らゆる無駄を省いた典型的なブルゴーニュのロ
マネスクだった。
 教会堂の建築全体の立ち姿が、かくも優雅に
バランスのとれた事例は余り無いだろう。 

 内陣に入って驚くべき事は、側廊と身廊を仕
切る石の柱の太さである。トゥールニュの大聖
堂のものとほぼ同じ太さだが、この礼拝堂とも
言えそうな小空間では異常な程の量感である。
 トゥールニュと共に、初期ロマネスクの豪壮
な力強さを感じさせる事例である。

 森が途切れた草原の向こうに静かに立つこの
教会の塔の姿は、旅の忘れ難い光景の一つとし
て必ずや心に残る筈である。
  
 
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 シセ・レ・マコン
    聖ピエール教会

  Chissey-lès-Mâcon/
      
Église St-Pierre  

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
  
 
 シャペイズから森を抜け、南へ4キロ行くと
この村に達する。
 教会は12世紀の創建だが、かなり改造の痕
跡が残っている。鐘塔の下に設けられた門や玄
関間などは後世の建築である。現在の聖堂入口
は、身廊の北に設けられたアーチ門が用いられ
ている。この門は創建当初のものだろう。
 四つの梁間が設けられた単身廊の壁面アーケ
ードが、尖頭ヴォールトの天井ながら開口窓と
の均整がとれていて美しい。
 写真は身廊の柱頭の一つで、キリスト誕生の
場面である。聖母子を中心に、告知の天使、ヨ
セフ、牛や羊飼いなどが散りばめられた珍しい
様式の柱頭彫刻である。
 ダヴィデとゴリアテの戦い、悪魔のような龍
やつる草と怪獣マスクなどを主題にした柱頭が
興味深い。
 三層の鐘塔がこの教会の建築を代表するもの
で、ロンバルディア様式の装飾や半円アーチの
窓が素朴であり、ロマネスクの鐘塔らしさを伝
えている。
 
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 サン・ヴァンサン・デ・プレ
      
聖ヴァンサン教会
  St-Vincent-des-Prés/
      Église St-Vincent
   

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
  
  
 
 トゥールニュとマコンの西側は Mâconnais
マコネー地方と呼ばれるワインの産地で、そこ
には珠玉とも言える小さな教会が数多く点在し
ている。

 写真はクリュニー
Cluny の西にある小さな
村の教会で、前述のシャペイズの佇まいにとて
も良く似ている。
 聖堂は三廊式だが、半円形の祭室は中央にの
み造られている。
 鐘塔の建つ位置は翼廊の様な体裁となってお
り、従来は身廊との交差部だったのだろう。つ
まり側廊部分は後補ではないか、とも思えた。
そんなことは、どこにも記されてはいなかった
のだが。
 鐘や後陣には漆喰が塗ってあるために、積み
上げた石の表情が見えないので、何かつるっと
した無表情さが感じられて仕方が無い。
 しかし、それがかえって、独特の簡素な美し
さを見せていることにも気が付いた。
 ロンバルディア帯に似た盲半円アーケードの
装飾や、窓が小さく少ないロマネスクの剛直さ
を素朴に表現し伝えているようだ。
 
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 アムニー聖母被昇天教会
 Ameugny/Église Notre-Dame
     -de-l'Assomption
  
 
    4 Saône-et-Loire (Mâconnais) 
       
 
   
 
 上記教会から更に西へ6キロばかり行った所
に在る村で、教会は集落の中心に建っている。
 創建は11世紀とのことだが、その面影を探
すのは難しそうだ。写真の、鐘塔を含んだ建築
東部が、最も古いように見える。
 西門のタンパンにクリスモンのようなリング
状の十字架が彫られ、謎の“
”の文字とマレ
ーの石工
Segvin の名が彫られていたが、余
り優れた意匠とも思えなかった。
 聖堂建築は、単身廊に半円形の後陣が基本形
で、後世に増築された翼廊が祭室脇に付いてい
る。三つの梁間があるが、尖頭ヴォールトの天
井で横断アーチで仕切られている。身廊部分は
12世紀の建築、ということだが確認は出来な
かった。
 祭室・後陣部分は半円形のアーチとドームで
構成されており、ここだけは安心して眺めてい
られる。
 写真で見る様に、鐘塔も古いロマネスクであ
り、一層目のロンバルディア帯装飾や、三層目
の三連アーケードの開口部などは、余り洗練さ
れているとは言い難いが、素朴な個性を示して
いる、と言えるだろう。
 
 
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 サン・ティポリット
     旧聖イポリット教会

  St-Hippolyte/Ancienne
    Église St-Hippolyte
  

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
  
   
 
 この教会遺蹟は、マレの南西5キロ、前述の
アムニーの西北5キロに位置している。各集落
毎にロマネスクの小教会が残されているのかと
思わされてしまう程に、このマコネー地方はロ
マネスクの密集地と言えるだろう。

 三廊式十字形の聖堂だが、身廊部分の天井や
西正面の入口付近は完全に崩壊しており、南北
の壁面だけがかろうじて残っている。身廊に四
本づつ在ったとされるアーケードの円柱の内、
翼廊交差部に最も近い二本の柱頭より下の部分
だけが残されていた。

 写真は後陣と翼廊部分で、ここだけが完全な
形でかつての姿を今日に伝えている。
 半円形の主祭室と二つの小祭室が、何とも健
気に見えて来るから不思議だ。
 背後の方形の壁状の部分は翼廊で、十字形と
しては袖部が身廊から少ししか飛び出していな
い。上部は鐘楼になっていて、上下二段の開口
アーケードやロンバルディア帯装飾が成され
ている。この壁状翼廊兼鐘塔の意匠は、余り見
かけない珍しい建築だろう。飛び切り優れたデ
ザインとも思えないのだが。
 
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 マレー聖母教会
  Malay/Église Notre-Dame  

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)  
       
  
   
 
 サン・ヴァンサンの東北、シャペーズからは
真西に当たる、グロンヌ
Grosne 川沿いの寒
村である。
 かなり遠くからでも、牧草地の向こう側に建
つ白っぽい鐘塔を見ることが出来る。
 教会のある場所は墓地のある町外れの丘で、
西南に向かって景色が広がっている。
 
 聖堂の建築は三廊式十字形で、マコネー地方
に見られる一連の小聖堂と共通したプランであ
る。身廊と翼廊の交叉部に堂々たるロマネスク
鐘塔が聳え、中央祭室と左右翼廊に小祭室が設
けられているので、三つの半円形後陣が見られ
る。
 残念ながら扉口の鍵が閉まっていて、ここで
は内部へ入ることが出来なかった。
 外観から察すると、西側正面と側廊部分はゴ
シック的な改造が成されており、ロマネスク当
初の様式は翼廊から後陣へかけての部分に残っ
ているのかと思われる。
 夕暮れ間近であり、塔の影が長く後方へ延び
ていたのが印象的だった。
 
 
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マコン旧聖ヴァンサン教会
  Mâcon/Ancienne Église
      St-Vincent
   
 
    4 Saône-et-Loire (Mâconnais) 
       
 
  
 
 18世紀末の革命の際に身廊から後陣までが
破壊されてしまったので、現在残っているのは
西側の玄関間(ナルテックス)と二本の八角鐘
塔、その間の交差部のみとなっている。二本の
高い塔は、ソーヌ川の対岸からも手に取るよう
に眺められた。
 西の門は改造されており、ナルテックスへの
入口は、かつての身廊部分から両塔の間に設け
られた近代的な門を使うこととなる。

 写真は、ナルテックス内部から両塔間の交差
部を写したもので、身廊への入口であった半円
門とタンパンが素晴らしい。
 タンパンは五段に仕切られており、それぞれ
に密度の濃い彫刻が施されている。マンドルラ
内のキリスト像やまぐさ石部分が開口部として
喪失しているのが残念であり、また彫刻が全体
にかなり荒廃しているのが惜しまれる。
 マンドルラ(楕円形光背)の周囲にはセラフ
ィムと天使が二人づつ、そして聖母と聖ヨハネ
が彫られている。キリストが昇天する、荘厳な
場面であったのだろう。
 十二人の使徒や二十四人の長老・復活や十字
架の行進・天国と地獄など、タンパン彫刻のお
手本のように多彩な場面が彫り込まれていて飽
きない。
 ナルテックス北側の二連アーチ窓や、鐘塔壁
面に施されたロンバルディア帯装飾が優れた意
匠で見逃せない。
 
 
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ベルゼ・ラ・ヴィル
     修道僧礼拝堂

 Berzé-la-Ville/
    Chapelle des Moines
   
 
    4 Saône-et-Loire (Mâconnais) 
       
 
 
 仕事の現役時代には正月休暇を利用してしか
旅行が出来ず、冬季閉鎖のこの礼拝堂を見学す
ることは不可能だった。リタイアのお陰でよう
やく長年の夢が叶い、この素晴らしい壁画と対
面することが出来た。
 後述するクリュニー大修道院に帰属した小修
道院だったが、現在はこの小さな礼拝堂のみが
残されている。
 青い地色の流派と呼ばれる画法で、12世紀
初頭の作とは思えぬほど鮮やかな色彩と、卓越
したデッサンとが感動的である。
 左手に天国の鍵を持ち、右手でキリストから
巻物を受けているのが聖ペテロであり、キリス
トの右手で祝福されながら巻物を持っているの
が聖パウロである。十二使徒のほかに、この礼
拝堂の守護聖人であった聖ヴァンサンや聖ロー
ランなども描かれている。
 クリュニーからも程近いこの礼拝堂は、かつ
てのクリュニーの栄華の名残を留める唯一の証
しの様に見える。  
 
 
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クリュニー旧聖ピエール
       聖ポール修道院

 Cluny/Ancienne Abbaye
      St-Pierre-et-St-Paul
   

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais)
       
  
   
 
 ベネディクト会の修道院として10世紀初頭
に創建され、11世紀後半には壮大で絢爛豪華
なる建築を誇っていたが、現在ではその大半が
失われ、二本の塔と袖廊の一部が残るだけだ。
 教会の内陣から移された数多くの柱頭彫刻を
展示する棟があり、かつて栄華が偲ばれる唯一
の場所となっている。
 彫刻の主題は、グレゴリオ聖歌の八つの音を
擬人化したものや、天国の四つの河、四季、四
美徳などである。これらは神との交感のために
必要な宇宙観であり、精神の象徴でもあったの
だろう。
 写真は約25年前のもので、四季の柱頭の一
つ「春」である。まことに優美な彫刻であり、
これ一つだけでも見応えのある作品だろう。
 これらがずらっと立ち並ぶ、聖堂内陣の壮麗
な様を想像するだけで、身震いのする思いだ。
 
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マジーユ聖ブレース教会
  Mazille/Église St-Blaise   

    4 Saône-et-Loire (Mâconnais) 
       
  
   
 
 クリュニーからパレ・ル・モニアルへと向か
う途中で、景色が良いという地方道D17号線
へ入ったのだが、直ぐ目に飛び込んできたのが
この教会の佇まいだった。緑一色の牧草地に舞
い降りた白鳥といった形容がぴったりの、輝く
白い石が眩しいくらいの聖堂であった。

 11世紀の創建と古いが、現在の建築はその
後かなり改造されているようだ。見た限りでは
後陣部分だけが当初のもので、単身廊の平面プ
ランには大きな変化は無いものの、外観に比し
て内陣の現状は、木造天井や近世の装飾壁など
かなり失望させられる。
 祭室の壁には半円アーチの三つの窓を含む五
連アーケードが意匠され、窓の間にはアーチを
支える装飾円柱が彫られている。このあたりが
どうやら創建当初のデザインらしい事に、少し
溜飲を下げた思いだった。
 翼廊のような形で身廊北側に鐘塔が建ってい
るが、二層のアーケード窓などロマネスク期の
様式を保持しているように見える。
 この塔も含め、遠景の素晴らしさはブルゴー
ニュ屈指の景観と言えそうだ。
 
 
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ペルシー・レ・フォルジュ
    聖ピエール聖ブノア教会

 Perrecy-les-Forges/
  Église St-Pierre et St-Benoît
   
 
    4 Saône-et-Loire 
       
 
   
 
 何度も訪れているブルゴーニュのロマネスク
教会の中で、この重要な場所が何故か欠落して
いた。ブルゴーニュとしてはかなり辺境に孤立
した、ブルボネイ地区の山里の村だったからだ
ろう。
 近年ようやく念願が叶い、ムーランからロワ
ールを渡りこの静かな村の教会を訪ねることが
出来た。

 ここも祭室など聖堂の一部がゴシックに改造
されているのが残念なのだが、身廊部分や鐘塔
の下の入口の玄関間にはロマネスク様式が残さ
れていた。
 特に、写真の門のタンパン彫刻を見るだけで
も、この地を訪ねた甲斐が有ったといえる。
 二人の熾(し)天使に支えられた玉座のキリ
スト像は後出のモンソー・レトワールのタンパ
ンにも共通する構図だが、こちらは天使の豪快
で鋭い羽根に最大の特徴がある。
 リントウ(まぐさ石)には、キリストの受難
の場面と思われる連続彫刻が見られる。
 柱頭には戦う天使の像も彫られており、石の
色も効果的に作用して全体的に美しく、ブルゴ
ーニュを代表するロマネスク門だと言える。
 
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グルドン聖母被昇天教会
 Gourdon/Église
      de l'Assomption
   
 
    4 Saône-et-Loire 
       
 
 
 モンソウ・レ・ミヌ Montceau-les-Mines
の東南10キロ、モン・サン・ヴァンサンの町
から2キロほ
どの山上の村である。
 教会は丘の頂上にあり、マコネー式の三廊式
十字形、交差部の鐘塔、三つの半円形祭室とい
う構造である。
 11世紀創建で、半円筒ヴォールトの、ロマ
ネスクらしい聖堂である。
 ここでは、祭室のドーム天井と壁に描かれた
12世紀のフレスコ画を見逃してはならない。
 天井のドームには、前述のキュルジーに似た
黙示録の栄光のキリスト像と、四福音書家のシ
ンボルが描かれている。
 窓の周辺の壁や、盲アーケードの中にも聖母
昇天図や聖人像が描かれており、中でも写真の
受胎告知の場面が気に入ってしまった。
 鮮やかな朱色が印象的で、ロマネスクらしい
象徴的な聖母と天使の像が魅力的である。
  
 
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イシー・レヴェック
     聖ジャック教会

 Issy-l'Évêque/Église
         St-Jacques
   
 
    4 Saône-et-Loire 
       
 
  
 
 オータン Autun の西南33キロの町ルジ
Luzy から、地方道を南へ13キロの地方都
市である。
 円形の壁に囲まれた旧市街を中心にして開け
た、小じんまりとした愛すべき町だった。
 旧市街の中に建つこの小教区教会は、改造部
分は多いものの、12世紀創建時の面影を随所
に残している。

 写真は三廊式の身廊部分で、奥が祭室になっ
ている。六つの梁間で構成されており、ここで
は尖頭アーチが用いられている。天井は簡素な
交差穹窿で、中央に近い立地条件からも、後期
ロマネスクと初期ゴシックとが融合していた可
能性はある。

 漆喰を塗りたくった修復の覆い昨今のフラン
スの中世建築遺構では、こうした石の素地が見
える建築に無限の喜びを感じてしまう。

 身廊の先には翼廊は無く、直接三後陣に接し
ている。この部分が最も古い様式で、天井のド
ーム、五連アーケードで構成された中央祭室の
後陣を見ると、なぜかほっとするのが不思議で
ある。
 身廊の柱頭には、動物と人が組み合わされた
ものや、動物の面や多様な植物模様の彫刻が見
られる。

 隣接する塀が近いので、外側から三後陣を上
手く撮影出来なかった。
 翼廊が無いので鐘塔は正面に建てられ、ポー
チが付けられているが、玄関部分は後世の建築
である。  
 
 
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サント・ラドゴンド
     
聖ラドゴンド教会
 Ste-Radegonde/Église
        Ste-Radegonde
   
 
    4 Saône-et-Loire 
       
 
   
 
 先述のイシーから東へ10キロ地点にある小
さな村である。丘を越えてたどり着いた村は全
くの過疎集落で、道端に建つ礼拝堂のような教
会は鍵が閉まって入ることも出来なかった。
 外観からも、円形の後陣を持った単身廊の小
教会であり、三連窓の鐘塔が祭室に続いて建っ
ている。
 後方からの眺めは、後陣と鐘塔とのバランス
が良く落ち着ける眺めだったのだが、やや修復
が目立ち過ぎているようにも感じられた。
 教会の横の民家に住む婦人が広場へ出てこら
れたので、教会の扉の鍵について伺うと「私が
持っている」とのこと。幸運な巡り合わせで、
内部を見学させていただけることになった。

 単身廊の素朴な聖堂だが、身廊部分はほとん
ど白塗りで、柱や柱頭は全く見えず情緒には欠
けている。生きている信仰本位の教会だけに、
致し方ないのだろう。
 写真の鐘塔部分のドームとアーチ、そして半
円形の祭室あたりにはロマネスクの原形を見る
事が出来る。
 二重のアーチの組み合わせが見事であり、ド
ーム状の祭室の窓は三連のアーケードと小さな
盲アーチの組み合わせで構成されている。ただ
よく見ると、アーケードは後補で、下地の壁部
分が当初の遺構であるらしい。こういう教会を
見ると、創建当初のまま存続してきた聖堂とい
うのは、余程辺鄙な場所に無い限り、文明の変
化にさらされてしまうのが普通なのだろう、と
感じさせられる。
 「滅びの美」とでもいうところだろうか。  
 
 
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パレ・ル・モニアル
     サクレクール寺院

  Paray-le-Monial
/

   Basilique de Sacré-Coeur
   
 
    4 Saône-et-Loire (Brionnais)
       
 
   
 
 ベネディクト会のクリュニイ修道院が破壊さ
れてしまった今、唯一その面影を今日に伝えて
いるのがここパレルモニアルの堂塔だと言われ
る。十一世紀後半の創建とのことである。
 私がこの町を訪ねたのは、前を流れるブール
バンス川が氷結してしまうのではないか、と思
われる程冷たい冬の午後だった。

 正面の二本の塔と八角形の鐘塔が、先ず目に
飛び込んでくる。壮大な規模の割に威圧感を感
じさせないのは、その卓抜した設計意匠が見事
な均衡美を生み出しているからこそだろう。
 特に、後方から眺めた後陣建築の累々たる石
の重なる姿は、ロマネスク建築の基本的な美し
さの適切な事例の一つである。
 幾つも有る円形アーチの窓を装飾する、縁飾
りやロンバルディア帯や軒持ち送りの彫刻が、
まるで雲の涌くような躍動感に満ち溢れていた
のが印象的だった。

 内陣は膨大なスケールにもかかわらず、重厚
な石の質感が思索の場としての落ち着いた雰囲
気を作っていた。
 トリビューンの有る側廊が付いた身廊や柱頭
にも見るべき彫刻が施されており、高く広いド
ーム・壮大な天井のアーチとの調和が作用して
見事な空間を創出していた。 
  
 
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 パレ・ル・モニアル
      イエロン美術館

 Paray-le-Monial/
      Musée du Hiéron
  

    4 Saône-et-Loire (Brionnais)
       
  
 
 聖堂から少離れた町の中心にある美術館で、
フランスだけではなくイタリアやスペインの中
世美術が展示されている。
 写真のタンパンはこの美術館の目玉で、後述
するアンジー・ル・ドュックの小修道院に在っ
たものである。
 上部は、二人の天使に支えられた、マンドー
ラ内の栄光のキリスト像である。シャルリュー
内部のタンパンにとてもよく似ている。
 下部の中央に、キリストに授乳する聖母像が
彫られ、胸を露出した場面はロマネスク彫刻で
は珍しいだろう。
 ブリオネー地方には、こうしたロマネスクら
しいタンパン彫刻が密集していて興味深い。  
 
 
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 モンソー・レトワール
    聖ピエール聖ポール教会

  Montceaux-l'Etoile/Église
     St-Pierre-et-St-Paul
 
    4 Saône-et-Loire (Brionnais)
       
 
 
 パレ・ル・モニアルからロワール川の東を南
下すれば、既にブリオネ地方に首を突っ込んだ
ことになる。
 最初のテキストがこの小さな単身廊の聖堂で
あった。内陣は残念ながら白塗りで、ロマネス
クの素晴らしさは写真の西門彫刻に集約されて
いる。
 タンパンには、二人の天使に支えられた栄光
のマンドーラの中に、十字架を掲げた勝利のキ
リストが彫られている。キリスト昇天の場面で
ある。
 タンパンと一石で彫られたまぐさ石には、聖
母を中心にした十二使徒が並ぶ。一様に興奮し
たように天を見上げ祝福している。
 その下の持ち送りや柱頭にも、興味深い彫刻
が見られる。
 ブリオネー地方、いやロマネスク特有とも言
うべきタンパン彫刻を代表する一つ、と言える
傑作だろう。  
 
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 アンジー・ル・ドュック
   旧聖クロア聖マリー修道院

  Anzy-le-Duc/Ancien Prieuré
      Ste-Croix et Ste Marie
   

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
  
  
 
 ロマネスクを巡る旅人にとって、ブリオネー
は魅力的な地方である。田園風景が続く狭い範
囲にモンソー・レトワール、セミュール・アン
・ブリオネイ、サン・ジュリアン、シャトーヌ
フなど、個性的な教会が密集しているからだ。
 中でもこのアンジー・ル・デュクの教会は、
外観・内陣建築・柱頭彫刻・クリプト(地下祭
室)・タンパン彫刻とどれをとっても一級品ば
かり。ロマネスクが何たるかを存分に教えてく
れる、最良のテキストなのである。
 半円アーチのみで構築された身廊の写真で、
石を積み上げただけという重々しさよりも、む
しろ軽快で簡素な印象を受ける。ゴシックの馬
鹿げて膨大な空間と比べ、より人間的で近寄り
易いスケールの美しさを感じることが出来るの
である。
 柱頭には聖書の物語や怪獣や奇妙な植物など
が彫られていて、幻想と怪奇に満ちた魔術の部
屋にでも迷い込んだような錯覚に陥るだろう。
 西門のタンパン彫刻はキリスト昇天を主題と
した見応え充分の作品だし、教会脇の壁に保存
されている旧南門のタンパンも見逃してはなら
ない。
  
 
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アンジー・ル・ドュック
   
旧聖クロア聖マリー修道院
    (南門)

  Anzy-le-Duc/
   Ancien Prieuré Ste-Croix
       et Ste Marie
       (Portail Sud)
    

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
  
 
 
 何度かここを訪れていたが、この旧修道院南
門のタンパンの所在が判らなかった。近年、旧
修道院の建物が復元され、この門も従前の姿を
取り戻した。現在は案内板も出て判り易い。
 タンパンの左側には、聖母子に礼拝する三人
の賢者が、そして右側には、誘惑する蛇やリン
ゴを食べるイヴなどの原罪の場面が描かれてい
る。テーマからも、ヌイ・アン・ドンジョンの
影響が伺える。
 まぐさ石には、最後の審判による呪われた境
界、つまり天国と地獄が象徴的に描かれている
ようだ。左がエルサレムと翼を広げた天使、右
は巨大な蛇を中心にした地獄の様である。
 彫りはとても深いのだが磨滅が進んでおり、
現在の教会のタンパンやイエロン美術館のもの
と比べると、やや見劣りするのは否めない。
 
 
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ボジ聖ポン教会
  Baugy/Église St-Pons   
 
    4 Saône-et-Loire (Brionnais)   
       
 
   
 
 この村はアンジー・ル・ドュックの南西4キ
ロに位置しており、村の直ぐ西でロワールの清
流と接している。
 教会は集落の中程のやや小高い場所に建ち、
美しいロマネスク鐘塔が目印になっている。
 写真は聖堂の左背後からのもので、鐘塔と後
陣のバランスがとても絵になっている。
 教会は11世紀松の創建で、ブリオネー地方
では最古の教会の一つと言われている。

 正面のファサードは後世の改造によって凡庸
な姿になっているが、単身廊の素朴な構造は魅
力的である。しかし、身廊部分もどうやら復元
されたものらしい。
 おまけに残念なことに、内部が全て彩色され
ており、いささか呆然自失状態だった。だが、
気を取り直して眺めると面白い柱頭も在り、鐘
塔下の内陣の構造は当初の面影を表しているよ
うに感じられた。
 祭室は極彩色だが、形状はドーム天井に五窓
七連の半円アーケードというロマネスクそのも
のである。当初から彩色されていたのかどうか
は謎だが、色の種類はともかく彩色されていた
と考えるほうが自然なようだ。
 やはりここでは、後陣と鐘塔の姿を聖堂の後
ろから眺めるのがベストだろう。
 
 
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マルシニー聖ニコラ教会
  Marcigny/Église St-Nicolas   
 
    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
 
   
 
 中世以来の市で有名な町で、ボジからは南へ
2キロ程走れば着くことが出来る。町の真ん中
に建つ12世紀半ばに創建された古刹で、クリ
ュニー修道院とは密接な関係があったという。
 私たちが教会に着いた時は、町の有力者の葬
式の真っ最中で、完全に終わるのを待たねばな
らなかった。

 三つの梁間を持つ三廊式の聖堂である。側廊
との仕切りは半円アーケードだが、天井は尖頭
穹窿でゴシックへの手直しが成されている。
 翼郎部分は創建時の姿を留めており、柱頭に
は怪獣と葉模様、グリフィン等、興味深いモチ
ーフが見られた。

 最もロマネスクの様式を伝えているのが、写
真の西正面ファサードだろう。
 三連アーケードの中央のみが開口部となって
おり、両側は盲アーチになっている。
 剛毅な三重のヴシュールが簡潔で美しい。最
外の角柱には、X字をモチーフとした連続装飾
模様が刻まれており、簡素な中に異彩を放って
いる。
 中央タンパンに飾られた像は、子供たちと聖
ニコラ像だが、新しいものである。
 
 
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セミュール・アン・ブリオネ
        聖イレール教会

  Semur-en-Brionnais/
       Église St-Hilaire
   
 
    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
 
  
 
 この町はアンジー・ル・ドュックの南に在っ
て、大きな森を抜け8キロ程度走れば着く事が
出来る。マルシニーからは東へ5キロほどの距
離である。
 この周辺の中心の町で、小さな川から少し小
高くなった所に町並みが開けている。
 八角形の鐘塔が目印となっている教会は、町
の中心の広場に面して建っている。優雅な装飾
が施された鐘塔は13世紀の建造だそうだ。

 正面扉口のタンパンには、四福音書家のシン
ボルと二天使に囲まれた黙示録のキリストが彫
られており、さらにまぐさ石には聖イレールの
逸話が彫られている。
 この扉口は現在使用されておらず、実際の出
入りのために南門の扉が開かれている。
 12世紀後期に建造された三廊式の簡潔な聖
堂で、角柱の束ね柱に階上のトリビューンが何
とも美しい見事な建築である。
 正面扉口の内側の階上に、逆円錐形に張り出
したバルコニーのような構造が見られる。きっ
と、高貴な方の席だったのだろう。

 写真は後陣のもので、三つの半円形祭室と八
角鐘塔とのバランスがとても美しい。
 
 
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イゲランド聖アンドレ教会
  Iguerande/Église St-André   
 
    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
 
  
 
 ロワールの流れに直接面した町で、ブリオネ
ー地方の南端ということになる。ロワール沿い
に少し上流へ進めば、ロワール県(当サイトで
はオーベルニュ編に編入)の
Charlieu シャ
ルリューやロアンヌ
Roanne へ通じている。
   
 教会は12世紀の創建で、町の北側の高台に
建っている。冬の日は短く、この教会へ付いた
のは夕暮れ時であった。時間が遅かったため、
扉口の鍵は固く閉ざされていて、内部の見学は
諦めざるをえなかった。柱頭彫刻に良い物があ
った筈だったので、少し残念だった。
 暗くなると、何と聖堂のライトアップが行わ
れたのである。写真の如く、ブルゴーニュ特有
の交差部鐘塔を有した小十字形聖堂の後陣は、
薄暮の中に立体的に浮き上がって、ロマネスク
建築構造の美しさを際立たせたのであった。
 教会周辺には住民はおろか、観光客は他には
誰も居ない。まるで中へ入れず落胆していた小
生共を慰めるかの如き、粋な仕掛けだったので
ある。
 外観から察すると、三廊式十字形の聖堂で、
翼廊の小祭室は南側部分が失われていて、後陣
の眺めはシンメトリーではない。
  
 
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サン・ジュリアン・ド・ジョンジー
      聖ジュリアン教会

 St-Julien-de-Jonzy/
      Église St-Julien
   

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
  
 
 この写真は97年のもので、79年に初めて
訪ねて以来18年振りの訪問だった。初めての
時は、親友で大先輩のM夫妻と御一緒で、雪の
積もった墓地の向こう側に見えた聖堂の美しさ
に、M夫人が思わず「雪のジョンジーか」と感
嘆し、その旅のベスト八景の一つに採用したの
だった。
 聖堂は12世紀の創建だが、かなりの修復が
入っているようだ。柱頭彫刻には素晴らしい作
品が観られた。
 最大の見所が写真のタンパン彫刻で、西正面
扉口の上部に彫られている。
 二人の天使に支えられて昇天するキリストの
像で、ややゴシック的な写実性の萌芽を見るこ
とが出来る。このことから、後期ロマネスクの
作品だろうと推察した。
 まぐさ石部分には、十二使徒との最後の晩餐
と、キリストが弟子の足を洗う場面が細密に彫
られている。
 タンパンが教会の顔となっている、最も優れ
た事例の一つだろう。 
 
 
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 シャトーヌフ・シュル・ソルナン
         
聖ポール教会
   Châteauneuf-sur-Sornin/
        Église St-Paul
  

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
   
 
 
 サン・ジュリアンの真東に当たる絵のような
町で、古い町並みのあちこちから立ち上る朝餉
の煙に、不思議な郷愁を感じた。
 教会は背後のやや小高い場所に建っており、
この地方特有の鐘塔が印象的だった。
 聖堂は三廊式、高い天井と尖頭ヴォールト、
半円形の三つの祭室など、後陣からの眺めは整
然とした美しいものだった。
 西正面の扉口には何も無いのだが、南側の門
の上部に置かれたまぐさ石に、写真の群像が彫
られている。
 半円アーケードのそれぞれに聖人が立ってお
り、十二人居ることから十二使徒であるだろう
ことは容易に想像できる。
 鍵を持った聖ペテロは直ぐ判るが、書物を持
った人が数人いるので、聖パウロは識別出来な
い。情けないことに、それしか判別方法を知ら
ないのである。
 
 
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フレウリ・ラ・モンターニュ
     聖バーテルミー教会

  Freury-la-Montagne/
     Église St-Barthélemy
   

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
   
  
 
 前述のイゲランドの東にほぼ隣接する村で、
車で走れば数分で到達する、やはりブルゴーニ
ュ最南端の県境に近い場所である。
 周辺は広大な牧草地が続く、冬でも緑一色の
美しい田園風景の真っ只中である。

 教会はその小さな村の西端に建っており、珍
しい赤煉瓦を積んだ鐘塔が特徴である。
 建築は三廊式バジリカ形式で、翼廊が無い方
形の聖堂である。もっとも、ロマネスク建造当
初の姿からはかなりゴシック的な改造が成され
てきたようだ。

 創建当初の姿を完璧に留めるのは、写真の西
正面扉口のタンパン彫刻である。
 彫刻は素朴で、半円形の中に納まるようにデ
フォルメされた像容となっている。そここそが
ロマネスク彫刻の魅力の原点、巧まざる抽象芸
術の魅力、だと言えるだろう。
 半円部には、二人のマリアと復活するキリス
ト像が彫られている。
 まぐさ石部分の図像が白眉で、右の輪の中に
は聖母子そしてそれを礼拝する東方三博士の像
が描かれている。
 小さなタンパンながら、端正な彫りの傑作だ
ろうと思う。
  
 
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 ヴァレンヌ・ラルコンス
      聖ピエール教会

  Varenne-l'Arconce/
      Église St-Pierre
  

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
   
   
 
 一面に広がる牧草地の緑の向こうに見える、
このおとぎ話の村みたいな佇まいの集落は魅力
的だが、その中心に建つ聖堂の姿はさらに際立
っている。
 西正面ファサードは二層になっており、ヴシ
ュールで飾られた半円アーチ門上に二本の細い
円柱で仕切られたアーケードが造られている。
 聖堂は三廊式十字形で身廊の天井は尖頭ヴォ
ールト、祭室は中央のみで袖廊には小祭室は無
い。
 交差部の鐘塔は、聖堂の規模には不釣合いな
ほど豪壮なもので、半円アーチ窓を四方に上下
各二つづつを配した精巧な建築である。
 写真は、現在は閉ざされている南の扉口で、
小さなタンパン彫刻が残されている。
 私はこの像が結構気に入ったのだが、見たと
おり“十字架を背負う子羊”である。
 キリストの写実的な姿を描くことの出来なか
った時代の、象徴的な表現方法の名残だろうと
思えた。
 子羊はキリストを象徴し、十字架を背負って
“勝利のキリスト”を表現しているのである。
  
 
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サン・ジェルマン・アン・ブリオネ
     
聖ジェルマン教会
  St-Germain-en-Brionnais/
      Église St-Germain
   

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
   
   
 
 シャロル Charolles の南11キロにある牧
歌的な村で、鐘塔の姿が教会の存在を明らかに
している。
 翼廊の無い三廊式のバシリカで、西正面入口
の右手に鐘塔が建っている。入口門には尖頭形
のタンパンがあり、四方アームの先端がT字に
なった松葉杖十字が彫られている。このあたり
はゴシック時代のもののようだ。
 四つの梁間を持つ身廊の天井は半円筒ヴォー
ルトで、それぞれに半円の横断アーチが設けら
れている。写真は北側廊から中央を写したもの
だが、この半円アーケードと横断アーチが創出
する空間こそが、ロマネスク建築の真骨頂と言
えるだろう。
 半円形祭室には三つの窓があり、二つの盲ア
ーチと併せ、ロンバルディア帯装飾の下に五連
アーケードが設けられている。
 南北両側廊の小祭室と主祭室の三つが並ぶ後
陣の佇まいは秀麗で、ロマネスク聖堂らしい魅
力がここでも発揮されている。
 
 
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ボア・サント・マリー聖母教会
  Bois-Ste-Marie/
      Église Notre-Dame
   

    4 Saône-et-Loire  (Brionnais)  
       
   
 
 
 ブリオネー地方から少し東の、ローヌ県との
県境にかなり近いところに位置している。
 教会は想像以上に立派なものだった。
 二層になった大きな祭室、交差部の荘重な鐘
塔、三連のアーケードが並ぶ西のファサード、
三廊式の身廊等、堅固な印象を持った聖堂建築
である。
 南の扉口のタンパンには、エジプトへの逃避
図が彫られていた。とても質の高い彫刻だと感
じた。
 身廊の柱頭に彫られた彫刻は目を見張るばか
りで、時間を忘れて写真を撮りまくっていたた
め、閉門時間に気付かぬほどだった。
 写真はその一つ、地獄の魔物に舌を抜かれる
亡者の図である。閻魔大王を想起するが、人間
というもの、時代や国は変われど似た様なこ
とを思っているものである。
 他にも頭に手をやって悩む人の姿や、相撲を
とる者、得体の知れぬ怪物や植物など、柱頭彫
刻の不思議な造形の森を彷徨う楽しみを与えて
くれたのだった。   
 
 
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