ブルゴーニュ地方
 (北部)
 ロマネスク
  Bourgogne (Nord)
     Romane
 
 
 
   冬の葡萄畑:リシェブール (Richebourg)  
    
Vosne-Romanée (Côte-d'Or)
  有名なロマネ・コンティの畑に隣接する
  グランクリュの畑
 
 各派修道院発祥の地であり、中世以来宗教の
中心であった。ロマネスクの遺構も数多く残さ
れており、有名なブルゴーニュのワインと共に
素晴らしい旅が約束されている地方である。

 事例が多数なので、便宜上当地方を南北に分
けて掲載した。
 北部には、ヴェズレー、フォントネー修道院
やディジョン、ヌヴェール地方の各寺院が含ま
れる。
 
Saône-ey-Loire 県を除く三県を北部とし
た。   

 コート・ドールは正に黄金の丘の名に相応し
く、ロマネスク美術もワインも、全てが一級品
と言える格別の地域なのである。
 
 
    
 ブルゴーニュ地方の県名と県庁所在地

   北部  
1 Yonne (Auxerre)  
        2
Côte-d'Or (Dijon)   
        
3 Nièvre (Nevers)   
   
南部  4 Saône-et-Loire (Mâcon)
  
              
  
 
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  ヴェズレー聖マドレーヌ寺院
   Vézelay/Basilique
    Ste-Madeleine
 

       
1 Yonne 
 
   
  
 
 余りにも著名なロマネスク巡礼の聖地だが、
訪れるたびに大きな興奮を覚える。マグダラの
マリアの聖遺骨に敬意を払う事も重要だが、そ
れ以上に、玄関間ナルテックスを飾る彫刻と、
身廊に林立する二十本の柱の柱頭各四面に彫ら
れた彫刻とに出会えるからなのである。
 アダムとイヴ、カインとアベル、ダヴィデな
どの旧約聖書からの図像や、ペテロやパウロと
いった聖人を主題にしたものが大半を占める。
 悪魔のように幻想的な形をした脇役達にも、
ここが到底教会とは思えぬほど自由な発想の造
形が成されている。
 写真の柱頭彫刻は「神秘の粉挽き」と呼ばれ
ているが、モーゼが小麦を機械に入れ、聖パウ
ロがこれを粉にする場面である。旧約の預言者
から、人々の糧として新約の聖人へと継承され
る、という比喩なのである。
 他の柱頭彫刻も全て、12世紀に彫られたと
は思えぬ程鮮やかな切り口であり、柱頭という
制限された形状の中とは見えぬ程大らかな場面
構成になっている。
 柱の上部に有るので望遠レンズで撮影した。
見学には双眼鏡などが必要だろう。
 なだらかな丘の上に有るヴェズレイの古びた
町並みも魅力で、崩れた家壁などを見ながら歩
きたいものである。
 
 
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 アヴァロン聖ラザール教会
  Avallon/Église St-Lazare   

        
1 Yonne 
 
    
 
 前述のヴェズレーから東へ15キロ、丘の上
の城壁に囲まれた中世そのままの町である。
 15世紀の時計塔門を通り抜けて町並を進む
と、そこには小さな広場があり、教会はその空
間に面して建っていた。
 写真は西側正面の扉口で、12世紀のロマネ
スク彫刻で飾られている。
 何重ものヴシュールや、左右の円柱に施され
た細密な模様は、イスラムのアラベスクを想起
させる程の密度の濃さだ。
 特に右側の門の半円形タンパンには、東方三
博士の礼拝、聖堂の奉献、聖霊の降臨などを主
題とした彫刻を観る事が出来た。
 図案のアイディアを競うかのごとき円柱部分
の多彩な模様や、ゴシックの到来を予感させる
ような細長い人物像、ねじり飴みたいな妙な形
の柱など、ロマネスク彫刻の面白さが凝縮され
ている。
 
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 ポントベール聖母教会
  Pontaubert/Église Notre-Dame   

        
1 Yonne 
 
     
   
 
 ヴェズレーとアヴァロンの間に在る村で、ク
ーザン渓谷
(Vallée du Cousin) と交差してい
る。人口は数百人と言う小さな集落である。

 国道に面して、鐘塔の付いた聖堂が建ってい
る。12世紀後半から13世紀前半に創建され
た、後期ロマネスク様式を示している。
    
 身廊は四つの梁間を持つ三廊式で、翼廊は無
い。身廊の天井は尖頭式の横断アーチで仕切ら
れており、その間は交差穹窿で結ばれている。
 身廊の柱頭には、古典的な植物文様が意匠さ
れていて、雰囲気は外観からは想像もつかない
ような重厚な建築空間を構成している。

 見逃せないのが写真の西正面の門で、特にタ
ンパン彫刻が興味深い。
 聖母教会として建てられただけに、主題は聖
母の生涯からの重要な場面が選ばれている。
 左側は、誕生した幼児キリストを抱く聖母子
に礼拝する三王(東方三博士)の図であり、右
側は、聖母被昇天の場面である。上部に天使が
舞っている。
 彫刻は技巧的に格別優れているとは思えない
が、タンパンにこの二つの主題を取り入れた事
例はとても希少である。
 
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  エスコリヴ・サント・カミーユ
    聖ピエール教会

  Escolives-Ste-Camille/
    Église St-Pierre
  

        
1 Yonne 
 
      
   
 
 オーセールの南9キロに位置するやや大きな
集落で、ヨンヌ川の西側斜面に広がっている。
古代ローマの遺蹟も残っているという、歴史的
に由緒ある場所だが、オーセールに近いことか
ら現代的な住宅地としても発展している様だ。

 教会は斜面に広がる町の中腹に建っており、
八角鐘塔の赤い尖塔が直ぐ目に入る。
 翼廊の無い単身廊に半円形の後陣という簡素
なプランで、祭室に接して鐘塔が立ち上がって
いる。交差部のような四本の円柱に、尖頭アー
チが四方に意匠されている。
 12世紀の創建で、地下祭室
(Crypte) が在
るのだが、残念ながら今回は閉まっていて見る
ことが出来なかった。
 写真は西側のポーチで、イル・ド・フランス
などで見かける
Arcades du Porche アーケー
ド門形式になっている。整然としたアーケード
が三方に廻らされており、簡素な教会堂に華を
添えている。
 スペインでは珍しくないが、玄関間としての
和やかな空間を演出している。
 聖堂西門のタンパンに彫られた唯一の彫刻、
一頭の羊が印象的であった。
 
 
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 オーセール
   聖エティエンヌ大聖堂

  Auxerre/Cathédrale
     St-Étienne
   

        
1 Yonne 
 
       
   
 
 オーセールではサン・ジェルマン修道院付属
教会のクリプトに描かれた、聖ステファンの生
涯を描いたフランス最古のフレスコ画が目的だ
った。カロリング朝時代の作品である。
 しかし、クリプトが修復中で、残念ながら観
る事が出来なかった。

 もう一つの目玉が、少し離れた場所に建つこ
の大聖堂で、やはりここにもクリプトがあり、
11世紀のフレスコ画が描かれている。
 写真はその一部で、白い馬に乗ったキリスト
の像である。周囲には四人の天使が、いずれも
馬に乗った姿で描かれている。他所では見たこ
とが無いのだが、一体何を意味しているのであ
ろうか。
 もう一つのフレスコ画の主題は、四人の福音
書家のシンボルである獅子・牛・鷲・人物に囲
まれた荘厳のキリスト像である。
 聖堂そのものは壮麗なステンドグラスに彩ら
れたゴシックの空間なのだが、その地下には実
はひっそりと創建当初のクリプト(地下祭室)
があり、その天井にフレスコ画が描かれている
という構図には、何か秘密めいた趣が感じられ
てとても興奮する。
 
 
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 オーセール聖ジェルマン教会
  Auxerre/Église St-Germain   

        
1 Yonne 
 
       
   
 
 前回は修復中で見学出来なかったクリプトへ
まっしぐら、今回初めて入ることが出来た。
 8~9世紀カロリング王朝時代の地下祭室で
あり、聖ステファンの生涯と殉教が描かれたフ
ランス最古のフレスコ画だそうだ。
 聖ステファンが石打で殉教する場面など、や
や黄ばんでおり修復の痕が見られるものの、良
く保存された素晴らしいフレスコ画であった。
残念なことに、クリプト内の写真撮影は全く不
可能で、折衝の余地すら丸で無かった。
 ちなみに、聖ステファノはキリスト教史上最
初に殉教した聖人で、フランス語ではサン・テ
チェンヌ
St-Étienne という。

 教会前の広場の反対側、聖堂への入口の階段
脇に写真の鐘塔
(Clocher St-Jean) が堂々と建
っている。
 12世紀の建築で、ロマネスク様式の盲アー
ケードやアーチ開口部が意匠されている。
 大聖堂もここ聖ジェルマン教会も聖堂建築は
全てゴシックに改造されているので、クリプト
部分を除いた純粋なロマネスク建築はこの鐘塔
だけかも知れない。
 広場から眺められる大聖堂とヨンヌ川の景観
は爽快だったが、撮影厳禁の余韻はいつまでも
不快だった。
 
 
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 シャティヨン・シュル・セーヌ
    聖ヴォルル教会

  Châtillon-sur-Seine/
     
Église St-Vorles   
 
       
2 Côte-d'Or 
 
       
  
 
 白ワインで名高いシャブリ (Chablis) の葡
萄畑を車窓に見ながら、さらに東へと進むと、
セーヌ河の流れる落ち着いたこの町に出る。
 セーヌの水源である泉の湧く森が、この町の
南50キロの所に在るという。
 町外れの小高い丘の上に、シルエットの美し
い塔が見えるので、教会の所在はすぐに分かっ
た。細い路地を抜け、狭い石段を登っていくこ
とになる。

 10世紀の創建であり、カロリング朝時代プ
レ・ロマネスク建築の名残を二本の塔や翼廊に
見る事が出来る。
 第二次大戦の激戦地であったので、勿論修復
されており、壁などは近年塗り替えられたよう
だ。しかし、簡素な建築や小さい窓、素朴なロ
ンバルディア帯装飾などからは、当初のプリミ
ティヴな雰囲気と美しさが充分に感じられた。
 聖堂内部へは残念ながら入れなかったが、町
の中心にある中世の石橋から振り返って眺めた
教会全体の景観は私達に忘れ難い感動を残して
くれた。
  
 
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  ティル・シャテル
    
聖フローレン教会
  Til-Châtel/Église St-Florent  

       
2 Côte-d'Or 
 
        
  
 
 ディジョンの北20キロに位置する、ティル
河の流れ
に面した静かな町で、教会はその町外
れの高台に建っている。
 車を教会の背後にある広場に止めたのだが、
そこからは教会の後陣と鐘塔が、写真で見る通
りの美しさで目に飛び込んできた。
 ロマネスク巡礼の楽しみの一つに、美しい半
円形の後陣を見ることが挙げられる。特に、こ
の教会のように、祭室と二つの小礼拝堂がある
姿が好きである。
 正面の西門にはアーチ装飾が施されており、
タンパン彫刻が残っていた。荘厳のキリストを
支える二人の天使と、四福音書家のシンボルが
彫られた12世紀の作品らしい。
 内陣は三廊式になっており意外に身廊は明る
かった。尖頭アーチの天井や、採光を意識した
上部の窓が、後世の補修によって加えられたも
のと考えられる。
 しかし、腰の座ったずっしりと太い角柱や、
素朴な意匠の柱頭彫刻には、並々ならぬ歴史の
年輪が感じられたのだった。
 
 
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  ディジョン聖ベニーニュ大寺院
  Dijon/Cathédrale St-Bénigne  

       
2 Côte-d'Or 
 
        
    
 
 ブルゴーニュへは何度も旅しているのに、不
思議とディジョンを訪ねるのは今回の旅が初め
てだった。大きな町嫌いが要因で、他に深い意
味は無い筈である。
 この町での目的は、この大寺院そのものに有
るのではなく、地下に作られた円形祭室にあっ
た。プレ・ロマネスクとも言える10世紀の建
築で、創建当初の姿を残しているのは、この地
下のクリプトだけとなってしまっている。

 ほの暗い地下祭室には、祭壇を取り囲んで外
側に16本、内側に8本の柱が立っている。
 ほとんどの柱は装飾が一切無いのだが、中に
数本だけ図像が彫刻されたものがあった。
 写真はその内の一本で、両手をバンザイのよ
うに挙げた人物像が四方に彫られていた。
 祈る人の姿として古くから描かれてきたオラ
ンス(仏語ではオラン)である。
 しばらくの間、この素朴な祈りの像を見つめ
ていたのだが、現代人がとっくに忘れてしまっ
た何かとてつもなく大切なモノを示しているよ
うに思えてならなかった。
 限りなく純化されたもの、魂のような・・・
 
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  ブシー・ル・グラン
    聖アントナン教会

  Bussy-le-Grand/
    Église St-Antonin
  
 
       
2 Côte-d'Or 
 
       
 
 
 ディジョンとオーセールの中間に在る美しい
城郭都市として著名な
Semur-en-Auxois
ミュールから、北東19キロに位置する静かな
村である。
 集落中心の高台に建つ堂宇はロマネスク最盛
期をやや越した様式だが、建造は12世紀後半
とのことだった。フランス北部の各地と共にこ
の地方では、ゴシック的な意匠の影響がとても
早かったのである。
 三つのベイを持つ三廊式の身廊のアーチは、
写真でも判るように全て尖頭アーチで構成され
ている。
 低い位置にある柱頭には、ライオンに囲まれ
た人物像や植物の花弁を図案化したような優れ
た意匠の彫刻を見ることが出来た。
 交差部に聳える鐘塔の壁面に施されたロンバ
ルディア帯のデザインが特徴的だった。
 
 
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  フラヴィニー・シュル・オズラン
      
旧聖ピエール教会
  Flavigny-sur-Ozerain/
    Ancienne Église St-Pierre
  

        
2 Côte-d'Or 
 
        
 
 
 ブシーの南13キロの山間に開けた家並がと
ても美しい村で、8世紀に創設されたベネディ
クト派修道院の遺構が残されている。
 聖堂の一部が残っており、特にカロリング朝
時代の特徴を伝える写真の地下祭室
Crypte 
は、近年修復されたそうだが良く当初(8世紀
半ば)の荘厳な雰囲気を伝えて見応えがある。
 写真は四本の円柱が立つ中央祭室部分で、粗
い平石積みの天井は素朴な交差穹窿である。柱
頭には伝統的な植物文様や人面の彫刻などが見
られる。
 回廊部分にある角柱には、細かく連続する植
物の蔓のような洗練された意匠も見られた。
 修道院で中世以来製造されている“アニス菓
子”を土産に買った。
 
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  フォントネー
    
旧シトー会修道院
  Fontenay/Ancienne Abbaye
     Cistercienne
  

        
2 Côte-d'Or 
 
        
 
 12世紀に修道士 St-Bernard Clairvaux
聖ベルナール・クレヴォーが創建したシトー派
の修道院で、美しい森に囲まれた閑静な場所は
戒律の厳格なことで知られるこの会派にはいか
にも相応しい。
 修道士たちが暮らした生活の場も残され、自
給自足を旨とした質素な生活が伺われる。
 現在は修道院跡として、世界遺産にも指定さ
れた博物館となっている。
 しかし、付属教会とその真横に隣接する回廊
部分は当初のまま保存され、ロマネスクの簡素
な美しさをたっぷりと味わう事が出来る。
 西側の入口、三廊式の身廊、十字形の翼廊、
方形の祭室などには一切の彫刻などの装飾は見
られず、南フランスにあるシトー会三姉妹の修
道院などの建築と同様の質実な意匠である。
 写真は回廊部分のもので、ル・トロネやシル
ヴァカンヌにも見られる二連アーケードの意匠
で、これが唯一の装飾的な部分と言えるかもし
れない。
 随所に湧水や噴水があり、この地がいかに浄
化された聖地であったかが伝わってくる様だ。
 
 
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 ソーリュウ聖アンドッシュ寺院
  Saulieu/Basilique St-Andoche   

        
2 Côte-d'Or 
 
        
   
 
 ソーリュウの表通りから一歩入った裏町に有
るこの教会は、ロマネスクの建築を基礎にして
上部や祭室はゴシックに改造されている。

 身廊の柱頭彫刻から下が、れっきとしたロマ
ネスクである。オータンの影響なのだろうか、
「エジプトへの逃避」や「ユダの首くくり」と
いう共通のモチーフが見られたが、「キリスト
の誘惑」「ロバで行くバラーム」等の他に、図
案にしたい程巧妙な植物文様も彫られていた。
 特に目を引いたのが写真の「我に触れるな」
で、墓から復活したイエスがマグダラのマリア
に「私に触れてはならない。まだ父の御許に上
っていないのだから」と告げる聖書の場面であ
る。驚くマリア、優しく見下ろすキリスト、現
代の子供のほうが余程上手に描くのではないか
とさえ思えるような一見稚拙な像容である。
 古代ギリシャ・ローマ以来の彫刻の歴史を持
つ西洋の文化と比較して不思議がる家人に対し
て、「レンブラントとマティスとどちらが上手
か」を論ずるような無意味、と蒟蒻問答みたい
なことを言ったのを覚えている。

 教会に近い「コート・ドール」という、珠玉
の旅籠レストランが忘れられない。  
  
 

     
    
 ボーヌ聖母教会
  Beaune/Église Notre-Dame   
 
        
2 Côte-d'Or 
 
       
   
 
 ワインを求めて何度もボーヌへは来ているの
に、教会はゴシックと決めてかかって一度も訪
ねたことがなかった。今回はこの教会に保存さ
れている“黒マリア”像を見ようと、初めて訪
ねたのだった。

 12世紀に建造された三廊式の聖堂は、随所
にロマネスクの面影を残しつつ、かなりの部分
がゴシックに改築されている。
 アーチは全て尖頭式だが、天井の尖頭穹窿や
左右アーケード上の盲アーケード、そして柱頭
彫刻などにはロマネスク様式が色濃く残ってい
る。「聖ステファンの殉教」を描いた柱頭が、
特に印象深く感じられた。
 側廊を仕切るアーケード、盲アーチが連続す
るトリフォリウム、そして採光のための開口窓
が、三段に設けられた身廊は威厳に満ちた空間
だった。

 正面の祭室、後陣は14世紀の建築で、祭壇
に置かれた聖母の生涯を描いたタピスリーは1
5世紀の作だそうだ。
 翼廊南北の門はいずれも、連続植物模様の施
された半円アーチのロマネスク様式であった。
 目的の黒マリア像は素朴な聖母子像で、11
世紀初頭の作と考えられ、オーベルニュから移
されたものと言われている。   
 
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 セルヴォン
    聖バーテルミイ教会

  Cervon/Église St-Barthélemy   

       3 Nièvre
 
(Nivernais)  
  
 
 
 この小さな村はヴェズレーの南35キロ、ソ
ーリュウの西50キロという位置で、モンルイ
ヨン
Montreuillon という大きな森に囲まれ
た静かな集落である。
 教会は村の小さな広場に面しているが、聖堂
はかなり修復されていて、鐘塔の一部や北門、
それに写真の西側扉口を含むファサードの一部
にロマネスクの遺構を残しているのみである。
 妙に空白部分の多いタンパンは、ロワール川
に沿ったニヴェルネー
Nivernais やブルボン
Bourbon 地方に多く見られる意匠である。ま
ぐさ石のような細長い彫刻を、半円タンパンに
はめ込んだような形式のものも多く見られる。
 ここではまぐさ石には何も彫られておらず、
四福音書家のシンボルに囲まれた荘厳のキリス
ト像が、タンパンにはめ込まれたようになって
いる。
 キリストの衣服の表現などは誠に非凡で、こ
のタンパンが当初からの意匠であるとは到底思
えない。どういうものなのか、調べる必要があ
りそうである。
  
 
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  サン・レヴェリアン
    聖レヴェリアン教会

  St-Révérien/Église
      St-Révérien
  

        3 Nièvre
 
(Nivernais)  
   
   
 
 前述のセルヴォンから更に西へ23キロ、ロ
ワールの東岸一帯に広がる壮大な森のちょうど
真ん中に当たる町である。ここから後述のラ・
シャリテまでは、約50キロだ。

 教会は町の北端に位置し、聖堂の北側は墓地
で、そのまま深い森へと続いている。
 写真は身廊部分で入口から祭室を眺めたもの
である。
 三廊式だが翼廊が無く、しかも祭室部分に周
歩廊が付いており、翼廊に相当する半円形祭室
が放射状祭室の様に左右に二つ飛び出している
という不思議な様式である。
 ドイツ・ケルンの三つ葉形式の祭室に似てい
るかもしれない。
 柱頭の彫刻に見るべき作品が多く、かなり修
復は成されているものの、ヴェズレーの影響
を受けたような作品も見られる。

 西側正面は鐘塔の下に扉口があるが、半円ア
ーチの門以外には後世の改修が施されているよ
うだ。
 ヴシュールは三重で、最も中側のアーチには
蔓草の連続模様が彫られ、内側の側面にはビザ
ンチン風の二人の天使が半浮彫されている。伸
びやかな表現がとても気に入った。
 
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 ヌヴェール聖エティエンヌ教会
  Nevers/Église St-Étienne   

        3 Nièvre
 
(Nivernais)  
    
 ロワール川が大きく湾曲する北東岸に開けた
町で、この県の首都として栄えてきた。陶器に
詳しい方なら、ヌヴェール焼の名前を御存知の
はずである。
 ここには二つの重要な教会が在る。一つは大
聖堂祭室のフレスコ画とクリプトが見ものだっ
たが、クリプトは閉鎖されていた。
 もう一つが、11世紀に創建されたこの教会
で、大聖堂よりは町のずっと北東部に位置して
いる。
 壮大なアイディアの聖堂建築で、三廊式十字
形が基本となっている。側廊上のトリビューン
構造が美しい。
 祭室の周囲に半円形周歩廊が設けられ、放射
状小祭室が三つ付けられている。巡礼教会とし
ての風格を、十分に示しているものだろう。
 6本の円柱が連なる、祭室の半円アーケード
は、天上のドームの美しさと共に印象深い。
 写真はその後陣の写真で、左右袖廊に付けら
れた小礼拝堂と併せ、五つの半円形小祭室が並
んだ姿は何とも壮観である。
 
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  ラ・シャリテ・シュル・ロワール
     聖母教会

  La Charité-sur-Loire/
     Église Notre-Dame
  

        3 Nièvre
 
(Nivernais)  
   
   
 
 ヌヴェールからロワールに沿って30キロ下
った川沿いの大きな町で、石橋を渡った対岸か
らの眺めは雄大である。橋の向こうに聳えるこ
の教会の二本の鐘塔から奥に、古めかしい家並
が続いている。
 教会の建築の規模は大きいのだが、周囲に民
家が密集しているために、近付くにつれてその
全貌を見ることが出来なくなってくる。
 外壁に、タンパンのある扉口が見られるが、
かつてはここが西正面の門だったようで、現在
は塞がれてしまっているのだ。この教会に相応
しい、聖母マリアの生涯を彫ったものだった。

 現在の聖堂への入口は別の門となっており、
天井を中心にかなりゴシック的な改造が成され
ている。
 写真は祭室部分のもので、8本の円柱から成
るアーケード、上部の盲アーチ装飾、さらに最
上部の採光窓が、石を積んで構築したとは思え
ない程見事な均整美を示している。
 ロマネスクとしては装飾過多で、かなりゴシ
ック的な色彩が濃いが、様式の変化の面白さを
感じさせてくれる傑作だろう。
 翼廊の壁に、はめ込まれたタンパン彫刻があ
り、両側にモーゼとエリアの立つキリスト像と
三博士の聖母子礼拝、聖堂奉献の場面が彫られ
ていた。
 
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  マル・シュル・アリエ
    聖ジュリアン教会

  Mars-sur-Allier/
    Église St-Julien
  

        3 Nièvre
 
(Nivernais)  
    
 
 何と言う愛らしい素朴な彫刻なのだろう、と
しか言い様が無い。
 しかしこの一見稚拙に見えるタンパンの前で
は、ギリシャ彫刻が頂点を極めて以来千年以上
も経ってから到達した、この像容の本質と時代
性を考えざるをえない。

 ここはヌヴェールの南16キロの寒村で、教
会は三廊式とはいえ村の礼拝堂のような、可愛
らしい規模の建築である。
 聖堂中央に立つ鐘塔だけが、妙に不釣合いな
程いかめしい感じがした。
 
 この彫刻は西正面扉口上の半円形タンパンの
もので、まぐさ石状に横長に彫られている。四
福音書家のシンボルに囲まれた栄光のキリスト
像と、左右に三人づつの聖人が描かれている。
鍵を持つ聖ペテロと書物を持つ聖パウロは判り
易いが、他ははっきりとしない。
 写実を超越した抽象、心的な描写が生んだ最
も純化された造形だと感じた。後述のオータン
の柱頭彫刻と共に、ロマネスク造形の精神とも
いうべき魅力を備えた忘れ難い作品である。
 
 

     
    
 サン・パリズ・ル・シャテル
     
聖パトリス教会
  St-Parize-le-Châtel/
     Église St-Patrice
   

        3 Nièvre
 
(Nivernais)  
   
 
 
 教会の聖堂はロマネスクの原形を失った殺風
景な建築だったが、一歩地下のクリプトに降り
た途端、私も家人も息を飲む程の衝撃的な感動
を抱いていたのがお互いに判った。
 六本の太い円柱、大きく剛直かつ精巧な柱頭
彫刻、素朴な天井の交叉穹窿など、全ての役者
が見事に演じた芝居の如く、ロマネスクの魅力
の要素を完璧に備えた絶品だったのである。
 彫刻の一部には赤色、全体的には緑色が見え
て、彩色されていたのではないかと思わせるの
だが、創建当初には果たしてどうだったのだろ
うか。
 一番手前の曲芸師とフクロウ、次の口から蔓
の延びた獅子、更に竪琴を弾く牛の様な動物、
股の割れた人魚、鍋のような器を持つ老婆、弓
矢を持つ人頭馬などなど、難解な判じモノとし
か思えない、しかし私たちを惹きつける魔力を
持ったこの謎の彫刻群。私たちはここに何時間
くらいいたのだろうか。
 
 

      
    
  サン・ピエール・ル・
  ムーティエ
聖ピエール教会
   St-Pierre-le-Moûtier/
     Église St-Pierre
  
 
        3 Nièvre  (Nivernais)  
   
 
 
 前述の二つの教会からさらに南へ数キロの所
にある町で、交通の要所でもありかなり開けた
大きな町だった。
 教会の扉は鍵がかかっていて入れなかったの
だが、教会の周辺は広場ですぐ脇に役場があっ
たので頼むと直ぐに開けてくれた。
 身廊は半円筒ヴォールトの素朴な天井で、漆
喰は新しいが古い様式の平面プランを示す建築
だった。
 側廊部分や翼廊は交叉リブのゴシックで、後
世に改造されているようだ。
 ここでの見所は身廊アーケードの円柱の柱頭
に彫られた、幾つかの見事な彫刻だろう。
 写真はその内の一つで、椅子にかけ竪琴を弾
く人物と何かを背負う人物とが描かれている。
 この柱頭の右側面には、熊のような動物と棒
を担いで立つ人物がおり、夢に溢れたというよ
りも、謎に満ちた彫刻ばかり。この一帯の石工
たちは、全体どういう精神構造をしていたのだ
ろうか。
 
 
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