スペイン・ロマネスク紀行 
  Románico en España
 
 アラゴンナヴァラ
  
バスク
   地方のロマネスク
 
 Aragón, Navarra
   y
País Vasco
 
 
 
 
 ■県と首都

  
アラゴン (Aragón) 地方
     1 Teruel (Teruel)
     2
Zaragoza (Zaragoza)
     3
Huesca (Huesca)

  ◆ナヴァラ
(Navarra) 地方
     4 Navarra (Pamplona)

  ◆バスク
(Pais Vasco) 地方
     5 Guipúzcoa (San Sebastian)
     6
Vizkaia
(Bilbao)  
     7
Álava
(Vitoria)
 
 
 アラゴン、ナヴァラ地方はカタルニャとバス
クに挟まれており、ピレネー山脈山麓からエブ
ロ川流域、さらにイベリア山脈まで続く広大な
地域である。
 フランスから続くサンチャゴ巡礼路は、二つ
の峠からピレネー山脈を越えた。イバニェータ
峠からロンセスバリェス
Roncesvalles への
道と、ソンポルト峠を越えてハカ
Jacaに至る
道とが有り、二つの道はプエンテ・ラ・レイナ
Puente la Reina で合流し、さらにサンチャゴ
を目指したのである。
 いずれの峠もこの地方に属しており、道筋に
は必然的に巡礼路教会や中世の遺跡も数多く残
っている。巡礼路に沿って点在するロマネスク
教会には、レコンキスタ(聖地回復)の歴史を
留めた独自の魅力が溢れている。

 
民族独立意識の強いバスク地方には、地味だ
が独特のロマネスクが残されていて、美食の魅
力と共に旅を楽しませてくれる。
                
 
 
 プエンテ・ラ・レイナの石橋
   
巡礼はこの橋を渡って、サンチャゴを目指す。 

     
Puente la Reina  Navarra
 
 
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 ソス・デル・レイ・カトリコ
     聖エステバン教会

  Sos del Rey Católico/
    Iglesia de San Esteban
  
     
      2 Zaragoza      
                     
   
 
 初めてこの地方を訪れたのは、1980年の
年末休暇を利用した旅だった。ソスではパラド
ールに泊まったのだが、夜遅く到着し朝早く出
立したので、町はほとんど見ていなかった。今
回ようやく再度パラドールに泊まり、旧市街や
ロマネスク教会をゆっくり歩くことが出来た。
 高台に密集する家並の屋根が美しい町で、教
会のテラスからの町全体の眺望は抜群だった。

 従来の教会は三廊式だったが、16世紀に側
廊の壁を除いて、外側に礼拝堂などが拡張され
たために、祭室部分以外はどうもロマネスク的
ではない、という印象が余りにも強く感じられ
てしまった。
 地下祭室には創建当初の雰囲気が残されてお
り、柱頭彫刻にも傑作があったが、スペインで
は珍しい案内人の厳しい撮影禁止の目が光って
いた。
 更に注目すべきは正面ファサードで、特に扉
口の装飾彫刻は見逃せない。
 タンパンには、四福音書のシンボルに囲まれ
た栄光のキリスト像が彫られている。円柱に彫
られた細長い聖人像は、シャルトルやサングエ
ッサに似て、ゴシックへの過渡期の特徴を備え
ている。写真は気に入った像で、マグダラのマ
リアだろう。
 
 
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 ウンカスティリョ聖マリア教会
  Uncastillo/Iglesia
        de Santa María
 

         2
Zaragoza 
       
 
   
 
 ウンカスティリョは信仰の町に相応しく、ロ
マネスクの寺院だけでも遺跡を含めると4箇所
残っている。その中で最も優れた意匠を見る事
が出来たのは、この教会南門の扉口だった。
 聖堂のプランは、この地域に共通した単身廊
のバジリカ様式で、南側面に鐘塔と南門が設け
られている。
 ここの門にはタンパンは無いが、複雑な構造
のヴシュールは大層壮麗な美しい彫刻だった。
 大きく三重になっており、外側に連続する人
物像が特に傑作だった。
 人間の四季の営みを表したものなのか、様々
な職業を示したのかは不明だが、目の生き生き
とした力強い表現は、抽象の向こう側に何かと
てもリアルなものが見えるような気がして、私
にはとても興味深く思えた。
 大げさに言えば、ロマネスク美術の本質が見
えたような気がした、ということなのである。
あくまで“気がした”だけのことなのだが。
 柱頭にはアダムとイヴ、エジプトへの脱出な
どを主題とした彫刻が確認できた。
 
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 ビオタ聖ミゲル教会
  Biota/Iglesia San Miguel
     
      2 Zaragoza 
                
   
 
 ウンカスティリョに向かう途中のこの町の入
口で、
Iglesia Románico 12e と書かれた看板
を発見した。寄らないわけにはいかない。
 教会は旧市街の閑静な広場に面して建ってお
り、改築の痕跡は残るものの単身廊バシリカの
素朴な様式は伝えられている。
 正面扉口のタンパンを見て驚いた。主題も構
成も、後掲のアグエロのタンパンにとてもよく
似ているのである。何らかの啓示を、アグエロ
から受けたものだろう。
 聖堂の南側面にも扉口が設けられており、こ
こにも見事なタンパン彫刻と円柱や柱頭の装飾
が施されていた。
 タンパン彫刻の主題は、教会の守護神である
大天使聖ミカエルと二天使が彫られていた。
 私が最も気に入ったのは、門の両側の円柱と
柱頭だった。写真は左側部分で、円柱には様々
な種類の細かい連続模様が彫られており、高度
な技術を誇示している。
 柱頭には楽器を弾く人や踊る人が、奇妙な動
物や植物と共に描かれている。脈絡の存在は不
明だが、アグエロで確認できたサロメの踊りだ
ろうか。
 
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 オバーラ聖マリア修道院
  Obarra/Monasterio
       de Santa María
      
       Huesca    
                
 
 
 カタルーニャのボイ谷から峠をひとつ越えれ
ば、この修道院の建つオバーラは直ぐなのだと
いう。以前カタルーニャを旅した際には、ここ
の存在については不勉強だった。
 渓流に架かる石橋を渡ると、覆い被さるよう
な迫力のある断崖を背にした聖堂の建築が目に
飛び込んできた。余りにもドラマティックなロ
ケーションであることに、完全に言葉を失って
いた。
 聖堂は写真で見る通り三廊式のバジリカで、
身廊と側廊を仕切る左右各6本の束柱の立つ壮
麗な建築だった。柱頭彫刻などほとんど無い、
無骨に切石を積んだだけという剛健かつ素朴な
建築だった。
 外壁や後陣の唯一の装飾であるロンバルディ
ア帯のリズミカルな美しさを眺めながら、草の
上に寝転がってみた。
 アラゴンならではの荒々しい風光と融合した
ロマネスク聖堂の、何と絵になる事だろうか。
 
 
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 ロダ・デ・イサベナ大聖堂
  Roda de Isábena/Catedral
      
       Huesca    
                
 
 ルサスの“広報”によれば、この地域での一
押しのロマネスク教会だそうだ。
 町は丘の上に密集した集落で、中央の広場に
面してこの大聖堂が建っていた。
 正面の扉口はアーチ状のヴシュールで飾られ
ているが、柱頭などはかなり小粒で年代は後期
まで下がるだろうと思われた。
 聖堂は三廊式だが、やや大仰で感動には結び
つかなかった。
 しかし聖堂に隣接する回廊に入った時には、
全く違う空気がここには流れている、と感じた
のだった。
 写真で見るとおりの素朴な列柱であり、柱頭
彫刻もさして優れた造形とは思えない。しかし
瞑想に相応しいこの静寂で質素な空間の爽快さ
は、妙にかしこまってよそよそしい聖堂内部に
比べ、よりロマネスク的だと感じられたのだっ
た。今更言うほどのことでも、というようなプ
リミティヴな感慨がかえって嬉しかった。
 
 
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 ルサス聖クリストフォル教会
  Luzás/Iglesia Sant Cristfol        
     
       Huesca    
           
  
 
 カタルニャとの州境に近いこの村は、私達が
訪ねた昼下がりには村中がひっそりと静まり返
っていて、広場には人っ子一人見当たらず、教
会の門も堅く閉ざされていた。
 途方にくれた私は、ある民家の裏でようやく
一人の老人を見つけ話しかけると、彼が私を一
軒の家まで連れて行ってくれた。中から出てき
た中年の婦人は、唯一この村で英語が話せる村
の“広報”のような人だった。中学の先生だそ
うだ。
 ロマネスク教会への来意を告げると、快く扉
の鍵を開けてくれ自由に見学して良いと言う。
 鐘塔のてっぺんまで登り、家内と二人鐘楼の
窓から下を見ると、婦人と老人がこっちを見上
げて手を振っているではないか。アラゴンの人
達のフレンドリーな暖かさを、最初から知るこ
ととなったのである。

 教会の内陣は想像以上にプリミティヴで、半
円筒の天井、身廊のアーチ列柱、柱頭彫刻の素
朴さなどが先ず私達を喜ばせた。
 写真は、側廊から中央の祭室方向を眺めたも
のである。柱頭には、馬か犬か判らないほど素
朴な動物像などが彫られていた。それにしても
美しいア-チ構成である。
 
 
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 アグエロサンティアゴ教会
  Agüero/Iglesia de Santiago
     
       Huesca    
                
 
 ウエスカからの国道を更に北上すると、峠を
登り始める辺りから、薄ピンク色をした巨岩が
林立する不思議な光景に出会う。この小さな集
落は、そうした奇妙な形をした岩山に抱かれる
ような姿をしていた。
 ロマネスク教会は、町を見下ろす高台に建っ
ていた。
 教会建築として奇妙に感じられたのは、三身
廊部分が失われていて、現存するのは三つの祭
室と後陣だけだったからである。
 写真は南門で、壮麗なタンパンと豪快な柱頭
彫刻が残されていた。タンパンの彫刻は“東方
三博士礼拝”で、御公現を意味する重要な主題
とされる。
 柱頭にサロメの踊りが確認できた。
 後陣の美しさに驚き、失われた身廊の礎石を
歩きながら 往時の聖堂がいかに壮大であった
かを偲んだ。   
 
 
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 ロアーレロアーレ城教会
  Loarre/Iglesia
    de Castillo de Loarre

         
       Huesca     
                         
  
 
 ウエスカから西北に進路を取り、原野の中を
ひたすら車で突っ走った。オリーブの木しか生
えていないような荒野である。コウノトリの巣
のように見えていた岩の上の塊が、接近するに
従って壮絶な断崖の上に建てられた城砦だと判
ってくる。何とも凄まじい、としか言いようの
無いほど孤絶感に満ちたたたずまい。
 登山道を車で登って行くだけでも、迫って来
る城郭の迫力に鳥肌が立つほどだった。
 
 城門の中には修道院が併設されており、11
世紀のアラゴン王の創建になるという。
 写真は、修道院付属教会の内陣から、祭室方
向を眺めたものである。聖堂は細長い単身廊の
バジリカで、特に美しいのは、正面祭室後陣の
下部壁面に彫られた盲アーケード装飾だろう。
 アラゴン王の教会にしては派手な部分は全く
見られず、控えた品格ある美しさはさすがと言
うべきであり、その中にあって唯一優美な装飾
となっている。
 入口の門、石の階段、半円アーチの通路、小
さな礼拝堂など、全ての建築が城砦と一体化し
ており、ロマネスクの世界にどっぷりと浸るこ
とが出来る。
 教会上部のテラスからの眺望は絶景だった。
 
 
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 ウエスカ聖ペドロ・
     エル・ヴィエホ教会

  Huesca/Iglesia
    de San Pedro el Viejo
     
       Huesca    
                
 
 現在は単なる地方都市の様な静かな町だが、
一歩旧市街を歩いてみれば、ここがかつてはア
ラゴン王国の都だったというに相応しい歴史的
な風格が感じられてくる。
 教会は11世紀創建の元修道院付属教会で、
聖堂には王の墓も在るという、絶大な由緒を誇
っている。
 扉口のタンパン彫刻など、見逃せない傑作が
多いが、ここでは回廊の柱頭彫刻を取り上げた
い。全部で38本の柱頭が並んでいるが、改修
されたものも多く含まれていて、見学は容易で
はない。各柱頭の制作年代を明記した資料が余
りにも少ないからである。ゾディアック叢書ア
ラゴン編によれば、どうやら半数近くが創建当
初のものであるらしい。
 目の大きな人物像は、王家霊廟の在るサン・
ファン・デ・ラ・ペーニャの彫刻に共通するも
ので、強い影響を受けたものと考えられる。
 
 
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 アインサ聖マリア教会
  Ainsa/Iglesia de Santa María
   
       Huesca     
             
   
 
 フランス国境のピレネーから流れる Ara
ラとシンカ 
Cinca という二本の川が合流す
る河畔の高台の上に、城壁に囲まれたままて中
世から何も変わらず今日までやってきたような
町アインサが在った。
 石畳の大広場
Plaza Mayor は半円アーチの
並ぶアーケードが美しく、レストランや民芸品
の店が軒を並べていた。
 教会は広場を少し入った所にあり、写真の鐘
塔が見えるので直ぐにそれと判る。
 教会の建築は素朴な方形バジリカ形式で、写
真の鐘塔が正面に建ち、アーチ門が聖堂側面に
配され、右奥に半円形の祭室が付いている。
 切石積の窓の無い壁面や半円筒形の天井は、
最も初期ロマネスク的な素朴な美しさを見せて
くれるのだ。
 陽が落ちてから入った地下祭室
Cripta
雰囲気は、ほの暗い中に白い柱頭とレンガのア
ーチが浮かんで幻想的だった。
 広場に面した
Posada Real という旅籠に泊
まったが、夜の広場のテラスで飲むワインの雰
囲気は格別で、夜間照明に浮かび上がった教会
の鐘塔が一段と美しく見えたものだ。
 
 
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 サンタ・マリア・デ・ブイル
     聖マリア教会

  Santa María de Buil/
     Iglesia de Santa María
        
       Huesca    
                  
  
 
 地図の上での直線距離だと、アインサの町か
らこの村まではほぼ南に10キロだが、未舗装
の山道を車で登ると実感は遥かに遠い。
 数軒の農家しかない、心寂しいこんな寒村を
訪ねることなどそう無いだろう。
 しかし、不思議なことに、この村には由緒あ
る教会が二つも在った。
 このロマネスク教会は数軒の集落から近く、
坂道の下からも装飾アーチの美しい三つの祭室
のある後陣の姿が見えていた。
 教会の中に入った時の驚きを、一体何と表現
すればいいのだろうか。“すごいっ!”ではな
く“あれ?”だったのだ。
 なぜなら、本来ならば祭室に向かって左右に
横断するように構築するべきアーチの梁が、こ
こでは写真のように前後縦に二本通ってしまっ
ているのだった。
 見慣れてしまうと、その素朴で自由で奇抜な
発想が素晴らしく思えてくる。
 掃除に来た農家の家族との触れ合いも素敵だ
った。  
 
  
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 アルケサール聖マリア教会
  Alquézar/Iglesia
       de Santa María
     
       Huesca    
               
 
 
 絵画的な美しさに満ちたこの山間の町は、近
年芸術家達が住み着いたり、また観光的に再開
発されたりして急速に発展したらしい。
 教会は旧市街のチャーミングな家並を抜けた
所に聳える岩山の上に建っており、それはあた
かも要塞のように見えた。
 建物に入るとすぐ回廊になっており、そこは
凡庸な柱頭ばかりだったが、それに続く教会入
口前のアーケードに造られた柱頭彫刻は、他に
類を見ないようなユニークな造形だったのだ。
 写真はその内の一つで、最後の晩餐かカナの
饗宴だろうと思ったのだが、何かが違うので詳
細に眺めた。
 中央でのけ反って踊る踊り子、左端では何や
ら首をぶら下げているようにも見える。当然、
サロメが踊るヘロデ王の宴ということになる。
 他にも、アブラハムの犠牲やノアの箱舟など
旧約の主題が中心だった。
 
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 ラレーデ聖ペドロ教会
  Lárrede/Igresia de San Pedro     
         
       Huesca    
                
   
 
 アインサからピレネーの山麓を縦断し、ハー
カに向かう途中の町サビニャニゴ
Sabiñanigo
の手前に位置している重要な教会である。
 教会の聖堂や鐘塔の全てが、これほどまでに
均整のとれた状態で、創建当初のまま保存され
ている例はまことに希少だからである。聖堂の
一部や塔そのものが、後世に再建されているの
が普通である。
 建築は11世紀末のもので、単身廊に翼廊が
交差した十字形である。写真は後方からの眺め
で、半円形の後陣と翼廊の片側に建てられた鐘
塔が写っている。
 すっくと立つ塔は清楚で優美であり、ピレネ
ー地方を代表する鐘塔の一つと言えるだろう。
 後陣の装飾が美しく、特に盲アーケードと縦
格子の意匠が珍しい。これをそっくり真似たロ
マネスク聖堂が手前のブサ
Busa という地区
に建っていた。
 小さな窓が数箇所しか無いという、石の塊み
たいな、なんとも無骨で重々しいはずのロマネ
スク建築だが、ここではとても軽やかで華麗で
あるとすら見えてくる。
 内陣への入口は側面の南門からで、隣家のお
嬢さんが鍵を開けてくれた。
 積まれた石が、その重量感を感じさせないほ
ど軽快に作り出すアーチ曲線の美しさに感嘆し
た。ここからハーカは20キロほどだ。  
 
 
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 ハカ大聖堂
  Jaca/Catedral
       
       Huesca   
                       
 
 
 ピレネーのソンポルト峠を越えて来たサンチ
ャゴへの巡礼路は、この町から折れナヴァラ地
方へと向かう。旧市街はいかにも古い宿場町の
面影を伝えており、市場や露地を歩くのは実に
楽しかった。
 そんな町の中心に、11世紀創建といわれる
この聖堂が建っている。
 西扉門の半円形タンパンは、組み合わせ文字
と二頭の獅子などが彫られている。ギリシャ文
字のXPI∑TO∑、キリストスの頭二文字X
Pと、十字や花模様とを組み合わせたシンボル
は、キリストが偶像化される前の伝統の名残だ
ろう。
 聖堂は側廊の付いた身廊と三つの祭室だけと
いう単純なプランだが、どっしりとした太い柱
には堂々たる風格が見えるようだ。
 高い位置で見え難いが、しっかりとした彫り
の柱頭は見逃せない。
 写真は、表へ出た南の柱廊門に彫られた柱頭
彫刻で、楽器を持ったダヴィデ王や楽師達、イ
サクの犠牲などを描いた繊細な彫りが素晴らし
い。だがこれは、精巧に出来たレプリカだそう
で、ちょっと見には先ず見抜けないだろう。
 
 
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 イグアセル聖マリア教会
  Iguácel/Iglesia de Santa María
      
       Huesca     
                     
 
 
 辺鄙な場所に在るロマネスクの教会は、今ま
でに相当数多く訪ねたつもりでいた。
 しかし、この教会へのアプローチほど、艱難
辛苦と恐怖を感じたことはかつて無かった。
 10キロ続く尖った石だらけの路面の急峻な
山道。車は、橋の無い三本の川を渡らねばなら
ず、その一つは車幅いっぱいのダムの堰堤にな
っていたのである。
 ハカからは、ピレネーの谷深く分け入った聖
域で、着いてみると道中が嘘だったかの様な、
鳥の声と渓流の音だけに支配された別世界だ。
 聖堂は写真で見るような単身廊のバジリカ建
築で、素朴な石積以外にはほとんど装飾の無い
まことに素朴な建築だが、凛としたたたずまい
が美しかった。
 周囲の紅葉が映え、清楚で簡潔な聖堂建築の
シルエットを浮き上がらせていた。
 何という平和な雰囲気なんだろうかと、すっ
かりロマネスク的美の境地に没入してしまって
いた。復路にも通り抜けねばならないはずの戦
慄を、その時はすっかり忘れていたのだ。
 
 
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 サン・ファン・デ・ラ・ペニャ
      修道院

  San Juan de la Peña/
      Monasterio
      
       Huesca   
                     
 
 
 アラゴン地方の西端に位置するこの修道院に
行くには、ハカから雪のオロエル峠を越えねば
ならなかった。
 日本から持参した、簡易チェーンがようやく
役に立った。
 聖堂は岩山をくりぬいた様な場所に建てられ
ており、余りの奇怪な佇まいに驚いたものだ。
 9世紀の創建で、アラブの影響が色濃いモサ
ラベ様式の地下教会が残っている。
 プレロマネスクのような、荒削りのまま積ま
れた石が魅力的である。
 馬蹄アーチの門を抜けると、回廊部分に出ら
れる。回廊は一部分しか残っていないが、特異
なロケーションもさることながら、柱頭に彫ら
れた彫刻の独創性には仰天した。
 アダムとイヴ、カインとアベル、そしてキリ
スト生誕、エマオへの道、等聖書の物語を主題
にしたものが多い。
 ペーニャ様式とも言えそうなギョロ眼の大き
な人物像が特徴で、自由な発想が生んだ大らか
な図像に感動した。
 
 
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 サンタ・クルス・デ・ラ・セロス
     
聖マリア教会
  Santa Cruz de la Serós/
     Iglesia de Santa María
    
       Huesca    
                    
  
 
 ハカの町からそれ程遠くはないのだが、少し
山へ入り込んだだけでかなりの積雪だった。サ
ン・ファン・デ・ラ・ペニャの僧院とは山一つ
隔てた村で、雪がなければ林道を経由して直接
行るとのことだった。

 正面扉口のタンパンには、ハカに似たXP、
キリストのシンボルであるクリスモンと二頭の
獅子が描かれている。
 平面プランは簡素な十字形で、単身廊に翼廊
と一つの祭室だけが付いている。南の翼廊の上
が鐘塔になっていたので、最上階まで登ってみ
た。ロマネスク様式の窓からの眺めは素晴らし
く、白銀のピレネーを背景にした情緒ある村の
雪景色を堪能することが出来た。
 写真は北東からの全景だが、かつて存在した
女子修道院に付属していた教会らしい質素な佇
まいがとても美しく感じられた。
 この写真は1980年の年末に訪ねた時のも
のである。 
 
 
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 サンタ・クルス・デ・ラ・セロス
    聖カプラシオ教会

  Santa Cruz de la Serós/
     Iglesia de San Caprasio
     
             
       Huesca    
                             
   
 
 2005年秋のこの村の訪問は、1980年
以来25年振りのものだった。  
 前回は写真を失敗していたので今度こそと考
えていたが、後陣背後にスペースが無く、ワイ
ドレンズを使用したにも関わらず余り上手くい
かなかった。

 単身廊のバジリカで、教会というよりも礼拝
堂といった感じのチャーミングな建築である。
11世紀の創建らしいが、プリミティヴな構造
からはもっと古いのではないか、とすら思えて
くるほどピュアな美しさが感じられた。
 壁面には盲アーケードと控え壁、内陣上部に
素朴な鐘楼が作られているのが、この聖堂精一
杯の装飾なのである。

 内陣には石積の壁があるのみで、アーケード
や柱頭などは一切見られなかった。
 町はかなり開けて別荘の分譲などを誘致して
おり、新築中の邸宅も見られた。四半世紀の時
の移り変わりを実感せざるを得なかった。

 前回は雪のためサン・ファン・デ・ラ・ペー
ニャへは直接登れなかったが、今回は改良され
た林道を行くことが出来たが、これを喜ぶべき
かどうか心境は甚だ複雑であった。
 
 
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 シレサ聖ペドロ教会
  Siresa/Iglesia de San Pedro
     
       Huesca    
                     
           
 
 ハーカの西を流れるアラゴン・スボルダンと
いう渓流に沿って、ピレネーの山懐深く入った
山里である。ピレネーの鋭い峰々が間近に迫っ
ている、静かな寒村だった。
 しかし、そんな鄙びた村に、何故かくも立派
な教会が建てられたのかが不思議なほど、豪壮
な建築が村の入口にそびえていた。
 11世紀末に古くから在った修道院に加え、
現在残っている教会堂が建てられたらしい。写
真は南側から聖堂の翼廊部分を眺めたものだ。
 単身廊と半円形祭室、交差する翼廊とで構成
された十字形聖堂である。天井は半円筒ヴォー
ルトで、飾りの無い清楚な雰囲気には品格が感
じられる。
 祭室壁面にのみ、盲アーケードと控え壁が交
互に意匠されていて華やいでいた。
 村の住人が交代で鍵を管理しており、その人
の家を探すのに少し苦労した。
 
 
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 レイレレイレ修道院
  Leyre/ Monasterio de Leyre
            
      Navarra     
                   
  
 
 人造湖イエサを見下ろす小高い台地に、この
修道院が建っている。目指すは付属教会だが、
先ず写真の地下祭室クリプタから見学した。

 11世紀の建造であり、二重になった仕切り
アーチを支える柱頭が低い位置に有るのが、余
り他に類例の無い重厚な形式である。
 柱頭の彫刻の単純な線には、かえって高い芸
術性が感じられるし、柱頭の高さがばらばらで
あるのは、むしろ自由な造形感覚ならではだろ
うと思えてくる。
 数ある地下祭室(クリプト)の中でも、小生
の好みからすれば、かなり上位にランクされる
創造的な傑作である。
 聖堂の身廊にもプリミティヴな柱頭彫刻があ
り、ここの図像は近代美術館の如きシュールな
気分に満ちている。
 西門扉口のファサード彫刻が最もノーマルな
造形で、サングエサの門にも似て、壁面全体が
創作意欲に溢れた図像で覆われている。 
 
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 サングエサ
    
聖マリア・ラ・レアル教会
  Sangüesa/ Iglesia
     de Santa María la Real
               
      Navarra       
                    
  
 
 ハカとパンプローナ Pamplona のほぼ中間
に位置しており、巡礼路がアラゴン河を渡る所
に開けた町である。
 教会は旧市街の中にあり、創建は12世紀と
のことだ。
 写真は南門扉口のファサードで、眼を見張る
ような密度の彫刻で埋め尽くされている。
 タンパンの彫刻は「最後の審判」で、天の父
に裁かれた人々が、天国と地獄に分けられる図
である。魂の重さを量る秤を持つ大天使ミカエ
ルが居り、ぜひとも、この大天使とは昵懇の間
柄になっておかねばならないだろう。
 タンパン外側の四重になったアーチ刳型部分
には、陶工や靴職人など様々な職業の人々や、
聖人や妙な動物なども帯状に彫られている。
 さらにその周囲には、牛や馬や獅子などの動
物を初めとして、色々な仕草をした人物像が無
数に飾られており、まるでデザインの図案集を
見るようである。
 内部は、三廊式で三つの祭室が有る単純なプ
ランだが、中央の堂々としたドームが美しい。
 
 
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 オレッタ聖母被昇天教会
  Oletta/Iglesia de la Asuncion
     de la Virgen
               
      Navarra  
                    
 
 サングエサからウンクスへと抜けるレルガ峠
Alto de Lerga から、発電用風車群の下を抜け
ると、この谷間の村へと下りて行ける。渓流に
架かる石橋を渡れば、この教会の後陣が直ぐに
目に入る。
 創建は12世紀だが、その後時代と共にかな
り修復の歴史をたどったようだ。
 それでも、北門のタンパンに彫られたクリス
モン、単身廊の尖頭ヴォールト天井、鐘塔下の
豪快なアーチと円蓋、半円形祭室のドーム等、
ロマネスクのエッセンスはあちこちに散りばめ
られている。特に柱頭彫刻には数基の傑作が見
られる。
 写真はライオンと悪魔、聖人らしき人物が絡
み合う謎の彫刻だが、ライオンの足を持ったよ
うな奇妙な悪魔の姿は他では見たことが無い。
 ライオンが人の頭に噛み付いている図像がも
う一基在るのだが、一体何を表現したかったの
だろうか。
 この後訪ねたパンプローナのナヴァラ美術館
で、昔この教会の壁を飾っていた14世紀のフ
レスコ画を見る事が出来た。  
 
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 ウフェ聖マリア教会
  Ujué/Iglesia de Santa María
    
      Navarra    
          
 
 
 この村はパンプローナの南約50キロに位置
し、広漠とした丘陵の尾根であたかも城郭都市
の様なたたずまいである。
 サン・マルティンからは6キロ離れている。
 中央の要塞のような建物が教会で、外観から
はロマネスクの特徴を見ることは出来ない。何
故なら14世紀の改修によって、内陣部分だけ
を残して、周囲は全てゴシック以後の様式に覆
われてしまったからだ。
 元来は三廊式バジリカ聖堂だったようで、二
本の中央柱と三つの半円形祭室がそれを証明し
ている。
 内陣に残された柱頭の彫刻は、両手を広げた
人物や植物模様など素朴で美しい。
 後陣も含め聖堂全体が外壁に覆われており、
廊下を歩くようにして後陣を眺めるというのは
珍しい経験だった。
 中央の祭室に安置されたマリア像は銀箔張り
の木像だが、時代は不明という。
 写真は手前の谷を隔てた展望所からで、ウフ
ェの特徴が良く表れていると思う。
 
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 サン・マルティン・ド・ウンクス
     
聖マルティン教会
  San Martin de Unx/Iglesia
     de San Martin de Tours
               
      Navarra  
                    
  
 堂内の地下祭室(クリプタ)を目的に訪ねた
のだが、調査不足のせいもあって、土日しか開
扉しないことを現地で知った。残念だが致し方
ない。

 旧市街は丘の上に開けているので、教会へは
急な坂道を登って行くことになる。入り組んだ
狭い露地ばかりなので、下の町に車を停め歩か
ねばならない。
 急な斜面に建つ教会にはテラスがあり、美し
い街並みや周囲の景観を眺められる。

 写真は、テラスの中に在る南の扉口で、大き
な半円形後陣が右手奥の斜面に聳えている。
 優れた装飾の門で、左右各三本の円柱と柱頭
を基礎にして六本のヴシュールに様々な帯状模
様が彫られていた。花びら・紐の網目・植物の
蔓などがモチーフになっている。
 柱頭には、物語性のありそうな秀逸な図像が
見られたが、具体的な主題は不明だった。

 逃した魚は大きい、という諺があるように、
クリプト好きには何とも残念な結末だった。又
来いよ、というメッセージと考えるには不便な
場所過ぎるし、容易に再訪出来る場所とは言い
難い。江戸っ子らしく、ままよっときっぱり諦
めることにした、というお粗末な一席。
 どうやら、思い出はナヴァラのロゼだけ、と
いうことだろう。 
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 アルタイス聖マルティン教会
  Artaiz/Iglesia de San Martin
             
      Navarra      
                    
 
 
 パンプローナの南東に有る小さな村である。
巡礼路からは少し離れてはいるが、ハカやサン
グエサの影響も見られる美しいファサードを持
った教会が残っている。
 単身廊のバジリカ式という簡素な建築だが、
片側にのみ袖廊が付き鐘塔が接続している。
 南門のファサードは、簡素なタンパンと刳型
アーチを中心に、動物の彫刻と軒持ち送りさら
にその間のレリーフ等が、均衡のとれた美しい
構成を見せている。
 左右の壁に置かれた動物は、牛か獅子の様な
怪獣で、特に左の怪獣は明らかに人を喰ってい
る。深い意味は判らない。
 軒持ち送りは人物像で、無理矢理はめ込んだ
ような意匠はいかにもロマネスクらしい。そし
てその間に挟まれた様々なレリーフには、「ラ
ザロの蘇生」や「地獄のキリスト」といった珍
しいモチーフが彫られている。
 図像の数は少ないが、一つ一つの像がまこと
に丹念に彫られており、これも忘れ難いファサ
ードである。
 
 
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 パンプローナナヴァラ美術館
  Pamplona/Museo de Navarra
       
      Navarra   
       
  
 
 パンプローナの旧市街は城壁に囲まれた丘の
上にあり、中世の面影が色濃い魅力的な町であ
る。旧市街の東端に建つ大聖堂
Catedral
元来ロマネスク建築であったのだが、現在では
完全にゴシックやバロックに改築されてしまっ
ている。
 創建当初の遺構として回廊や扉口に彫られて
いた柱頭が、ここナヴァラ美術館に数点だが保
存されていた。

 最も重要な柱頭は3基で、各々の主題はキリ
スト受難、復活、ヨブの物語、である。精緻な
彫りと見事な構成の美しさは、思わずハッと息
を呑むほど感動的だった。
 写真はその内の“受難”で、ユダの接吻の場
面である。他の面には十字架の場面などが彫ら
れており、いずれも緻密なデッサンと卓越した
彫像技術の高さを見ることが出来る。
 透かし彫りのような奥行のある立体感は、と
ても石造とは思えぬほどで、他所では滅多に見
ることの出来ない傑作である。
 大聖堂の全盛期に思いを馳せた。
 
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 エウナテ聖マリア礼拝堂
  Eunate/Capilla de Santa María
              
      Navarra      
                      
 
 
 40年以上も前のエピソードで恐縮だが、当
時はFAXもインターネットも無い時代であっ
た。この礼拝堂の管理者とのコンタクトは英文
の手紙以外に無かったのだが、約束の日時に堂
守の奥さんが、離れた町からちゃんと来てくれ
ていたのには、大いに感激したものだった。

 写真の通り、巡礼路に面した畑の真っ只中に
建っており、巡礼の途中で亡くなった人達の為
の埋葬礼拝堂という機能もあったらしい。
 周囲には回廊状のアーチ列が残っているが、
従来は屋根の付いた建造物が有ったという。
 礼拝堂は正八角形で、一辺に半円形の祭室後
陣が飛び出している。中心に立って天井を見上
げると、交叉する梁が微妙な曲線を描き、建築
全体に美しい印象を与えている。
 振り返って眺めた礼拝堂の姿は、とても優雅
で象徴的な残影となって、いつまでも私の心に
焼き付いていた。
 
 
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 プエンテ・ラ・レイナ
    サンティアゴ教会

  Puente la Reina/
     Iglesia de Santiago
             
      Navarra      
                  
 
 
 二つの巡礼路が合流するこの町は、サンチャ
ゴへ向かうために必ず渡らねばならないアルガ
川に架かる石橋 (表紙の写真参照) の手前の宿
場町として栄えた。
 パンプローナから来ると、町外れでハーカか
らの巡礼路と合流し、十字架教会や施療院を通
過してから、古い建物の続く
Calle Mayor
畳の一本道を歩くことになる。
 このサンチャゴ教会は、そんな宿場のちょう
ど真ん中あたりに建っている。建築は16世紀
の再建だが、扉口だけが旧遺構として残されて
いる。
 五重に彫られたヴシュール装飾は、かなり摩
滅してはいるものの、詳細に眺めると変化に富
んだ人物像が数多く見られるのである。
 柱頭彫刻も繊細な表現であり、ロマネスクと
してはかなり後期に属するのかもしれない。左
右6本の細い円柱の上に、それぞれ生首が彫ら
れているのが特に興味深かった。
 
 
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 エステリャ聖ミゲル教会
  Estella/Iglesia de San Miguel
             
      Navarra     
                      
  
 
 エステラ Estelar が星を意味する事と、巡
礼路の宿場というイメージと重なって、出発前
からとてもロマンティックな可愛い町を想像し
ていた。
 事実、洪水のような流れ星のお告げを受けた
羊飼いが、この地で聖母像を発見し礼拝堂を建
てたと伝えられている伝説の町なのである。
 町は想像とはかなり違って大規模だったが、
教会周辺には古い宿場の面影が残されていた。

 北側の扉口は見事な彫刻群によって、荘厳に
飾られている。タンパンには四福音書家のシン
ボルに囲まれた栄光のキリスト像が描かれ、そ
して周囲のアーチ刳型には黙示録の老人や聖人
・天使などがびっしりと並んでいる。カタロニ
ア・リポイのファサードを思い出していたが、
少しだけ似ているかもしれない。

 写真は扉口の右壁面に彫られた、キリスト復
活の墳墓を訪ねる三人のマリア像である。これ
ほど感動したロマネスク彫像には、その後数十
年の巡拝の中でも、滅多にお目にかかれないと
いっていい程の名品だった。ゴシック的表現に
は近いのだが。
 聖母マリア、ヤコブの母マリア、そしてマグ
ダラのマリアだろうと思うが、全員が油壺を持
っているのでどれが誰かは分からない。
 
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 エステリャ聖ペドロ教会
  Estella/Iglesia de San Pedro
     de la Rúa
               
      Navarra  
                    
 巡礼路 rúa に面して建つ12世紀の教会。
長い石段を登って行くと、アラブ風波型模様ア
ーチの扉口が見える。
 三廊式のバシリカで、三つの半円形後陣を備
えた荘厳な建築である。
 聖堂の南側に建造された回廊が見所で、西面
と北面のアーケードが生き残っている。
 写真は柱頭彫刻の傑作が連なる北側のアーケ
ードの一基で、“聖アンドレの十字架”とされ
る。X型の十字架や逆さ十字の図像はゴシック
以降らしい。神の手も含め、構図の素晴らしい
抜群の意匠だろう。
 その他、聖書の場面など、ロマネスクらしい
図像に溢れた、魅力的な回廊だった。
 
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 エステリャナヴァラ王宮
  Estella/Palacio de los Reyes
       de Navarra
               
      Navarra  
                    
 
 聖ペドロ教会とは巡礼路を隔てた反対側に、
かつてのナヴァラ王宮の建物が残ってる。
 現在は美術館
Museo Gustavo de Maeztu
として機能している。
 建物は世俗建築ながら、12世紀ロマネスク
様式で、特に正面の壁面には一階に三連のアー
ケード、二階には四連開口アーケードが四つ設
けられている。
 各々の柱頭には当時の彫刻が保存されている
が、特に注目すべきは、壁面両端の付け柱の柱
頭彫刻であろう。写真は、左端の中央部分の柱
頭で、楯を持ってムーア陣と闘う馬上の騎士が
描かれている。王宮らしいモチーフだと言えそ
うである。
 右端最上の柱頭には悪魔らしき図像が彫られ
ているが、位置が高いのではっきりとはみえな
い。この二基が抜群の傑作だ。
 
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 トーレス・デル・リオ
    
聖セプルクロ教会
  Torres del Rio/
    Iglesia del Santo Sepulcro
     
      Navarra      
            
   
 
 エステラからサンチャゴ巡礼路を西に向かえ
ば、約30キロ
でこの町に到着する。
 教会は町並みの中で、八角形の塔のような奇
妙な形をして建っていた。高さは違うが、エウ
ナテの荒野に建つ礼拝堂にとてもよく似ている
なあというのが第一印象だった。
 写真は南側から眺めたところで、右が半円形
祭室で、左は円塔である。扉口はこの南門だけ
だった。

 内部に入って、天井を見上げて驚いた。正八
角形のドームに8本の梁が中央に集中するので
はなく、星型に交錯しているので、まるでイス
ラムのアラベスクを見るようだった。レコンキ
スタ以後に確立された、イスラム的キリスト教
美術であるムデハル様式の影響なのだろうか。

 何のために建てられたのだろうか、という疑
問はエウナテと同様だが、
Sepulcro は埋葬を
を意味することから、不幸にも巡礼中に命を落
とした者のために、巡礼路上に設けられた巡礼
者埋葬礼拝堂なのだろうと思う。
 昔は命がけの旅だったはずで、私達のような
車で駆け回る安直な巡礼とは比較にならないほ
ど厳しいものだったのだろう。   
 
 
     
     
 サン・ミゲル・デ・アララル
     
聖ミゲル聖堂
  San Miguel de Aralar/
    Santuario de San Miguel
               
      Navarra  
                    
 ナヴァラ県とバスクのアラヴァ県 Álava
間に横たわるアララール山塊の高みに、8世紀
に起源を持つ11~12世紀のロマネスク教会
が建っている。
 太い円柱や半円筒ヴォールトの天井、半円横
断アーチ、三つの半円後陣など、由緒正しいロ
マネスク様式を伝えている。
 写真は、祭室に飾られたこの教会の至宝とも
言うべき、12世紀の祭壇の前面である。
 金銀細工に七宝を施した傑作で、リモージュ
の工房で制作されたと伝わる。
 中央に聖母子、下段左に東方三博士、右に受
胎告知の天使と聖母像も確認出来る。  
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 フルイス聖サルヴァドール教会
  Fruiz/Iglesia de San Salvador
               
      6 Vizcaya    
                              
   
 
 ビルバオ Bilbao から北東へ20キロ行くと
Mungia ムンギアという町が在り、そこから東
側の山の中へ6
キロほど入ったあたりの小さな
集落である。

 集落の中心広場に面して建つ教会は、全体が
方形バシリカ風の素朴な面影を残しているが、
かなり後世の修復や改造が明らかだった。
 聖堂の四方を囲む木造のアーケードは興味深
いものの、厳しい自然環境を反映した近世の建
築のようだった。

 聖堂内部はこれもかなり改造されていてがっ
かりしたのだが、唯一ロマネスク時代のまま今
日まで伝えられたのが南側扉口の彫刻だった。

 尖頭アーチの門で三重のヴシュール、左右そ
れぞれに角柱と二本の円柱が設けられている。
 写真は、門右側の柱頭の一つで、二人の騎士
と中央に一人の人物が彫られている。素朴で愛
らしい彫刻だが、殉教の場面にも見える。
 左側の柱頭には、数人の聖人らしい群像が彫
られていた。これも素朴で好ましい。
 さらに素晴らしいのが円柱に施された連続紋
様で、組紐紋様や渦巻、花や植物の図柄がアー
チ帯の部分にまで続いている。
 
 
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 レスパルディサ聖母被昇天教会
  Respaldiza/Iglesia de la
     Asunción de Nuestra Señora
               
      7 Álava    
                              
  
 
 ビルバオから真南へ35キロ行くとアムッリ
Amurrio で、そこから更に西へと山道を5
キロ
ほど登って行く。
 ここも先述のフルイスと同様、外観からはロ
マネスク建築の特徴を見る事が出来ない。
 後世の建築が聖堂を覆っているために、本来
の平面プランを想像する事すら出来なかった。
 おまけにここでは、扉口が固く閉ざされてい
るので、聖堂の内部構造を想像するしか方法は
ないのである。

 唯一の見所が写真の扉口で、先述のフルイス
のものにとても良く似ている。
 ただ、残念ながら、こちらの彫刻はやや摩滅
が激しく、紋様も余りはっきりとは見えなかっ
た。それでも、柱頭の植物紋様や、アーチ帯装
飾の連続紋様などは確認が出来る。
 円柱の装飾紋様も、右側の円柱のものは比較
的はっきりと見る事が出来た。組紐と市松模様
が特徴的だった。


 この地域には、他にも U
zquiano, Gordoa
Maestú, Tolosa など、見るべき扉口が残
された教会が密集している。
 
 
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 アニェス聖ヴィセンテ教会
  Añes/Iglesia de San Vicente
            
      7 Álava       
                             
 
 
 前述の町から本道を離れ、車がやっと通れる
ような急峻な林道を10キロ登って行く。天を
も突くような岩山の峰々が現れ、とても人里が
在るとは思えない領域までたどり着く。
 村には新しい教会しか無いので里人に聞いて
みると、教会横手の建物に案内され、その一画
にこのタンパンだけが保存されていた。
 白い石に刻まれた彫刻は、辿り着くまでの労
苦もあって、とても新鮮に見えた。
 村人の説明を聴くまでもなく、リンゴに巻き
ついた蛇に誘惑されるアダムとエヴァの原罪の
場面だ。
 デッサンは稚拙だが、ロマネスク的にデフォ
ルメされた構図やリンゴの樹の描き方が何とも
気に入ってしまった。
 村の背後の岩山の向こうは、カスティーリャ
のブルゴス県である。
 
 
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 エスティバリス聖母教会
  Estibaliz/Iglesia
     de Nuestra Señora
      
      7 Álava   
           
   
 
 バスク地方の中心都市ヴィトリア Vitoria
の東10
キロ、小麦畑の続く中をしばらく走っ
て行くことになる。森に囲まれた聖堂は、当地
では著名な巡礼地なのだそうだ。修道院かと思
われるような建築が隣接しているが、それらは
どうやら近年に建てられたものらしかった。

 教会は12世紀の建築で、平面プランは単身
廊に翼廊の付いたラテン十字形である。左右翼
廊それぞれに半円形の小祭室が設けられている
ので、中央の主祭室と併せ三つの半円形後陣を
後方から見る事が出来た。
   
 西正面の扉口は修復されたもので、写真の扉
口は翼廊南側のものである。上部に見せかけフ
ァサードの様な鐘楼が付いており、あまり見か
けない意匠である。
 扉口両側の角柱、左右各二本の円柱と柱頭、
三重のヴシュールなどには、変化に富んだ見事
な細工の幾何学紋様や植物連続紋様が彫り込ま
れている。特に角柱部分の、植物の蔓と人像と
が絡み合った図像は優れた意匠と言える。

 身廊は二つのベイと翼楼との交差部で構成さ
れており、尖頭横断アーチとヴォールトの天井
が当初の様式を示している。彫りの美しい柱頭
彫刻も見逃してはならない。
  
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 アライア聖フアン隠遁所
  Araia/Ermita de San Juan
       de Amamio
               
      7 Álava  
                    
 
 バスクのアラヴァ県には Ermita エルミー
タと呼ばれる、ロマネスク期の小教会が数多く
残されている。その内の何か所かを巡った。
 仏語では
Hermitage エルミタージュで、こ
こでは「隠遁所」と記しておいた。
 写真は、ナヴァラとの県境に近い牧草地の丘
の上に建つ小堂で、ロマネスク建築の原形の様
な素朴さである。
 ロマネスクアーチの窓と柱頭以外には、窓一
つ無い石積みの建築である。
 天井は木造、屋根は瓦葺きで遠くから眺めた
聖堂の姿は、丸で納屋か掘っ立て小屋だった。
 こんな建築に魅力を感じるのは何故だろう。
権力や財力とは無縁の、信仰の純粋な強さだけ
が感じられるからだろうか。
 
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 コントラスタ
    エリツメンディの聖母教会

  Contrasta/Ermita de Nuestra
      Señora de Elizmendi
               
      7 Álava  
                    
 前記の県境を更に20キロ程南下すると、町
の中心に鐘塔が聳えるこの集落が見えてくる。
塔は15世紀の聖母昇天教会のもので、写真の
エルミータは南の町外れ、谷を見下ろせる高台
に建っている。
 エルミータ(隠遁所)と呼ぶには建物がやや
大き過ぎる気がするが、雰囲気は十分備わって
いる。写真の全景が特に美しいのは、赤い瓦の
低い屋根に単純な半円形の後陣が、簡素で素朴
な建築に色を添え、周囲の自然に溶け込んでい
るからだろう。
 後陣の軒持ち送りには、特異な図像の彫刻が
用いられている。聖堂の壁面には、珍しい意匠
のレリーフがはめ込まれている。これらには、
近隣のローマ遺蹟の墓石の断片などが用いられ
ているようだ。
 
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 ゴルドア聖母被昇天教会
  Gordoa/Iglesia de la Asunción
     de Nuestra Señora
               
      7 Álava   
                    
 アライアからヴィトリアへと通じる地方道か
ら少し南へ入った高台の集落で、20軒程の家
屋が教会を中心にして並んでいる寒村である。
 13世紀の教会だが大半が16世紀以降に改
造されており、祭室は完全にバロックだった。
シンボルの鐘塔もこの時代のものだろう。
 見所は北側の扉口で、尖頭アーチの六重ヴシ
ュールには繊細な帯状装飾が施されている。
 写真は左側の柱頭彫刻で、三本の円柱とその
間に小円柱が配されている。
 左右各三基づつの柱頭だが、図案の様な模様
や植物の蔓が顔のように見える妙な意匠もあっ
て変化に富んでいる。
 この地方には大袈裟なロマネスクは無いが、
小教会の小作品を訪ね歩くのも一興である。
 
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 アルメンティア(ヴィトリア)
    聖プルデンシオ聖堂

  Armentia (Vitoria)/
    Basilica de San Prudencio
      
      7 Álava    
                 
 
 
 ヴィトリアはカスティーリャ語、バスク語で
はガスティス
Gasteiz と表記される。
 アルメンティアはガスティスの南西郊外の町
で、壮大に広がる緑園地の中にこの聖堂が残さ
れている。
 12世紀に建てられたもので、本来はラテン
十字形のプランだったが、現在は半円形後陣の
一部を残して、全くの長方形に改築された。
 ロマネスク期唯一の遺構が聖堂南側のギャラ
リーに展示された彫刻群であろう。旧袖廊の壁
面も含め、聖堂の壁は大小二つのタンパンや壁
龕彫刻、レリーフなどで飾られている。
 何とも壮観そのものだった。
 大きなタンパンはキリスト昇天がテーマであ
り、写真は小さい方のタンパンである。上段が
神の子羊と洗礼のヨハネ、旧約のイザヤで、下
段にはクリスモンを捧げる二天使が描かれてい
る。     
 
 
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 サン・ヴィセンテホ
    聖ヴィセンテ教会

  San Vicentejo/
    Iglesia de San Vicente
               
      7 Álava  
                    
 
 
 ヴィトリアの南12キロにある集落だが、厳
密にはバスクのアラバ県ではなく、カスティー
リャ・ブルゴス県の飛び地なのである。歴史の
残滓とでも言えそうだ。
 教会は町外れの見晴らしの良い高台に、置き
去りにされたような格好で建っていた。エルミ
ータの雰囲気である。
 外観からも二つのベイを持つ単身廊に半円形
の後陣、という簡素な建築プランであることが
判る。
 綿密な意匠が駆使されている後陣部分で、写
真で見る通り、壁面を幾重にも彫り込んだ様な
工夫が成されている。
 アーチ帯部分に繊細な連続植物紋様を彫った
窓の周辺などは特に凝っている。
 付け柱や壁面にもちょっとした図像が彫られ
ていて、小細工彫刻好きは楽しめるだろう。
 内陣身廊の天井は尖頭ヴォールトで、祭室飾
りアーケード窓の周辺にも、緻密な紋様の彫刻
を見る事が出来た。
 
 
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 マルキネス聖ファン教会
  Marquinez/Iglesia de San Juan
             
      7 Álava      
                                
   
 
 前述のブルゴス県飛び地を抜けてバスクへと
戻り、イズキ
Izki 自然公園方面へと向かう。
 小麦畑の続く丘陵地帯を抜け、やや樹木が多
くなったかなと思える辺りにこの小さな田園集
落がある。

 教会は村を少し外れた林の中にひっそりと建
っており、現在は宗教的施設としてではなく、
どうやら歴史的記念建築物として保存される運
命にあるようだった。

 残念ながら扉口が閉ざされていたため、内陣
の詳細は不明である。しかし、外観から判断し
て、この地方の典型的な建築様式であり、三つ
のベイを持つ単身廊に祭室・半円形後陣の付い
た聖堂であることは容易に想像出来る。天井は
おそらく尖頭ヴォールトだろう。西側に門は無
く、壁面に小さな二連アーケードがあるだけだ
った。

 樹木が鬱蒼と繁っているので、聖堂を撮影す
る方向が限定されてしまう。写真は南側扉口の
もので、この聖堂の最も美しい部分が良く見え
る限られたアングルだろう。
 尖頭アーチ帯装飾が見事で、バスク・ロマネ
スクの典型的な扉口であろう。六本の円柱から
構成されるヴッシュ-ルは相当な迫力で、三本
の帯状連続紋様の彫刻が繊細である。
 
 
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 ウズキアノ聖天教会
  Uzquiano/Iglesia
      de la Asunción
               
      7 Álava  
                    
 ヴィトリアの南側のかなり広い範囲が、行政
的にはブルゴス県の飛地になっており、トレヴ
ィニョの伯爵領
Condado de Treviño と呼ば
れる。
 ヴィトリアからログローニョ
Logroño
抜ける要道の途中に、この静かな田園地帯があ
る。
 13世紀の建築だが、鐘塔はバロック、オリ
ジナルは聖堂の壁と右側の扉口だけのようだ。
門は後期ロマネスクの力弱い表現になっている
が、柱頭には人面や女面の鳥身の怪物
harpia
ハーピーらしい図像もあって興味深い。
 左側の扉口は、近郊のオチャーテ
Ochate
から移築されたものである。 
 
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 サラソ聖アンドレス教会
  Saraso/Iglesia de San Andres
               
      7 Álava   
                    
 ウズキアーノの東南5キロに位置する寒村の
教会である。
 12世紀創建の教会だが、後世に改造が繰り
返されたため、当初の姿を残しているのは南門
の扉口のみとなっている。
 写真は向かって右側の五基の柱頭で、小規模
な彫刻ながらモチーフは興味深い。
 左から、数頭の犬に追われる猪を仕留める猟
師、キリストの出現と聖女、聖ペテロの逆さ十
字の殉教、などが推定出来そうである。
 左側の五基の柱頭にも、右に対応するような
モチーフが彫られており、ほとんど注目されな
い教会だが、図像に興味のある向きには一見の
価値はありそうである。  
 
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 ザンブラナ聖ルチア教会
  Zambrana/Iglesia
       de Santa Lucia
               
      7 Álava  
                    
 ミランダ Miranda の東5キロにある郊外
の村で、教会は古い歴史を持ってはいるが、現
在の建物は16世紀のものである。
 写真はギャラリーの門にはめ込まれたタンパ
ンで、塔の建築材の中から発見されたものだそ
うだ。
 劣化は見るも無残な状態だが、聖母子、二人
の天使、二頭のライオンが中心になって描かれ
ている。周囲のアーチには様々な動物や鳥、人
魚などが確認出来る。本来の図像を想像するの
は楽しい。
 別に、グリフォンやライオンに囲まれたクリ
スモンを彫ったまぐさ石も展示されている。
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