アングモア地方
    のロマネスク
 
  Angoumois Roman 
 
   
 
   Champniers  
   Église St-Eularie
 
 
  
 
  県名と県庁所在地 
    ■ANGOUMOIS   
      
Charente (Angoulême)  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 シャトル旧ノートルダム修道院
  Châtre/Ancienne Abbay
        Notre-Dame
 
   
     Charente 
   
  
 
 シャラント県の最西端、ブランデーで著名な
町コニャックからは5キロ程東に位置するサン
・ブリスの郊外の森の中に建っていた。
 ヒエルサックの瀟洒な旅籠レストランに泊ま
った翌朝、私達は畑の中のドルメンを見てから
この廃墟のような教会を訪ねた。シャラント川
沿いに続く段丘の森と葡萄畑の中に、忘れ去ら
れた如く静かに孤高な佇まいを見せていた。

 “昇天の聖母”修道院の遺構で、現在は付属
教会の聖堂だけがポツンと残されている。
 聖堂はバジリカ式単身廊で高い天井が特徴で
あり、四つのドームが連続しているのだが外観
から見えず、また扉が閉まっていて内部へは入
れなかった。翼廊や後陣にも修復の手が入って
いる様に見えるのだが、全体の朴訥とした風貌
がとても気に入った。
 ファサードは縦長ながら、この地方らしい盲
アーチを多用した装飾である。
 扉口のアラブ風迫石が面白いし、当時の建築
家達が何故こうも盲アーチ装飾に執念を持った
のか判らないが、ファサード全体が示す不思議
な躍動感の様なものを私達は感じ取っていた。
 下から三連、五連、九連と重なったアーケー
ドの意匠が、その様に感じさせるのだろう。 
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 ブール・シャラント
   聖ジャン教会

  Bourg-Charente/
      Église St-Jean
   
     Charente 
   
 
 
 前述のシャトルから更に東へ5キロ、シャラ
ント川の両岸に開けた城下町である。教会は川
の南岸、段丘の上に建っている。
 西側正面のファサードはシャトルにとても似
た構成であり、盲アーケードを多用した意匠で
ある。下から三連、十五連、六連の三層アーケ
ードが壮麗である。ただ、石を洗浄したのだろ
うか、異常に白っぽいのが気に入らなかった。
 単身廊に翼廊、三後陣というプランがとても
美しい。写真は後陣のもので、やはり三層の盲
アーケードで構成された見事なデザインだ。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 ジャンサック・ラ・パリュ
    聖マルタン教会

  Gensac-la-Pallue/
     Église St-Martin
   
     Charente 
   
   
 
 前記のブールから、国道を横切って更に南西
へと車を進めると、広々とした耕地を背景とし
たやや大きな集落が現れる。
 そこがジャンサックで、教会は村の北側の少
し開けた場所に、芝生の広場を前庭にして建っ
ていた。

 この地方では約束されたようなファサードな
のだが、人の顔が違う如くそれぞれが個性的で
あるのが面白い。三連、五連、六連という三層
構成は珍しいかもしれない。
 中央の扉口と左右の盲アーチで構成された最
下段のアーケードは、柱頭も含め横一列に彫ら
れた帯状の彫刻装飾に特徴がある。やや摩耗し
ているが、人物像や植物文様、説話と思しき場
面などが精密に彫られている。
 アーチ上部のレリーフは、左が聖母、右が聖
マルタンの像で、いずれも四人の天使に囲まれ
た栄光の図である。

 単身廊の聖堂は天井に特徴がある。鐘塔の下
も含め、四つの円蓋ドームが連続している様式
である。先述のシャトルの天井と同タイプであ
り、ここアンギュモアから
Périgord ペリゴ
ール地方にかけて分布している。
 残念ながら鐘塔や祭室後陣はゴシックの時代
に改修されたものだ。
 
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 シャトーヌフ・シュル・シャラント
      /
聖ピエール教会 
   Châteauneuf-sur-Charente/
       Église St-Pierre
   
     Charente 
   
 
 
 シャラント河畔の町で、流れが湾曲する場所
に位置する小さなリゾートである。
 聖堂は三廊式の壮麗な建築で、側廊の列柱と
半円アーチ天井が特に印象的だった。近年清掃
されたものか、石の白さが目立ち、やや綺麗す
ぎたのも又記憶に新しい。
 ファサードはこの地方に多いアーチ装飾で、
中央の扉口の上が開口窓で、それ以外は盲アー
チとなっている。
 扉口のヴシェールは四重の装飾で、動物像や
天使の姿が繊細に彫られている。やや画一的な
部分が見られ、力強さには欠けるので、ロマネ
スク後期の作だろう。しかし、鑑賞するには充
分美しい。
 左上のアーチ内には、白馬の騎士が小さな人
間を踏みつけるという、例の不条理な表現がこ
こでも見られる。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 アングレーム
   聖ピエール大聖堂

 
 Angoulême/Cathédrale
     St-Pierre
   
     Charente 
   
   
 
 シャラント河沿いの丘の上に開けた町で、旧
市街の先端にこの大聖堂が建っている。
 聖堂の建築は一部に近年の修復が有るが、ほ
とんどは12世紀ロマネスクである。
 身廊の天井は高い四つの円形ドームで成り立
っており、積まれた切石の描く曲線が軽快で明
るく何とも言えず美しい空間を造っている。
 翼廊を持つ十字形プランで、祭室には四つの
小礼拝堂が、袖廊には二つの小祭室が付けられ
ている。細密に彫刻された柱頭が見えるが、か
なり高い位置に有るために詳細は見えない。

 写真の正面ファサード装飾は、実に洗練され
た意匠で、この地方における一連のファサード
の中では抜きん出て秀逸な傑作だと思う。最上
段と扉口は追補されたものだが、中段に優れた
彫刻が集中している。

 中央上部に「キリスト昇天」が、四福音書家
の象徴動物に囲まれて彫られ、その下に天使達
がこれを祝福している。中段を飾る聖母や預言
者達や使徒達の像は一体一体が個性的で、見事
な抽象の中にロマネスク彫刻特有の、親しみ易
い温かさを示している。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 シャンプニエ聖ユラリ教会
  Champnièrs/
    Église St-Eularie
   
     Charente 
   
 
 
 アングレームの町の北側に隣接する集落で、
アングレーム・コニャック空港の直ぐ南西に位
置している。
 市街に囲まれた聖堂で、基本的には単身廊、
翼廊の付いた十字形のプランである。
 交差部には八角形の鐘楼が聳えている。いず
れも12世紀の建築とされる。
 好ましい建築だが、修復の為に白塗りされた
姿は、お世辞にも美しいとは言い難い。
 見所は身廊の柱頭と写真のタンパンだ。かつ
てファサードに飾られていた彫刻である。四福
音書家の象徴動物に囲まれた、審判者キリスト
を表現している、ロマネスクらしい彫刻だ。
 
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 ディラック聖マーシャル教会
  Dirac/Église St-Martial
   
     Charente 
   
   
 
 アングレームから南東に10キロも走れば、
牧歌的な森と畑の景観が広がる。そんな静かな
田園風景に囲まれた小高い場所に、このエレガ
ントなファサードを持つ教会は建っている。

 連続アーケードによるファサードの装飾はこ
の地方の特徴で、同時代同地域を示す様式とし
てワンパターンのように見えるが、人の顔の如
く微妙な違いがかえって面白く興味を引く。
 ここでは上部五連、下部三連のアーケードが
意匠されている。いずれも中央アーチのみが開
口部となり、他は全て盲アーチである。
 扉口の柱頭彫刻は変化に富んだ鳥や人物が植
物に絡んだ模様だが、かなり摩滅が激しいのが
惜しい。

 建築は12世紀のものだが、15世紀に大き
な修復があったらしい。身廊は三廊式で、好ま
しい柱頭彫刻が幾つも見られる。中央の鐘楼部
分に側廊は無く、そのまま半円形内陣が接する
構成になっている。
 側廊部分との間のアーケードが不自然である
ことから、側廊部分にはかなり手が入っている
と考えた方が良さそうである。
 
 美しい半円形の後陣を眺めていたら、丘の彼
方にいつの間にか虹がかかっていた。
 
 
 
    -------------------------------------------------------------- 
    
    
 フレアック聖母教会
  Fléac/Église Notre-Dame
   
     Charente 
   
   
 
 アングレームの町の西側、シャラント川に沿
って三つの愛らしい小さな町が並んでいる。
 この町の他に、次掲載のリナール、トロワ・
パリがそれで、各々に清楚でチャーミングなロ
マネスク教会が残されている。
 
 ファサードには三連のアーケードが下段に、
そして上段には半円アーチの窓が一つという実
に簡素な装飾となっている。中央アーチが扉口
で、他は盲アーチである。
 上部の軒持ち送りに、個性的な風貌の顔彫刻
が幾つも並んでいて面白い。

 単身廊の質素な聖堂は、外観からは切妻型の
ありふれた屋根しか見えないが、内部は写真の
ように三つに仕切られた梁間の天井は、それぞ
れが円形ドームという思いがけない建築意匠と
なっていた。まるでアングレームの大聖堂を小
型にしたような構成で、隣接するペリグー地方
などを含め、ドーム天井の分布はやや広いもの
のある地域性を示しているようだ。

 身廊の柱頭には、植物模様などの他に、相撲
の四股を踏むような格好をした人物像が印象的
だった。
 改造はされているが、創建11世紀の雰囲気
を伝える貴重な遺構である。
 
 
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 リナール聖ピエール教会
  Linars/Église St-Pierre
   
     Charente 
   
   
 
 前述のフレアックからは、西南へ5キロの位
置にある静かな町である。
 教会はほぼ町の中央に建っていた。思ったよ
り細長い、想像以上に大きな聖堂だった。

 先ずはファサードが目に入る。ここでもサン
トンジュ地方に共通した、アーケードの組み合
わせによる意匠である。
 下段三連で中央にタンパンのある扉口、そし
て上段には中央に三連、左右に二連づつのアー
ケードが意匠されている。バランスのとれた、
美しい構成だと言える。
 中央扉口のタンパンには、二人の天使に囲ま
れたキリスト像が彫られているのだが、何とも
無残に摩滅してしまっている。石の種類にもよ
るのだろうが、近年に至るまでに何らかの修復
が成されず今日に至った遺構の宿命だろう。逆
にこれこそが、ロマネスク彫刻の真の姿なのか
もしれない。

 それに反して、単身廊の聖堂内は全てが漆喰
によって真っ白に塗りたくられていた。半円筒
ヴォールトに横断アーチというプリミティヴで
魅力的な建築が、柱も壁も柱頭も全てが無個性
化してしまっている。
 千年も前の芸術をいかに保存し後世へ伝える
かは至難の課題なれども、この美意識の欠如に
はただ呆れるばかりであった。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 トロワ・パリ聖母教会
  Trois-Palis/
    Église Notre-Dame
   
     Charente 
   
   
 
 リナールから更に南西へ6キロ行ったシャレ
ンテ川沿いに開けた町で、教会は家並みの南端
に建っている。
 12世紀に創建された教区教会で、写真のフ
ァサードと二層のアーチ窓が付いた鐘塔が印象
的だった。
   
 ファサードは扉口以外にはアーチは無く、サ
ントンジュ様式ではない。扉口のアーチ装飾も
見事だが、どうしても上部のレリーフに目が行
ってしまう。
 最上段は、四福音書家のシンボルに囲まれた
栄光のキリスト像である。全体が黒ずんでいて
良く見えなかったが、躍動的な彫刻であるらし
い。また下段のレリーフは、二人の聖人に囲ま
れたこの教会の象徴である聖母像である。これ
は、ややゴシック的な彫像のように見える。

 単身廊の聖堂の天井は尖頭ヴォールトで、後
世の改造を意識させるが、石壁の年輪にはロマ
ネスク的な雰囲気が十分残されている。
 柱頭彫刻には、旧約聖書の場面など見るべき
傑作が多いが、何故か彫りが妙にしっかりとし
ており、おまけに柱頭部分のみが全面真っ白に
塗られている。明らかに何らかの修復が成され
たようだが、その内容についてまではほとんど
判らない。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 サン・ミシェル・ダントレイグ
    聖ミシェル教会

  St-Michel-d'Entraygues/
     Église St-Michel
   
     Charente 
   
   
 
 この聖堂はアングレームの町外れ、かつてア
ントレイグと呼ばれた閑静な一画に位置する。
 一目見ただけで、この建築がいかに特異な形
をしているかが判る。建築は正八角形で、その
各辺が半円形になっており、平面図はまるで花
びらを八枚つなげたような形をしているのだ。
 写真の様にその花びらの一つが西側の正面扉
口になっている。
 残念ながら扉は閉まっていて、中では地元の
名士の葬式をやっている最中であった。仕方な
く、聖堂周辺を丹念に見て回り、葬儀の終了を
待つこととした。

 扉口のタンパンには、聖ミシェルつまり大天
使ミカエルが、大きな翼を広げ、槍で龍を退治
している場面が描かれている。ロマネスクとし
ては、かなりリアルな表現となっている。ゴシ
ックに近い時代の作かもしれない。
 軒持ち送りの彫刻が傑作で、優れた石工の突
飛なアイディアに満ちている。
   
 ようやく入った聖堂内部は目を見張るような
美しさで、八本の梁が天井のドームに集約する
構造には心打たれた。扉口以外の七つの祭室に
は半円アーチ、上部の採光部には尖頭アーチの
意匠が見られた。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 ラ・クロンヌ
   洗礼の聖ヨハネ教会

  La Couronne/Église
      St-Jean-Baptiste
   
     Charente 
   
   
 
 アングレームの南西に隣接する町で、町外れ
に残る12世紀の大修道院で知られるが、現在
は廃墟となって見学は出来なかった。
 しかし、町の中心に立つこの教会は、ロマネ
スクの魅力の全てを備えた当地方随一の傑作、
とも言えそうな魅力を感じさせてくれた。

 ファサードは当地流の意匠で、下層は三連、
上層は七連のアーケードが意匠されている。扉
口の柱頭彫刻には見るべき傑作もあり、何より
も石そのものに重厚感が感じられるような気が
していたのである。
 その予感は、身廊に一歩入った途端に実感と
なった。写真はその時の印象を十分表現してい
るとは言い難いが、石を積み上げたというロマ
ネスク建築の本質が感じられたことは御理解頂
けるものと信じる。
 単身廊に翼廊の十字形、三つの半円形後陣、
交差部に八角の鐘楼、壁には数個の採光窓以外
一切窓は無いというロマネスクのお手本のよう
なプランである。怪獣いっぱいの柱頭彫刻も楽
しませてくれる。
 六つの梁間と半円筒ヴォールトに太い横断ア
ーチ、この無骨さも魅力だろう。建築が多少傾
いてしまっているが。

 聖堂背後の開けた空間から眺めた後陣と鐘塔
の姿も、忘れられない景観の一つとなった。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 ムティエ・シュル・ボエム
     
聖イレール教会
  Mouthiers-sur-Boëme/
      Église St-Hilaire
   
     Charente 
   
  
 
 アングレームから真南へ約10キロの田園地
帯、シャレントの支流ボエム川に沿って開けた
比較的大きな町である。

 教会は町の南東端に建っており、正面のファ
サードを見る限りではありふれたロマネスク・
ゴシック混合教会の一つ、と思われた。
 ファサードの下部は半円アーチの扉口とライ
オンのレリーフが意匠されたロマネスク様式、
上部は尖頭アーチ窓のゴシック様式だったから
である。

 しかし、聖堂の規模は単身廊ながら五つのベ
イ(梁間)を設けた堂々たる建築で、やや尖頭が
かったヴォールトの天井には迫力が感じられた
のだった。
 壁面は苔むしている、と言うよりは苔だらけ
だったが、石の質感が感じられたのが救いだっ
た。各梁間ごとに窓が設けられているのは、後
世の改造なのだろう。

 全体の建築プランは、単身廊に翼廊の十字形
で、三つの半円形後陣を備えている。残念なが
ら鐘塔はゴシックに改造されているが、祭室の
半円七連アーケードは窓は別としてロマネスク
様式を維持しているようだ。
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 プラサック聖シバール教会
  Plassac/Église St-Cybard
   
     Charente 
   
   
 
 豊かな田園風景の中に溶け込んで、しかも小
高い位置に在って小建築でありながら象徴的な
存在感を示している美しいロマネスクと出会え
ることが出来た。
 そこは、先述のムティエから更に南西へ8キ
ロ行くと、広大な麦畑や牧草地の続く光景の中
に少しづつ見えてくる、という仕掛けだった。

 ファサードは下段三連、中段五連、上段三連
のアーケード構成だが、格別の優れた意匠とは
思えなかった。
 聖堂は三つの梁間を持つ単身廊で、天井は尖
頭ヴォールト、奥に鐘塔部と半円祭室が続いて
いる。こじんまりした建築だが、不思議に奧行
を感じさせる。

 祭室の奥壁には十一連の盲アーケードが意匠
されており、荘厳な雰囲気を創出する役目を担
っているようだ。写真の半円形後陣は五連アー
ケードが美しいが、祭室のアーケードは後陣の
柱間も含め二重に重なっている。
 八角形の鐘塔は遠くからも良く見え、後陣と
のバランスも絶妙で後方からの景観を素晴らし
いものにしている。

 祭室の下にクリプトが残されており、低い天
井の交差ヴォールトが特徴で、柱は無いが神聖
な空間を創出している。
  
 
    -------------------------------------------------------------- 
    
    
 コンザック
    
聖アントワーヌ教会
  Conzac/Église St-Jacques
   
     Charente 
   
   
 
 プラサックから起伏に富んだ田園地帯を15
キロ程行った辺りで、白い馬の遊ぶ牧場に隣接
したこの聖堂が見える。
   
 ファサードは半円アーチの扉口があるだけの
簡素なもので、おそらくは後世のものだろう。
 聖堂は単身廊、天井は木造の箱型だが、この
部分もかなり後世のものらしい。
 注目すべきは、それに続く鐘塔部分と祭室で
ある。翼廊があったのだが現在は北側のみで、
写真の如く南側は塞がれている。北側には小祭
室が残されている。
 鐘塔の建つ交差部四方には豪快なアーチが構
築されており、柱頭彫刻には目を見張るほどの
傑作が詰まっている。大半は植物の枝や茎に絡
んだ動物や人物像である。

 半円形祭室は二段のアーケードで装飾されて
いる。上段は七連の窓の開いたアーケードで、
下段にはそれぞれに二連づつ、計十四連のアー
ケードが意匠されている。よくもまあ、ここま
で執拗な程アーケードに魅された建築家がいた
とは驚きだが、同じロマネスクとはいえ、ある
地方のある時代の潮流としか言いようは無いの
かもしれない。
 写真の後陣と鐘塔の眺めもアーケード装飾の
展覧会のようなものだが、当時の湧きたつよう
な美への探求心が感じられる気もしている。
 
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 モンモロー聖ドニ教会
  Montmoreau/Église St-Denis
   
     Charente 
   
   
 
 コンザックの真東20キロ、アングレームの
真南30キロというのがこの町の座標である。

 町の中心の小さな広場に面して、写真のよう
な美しいファサードを持つ12世紀の教会が建
っている光景は、やはり感動的としか言い様は
無いだろう。
 サンチャゴへの巡礼路に当たり、巡礼から戻
る際のこの地方最初の宿場として、スペインの
影響が随所に残されているらしい。

 下三連、上五連アーケードの意匠は珍しくは
ないが、特筆すべきは中央扉口の四重ヴシュー
ル装飾とアラブ風の波型装飾だろう。判り易い
スペインの土産である。
 両サイドの盲アーチとタンパンは、サントン
ジュには事例が多いが、ここアンギュモアでは
他にラ・ロシェット、リシェールなどだけで珍
しい方だろう。
 ギョロ目のライオンが可愛く笑っている。

 三つの梁間を持つ単身廊で、天井は尖頭ヴォ
ールト、翼廊は北側だけが残されている。南側
は15世紀に改築されたそうだ。従って、半円
形後陣は二つだけが残っている。
 祭室は五連アーチ窓の半円形だが、大きな窓
は後世の改造を示しており、四連窓を各面に意
匠した鐘塔は翼廊交差部に立ち上がっている。
 
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 サン・タマン・ド・ボワックス
    
聖アマン教会
  St-Amant-de-Boixe/
     Église St-Amant
   
     Charente 
   
 
 
 この地方を代表するような西のファサードで
ある。扉口は、五重ヴシュールの緻密な幾何学
模様で飾られている。
 三廊式の身廊の天井は半円筒ヴォールトで、
横断アーチが感動的だ。12世紀の創建で、ア
ーケードの重厚感は別格と言えるだろう。
 交差部の鐘塔は豪快で、内陣から見上げたド
ームの迫力は格別だった。
 祭室と後陣は15世紀に、ゴシックに改造さ
れている。
 北袖廊の西面に美しい扉口があるが、墓所へ
の入口としての役目があったようだ。二つの盲
アーチと、聖人像が彫られたタンパンが質素な
がら印象に残った。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 ラ・ロシェット
   聖セバスチャン教会

  La Rochette/Église
      St-Sébastien
   
     Charente 
   
 
 
 アングレーム北の寒村で、教会は村外れの草
地にポツンと建っている。
 ファサードの上部は改造されているが、写真
の三連アーケードは健在だ。扉口左右のタンパ
ンが特徴で、馬に乗り異教徒を駆逐するコンス
タンティヌス帝を表している、のだろうと思わ
れる。
 単身廊で、天井は尖頭ヴォールト、方形の鐘
塔、半円形の祭室がつながっている。
 10~11世紀の遺構だがかなり改造はされ
ているらしい。しかし、奇妙な恰好をした人物
と植物が絡み合う図像などを彫った柱頭には、
ロマネスクの香りが十分伝わっている。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 サント・コロンブ
    聖コロンブ教会

  Ste-Colombe/
     
Église Ste-Colombe
   
     Charente 
   
 
 
 前述のラ・ロシェットに近い、ここも全くの
寒村である。
 単身廊に半円祭室のみという、聖堂の原型の
ような建築に感動したが、ここでも壁や個性的
な柱頭までが全て真っ白けに塗られていた。フ
ランスの美意識は何処へ行ってしまったのだろ
うか。
 が、ここでは、写真の西正面ファサードに注
目したい。多くのレリーフ彫刻が壁面を飾って
いる。
 中央窓の両側の人物は、左が聖コロンブ、右
が聖パウロである。そのすぐ上にライオンと天
使、牡牛と天使、更に外側に人物像と鷲が彫ら
れ、四福音書家の象徴を配している。
 それぞれの彫刻は全てシンボリックで造形的
であり、ロマネスク彫刻の感性を見事に伝えて
いるように感じられた。
  
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 セルフルアン聖ピエール教会
  Cellefrouin/Église St-Pierre
   
     Charente 
   
   
 
 アンギュモア地方のほぼ最北端に位置する町
のひとつで、教会は11世紀に創建されたロマ
ネスク様式の建築として知られる。

 ファサードは特徴的で、サントンジュ様式と
は大きく異なっている。四本の半円柱形をした
控え壁が縦に並べられ、その間にアルメニアな
どでも頻繁に見られた細長いニッチ
Niche
呼ばれる壁龕が並行して意匠されている。開口
部は中央部分にのみ、扉口と上の窓が設けられ
ている。

 身廊は三廊式で、ロマネスク初期の豪放な質
感が伝わってくる。身廊も側廊も半円筒ヴォー
ルトの天井で、豪快な横断アーチが見られる。
 写真は、翼廊の交差部から身廊入口方向を眺
めたものである。重厚な構造が示す不器用さこ
そが、ロマネスクの本質だと再認識させてくれ
ているようだ。黒いカビが壁面に付着して、ち
ょっと気味が悪いのだが。
 祭室にも控え壁的な半円柱が四本建てられて
おり、正面と左右端の三か所に窓が開けられて
いる。建築後方から眺めた三後陣と鐘塔の景観
は、方形の控え壁が気になるものの、落ち着い
たロマネスクの見本のような美しさだった。

 時間の都合で、墓地に建つ12世紀の死の頂
Lanterne des Morts 見学は諦めた。 
 
-------------------------------------------------------- 
    
    
 リシェール聖ドニ教会
  Lichères/Église St-Denis
   
     Charente 
   
 
 
 この小さな礼拝堂の様な教会は、シャラント
県アングレーム市の北の田園地帯に、人知れず
建っている。この教会を取り上げたガイドブッ
クは、ほとんど見かけられない。
 しかし、牧歌的な田園風景の中に建つこの教
会は、後補の塔以外はれっきとしたロマネスク
の遺構である。

 後陣・翼廊・身廊・側廊・三つの祭室など、
規模は小さいが、落ち着いた十字型プランの全
てが完璧に揃っている。
 入口の小さな門にも、動物模様などがきりり
と彫られていて、確かな美意識を持った建築家
の仕事であることが分かる。
 威圧感の無い人間的スケールを持った、まこ
とにチャーミングな聖堂である。畑の真中にた
たずむ、こじんまりとした聖堂の姿は何とも優
雅であり、名残惜しい気持ちで何度も振り返っ
たものだ。
 
 
-------------------------------------------------------- 
        
     このページTOPへ 
   
     次のページ (Guyenne) 
 
      フランスのロマネスクへ
 
     ロマネスクTOPへ 
 
      総合TOPへ   掲示板へ