アングモア地方 のロマネスク |
Angoumois Roman |
Champniers Église St-Eularie |
県名と県庁所在地 ■ANGOUMOIS Charente (Angoulême) |
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シャトル/旧ノートルダム修道院 Châtre/Ancienne Abbay Notre-Dame |
Charente |
シャラント県の最西端、ブランデーで著名な 町コニャックからは5キロ程東に位置するサン ・ブリスの郊外の森の中に建っていた。 ヒエルサックの瀟洒な旅籠レストランに泊ま った翌朝、私達は畑の中のドルメンを見てから この廃墟のような教会を訪ねた。シャラント川 沿いに続く段丘の森と葡萄畑の中に、忘れ去ら れた如く静かに孤高な佇まいを見せていた。 “昇天の聖母”修道院の遺構で、現在は付属 教会の聖堂だけがポツンと残されている。 聖堂はバジリカ式単身廊で高い天井が特徴で あり、四つのドームが連続しているのだが外観 から見えず、また扉が閉まっていて内部へは入 れなかった。翼廊や後陣にも修復の手が入って いる様に見えるのだが、全体の朴訥とした風貌 がとても気に入った。 ファサードは縦長ながら、この地方らしい盲 アーチを多用した装飾である。 扉口のアラブ風迫石が面白いし、当時の建築 家達が何故こうも盲アーチ装飾に執念を持った のか判らないが、ファサード全体が示す不思議 な躍動感の様なものを私達は感じ取っていた。 下から三連、五連、九連と重なったアーケー ドの意匠が、その様に感じさせるのだろう。 |
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ブール・シャラント/ 聖ジャン教会 Bourg-Charente/ Église St-Jean |
Charente |
前述のシャトルから更に東へ5キロ、シャラ ント川の両岸に開けた城下町である。教会は川 の南岸、段丘の上に建っている。 西側正面のファサードはシャトルにとても似 た構成であり、盲アーケードを多用した意匠で ある。下から三連、十五連、六連の三層アーケ ードが壮麗である。ただ、石を洗浄したのだろ うか、異常に白っぽいのが気に入らなかった。 単身廊に翼廊、三後陣というプランがとても 美しい。写真は後陣のもので、やはり三層の盲 アーケードで構成された見事なデザインだ。 |
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ジャンサック・ラ・パリュ/ 聖マルタン教会 Gensac-la-Pallue/ Église St-Martin |
Charente |
前記のブールから、国道を横切って更に南西 へと車を進めると、広々とした耕地を背景とし たやや大きな集落が現れる。 そこがジャンサックで、教会は村の北側の少 し開けた場所に、芝生の広場を前庭にして建っ ていた。 この地方では約束されたようなファサードな のだが、人の顔が違う如くそれぞれが個性的で あるのが面白い。三連、五連、六連という三層 構成は珍しいかもしれない。 中央の扉口と左右の盲アーチで構成された最 下段のアーケードは、柱頭も含め横一列に彫ら れた帯状の彫刻装飾に特徴がある。やや摩耗し ているが、人物像や植物文様、説話と思しき場 面などが精密に彫られている。 アーチ上部のレリーフは、左が聖母、右が聖 マルタンの像で、いずれも四人の天使に囲まれ た栄光の図である。 単身廊の聖堂は天井に特徴がある。鐘塔の下 も含め、四つの円蓋ドームが連続している様式 である。先述のシャトルの天井と同タイプであ り、ここアンギュモアから Périgord ペリゴ ール地方にかけて分布している。 残念ながら鐘塔や祭室後陣はゴシックの時代 に改修されたものだ。 |
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シャトーヌフ・シュル・シャラント /聖ピエール教会 Châteauneuf-sur-Charente/ Église St-Pierre |
Charente |
シャラント河畔の町で、流れが湾曲する場所 に位置する小さなリゾートである。 聖堂は三廊式の壮麗な建築で、側廊の列柱と 半円アーチ天井が特に印象的だった。近年清掃 されたものか、石の白さが目立ち、やや綺麗す ぎたのも又記憶に新しい。 ファサードはこの地方に多いアーチ装飾で、 中央の扉口の上が開口窓で、それ以外は盲アー チとなっている。 扉口のヴシェールは四重の装飾で、動物像や 天使の姿が繊細に彫られている。やや画一的な 部分が見られ、力強さには欠けるので、ロマネ スク後期の作だろう。しかし、鑑賞するには充 分美しい。 左上のアーチ内には、白馬の騎士が小さな人 間を踏みつけるという、例の不条理な表現がこ こでも見られる。 |
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アングレーム/ 聖ピエール大聖堂 Angoulême/Cathédrale St-Pierre |
Charente |
シャラント河沿いの丘の上に開けた町で、旧 市街の先端にこの大聖堂が建っている。 聖堂の建築は一部に近年の修復が有るが、ほ とんどは12世紀ロマネスクである。 身廊の天井は高い四つの円形ドームで成り立 っており、積まれた切石の描く曲線が軽快で明 るく何とも言えず美しい空間を造っている。 翼廊を持つ十字形プランで、祭室には四つの 小礼拝堂が、袖廊には二つの小祭室が付けられ ている。細密に彫刻された柱頭が見えるが、か なり高い位置に有るために詳細は見えない。 写真の正面ファサード装飾は、実に洗練され た意匠で、この地方における一連のファサード の中では抜きん出て秀逸な傑作だと思う。最上 段と扉口は追補されたものだが、中段に優れた 彫刻が集中している。 中央上部に「キリスト昇天」が、四福音書家 の象徴動物に囲まれて彫られ、その下に天使達 がこれを祝福している。中段を飾る聖母や預言 者達や使徒達の像は一体一体が個性的で、見事 な抽象の中にロマネスク彫刻特有の、親しみ易 い温かさを示している。 |
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シャンプニエ/聖ユラリ教会 Champnièrs/ Église St-Eularie |
Charente |
アングレームの町の北側に隣接する集落で、 アングレーム・コニャック空港の直ぐ南西に位 置している。 市街に囲まれた聖堂で、基本的には単身廊、 翼廊の付いた十字形のプランである。 交差部には八角形の鐘楼が聳えている。いず れも12世紀の建築とされる。 好ましい建築だが、修復の為に白塗りされた 姿は、お世辞にも美しいとは言い難い。 見所は身廊の柱頭と写真のタンパンだ。かつ てファサードに飾られていた彫刻である。四福 音書家の象徴動物に囲まれた、審判者キリスト を表現している、ロマネスクらしい彫刻だ。 |
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ディラック/聖マーシャル教会 Dirac/Église St-Martial |
Charente |
アングレームから南東に10キロも走れば、 牧歌的な森と畑の景観が広がる。そんな静かな 田園風景に囲まれた小高い場所に、このエレガ ントなファサードを持つ教会は建っている。 連続アーケードによるファサードの装飾はこ の地方の特徴で、同時代同地域を示す様式とし てワンパターンのように見えるが、人の顔の如 く微妙な違いがかえって面白く興味を引く。 ここでは上部五連、下部三連のアーケードが 意匠されている。いずれも中央アーチのみが開 口部となり、他は全て盲アーチである。 扉口の柱頭彫刻は変化に富んだ鳥や人物が植 物に絡んだ模様だが、かなり摩滅が激しいのが 惜しい。 建築は12世紀のものだが、15世紀に大き な修復があったらしい。身廊は三廊式で、好ま しい柱頭彫刻が幾つも見られる。中央の鐘楼部 分に側廊は無く、そのまま半円形内陣が接する 構成になっている。 側廊部分との間のアーケードが不自然である ことから、側廊部分にはかなり手が入っている と考えた方が良さそうである。 美しい半円形の後陣を眺めていたら、丘の彼 方にいつの間にか虹がかかっていた。 |
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フレアック/聖母教会 Fléac/Église Notre-Dame |
Charente |
アングレームの町の西側、シャラント川に沿 って三つの愛らしい小さな町が並んでいる。 この町の他に、次掲載のリナール、トロワ・ パリがそれで、各々に清楚でチャーミングなロ マネスク教会が残されている。 ファサードには三連のアーケードが下段に、 そして上段には半円アーチの窓が一つという実 に簡素な装飾となっている。中央アーチが扉口 で、他は盲アーチである。 上部の軒持ち送りに、個性的な風貌の顔彫刻 が幾つも並んでいて面白い。 単身廊の質素な聖堂は、外観からは切妻型の ありふれた屋根しか見えないが、内部は写真の ように三つに仕切られた梁間の天井は、それぞ れが円形ドームという思いがけない建築意匠と なっていた。まるでアングレームの大聖堂を小 型にしたような構成で、隣接するペリグー地方 などを含め、ドーム天井の分布はやや広いもの のある地域性を示しているようだ。 身廊の柱頭には、植物模様などの他に、相撲 の四股を踏むような格好をした人物像が印象的 だった。 改造はされているが、創建11世紀の雰囲気 を伝える貴重な遺構である。 |
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リナール/聖ピエール教会 Linars/Église St-Pierre |
Charente |
前述のフレアックからは、西南へ5キロの位 置にある静かな町である。 教会はほぼ町の中央に建っていた。思ったよ り細長い、想像以上に大きな聖堂だった。 先ずはファサードが目に入る。ここでもサン トンジュ地方に共通した、アーケードの組み合 わせによる意匠である。 下段三連で中央にタンパンのある扉口、そし て上段には中央に三連、左右に二連づつのアー ケードが意匠されている。バランスのとれた、 美しい構成だと言える。 中央扉口のタンパンには、二人の天使に囲ま れたキリスト像が彫られているのだが、何とも 無残に摩滅してしまっている。石の種類にもよ るのだろうが、近年に至るまでに何らかの修復 が成されず今日に至った遺構の宿命だろう。逆 にこれこそが、ロマネスク彫刻の真の姿なのか もしれない。 それに反して、単身廊の聖堂内は全てが漆喰 によって真っ白に塗りたくられていた。半円筒 ヴォールトに横断アーチというプリミティヴで 魅力的な建築が、柱も壁も柱頭も全てが無個性 化してしまっている。 千年も前の芸術をいかに保存し後世へ伝える かは至難の課題なれども、この美意識の欠如に はただ呆れるばかりであった。 |
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トロワ・パリ/聖母教会 Trois-Palis/ Église Notre-Dame |
Charente |
リナールから更に南西へ6キロ行ったシャレ ンテ川沿いに開けた町で、教会は家並みの南端 に建っている。 12世紀に創建された教区教会で、写真のフ ァサードと二層のアーチ窓が付いた鐘塔が印象 的だった。 ファサードは扉口以外にはアーチは無く、サ ントンジュ様式ではない。扉口のアーチ装飾も 見事だが、どうしても上部のレリーフに目が行 ってしまう。 最上段は、四福音書家のシンボルに囲まれた 栄光のキリスト像である。全体が黒ずんでいて 良く見えなかったが、躍動的な彫刻であるらし い。また下段のレリーフは、二人の聖人に囲ま れたこの教会の象徴である聖母像である。これ は、ややゴシック的な彫像のように見える。 単身廊の聖堂の天井は尖頭ヴォールトで、後 世の改造を意識させるが、石壁の年輪にはロマ ネスク的な雰囲気が十分残されている。 柱頭彫刻には、旧約聖書の場面など見るべき 傑作が多いが、何故か彫りが妙にしっかりとし ており、おまけに柱頭部分のみが全面真っ白に 塗られている。明らかに何らかの修復が成され たようだが、その内容についてまではほとんど 判らない。 |
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サン・ミシェル・ダントレイグ/ 聖ミシェル教会 St-Michel-d'Entraygues/ Église St-Michel |
Charente |
この聖堂はアングレームの町外れ、かつてア ントレイグと呼ばれた閑静な一画に位置する。 一目見ただけで、この建築がいかに特異な形 をしているかが判る。建築は正八角形で、その 各辺が半円形になっており、平面図はまるで花 びらを八枚つなげたような形をしているのだ。 写真の様にその花びらの一つが西側の正面扉 口になっている。 残念ながら扉は閉まっていて、中では地元の 名士の葬式をやっている最中であった。仕方な く、聖堂周辺を丹念に見て回り、葬儀の終了を 待つこととした。 扉口のタンパンには、聖ミシェルつまり大天 使ミカエルが、大きな翼を広げ、槍で龍を退治 している場面が描かれている。ロマネスクとし ては、かなりリアルな表現となっている。ゴシ ックに近い時代の作かもしれない。 軒持ち送りの彫刻が傑作で、優れた石工の突 飛なアイディアに満ちている。 ようやく入った聖堂内部は目を見張るような 美しさで、八本の梁が天井のドームに集約する 構造には心打たれた。扉口以外の七つの祭室に は半円アーチ、上部の採光部には尖頭アーチの 意匠が見られた。 |
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ラ・クロンヌ/ 洗礼の聖ヨハネ教会 La Couronne/Église St-Jean-Baptiste |
Charente |
アングレームの南西に隣接する町で、町外れ に残る12世紀の大修道院で知られるが、現在 は廃墟となって見学は出来なかった。 しかし、町の中心に立つこの教会は、ロマネ スクの魅力の全てを備えた当地方随一の傑作、 とも言えそうな魅力を感じさせてくれた。 ファサードは当地流の意匠で、下層は三連、 上層は七連のアーケードが意匠されている。扉 口の柱頭彫刻には見るべき傑作もあり、何より も石そのものに重厚感が感じられるような気が していたのである。 その予感は、身廊に一歩入った途端に実感と なった。写真はその時の印象を十分表現してい るとは言い難いが、石を積み上げたというロマ ネスク建築の本質が感じられたことは御理解頂 けるものと信じる。 単身廊に翼廊の十字形、三つの半円形後陣、 交差部に八角の鐘楼、壁には数個の採光窓以外 一切窓は無いというロマネスクのお手本のよう なプランである。怪獣いっぱいの柱頭彫刻も楽 しませてくれる。 六つの梁間と半円筒ヴォールトに太い横断ア ーチ、この無骨さも魅力だろう。建築が多少傾 いてしまっているが。 聖堂背後の開けた空間から眺めた後陣と鐘塔 の姿も、忘れられない景観の一つとなった。 |
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ムティエ・シュル・ボエム/ 聖イレール教会 Mouthiers-sur-Boëme/ Église St-Hilaire |
Charente |
アングレームから真南へ約10キロの田園地 帯、シャレントの支流ボエム川に沿って開けた 比較的大きな町である。 教会は町の南東端に建っており、正面のファ サードを見る限りではありふれたロマネスク・ ゴシック混合教会の一つ、と思われた。 ファサードの下部は半円アーチの扉口とライ オンのレリーフが意匠されたロマネスク様式、 上部は尖頭アーチ窓のゴシック様式だったから である。 しかし、聖堂の規模は単身廊ながら五つのベ イ(梁間)を設けた堂々たる建築で、やや尖頭が かったヴォールトの天井には迫力が感じられた のだった。 壁面は苔むしている、と言うよりは苔だらけ だったが、石の質感が感じられたのが救いだっ た。各梁間ごとに窓が設けられているのは、後 世の改造なのだろう。 全体の建築プランは、単身廊に翼廊の十字形 で、三つの半円形後陣を備えている。残念なが ら鐘塔はゴシックに改造されているが、祭室の 半円七連アーケードは窓は別としてロマネスク 様式を維持しているようだ。 |
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プラサック/聖シバール教会 Plassac/Église St-Cybard |
Charente |
豊かな田園風景の中に溶け込んで、しかも小 高い位置に在って小建築でありながら象徴的な 存在感を示している美しいロマネスクと出会え ることが出来た。 そこは、先述のムティエから更に南西へ8キ ロ行くと、広大な麦畑や牧草地の続く光景の中 に少しづつ見えてくる、という仕掛けだった。 ファサードは下段三連、中段五連、上段三連 のアーケード構成だが、格別の優れた意匠とは 思えなかった。 聖堂は三つの梁間を持つ単身廊で、天井は尖 頭ヴォールト、奥に鐘塔部と半円祭室が続いて いる。こじんまりした建築だが、不思議に奧行 を感じさせる。 祭室の奥壁には十一連の盲アーケードが意匠 されており、荘厳な雰囲気を創出する役目を担 っているようだ。写真の半円形後陣は五連アー ケードが美しいが、祭室のアーケードは後陣の 柱間も含め二重に重なっている。 八角形の鐘塔は遠くからも良く見え、後陣と のバランスも絶妙で後方からの景観を素晴らし いものにしている。 祭室の下にクリプトが残されており、低い天 井の交差ヴォールトが特徴で、柱は無いが神聖 な空間を創出している。 |
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コンザック/ 聖アントワーヌ教会 Conzac/Église St-Jacques |
Charente |
プラサックから起伏に富んだ田園地帯を15 キロ程行った辺りで、白い馬の遊ぶ牧場に隣接 したこの聖堂が見える。 ファサードは半円アーチの扉口があるだけの 簡素なもので、おそらくは後世のものだろう。 聖堂は単身廊、天井は木造の箱型だが、この 部分もかなり後世のものらしい。 注目すべきは、それに続く鐘塔部分と祭室で ある。翼廊があったのだが現在は北側のみで、 写真の如く南側は塞がれている。北側には小祭 室が残されている。 鐘塔の建つ交差部四方には豪快なアーチが構 築されており、柱頭彫刻には目を見張るほどの 傑作が詰まっている。大半は植物の枝や茎に絡 んだ動物や人物像である。 半円形祭室は二段のアーケードで装飾されて いる。上段は七連の窓の開いたアーケードで、 下段にはそれぞれに二連づつ、計十四連のアー ケードが意匠されている。よくもまあ、ここま で執拗な程アーケードに魅された建築家がいた とは驚きだが、同じロマネスクとはいえ、ある 地方のある時代の潮流としか言いようは無いの かもしれない。 写真の後陣と鐘塔の眺めもアーケード装飾の 展覧会のようなものだが、当時の湧きたつよう な美への探求心が感じられる気もしている。 |
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モンモロー/聖ドニ教会 Montmoreau/Église St-Denis |
Charente |
コンザックの真東20キロ、アングレームの 真南30キロというのがこの町の座標である。 町の中心の小さな広場に面して、写真のよう な美しいファサードを持つ12世紀の教会が建 っている光景は、やはり感動的としか言い様は 無いだろう。 サンチャゴへの巡礼路に当たり、巡礼から戻 る際のこの地方最初の宿場として、スペインの 影響が随所に残されているらしい。 下三連、上五連アーケードの意匠は珍しくは ないが、特筆すべきは中央扉口の四重ヴシュー ル装飾とアラブ風の波型装飾だろう。判り易い スペインの土産である。 両サイドの盲アーチとタンパンは、サントン ジュには事例が多いが、ここアンギュモアでは 他にラ・ロシェット、リシェールなどだけで珍 しい方だろう。 ギョロ目のライオンが可愛く笑っている。 三つの梁間を持つ単身廊で、天井は尖頭ヴォ ールト、翼廊は北側だけが残されている。南側 は15世紀に改築されたそうだ。従って、半円 形後陣は二つだけが残っている。 祭室は五連アーチ窓の半円形だが、大きな窓 は後世の改造を示しており、四連窓を各面に意 匠した鐘塔は翼廊交差部に立ち上がっている。 |
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サン・タマン・ド・ボワックス/ 聖アマン教会 St-Amant-de-Boixe/ Église St-Amant |
Charente |
この地方を代表するような西のファサードで ある。扉口は、五重ヴシュールの緻密な幾何学 模様で飾られている。 三廊式の身廊の天井は半円筒ヴォールトで、 横断アーチが感動的だ。12世紀の創建で、ア ーケードの重厚感は別格と言えるだろう。 交差部の鐘塔は豪快で、内陣から見上げたド ームの迫力は格別だった。 祭室と後陣は15世紀に、ゴシックに改造さ れている。 北袖廊の西面に美しい扉口があるが、墓所へ の入口としての役目があったようだ。二つの盲 アーチと、聖人像が彫られたタンパンが質素な がら印象に残った。 |
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ラ・ロシェット/ 聖セバスチャン教会 La Rochette/Église St-Sébastien |
Charente |
アングレーム北の寒村で、教会は村外れの草 地にポツンと建っている。 ファサードの上部は改造されているが、写真 の三連アーケードは健在だ。扉口左右のタンパ ンが特徴で、馬に乗り異教徒を駆逐するコンス タンティヌス帝を表している、のだろうと思わ れる。 単身廊で、天井は尖頭ヴォールト、方形の鐘 塔、半円形の祭室がつながっている。 10~11世紀の遺構だがかなり改造はされ ているらしい。しかし、奇妙な恰好をした人物 と植物が絡み合う図像などを彫った柱頭には、 ロマネスクの香りが十分伝わっている。 |
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サント・コロンブ/ 聖コロンブ教会 Ste-Colombe/ Église Ste-Colombe |
Charente |
前述のラ・ロシェットに近い、ここも全くの 寒村である。 単身廊に半円祭室のみという、聖堂の原型の ような建築に感動したが、ここでも壁や個性的 な柱頭までが全て真っ白けに塗られていた。フ ランスの美意識は何処へ行ってしまったのだろ うか。 が、ここでは、写真の西正面ファサードに注 目したい。多くのレリーフ彫刻が壁面を飾って いる。 中央窓の両側の人物は、左が聖コロンブ、右 が聖パウロである。そのすぐ上にライオンと天 使、牡牛と天使、更に外側に人物像と鷲が彫ら れ、四福音書家の象徴を配している。 それぞれの彫刻は全てシンボリックで造形的 であり、ロマネスク彫刻の感性を見事に伝えて いるように感じられた。 |
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セルフルアン/聖ピエール教会 Cellefrouin/Église St-Pierre |
Charente |
アンギュモア地方のほぼ最北端に位置する町 のひとつで、教会は11世紀に創建されたロマ ネスク様式の建築として知られる。 ファサードは特徴的で、サントンジュ様式と は大きく異なっている。四本の半円柱形をした 控え壁が縦に並べられ、その間にアルメニアな どでも頻繁に見られた細長いニッチ Niche と 呼ばれる壁龕が並行して意匠されている。開口 部は中央部分にのみ、扉口と上の窓が設けられ ている。 身廊は三廊式で、ロマネスク初期の豪放な質 感が伝わってくる。身廊も側廊も半円筒ヴォー ルトの天井で、豪快な横断アーチが見られる。 写真は、翼廊の交差部から身廊入口方向を眺 めたものである。重厚な構造が示す不器用さこ そが、ロマネスクの本質だと再認識させてくれ ているようだ。黒いカビが壁面に付着して、ち ょっと気味が悪いのだが。 祭室にも控え壁的な半円柱が四本建てられて おり、正面と左右端の三か所に窓が開けられて いる。建築後方から眺めた三後陣と鐘塔の景観 は、方形の控え壁が気になるものの、落ち着い たロマネスクの見本のような美しさだった。 時間の都合で、墓地に建つ12世紀の死の頂 塔 Lanterne des Morts 見学は諦めた。 |
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リシェール/聖ドニ教会 Lichères/Église St-Denis |
Charente |
この小さな礼拝堂の様な教会は、シャラント 県アングレーム市の北の田園地帯に、人知れず 建っている。この教会を取り上げたガイドブッ クは、ほとんど見かけられない。 しかし、牧歌的な田園風景の中に建つこの教 会は、後補の塔以外はれっきとしたロマネスク の遺構である。 後陣・翼廊・身廊・側廊・三つの祭室など、 規模は小さいが、落ち着いた十字型プランの全 てが完璧に揃っている。 入口の小さな門にも、動物模様などがきりり と彫られていて、確かな美意識を持った建築家 の仕事であることが分かる。 威圧感の無い人間的スケールを持った、まこ とにチャーミングな聖堂である。畑の真中にた たずむ、こじんまりとした聖堂の姿は何とも優 雅であり、名残惜しい気持ちで何度も振り返っ たものだ。 |
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