平成25年11月(霜月)の短歌
木枯らしへ盲導犬の向きを決め人気なき朝の大通り渡る
(こがらしへ もうどうけんのむきをきめ ひとけなきあさの おおどおりわたる)

 バスを降りての帰路、大通りの変形した十字路を渡らねばならない。朝7時から夜の8時までなら、ピヨピヨとカッコカッコが鳴って信号機の変化を教えてくれるのだが、夜の9時を過ぎた今はその手掛かりがない。その上、今日は日曜日なので人も車も少ないのだ。思案している私の脇を木枯らしに枯葉が飛ばされて行く音がした。しめた!この音について渡れば大丈夫。「フィズ、OK!」

盲導犬と歩める我に歩を合わせイチョウの黄葉歌友告げくるる
(もうどうけんと あゆめるわれに ほをあわせ イチョウのこうよう ともつげくるる)

 「イチョウのはっぱ大分黄色くなってきたのよ」上を見上げながら歌うように友が教えてくれた。私も見上げて「空は真っ青なんでしょうね?」久しぶりに晴れた日の短歌教室の帰りの駅前通り。

水たまり避けくるるらし盲導犬左へ逸れてグレーチング踏めり

 雨上がりの朝、バス停に向かって歩いているとフィズの歩調がいつもと違う。左へ左へとハーネスが動いたと思ったらぴょんと何かを飛び越えた気配。あれれ・・・私の靴底からカチカチと金属の音が・・・。こんなことを数回繰り返しているうちに、私も納得できたのだった。「フィズ、水たまりをよけてくれてたのね、ありがとう!」

ストーブの前にながなが横たわる犬の尻尾を踏みてみようか

 気持ちよさそうにストーブを独り占めしているフィズ。頭からしっぽまで、こんなに長かったのね。

来る年も斯く健やかにと念じつつ軒のクーラーにカバーかけ終ゆ

 雨が降って来ないうちにと3代のクーラーの室外機にカバーをかけ終えた。去年もこうして冬を迎え、また今年も同じように繰り返している。平凡な日々に感謝しながら。

散り敷ける落ち葉の上に降る雨の奏でるフィナーレ しんみりと秋

 ふっと目覚めた深夜、かすかに聞こえる雨音。日中フィズが公園で歩くのを躊躇していた落ち葉の山にも、この雨は降っているのだろうな、やがて雪に変わるまでのわずかな季(とき)を奏でているのはどんな曲だろう…そんなことを思いつつ、また私は夢の中へ…。

「ほら、あの人」うなずく吾もその人の名前出で来ず コーヒーすする

 うんうん、あの人ね。お互いに行っている人は同じなのに、その人の名前が出て来ないもどかしさ。「お父さん、まあ、コーヒーでも飲みながら思い出しましょう」

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