平成25年1月(睦月)の短歌
漆黒の闇を貫き響き合う除夜の汽笛のただ中に立つ

屠蘇機嫌なりたる夫は愛犬と戯れにつつ寝そべりており

大みそか我が家の習いの納豆汁湯気と香りと四人の家族

露天湯に眼つむりてゆったりと山の風聴く正月二日

新雪をキュッキュッと鳴らし雪色の風を切り行く盲導犬と

花びらの中に小雪を休ませて冬ざれの庭に山茶花咲けり

暖房の程よく効きたる部屋内に閉じいしチューリップまた開きけり

 「あら、そのカップ見覚えがあるわ」と姉が驚いた声をあげた。それは夫がずーっと愛用しているコーヒーカップなのである。「私、その模様が気に入って選んだはずよ」遠い昔を思い出すような姉の声に、私も飲みかけのコーヒーを置いて「確か、紫のキキョウの模様よね」と応えた。
それは結婚祝いに姉夫婦からいただいた物だった。白地に濃い紫のキキョウと緑の葉が描かれているコーヒーカップの五脚セットで、私の好みではなかった。最初は来客用にしていたが、一つ、二つと壊れいつのころからかこのカップだけが残ってしまった。
 子供たちが中学生になったころから我が家にコーヒータイムができ、それぞれのマイカップが登場した。娘のは、旅先で根負けして買ってやった手焼き風のちょっとお高いカップ、息子のは、おばあちゃんからいただいたオレンジのぽっちゃりしたカップ、私のは、当時オープンしたミスタードーナツの景品の分厚いカップ。夫のは、なかなか決まらなくて思案の結果たった一つ残っていたこのカップになったのである。
 不思議なことに、あのころのカップがいまだに存在している。息子は上京先に持って行き、娘は家に来たときに使っているし、私はこのカップでなければコーヒーを飲んだ気がしないし、夫も同様に「おれのカップ」と愛用しているのである。
 姉はなつかしそうに「お父さんが紫は結婚祝いとして地味だと言っていたんだけどね、私はこのキキョウの色、落ち着いていて好きなのよね」と言った。一年前に他界した義兄さんのことを思い出しているような姉のさみしそうな一面が偲ばれ、胸が痛くなった。私たち夫婦も、このカップをいただいてからはや40数年。私もすんなりと紫系の色が受け入れられるようになったこの頃である。

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