平成24年9月(長月)の短歌
ゴンドラを降りればリンドウの花盛り東館山ゆ秋の始まる
ゴンドラにきょとんと座る盲導犬フィズの頭撫で行く高原の風
草枯の上にしゃがみて初秋の澄める音聞く寺子山裾
夕風のそーよろ吹きくる裏庭に潜みいし虫のシンフォニー始まる
コール音切れし真夜中我が庭に途切れることなく蟋蟀の鳴く
「オイチイネェりんごのミジュ」遠き日の子を語りつつ夫と梨食む
(「おいしいね、リンゴの水」とおきひの こをかたりつつ つまとなしはむ)
梨一個四つに切りて食べたるは遠き日のこと 四人の家族
(なしいっこ よっつにきりて たべたるは とおきひのこと よにんのかぞく)
今日で9月もおしまい。台風17号が強い勢力を保ったまま関東後信東北地方を縦断するという予報に備え、花壇の手入れに取りかかった。すでにいつもと違う風が吹き始め、だんだん強くなる気配である。
ひと夏を楽しませてくれたカンナやベゴニア、ゼラニウムなどを思い切って刈り込んだ。これなら強風に鉢やプランターも飛ばされることはないだろう。
キキョウを刈り込んでいた手にやわらかな茎が触れた。あれー、なんだろう?右にも左にも…。すっくと伸びたその先には小さな蕾!なんと、それは間違いなく彼岸花だった。ご近所では彼岸花が咲きだしたというのに、我が家のは全く花芽の気配もなかったから、すっかりあきらめていたのだった。
「彼岸花、花は葉を見ず、葉は花を見ず」何だか結ばれない恋人同士のよう。春の訪れとともに細い葉が伸び、地中に養分を取り込んでから、その花も見ずにひっそりと枯れてしまう。猛暑が過ぎ去ったある日、涼風とともにすっくと地上に茎が伸び出す。その先に蕾をかかげて。真っ赤なその花は、花壇や里山に「秋」の来訪を告げて散って行く。かつて視力のあったころ、この真っ赤に燃盛る曼珠沙華を見て哀愁を感じたものだった。「せめて葉の緑を添えてやりたい」と。
二年ほど前に患者さんからいただいた球根が、やっと花を咲かせてくれようとしている。この台風におられてしまわないように、しっかりと軒下に避難させ、開花を待つことにしよう。
まんじゅしゃげの花芽すっくと天に伸びかかげし蕾に秋が揺れいる
(まんじゅしゃげの はなめすっくと てんにのび かかげしつぼみに あきがゆ れいる)
平成24年10月の短歌へ。
平成24年8月の短歌へ。
限りなく透明な世界のトップページへ。
すずらんのトップページへ。