平成24年6月(水無月)の短歌
梅雨晴れの父の命日形見なる万年青の一鉢花芽を持てり
(つゆばれの ちちのめいにち かたみなる おもとのひとはち はなめをもてり)

素足に踏む花ござすがし初夏の風入り来る部屋に髪梳きている
(すあしにふむ はなござすがし しょかのかぜ いりくるへやに かみすきている)

梅雨晴れの風の入りくるリリングに石油ストーブの空焚きをする

見ゆること疑わざりき若き日のふと蘇る 百合の香の風
(みゆること うたがわざりき わかきひの ふとよみがえる  ゆりのかのかぜ)

住む人のいなくなりたる隣家に今年も気負いて紫陽花の咲く
(すむひとの いなくなりたる となりやに きぞもきおいて あじさいのさく)

降り立てば春蝉の声迫りくる山の気すがし苗場ふれあいの郷
(おりたてば はるせみのこえ せまりくる やまのきすがし なえばふれあいのさと)

地面より湧き出ずるがに春蝉の鳴きいる中に登山靴履く
(じめんより わきいずるがに はるせみの なきいるなかに とざんぐつはく)

 スーパーまで買い物にと出かけた日のこと。「ヤーヤー!!どけ!どけ!」突然背後でわめき声がした。何が何だかわからぬまま立ち止まった私を、足もとにいたパートナーのフィズが強い力で車道側に押して来た。バランスを失い転びそうになったが、ガードレールに寄りかかって一安心。
「どけどけ!!こらこら!危ない!」背後でしていたわめき声が近づいたかと思う間もなく、風を残して通過して行ったのだった。フィズの全身をぶるぶるさせた動きがハーネスから伝わり、私もバランスを取り戻し姿勢を正した。そしてようやく事の次第を理解できたのだった。
 そこは次の路地までのわずかな距離だが、通りの激しい国道に沿った歩道で植え込みや電柱がある。その上、ガードレールを支えている柵が歩道の幅をより狭くしているので普段でも要注意の場所。
自転車に乗った男性(多分?)がスピードを緩めることなく、私とフィズを追い越して行ったのだった。見えない私には、その姿や状況の把握は難しいのであくまで推測にすぎないのだが…。
 そのあなた、なぜそんなに急いでいたのですか?大声をあげて歩行者を傍らに寄せてまで追い越さなければならなかったのでしょうか。あなたには私が盲導犬と歩いている視覚障害者だということがわからなかったのかも知れませんね。後方からでは、それを認識するには無理だったかもしれません。
私はフィズの迅速な対応があったからあなたと衝突せずに済んだのです。そして、あのガードレールがあったから車道へ転ばずに済みました。これがもし高齢者や子供だったらどうなっていたことでしょう?
それにもう10メートルほど先に行けば、この狭い歩道も広くなるのが見えたはずなのに、あなたはそこまで追い越しすることが待てなかったのでしょうか・・・。

  背より頓狂な声に歩止むれば風を残して自転車の過ぐ
   (そびらより とんきょうなこえに ほとむれば かぜをのこして じてんしゃの    すぐ)

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