平成24年3月(弥生)の短歌
著けくも花の香におう水仙の一鉢を買う春立つ町に
(しるけくも はなのかにおう すいせんの ひとはちをかう はるたつまちに)

うなりつつ窓打ちつける暴風雨温き寝床に耳尖りいる

足踏みをしつつ待ちいる交差点歩数計揺れて春カウントす

プランターの新芽覆いて淡雪のまたも降り積む 阻まるる春
(プランターの しんめおおいて あわゆきの またもふりつむ  はばまるるはる)

手袋をぬぎて日向へ手をかざし幽けき春を確かめており
(てぶくろを ぬぎてひなたへ てをかざし かそけきはるを たしかめている)

毛糸玉たぐりつつ編むもへあーのセーターふんわり 眠気ふんわり

ことのなき今日の終わりに米を研ぐ晩酌の夫へ相づちしつつ

 「まあ!かわいい!ぼくちゃん?それとも嬢ちゃん?」
 「はい、男の子です」
 「ほらほら上林さん、おテテよ…アクチュしてもいいかしら?」
 「はいはい、どうぞ  あら、かわいいワンちゃんね!」
 「うわー、アクチュ!このおテテ、ちっちゃい!かわいいね」
 「お誕生日過ぎたかな?ほんとにかわいいですね」
 「はい、つい二週間ほど前にね」
 「まあまあ、そうなの、パパも大喜びよね!  上林さん、ほら、しっかりママを見ているのよ」
 「パパいないんです・・・私シングルマザーなんです」
 「…なら、その分かわいいでしょう?」
 「はい、かわいいです!この子がいるから頑張れるんですよ」
 「そっかー、 まま偉い!抱っこして歩いているのって、足もとが見えにくくって怖くない?」
 「大丈夫、もう慣れました。いつもこの子の顔を見ていられるから、負んぶしているより安心なんですよ」
 「おテテ、かわいいね! おしゃべりできるかな?ワンちゃんはおしゃべりできないのよ」
 「アア、ママ、バー・・・くらいかな?伝い歩きをするようになったんですよ。 
ほら、このワンちゃん、お仕事しているのよ、えらいねー」
 「なら、いっぱいおしゃべりできるのももうすぐね。 フィズはおしゃべりできないけど、この尻尾を振っておしゃべりするの」
 ・・・「春も名のみの風の寒さ…」こんなメロディーが良く似合う日曜日のバス停でのことでした。あのちっちゃな手と「シングルマザー」だと答えた明るいままの笑顔(声)がスナップ写真として心のアルバムにとじ込まれたのでした。

平成24年4月の短歌へ。
平成24年2月の短歌へ。
限りなく透明な世界のトップページへ。
すずらんのトップページへ。