平成23年1月(睦月)の短歌
寒風の埠頭に汽笛の響き合い去年と今年の刻を繋ぎぬ
(かんぷうの ふとうにきてきの ひびきあい こぞときぞとの こくをつなぎぬ)

海よりの風に真向かい新年を知らす汽笛に手を合わせいる
(うみよりの かぜにまむかい にいどしを しらすきてきに てをあわせいる)

雨雲の流れ行きたり 新年の空洗われて陽のやわらかし
(あまぐもの ながれゆきたり にいどしの そらあらわれて ひのやわらかし)

孫らの名灰に書きいし父なりき 囲炉裏に集い偲ぶ正月
(まごらのな はいにかきいし ちちなりき  いろりにつどい しのぶしょうがつ)

裸木の雑木林のしんとして渡りくる風日の匂いする

わが膝に眠りいし犬起き上がり行ってしまいぬ 寒さが戻る

ひたひたと氷雨静かに降る夜半は孤独も一緒に抱えて眠る
(ひたひたと ひさめしずかに ふるよわは こどくもいっしょに かかえてねむる)

 ぬくぬくした室内から、今日最後の愛犬のトイレタイムに外へ出た。風はないのだが、肌を突き刺すような夜の冷気に思わず身震いしてしまった。降ったばかりの雪がうっすらと積もり、靴底から伝わってくる感触が心地よい。まるで高級絨毯の上をしずしずと歩いているような…。

家々ははや眠りしか雪の夜を吾が長靴のクツクツと鳴る
(いえいえは はやねむりしか ゆきのよを わがながぐつの くつくつとなる)

 「うわーっ、星がいっぱい!」「ほら、お姉ちゃん、あれが一番大きいよ」「ねー、お母さん、あの星見える?一番星かな?」こんな二人の会話を聞くことしかできなかった母親たる私だった。「お母さん、待ってて」と娘が家に入って行った。戻って来て得意げに「これならお母さん、見えるでしょ?」私の手に乗せられたのは、お祭りで買ってやった手鏡だった。そのころの私は、近づければ何とか絵本が読み取れるくらいの視力が残っていたのである。・・・ふっと思い出された若き日の一こまである。

盲いわれ諸手に星を掬いたし キーンと冬の夜の冴え返る
(めしいわれ もろてにほしを すくいたし  キーンとふゆの よのさえかえる)

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