平成22年9月(長月)の短歌
稲佐山の展望台に佇みて寄り添う盲導犬に夜景を託す
(いなさやまの てんぼうだいに たたずみて よりそうもうどうけんに やけいをたくす)

長崎の風に抱かれ漆黒の吾の眼に夜景を刻む
(ながさきの かぜにいだかれ しっこくの われのまなこに やけいをきざむ)

ウォーキング汗を拭きつつ水飲めばツツーッと汗のまた流れ来る

脳味噌を空っぽにしてひた上る炎暑最中の魔の三十三曲がり
(のうみそを からっぽにして ひたのぼる えんしょさなかの まの三十三まがり)

今はただ一歩出すのみ登れども登れども開けぬ胸突き八丁
(いまはただ いっぽだすのみ のぼれどものぼれども ひらけぬむなつきはっちょう)

 急登なる難所の岩場をよじ登りひそと咲きいる駒草に触るる
(きゅうとなる なんしょのいわばを よじのぼり ひそとさきいる こまくさにふるる)

喘ぎつつ「もう一息」の声にまた登る 遂に掴みたり火打山頂の風
(あえぎつつ 「もうひといき」のこえに またのぼる  ついにつかみたり ひうちさんちょうのかぜ)

しゃりしゃりの歯ざわ りよろしカキノモトごま酢にあえて味調うる

ひとり降り後はふんわり稲の香の乗り来るを待ちバス走り出す

ススキの穂熊笹に触れしみじみと風透きとおるこの秋見たし

 あの猛暑からストンと晩秋になってしまったような今年の9月。私にとっても、めまぐるしい日々だった。そして「長い月」だった。周りが勝手に動き出し、気がつくとその中にうろうろしている自分に気づいたこともしばしば。体の一部が気だるくって、今一、やる気が湧いてこないこのごろである。
 そんな気分を取り消すように盲導犬フィズと庭に出た。「フィズ、お花よ」家族の一員になって2ヵ月半のフィズだが、得意げに花壇へ行ってくれる。そのフィズが止まったところの鉢植に小さな蕾がいっぱい!なんと、エンジェルトランペットに蕾がついたのである。
毎年3,4回は対輪を咲かせていたのに、この猛暑にお手上げしたのだろう。草丈も伸びず花も咲かせてくれなかった。あまりにしょぼくれてしまったので、つい先日、庭隅に移動しておいたのだった。
 鉢の前でちょこんと座っていたフィズが立ち上がった。何か訴えるように鼻 先で私の手をつっついてくる。「そうか、世の中は前進あるのみ!夕食の準備 をしなくっちゃね!」。
たとえ小さくても花を咲かせることを忘れなかったこのエンジェルトランペットのように、私も「やるべきこと」をしなければ。「さあ、お使いよ!フィズ」明日から10月だもの。

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