平成21年11月(霜月)の短歌
サボテンの花咲き初むる玄関に今日一番の客迎えたり
(サボテンの はなさきそむる げんかんに きょういちばんの きゃくむかえたり)
片麻痺の重き腕持ち揉みおれば節くれし指かすかに動く
(かたまひの おもきうでもち もみおれば ふしくれのゆび かすかにうごく)
吾のほか待つ人のなき真昼まの無人の駅にすずめ連れ鳴く
(われのほか まつひとのなき まひるまの むじんのえきに すずめつれなく)
木の葉舞う路地の秋風身に沁みてすれ違う人らみな急ぎ行く
(このはまう ろじのあきかぜ みにしみて すれちがうひとら みないそぎゆく)
路地の角名を呼ばれたる心地して耳を澄ませば枯葉舞ゆく
(ろじのかど なをよばれたる ここちして みみをすませば かれはまいゆく)
学園の話題楽しく少女らの中に混じりてバスを待ちおり
(がくえんの わだいたのしく しょうじょらの なかにまじりて バスをまちおり)
夕暮れのひつじ田の上ひょうひょうと風は初冬の音運びくる
(ゆうぐれの ひつじだのうえ ひょうひょうと かぜはしょとうの おとはこびくる)
フライパンにじゅワっとひろがる溶き卵たちまちふわっとまあるく焼くる
(フライパンに じゅわっとひろがるときたまご たちまちふわっと まあるくやくる)
11月下旬、25年ぶりでやむなく味わった入院生活。2,3日軽い腹痛が反復していたが、三日目の夜になると激痛と寒気に苦しんだ。ただならぬ思いで受診した病院で大腸憩室炎と診断され、そのまま緊急入院となってしまった。
24時間点滴と絶食のおかげで炎症も5日目に治まり普通食になるのを待って我が家に帰って来た。
意に背き暴るる腑の鬼なだめつつ点滴のスタンド押して歩めり
(いにそむき あばるるふのおに なだめつつ てんてきのスタンド おしてあゆめり)
点滴の針解かれたる右腕を六日目にして大きく回す
(てんてきの はりとかれたる みぎうでを むいかめにして おおきくまわす)
「誰か来て」低き濁声病廊に今夜も響き来 病み愡けしか
(「だれかきて」 ひくきだみごえ びょうろうに こんやもひびきく やみほうけしか)
小春日に病室の窓少し開け汽笛と飛機の音数えおり
(こはるびに びょうしつのまど すこしあけ きてきとひきの おとかぞえおり)
延べ九日間も病室で過ごしていたとき、寝溜めと食い溜め、そして暇溜めができたらどんなに有意義な人生が送れるものかと・・・暇に任せて真剣に考えあぐねていたことがうらめしく思い出される。
退院してからはや十日になろうとしているのに、雑用が一向に片付かないでいる。「師走」という月の性もあるだろうが・・・。
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