平成21年9月(長月)の短歌
秋茄子のあく抜きをする水の音 透徹りつつ季移りゆく
(あきなすの あくぬきをする みずのおと  すきとおりつつ ときうつりゆく)

小春日の匂い残れる干し物を取り込む夕暮れ風の身にしむ
(こはるびの においのこれる ほしものを とりこむゆうぐれ かぜのみにしむ)

傍らの小石をはねて飛び立てる虫の羽音を息詰めて聴く
(かたわらの こいしをはねて とびたてる むしの はおとを いきつめてきく)

熊笹やススキにてを触れしみじみと風にそよげるこの秋見たし
(くまざさや すすきにてをふれ しみじみと かぜにそよげる このあきみたし)

山すそは落ち葉落ち葉に秋雨の音際立たせ夕暮れてゆく
(やますそは おちばおちばに あきさめの おときわだたせ ゆうぐれてゆく)

 切り株に足を取られて転びたる吾が顔撫でて水引草の花
(きりかぶに あしをとられて ころびたる わがかおなでて みずひきそうのはな)

むき出しの胸突き八丁岩肌へ息調えて一歩を運ぶ
(むきだしの むなつきはっちょう いわはだへ いきととのえて いっぽをはこぶ)

汗しつつ登り詰めたる山頂の風さわやかにさわやかに吹く
(あせしつつ のぼりつめたる さんちょうの かぜさわやかに さわやかにふく)

 「ねー!やっと真っ赤になったよ」と友達が甲高い声で呼んでいる。「さあ!お外に行くよ!」と寝そべっていたターシャを連れて庭へ出た。
彼女が得意そうに色付いたトマトに触らせてくれた。ちょっと小ぶりだが形良く寄り添うようになっているその4個をそっともぎ取った。「これで何個目の収穫かしら?」と思いながら。
猛暑が少なかったせいだろうか、お盆前に実を結んだこの4個だけが、なかなか色付かなかった。9月の半ばを過ぎたころ、あきらめて抜き取ろうとしたとき「もう少し待ってみたら」と彼女がストップをかけてくれたのだった。
 その夜はサラダのトッピングにこのトマトたちが添えられた。まっかになるまでもぎ取らなかったトマトは、とっても甘くおいしかった。100円で買った苗、適当に肥料をやっていただけなのに花を付け、しっかりと実を付けてくれた。しかも、途中で抜き取ってしまおうとしたのに・・・。こんな小さなトマトから人の生きるべき道を教えられたような気がする。
 そうそう、私と夫の間にお座りして夕食に参加しているターシャとも、この完熟トマトの味を分け合ったことは「もちろん」である。

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