平成21年7月(文月)の短歌


夏の夜に開いた大輪の月下美人の鼻。
香りが強く花びらは純白色。
写真:純白の月下美人

 7月も二日で終わろうとしているのにいまだに梅雨の最中。土砂崩れや竜巻の被害が報道されるたびに「異常気象」という言葉。こうなると果たしていつが「正常」な気候なのかがわからなくなりそうだ。
 晴れ間をみて庭に出てみると、移植したばかりの朝顔が生き生きと葉を広げやわらかな蔓が揺れていた。この長雨を疎ましく思っていたのに、まあ、うれしいこと!さっそく行灯を用意して蔓を絡まらせてやろう。「さあターシャ、お仕事よ!おつかいに行こう!」

降る雨に一日濡れつつ朝顔の蔓伸びてゆく絡まりながら
(ふるあめに ひとひぬれつつ あさがおの つるのびてゆく からまりながら)


 今月はアルバムでも開いて楽しかった旅の思い出を・・・。と言いたいのだが、見えない私には到底かなわないこと。でも、そのときに詠んだ短歌をピックアップし、その思い出をたどりながら梅雨明けをまとう。

ふらここを思いっ切り漕ぎ遠き日のタイムトンネルに導かれゆく

ジャム工場に「うまい」と友の高き声卓を囲みて順に試食す
(じゃむこうじょうに うまいとたかき とものこえ たくをかこみて じゅんにししょくす)

善光寺のお香盲導犬の眼にもかけ夫と並びて手を合わせいる
(ぜんこうじの おこうもうどうけんの めにもかけ つまとならびて てをあわせいる)

万歩計2万歩越えたる昼下がりホワンホワンと河童橋渡る

風の匂い清流の音に眼裏へ梓川広げて川原に立てり
(かぜのにおい せいりゅうのおとに まなうらへ あずさがわひろげて かわらにたてり)

墜落かとシートベルトを確かむる着陸の度みなぎる緊張

「はいキムチ」にっこりカメラへ仁川空港盲導犬十九頭ともなう旅のスタート

「日韓盲動犬使用者交流会」歓迎の辞の凛として即時通訳に拍手わきたつ

いくつもの嘘を沈めて波のどか北鮮日本に続く黄海

野の香り雪の冷気を運びくる尾瀬沼渡る風は遥けし
(ののかおり ゆきのれいきを はこびくる おぜぬまわたる かぜははるけし)

チングルマ サワラン キスゲ リンドウの花を揺らして尾瀬沼の風

しばらくを心洗わるる想いしてせせらぎを聞く霧の夢見平

廃村の跡形残る製材所朽ちかけのチップ足裏に優し
(はいそんの あとかたのこる せいざいしょ くちかけのチップ あうらにやさし)

緑風を指に止まらせ良寛の墓石の文字なぞりて居たり

咲く花もつぼみも優し蓮葉通り 手まりつく音聞こゆるような
(さくはなも つぼみもやさし はちすばどおり てまりつくおと きこゆるような)



平成21年8月の短歌へ。
平成21年6月の短歌へ。
限りなく透明な世界のトップページへ。
すずらんのトップページへ。